(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154022
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】加飾装置および方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
B41J2/01 125
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067599
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】山本 寛峰
(72)【発明者】
【氏名】奈良本 正治
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA05
2C056EA06
2C056EB49
2C056EC06
2C056EC14
2C056EC29
2C056HA29
2C056HA47
(57)【要約】
【課題】溶剤インクに溶解しないシート部材に対して溶剤インクを吐出して加飾する際、加飾画像のにじみおよび光沢ムラを抑制することができる加飾装置および方法を提供する。
【解決手段】溶剤インクを、その溶剤インクの溶剤に対して溶解しないシート部材Sに吐出するヘッドユニット10と、シート部材Sが搬送されるプラテン21およびそのシート部材Sのプラテン21に対向する裏面を加熱するプラテン用ヒータ22を有する搬送部20と、シート部材Sの溶剤インクが吐出される側の表面を加熱するヒータ32と、シート部材の表面に沿って気流を発生させるシロッコファン31とを備え、ヒータ32が、シート部材Sの搬送方向に直交する方向について分割されたエリアa~d毎の印字率に応じて、エリアa~d毎の温度制御を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤インクを、該溶剤インクの溶剤に対して溶解しないシート部材に吐出するインク吐出部と、
前記シート部材が搬送される搬送路および該シート部材の前記搬送路に対向する裏面を加熱する裏面加熱部を有する搬送部と、
前記シート部材の前記溶剤インクが吐出される側の表面を加熱する表面加熱部と、
前記シート部材の前記表面に沿って気流を発生させる気流発生部とを備え、
前記表面加熱部が、前記シート部材の搬送方向に直交する方向について分割されたエリア毎の印字率に応じて、前記エリア毎の温度制御を行う加飾装置。
【請求項2】
前記裏面加熱部が、前記シート部材の搬送方向について上流側加熱部と下流側加熱部とを有し、前記下流側加熱部の方が前記上流側加熱部よりも加熱温度が高くなるように制御する請求項1記載の加飾装置。
【請求項3】
前記気流発生部が、前記シート部材の表面に対して直交する方向に配列された上段気流発生部と下段気流発生部とを有するとともに、
前記表面加熱部が、前記上段気流発生部の気流を加熱する上段加熱部と前記下段気流発生部の気流を加熱する下段加熱部とを有し、
前記上段加熱部が、最大印字率に応じた温度制御を行い、前記下段加熱部が、前記エリア毎の印字率に応じた温度制御を行う請求項1記載の加飾装置。
【請求項4】
前記シート部材が、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレートを主成分とする請求項1記載の加飾装置。
【請求項5】
溶剤インクを、該溶剤インクの溶剤に対して溶解しないシート部材に吐出して加飾する加飾方法であって、
搬送路上を搬送される前記シート部材の前記搬送路に対向する裏面を加熱するとともに、前記シート部材の前記溶剤インクが吐出される側の表面を加熱しながら、前記シート部材の前記表面に沿って気流を発生し、
前記シート部材の搬送方向に直交する方向について分割されたエリア毎の印字率に応じて、前記エリア毎の温度制御を行う加飾方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤インクに溶解しないシート部材に対して溶剤インクを吐出して加飾する加飾装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からフィルムベースのインクジェット用紙は環境、安全性の観点からユポ(登録商標)に代表されるポリプロピレンを主成分とするシート部材を用いた合成紙が利用されている。
【0003】
ポリプロピレンを主成分とするシート部材を用いる場合、インクジェット適性を付与するために表面に特別な処理がされ、更に表面にラミネート加工や端部からの水分、汚れの侵入を防ぐエッジ処理を行うのが一般的である。
【0004】
ラミネートフィルムは、主にグロス感付与、耐久性付与の観点で行うが、塩ビが一般的であり、環境、安全性の観点でデメリットとなる。
【0005】
したがって、表面に光沢性があるポリプロピレンを主成分とするシート部材に、光沢感を維持しながら直接インクジェット加飾が可能となればラミネート不要な用途が想定でき、環境、安全性、コスト面のメリットとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-22194号公報
【特許文献2】特許5671515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、インクジェット加飾用の特別な表面処理なく、ポリプロピレンのシート部材に直接インクジェット加飾する手段として、UVインクを用いたインクジェット印刷と溶剤インクを用いたインクジェット印刷とが考えられる。しかしながら、UVインクを用いたインクジェット印刷は、インクドットの定着原理的に、加飾画像に均一な光沢性を発現させることには不向きであり、マット化してしまう。
【0008】
また、溶剤インクを用いたインクジェット印刷は、たとえば塩化ビニルのシート部材の場合、シート部材の表面を一部溶解してインクドットが定着するので、インクドットが多い場所であってもインクが混ざりあうことなく、にじみや光沢ムラは生じない。
【0009】
しかしながら、溶剤インクに対して溶解性がないポリプロピレンを主成分とするシート部材の場合、特にインクドットが多い場所はインクが混ざり合い、にじみや光沢ムラが生じやすい。そして、たとえインクドット数を制御したり、配置されるドットの順番を工夫してにじみを抑制しても、ドットが多い部分と少ない部分で微妙にインクの乾燥性が異なる。結果的に、ドットの多い場所、少ない場所の加飾画像の表面状態がわずかに異なるため光沢ムラとなり、画像品位的にラミネート不要とすることができない。
【0010】
なお、特許文献1においては、溶剤インクを用いたインクジェット印刷装置であって、溶剤インクから揮発する成分を除去する微風を供給する微風供給手段を有するインクジェット印刷装置が提案されているが、溶剤インクで溶解しないシート部材を用いた場合、微風供給手段では、乾燥性が十分とは言えず、にじみが発生する。
【0011】
また、特許文献2においては、インクジェット印刷装置において、インクの乾燥を促すため、外装カバー内に送風機構を設けることが提案されている。特許文献2に記載の送風機構でもインクの乾燥を促進し、加飾画像滲みを抑制することはできるが、光沢ムラを抑制することはできない。
【0012】
本発明は、溶剤インクに溶解しないシート部材に対して溶剤インクを吐出して加飾する際、加飾画像のにじみおよび光沢ムラを抑制することができる加飾装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の加飾装置は、溶剤インクを、その溶剤インクの溶剤に対して溶解しないシート部材に吐出するインク吐出部と、シート部材が搬送される搬送路およびそのシート部材の搬送路に対向する裏面を加熱する裏面加熱部を有する搬送部と、シート部材の溶剤インクが吐出される側の表面を加熱する表面加熱部と、シート部材の表面に沿って気流を発生させる気流発生部とを備え、表面加熱部が、シート部材の搬送方向に直交する方向について分割されたエリア毎の印字率に応じて、エリア毎の温度制御を行う。
【発明の効果】
【0014】
本発明の加飾装置によれば、シート部材の裏面を加熱するとともに、シート部材の表面を加熱しながら、シート部材の表面に沿って気流を発生し、シート部材の搬送方向に直交する方向について分割されたエリア毎の印字率に応じて、エリア毎の温度制御を行うようにしたので、加飾画像のにじみおよび光沢ムラを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の加飾装置の一実施形態を用いたインクジェット印刷装置の概略構成を示す図
【
図2】ヘッドユニット、ピンチローラ、ブロア機構およびシート部材Sを上方から見た図
【
図3】上下段に配列された2つのシロッコファンおよびヒータを左右方向の側面からみた図
【
図4】1つのシロッコファンおよびヒータを上方から見た図である。
【
図5】プラテン用ヒータを左右方向の側面から見た図
【
図7】
図1に示すインクジェット印刷装置の制御系の構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の加飾装置の一実施形態を用いたインクジェット印刷装置について詳細に説明する。
図1は、本実施形態のインクジェット印刷装置1の概略構成図である。なお、以下に示す実施形態の説明では、
図1に矢印で示す上下前後を、インクジェット印刷装置1における上下前後とする。また、
図1の紙面手前側を左方向とし、紙面奥側を右方向とする。
【0017】
本実施形態のインクジェット印刷装置1は、
図1に示すように、ヘッドユニット10と、搬送部20と、ブロア機構30とを備えている。
【0018】
搬送部20は、プラテン21、プラテン用ヒータ22、前方用紙ガイド23、後方用紙ガイド24、搬送ローラ25およびピンチローラ26を備える。
【0019】
プラテン21は、左右方向に延設された矩形状の部材であり、後述するロール部材Rから繰り出されたシート部材Sがプラテン21上を摺動して搬送される。なお、本実施形態においては、プラテン21が、本発明の搬送路に相当する。
【0020】
プラテン21の前後には、弧状に形成された前方用紙ガイド23および後方用紙ガイド24が延設されている。また、プラテン21の下部にプラテン用ヒータ22が設けられている。
【0021】
プラテン用ヒータ22は、プラテン21上を搬送されるシート部材Sを裏面から加熱することによって、シート部材S上の溶剤インクの乾燥を促す。なお、本実施形態においては、プラテン用ヒータ22が、本発明の裏面加熱部に相当する。そして、本実施形態においては、シート部材Sのプラテン21と接触する面をシート部材Sの裏面といい、逆側のヘッドユニット10側の面を表面という。
【0022】
また、プラテン21の後方には、搬送ローラ25およびピンチローラ26が対向して設けられている。
【0023】
搬送ローラ25は、後述する搬送駆動モータ61(
図7参照)によって回転する。また、ピンチローラ26は、図示省略した昇降機構によって昇降可能に支持されている。
【0024】
そして、後方用紙ガイド24によって案内されたシート部材Sが、搬送ローラ25とピンチローラ26によって挟持され、ピンチローラ26によってシート部材Sが押圧された状態で搬送ローラ25が回転することによって、シート部材Sが前方に送り出される。
【0025】
インクジェット印刷装置1の前側には、シート部材Sを巻き取る芯体を保持する巻取部50が設けられている。巻取部50は、トルクリミッタ(図示省略)を介して巻き取り駆動モータ81(
図7参照)に連係しており、巻き取り駆動モータ81によって回転するよう構成されている。
【0026】
また、インクジェット印刷装置1の後ろ側には、シート部材Sがロール状に巻かれたロール部材Rの芯体を保持する供給部60が設けられている。供給部60は、トルクリミッタ(図示省略)を介して供給駆動モータ91(
図7参照)に連係しており、供給駆動モータ91によって回転するよう構成されている。
【0027】
そして、
図1に示すように、供給部60に保持されたロール部材Rからシート部材Sが引き出され、後方用紙ガイド24、搬送ローラ25とピンチローラ26との間、プラテン21上、前方用紙ガイド23を経由して、巻取部50に保持された芯体に巻き取られるように構成されている。
【0028】
ここで、本実施形態においては、シート部材Sとして、溶剤インクの溶剤に対して表面が溶解しない光沢性を有する部材を用いる。たとえばポリプロピレンやポリエチレンテレフタラートを主成分とするシート部材を用いることができる。なお、主成分とは、その成分が50%を超えることを意味する。ポリプロピレンのシート部材としては、たとえばユポコーポレーション製ユポ(登録商標)シリーズを使用することができる。また、光沢性があるシートとしては、たとえばユポコーポレーション製のGAR110-K-250(厚み110μm、坪量86.9g/m2、光沢度89)を用いることができる。
【0029】
また、溶剤インクとしては、一般的な溶剤インクを用いることができる。たとえば、顔料をグリコールモノアセテート類、グリコールエーテル類などの主溶剤に分散し、シート部材との定着性を付与するバインダー樹脂を溶解した溶剤を加えた溶剤インクを用いることができる。また、溶剤としては、安全性の高い溶剤の中から沸点の低い溶剤を利用することが好ましい。
【0030】
ヘッドユニット10は、溶剤インクを吐出する複数のノズルが前後方向に配列されたインクジェットヘッド11と、インクジェットヘッド11を保持するキャリッジ12を備える。インクジェットヘッド11は、単数でもよいし、カラー印刷の場合には、各色のインクジェットヘッド11を左右方向に配列するようにしてもよい。
【0031】
ヘッドユニット10は、レール部13に設置される。レール部13は、左右方向に延設されたレールとレール上においてヘッドユニット10を左右方向に往復移動させる主走査駆動モータ51(
図7参照)を備えている。
【0032】
そして、ヘッドユニット10の上方には、ヘッドユニット10およびレール部13を覆うように金属製の外装カバー40が設けられている。
【0033】
また、外装カバー40の後方には、ブロア機構30が設けられている。ブロア機構30は、プラテン21上を搬送されるシート部材Sの表面に沿って流れる気流を発生させる。ブロア機構30は、複数のシロッコファン31と、各シロッコファン31に設けられた複数のヒータ32とを有する。
【0034】
図2は、ヘッドユニット10と、ピンチローラ26と、ブロア機構30と、シート部材Sとを上方から見た図である。
図2に示すように、ブロア機構30は、複数のシロッコファン31が左右方向に配列されたものである。本実施形態においては、シロッコファン31が、本発明の気流発生部に相当するものである。
【0035】
ブロア機構30の各シロッコファン31の動作によって発生した気流は、ヒータ32で暖められた後、前方へ吹き付けられる。そして、外装カバー40とシート部材Sとの間を通過した後、左右方向の両端部に設けられたピンチローラ26間を通過する。そして、さらに、気流は、ヘッドユニット10とシート部材Sとの間を通過して、外装カバー40とシート部材Sとの間を抜けて外装カバー40の外側に抜けていく。これにより外装カバー40内でのインク蒸気成分の停滞あるいは循環を防止することができる。本実施形態においては、ヒータ32が、本発明の表面加熱部に相当するものである。
【0036】
ここで、本実施形態においては、
図2に示すように、ピンチローラ26を左右方向の両端部のみに設け、中央部分には設けていない。これは、たとえばピンチローラ26を左右方向について1列に並べた場合、ブロア機構30で発生した気流が、中央部のピンチローラ26によって妨げられるからである。
【0037】
そして、本実施形態のピンチローラ26は、シート部材Sの左右方向の両端部を押圧することができるように、シート部材Sの左右方向の幅に応じて、左右方向(
図2に示す矢印方向)に移動可能に構成されている。なお、搬送ローラ25は、ピンチローラ26に対向して設けられ、ピンチローラ26と同様に左右方向に移動可能に構成されている。
【0038】
次に、ブロア機構30について、より詳細に説明する。
【0039】
ブロア機構30の複数のシロッコファン31は、左右方向について複数のユニットA~Dに分割され、ユニットA~D毎にヒータ32の温度制御が行われて、ユニットA~D毎の気流の温度制御が行われる。
図2では、各ユニットA~Dを太い実線の四角で示している。
【0040】
そして、本実施形態のブロア機構30は、上下方向について、2段のシロッコファン31およびヒータ32の列が設けられている。
図3は、上下段に配列された2つのシロッコファン31およびヒータ32を左右方向の側面からみた図であり、
図4は、1つのシロッコファン31およびヒータ32を上方から見た図である。
【0041】
図3および
図4に示すように、上下方向に配列された2つのシロッコファン31の組の前方端部には、排気ダクト33が設けられており、その排気ダクト33内にヒータ32が設けられている。排気ダクト33は、上下方向については前方に向かって狭まるようにテーパー形状に形成されている。また、左右方向については前方に向かって左右方向に広がるように形成されている。
【0042】
シロッコファン31は、ファン31aを回転させることによって吸引口31bから空気を吸引し、排気口31cから空気を排気することによって気流を発生させる。シロッコファン31の排気口31cから吹き出された気流は、ヒータ32によって暖められた後、排気ダクト33から前方に向かって吹き出される。
【0043】
そして、本実施形態において、ブロア機構30は、シート部材Sに印刷される加飾画像の印字率に応じて、ユニットA~D毎のシロッコファン31から吹き出される気流の温度および風量を制御する。具体的には、各ユニットA~Dから前方に吹き出された気流が流れる領域であって、インクジェットヘッド11によって印字される領域のそれぞれの印字率に応じて、各ユニットA~Dの気流の温度および風量を制御する。
【0044】
ここで、たとえば加飾画像の印字率に対して、ブロア機構30が与える風量や温度が過剰な場合は、溶剤インクのにじみは良化するが、溶剤インクのレベリングが抑制されるため加飾画像の光沢性は低下する。一方、ブロア機構30が与える風量や温度が過小な場合は、逆に、加飾画像の光沢性は良化するが、溶剤インクのにじみは悪化する。
【0045】
したがって、本実施形態では、インクジェットヘッド11の左右方向への移動によって印字される印字領域を、
図2に示すように4つのエリアa~dに分割し、その4つのエリアa~dのそれぞれの印字率に適した熱量の気流を与えることができるように、各ユニットA~Dのシロッコファン31およびヒータ32の風量および温度を制御する。
なお、
図2においては、前後方向について所定位置における4つのエリアa~dしか示していないが、実際には、
図2に示す4つのエリアa~dが、画像データの前後方向の長さに応じて複数列設定される。また、エリアa~dの前後方向の幅は、たとえばインクジェットヘッド11によって印字される最大幅とすることができるが、これに限らない。また、各エリアa~dの印字率としては、各エリアの画像データに基づく平均印字率を用いることができる。
そして、ブロア機構30の4つのユニットA~Dは、4つに分割された各エリアa~dに各ユニットA~Dの気流が与えられるように設定される。
【0046】
具体的には、たとえば各エリアa~dの印字率を高、中および低の3段階に分類し、各段階に応じた熱量の気流が、各エリアに与えられるように各ユニットA~Dの気流の風量および温度を高、中および低の3段階で制御する。なお、本実施形態では、印字率と、気流の風量および温度を3段階としたが、これに限らず、より細かくたとえば10%刻みの10段階などにするなどしてもよい。なお、3段階の印字率に応じた各ユニットA~Dのシロッコファン31の風量とヒータ32の温度とは予め設定されているものとする。
【0047】
また、ブロア機構30は、上述したような3段階の熱量に応じた風量および温度を、上下段のシロッコファン31およびヒータ32を制御することによって実現する。
【0048】
本実施形態のブロア機構30を上下段の2階構造としている理由は、印字率に適した熱量を、印刷速度の低下を生じることなく得るためである。すなわち、シロッコファン31の風量はファンの回転数をかえることによって比較的瞬時に変えることができるが、ヒータ32の温度は所望の温度に変えるまでに時間がかかり、その時間を待ちながら印刷すると生産性が低下するおそれがある。
【0049】
そこで、各ヒータ32の温度は一定のままに制御し、シロッコファン31の風量を変更することによって、各エリアに対して印字率に適した熱量を付与する。
【0050】
具体的には、ブロア機構30の上段については、最も高い印字率(最大印字率)に適した熱量が得られるようにシロッコファン31の風量およびヒータ32の温度を制御する。そして、ブロア機構30の下段については、上段のシロッコファン31から吹き出された熱風を冷ますために用いられ、各エリアの印字率に適した熱量が得られるようにシロッコファン31の風量およびヒータ32の温度を制御する。すなわち、ブロア機構30は、上段から吹き出される気流によって与えられる熱量よりも、下段から吹き出される気流によって与えられる熱量の方が小さくなるようにシロッコファン31の風量およびヒータ32の温度を制御する。
【0051】
このようにブロア機構30の上段と下段を制御することによって、高印字率から低印字率まで、にじみと光沢のトレードオフを解決することができる。
【0052】
また、気流を発生するファンは、外装カバー40によって比較的閉じられた空間の空気を入れ替える必要があるため、風を押し出す力が強く、狭いスペースに風を送ることができるファンであることが好ましく、本実施形態のように、シロッコファン31を用いることが好ましい。ただし、本発明は、シロッコファンに限定するものではなく、空気を押し出す力はシロッコファンよりも弱いが、プロペラファンやクロスフローファンを用いるようにしてもよい。
【0053】
次に、プラテン用ヒータ22について、より具体的に説明する。
図5は、プラテン用ヒータ22を左右方向の側面から見た図である。プラテン用ヒータ22は、プラテン21の内部に設けられるものであり、シートヒータまたは電熱線から構成されている。加飾画像を乾燥させる役割の多くはプラテン用ヒータ22が担う。
【0054】
ここで、本実施形態においては、上述したようにヘッドユニット10が左右方向(主走査方向)に往復移動しながら、所定の画像データに基づいて、シート部材Sに溶剤インクを吐出し、加飾画像が形成される。
【0055】
そして、本実施形態では、いわゆる2パス印刷を行うが、2パス印刷について、以下、
図6を用いて具体的に説明する。
【0056】
2パス印刷によって、たとえばベタ印刷(印字率100%)を行うには、スワス幅(インクジェットヘッド11の前後方向に配列される全有効ノズルによって印刷される領域の幅)を略2分割し(以下、2分割後の幅をハンド幅という)、
図6Aに示すように、1走査目(ヘッドユニット10の1回の往路または復路の移動)で印字率50%で印刷した後、
図6Bに示すように、シート部材Sをバンド幅分だけ前方向に搬送し、2走査目で、残りの印字率50%を印刷することで加飾画像を完成させる(印字率50+50=100%)。この走査とバンド幅分の搬送を繰り返すことで、大きな画像を高解像度で印刷することができる。なお、ここでいう「走査」とは、インクジェットヘッド11を主走査方向に移動させながら、インクジェットヘッド11から溶剤インクを吐出させることを意味する。
【0057】
このようにして2パス印刷を行う場合、
図6Bに示すように、基本的に印字率は、「1走査目」(上流側バンド)<「1+2走査目」(下流側バンド)になる。
【0058】
このような2パス印刷において、仮にプラテン21内部のプラテン用ヒータ22を全面同一温度とすると、より印字率が高い下流側バンドで必要となる温度に設定するしかないため、上流側バンドでは過加熱になる。
【0059】
その結果、上流側バンドにおけるインク滴は、シート部材S上でレベリングができず光沢性が低下する。一度過加熱になってしまった印刷部分は光沢性を失ったままとなる。
【0060】
そこで、本実施形態におけるプラテン用ヒータ22は、上流バンド用ヒータ22aと、下流バンド用ヒータ22bを有し、それぞれ適正な温度に制御することで過加熱を防ぎ、にじみと光沢を両立した高画質を得る。なお、本実施形態においては、上流バンド用ヒータ22aが、本発明の上流側加熱部に相当し、下流バンド用ヒータ22bが、本発明の下流側加熱部に相当する。
【0061】
加飾画像はベタ印刷に限ったものではなく、様々な印字率の加飾画像の印刷が求められる。厳密には、その印字率に合わせて、プラテン用ヒータ22の温度を所望の温度に変えることが好ましいが、温度を変えるには時間がかり生産性が低下する。
【0062】
したがって、本実施形態では、常に印字率が、「1走査目」(上流側バンド)<「1+2走査目」(下流側バンド)になることに着目し、プラテン用ヒータ22の温度は、光沢を失わない温度で、かつ「下流バンド用ヒータ22bの温度」>「上流バンド用ヒータ22aの温度」の関係になるように設定する。下流バンド用ヒータ22bの温度と上流バンド用ヒータ22aの温度は、予め設定された一定の温度で制御される。
【0063】
その結果として、上述したブロア機構30の効果を活かしつつ、にじみと光沢性の両立が可能となる。
【0064】
図7は、本実施形態のインクジェット印刷装置1の制御系の構成を示すブロック図である。インクジェット印刷装置1は、印刷制御装置2からの制御信号に応じて、
図7に示す制御対象の各部を動作させる。
【0065】
また、印刷制御装置2は、印字率算出部2aと、気流制御部2bとを備える。印字率算出部2aは、印刷ジョブに含まれる画像データに基づいて、加飾画像の印字率を算出する。
【0066】
また、気流制御部2bは、印字率算出部2aによって算出された印字率に基づいて、上述したようにブロア機構30を制御する。
【0067】
印刷制御装置2とインクジェット印刷装置1とは、LAN(Local Area Network)またはインターネット回線などの通信回線によって接続されており、互いに通信可能に構成されている。通信回線は、有線でも無線でもよい。
【0068】
印刷制御装置2は、CPU(Central Processing Unit)、半導体メモリおよびハードディスクなどを備えたコンピュータから構成される。印刷制御装置2は、入力された画像データを含む印刷ジョブなどに基づいて、半導体メモリまたはハードディスクなどの記憶媒体に予め記憶された印刷制御プログラムを実行し、かつ電気回路を動作させることによって
図7に示す各部を制御する。
【0069】
次に、本実施形態のインクジェット印刷装置1の印刷動作について説明する。なお、ここでは、上述した2パス印刷の場合について説明する。
【0070】
まず、供給部60にロール部材Rが設置され、そのロール部材Rからシート部材Sが引き出され、後方用紙ガイド24、搬送ローラ25とピンチローラ26との間、プラテン21上、前方用紙ガイド23を経由して、巻取部50に保持された芯体に巻き付けられる。
【0071】
そして、印刷制御装置2は、供給部60、巻取部50および搬送ローラ25を回転させることによって、シート部材Sを送り出し、印刷初期位置まで到達した時点でシート部材Sの送り出しを一旦停止する。
【0072】
そして、印刷制御装置2は、シート部材Sに印刷する画像データを含む印刷ジョブを受信し、画像データに基づいて、シート部材Sに印刷される加飾画像の印字率を算出する。続いて、印刷制御装置2は、算出した印字率に基づいて、ブロア機構30の各ユニットA~Dのそれぞれのシロッコファン31の風量とヒータ32の温度とを決定する。そして、ブロア機構30は、気流の吹き出しを開始するとともに、加飾画像の印字率に基づいて、気流の温度制御を開始する。また、印刷制御装置2は、プラテン用ヒータ22による加熱を開始する。
【0073】
次に、印刷制御装置2は、主走査駆動モータ51を動作させ、レール部13上においてヘッドユニット10を第1の方向(左右方向のいずれかの方向)に移動させる。そして、印刷制御装置2は、ヘッドユニット10の移動とともに、ヘッドユニット10のインクジェットヘッド11を動作させ、1回目の走査で加飾画像を印字する。
【0074】
続いて、印刷制御装置2は、シート部材Sを1バンド幅分だけ送り出し、2回目の走査で加飾画像を印字する。
【0075】
以降、印刷制御装置2は、上記と同様に、1バンド幅分のシート部材Sの送り出しと、レール部13上におけるヘッドユニット10の第1の方向または第2の方向への移動とを交互に繰り返しながら、加飾画像の印字を順次行う。そして、ブロア機構30は、上述したように各エリアa~dの平均印字率に基づいて、各エリアa~d毎の気流の温度制御を行う。
【0076】
上記実施形態のインクジェット印刷装置1によれば、シート部材Sの裏面を加熱するとともに、シート部材Sの表面を加熱しながら、シート部材Sの表面に沿って気流を発生し、シート部材Sの搬送方向に直交する方向について分割されたエリア毎の印字率に応じて、エリア毎の温度制御を行うようにしたので、加飾画像のにじみおよび光沢ムラを抑制することができる。
【0077】
また、上記実施形態のインクジェット印刷装置1においては、上流バンド用ヒータ22aと下流バンド用ヒータ22bを有し、下流バンド用ヒータ22bの方が上流バンド用ヒータ22aよりも加熱温度が高くなるようにしたので、たとえば2パス印刷において、過加熱を防ぎ、にじみと光沢を両立した高画質を得ることができる。
【0078】
また、上記実施形態のインクジェット印刷装置1においては、ブロア機構30の上段については、最も高い印字率(最大印字率)に適した熱量が得られるようにシロッコファン31の風量およびヒータ32の温度を制御し、下段については、各エリアの印字率に適した熱量が得られるようにシロッコファン31の風量およびヒータ32の温度を制御するようにしたので、生産性の低下を招くことなく、高印字率から低印字率まで、にじみと光沢のトレードオフを解決することができる。
【0079】
また、上記実施形態のインクジェット印刷装置1においては、シート部材Sとして、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレートを主成分とするシート部材を用いるようにしたので、これらのシート部材に対して光沢性を維持しつつ、にじみや光沢差が抑制された加飾画像を形成することができる。
【実施例0080】
次に、上記実施形態にインクジェット印刷装置1の具体的な実施例について説明する。
【0081】
下表1は、実施例1および比較例1~比較例4を示す表である。
【0082】
下表1において、実施例1は、上記実施形態のインクジェット印刷装置1のように、ブロア機構30による気流の発生およびユニット毎の温度制御とプラテン用ヒータ22による加熱を行った結果である。
【0083】
評価画像は、印刷幅方向(左右方向)に印字率が20~100%に変化し、前後方向については印字率が変化しないグラデーション画像を用いた。
【0084】
また、シート部材Sは、ポリプロピレン(ユポコーポレーション社製ハイグロスGAR110 厚み110μm(製品番号:GAR110-K-250))とポリエステル(東レ社製ルミラー(登録商標)#100 厚み101μm)を用いた。
【0085】
評価項目は、「にじみ」と「光沢差」を評価した。「にじみ」が「〇」とは、加飾画像が画像データ通りに再現できていることを意味する。「にじみ」が「×」とは、にじみが発生し、加飾画像が画像データ通りに再現できていないことを意味する。また、「光沢差」が「〇」とは、光沢性が印字率によらず一様であることを意味する。「光沢差」が「×」とは、光沢性の差が確認できることを意味する。
【0086】
表1に示すとおり、実施例と比較して、比較例1、比較例2および比較例4では、溶剤インクの乾燥を十分に行うことができず、「にじみ」の評価結果が悪化した。また、比較例3では、印字率によって溶剤インクのレベリングに差が生じ、その結果、光沢差が出た。
【表1】
【0087】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階でその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成することができる。たとえば実施形態に示される全構成要素を適宜組み合わせても良い。このような、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能であることはもちろんである。
【0088】
本発明に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0089】
(付記1)
本発明の加飾装置は、溶剤インクを、その溶剤インクの溶剤に対して溶解しないシート部材に吐出するインク吐出部と、シート部材が搬送される搬送路およびそのシート部材の搬送路に対向する裏面を加熱する裏面加熱部を有する搬送部と、シート部材の溶剤インクが吐出される側の表面を加熱する表面加熱部と、シート部材の表面に沿って気流を発生させる気流発生部とを備え、表面加熱部が、シート部材の搬送方向に直交する方向について分割されたエリア毎の印字率に応じて、エリア毎の温度制御を行う。
【0090】
(付記2)
付記1記載の加飾装置において、裏面加熱部は、シート部材の搬送方向について上流側加熱部と下流側加熱部とを有し、下流側加熱部の方が上流側加熱部よりも加熱温度が高くなるように制御することができる。
【0091】
(付記3)
付記1または付記2記載の加飾装置において、気流発生部は、シート部材の表面に対して直交する方向に配列された上段気流発生部と下段気流発生部とを有することができ、表面加熱部は、上段気流発生部の気流を加熱する上段加熱部と下段気流発生部の気流を加熱する下段加熱部とを有することができ、上段加熱部は、最大印字率に応じた温度制御を行い、下段加熱部は、エリア毎の印字率に応じた温度制御を行うことができる。
【0092】
(付記4)
付記1から付記3いずれかに記載の加飾装置において、シート部材は、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレートを主成分とすることができる。
【0093】
(付記5)
本発明の加飾方法は、溶剤インクを、その溶剤インクの溶剤に対して溶解しないシート部材に吐出して加飾する加飾方法であって、搬送路上を搬送されるシート部材の搬送路に対向する裏面を加熱するとともに、シート部材の溶剤インクが吐出される側の表面を加熱しながら、シート部材の表面に沿って気流を発生し、シート部材の搬送方向に直交する方向について分割されたエリア毎の印字率に応じて、エリア毎の温度制御を行う。