IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住化カラー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-スリガラス調熱可塑性成形品 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154059
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】スリガラス調熱可塑性成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20241023BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20241023BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
B32B27/20
C08K3/34
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067663
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】591229440
【氏名又は名称】住化カラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100156085
【弁理士】
【氏名又は名称】新免 勝利
(72)【発明者】
【氏名】吉村 大祐
(72)【発明者】
【氏名】谷口 日登美
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AC05A
4F100AC05C
4F100AC05H
4F100AK12A
4F100AK12B
4F100AK12C
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK42C
4F100AL05A
4F100AL05C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA26A
4F100BA26B
4F100BA26C
4F100CA23A
4F100CA23C
4F100CA23H
4F100EG00A
4F100EG00B
4F100EG00C
4F100EH202
4F100EH46
4F100JN02
4F100JN08
4F100JN26
4J002AA011
4J002BC021
4J002BG061
4J002CF061
4J002CG001
4J002DJ056
4J002EP027
4J002GF00
4J002GL00
4J002GP00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】フィラー添加量が少なく、安価に生産できるスリガラス調熱可塑性成形品を製造することができる。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含む基板層の少なくとも1つの主表面に、熱可塑性樹脂(A)100重量部にケイ酸塩粒子(B)0.1~10重量部を分散させた樹脂組成物からなる被覆層を有するスリガラス調熱可塑性成形品、その製造方法、および被覆層のマスターバッチが提供される。ケイ酸塩粒子(B)のケイ酸塩がマイカであることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む基板層の少なくとも1つの主表面に、熱可塑性樹脂(A)100重量部にケイ酸塩粒子(B)0.1~10重量部を分散させた樹脂組成物からなる被覆層を有するスリガラス調熱可塑性成形品。
【請求項2】
基板層と被覆層が押出成形法によって積層一体化されている請求項1に記載のスリガラス調熱可塑性成形品。
【請求項3】
基板層がポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリメチルメタクリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂から選択された少なくとも一種であり、
被覆層において、熱可塑性樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリメチルメタクリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂から選択された少なくとも一種の樹脂であり、
ケイ酸塩粒子(B)のケイ酸塩がマイカである請求項1に記載のスリガラス調熱可塑性成形品。
【請求項4】
成形品の厚さが0.1mm~30mmである請求項1に記載のスリガラス調熱可塑性成形品。
【請求項5】
ケイ酸塩の平均粒子径が10μm以上である請求項1に記載のスリガラス調熱可塑性成形品。
【請求項6】
被覆層の熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、ケイ酸塩粒子(B)の量が0.2~7重量部である請求項1に記載のスリガラス調熱可塑性成形品。
【請求項7】
熱可塑性樹脂と、
熱可塑性樹脂(A)100重量部にケイ酸塩粒子(B)0.1~10重量部を分散させた樹脂組成物と、
を積層一体化することを含む、請求項1に記載のスリガラス調熱可塑性成形品の製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂(A)100重量部およびケイ酸塩粒子(B)1~200重量部を含むスリガラス調熱可塑性成形品用のマスターバッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリガラス調の外観を有する熱可塑性樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
スリガラス調の外観を有する押出成形品は、例えばパーテーション、照明カバー、看板等に広く用いられている。一般に、透明性樹脂に特定の微粒子を分散させて押出シート化する押出成形により得られる。
【0003】
このとき、透明性樹脂中に分散させた微粒子を拡散させたり、シート表面から突出させる必要がある。
【0004】
プラスチック製の成形品でスリガラス外観を得る方法として、特許文献1には、耐熱性が高く、高い屈折率を用いた球状微粒子を用いることで、プラスチックの光沢を無くし、マット感を付与する技術が開示されている。特許文献2には、ポリエステル樹脂に対して、ポリメチルメタクリレート球状微粉体および炭酸カルシウム微粉体を配合してなるポリエステル系樹脂組成物において、得られる成形品が光拡散を生じて、スリガラス感覚となる成形品が得られることが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、アクリル系樹脂からなる基板の片面または両面に揮発成分量が1.5%以下の球状微粒子を配合したアクリル系積層板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平01-297465号公報
【特許文献2】特開平11-001606号公報
【特許文献3】特開2000―153586
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の球状微粒子やフィラーを用いた成形品では、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、およびポリカーボネート樹脂等の透明性を保持した状態で、表面光沢をなくし、なおかつマット感やスリガラス調を付与することが十分ではなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、プラスチックの透明性を保持した状態で、スリガラス調を付与することができる熱可塑性樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の発明を含む。
[1]
熱可塑性樹脂を含む基板層の少なくとも1つの主表面に、熱可塑性樹脂(A)100重量部にケイ酸塩粒子(B)0.1~10重量部を分散させた樹脂組成物からなる被覆層を有するスリガラス調熱可塑性成形品。
[2]
基板層と被覆層が押出成形法によって積層一体化されている[1]に記載のスリガラス調熱可塑性成形品。
[3]
熱可塑性樹脂基板層がポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリメチルメタクリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂から選択された少なくとも一種であり、
被覆層において、熱可塑性樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂およびポリメチルメタクリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂 から選択された少なくとも一種の樹脂であり、
ケイ酸塩粒子(B)のケイ酸塩がマイカである[1]に記載のスリガラス調熱可塑性成形品。
[4]
成形品の厚さが0.1mm~30mmである[1]に記載のスリガラス調熱可塑性成形品。
[5]
ケイ酸塩の平均粒子径が10μm以上である[1]に記載のスリガラス調熱可塑性成形品。
[6]
被覆層の熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、ケイ酸塩粒子(B)の量が0.2~7重量部である[1]に記載のスリガラス調熱可塑性成形品。
[7]
熱可塑性樹脂と、
熱可塑性樹脂(A)100重量部にケイ酸塩粒子(B)0.1~10重量部を分散させた樹脂組成物と、
を積層一体化することを含む、[1]に記載のスリガラス調熱可塑性成形品の製造方法。
[8]
熱可塑性樹脂(A)100重量部およびケイ酸塩粒子(B)1~200重量部を含むスリガラス調熱可塑性成形品用のマスターバッチ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂の透明性を保持した状態で、表面光沢をなくし、なおかつ良好なマット感や良好なスリガラス調を成形品に付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のスリガラス調熱可塑性成形品の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のスリガラス調熱可塑性成形品は、基板層の1つの主表面または2つの主表面に被覆層を有する。2つの主表面に被覆層を有することが好ましい。本発明の熱可塑性成形品は、シートの形状であることが好ましいが、他の形状、例えば、容器のような複雑な形状であってもよい。
基板層における熱可塑性樹脂と、被覆層における熱可塑性樹脂とは同じものであることが好ましいが、異なっていてもよい。
【0013】
成形品の厚さは、0.1mm~30mmまたは0.3mm~10mmであってよい。成形品の厚さは、0.2mm以上、0.4mm以上、0.6mm以上、0.8mm以上、1mm以上、1.2mm以上、1.4mm以上、1.6mm以上、1.8mm以上、2mm以上、2.2mm以上、2.4mm以上、2.6mm以上、2.8mm以上、または3mm以上であってよい。成形品の厚さは、25mm以下、20mm以下、15mm以下、12mm以下、10mm以下、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3.5mm以下であってよい。
【0014】
成形品は、厚さ2mm~5mm(例えば、2mm、3mm、4mmまたは5mm、特に3.0mm)のときの全光線透過率が55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上または90%以上であることが好ましい。全光線透過率は、56%以上、58%以上、60%以上、62%以上、64%以上、66%以上、68%以上、70%以上、72%以上、74%以上、76%以上、78%以上、80%以上、82%以上、84%以上、86%以上、88%以上、90%以上、92%以上、94%以上であってよい。全光線透過率は、100%以下、98%以下、96%以下、94%以下、92%以下、90%以下、または88%以下であってよい。
【0015】
成形品の全光線透過率は、JIS K 7136:2000に従って測定できる。測定には、例えば、東京電色製ヘーズメーター(モデル TC-H3DPK)を使用できる。
[式] 全光線透過率(Tt)=直線透過率(Tp)+拡散透過率(Td)
【0016】
成形品のHAZEは、5~90、10~85、10~80または20~80、または40~75であってよい。
成形品のHAZEは、JIS K 7136に従って測定でき、例えば、東京電色製ヘーズメーター(モデル TC-H3DPK)によって、測定できる。
[式] HAZE=(拡散透過率(Td)/全光線透過率(Td))*100
【0017】
成形品のグロスは、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上または80以上であってよく、150以下、140以下、130以下、120以下、110以下、100以下、90以下または80以下であってよい。成形品の上主表面と下主表面で異なるグロス値を有することが好ましいが、上主表面と下主表面のグロス値は同じであってもよい。
【0018】
グロスは、JIS Z 8741:1997の光沢度測定に従って測定できる。グロスの測定には、例えば株式会社 村上色彩技術研究所製GMX-202型を用いることができる。
【0019】
図1は、本発明のスリガラス調熱可塑性成形品を示す概略断面図である。成形品10は、基板層2の2つの主表面(すなわち、上面および下面)のそれぞれの上に被覆層1および3を有する。被覆層1と被覆層3は、同じであってもよいし、異なってもよい。例えば、被覆層1と被覆層3は、同じ厚さを有してもよいし、同じ粒子濃度を有していてもよいし、および/または同じ表面(例えば、マット感の表面)を有してもよい。あるいは、例えば、被覆層1と被覆層3は、異なる厚さを有してもよいし、異なる粒子濃度を有していてもよいし、および/または異なる表面(例えば、一方の被覆層がマット感を有し、他方の被覆層が艶感を有する。)を有してもよい。成形品は、1つのみの被覆層を有していてもよい(図示せず)。
【0020】
基板層の厚さは、0.1~50mm、0.2~30mm、または0.3~20mmであってよい。被覆層の厚さは、0.01~10mm、0.02~5mm、0.05~2mm、または0.1~1mmであってよい。被覆層の合計厚さが成形品の厚さの40%以下、30%以下、または20%以下であることが好ましい。
【0021】
[熱可塑性樹脂(以下、「樹脂」という場合がある。)]
樹脂が、基板層および被覆層において使用される。基板層における樹脂と、被覆層における樹脂とは同じものであることが好ましいが、異なっていてもよい。
【0022】
樹脂としては、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、セルロースアセテート樹脂、エチレン-ビニルアセテート樹脂、アクリル-アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリル-塩素化ポリエチレン樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、フッ素樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、メチルペンテン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、脂環構造含有エチレン性不飽和単量体単位を含有する樹脂(例えばシクロオレフィンポリマー樹脂)、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等が挙げられる。樹脂は、単独または2種以上併用して用いてもよい。
【0023】
樹脂としては、透明性に優れ、且つ所定の加工温度での成形性に優れた樹脂が好ましく、厚さ3.0mmのときの全光線透過率が85%以上または90%以上の熱可塑性樹脂がより好ましい。ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリメチルメタクリレート樹脂から選択された少なくとも一種の樹脂が好ましい。透明性が優れた熱可塑性樹脂を用いることにより、スリガラス調がより鮮明となる傾向がある。これらの樹脂は透明性や機械物性を阻害しなければ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
[ケイ酸塩粒子]
ケイ酸塩粒子(以下、「粒子」という場合がある。)はケイ酸塩粒子である。ケイ酸塩は含水ケイ酸塩であってよい。ケイ酸塩としては、クレー、マイカ、ケイ酸カルシウム、ガラス(繊維、ビーズ等)等が挙げられる。ケイ酸塩粒子は、単独または2種以上併用して用いてもよい。
【0025】
クレーの例は、焼成クレーおよびカオリンクレーである。
ガラスの例は、Cガラス、Dガラス、Eガラス、Sガラス、およびTガラスである。
【0026】
ケイ酸塩は、マイカであることが好ましい。マイカは、天然マイカまたは合成マイカであってよい。マイカとしては、セリサイト(絹雲母)、マスコバイト(白雲母)、フロゴパイト(金雲母)、合成マイカ(合成雲母)等が挙げられる。なかでも、合成マイカが好ましい。
【0027】
合成マイカは、一般に、無色透明の純粋結晶である。合成マイカは、水酸基(OH)をフッ素原子(F)で置き換えた雲母であってよい。合成マイカにおいて、鉄の含有量は100ppm以下または50ppm以下であってよい。合成マイカにおいて、重金属の量は1ppm以下または0.1ppm以下であってよい。
【0028】
マイカ粒子(特に、合成マイカ粒子)は薄い板状であり、熱的、化学的に安定で、高いアスペクト比(粒径と厚さの比)(アスペクト比が、例えば、10~100、20~80または30~70)を有する。そのため、マイカ粒子が成形品中で配向することで、低ソリ性、高剛性、低収縮性等の機械物性の向上や、絶縁性、制振性等の付与が可能となる。さらに、基材樹脂との界面反射により、光沢感の付与も可能なため、家電分野、重電機分野、電線分野等、幅広く使用されている。マイカはマイカ原鉱を精製、粉砕、分級することで得られるが、アスペクト比が高い方が、物性面での特異性が発現しやすい。
【0029】
粒子の平均粒子径は、1~100μm、2~80μm、3~70μm、4~60μm、5~55μmまたは7~50μmであってよい。あるいは、粒子の平均粒子径は、45μm以下、40μm以下、35μm以下、30μm以下、25μm以下、20μm以下、15μm以下または10μm以下であることが好ましい。量が上記の範囲であると、HAZEが高く、良好なスリガラス調が得られる。粒子の平均粒子径は、1μm以上、3μm以上、5μm以上または10μm以上であってよい。
【0030】
粒子の平均粒子径は、光学顕微鏡(200~500倍)によって測定できる。任意の数(例えば、100個または200個)の粒子の粒子径から粒度分布を作成して求められるメジアン径(D50)を平均粒子径にできる。
【0031】
被覆層において、粒子の量は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、0.1~10重量部または0.3~5重量部が好ましい。量が上記の範囲であると、HAZEが高く、良好なスリガラス調が得られる。より好ましくは、0.2~8重量部または0.3~3重量部、例えば1~2.5重量部である。あるいは、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、粒子の量の下限は、0.1重量部、0.2重量部、0.3重量部、0.5重量部、0.8重量部、1重量部、1.5重量部、2重量部、3重量部、4重量部、5重量部、6重量部、7重量部、8重量部、または9重量部であり、粒子の量の上限は、10重量部、9重量部、8重量部、7重量部、6重量部、5重量部、4重量部、3重量部、2重量部、1.5重量部、1重量部、0.5重量部、または0.2重量部あってよい。
【0032】
スリガラス調を付与しやすいので、粒子の屈折率と熱可塑性樹脂の屈折率と差が小さいことが好ましい。粒子の屈折率と熱可塑性樹脂の屈折率と差としては、0.005~0.08が好ましく、より好ましくは0.008~0.03である。量が上記の範囲であると、HAZEが高く、良好なスリガラス調が得られる。屈折率差は、0.006以上、0.007以上、0.008以上、0.009以上、0.01以上、0.011以上、0.012以上、0.013以上、0.014以上、0.015以上、0.02以上、0.025以上、0.03以上、0.035以上、0.04以上、0.045以上、または0.05以上であってよく、屈折率差は、0.07以下、0.065以下、0.06以下、0.055以下、0.05以下、0.045以下、0.04以下、0.035以下、0.03以下、0.025以下、0.02以下、0.019以下、0.018以下、0.017以下、0.016以下、0.015以下、0.014以下、0.013以下、または0.012以下であってよい。
【0033】
熱可塑性樹脂の屈折率の測定は多波長アッベ屈折計(ATAGO製DR-M4型)を用いて行った。先ず、射出成形により作製した試験片の表面に微量の接触液(1-ブロモナフタレン)を滴下し、試験片のエッジを光源の方に向けてプリズムの表面に密着させた。その後、全ての色が視野からなくなるまで調節し、明視野と暗視野との間の境界線を接眼レンズの十字線の交点に一致させ、屈折率を測定した。また、光源にはハロゲンランプ波長589nmを用いた。
【0034】
粒子の屈折率測定はベッケ法により行った。まず、スライドガラス上に粒子を載せ、既知の屈折液を滴下する。そして、粒子と屈折液をよく混ぜた後、光を照射しながら、上部から光学顕微鏡により粒子の輪郭を観察した。そして、輪郭が見えない場合を、屈折液と粒子の屈折率が等しいと判断した。
【0035】
なお、光学顕微鏡による観察は、粒子の輪郭が確認できる倍率での観察であれば特に問題ないが、粒子径5μmの粒子であれば500倍程度の観察倍率が適当である。上記操作により、粒子と屈折液の屈折率が近いほど粒子の輪郭が見えにくくなることから、粒子の輪郭が判りにくい屈折液の屈折率をその粒子の屈折率と等しいと判断した。
【0036】
また、屈折率差が0.002の2種類の屈折液の間で粒子の見え方に違いがない場合は、これら2種類の屈折液の中間の値を当該粒子の屈折率と判断した。例えば、屈折率1.554と1.556の屈折液それぞれで試験をしたときに、両屈折液で粒子の見え方に違いがない場合は、これら屈折液の中間値1.555を粒子の屈折率と判定した。
【0037】
[他の成分]
基板層、被覆層およびマスターバッチにおいて、他の成分を含んでもよい。
他の成分、例えば、添加剤は、中和剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、加工助剤、着色剤(無機顔料、有機顔料、顔料分散剤等)、発泡剤、核剤、可塑剤、難燃剤、高輝度化剤、抗菌剤、光拡散剤等があげられる。これらの添加剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
添加剤は、基板層、被覆層およびマスターバッチに対して、50重量%以下、0.1~30重量%、または1~20重量%であってよい。
【0038】
[マスターバッチ]
被覆層は、熱可塑性樹脂および高濃度のケイ酸塩粒子を含むマスターバッチを使用して製造してよい。
熱可塑性樹脂(A)100重量部およびケイ酸塩粒子(B)1~200重量部、1~150重量部、1~100重量部、1~70重量部または1~50重量部を含んでいてよい。
マスターバッチにおいて、ケイ酸塩粒子の濃度は、マスターバッチに対して、0.01重量%以上、0.05重量%以上、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、3重量%以上、または5重量%以上であってよく、70重量%以下、65重量%以下、60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、または1重量%以下であってよい。
【0039】
<マスターバッチの製造方法>
マスターバッチは、ケイ酸塩粒子が熱可塑性樹脂に分散するように、熱可塑性樹脂が溶融する温度で、熱可塑性樹脂とケイ酸塩粒子を混合することによって製造できる。
【0040】
マスターバッチを構成する成分(熱可塑性樹脂、ケイ酸塩粒子、および必要に応じて他の成分)をバルク状、ペレット状、チップ状等の様々な形態で所定の配合割合となるよう配合し、次いで、必要に応じて予備混合した後に、溶融混練機に投入して、熱可塑性樹脂の融点以上に加熱して、溶融混練する。そして、ストランド状に押出した後に切断して顆粒(ペレットまたはチップ)にして、マスターバッチを得る。大きさ(最大長さ)は、一般に、0.1~100mmまたは0.5~50mmであってよい。
【0041】
予備混合は、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー等の予備混合機を用いるドライブレンドであってよい。溶融混練は、バンバリーミキサー、ミキシングロール、単軸または二軸の押出機およびニーダー等の加熱機構を備える溶融混練機によって行える。溶融混練機は、1mm以下、例えば0.01~0.5mm、特に0.05~0.3mmの範囲の目開きを有するフィルターを装填していてもよい。
【0042】
<成形品の製造方法>
熱可塑性樹脂(基板層)と、熱可塑性樹脂にケイ酸塩粒子を分散させた樹脂組成物(被覆層)と、を積層一体化することによって成形品を製造できる。被覆層を構成する樹脂組成物(被覆層組成物)は、マスターバッチに熱可塑性樹脂を加えることによって製造することが好ましい。
基板層および被覆層を形成するために、基板層の供給原料(熱可塑性樹脂)および被覆層の供給原料(熱可塑性樹脂およびケイ酸塩粒子)を溶融(溶融混練)する。被覆層の供給原料は、溶融される前に、必要に応じて、樹脂と粒子を混合して、樹脂に粒子を均一に分散させてもよい。
【0043】
本発明の成形品を製造する方法は、特に限定されない。成形品を製造する方法として、押出成形法、圧縮成形法、注入成形法、射出成形法が挙げられる。成形品を製造する方法として共押出法(共押出成形法)が好ましい。共押出法によれば、積層時にそれぞれの層の流動性を合わせ均一にすることができるので、層間の密着性が良く、成形歪みも少ない。
【0044】
「共押出」という用語は、2つ以上の材料を、2つ以上のオリフィスが配置された単一のダイを通して押出し、それにより、押出物が互いに合流して層状構造になる方法を意味する。共押出のシステムは、共通のダイアセンブリに供給する少なくとも2つの押出機を使用する。押出機の数は、成形品(例えば、共押出シート)を構成する異なる材料の数に依存する。異なる材料ごとに、異なる押出機が使用されてよい。したがって、3層の共押出には、最大で3つの押出機が必要になる場合があるが、2つ以上の層が同じ材料で作製される場合は、使用する押出機は少なくなり得る。
【0045】
共押出法は通常、押出機を2台以上使用し、基板層樹脂には大きな直径の押出機を用い、また被覆層樹脂には小さい直径の押出機を用い、押出用のダイヘッドを介して、一体化・共押出をするのが一般的である。基板層樹脂の押出機の大きい直径と被覆層樹脂の押出機の小さい直径の組み合わせの例としては、120mmと50mmの組み合わせ、90mmと45mmの組み合わせ、および40mmと20mmの組み合わせが挙げられる。基板層および被覆層の厚さ調整は、各押出機の押出量を調整し、また押出し用ダイの出口に設置したロールの間隔を調整して行うのが一般的である。
2つのロールの間に層を通過させるときに、2つのロールの表面を異なったものとしてもよい。例えば、被覆層に接するロールは、ゴムからできているロール、金属の上にゴム層を有するロール、あるいはゴムの上に金属膜を有するロールであってよく、一方、基板層に接するロールは、平坦な表面を有する金属からできているロールであってよい。このようにして、被覆層の表面にマット感を与えることができる。
【0046】
基板層樹脂と被覆層樹脂との流動性を合わせて共押出しするために各押出機の温度を調整することで対応し得る。被覆層に用いる供給原料は、樹脂と粒子とを予めブレンダー等を使って均一に混合し、押出機で溶融混練して得られたペレットであることが好ましい。
【0047】
共押出法において、各押出機のシリンダーおよびダイヘッド温度は、熱可塑性樹脂の融点以上であり、熱可塑性樹脂の融点に依存するが、通常は、200℃以上または230℃以上であってよく、350℃以下または300℃以下であってよい。
【実施例0048】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。本発明は、実施例によって限定されない。
以下において、部、%または比は、特記しない限り、重量部、重量%または重量比を表す。
【0049】
[実施例1]
ポリメタクリル酸メチル樹脂(MFR:2、全光線透過率:93%)、合成マイカ(粒径:40μm)、エチレンビスステアリン酸アマイドとを88.95:11.0:0.05の割合で、タンブラーで混合し65mmφ2軸押出機を用いて温度240℃で造粒し、マスターバッチを得た。
ポリメタクリル酸メチル樹脂、得られたマスターバッチとを100.0:10.0の割合で、ヘンシェルミキサーでブレンドし、被覆層組成物とした。
得られた被覆層組成物を50mmφ単軸押出機、基板層部にポリメタクリル酸メチル樹脂を120mmφ単軸押出機によって、共押出を行った。ダイス部は、2種3層であり、基板層の厚さが1.5mm、被覆層の厚さが0.1mmになるように調整し、成形品を得た。
なお、被覆層部の押出温度は225~260℃、基板層部の押出温度は200~265℃であり、ダイス部の温度は260℃とした。
【0050】
[実施例2]
基板層の厚さが0.5mm、被覆層の厚さが0.05mmになるように調整したこと以外は実施例1と同様にして成形品を得た。
【0051】
[実施例3]
基板層に青染料(C.I.ソルベントブルー97)を0.002部入れた以外は実施例1と同様にして成形品を得た。
【0052】
[実施例4]
基板層に青染料(C.I.ソルベントブルー97)を0.002部入れた以外は実施例2と同様にして成形品を得た。
【0053】
実施例で得られた成形品を以下について評価した。
【0054】
[全光線透過率]
実施例で得られた成形品を、JIS K7361に準拠して全光線透過率を測定した。
【0055】
[HAZE]
実施例で得られた成形品を、JIS K7136に準拠してHAZEを測定した。
【0056】
[グロス]
実施例で得られた成形品を、JIS Z 8741:1997に準拠して、光沢度計により60°反射にて測定した。
【0057】
[スリガラス性]
実施例で得られた成形品を、目視にて、下記の基準でスリガラス性を評価した。
〇:スリガラス性が良好である。
×:スリガラス性がない
【0058】
基板層および被覆層の厚さを表1に示し、評価の結果を表2に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、樹脂の透明性を保持した状態で、表面光沢をなくし、なおかつ良好なマット感や良好なスリガラス調を有する成形品が得られる。
【符号の説明】
【0062】
10 成形品
1,3 被覆層
2 基板層
図1