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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024153967
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】反応装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/12 20060101AFI20241023BHJP
   B01J 8/02 20060101ALI20241023BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20241023BHJP
   C07C 1/04 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C07C1/12
B01J8/02 Z
C07C9/04
C07C1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067506
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋介
(72)【発明者】
【氏名】薮花 優棋
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 翔斗
(72)【発明者】
【氏名】水野 彰人
【テーマコード(参考)】
4G070
4H006
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB04
4G070BB05
4G070CA25
4G070CB17
4G070CC01
4G070DA11
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC29
4H006BD81
4H006BD84
4H006BE20
4H006BE40
4H006BE41
(57)【要約】
【課題】触媒の劣化を精度良く検出できる反応装置を提供する。
【解決手段】反応装置は、二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とを含む原料ガスが流れる反応器と、反応器の中に配置された触媒と、触媒の温度を検知する温度計と、を備え、発熱を伴う化学反応によって生成ガスを得る。反応装置は、触媒の劣化前の反応器に原料ガスを流したときの触媒の温度に関する初期値と、化学反応の開始後の所定のタイミングにおいて温度計によって検知された触媒の温度に関する現在値と、を比較して触媒の劣化を検出する劣化検出部を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とを含む原料ガスが流れる反応器と、前記反応器の中に配置された触媒と、前記触媒の温度を検知する温度計と、を備え、発熱を伴う化学反応によって生成ガスを得る反応装置であって、
前記触媒の劣化前の前記反応器に前記原料ガスを流したときの前記触媒の温度に関する初期値と、前記化学反応の開始後の所定のタイミングにおいて前記温度計によって検知された前記触媒の温度に関する現在値と、を比較して前記触媒の劣化を検出する劣化検出部を備える反応装置。
【請求項2】
前記温度計は、前記触媒の劣化前の前記反応器に前記原料ガスを流したときの反応熱による前記触媒の前記原料ガスの流れ方向の温度分布における、温度が最も高い部分の温度を検知する請求項1記載の反応装置。
【請求項3】
前記劣化検出部は、前記初期値から前記現在値を減じた値が、前記触媒の100℃以上の温度差に相当するときに前記触媒が劣化していると判定する請求項1又は2に記載の反応装置。
【請求項4】
所定の取得開始時点から前記現在値を取得したときまでに前記反応器を流れた前記原料ガスの流量に関する値を取得する取得部を備え、
前記劣化検出部は、前記取得部が取得した前記値と、前記初期値と前記現在値との差と、に基づいて前記触媒の交換時期を予測する請求項1又は2に記載の反応装置。
【請求項5】
二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とを含む原料ガスが流れる反応器と、前記反応器の中に配置された触媒と、前記触媒の温度を検知する第1の温度計と、を備え、発熱を伴う化学反応によって生成ガスを得る反応装置であって、
前記触媒のうち前記第1の温度計が温度を検知する部分よりも前記原料ガスの下流側の部分の温度を検知する第2の温度計と、
前記第1の温度計が検知する第1の温度に関する第1の値と前記第2の温度計が検知する第2の温度に関する第2の値とに基づいて前記触媒の劣化を検出する劣化検出部と、を備える反応装置。
【請求項6】
前記第1の温度計は、前記触媒の劣化前の温度が最も高い部分の温度を検知する請求項5記載の反応装置。
【請求項7】
前記第1の温度計は、前記触媒の劣化前の前記反応器に前記原料ガスを流したときの反応熱による前記触媒の温度分布において、前記第2の温度計が温度を検知する部分に比べ、温度が高い部分の温度を検知し、
前記劣化検出部は、前記第2の温度から前記第1の温度を減じた値が所定の値以上となった場合に前記触媒が劣化していると判定する請求項5又は6に記載の反応装置。
【請求項8】
前記反応器を流れた原料ガスの流量に関する値を取得する取得部を備え、
前記劣化検出部は、前記取得部が取得した前記値、前記第1の値および前記第2の値に基づいて前記触媒の交換時期を予測する請求項5又は6に記載の反応装置。
【請求項9】
前記温度計、又は、前記第1の温度計および前記第2の温度計が温度を検知する部分よりも前記原料ガスの下流側の前記触媒を加熱するヒータを備える請求項1、2、5又は6に記載の反応装置。
【請求項10】
前記反応器の下流側に接続された、前記生成ガスを貯蔵するタンクと、
前記反応器の下流側に接続され前記反応器と前記タンクとの間で分岐する排気管と、
前記タンクと前記排気管との間でガスの流れを切り換える切換装置と、をさらに備え、
前記切換装置は、前記劣化検出部の検出結果に基づいて作動する請求項1、2、5又は6に記載の反応装置。
【請求項11】
前記化学反応は前記原料ガスからメタンを合成する反応である請求項1、2、5又は6に記載の反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発熱を伴う化学反応によって生成ガスを得る反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒が配置された反応器に原料ガスを流し、発熱を伴う化学反応によって生成ガスを得る反応装置では、反応熱によって反応場の温度が上昇すると、シンタリング等の触媒の劣化が生じ易くなる。特許文献1に開示された先行技術では、熱交換によって反応器を加熱する加熱ガスの熱量と、反応器と熱交換した後の加熱ガスの熱量と、に基づいて触媒の寿命を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6897079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術では触媒の寿命の予測値が、触媒と反応器との間の熱伝導の影響、及び、反応器と加熱ガスとの間の熱伝達の影響を受けることになるため、予測精度が低いという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、触媒の劣化を精度良く検出できる反応装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するための第1の態様は、二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とを含む原料ガスが流れる反応器と、反応器の中に配置された触媒と、触媒の温度を検知する温度計と、を備え、発熱を伴う化学反応によって生成ガスを得る反応装置であって、触媒の劣化前の反応器に原料ガスを流したときの触媒の温度に関する初期値と、化学反応の開始後の所定のタイミングにおいて温度計によって検知された触媒の温度に関する現在値と、を比較して触媒の劣化を検出する劣化検出部を備える。
【0007】
第2の態様は、第1の態様において、温度計は、触媒の劣化前の反応器に原料ガスを流したときの反応熱による触媒の原料ガスの流れ方向の温度分布における、温度が最も高い部分の温度を検知する。
【0008】
第3の態様は、第1又は第2の態様において、劣化検出部は、初期値から現在値を減じた値が、触媒の100℃以上の温度差に相当するときに触媒が劣化していると判定する。
【0009】
第4の態様は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、所定の取得開始時点から現在値を取得したときまでに反応器を流れた原料ガスの流量に関する値を取得する取得部を備え、劣化検出部は、取得部が取得した値と、初期値と現在値との差と、に基づいて触媒の交換時期を予測する。
【0010】
第5の態様は、二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方と水素とを含む原料ガスが流れる反応器と、反応器の中に配置された触媒と、触媒の温度を検知する第1の温度計と、を備え、発熱を伴う化学反応によって生成ガスを得る反応装置であって、触媒のうち第1の温度計が温度を検知する部分よりも原料ガスの下流側の部分の温度を検知する第2の温度計と、第1の温度計が検知する第1の温度に関する第1の値と第2の温度計が検知する第2の温度に関する第2の値とに基づいて触媒の劣化を検出する劣化検出部と、を備える。
【0011】
第6の態様は、第5の態様において、第1の温度計は、触媒の劣化前の温度が最も高い部分の温度を検知する。
【0012】
第7の態様は、第5又は第6の態様において、第1の温度計は、触媒の劣化前の反応器に原料ガスを流したときの反応熱による触媒の温度分布において、第2の温度計が温度を検知する部分に比べ、温度が高い部分の温度を検知し、劣化検出部は、第2の温度から第1の温度を減じた値が所定の値以上となった場合に触媒が劣化していると判定する。
【0013】
第8の態様は、第5から第7の態様のいずれかにおいて、反応器を流れた原料ガスの流量に関する値を取得する取得部を備え、劣化検出部は、取得部が取得した値、第1の値および第2の値に基づいて触媒の交換時期を予測する。
【0014】
第9の態様は、第1から第8の態様のいずれかにおいて、温度計、又は、第1の温度計および第2の温度計が温度を検知する部分よりも原料ガスの下流側の触媒を加熱するヒータを備える。
【0015】
第10の態様は、第1から第9の態様のいずれかにおいて、反応器の下流側に接続された、生成ガスを貯蔵するタンクと、反応器の下流側に接続され反応器とタンクとの間で分岐する排気管と、タンクと排気管との間でガスの流れを切り換える切換装置と、をさらに備え、切換装置は、劣化検出部の検出結果に基づいて作動する。
【0016】
第11の態様は、第1から第10の態様のいずれかにおいて、化学反応は原料ガスからメタンを合成する反応である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の反応装置によれば、触媒の劣化前の反応器に原料ガスを流したときの触媒の温度に関する初期値と、化学反応の開始後の所定のタイミングにおいて温度計によって検知された触媒の温度に関する現在値と、が劣化検出部により比較され触媒の劣化が検出される。また反応装置によれば、第1の温度計が検知する第1の温度に関する第1の値と、第1の温度が検知される部分よりも下流側の第2の温度に関する第2の値と、に基づいて劣化検出部により触媒の劣化が検出される。これにより触媒の劣化を精度良く検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施の形態における反応装置のブロック図である。
図2】劣化検出処理を示すフローチャートである。
図3】第2実施の形態における反応装置のブロック図である。
図4】劣化検出処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は第1実施の形態における反応装置10のブロック図である。反応装置10は原料ガスが流通する反応器20を備えている。反応器20の入口21には、2つの配管11,14がつながる合流配管17が接続されている。配管11は第1の原料ガスが供給される配管であり、上流から下流へ順に調節弁12、逆止弁13が配置されている。配管14は第2の原料ガスが供給される配管であり、上流から下流へ順に調節弁15、逆止弁16が配置されている。合流配管17には仕切弁18及び流量計19が配置されている。第1及び第2の原料ガスは、それぞれ調節弁12,15を経て最適な混合比に設定され、2つの原料ガスが混ざった混合ガス(原料ガス)は、仕切弁18を経て反応器20に供給される。
【0020】
第1の原料ガスは二酸化炭素および一酸化炭素の少なくとも一方であり、第2の原料ガスは水素である。反応器20は適度な圧力に設定され、本実施形態ではCO+4H→CH+2HO、又は、CO+3H→CH+HOの化学反応式で表されるメタン製造(メタネーション)を行う。反応器20内の化学反応によって得られた生成ガスは、反応器20の出口22に接続された凝縮器23により冷却され、メタンを含むガスと水とに分離される。メタンを含むガスは原料ガスの一部を含み得る。
【0021】
メタネーションは反応器20で起こる化学反応の一例であり、これに限られるものではない。原料ガス、反応条件および触媒(後述する)を適宜選択することにより、例えば以下の化学反応を反応器20で起こすことができる。
【0022】
メタノール合成:CO+2H→CHOH
メタノール合成:CO+3H→CHOH+H
フィッシャー・トロプシュ合成:CO+2H→-(CH)-+H
-(CH)-は直鎖炭化水素を意味する
ジメチルエーテル合成:2CO+4H→CHOCH+H
【0023】
生成ガスを貯蔵するタンク24が凝縮器23に接続されている。反応装置10は、反応器20の下流とタンク24との間で分岐する排気管25と、タンク24と排気管25との間でガスの流れを切り換える切換装置26と、を備えている。切換装置26により、原料ガスの割合が少ない生成ガスをタンク24に貯蔵し、原料ガスの割合が多い生成ガスを排気管25から反応装置10の系外へ排気できる。これによりタンク24に貯蔵された生成ガスの品質を確保できる。
【0024】
反応器20の中に触媒が配置されている。触媒は化学反応の活性化エネルギーを下げ、化学反応を進行させやすくする。触媒は、各種の化学反応に適したものが制限なく用いられる。触媒は、担体に粒子が担持された粉末、ペレット又は多孔質構造体が例示される。担体は、アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカ・アルミナ、ゼオライト、リン酸カルシウムの1種以上を含む酸化物の粉末、ペレット又は多孔質構造体が例示される。多孔質構造体は原料ガスが通過できる通気性を有する。また、粉末およびペレットの間の空隙を原料ガスが通過する。担体に担持される粒子は、Fe,Co,Ni,Cu,Ru,Rh,Pd,Ag,Ir,Pt,Auの1種以上を含む金属が例示される。
【0025】
反応器20の触媒活性の分布に制限はない。例えば反応器20の全長に亘って触媒活性がほぼ等しくなるように触媒を配置しても良いし、反応器20の上流側の触媒活性が下流側の触媒活性より低くなるように触媒を配置しても良い。触媒は、担体および粒子の材料および粒子径が同じであれば、触媒活性は担体が担持する粒子の表面積に比例するので、担体が担持する粒子の表面積を小さくすることにより触媒活性を低くできる。触媒活性を有しない不活性粒子を触媒に混合し、一定量中に含まれる触媒の量を少なくしても触媒活性を低くできる。不活性粒子は、アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカ・アルミナ、ゼオライト、リン酸カルシウムの1種以上を含む酸化物の粉末またはペレットが例示される。
【0026】
反応器20には触媒の温度を検知する温度計27が配置されている。温度計27は熱電対や赤外線サーモグラフィが例示される。温度計27が温度を検知する部分よりも下流の触媒を加熱するヒータ28が反応器20に配置されている。ヒータ28は、ガスの燃焼熱や電気で熱源を加熱して触媒を加熱するものや誘導加熱を利用するものが例示される。反応器20の全周に亘ってヒータ28を設ける必要はない。円筒状の反応器20のように反応器20の内部に空洞がある場合、空洞の部分にヒータ28を配置することは可能である。
【0027】
反応装置10は、反応器20の出口22付近の温度を検知する第3の温度計29を含む。第3の温度計29は熱電対や赤外線サーモグラフィが例示される。第3の温度計29は触媒の温度を検知しても良いし、生成ガスの温度を検知しても良い。触媒の温度を検知する代わりに、触媒と接触する反応器20の温度を検知しても良い。生成ガスの温度を検知する場合には、反応器20の中の生成ガスの温度を検知しても良いし、反応器20の出口22から外に出た生成ガスの温度を検知しても良い。
【0028】
反応装置10は、触媒の劣化を検出する劣化検出部30を備えている。本実施形態では劣化検出部30はヒータ28の制御も行う。劣化検出部30は、CPU,ROM,RAM及びバックアップRAM(いずれも図示せず)を備えている。ROMはCPUが実行するプログラムを記憶する不揮発性メモリである。CPUはROMに記憶されたプログラムに基づいて演算処理を実行する。RAMはCPUの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAMは保存すべきデータ等を記憶する不揮発性メモリである。
【0029】
劣化検出部30には流量計19、温度計27,29、ヒータ28が接続されている。流量計19は合流配管17を流れる原料ガスの流量を検知し、検知結果を劣化検出部30へ出力する。劣化検出部30は、原料ガスの流れを流量計19が検知し始めてから検知しなくなるまでの時間を、同じ触媒が使われている期間にわたって合計したもの(積算稼働時間)と、流量計19が検知した原料ガスの流量を、同じ触媒が使われている期間にわたって合計したもの(積算流量)と、を取得する。積算稼働時間と積算流量は、同じ触媒が使われている間は増加するが、触媒を交換したときにリセットされる。
【0030】
反応器20の入口21から原料ガスが入ると、触媒の間を原料ガスが通過する間に化学反応が進行し、反応器20の出口22から生成ガスが出てくる。反応器20の中で起こる化学反応は発熱を伴うため、反応熱によって触媒は加熱される。温度計27は触媒の温度を検知し、第3の温度計29は触媒や生成ガスの温度を検知し、検知結果を劣化検出部30へ出力する。劣化検出部30は、入力された検知結果に基づいて触媒の劣化を推定すると共にヒータ28を制御する。
【0031】
ヒータ28は反応器20の出口22付近の触媒を加熱し、反応器20の下流側における反応速度を確保する。劣化検出部30は、第3の温度計29が検知する温度が所定の範囲(例えば±10℃)になるようにヒータ28を作動する。ヒータ28による反応器20の温度管理によって生成ガスの品質を安定化できる。
【0032】
図1には触媒の入口21側の端からの距離と反応熱によって加熱された触媒の温度との関係が図示されている。図は横軸に触媒の端からの距離をとり、縦軸に温度をとった、原料ガスの流れ方向における触媒の温度分布である。触媒の温度分布は、反応器20の全長に亘って触媒活性がほぼ等しくなるように触媒が配置された反応器20において、反応場(触媒の集合)の断面の重心に、原料ガスが流れる方向に沿って複数の熱電対を配置して、化学平衡のときに各熱電対が検知した温度を記録した結果に等しい。実線は劣化前の触媒の温度分布であり、破線は劣化後の触媒の温度分布である(図3においても同じ)。
【0033】
大きな発熱を伴う化学反応では、実線で示すように、合流配管17から反応器20に入った原料ガスと触媒とが出合う入口21付近における反応の立ち上がりがとても速い。この反応の立ち上がりによって触媒が加熱され、温度が最も高い部分(以下「ホットスポット」と称す)が入口21付近に発生する。反応の生成物は原料ガスの流れに乗って下流へ移動するため、出口22の近くには反応の生成物が多く存在することになる。出口22付近の反応熱はそれほど大きくならないため、実線に示すような温度分布をとる。本実施形態では温度計27は、劣化前の触媒において初期値(後述する)が設定されるときにホットスポットが発生する位置の温度を検知するように配置されている。
【0034】
シンタリング等の触媒の劣化は、触媒が高温に晒されるホットスポットを中心に生じやすい。触媒の劣化が進行すると触媒の活性が低下するため、破線で示すように、入口21付近における反応の立ち上がりが緩やかになり、ホットスポットの位置が下流へ移動する。この現象を利用して劣化検出部30は触媒の劣化を検出する。触媒の劣化が進行して劣化が著しいことが劣化検出部30に検出されると、反応装置10の運転員は反応装置10の稼働を停止して触媒を新しいものに交換する。
【0035】
図2は劣化検出部30が実行する劣化検出処理を示すフローチャートである。この処理は反応装置10の電源が投入されている間、CPUによって繰り返し実行される処理であり、触媒の劣化を検出し、また、切換装置26を作動する処理である。切換装置26によって、反応器20の出口22からタンク24へガスが流れるように初期設定されている。
【0036】
CPUは、ROMやバックアップRAMに記憶されている初期値を読み込む(S1)。初期値は、触媒が劣化する前の反応器20に原料ガスを流して化学反応が起こっているときの触媒の温度に関する値である。初期値は、温度そのものだけでなく、触媒が放出した赤外線の量や熱エネルギー、原料ガスの流量や温度などに基づいて算出される発熱量など、温度に依拠する変数が挙げられる。
【0037】
初期値は、ROMやバックアップRAMに予め格納してあって良い。予め格納される初期値は、反応装置10の稼働前の試運転などのときに温度計27が検知した温度に基づいて設定しても良いし、予測される温度計27の検知温度をシミュレーションによって求めて設定しても良い。また初期値は、現在値(後述する)を取得する前の、反応装置10を初めて稼働する時や稼働初期の時に温度計27が検知した温度に基づいて設定しても良い。初期値を劣化検出部30に人が入力しても良いし、温度計27が検知した温度に基づいて劣化検出部30が自動的に初期値を入力しても良い。
【0038】
次いでCPUは、温度計27が検知した触媒の現在の温度、積算流量、積算稼働時間をそれぞれ読み込む(S2,S3,S4)。S3,S4の処理は、CPUの取得部が行う処理に相当する。積算流量は、流量計19が検知した原料ガスの流量を、同じ触媒が使われている期間にわたって合計したものである。積算稼働時間は、原料ガスの流れを流量計19が検知し始めてから検知しなくなるまでの時間を、同じ触媒が使われている期間にわたって合計したものである。積算流量や積算稼働時間の積算の開始時は、触媒の交換後に原料ガスの流れを流量計19が最初に検知したとき、触媒の交換後に反応装置10を初めて稼働したとき、温度に関する初期値を反応装置10の稼働初期に取得したとき、それらの時点に対して所定の時間だけ加算または減算したとき等、適宜設定できる。
【0039】
CPUは現在の温度に関する現在値と初期値とを比較して、初期値から現在値を減じた値が、所定の閾値を超えているか否かを判断する(S5)。温度に関する現在値は、温度そのものだけでなく、触媒が放出した赤外線の量や熱エネルギー、ガスの流量や温度などに基づいて算出される発熱量など、温度に依拠する変数が挙げられる。現在値と初期値との比較を容易にするため、現在値の変数と初期値の変数は同じ種類であるのが好ましい。
【0040】
すなわち触媒が劣化すると、温度計27が検知する温度が、触媒の劣化前の温度に比べて低くなるため(図1)、劣化検出部30は、初期値と現在値とを比較して触媒の劣化を検出する。劣化検出部30は、初期値と現在値とを比較して、例えば初期値と現在値との差が100℃以上の温度に相当するときに触媒が劣化したと判断できる。触媒が劣化したと判断する基準となる初期値と現在値との差(閾値)は、原料ガス、反応条件、触媒の種類および目標とする反応効率などに応じて適宜設定される。なお、初期値と現在値との差そのものを閾値と比較するのではなく、初期値と現在値との差の対数をとってから閾値と比較する等、データの形式を適宜変更しても良い。
【0041】
S5の処理の結果、初期値から現在値を減じた値が閾値以下である場合には(S5:No)、CPUは触媒が劣化していないと判断し、触媒の劣化の程度を予測する(S6)。すなわち積算流量や積算稼働時間が増加するにつれて触媒は劣化が進行し、触媒の寿命は短くなり、初期値と現在値との差は次第に大きくなる。初期値と現在値との差と触媒の寿命とは密接に関わっているので、CPUはS6の処理において、初期値と現在値との差と、積算流量や積算稼働時間と、に基づいて触媒の寿命を予測し触媒の交換時期を予測する。次いでCPUは、予測した触媒の寿命や触媒の交換時期を表示装置(図示せず)に表示する等、反応装置10の運転員に触媒の劣化状況を通知する(S7)。
【0042】
S5の処理の結果、初期値から現在値を減じた値が閾値よりも大きい場合には(S5:Yes)、CPUは触媒の劣化が著しいと判断し、切換装置26を作動して、タンク24へ流れているガスが排気管25へ流れるようにガスの流れを切り換える(S8)。すなわち触媒の劣化が進行すると、活性化エネルギーが大きくなり反応速度が低下するため、生成ガスに占める原料ガスの割合が増加し、生成ガスの品質が低下する。品質が低下した生成ガスを排気管25へ流し、タンク24へ入らないようにすることにより、タンク24に貯蔵された生成ガスの品質を確保できる。次いでCPUは、触媒の寿命が到来したことや触媒を交換する必要があることを表示装置(図示せず)に表示する等、触媒の劣化判定をする(S9)。これにより反応装置10の運転員の注意を喚起する。
【0043】
反応装置10によれば、温度計27が検知する触媒の温度に関する初期値と現在値とに基づいて触媒の劣化を検出するため、熱交換によって反応器を加熱する加熱ガスの熱量と、反応器と熱交換した後の加熱ガスの熱量と、に基づいて触媒の寿命を予測する先行技術に比べ、触媒の劣化を精度良く検出できる。
【0044】
温度計27は、劣化前の触媒において初期値が設定されるときのホットスポットの温度を検知するため、現在値が取得されるときの、初期値と現在値との差を最も大きくできる。従って初期値と現在値とを比較して検出する触媒の劣化の検出精度をさらに向上できる。
【0045】
反応装置10は、初期値が設定されるときのホットスポットの位置よりも下流にヒータ28が配置されているため、ホットスポットが形成される部分の触媒のヒータ28による過熱を防ぐことができる。これによりヒータ28による加熱が、ホットスポットが形成される部分の触媒の劣化を促進しないようにできる。
【0046】
図3及び図4を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施形態では温度計27が検知する触媒の温度に関する初期値と現在値とに基づいて触媒の劣化を検出する場合について説明した。第2実施形態では第1の温度計32と第2の温度計33とが検知する触媒の温度に関する値に基づいて触媒の劣化を検出する場合について説明する。第2実施形態では、第1実施形態で説明した部分と同一の部分に同じ符号を付して以下の説明を省略する。図3は第2実施の形態における反応装置31のブロック図である。
【0047】
反応装置31は、反応器20の触媒の温度を検知する第1の温度計32及び第2の温度計33を含む。第2の温度計33は、第1の温度計32が温度を検知する部分よりも下流の温度を検知する。温度計32,33は、ヒータ28が配置された位置よりも反応器20の上流の触媒の温度を検知する。温度計32,33は熱電対や赤外線サーモグラフィが例示される。
【0048】
第1の温度計32及び第2の温度計33は、原料ガスの流量や触媒の量、触媒活性等によって、検知する温度に差が生じるところに配置されている。本実施形態では、劣化前の触媒の化学平衡のときの反応熱による温度分布において、第1の温度計32が温度を検知する部分は、第2の温度計33が温度を検知する部分に比べ、温度が高くなるように設定されている。特に第1の温度計32は、劣化前の触媒においてホットスポットが発生する位置の温度を検知するように配置されている。
【0049】
図4は劣化検出部30が実行する劣化検出処理を示すフローチャートである。この処理は反応装置10の電源が投入されている間、CPUによって繰り返し実行される処理であり、触媒の劣化を検出し、また、切換装置26を作動する処理である。切換装置26によって、反応器20の出口22からタンク24へガスが流れるように設定されている。
【0050】
CPUは、第1の温度計32が検知した第1の温度、第2の温度計33が検知した第2の温度、積算流量、積算稼働時間をそれぞれ読み込む(S10,S11,S12)。S11,S12の処理は、CPUの取得部が行う処理に相当する。積算流量は、流量計19が検知した原料ガスの流量を、同じ触媒が使われている期間にわたって合計したものである。積算稼働時間は、原料ガスの流れを流量計19が検知し始めてから検知しなくなるまでの時間を、同じ触媒が使われている期間にわたって合計したものである。積算流量や積算稼働時間の積算の開始時は、触媒の交換後に原料ガスの流れを流量計19が最初に検知したとき、触媒の交換後に反応装置10を初めて稼働したとき、それらの時点に対して所定の時間だけ加算したとき等、適宜設定できる。
【0051】
次いでCPUは、第1の温度に関する第1の値と第2の温度に関する第2の値とに基づいて触媒の劣化を検出する。本実施形態では第2の値から第1の値を減じた値が、所定の閾値を超えているか否かを判断する(S13)。第1の値や第2の値は、温度そのものだけでなく、触媒が放出した赤外線の量や熱エネルギー、原料ガスの流量や温度などに基づいて算出される発熱量など、温度に依拠する変数が挙げられる。第1の値と第2の値との比較を容易にするため、第1の値の変数と第2の値の変数は同じ種類であるのが好ましい。
【0052】
すなわち触媒の劣化に伴いホットスポットは下流へ移動するため、触媒の劣化前の温度に比べ、第1の温度計32が検知する第1の温度は低くなり、第2の温度計33が検知する第2の温度は高くなる(図3)。従って劣化検出部30は、第1の温度に関する第1の値と第2の温度に関する第2の値とを比較して触媒の劣化を検出する。劣化検出部30は、第2の値から第1の値を減じた値が、例えば第2の温度から第1の温度を減じた温度が0℃以上の所定の温度に相当する値(閾値)よりも大きいときに、触媒が劣化したと判断できる。触媒が劣化したと判断する基準となる閾値は、原料ガス、反応条件、触媒の種類および目標とする反応効率などに応じて適宜設定される。なお、第1の値と第2の値との差そのものを閾値と比較するのではなく、第1の値と第2の値との差の対数をとってから閾値と比較する等、データの形式を適宜変更しても良い。
【0053】
S13の処理の結果、第2の値から第1の値を減じた値が閾値以下である場合には(S13:No)、CPUは触媒が劣化していないと判断し、触媒の劣化の程度を予測する(S14)。すなわち積算流量や積算稼働時間が増加するにつれて触媒は劣化が進行し、触媒の寿命は短くなり、第1の値と第2の値との差は小さくなり、やがて第2の値は第1の値よりも大きくなる。第2の値から第1の値を減じた値と触媒の寿命との間には強い相関があるので、CPUはS14の処理において、第2の値から第1の値を減じた値と、積算流量や積算稼働時間と、に基づいて触媒の寿命を予測し触媒の交換時期を予測する。次いでCPUは、予測した触媒の寿命や触媒の交換時期を表示装置(図示せず)に表示する等、反応装置31の運転員に触媒の劣化状況を通知する(S15)。
【0054】
S13の処理の結果、第2の値から第1の値を減じた値が閾値よりも大きい場合には(S13:Yes)、CPUは触媒の劣化が著しいと判断し、切換装置26を作動して、タンク24へ流れているガスが排気管25へ流れるようにガスの流れを切り換える(S16)。すなわち触媒の劣化が進行すると、活性化エネルギーが大きくなり反応速度が低下するため、生成ガスに占める原料ガスの割合が増加し、生成ガスの品質が低下する。品質が低下した生成ガスを排気管25へ流し、タンク24へ入らないようにすることにより、タンク24に貯蔵された生成ガスの品質を確保できる。次いでCPUは、触媒の寿命が到来したことや触媒を交換する必要があることを表示装置(図示せず)に表示する等、触媒の劣化判定をする(S17)。これにより反応装置31の運転員の注意を喚起する。
【0055】
以上のとおり反応装置31の劣化検出部30によれば、第1の温度計32が検知する第1の温度に関する第1の値と、第2の温度計33が検知する第2の温度に関する第2の値と、に基づいて触媒の劣化を検出するため、熱交換によって反応器を加熱する加熱ガスの熱量と、加熱ガスが反応器を加熱した後の排ガスの熱量と、に基づいて触媒の寿命を予測する先行技術に比べ、触媒の劣化を精度良く検出できる。
【0056】
第1の温度計32は、劣化前の触媒におけるホットスポットの温度を検知するため、触媒の劣化が進行すると、劣化前の触媒の温度に比べ、第1の温度は次第に低くなり、第2の温度は次第に高くなる。触媒の劣化が進行するときの、第1の温度と第2の温度との差の変化を最も大きくできるため、第1の値と第2の値とを比較して検出する触媒の劣化の検出精度をさらに向上できる。
【0057】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0058】
第1実施形態では、劣化前の触媒においてホットスポットが発生する位置に温度計27が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。温度計27は触媒の劣化に伴う温度変化を検知できる位置に配置されていれば、劣化検出部30が触媒の劣化を検出できるからである。
【0059】
第2実施形態では、劣化前の触媒においてホットスポットが発生する位置に第1の温度計32が配置され、その下流に第2の温度計33が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1の温度計32及び第2の温度計33は触媒の温度差を検知できる位置に配置されていれば、触媒の劣化に伴うホットスポットの下流への移動を検出できるからである。
【0060】
実施形態では、劣化検出処理において積算流量と積算稼働時間とを読み込む場合について説明したが(S3,S4,S11,S12)、必ずしもこれに限られるものではない。積算流量の読み込みと積算稼働時間の読み込みのいずれかを省くことは当然可能である。積算流量も積算稼働時間も原料ガスが触媒を通過した総流量に依存する変数だからである。
【0061】
実施形態では説明を省略したが、反応器20の入口21付近の触媒を加熱するヒータを配置することは当然可能である。反応器20で生じる反応は発熱反応なので、反応器20の入口21付近で反応が始まれば自発的に反応が進行する。入口21付近で反応が始まるためには、例えば300℃以上の温度の触媒に原料ガスが接する必要があるからである。入口21付近のヒータを作動して、反応が始まるための熱エネルギーを触媒に与え、反応が始まったらヒータの作動を停止するのが好ましい。ヒータが作動し続けると、入口21付近の触媒の過熱により、逆反応が優先になって反応効率が低下したりシンタリング等の触媒の劣化が促進されたりするからである。
【符号の説明】
【0062】
10,31 反応装置
20 反応器
24 タンク
25 排気管
26 切換装置
27 温度計
28 ヒータ
30 劣化検出部
32 第1の温度計
33 第2の温度計
図1
図2
図3
図4