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特開2024-153959遮光膜、多層反射防止膜、それらの製造方法及び光学部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153959
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】遮光膜、多層反射防止膜、それらの製造方法及び光学部材
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20241023BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20241023BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20241023BHJP
【FI】
G02B5/00 B
C23C14/06 P
G02B1/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149619
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】能勢 正章
(72)【発明者】
【氏名】青木 洋輔
【テーマコード(参考)】
2H042
2K009
4K029
【Fターム(参考)】
2H042AA03
2H042AA15
2H042AA22
2K009AA02
2K009AA09
2K009BB02
2K009BB12
2K009BB24
2K009CC03
2K009CC06
2K009DD04
4K029AA09
4K029BA42
4K029BA64
4K029BB02
4K029BC07
4K029CA01
4K029CA09
4K029DB14
4K029DB18
4K029DB21
4K029JA02
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、遮光性及び光反射防止性並びに化学的安定性に優れた遮光膜及び多層反射防止膜、それらの設計値と実測値との乖離が少ない製造方法及び光学部材を提供することである。
【解決手段】少なくとも、遮光層と遮光層に接する層とを有する遮光膜であって、前記遮光層が、クロム及び二酸化ケイ素を含有し、前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、酸化物以外の化合物を含有することを特徴とする遮光膜。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、遮光層と前記遮光層に接する層とを有する遮光膜であって、
前記遮光層が、クロム及び二酸化ケイ素を含有し、
前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、酸化物以外の化合物を含有する
ことを特徴とする遮光膜。
【請求項2】
前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、MgF、AlF、NdF、LaF、YF、GdF、YbF、PbF、NaAlF、NaAl14及びCeFから選ばれるいずれかのフッ化物を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の遮光膜。
【請求項3】
前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、硫化物を含有する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の遮光膜。
【請求項4】
前記硫化物が、ZnSである
ことを特徴とする請求項3に記載の遮光膜。
【請求項5】
400~700nmの波長領域内における平均分光透過率が、2%以下である
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の遮光膜。
【請求項6】
遮光膜を備えた多層反射防止膜であって、
前記遮光膜として、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の遮光膜を備え、かつ、少なくとも一つの前記遮光層に接する層上に少なくとも光干渉層を有する
ことを特徴とする多層反射防止膜。
【請求項7】
前記遮光層に接する層と前記光干渉層の間に分光特性の調整層を有する
ことを特徴とする請求項6に記載の多層反射防止膜。
【請求項8】
400~700nmの波長領域内における平均分光反射率が、2%以下である
ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の多層反射防止膜。
【請求項9】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の遮光膜を製造する遮光膜の製造方法であって、
前記遮光層を、アルゴンガス雰囲気下にて、クロム及び二酸化ケイ素の混合物を製膜して形成する
ことを特徴とする遮光膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の遮光膜を製造する遮光膜の製造方法であって、
前記遮光層を、窒素ガス雰囲気下にて、クロム及び二酸化ケイ素の混合物を製膜して形成する
ことを特徴とする遮光膜の製造方法。
【請求項11】
請求項6から請求項8までのいずれか一項に記載の多層反射防止膜を製造する多層反射防止膜の製造方法であって、
前記遮光膜を形成する工程と、前記遮光膜上に少なくとも光干渉層を積層する工程を有する
ことを特徴とする多層反射防止膜の製造方法。
【請求項12】
基材上に、少なくとも遮光膜を備えた光学部材であって、
前記遮光膜として、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の遮光膜を備えている
ことを特徴とする光学部材。
【請求項13】
前記遮光膜上に、光干渉層が形成されている
ことを特徴とする請求項12に記載の光学部材。
【請求項14】
前記基材と前記遮光膜との間に、光干渉層が形成されている
ことを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光膜、多層反射防止膜、それらの製造方法及び光学部材に関する。より詳しくは、遮光性及び光反射防止性に優れた遮光膜及び多層反射防止膜、それらの製造方法及び光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯カメラやガラスプリズム等の光学部材においては、いわゆるゴーストやフレアなどの発生の問題を解決するため、光学部材の内壁面に、光反射防止対策や遮光対策を施すことが求められている。
例えば特許文献1では、光学部材の内壁面に複数の種類の形状からなる複数の微粒子を含む皮膜形成用樹脂からなる黒色塗装膜が被膜された発明が開示されている。
【0003】
これは、光学部材に有機物を用いた墨ぬりを施すことにより分光反射率を低下させ、ゴースト、フレアを防止しようとするものであるが、墨ぬり範囲の寸法精度の確保が難しく、墨は有機物であるため耐久性の確保も難しいという問題があった。
また、分光反射率を低下させたまま光学的性質を安定化させることが難しいという課題も残されていた。
【0004】
これに対して、特許文献2では光学部材に備えられた遮光膜に無機物を用いており、複数の光吸収層と、屈折率が1.7以下の低屈折率層とを組み合わせた遮光膜を用いることにより、遮光膜に入射する光を遮光するだけでなく、その表面(基体側及び基体と反対側の表面)からの反射光を低減している。
しかしながら、前記特許文献2に開示されている遮光膜も、安定性の観点から改善の余地が残されていることが、本発明者の検討によりわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-064737号公報
【特許文献2】特開2013-148844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、遮光性及び光反射防止性並びに化学的安定性に優れた遮光膜及び多層反射防止膜、それらの設計値と実測値との乖離が少ない製造方法及び光学部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、クロム及び二酸化ケイ素を含有する遮光膜は酸素の影響で不安定になることを見出し、かつ、遮光層に接する層が安定性に影響すること及びその安定性の改善策を見出すことによって本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0008】
1.少なくとも、遮光層と前記遮光層に接する層とを有する遮光膜であって、前記遮光層が、クロム及び二酸化ケイ素を含有し、前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、酸化物以外の化合物を含有することを特徴とする遮光膜。
【0009】
2.前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、MgF、AlF、NdF、LaF、YF、GdF、YbF、PbF、NaAlF、NaAl14及びCeFから選ばれるいずれかのフッ化物を含有することを特徴とする第1項に記載の遮光膜。
【0010】
3.前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、硫化物を含有することを特徴とする第1項又は第2項に記載の遮光膜。
【0011】
4.前記硫化物が、ZnSであることを特徴とする第3項に記載の遮光膜。
【0012】
5.400~700nmの波長領域内における平均分光透過率が、2%以下であることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の遮光膜。
【0013】
6.遮光膜を備えた多層反射防止膜であって、前記遮光膜として、第1項から第5項までのいずれか一項に記載の遮光膜を備え、かつ、少なくとも一つの前記遮光層に接する層上に少なくとも光干渉層を有することを特徴とする多層反射防止膜
【0014】
7.前記遮光層に接する層と前記光干渉層の間に分光特性の調整層を有することを特徴とする第6項に記載の多層反射防止膜。
【0015】
8.400~700nmの波長領域内における平均分光反射率が、2%以下であることを特徴とする第6項又は第7項に記載の多層反射防止膜。
【0016】
9.第1項から第5項までのいずれか一項に記載の遮光膜を製造する遮光膜の製造方法であって、前記遮光層を、アルゴンガス雰囲気下にて、クロム及び二酸化ケイ素の混合物成膜して形成することを特徴とする遮光膜の製造方法。
【0017】
10.第1項から第5項までのいずれか一項に記載の遮光膜を製造する遮光膜の製造方法であって、前記遮光層を、窒素ガス雰囲気下にて、クロム及び二酸化ケイ素の混合物を成膜して形成することを特徴とする遮光膜の製造方法。
【0018】
11.第6項から第8項までのいずれか一項に記載の多層反射防止膜を製造する多層反射防止膜の製造方法であって、前記遮光膜を形成する工程と、前記遮光膜上に少なくとも光干渉層を積層する工程を有することを特徴とする多層反射防止膜の製造方法。
【0019】
12.基材上に、少なくとも遮光膜を備えた光学部材であって、前記遮光膜として、第1項から第5項までのいずれか一項に記載の遮光膜を備えていることを特徴とする光学部材。
【0020】
13.前記遮光膜上に、光干渉層が形成されていることを特徴とする第12項に記載の光学部材。
【0021】
14.前記基材と前記遮光膜との間に、光干渉層が形成されていることを特徴とする第12項又は第13項に記載の光学部材。
【発明の効果】
【0022】
本発明の上記手段により、遮光性及び光反射防止性並びに化学的安定性に優れた遮光膜及び多層反射防止膜、それらの設計値と実測値との乖離が少ない製造方法及び光学部材を提供することができる。
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0023】
本発明の遮光膜が有する遮光層は、クロム及び二酸化ケイ素を含有している。
遮光層がクロム及び二酸化ケイ素を含有することは、遮光膜の遮光性及び光反射防止性を上げるためには有用である。
しかし、前記遮光層が酸化物に接すると前記遮光層と酸化物との間で酸素の移動が起こるため、前記遮光層のクロム及び二酸化ケイ素の混合物の化学的性質に変化が生じてしまい、前記遮光層を有する遮光膜の屈折率や光吸収係数等の光学的性質に変化が起き、遮光性及び光反射防止性が低下してしまうことが、本発明者の検討で明らかになった。
また、上記遮光性及び光反射防止性が低下するため、これらの光学特性の当初の設計値と製造後の実測値とに乖離が生ずるということも明らかになった。
本発明では、クロム及び二酸化ケイ素を含有する遮光層に接する層を、酸化物以外の化合物を含有する層とすることにより、遮光層の外部からの酸素の移動を防ぎ、遮光層の成分が化学的に変化せず光学的に安定化し、遮光性及び光反射性に優れた遮光膜が形成される。したがって、設計値と実測値との乖離が少ない遮光膜等を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の遮光膜の最も簡単な構成を表した概念図
図2】表面反射防止効果を有する多層反射防止膜の構成を表した一例の概念図
図3】裏面反射防止効果を有する多層反射防止膜の構成を表した一例の概念図
図4】(a)表面と裏面の両方の反射防止効果を有する多層反射防止膜の構成を表した一例の概念図(b)表面反射防止効果を有する多層反射防止膜と分光特性を調整した裏面反射防止効果を有する多層反射防止膜の構成を表した一例の概念図
図5】各光学部材の分光反射率の概念図
図6】各光学部材の分光透過率の概念図
図7】遮光膜の製造工程の流れの一例を表すフローチャート
図8】表面反射防止効果を有する多層反射防止膜の製造工程の流れの一例を表すフローチャート
図9】裏面反射防止効果を有する多層反射防止膜の製造工程の流れの一例を表すフローチャート
図10】表面と裏面の両方の反射防止効果を有する多層反射防止膜の製造工程の流れの一例を表すフローチャート
図11】真空蒸着装置の一例を示す模式図
図12】(a)サンプル用光学部材A1の分光反射率(b)サンプル用光学部材A2の分光反射率(c)サンプル用光学部材A3の分光反射率
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の遮光膜は、少なくとも、遮光層と前記遮光層に接する層とを有する遮光膜であって、前記遮光層が、クロム及び二酸化ケイ素を含有し、前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、酸化物以外の化合物を含有することを特徴とする。
この特徴は、下記各実施形態(態様)に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0026】
本発明の実施態様としては、前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、MgF、AlF、NdF、LaF、YF、GdF、YbF、PbF、NaAlF、NaAl14及びCeFから選ばれるいずれかのフッ化物を含有することが遮光膜の化学的性質の安定化の観点から好ましい。
【0027】
前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、硫化物を含有することが、遮光膜の化学的性質の安定化の観点から好ましい。
【0028】
前記硫化物が、ZnSであることが遮光膜の化学的性質の安定化の観点からより好ましい。
【0029】
400~700nmの波長領域内における平均分光透過率が、2%以下であることが遮光性の観点から好ましい。
【0030】
本発明の遮光膜を備えた多層反射防止膜が、少なくとも一つの前記遮光層に接する層上に少なくとも光干渉層を有することが光反射防止性の観点から好ましい。
【0031】
前記多層反射防止膜が、前記遮光層に接する層と前記光干渉層の間に分光特性の調整層を有することが遮光性及び光反射防止性の観点から好ましい。
【0032】
前記多層反射防止膜の400~700nmの波長領域内における平均分光反射率が、2%以下であることが光反射防止性の観点から好ましい。
【0033】
前記遮光膜は、前記遮光層を、アルゴンガス雰囲気下にて、クロム及び二酸化ケイ素の混合物を成膜して形成することにより好適に製造される。
【0034】
前記遮光膜は、前記遮光層を、窒素ガス雰囲気下にて、クロム及び二酸化ケイ素の混合物を成膜して形成することにより好適に製造される。
【0035】
前記多層反射防止膜の製造工程が、遮光膜を形成する工程と、前記遮光膜上に少なくとも光干渉層を積層する工程を有することにより、前記多層反射防止膜が好適に製造される。
【0036】
基材上に、少なくとも遮光膜を備えた光学部材は、前記遮光膜として、本発明の遮光膜を備えることが好適である。
【0037】
前記光学部材は、前記遮光膜上に、光干渉層が形成されていることが光反射防止性の観点から好ましい。
【0038】
前記光学部材が、前記基材と前記遮光膜との間に、光干渉層が形成されていることが光反射防止性の観点から好ましい。
【0039】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0040】
1.遮光膜
本発明の遮光膜は、少なくとも、遮光層と前記遮光層に接する層とを有する遮光膜であって、前記遮光層が、クロム及び二酸化ケイ素を含有し、前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、酸化物以外の化合物を含有することを特徴とする。
【0041】
図1は、本発明の遮光膜の最も簡単な構成を表した概念図である。
図1のように、本発明の遮光膜は、基材上に遮光性及び光反射防止性に優れた遮光層を有しており、かつ、当該遮光層の化学的性質を安定化させるため、当該遮光層に接する層を酸化物以外の化合物を含有する層とすることにより本発明の効果が発現する。
【0042】
(1.1)基材
本発明に係る基材としては、特に制限はないが、シクロオレフィンコポリマー(COC)、シクロオレフィンポリマー(COP)及びポリエステル樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0043】
(1.2)遮光層
本発明の遮光膜を構成する遮光層は、クロム及び二酸化ケイ素を含有している。
遮光層を形成する際に用いられる成膜材料としては、クロム及び二酸化ケイ素を含有していれば特に制限はないが、例えばBlackA(Cr、SiO)(Merck社製のBlackA powder less than 0.3mm Patinal(Cr(45%)+SiO(50~60%)の混合物、以下製品名を「BlackA」と表記する。)が挙げられる。
【0044】
(1.3)遮光層に接する層
遮光層がクロム及び二酸化ケイ素を含有することは、遮光膜の遮光性及び光反射防止性を上げるためには有用である。
しかし、前記遮光層が酸化物に接すると前記遮光層と酸化物との間で酸素の移動が起こるため、前記遮光層のクロム及び二酸化ケイ素の混合物の化学的性質に変化が生じてしまい、前記遮光層を有する遮光膜の屈折率や光吸収係数等の光学的性質に変化が起き、遮光性及び光反射防止性が低下してしまう。
そこで、前記遮光層に接する層すなわち隣接層の少なくとも一つを、酸化物以外の化合物を含有する層とすることにより酸素の移動による前記遮光層の光学的性質の変化を抑制することができる。
【0045】
前記遮光層に接する層のうち少なくとも一つの層は、酸化物以外の化合物の成膜材料によって形成される必要があるが、他の一つの層は酸化物を成膜材料として用いることもできる。
酸化物以外の化合物である成膜材料としては、例えばMgF、AlF、NdF、LaF、YF、GdF、YbF、PbF、NaAlF、NaAl14、CeF、ZnS等が挙げられる。
前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、MgF、AlF、NdF、LaF、YF、GdF、YbF、PbF、NaAlF、NaAl14、CeFから選ばれるいずれかのフッ化物を含有することが遮光膜の化学的性質の安定化の観点から好ましい。
【0046】
また、前記遮光層に接する層の少なくとも一つが、硫化物を含有することも、遮光膜の化学的性質の安定化の観点から好ましい。
【0047】
また、前記硫化物が、ZnSであることも遮光膜の化学的性質の安定化の観点からより好ましい。
【0048】
(1.4)平均分光透過率
前記遮光膜の400~700nmの波長領域内における平均分光透過率が、2%以下であることが遮光性の観点から好ましい。
ここで、「透過率(transmittance)」とは、与えられた条件において、入射した放射束又は光束に対する、透過した放射束又は光束の比率のことをいい(新編色彩化学ハンドブック第2版 日本色彩学会編 222頁)、単位は「1」である。
ただし、本発明における「分光透過率」とは、上記「透過率」の定義において、特定波長の光に対する透過率(%)をいう。
また、本発明に係る「平均分光透過率」とは、分光波長400~700nmの範囲内において測定した各波長における分光透過率の平均値をいう。
【0049】
具体的には、日立社製分光光度計U-4100にて遮光膜の分光透過率を測定し、分光波長400~700nmの波長領域における10nmおきで31点の分光透過率の平均値とする。
平均分光透過率の値は下記式(1)のようにして求める。
【0050】
式(1):
平均分光透過率(%)=(T400+T410+・・・・+T690+T700)/31
ここで、例えばT400は光波長400nmにおける分光透過率の値(%)、T410は光波長410nmにおける分光透過率の値(%)等々、をそれぞれ示す。
【0051】
(1.5)屈折率
「屈折率」とは、物質中の光の速度に対する真空中の光の速度の比の値すなわち(真空中の光の速度)/(物質中の光の速度)の値であり、物質中での光の進み方を記述する上での指標である。
物質中の光の速度は、当該光の波長により変化することから、屈折率も光の波長により変化する。
本明細書に記載する屈折は、特に断りがない限り、ヘリウムのd線(波長587.56nm)に対する屈折率である。
なお、本発明に係る屈折率は、室温(25℃)における測定値である。
なお、物質の屈折率は、光が入射したとき、光の反射、吸収、及び透過に影響及ぼす重要な支配因子である。
したがって、遮光膜や多層反射防止膜を構成する各層の成膜材料の屈折率は、光反射防止性に大きく関わってくる。
【0052】
本発明に係る遮光膜又は反射防止膜に用いる材料の屈折率は、1.33~2.5の範囲であることが好ましい。
上記範囲内の屈折率を有する成膜材料としては、例えば前記遮光層及び隣接層等において用いられるBlackA、MgF、YF、SiO、AlF、H(LaTiO)、NdF、LaF、GdF、YbF、PbF、NaAlF、NaAlF14、CeF、ZnS、Al、ZrTiO等が挙げられる。
【0053】
2.多層反射防止膜
本発明の多層反射防止膜は、遮光膜を備えた多層反射防止膜であって、前記遮光膜として、前述の本発明の遮光膜を備え、かつ、少なくとも一つの前記遮光層に接する層上に少なくとも光干渉層を有することを特徴とする。
本発明の多層反射防止膜は、1層以上であることが好ましく、基板上に形成されていることが好ましい。
具体的には、2層以上で構成される遮光膜を備え、少なくとも光干渉層を有し、その構成として、少なくとも1層の低屈折率層と、少なくとも1層の高屈折率層とを有し、前記基板から最も遠い最上層が前記低屈折率層であることが好ましい。
【0054】
ここで、本発明においては、「低屈折率層」とは屈折率が1.6より小さい成膜材料を用いることにより形成された層をいい、高屈折率層とは屈折率が1.9以上の成膜材料を用いることにより形成された層をいう。
【0055】
層数に関しては特に制限されるものではないが、30層以内であることが、高い生産性を維持して光干渉層を得る観点から好ましい。
すなわち、積層数は、要求される光学性能によるが、おおむね2~26層程度の積層をすることで、可視光域全体の反射率を低下させることができ、上限数としては30層以下であることが、膜の応力が大きくなって膜が剥がれたりすることを防止できる点で好ましい。
【0056】
本発明に係る多層反射防止膜は種々の形態があり、そのうちの一つである表面反射防止効果を有する多層反射防止膜の構成を表した一例の概念図を図2に示す。
【0057】
なお、本発明において「表面」とは、「遮光膜から見て基材側と逆側の面」のことであり、「表面反射防止効果」とは、「遮光膜から見て基材側と逆側の面から入射する光の反射を防止する効果」のことである。
【0058】
図2に示す多層反射防止膜の構成においては、光干渉層は遮光膜上に形成され、表面から入射する光の反射を防止する役割を果たすための層であり、この層を有することで本発明の多層反射防止膜の性能がより高まる。
【0059】
(2.1)光干渉層
本発明の多層反射防止膜は、遮光膜を備えており、少なくとも一つの前記遮光層に接する層上に少なくとも光干渉層を有することが光反射防止性の観点から好ましい。
本発明に係る「光干渉層」とは、積層された各層の界面からの反射光同士の干渉作用(各層からの反射波が干渉によって、互いに打消し合う作用)を利用して、反射光すなわち各層で反射した反射光の合成光を低減させる機能を有する層をいう。
当該光干渉層の構成としては、種々の態様の構成を採り得るが、屈折率が異なる層、例えば低屈折率層と高屈折率層を交互に積層した構成であることが好ましい。
【0060】
本発明に係る光干渉層に用いられる成膜材料としては、酸化物も用いることができ、例えばTi、Ta、Nb、Zr、Ce、La、Al、Si、及びHfなどの酸化物、又はこれらを組み合わせた酸化化合物が挙げられる。
また、酸化物以外の化合物である成膜材料も用いることができ、例えばMgF、AlF、NdF、LaF、YF、GdF、YbF、PbF、NaAlF、NaAl14、CeF、ZnS等が挙げられる。
本発明に係る光干渉層は、上記のような異なる成膜材料を複数層積み重ねることで、可視光域全体の反射率を低下させた機能を付加することができる。
【0061】
本発明に係る光干渉層の厚さ(複数層積層した場合の全体の厚さ)は、好ましくは、50~3000nmの範囲内である。厚さが50nm以上であれば、反射防止の光学特性を発揮させることができ、厚さが3000nm以下であれば、多層膜自体の膜応力による面変形が発生するのを防止することができる。
好ましくは、60~2000nmの範囲内である。
【0062】
(2.2)分光特性の調整層
前記多層反射防止膜が、前記遮光層に接する層と前記光干渉層の間に遮光性及び光反射防止性の観点から分光特性の調整層を設けてもよい。
【0063】
本発明に係る多層反射防止膜の種々の形態の中の、裏面反射防止効果を有する多層反射防止膜の構成を表した一例の概念図を図3に示す。
【0064】
なお、本発明において「裏面」とは、「遮光膜から見て基材側の面」のことであり、「裏面反射防止効果」とは、「遮光膜から見て基材側から入射する光の反射を防止する効果」のことである。
【0065】
図3に示す多層反射防止膜の構成においては、分光特性の調整層は光干渉層と遮光膜との間に形成され、光干渉層の機能を維持し、遮光膜の裏面反射防止のための調整層である。
【0066】
本発明に係る多層反射防止膜の効果をより高めるためには、遮光膜の両面にて光反射防止効果をもつ層が形成されていることが好ましい。
基材の両側に多層反射防止膜を有した光学部材の一例の概念図を図4(a)に示す。
【0067】
本発明の多層反射防止膜においては、図4(a)のような層構成をとることにより、遮光性と光反射防止性がより高まるが、図4(b)のように、遮光層に接する層と前記光干渉層の間に遮光性及び光反射防止性の観点から分光特性の調整層を設けてもよい。
【0068】
図4(b)のような構成とすることにより、表面から入射する光の反射を防止する役割と光干渉層の機能を維持し、より高める役割を同時に満たす多層反射防止膜となり、より発明の効果を高めることができる。
【0069】
(2.3)平均分光反射率
前記多層反射防止膜の400~700nmの波長領域内における平均分光反射率が、2%以下であることが光反射防止性の観点から好ましい。
ここで、「反射率(reflectance)」とは、与えられた条件において、入射した放射束又は光束に対する、反射した放射束又は光束の比率のことをいい(新編色彩化学ハンドブック第2版 日本色彩学会編 222頁)、単位は「1」である。
ただし、本発明における「分光反射率」とは、上記「反射率」の定義において、特定波長の光に対する反射率(%)をいう。
また、本発明に係る「平均分光反射率」とは、分光波長400~700nmの範囲内において測定した各波長における分光反射率の平均値をいう。
【0070】
本発明に係る多層反射防止膜においては、光が表面から入射する場合と裏面から入射する場合があり得ることから、実施例においては、分光反射率は、表面分光反射率と裏面分光反射率との両方の測定値について必要に応じて算出した。
具体的には、オリンパス社製顕微分光測定機USPM-RU IIIにて分光反射率を測定し、分光波長400~700nmの波長領域における10nmおきで31点の分光反射率の平均値とする。
平均分光反射率の値は下記式(1)のようにして求める。
【0071】
式(1) 平均分光反射率(%)=(R400+R410+・・・・+R690+R700)/31
【0072】
ここで、例えばR400は光波長400nmにおける分光反射率の値(%)、R410は光波長410nmにおける分光反射率の値(%)等々、をそれぞれ示す。
【0073】
3.設計値と実測値との乖離
本発明では、前述のように外部から遮光層への酸素の移動を防ぐことにより、遮光層の成分を光学的に安定化させることから、遮光膜及び多層反射防止膜の理想的な光学的特性の設計値と製造後に実際に使用した際の実測値との乖離幅を小さく抑えることができる。
【0074】
(3.1)分光反射率の値の乖離
分光反射率において、あらかじめ設定しておいた設計値と実際に測定した実測値との乖離幅が小さければ、酸素の影響が減少し化学的に安定であることがわかり、その結果として光反射防止効果に優れていることがわかる。
【0075】
設計値と実測値との乖離幅が大きいかどうかの判断は、光波長400~700nmの範囲内において、設計値と実測値をグラフ化したときに両値が分光反射率で1%以上離れている領域がグラフ上の線の50%以上を占めるかどうかにより行った。
【0076】
分光反射率の設計値は、薄膜計算ソフトTF-CALC(Sotfware Spectra,Inc)にて算出し、反射率Target(400~700nm 0.5%に設定)を入力し、ニードル法に基づき膜構成と膜厚を最適化することにより算出される。
【0077】
また、分光反射率の実測値は、オリンパス社製顕微分光測定機USPM-RU IIIを用いて、法線方向からの光入射に対する分光反射率を測定することにより算出される。
【0078】
図5は、成膜材料にBlackAを用いたとき、従来の遮光膜に必要とされる分光反射率の値Rrefと、本発明の遮光膜の分光反射率の実測値Drefとの関係を表す概念図である。
【0079】
すなわち、本発明の遮光膜における分光反射率の実測値Drefは、400~700nmの範囲内の光波長においては、図5に示すグラフ形状によって従来の遮光膜に必要とされる分光反射率の値Rrefを下回る。
【0080】
(3.2)分光透過率の値の乖離
分光透過率において、あらかじめ設定しておいた設計値との乖離幅が小さければ、酸素の影響が減少し化学的に安定であることがわかり、その結果として光反射防止効果に優れていることがわかる。
【0081】
設計値と実測値との乖離幅が大きいかどうかの判断は、光波長400~700nmの範囲内において、設計値と実測値をグラフ化したときに両値が分光透過率で1%以上離れている領域がグラフ上の線の50%以上を占めるかどうかにより行った。
【0082】
分光透過率の設計値は、薄膜計算ソフトTF-CALC(Sotfware Spectra,Inc)にて算出し、透過率Target(400~700nm 0.5%に設定)を入力し、ニードル法に基づき膜構成と膜厚を最適化することにより算出される。
【0083】
また、分光透過率の実測値は、分光光度計U4100(日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて測定することにより算出される。
【0084】
図6は、成膜材料にBlackAを用いたとき、従来の遮光膜に必要とされる分光透過率の値Rtraと、本発明の遮光膜の分光透過率の実測値Dtraとの関係を表す概念図である。
【0085】
すなわち、本発明の遮光膜における分光透過率の実測値Dtraは、400~700nmの範囲内の光波長においては、図5に示すグラフ形状によって従来の遮光膜に必要とされる分光透過率の値Rtraを下回る。
【0086】
4.光学部材
本発明の光学部材は、基材上に、少なくとも遮光膜を備えた光学部材であって、前記遮光膜として、前述の本発明の遮光膜を備えていることを特徴とする。
【0087】
前記光学部材は、前記遮光膜上に、光干渉層が形成されていることが光反射防止性の観点から好ましい。
前記光学部材が、前記基材と前記遮光膜との間に、光干渉層が形成されていることが光反射防止性の観点から好ましい。
本発明の光学部材は、携帯カメラ、カメラ光学系の遮光部材用途に用いることが好ましい。
本発明の光学部材としては、例えば前述した図1図4のような層構成を有する光学部材が挙げられる。
本発明に係る基材としては、制限はないが、シクロオレフィンコポリマー(COC)、シクロオレフィンポリマー(COP)及びポリエステル樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0088】
5.遮光膜及び多層反射防止膜の製造方法
本発明の遮光膜の製造方法は、前述の遮光膜を製造する製造方法であって、前記遮光層を、アルゴンガス又は窒素ガス雰囲気下にて、クロム及び二酸化ケイ素の混合物を成膜して形成することが好ましい。
また、本発明の多層反射防止膜の製造方法は、前述の本発明の多層反射防止膜を製造する多層反射防止膜の製造方法であって、前記遮光膜を形成する工程と、前記遮光膜上に少なくとも光干渉層を積層する工程を有することが好ましい。
【0089】
(5.1)遮光膜及び多層反射防止膜の製造における各構成層の形成方法
本発明の遮光膜は、不活性ガスとしてアルゴンガス又は窒素ガスを用いて、遮光層をアルゴンガス又は窒素ガス雰囲気下にて、クロム及び二酸化ケイ素の混合物を成膜して形成することにより好適に製造される。
前記多層反射防止膜の製造工程が、遮光膜を形成する工程と、前記遮光膜上に少なくとも光干渉層を積層する工程を有することにより、前記多層反射防止膜が好適に製造される。
【0090】
前述した遮光層、遮光層に接する層、光干渉層及び分光特性の調整層の各層を基材上に形成する方法としては、公知の各種の方法を用いることができるが、スパッタリング法(例えば、マグネトロンカソードスパッタリング、平板マグネトロンスパッタリング、2極AC平板マグネトロンスパッタリング、2極AC回転マグネトロンスパッタリングなど、反応性スパッタ法を含む。)、蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着、プラズマ支援蒸着、及びIAD法を用いる真空蒸着など)、熱CVD法、触媒化学気相成長法(Cat-CVD)、容量結合プラズマCVD法(CCP-CVD)、光CVD法、プラズマCVD法(PE-CVD)、エピタキシャル成長法、原子層成長法等の化学蒸着法等によって層形成することが好ましい。
【0091】
本発明の遮光膜及び多層反射防止膜の製造時に用いられる成膜材料は、前述のとおりであるが、成膜材料として金属フッ化物(例えばMgF、AlF、NdF、LaF、YF、GdF、YbF、PbF、NaAlF、NaAl14及びCeF等)を用いる場合、成膜時に、イオン照射により金属フッ化物が分解するため、IAD法等を用いないことが好ましい。
【0092】
各層の形成条件として真空蒸着法を採用する場合は、チャンバー内の減圧度が、通常1×10-4~1×10-1Pa、好ましくは1×10-3~3×10-2Paの範囲にし、成膜速度が1~10Å/secの範囲内、具体的には、例えばシンクロン社製BES-1300DNを用いて、加熱温度:340℃、開始真空度1.33×10-3Pa及び各成膜材料にあわせた成膜速度で各層を形成することが好ましい。
【0093】
基材上に形成される遮光膜及び多層反射防止膜の形態としては、例えば図1図4に示す形態が挙げられ、前述の「(5.1)遮光膜及び多層反射防止膜の製造における各構成層の形成方法」に従って基材側から順に遮光膜及び多層反射防止膜の各層が形成される。
【0094】
遮光膜及び多層反射防止膜の各層の形成時には、使用する蒸着装置の蒸着源に適宜成膜材料を装填するが、遮光層の形成時には、使用する蒸着装置の蒸着源にクロム及び二酸化ケイ素を含有する成膜材料を装填し、遮光層に接する層の形成時には、使用する蒸着装置の蒸着源に酸化物以外の化合物を含有する成膜材料を装填する。
【0095】
(5.2)製造工程の流れ
図7は、遮光膜の製造工程の流れの一例を表すフローチャートであり、図8は、表面反射防止効果を有する多層反射防止膜の製造工程の流れの一例を表すフローチャートであり、図9は、裏面反射防止効果を有する多層反射防止膜の製造工程の流れの一例を表すフローチャートであり、図10は、表面と裏面の両方の反射防止効果を有する多層反射防止膜の製造工程の流れの一例を表すフローチャートである。
【0096】
すなわち、図1の遮光膜を作製する製造工程の流れを図7は表しており、図2の多層反射防止膜を作製する製造工程の流れを図8は表しており、図3の多層反射防止膜を作製する製造工程の流れを図9は表している。
なお、図10においては、表面反射防止用の光干渉層の形成をするD1から裏面反射防止用の分光特性の調整層を形成するD2までの工程は一括工程ではなく、D1とD2との間には、一旦成膜装置から形成中の多層反射防止膜を取り出し、大気下にて遮光膜成膜用のマスク治具に光学部材をセットする工程があり、D3からは光学部材を成膜装置に戻して再び成膜を始める。
【0097】
(5.3)蒸着装置
図11は、真空蒸着装置の一例を示す模式図である。
真空蒸着装置1は、チャンバー2内にドーム3を具備し、ドーム3に沿って基板4が配置される。
蒸着源5は蒸着物質を蒸発させる電子銃、又は抵抗加熱装置を具備し、蒸着源5から蒸着物質6が、基板4に向けて飛散し、基板4上で凝結、固化する。
IAD法を用いる場合は、その際、IADイオンソース7より基板に向けてイオンビーム8を照射し、成膜中にイオンの持つ高い運動エネルギーを作用させて緻密な膜としたり、膜の密着力を高めたりする。
ここで基板4は、一例としてガラスが挙げられる。
【0098】
チャンバー2の底部には、複数の蒸着源5が配置されうる。
ここでは、蒸着源5として1個の蒸着源を示しているが、蒸着源5の個数は複数あってもよい。
蒸着源5の成膜材料(蒸着材料)を電子銃によって蒸着物質6を発生させ、チャンバー2内に設置される基板4(例えばガラス板)に成膜材料を飛散、付着させることにより、成膜材料からなる層が基板4上に成膜される。
【0099】
また、チャンバー2には、図示しない真空排気系が設けられており、これによってチャンバー2内が真空引きされる。
チャンバー内の減圧度は、通常1×10-4~1×10-1Pa、好ましくは1×10-3~3×10-2Paの範囲である。
【0100】
ドーム3は、基板4を保持するホルダー(不図示)を、少なくとも1個保持するものであり、蒸着傘とも呼ばれる。
このドーム3は、断面円弧状であり、円弧の両端を結ぶ弦の中心を通り、その弦に垂直な軸を回転対称軸として回転する回転対称形状となっている。
ドーム3が軸を中心に例えば一定速度で回転することにより、ホルダーを介してドーム3に保持された基板4は、軸の周りに一定速度で公転する。
【0101】
このドーム3は、複数のホルダーを回転半径方向(公転半径方向)及び回転方向(公転方向)に並べて保持することが可能である。
これにより、複数のホルダーによって保持された複数の基板4上に同時に成膜することが可能となり、素子の製造効率を向上させることができる。
【0102】
IADイオンソース7は、本体内部にアルゴンガスや酸素ガスを導入してこれらをイオン化させ、イオン化されたガス分子(イオンビーム8)を基板4に向けて照射する機器である。
イオン源としては、カウフマン型(フィラメント)、ホローカソード型、RF型、バケット型、デュオプラズマトロン型等を適用することができる。
IADイオンソース7から上記のガス分子を基板4に照射することにより、例えば複数の蒸発源から蒸発する成膜材料の分子を基板4に押し付けることができ、密着性及び緻密性の高い膜を基板4上に成膜することができる。
IADイオンソース7は、チャンバー2の底部において基板4に対向するように設置されているが、対向軸からずれた位置に設置されていても構わない。
【0103】
IAD法で用いるイオンビームは、イオンビームスパッタリング法で用いられるイオンビームよりは、低真空度で用いられ、加速電圧も低い傾向にある。
例えば加速電圧が100~2000Vのイオンビーム、電流密度が1~120μA/cmのイオンビーム、を用いることができる。
成膜工程に用いられるイオンビームは、酸素のイオンビーム、アルゴンのイオンビーム、又は酸素とアルゴンの混合ガスのイオンビームとすることができる。
例えば、酸素ガス導入量30~60sccm、アルゴンガス導入量0~10sccmの範囲内とすることが好ましい。
【0104】
モニターシステム(不図示)は、真空成膜中に各蒸着源5から蒸発して自身に付着する層を監視することにより、基板4上に成膜される層の波長特性を監視するシステムである。
このモニターシステムにより、基板4上に成膜される層の光学特性(例えば分光透過率、分光反射率、光学層厚など)を把握することができる。
また、モニターシステムは、水晶層厚モニターも含んでおり、基板4上に成膜される層の物理層厚を監視することもできる。
このモニターシステムは、層の監視結果に応じて、複数の蒸発源5のON/OFFの切り替えやIADイオンソース7のON/OFFの切り替え等を制御する制御部としても機能する。
【実施例0105】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0106】
(光学部材形成の概要と成膜材料及び成膜条件)
蒸着装置BES-1300DN(シンクロン社製)を用いて、ガラス基材としてH-ZF52GT(nd=1.8467、成都光明社製)を用いて、基材の一方の面上に、各層を基材側から順に形成することにより各種の光学部材を形成した。
【0107】
(層厚の測定)
上記各層の層厚は以下の方法によって測定した。
【0108】
(1)あらかじめ基材上に、測定する層を1/4λ(λ=550nm)の層厚で成膜し、分光反射率を測定しておく。
【0109】
(2)前記(1)で形成した層に下記表Iに示す成膜条件で各層を成膜し、分光反射率を測定して、その変化量から当該層の屈折率と層厚を計算する。
実施例で用いた成膜材料は以下のとおりである。
【0110】
(成膜材料)
(1)BlackA powder less than 0.3mm Patinal(Merck社製、Cr〔45%〕+SiO〔50~60%〕の混合物、以下製品名を「BlackA」と表記する。)
(2)Magnesium fluoride granules about 1-2.5mm(MgF)Patinal(Merck社製、以下製品名を「MgF」と表記する。)
(3)Substance H4 granules about 0.1-2mm Patinal(Merck社製、LaTiO〔99%〕、以下製品名を「H4」と表記する。)
(4)YF(Merck社製)
(5)Silicon dioxide granules about 1-4mm(SiO)Patinal(Merck社製、以下製品名を「SiO」と表記する。)
(6)AlF(Merck社製)
(7)NdF(Merck社製)
(8)LaF(Merck社製)
(9)GdF(Merck社製)
(10)YbF(Merck社製)
(11)PbF(Merck社製)
(12)NaAlF(Merck社製)
(13)NaAl14(Merck社製)
(14)CeF(Merck社製)
(15)ZnS(Merck社製)
(16)Al(Merck社製)
(17)ZrTiO(Merck社製)
【0111】
まず、表Iに各成膜材料を用いて各層を形成したときの成膜条件を示す。
表Iにおいては、例えば成膜材料として各層の形成時にAlFを用いた場合には、表Iに示す<条件(AlF)>にて各層を形成し、YbFを用いた場合には、表Iに示す<条件(YbF)>にて各層を形成する。
以下、実施例の記載において、「基材から数えて~層目の層」の記載を「第~層」と表記するものとする。
例えば「基材から数えて3層目の層」の記載は「第3層」とする。
【0112】
【表1】
【0113】
(遮光膜の分光反射率及び分光透過率の設計値と実測値の乖離幅の確認)
実施例における光学部材の作製の前に、まず、遮光膜の形成時に、遮光層に接する層が酸化物を含有する場合と酸化物以外を含有する場合とで、分光反射率及び分光透過率の設計値と実測値に与える影響を確かめるため、以下の手順によりサンプル用光学部材A1、A2及びA3を作製した。
上記のサンプル用光学部材としては、図1の層構成によるものを作製した。
【0114】
(1)各サンプル用光学部材の作製
前記表Iに示した成膜条件に従って下記各種光学部材を作製した。
[サンプル用光学部材A1の作製]
前記表Iに示した<条件(BlackA)>にて、基材上に厚さが1500nmのクロム及び二酸化ケイ素を含有する遮光層を形成した。
次に、前記表Iに示した<条件(MgF)>にて、遮光層上に厚さが114nmの酸化物以外の化合物を含有する層(遮光層に接する層)を形成することによりサンプル用光学部材A1を作製した。
【0115】
[サンプル用光学部材A2の作製]
前記表Iに示した<条件(BlackA)>にて、基材上に厚さが1500nmのクロム及び二酸化ケイ素を含有する遮光層を形成した。
次に、前記表Iに示した<条件(SiO)>にて、遮光層上に厚さが188nmの酸化物を含有する層(遮光層に接する層)を形成することによりサンプル用光学部材A2を作製した。
【0116】
[サンプル用光学部材A3の作製]
前記表Iに示した<条件(BlackA)>にて、基材上に厚さが1500nmのクロム及び二酸化ケイ素を含有する遮光層を形成した。
次に、前記表Iに示した<条件(H4)>にて、遮光層上に厚さが114nmの酸化物を含有する層(遮光層に接する層)を形成することによりサンプル用光学部材A3を作製した。
【0117】
(2)設計値と実測値の乖離幅
上記により得られたサンプル用光学部材A1~A3について、光波長400~700nmの範囲内における分光反射率と分光透過率の設計値及び実測値を算出した。
サンプル用光学部材A1~A3の分光反射率をグラフ化したものを図12に示す。
【0118】
なお、分光透過率に関しては、各光学部材で設計値と実測値との乖離幅がほぼ見られなかったことからグラフについては省略する。
【0119】
図12を見てわかるように、分光反射率に関しては、サンプル用光学部材A1の方がサンプル用光学部材A2及びA3よりも設計値と実測値との乖離幅が小さく、このことにより酸化物以外の化合物を遮光層に接する層に含有している光学部材が、酸化物を遮光層に接する層に含有している光学部材よりも酸素の影響が減少し化学的に安定で、その結果として光反射防止効果に優れていることがわかる。
【0120】
A.遮光膜を備えた光学部材の作製
[光学部材No.1の作製]
(A.1)遮光膜の形成
(A.1.1)遮光層(第1層)の形成
前記表Iに示した<条件(BlackA)>にて、基材上に厚さが1500nmの遮光層を形成した。
【0121】
(A.1.2)遮光層に接する層(第2層)の形成
前記表Iに示した<条件(MgF)>にて、遮光層(第1層)上に厚さが81.2nmの層(遮光層に接する層)を形成した。
【0122】
(A.2)光学部材の作製
上記の工程により表IIに示す層構成にて形成された遮光膜を備えた光学部材No.1を作製した。
【0123】
[光学部材No.2及び3の作製]
第1層と第2層の成膜材料及び層厚を表IIのように変更し、各成膜材料にあわせて表Iの条件を適用して光学部材No.2及び3を作製した。
【0124】
【表2】
【0125】
B.表面反射防止効果を有する多層反射防止膜を備えた光学部材の作製
前述のように、本発明において「表面」とは、「遮光膜から見て基材側と逆側の面」のことであり、「表面反射防止効果」とは、「遮光膜から見て基材側と逆側の面から入射する光の反射を防止する効果」のことである。
【0126】
[光学部材No.4の作製]
(B.1)遮光膜の形成
(B.1.1)遮光層(第1層)の形成
前記表Iに示した<条件(BlackA)>にて、基材上に厚さが1500nmの遮光層を形成した。
【0127】
(B.1.2)遮光層に接する層(第2層)の形成
前記表Iに示した<条件(MgF)>にて、遮光層(第1層)上に厚さが8.0nmの層(遮光層に接する層)を形成した。
【0128】
(B.2)多層反射防止膜の形成
(B.2.1)光干渉層(第3層~第8層)の形成
前記表Iに示した<条件(H4)>又は<条件(MgF)>を表IIIの層順に従って適用し、遮光層に接する層(第2層)上に各層を形成することにより、光干渉層を形成した。
【0129】
(B.3)光学部材の作製
上記の工程により表IIIに示す層構成にて形成された表面反射防止効果を有する多層反射防止膜を備えた光学部材No.4を作製した。
【0130】
[光学部材No.5の作製]
[光学部材No.4の作製]における(B.1.1)遮光層(第1層)の形成において、前記表Iに示した<条件(BlackA)>を<条件(BlackA:Ar)>とし、遮光層の形成時に不活性ガスとしてアルゴン(Ar)ガスを導入したこと以外は、第1層~第8層(遮光層、遮光層に接する層及び光干渉層)の成膜材料及び層厚を表IIIのように変更し、各成膜材料にあわせて表Iの条件を適用して光学部材No.5を作製した。
上記のように遮光層の形成時に不活性ガスとしてアルゴン(Ar)ガスを導入することで、遮光膜BlackAの酸化が抑制され、遮光層の屈折率と光吸収係数が増大する。
遮光膜の吸収係数が大きくなることより遮光層の膜厚が薄くても同等の透過率が確保でき、光学部材No.4と同等の結果を得ることが可能となった。
なお、上記の作製方法では不活性ガスとしてアルゴン(Ar)ガスrを導入したが、アルゴン(Ar)ガスのかわりに窒素(N)ガスを用いたとしても同様の効果を得ることができる。
【0131】
[光学部材No.6~25の作製]
第1層~第8層(遮光層、遮光層に接する層及び光干渉層)の成膜材料及び層厚を表III~表VIのように変更し、各成膜材料にあわせて表Iの条件を適用して光学部材No.6~25を作製した。
【0132】
【表3】
【0133】
【表4】
【0134】
【表5】
【0135】
【表6】
【0136】
C.裏面反射防止効果を有する多層反射防止膜を備えた光学部材の作製
前述のように、本発明において「裏面」とは、「遮光膜から見て基材側の面」のことであり、「裏面反射防止効果」とは、「遮光膜から見て基材側から入射する光の反射を防止する効果」のことである。
【0137】
[光学部材No.26の作製]
(C.1)多層反射防止膜の形成
(C.1.1)光干渉層(第1層~第8層)の形成
前記表Iに示した<条件(H4)>又は<条件(MgF)>を表VIIの層順に従って適用し、光干渉層(第1層~第8層)を形成した。
【0138】
(C.2)光学部材の作製
上記の工程により表VIIに示す層構成にて形成された裏面反射防止効果を有する多層反射防止膜を備えた光学部材No.26を作製した。
【0139】
[光学部材No.27の作製]
(C.3)多層反射防止膜の形成
(C.3.1)光干渉層(第1層~第7層)の形成
前記表Iに示した<条件(H4)>又は<条件(MgF)>を表VIIの層順に従って適用し、光干渉層(第1層~第7層)を形成した。
【0140】
(C.4)遮光膜の形成
(C.4.1)遮光層に接する層(第8層)の形成
前記表Iに示した<条件(MgF)>にて、第7層上に厚さが94.1nmの層(遮光層に接する層)を形成した。
【0141】
(C.4.2)遮光層の形成
前記表Iに示した<条件(BlackA)>にて、遮光層に接する層(第8層)上に厚さが1500nmの遮光層を形成した。
【0142】
(C.5)光学部材の作製
上記の工程により表VIIに示す層構成にて形成された裏面反射防止効果を有する多層反射防止膜を備えた光学部材No.27を作製した。
【0143】
[光学部材No.28の作製]
(C.6)多層反射防止膜の形成
(C.6.1)光干渉層(第1層~第8層)の形成
前記表Iに示した<条件(H4)>又は<条件(MgF)>を表VIIの層順に従って適用し、光干渉層(第1層~第8層)を形成した。
【0144】
(C.6.2)分光特性の調整層(第9層~第17層)の形成
前記表Iに示した<条件(H4)>又は<条件(MgF)>を表VIIの層順に従って適用し、光干渉層(第1層~第8層)上に分光特性の調整層(第9層~第17層)を形成した。
【0145】
(C.7)遮光膜の形成
(C.7.1)遮光層に接する層(第18層)の形成
前記表Iに示した<条件(MgF)>にて、分光特性の調整層(第9層~第17層)上に厚さが8.0nmの層(遮光層に接する層)を形成した。
【0146】
(C.7.2)遮光層(第19層)の形成
前記表Iに示した<条件(BlackA)>にて、遮光層に接する層(第18層)上に厚さが1500nmの遮光層を形成した。
【0147】
(C.8)光学部材の作製
上記の工程により表VIIに示す層構成にて形成された裏面反射防止効果を有する多層反射防止膜を備えた光学部材No.28を作製した。
【0148】
[光学部材No.29の作製]
(C.9)多層反射防止膜の形成
(C.9.1)光干渉層(第1層~第8層)の形成
前記表Iに示した<条件(H4)>又は<条件(MgF)>を表VIIの層順に従って適用し、光干渉層(第1層~第8層)を形成した。
【0149】
(C.9.2)分光特性の調整層(第9層~第16層)の形成
前記表Iに示した<条件(H4)>又は<条件(MgF)>を表VIIの層順に従って適用し、第8層上に分光特性の調整層(第9層~第16層)を形成した。
【0150】
(C.10)遮光膜の形成
(C.10.1)遮光層に接する層(第17層)の形成
前記表Iに示した<条件(MgF)>にて、分光特性の調整層(第9層~第16層)上に厚さが40.7nmの層(遮光層に接する層)を形成した。
【0151】
(C.10.2)遮光層(第18層)の形成
前記表Iに示した<条件(BlackA)>にて、遮光層に接する層(第17層)上に厚さが1500nmの遮光層を形成した。
【0152】
(C.11)光学部材の作製
上記の工程により表VIIに示す層構成にて形成された裏面反射防止効果を有する多層反射防止膜を備えた光学部材No.29を作製した。
【0153】
【表7】
【0154】
D.表面と裏面の両方の反射防止効果を有する多層反射防止膜
[光学部材No.30の作製]
(D.1)多層反射防止膜の裏面反射防止効果を有する層の形成
(D.1.1)光干渉層(第1層~第8層)の形成
前記表Iに示した<条件(H4)>又は<条件(MgF)>を表VIIIの層順に従って適用し、光干渉層(第1層~第8層)を形成した。
その後一旦成膜装置から取り出し、大気下にて遮光膜成膜用のマスク治具に作製途中の光学部材をセットした。
【0155】
(D.1.2)分光特性の調整層(第9層~第17層)の形成
前記表Iに示した<条件(H4)>又は<条件(MgF)>を表VIIIの層順に従って適用し、光干渉層(第1層~第8層)上に分光特性の調整層(第9層~第17層)を形成した。
【0156】
(D.1.3)分光特性の調整層の形成と一括の工程にて形成される遮光層に接する層(第18層)の形成
なお、調整層の形成と一括の工程にて、前記表Iに示した<条件(MgF)>にて、分光特性の調整層(第9層~第17層)上に厚さが8.0nmの層(遮光層に接する層)を形成した。
【0157】
(D.2)遮光膜の形成
(D.2.1)遮光層に接する層(第18層)の形成
上記の工程により遮光層に接する層(第18層)は形成されていることから、次工程として遮光層の形成を始めた。
【0158】
(D.2.2)遮光層(第19層)の形成
再び成膜装置に上記の層が形成された光学部材を戻した上で、前記表Iに示した<条件(BlackA)>にて、遮光層に接する層(第18層)上に厚さが1500nmの遮光層を形成した。
【0159】
(D.2.3)遮光層に接する層(第20層)の形成
前記表Iに示した<条件(MgF)>にて、遮光層(第19層)上に厚さが8.0nmの層(遮光層に接する層)を形成した。
【0160】
(D.3)多層反射防止膜の表面反射防止効果を有する層の形成
(D.3.1)光干渉層(第21層~第26層)の形成
前記表Iに示した<条件(H4)>又は<条件(MgF)>を表VIIIの層順に従って適用し、遮光層に接する層(第20層)上に各層を形成することにより、光干渉層を形成した。
【0161】
(D.4)光学部材の作製
上記の工程により表VIIIに示す層構成にて形成された表面と裏面の両方の反射防止効果を有する多層反射防止膜を備えた光学部材No.30を作製した。
【0162】
【表8】
【0163】
≪分光反射率及び分光透過率≫
(1)分光反射率
<設計値>
得られた光学部材サンプルNo.1~No.29の分光反射率の設計値を薄膜計算ソフトTF-CALC(Sotfware Spectra,Inc)にて算出した。
薄膜設計は、反射率Target(400~700nm 0.5%に設定)を入力し、ニードル法に基づき膜構成と膜厚を最適化した。
その際、400~700nmにおける10nm毎の分光反射率値を抽出してグラフ化し、各光学部材の設計値と実測値の乖離幅を評価することにより各光学部材の性能を評価した。
また、同時に前述の計算方法にしたがって、平均分光反射率の設計値を算出した。
【0164】
<実測値>
オリンパス社製顕微分光測定機USPM-RU IIIを用いて、法線方向からの光入射に対する分光反射率を測定した。
その際、400~700nmにおける10nm毎の分光反射率値を抽出してグラフ化し、各光学部材の設計値と実測値の乖離幅を評価することにより各光学部材の性能を評価した。
また、同時に前述の計算方法にしたがって、平均分光反射率の実測値を算出した。
【0165】
<評価方法>
上記の各光学部材の設計値と実測値との乖離幅の評価を下記基準にて評価した。
なお、下記基準において、「設計値と実測値との乖離幅が大きい」とは、例えば図10における光学部材A2及びA3のように、光波長400~700nmの範囲内において、設計値と実測値をグラフ化したときに両値が分光反射率で1%以上離れている領域がグラフ上の線の50%以上を占める場合とし、光学部材A1のように、そうではない場合を「設計値と実測値との乖離幅が小さい」と定義する。
【0166】
(評価基準)
○:分光反射率の設計値と実測値をグラフ化したとき、両値の乖離幅が小さく、実用上問題ないレベル。
×:分光反射率の設計値と実測値をグラフ化したとき、両値の乖離幅が大きく、実用上問題が生じるレベル。
【0167】
(2)分光透過率
<設計値>
得られた光学部材サンプルNo.1~No.29の分光反射率の設計値を薄膜計算ソフトTF-CALC(Sotfware Spectra,Inc)にて算出した。
その際、400~700nmにおける10nm毎の分光透過率値を抽出してグラフ化し、各光学部材の設計値と実測値の乖離幅を評価することにより各光学部材の性能を評価した。
また、同時に前述の計算方法にしたがって、平均分光透過率の設計値を算出した。
各光学部材の分光透過率値の設計値をグラフ化した。
【0168】
<実測値>
分光光度計U4100(日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、分光透過率を測定した。
その際、400~700nmにおける10nm毎の分光透過率値を抽出してグラフ化し、各光学部材の設計値と実測値の乖離幅を評価することにより各光学部材の性能を評価した。
また、同時に前述の計算方法にしたがって、平均分光透過率の設計値を算出した。
【0169】
<評価方法>
上記の各光学部材の設計値と実測値との乖離幅の評価を下記基準にて評価した。
なお、下記基準において、「設計値と実測値との乖離幅が大きい」とは、光波長400~700nmの範囲内において、設計値と実測値をグラフ化したときに両値が分光透過率で1%以上離れている領域がグラフ上の線の50%以上を占める場合とし、そうではない場合を「設計値と実測値との乖離幅が小さい」と定義する。
【0170】
(評価基準)
○:分光透過率の設計値と実測値をグラフ化したとき、両値の乖離幅が小さく、実用上問題ないレベル。
×:分光透過率の設計値と実測値をグラフ化したとき、両値の乖離幅が大きく、実用上問題がでるレベル。
【0171】
(3)各光学部材の評価
実施例及び比較例にて作製した各光学部材について、上記の評価基準にて評価した。
評価結果は表II~表VIIIのとおりである。
【0172】
(4)まとめ
以上のことから実施例の各光学部材においては、比較例の各光学部材とは異なり、分光反射率及び分光透過率において、あらかじめ設定しておいた設計値との乖離幅が小さく、遮光性及び光反射防止性並びに化学的安定性に優れた遮光膜及び多層反射防止膜が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0173】
1 真空蒸着装置
2 チャンバー
3 ドーム
4 基板
5 蒸着源
6 蒸着物質
7 IADイオンソース
8 イオンビーム
L(1) 遮光層
L(2) 遮光層に接する層
光干渉層
分光特性の調製層
ref 従来の遮光膜に必要とされる分光反射率の値
ref 分光反射率の実測値
tra 従来の遮光膜に必要とされる分光透過率の値
tra 分光透過率の実測値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12