(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154054
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】生分解性接着剤組成物、およびそれを用いた包装袋
(51)【国際特許分類】
C09J 167/00 20060101AFI20241023BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C09J167/00
C09J11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067658
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000117319
【氏名又は名称】ヤスハラケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085224
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 重隆
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 昌三
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040BA182
4J040BA202
4J040ED001
4J040ED011
4J040ED021
4J040JB01
4J040KA26
4J040KA31
4J040KA42
4J040LA06
4J040MA10
4J040NA06
(57)【要約】
【課題】包装、製本、合板、木工などの用途に利用できる、部分的な塗工が可能な程度に低い溶融粘度であり、経済性や熱安定性に優れた生分解性を有する接着剤組成物、ならびにそれを用いた包装袋を提供すること。
【解決手段】(A)生分解性を有する熱可塑性ポリマー、(B)粘着付与樹脂、および(C)ワックスを含有する生分解性接着剤組成物であって、(A)~(C)成分の合計100重量部に対して、(A)成分が50~70重量部、(B)成分が20~50重量部、(C)成分が0.01~10重量部である生分解性接着剤組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)生分解性を有する熱可塑性ポリマー、(B)粘着付与樹脂、および(C)ワックスを含有する生分解性接着剤組成物であって、(A)~(C)成分の合計100重量部に対して、(A)成分が50~70重量部、(B)成分が20~50重量部、(C)成分が0.01~10重量部である生分解性接着剤組成物。
【請求項2】
180℃における溶融粘度が50,000mPa・s以下である請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
【請求項3】
(A)成分のメルトフローレート(190℃、2.16kg)が、50g/10分以下である請求項1記載の生分解性接着剤組成物。
【請求項4】
(A)成分が、ポリエステル系熱可塑性ポリマーである、請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
【請求項5】
(A)成分が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシヘキサン酸共重合ポリエステル、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
【請求項6】
ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリブチレンサクシネートの群から選ばれた少なくとも1種の(A)成分中に占める割合が、合計で70重量%以下である、請求項5記載の生分解性接着剤組成物。
【請求項7】
(B)成分が、テルペン系樹脂、およびロジン系樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
【請求項8】
(C)成分が、植物系ワックス、動物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、および硬化油脂から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
【請求項9】
さらに、酸化防止剤、滑剤、および充填剤から選択される少なくとも1種の(D)添加剤を、(A)~(C)成分の合計100重量部に対して、0.01~5重量部含有する、請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
【請求項10】
請求項1~9いずれかに記載の生分解性接着剤組成物を用いた包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性を有する接着剤組成物、およびそれを用いた包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非生分解性の合成樹脂を用いた包装容器等のプラスチック製品が大量に廃棄され、地球環境に深刻な影響を及ぼしていることが問題となっている。このため、これらの製品を、自然界に投棄されたとしても自然に分解される紙や生分解性プラスチック等の素材に代替する動きが加速している。それに伴い、これらの製品に使用される接着剤に対しても、生分解性を有し環境に優しい素材を使用することが要求されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、(A)ポリブチレンサクシネート(PBS)および/またはポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)65~80質量%と、(B)ポリ乳酸20~35質量%とを含み、(B)成分のMFRが1~30g/10分、融点が40~70℃である、生分解性接着剤が開示されている。しかしながら、この生分解性接着剤は、押出ラミネート工法等による基材全面への塗工には適しているものの、溶融粘度が高いため、ロールコーターやスロットコーターで基材の一部に選択的に塗工することは困難であった。
【0004】
一方、低粘度の生分解性ポリマーを使用すれば、ホットメルト接着剤として利用できる程度の溶融粘度とすることが可能ではある。例えば、特許文献2には、数平均分子量20,000以上の脂肪族ポリエステル樹脂を解重合させることにより、低粘度化した生分解性ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤が開示されている。しかしながら、低粘度化するための解重合は、有機溶剤を使用するため経済的でないうえ、解重合された生分解性ポリマーは熱安定性が充分でなく、高温タンク中での劣化やゲル化が顕著であった。
【0005】
また、特許文献3には、ポリエステル系樹脂と、ロジン、ポリテルペン等の粘着付与剤に、さらに官能性ポリオレフィンまたは官能性ワックスを配合することによって熱安定性を向上させた、再生可能な資源を利用するホットメルト接着剤が記載されている。しかしながら、官能性ポリオレフィンや官能性ワックスは生分解性が乏しいため、生分解性を有するホットメルト接着剤として利用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-176230号公報
【特許文献2】特開2004-131675号公報
【特許文献3】特表2017-532404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、部分的な塗工が可能な程度に低い溶融粘度であり、経済性や熱安定性に優れた生分解性を有する接着剤組成物、ならびにそれを用いた包装袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の請求項1~10から構成される。
<請求項1>
(A)生分解性を有する熱可塑性ポリマー、(B)粘着付与樹脂、および(C)ワックスを含有する生分解性接着剤組成物であって、(A)~(C)成分の合計100重量部に対して、(A)成分が50~70重量部、(B)成分が20~50重量部、(C)成分が0.01~10重量部である生分解性接着剤組成物。
<請求項2>
180℃における溶融粘度が50,000mPa・s以下である請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
<請求項3>
(A)成分のメルトフローレート(190℃、2.16kg)が、50g/10分以下である請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
<請求項4>
(A)成分が、ポリエステル系熱可塑性ポリマーである、請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
<請求項5>
(A)成分が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシヘキサン酸共重合ポリエステル、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
<請求項6>
ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリブチレンサクシネートの群から選ばれた少なくとも1種の(A)成分中に占める割合が、合計で70重量%以下である、請求項5記載の生分解性接着剤組成物。
<請求項7>
(B)成分が、テルペン系樹脂、およびロジン系樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
<請求項8>
(C)成分が、植物系ワックス、動物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、および硬化油脂から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
<請求項9>
さらに、酸化防止剤、滑剤、および充填剤から選択される少なくとも1種の(D)添加剤を、(A)~(C)成分の合計100重量部に対して、0.01~5重量部含有する、請求項1に記載の生分解性接着剤組成物。
<請求項10>
請求項1~9いずれかに記載の生分解性接着剤組成物を用いた包装袋。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、部分塗工が可能な程度に低い溶融粘度でありながら、経済性や熱安定性に優れているため、包装、製本、合板、木工などの分野の各種物品の接着に利用でき、特に紙やレーヨン不織布等を基材とする包装材料等の製造に好適に利用できる、生分解性を有する接着剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の包装袋1の正面図であり、紙、または生分解性ポリマーからなる不織布などの基材11の外周部3(糊代に相当する)に、本発明の生分解性を有する接着剤組成物を塗布して製袋してなる、収容部2と開口部4とを有する包装袋の正面図である。
【
図3】
図2の破線枠内の拡大図であり、符号12は接着剤を示している。
【
図4】実施例8の生分解性試験における試験片の経時変化を示す写真画像である。
【
図5】本発明の包装袋の製造工程のうち、本発明の接着剤組成物を基材に塗工する工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<(A)生分解性を有する熱可塑性ポリマー>
(A)生分解性を有する熱可塑性ポリマーは、本発明の接着剤組成物の性能を支配する主成分であり、生分解性の作用を有する。
本明細書において用いる「生分解性を有する熱可塑性ポリマー」とは、自然界に存在する微生物、バクテリア、古細菌、菌類、藻類、又はこれらの組合せの働きで、最終的に水と二酸化炭素に分解され自然界へと循環する熱可塑性ポリマーを指す。
【0012】
(A)生分解性を有する熱可塑性ポリマーとしては、化学合成系、微生物産生系、および天然物系が挙げられる。
【0013】
このうち、化学合成系の生分解性を有する熱可塑性ポリマーは、化学的または生物学的に合成されるモノマーを縮重合することにより得られるポリマーであり、ポリエステル系熱可塑性ポリマーおよびポリビニルアルコールが挙げられる。
前記ポリエステル系熱可塑性ポリマーは、ジオール単位、ジカルボン酸単位、およびヒドロキシカルボン酸単位から選択される1種または2種以上を構造単位として含む、生分解性を有する熱可塑性ポリマーである。具体的には、ジオール単位とジカルボン酸単位の組合せ、ヒドロキシカルボン酸単位単独、あるいはジオール単位、ジカルボン酸単位、およびヒドロキシカルボン酸単位の組合せ、からなるポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
なお、本発明でいう構造単位とは、ポリマー中に含まれる各構成成分であり、ポリマーを構成する各成分の残基を意味する。すなわち、ジオール単位はジオールに由来するジオール残基を、ジカルボン酸単位はジカルボン酸に由来するジカルボン酸残基を、ヒドロキシカルボン酸単位はヒドロキシカルボン酸に由来するヒドロキシカルボン酸残基を意味する。
【0014】
ジオール単位は、分子内に水酸基を2個有する化合物に由来する構造単位であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールに由来するものが挙げられる。
【0015】
ジカルボン酸単位は、分子内にカルボキシ基を2個有する化合物に由来する構造単位であり、主鎖が炭化水素基からなる脂肪族ジカルボン酸単位、および主鎖が芳香族基を含む芳香族ジカルボン酸単位が挙げられる。より具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、それらのメチルエステル、エチルエステル等のアルキルエステル類、および酸無水物に由来するものを挙げることができる。これらは1種または2種以上を使用することができる。
【0016】
ヒドロキシカルボン酸単位は、分子内に1個のヒドロキシ基を併せ持つカルボン酸に由来する構造単位であり、例えば、グリコール酸、乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、D-ラクチド、L-ラクチド、メソラクチド、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、サリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、などに由来するものが挙げられる。
【0017】
前記ポリエステル系熱可塑性ポリマーは、ジオール単位、ジカルボン酸単位、およびヒドロキシカルボン酸単位に対応するモノマーの1種または2種以上を公知の方法で縮重合することによって合成される。
【0018】
これらの化学合成系の生分解を有する熱可塑性ポリマーのうち、日本バイオプラスチック協会が定める生分解性プラポジティブリストの分類番号A-1(生分解性合成高分子化合物)およびA-2(コンポスト化可能合成高分子化合物)に記載されているポリマーが好ましい。具体的には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート 、ポリエチレンテレフタレートサクシネートが好ましく使用できる。
【0019】
これらのうち、ポリ乳酸としては、例えば、NatureWorks製NatureWorks3000シリーズ、NatureWorks4000シリーズ、NatureWorks6000シリーズ、NatureWorks8000シリーズ、NatureWorks2000シリーズ、NatureWorks7000シリーズ、Ingeo5061AおよびIngeo5061B、Total-Corbion製Luminy L-シリーズ、Luminy LX-シリーズおよびLuminy D-シリーズ、安徽豊原福泰来聚乳酸製FY200シリーズ、FY400シリーズ、FY600シリーズおよびFY800シリーズなどが挙げられる。ポリグリコール酸はグリコール酸の重合体であり、(株)クレハ製クレサージュ/クレダックスが挙げられる。ポリカプロラクトンはε-カプロラクトンの開環重合体であり、(株)ダイセル製プラクセル H1P、プラクセル H5Cおよびプラクセル H8C、インジェビティ製Capa6500、Capa6500D、Capa6800およびCapa6800D、が挙げられる。
ポリブチレンサクシネートはブチレングリコールとコハク酸の共重合体であり、PTT MCC Biochem製BioPBS FZ71、BioPBS FZ91等が挙げられる。ポリブチレンサクシネートアジペートは、ブチレングリコールとコハク酸とアジピン酸の共重合体であり、PTT MCC Biochem製BioPBS FD92が挙げられる。ポリブチレンアジペートテレフタレートはブチレングリコールとアジピン酸とテレフタル酸の共重合体であり、BASF製Ecoflexなどが挙げられる。ポリエチレンテレフタレートサクシネートはエチレングリコールとテレフタル酸とコハク酸の共重合体であり、デュポン製Apexa4026/6926が挙げられる。
また、ポリビニルアルコールとしては、三菱ケミカル(株)製ゴーセノール、(株)クラレ製ポバールなどが挙げられる。
【0020】
微生物産生系の生分解性を有する熱可塑性ポリマーは、バクテリアやカビなどの微生物が作り出すポリヒドロキシアルカン酸であり、例えば、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合ポリエステルなどが挙げられる。3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合ポリエステルは(株)カネカ製AONILEXとして市販されており、日本バイオプラスチック協会が定める生分解性プラポジティブリストに収載されており好ましい。
【0021】
天然物系の生分解性を有する熱可塑性ポリマーは、セルロース、澱粉、キトサンなどの天然高分子を化学的に修飾することで熱可塑性を持たせたポリマーである。具体的には、酢酸セルロース(例えば(株)ダイセル製CAFBLO)、エステル化澱粉(例えば日本コーンスターチ(株)製コーンポール)、キトサン/セルロース/澱粉(例えば(株)アイセロ製ドロンCC)、澱粉/変性ポリビニルアルコール(例えばノバモント製Mater-Bi)等が挙げられる。
【0022】
以上の生分解性を有する熱可塑性ポリマーの好ましい具体例は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート 、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合ポリエステル、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種である。
【0023】
これらの生分解性を有する熱可塑性ポリマーは、単独で、または必要に応じて2種以上を組み合わせて用いられる。2種以上を組み合わせることによって、生分解性接着剤組成物の流動性および接着性を維持しながら、相溶性、すなわち高温下における組成物の安定性を改善できる。さらに、固化時間を調整することができ、様々な用途、利用形態に適用可能な生分解性接着剤とすることができる。具体的には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、あるいはポリブチレンサクシネートの群から選ばれた少なくとも1種の(A)成分中に占める割合が、合計で70重量%以下であることが相溶性の観点で好ましい。
【0024】
以上の本発明に用いられる(A)生分解性を有する熱可塑性ポリマーのメルトフローレート(MFR)(190℃、2.16kg)は、好ましくは50g/10分以下で、さらに好ましくは5~40g/10分である。50g/10分を超えると、高温下における接着剤組成物の低粘度化が顕著となり、期待された塗工性や接着強度が発現しないため好ましくない場合がある。
ここで、(A)成分のメルトフローレートは、(A)成分を構成するポリマーの種類や構造単位、それらの構成比、分子量、架橋度などにより調整することできる。
なお、前述した市販のポリマーは、通常、MFR(190℃、2.16kg)が50g/10分以下のため、(A)成分として好ましく使用することができる。
【0025】
(A)成分の数平均分子量は、ポリマーの種類や構成単位によって異なるが、通常、10,000~500,000であり、好ましくは20,000~400,000、より好ましくは30,000~300,000である。数平均分子量が10,000未満では、凝集力が弱く接着力が得られ難くなり、一方、数平均分子量が500,000を超えると、粘着付与樹脂やワックスとの相溶性が悪化し、また溶融粘度が高くなり部分塗工性が悪化するため好ましくない。なお、本明細書中における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の分子量である。
【0026】
本発明の生分解性接着剤組成物中における(A)成分の配合量は、(A)~(C)成分合計100重量に対して、50~70重量部、好ましくは52~68重量部、より好ましくは55~65重量部である。50重量部未満では、本発明の接着剤組成物において、生分解性が発現しがたくなり、また相溶性や接着性が悪化するおそれがあり、一方70重量部を越えると溶融粘度が高くなりすぎ、部分的な塗工が困難となる。
【0027】
<(B)粘着付与樹脂>
本発明の生分解性接着剤組成物中の(B)粘着付与樹脂は、熱可塑性ポリマーに接着性を付与する作用をなすものであり、環境に優しいバイオマスを原料としたテルペン系樹脂やロジン系樹脂が好ましい。
テルペン系樹脂は、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテンなどのテルペン単量体を、有機溶媒中でフリーデルクラフト型触媒存在下に重合、または重合後さらに水素添加処理して得られる天然由来の樹脂である。また、(A)生分解性を有する熱可塑性ポリマーとの相溶性を考慮して、前記モノテルペン類と芳香族モノマーやフェノール類とを共重合した変性テルペン樹脂も含まれ、いずれも好ましく使用することができる。テルペン系樹脂の市販品としては、ヤスハラケミカル(株)製の商品名「YSレジンPX」、「YSレジンPXN」、「クリアロン」、「YSレジンTO」、「YSポリスター」などが挙げられる。
ロジンおよびその誘導体としては、例えば、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、マレイン化ロジン、ロジングリセリンエステル、水添ロジングリセリンエステル等のロジンエステルなどが挙げられ、市販品として、荒川化学工業(株)製の商品名「エステルガム」、「スーパーエステル」、「ペンセル」などが入手可能である。
これらのうち、ロジンエステルは、生分解性が認められており、特に好ましい。
また、(B)粘着付与樹脂は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
(B)粘着付与樹脂の好ましい軟化点は、60~180℃、さらに好ましくは70~150℃、特に好ましくは80~130℃である。軟化点が60℃未満であると、接着剤組成物同士が保管中または塗工後にブロッキングしやすくなる。一方、180℃を超えると、接着剤組成物が硬くなり、基材へ塗布後に樹脂が割れて基材から脱落しやすくなる場合がある。
【0029】
(B)粘着付与樹脂の接着剤組成物中における割合は、(A)~(C)成分100重量部中に20~50重量部、好ましくは25~45重量部、更に好ましくは30~42重量部である。(B)粘着付与樹脂の割合が20重量部未満では、接着性が発現しにくく基材への定着性が損なわれる場合があり、一方50重量部を超えると、相溶性が悪化する場合がある。
【0030】
<(C)ワックス>
本発明の(C)ワックスは、本発明の生分解性接着剤組成物の溶融粘度を下げ、軟化点を上げる効果があるものが使用され、生分解性を有するバイオマス由来のものが好ましい。
このような(C)ワックスとしては、植物系ワックス、動物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、硬化油脂が挙げられる。植物系ワックスとしては、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、米ぬかワックス、木ろう、ホホバワックス、パームワックス、オウリキュリーワックス、サトウキビワックス、エスパルトワックス、バークワックスなどが挙げられ、動物系ワックスとしては、みつろう、ラノリン、鯨ろう、いぼたろう、セラックワックス、coccus cactiワックス、水鳥ワックスなどが挙げられる。なお、植物系ワックスと動物系ワックスは、通常、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物を主成分とするワックスである。硬化油脂は、不飽和脂肪酸の割合が高く常温で液体となっている油脂に水素付加(水添)を行い、飽和脂肪酸の割合を増加させて融点を高くした油脂であり、通常、常温で固体状態のものである。硬化油脂としては例えば、カメリア油、ヒマワリ油、サフラワー油、グレープシード油、菜種油、米油、落花生油、マカダミアナッツ油、コーン油、綿実油、パーム油、パーム核油、やし油、オリーブ油、ひまし油、大豆油、牛脂油、豚脂油、魚油などの油脂の不飽和結合の一部または全部を水添したものが挙げられる。
これらのうち、相溶性の観点から高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル化物を主成分とするワックスおよび硬化油脂が好ましい。
(C)ワックスの融点は、50~120℃であり、好ましくは60℃~110℃、更に好ましくは65℃~100℃である。融点が50℃未満のワックスを用いると、接着剤組成物同士が保管中または塗工後にブロッキングしやすくなる。一方、120℃を超えると取り扱いが難しくなる。
(C)ワックスは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0031】
(C)ワックスの配合量は、(A)~(C)成分100重量部中に、0.01~10重量部、好ましくは0.1~8重量部、更に好ましくは0.5~7重量部、特に好ましくは1~6重量部である。0.01重量部未満では、接着剤組成物の溶融粘度が高くなりすぎ、部分的な塗工が困難となる。一方、10重量部を超えると、相溶性が悪化するため好ましくない。
【0032】
本発明の生分解性を有する接着剤組成物は、以上のように(A)~(C)成分を主成分とするが、190℃における溶融粘度は、好ましくは50,000mPa・s以下、さらに好ましくは1,000~30,000mPa・sである。この溶融粘度が50,000mPa・sを超えると、基材への部分的な塗工が困難となり、また塗工時の切れが悪くなり、基材または装置を汚染するため好ましくない。この溶融粘度は、配合する(A)~(C)各成分の種類、配合比により調整することができる。
【0033】
本発明の生分解性を有する接着剤組成物は、(A)~(C)成分を混合することにより得られるが、本発明の作用効果を阻害しない範囲内で、必要に応じて、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、タルク、クレー、カーボンブラックなどの充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、可塑剤またはオイルなどの(D)添加剤を配合することができる。これら(D)添加剤は特に限定されるものではなく、通常、接着剤組成物に用いられる従来から公知のものが使用される。
(D)添加剤の配合量は、(A)~(C)成分100重量部に対して、0.01~5重量部程度である。
【0034】
本発明の生分解性接着剤組成物は、(A)~(C)成分、あるいは(A)~(D)成分を、同時あるいは逐次に、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー等の混合装置に投入し、ブレンド時間5~20分間で混合した後、押出機に入れ、加熱混練した後、押し出すことにより行われる。押出物は通常ペレット形状とされて、後の工程で利用される。押出機としては、例えば二軸押出機等が好ましいものとして挙げられるが、これに限られるものではない。また、押出は、通常140~200℃で行われる。
なお、上記生分解性接着剤組成物を調製するに際しては、各成分の混合の方法は特に限定されず、全成分を一括添加して混合してもよく、各成分を段階的に添加してもよい。
【0035】
本発明の生分解性接着剤組成物は、一般的なクラフト紙、上質紙、上質コート紙、中質コート紙、カップ用紙、アート紙、セミグラシン紙、グラシン紙、模造紙、コピー用紙、新聞用紙、厚紙、板紙、段ボール原紙、段ボールなどの紙類、本発明に用いられる(A)生分解性の熱可塑性ポリマーなどからなるフィルム、シート、織物、編み物、不織布などの布帛、その他のポリマーのほか、木材、ガラス、セラミック、鋼板、金属などの厚手の基材の接着に適用可能である。
【0036】
本発明の接着剤組成物を基材に塗工する方法としては、例えば、組成物を加熱溶融(ホットメルト)して使用する、ロールコーターやスロットオリフィスコーター、ヘッドコーター、エクストルージョンコーター、ハンドガンなどが利用できるが、これらに限定されず、いかなる方法を用いても良い。塗工量は、特に限定されないが、好ましくは10~50g/m2である。また、塗工温度は、組成物、使用装置などによって異なるが、通常120℃~220℃、好ましくは140℃~200℃で行われる。
【0037】
次に、本発明の包装袋について説明する。
本発明の包装袋は、包装袋を構成する基材を本発明の生分解性接着剤組成物を用いて接着することにより、少なくとも1つの収容部を設けたものである。例えば、
図1~3に図示するような、対向する2枚の矩形の基材11の外周部3の三辺を、本発明の接着剤組成物12を用いて互いに接着することで、収容部2を形成した包装袋1が挙げられる。そのほか、封筒、手提げ袋、角底袋、平袋などが挙げられる。
【0038】
包装袋の基材としては、一般的なクラフト紙、上質紙、上質コート紙、中質コート紙、カップ用紙、アート紙、セミグラシン紙、グラシン紙、模造紙、コピー用紙、新聞用紙、厚紙、板紙、段ボール原紙、段ボールなどの紙類のほか、本発明に用いられる(A)生分解性の熱可塑性ポリマーなどからなる、フィルム、シート、織物、編み物、不織布などの布帛などが使用可能であって特に制限はない。クラフト紙や不織布等の通気性を有する基材を使用した場合、開口部を閉鎖しても基材を介して収容部と外気との通気性が確保でき、食品、菓子をはじめ、日用品、生活雑貨等の保存等の用途に好ましく利用することができる。また、基材は緩衝作用のあるボール紙や不織布等であってもよく、収容物の保護材として使用することも可能である。そのうえ、前記基材は、接着剤とともに生分解性であるので、使用後に基材と接着剤とを分離することなく堆肥化処理しても、分解して残渣物が生じない。
【0039】
本発明の包装袋の製造方法は特に限定されないが、通常、少なくとも、包装袋の収容部を形成させることができる基材の特定の部位に本発明の接着剤組成物を塗工する工程、基材の接着剤組成物が塗工された部分と基材の被接着部分とを重ね、貼り合わせる工程、をこの順で経ることにより製造される。また、必要に応じて、塗工された接着剤組成物を加熱処理する工程、基材を裁断する工程等を含めてもよい。例えば、
図1~3に図示する包装袋1においては、基材11の外周部3の三辺にコの字型に本発明の接着剤組成物を塗工後、もう一枚の基材11を重ね、貼り合わせることで製造することができる。本発明の接着剤組成物は、スロットコーターを用いて塗工できる程度に低粘度であり、基材の所望の部分に選択的に塗工することができるため、接着剤の使用量の低減、すなわち省資源化に寄与するものである。
【0040】
本発明の接着剤組成物を包装袋用の基材に塗工する方法としては、前記の一般的な塗工方法や条件によればよく、特に限定されない。塗布された接着剤の形状は、線状、糸状、ビード状、ドット状、スパイラル状、クモの巣状、繊維状、べた塗りなど、特に限定されず、それぞれに対応したアプリケーターを用いればよい。また、基材に部分的に塗工するため、必要に応じて、間欠塗工が可能なアプリケーターを用いてもよい。
【0041】
次に、基材の接着剤組成物が塗工された部分と基材の被接着部分とを重ね、貼り合わせる方法は特に限定されず、特定の製袋装置を使用してもよいし、手作業であってもよい。
【0042】
本発明の包装袋は、紙やレーヨン不織布等の基材と本発明の生分解性接着剤とからなり、使用後に基材と接着剤とを分離することなく堆肥化処理しても、分解して残渣物が生じないため、食品、日用品の包装、生ごみ袋をはじめ、様々な用途に幅広く利用することができる。
【実施例0043】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。以下、部および%は特記しない限り重量基準である。
【0044】
実施例および比較例で用いた各成分は以下のとおりである。
(1) PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート): MFR(190℃、2.16kg)36g/10分,融点122℃
(2) PBS 1(ポリブチレンサクシネート 1): TPP MCC Biochem製BioPBS FD92,MFR(190℃、2.16kg)4g/10分,融点84℃
(3) PBS 2(ポリブチレンサクシネート 2): TPP MCC Biochem製BioPBS FZ71,MFR(190℃、2.16kg)22g/10分,融点114℃
(4) PCL(ポリカプロラクトン): 湖南聚仁化工新材料科技有限公司製PCL 6500,MFR(190℃、2.16kg)30g/10分,融点61℃
(5) PLA(ポリ乳酸): 安徽豊原集団有限公司製ポリ乳酸FY212,MFR(190℃、2.16kg)30g/10分,融点120℃
(6) ロジンエステル: 荒川化学工業(株)製エステルガムAAG,軟化点85℃
(7) テルペン樹脂: ヤスハラケミカル(株)製YSレジンPX1000,軟化点100℃
(8) テルペンフェノール樹脂: ヤスハラケミカル(株)製YSポリスターT100,軟化点100℃
(9) 菜種極度硬化油: 水添ナタネ種子油,融点70℃
(10) 米ぬかワックス: 小倉合成工業(株)製R-WAX KG-B,融点85℃
(11) パラフィンワックス: 日本精蝋(株)製パラフィン145°F,融点68℃
(12) マイクロクリスタリンワックス: 日本精蝋(株)製ハイミック1080,融点85℃
【0045】
実施例1~32、比較例1~6
(A)~(C)成分を表1~2の配合処方に従って混合し、180℃で加熱しながらミキサーで60分間攪拌して、接着剤組成物を調製した。
得られた接着剤組成物それぞれに対し、相溶性、溶融粘度および接着性の各評価を以下に示す方法で行なった。
(相溶性)
組成物の外観、および溶融状態で保持した際の分離の程度を評価し、〇は良好(分離なし)、△はやや分離、×は分離とした。なお、相溶性が×であった接着剤組成物は、以下の評価は実施しなかった。
(溶融粘度)
日本接着剤工業会規格JAI-7-1999に準拠し、ブルックフィールド製B型粘度計デジタルレオメーターDV-11(ローターNo.27)を用いて、温度180℃の条件にて溶融粘度を測定した。〇は30,000mPa・s未満、△は30,000mPa・s~50,000mPa・s、×は50,000mPa・s超とした。
(接着性)
160℃で溶融した接着剤組成物をホットプレート上に流し、バーコーターを用いて坪量50g/m2、一辺が6センチの正方形のクラフト紙の一辺に塗幅2.5センチに塗工して(塗工量30g/m2)、塗工していない同様のクラフト紙と塗工部分で重ねて、120℃、2kgf/cm2、2秒のヒートシール条件で貼り合わせ、試験片を作成した。
試験片を手で剥離し、剥離面の状態を目視で評価し、〇は紙材の破れあり、△は凝集破壊あり、×は界面破壊ありとした。
【0046】
結果を表1~2に示す。
これらの結果から、(A)~(C)成分の合計100重量部に対して、(A)成分が50~70重量部、(B)成分が20~50重量部、(C)成分が0.01~10重量部である生分解性接着剤組成物は、部分的な塗工が可能な程度に溶融粘度が低く、良好な接着性を発現することがわかる。また、(A)成分中のポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートの含有率が70重量%以下の場合、相溶性がさらに良好となり、高温下での安定性に優れた生分解性接着剤となることがわかる。
【0047】
【0048】
【0049】
(生分解性試験)
実施例2、8、10、14および26で調製した生分解性接着剤組成物を長辺10cm、短辺5cm、厚さ30μmのフィルム状の試験片に成形した。この試験片5gをそれぞれ生分解性試験に供した。生分解性試験は、JIS K6953-2:2010の方法に準拠し、(株)サイダ・UMS製微生物酸化分解測定装置MODAを用いて、二酸化炭素発生量を測定した。下記の式に基づき、試験開始から1カ月後の生分解度D
tを算出した。
D
t=((CO
2)
T-(CO
2)
B)/ThCO
2×100
ここに、
(CO
2)
T :コンポスト容器から放出された積算二酸化炭素の総量(g)
(CO
2)
B :空試験によって放出された平均積算した二酸化炭素量(g)
ThCO
2 :試験容器中の試験材料の理論上の二酸化炭素総量(g)
評価したいずれの接着剤組成物も、試験開始から1カ月後には完全に崩壊し、生分解度は60%以上となることが確認された。代表例として、実施例8の生分解性試験における試験片の経時変化を
図4に示す。
【0050】
(包装袋の製造)
メルタータンク内で160℃に溶融させた実施例2、8、10、14および26で調製した生分解性接着剤組成物を、それぞれ、ギアポンプにて、
図5に模式的に示すスロットダイ21に送液し、坪量70g/m
2の未晒クラフト紙22にラインスピード7m/分、塗布量40g/m
2で「コの字」型に間欠的に連続塗工した。
生分解性接着剤組成物23を塗工したクラフト紙22と未塗工のクラフト紙を重ね合わせ、120℃に加熱したシールバーで塗工部をヒートシールすることにより、
図1~3に図示する包装袋を得た。
本発明の生分解性接着剤組成物は、通常、ホットメルト塗工により、包装、製袋、製本、合板、木工、プロダクトアッセンブリー、衛生材料、ラベル、シール、ガスケット、モールディングなどの用途に利用でき、特に紙を基材とする各種物品の接着に好適に利用できる。
なお、本発明の生分解性接着剤組成物は、基材にホットメルト塗工することが特に有効であるが、各種の(親水性)有機溶剤に溶解させて、基材に塗工して使用することも可能である。