(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154001
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】マスク用フィルタ基材、および、当該マスク用フィルタ基材を備えたマスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20241023BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
B32B5/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067567
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白武 拓磨
【テーマコード(参考)】
3B211
4F100
【Fターム(参考)】
3B211CC03
3B211CC05
3B211CE01
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AT00
4F100BA03
4F100BA13
4F100BA26
4F100DG15A
4F100DG15B
4F100DG15C
4F100EC032
4F100GB56
4F100GB71
4F100JD02A
4F100JD02B
4F100JD02C
(57)【要約】
【課題】
血液バリア性に富むマスクを実現可能なマスク用フィルタ基材、および、当該マスク用フィルタ基材を備えた血液バリア性に富むマスクの提供を目的とする。
【解決手段】
本願出願人は、繊維層Aと繊維層Bそして繊維層Cを備えており、前記繊維層A-前記繊維層B-前記繊維層Cの順に積層することで形成されている、マスク用フィルタ基材について検討を続けた。そして、検討の結果、当該マスク用フィルタ基材を備えてなるマスクにおいて、前記繊維層A-前記繊維層B-前記繊維層Cの順に通気度が低減しているときに、当該マスク用フィルタ基材の血液バリア性が向上して、血液バリア性に富むマスクを提供できることを見出した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維層Aと繊維層Bそして繊維層Cを備えた、マスク用フィルタ基材であって、
前記繊維層A-前記繊維層B-前記繊維層Cの順に積層することで形成されており、
前記繊維層A-前記繊維層B-前記繊維層Cの順に通気度が低減している、
マスク用フィルタ基材。
【請求項2】
請求項1に記載のマスク用フィルタ基材を備える、マスク。
【請求項3】
最外層に融着部分を有する、請求項2に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク用フィルタ基材、および、当該マスク用フィルタ基材を備えたマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、塵埃の捕集効果に優れるマスクが求められている。そして、当該要望をかなえるマスクを提供できるよう、マスクが備えるフィルタ基材(以降、マスク用フィルタ基材と称することがある)の構成が検討されてきた。
【0003】
例えば、特開2010-94503(特許文献1)には実施例7および実施例8として、マスクを構成している際の最外層側(人がマスクを着用した際の、顔面から離れた側)から最内層側(人がマスクを着用した際の、顔面側)へ向かい、スパンボンド不織布-水流絡合不織布-コロナ帯電させたメルトブロー不織布の順に積層することで形成された、マスク用フィルタ基材を備えるマスクが開示されている。そして、当該マスクは、塵埃の捕集効果に優れるものであったことが開示されている。
【0004】
なお、特許文献1にかかる発明は、マスク用フィルタ基材やマスク用フィルタ基材を構成する各々の繊維層の通気度について検討した発明ではなく、特許文献1中には各々の繊維層の通気度について開示または示唆は成されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
更に、近年ではマスク着用者の感染症予防効果を向上できるよう、マスクに血液バリア性が求められている。なお、マスクの血液バリア性は、血液を模した人工血液がマスクを構成しているマスク用フィルタ基材を透過するか否かで評価可能である。
【0007】
本願出願人は、従来技術にかかるマスクの血液バリア性を把握するため、一例として、上述したマスクと同等の構成を備えたマスク(マスクを構成している際の最外層側から最内層側へ向かい、スパンボンド不織布-水流絡合不織布-帯電させたメルトブロー不織布の順に積層することで形成された、マスク用フィルタ基材を備えるマスク)を調製した。そして、当該調製したマスクの最外層側へ人工血液を付着させ、マスクが発揮する血液バリア性を評価した。しかし評価の結果、マスクの最外層側に付着した人工血液がマスク用フィルタ基材を透過して、マスク最内層側に染み出て来易いものであった。
【0008】
そのため、従来技術にかかるマスクは、血液バリア性が十分なものでは無いという問題を有しているものであった。
【0009】
本発明では、血液バリア性に富むマスクを実現可能なマスク用フィルタ基材、および、当該マスク用フィルタ基材を備えた血液バリア性に富むマスクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
「(請求項1)繊維層Aと繊維層Bそして繊維層Cを備えた、マスク用フィルタ基材であって、
前記繊維層A-前記繊維層B-前記繊維層Cの順に積層することで形成されており、
前記繊維層A-前記繊維層B-前記繊維層Cの順に通気度が低減している、
マスク用フィルタ基材。
(請求項2)請求項1に記載のマスク用フィルタ基材を備える、マスク。
(請求項3)最外層に融着部分を有する、請求項2に記載のマスク。」
である。
【発明の効果】
【0011】
本願出願人は、繊維層Aと繊維層Bそして繊維層Cを備えており、前記繊維層A-前記繊維層B-前記繊維層Cの順に積層することで形成されている、マスク用フィルタ基材について検討を続けた。そして、検討の結果、当該マスク用フィルタ基材を備えてなるマスクにおいて、前記繊維層A-前記繊維層B-前記繊維層Cの順に通気度が低減しているときに、当該マスク用フィルタ基材の血液バリア性が向上して、血液バリア性に富むマスクを提供できることを見出した。
【0012】
本構成によって血液バリア性が向上する理由は完全には明らかにできていないが、次の効果が発揮されるためだと考えられる。
【0013】
マスク用フィルタ基材を構成する繊維層Aと繊維層Bそして繊維層Cは、通気度が順に低減するように積層していることによって、当該積層構造を有するマスク用フィルタ基材を備えたマスクの最外層側に付着した血液は、マスク用フィルタ基材の厚み方向と垂直を成す面方向へ拡散し易くなると考えられる。
その結果、本発明にかかるマスク用フィルタ基材を用いることで、マスクの最外層側に付着した血液が、マスク用フィルタ基材の面方向へ拡散して、マスク用フィルタ基材を透過し難くなると考えられる。
【0014】
以上から、本発明にかかるマスク用フィルタ基材によって、血液バリア性に富むマスクを提供できる。
【0015】
また、本発明にかかるマスク用フィルタ基材を備えたマスクが最外層に融着部分を有する場合には、マスクはその厚み方向に対する形態安定性が向上したものとなる。そのため、マスクの最外層側に血液が付着した際に、マスクがその厚み方向へ意図せず潰れ難い。
その結果、マスクの最外層側に血液が付着した際に、マスクがその厚み方向(マスク用フィルタ基材の厚み方向)へ意図せず潰れることに起因した、血液のマスク透過が抑制されていると考えられる。
以上から、本発明にかかるマスクは、血液バリア性に富む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明にかかるマスク用フィルタ基材を備えたマスクの、模式断面図である。なお、本図では、マスクが備える耳掛け部材の図示を省略している。
【
図2】本発明にかかるマスク用フィルタ基材を備えたマスクを、その最外層側から見た模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本願発明で説明する各種測定は特に記載や規定のない限り、常圧のもと温度20℃湿度65RH%条件下で測定を行う。そして、本願発明で説明する各種測定結果は特に記載や規定のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出する。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とする。また、本願発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0018】
本発明にかかるマスク用フィルタ基材の構成について、本発明にかかるマスク用フィルタ基材を備えたマスクの、模式断面図である
図1を用いて説明する。
【0019】
本発明にかかるマスク用フィルタ基材(10)は、繊維層A(A)と繊維層B(B)そして繊維層C(C)を備えている。そして、マスク用フィルタ基材(10)は、繊維層A(A)-繊維層B(B)-繊維層C(C)の順に積層することで形成されている。なお、
図1に図示されているマスク(20)が備えるマスク用フィルタ基材(10)では、マスク(20)を構成している際の最外層側から最内層側へ向かい、繊維層A(A)-繊維層B(B)-繊維層C(C)の順に積層することで形成されている態様を例示している。そして、マスク用フィルタ基材(10)におけるマスクを構成している際の最外層側は、人がマスクを着用した際の顔面から離れた側であって、マスク用フィルタ基材(10)における紙面上Oを付している側である。また、マスク用フィルタ基材(10)におけるマスクを構成している際の最内層側は、人がマスクを着用した際の顔面側であって、マスク用フィルタ基材(10)における紙面上Iを付している側である。
【0020】
なお、
図1では、一方向に突出したカップ型の通気性補強材(11)における一方向に突出している側の主面上に、マスク用フィルタ基材(10)における最内層側(繊維層C(C)側)が当該主面と面するようにして重ね合わされて、カップ形状のマスク本体部(12)が構成されている態様を例示している。そして、当該マスク本体部(12)の左右両端に耳掛け部材(
図1では図示せず)を設けることで、本発明にかかる一実施態様のマスク(20)が構成されている。
【0021】
本発明にかかる繊維層Aと繊維層Bおよび繊維層C(以降、併せて各繊維層と称することがある)は、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物など由来のシート形状を有する繊維集合体由来の層である。血液バリア性に富むマスクを実現可能なマスク用フィルタ基材、および、当該マスク用フィルタ基材を備えた血液バリア性に富むマスクを提供できるよう、各繊維層は繊維ウェブまたは不織布由来の繊維層であるのが好ましい。
【0022】
各繊維層の構成繊維は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、ニトリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、酢酸ビニルやアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を用いて構成できる。特に、各繊維層が疎水性となることによって、マスク用フィルタ基材の厚み方向と垂直を成す面方向へ血液が拡散し易くなるよう、各繊維層は構成繊維にポリオレフィン系樹脂を含んでいるのが好ましく、各繊維層の構成繊維はポリオレフィン系樹脂で構成されているのが好ましい。なお、構成繊維がポリオレフィン系樹脂繊維である繊維層は、構成繊維がポリエチレンテレフタレート繊維である繊維層よりも、疎水性に富むものとなる。
【0023】
これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。
【0024】
構成繊維は、一種類の樹脂から構成されてなるものでも、複数種類の樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。更には、構成繊維は多成分の樹脂を混ぜ合わせて紡糸されてなる繊維でも良い。
【0025】
また、構成繊維は、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維は、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。
【0026】
なお、構成繊維は顔料を練り込み構成されてなる、あるいは、着色されてなる原着繊維(例えば、薄いオレンジ色の原着繊維など)であってもよい。
【0027】
構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0028】
各繊維層は、例えば、上述の繊維をカード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせる乾式法、繊維を溶媒に分散させシート状に抄き繊維を絡み合わせる湿式法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集する方法、などによって調製した繊維ウェブを用いて形成できる。
【0029】
あるいは、調製した繊維ウェブの構成繊維を絡合および/または一体化させて不織布を調製し、調製した不織布を用いて形成してもよい。繊維ウェブの構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維ウェブを加熱処理へ供するなどしてバインダあるいは構成繊維に熱融着性繊維が含まれている場合には当該熱融着性繊維によって構成繊維同士を接着一体化させる方法などを挙げることができる。
【0030】
加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている樹脂を加熱する方法などを用いることができる。
【0031】
また、使用可能なバインダとして、各繊維層の構成繊維を調製できるとして挙げた各種樹脂を用いることができる。バインダの目付は1~200g/m2であることができ、5~100g/m2であることができ、10~50g/m2であることができる。
【0032】
各繊維層は油剤(例えば、親水性油剤)を含んでいても、含んでいなくとも良い。しかし、疎水性に富む繊維層Bを備えていることでより血液バリア性が向上したマスク用フィルタ基材を提供できるよう、繊維層Bは親水性油剤を備えていない、あるいは、親水性油剤を備える量が少ない繊維層Bであるのが好ましい。
【0033】
各繊維層が構成繊維として熱融着性繊維を含んでいる場合には、繊維同士を熱融着することによって、マスク用フィルタ基材を備えたマスクに形態安定性を付与できる。その結果、マスクの最外層側に血液が付着した際に、マスクの厚み(マスク用フィルタ基材の厚み)が意図せず潰れることに起因して、血液がマスクを透過することが抑制でき好ましい。このような熱融着性繊維は、全融着型の熱融着性繊維であっても良いし、上述した複合繊維のような態様の一部融着型の熱融着性繊維であっても良い。熱融着性繊維における熱融着性を発揮する成分として、例えば、ポリエチレンなどの低融点ポリオレフィン系樹脂や、低融点ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂を採用できる。
【0034】
各繊維層を構成する繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、形態安定性が向上したマスクを提供可能なマスク用フィルタ基材となるように、0.1μm以上であることができ、1μm以上であることができ、3μm以上であることができ、5μm以上であることができる。他方、濾過性能に優れたマスク用フィルタ基材であるように、100μm以下であることができ、50μm以下であることができ、30μm以下であることができる。
【0035】
また、各繊維層を構成する繊維の繊維長も特に限定するものではないが、特定のカット長を有している繊維(以降、短繊維と称することがある)や特定のカット長を有していない繊維(以降、連続繊維と称することがある)を採用できる。例えば、短繊維として、5mm以上の繊維長を有するようカットされた繊維を採用でき、20mm以上の繊維長を有するようカットされた繊維を採用でき、50mm以上の繊維長を有するようカットされた繊維を採用でき、60mm以上の繊維長を有するようカットされた繊維を採用できる。繊維長の上限も適宜調整できるが、160mm以下であることができ、110mm以下であることができ、80mm以下であることができる。なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c)直接法(C法)に則って測定した値をいう。
【0036】
特に、繊維層Bは短繊維で構成された繊維層であるのが好ましく、繊維層Aおよび繊維層Cは連続繊維で構成された繊維層であるのが好ましい。このような各繊維層を採用することで、血液バリア性が向上したマスク用フィルタ基材を提供し易くなる傾向がある。この理由は完全には明らかにできていないが、次の効果が発揮されるためだと考えられる。
【0037】
繊維層Bが短繊維で構成された繊維層である場合(例えば、水流絡合不織布、ニードルパンチ不織布などの不織布由来の繊維層である場合)、当該繊維層Bは開繊工程や絡合工程(水流絡合処理、ニードルパンチ処理)などを経て製造されたことで、厚み方向に繊維が配向した繊維層となり易い。その結果、厚み方向に潰れにくい性質を有する繊維層Bを実現できる。
【0038】
そのため、繊維層Bが短繊維で構成された繊維層であることによって、厚み方向へ意図せず潰れ難いマスクを提供可能なマスク用フィルタ基材を提供できる。
【0039】
繊維層Aおよび繊維層Cは連続繊維で構成された繊維層である場合(例えば、繊維層Aがスパンボンド不織布由来の繊維層であり、繊維層Cがメルトブロー不織布由来の繊維層である場合)、当該繊維層Aおよび繊維層Cは紡糸された繊維が捕集体に捕集されるなどして堆積する工程を経て製造されたことで、その厚み方向と垂直を成す面方向に繊維が配向した繊維層となり易い。その結果、面方向に配向した繊維からなる主面を有する繊維層Aおよび繊維層Cを実現できる。
【0040】
そのため、繊維層Aおよび繊維層Cが連続繊維で構成された繊維層であることによって、マスクの最外層側に付着した血液が、マスク用フィルタ基材の厚み方向と垂直を成す面方向へ拡散し易く、また、マスク用フィルタ基材の厚み方向へ浸透し難いマスクを提供可能なマスク用フィルタ基材を提供できる。
【0041】
加えて、繊維層Cが繊維密度の高い繊維層であると、塵埃の捕集効果に優れるマスクを提供可能なマスク用フィルタ基材を実現できる。
【0042】
特に、厚み方向に潰れにくいという繊維層Bの性質、および、血液が面方向へ拡散し易く厚み方向へ浸透し難いという繊維層Aおよび繊維層Cの性質は、短繊維で構成された繊維層である繊維層Bにおける一方の主面に、連続繊維で構成された繊維層である繊維層Aが積層しており、当該繊維層Bにおけるもう一方の主面に、連続繊維で構成された繊維層である繊維層Cが積層しているマスク用フィルタ基材において、最も効果的に発揮され易い。
【0043】
本発明にかかるマスク用フィルタ基材が上述の構成を備える態様であることによって、更に、血液バリア性に富むマスクを実現可能なマスク用フィルタ基材、および、当該マスク用フィルタ基材を備えた血液バリア性に富むマスクを実現でき好ましい。
【0044】
各繊維層の、例えば、厚み、目付などの諸構成は、特に限定されるべきものではなく適宜調整する。
【0045】
各繊維層の厚みは、0.05~5mmであることができ、0.1~3mmであることができ、0.15~1mmであることがでる。なお、本発明において各繊維層の厚みは、各繊維層ごとに主面上に2KPaの加重をかけた際の、各繊維層における対向する表裏面間の長さをいう。
【0046】
また、各繊維層の目付は、例えば、10~300g/m2であることができ、15~200g/m2であることができ、20~100g/m2であることができる。なお、本発明において目付とは、測定対象物の最も広い面積を有する面(主面)における1m2あたりの質量をいう。
【0047】
各繊維層は帯電していても良い。帯電の種類は適宜選択できるが、コロナ帯電を用いる方法(コロナ帯電処理)、構成繊維に極性液体を接触させ外力を作用させることで帯電する方法(液体帯電処理)、樹脂種類の異なる構成繊維同士を擦り合せて帯電する方法(摩擦帯電処理)などを採用できる。特に、主としてフィルタ性能を発揮する繊維層Cが帯電していると、塵埃の捕集効果に優れるマスクを提供可能なマスク用フィルタ基材を実現でき好ましい。この時、液体帯電処理によって帯電された繊維層Cである場合には、塵埃の捕集効果に優れるマスクを提供可能であると共に、より血液バリア性が向上したマスク用フィルタ基材を提供でき好ましい。
【0048】
本発明にかかるマスク用フィルタ基材は、繊維層Aと繊維層Bそして繊維層Cを備えている。そして、マスク用フィルタ基材は、繊維層A-繊維層B-繊維層Cの順に積層することで形成されている。なお、
図1に図示されているマスクが備えるマスク用フィルタ基材では、マスクを構成している際の最外層側から最内層側へ向かい、繊維層A-繊維層B-繊維層Cの順に積層することで形成されている。そして、このとき繊維層A-繊維層B-繊維層Cの順に通気度が低減していることを特徴としている。
【0049】
各繊維層の通気度は上述の構成を満足する限り適宜調整できる。例えば、繊維層Aの通気度は200~500cm3/cm2・sec.であることができ、300~400cm3/cm2・sec.であることができる。また、繊維層Bの通気度は、50~300cm3/cm2・sec.であることができ、100~250cm3/cm2・sec.であることができる。そして、繊維層Cの通気度は、10~100cm3/cm2・sec.であることができ、20~50cm3/cm2・sec.であることができる。
【0050】
なお、マスク用フィルタ基材から採取した各繊維層を用いて試験片(正方形形状、一辺150mm)を各々用意し、これをJIS L1913:2010「一般不織布試験方法」に規定される6.8.1(フラジール形法)へ供することで、各繊維層の通気度を測定し求めることができる。
【0051】
なお、一辺150mmの正方形形状の試験片を用意できない場合には、以下のようにして各繊維層の通気度を求めることができる。
【0052】
中央に試験片で覆うことができる大きさの真円形状の開口(例えば、直径50mmの真円形状)を有する、一辺150mmの正方形形状の平板を2枚用意する。次いで、間に試験片(一辺150mmの正方形形状よりも小さい)が挟み込まれた状態で当該平板を揃えて積層することで、当該開口を試験片がふさいだ状態とする。このようにして調製した、試験片を挟み込んだ平板を、試験片として6.8.1(フラジール形法)へ供することで、各繊維層の通気度を測定する。
そして、積層した平板が有する開口面積において測定された通気度を、6.8.1(フラジール形法)に使用したフラジール形試験機における通気度の測定時に空気が一辺150mmの正方形形状の大きさの試験片を通気する面積において測定されるであろう通気度に換算することで、各繊維層の通気度を求めることができる。
【0053】
具体例として、積層した平板が有する開口面積が、6.8.1(フラジール形法)に使用したフラジール形試験機における通気度の測定時に空気が一辺150mmの正方形形状の試験片を通気する面積の1/10であったとする。そして、積層した平板が有する開口面積において測定され求められた通気度が100cm3/cm2・sec.であったとする。
この時、6.8.1(フラジール形法)に使用したフラジール形試験機における通気度の測定時に空気が一辺150mmの正方形形状の試験片を通気する際に測定されるであろう通気度は、10倍になると換算できる。そして換算した結果から、試験片(一辺150mmの正方形形状よりも小さい)が有する通気度は1000cm3/cm2・sec.であると求めることができる。
【0054】
本発明にかかるマスクは、マスク用フィルタ基材単体でマスク本体部を構成することができる。しかし、剛性に優れるマスクを実現できるよう、マスク用フィルタ基材の最内層側に別途用意した通気性補強材(シート形状を有する繊維集合体、多孔フィルムなど)を備えたマスクであっても良い。
【0055】
また、濾過性能に優れるマスクを実現できるよう、マスク用フィルタ基材の最外層側に別途用意したプレフィルター層(シート形状を有する繊維集合体、多孔フィルムなど)や、最内層側に別途用意したバックアップフィルター層(例えば、摩擦帯電不織布)を備えたマスクであってもよい。
【0056】
各繊維層、あるいは、マスク用フィルタ基材と通気性補強材やプレフィルターあるいはバックアップフィルターの積層方法は適宜調整できる。マスクの最外層側に血液が付着した際に、マスク用フィルタ基材の面方向へ拡散し易いマスクを提供できるよう、各層の主面同士が繊維接着やバインダによって接着することなく、ただ積層しているのが好ましい。なお、この時各層の輪郭部分や主面上の融着部分(
図2の14)は、互いに溶着していてもよい。
【0057】
本発明にかかるマスク用フィルタ基材を備えたマスクを、その最外層側から見た模式平面図である、
図2を用いて、本発明にかかるマスクを説明する。
【0058】
本発明にかかるマスク用フィルタ基材を用いて調製された、カップ形状のマスク本体部(12)の左右両端に耳掛け部材(13)を設けることで、マスク(20)を調製できる。
【0059】
本発明にかかるマスク用フィルタ基材を備えたマスク(20)では、より血液バリア性に富むマスク(20)を提供できるよう、マスク(20)は最外層に露出する主面上に融着部分(14)を有するのが好ましい。当該融着部分(14)を有するマスク(20)であることによって厚み方向に対する形態安定性が向上している。その結果、マスク(20)の最外層側に血液が付着した際に、マスクがその厚み方向(マスク用フィルタ基材がその厚み方向)へ意図せず潰れることが防止されており、血液がマスク(20)を透過することが抑制される。
【0060】
マスク(20)の最外層に設けられた融着部分(14)の形状や大きさは適宜調整できるが、人がマスク(20)を着用した際の最外層側の頂点部分(15)を通過する直線あるいは曲線のように、マスク(20)の最外層に露出する主面上に融着部分(14)が形成されているのが好ましい。具体的には、マスク(20)の最外層に露出する主面上において、その左右両端に設けられた耳掛け部材(13)と最外層側の頂点部分(15)を通過する最も長い直線あるいは曲線を描くようにして、マスク(20)の最外層に露出する主面上に、融着部分(14)が設けられているのが好ましい。
【0061】
当該融着部分(14)の形成方法は適宜選択できるが、超音波溶着やヒートシールによって、マスク(20)の構成部材を溶融させ線状を成す融着部分(14)を形成できる。
【実施例0062】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0063】
(スパンボンド不織布aの用意)
ポリプロピレンで構成されたスパンボンド不織布a(目付:20g/m2、厚み:0.17mm、通気度:360cm3/cm2・sec.、平均繊維径:21μm、構成繊維:連続繊維)を用意した。
【0064】
(水流絡合不織布aの用意)
ポリプロピレン繊維(平均繊維径:17.5μm、繊維長:51mm)をカード機によって開繊して繊維ウエブを形成した。
次いで、繊維ウェブの一方の主面側からもう一方の主面側へ向け水流絡合処理(水圧:3MPa、工程搬送速度:5m/min)を施した。その後、同条件で再度、ウェブのもう一方の主面側から一方の主面側へ向け水流絡合処理(水圧:3MPa、工程搬送速度:5m/min)を施し、構成繊維同士を絡合した。
その後、水流絡合処理を施した繊維ウェブをオーブンドライヤー(加熱温度:80℃)へ供することで、繊維ウェブ中に含まれている水を除去して、水流絡合不織布a(目付:50g/m2、厚み:0.48mm、通気度:210cm3/cm2・sec.、平均繊維径:17.5μm、平均繊維長:51mm、構成繊維:短繊維)を調製した。
【0065】
(帯電したメルトブロー不織布aの用意)
体積固有抵抗値が1016程度(Ω・cm)である市販のポリプロピレン(株式会社プライムポリマー社製、プライムポリプロ)に対して、市販のヒンダードアミン系光安定剤(BASFジャパン株式会社製、CHIMASSORB 944FDL)を全体の4mass%混合して紡糸用樹脂を調製した。このようにして調製した紡糸用樹脂をメルトブロー法へ供することにより紡糸し、紡糸された繊維を平坦な捕集体上に堆積させ捕集することで、当該ヒンダードアミン系光安定剤を含有したポリプロピレンで構成されたメルトブロー不織布を調製した。
得られたメルトブロー不織布を、極性液体として電気伝導度が3.2(μS/cm)、温度が20±5℃の範囲に保たれた純水(蒸留、イオン交換を経た二次蒸留水に相当)が保持された浴槽内に搬送し、純水を担持させると共に周波数20kHzの超音波を作用させた。
次いで、超音波を作用させたメルトブロー不織布を、加熱温度が105℃に調整されたコンベヤ式ドライヤーへ供することで乾燥し、帯電したメルトブロー不織布a(目付:45g/m2、厚み:0.60mm、通気度:32cm3/cm2・sec.、主な繊維径分布:1~10μm、平均繊維径:4.0μm、構成繊維:連続繊維)を調製した。
【0066】
(実施例1、比較例1~2)
以上のようにして調製したスパンボンド不織布aと水流絡合不織布aおよび帯電したメルトブロー不織布aを、表1に記載の積層順番(繊維層A-繊維層B-繊維層Cの積層順番)となるように、ただ重ね合わせて積層体を調製した。このようにして調製した積層体を、各々マスク用フィルタ基材(いずれも、目付:115g/m2、厚み:1.25mm)とした。
【0067】
なお、以降の表中の記載において、「SB」はスパンボンド不織布を意味しており、「HE」は水流絡合不織布を意味しており、「MB」は液体帯電処理を施したメルトブロー不織布を意味している。
【0068】
【0069】
(通気性補強材)
ポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維(繊度20dtex、繊維長102mm)30%、ポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維(繊度6.6dtex、繊維長102mm)65%、ポリエチレン-ポリエチレン酢酸ビニル共重合体/ポリプロピレン複合繊維(繊度3.3dtex、繊維長64mm)5%を混合した後、カード機によって85g/m2の繊維ウェブを作製した。
このようにして調製した繊維ウェブを一方向に突出したカップ型となるよう成形加工および打ち抜きし、通気性を有する通気性補強材(通気度:150cm3/cm2・sec.、構成繊維:短繊維)とした。
【0070】
(耳掛け部材)
長さ17cmのポリエステル繊維とポリウレタン繊維からなるマスクヒモ(断面:幅3mm、厚み1.5mmの長方形状)を用意した。また、マスクヒモを保持可能なプラスチック板を用意した。マスクヒモを当該プラスチック板に保持させて耳掛け部材とした。
【0071】
(マスクの調製方法)
通気性補強材における一方向に突出している側の主面上に、マスク用フィルタ基材における繊維層Cが当該主面と面するようにして、マスク用フィルタ基材をただ重ね合わせた。その後、超音波溶着装置を用いてマスク用フィルタ基材と通気性補強材双方の全外周を合わせて溶断すると共に一体化することで、カップ形状のマスク本体部を調製した。なお、調製されたマスクが備えるマスク用フィルタ基材は、その最外層側から最内層側へ向かい、繊維層A-繊維層B-繊維層Cの順に積層することで形成されているものであった。
次いで、人がマスクを着用する態様を想定した際の最外層側に露出する主面上において、マスク本体部の左右両端と最外層側の頂点部分を最短で通過する曲線を描くようにして、マスクの最外層に露出する主面上に、超音波溶着装置を作用させた。この処理によって、マスク本体部の最外層において超音波溶着装置を作用させた部分に、直線形状の融着部分を設けた。
その後、マスク本体部の最外層における、マスク本体部の左右両端にマスクヒモを保持させたプラスチック板を固定して、マスクを調製した。
【0072】
以上のようにして調製した、実施例1および比較例1~2で調製したマスク用フィルタ基材を備えるマスクを、以下の測定へ供した。そして、マスクが発揮する血液バリア性を評価した。
【0073】
(血液バリア性の評価方法)
JIS T 9001「医療用及び一般用マスクの性能要件及び試験方法」の試験方法において、試験圧力16.0kPa(120mmHg)の条件を用いて、マスクが発揮する血液バリア性を評価した。なお、評価試験を行うにあたり、人工血液はマスクの最外層である露出する主面上(繊維層Aが露出している主面上)における、当該最外層側の頂点部分へ付着させた。
【0074】
このようにしてマスクの最外層側の頂点部分へ人工血液を付着させた後、速やかにマスクからマスク用フィルタ基材を取り出した。そして、取り出したマスク用フィルタ基材における、マスクを構成している際の最内層側の主面(繊維層Cにおける最内層側の主面)を目視で観察することで、人工血液がマスク用フィルタ基材を透過しているか否かを確認した。同様にして、合計32個のマスクについて、人工血液がマスク用フィルタ基材を透過しているか否かを確認した。なお、人工血液がマスク用フィルタ基材を透過したマスクの数が少ないほど、血液バリア性に富むマスクを実現可能なマスク用フィルタ基材であることを意味する。
【0075】
マスクが発揮する血液バリア性の評価方法結果を、表2にまとめた。具体的には、人工血液のマスク用フィルタ基材への透過(繊維層Cにおける最内層側の主面へ人工血液の染み出しがある)が、合計32個のマスクに対する測定結果の内いずれのマスクでも認められなかった場合には、表2の血液バリア性欄に「〇」を記載した。
また、人工血液のマスク用フィルタ基材への透過が、合計32個のマスクに対する測定結果の内1~3個のマスクで見られた場合には、表2の血液バリア性欄に「△」を記載した。
そして、人工血液のマスク用フィルタ基材への透過が、合計32個のマスクに対する測定結果の内4個以上のマスクで見られた場合には、表2の血液バリア性欄に「×」を記載した。
【0076】
【0077】
以上の結果から、本発明の構成を満足するマスク用フィルタ基材を用いることによって、血液バリア性に富むマスクを提供できることが判明した。
【0078】
(実施例2)
繊維層Bとして、以下のようにして用意した水流絡合不織布bを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、マスク用フィルタ基材(目付:115g/m2、厚み:1.17mmを調製した。
(水流絡合不織布bの用意)
アルキルフォスフェート系の親水系油剤が付与されたポリエチレンテレフタレート繊維をカード機によって開繊して繊維ウエブを形成した。
次いで、繊維ウェブの一方の主面側からもう一方の主面側へ向け水流絡合処理(水圧:3MPa、工程搬送速度:5m/min)を施した。その後、同条件で再度、ウェブのもう一方の主面側から一方の主面側へ向け水流絡合処理(水圧:3MPa、工程搬送速度:5m/min)を施し、構成繊維同士を絡合した。
その後、水流絡合処理を施した繊維ウェブをオーブンドライヤー(加熱温度:80℃)へ供することで、繊維ウェブ中に含まれている水を除去して、水流絡合不織布b(目付:50g/m2、厚み:0.40mm、通気度:180cm3/cm2・sec.、平均繊維径:12μm、平均繊維長:51mm、構成繊維:短繊維、アルキルフォスフェート系の親水系油剤を含む)を調製した。
【0079】
(比較例3)
繊維層Aとして、以下のようにして用意したスパンボンド不織布bを用いると共に、繊維層Cとして、以下のようにして用意した帯電したメルトブロー不織布bを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、マスク用フィルタ基材(目付:87g/m2、厚み:0.91mm)を調製した。
(スパンボンド不織布bの用意)
ポリプロピレン繊維で構成されたスパンボンド不織布b(目付:17g/m2、厚み:0.15mm、通気度:100cm3/cm2・sec.、構成繊維:連続繊維)を用意した。
(帯電したメルトブロー不織布bの用意)
体積固有抵抗値が1016程度(Ω・cm)である市販のポリプロピレン(株式会社プライムポリマー社製、プライムポリプロ)に対して、市販のヒンダードアミン系光安定剤(BASFジャパン株式会社製、CHIMASSORB 944FDL)を全体の2mass%混合して紡糸用樹脂を調製した。このようにして調製した紡糸用樹脂をメルトブロー法へ供することにより紡糸し、紡糸された繊維を平坦な捕集体上に堆積させ捕集することで、当該ヒンダードアミン系光安定剤を含有したポリプロピレンで構成されたメルトブロー不織布を調製した。
得られたメルトブロー不織布を、極性液体として電気伝導度が3.2(μS/cm)、温度が20±5℃の範囲に保たれた純水(蒸留、イオン交換を経た二次蒸留水に相当)が保持された浴槽内に搬送し、純水を担持させると共に周波数20kHzの超音波を作用させた。
次いで、超音波を作用させたメルトブロー不織布を、加熱温度が105℃に調整されたコンベヤ式ドライヤーへ供することで乾燥し、帯電したメルトブロー不織布b(目付:20g/m2、厚み:0.28mm、通気度:45cm3/cm2・sec.、主な繊維径分布:1~8μm、平均繊維径:3.5μm、構成繊維:連続繊維)を調製した。
【0080】
(比較例4)
繊維層Aとして、以下のようにして用意したスパンボンド不織布cを用いると共に、繊維層Bとして、以下のようにして用意した水流絡合不織布cを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、マスク用フィルタ基材(目付:120g/m2、厚み:1.54mmを調製した。
(スパンボンド不織布cの用意)
ポリプロピレン繊維で構成されたスパンボンド不織布c(目付:25g/m2、厚み:0.29mm、通気度:290cm3/cm2・sec.、平均繊維径:21μm、構成繊維:連続繊維)を用意した。
(水流絡合不織布cの用意)
芯鞘型複合繊維(芯部がポリプロピレン、鞘部がポリエチレン、平均繊維径:21μm、繊維長:51mm)を36質量%と、ポリプロピレン繊維(平均繊維径:17μm、繊維長:51mm)を64質量%を、カード機によって開繊して繊維ウエブを形成した。
次いで、繊維ウェブの一方の主面側からもう一方の主面側へ向け水流絡合処理(水圧:3MPa、工程搬送速度:5m/min)を施した。その後、同条件で再度、ウェブのもう一方の主面側から一方の主面側へ向け水流絡合処理(水圧:3MPa、工程搬送速度:5m/min)を施し、構成繊維同士を絡合した。
その後、水流絡合処理を施した繊維ウェブをオーブンドライヤー(加熱温度:80℃)へ供することで、繊維ウェブ中に含まれている水を除去して、水流絡合不織布c(目付:50g/m2、厚み:0.65mm、通気度:305cm3/cm2・sec.、平均繊維径:18μm、平均繊維長:51mm、構成繊維:短繊維、)を調製した。
【0081】
以上のようにして調製した各マスク用フィルタ基材を用いて、実施例1と同様にして、マスクを調製した。そして、実施例2および比較例3~4で調製したマスク用フィルタ基材を備えるマスクを、前述した(血液バリア性の評価方法)へ供した。それによって、マスクが発揮する血液バリア性を評価した。
【0082】
調製したマスク用フィルタ基材を用いて調製したマスクの構成と、当該マスクが発揮する血液バリア性の評価を表3にまとめた。なお、参考として実施例1の評価結果を併せて記載した。
【0083】
【0084】
以上の結果から、本発明の構成を満足するマスク用フィルタ基材によって、血液バリア性に富むマスクを提供できることが判明した。
【0085】
なお、比較例3~4で採用した繊維層A~Cは、いずれも実施例1~2で採用した繊維層A~Cと同じ製造方法を用いて調製された不織布由来の繊維層であり、主として通気度のみが異なる繊維層である。それにも関わらず、比較例3~4で調製したマスク用フィルタ基材を備えたマスクの血液バリア性は、実施例1~2で調製したマスク用フィルタ基材を備えたマスクの血液バリア性に劣るものであった。
そのため、本発明にかかるマスク用フィルタ基材が発揮する、血液バリア性に富むマスクを提供できるという効果は、繊維層A~Cの製造方法の相違によって発揮されるものではなく、繊維層A-繊維層B-繊維層Cの順に通気度が低減した態様で各繊維層が積層している(特に、マスクを構成している際の最外層側から最内層側へ向かい、繊維層A-繊維層B-繊維層Cの順に通気度が低減した態様で各繊維層が積層している)、という構成によって発揮されるものである。
【0086】
また、実施例1で調製したマスク用フィルタ基材によって、実施例2で調製したマスク用フィルタ基材を備えるマスクよりも、血液バリア性に富むマスクを提供できることが判明した。この理由として、実施例1のマスク用フィルタ基材を構成する繊維層Bが、実施例2のマスク用フィルタ基材を構成する繊維層Bよりも、疎水性に富む構成を有しているためだと考えられた。
【0087】
(実施例3)
ポリプロピレン繊維(繊維径:18μm、繊維長:51mm)40質量%と、アクリル系樹脂繊維(繊維径:15μm、繊維長:51mm)60質量%とを混綿し、カード機によって開繊して繊維ウエブ(平均繊維径:16μm、平均繊維長:51mm)を形成した。そして、当該繊維ウエブをスパンボンド不織布cにただ重ね合わせ、積層繊維ウエブを調製した。
続いて、調製した積層繊維ウエブにおけるスパンボンド不織布c側の主面からもう一方の主面に向かい、針番手40のクロスバーブニードルを針深さ16mm、針密度34本/cm2の条件でニードルパンチ処理を施した。
当該ニードルパンチ処理を施したことによって、構成繊維のポリプロピレン繊維とアクリル系樹脂繊維とを擦り合せることで帯電させて、摩擦帯電不織布(目付:120g/m2、厚み:1.60mm、通気度:130cm3/cm2・sec.)を調整した。
そして、実施例1で調製したマスク用フィルタ基材における繊維層C側の主面に、上述のようにして調製した摩擦帯電不織布をバックアップフィルターとしてただ重ね合わせた。このとき、繊維層C側の主面と、摩擦帯電不織布におけるニードルパンチ処理を施した側の主面とが面するように重ね合わせた。
このようにして、マスク用フィルタ基材とバックアップフィルターとの積層体(目付:235g/m2、厚み:2.85mm)を調製した。
【0088】
上記のようにして調製した積層体を用いて、通気性補強材における一方向に突出している側の主面上に、当該積層体における摩擦帯電不織布が当該主面と面するようにして、マスク用フィルタ基材をただ重ね合わせた。その後、超音波溶着装置を用いてマスク用フィルタ基材と通気性補強材双方の全外周を合わせて溶断すると共に一体化することで、カップ形状のマスク本体部を調製した。
【0089】
以上のようにして調製したマスク本体部を用いて、実施例1と同様にして、マスクを調製した。そして、調製したマスク用フィルタ基材を備えるマスクを、前述した(血液バリア性の評価方法)へ供した。それによって、マスクが発揮する血液バリア性を評価した。
【0090】
調製したマスク用フィルタ基材を用いて調製したマスクの構成と、当該マスクが発揮する血液バリア性の評価を表4にまとめた。なお、参考として実施例1の評価結果を併せて記載した。
【0091】
【0092】
以上の結果から、本発明の構成を満足するマスク用フィルタ基材によって、血液バリア性に富むマスクを提供できることが判明した。