(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154017
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】シールド電線及びシールド編組
(51)【国際特許分類】
H01B 11/18 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
H01B11/18 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067592
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】白井 瑞木
【テーマコード(参考)】
5G319
【Fターム(参考)】
5G319FA01
5G319FA04
5G319FC02
5G319FC06
5G319FC08
5G319FC20
5G319FC25
5G319FC26
(57)【要約】
【課題】曲げ箇所においてシールド性能が低下してしまう可能性を低減することができるシールド電線及びシールド編組を提供する。
【解決手段】シールド電線1は、導体11を絶縁体12で覆った絶縁電線10と、導電性素線が編み込まれて形成されると共に絶縁電線10の外側に設けられたシールド編組20とを備え、シールド編組20は、当該シールド編組20の内側に接触する絶縁電線10、又は、当該シールド編組20の外側に接触するシース30の少なくとも一方に対して貼り付けるための粘着層21を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を絶縁体で覆った絶縁電線と、導電性素線が編み込まれて形成されると共に前記絶縁電線の外側に設けられたシールド編組と、を備えたシールド電線であって、
前記シールド編組は、当該シールド編組の内側に接触する内側部材、又は、当該シールド編組の外側に接触する外側部材の少なくとも一方の接触部材に対して貼り付けるための粘着層を有する
ことを特徴とするシールド電線。
【請求項2】
前記内側部材は、前記絶縁電線であって、
前記シールド編組は、前記粘着層を介して少なくとも前記絶縁電線に対して貼り付けられている
ことを特徴とする請求項1に記載のシールド電線。
【請求項3】
前記粘着層は、前記シールド編組が前記内側部材に貼り付けられる場合には内側面積をxとし、前記シールド編組が前記外側部材に貼り付けられる場合には外側面積をxとした場合に、前記接触部材に対する粘着力が0.4x+20(N/10mm)以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のシールド電線。
【請求項4】
前記粘着力は、100(N/10mm)以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のシールド電線。
【請求項5】
導電性素線が編み込まれて形成されて絶縁電線の外側に設けられるシールド編組であって、
内側に接触する内側部材、又は、外側に接触する外側部材の少なくとも一方の接触部材に対して貼り付けるための粘着層を有する
ことを特徴とするシールド編組。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド電線及びシールド編組に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導体を絶縁体で覆った絶縁電線と、導電性素線が編み込まれて形成されると共に絶縁電線の外側に設けられたシールド編組と、シールド編組の外側に設けられたシースとを備えたシールド電線が知られている(例えば特許文献1参照)。このようなシールド電線は、導電性素線によって形成されたシールド編組によってノイズが遮断されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のシールド電線は、曲げの外側においてシールド編組の隙間が開いてしまい、シールド性能の低下が懸念される。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、曲げ箇所においてシールド性能が低下してしまう可能性を低減することができるシールド電線及びシールド編組を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るシールド電線は、導体を絶縁体で覆った絶縁電線と、導電性素線が編み込まれて形成されると共に前記絶縁電線の外側に設けられたシールド編組と、を備えたシールド電線であって、前記シールド編組は、当該シールド編組の内側に接触する内側部材、又は、当該シールド編組の外側に接触する外側部材の少なくとも一方の接触部材に対して貼り付けるための粘着層を有する。
【0007】
本発明に係るシールド編組は、導電性素線が編み込まれて形成されて絶縁電線の外側に設けられるシールド編組であって、内側に接触する内側部材、又は、外側に接触する外側部材の少なくとも一方の接触部材に対して貼り付けるための粘着層を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、曲げ箇所においてシールド性能が低下してしまう可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るシールド電線を示す断面図である。
【
図2】
図1に示したシールド編組の一部拡大図である。
【
図3】本実施形態に係るシールド電線の製造方法の一部を示す第1の概略図であり、(a)は斜視図であり、(b)は側面図である。
【
図4】本実施形態に係るシールド電線の製造方法の一部を示す第2の概略図であり、(a)は第1の工程を示し、(b)は第2の工程を示し、(c)は第3の工程を示し、(d)は第4の工程を示し、(e)は第5の工程を示している。
【
図5】シールド電線の曲げ時における隙間面積の増加率を示すグラフである。
【
図6】隙間面積の増加率が略0%となる粘着力を示すグラフである。
【
図7】第1変形例に係るシールド電線を示す断面図である。
【
図8】第1変形例に係るシールド編組の製造の様子を示す図である。
【
図9】第2変形例に係るシールド電線を示す断面図である。
【
図10】第3変形例に係るシールド電線を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るシールド電線を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るシールド電線1は、絶縁電線10と、シールド編組20と、シース30とを備えて構成されている。
【0012】
絶縁電線10は、導体11を絶縁体12で覆ったものである。導体11は、例えば銅やアルミニウム等の金属、これら金属の合金、又は、それらに金属メッキが施されたもの等によって構成されている。
図1に示す例において導体11は単線であるが、これに限らず、複数本の素線が撚られた撚線であってもよい。絶縁体12は、導体11上を覆うものであって、例えばPP(Polypropylene)、PE(Polyethylene)及びPVC(Poly Vinyl Chloride)等によって構成されている。
【0013】
シールド編組20は、導電性素線が編み込まれて形成されるものであって、本実施形態では絶縁電線10の外側に絶縁電線10に接触して設けられるものである。導電性素線は、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、又はこれらの合金等の金属素線であってもよいし、耐久性を高めるために高強度繊維に金属めっきを施しためっき繊維導体であってもよい。ここで、高強度繊維とは、石油等の原料から化学的に合成されて作られた繊維材であり、破断時における引張強度が1GPa以上で破断時の伸び率が1%以上10%以下のものである。このような繊維としては、例えばアラミド繊維、ポリアリレート繊維、及びPBO(Poly-p-phenylenebenzobisoxazole)繊維が該当する。また、めっきは、銅、ニッケル、錫、金、銀又はこれらの合金等によって高強度繊維上に施される。
【0014】
シース30は、シールド編組20の外周に設けられた絶縁樹脂からなるチューブ状の部材である。本実施形態においてシース30は、シールド編組20の外側にシールド編組20に接触して設けられている。
【0015】
図2は、
図1に示したシールド編組20の一部拡大図である。本実施形態に係るシールド編組20は、シールド編組20の内側に接触する絶縁電線10(内側部材及び接触部材の一例)に対して貼り付けるための粘着層21を有する。粘着層21は、
図2に示すように、例えば導電性素線20aの隙間を埋めるようにシート状のものが設けられている。なお、粘着層21は、シート状のものに限らず、シールド編組20を構成する導電性素線20aの表面(特に内側面)のみに設けられていてもよい。
【0016】
このようなシールド電線1は、各導電性素線20aが絶縁電線10に接着され、曲げ時においても導電性素線20aが位置ずれを起こし難くなる。この結果、曲げ外側においても導電性素線20a間の隙間が広がり難くなり、隙間が広がってしまいノイズ遮断効果が低減する事態を抑制することとなる。
【0017】
ここで、本実施形態において粘着層21は、シールド編組20の内側面積をxとした場合に、絶縁電線10に対する粘着力が0.4x+20(N/10mm)以上とされていることが好ましい。これにより、2倍径曲げ(絶縁電線10の2倍径の曲げ)時に曲げ外側における導電性素線20a間の隙間の広がりを略ゼロとできるからである。
【0018】
加えて、粘着層21の粘着力が0.4x+20(N/10mm)以上とされ、シールド編組20が絶縁電線10に対して貼り付けられていることから、2倍径曲げ時に曲げ内側におけるシールド編組20の絶縁電線10に対する浮きを無くすようにでき、インピーダンスの乱れを抑制することができる。
【0019】
さらに、粘着層21の粘着力は、100(N/10mm)以下であることが好ましい。これにより、粘着力が強くなり過ぎず、皮剥き性が極端に低下してしまう事態を防止することができるからである。
【0020】
次に、本実施形態に係るシールド電線1の製造方法を説明する。
図3は、本実施形態に係るシールド電線1の製造方法の一部を示す第1の概略図であり、(a)は斜視図であり、(b)は側面図である。また、
図4は、本実施形態に係るシールド電線1の製造方法の一部を示す第2の概略図であり、(a)は第1の工程を示し、(b)は第2の工程を示し、(c)は第3の工程を示し、(d)は第4の工程を示し、(e)は第5の工程を示している。
【0021】
まず、シールド電線1を製造するにあたっては、絶縁電線10とシールド編組20とが用意される。
【0022】
シールド編組20については例えば
図3に示すように製造される。まず、導電性素線20a(
図2参照)が編み込まれ、粘着層21を有しない筒状の非粘着シールド編組22が製造される。次いで、当該非粘着シールド編組22の内側に噴霧器ATが挿入される。噴霧器ATは、円筒状であって円筒側面から外側に向かって接着剤を噴霧するものである。このため、噴霧器ATが非粘着シールド編組22に挿入され噴霧されることで内側に粘着層21を有したシールド編組20が形成される。
【0023】
その後、シールド編組20が拡げられ、内側に絶縁電線10が挿入される。その後、拡げたシールド編組20を元に戻すことでシールド編組20が絶縁電線10に貼り付けられる。次いで、シールド編組20が取り付けられた絶縁電線10に対して、シース30が押出成形等される。これにより、シールド電線1が製造される。
【0024】
ここで、シールド編組20は、
図4に示すように製造されてもよい。例えば、まず
図4(a)に示すように円柱状の管E1が用意される。次いで、
図4(b)に示すように管E1の外周に離型剤E2が形成される。その後、
図4(c)に示すように、離型剤E2上に接着剤E3が塗布されて芯材E4が形成される。次に、
図4(d)に示すように、粘着層21を有しない非粘着シールド編組22が拡げられ芯材E4の外側に被せられる。その後、
図4(e)に示すように、管E1が引き抜かれると、離型剤E2上の接着剤E3が粘着層21として非粘着シールド編組22側に残ることとなる。これにより、粘着層21を有したシールド編組20が製造される。
【0025】
なお、粘着層21は、上記方法に限らず、例えば他の専用の塗り部材を利用して非粘着シールド編組22に塗布されてもよいし、導電性素線20aの束の片面のみに予め接着剤を塗布しておき編み込むようにしてもよい。
【0026】
次に、シールド電線1の特性について説明する。
図5は、シールド電線1の曲げ時における隙間面積S(
図2参照)の増加率を示すグラフである。
図5は、
図1に示したシールド電線1を絶縁電線10の2倍径で曲げたときの隙間面積Sの増加率を示している。
【0027】
図5に示すように、粘着層21の粘着力が0.1(N/10mm)である場合、2倍径曲げ時における隙間面積Sの増加率は、絶縁電線10のサイズが50sqで122.2%であり、絶縁電線10のサイズが100sqで200%であった。また、粘着層21の粘着力が20(N/10mm)である場合、2倍径曲げ時における隙間面積Sの増加率は、絶縁電線10のサイズが50sqで33.3%であり、絶縁電線10のサイズが100sqで44%であった。
【0028】
また、粘着層21の粘着力が40(N/10mm)である場合、2倍径曲げ時における隙間面積Sの増加率は、絶縁電線10のサイズが50sqで略0%であり、絶縁電線10のサイズが100sqで25%であった。また、粘着層21の粘着力が60(N/10mm)である場合、2倍径曲げ時における隙間面積Sの増加率は、絶縁電線10のサイズが50sq及び100sqの双方で略0%であった。
【0029】
図6は、隙間面積Sの増加率が略0%となる粘着力を示すグラフである。
図5に示した結果からすると、絶縁電線10のサイズ(シールド編組20の内側面積)をxとした場合、粘着力が0.4x+20(N/10mm)以上であれば隙間面積Sの増加率を略0%とできることがわかった。
【0030】
このようにして、本実施形態に係るシールド電線1及びシールド編組20によれば、シールド編組20は、絶縁電線10に対して貼り付けるための粘着層21が形成されているため、各導電性素線20aが絶縁電線10に接着され、曲げ時においても導電性素線20aが絶縁電線10に接着された状態となり、位置ずれを起こし難くなる。この結果、曲げ外側においても導電性素線20a間の隙間が広がり難くなり、隙間が広がってしまいノイズ遮断効果が低減する事態を抑制することなる。従って、曲げ箇所においてシールド性能が低下してしまう可能性を低減することができる。
【0031】
また、シールド編組20は、粘着層21を介して少なくとも絶縁電線10に対して貼り付けられるため、曲げ内側においてシールド編組20の絶縁電線10に対する浮きが抑制され、インピーダンスの乱れを抑制することができる。
【0032】
また、粘着層21は絶縁電線10に対する粘着力が0.4x+20(N/10mm)以上であるため、絶縁電線10の2倍径での曲げ外側においても隙間面積Sの増加率を略ゼロとすることができる。
【0033】
また、粘着層21は粘着力が100(N/10mm)以下であるため、粘着力が強くなり過ぎず、皮剥き性が極端に低下してしまう事態を防止することができる。
【0034】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能であれば公知又は周知の技術を組み合わせてもよい。
【0035】
例えば、本実施形態においては、シールド編組20は絶縁電線10に対して貼り付けられているが、特にこれに限らず、絶縁電線10とシールド編組20との間に他の介在物(内側部材及び接触部材の一例)があり、シールド編組20がその介在物に貼り付けられていてもよい。
【0036】
また、以下のようにされていてもよい。
図7は、第1変形例に係るシールド電線2を示す断面図であり、
図8は、第1変形例に係るシールド編組20の製造の様子を示す図である。
図7に示すように、シールド編組20はシース30(外側部材及び接触部材の一例)に対して貼り付けられていてもよい。この場合、シールド編組20は、例えば
図8に示すように、筒状に形成された非粘着シールド編組22の外側から噴霧器AT1によって接着剤が噴霧されて製造される。
【0037】
加えて、シールド編組20はシース30に対して貼り付けられているが、特にこれに限らず、シールド編組20とシース30との間に他の介在物(外側部材及び接触部材の一例)があり、シールド編組20がその介在物に貼り付けられていてもよい。
【0038】
図9は、第2変形例に係るシールド電線3を示す断面図であり、
図10は、第3変形例に係るシールド電線4を示す断面図である。
図9に示すように、シールド電線3は、シース30を有することなく、絶縁電線10と、その外周のシールド編組20とによって構成されていてもよい。この場合においてもシールド編組20が絶縁電線10に貼り付けられて、曲げ時におけるシールド性能の低下を抑制できるからである。さらに、
図10に示すように、シールド電線4は、シールド編組20の内側面及び外側面の双方に粘着層21を有して、絶縁電線10及びシース30の双方に貼り付けられていてもよい。
【0039】
ここで、
図10に示すように、シールド編組20が絶縁電線10及びシース30の双方に貼り付けられる場合、粘着力は、内側面の粘着層21と外側面の粘着層21との双方の合算値が0.4x+20(N/10mm)以上とされていれば、2倍径曲げ時における隙間面積Sの増加率を略0%できることとなる。
【符号の説明】
【0040】
1~4 :シールド電線
10 :絶縁電線(内側部材、接触部材)
11 :導体
12 :絶縁体
20 :シールド編組
20a :導電性素線
21 :粘着層
22 :非粘着シールド編組
30 :シース(外側部材、接触部材)