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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153966
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】反応装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 8/04 20060101AFI20241023BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20241023BHJP
   C07C 1/12 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
B01J8/04 311Z
C07C9/04
C07C1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067505
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋介
(72)【発明者】
【氏名】薮花 優棋
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 翔斗
(72)【発明者】
【氏名】水野 彰人
【テーマコード(参考)】
4G070
4H006
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB04
4G070BB05
4G070CA25
4G070CB17
4G070CC01
4G070DA12
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC29
4H006BD81
4H006BD84
4H006BE20
4H006BE40
4H006BE41
(57)【要約】
【課題】触媒の劣化を低減できる反応装置を提供する。
【解決手段】反応装置は、入口から出口に向かって原料ガスが流れる反応器と、反応器の中に配置された触媒と、触媒を加熱する第1のヒータと、を備え、発熱を伴う化学反応によって生成ガスを得る。触媒が配置された範囲は、入口に近い上流部と、出口に近い下流部と、を含み、上流部と下流部とは原料ガスが流れる方向に隣接する。上流部の温度を検知する第1の温度計を備え、第1のヒータは下流部に配置され、かつ、上流部に配置されない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口から出口に向かって原料ガスが流れる反応器と、前記反応器の中に配置された触媒と、前記触媒を加熱する第1のヒータと、を備え、発熱を伴う化学反応によって生成ガスを得る反応装置であって、
前記触媒が配置された範囲は、前記入口に近い上流部と、前記出口に近い下流部と、を含み、前記上流部と前記下流部とは前記原料ガスが流れる方向に隣接し、
前記上流部の温度を検知する第1の温度計を備え、
前記第1のヒータは、前記下流部に配置され、かつ、前記上流部に配置されない反応装置。
【請求項2】
前記上流部のうち前記第1の温度計が温度を検知する部分と異なる部分の温度を検知する第2の温度計を備え、
前記第2の温度計が温度を検知する部分は、前記第1の温度計が温度を検知する部分よりも前記出口の近くに位置する請求項1記載の反応装置。
【請求項3】
前記上流部を加熱する第2のヒータをさらに備える請求項1又は2に記載の反応装置。
【請求項4】
前記第2のヒータの制御を行う制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記原料ガスが流され始めてから所定の時間経過後、あるいは前記上流部の温度が所定の閾値を上回った場合の少なくとも一方を満たしたときに前記第2のヒータを停止する請求項3記載の反応装置。
【請求項5】
前記下流部は、前記触媒の前記出口に最も近い部分を含む請求項1又は2に記載の反応装置。
【請求項6】
前記原料ガスが流れる方向における前記上流部の長さは、前記原料ガスが流れる方向における前記下流部の長さ以上である請求項1又は2に記載の反応装置。
【請求項7】
前記原料ガスは二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とを含み、
前記化学反応は前記原料ガスからメタンを合成する反応である請求項1又は2に記載の反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発熱を伴う化学反応によって生成ガスを得る反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒が配置された反応器に原料ガスを流し、発熱を伴う化学反応によって生成ガスを得る反応装置では、反応熱によって反応場の温度が上昇すると、シンタリング等の触媒の劣化が生じ易くなる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-124665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術(特に図2)では、反応器の全長に亘ってヒータが配置されているため、ヒータの加熱によって、反応熱が大きい反応器の入口付近の触媒の劣化が促進されるという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、触媒の劣化を低減できる反応装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するための第1の態様は、入口から出口に向かって原料ガスが流れる反応器と、反応器の中に配置された触媒と、触媒を加熱する第1のヒータと、を備え、発熱を伴う化学反応によって生成ガスを得る反応装置であって、触媒が配置された範囲は、入口に近い上流部と、出口に近い下流部と、を含み、上流部と下流部とは原料ガスが流れる方向に隣接する。上流部の温度を検知する第1の温度計を備え、第1のヒータは下流部に配置され、かつ、上流部に配置されない。
【0007】
第2の態様は、第1の態様において、上流部のうち第1の温度計が温度を検知する部分と異なる部分の温度を検知する第2の温度計を備え、第2の温度計が温度を検知する部分は、第1の温度計が温度を検知する部分よりも出口の近くに位置する。
【0008】
第3の態様は、第1又は第2の態様において、上流部を加熱する第2のヒータをさらに備える。
【0009】
第4の態様は、第3の態様において、第2のヒータの制御を行う制御部をさらに備え、制御部は、原料ガスが流され始めてから所定の時間経過後、あるいは上流部の温度が所定の閾値を上回った場合の少なくとも一方を満たしたときに第2のヒータを停止する。
【0010】
第5の態様は、第1から第4の態様のいずれかにおいて、下流部は、触媒の出口に最も近い部分を含む。
【0011】
第6の態様は、第1から第5の態様のいずれかにおいて、原料ガスが流れる方向における上流部の長さは、原料ガスが流れる方向における下流部の長さ以上である。
【0012】
第7の態様は、第1から第6の態様のいずれかにおいて、原料ガスは二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とを含み、化学反応は原料ガスからメタンを合成する反応である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の反応装置によれば、第1のヒータは出口に近い下流部に配置され、入口に近い上流部に配置されないため、反応熱が大きい上流部の触媒は、第1のヒータによる加熱の影響を受けにくくなる。従って上流部の触媒の劣化を低減できる。
【0014】
第1のヒータによる加熱の影響を上流部が受けにくくなるため、上流部の温度を検知する第1の温度計は、反応熱による上流部の温度を検知しやすくなる。触媒が劣化すると反応熱は小さくなるため、第1の温度計の検知結果を利用して上流部の触媒の劣化を検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施の形態における反応装置のブロック図である。
図2】第2のヒータの制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態における反応装置10のブロック図である。反応装置10は原料ガスが流通する反応器20を備えている。反応器20は、2つの配管11,14がつながる合流配管17が接続されている。配管11は第1の原料ガスが供給される配管であり、上流から下流へ順に調節弁12、逆止弁13が配置されている。配管14は第2の原料ガスが供給される配管であり、上流から下流へ順に調節弁15、逆止弁16が配置されている。合流配管17には仕切弁18及び流量計19が配置されている。第1及び第2の原料ガスは、それぞれ調節弁12,15を経て最適な混合比に設定され、2つの原料ガスが混ざった混合ガス(原料ガス)は、仕切弁18を経て反応器20に供給される。
【0017】
本実施形態では、第1の原料ガスが水素、第2の原料ガスが二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方である場合を説明する。反応器20は適度な圧力に設定され、CO+4H→CH+2HO、又は、CO+3H→CH+HOの化学反応式で表されるメタン製造(メタネーション)を行う。生成ガスは反応器20の下流に接続された凝縮器25により冷却され、メタンを含むガスと水とに分離される。メタンを含むガスは原料ガスの一部を含み得る。
【0018】
メタネーションは反応器20で起こる化学反応の一例であり、これに限られるものではない。原料ガス、反応条件および触媒(後述する)を適宜選択することにより、例えば以下の化学反応を反応器20で起こすことができる。
【0019】
メタンの部分酸化による合成ガス製造:2CH+O→2CO+4H
メタノール合成:CO+2H→CHOH
メタノール合成:CO+3H→CHOH+H
フィッシャー・トロプシュ合成:CO+2H→-(CH)-+H
-(CH)-は直鎖炭化水素を意味する
ジメチルエーテル合成:2CO+4H→CHOCH+H
アンモニア合成:N+3H→2NH
【0020】
反応器20の中に触媒が配置されている。反応器20の中の触媒が配置された範囲は、反応器20の入口21に近い上流部22と、反応器20の出口23に近い下流部24と、を含む。上流部22と下流部24とは原料ガスが流れる方向に隣接している。触媒は化学反応の活性化エネルギーを下げ、化学反応を進行させやすくする。
【0021】
触媒は、各種の化学反応に適したものが制限なく用いられる。触媒は、担体に粒子が担持された粉末、ペレット又は多孔質構造体が例示される。担体は、アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカ・アルミナ、ゼオライト、リン酸カルシウムの1種以上を含む酸化物の粉末、ペレット又は多孔質構造体が例示される。多孔質構造体は原料ガスが通過できる通気性を有する。また、粉末およびペレットの間の空隙を原料ガスが通過する。担体に担持される粒子は、Fe,Co,Ni,Cu,Ru,Rh,Pd,Ag,Ir,Pt,Auの1種以上を含む金属が例示される。
【0022】
上流部22の触媒活性と下流部24の触媒活性との関係に制限はない。例えば上流部22の触媒活性と下流部24の触媒活性とが等しくなるように触媒を配置しても良いし、上流部22の触媒活性が下流部24の触媒活性より低くなるように触媒を配置しても良い。触媒は、担体および粒子の材料および粒子径が同じであれば、触媒活性は担体が担持する粒子の表面積に比例するので、担体が担持する粒子の表面積を小さくすることにより触媒活性を低くできる。触媒活性を有しない不活性粒子を触媒に混合し、一定量中に含まれる触媒の量を少なくしても触媒活性を低くできる。不活性粒子は、アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカ・アルミナ、ゼオライト、リン酸カルシウムの1種以上を含む酸化物の粉末またはペレットが例示される。
【0023】
下流部24は第1のヒータ26が配置された範囲である。第1のヒータ26は下流部24を加熱する。下流部24の全周に亘って第1のヒータ26を設ける必要はない。円筒状の反応器20のように反応器20の内部に空洞がある場合、空洞の部分に第1のヒータ26を配置することは可能である。
【0024】
上流部22は下流部24の上流側に隣接している。上流部22を加熱する第2のヒータ27が反応器20に配置されている。第2のヒータ27は上流部22の全長に亘って配置されていても良いし、上流部22の全長の一部に配置されていても良い。円筒状の反応器20のように反応器20の内部に空洞がある場合、空洞の部分に第2のヒータ27を配置することは可能である。上流部22の全周に亘って第2のヒータ27を設ける必要はない。
【0025】
第1のヒータ26及び第2のヒータ27に制限はない。第1のヒータ26及び第2のヒータ27は、ガスの燃焼熱や電気で熱源を加熱して上流部22や下流部24を加熱するものや誘導加熱を利用するものが例示される。
【0026】
反応装置10は、上流部22の温度を検知する第1の温度計28、上流部22のうち第1の温度計28が温度を検知する位置よりも下流の温度を検知する第2の温度計29、下流部24の温度を検知する第3の温度計30を含む。温度計28,29,30は熱電対や赤外線サーモグラフィが例示される。温度計28,29,30は触媒の温度を検知しても良いし、生成ガスの温度を検知しても良い。触媒の温度を検知する代わりに、触媒と接触する反応器20の温度を検知しても良い。第3の温度計30が生成ガスの温度を検知する場合には、反応器20の中の生成ガスの温度を検知しても良いし、反応器20の出口23から外に出た生成ガスの温度を検知しても良い。
【0027】
反応装置10は、第1のヒータ26及び第2のヒータ27を制御する制御部31を備えている。制御部31は、CPU,ROM,RAM及びバックアップRAM(いずれも図示せず)を備えている。ROMはCPUが実行するプログラムを記憶する不揮発性メモリである。CPUはROMに記憶されたプログラムに基づいて演算処理を実行する。RAMはCPUの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAMは保存すべきデータ等を記憶する不揮発性メモリである。
【0028】
制御部31には流量計19、ヒータ26,27、温度計28,29,30が接続されている。流量計19は合流配管17を流れる原料ガスの流量を検知し、検知結果を制御部31へ出力する。制御部31は、原料ガスの流れを流量計19が検知し始めてから検知し続けている時間(積算稼働時間)と、流量計19が検知した原料ガスの流量を、原料ガスの流れを検知し続けている期間にわたって合計したもの(積算流量)と、を取得する。積算稼働時間と積算流量は、原料ガスの流れを流量計19が検知し続けている間は増加するが、仕切弁18を閉じたとき等、原料ガスの流れを流量計19が検知しなくなったときにリセットされる。
【0029】
反応器20の入口21から原料ガスが入ると、上流部22、下流部24を順に原料ガスが通過する間に化学反応が進行し、反応器20の出口23から生成ガスが出てくる。反応器20の中で起こる化学反応は発熱を伴うため、反応熱によって触媒は加熱される。温度計28,29,30は触媒の温度を検知し、検知結果を制御部31へ出力する。制御部31は、入力された検知結果に基づいてヒータ26,27を制御する。
【0030】
図1には触媒の上流部22の端からの距離と反応熱によって加熱された触媒の温度との関係が図示されている。図は横軸に上流部22の端からの距離をとり、縦軸に温度をとった、原料ガスの流れ方向における触媒の温度分布である。触媒の温度分布は、上流部22の触媒活性と下流部24の触媒活性とが等しくなるように触媒が配置された反応器20において、上流部22と下流部24の反応場(触媒の集合)の断面の重心に、原料ガスが流れる方向に沿って複数の熱電対を配置して、化学平衡のときに各熱電対が検知した温度を記録した結果に等しい。実線は劣化前の触媒の温度分布であり、破線は劣化後の触媒の温度分布である。
【0031】
大きな発熱を伴う化学反応(例えばメタネーション)では、実線で示すように、合流配管17から反応器20に入った原料ガスと触媒とが出合う上流部22の端付近(入口21付近)における反応の立ち上がりがとても速い。この反応の立ち上がりによって触媒が加熱され、温度が最も高い部分(以下「ホットスポット」と称す)が入口21付近に発生する。反応の生成物は原料ガスの流れに乗って下流へ移動するため、下流部24には反応の生成物が多く存在することになる。下流部24の反応熱はそれほど大きくならないため、実線に示すような温度分布をとる。
【0032】
本実施形態では、第1の温度計28は劣化前の触媒においてホットスポットが発生する位置に配置され、第2の温度計29は劣化前の触媒に発生するホットスポットの位置よりも下流に配置されている。
【0033】
シンタリング等の触媒の劣化は、触媒が高温に晒されるホットスポットを中心に生じやすい。触媒が劣化すると触媒の活性が低下するため、破線で示すように、上流部22の端付近(入口21付近)における反応の立ち上がりが緩やかになり、ホットスポットの位置が下流へ移動する。
【0034】
すなわち上流部22の触媒が劣化すると、第1の温度計28が検知する温度が、触媒の劣化前の温度に比べて低くなるため、制御部31は、触媒が劣化する前の反応器20に原料ガスを流して化学反応が起こっているときに第1の温度計28が検知する温度に関する初期値と、現在の反応器20に原料ガスを流して化学反応が起こっているときに第1の温度計28が検知する温度に関する現在値と、を比較して触媒の劣化を検出できる。温度に関する初期値や温度に関する現在値は、温度そのものだけでなく、触媒が放出した赤外線の量や熱エネルギー、ガスの流量や温度などに基づいて算出される発熱量など、温度に依拠する変数が挙げられる。
【0035】
初期値は、制御部31のROMやRAMに予め格納してあって良い。制御部31に予め格納される初期値は、反応装置10の稼働前の試運転などのときに第1の温度計28が検知した温度に基づいて設定しても良いし、シミュレーションによって予測される第1の温度計28の検知温度を求めて設定しても良い。また初期値は、反応装置10の試運転時や初稼働時などの、現在値を取得する前の時に第1の温度計28が検知した温度に基づいて設定しても良い。制御部31が自動的に初期値を設定しても良い。
【0036】
制御部31は、第1の温度計28が検知する温度に関する初期値と、第1の温度計28が検知する温度に関する現在値と、を比較して、例えば初期値と現在値との差が100℃以上の温度に相当するときに触媒が劣化したと判断できる。触媒が劣化したと判断する基準となる初期値と現在値との差は、原料ガス、反応条件、触媒の種類および目標とする反応効率などに応じて適宜設定される。初期値と現在値との差そのものと閾値(触媒の劣化の基準となる値)とを比較しても良いし、初期値と現在値との差の対数をとったものと閾値とを比較する等、データの形式は適宜設定できる。
【0037】
また、上流部22の触媒が劣化するとホットスポットの位置が下流へ移動するため、これを触媒の劣化の判定に利用することもできる。制御部31は、第1の温度計28が検知する第1の温度に関する第1の値と、第2の温度計29が検知する第2の温度に関する第2の値と、に基づいて触媒の劣化を検出できる。第1の値や第2の値は温度そのものだけでなく、触媒が放出した赤外線の量や熱エネルギー、ガスの流量や温度などに基づいて算出される発熱量など、温度に依拠する変数が挙げられる。
【0038】
制御部31は、第2の温度計29が検知する第2の温度から第1の温度計28が検知する第1の温度を減じた値が、0℃以上の所定の値以上となったときに触媒が劣化したと判断できる。劣化前の触媒において第1の温度計28は、第2の温度計29に比べて触媒の温度が高い部分を検知するように配置されているため、第1の温度は第2の温度よりも高い。従って第2の温度から第1の温度を減じた値が、0℃以上の所定の値以上となったことは、上流部22の触媒が劣化して、第1の温度計28が温度を検知する位置からホットスポットが離れ、第2の温度計29が温度を検知する位置へホットスポットが近づいたことを表しているからである。
【0039】
触媒が劣化したと判断する基準となる所定の値は、原料ガス、反応条件、触媒の種類および目標とする反応効率などに応じて適宜設定される。第1の温度と第2の温度との差そのものと閾値(触媒の劣化の基準となる値)とを比較しても良いし、第1の温度と第2の温度との差の対数をとったものと閾値とを比較する等、データの形式は適宜設定できる。
【0040】
反応器20で生じる反応は発熱反応なので、上流部22で反応が始まれば自発的に反応が進行する。上流部22で反応が始まるためには、例えば300℃以上の温度の触媒に原料ガスが接する必要がある。制御部31は第2のヒータ27を作動して、反応が始まるための熱エネルギーを上流部22の触媒に与える。反応が始まると反応熱によって触媒はさらに加熱され上流部22にホットスポットが発生する。
【0041】
反応開始に必要な熱エネルギーを第2のヒータ27が上流部22に与えた後、制御部31は第2のヒータ27を停止する。第2のヒータ27が作動し続けると、上流部22の触媒の過熱により、逆反応が優先になって反応効率が低下したりシンタリング等の触媒の劣化が促進されたりするからである。上流部22で反応が始まれば第2のヒータ27を停止しても反応は自発的に進行する。第2のヒータ27を停止することにより、反応効率の確保や触媒の劣化の低減ができる。
【0042】
下流部24に配置された第1のヒータ26は下流部24の触媒を加熱し、下流部24における反応速度を確保する。制御部31は、触媒の劣化に伴うホットスポットの移動に関わらず、第3の温度計30が検知する下流部24の温度が所定の範囲(例えば±10℃)になるように第1のヒータ26を作動する。第1のヒータ26による下流部24の温度管理によって生成ガスの品質を安定化できる。
【0043】
図2は制御部31が実行する第2のヒータ27の制御処理を示すフローチャートである。この処理は反応装置10の電源が投入されている間、CPUによって繰り返し実行される処理であり、第2のヒータ27の作動を制御する処理である。
【0044】
CPUは、積算稼働時間、積算流量および第1の温度計28の温度をそれぞれ読み込む(S1,S2,S3)。次いでCPUは、S1-S3の処理で取得した積算稼働時間、積算流量および第1の温度計28の温度と、それらに対応してROMに予め記憶されている閾値(本実施形態では触媒が、反応速度を確保できる状態になっていると判断される限界値)と、をそれぞれ比較して、積算稼働時間、積算流量または第1の温度計28の温度が所定の閾値を超えているか否かを判断する(S4,S5,S6)。
【0045】
その結果、積算稼働時間、積算流量および第1の温度計28の温度の全てが閾値以下の場合にCPUは第2のヒータ27を作動し(S7)、積算稼働時間、積算流量または第1の温度計28の温度が閾値を超える場合にCPUは第2のヒータ27の作動を停止する(S8)。これにより上流部22の触媒の過熱を防ぎ、触媒の劣化を低減すると共に正反応を優先して反応効率を確保する。
【0046】
第2のヒータ27の作動を制御しても、上流部22の触媒は劣化が少しずつ進行するため、ホットスポットの位置が少しずつ下流へ移動する。原料ガスが流れる方向における上流部22の長さL1が、原料ガスが流れる方向における下流部24の長さL2以上に設定されていると、L1<L2の場合に比べ、少しずつ下流へ移動するホットスポットが上流部22の中に位置する期間を長くできる。その結果、反応器20の中の触媒を新しいものに交換する期間(触媒の寿命)を長くできる。
【0047】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0048】
実施形態では、劣化前の触媒においてホットスポットが発生する位置に第1の温度計28が配置され、その下流に第2の温度計29が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1の温度計28及び第2の温度計29は触媒の温度差を検知できる位置に配置されていれば、触媒の劣化に伴うホットスポットの下流への移動を検出できるからである。
【0049】
実施形態では、第1の温度計28の下流に第2の温度計29が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2の温度計29を省くことは当然可能である。第2の温度計29が無くても、第1の温度計28が検知する温度に基づいて触媒の劣化に伴う反応熱の低下を検出できるからである。
【0050】
実施形態では、劣化検出処理において積算流量と積算稼働時間とを読み込む場合について説明したが(S1,S2)、必ずしもこれに限られるものではない。積算流量の読み込みと積算稼働時間の読み込みのいずれかを省くことは当然可能である。積算流量も積算稼働時間も原料ガスが触媒を通過した総流量に依存する変数だからである。
【0051】
実施形態では上流部22を加熱する第2のヒータ27が反応器20に配置される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。反応器20に供給される原料ガスの温度が既に触媒反応に必要な温度に到達している場合は、第2のヒータ27を省いても良い。
【符号の説明】
【0052】
10 反応装置
20 反応器
21 入口
22 上流部
23 出口
24 下流部
26 第1のヒータ
27 第2のヒータ
28 第1の温度計
29 第2の温度計
31 制御部
図1
図2