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特開2024-153953体内留置型医療デバイス、及びこれを用いた内視鏡システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153953
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】体内留置型医療デバイス、及びこれを用いた内視鏡システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20241023BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20241023BHJP
   A61B 17/122 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
A61M25/10 510
A61B1/00 511
A61B17/122
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108588
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000228888
【氏名又は名称】カーディナルヘルス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】大井川 淳
【テーマコード(参考)】
4C160
4C161
4C267
【Fターム(参考)】
4C160DD19
4C160NN04
4C161AA24
4C161GG15
4C161HH51
4C161JJ01
4C161QQ03
4C161QQ04
4C161WW17
4C267AA07
4C267AA09
4C267BB05
4C267BB11
4C267BB26
4C267BB28
4C267BB40
4C267BB48
4C267CC26
4C267GG04
4C267GG06
4C267GG34
(57)【要約】
【課題】近赤外蛍光材料を部分的に用いてデバイス全体から近赤外光が得られる体内留置型医療デバイスを提供する。
【解決手段】体内留置型医療デバイスは、近赤外光を発する蛍光色素を含む第1の材料で形成された第1アセンブリと、近赤外光を反射する第2の材料で形成され前記第1アセンブリから放射された前記近赤外光を反射する第2アセンブリと、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外光を発する蛍光色素を含む第1の材料で形成された第1アセンブリと、
近赤外光を反射する第2の材料で形成され前記第1アセンブリから放射された前記近赤外光を反射する第2アセンブリと、
を有する体内留置型医療デバイス。
【請求項2】
前記第1アセンブリは、前記蛍光色素を含む樹脂で形成され、前記第2アセンブリは、前記蛍光色素を含まない、
請求項1に記載の体内留置型医療デバイス。
【請求項3】
前記第1アセンブリはカテーテルチューブであり、前記第2アセンブリは前記カテーテルチューブの外周に設けられたバルーンである、
請求項1または2に記載の体内留置型医療デバイス。
【請求項4】
前記第1アセンブリは、第1カテーテルチューブであり、前記第2アセンブリは、前記第1カテーテルチューブと並列に設けられる第2カテーテルチューブである、
請求項1または2に記載の体内留置型医療デバイス。
【請求項5】
前記体内留置型医療デバイスは、内視鏡クリップセットであり、前記第1アセンブリは、前記内視鏡クリップセットの中のひとつのクリップであり、前記第2アセンブリは、前記内視鏡クリップセットの中の別のクリップである、
請求項1または2に記載の体内留置型医療デバイス。
【請求項6】
前記第2アセンブリは、前記第2の材料の中に炭酸ビスマス、硫酸バリウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、硝酸ビスマス、フッ素樹脂、またはポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の体内留置型医療デバイス。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の体内留置型医療デバイスと、
前記蛍光色素を励起する励起光源と、
前記第1アセンブリから放射される前記近赤外光と、前記第2アセンブリで反射された反射近赤外光を検知して、体内留置型医療デバイスの画像を取得するイメージセンサと、
を備える内視鏡システム。
【請求項8】
前記イメージセンサで取得された前記画像を表示するモニタディスプレイ、
をさらに有する請求項7に記載の内視鏡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、体内留置型医療デバイス、及びこれを用いた内視鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外線、及び近赤外蛍光は生体組織を透過するため、リンパ管、血管、臓器など、生体内部を可視化する光として注目されている。近赤外蛍光色素として、従来からインドシアニングリーン(ICG)が用いられている。ICGに近赤外光を照射すると、ICG分子が励起されて、照射した近赤外光よりも若干波長の長い近赤外蛍光を発する。
【0003】
バルーンカテーテルにICG混合液を注入してバルーンを膨らませ、ICGからの蛍光を撮像することでバルーン位置を確認する構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。ICGは耐熱性が低く、構造的に不安定であるため、樹脂等に混練することが難しい。また、十分な蛍光輝度が得られない場合がある。
【0004】
ICG以外の近赤外蛍光色素をポリマーまたは樹脂に練り込んで、尿道カテーテル、その他の成形体を作製する手法が知られている(たとえば、特許文献2、及び特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-143667号公報
【特許文献2】特開2014-136116号公報
【特許文献3】特開2016-192997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近赤外蛍光材料が練り込まれる樹脂の種類によっては、要求される蛍光特性が得られない場合がある。たとえば、バルーンを備えた一般的なフォーリーカテーテルは、シリコーンやラテックスで形成されているが、これらの樹脂材料に特許文献2または3に記載される近赤外蛍光材料を練り込んでも、蛍光はほとんど得られない。一方で、バルーンからの光が必要になる場面がある。バルーン形状が蛍光により可視化されることによって、バルーンを留置した器官の位置の確認や、バルーンの近傍にある器官の観察や手術が可能になるからである。バルーンカテーテルに限らず、体内留置型医療デバイス一般について、用いるデバイス全体に高価な近赤外蛍光材料を適用しなくてもデバイス全体から近赤外光を得ることができれば、コストを低減しつつ、デバイス全体の観察が可能になる。
【0007】
本開示は、近赤外蛍光材料をデバイス全体に用いることなく、デバイス全体から近赤外光を得ることのできる体内留置型医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の一態様では、体内留置用医療デバイスは、近赤外光を発する蛍光色素を含む第1の材料で形成された第1アセンブリと、近赤外光を反射する第2の材料で形成され前記第1アセンブリから放射された前記近赤外光を反射する第2アセンブリと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
近赤外蛍光材料をデバイス全体に用いることなく、デバイス全体から近赤外光が得られる体内留置型医療デバイスが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の体内留置型医療デバイスの一例であるバルーンカテーテルの模式図である。
図2図1のバルーンカテーテルで使用されるカテーテルチューブの一構成例の断面模式図である。
図3】実際に作製したバルーンカテーテルの近赤外線画像である。
図4】第1の比較例として、反射物質を含有しないバルーンを用いたときの近赤外線画像である。
図5】第2の比較例として、バルーンは反射物質を含有するが、バルーン内のカテーテルチューブを近赤外線遮蔽膜で覆ったときの近赤外線画像である。
図6】別のバルーンカテーテルの近赤外線画像である。
図7】第1実施形態のバルーンカテーテルの使用例を示す模式図である。
図8】第2実施形態の体内留置型医療デバイスの一例であるカテーテルチューブセットの模式図である。
図9】第2実施形態で近赤外蛍光の反射を調べる実験1のセットアップ図である。
図10】実験1で用いるカテーテルチューブセットの緒元を示す図である。
図11A】実験1で近赤外光をOFFにしたときの画像である。
図11B】実験1で近赤外光をONにしたときの画像である。
図12】第2実施形態の実験2で用いるカテーテルチューブセットの緒元を示す図である。
図13A】実験2で近赤外光をOFFにしたときの画像である。
図13B】実験2で近赤外光をONにしたときの画像である。
図14】第3実施形態の体内留置型医療デバイスの一例である内視鏡クリップセットの模式図である。
図15図14の内視鏡クリップセットの使用例を示す模式図である。
図16】体内留置型医療デバイスを用いた内視鏡システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下で、図面を参照して本開示の実施形態を説明する。図中で同じ構成要素には同じ符号を付けて、重複する説明を省略する場合がある。
【0012】
実施形態では、体内留置型デバイスに含まれる第1アセンブリに近赤外蛍光色素を適用し、第1アセンブリの近傍に配置される第2アセンブリには、近赤外蛍光色素を添加しない。第2アセンブリは、第1アセンブリからの近赤外蛍光を反射する反射物質を含む材料で形成される。体内留置型医療デバイスが励起光で照射されると、第1アセンブリは近赤外蛍光を発し、第2アセンブリは、第1アセンブリからの近赤外蛍光を反射する。これにより、第2アセンブリに近赤外蛍光色素が添加されていなくても体内留置型医療デバイスの全体から蛍光が得られる。
【0013】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の体内留置型医療デバイスであるバルーンカテーテル10の模式図である。バルーンカテーテル10は、カテーテルチューブ11と、カテーテルチューブ11の外周に設けられたバルーン12を有する。カテーテルチューブ11は、第1アセンブリの一例であり、近赤外蛍光色素を含有する材料で形成されている。バルーン12は、第2アセンブリの一例であり、近赤外蛍光色素を含有しない。バルーン12は、カテーテルチューブからの近赤外蛍光を反射する物質を含有する。
【0014】
図1では、バルーン12が膨らんだ状態で描かれているが、バルーンカテーテル10の使用前は、収縮した状態のバルーン12がカテーテルチューブ11の外周に設けられている。バルーン12は、カテーテルチューブ11が体内の所定位置まで挿入された後にインフレートされる。
【0015】
カテーテルチューブ11は樹脂製のチューブであり、樹脂に近赤外蛍光色素が練り込まれている。樹脂材料として、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂などを用いることができる。これらの樹脂の表面に、近赤外光に対して透明な親水性コーティングを施してもよい。バルーンカテーテル10の使用部位によっては、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂等の比較的剛性の高い材料を用いてもよい。
【0016】
上記の樹脂に混練される近赤外蛍光色素として、公知の近赤外蛍光材料を用いることができる。たとえば、特許文献2、または特許文献3に記載される色素を用いてもよい。具体的には、ポリメチレン系、フタロシアニン系、ナフトキノン系、アントラキノン系、ジチオール金属錯塩、アゾ系、トリアリルメタン系などの色素を用いることができる。実際には、用いる樹脂と近赤外蛍光色素の組み合わせの適否があり、用いられる樹脂材料に応じて、十分な輝度の近赤外蛍光を得られる蛍光色素を選択すればよい。
【0017】
実施形態では、一例として、カテーテルチューブ11の樹脂材料としてポリウレタン樹脂を用い、上記の色素のうちポリウレタン樹脂に混練可能な耐熱性のある近赤外蛍光色素を用いる。この近赤外蛍光色素は一般的に用いられるICGと類似の蛍光特性を有する。
【0018】
バルーン12は、シリコーンゴム、合成ゴム、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマー等、伸縮性の高い材料で形成される。合成ゴムとして、スチレン-ブタジエン系重合体、ポリブタジエン、メチルメタクリレート-ブタジエン系重合体、アクリロニトリル-ブタジエン系重合体等が用いられる。バルーン12の材料には、近赤外蛍光材料は混練されておらず、カテーテルチューブ11からの近赤外蛍光を反射する反射物質が混入されている。
【0019】
反射物質として、炭酸ビスマス、硫酸バリウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、硝酸ビスマス、フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用いることができる。これらの反射物質をバルーン12の材料に混入することで、バルーン12は近赤外蛍光色素を含まなくても、バルーンカテーテル10が励起光で照射されたときに、カテーテルチューブ11からの蛍光を反射して可視化が可能になる。
【0020】
図2は、カテーテルチューブ11の断面模式図である。図2の(A)のカテーテルチューブ11Aは、近赤外蛍光色素が混練された樹脂で、全体が形成されている。カテーテルチューブ11Aは、第1ルーメン113と第2ルーメン114を有する。第1ルーメン113は、バルーン12を膨らませ、または収縮させるために用いられる。バルーンカテーテル10が体内の定位置まで挿入されると、カテーテルチューブ11Aのバルーン12と反対側の端部に分岐型のファネルを接続し、第1ルーメン113に滅菌蒸留水等の液体、あるいは空気等の気体を注入して、バルーン12を膨らませる。
【0021】
第2ルーメン114は体液吸引用のルーメンである。バルーンカテーテル10を尿道カテーテルとして用いる場合は、第2ルーメン114を尿流出用に用いる。図2のダブルルーメン型のカテーテルチューブは一例であって、バルーンカテーテル10の使用目的に応じて、シングルルーメン型、トリプルルーメン型であってもよい。
【0022】
図2の(B)のカテーテルチューブ11Bは、内側レイヤ111と外側レイヤ112の二層構造である。外側レイヤ112のみに近赤外蛍光色素が混練されている。図2の(B)の構成は、近赤外蛍光色素の使用量を低減して、製造コストを低減できる。
【0023】
内側レイヤ111に、近赤外蛍光を反射する反射物質を添加してもよい。この二層構造は、シングルルーメン、トリプルルーメンにも適用可能である。
【0024】
図3は、近赤外線カメラで観察されたバルーンカテーテル10の画像である。このバルーンカテーテル10のカテーテルチューブ11の外径は10mm、バルーン12はシリコーン製で、反射物質として炭酸ビスマスが添加されている。炭酸ビスマスの添加濃度は約25重量%である。バルーンカテーテル10に、一般に用いられるICG用の近赤外線を照射し、バルーンカテーテル10からの蛍光をICG用の近赤外線カメラで撮影して得られた画像である。
【0025】
近赤外蛍光色素が混練されているのはカテーテルチューブ11のみであるが、バルーン12の形状が明確にとらえられている。これは、近赤外線カメラによって、カテーテルチューブ11からの近赤外蛍光とともに、バルーン12で反射された反射光も検出されているからである。
【0026】
図4は、第1の比較例を示す近赤外線画像である。第1の比較例では、カテーテルチューブ11に近赤外蛍光色素が混練されているが、バルーンには近赤外蛍光色素も反射物質も混入されていない。カテーテルチューブ11は、図3と同じく、近赤外蛍光色素入りのポリウレタン製チューブである。近赤外線でこのバルーンカテーテルを照射すると、カテーテルチューブ11からの近赤外蛍光だけが観察される。実際は、カテーテルチューブ11の外周でバルーンが膨らんでいるが、バルーンには近赤外蛍光色素も、反射物質も含まれていないため、励起用の近赤外線を照射してもバルーンを可視化することができない。
【0027】
図5は、第2の比較例を示す近赤外画像である。第2の比較例では、バルーン12を、炭酸ビスマスが混入されたシリコーンで形成し、カテーテルチューブ11を近赤外蛍光色素が混練されたポリウレタン樹脂で形成する。ただし、バルーン12の内部に位置する部分のカテーテルチューブ11の表面を、遮蔽膜で覆っている。遮蔽膜は、近赤外波長の光を吸収する吸収膜である。
【0028】
バルーンカテーテル全体を近赤外の励起光で照射すると、遮蔽膜で覆われていない部分のカテーテルチューブ11からは近赤外蛍光が発生し、近赤外線カメラで観察することができるが、遮蔽膜で覆われている部分の画像が得られない。バルーン12には、カテーテルチューブ11からの近赤外蛍光を反射する反射物質が混入されているが、バルーン12と対向する部分のカテーテルチューブ11が遮蔽膜で覆われているため、蛍光が得られない。バルーン12と対向する部分のカテーテルチューブ11からの蛍光がないので、反射物質を含むバルーン12を用いても、バルーンを可視化することができない。
【0029】
図6は、近赤外線カメラで撮像された別のバルーンカテーテル10の画像である。このバルーンカテーテル10のカテーテルチューブ11の外径は10mm、バルーン12はポリウレタンエラストマーで形成されており、反射物質として硫酸バリウムが添加されている。硫酸バリウムの添加濃度は20重量%である。バルーンカテーテル10に、一般に用いられるICG用の近赤外線を照射し、バルーンカテーテル10からの蛍光をICG用の近赤外線カメラで撮影する。近赤外蛍光色素が混練されているのはカテーテルチューブ11のみであるが、バルーン12の形状が明確にとらえられている。これは、赤外線カメラによって、カテーテルチューブ11からの近赤外蛍光とともに、バルーン12で反射された反射光も検出されているからである。
【0030】
図3から図6の観察結果により、バルーン12に近赤外蛍光色素を混入しなくても、カテーテルチューブ11からの蛍光を反射する反射物質を混入することで、バルーンカテーテル10の全体を可視化できることがわかる。
【0031】
図7は、第1実施形態のバルーンカテーテル10の使用例を示す模式図である。バルーン12を膨らませない状態で、バルーンカテーテル10を尿道45から膀胱42内に挿入する。バルーンカテーテル10が定位置まで挿入されたら、バルーン12を膨らませる。バルーン12を膨らませることで、バルーンカテーテル10を膀胱42の入り口に留め置く。
【0032】
バルーンカテーテル10を近赤外光で照射することで、カテーテルチューブ11とバルーン12の双方から、蛍光を得ることができる。バルーン12からの蛍光は、上述したように、カテーテルチューブ11からの蛍光を反射した反射蛍光である。カテーテルチューブ11とバルーン12からの蛍光を観察することで、尿道45の位置、尿道45と膀胱42の境界、尿道45と前立腺43の境界等を特定することができる。
【0033】
バルーンカテーテル10は、尿道カテーテルだけではなく、尿管カテーテルに適用可能である。この場合、尿道カテーテルと比較してカテーテルチューブ11の径は小さくなるが、カテーテルチューブ11に近赤外蛍光色素を混練可能である。バルーン12にカテーテルチューブ11からの蛍光を反射する反射物質を添加することで、カテーテルチューブ11とバルーン12の双方を可視化することができる。尿管の位置や、尿管と腎臓の境界が可視化できるので、手術時に、尿管や腎臓の損傷を抑制できる。
【0034】
バルーンカテーテル10を、血管用のカテーテルに適用してもよい。バルーン12で血管を広げる場合、あるいは、バルーン12で止血援助する場合、バルーン12がカテーテルチューブ11からの蛍光を反射することで、目的の体内部位を明確にモニタすることができる。
【0035】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態の体内留置型医療デバイスであるカテーテルチューブセット20の模式図である。カテーテルチューブセット20は、第1アセンブリとしての第1カテーテルチューブ21と、第2アセンブリとしての第2カテーテルチューブ22を含む。第2カテーテルチューブ22は、第1カテーテルチューブ21と並列に設けられる。
【0036】
カテーテルチューブを用いる目的と部位によっては、一本だけではなく、二本のチューブを並列に用いて近赤外線カメラで観察したい場合がある。両方のカテーテルチューブに近赤外蛍光色素を混練するかわりに、いずれか一方にだけ近赤外蛍光色素を混練することで、近赤外蛍光色素の使用量を減らしてコストを低減できる。
【0037】
たとえば、第1カテーテルチューブ21を、近赤外蛍光色素が混練された樹脂で形成し、第2カテーテルチューブ22を、近赤外蛍光色素が添加されていない樹脂で形成する。第2カテーテルチューブ22には、第1カテーテルチューブ21からの近赤外蛍光を反射する物質が添加されている。第1カテーテルチューブ21と第2カテーテルチューブ22の母体となる樹脂材料は、同じであっても、異なっていてもよい。
【0038】
第1カテーテルチューブ21は、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)などで形成される。
【0039】
上記の樹脂に混練可能な近赤外蛍光色素として、公知の近赤外蛍光材料を用いる。第1実施形態と同様に、ポリメチレン系、フタロシアニン系、ナフトキノン系、アントラキノン系、ジチオール金属錯塩、アゾ系、トリアリルメタン系などの色素を用いることができる。上述のとおり、樹脂材料と近赤外蛍光色素を適切に組み合わせて、高輝度の近赤外蛍光を得られる組み合わせを選択するのが望ましい。
【0040】
第1カテーテルチューブ21は、その全体が近赤外蛍光色素を混練した樹脂で成形されていてもよいし、図2(B)のように、外側レイヤと内側レイヤの二層構造にして、外側レイヤのみに近赤外蛍光色素を含有してもよい。内側レイヤに、近赤外蛍光を反射する反射物質を添加してもよい。
【0041】
第2カテーテルチューブ22は、第1カテーテルチューブ21に用いられるのと同様の材料で形成されてもよいし、シリコーンゴム、合成ゴム、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマー等で形成されてもよい。第2カテーテルチューブ22に近赤外蛍光材料は混練されておらず、近赤外蛍光を反射する反射物質が混入されている。
【0042】
反射物質は、第1実施形態と同様に、炭酸ビスマス、硫酸バリウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、硝酸ビスマス、フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等である。第1カテーテルチューブ21からの蛍光が届く範囲に、第2カテーテルチューブ22を並列して配置することで、第2カテーテルチューブ22から反射蛍光を得ることができる。
【0043】
第1カテーテルチューブ21と第2カテーテルチューブのルーメンタイプは、同じであっても異なっていてもよい。カテーテルチューブセット20を用いる目的、ルーメン内に流出入させる物質等に応じて、シングルルーメンのカテーテルチューブとダブルルーメンのカテーテルチューブの組み合わせ、シングルルーメンのカテーテルチューブとトリプルルーメンのカテーテルチューブの組み合わせなど、適宜、選択される。
【0044】
図9は、第2実施形態で近赤外蛍光の反射を調べる実験1のセットアップ図である。実験1では、近赤外蛍光色素を含む第1カテーテルチューブ21と並行に、近赤外蛍光色素を含まず、近赤外蛍光を反射する物質を含む第2カテーテルチューブ22Aを配置する。比較のために、第1カテーテルチューブと並行に、近赤外蛍光色素も反射物質も含まないカテーテルチューブ24を配置する。3本のカテーテルチューブの上方から、近赤外光源26で近赤外光を照射して、蛍光、及び反射を観察する。
【0045】
図10は、実験1で用いるカテーテルチューブセットの緒元を示す。第1カテーテルチューブ21は、近赤外蛍光色素を含む(図中、「蛍光剤入り」と表記されている)ポリウレタン樹脂で形成されている。第1カテーテルチューブ21のルーメンは、硫酸バリウムが20重量%添加された部分を含んでいてもよい。第2カテーテルチューブ22Aは、近赤外蛍光色素を含まない(図中、「蛍光剤無」と表記されている)ポリウレタン樹脂で形成されている。第2カテーテルチューブ22Aには、反射物質として、硫酸バリウムが40重量%含まれている。
【0046】
比較例のカテーテルチューブ24は、透明ポリウレタン樹脂で形成されており、近赤外蛍光色素も反射物質も含まない。図中の酸化チタンは、近赤外蛍光を反射する反射物質のひとつであるが、実験1では、酸化チタンを用いていない。
【0047】
図11Aは、実験1で近赤外光をOFFにしたときの画像である。図11Aの画像は、通常の可視光カメラで撮影されたものであり、グリッド線付きのステージ上に配置された透明なカテーテルチューブ24の像も取得されている。近赤外光源がOFFなので、第1カテーテルチューブ21に含まれる近赤外蛍光材料は励起されず、蛍光を発しない。第1カテーテルチューブ21が蛍光を発しないので、第2カテーテルチューブ22Aによる反射も起きない。
【0048】
図11Bは、実験1で近赤外光をONにしたときの画像である。図11Bの画像は、一般的なICG用の近赤外線カメラで撮影されたものである。第1カテーテルチューブ21に含まれる近赤外蛍光材料が励起され、明るい蛍光を発している。第2カテーテルチューブ22Aは、近赤外蛍光材料を含まないが、近赤外蛍光を反射する反射物質を含むため、第2カテーテルチューブ22Aによる反射光が観察される。この反射光により、第2カテーテルチューブ22Aの存在と位置を知ることができる。
【0049】
比較例のカテーテルチューブ24では、近赤外光をONにしても蛍光も反射も起きず、近赤外画像としては何も検知されない。実験1から、第2カテーテルチューブ22Aは近赤外蛍光色素を含まなくても、近赤外蛍光を反射する物質を含むことで、第1カテーテルチューブ21からの蛍光を利用して可視化できることが確認される。反射物質を含まない比較例のカテーテルチューブ24の存在が検知されないことからも、反射物質を添加することの効果が確認される。
【0050】
図12は、第2実施形態の実験2で用いるカテーテルチューブセットの緒元を示す。実験2で、第1カテーテルチューブ21は、実験1と同様に、近赤外蛍光色素を含むポリウレタン樹脂で形成されている。第1カテーテルチューブ21は部分的に、硫酸バリウムを20重量%含む樹脂で形成されていてもよい。第2カテーテルチューブ22Bは、近赤外蛍光材料を含まないポリオレフィンで形成されている。第2カテーテルチューブ22Bには、反射物質として酸化チタンが含まれている。
【0051】
図13Aは、実験2で近赤外光をOFFにしたときの画像、図13Bは、近赤外光をONにしたときの画像である。図13Aの画像は、通常の可視光カメラで撮影されたものであり、グリッド線付きのステージ上に第1カテーテルチューブ21と第2カテーテルチューブ22Bが配置された外観が撮像されている。図13Bで、近赤外光をONにすることで、第1カテーテルチューブ21は蛍光を発する。第2カテーテルチューブ22Bは近赤外蛍光材料を含まないが、第1カテーテルチューブ21からの蛍光を反射することで、その存在と位置が検知される。実験2からも、第2アセンブリに近赤外蛍光を反射する物質を添加することの効果が確認される。
【0052】
同時に用いられるカテーテルチューブの数は2本に限定されない。カテーテルチューブセット20は、互いに近接して並列に用いられる3本のカテーテルチューブを含んでいてもよい。この場合も、いずれか1本のカテーテルチューブのみに近赤外蛍光色素を混練して、他の2本のカテーテルチューブに近赤外蛍光を反射する反射物質を混入することで、すべてのカテーテルチューブを可視化することができる。
【0053】
第2実施形態の構成により、1本のカテーテルチューブに近赤外蛍光色素を混練することで、他のカテーテルチューブの存在と位置を可視化することができる。これにより、コストを低減しつつ、体内器官の損傷を抑制した観察、手術が可能になる。
【0054】
<第3実施形態>
図14は、第3実施形態の体内留置型医療デバイスである内視鏡クリップセット30の模式図である。内視鏡クリップセット30は、第1アセンブリとしての第1クリップ31と、第2アセンブリとしての第2クリップ32を含む。第1クリップ31は、近赤外蛍光色素が混練された樹脂で形成されている。第2クリップ32は、近赤外蛍光色素が添加されていないが、第1クリップ31からの近赤外蛍光を反射する反射物質が添加された樹脂で形成されている。第1クリップ31と第2クリップ32の母体となる樹脂材料は、同じであっても、異なっていてもよい。
【0055】
第1クリップ31と第2クリップは、止血、縫合等のために目的の箇所の体内組織を把持するため、弾性と剛性を兼ね備えた樹脂で形成されるのが望ましい。第1クリップ31と第2クリップは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)などで形成される。
【0056】
第1クリップ31に混練される近赤外蛍光色素は、第1実施形態、及び第2実施形態と同様に、ポリメチレン系、フタロシアニン系、ナフトキノン系、アントラキノン系、ジチオール金属錯塩、アゾ系、トリアリルメタン系などの色素である。用いる樹脂と近赤外蛍光色素の組み合わせを適切に選択して、所望の蛍光特性を持たせるのが望ましい。
【0057】
第1クリップ31は、全体が近赤外蛍光色素を含む樹脂で形成されていてもよいし、一部分を、近赤外蛍光色素を含む樹脂で形成し、残りをステンレス等の金属で形成してもよい。第2クリップ32は、第1クリップ31と同じ材料で形成されてもよいし、異なる材料で形成されてもよい。第2クリップ32には近赤外蛍光材料は混練されておらず、近赤外蛍光を反射する反射物質が混入されている。
【0058】
反射物質は、第1実施形態と同様に、炭酸ビスマス、硫酸バリウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、硝酸ビスマス、フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等である。第1クリップ31からの蛍光が届く範囲に第2クリップを配置することで、第2クリップ32から反射蛍光を得ることができる。
【0059】
図15は、図14の内視鏡クリップセット30の使用例を示す模式図である。第1クリップ31と第2クリップ32は、専用のクリップアプリケータ(不図示)によって、体内器官、たとえば、血管の粘膜41に固定される。血管の外側から近赤外光を照射すると、第1クリップ31に含まれる近赤外蛍光色素が励起されて、蛍光を発する。第2クリップ32は、第1クリップの蛍光を反射する。これにより、近赤外線カメラで第1クリップ31と第2クリップ32の双方が撮像される。
【0060】
内視鏡クリップセット30に含まれるクリップの数は2個に限定されない。同じ体内部位で2個以上のクリップを近接して用いる場合も、いずれかひとつのクリップのみに近赤外蛍光色素を混練し、他のクリップに近赤外蛍光を反射する反射物質を混入してもよい。
【0061】
第3実施形態の構成により、ひとつのクリップに近赤外蛍光色素を混練して、他のクリップからの蛍光反射を観察することができる。これにより、コストを低減しつつ、体内器官の損傷を抑制した観察、手術が可能になる。
【0062】
<内視鏡システム>
図16は、体内留置型医療デバイスを用いた内視鏡システム100の模式図である。内視鏡システム100は、体内留置型医療デバイス(たとえば、バルーンカテーテル10)と、近赤外線カメラ50と、イメージングプロセッサ60と、モニタディスプレイ70を含む。この例では、第1実施形態のバルーンカテーテル10を用いているが、第2実施形態のカテーテルチューブセット20、または第3実施形態の内視鏡クリップセット30を用いてもよい。
【0063】
近赤外線カメラ50は、体腔(この例では腹腔)からモニタ対象の体内部位の近傍まで挿入される。近赤外線カメラ50は、近赤外波長に感度を有するイメージセンサ501を有する。イメージセンサの受光面側に対物レンズを備えていてもよい。近赤外線カメラ50は、LED等の近赤外光源を励起光源として内蔵していてもよいし、光ファイバ等のライトガイドを用いて、外部の励起光源502から励起光を照射する構成であってもよい。近赤外線カメラ50として、一般的なICG用の近赤外線カメラを用いてもよい。
【0064】
体内留置型医療デバイス(たとえばバルーンカテーテル10)が励起光源502からの近赤外線で照射されると、カテーテルチューブ11とバルーン12から、励起光よりも若干波長の長い蛍光が得られる。このうち、バルーン12から得られる蛍光は、カテーテルチューブ11からの蛍光がバルーン12で反射された反射蛍光である。
【0065】
近赤外線カメラ50は、近赤外蛍光とその反射を撮像することで、バルーンカテーテル10の画像情報をピクセル単位で取得する。近赤外線カメラ50のイメージセンサの受光面に、励起用の近赤外光のカットフィルタが設けられていてもよい。これにより、バルーンカテーテル10からの蛍光と反射光のみを撮像することができる。
【0066】
イメージングプロセッサ60は、近赤外線カメラ50から出力される画像情報(たとえばデジタル電気信号)に、補正処理、画像処理、フォーマット変換等を施して、モニタディスプレイ70に表示可能な画像データを生成する。モニタディスプレイ70は、生成された画像データを表示することで、体内に留置されたバルーンカテーテル10の画像が表示される。
【0067】
以上、特定の例に基づいて本開示を説明してきたが、本開示は、上述した例に限定されない。バルーンカテーテル10で、カテーテルチューブ11とバルーン12が同じ樹脂材料で形成される場合にも、バルーン12に近赤外蛍光色素を添加せずに、反射物質を添加する構成にしてもよい。これにより、近赤外蛍光材料の使用量を低減することができる。添加する反射物質の量は、反射蛍光の強度に応じて調整してもよい。いずれの場合も、一般的なICG用の近赤外線カメラをそのまま用いて、近赤外蛍光材料を含まないアセンブリの存在と位置を検知することができる。
【符号の説明】
【0068】
10 バルーンカテーテル(体内留置型医療デバイス)
11 カテーテルチューブ(第1アセンブリ)
111 内側レイヤ
112 外側レイヤ
12 バルーン(第2アセンブリ)
20 カテーテルチューブセット(体内留置型医療デバイス)
21 第1カテーテルチューブ(第1アセンブリ)
22、22A、22B 第2カテーテルチューブ(第2アセンブリ)
26 近赤外光源
30 内視鏡クリップセット(体内留置型医療デバイス)
31 第1クリップ(第1アセンブリ)
32 第2クリップ(第2アセンブリ)
50 近赤外線カメラ
100 内視鏡システム
501 イメージセンサ
502 励起光源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16