(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154034
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】高炉装入物の衝撃エネルギ推定方法
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
C21B5/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067623
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】夏井 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 雅人
(72)【発明者】
【氏名】橋口 昇平
(57)【要約】
【課題】 高炉装入物に与えられた衝撃エネルギを推定する。
【解決手段】 高炉装入物に与えられた衝撃エネルギを推定する方法では、高炉装入物の撮影画像に基づいて、高炉装入物の粒子の円形度を算出する。そして、予め特定された円形度及び衝撃エネルギの相関関係に基づいて、算出した円形度に対応する衝撃エネルギを算出する。相関関係においては、衝撃エネルギが大きいほど、円形度が大きくなる。衝撃エネルギは、ドラム試験機でのドラム回転数として表すことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉装入物に与えられた衝撃エネルギを推定する方法であって、
高炉装入物の撮影画像に基づいて、高炉装入物の粒子の円形度を算出し、
予め特定された前記円形度及び前記衝撃エネルギの相関関係に基づいて、算出した前記円形度に対応する前記衝撃エネルギを算出することを特徴とする高炉装入物の衝撃エネルギ推定方法。
【請求項2】
前記相関関係において、前記衝撃エネルギが大きいほど、前記円形度が大きくなることを特徴とする請求項1に記載の高炉装入物の衝撃エネルギ推定方法。
【請求項3】
前記衝撃エネルギは、ドラム試験機でのドラム回転数として表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の高炉装入物の衝撃エネルギ推定方法。
【請求項4】
前記円形度は、高炉装入物の複数の粒子から特定される複数の円形度の平均値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高炉装入物の衝撃エネルギ推定方法。
【請求項5】
高炉装入物の粒子の円形度を算出するとき、前記粒子の粒径及び円形度の相関関係に基づいて、前記撮影画像から算出した円形度を前記粒子の粒径に応じて補正することを特徴とする請求項1に記載の高炉装入物の衝撃エネルギ推定方法。
【請求項6】
高炉に高炉装入物を搬送する搬送経路の途中において、搬送中の高炉装入物を撮影することにより、前記撮影画像を生成することを特徴とする請求項1に記載の高炉装入物の衝撃エネルギ推定方法。
【請求項7】
高炉に高炉装入物を搬送する搬送経路の途中において高炉装入物を採取し、採取した高炉装入物を撮影することにより、前記撮影画像を生成することを特徴とする請求項1に記載の高炉装入物の衝撃エネルギ推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉に装入される高炉装入物が搬送などで受けた衝撃エネルギを推定する方法である。
【背景技術】
【0002】
高炉には鉄原料(焼結鉱や鉄鉱石など)及びコークスが装入されるが、これらの高炉装入物は高炉まで搬送される。この搬送経路を高炉装入物が移動するときには、高炉装入物が衝撃を受けることがあり、この衝撃エネルギによって高炉装入物の性状が変化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高炉装入物の性状を把握する上では、高炉装入物に与えられた衝撃エネルギを把握することが有効である。本発明者らは、高炉装入物の粒子の円形度に着目したところ、円形度及び衝撃エネルギの間に相関関係があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、高炉装入物に与えられた衝撃エネルギを推定する方法であって、高炉装入物の撮影画像に基づいて、高炉装入物の粒子の円形度を算出する。そして、予め特定された円形度及び衝撃エネルギの相関関係に基づいて、算出した円形度に対応する衝撃エネルギを算出する。
【0006】
上述した相関関係においては、衝撃エネルギが大きいほど、円形度が大きくなる。一方、衝撃エネルギは、ドラム試験機でのドラム回転数として表すことができる。
【0007】
円形度としては、高炉装入物の複数の粒子から特定される複数の円形度の平均値とすることができる。高炉装入物の粒子の円形度を算出するとき、粒子の粒径及び円形度の相関関係に基づいて、撮影画像から算出した円形度を粒子の粒径に応じて補正することができる。
【0008】
高炉に高炉装入物を搬送する搬送経路の途中において、搬送中の高炉装入物を撮影することにより、撮影画像を生成することができる。また、高炉に高炉装入物を搬送する搬送経路の途中において高炉装入物を採取し、採取した高炉装入物を撮影することにより、撮影画像を生成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高炉装入物の粒子の円形度を算出することにより、円形度及び衝撃エネルギの相関関係に基づいて、高炉装入物に与えられた衝撃エネルギを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】高炉装入物が受けた衝撃エネルギ(ドラム回転数)を推定する処理を説明するフローチャートである。
【
図2】コークスの搬送経路(一例)を説明する図である。
【
図3】装入物粒子の円形度及び粒径の相関関係を示す図である。
【
図5】装入物粒子の集合体を撮影したときの深さ画像(一例)を示す図である。
【
図6】
図5に示す画像に対して不連続点検出処理を行った後の2値化画像(一例)を示す図である。
【
図7】
図6に示す画像に対して細線化処理を行った後の画像(一例)を示す図である。
【
図8】
図5に示す深さ画像に対して、最終的に特定された装入物粒子の輪郭線を重ね合わせた画像(一例)を示す図である。
【
図9】各回転数について、コークス粒子の円形度及び累積頻度の関係を示す図である。
【
図10】コークス粒子の平均円形度及びドラム回転数の相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態は、高炉に装入される高炉装入物を搬送するときなどにおいて、高炉装入物に与えられた衝撃エネルギを推定する方法である。高炉装入物としては、コークスや鉄原料(焼結鉱、塊鉱石、ペレット)が挙げられる。高炉装入物は、所定の搬送経路に沿って搬送されて、高炉に装入される。本実施形態によれば、搬送経路上の任意の位置(以下、「評価位置」という)まで搬送された高炉装入物について、評価位置に搬送されるまでの間に高炉装入物が受けた衝撃エネルギを推定することができる。以下、具体的に説明する。
【0012】
図1は、高炉装入物が受けた衝撃エネルギを推定する方法を説明するフローチャートである。
【0013】
ステップS101では、予め決められた評価位置において、搬送経路に沿って搬送される高炉装入物の粒子(以下、「装入物粒子」という)を撮影する。評価位置は、高炉までの搬送経路上に位置しており、適宜決めることができる。
【0014】
装入物粒子の撮影方法としては、例えば、以下に説明する2つの撮影方法が挙げられる。
【0015】
第1の撮影方法では、評価位置において、搬送経路を移動する装入物粒子を採取した後、撮影装置を用いて、採取した装入物粒子を撮影する。具体的には、採取した装入物粒子の集合体を複数のグループに分け、各グループの装入物粒子をトレイに載せる。そして、各グループについて、トレイに載せた複数の装入物粒子を撮影する。ここで、複数の装入物粒子が互いに重ならないように、言い換えれば、各装入物粒子の輪郭線の全体が把握できるように、装入物粒子を撮影することが好ましい。
【0016】
第2の撮影方法では、搬送経路に沿って装入物粒子を移動させながら、撮影装置を用いて、評価位置に到達した装入物粒子を撮影する。この場合には、搬送経路上の評価位置を撮影できるように撮影装置を設置しておけばよい。ここで、所定時間の間に複数回の撮影を行うことができ、複数回の撮影は、所定の時間周期で行うことができる。搬送経路上で装入物粒子を移動させながら撮影を行う場合には、複数の装入物粒子が互いに重なりやすくなり、撮影画像において、装入物粒子の輪郭線の全体を把握しにくくなることがある。そこで、複数回の撮影を行うことにより、撮影画像において、輪郭線の全体を把握できる装入物粒子を数多く取得することができる。
【0017】
図2は、高炉装入物としてのコークスの搬送経路の一例を示す図である。コークスが受けた衝撃エネルギを推定するときには、以下に説明する搬送経路において評価位置を決めることができる。
【0018】
搬送経路10は、コークス炉11からコークスが押し出されてから、高炉16の内部における原料のストックレベル(予め決められた位置)16aにコークスが搬送されるまでの経路である。搬送経路10において、コークス炉11から押し出されたコークス(赤熱コークス)は、コークス乾式消火設備(CDQ,Coke Dry Quenching)12に搬送されて冷却される。CDQ12で冷却されたコークスは、CDQ12から搬出され、原料槽13に搬入される。原料槽13は、所定量のコークスが収容されるように所定の速度でコークスを搬出している。原料槽13から搬出されたコークスは、中継ホッパ14に搬入される。
【0019】
中継ホッパ14は、所定量のコークスが搬入されたときに、搬入されたコークスのすべてを搬出する。中継ホッパ14から搬出されたコークスは、炉頂ホッパ15に搬入される。炉頂ホッパ15は、中継ホッパ14と同様に、所定量のコークスが搬入されたときに、搬入されたコークスのすべてを搬出する。そして、炉頂ホッパ15から搬出されたコークスは、落下して高炉16の内部に装入され、高炉16のストックレベル16aに到達する。搬送経路10において、コークスは、コークス炉11及びCDQ12の間、CDQ12及び原料槽13の間、原料槽13及び中継ホッパ14の間、中継ホッパ14及び炉頂ホッパ15の間において、ベルトコンベアで搬送される。
【0020】
上述したベルトコンベアによる搬送において、コークスに衝撃が加わることがある。また、CDQ12、原料槽13、中継ホッパ14及び炉頂ホッパ15のいずれかにコークスが収容されているときにおいて、コークスに衝撃が加わることがある。本実施形態では、これらの衝撃を含め、評価位置に搬送されるまでにコークス(高炉装入物)が受けた衝撃エネルギを推定することができる。
【0021】
ここで、評価位置としては、高炉装入物を炉頂ホッパ15に供給するベルトコンベア上の位置とすることが好ましい。この評価位置において、高炉装入物が受けた衝撃エネルギを推定することにより、高炉16に装入される直前までに高炉装入物が受けた衝撃エネルギを把握することができる。そして、この衝撃エネルギに基づいて、高炉16に装入される直前における高炉装入物の性状を把握することができる。
【0022】
図1に示すステップS102では、ステップS101の処理で得られた撮影画像に対して後述する画像処理を行い、装入物粒子の円形度を算出する。具体的には、画像処理によって、装入物粒子の実面積S及び実周囲長Pを算出した後、下記式(1)に基づいて、装入物粒子の円形度Cを算出する。装入物粒子の実面積S及び実周囲長Pを算出する方法については、後述する。
【0023】
【0024】
上記式(1)において、Cは円形度[-]であり、Sは装入物粒子の実面積[mm2]であり、Pは装入物粒子の実周囲長[mm]である。円形度Cは、0.00~1.00[-]の範囲内の値を取り得る。本実施形態では、輪郭線の全体が特定された複数の装入物粒子のそれぞれについて円形度Cを算出しておき、これらの円形度Cの平均値(以下、「平均円形度Cave」という)を算出する。
【0025】
撮影画像には複数の装入物粒子が含まれることになるが、これらの装入物粒子には、撮影方向において互いに重なる複数の装入物粒子が含まれることがある。複数の装入物粒子が重なってしまうと、装入物粒子について、少なくとも一部の輪郭線を特定できなくなり、この装入物粒子の輪郭線の全体を把握することができなくなる。装入物粒子の輪郭線の全体を把握できないと、装入物粒子の実面積S及び実周囲長Pを算出することができず、結果として、装入物粒子の円形度Cを算出できなくなる。
【0026】
そこで、装入物粒子の円形度Cを算出するときには、全体の輪郭線を特定できる装入物粒子だけを抽出し、抽出した装入物粒子について、実面積S及び実周囲長Pを算出する。これにより、装入物粒子の円形度Cを精度よく算出することができる。
【0027】
上述した第1の撮影方法や第2の撮影方法によれば、複数の撮影画像が得られるため、これらの撮影画像から、全体の輪郭線を特定できる複数の装入物粒子を特定することができる。これらの装入物粒子のそれぞれについて円形度Cを算出した後、平均円形度Caveを算出する。
【0028】
ステップS103では、ステップS102の処理で算出した平均円形度Caveに基づいて、装入物粒子に与えられた衝撃エネルギを算出する。本実施形態では、衝撃エネルギをドラム回転数[rev.]として規定するが、これに限るものではなく、衝撃エネルギを所定の指標に基づいて規定することができる。ドラム回転数は、高炉装入物のドラム強度指数(DI)(JIS K2151)を測定するときに用いられるドラム試験機における回転数である。ドラム回転数が大きいほど、衝撃エネルギが大きくなる。言い換えれば、ドラム回転数が小さいほど、衝撃エネルギが小さくなる。
【0029】
平均円形度Cave及びドラム回転数(衝撃エネルギ)の間には、所定の相関関係が認められる。この相関関係は、高炉装入物の種類(コークスや鉄原料)に応じた初期形状(衝撃エネルギが与えられる前の形状)に依存することがあり、高炉装入物の種類に応じて予め特定しておくことができる。この相関関係について、例えば、コークスの場合には、ドラム回転数が大きいほど、平均円形度Caveが高くなり、例えば、鉄原料のペレットの場合には、ドラム回転数が大きいほど、平均円形度Caveが低くなることがある。
【0030】
ドラム回転数が大きいほど、平均円形度Caveが高くなる場合には、正の相関関係があり、一次関数で表したり、二次関数で表したりすることができる。また、高炉装入物の種類によっては、平均円形度Cave及びドラム回転数(衝撃エネルギ)の相関関係をN次関数で表すことができる。予め実験によって、平均円形度Cave及びドラム回転数の相関関係を特定しておけば、ステップS102の処理で算出された平均円形度Caveに対応するドラム回転数(衝撃エネルギ)を算出することができる。すなわち、評価位置まで搬送される間に高炉装入物が受けた衝撃エネルギ(ここでは、ドラム回転数)を推定することができる。
【0031】
高炉装入物が受けた衝撃エネルギを推定するときには、平均円形度Cave及びドラム回転数(衝撃エネルギ)の相関関係を特定したときの高炉装入物の操業条件と同一の操業条件であることが好ましい。ただし、操業条件が厳密に一致している必要は無く、操業条件を同一とみなせる許容範囲内であれば、予め特定した平均円形度Cave及びドラム回転数(衝撃エネルギ)の相関関係に基づいて、高炉装入物が受けた衝撃エネルギを推定することができる。
【0032】
なお、本実施形態では、平均円形度Cave及び衝撃エネルギの相関関係に着目しているが、円形度C及び衝撃エネルギについても同様の相関関係が認められることは明らかである。このため、円形度C及び衝撃エネルギ(ドラム回転数など)の相関関係を予め特定しておき、撮影画像から装入物粒子の円形度Cを算出することにより、この円形度Cに対応する衝撃エネルギを算出することができる。
【0033】
本実施形態によって高炉装入物が受けた衝撃エネルギを推定すれば、高炉装入物の強度を推定したり、高炉装入物の粒度分布を推定したりすることができる。例えば、高炉装入物がコークスである場合には、コークスの強度として、JIS K2151に規定されるドラム強度指数DIが挙げられる。このドラム強度指数DIは、ドラムを150回転させた後のコークスのうち、粒径が15mm以上であるコークスの質量百分率を示す。
【0034】
推定した衝撃エネルギ(評価位置に移動するまでにコークスが受けた衝撃エネルギ)を、ドラムを1回転させることでコークスに加わる衝撃エネルギで除算すれば、推定した衝撃エネルギをコークスに加えるために必要なドラムの回転数を算出できる。そして、算出した回転数だけ、ドラムを回転させることにより、推定した衝撃エネルギをコークスに加えることができ、衝撃エネルギが加えられたコークスについて、ドラム強度指数DIを測定することができる。衝撃エネルギ及びドラム強度指数DIの相関関係を予め求めておけば、推定した衝撃エネルギに基づいて、ドラム強度指数DIを推定することができる。
【0035】
高炉装入物の強度(上述したドラム強度指数DI等)は、高炉の操業を管理するための指標として用いることができる。例えば、コークスの強度(ドラム強度指数DI)を推定すれば、コークスの強度に応じてコークス比の変更等といった操業アクションを行うことができる。具体的には、コークスの強度が高いほど、炉内の圧力損失が低下しやすくなるため、コークス比を低減することができる。一方、コークスの強度が低いほど、炉内の圧力損失が上昇しやすくなるため、コークス比を増加することができる。
【0036】
一方、高炉装入物の粒度分布は、高炉装入物が受けた衝撃エネルギに依存するため、衝撃エネルギを推定することにより、高炉装入物の粒度分布を推定することができる。ここで、衝撃エネルギが大きいほど、高炉装入物の粒度分布は粒径が小さい側にシフトし、衝撃エネルギが小さいほど、高炉装入物の粒度分布は粒径が大きい側にシフトする。
【0037】
高炉装入物の粒度分布を推定するときには、まず、基準となる衝撃エネルギ(以下、「基準衝撃エネルギ」という)を予め決めておき、基準衝撃エネルギを高炉装入物に与えたときの粒度分布を測定しておく。そして、基準衝撃エネルギと、推定した衝撃エネルギとの差に基づいて、高炉装入物の粒度分布をシフトさせることにより、推定した衝撃エネルギに対応する粒度分布を推定することができる。ここで、上述した衝撃エネルギの差と、粒度分布のシフト量との関係を予め求めておけば、衝撃エネルギの差から粒度分布のシフト量を特定することができる。そして、推定した衝撃エネルギが基準衝撃エネルギよりも大きい場合には、粒径が小さい側に粒度分布をシフトさせ、推定した衝撃エネルギが基準衝撃エネルギよりも小さい場合には、粒径が大きい側に粒度分布をシフトさせる。
【0038】
高炉装入物の粒度分布は、高炉の操業を管理するための指標として用いることができる。例えば、高炉装入物の粒度分布に応じてコークス比の変更等といった操業アクションを行うことができる。具体的には、コークスの粒度分布が粒径の大きい側にシフトしているほど、炉内の圧力損失が低下しやすくなるため、コークス比を低減することができる。一方、コークスの粒度分布が粒径の小さい側にシフトしているほど、炉内の圧力損失が上昇しやすくなるため、コークス比を増加することができる。
【0039】
本実施形態では、平均円形度Cave(又は、円形度C)及び衝撃エネルギの相関関係に着目して、平均円形度Cave(又は、円形度C)から衝撃エネルギを算出しているが、これに限るものではない。具体的には、以下に説明するように、装入物粒子の粒径を考慮して円形度C(又は平均円形度Cave)を補正し、補正後の円形度C(又は平均円形度Cave)に基づいて衝撃エネルギを推定することができる。ここで、複数の円形度Cから平均円形度Caveを求める場合において、複数の円形度Cのそれぞれを粒径に応じて補正した後、補正後の複数の円形度Cから平均円形度Caveを求めることもできるし、複数の円形度Cから平均円形度Caveを求めた後に、平均円形度Caveを粒径に応じて補正することもできる。
【0040】
円形度Cは装入物粒子の粒径に依存するため、円形度Cだけに着目して衝撃エネルギを推定すると、真の衝撃エネルギからずれてしまうことがある。例えば、衝撃エネルギが同じであっても、装入物粒子の粒径が小さいほど、円形度Cが大きくなるため、この円形度Cから推定した衝撃エネルギは、実際の衝撃エネルギよりも大きくなってしまう。また、衝撃エネルギが同じであっても、装入物粒子の粒径が大きいほど、円形度Cが小さくなるため、この円形度Cから推定した衝撃エネルギは、実際の衝撃エネルギよりも小さくなってしまう。そこで、装入物粒子の粒径に基づいて円形度C(又は平均円形度Cave)を補正した上で、衝撃エネルギを推定することが好ましい。
【0041】
装入物粒子の円形度Cと、装入物粒子の粒径(ここでは、短軸径)との間には、
図3に示す相関関係(一例)L1が認められる。この相関関係L1では、粒径が大きいほど、円形度Cが低くなり、負の相関関係が成り立つ。この相関関係L1を予め求めておけば、装入物粒子の粒径を把握することにより、この粒径に応じて円形度を補正することができる。
【0042】
具体的には、
図4に示すように、基準となる粒径(以下、「基準粒径」という)Drを予め定めておき、
図1に示すステップS102の処理で算出した円形度Cを、
図4に示す相関関係L1において基準粒径Drに対応する円形度Crとみなす。そして、相関関係L1に基づいて、装入物粒子の撮影画像から求められた粒径(以下、「測定粒径」という)Dmと基準粒径Drとの差ΔDに相当する円形度Cの差ΔCを求める。
図1に示すステップS102の処理で算出した円形度Cに対して差ΔCを加算又は減算することにより、補正後の円形度Cを求めることができる。ここで、測定粒径Dmが基準粒径Drよりも小さい場合には、算出した円形度Cに対して差ΔCを減算する。一方、測定粒径Dmが基準粒径Drより大きい場合には、算出した円形度Cに対して差ΔCを加算する。
【0043】
次に、上述したステップS102の処理において、装入物粒子の実面積S及び実周囲長Pを算出する方法について説明する。全体の輪郭線を特定できる装入物粒子は、特許文献1に記載された技術を用いて特定することができ、装入物粒子の全体の輪郭線を特定すれば、装入物粒子の実面積S及び実周囲長Pを算出することができる。
【0044】
以下、装入物粒子の全体の輪郭線を特定する方法について、概要を説明する。
【0045】
撮影画像として、装入物粒子の表面の凹凸量を輝度で表した画像(以下、「深さ画像」という)を取得する。装入物粒子と装入物粒子の境界には通常段差があり、深さ画像では、この段差が不連続な輝度値の変化として表れるため、輝度値の変化に基づいて装入物粒子を識別することができる。
【0046】
深さ画像は、いわゆる光切断法によって生成することができる。光切断法では、重なり合った複数の装入物粒子の表面に対して線状のレーザ光を照射し、各装入物粒子の表面で反射したレーザ光による光切断線(凹凸量に対応して直線から変位した状態を含むレーザ線)を撮影し、得られた時系列に並ぶ複数の光切断画像から凹凸情報を求めることにより、1つの画像(深さ画像)を生成する。
図5には、装入物粒子であるコークス粒子の集合体を撮影したときの深さ画像(一例)を示す。
【0047】
なお、深さ画像に対して傾斜補正処理を行うことができる。この傾斜補正処理では、深さ画像内の輝度値の傾斜的な変化を近似的に表した基準面を算出し、この基準面及び深さ画像に基づいて、深さ画像に含まれる画素の輝度値の傾斜的な変化を平面に近似する。
【0048】
次に、深さ画像に対して不連続点検出処理を行う。不連続点検出処理では、深さ画像内の各画素をそれぞれ注目画素として決定し、注目画素毎に、注目画素を中心に45度刻みで、8つの方向を算出方向として順に指定する。8つの方向について、それぞれ注目画素と隣接している8つの隣接画素を特定し、注目画素と各隣接画素との輝度値の差(以下、「輝度差」という)をそれぞれ算出する。
【0049】
8つの方向には、互いに相反する順方向及び逆方向が含まれる。順方向に位置する隣接画素と注目画素との輝度差が、所定の閾値A以上であるか否かを判断するとともに、逆方向に位置する隣接画素と注目画素との輝度差が、所定の閾値B以下であるか否かを判断する。例えば、輝度を265諧調で表したとき、閾値Aを5程度とし、閾値Bを2程度とすることができる。
【0050】
順方向での輝度差が閾値A以上であり、かつ、逆方向での輝度差が閾値B以下であるとき、注目画素が不連続点であると判断し、不連続点であると判断した画素を、輝度値が高く白色に表示される1とする。不連続点以外の残りの画素については、輝度値が低く黒色に表示される0とする。これにより、2値化された画像が得られる。
図6には、
図5に示す画像に対して不連続点検出処理を行った後の2値化画像(一例)を示す。
【0051】
次に、不連続点検出処理を行った後の2値化画像に対して細線化処理を行う。細線化処理は、白色及び黒色に2値化された画像内において、輪郭線の線幅を例えば1画素の線幅になるまで縮小する処理であり、一般的な画像処理手法を利用することができる。
図7には、
図6に示す画像に対して細線化処理を行った後の画像(一例)を示す。
【0052】
次に、細線化処理を行った後の画像において、装入物粒子の輪郭線とは言えない、端部を有する線(いわゆる、行き止まり線)を外乱として除去する補正処理を行う。この補正処理は、行き止まり線の形態を予め特定しておき、行き止まり線の形態を示したフィルタ(例えば、縦横3画素×3画素のフィルタ)を用いて、画像内から行き止まり線を特定して除去する処理であり、一般的な画像処理手法を利用することができる。
【0053】
補正処理では、上述した行き止まり線を除去することに加えて、相対的に低い位置にある装入物粒子の輪郭線を除去する。例えば、画像内に含まれる各輪郭線内の面積を算出し、この面積が実際の装入物粒子の取り得るサイズの下限値以下であるとき、この面積に相当する輪郭線を除去する。この補正処理を行うことにより、装入物粒子の最終的な輪郭線が特定される。
図8には、
図5に示す深さ画像に対して、最終的に特定された装入物粒子の輪郭線を重ね合わせた画像(一例)を示す。
【実施例0054】
コークス炉Aで製造され、CDQによって冷却された後のコークスを採取した。すなわち、
図2において、CDQ12から原料槽13までの搬送経路の途中でコークスを採取した。ここで、JIS M8811の規定に準じてコークスを採取した。採取したコークスをJIS K2151で規定されているドラム試験機に挿入し、ドラム試験機を回転させた。ここで、ドラム試験機の回転数(ドラム回転数)は、30,60,90,120,150[rev.]にそれぞれ設定した。ドラム回転数が多いほど、コークスに与えられる衝撃エネルギが大きくなる。
【0055】
各ドラム回転数(30,60,90,120,150[rev.])で回転させた後のコークスや、ドラム試験機で回転させていないコークス(すなわち、採取したままのコークス)について、深さ画像を生成した。具体的には、コークスを約8~10kgずつ取り出してトレイに載せた後、トレイ上のコークスを撮影することにより、深さ画像を生成した。この処理を10回行うことにより、10個の深さ画像を生成した。
【0056】
各深さ画像に対して上述した画像処理を行うことにより、全体の輪郭線を特定できるコークス粒子(装入物粒子)を約1000個抽出した。そして、各コークス粒子について、実面積S及び実周囲長Pを算出して円形度Cを算出した後、すべてのコークス粒子の円形度Cから平均円形度Caveを算出した。
【0057】
図9には、各ドラム回転数(0,30,60,90,120,150[rev.])について、コークス粒子の円形度[-]と累積頻度[-]の関係を示す。ドラム回転数が0[rev.]であるときには、採取したコークスに対してドラム試験機による衝撃エネルギを加えていないことになるが、ドラム回転数が多いほど、円形度の高い側に累積分布がシフトすることが分かった。
【0058】
図10には、ドラム試験機の回転数(ドラム回転数)と、各ドラム回転数における平均円形度Caveとの関係を示す。
図10において、〇印は、上述した試験で得られた測定値であり、一点鎖線は、測定値から算出された近似直線L2である。
図10から分かるように、ドラム回転数が多いほど、平均円形度Caveが高くなり、ドラム回転数及び平均円形度Caveの間には、正の相関関係が認められた。この相関関係は、コークス粒子に関して、ドラム回転数及び平均円形度Caveの相関関係となる。
【0059】
また、ドラム回転数及び平均円形度Caveの相関関係は、一次関数(
図10に示す近似直線L2)で表すことができた。本実施例において、ドラム回転数及び平均円形度Caveの相関関係は、下記式(2)で表される。
【0060】
【0061】
上記式(2)において、Caveは平均円形度[-]であり、Rはドラム回転数[rev.]である。ドラム回転数が多いほど、言い換えれば、衝撃エネルギが大きいほど、コークスの表面に存在する脆弱部が剥離しやすくなり、コークスの外形が球形に近づいていると考えられる。
【0062】
ドラム回転数及び平均円形度Caveの相関関係を予め求めておけば、評価対象となるコークスについて、搬送経路上の評価位置で得られた深さ画像に基づいて平均円形度Caveを算出することにより、この平均円形度Caveに対応するドラム回転数(衝撃エネルギ)を算出することができる。すなわち、評価位置までに搬送される間にコークスが受けた衝撃エネルギを推定することができる。ここで、コークスの操業条件が同一である場合において、衝撃エネルギを推定することが好ましい。
【0063】
次に、コークス炉Aで製造されたコークスを高炉Aにそのまま搬送する場合と、コークス炉Aで製造されたコークスを一時的にヤードで貯留した後に高炉Aに搬送する場合とのそれぞれにおいて、
図2に示す原料槽13から排出されたコークスを同一の評価位置で採取した。ここで、ヤードでの貯留は、
図2において、CDQ12及び原料槽13の間の搬送経路内で行った。
【0064】
高炉Aにそのまま搬送されるコークスについて、深さ画像から平均円形度Caveを算出したところ、0.579[-]であった。また、一時的にヤードに貯留したコークスについて、深さ画像から平均円形度Caveを算出したところ、0.602[-]であった。
図10に示す相関関係(近似直線L2)を用いてドラム回転数を推定したところ、高炉Aにそのまま搬送されるコークスについては、ドラム回転数が24[rev.]であり、一時的にヤードに貯留したコークスについては、ドラム回転数が94[rev.]であった。
【0065】
コークスをヤードに一時的に貯留した場合には、コークスを高炉Aにそのまま搬送する場合と比べて、ヤードでの貯留に伴う衝撃エネルギがコークスに与えられることになる。このことは、一時的にヤードに貯留したコークスに関するドラム回転数(94[rev.])が、高炉Aにそのまま搬送されるコークスに関するドラム回転数(24[rev.])よりも多くなったことから明らかである。そして、ヤードでの貯留に伴う衝撃エネルギは、上述した2つのドラム回転数(24,94[rev.])の差として把握することができる。
【0066】
なお、本実施例では、コークスの衝撃エネルギに着目しているが、コークス以外の高炉装入物(鉄原料など)についても、衝撃エネルギを推定することができる。コークス以外の高炉装入物(鉄原料など)は、コークスと同様に搬送などによって衝撃を受けて装入物粒子の円形度が変化するため、本実施例と同様の方法によって、衝撃エネルギを推定することができる。