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特開2024-154051匂いセンサ、匂いセンサの作製方法及び匂いの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154051
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】匂いセンサ、匂いセンサの作製方法及び匂いの検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20241023BHJP
   G01N 5/02 20060101ALN20241023BHJP
【FI】
G01N21/41 101
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067653
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】715010521
【氏名又は名称】株式会社アロマビット
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】前野 権一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 絵里加
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 賢一
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB01
2G059CC20
2G059DD12
2G059DD13
2G059EE01
2G059GG00
2G059KK04
(57)【要約】
【課題】吸着膜自体に電気的な特性変化を発生させにくい匂い物質でも匂いを検知することができる匂いセンサ、匂いセンサの作製方法及び匂いの検出方法を提供すること。
【解決手段】匂い吸着部313は、光が照射される光照射面316を有し、周囲に存在するガス中に含まれる特定の匂い物質に対して特有の吸着特性を呈する吸着成分が、金属微粒子又は金属細線の周囲に薄膜として形成されたものであり、光照射面316に光が照射された状態で、匂い物質が薄膜に吸着していないときと吸着しているときとで表面プラズモン共鳴に由来する電気的な特性変化を検出部314に生じさせるものであり、検出部314は、電気的な特性変化を信号として出力する素子であり、金属微粒子又は金属細線の少なくとも一部は、検出部314の面315の近傍に配置されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
匂い吸着部と基部とを有する匂いセンサであって、
前記匂い吸着部は、光が照射される光照射面を有し、周囲に存在するガス中に含まれる特定の匂い物質に対して特有の吸着特性を呈する吸着成分が、金属微粒子又は金属細線の周囲に薄膜として形成されたものであり、前記光照射面に前記光が照射された状態で、前記匂い物質が前記薄膜に吸着していないときと吸着しているときとで表面プラズモン共鳴に由来する電気的な特性変化を前記基部表面に生じさせるものであり、
前記基部は、前記電気的な特性変化を信号として出力する素子であり、
前記金属微粒子又は前記金属細線の少なくとも一部は、前記基部の近傍に配置されている、匂いセンサ。
【請求項2】
前記金属微粒子又は前記金属細線の少なくとも一部は、前記基部に接触して配置されている、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項3】
前記金属微粒子又は前記金属細線の少なくとも一部は、前記基部から100nm以内の近傍に配置されている、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項4】
前記素子は、光電変換素子を含む、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項5】
前記金属微粒子の直径が、実質的に10nm以上かつ1.5μm以下である、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項6】
前金属細線の延長方向に直交する断面における直径又は幅寸法が、実質的に10nm以上かつ1.5μm以下である、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項7】
前記金属細線が、複数本であり、列状又は格子状に並行して配置されている、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項8】
前記薄膜の厚さが、実質的に2nm以上かつ5μm以下である、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項9】
前記光照射面に向けて、前記金属微粒子又は前記金属細線の表面プラズモン共鳴を誘起する所定波長の光である励起光を照射する光照射部を更に有する、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項10】
前記匂い吸着部を複数有し、
当該複数の匂い吸着部における複数の吸着成分の各々が、異なる複数の匂い物質に対して各々特有の吸着特性を呈し、
当該複数の匂い吸着部が、前記基部上にそれぞれ独立して配置されている、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項11】
匂い吸着部と基部とを有する匂いセンサを作製する匂いセンサの作製方法であって、
前記匂い吸着部は、光が照射される光照射面を有し、周囲に存在するガス中に含まれる特定の匂い物質に対して特有の吸着特性を呈する吸着成分が、金属細線又は金属微粒子の周囲に薄膜として形成されたものであり、前記光照射面に前記光が照射された状態で、前記匂い物質が前記薄膜に吸着していないときと吸着しているときとで表面プラズモン共鳴に由来する電気的な特性変化を生じるものであり、
前記基部は、前記電気的な特性変化を信号として出力する素子であり、
前記金属細線又は前記金属微粒子の少なくとも一部が前記基部の近傍となるように前記金属細線又は前記金属微粒子を前記基部上に配置する工程と、
前記金属細線又は前記金属微粒子の周囲に前記吸着成分を薄膜として形成することにより前記匂い吸着部を作製する工程と、を有する匂いセンサの作製方法。
【請求項12】
前記金属細線又は前記金属微粒子を前記基部上に配置する工程において、前記金属微粒子又は前記金属細線の少なくとも一部は、前記基部に接触して配置される、請求項11に記載の匂いセンサの作製方法。
【請求項13】
前記金属細線又は前記金属微粒子を前記基部上に配置する工程において、前記金属微粒子又は前記金属細線の少なくとも一部は、前記基部から100nm以内の近傍に配置される、請求項11に記載の匂いセンサの作製方法。
【請求項14】
匂い吸着部と基部とを有する匂いセンサを作製する匂いセンサの作製方法であって、
前記匂い吸着部は、光が照射される光照射面を有し、周囲に存在するガス中に含まれる特定の匂い物質に対して特有の吸着特性を呈する吸着成分が、金属微粒子の周囲に薄膜として形成されたものであり、前記光照射面に前記光が照射された状態で、前記匂い物質が前記薄膜に吸着していないときと吸着しているときとで表面プラズモン共鳴に由来する電気的な特性変化を前記基部表面に生じさせるものであり、
前記基部は、前記電気的な特性変化を信号として出力する素子であり、
前記金属微粒子と前記吸着成分とを混合して前記匂い吸着部を作製する工程と、
前記金属微粒子の少なくとも一部が前記基部の近傍となるように前記匂い吸着部を前記基部上に配置する工程と、を有する匂いセンサの作製方法。
【請求項15】
前記匂い吸着部を前記基部上に配置する工程において、前記金属微粒子の少なくとも一部は、前記基部に接触して配置される、請求項14に記載の匂いセンサの作製方法。
【請求項16】
前記匂い吸着部を前記基部上に配置する工程において、前記金属微粒子の少なくとも一部は、前記基部から100nm以内の近傍に配置される、請求項14に記載の匂いセンサの作製方法。
【請求項17】
請求項1から請求項10のうちいずれか1項に記載の匂いセンサの前記光照射面に、前記金属微粒子又は前記金属細線の表面プラズモン共鳴を誘起する所定波長の光である励起光を照射する工程と、
当該励起光によって前記光照射面を照射した状態で前記匂いセンサの基部から出力される信号を検出する工程と、を有する匂いの検出方法。
【請求項18】
請求項11から請求項16のうちいずれか1項に記載の匂いセンサの作製方法により作製された匂いセンサの前記光照射面に、金属微粒子又は金属細線の表面プラズモン共鳴を誘起する所定波長の光である励起光を照射する工程と、
当該励起光によって前記光照射面を照射した状態で前記匂いセンサの基部から出力される信号を検出する工程と、を有する匂いの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂いセンサ、匂いセンサの作製方法及び匂いの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、匂いの強度を計測したり、匂いの種類を特定したりするために、匂いセンサを用いてガスに含まれる匂い物質の検出が行われている。匂いセンサは、例えば、匂い物質を吸着する吸着膜と、匂い物質が吸着膜へ吸着することに起因する表面状態(表面特性)の変化を検出する検出部と、を有している(例えば、特許文献1参照)。匂いセンサの吸着膜には、ポリアニリン等の導電性高分子やイオン液体材料等、電子やイオン導電性の高い(導電性に優れた)材料(以下、導電性材料という。)が用いられている。また、検出部には、吸着膜の電気的な特性変化を検知可能な電界効果トランジスタセンサや非特許文献1に記載のような電荷転送型センサアレイ(以下CMOSセンサ)等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/085939号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】新名直也,岩田達哉,橋詰賢一,黒木俊一郎,澤田和明(2017),ポリアニリン感応膜を用いた電荷転送型センサアレイによるガス分布イメージング,第64回応用物理学会春季学術講演会,16p-416-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、匂い物質の中には、吸着膜に吸着しても吸着膜の電気的な特性変化を発生させにくいものがある。このため、このような匂い物質が吸着膜に吸着しても、FETセンサ等で検知することは困難である。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、吸着膜自体に電気的な特性変化を発生させにくい匂い物質でも匂いを検知することができる匂いセンサ、匂いセンサの作製方法及び匂いの検出方法を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の例示的側面としての匂いセンサは、以下の構成を有する。
【0008】
匂い吸着部と基部とを有する匂いセンサであって、
前記匂い吸着部は、光が照射される光照射面を有し、周囲に存在するガス中に含まれる特定の匂い物質に対して特有の吸着特性を呈する吸着成分が、金属微粒子又は金属細線の周囲に薄膜として形成されたものであり、前記光照射面に前記光が照射された状態で、前記匂い物質が前記薄膜に吸着していないときと吸着しているときとで表面プラズモン共鳴に由来する電気的な特性変化を前記基部表面に生じさせるものであり、
前記基部は、前記電気的な特性変化を信号として出力する素子であり、
前記金属微粒子又は前記金属細線の少なくとも一部は、前記基部の近傍に配置されている、匂いセンサ。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の例示的側面としての匂いセンサの作製方法は、以下の構成を有する。
【0010】
匂い吸着部と基部とを有する匂いセンサを作製する匂いセンサの作製方法であって、
前記匂い吸着部は、光が照射される光照射面を有し、周囲に存在するガス中に含まれる特定の匂い物質に対して特有の吸着特性を呈する吸着成分が、金属細線又は金属微粒子の周囲に薄膜として形成されたものであり、前記光照射面に前記光が照射された状態で、前記匂い物質が前記薄膜に吸着していないときと吸着しているときとで表面プラズモン共鳴に由来する電気的な特性変化を生じるものであり、
前記基部は、前記電気的な特性変化を信号として出力する素子であり、
前記金属細線又は前記金属微粒子の少なくとも一部が前記基部の近傍となるように前記金属細線又は前記金属微粒子を前記基部上に配置する工程と、
前記金属細線又は前記金属微粒子の周囲に前記吸着成分を薄膜として形成することにより前記匂い吸着部を作製する工程と、を有する匂いセンサの作製方法。
【0011】
本発明の更に他の例示的側面としての匂いセンサの作製方法は、以下の構成を有する。
【0012】
匂い吸着部と基部とを有する匂いセンサを作製する匂いセンサの作製方法であって、
前記匂い吸着部は、光が照射される光照射面を有し、周囲に存在するガス中に含まれる特定の匂い物質に対して特有の吸着特性を呈する吸着成分が、金属微粒子の周囲に薄膜として形成されたものであり、前記光照射面に前記光が照射された状態で、前記匂い物質が前記薄膜に吸着していないときと吸着しているときとで表面プラズモン共鳴に由来する電気的な特性変化を前記基部表面に生じさせるものであり、
前記基部は、前記電気的な特性変化を信号として出力する素子であり、
前記金属微粒子と前記吸着成分とを混合して前記匂い吸着部を作製する工程と、
前記金属微粒子の少なくとも一部が前記基部の近傍となるように前記匂い吸着部を前記基部上に配置する工程と、を有する匂いセンサの作製方法。
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の例示的側面としての匂いの検出方法は、以下の構成を有する。
【0014】
上記の匂いセンサの前記光照射面に、前記金属微粒子又は前記金属細線の表面プラズモン共鳴を誘起する所定波長の光である励起光を照射する工程と、
当該励起光によって前記光照射面を照射した状態で前記匂いセンサの基部から出力される信号を検出する工程と、を有する匂いの検出方法。
【0015】
本発明の更に他の例示的側面としての匂いの検出方法は、以下の構成を有する。
【0016】
上記の匂いセンサの作製方法により作製された匂いセンサの前記光照射面に、金属微粒子又は金属細線の表面プラズモン共鳴を誘起する所定波長の光である励起光を照射する工程と、
当該励起光によって前記光照射面を照射した状態で前記匂いセンサの基部から出力される信号を検出する工程と、を有する匂いの検出方法。
【0017】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、吸着膜自体に電気的な特性変化を発生させにくい匂い物質でも匂いを検知することができる匂いセンサ、匂いセンサの作製方法及び匂いの検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態の匂いセンサの概略構成を示す模式図で、(a)匂いセンサの上面図、(b)(a)のA-A線における矢視断面図
図2】実施形態の匂いセンサの概略構成を示す模式図で、(a)匂いセンサの上面図、(b)(a)のB-B線における断面図
図3】実施形態の匂いデータ解析装置の概略構成を示す模式図
図4】実施形態1の匂いセンサの構成を示す図で、(a)金属微粒子を用いた匂いセンサの断面図、(b)金属細線を用いた匂いセンサの断面図、(c)(b)の上面図
図5】(a)~(c)実施形態1の金属部が金属微粒子である場合に、検出部上に金属部を配置するパターンを示す図
図6】(a)実施形態1の1つの匂い吸着部における匂いセンサの断面図、(b)光の波長と吸光度の関係を示すグラフ
図7】実施形態1の(a)ガラス基板上に配置した匂い吸着部に光を照射した状態を示す図、(b)匂い物質がない状態の匂い吸着部を示す図、(c)匂い物質が吸着した状態の匂い吸着部を示す図
図8】実施形態2の匂いセンサユニットの概略構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、以下の説明において、「匂い物質」とは、広義では吸着膜に吸着可能な物質を意味する。したがって、「匂い物質」には、一般的に匂いの原因物質とされていない物質、匂い物質として認知されていない物質又は未知の匂い物質も含まれる。また、「匂い物質」には、個々の匂い物質だけではなく、「複数の匂い物質の集合体」も含まれる。また、下記の実施形態においてCMOSセンサとは、上述した非特許文献に記載されたセンサを指すものとするが、CMOSセンサをこれに限定するものではない。
【0021】
<匂いセンサ>
図1は、匂いセンサ100を示す図であり、(a)は匂いセンサ100の上面図、(b)は(a)のA-A線における矢視断面図である。匂いセンサ100は、複数のセンサ素子110、基板120を有している。センサ素子110は、吸着膜112、検出部114、電極116を有している。
【0022】
図1の匂いセンサ100は、例えば9つのセンサ素子110a~110iを有している。具体的には、センサ素子110aは吸着膜112a、検出部114a、電極116aを有し、センサ素子110bは吸着膜112b、検出部114b、電極116bを有し、・・・、センサ素子110iは吸着膜112i、検出部114i、電極116iを有している。なお、センサ素子(吸着膜、検出部、電極)を特定しない場合、符号の添え字a~i(後述するj~lも含む。)を省略する。吸着膜112は、匂い物質を吸着する膜であり、詳細は後述する。
【0023】
検出部114は、匂い物質が吸着膜112へ吸着することに起因する吸着状態(吸着特性ともいう。)の変化を検出する。なお、「匂い物質の吸着膜112への吸着」というとき、吸着膜112の表面への匂い物質の吸着だけでなく、吸着膜112の内部への匂い物質の吸収も含む。ここで、匂い物質が吸着膜112へ吸着したことに起因する吸着状態の変化とは、匂い物質による力学的特性、光学的特性又は電気的特性の変化を含む。検出部114は、吸着膜112の吸着状態の変化を、例えば、信号として出力する。すなわち、検出部114は、信号変換部(トランスデューサー)としても機能する。
【0024】
「力学的特性の変化」には、例えば、水晶振動子(QCM:Quartz crystal microbalance)における共振周波数の変化、表面弾性波の速度変化、圧電素子における膜の膨張・収縮、又はたわみの変化等が含まれる。「光学的特性の変化」には、吸収波長の変化、吸光度の変化、蛍光・発光特性の変化、表面プラズモン共鳴(SPR)素子等における屈折率の変化等を含む。「電気的特性の変化」には、例えば、電荷結合素子における電気伝導度、抵抗値、誘電率、電気化学的インピーダンス等の特性変化、酸化物半導体センサにおける酸化還元電位の変化、電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)センサやCMOSセンサ等におけるゲート電流、ゲート電圧、インピーダンス、バンドギャップ等の変化が含まれる。
【0025】
検出部114に用いられる素子としては、例えば、次のような素子(センサ)が挙げられる。すなわち、水晶振動子センサ(QCM)、表面弾性波センサ、電界効果トランジスタ(FET)センサ、MOS電界効果トランジスタセンサ、電荷結合素子センサ、金属酸化物半導体センサ、有機導電性ポリマーセンサ、電気化学的センサ等である。検出部114に用いられる素子は、特にこれらに限定されず、匂いセンサ100の使用の目的等に応じて、種々の素子を適宜用いることができる。
【0026】
「匂い物質の吸着膜112への吸着状態」には、例えば、「匂い物質の吸着膜112への吸着量」も含む。匂い物質の吸着膜112への吸着量の増減によって、吸着膜112の力学的特性、光学的特性又は電気的特性が変化し、検出部114は、その変化量を検出することで、匂い物質の吸着膜112への吸着状態を検出する。
【0027】
電極116は、所定の導電性材料で形成することができる。所定の導電性材料としては、例えば、無機材料や有機材料を用いることができる。無機材料には、例えば、金、銀、白金、クロム、チタン、アルミニウム、ニッケル、ニッケル系合金、シリコン等を含む。有機材料には、例えば、ポリピロール、ポリアニリン、カーボン、カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノカーボン材料等を含む。
【0028】
基板120は、例えば平板状で面120aと面120bを有し、一方の面120aにセンサ素子110が実装され、他方の面120bに電極116が実装される(図1(b)参照)。基板120は、例えば、シリコン基板、水晶結晶からなる基板、プリント配線基板、セラミック基板、樹脂基板等を用いることができる。また、基板120は、インターポーザ基板等の多層配線基板であってもよい。
【0029】
<センサ素子>
図1(a)に示す匂いセンサ100は、3行×3列に配列された9つのセンサ素子110a~110iを有しているが、センサ素子110の個数や配列(配置)はこれに限定されない。また、図1に示すセンサ素子110は、検出部114と吸着膜112とが1対1に対応してセンサ素子110を構成しているが、これに限定されない。図2は、検出部114と吸着膜112との他の対応を示す図であり、(a)は匂いセンサ100の上面図、(b)は(a)のB-B線における断面図である。
【0030】
図2に示すように、3つの検出部114a、検出部114d、検出部114gに1つの吸着膜112jが対応して、3つのセンサ素子110a、110d、110gを構成してもよい。また、2つの検出部114b、検出部114cに1つの吸着膜112kが対応して、2つのセンサ素子110b、110cを構成してもよい。さらに、4つの検出部114e、検出部114f、検出部114h、検出部114iに1つの吸着膜112lが対応して、4つのセンサ素子110e、110f、110h、110iを構成してもよい。すなわち、n個の検出部114の上に1つの吸着膜112が設けられてn個のセンサ素子110を構成してもよい。ここで、nは1以上の整数である。さらに、1つ以上のセンサ素子110が、検出部114の上に吸着膜112を形成されずに、リファレンス用のセンサ素子110として用いられてもよい。
【0031】
<匂いデータ解析装置>
図3は、実施形態1の匂いデータ解析装置200の概略構成を示す模式図である。匂いデータ解析装置200は、上述した匂いセンサ100と解析部220とを有している。
【0032】
解析部220は、匂いセンサ100から出力された匂いデータF1を解析するためのものである。解析部220は、主として演算処理装置(CPU)220aを有して構成されており、記憶装置(メモリ)220bを有してもよい。メモリ220bは、解析部220と別体で外部に設けられてもよい。解析部220は、データの入出力ポート220cも有する。入出力ポート220cは、匂いセンサ100からの匂いデータF1を受信する機能と、CPU220aによる演算処理が行われた結果として演算済みデータRを制御部(不図示)に送信する機能を有する。なお、制御部(不図示)は、匂いデータ解析装置200が有線又は無線で公知の通信手段により接続された、例えばパーソナルコンピューター等の外部機器の制御部であってもよい。
【0033】
メモリ220b内には、匂いデータF1を解析するための解析プログラムPが格納されている。この解析プログラムPは、コンピュータとしての解析部220、すなわち解析部220の主要構成部としてのCPU220aに対し、公知の演算処理を実行させることにより、匂いデータF1の解析を実現させる。なお、図3のデータ解析装置200は、1つの匂いセンサ100を有しているが、複数の匂いセンサ100を有していてもよい。
【0034】
[実施形態1]
吸着膜の電気的特性の変化を検出する検出部として、例えばCMOSセンサ等を用いる場合、吸着膜に電気的特性の変化を発生させにくい匂い物質では、匂いの測定が困難となってしまう。吸着膜に電気的特性の変化を発生させにくい匂い物質とは、例えば、物質中の分極が小さいもの、又は分極のないもの等である。実施形態1の匂いセンサは表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を利用することで、このような匂い物質であってもCMOSセンサ等で匂いを検出することができる。
【0035】
<表面プラズモン共鳴>
金属に光が照射されると、金属表面の自由電子が光の影響を受けて振動し(プラズマ振動という。)電場が誘起される。このとき、誘起された電場と照射された光とが共鳴すると、特定の波長の光が強く吸収又は散乱される。この現象は、表面プラズモン共鳴(SPR)として知られている。また、金属が微粒子化されると、プラズマ振動が金属表面に局在化される。ここで、微粒子化した金属とは、3次元における少なくとも1つの方向の長さがナノ単位(ナノメートル(nm))であることをいう。例えば、光が照射される方向の長さがナノ単位の金属微粒子、金属細線等が微粒子化した金属に含まれる。
【0036】
<匂いセンサの構成>
実施形態1の匂いセンサについて図4を用いて説明する。図4は、実施形態1の匂いセンサの構成を示す図であり、(a)は金属微粒子を用いた匂いセンサ300の断面図であり、(b)は金属細線を用いた匂いセンサ301の断面図、(c)は(b)の上面図である。
【0037】
実施形態1の匂いセンサ300、301は、匂い吸着部313と、基部である検出部314と、を有している。匂い吸着部313は、光が照射される光照射面316を有し、周囲に存在するガス中に含まれる特定の匂い物質に対して特有の吸着特性を呈する吸着成分が、金属微粒子又は金属細線の周囲に薄膜として形成されたものである。また匂い吸着部313は、光照射面316に光が照射された状態で、匂い物質が薄膜に吸着していないときと吸着しているときとで表面プラズモン共鳴に由来する電位変化を検出部314に生じさせるものである。検出部314は、発生した電位変化を信号として出力する素子である。なお、匂い吸着部313が生じさせる変化は電位変化に限定されず、抵抗率やインピーダンスの変化であってもよく、検出部314の素子が電流を検知するセンサであってもよい。検出部314の素子は、それ自体が光に対して感度が低い、又は、ない(鈍感である)ものであってもよい。また、検出部314の素子は、光に対して感度が高い素子、すなわち光電変換素子を含んでいてもよい。検出部314の素子としては、例えばFETセンサやCMOSセンサ等である。
【0038】
なお、光は匂い吸着部313を透過しつつ金属微粒子又は金属細線の表面に到達するものであり、光照射面316は厳密には金属部318の表面を指すが、薄膜(後述する吸着膜312)の表面であってもよい。また、光照射面316は、光が照射される方向の面だけを指すものではなく、匂い吸着部313の表面全体であってもよい。
【0039】
匂い吸着部313は、金属部318と、金属部318の周囲に薄膜として形成された吸着膜312と、を有している。吸着膜312の厚さは、照射された光が光照射面316に到達することができる厚さであればよく、実質的に2nm以上かつ5μm以下であればよく、1μm以下が望ましい。吸着膜312は、周囲に存在するガス中に含まれる特定の匂い物質に対して特有の吸着特性を呈する吸着成分を含む。
【0040】
金属部318は、光が照射される方向の長さがナノスケールの金属であり、例えば、ナノスケールの金属微粒子や、1つの方向がナノスケールの金属細線等である。図4では、(a)に金属部318が金属微粒子である場合を示しており、(b)(c)に金属部318が金属細線である場合を示している。金属は、例えば、金、銀、銅、アルミニウム等が挙げられる。
【0041】
金属部318が図4(a)に示す金属微粒子の場合、金属ナノ粒子、ナノロッド、ナノワイヤ、ナノスター等が挙げられる。金属微粒子の直径は、実質的に10nm以上かつ1.5μm以下である。図4(a)に示すように、吸着膜312に覆われた金属微粒子である金属部318は、光照射面316に直交する方向に複数が配置された層形状であってもよい。すなわち、匂いセンサ300、301は、匂い吸着部313を複数有していてもよい。光照射面316に平行な方向において、複数の匂い吸着部313における複数の吸着成分の各々が、異なる複数の匂い物質に対して各々特有の吸着特性を呈してもよく、複数の匂い吸着部が、検出部314の面315上にそれぞれ独立して配置されていてもよい。ここで、独立して配置されているとは、複数の匂い吸着部が、例えば、列状、格子状等、任意の配列で配置されていることを含む。
【0042】
また、金属部318は金属細線、メッシュ、金属薄膜等であってもよい。金属部318が図4(b)(c)に示す金属細線の場合、金属細線の延長方向に直交する断面における直径又は幅寸法は、実質的に10nm以上かつ1.5μm以下である。金属細線は、検出部314上に複数本配置され、例えば、列状又は格子状に並行して配置されている。図4(c)は、検出部114の面315から見たとき、金属細線の延長方向に直交する方向に複数の金属細線が配置されている場合を示している。
【0043】
また、図4(a)、(b)に示すように、匂い吸着部313の金属部318、すなわち、金属微粒子又は金属細線の少なくとも一部は、検出部314の面315に接触して配置されている。すなわち、匂い吸着部313の金属部318(金属微粒子又は金属細線)は、その少なくとも一部に検出部314の面315に接触する接触部320を有している。
【0044】
なお、実施形態1では、金属部318が接触部320において検出部314の面315と接触している例を示したがこれに限定されない。金属部318で発生した電位変化が検出部314の表面に影響を及ぼすことができればよく、金属部318は検出部314の面315と接触していなくてもよい。例えば、金属部318と面315との距離が100nm以下で非接触状態となっていてもよい。なお、金属微粒子又は金属細線の少なくとも一部が検出部314の面315の近傍に配置されるというとき、100nm以下の近傍に配置されることだけでなく、接触して配置されることも含む。
【0045】
匂いセンサ300、301は、光照射面316に向けて、金属部318の表面プラズモン共鳴を誘起する所定波長の光である励起光を照射する光照射部350(図6参照)を更に有する。ここで、金属部318の表面プラズモン共鳴を誘起する所定波長は、金属部318の構造や用いられる金属材料によるが、例えば、300nm~2μmである。
【0046】
匂いセンサ300、301において、表面プラズモン共鳴が発生する条件としては、例えば次の条件が挙げられる。
・金属構造のサイズが光の波長(50nm~1.5μm)程度に微細であること
・金属微粒子同士又は金属細線同士が完全に接触していないこと
すなわち、互いに導通せず、5nm以上の間隔をあけて配置されていること
・特定の波長に対応させるため、金属構造のサイズ、形状、配列が揃っていること
【0047】
また、匂いセンサを更に高機能化させるためには、例えば次の条件が挙げられる。
・金属同士が200nm以下の間隔で規則的に配列されていること
適切な間隔に配列することで表面プラズモン共鳴が促進され、発生する電位変化が増強される。
【0048】
<金属部の配置について>
図5は、金属部318が金属微粒子である場合に、検出部314上に金属部318を配置するパターン(配置パターン)を示す図である。なお、図5では、吸着膜312、及び、一部の符号を省略している。図5(a)に示すように、検出部314上に、形状の揃った金属微粒子である金属部318をランダムに配置してもよい。図5(b)に示すように、検出部314上に、形状の揃った金属微粒子である金属部318を規則的に配置してもよい。図5(c)に示すように、検出部314上に、形状の揃った金属微粒子である金属部318を規則的、かつ、密に配置してもよい。
【0049】
なお、上述した表面プラズモン共鳴が発生する条件により、図5(a)から(b)、(b)から(c)へと構成が変わると、それに応じて表面プラズモン共鳴が発生したときに金属微粒子が生じさせるCMOSセンサ表面の電位勾配が増強される。このため、金属部318が金属微粒子である場合には、図5(c)の配置パターンが望ましい。
【0050】
<匂い物質の検出>
図6は実施形態1の匂いセンサ300、301による匂い物質の検出を説明する図である。図6(a)は1つの匂い吸着部313における匂いセンサ300(又は匂いセンサ301)の断面図、図6(b)は光の波長と吸光度の関係を示すグラフであり、横軸に光の波長を示し、縦軸に吸着膜312における吸光度を示す。
【0051】
匂い物質の検出方法において、匂いセンサ300、301の匂い吸着部313に匂い物質が吸着していない状態で、光照射部350から所定の波長λの光を匂いセンサ300、301に照射する。光照射部350から照射される光の波長λは、金属部318の金属の種類、構造、大きさ、形状、配列、配列の間隔、吸着膜312の種類等によって決定される。
【0052】
匂いセンサ300、301に光が照射されると、金属部318の光照射面において表面プラズモン共鳴が発生し、自由電子が高電位に励起される。励起された電子(以下、励起電子という。)は、CMOSセンサである検出部314に移動する(図4(a)中矢印)。これにより、電位勾配が生じ、検出部314(CMOSセンサ)で電位を検知することができる。吸着膜312に匂い物質が吸着していない状態で、波長λの光が照射されると、波長λにおいて強い吸収が見られる。
【0053】
ここで、匂い物質が吸着膜312に吸着すると、吸着膜312における光学的距離が変化する。具体的には、吸着膜312の光学的距離が増大する。ここで、吸着膜312の光学的距離とは、実際の物理的距離、匂い物質の吸着による屈折率の変化等に依存する距離等である。図6(b)の破線で示すグラフは、匂い物質が吸着膜312に吸着していない状態を示し、実線で示すグラフは、匂い物質が吸着膜312に吸着したことで、吸着膜312の光学的な特性が変化して右側にシフトした状態を示す。匂い物質の吸着後、吸着膜312は、波長λとは異なる波長において強い吸収を示すようになる。なお、光学的特性のグラフが、右側にシフトするか左側にシフトするかは、吸着膜や金属部、匂い物質によって決定される。また、匂い物質の吸着の前後における吸光度のピーク値についても、吸着膜や金属部、匂い物質によって決定される。
【0054】
以上のように、匂い物質の吸着の前後で吸着膜312の光学的距離が変化するため、波長λにおける吸光度が変化する、具体的には、減少する。吸光度の差分(減少量)をΔabsとする。吸光度の減少に連動して励起電子も減少し電位勾配が解消されてしまうことで、検出部314(CMOSセンサ)に移動する電荷量も減少する。これにより、匂い物質の吸着前と吸着後とで電位が変化する。このように、実施形態1の匂いセンサ300、301は、吸着前後の電位の変化を検知することで、匂い物質を検出することができる。
【0055】
<匂い物質の吸着の前後での匂い吸着部の様子>
図7(a)は、金属部318として金属細線を用い、金属細線の周囲に吸着膜312を形成し、ガラス基板370上に配置し、白色光を照射した状態を示す図、(b)は匂い物質がない状態の匂い吸着部313を示す図、(c)は匂い物質が吸着した状態の匂い吸着部313を示す図である。なお、図7では光が右上から斜めに照射されているように描画しているが、実際はガラス基板370の面(すなわち、金属細線の光照射面)に直交するように光が照射されている。
【0056】
匂い物質が吸着していない状態である図7(b)では、緑色の散乱光が観測された。一方、匂い物質が吸着した状態である図7(c)では、散乱光が黄色に変化した。図7(b)(c)では色の変化をハッチングの変化で表した。
【0057】
このことから、匂い物質の吸着の前後で、吸着膜312で光学的特性が変化し、金属部318における表面プラズモン共鳴によって吸収/散乱される光の波長が変化したことが分かり、照射する光の波長を所定の波長λとすることで、発生する励起電子の量を匂い物質の吸着量と対応付けられることがわかる。
【0058】
<匂いセンサの作製方法>
検出部314と匂い吸着部313とを有する匂いセンサ300、301の作製方法について説明する。匂いセンサ300、301の作製方法は、金属細線又は金属微粒子の少なくとも一部が面315に接触するように金属細線又は金属微粒子を面315上に配置する工程と、金属細線又は金属微粒子の周囲に吸着成分を薄膜として形成することにより匂い吸着部313を作製する工程と、を有している。
【0059】
また、別の匂いセンサの作製方法は、金属微粒子又は金属細線と吸着成分とを混合して匂い吸着部313を作製する工程と、金属微粒子の少なくとも一部が面315に接触するように匂い吸着部313を面315上に配置する工程と、を有している。
【0060】
金属部318が金属微粒子である場合、金属部318は、検出部314であるCMOSセンサ上に塗布、微細加工等により配置されてよい。また、金属ナノ粒子の溶液の表面に吸着膜をコーティングし、吸着膜がコーティングされた金属微粒子をCMOSセンサ上に散布する方法で配置されてもよい。また、金属部318が金属細線である場合、CMOSセンサ上に金属細線を引き、吸着膜をコーティングしてもよい。
【0061】
<匂いの検出方法>
実施形態1の匂いセンサ300、301を用いた匂いの検出方法について説明する。匂いの検出方法は、匂いセンサ300、301の光照射面316に、金属微粒子又は金属細線の表面プラズモン共鳴を誘起する所定波長の光である励起光を照射する工程と、励起光によって光照射面316を照射した状態で匂いセンサ300、301の検出部314から出力される電位の変化を検出する工程と、を有している。
【0062】
以上、実施形態1によれば、吸着膜自体に電気的な特性変化を発生させにくい匂い物質でも匂いを検知することができる匂いセンサ、匂いセンサの作製方法及び匂いの検出方法を提供することができる。
【0063】
[実施形態2]
以下、実施形態2に係る匂いセンサについて説明する。
【0064】
<匂いセンサの構成>
匂いセンサにおいては、基部の表面に特有の匂い物質を吸着する吸着膜が形成されている。その吸着膜は、例えば導電性高分子膜等の膜材料に添加剤が添加されることにより形成される。
【0065】
基部としては、水晶振動子センサ(QCM)を用いることもできる。他にも、例えば表面弾性波センサ、電界効果トランジスタ(FET)、電荷結合素子センサ、MOS電界効果トランジスタ、金属酸化物半導体センサ、有機導電性ポリマーセンサ、電気化学的センサ、圧電素子センサ、SPRセンサ等を基部として用いることができる。また、基部に用いるものによって、匂いデータF1を構成する物理量として、周波数、電位、質量、光や音の波長・強度、抵抗値、電流値等が考えられる。
【0066】
吸着膜を構成する膜材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を適用することができる。なお、膜材料には、イオン液体、汎用樹脂、可塑剤、塩等を用いることもできる。また、電極には、金、銀、白金、クロム、チタン、アルミニウム、ニッケル、ニッケル系合金、シリコン等の無機材料を適用することができる。他にも、カーボン、カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノカーボン材料等を適用することができる。
【0067】
添加剤としては、例えば、無機イオン、有機酸アニオン、高分子酸アニオンを適用することができる。無機イオンとしては、例えば、塩化物イオン、塩素酸化物イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、及びホウ酸イオン等が考えられる。有機酸アニオンとしては、例えば、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カルボン酸等が考えられる。高分子酸アニオンとしては、例えば、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カルボン酸等の有機酸アニオン、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸等の高分子酸アニオンが考えられる。添加剤としては、他にもシクロデキストリンやクラウンエーテル誘導体のようなホスト材料、アルキルアミンやアリールアミン、含窒素複素環化合物等の有機塩基材料、尿素誘導体、チオ尿素誘導体等の水素結合性材料等が考えられる。他にも、各種イオン液体も添加剤になりうる。
【0068】
<匂いセンサの配列>
匂いセンサは、1つ又は複数の基部の表面に複数の吸着膜を配列して使用する事が可能である。この場合において、例えば、異なる匂い物質ごとに特有の吸着特性を有する各々異なる複数の吸着膜を一列に配列することができる。また、複数の吸着膜を複数個ずつ縦横に配列し平面状に整列配置することもできる。
【0069】
どの吸着特性を有する吸着膜をどの順序で配列したかの情報を暗号化キー又はパスコードとして利用することで種々の場面におけるセキュリティを高めることができる。この匂いセンサ又はそれを含むシステム全体を、匂いを利用したセキュリティシステムとして利用することができる。
【0070】
<匂いデータベースの秘匿化処理>
図8は、実施形態2に係る匂いセンサユニット1010の概略構成図である。匂いセンサユニット1010は、5個の匂いセンサ1010a~1010eを有している。匂いセンサ1010a~1010eは、基部1002として、例えば水晶振動子センサ(QCM)を用いている。この実施形態2では、5個の匂いセンサ1010a~1010eが順に一列に配列されている。5個の基部1002の表面には、吸着膜1004a~1004eが各々形成されていて、吸着膜1004a~1004eは各々匂いセンサ1010a~1010eに対応している。吸着膜1004a~1004eは、それぞれ導電性高分子膜1005に添加剤1006a~1006eが添加されて形成されている。添加剤1006a~1006eの各々の特性の違いにより、吸着膜1004a~1004eは各々異なる匂い物質を吸着する吸着特性を発揮する。
【0071】
この匂いセンサ1010で例えば、3種類のガスGa、Gb、Gcの匂いを検出し、データベースDB1に格納する場合を想定する。ガスGa、Gb、Gcを匂いセンサ1010a~1010eで検出したときの検出結果は、例えば以下であるとする。()内の数値は、それぞれ匂いセンサ1010a~1010eの出力値である。
ガスGa:(0,5,10,5,0)
ガスGb:(2,4,6,8,10)
ガスGc:(10,8,6,4,2)
【0072】
この出力値をそのまま匂いデータベースDBに格納すると、仮にその匂いデータベースDB内の情報が盗用されると、ガスGa~Gcの匂いセンサ1010a~1010eによる検出結果が盗用者に容易に露呈してしまう。しかしながら、例えば、5個の匂いセンサ1010a~1010eの出力値の配列順序を変更し、配列順序を変更した状態で、匂いセンサ1010a~1010eからの出力値を匂いデータベースDBに格納する。そして、その変更順序の情報を暗号化キーとして匂いデータベースDBと別管理すれば、仮にデータベースDB内の情報が盗用されても、盗用者は、ガスGa~Gcの匂いセンサ1010a~1010eによる検出結果を容易に把握することができない。
【0073】
例えば、5個の匂いセンサ1010a~1010eの出力値の配列順序を(1,3,5,2,4)とすると、匂いデータベースDB内に格納される各ガスGa~Gcの検出結果は、以下の通りとなる。
ガスGa:(0,10,0,5,5)
ガスGb:(2,6,10,4,8)
ガスGc:(10,6,2,8,4)
【0074】
暗号化キーがなければ、ガスGa~Gcの匂いセンサ1010a~1010eによる検出結果をセンサ順序の通りに再現することができない。ここで、暗号化キー(1,3,5,2,4)を用いれば、匂いデータベースDB内のガスGa~Gcの検出結果を匂いセンサ1010a~1010eの順序通りに復号することができる。この方策により、匂いデータベースDB内に格納された匂いデータのセキュリティを向上させることができる。
【0075】
また、例えば、匂いデータベースDB内に格納する匂いデータを検出するための匂いセンサユニット内のセンサ配列の順序と、ユーザに販売する匂いセンサユニット内のセンサ配列の順序を変更し、その変更内容を暗号化キーとすることもできる。また、匂いセンサユニットを複数個生産する場合において、ユニットごと、又は複数ロットごとにユニット内のセンサ配列を変更し、その変更内容を暗号化キーとして管理することにより、匂いデータの秘匿管理性の向上により一層貢献することができる。
【0076】
<匂いを利用した入退室管理>
図8に示す匂いセンサユニット1010を用いることで、例えば、匂いを利用した入退室管理を実現することもできる。入退室の施錠解錠は特定の匂いを有するガスを利用して行う。ここで、その入退室に利用する匂いを「匂い鍵」と言うこととする。匂い鍵は、例えば特定の香水でもよいし、個人の体臭であってもよい。部屋のドアの施錠解錠を制御する入退室制御システムに匂いセンサユニット1010を連携させれば、匂い鍵によってドアの解錠を実現することができる。
【0077】
ここで、例えば、匂い鍵だけでは解錠できず、それに加えて、匂いセンサユニット1010内のセンサ配列情報をパスワードとして入力してようやく解錠が可能となるように構成することができる。例えば、ドアを解錠可能な検出結果が(2,4,6,8,10)であり、その情報が入退室制御システム内又はクラウド内のデータベース等に格納されている。匂いセンサユニット1010による匂い鍵の検出結果が、(2,6,10,4,8)であると、ドアを解錠することができない。しかしながら、匂いセンサユニット1010内のセンサ配列情報(1,3,5,2,4)を入力されると、(2,6,10,4,8)との検出結果が(2,4,6,8,10)に変換される。変換後の検出結果とデータベース等に格納された検出結果とが照合され、一致すればドアの解錠が可能となる。
【0078】
<産業上の利用可能性>
なお、上記の実施形態にて説明した匂いセンサやその匂いセンサで検出された匂いデータの解析方法を用いれば、複数の異なる匂い物質を含有するガス中に含まれる当該匂い物質を迅速かつ高精度に特定することができる。演算処理装置への負荷を軽減することもできる。ある特定のガスと他のガスとの匂いを弁別する場合においても、迅速かつ高精度に両者の弁別が可能となる。また、検出したガスに含有される匂い物質を、その検出された匂いデータとデータベース等に格納された匂いデータとを照合することにより特定する場合においても、迅速かつ高精度に照合が可能となる。なお、実施形態2の匂いセンサ1010a~1010eは、実施形態1の匂いセンサ300、301に置き換えることも可能である。
【0079】
以上、実施形態2においても、吸着膜自体に電気的な特性変化を発生させにくい匂い物質でも匂いを検知することができる匂いセンサ、匂いセンサの作製方法及び匂いの検出方法を提供することができる。
【0080】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。例えば、本発明は以下の趣旨を含むものとする。
【0081】
[趣旨1]
匂い吸着部と基部とを有する匂いセンサであって、
前記匂い吸着部は、光が照射される光照射面を有し、周囲に存在するガス中に含まれる特定の匂い物質に対して特有の吸着特性を呈する吸着成分が、金属微粒子又は金属細線の周囲に薄膜として形成されたものであり、前記光照射面に前記光が照射された状態で、前記匂い物質が前記薄膜に吸着していないときと吸着しているときとで表面プラズモン共鳴に由来する電気的な特性変化を前記基部表面に生じさせるものであり、
前記基部は、前記電気的な特性変化を信号として出力する素子であり、
前記金属微粒子又は前記金属細線の少なくとも一部は、前記基部の近傍に配置されている。
【0082】
[趣旨2]
前記金属微粒子又は前記金属細線の少なくとも一部は、前記基部に接触して配置されていてもよい。
【0083】
[趣旨3]
前記金属微粒子又は前記金属細線の少なくとも一部は、前記基部から100nm以内の近傍に配置されていてもよい。
【0084】
[趣旨4]
前記素子は、光電変換素子を含んでいてもよい。
【0085】
[趣旨5]
前記金属微粒子の直径が、実質的に10nm以上かつ1.5μm以下であってもよい。
【0086】
[趣旨6]
前金属細線の延長方向に直交する断面における直径又は幅寸法が、実質的に10nm以上かつ1.5μm以下であってもよい。
【0087】
[趣旨7]
前記金属細線が、複数本であり、列状又は格子状に並行して配置されていてもよい。
【0088】
[趣旨8]
前記薄膜の厚さが、実質的に2nm以上かつ5μm以下であってもよい。
【0089】
[趣旨9]
前記光照射面に向けて、前記金属微粒子又は前記金属細線の表面プラズモン共鳴を誘起する所定波長の光である励起光を照射する光照射部を更に有してもよい。
【0090】
[趣旨10]
前記匂い吸着部を複数有し、
当該複数の匂い吸着部における複数の吸着成分の各々が、異なる複数の匂い物質に対して各々特有の吸着特性を呈し、
当該複数の匂い吸着部が、前記基部の光照射面上に列状に配置されていてもよい。
【0091】
[趣旨11]
匂い吸着部と基部とを有する匂いセンサを作製する匂いセンサの作製方法であって、
前記匂い吸着部は、光が照射される光照射面を有し、周囲に存在するガス中に含まれる特定の匂い物質に対して特有の吸着特性を呈する吸着成分が、金属細線又は金属微粒子の周囲に薄膜として形成されたものであり、前記光照射面に前記光が照射された状態で、前記匂い物質が前記薄膜に吸着していないときと吸着しているときとで表面プラズモン共鳴に由来する電気的な特性変化を生じるものであり、
前記基部は、前記電気的な特性変化を信号として出力する素子であり、
前記金属細線又は前記金属微粒子の少なくとも一部が前記基部の近傍となるように前記金属細線又は前記金属微粒子を前記基部上に配置する工程と、
前記金属細線又は前記金属微粒子の周囲に前記吸着成分を薄膜として形成することにより前記匂い吸着部を作製する工程と、を有する。
【0092】
[趣旨12]
前記金属細線又は前記金属微粒子を前記基部上に配置する工程において、前記金属微粒子又は前記金属細線の少なくとも一部は、前記基部に接触して配置されてもよい。
【0093】
[趣旨13]
前記金属細線又は前記金属微粒子を前記基部上に配置する工程において、前記金属微粒子又は前記金属細線の少なくとも一部は、前記基部から100nm以内の近傍に配置されてもよい。
【0094】
[趣旨14]
匂い吸着部と基部とを有する匂いセンサを作製する匂いセンサの作製方法であって、
前記匂い吸着部は、光が照射される光照射面を有し、周囲に存在するガス中に含まれる特定の匂い物質に対して特有の吸着特性を呈する吸着成分が、金属微粒子の周囲に薄膜として形成されたものであり、前記光照射面に前記光が照射された状態で、前記匂い物質が前記薄膜に吸着していないときと吸着しているときとで表面プラズモン共鳴に由来する電気的な特性変化を前記基部表面に生じさせるものであり、
前記基部は、前記電気的な特性変化を信号として出力する素子であり、
前記金属微粒子と前記吸着成分とを混合して前記匂い吸着部を作製する工程と、
前記金属微粒子の少なくとも一部が前記基部の近傍となるように前記匂い吸着部を前記基部上に配置する工程と、を有する。
【0095】
[趣旨15]
前記匂い吸着部を前記基部上に配置する工程において、前記金属微粒子の少なくとも一部は、前記基部に接触して配置されてもよい。
【0096】
[趣旨16]
前記匂い吸着部を前記基部上に配置する工程において、前記金属微粒子の少なくとも一部は、前記基部から100nm以内の近傍に配置されてもよい。
【0097】
[趣旨17]
本発明の匂いの検出方法は、
上記の匂いセンサの前記光照射面に、前記金属微粒子又は前記金属細線の表面プラズモン共鳴を誘起する所定波長の光である励起光を照射する工程と、
当該励起光によって前記光照射面を照射した状態で前記匂いセンサの基部から出力される信号を検出する工程と、を有する。
【0098】
[趣旨18]
本発明の匂いセンサの検出方法は、
上記の匂いセンサの作製方法により作製された匂いセンサの前記光照射面に、金属微粒子又は金属細線の表面プラズモン共鳴を誘起する所定波長の光である励起光を照射する工程と、
当該励起光によって前記光照射面を照射した状態で前記匂いセンサの基部から出力される信号を検出する工程と、を有する。
【符号の説明】
【0099】
100 センサ
110、110a~110i センサ素子
112、112a~112l 吸着膜
114、114a~114i 検出部
116、116a~116i 電極
120 基板
120a、120b 面
200 データ解析装置
220 解析部
220b 記憶装置(メモリ)
220c 入出力ポート
300、301 センサ
312 吸着膜
313 匂い吸着部
314 検出部
315 面
316 光照射面
318 金属部
320 接触部
350 光照射部
370 ガラス基板
1002 基部
1004a~1004e 吸着膜
1005 導電性高分子膜
1006a~1006e 添加剤
1010、1010a~1010e センサ
DB、DB1 データベース
F1 データ
Ga~Gc ガス
P 解析プログラム
R 算済みデータ
λ 波長
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8