(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154029
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】踏切障害物検知システム
(51)【国際特許分類】
G01S 17/93 20200101AFI20241023BHJP
G01S 7/497 20060101ALI20241023BHJP
B61L 29/00 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
G01S17/93
G01S7/497
B61L29/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067614
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】安井 邦雄
【テーマコード(参考)】
5H161
5J084
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161MM05
5H161MM14
5H161NN12
5H161PP01
5H161PP11
5J084AA05
5J084CA31
5J084EA20
5J084EA22
(57)【要約】
【課題】踏切障害物検知システムにおいて、低反射率の障害物の検知を可能としつつ、障害物の存在を誤通知することを抑制する。
【解決手段】踏切障害物検知システム(18)は、レーザ光を照射する照射部(46,42,44,48)、及び反射されたレーザ光を受光する受光部(47)を有し、検知エリアの地面に向けて照射部がレーザ光を照射するように配置されたレーザレーダ装置(25)と、各照射角度における物体までの距離を測定する測距部(62)と、測定された距離が正常距離範囲から外れた異常照射角度における距離を、異常照射角度の前後の照射角度の少なくとも一方における正常距離範囲の距離に基づいて補間する補間部(63)と、測定された距離又は補間された距離が、各照射角度において想定される地面までの想定距離から変化したとみなす場合に通知し、想定距離から変化していないとみなす場合に通知しない通知部(64)と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏切道内の障害物を検知する踏切障害物検知システムであって、
所定角度毎に設定されている照射角度へレーザ光を照射する照射部、及び物体により反射された前記レーザ光を受光する受光部を有し、地面よりも高い位置から前記踏切道内の検知エリアの地面に向けて前記照射部が前記レーザ光を照射するように配置されたレーザレーダ装置と、
前記受光部が受光した前記レーザ光に基づいて、各照射角度における前記レーザレーダ装置から物体までの距離を測定する測距部と、
前記測距部により測定された前記距離が正常距離範囲から外れた前記照射角度である異常照射角度における前記距離を、前記異常照射角度の前後の前記照射角度の少なくとも一方における前記正常距離範囲の前記距離に基づいて補間する補間部と、
前記測距部により測定された前記距離又は前記補間部により補間された前記距離が、各照射角度において想定される前記レーザレーダ装置から前記地面までの距離である想定距離から変化したとみなす場合に前記障害物の存在を通知し、前記想定距離から変化していないとみなす場合に前記障害物の存在を通知しない通知部と、
を備える踏切障害物検知システム。
【請求項2】
前記補間部は、前記異常照射角度における前記距離を、前記異常照射角度の1つ前の前記照射角度における前記正常距離範囲の前記距離に等しくする、請求項1に記載の踏切障害物検知システム。
【請求項3】
前記照射部は、1回の走査において開始角度から前記所定角度毎に終了角度まで前記レーザ光を照射し、
前記補間部は、前記1回の走査において、前記開始角度から前記異常照射角度が連続する場合に、前記測距部により測定された前記距離が最初に前記正常距離範囲になった前記照射角度である第1正常照射角度における前記距離を、前記開始角度から前記第1正常照射角度までの前記距離として用い、前記第1正常照射角度よりも後の前記異常照射角度における前記距離を、前記異常照射角度の1つ前の前記照射角度における前記正常距離範囲の前記距離に等しくする、請求項1に記載の踏切障害物検知システム。
【請求項4】
前記通知部により前記障害物の存在が通知された場合に、列車を停止させる停止信号を前記列車に送信する停止送信部を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の踏切障害物検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踏切道内の障害物を検知するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、監視エリアに水平にレーザ光を照射し、監視エリア内に侵入した物体により反射されたレーザ光を検知することで障害物を検知するシステムがある(特許文献1参照)。特許文献1に記載のシステムでは、レーザ光の照射方向において監視エリアの外側に列車軌道に略平行に基準ポールを立設し、基準ポールの方向において距離が測定されない場合に低反射率の障害物が存在すると判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、レーザレーダ装置を高所に設置して地面に向けてレーザ光を照射することにより、レーザレーダ装置に対する悪戯を防止したり、レーザレーダ装置が接雪に埋まることを抑制したりすることが考えられる。しかし、この場合、レーザ光の照射方向において監視エリアの外側に基準ポールを設置することができず、特許文献1に記載の方法で低反射率の障害物を検知することが難しくなる。
【0005】
そこで、地面を基準ポールの代わりに利用することを本願発明は着想した。しかし、地面に水溜まりや氷が存在する場合は、レーザ光が鏡面反射されて距離が測定されないおそれがある。この場合に、低反射率の障害物が存在すると判定すると、障害物の存在を誤って通知するおそれがある。踏切障害物検知システムから障害物の存在が誤通知されると、列車の運行に支障をきたすおそれがあるため、障害物の存在を誤通知することをできる限り避ける必要がある。
【0006】
本発明は、こうした課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、地面よりも高い位置から地面に向けてレーザ光を照射する踏切障害物検知システムにおいて、低反射率の障害物の検知を可能としつつ、障害物の存在を誤通知することを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の手段は、
踏切道内の障害物を検知する踏切障害物検知システムであって、
所定角度毎に設定されている照射角度へレーザ光を照射する照射部、及び物体により反射された前記レーザ光を受光する受光部を有し、地面よりも高い位置から前記踏切道内の検知エリアの地面に向けて前記照射部が前記レーザ光を照射するように配置されたレーザレーダ装置と、
前記受光部が受光した前記レーザ光に基づいて、各照射角度における前記レーザレーダ装置から物体までの距離を測定する測距部と、
前記測距部により測定された前記距離が正常距離範囲から外れた前記照射角度である異常照射角度における前記距離を、前記異常照射角度の前後の前記照射角度の少なくとも一方における前記正常距離範囲の前記距離に基づいて補間する補間部と、
前記測距部により測定された前記距離又は前記補間部により補間された前記距離が、各照射角度において想定される前記レーザレーダ装置から前記地面までの距離である想定距離から変化したとみなす場合に前記障害物の存在を通知し、前記想定距離から変化していないとみなす場合に前記障害物の存在を通知しない通知部と、
を備える。
【0008】
上記構成によれば、レーザレーダ装置は、所定角度毎に設定されている照射角度へレーザ光を照射する照射部、及び物体により反射された前記レーザ光を受光する受光部を有し、地面よりも高い位置から前記踏切道内の検知エリアの地面に向けて前記照射部が前記レーザ光を照射するように配置されている。このため、照射部により照射されたレーザ光が障害物により反射された場合は、反射されたレーザ光が受光部により受光される。そして、測距部は、前記受光部が受光した前記レーザ光に基づいて、各照射角度における前記レーザレーダ装置から物体までの距離を測定する。このため、測距部は、レーザ光が障害物により反射された照射角度において、レーザレーダ装置から障害物までの距離を測定することができる。一方、照射部により照射されたレーザ光が水溜まりや氷により鏡面反射された場合は、反射されたレーザ光が受光部に戻らないため、受光部によりレーザ光が受光されない。この場合、測距部は、前記受光部が受光した前記レーザ光に基づくことができず、レーザ光が水溜まりや氷により鏡面反射された照射角度において、前記レーザレーダ装置から水溜まりや氷までの距離を測定することができない。したがって、測距部により測定される距離は、測定された距離がない状態や、通常あり得ない距離等、正常距離範囲から外れた距離となる。正常距離範囲は、レーザレーダ装置が配置された状況に応じて測定距離として取り得る所定の距離範囲であり、予め試験や設計値に基づいて設定しておくことができる。レーザ光が低反射率の障害物に照射された場合も、レーザ光が受光部に戻らないため、測距部により測定される距離は、正常距離範囲から外れた距離となる。
【0009】
ここで、レーザ光が低反射率の障害物に照射された場合であっても、低反射率の障害物に照射された全てのレーザ光が受光部に戻らないわけではなく、照射角度によってレーザ光は受光部へ戻ったり戻らなかったりする。また、レーザ光が水溜まりや氷に照射された場合であっても、水溜まりや氷に照射される全てのレーザ光が鏡面反射されるわけではなく、照射角度によってレーザ光は受光部へ戻ったり戻らなかったりする。このため、補間部は、前記測距部により測定された前記距離が正常距離範囲から外れた前記照射角度である異常照射角度における前記距離を、前記異常照射角度の前後の前記照射角度の少なくとも一方における前記正常距離範囲の前記距離に基づいて補間することができる。なお、異常照射角度が連続する場合であっても、異常照射角度から照射角度が離れていけば正常距離範囲の前記距離が測定された照射角度が存在し、連続する異常照射角度における前記距離を正常距離範囲の前記距離が測定された照射角度の隣の異常照射角度から順に補間していくことができる。したがって、測距部は、レーザレーダ装置から低反射率の障害物までの距離を取得することができる。また、測距部は、レーザレーダ装置から水溜まりや氷までの距離、すなわちレーザレーダ装置から地面までの距離を取得することができる。
【0010】
そして、通知部は、前記測距部により測定された前記距離又は前記補間部により補間された前記距離が、各照射角度において想定される前記レーザレーダ装置から前記地面までの距離である想定距離から変化したとみなす場合に前記障害物の存在を通知し、前記想定距離から変化していないとみなす場合に前記障害物の存在を通知しない。このため、検知エリアに低反射率の障害物が侵入した場合は、測距部により測定された障害物までの前記距離が想定距離から変化したとみなされ、障害物の存在を通知することができる。一方、レーザ光が水溜まりや氷に照射された場合は、測距部により測定された水溜まりや氷(すなわち地面)までの前記距離が想定距離から変化していないとみなされ、障害物の存在を通知しないようにすることができる。したがって、踏切障害物検知システムは、低反射率の障害物の検知を可能としつつ、障害物の存在を誤通知することを抑制することができる。
【0011】
第2の手段では、前記補間部は、前記異常照射角度における前記距離を、前記異常照射角度の1つ前の前記照射角度における前記正常距離範囲の前記距離に等しくする。こうした構成によれば、前記異常照射角度の1つ前の前記照射角度における前記正常距離範囲の前記距離をコピー(複写)して前記異常照射角度の前記距離にペースト(貼付)することにより、前記異常照射角度における前記距離を容易に補間することができる。さらに、前記異常照射角度における前記距離として、前記異常照射角度の1つ前の前記照射角度における前記正常距離範囲の前記距離を用いているため、前記異常照射角度における前記距離を簡易な処理で妥当な値に設定することができる。
【0012】
前記異常照射角度の1つ前の前記照射角度における前記正常距離範囲の前記距離をコピー(複写)して前記異常照射角度における前記距離とする場合に、コピーする元となる前記正常距離範囲の前記距離が存在しないことがあり得る。この場合に、開始角度から所定角度毎に終了角度までレーザ光を照射した前回の走査において測定された前記距離を、今回の走査での異常照射角度における前記距離として用いることが考えられる。しかし、前回のレーザ光の走査においても今回の走査での異常照射角度で前記正常距離範囲の前記距離が測定されていなかった場合は、さらにその前回の走査において測定された前記距離を用いる必要がある。そのように過去に測定された前記距離を障害物の検知に用いた場合は、障害物までの現在の前記距離が過去の前記距離から変わっているおそれがあり、安全上問題がある。
【0013】
この点、第3の手段では、前記照射部は、1回の走査において開始角度から前記所定角度毎に終了角度まで前記レーザ光を照射し、前記補間部は、前記1回の走査において、前記開始角度から前記異常照射角度が連続する場合に、前記測距部により測定された前記距離が最初に前記正常距離範囲になった前記照射角度である第1正常照射角度における前記距離を、前記開始角度から前記第1正常照射角度までの前記距離として用い、前記第1正常照射角度よりも後の前記異常照射角度における前記距離を、前記異常照射角度の1つ前の前記照射角度における前記正常距離範囲の前記距離に等しくする。こうした構成によれば、前記開始角度から前記異常照射角度が連続する場合であっても、照射角度が進んで前記正常距離範囲の前記距離が測定されれば、前記第1正常照射角度における前記距離を、前記開始角度から前記第1正常照射角度までの前記距離として用いることができる。このため、過去に測定された前記距離を用いる必要がなく、1回のレーザ光の走査において測定された前記正常距離範囲の前記距離に基づいて、コピーする元となる前記正常距離範囲の前記距離を設定することができる。そして、コピーする元となる前記正常距離範囲の前記距離が設定された後は、前記第1正常照射角度よりも後の前記異常照射角度における前記距離として、前記異常照射角度の1つ前の前記照射角度における前記正常距離範囲の前記距離を用いることができる。したがって、1回のレーザ光の走査において、全ての異常照射角度における前記距離を設定することができ、最新の状況に基づいて安全に障害物を検知することができる。
【0014】
第4の手段では、第1~第3のいずれか1つの手段を前提として、前記通知部により前記障害物の存在が通知された場合に、列車を停止させる停止信号を前記列車に送信する停止送信部を備える。こうした構成によれば、前記通知部により前記障害物の存在が通知された場合に、列車を自動停止させることができる。ここで、列車を自動停止させる場合は、障害物が存在しないにもかかわらず列車を誤って停止させることをできる限り避ける必要がある。この点、上記構成によれば、第1~第3のいずれか1つの手段を前提としているため、障害物の存在を誤通知することを抑制することができ、列車を誤停止させることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】踏切道及び踏切障害物検知システムを示す斜視図。
【
図6】通常反射率の自動車が存在する場合の照射角度と測定距離との関係を模式的に示すグラフ。
【
図7】補間部を備えない比較例の踏切障害物検知システムにおいて、低反射率の自動車が存在する場合の照射角度と測定距離との関係を模式的に示すグラフ。
【
図8】補間部を備えない比較例の踏切障害物検知システムにおいて、地面に水溜まりが存在する場合の照射角度と測定距離との関係を模式的に示すグラフ。
【
図9】補間部を備える本実施形態の踏切障害物検知システムにおいて、低反射率の自動車が存在する場合の照射角度と測定距離との関係を模式的に示すグラフ。
【
図10】補間部を備える本実施形態の踏切障害物検知システムにおいて、地面に水溜まりが存在する場合の照射角度と測定距離との関係を模式的に示すグラフ。
【
図12】踏切障害物検知システムの変更例を示す模式図。
【
図13】踏切障害物検知システムの他の変更例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、踏切道内の障害物を検知する踏切障害物検知システムに具現化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、踏切道10においては、複数の線路11とそれら線路11と交差(直交)する方向に延びる複数の道路12とが交わっている。線路11の脇には遮断機15が設置されている。遮断機15は、開閉バーとしての遮断桿16と、遮断桿16を回動可能に保持する踏切警報器柱17とを有してなり、線路11を挟んで手前側及び奥側に各々配設されている。
【0018】
列車が踏切道10を通過する場合には、遮断桿16の姿勢が垂直姿勢(開位置)から水平姿勢(閉位置)に切り替わることで道路12が遮断される。列車の通過後は、遮断桿16の姿勢が水平姿勢から垂直姿勢に切り替わることで道路12の遮断が解除される。以下の説明では、遮断桿16が垂直姿勢となっている遮断機15の状態を「開状態」、遮断桿16が水平姿勢となっている遮断機15の状態を「閉状態」と称する。
【0019】
踏切道10には、遮断機15が閉状態となっている場合に列車の運行を妨げる障害物(例えば車や人等)を検知する踏切障害物検知システム18が適用されている。この踏切障害物検知システム18によって障害物が検知された場合には、踏切道10に向けて走行中の列車や線路の管理センタにその旨が通知される。
【0020】
踏切障害物検知システム18は、踏切道10において障害物を検知するエリア(検知エリア)へレーザ光を照射するレーザレーダユニット25と、レーザレーダユニット25を制御する制御装置(後述)とを有している。レーザレーダユニット25(レーザレーダ装置)は、レーザレーダユニット用の支柱21(レーザレーダユニット用支柱21)に取り付けられている。レーザレーダユニット用支柱21は、遮断機15の近傍、具体的には遮断機15に対して踏切道10の中央側となる位置に配設されており、遮断機15とともに道路12に沿って並んでいる。なお、レーザレーダユニット25は、水平姿勢となっている遮断桿16よりも上方、詳しくは地面Gから約3mの高所(地面よりも高い位置)に配置されている。レーザレーダユニット25を高所に配置することで、レーザレーダユニット25を低所に配置する場合と比較して積雪や泥はね等の影響を受けにくい構成が実現されている。また、レーザレーダユニット25を高所に配置することは、レーザレーダユニット25への悪戯を抑制する上でも好ましい。
【0021】
レーザレーダユニット用支柱21は、その全長が遮断桿16の踏切警報器柱17よりも長くなっており、その先端部(上端部)が踏切警報器柱17よりも上方に突出している。レーザレーダユニット25は、この先端部にブラケット22を介して固定されている。
図2に示すように、ブラケット22は、レーザレーダユニット用支柱21にボルト等の固定具を用いて固定されるベース部23と、ベース部23から上向きに起立した一対のアーム部24とを有してなり、それらアーム部24によってレーザレーダユニット25が斜め下方に傾いた状態(道路12の地面Gに向いた状態)で保持されている。レーザレーダユニット25は、踏切道10における検知エリアよりも上方に位置し、検知エリアの地面Gに斜め上方からレーザ光を照射する。
【0022】
レーザレーダユニット25は、所定角度(例えば0.25°)毎に設定されている照射角度にてレーザ光を出力し物体Mにて反射されたレーザ光(以下、「反射光」と称する)を受光する光学機構41と、レーザレーダユニット25の外郭を構成するハウジング51とを備えている。ハウジング51にはレーザ光の照射口53が形成されており、この照射口53が道路12側を向くように設置されている。照射口53には透明な窓部材54が嵌っており、光学機構41からのレーザ光は窓部材54を透過して検知エリアへ照射される。
【0023】
光学機構41は、第1固定ミラー42、第2固定ミラー43、回転ミラー44、発光部46及び受光部47を有している。第2固定ミラー43の中心部には貫通穴45が形成されている。回転ミラー44は、第1固定ミラー42からの反射されたレーザ光に対する傾斜角度を一定に維持した状態で回転可能に構成されている。具体的には、回転ミラー44は上記ハウジング51に固定されたモータ48(例えばステッピングモータ)によって回転可能に軸支されており、モータ48は回転ミラー44を所定の走査方向へ向かって所定角度単位で回転(回動)させる。この回転軸は地面Gに対して斜めに傾いている。
【0024】
発光部46から出力されたレーザ光は、まず、第1固定ミラー42で反射され、貫通穴45を通り、回転ミラー44で反射された後に、窓部材54を通って検知エリアへ照射される。このように、第1固定ミラー42及び回転ミラー44は、発光部46から出力されたレーザ光を検知エリアへ導くための光路F1を形成している。なお、発光部46、第1固定ミラー42、回転ミラー44、及びモータ48により、照射部が構成されている。
【0025】
検知エリアへ照射されたレーザ光の光路F1上に何らかの物体Mが存在する場合、レーザ光は物体Mによって反射される。物体Mで反射された反射光は、窓部材54を通ってレーザレーダユニット25内へ入り、回転ミラー44及び第2固定ミラー43で反射される。そして、第2固定ミラー43で反射された反射光は、受光部47によって受光される。このように、回転ミラー44及び第2固定ミラー43は、物体Mで反射された反射光を受光部47へ導くための光路F2を形成している。受光部47は、受光した反射光の強度を検出可能となっている。
【0026】
レーザレーダユニット25には光学機構41(モータ48、発光部46、受光部47)用の駆動回路が設けられている。この駆動回路は制御装置60に接続されており、制御装置60からの指令等に基づいて光学機構41を制御し、反射光の強度の測定結果及び照射角度を示す情報を制御装置60に送信する。
【0027】
制御装置60には、記憶部61、測距部62、補間部63、通知部64、及び停止送信部65が設けられている。
【0028】
記憶部61はレーザレーダ用の制御プログラムや、レーザレーダユニット25から取得した各種測定結果を記憶する。
【0029】
また、測距部62は、受光部47が受光した反射光(レーザ光)に基づいて、各照射角度におけるレーザレーダユニット25から物体Mまでの距離を測定する。具体的には、測距部62は、周知のTOF(Time of Flight)方式により、発光部46によりレーザ光を出力してから受光部47により反射光を受光するまでの時間に基づいて(時間に比例させて)、レーザレーダユニット25から物体Mまでの距離を測定する。測距部62は、受光部47により検出された反射光の強度が、受光閾値よりも小さい場合は反射光を受光したとみなさず、受光閾値よりも大きい場合に反射光を受光したとみなす。ここで、レーザ光が低反射率の物体Mに照射された場合は、受光部47に届く反射光の強度が小さくなり、受光部47により検出される反射光の強度が受光閾値よりも小さくなる。また、レーザ光が地面Gの水溜まりや氷に照射された場合は、レーザ光が水溜まりや氷により鏡面反射され、受光部47の方向へほとんど反射されず、受光部47により受光される反射光の強度が受光閾値よりも小さくなる。これらの場合には、発光部46によりレーザ光を出力してから受光部47により反射光を受光したとみなすまでの時間が上限時間よりも長くなる。上限時間は、例えばレーザレーダユニット25が測定可能な上限距離に対応して設定されている。そこで、これらの場合(発光部46によりレーザ光を出力してから受光部47により反射光を受光したとみなすまでの時間が上限時間よりも長くなった場合)に本実施形態では、測距部62は、レーザレーダユニット25から物体Mまでの距離を、レーザレーダユニット25が測定可能な上限距離よりも長い最長距離Leとする。最長距離Leは、通常あり得ない便宜上の距離である。
【0030】
補間部63は、測距部62により測定された距離(以下、単に「測定距離」ということがある)が正常距離範囲から外れた照射角度である異常照射角度における距離を、異常照射角度の前後の照射角度の少なくとも一方における正常距離範囲の距離に基づいて補間する。例えば、正常距離範囲は、
図4の検知エリアDEに対応する距離範囲である。すなわち、正常距離範囲は、レーザレーダユニット25が配置された状況に応じて測定距離として取り得る所定の距離範囲であり、予め試験や設計値に基づいて設定しておくことができる。上記最長距離Leは、正常距離範囲から外れている。そして、異常照射角度の前後の照射角度の少なくとも一方において測距部62により測定された距離が正常距離範囲の距離であれば、その測定された正常距離範囲の距離に基づいて異常照射角度における距離を更新(補間)する。具体的には、補間部63は、異常照射角度における距離を、異常照射角度の1つ前の照射角度における正常距離範囲の距離に等しくする。すなわち、異常照射角度の1つ前の照射角度における正常距離範囲の距離をコピー(複写)して、異常照射角度における距離にペースト(貼付)する。異常照射角度の1つ前の照射角度における正常距離範囲の距離は、異常照射角度の1つ前の照射角度において測定された場合と、さらに1つ前の照射角度における正常距離範囲の距離をコピー&ペーストした場合とがある。なお、正常距離範囲を、照射エリアLEに対応する距離範囲とすることもできる。
【0031】
通知部64は、測距部62により測定された距離又は補間部63により補間された距離が、各照射角度において想定されるレーザレーダユニット25から地面Gまでの距離である想定距離Liから変化したとみなす場合に障害物の存在を通知し、想定距離Liから変化していないとみなす場合に障害物の存在を通知しない。通知部64は、障害物の存在を、踏切道10に向けて走行中の列車及び線路の管理センタに通知する。想定距離Liは、踏切道10に対して設置された踏切障害物検知システム18において各照射角度について予め計測しておいてもよいし、踏切障害物検知システム18の設計値及び踏切道10に対するレーザレーダユニット25の設置状態に基づいて各照射角度について予め計算しておいてもよい。例えば、通知部64は、想定距離Liと、測距部62により測定された距離又は補間部63により補間された距離との差の絶対値が、正の距離閾値RLを超えた場合に想定距離Liから変化したとみなし、距離閾値RLよりも小さい場合に想定距離Liから変化していないとみなす。距離閾値RLは、地面Gの凹凸による距離変化量よりも大きく、且つ物体Mによる距離変化量よりも小さい値に設定されている。
【0032】
停止送信部65は、通知部64により障害物の存在が通知された場合に、列車を停止させる停止信号を踏切道10に向けて走行中の列車に送信する。列車は、停止送信部65から停止信号を受信した場合に、運転士の操作を必要とせずに制動を行って自動的に停止する。なお、運転士は、列車を操作することにより、停止信号による自動停止を解除することができる。
【0033】
ここで、
図3及び
図4を参照して、レーザ光の照射エリアLEと検知エリアDEとの関係について説明する。レーザレーダユニット25については、上り下りの各道路12のうちレーザレーダユニット25に最寄りとなる道路12の地面G、詳しくは車道に向けてレーザ光を出力する。つまり、車道に障害物等が存在していない場合には、レーザ光は検知エリアDEを素通りして道路12(車道)の地面Gに照射され、地面Gにて反射されたレーザ光の一部が受光部47に届く(戻る)構成となっている。つまり、地面Gによって検知エリアDEの外縁の一部が規定されており、レーザレーダユニット25においては地面Gを検出可能となっている。
【0034】
上述したようにレーザレーダユニット25については走査型となっており、上記所定角度(0.25°)毎に設定された各照射角度(ANG1~ANG600)にてレーザ光が出力される。この照射エリアLEについては、踏切道10を横断しており、踏切道10内だけでなく各遮断機15を跨いで踏切道10の外側にまで延びている。各走査サイクルにおいては、レーザ光が一方(最寄り)の遮断機15側から他方(遠方)の遮断機15側へとシフトする。この照射エリアLEの一部(例えばANG100~ANG580)が検知エリアDEに対応しており、検知エリアDEについても踏切道10を横断している。レーザ光を反射した対象までの距離と照射角度とに基づいて、対象が検知エリアDE内に存在する障害物であるか否かが判定されることとなる。言い換えれば、制御装置60においては、踏切道10において適正となる実際の検知エリアに合せてプログラム上の検知エリアDEが設定されている。
【0035】
本実施形態では、レーザレーダユニット25の近辺は検知エリアDEから除外されている。検知エリアDEは、踏切道10を道路12が延びる方向に見た場合には、地面Gからレーザレーダユニット25の手前側となる位置へ延びる斜めの線分となり、踏切道10の平面視においては略四角形となるように規定されている。
【0036】
さらに、
図5に簡略化して示すように、通知部64は、検知エリアDEの地面Gに複数の検知箇所P1~P3を設定する。検知箇所P1~P3は、自動車を漏れなく検知することができるように、自動車の全長よりも短い間隔で設定されている。検知箇所P1~P3は、踏切道10内において線路11のレールから外れた位置、且つ地面Gが平坦な位置(地面Gの凹凸が所定よりも小さい位置)に設定されている。検知箇所P1~P3は、それぞれ照射角度Ap1~Ap3に対応している。各照射角度Ap1~Ap3は、それぞれ複数の照射角度を含んでいる。
【0037】
そして、通知部64は、例えば照射角度Ap1~Ap3のいずれかにおいて、想定距離Liと測定距離との差の絶対値が距離閾値RLよりも大きくなった場合に、測定距離が想定距離Liから変化したとみなす。詳しくは、通知部64は、照射角度Ap(照射角度Ap1~Ap3のいずれか)に含まれる複数の照射角度において、過半数の照射角度で上記差の絶対値が距離閾値RLよりも大きくなったことを条件として、測定距離が想定距離Liから変化したとみなす。本実施形態では、検知エリアDEにおいて検知箇所P1~P3以外の箇所、すなわち照射角度Ap1~Ap3以外の照射角度では、障害物の検知を行わない。これにより、検知エリアDEに対応する全照射角度で障害物の検知を行う場合と比較して、自動車以外のゴミ等を障害物として検知することや、ノイズによる誤検知を抑制することができる。
【0038】
図6は、通常反射率の自動車が存在する場合の照射角度と測定距離との関係を模式的に示すグラフである。なお、レーザレーダユニット25から地面Gまでの距離Lgは、実際には照射角度によって異なるが、説明の便宜上グラフにおける地面Gまでの距離Lgの照射角度による変化を割愛している(以降の
図7~10も同様)。照射角度Apは、照射角度Ap1~Ap3のいずれか1つであり、
図6では1つの照射角度Apのみ表示している(以降の
図7~10も同様)。例えば、物体Mとして通常の反射率の自動車が踏切道10内に存在する場合は、自動車にレーザ光が照射された照射角度Amで測定される距離Lmは上記想定距離Liよりも短くなる。このため、照射角度Apにおいて、想定距離Liと測距距離との差の絶対値が上記距離閾値RL(>0)よりも大きくなり、通知部64は測定距離が想定距離Liから変化したとみなして障害物が存在すると通知する(障害物の存在を通知する)。
【0039】
ここで、レーザ光が低反射率の物体Mに照射された場合であっても、低反射率の物体Mに照射された全てのレーザ光が受光部47に戻らないわけではなく、照射角度によってレーザ光は受光部47へ戻ったり戻らなかったりする。
【0040】
図7は、補間部63を備えない比較例の踏切障害物検知システムにおいて、低反射率の自動車が存在する場合の照射角度と測定距離との関係を模式的に示すグラフである。例えば、物体Mとして低反射率の自動車が踏切道10内に存在する場合は、自動車にレーザ光が照射された照射角度Amで測定される距離は、自動車までの距離Lmになったり、上記最長距離Leになったりする。このため、照射角度Apにおいて、想定距離Liと測距距離との差の絶対値が上記距離閾値RL(>0)よりも大きくなり、比較例の踏切障害物検知システムは測定距離が想定距離Liから変化したとみなして障害物の存在を通知する。この場合は、低反射率の自動車が踏切道10内に侵入したことにより測定距離が想定距離Liから変化しているので、障害物の存在を通知しても問題ない。
【0041】
また、レーザ光が水溜まりや氷に照射された場合であっても、水溜まりや氷に照射される全てのレーザ光が鏡面反射されるわけではなく、照射角度によってレーザ光は受光部47へ戻ったり戻らなかったりする。
【0042】
図8は、補間部63を備えない比較例の踏切障害物検知システムにおいて、地面Gに水溜まりが存在する場合の照射角度と測定距離との関係を模式的に示すグラフである。例えば、踏切道10内の地面Gに水溜まりが存在する場合は、水溜まりにレーザ光が照射された照射角度Awで測定される距離は、地面Gまでの距離Lgになったり、上記最長距離Leになったりする。このため、照射角度Apにおいて、想定距離Liと測距距離との差の絶対値が上記距離閾値RL(>0)よりも大きくなり、比較例の踏切障害物検知システムは測定距離が想定距離Liから変化したとみなして障害物の存在を通知する。この場合は、障害物の存在ではなく水溜まりの存在により測定距離が想定距離Liから変化しているので、障害物の存在を通知すると列車の運行に支障をきたす。
【0043】
図9は、補間部63を備える本実施形態の踏切障害物検知システム18において、低反射率の自動車が存在する場合の照射角度と測定距離との関係を模式的に示すグラフである。例えば、物体Mとして低反射率の自動車が踏切道10内に存在し、自動車にレーザ光が照射された照射角度Amでの測定距離が最長距離Leになった(上記異常照射角度に対応)場合は、補間部63により1つ前の照射角度における正常距離範囲の距離がコピーされて、異常照射角度における距離にペーストされる。このため、実線で示す補間後のグラフは
図6に示すグラフと同様になる。したがって、照射角度Apにおいて、想定距離Liと測距距離との差の絶対値が上記距離閾値RL(>0)よりも大きくなり、通知部64は測定距離が想定距離Liから変化したとみなして障害物の存在を通知する。この場合は、低反射率の自動車が踏切道10内に侵入したことにより測定距離が想定距離Liから変化しているので、障害物の存在を通知しても問題ない。
【0044】
図10は、補間部63を備える本実施形態の踏切障害物検知システム18において、地面Gに水溜まりが存在する場合の照射角度と測定距離との関係を模式的に示すグラフである。例えば、踏切道10内の地面Gに水溜まりが存在し、水溜まりにレーザ光が照射された照射角度Awでの測定距離が最長距離Leになった(上記異常照射角度に対応)場合は、補間部63により1つ前の照射角度における正常距離範囲の距離がコピーされて、異常照射角度における距離にペーストされる。このため、実線で示す補間後のグラフでは測定距離が想定距離Liに略一致する。したがって、照射角度Apにおいて、想定距離Liと測距距離との差の絶対値が上記距離閾値RL(>0)よりも小さくなり、通知部64は測定距離が想定距離Liから変化していないとみなして障害物の存在を通知しない。
【0045】
図11は、障害物検知の手順を示すフローチャートである。この一連の処理は制御装置60により、レーザ光の1回の走査毎に繰り返し実行される。制御装置60は、
図11の各処理を各部61~65により上述したように実行する。
【0046】
まず、レーザレーダユニット25によりレーザ光を照射させる照射角度が、終了角度(ANG600)以下であるか否か判定する(S10)。照射角度は、初期値が開始角度(ANG1)であり、S10の処理が繰り返される度にANGを1進める。例えば、1回目のS10の処理では照射角度=ANG1であり、S13の処理の後の2回目のS10の処理では照射角度=ANG2である。この判定において、照射角度が終了角度以下でないと判定した場合(S10:NO)、S17の処理へ進む。一方、この判定において、照射角度が終了角度以下であると判定した場合(S10:YES)、レーザレーダユニット25により今回の照射角度にレーザ光を照射させ、物体からの反射光に基づいてレーザレーダユニット25から物体までの距離を測定する(S11)。
【0047】
続いて、測定距離が正常距離範囲であるか否か判定する(S12)。この判定において、測定距離が正常距離範囲でないと判定した場合(S12:NO)、保留数に1を加算した値を新たな保留数とする。保留数は、正常距離範囲の距離を測定できずに測定距離を採用することを開始角度から保留している数であり、初期値は0である。測定距離が正常距離範囲でないと判定された照射角度は、異常照射角度に相当する。S13の処理の後、S10の処理から再度実行する。
【0048】
一方、S12の判定において、測定距離が正常距離範囲であると判定した場合(S12:YES)、正常距離範囲の測定距離を保存する(S14)。測定距離が最初に正常距離範囲になった照射角度は、第1正常照射角度に相当する。後述するS24の処理で用いる1つ前の角度の測定距離として、保存した測定距離をコピーする(S15)。開始角度から保留数分の照射角度までの測定距離に、S15の処理でコピーした測定距離をペーストする(S16)。すなわち、1回の走査において、開始角度(ANG1)から異常照射角度が連続する場合に、第1正常照射角度における測定距離を開始角度から第1正常照射角度までの距離として用いる。
【0049】
続いて、保留数が全照射角度の数と等しいか否か判定する(S17)。この判定において、保留数が全照射角度の数と等しいと判定した場合(S17:YES)、距離取得エラーとしてエラー処理を実行する(S18)。その後、S25の処理へ進む。
【0050】
一方、S17の判定において、保留数が全照射角度の数と等しくないと判定した場合(S17:NO)、S19の処理へ進む。S19~S23の処理は、S10~S12,S14,15の処理と同一であるので説明を省略する。S19の処理は、S10~S16の処理で進んだ照射角度から継続して実行する。照射角度は、S19の処理が繰り返される度にANGを1進める。S23の処理の後、S19の処理から再度実行する。
【0051】
S21の処理において、測定距離が正常距離範囲でないと判定した場合(S21:NO)、今回の照射角度(異常照射角度)における測定距離に、1つ前の照射角度の測定距離をペーストする(S24)。すなわち、第1正常照射角度よりも後の異常照射角度における測定距離を、異常照射角度の1つ前の照射角度における正常距離範囲の測定距離に等しくする。S24の処理の後、S19の処理から再度実行する。
【0052】
また、S19の判定において、照射角度が終了角度以下でないと判定した場合(S19:NO)、障害物が存在するか否か判定する(S25)。詳しくは、照射角度Ap1~Ap3のいずれかにおいて、想定距離Liと測定距離との差の絶対値が距離閾値RLよりも大きくなった場合に、測定距離が想定距離Liから変化したとみなして障害物が存在すると判定する。この判定において、障害物が存在すると判定した場合(S25:YES)、踏切道10に向けて走行中の列車及び線路の管理センタに障害物の存在を通知する(S26)。列車を停止させる停止信号を踏切道10に向けて走行中の列車に送信する(S27)。その後、この一連の処理を一旦終了する。一方、S25の判定において、障害物が存在すると判定しなかった場合(S25:NO)、この一連の処理を一旦終了する。
【0053】
S11及びS20の処理が測距部62としての処理に相当し、S12~S16、及びS21~S24の処理が補間部63としての処理に相当し、S25及びS26の処理が通知部64としての処理に相当し、S27の処理が停止送信部65としての処理に相当する。
【0054】
なお、S16の処理に代えて、開始角度から所定角度毎に終了角度までレーザ光を照射した前回の走査において測定された距離を、今回の走査での異常照射角度における距離として用いることが考えられる。しかし、前回のレーザ光の走査においても今回の走査での異常照射角度で正常距離範囲の距離が測定されていなかった場合は、さらにその前回の走査において測定された距離を用いる必要がある。そのように過去に測定された距離を障害物の検知に用いた場合は、障害物までの現在の距離が過去の距離から変わっているおそれがあり、安全上問題がある。
【0055】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0056】
・レーザ光が低反射率の障害物に照射された場合であっても、低反射率の障害物に照射された全てのレーザ光が受光部47に戻らないわけではなく、照射角度によってレーザ光は受光部47へ戻ったり戻らなかったりする。また、レーザ光が水溜まりや氷に照射された場合であっても、水溜まりや氷に照射される全てのレーザ光が鏡面反射されるわけではなく、照射角度によってレーザ光は受光部47へ戻ったり戻らなかったりする。このため、補間部63は、測距部62により測定された距離が正常距離範囲から外れた照射角度である異常照射角度における距離を、異常照射角度の前の照射角度における正常距離範囲の距離に基づいて補間することができる。なお、異常照射角度が連続する場合であっても、異常照射角度から照射角度が戻っていけば正常距離範囲の距離が測定された照射角度が存在し、連続する異常照射角度における距離を正常距離範囲の距離が測定された照射角度の次の異常照射角度から順に補間していくことができる。したがって、測距部62は、レーザレーダユニット25から低反射率の障害物までの距離を取得することができる。また、測距部62は、レーザレーダユニット25から水溜まりや氷までの距離、すなわちレーザレーダユニット25から地面Gまでの距離を取得することができる。
【0057】
・通知部64は、測距部62により測定された距離又は補間部63により補間された距離が、各照射角度において想定されるレーザレーダユニット25から地面Gまでの距離である想定距離Liから変化したとみなす場合に障害物の存在を通知し、想定距離Liから変化していないとみなす場合に障害物の存在を通知しない。このため、検知エリアに低反射率の障害物が侵入した場合は、測距部62により測定された障害物までの距離が想定距離Liから変化したとみなされ、障害物の存在を通知することができる。一方、レーザ光が水溜まりや氷に照射された場合は、測距部62により測定された水溜まりや氷(すなわち地面G)までの距離が想定距離Liから変化していないとみなされ、障害物の存在を通知しないようにすることができる。したがって、踏切障害物検知システム18は、低反射率の障害物の検知を可能としつつ、障害物の存在を誤通知することを抑制することができる。
【0058】
・補間部63は、異常照射角度における距離を、異常照射角度の1つ前の照射角度における正常距離範囲の距離に等しくする。こうした構成によれば、異常照射角度の1つ前の照射角度における正常距離範囲の距離をコピー(複写)して異常照射角度の距離にペースト(貼付)することにより、異常照射角度における距離を容易に補間することができる。さらに、異常照射角度における距離として、異常照射角度の1つ前の照射角度における正常距離範囲の距離を用いているため、異常照射角度における距離を簡易な処理で妥当な値に設定することができる。
【0059】
・補間部63は、1回の走査において、開始角度から異常照射角度が連続する場合に、測距部62により測定された距離が最初に正常距離範囲になった照射角度である第1正常照射角度における距離を、開始角度から第1正常照射角度までの距離として用い、第1正常照射角度よりも後の異常照射角度における距離を、異常照射角度の1つ前の照射角度における正常距離範囲の距離に等しくする。こうした構成によれば、開始角度から異常照射角度が連続する場合であっても、照射角度が進んで正常距離範囲の距離が測定されれば、第1正常照射角度における距離を、開始角度から第1正常照射角度までの距離として用いることができる。このため、過去に測定された距離を用いる必要がなく、1回のレーザ光の走査において測定された正常距離範囲の距離に基づいて、コピーする元となる正常距離範囲の距離を設定することができる。そして、コピーする元となる正常距離範囲の距離が設定された後は、第1正常照射角度よりも後の異常照射角度における距離として、異常照射角度の1つ前の照射角度における正常距離範囲の距離を用いることができる。したがって、1回のレーザ光の走査において、全ての異常照射角度における距離を設定することができ、最新の状況に基づいて安全に障害物を検知することができる。
【0060】
・踏切障害物検知システム18は、通知部64により障害物の存在が通知された場合に、列車を停止させる停止信号を列車に送信する停止送信部65を備える。こうした構成によれば、通知部64により障害物の存在が通知された場合に、列車を自動停止させることができる。ここで、列車を自動停止させる場合は、障害物が存在しないにもかかわらず列車を誤って停止させることをできる限り避ける必要がある。この点、障害物の存在を誤通知することを抑制されているため、列車を誤停止させることを抑制することができる。
【0061】
・通知部64は、検知箇所P1~P3にそれぞれ対応する照射角度Ap1~Ap3のいずれかにおいて、想定距離Liと測定距離との差の絶対値が距離閾値RLよりも大きくなった場合に、測定距離が想定距離Liから変化したとみなす。通知部64は、検知エリアDEにおいて検知箇所P1~P3以外の箇所、すなわち照射角度Ap1~Ap3以外の照射角度では、障害物の検知を行わない。これにより、検知エリアDEに対応する全照射角度で障害物の検知を行う場合と比較して、自動車以外のゴミ等を障害物として検知することや、ノイズによる誤検知を抑制することができる。
【0062】
なお、上記実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。上記実施形態と同一の部分については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0063】
・通知部64は、想定距離Liと測定距離との比に基づいて、測定距離が想定距離Liから変化したとみなしてもよい。
【0064】
・
図12に示すように、補間部63は、異常照射角度(θ+2θ1)における測定距離L3を、異常照射角度(θ+2θ1)の前の2つの照射角度θ,(θ+θ1)における正常距離範囲の測定距離L1,L2に基づいて予測(補間)することもできる。θ1は、隣の照射角度からの増加角度であり、例えば0.25°である。詳しくは、物体Mと照射角度θのレーザ光を表す直線との交点(x1,y1)において、x1=L1cosθ、y1=L1sinθである。同様に、物体Mと照射角度(θ+θ1)のレーザ光を表す直線との交点(x2,y2)において、x2=L2cos(θ+θ1)、y2=L2sin(θ+θ1)である。これらの関係から、交点(x1,y1)と交点(x2,y2)とを通る直線y=a1x+b1を求めることができる。異常照射角度(θ+2θ1)のレーザ光を表す直線y=a2x+b2において、a2=tan(θ+2θ1)、b2=0である。これら2つの直線の交点(x3,y3)を、これら2つの直線の式から求めることができる。そして、交点(x3,y3)の座標から、異常照射角度(θ+2θ1)における測定距離L3を求めることができる。
【0065】
・
図13に示すように、補間部63は、異常照射角度(θ+θ1)における測定距離L3を、異常照射角度(θ+θ1)の前後の照射角度θ,(θ+2θ1)における正常距離範囲の測定距離L1,L2に基づいて予測(補間)することもできる。θ1は、隣の照射角度からの増加角度であり、例えば0.25°である。詳しくは、測定距離L1の点Aと測定距離L2の点Bとを線分で結んで線分L1,L2とで三角形を作り、余弦定理を適用することにより、測定距離L3=√(L1^2+L2^2-2L1L2cos2θ1)で求めることができる。L1^2は、L1の2乗を表す。
【0066】
なお、測定距離L1,L2の平均距離として、測定距離L3を予測(補間)することもできる。また、点Aと点Bとを通る直線と、照射角度(θ+θ1)のレーザ光を表す直線との交点の座標から測定距離L3を算出(補間)することもできる。これらの場合も、補間部63は、異常照射角度(θ+θ1)における測定距離L3を、異常照射角度(θ+θ1)の前後の照射角度θ,(θ+2θ1)における正常距離範囲の測定距離L1,L2に基づいて補間している。
【0067】
・発光部46によりレーザ光を出力してから受光部47により反射光を受光したとみなすまでの時間が上限時間よりも長い場合に、測距部62はレーザレーダユニット25から物体Mまでの距離を測定不能、すなわち測定された距離(距離値)なしとしてもよい。この場合も、補間部63は、測距部62により測定された距離が正常距離範囲から外れていると判定すればよい。
【0068】
・各照射角度Ap1~Ap3は、それぞれ1つの照射角度のみを含んでいてもよい。
【0069】
・通知部64は、検知エリアDEにおいて検知箇所P1~P3以外の箇所、すなわち照射角度Ap1~Ap3以外の照射角度でも、障害物の検知を行ってもよい。また、通知部64は、検知エリアDEにおいて検知箇所P1~P3以外の箇所、すなわち照射角度Ap1~Ap3以外の照射角度において、照射角度Ap1~Ap3での障害物検知方法と異なる方法により障害物検知を行ってもよい。
【0070】
・
図11のフローチャートにおいてS27の処理を省略することできる。すなわち、踏切障害物検知システム18は、停止送信部65を備えていなくてよい。また、
図11のフローチャートにおいてS27の処理に代えて、踏切道10付近に設けられた信号機により停止表示させる停止表示信号を信号機に送信してもよい。
【0071】
・レーザレーダユニット25を、遮断機15における所定高さの位置(地面Gよりも高い位置)に取り付けることもできる。
【0072】
なお、上記実施形態及びその変更例を、組み合わせ可能な範囲で組み合わせて実施することもできる。
【符号の説明】
【0073】
10…踏切道、18…踏切障害物検知システム、25…レーザレーダユニット(レーザレーダ装置)、42…第1固定ミラー、44…回転ミラー、46…発光部、47…受光部、48…モータ、62…測距部、63…補間部、64…通知部、65…停止送信部。