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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154042
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】回転検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
G01D5/245 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067639
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000103792
【氏名又は名称】オリエンタルモーター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521251039
【氏名又は名称】小関 栄男
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寳田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】染谷 雅行
(72)【発明者】
【氏名】小関 栄男
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA25
2F077AA43
2F077AA46
2F077NN04
2F077NN17
2F077PP13
2F077QQ01
2F077VV01
(57)【要約】
【課題】簡単で小型な構造で、多極磁石および発電センサの組み合わせによって回転を検出できる回転検出装置を提供する。
【解決手段】回転検出装置10は、回転軸300に設けられたリング形状の多極磁石200と、多極磁石の回転に伴って変化する磁界を検出する発電センサ100とを含む。発電センサは、大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤ110と、磁性ワイヤに巻回されたコイル120と、磁性ワイヤの両端部にそれぞれ磁気的に結合された軟磁性体部品からなる一対の磁束伝導片130,131とを含む。リング形状の多極磁石は、外周部に回転軸に対して斜めの着磁パターンを有する。発電センサは、磁性ワイヤの軸方向が回転軸と平行な姿勢で多極磁石の前記着磁パターンに対峙している。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に設けられたリング形状の多極磁石と、前記多極磁石の回転に伴って変化する磁界を検出する発電センサとを含み、
前記発電センサは、
大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤと、
前記磁性ワイヤに巻回されたコイルと、
前記磁性ワイヤの両端部にそれぞれ磁気的に結合された軟磁性体部品からなり、前記磁性ワイヤの軸方向の中心位置に設定される対称面に関して互いに対称な一対の磁束伝導片と、を含み、
前記リング形状の多極磁石は、外周部に前記回転軸に対して斜めの着磁パターンを有し、
前記発電センサは、前記磁性ワイヤの前記軸方向が前記回転軸と平行な姿勢で前記多極磁石の前記着磁パターンに対峙している、
回転検出装置。
【請求項2】
前記一対の磁束伝導片は、
前記磁性ワイヤの両端部がそれぞれ固定され前記磁性ワイヤの両端部から前記軸方向に直交する軸直交方向に互いに平行に延びる一対の軸直交部と、
前記一対の軸直交部の先端部から前記軸方向に沿って互いに接近する方向に延び、近接端同士が前記軸方向に間隔を空けて対向する一対の軸平行部と、を備え、
前記一対の軸平行部が前記多極磁石の前記着磁パターンに対峙している、請求項1に記載の回転検出装置。
【請求項3】
前記間隔の前記軸方向の距離が、前記磁性ワイヤとの結合位置における前記一対の軸直交部の間の前記軸方向の距離の5%~50%である、請求項2に記載の回転検出装置。
【請求項4】
前記着磁パターンは、前記回転軸のまわりの周方向に配列され、前記回転軸に対して傾斜した帯状に形成された複数の磁極を含み、前記複数の磁極は前記周方向に交互に配列されたN極およびS極を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の回転検出装置。
【請求項5】
前記発電センサの前記磁性ワイヤの両端部の一方が一つの前記N極に対向するとき、当該N極の隣の一つの前記S極に前記磁性ワイヤの両端部の他方が対向するように、前記回転軸に対する前記複数の磁極の傾斜角が定められている、請求項4に記載の回転検出装置。
【請求項6】
前記発電センサの前記一対の磁束伝導片の一方が一つの前記N極に対峙するとき、当該N極の隣の一つの前記S極に前記一対の磁束伝導片の他方が対峙するように、前記回転軸に対する前記複数の磁極の傾斜角が定められている、請求項4に記載の回転検出装置。
【請求項7】
前記回転軸まわりの周方向の所定位置で前記リング形状の多極磁石の磁極を識別する磁気センサをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の回転検出装置。
【請求項8】
前記発電センサと前記多極磁石との間に配置された基板をさらに含み、
前記基板の前記多極磁石とは反対側の主面に前記発電センサが実装されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の回転検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発電センサを用いた回転検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大バルクハウゼン効果(大バルクハウゼンジャンプ)を有する磁性ワイヤは、ウィーガンドワイヤまたはパルスワイヤの名で知られている。この磁性ワイヤは、芯部とその芯部を取り囲むように設けられた表皮部とを備えている。芯部および表皮部の一方は弱い磁界でも磁化方向の反転が起きるソフト(軟磁性)層であり、芯部および表皮部の他方は強い磁界を与えないと磁化方向が反転しないハード(硬磁性)層である。このような磁性ワイヤにコイルを巻回することにより、発電センサを構成することができる。
【0003】
ハード層とソフト層とがワイヤの軸方向に沿って同じ向きに磁化されているときに、その磁化方向とは反対方向の外部磁界強度が増加して或る磁界強度に達すると、ソフト層の磁化方向が反転する。この磁化方向の反転は、磁性ワイヤの或る部分を開始位置としてワイヤ全体に伝播し、ソフト層の磁化方向が一斉に反転する。このとき、大バルクハウゼン効果が発現し、磁性ワイヤに巻かれたコイルにパルス信号が誘発される。上述の外部磁界強度がさらに増加し、或る磁界強度に達すると、ハード層の磁化方向が反転する。
【0004】
この明細書では、ソフト層の磁化方向が反転するときの磁界強度を「動作磁界」といい、ハード層の磁化方向が反転するときの磁界強度を「安定化磁界」という。
【0005】
コイルから得られる出力電圧は、入力磁界(外部磁界)の変化スピードにかかわらず一定であり、入力磁界に対するヒステリシス特性を持つためチャタリングがない、などの特徴を有する。そのため、コイルから生成されるパルス信号は、回転検出装置などに使用される。コイルからの出力は電力を持つため、外部電力の供給を要しない発電型のセンサ(発電センサ)を構成できる。すなわち、外部電力の供給なしに、コイルの出力エネルギーにより、周辺回路も動作させることができる。
【0006】
大バルクハウゼン効果が発現するためには、ハード層およびソフト層の磁化方向が一致している状態から、ソフト層のみの磁化方向が反転することが必要である。ハード層およびソフト層の磁化方向が不一致の状態で、ソフト層のみの磁化方向が反転したとしても、パルス信号は生じないか、あるいは生じたとしても非常に小さい。
【0007】
また、得られる電力を最大化するためには、磁性ワイヤ全体の磁化方向が揃っている状態から、ソフト層の磁化反転が磁性ワイヤ全体に及ぶことが重要である。磁性ワイヤの磁化方向が部分的に揃っていない場合には、非常に小さいパルス信号が得られるに過ぎない。そのため、磁性ワイヤの全体に一様な磁界がかかることが好ましい。
【0008】
発電センサに交番磁界が与えられた場合、1周期に対して正パルス信号1つおよび負パルス信号1つの計2つのパルス信号が発生する。磁界の発生源として磁石を使い、磁石の回転運動により発電センサに交番磁界が加わるようにし、発生するパルス信号をカウントすることで回転位置を検出できる。
【0009】
大バルクハウゼンジャンプを発現する磁性ワイヤにて磁石の回転に伴う磁界変化を検出する装置の例は、特許文献1および特許文献2に記載されている。
【0010】
特許文献1は、多極に着磁されたトーンホイールと大バルクハウゼンジャンプを発現する磁性ワイヤから成るセンサを備える回転速度検出装置を開示している。特許文献1の図1の構成では、磁性ワイヤは、その線長方向をトーンホイールの回転軸の半径方向として、トーンホイールの外周部に配置されている。磁性ワイヤの一端がトーンホイールの外周面に近接して配置され、磁性ワイヤの他端には強磁性体のポールピースの一端が結合されている。そして、ポールピースの他端がトーンホイールの外周面に近接して配置されている。この構成により、ポールピースによってトーンホイールからの磁界を誘導し、大バルクハウゼンジャンプを発現するために必要な所定の磁界強度が調整可能である、と説明されている。
【0011】
特許文献1の図2の構成では、磁性ワイヤは、その線長方向をトーンホイールの回転軸の円周に対する接線方向と平行にして、トーンホイールの外周部に配置されている。磁性ワイヤの両端に強磁性体のポールピースを備え、ポールピースよってトーンホイールからの磁界を誘導する。それにより、大バルクハウゼンジャンプを発現するために必要な所定の磁界強度が調整可能である、と説明されている。
【0012】
特許文献1の図3図10の構成では、磁性ワイヤは、その線長方向をトーンホイールの回転軸に平行として、トーンホイールの外周部に配置されている。磁性ワイヤにはポールピースは備わっていない。この磁性ワイヤの配置に対して、特許文献1の図3図5図8および図10が示すトーンホイールの各種形態で、大バルクハウゼンジャンプを発現するために必要な所定強度の磁界が印加される、と説明されている。
【0013】
特許文献1の図1および図2に示すポールピースにおいては、着磁にピッチ対応した形状が必須であるため装置の組立が煩雑であるうえに、装置性能が組立精度に依存する。また、同文献の図1の構成では、トーンホイールに直接対向する磁性ワイヤの一端と、ポールピースを通って磁界が誘導される他端とでは、磁界強度が一様でない。同文献の図2の構成では、トーンホイールに対峙するポールピースの面積が小さい。そのため、これらのいずれの構成も、磁性ワイヤの全体に一様な動作磁界と安定化磁界を印加する手段としては、その効果は十分ではない。
【0014】
特許文献1のポールピースがない状態では、同文献の図4図7および図9に示されているように、磁石から漏洩する磁束線が磁性ワイヤの線長方向に平行にならない。そこで、磁束線を磁性ワイヤの線長方向に平行にするためには、同文献の図3図5図8および図10示すような各種の形態が必要となり、同文献の図11および図12の構成に比べて、周方向に並ぶ極数が同じ(すなわち検出分解能が同じ)であってもトーンホイールの外周に設ける磁極数を2倍または4倍としなければならない。したがって、磁極パターンを複雑にしなければいけないという問題点がある。
【0015】
このような磁極パターンは、着磁済みの磁石を円筒ヨークに貼り付けることで実現可能であるが、磁石を貼り付けるのは工数がかかる。一般的に磁石を貼り付ける代わりに円筒リング形状の磁石に多極着磁を行うことにより、工数の低減が可能であるが、このような複雑な磁極パターンを着磁で実現するのは非常に難しい。着磁ができないか、着磁できたとしても着磁に使用する着磁ヨークが複雑で高価な物となる。
【0016】
また、着磁ピッチの幅(磁極の周方向の幅)を大きくとらないと磁性ワイヤに一定の強度を持つ安定化磁界を印加できない。よって、装置が大きくなるという問題点がある。
【0017】
特許文献2は、大バルクハウゼンジャンプを発現する磁性ワイヤにコイルを巻回した磁気センサ備える回転検出装置を開示している。磁気センサは磁性ワイヤの線長方向が回転軸の軸方向と平行となるように、磁界形成部の軌道の外周側に配置されている。磁界形成部は、周方向に4極で構成された2つの永久磁石を有する。これらの2つの永久磁石は、回転軸の軸方向に互いに異なる極が並ぶように回転軸上に設置されている。この構成により、、小型の装置化が可能である、と説明されている。
【0018】
特許文献2の構造は、特許文献1の図6の構造に近似しており、2つの磁界形成部(永久磁石)を回転軸の軸方向に離して配置することで、未着磁部分(磁極のない部分)を設けている。しかし、2つの部品(永久磁石)を装着する必要があるので、装置の組立が煩雑である。加えて、2つの磁石の磁極の位相合わせが性能に影響するため、装置性能が組立精度に依存する。さらに、磁束伝導片(磁束誘導片)がない構造であるため、特許文献1と同様に、着磁ピッチの幅(磁極の周方向の幅)を大きくとらないと、磁性ワイヤに一定の強度を持つ安定化磁界を印加できない。よって、装置が大きくなるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平8-136558号公報
【特許文献2】特開2022-55001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
このように、磁界発生源が多極の回転体である場合に、磁性ワイヤを回転軸に平行にして、磁性ワイヤ全体に軸方向に平行な磁界を均一な強度で印加しようとすると、構造が複雑になり、小型化が難しい。また、磁性ワイヤを、その軸方向(線長方向)を回転軸の円周接線方向や半径方向として設置した場合は、着磁ピッチに応じて設計される形状および配置の磁性部材が必要であり、汎用性にも欠ける欠点が加わる。
【0021】
そこで、本発明の一実施形態は、簡単で小型な構造で、多極磁石および発電センサの組み合わせによって回転を検出できる回転検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の一実施形態は、磁束伝導片(磁束誘導片)を有する発電センサと外周部に斜めの着磁パターンを有するリング形状の多極磁石との組合せにて、簡単で小型、かつ高出力の信号を得ることができる回転検出装置を提供する。
【0023】
この発明の一実施形態は、次に例示的に列記する特徴を有する回転検出装置を提供する。
【0024】
1.回転軸に設けられたリング形状の多極磁石と、前記多極磁石の回転に伴って変化する磁界を検出する発電センサ(たとえば、一つの発電センサ)とを含み、
前記発電センサは、
大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤと、
前記磁性ワイヤに巻回されたコイルと、
前記磁性ワイヤの両端部にそれぞれ磁気的に結合された軟磁性体部品からなり、前記磁性ワイヤの軸方向の中心位置に設定される対称面に関して互いに対称な一対の磁束伝導片と、を含み、
前記リング形状の多極磁石は、外周部に前記回転軸に対して斜めの着磁パターンを有し、
前記発電センサは、前記磁性ワイヤの前記軸方向(線長方向)が前記回転軸と平行な姿勢で前記多極磁石の前記着磁パターンに対峙している、
回転検出装置。
【0025】
この構成によれば、リング形状の多極磁石の回転軸に磁性ワイヤの軸方向を平行にした発電センサの配置でありながら、多極磁石の斜めの着磁パターンにより、磁性ワイヤの両端部に磁気結合した一対の磁束伝導片に異なる磁極を対向させることができる。それにより、回転軸とともに多極磁石が回転することにより、磁性ワイヤが大バルクハウゼン効果を発現し、パルス電圧が発生する。
【0026】
しかも、外周部に斜めの着磁パターンを有するリング形状の多極磁石には、典型的には、電動モータにおいて用いられるスキュー磁石のような簡単で安価な磁石を用いることができる。このような多極磁石と磁束伝導片を有する発電センサとの組合せは容易であり、汎用性のある回転検出装置となる。
【0027】
このように、斜めの着磁パターンを有するリング形状の多極磁石と、磁束伝導片を有する発電センサとの組合せによって、簡単で小型な構造で回転を検出できる回転検出装置を実現できる。
【0028】
2.前記一対の磁束伝導片は、
前記磁性ワイヤの両端部がそれぞれ固定され前記磁性ワイヤの両端部から前記軸方向に直交する軸直交方向に互いに平行に延びる一対の軸直交部と、
前記一対の軸直交部の先端部から前記軸方向に沿って互いに接近する方向に延び、近接端同士が前記軸方向に間隔を空けて対向する一対の軸平行部と、を備え、
前記一対の軸平行部が前記多極磁石の前記着磁パターンに対峙している、項1に記載の回転検出装置。
【0029】
この構成によれば、リング形状の多極磁石の外周部に形成された斜めの着磁パターンの磁極面と、磁性ワイヤとの間には、磁性ワイヤの軸方向に平行な軸平行部が位置している。それにより、印加される磁界は、軟磁性体部品からなる磁束伝導片によって集磁されて磁性ワイヤの両端部に導かれる。そのうえ、磁性ワイヤの軸方向に交差する方向に向かう磁束は、軸平行部によって遮蔽される。こうして、磁性ワイヤにその軸方向の磁界を印加することができるので、細かな着磁ピッチでも、大バルクハウゼン効果を十分に引き起こすことができる。換言すれば、小型で高出力の信号を得ることができる回転検出装置を実現できる。
【0030】
3.前記間隔の前記軸方向の距離が、前記磁性ワイヤとの結合位置における前記一対の軸直交部の間の前記軸方向の距離の5%~50%である、項2に記載の回転検出装置。
【0031】
この構成により、磁性ワイヤが有する素性の大バルクハウゼン効果をほぼ完全に引き出すことができるので、小型で高出力な発電センサを実現できる。
【0032】
4.前記着磁パターンは、前記回転軸のまわりの周方向に配列され、前記回転軸に対して傾斜した帯状に形成された複数の磁極を含み、前記複数の磁極は前記周方向に交互に配列されたN極およびS極を含む、項1~3のいずれか一項に記載の回転検出装置。
【0033】
この構成により、発電センサの一対の磁束伝導片に異なる極性の磁極から磁束を伝導させることができるので、小型で高出力な発電センサを実現できる。
【0034】
5.前記発電センサの前記磁性ワイヤの両端部の一方が一つの前記N極に対向(典型的には磁束伝導片を介して前記回転軸の回転半径方向に対向)するとき、当該N極の隣の一つの前記S極に前記磁性ワイヤの両端部の他方が対向(典型的には磁束伝導片を介して前記回転軸の回転半径方向に対向)するように、前記回転軸に対する前記複数の磁極の傾斜角(スキュー角)が定められている、項4に記載の回転検出装置。
【0035】
この構成により、磁性ワイヤの両端部に異なる極性の磁極から磁束を効率的に伝導させることができるので、小型で高出力な発電センサを実現できる。
【0036】
6.前記発電センサの前記一対の磁束伝導片の一方が一つの前記N極に対峙(典型的には前記回転軸の回転半径方向に対峙)するとき、当該N極の隣の一つの前記S極に前記一対の磁束伝導片の他方が対峙(典型的には前記回転軸の回転半径方向に対峙)するように、前記回転軸に対する前記複数の磁極の傾斜角(スキュー角)が定められている、項4に記載の回転検出装置。
【0037】
この構成により、発電センサの一対の磁束伝導片に異なる極性の磁極からの磁束を効率的に伝導させることができるので、小型で高出力な発電センサを実現できる。
【0038】
7.前記回転軸まわりの周方向の所定位置で前記リング形状の多極磁石の磁極を識別する磁気センサをさらに含む、項1~6のいずれか一項に記載の回転検出装置。
【0039】
この構成によれば、周方向の所定位置で磁気センサによって磁極を識別することにより、発電センサへの磁界の印加状態を知ることができる。そこで、磁気センサの出力信号を利用することで、回転軸の回転運動の正転と反転の識別、すなわち、回転方向の検出が可能となる。
【0040】
8.前記発電センサと前記多極磁石との間に配置された基板をさらに含み、
前記基板の前記多極磁石とは反対側の主面に前記発電センサが実装されている、項1~7のいずれか一項に記載の回転検出装置。
【0041】
前記磁気センサは、発電センサとともに前記基板に実装されてもよい。それにより、発電センサと磁気センサとの相対配置を正確に定められる。
【発明の効果】
【0042】
この発明によれば、磁束伝導片を有する発電センサと外周部に斜めの着磁パターンを有するリング形状の多極磁石との組合せにて、簡単で小型、かつ高出力の信号を得ることができる回転検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1A図1Aは、第1実施形態に係る回転検出装置の斜視図である。
図1B図1Bは、図1Aの矢印11の方向に見た正面図である。
図2A図2Aは、前記回転検出装置に備えられる発電センサの拡大した斜視図である。
図2B図2Bは、図2Aの矢印101方向に見た正面図である。
図3A-3C】図3A図3Bおよび図3Cは、磁束伝導片を備えない構成(比較例)についての2次元磁気シミュレーションの結果を示す図である。
図4A-4C】図4A図4Bおよび図4Cは、磁束伝導片を備える構成(実施例)についての2次元磁気シミュレーションの結果を示す図である。
図5図5は、実験に用いたスキュー磁石の着磁パターンをマグネットビュアーで観察して得られた画像である。
図6図6は、一対の磁束伝導片の軸直交部間の距離に対する近接端同士の間隔の比率と出力波高との関係を調べた実験結果を示す図である。
図7A-7B】図7Aは比較例に係る回転検出装置の斜視図であり、図7B図7Aの構成の上面図である。
図8図8は、第2実施形態に係る回転検出装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0045】
[第1実施形態]
図1Aおよび図1Bに、第1実施形態に基づく回転検出装置10を示す。図1Aは回転検出装置10の斜視図であり、図1B図1Aの矢印11の方向に見た正面図である。
【0046】
回転検出装置10は、回転軸300に設けられたリング形状の多極磁石200と1つの発電センサ100を含む。回転軸300は、その中心軸線に一致する回転軸線300aまわりに回転し、回転軸300とともに多極磁石200も回転軸線300aまわりに回転する。
【0047】
発電センサ100は、大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤ110と、磁性ワイヤ110に巻回されたコイル120とを含む。発電センサ100は、さらに、磁性ワイヤ110の両端部にそれぞれ磁気的に結合された一対の軟磁性体部品からなる一対の磁束伝導片130,131(磁束誘導片)を含む。
【0048】
リング形状の多極磁石200は、外周部に回転軸300に対して斜めの着磁パターンを有する。リング形状は、回転軸線300aを中心軸とする回転体であり、この実施形態では、筒状である。外周部の着磁パターンは、回転軸線300aに平行な方向に対して傾斜している。
【0049】
発電センサ100は、磁性ワイヤ110の軸方向(線長方向)を回転軸線300aと平行にして配置されており、一対の磁束伝導片130,131が、着磁パターンに対峙している。
【0050】
図2Aは発電センサ100の斜視図であり、図2B図2Aの矢印101の方向に見た正面図である。発電センサ100は、大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤ110と、磁性ワイヤ110に巻回されたコイル120と、軟磁性体部品からなる一対の磁束伝導片130,131とを含む。コイル120は、磁性ワイヤ110の第1端部111と第2端部112とを同じ長さで露出するように、磁性ワイヤ110に巻回されている。この実施形態では、コイル120は、一対の磁束伝導片130,131の間で磁性ワイヤ110に巻回されている。一対の磁束伝導片130,131は、磁性ワイヤ110の第1端部111および第2端部112にそれぞれ磁気的に結合している。
【0051】
一対の磁束伝導片130,131は、実質的に同形同大の構成を有している。より具体的には、一対の磁束伝導片130,131は、磁性ワイヤ110の軸方向x(線長方向)の中心位置(以下「軸中心位置」という。)113において軸方向xに直交する対称面115(幾何学的配置を説明するための仮想的な平面)に対して互いに対称に構成されている。一対の磁束伝導片130,131は、磁性ワイヤ110の両端部111,112から軸方向xに直交する軸直交方向zに互いに平行に延びる軸直交部133と、軸直交部133の先端部から軸方向xに沿って互いに接近する方向に延びる軸平行部134とを備えている。より具体的には、磁束伝導片130,131は、ほぼ直方体形状の軸直交部133と、その先端部に連設されたほぼ直方体形状の軸平行部134とを有し、軸直交部133と軸平行部134との結合部で直角に曲がったL字形状を有している。
【0052】
軸直交部133は、この例では、軸方向xに厚さWを有している。一対の軸直交部133は、磁性ワイヤ110との結合位置において、それらの対向する内面同士が軸方向xに距離Dを空けて対向している。一対の軸平行部134は、それらの近接端134a同士が軸方向xに距離Lの間隔を空けて対向している。
【0053】
一対の磁束伝導片130,131の軸直交部133の基端部に、磁性ワイヤ110の両端部111,112がそれぞれ固定されている。より具体的には、軸直交部133の基端部には、軸方向xに貫通する穴または溝が形成されたワイヤ配置部130a,131aが設けられている。図2A等には、ワイヤ配置部130a,131aを穴で構成した例を示す。ワイヤ配置部130a,131aを溝で構成する場合には、軸平行部134とは反対側の端面に開放するように軸直交方向zに沿って深くなる溝であることが好ましい。磁性ワイヤ110の第1端部111および第2端部112は、ワイヤ配置部130a,131aにおいて軸直交部133を貫通した状態で、当該軸直交部133に固定されている。さらに具体的には、ワイヤ配置部130a,131aを構成する穴または溝内に樹脂(図示省略)が配置されることにより、磁性ワイヤ110の端部111,112が軸直交部133に固定され、それらが互いに結合されている。これにより、磁性ワイヤ110と一対の磁束伝導片130,131とが、互いに機械的に結合され、かつ互いに磁気的に結合されている。
【0054】
一対の磁束伝導片130,131の軸平行部134は、それらの近接端134a同士が、磁性ワイヤ110の軸中心位置113を通る対称面115を挟んで互いに対向している。すなわち、それらの近接端134aは、軸方向xに間隔を空けて互いに対向している。この間隔の軸方向xの中間位置は、軸中心位置113の軸方向xの位置に相当しており、
したがって、一対の軸平行部134の近接端134aから対称面115までの軸方向xの距離は等しい。当該間隔の軸方向xの距離Lは、磁性ワイヤ110と軸直交部133との結合位置における一対の軸直交部133の間の距離Dの5%~50%とされる。
【0055】
距離Dは、より具体的には、磁性ワイヤ110との結合位置において軸方向xに対向する一対の磁束伝導片130,131の内側面130b,131b(軸直交部133の内側面)の間の軸方向xの距離である。
【0056】
発電センサ100は、軸平行部134に対して磁性ワイヤ110とは反対側の領域を検出領域140とするように設計されている。検出領域140に、検出すべき磁界を発生する磁界発生源が配置される。磁界発生源は、図1Aおよび図1Bの回転検出装置10では、リング形状の多極磁石200である。多極磁石200の磁極は、検出領域140を通過するように、発電センサ100に対して相対的に移動する。すなわち、多極磁石200の磁極移動経路上に検出領域140が配置される。磁極移動経路は、軸方向xに見たときに回転軸線300aを中心とする円周上にあり、その円周は検出領域140において、軸方向xおよび軸直交方向zに直交する幅方向yに平行な接線を有する。
【0057】
一対の磁束伝導片130,131は、検出領域140に配置された磁界発生源(多極磁石200)が当該磁束伝導片130,131を含む空間に形成する磁界を軸方向xの磁界に補正して磁性ワイヤ110に印加するように構成されている。軸平行部134は、多極磁石200に対向する表面134b(検出領域140に対向する検出領域対向面。以下「検出領域対向面134b」という。)から磁束を集めて磁束伝導片130,131内へと導くことができる。検出領域対向面134bは、この実施形態では、軸方向xに平行な面である。検出領域対向面134bは、幅方向yにも平行な平坦面であってもよく、多極磁石200の筒状外周面に整合する筒状の湾曲面であってもよい。
【0058】
図1Aおよび図1Bに示すように、リング形状の多極磁石200の外周部に設けられた斜めの着磁パターンの磁極面と、磁性ワイヤ110との間には、磁性ワイヤ110の軸方向xに平行な軸平行部134が位置している。そのため、印加される磁界は、軟磁性体部品からなる一対の磁束伝導片130,131によって集磁され、磁性ワイヤ110の両端部に導かれる。そのうえ、磁性ワイヤ110の軸方向xに垂直に向かう磁束は、軸平行部134によって遮蔽される。よって、印加される磁界は、磁性ワイヤ110の軸方向xに補正されるので、大バルクハウゼン効果を十分に引き起こすことができ、高出力の信号を得ることができる。この発電センサ100の磁性ワイヤ110の軸方向x(線長方向)を、回転軸300と平行に配置する。
【0059】
軟磁性体部品からなる磁束伝導片130,131とコイル120とは、それらを覆うケース(図示省略)に接着樹脂、嵌合、その他の適切な固定手段によって固定される。前述のとおり、磁性ワイヤ110の両端部111,112は、2つの貫通する穴または溝からなるワイヤ配置部130a,131aに樹脂(図示省略)によって固定されている。したがって、一対の磁束伝導片130,131、コイル120および磁性ワイヤ110が互いに固定されて一体化された構造によって発電センサ100が構成されている。
【0060】
リング形状の多極磁石200の外周部の着磁パターンは、回転軸300のまわりの周方向に配列され、回転軸300に対して傾斜した帯状に形成された複数(この実施形態では12個)の磁極(磁極帯)n1,s1,n2,s2,……を含む。この複数の磁極は、周方向に交互に配列されたN極n1,n2,…およびS極s1,s2,…を含む。この実施形態では、一例として、6個のN極n1~n6および6個のs極s1~s6が設けられている構成を示すが、むろん、磁極数はこれ以外であってもよい。
【0061】
発電センサ100の磁性ワイヤ110の両端部の一方が一つのN極に対向(より具体的には磁束伝導片130,131の一方を介して回転軸300の回転半径方向に対向)するとき、当該N極の隣の一つのS極に磁性ワイヤ110の両端部の他方が対向(より具体的には磁束伝導片130,131の他方を介して回転軸300の回転半径方向に対向)する。このような位置関係となるように、回転軸300に対する複数の磁極の傾斜角θ(スキュー角)が定められている。図1Bの例では、磁性ワイヤ110の一方の端部112がN極n1に対峙し、その他方の端部111がS極s1に対峙している。
【0062】
この実施形態では、さらに発電センサ100の一対の磁束伝導片130,131の一方が一つのN極に対峙(より具体的には回転軸300の回転半径方向に対峙)するとき、当該N極の隣の一つのS極に一対の磁束伝導片130,131の他方が対峙(より具体的には回転軸300の回転半径方向に対峙)するように、回転軸300に対する複数の磁極の傾斜角θ(スキュー角)が定められている。図1Bの例では、一方の磁束伝導片131がN極n1に対峙し、他方の磁束伝導片130がS極s1に対峙している。
【0063】
このような構成により、発電センサ100の一対の磁束伝導片130,131に異なる極性の磁極から磁束を効率的に伝導させることができるので、小型で高出力な発電センサ100を実現できる。
【0064】
磁性ワイヤ110から回転軸300を見たときに(図1B参照)、一方の磁束伝導片(131)に一つのN極(n1)の中心線201が正対する多極磁石200の角度位置で、他方の磁束伝導片(130)にそのN極(n1)の隣の一つのS極(s1)の中心線202が正対する設計が最も好ましい。一つのN極(n1)の中心線201からその隣のS極(s1)の中心線202までの回転軸300まわりの周方向の距離を磁極ピッチλとすると、上記の設計は、一対の磁束伝導片130,131の外方端同士の距離(D+2W)(この距離は磁性ワイヤ110の全長にほぼ等しい。)に相当する軸方向距離に対して、周方向に磁極ピッチλに等しい周方向距離だけずれる傾斜角θ(スキュー角)に相当する。この周方向距離は、磁極ピッチλに等しい場合が最もよいが、磁極ピッチλの2分の1以上2分の3以下の範囲で適切に定めれば、発電センサ100からパルス電圧を出力させることができる。複数の磁極n1,s1,n2,s2,……は典型的には回転軸線300aまわりの周方向に沿って等しい幅で形成される。この場合、磁極ピッチλは、各磁極の幅とほぼ等しい。
【0065】
図1Bの例では、多極磁石200を構成するスキュー磁石のスキュー角(傾斜角θ)は、一対の軸平行部134の幅tを対向する2辺の長さとし、D+2Wを別の対向する2辺の長さとする長方形の対角線とほぼ同じ角度となっている。周方向の着磁ピッチ(磁極ピッチλ)は磁束伝導片130,131の幅tとほぼ等しい。このように、着磁ピッチの狭い磁石に対応できるため、小型の回転検出装置を実現できる。
【0066】
[第1モデル]
図3A図3Bおよび図3Cは、磁束伝導片を備えない場合(比較例)における、磁性ワイヤ110の軸線を通る鉛直断面での2次元磁気シミュレーションの結果を示す。一方、図4A図4Bおよび図4Cは、両端部に磁束伝導片130,131を磁気結合させた場合(実施例)における、磁性ワイヤ110の軸線を通る鉛直断面での2次元磁気シミュレーションの結果を示す。
【0067】
図3Aおよび図4Aにおいては、磁界発生源は、磁性ワイヤ110と平行である矢印方向(軸方向xの一方向)に磁化された磁石210である。図3Bおよび図4Bにおいては、磁界発生源は、磁性ワイヤ110と垂直である矢印方向(軸直交方向zの互いに反対の方向)に磁化され、軸方向xに近接して配置された2つの個別磁石220,220である。図3Cおよび図4Cにおいては、磁界発生源は、磁性ワイヤ110と垂直である矢印方向(軸直交方向zの互いに反対の方向)に磁化され、軸方向xに離して配置された2つの個別磁石230,230である。
【0068】
磁性ワイヤ110内の磁束分布が全軸長範囲で一様になるためには、磁束が、磁性ワイヤ110の一端から入り、もう一端に抜けていくのが望ましい。つまり、磁性ワイヤ110の両端部の間の軸方向途中位置(以下「中間部」という。)での磁束の出入りが可及的に少ないことが望ましい。
【0069】
図3Aおよび図3Bに示す比較例の磁気シミュレーション結果では、磁石210,220が生成する磁束の多くは、磁性ワイヤ110の中間部から入り、中間部で抜けて出る。そのため、磁性ワイヤ110の中央領域の磁束密度が両端領域よりも高くなる。さらに、図3Cのように磁性ワイヤ110の中央部(軸方向中心位置付近)に磁石が位置しない場合でも、類似の磁束密度の分布となる。
【0070】
図4A図4Cに示す磁気シミュレーション結果から、L字形状の軟磁性体部品からなる磁束伝導片130,131に磁石210,220,230の磁束の大部分が誘引されて集磁されていることが分かる。ごく一部の磁束が一対の軸平行部134の間隔(距離L)を経由して漏洩するが、ほとんどの磁束は磁性ワイヤ110の一端から他端に至る経路を通る。
【0071】
磁石210,220,230から磁性ワイヤ110の中間部に向かう磁束は、軟磁性体部品からなる磁束伝導片130,131、とくにその軸平行部134によって遮断(シールド)され、磁性ワイヤ110にその中間部から入る磁束はない。より具体的には、磁石210,220,230からの磁束は、一方の磁束伝導片131の軸平行部134の検出領域対向面134bから入り、磁束伝導片131内を伝導されて磁性ワイヤ110の第2端部112に至る。また、磁性ワイヤ110の第1端部111からの磁束は、他方の磁束伝導片130を伝導されてその軸平行部134に至り、その検出領域対向面134bから磁石210,220,230に至っている。よって、磁性ワイヤ110の全長にわたって一様な磁束分布となる。すなわち、磁性ワイヤ110の全長に渡って、その軸方向xに平行で、かつ一様な強度の磁界を形成できる。
【0072】
得られる電力を最大化するためには、磁性ワイヤ全体の磁化方向が揃っている状態から、ソフト層の磁化反転が磁性ワイヤ全体に及ぶことが重要である。図3Aは特許文献1の図9の構成に相当し、図3Cは特許文献1の図7および特許文献2の図1の構成に相当する。磁束伝導片のないこれらの構成においては、磁性ワイヤの磁化方向が部分的に揃っていない状態となり、非常に小さいパルス信号が得られるに過ぎない。
【0073】
図4A図4Bおよび図4Cに示したとおり、3種類の異なる着磁パターンのいずれにおいても、第1実施形態の発電センサ100においては、磁束伝導片130,131(とくに軸平行部134)の働きによって、印加磁界が、磁性ワイヤ110の軸方向xに補正される。それにより、磁性ワイヤ110の全体に一様な磁界がかかり、安定した高出力のパルス信号を出力できる。
【0074】
[第2モデル]
第1モデルでは、第1磁束伝導片130の軸平行部134と第2磁束伝導片131の軸平行部134とに、異なる極性の磁極が対向している(図4A図4C参照)。この場合に、第1磁束伝導片130および第2磁束伝導片131によって、磁界が磁性ワイヤ110の軸方向xに補正され、磁性ワイヤ110の全体に一様な磁界がかることは、前述のとおりである。。
【0075】
一方、磁界発生源として、スキュー着磁した円筒形状の多極磁石であるスキュー磁石を用いる第2モデルを考える。スキュー磁石は、円筒形状の中心軸線まわりの周方向に交互に配置された複数の磁極を外周面に有し、その複数の磁極は周方向に交互に配列されたN極およびS極を有している。各磁極は、所定のスキュー角で中心軸線に対して傾斜している。第2モデルでは、スキュー磁石は中心軸線を磁性ワイヤ110の軸方向xと平行とし、検出領域140において、外周面が第1磁束伝導片130および第2磁束伝導片131に対向する。
【0076】
第1磁束伝導片130の軸平行部134と第2磁束伝導片131の軸平行部134とが、異なる極性の磁極に対峙したとき、第1モデルとは異なり、磁極境界線が、磁性ワイヤ110の軸中心位置113において、磁性ワイヤ110の線長方向に対して斜めになる(図1B参照)。
【0077】
第2モデルのサンプルを製作し、スキュー磁石を中心軸線まわりに回転させ、第1モデルと同様に磁束伝導片の補正機能が発揮されるかどうかを実験により調べた。
【0078】
実験に使用した発電センサ100のサンプルにおいては、磁性ワイヤ長が11mm、磁束伝導片130,131の軸直交部133同士の距離Dが7mm、一対の軸平行部134の近接端134a同士の距離Lが2mmであった。実験に使用したスキュー磁石のサンプルの構成は、外周直径14mm、内周直径10、中心軸方向の長さ8mm、磁極数12極であった。
【0079】
図5は、サンプルに用いたスキュー磁石をマグネットビュアーで観察して得られた着磁パターンの実際の画像である。着磁ピッチは約3.7mmである。これは、対峙する磁束伝導片130,131の横幅(図2Aに図示する幅t)3.5mmとほぼ同じである。
【0080】
これらのサンプルを用い、第1実施形態の配置で、スキュー磁石を正転と反転で回転運動させ、出力特性を確認した結果、発電センサ100は、安定した高出力のパルス信号を出力した。
【0081】
このように、磁極境界線が、磁性ワイヤ110の軸中心位置113において磁性ワイヤ110の線長方向に対して斜めとなった場合でも、磁束伝導片130,131の働きによって、磁性ワイヤ110の軸方向xに磁界補正される機能が有効であることが確認できた。磁極境界線が、磁性ワイヤ110の軸中心位置113において磁性ワイヤ110の線長方向に対して斜めになる構造は、特許文献1および特許文献2のいずれにも記載されていない。
【0082】
なお、スキュー着磁の技術は、主に電動モータのマグネットの着磁のために確立されている。たとえば、円筒状の磁性体部品を回転させながら、かつその中心軸に平行に移動させながら、当該磁性体部品に着磁することによって、スキュー着磁を行える。
【0083】
実験に使用した第2モデルの発電センサ100のサンプルにおいては、第1磁束伝導片130および第2磁束伝導片131の軸直交部133同士の距離Dを7mmとし、それらの軸平行部134の近接端134a同士の距離Lを2mmとした。この場合、一対の軸直交部133の間の距離Dに対する近接端134a同士の距離Lの比率は、29%である。この距離の比率L/Dと出力特性の関係を調査した。
【0084】
結果を図6に示す。横軸は、比率L/D(%)であり、縦軸は最大値を1として規格化した出力波高である。パルス信号の波高は、スキュー磁石を一方向に回転したとき(正転時)の正負2パルス、スキュー磁石を他方向に回転したとき(反転時)の正負2パルスの絶対値の平均値としてある。
【0085】
図6より、安定した高出力となるのは、比率L/Dが5%から50%であることが分かる。5%より小さい場合は、近接端134a同士の間隔が狭い(距離Lが小さい)ために、この狭い間隔を通って形成される磁気通路による影響を受けると推測される。また、比率L/Dが50%を超える場合、磁石面に対向する軟磁性体部品(磁束伝導片130,131。より具体的には検出領域対向面134b)の面積の減少により、集磁効果が減少するためであると推測される。加えて、磁束伝導片130,131の軸平行部134が磁性ワイヤ110を磁石から覆う面積が少なく、それにより、シールド効果が減少することも影響していると推測される。
【0086】
比率L/Dを5%以上50%以下の範囲とすれば、磁性ワイヤ110の素性が持つ大バルクハウゼン効果を十分に引き起こすことが可能となる。比率L/Dは、15%以上45%以下とすればより好ましく、20%以上40%以下とすればさらに好ましい。
【0087】
[比較例]
図7Aは、比較例にかかる回転検出装置の斜視図であり、図7Bは、図7Aの構成の上面図である。この回転検出装置は、磁石の着磁パターンの磁極境界線が、磁性ワイヤ110の軸中心位置において、磁性ワイヤ110の線長方向に対して斜めとなる構造の一例である。第1実施形態(図1Aおよび図1B参照)の構造と比較すると、リング形状の多極磁石240の構成が異なり、かつリング形状の多極磁石240に対する発電センサ100の配置が異なる。
【0088】
リング形状の多極磁石240は、中心軸線(回転軸線300a)まわりの周方向に複数の磁極を有し、その複数の磁極は、周方向に交互に配列されたN極およびS極を含む。各磁極は、中心軸線に平行であり、それに応じて、磁極境界線が回転軸300と平行である。
【0089】
このリング形状の多極磁石240の外周に対向して、磁性ワイヤ110の中心軸110a(すなわち線長方向)が回転軸300に対して斜めとなる姿勢で発電センサ100が配置されている。これにより、着磁パターンの磁極境界線が、磁性ワイヤ110の軸中心位置において、磁性ワイヤ110の線長方向に対して斜めとなる。
【0090】
しかしながら、図7Bに表れているように、仮に多極磁石240のリング形状の径が小さい場合、2つの磁束伝導片130,131の軸平行部134と磁石240の磁極面との距離gが大きくなってしまう。そのため、磁性ワイヤ110の磁化方向の反転に必要な磁界強度を得るのが難しくなる。この問題は、着磁ピッチ大きくするか、またはリング外径を大きくすることで解決できる。しかし、いずれの解決策も装置の小型化の要求に逆行する。
【0091】
スキュー磁石を用いる第1実施形態であれば、このような問題は発生しない。第1実施形態においては、発電センサ100の磁性ワイヤ110の軸方向xは回転軸線300aに平行であり、軸平行部134の検出領域対向面134bがスキュー磁石からなる多極磁石200の磁極面に対して正対している。このような発電センサ100の配置でありながら、一対の軸平行部134に対して異なる極性の磁極を対向させることができる。これによって、リング径が小さく小型の回転検出装置10を実現している。
【0092】
[第2実施形態]
図8に第2実施形態の回転検出装置を示す。第2実施形態は、第1実施形態の回転検出装置10に加えて、回転軸300まわりの周方向の所定位置でスキュー磁石からなる多極磁石200の磁極を識別する磁気センサ400をさらに備える。この磁気センサ400は、たとえばホールICで構成されていてもよい。この実施形態では、多極磁石200の磁極面に対向するように配置されたプリント基板500(基板の一例)に発電センサ100が実装されている。具体的には、プリント基板500の多極磁石200とは反対側の主面に発電センサ100が実装されている。したがって、発電センサ100と多極磁石200との間にプリント基板500が介在しており、発電センサ100の磁束伝導片130,131はプリント基板500を介して多極磁石200の磁極面に対向している。そして、磁気センサ400は、この例では、プリント基板500に実装されている。
【0093】
磁気センサ400は、たとえば、回転軸300が正転方向に回転する場合において、発電センサ100が正の信号を出力した時にON状態、負の信号を出力した時にOFF状態となる。また、磁気センサ400は、回転軸300が逆転方向に回転する場合において、発電センサ100が正の信号を出力した時にOFF状態、負の信号を出力した時にON状態となる。磁気センサ400がこのような出力状態となるように、発電センサ100、多極磁石200および磁気センサ400の相対配置が設計されている。これにより、発電センサ100の出力信号と磁気センサ400の出力信号との組み合わせによって、回転運動の回転方向が検出可能となる。磁気センサ400のON/OFFと回転軸300の正転/逆転の組み合わせは、上記とは反対であってもよい。
【0094】
磁束伝導片130,131を構成する軟磁性体部品は、保磁力が磁性ワイヤ110の保磁力以下であり、かつ高透磁率(たとえば比透磁率500以上)の磁性体で構成することが好ましく、具体的には、Ni系フェライトまたはMn系フェライトを含む材質が好ましい。これらの材質は、低ヒステリシス、低自己誘電、低鉄損等の優れた特性を備えており、そのため、磁界発生源が高速移動したときに生じる高周波の交番磁界が発電センサ100に印加されたときに、出力特性に影響が出ない利点がある。
【0095】
さらに、磁束伝導片130、131を貫通して形成される穴の幅、すなわち、軸直交部133の厚さW(図2A参照)は、大きすぎると、コイル120の配置幅が狭くなるので磁性ワイヤ110の大バルクハウゼン効果をピックアップする効率が低下し、小さすぎると、磁気通路が狭くなる。そのため、実験的知見より、厚さWは、磁性ワイヤ110の全長の10%~20%が好ましい。
【0096】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0097】
10 :回転検出装置
100 :発電センサ
110 :磁性ワイヤ
111 :第1端部
112 :第2端部
113 :軸中心位置
120 :コイル
130 :磁束伝導片
130a :ワイヤ配置部
131 :磁束伝導片
131a :ワイヤ配置部
133 :軸直交部
134 :軸平行部
134a :近接端
134b :検出領域対向面
140 :検出領域
200 :多極磁石
210 :磁石
220 :磁石
230 :磁石
240 :多極磁石
300 :回転軸
400 :磁気センサ
500 :プリント基板
D :距離
L :距離
t :幅
W :厚さ
g :距離
x :軸方向
y :幅方向
z :軸直交方向
θ :傾斜角
λ :磁極ピッチ
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A-3C】
図4A-4C】
図5
図6
図7A-7B】
図8