(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154038
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20241023BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101G
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067631
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
【テーマコード(参考)】
5F004
5F131
【Fターム(参考)】
5F004BB22
5F004BB25
5F004BB26
5F004BB29
5F131AA02
5F131BA03
5F131BA04
5F131BA19
5F131CA09
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA03
5F131EA24
5F131EB11
5F131EB14
5F131EB78
5F131EB79
5F131EB81
5F131EB82
(57)【要約】
【課題】対象物を保持する保持装置において、接着剤層の剥がれや破断を抑制する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】保持装置は、板状に形成される板状部と、板状部を支持し、板状に形成されるベース部と、板状部とベース部との間に配置され、接着剤および無機フィラーを含み、板状部とベース部とを接合する接着剤層と、を備え、接着剤層は、|(γ1-γ0)/γ0|≦0.15を満たす。ここで、γ0は加熱前の接着剤層のせん断ひずみ、γ1は接着剤層を180℃で3000時間加熱した後のせん断ひずみである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を保持する保持装置であって、
板状に形成される板状部と、
前記板状部を支持し、板状に形成されるベース部と、
前記板状部と前記ベース部との間に配置され、接着剤および無機フィラーを含み、前記板状部と前記ベース部とを接合する接着剤層と、
を備え、
前記接着剤層は、
|(γ1-γ0)/γ0|≦0.15を満たすことを特徴とする、
保持装置。
ここで、γ0は加熱前の前記接着剤層のせん断ひずみ、γ1は前記接着剤層を180℃で3000時間加熱した後のせん断ひずみである。
【請求項2】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記接着剤層は、
|(γ2-γ0)/γ0|≦0.2を満たすことを特徴とする、
保持装置。
ここで、γ0は加熱前の前記接着剤層のせん断ひずみ、γ2は前記接着剤層を200℃で3000時間加熱した後のせん断ひずみである。
【請求項3】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記接着剤はシリコーン系樹脂であることを特徴とする、
保持装置。
【請求項4】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記接着剤層を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)を光源とするICP発光分析法により定量分析したリン(P)の量が100ppm以上であることを特徴とする、
保持装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接着剤層が、前記無機フィラーを30体積%以上含むことを特徴とする、
保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物を保持する保持装置として、例えば、半導体を製造する際にウェハ等の対象物を保持する静電チャックが知られている。静電チャックは、一般に、対象物が載置される板状部と、板状部を支持するベース部と、板状部とベース部とを接合する接着剤層と、を備える。
【0003】
静電チャックは、例えば、ウェハの加工の際のように、温度を変化させた環境の下で使用されることが多い。このとき、板状部とベース部との熱膨張係数の差が大きいと、静電チャックに大きな熱応力が加わり、接着剤層が剥離したり、破断するという問題があった。
【0004】
この問題に対し、接着剤層の伸び率を100%以上、ショアAの硬度を70以下とすることにより、接着剤層の伸縮性及び柔軟性を良好にし、温度変化が繰り返される状況で静電チャックが使用されても、接着剤層が剥離しにくくする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、静電チャックを、より高出力のプラズマに曝露して用いる場合のように、板状部に対する入熱が大きくなる場合には、特許文献1に記載の技術によっても、接着剤層の剥がれや破断が起きる場合があった。なお、これらの課題は、静電チャックに限定されず、プラズマによるエッチング装置等の半導体製造装置等、種々の保持装置に共通する課題である。
【0007】
本開示は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、対象物を保持する保持装置において、接着剤層の剥がれや破断を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、対象物を保持する保持装置が提供される。この保持装置は、板状に形成される板状部と、前記板状部を支持し、板状に形成されるベース部と、前記板状部と前記ベース部との間に配置され、接着剤および無機フィラーを含み、前記板状部と前記ベース部とを接合する接着剤層と、を備え、前記接着剤層は、|(γ1-γ0)/γ0|≦0.15を満たす。ここで、γ0は加熱前の前記接着剤層のせん断ひずみ、γ1は前記接着剤層を180℃で3000時間加熱した後のせん断ひずみである。
【0009】
この形態の保持装置によれば、接着剤層のせん断ひずみが|(γ1-γ0)/γ0|≦0.15を満たすため、接着剤層を高温(180℃)で使用した際の劣化が小さい。すなわち、接着剤層の耐熱性が優れている。そのため、保持装置を180℃程度の高温で使用した場合にも、接着剤層の剥がれや破断を抑制することができる。
【0010】
(2)上記形態の保持装置において、前記接着剤層は、|(γ2-γ0)/γ0|≦0.2を満たしてもよい。ここで、γ0は加熱前の前記接着剤層のせん断ひずみ、γ2は前記接着剤層を200℃で3000時間加熱した後のせん断ひずみである。このような構成にすると、接着剤層を高温(200℃)で使用した際の劣化も小さくすることができる。接着剤層の耐熱性をさらに向上させることができるため、保持装置を200℃程度のさらなる高温で使用した場合にも、接着剤層の剥がれや破断を抑制することができる。
【0011】
(3)上記形態の保持装置において、前記接着剤はシリコーン系樹脂であってもよい。シリコーン系樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の他の樹脂と比較して耐熱性および柔軟性が良好であるため、このような構成にすると、より耐熱性に優れ、柔軟で、応力緩和性のある接着剤層とすることができる。その結果、さらに、接着剤層の剥がれや破断を抑制することができる。
【0012】
(4)上記形態の保持装置において、前記接着剤層を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)を光源とするICP発光分析法により定量分析したリン(P)の量が100ppm以上であってもよい。このようにすると、リン(P)のラジカルトラップ効果により、接着剤の分解を抑制することができるため、接着剤層の耐熱性を向上させることができる。
【0013】
(5)上記形態の保持装置において、前記接着剤層が、前記無機フィラーを30体積%以上含んでもよい。このようにすると、無機フィラーが樹脂(接着剤)の架橋反応を妨げるため、高温においても接着剤層の軟らかさを維持することができ、耐熱性を向上させることができる。
【0014】
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、保持装置を含む半導体製造装置、保持装置の製造方法、接合部の形成方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】静電チャックの構成を概略的に示す説明図である。
【
図2】静電チャックの断面構成を模式的に表す説明図である。
【
図4】せん断ひずみの算出方法を模式的に示す説明図である。
【
図5】180℃加熱によるせん断ひずみの変化率を示す図である。
【
図6】200℃加熱によるせん断ひずみの変化率を示す図である。
【
図7】サンプル1のせん断ひずみの変化率の加熱時間に対する変化を示す図である。
【
図8】サンプル2のせん断ひずみの変化率の加熱時間に対する変化を示す図である。
【
図9】サンプル3のせん断ひずみの変化率の加熱時間に対する変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施形態:
(A-1)静電チャックの全体構成:
図1は、実施形態における静電チャック10の構成を概略的に示す説明図である。
図2は、静電チャック10の断面構成を模式的に表す説明図である。
図1では、静電チャック10の一部を破断して示している。また、図には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック10は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。各図に示されるX軸、Y軸、Z軸は、それぞれ同じ向きを表す。なお、上記各図は、各部の配置を模式的に表しており、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
【0017】
静電チャック10は、対象物を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバ内で、対象物であるウェハW(
図2)を固定するために使用される。静電チャック10は、板状部20と、ベース部30と、接着剤層40と、を備える。これらは、-Z軸方向(鉛直下方)に向かって、板状部20、接着剤層40、ベース部30の順に積層されている。本実施形態における静電チャック10を、「保持装置」とも呼ぶ。
【0018】
板状部20は、対象物が載置される側の第1面24と、第1面24の裏面である第2面26とを有する略円形の板状部材であり、セラミック(例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等)を主成分として形成されている。本願明細書において、特定成分が「主成分である」あるいは「主に形成する材料である」とは、当該特定成分の含有率が、50体積%以上であることを意味する。他の実施形態では、板状部20は、例えば、ポリイミド等の樹脂等のセラミック以外の材料を主成分として形成されてもよい。
【0019】
図2に示すように、板状部20の内部には、吸着電極22が配置されている。吸着電極22は、例えば、タングステンやモリブデンなどの導電性材料により形成されている。吸着電極22に対して図示しない電源から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWが板状部20の第1面24に吸着固定される。吸着電極22は、双極型であってもよく、単極型であってもよい。また、板状部20の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されて、第1面24に吸着固定されたウェハWを加熱するための、図示しないヒータ電極を設けてもよい。
【0020】
ベース部30は、板状部20の第2面26側に配置され、板状部20を支持し、冷却機能を有し、略円形に形成された板状部材である。ベース部30は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、モリブデン、チタン、タングステン、ニッケルのうちの少なくとも一種の金属を含むこととすることができる。モリブデン、チタン、タングステンは、上記した金属の中でも熱膨張率が比較的小さいため、これらのうちの少なくとも一種の金属を用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30と板状部20との間の熱膨張率差を抑えることができて望ましい。なお、本願明細書において、「熱膨張率」は、「線膨張率」を指す。また、マグネシウムは、ヤング率が比較的小さいため、マグネシウムを用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30で生じる熱応力を低減することができて望ましい。また、アルミニウムは、熱伝導率が比較的高く、加工が容易で低コストである。そのため、アルミニウムを用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30による板状部20およびウェハWの冷却効率を高めることができ、静電チャック10の製造コストを抑えることができて望ましい。ベース部30による冷却効率を高めつつ製造コストを抑える観点からは、ベース部30における金属の含有割合が高い方が望ましく、ベース部30は、金属を主成分とすることが望ましい。例えば、汎用性が高いアルミニウムを90質量%以上含有すること(例えば、A6061、A5052などのアルミニウム合金により構成すること)が望ましい。ただし、ベース部30は、セラミックなどの金属以外の成分を含んでいてもよい。
【0021】
ベース部30の内部には、複数の冷媒流路32がXY平面に沿うように形成されている。冷媒流路32に、例えばフッ素系不活性液体や水や液体窒素等の冷媒を流すことにより、ベース部30が冷却される。そして、接着剤層40を介したベース部30と板状部20との間の伝熱により板状部20が冷却され、板状部20の第1面24に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。ベース部30の内部に冷媒流路32を有する形態の他、ベース部30の外部からベース部30を冷却することにより、ベース部30に冷却機能を持たせてもよい。さらに、ベース部30は冷却機能を備えなくてもよい。ベース部30が冷却機能を備えない場合、静電チャック10が、外部から板状部20を冷却する構成を備えてもよい。
【0022】
接着剤層40は、板状部20とベース部30との間に配置されて、板状部20とベース部30とを接合する。接着剤層40は、樹脂材料によって形成される接着剤および無機フィラーを含む。接着剤層40について、後に詳述する。
【0023】
静電チャック10には、さらに、複数のガス供給路50が形成されている。ガス供給路50は、板状部20、接着剤層40、およびベース部30をZ方向に貫通して設けられており、第1面24に形成されたガス吐出口52において開口している(
図1参照)。ガス供給路50は、図示しないガス供給装置から、例えばヘリウムガス等の不活性ガスを供給されて、第1面24とウェハWとの間の空間に対して、ガス吐出口52から不活性ガスを供給する。これにより、板状部20とウェハWとの間の伝熱性を高めて、ウェハWの温度分布の制御性がさらに高められる。なお、ガス供給路50は必須ではなく、静電チャック10にガス供給路50を設けないこととしてもよい。
【0024】
(A-2)接着剤層の構成:
本実施形態の静電チャック10の接着剤層40は、|(γ1-γ0)/γ0|≦0.15を満たす。ここで、γ0は加熱前の前記接着剤層のせん断ひずみ、γ1は前記接着剤層を180℃で3000時間加熱した後のせん断ひずみである。せん断ひずみは、接着剤層40にせん断力を加え、破断させたときに生じるひずみであり、以下の式(1)により求められる。
せん断ひずみγ(%)=せん断力方向の変位量/接着剤層40の厚み×100…(1)
せん断ひずみを測定するための引張試験機を用いた具体的な測定方法については、後に詳述する。接着剤層40は、加熱時180℃とした場合の加熱前後のせん断ひずみの変化率が小さく、加熱による劣化が小さい。すなわち、接着剤層40を高温(180℃)で使用した際の劣化が小さく、耐熱性が優れている。そのため、静電チャック10を180℃程度の高温で使用した場合にも、接着剤層40の剥がれや破断を抑制することができる。
【0025】
接着剤層40は、さらに|(γ2-γ0)/γ0|≦0.2を満たすことが好ましい。ここで、γ0は加熱前の前記接着剤層のせん断ひずみ、γ2は前記接着剤層を200℃で3000時間加熱した後のせん断ひずみである。このようにすると、接着剤層を高温(200℃)で使用した際の劣化も小さくすることができる。接着剤層の耐熱性をさらに向上させることができるため、静電チャック10を200℃程度のさらなる高温で使用した場合にも、接着剤層40の剥がれや破断を抑制することができる。
【0026】
接着剤層40に含まれる接着剤としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等を用いることができる。シリコーン樹脂は、比較的耐熱性および柔軟性に優れるため望ましい。シリコーン樹脂は、弾性率が比較的低いために、接着剤層40で生じる熱応力を緩和する機能が高い。そのため、さらに、接着剤層40の剥がれや破断を抑制することができる。
【0027】
無機フィラーとしては、セラミック、金属酸化物、金属、あるいは他の無機化合物を含む種々の無機材料から成る、粒状あるいは粉体状等の物質を用いることができる。具体的には、無機フィラーとしては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)、酸化イットリウム(イットリア:Y2O3)、フッ化イットリウム(YF3)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、二酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を用いることができる。無機フィラーを構成する上記のような無機材料は、一般に、接着剤である樹脂よりも熱伝導率が高いため、接着剤に無機フィラーを添加することにより、接着剤層40における熱伝導性を高めることができる。特に、熱伝導率が比較的高く、接着剤層40の熱抵抗を抑え易くなるという観点から、無機フィラーを構成する材料としては、窒化アルミニウムや酸化アルミニウムや炭化ケイ素が好ましく、窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムが特に好ましい。
【0028】
樹脂材料によって形成される接着剤の劣化過程の一つに、架橋反応が進むことで硬くなり柔軟性が低下する過程がある。接着剤層40に無機フィラーが含まれることにより、ラジカルの移動が妨げられ、他の分子に届く前に失活するため、上述の架橋反応が抑制され、接着剤の劣化を抑制することができる。すなわち、接着剤層40が高温に晒された場合に、接着剤層40の劣化を抑制することができる。換言すると、接着剤層40の耐熱性を向上させることができる。
【0029】
なお、接着剤層40は、さらに、硬化反応を促進する触媒、硬化や接着を促進して接着性を付与するためのシランカップリング剤、架橋剤、接着剤の硬化速度を調整するための反応抑制剤、あるいは粘度調整剤等を含んでいてもよい。接着剤層40が含む触媒としては、従来知られる種々の触媒を利用可能であり、例えば、白金触媒、ロジウム触媒、チタン触媒、ビスマス触媒等を用いることができる。中でも、反応性が高い白金触媒を用いることが望ましい。接着剤層40が含むシランカップリング剤としては、特に制限は無く、例えば、有機反応性基としてビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基のいずれかを有するものなど、従来知られるシランカップリング剤の中から適宜選択することができる。また、上記シランカップリング剤の代わりに、チタネート系カップリング剤やアルミネート系カップリング剤を使用してもよい。接着剤層40が含む架橋剤としては、1分子中に少なくとも3つのヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることができる。より具体的には、例えば、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、および、ポリ(ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン)の少なくとも一方を用いることができる。
【0030】
接着剤層40が含む反応抑制剤としては、従来知られる種々の反応抑制剤を利用可能であり、例えば、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン、トリアリルイソシアヌレート等を用いることができる。接着剤層40が含む粘度調整剤としては、従来知られる種々の粘度調整剤を利用可能であり、例えば、煙霧質シリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、煙霧質アルミナ、ヒュームドアルミナ、コロイダルアルミナ等を用いることができる。上記した触媒、シランカップリング剤、架橋剤、反応抑制剤、あるいは粘度調整剤等の種類および添加量は、例えば接着剤層40を構成する樹脂の種類等に応じて、適宜選択すればよい。
【0031】
接着剤層40を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)を光源とするICP発光分析法により定量分析したリン(P)の量が100ppm以上であってもよい。樹脂材料によって形成される接着剤は、熱による分解の過程でラジカルが生じる。そのラジカルが移動して他の分子を分解することで、樹脂全体の分解が進行し、接着剤が劣化する。そのため、ラジカルを途中でトラップし、失活させることで、樹脂の分解を抑制することができ、接着剤層の耐熱性を高めることができる。接着剤層40にリン(P)が含まれていると、リン(P)のラジカルトラップ効果により、接着剤層40の耐熱性を向上させることができる。
【0032】
例えば、リン酸処理された無機フィラーを用いることにより、接着剤層40にリン(P)を含有させることができる。例えば、窒化アルミニウム粒子にリン酸処理を施すことにより、リン酸アルミニウムによって構成される被覆層を備える表面被覆窒化アルミニウム粒子が作製される。リン酸処理は、例えば、溶剤に窒化アルミニウム粒子を分散させた分散液に無機リン酸化合物を滴下して、室温~80℃程度の温度条件下で反応させた後に、溶剤を揮発させる処理とすることができる。用いる無機リン酸化合物は、例えば、リン酸(オルトリン酸:H3PO4)、ピロリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、メタリン酸およびこれらの混合物とすることができる。また、上記リン酸処理は、溶剤に窒化アルミニウム粒子を分散させた分散液に酸化防止剤もしくは老化防止剤として知られる有機リン酸化合物を溶解させた溶液を滴下した後に、蒸発乾固し、その後150~800℃の温度条件下で加熱する処理とすることができる。有機リン酸化合物としては、例えば、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(CAS登録番号:31570-04-4)、3,9-ジオクタデカン-1-イル-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(CAS登録番号:3806-34-6)、3,9-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(CAS登録番号:26741-53-7)、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(CAS登録番号:80693-00-1)、3,9-ビス[2,4-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノキシ]-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(CAS登録番号:154862-43-8)、2,4,8,10-テトラ-tert-ブチル-6-[(2-エチルヘキサン-1-イル)オキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(CAS登録番号:126050-54-2)、ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)=エチル=ホスフィット(CAS登録番号:145650-60-8)、ビフェニル、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール及び三塩化リンの反応生成物(別名:テトラキス〔(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-1,1-ビフェニル〕-4-4’ジイルビスホスホナイト、CAS登録番号:119345-01-6)、などがある。有機系の酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤や硫黄系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤も存在するが、フェノール系酸化防止剤よりもリン酸系酸化防止剤の方が、酸化防止剤自体の耐熱性が高いため好ましい。硫黄系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤よりもリン酸系酸化防止剤の方が、シリコーン樹脂の硬化阻害を起こさないため好ましい。
【0033】
接着剤層40は、無機フィラーを30体積%以上含んでもよく、40体積%以上含むことが好ましく、45体積%以上含むことがさらに好ましい。このようにすると、無機フィラーが樹脂(接着剤)の架橋反応を妨げるため、高温においても接着剤層40の軟らかさを維持することができ、耐熱性を向上させることができる。なお、無機フィラーとしては、上述の種々の無機フィラーを含んでもよく、その一部にリン酸処理を施したものを含んでもよい。リン酸処理を施した無機フィラーを30体積%以上含むとさらに好ましい。
【0034】
接着剤層40に含まれる無機フィラーの含有率(体積%)は以下の方法により求めることができる。接着剤層40を、クロスセクションポリッシャー(CP:Cross Section Polisher)で断面加工し、断面SEM(走査電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)画像から無機フィラーの体積比率を算出する。
【実施例0035】
以下では、本開示の保持装置について、実施例に基づいて説明する。ここでは、接着剤をシリコーン接着剤、無機フィラーの種類を変更した接着剤層に対応するサンプルとして、シート状のサンプル1~3を作製した。
【0036】
<各サンプルの作製>
[シート状のサンプルの作製]
図3は、サンプルの諸元を示す図である。図示するように、サンプル1は無機フィラーとして窒化アルミニウム(AlN)を用い、サンプル2、3はアルミナ(Al
2O
3)を用いている。サンプル1は、無機フィラーにリン酸処理が施されており、サンプル2、3は、無機フィラーの表面処理が施されていない。サンプル1~3における無機フィラーの含有量は、45体積%(vol.%)である。
図3に示す無機フィラーの含有率(体積%)は、上述の断面SEM画像から算出を行った。測定倍率1000倍の断面SEM画像で3箇所の観察を行い、画像2値化をすることにより算出を行った。
【0037】
各サンプルでは、接着剤として、シリコーン樹脂を用いた。具体的には、硬化前の接着剤材料(樹脂材料)として、ポリジメチルシロキサン、およびフェニル基5mol%含有ポリジメチルシロキサンのいずれか一方を用いた。具体的には、サンプル1、3は、フェニル基5mol%含有ポリジメチルシロキサンを用い、サンプル2は、ポリジメチルシロキサンを用いた。なお、サンプル1~3は、
図3に示す無機フィラー以外の無機フィラーを含まない。
【0038】
シート状のサンプルの作製方法は、以下の通りである。
無機フィラーとシリコーン樹脂を混合し、ペースト状の接着剤を作製した。混合方法は特に制限はなく、公知の撹拌羽根による混合、三本ロール、ニーダー、自転・公転ミキサー、プラネタリーミキサーなどを使用することができる。作製したペースト状の接着剤を、公知の塗工装置で離型性のあるフィルムの上に塗り広げ、硬化させることでシート状のサンプルを得ることができる。塗工装置には例えば、ロールコータ―、バーコーター、ダイコーター、ナイフコーターなどを用いることができる。離型性のあるフィルムには、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いることができ、離型性を高めるため離型剤を塗布したPETフィルムを用いてもよい。上記の各種塗工装置では成形が困難な厚みのある硬化物、ブロック状の硬化物を得るためには、接着剤を所定の大きさの容器に入れたのち、硬化してもよい。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の容器を用いると、取り出しやすく好適である。硬化のためには必要に応じて加熱してもよい。
【0039】
<評価>
・せん断ひずみの変化率
上記の各サンプルを用いて、加熱前後のせん断ひずみの変化率を調べた。
せん断ひずみ(%)は、公知の引張試験機(島津製作所製オートグラフAGSー5kNX)を使用し、引張試験によって測定した。
測定部のサンプル(接着シート)サイズ:12.5×12.5mm
【0040】
図4は、せん断ひずみの算出方法を模式的に示す説明図である。
図4(A)は、引張試験を正面から見た様子を表し、
図4(B)および
図4(C)は、側面から見た様子を表す。また、
図4(A)および
図4(B)は、試験開始時の様子を表し、
図4(C)は、試験開始後の様子を表す。試験片70は、各サンプルの半硬化の接着シートを、幅12.5mm×長さ100mm×厚さ1mmの2枚のアルミニウム板80の端から12.5mmの位置までの、12.5mm×12.5mmの部分にそれぞれ貼り付け、2枚のアルミニウム板80を互いに逆方向に引っ張ることができる向きで貼り合わせた後、100℃で10時間加熱し、さらに、150℃で50時間加熱して接着することにより作製した。試験開始時の試験片70の厚みtは、200μmである。
【0041】
次に、上記試験片にせん断力が作用するように、2つのアルミニウム板80を引張試験の治工具で把持し、相対移動させた。ここでは、引張試験機を用いて、一方のアルミニウム板を接着面に平行な一方の方向に引張速度2mm/分で移動させながら、移動距離としてのひずみ量δとを測定した(
図4(C)参照)。引張試験機と治工具は十分に剛性の高いものを用い、引張試験機の治工具の移動距離(引張ストローク)をひずみ量δとした。
図4(B)では、2つのアルミニウム板の相対的な移動の方向を、白抜き矢印で示している。このような2枚のアルミニウム板の相対移動を、試験片70が破断するまで継続し、破断した時のひずみ量δ(単位は、mm)を破断した時の接着剤層の厚み(単位は、mm)で除すことにより、試験片70のせん断ひずみ(%)を算出した。接着剤層の厚みとして、治工具(つかみ具)間距離を用いた。
【0042】
なお、すでに静電チャックに組み込まれている接合部のせん断ひずみ量(単位は、mm)を測定する場合には、例えば、以下のように行う。まず、レーザーカット等の加工方法により、接合部を被着体(板状部およびベース部)ごと切り出す。切り出す試験片の形状は、引張試験機の治具で保持することができ、かつ、接合されている2つの被着体を、
図9に示されるように互いに逆方向に引っ張ることができる形状であればよい。引張試験を行う前に、切り出した試験片における接合部の面積と、接合部の厚さとを測定する。その後は、上述した方法と同様に引っ張り試験を行い、ひずみ量を測定すればよい。なお、静電チャックは新品のものに限らず、使用したものを用いることもできる。静電チャックの入手時点を加熱前とし、例えば、3000時間加熱してせん断ひずみの変化率を確認することができる。
【0043】
[評価結果]
上記の各サンプルを用いて、加熱前後のせん断ひずみの変化率を調べた。加熱温度180℃と200℃それぞれについて、加熱時間を、0時間、500時間、1000時間、2000時間、3000時間、5000時間、8000時間、10000時間と変化させた。加熱時間0時間では、非加熱のサンプルを用いて常温でせん断ひずみを測定した。加熱後のサンプルについては、各加熱時間が経過した後のサンプルを用いて常温でせん断ひずみを測定した。
【0044】
図5は、180℃加熱によるせん断ひずみの変化率を示す図である。
図6は、200℃加熱によるせん断ひずみの変化率を示す図である。
図7は、サンプル1のせん断ひずみの変化率の加熱時間に対する変化を示す図である。
図8は、サンプル2のせん断ひずみの変化率の加熱時間に対する変化を示す図である。
図9は、サンプル3のせん断ひずみの変化率の加熱時間に対する変化を示す図である。
図7~9では、180℃の加熱を菱形で示し、200℃の加熱を四角で示している。また、変化率が-0.15~0.15の範囲をドットハッチングを付して示し、変化率が-0.2~0.2の範囲を斜線ハッチングを付して示している。さらに、加熱時間3000時間のせん断ひずみの変化率を丸で囲んで示している。
【0045】
図7~9に示すように、サンプル1~3の全てにおいて、加熱時間3000時間までは時間に対してほぼリニアにせん断ひずみが低下していく。サンプル1は、加熱温度180℃で3000時間加熱したもののせん断ひずみの変化率が-0.071であり(
図5)、下記の要件[1]を満たす。また、サンプル1は、加熱温度200℃で3000時間加熱したもののせん断ひずみの変化率が-0.087であり(
図6)、下記の要件[2]を満たす。
要件[1]|(γ1-γ0)/γ0|≦0.15 ここで、γ0は加熱前の前記接着剤層のせん断ひずみ、γ1は前記接着剤層を180℃で3000時間加熱した後のせん断ひずみである。
要件[2]|(γ2-γ0)/γ0|≦0.2 ここで、γ0は加熱前の前記接着剤層のせん断ひずみ、γ2は前記接着剤層を200℃で3000時間加熱した後のせん断ひずみである。
【0046】
サンプル2は、加熱温度180℃で3000時間加熱したもののせん断ひずみの変化率が-0.204であり(
図5)、上記の要件[1]を満たさない。また、サンプル2は、加熱温度200℃で3000時間加熱したもののせん断ひずみの変化率が-0.238であり(
図6)、上記の要件[2]を満たさない。
【0047】
サンプル3は、加熱温度180℃で3000時間加熱したもののせん断ひずみの変化率が-0.156であり(
図5)、上記の要件[1]を満たさない。また、サンプル2は、加熱温度200℃で3000時間加熱したもののせん断ひずみの変化率が-0.384であり(
図6)、上記の要件[2]を満たさない。
【0048】
すなわち、サンプル1は180℃、200℃の高温で3000時間加熱した後も、せん断ひずみがほぼ変化しておらず、ほぼ劣化していないといえる。すなわち、サンプル1は耐熱性が優れているといえる。
【0049】
・成分分析(ICP発光分析)
上記サンプル1、2を用いて、ICP発光分析にて定性分析を行った。
サンプル1は、リン(P)を1500ppm含んでいた。一方、サンプル2は、リン(P)の含有量が検出限界以下、すなわち100ppm未満だった。
【0050】
以上説明したように、サンプル1は、上記要件[1]、[2]を満たし、さらに、下記要件[3]、[4]、[5]を満たす。
要件[3] 接着剤はシリコーン系樹脂である。
要件[4] 接着剤層を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)を光源とするICP発光分析法により定量分析したリン(P)の量が100ppm以上である。
要件[5] 接着剤層が、無機フィラーを30体積%以上含む。
【0051】
サンプル2、3は、上記要件[3]、[5]を満たすものの上記要件[1]、[2]、[4]を満たさない。これらの結果により、接着剤層が、リン(P)を100ppm以上含むことによる接着剤層の耐熱性の向上を確認することができた。上述の通り、熱による樹脂の分解の過程で生じるラジカル種を、リンが途中でトラップし失活させることで、樹脂の分解を抑制することができ、接着剤の耐熱性を高めることができたと考えられる。リンを含むことによる以外に、同様な効果を奏する手法として、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブなど表面にラジカル受容体を持つと考えられる成分を接着剤層もしくは無機フィラーに含むことが考えられる。
【0052】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0053】
本開示は、以下の適用例としても実現することが可能である。
[適用例1]
対象物を保持する保持装置であって、
板状に形成される板状部と、
前記板状部を支持し、板状に形成されるベース部と、
前記板状部と前記ベース部との間に配置され、接着剤および無機フィラーを含み、前記板状部と前記ベース部とを接合する接着剤層と、
を備え、
前記接着剤層は、
|(γ1-γ0)/γ0|≦0.15を満たすことを特徴とする、
保持装置。
ここで、γ0は加熱前の前記接着剤層のせん断ひずみ、γ1は前記接着剤層を180℃で3000時間加熱した後のせん断ひずみである。
[適用例2]
適用例1に記載の保持装置であって、
前記接着剤層は、
|(γ2-γ0)/γ0|≦0.2を満たすことを特徴とする、
保持装置。
ここで、γ0は加熱前の前記接着剤層のせん断ひずみ、γ2は前記接着剤層を200℃で3000時間加熱した後のせん断ひずみである。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の保持装置であって、
前記接着剤はシリコーン系樹脂であることを特徴とする、
保持装置。
[適用例4]
適用例1から適用例3に記載の保持装置であって、
前記接着剤層を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)を光源とするICP発光分析法により定量分析したリン(P)の量が100ppm以上であることを特徴とする、
保持装置。
[適用例5]
適用例1から適用例4に記載の保持装置であって、
前記接着剤層が、前記無機フィラーを30体積%以上含むことを特徴とする、
保持装置。