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特開2024-154077複層塗膜および塗装物品、ならびに塗装物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154077
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】複層塗膜および塗装物品、ならびに塗装物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20241023BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20241023BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241023BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20241023BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
B32B27/20 A
B32B7/023
B05D7/24 303J
B05D7/24 303A
B05D5/06 D
B05D5/06 G
B05D1/36 Z
B05D5/06 Z
B05D5/06 101A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067692
(22)【出願日】2023-04-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】薮下 千聡
(72)【発明者】
【氏名】上原 多麻美
(72)【発明者】
【氏名】大川 駿
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
4D075AA02
4D075AE03
4D075AE06
4D075BB16X
4D075BB25Z
4D075BB26Z
4D075BB60Z
4D075BB75X
4D075BB89X
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB01
4D075CB02
4D075CB06
4D075CB13
4D075CB15
4D075CB36
4D075DA06
4D075DB02
4D075DC11
4D075EA05
4D075EA06
4D075EA43
4D075EB14
4D075EB22
4D075EB32
4D075EB33
4D075EB35
4D075EC03
4D075EC07
4D075EC10
4D075EC11
4D075EC23
4D075EC31
4D075EC35
4D075EC54
4F100AA20A
4F100AA20H
4F100AB03D
4F100AB10C
4F100AB10H
4F100AK01A
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AR00A
4F100AR00B
4F100AR00C
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4F100JL10H
4F100JN01A
4F100JN08B
4F100JN21
4F100JN213
4F100JN26A
4F100JN26H
4F100JN30
4F100YY00
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】ハイライト領域において彩度が高く、かつ、ソフトな光輝感が感じられる複層塗膜、およびこの複層塗膜を備える塗装物品、ならびにその製造方法を提供する。
【解決手段】第1塗膜、第2塗膜およびクリヤー塗膜をこの順に備える複層塗膜であって、前記第1塗膜は、鱗片状光輝性顔料を含み、前記第2塗膜は、着色顔料を含み、前記クリヤー塗膜は、艶消し剤を含み、前記複層塗膜の表面に対して45度の角度から入射した入射光を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光の分光反射率に基づくLh表色系における彩度C 15が、83以上であり、前記複層塗膜の60度鏡面光沢度が、55以上90以下である、複層塗膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1塗膜、第2塗膜およびクリヤー塗膜をこの順に備える複層塗膜であって、
前記第1塗膜は、鱗片状光輝性顔料を含み、
前記第2塗膜は、着色顔料を含み、
前記クリヤー塗膜は、艶消し剤を含み、
前記複層塗膜の表面に対して45度の角度から入射した入射光を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光の分光反射率に基づくLh表色系における彩度C 15が、83以上であり、
前記複層塗膜の60度鏡面光沢度が、55以上90以下である、複層塗膜。
【請求項2】
前記第2塗膜の波長400~700nmにおける平均光線透過率は、25%以上45%以下である、請求項1記載の複層塗膜。
【請求項3】
前記クリヤー塗膜において、前記艶消し剤の含有割合は、樹脂固形分100質量部に対して0.5質量部以上6質量部以下である、請求項1または2記載の複層塗膜。
【請求項4】
前記第1塗膜の表面に対して45度の角度から入射した入射光を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光の分光反射率は、
波長400~580nmにおいて25%以上215%以下であり、かつ、
波長650~700nmにおいて95%以上220%以下である、請求項1または2記載の複層塗膜。
【請求項5】
前記第1塗膜は、さらに着色顔料を含む、請求項1または2記載の複層塗膜。
【請求項6】
前記第2塗膜の光線透過率は、
波長400~580nmにおいて2%以上40%以下であり、かつ、
波長650~700nmにおいて85%以上100%以下である、請求項1または2記載の複層塗膜。
【請求項7】
被塗物と、
前記被塗物上に設けられた、請求項1または2に記載の複層塗膜と、を有する塗装物品。
【請求項8】
被塗物に、第1塗料組成物、第2塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を順次塗装して、複層塗膜を形成することを備え、
前記第1塗料組成物は、鱗片状光輝性顔料を含み、
前記第2塗料組成物は、着色顔料を含み、
前記クリヤー塗料組成物は、艶消し剤を含み、
前記複層塗膜の表面に対して45度の角度から入射した入射光を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光の分光反射率に基づくLh表色系における彩度C 15が、83以上であり、
前記複層塗膜の60度鏡面光沢度が、55以上90以下である、塗装物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層塗膜および塗装物品、ならびに塗装物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は、通常、複層塗膜を備える。従来、自動車の外観には高級感が求められており、メタリック調が強く、フリップフロップ性の高い複層塗膜が形成される場合が多い。例えば、特許文献1には、見る角度によってメタリック調の質感が異なり、フリップフロップ性が顕著な複層塗膜が開示されている。特許文献2には、多方面反射によるキラキラした光輝感を有する複層塗膜が開示されている。特許文献3には、ハイライトで高い光沢度を有し、ハイライトからシェードまで全体に明度が高い複層塗膜が開示されている。一方、特許文献4には、柔らかな質感を有する複層塗膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08-238451号公報
【特許文献2】特開2002-275421号公報
【特許文献3】国際公開第2017/135426号
【特許文献4】国際公開第2013/154168号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、消費者の嗜好の多様化およびオリジナリティの追求により、複層塗膜に要求される意匠も多岐にわたる。本発明は、特許文献1~4とは異なる意匠であって、ハイライト領域において彩度が高く、かつ、ソフトな光輝感が感じられる複層塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
第1塗膜、第2塗膜およびクリヤー塗膜をこの順に備える複層塗膜であって、
前記第1塗膜は、鱗片状光輝性顔料を含み、
前記第2塗膜は、着色顔料を含み、
前記クリヤー塗膜は、艶消し剤を含み、
前記複層塗膜の表面に対して45度の角度から入射した入射光を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光の分光反射率に基づくLh表色系における彩度C 15が、83以上であり、
前記複層塗膜の60度鏡面光沢度が、55以上90以下である、複層塗膜。
[2]
前記第2塗膜の波長400~700nmにおける平均光線透過率は、25%以上45%以下である、上記[1]の複層塗膜。
[3]
前記クリヤー塗膜において、前記艶消し剤の含有割合は、樹脂固形分100質量部に対して0.5質量部以上6質量部以下である、上記[1]または[2]の複層塗膜。
[4]
前記第1塗膜の表面に対して45度の角度から入射した入射光を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光の分光反射率は、
波長400~580nmにおいて25%以上215%以下であり、かつ、
波長650~700nmにおいて95%以上220%以下である、上記[1]または[2]の複層塗膜。
[5]
前記第1塗膜は、さらに着色顔料を含む、上記[1]または[2]の複層塗膜。
[6]
前記第2塗膜の光線透過率は、
波長400~580nmにおいて2%以上40%以下であり、かつ、
波長650~700nmにおいて85%以上100%以下である、上記[1]または[2]の複層塗膜。
[7]
被塗物と、
前記被塗物上に設けられた、上記[1]または[2]の複層塗膜と、を有する塗装物品。
[8]
被塗物に、第1塗料組成物、第2塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を順次塗装して、複層塗膜を形成することを備え、
前記第1塗料組成物は、鱗片状光輝性顔料を含み、
前記第2塗料組成物は、着色顔料を含み、
前記クリヤー塗料組成物は、艶消し剤を含み、
前記複層塗膜の表面に対して45度の角度から入射した入射光を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光の分光反射率に基づくLh表色系における彩度C 15が、83以上であり、
前記複層塗膜の60度鏡面光沢度が、55以上90以下である、塗装物品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ハイライト領域において彩度が高く、かつ、ソフトな光輝感が感じられる複層塗膜、およびこの複層塗膜を備える塗装物品、ならびにその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[複層塗膜]
本開示の複層塗膜は、鱗片状光輝性顔料を含む第1塗膜と、着色顔料を含む第2塗膜と、艶消し剤を含むクリヤー塗膜とを、この順に備える。
【0008】
複層塗膜の表面(クリヤー塗膜側の表面)に対して45度の角度から入射した入射光を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光の分光反射率に基づくLh表色系における彩度C 15は、83以上である。これは、ハイライト領域において鮮やかな色が観察されることを示している。
【0009】
複層塗膜の60度鏡面光沢度は、55以上90以下である。これは、反射が過剰に強くない(例えば、薄いベールを介したような、柔らかな反射であること)を示している。鱗片状光輝性顔料を含む第1塗膜が、第2塗膜に覆われているにもかかわらず、上記のような60度鏡面光沢度が得られるということは、第2塗膜がある程度の光透過性を有していることを示している。
【0010】
このように、鱗片状光輝性顔料を含む第1塗膜と、着色顔料を含む一方で光透過性を有する第2塗膜とを組み合わせることにより、ハイライト領域における高彩度色が達成される。加えて、第2塗膜を覆うように艶消し剤を含むクリヤー塗膜を設けることにより、本開示の複層塗膜は、いわゆるパステル調ともマット調ともメタリック調とも異なり、ハイライト領域において高彩度でありながら、ソフトな光輝感が感じられる、新しい意匠を表現できる。
【0011】
ハイライト領域とは、45度の角度から入射した光の正反射光に対して、25度以下の範囲をいう。本開示では、ハイライト領域として、超ハイライト領域ともいえる、正反射光に対して15度の角度における彩度を規定している。
【0012】
(彩度C 15
彩度C 15は83以上である。彩度C 15が83未満であると、鮮やかさに劣り、所望の意匠が得られない。彩度C 15は、84以上であってよく85以上であってよい。彩度C 15は、120以下であってよく、115以下であってよい。
【0013】
彩度C 15は、複層塗膜の表面に対して45度の角度から入射した入射光を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光の、分光反射率に基づくLh表色系における彩度である。Lh表色系において、彩度Cの数値が増加するに従い被測定物質の鮮やかさが増し、小さくなるに従いくすみが増加する。
【0014】
h表色系は、CIELb表色系(CIE1976L色空間)に基づいて算出される。CIE1976L色空間は、JIS Z 8781-4に準拠して求めることができる。CIELb表色系は、国際照明委員会により定められており、Section 4.2 of CIE Publication 15.2 (1986) に記載されている。
【0015】
彩度C 15は、分光測色計(例えば、BYK Gardner社製、BYK-mac i)を用いて取得することができる。
【0016】
(60度鏡面光沢度)
複層塗膜の60度鏡面光沢度は、55以上90以下である。60度鏡面光沢度が55未満であると、反射が小さすぎて塗膜が曇り、いわゆるマット感が感じられる意匠になる。60度鏡面光沢度が90超であると、反射が強すぎて、ソフトな光輝感が得られない。60度鏡面光沢度は、60以上であってよく、65以上であってよい。60度鏡面光沢度は、88以下であってよく、85以下であってよい。
【0017】
60度鏡面光沢度は、JIS Z 8741 鏡面光沢度-測定方法に準拠して、光沢計(例えば、商品名:AG-4446、BYK Gardner社製)を用いて測定される。
【0018】
彩度C 15および60度鏡面光沢度は、複層塗膜に対して測定される。測定の対象となる複層塗膜は、以下のようにして作製される。まず、鋼板にカチオン電着塗料および中塗り塗料を塗装し、それぞれ加熱硬化させて、被塗物を得る。被塗物に、後述の第1塗料組成物を乾燥塗膜が3μm以上15μm以下(典型的には、10μm)となるようにスプレー塗装し、次いで第2塗料組成物を乾燥膜厚が3μm以上15μm以下(典型的には、10μm)となるようにウェットオンウェットでスプレー塗装し、その後、クリヤー塗料組成物を乾燥膜厚が10μm以上80μm以下(典型的には、35μm)となるようにウェットオンウェットでスプレー塗装する。最後に、これら未硬化の3層の塗膜を、140℃で20分間加熱硬化させる。複層塗膜とは、被塗物に塗装された、第1塗料組成物の硬化塗膜、第2塗料組成物の硬化塗膜およびクリヤー塗料組成物の硬化塗膜の積層物を指す。
【0019】
(第1塗膜)
第1塗膜は、鱗片状光輝性顔料を含む。これにより、複層塗膜に光反射性が付与される。第1塗膜は、典型的には、鱗片状光輝性顔料と塗膜形成樹脂とを含む第1塗料組成物の硬化物である。
【0020】
第1塗膜の厚さは、例えば、3μm以上15μm以下であってよい。第1塗膜の厚さは、7μm以上であってよい。第1塗膜の厚さは、14μm以下であってよく、13μm以下であってよい。
【0021】
第1塗膜の表面に対して45度の角度から入射した入射光I145を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光R115の分光反射率は、波長400~700nmにおいて25%以上220%以下であってよい。これにより、可視光域およびハイライト領域において、第1塗膜は良好な反射性を示すことになり、第2塗膜の着色顔料がどのような色相を有していても、複層塗膜はより鮮やかな色を呈することができる。
【0022】
第2塗膜の着色顔料が赤色である場合、反射光R115の分光反射率は、波長400~580nmにおいて25%以上215%以下であり、かつ、波長650~700nmにおいて95%以上220%以下であってよい。これにより、複層塗膜は、ハイライト領域において、より鮮やかな赤色を呈することができる。
【0023】
第2塗膜の着色顔料が赤色である場合、波長400~580nmにおける反射光R115の分光反射率は、200%以下であってよく、170%以下であってよく、150%以下であってよい。上記の場合、波長650~700nmにおける反射光R115の分光反射率は、110%以上であってよく、120%以上であってよく、125%以上であってよい。
【0024】
反射光R115の分光反射率は、複層塗膜ではなく、単独の第1塗膜に対して測定される。測定の対象となる単独の第1塗膜は、鋼板にカチオン電着塗料および中塗り塗料を塗装し、それぞれ加熱硬化させた被塗物に、第1塗料組成物を乾燥塗膜が3μm以上15μm以下(典型的には、10μm)となるようにスプレー塗装し、140℃で20分間加熱硬化させることにより得られる。測定の対象となる単独の第1塗膜とは、被塗物に塗装された第1塗料組成物の硬化塗膜を指す。
【0025】
分光反射率は、単独の第1塗膜に対し、分光測色計(例えば、BYK Gardner社製、BYK-mac i)を用いて、400~700nmの区間を、波長スキャンモード、サンプリング間隔10nmの条件で測定される。
【0026】
反射光R115の分光反射率は、平均値ではない。例えば、反射光R115の分光反射率が波長400~700nmにおいて25%以上220%以下であるとは、波長400~700nmにおける反射光R115の分光反射率の最小値および最大値が、25%以上220%以下の範囲にあることを意味する。
【0027】
反射光R115の分光反射率は、例えば、第1塗膜に含まれる鱗片状光輝性顔料の種類および質量割合、着色顔料の有無、着色顔料の種類および質量割合、第1塗膜の厚さによって調整され得る。
【0028】
(第1塗料組成物)
第1塗料組成物は、鱗片状光輝性顔料と塗膜形成樹脂とを含む。
第1塗料組成物は、水性であってよく、溶剤系であってよい。水性第1塗料組成物は、主溶媒として、水、および必要に応じて水溶性または水混和性の有機溶媒を含み得る。溶剤系第1塗料組成物は、主溶媒として、例えば、エステル系溶剤、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族系溶剤を含み得る。第1塗料組成物は、塗装時に適した溶媒によって希釈されて使用され得る。第1塗料組成物は、水性であってよい。主溶媒は、全溶媒の50質量%以上を占める。
【0029】
第1塗料組成物は、鱗片状光輝性顔料、塗膜形成樹脂、硬化剤などを、ディスパー、ホモジナイザー、ニーダーなどを用いて混練および分散して、調製される。鱗片状光輝性顔料等の顔料および顔料分散剤を用いて予め顔料ペーストを調製し、これと塗膜形成樹脂等とを混合してもよい。
【0030】
《鱗片状光輝性顔料》
鱗片状光輝性顔料としては、干渉マイカ、ホワイトマイカおよび着色マイカなどのマイカ顔料;グラファイト顔料;ガラスフレーク顔料;アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム、酸化クロム、これらを含む合金などの金属顔料が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。鱗片状光輝性顔料は、着色されていてもよく、無着色であってよい。鱗片状光輝性顔料は、アルミニウム顔料であってよい。
【0031】
鱗片状とは、アスペクト比(顔料の平均長径/顔料の平均厚さ)が1.0超である形状をいう。鱗片状顔料のアスペクト比は、例えば、20以上300以下である。鱗片状顔料のアスペクト比は、30以上であってよい。鱗片状顔料のアスペクト比は、200以下であってよい。
【0032】
鱗片状光輝性顔料の平均粒子径は、4μm以上であってよく、5μm以上であってよい。鱗片状光輝性顔料の平均粒子径は、12μm以下であってよく、10μm以下であってよい。
【0033】
鱗片状顔料の平均粒子径は、長径の平均値である。平均粒子径は、鱗片状顔料を形状解析レーザーマイクロスコープ(例えば、キーエンス社製 VK-X 250)を用いて観察し、任意に選択した100個の鱗片状顔料の長径(最大長さ)を平均化することによって得られる。
【0034】
鱗片状光輝性顔料の平均厚さは、例えば、0.01μm以上0.1μm以下である。鱗片状光輝性顔料の平均厚さは、0.04μm以上であってよい。鱗片状光輝性顔料の平均厚さは、0.08μm以下であってよい。
【0035】
鱗片状顔料の平均厚さは、鱗片状顔料を含む塗膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、任意に選択した100個の鱗片状顔料の厚さを平均化することによって得られる。
【0036】
鱗片状光輝性顔料は、表面処理されていてよく、されていなくてもよい。表面処理に用いられる化合物としては、例えば、金属酸化物系化合物、リン化合物、アミン化合物、シラン化合物が挙げられる。
【0037】
第1塗膜における鱗片状光輝性顔料の含有量、すなわち、第1塗料組成物に含まれる樹脂の固形分と鱗片状光輝性顔料との合計質量に対する、鱗片状光輝性顔料の質量割合(PPWC1g)は、例えば、2質量%以上20質量%以下である。これにより、所望の光輝感が表現され易くなる。
【0038】
PWC1gは、3質量%以上であってよく、5質量%以上であってよい。PWC1gは、15質量%以下であってよく、10質量%以下であってよい。樹脂の固形分とは、後述する塗膜形成樹脂および硬化剤等の全樹脂成分の固形分である。
【0039】
《他の顔料》
第1塗料組成物(第1塗膜)は、さらに、鱗片状光輝性顔料以外の顔料を含んでいてよい。他の顔料としては、例えば、着色顔料、体質顔料、防錆顔料、鱗片状以外の光輝性顔料が挙げられる。特に、第1塗膜は、着色顔料を含んでいてよい。第1塗膜および第2塗膜に含まれる着色顔料は、同じであってよく、異なっていてよい。第1塗膜および第2塗膜に含まれる着色顔料が同じであると、複層塗膜はより鮮やかに見える。
【0040】
着色顔料は、無機物であってよく、有機物であってよい。着色顔料は、有彩色であってよく、無彩色であってよい。有機着色顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料が挙げられる。無機着色顔料としては、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0041】
体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0042】
第1塗膜における着色顔料の含有量、すなわち、第1塗料組成物に含まれる樹脂の固形分と着色顔料との合計質量に対する、着色顔料の質量割合(PWC1c)は、例えば、0.05質量%以上35質量%以下である。PWC1cは、5質量%以上であってよく、7質量%以上であってよい。PWC1cは、20質量%以下であってよく、15質量%以下であってよい。
【0043】
《塗膜形成樹脂》
塗膜形成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、アクリル樹脂であってよい。
【0044】
水性の第1塗料組成物において、これらの樹脂は、エマルションとして含まれてよく、ディスパージョンとして含まれてよく、溶媒に溶解した状態で含まれていてよい。
【0045】
例えば、アクリル樹脂エマルションは、α,β-エチレン性不飽和モノマーの乳化重合によって調製することができる。α,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマー、および水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。モノマーは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0046】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステルおよびメタアクリル酸エステルを表わす。
【0047】
酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α-ハイドロ-ω-((1-オキソ-2-プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1-オキソ-1,6-ヘキサンジイル))、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3-ビニルサリチル酸、3-ビニルアセチルサリチル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、p-ヒドロキシスチレン、2,4-ジヒドロキシ-4’-ビニルベンゾフェノンが挙げられる。
【0048】
水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタリルアルコール、および、これらとε-カプロラクトンとの付加物が挙げられる。
【0049】
その他のα,β-エチレン性不飽和モノマーが併用されてよい。その他のα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、重合性アミド化合物、重合性芳香族化合物、重合性ニトリル、重合性アルキレンオキシド化合物、多官能ビニル化合物、重合性アミン化合物、α-オレフィン、ジエン、重合性カルボニル化合物、重合性アルコキシシリル化合物、重合性のその他の化合物が挙げられる。
【0050】
乳化重合の方法は、特に限定されない。例えば、水、または必要に応じてアルコール、エーテル(例えば、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルなど)などのような有機溶媒を含む水性媒体中に乳化剤を溶解させ、加熱撹拌下、α,β-エチレン性不飽和モノマーおよび重合開始剤を滴下する。α,β-エチレン性不飽和モノマーは、乳化剤によって、予め乳化させておいてよい。
【0051】
重合開始剤および乳化剤は、当業者に通常使用されているものを用いることができる。必要に応じて、メルカプタン(例えば、ラウリルメルカプタン)およびα-メチルスチレンダイマーなどの連鎖移動剤を用いて分子量を調節してもよい。反応温度、反応時間などは、当業者に通常用いられる範囲で適宜選択することができる。得られたアクリル樹脂エマルションは、必要に応じて塩基で中和される。
【0052】
乳化重合により得られるアクリル樹脂(アクリル樹脂のエマルション)は、数平均分子量が3,000以上であってよい。アクリル樹脂は、水酸基価(固形分水酸基価)が20mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であってよい。アクリル樹脂は、酸価(固形分酸価)が1mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であってよい。
【0053】
数平均分子量は、ポリスチレンを標準とするGPC法において決定される。塗膜形成樹脂の酸価および水酸基価は、JISの規定に基づいて、調製に用いられるモノマー組成から算出される。
【0054】
アクリル樹脂ディスパージョンは、例えば、上記α,β-エチレン性不飽和モノマーを溶液重合し、塩基性化合物を用いて分散化することにより、調製することができる。
【0055】
水溶性のアクリル樹脂は、例えば、上記α,β-エチレン性不飽和モノマーを溶液重合し、塩基性化合物を用いて水溶化することにより調製することができる。
【0056】
溶剤系の第1塗料組成物に配合されるアクリル樹脂は、例えば、α,β-エチレン性不飽和モノマーを溶液重合することにより調製することができる。上記アクリル樹脂は、数平均分子量が例えば1,000以上20,000以下である。上記アクリル樹脂は、酸価(固形分酸価)が1mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であってよい。上記アクリル樹脂は、水酸基価(固形分水酸基価)が101mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であってよい。
【0057】
《硬化剤》
第1塗料組成物は、硬化剤を含んでいてよい。硬化剤は、塗膜形成樹脂と反応して、これとともに第1塗膜を形成する。
【0058】
硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、金属イオンが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、メラミン樹脂およびブロックイソシアネート化合物の少なくとも1種を用いてよい。
【0059】
メラミン樹脂は、水溶性であってよく、非水溶性であってよい。メラミン樹脂は、メラミン核(トリアジン核)の周囲に、3個の窒素原子を介して水素原子または置換基(アルキルエーテル基、メチロール基など)が結合した構造を含む。メラミン樹脂は、一般的には、複数のメラミン核が互いに結合した多核体により構成される。メラミン樹脂は、1個のメラミン核からなる単核体であってもよい。
【0060】
市販のメラミン樹脂を用いてもよい。市販のメラミン樹脂としては、例えば、Allnex社製のサイメルシリーズ(商品名)、具体的には、サイメル202、サイメル204、サイメル211、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル250、サイメル251、サイメル254、サイメル266、サイメル267、サイメル272、サイメル285、サイメル301、サイメル303、サイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル370、サイメル701、サイメル703、サイメル1141;三井化学社製のユーバン(商品名)シリーズが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0061】
ブロックイソシアネート化合物は、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどからなるポリイソシアネートに、活性水素を有するブロック剤を付加させることによって、調製することができる。
【0062】
硬化剤の含有量は、第1塗料組成物に含まれる樹脂固形分の10質量%以上80質量以下であってよい。硬化剤の上記含有量は、15質量%以上であってよい。硬化剤の上記含有量は、60質量%以下であってよい。
【0063】
《リン酸基含有有機化合物》
第1塗料組成物は、さらにリン酸基含有有機化合物を含んでいてよい。リン酸基含有化合物によって、鱗片状光輝性顔料の分散性が向上し易くなる。
【0064】
リン酸基含有化合物の含有量は、第1塗料組成物の全固形分の0.1質量%以上15質量%以下であってよい。リン酸基含有化合物の上記含有量は、1質量%以上であってよい。リン酸基含有化合物の上記含有量は、12質量%以下であってよい。
【0065】
リン酸基含有化合物は、リン酸基(-P(=O)(OR)(Rは、それぞれ独立して、水素または炭化水素基))を有する限り、特に限定されない。リン酸基含有化合物は、例えば、炭素数4~30のアルキル基を有するアルキルリン酸エステル、および、リン酸基価が5mgKOH/g以上300mgKOH/g以下のリン酸基含有ポリマーの少なくとも一方である。
【0066】
〈アルキルリン酸エステル〉
アルキルリン酸エステルは、炭素数4~30のアルキル基を有する。アルキルリン酸エステルとしては、モノアルキルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル、およびこれらの混合物が挙げられる。ジアルキルリン酸エステルにおいて、2つのアルキル基は同じであってよく、異なっていてよい。ジアルキルリン酸エステルは、好ましくは、同じ2つのアルキル基を有する。
【0067】
炭素数4~30のアルキル基としては、例えば、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、ヘキサコシル基およびオクタコシル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状であってよく、分岐していてよい。
【0068】
アルキルリン酸エステルとしては、例えば、ブチルアシッドホスフェート(モノブチルリン酸エステルとジブチルリン酸エステルとの混合物)、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート(モノ-2-エチルヘキシルリン酸エステルとジ-2-エチルヘキシルリン酸エステルとの混合物)、イソデシルアシッドホスフェート(モノイソデシルリン酸エステルとジイソデシルリン酸エステルとの混合物)、ジラウリルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート(モノラウリルリン酸エステルとジラウリルリン酸エステルとの混合物)、トリデシルアシッドホスフェート(モノトリデシルリン酸エステルとジトリデシルリン酸エステルとの混合物)、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート(モノステアリルリン酸エステルとジステアリルリン酸エステルとの混合物)、イソステアリルアシッドホスフェート(モノイソステアリルリン酸エステルとジイソステアリルリン酸エステルとの混合物)、オレイルアシッドホスフェート(モノオレイルリン酸エステルとジオレイルリン酸エステルとの混合物)、ベヘニルアシッドホスフェート(モノベヘニルリン酸エステルとジベヘニルリン酸エステルとの混合物)が挙げられる。
【0069】
〈リン酸基含有ポリマー〉
リン酸基含有ポリマーは、5mgKOH/g以上300mgKOH/g以下のリン酸基価を有する。リン酸基含有ポリマーのリン酸基価は、10mgKOH/g以上であってよく、50mgKOH/g以上であってよい。リン酸基含有ポリマーのリン酸基価は、250mgKOH/g以下であってよく、150mgKOH/g以下であってよい。
【0070】
リン酸基価は、リン酸基含有ポリマーの調製に用いたリン酸エステルなどのリン酸基含有成分の配合量に基づき算出される、中和に要する水酸化カリウム(KOH)のmg数である。
【0071】
リン酸基含有ポリマーの数平均分子量は、例えば、1,000以上50,000以下である。リン酸基含有ポリマーの数平均分子量は、3,000以上であってよく、5,000以上であってよい。リン酸基含有ポリマーの数平均分子量は、30,000以下であってよく、20,000以下であってよい。
【0072】
リン酸基含有ポリマーとしては、例えば、リン酸基価が5mgKOH/g以上300mgKOH/g以下の、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、リン酸基含有アクリル樹脂であってよい。リン酸基含有アクリル樹脂は、例えば、リン酸基含有α,β-エチレン性不飽和モノマーを重合する、あるいは、このモノマーとリン酸基を含有しない他のα,β-エチレン性不飽和モノマーとを共重合することによって得られる。
【0073】
《添加剤》
第1塗料組成物は、当業者において通常用いられる添加剤を含んでいてよい。添加剤としては、例えば、表面調整剤、粘性制御剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、消泡剤が挙げられる。
【0074】
(第2塗膜)
第2塗膜は、着色顔料を含む。これにより、複層塗膜に所望の色相が付与される。第2塗膜は、典型的には、着色顔料と塗膜形成樹脂とを含む第2塗料組成物の硬化物である。
【0075】
第2塗膜の厚さは、例えば、3μm以上15μm以下であってよい。第2塗膜の厚さは、7μm以上であってよい。第2塗膜の厚さは14μm以下であってよく、13μm以下であってよい。
【0076】
第2塗膜の光透過性は、複層塗膜の彩度に影響し得る。第2塗膜の波長400~700nmにおける平均光線透過率は、25%以上45%以下であってよい。第2塗膜の可視光域における平均光線透過率が25%以上であると、複層塗膜によって表現される色が、より鮮やかになる。第2塗膜の可視光域における平均光線透過率が45%以下であると、複層塗膜によって表現される色が、深みのあるものになる。上記の平均光線透過率は、30%以上であってよく、35%以上であってよい。上記の平均光線透過率は、44%以下であってよく、43%以下であってよい。
【0077】
平均光線透過率は、複層塗膜ではなく、単独の第2塗膜に対して測定される。測定の対象となる単独の第2塗膜は、第2塗料組成物を、ポリプロピレン板上に乾燥膜厚が3μm以上15μm以下(典型的には、10μm)となるようにスプレー塗装し、140℃で20分間加熱硬化させた後、塗膜をポリプロピレン板から剥離することにより得られる。測定の対象となる単独の第2塗膜とは、フィルム状の第2塗料組成物の硬化物を指す。
【0078】
光線透過率は、単独の第2塗膜に対し、分光光度計(例えば、日立社製、商品名:U-4100)を用いて、400~700nmの区間を、波長スキャンモード、スキャンスピード300nm/分、サンプリング間隔0.5nmの条件で測定される。得られた光線透過率の10nmごとの算術平均値を、平均光線透過率とする。
【0079】
第2塗膜の着色顔料が赤色である場合、第2塗膜の光線透過率は、波長400~580nmにおいて2%以上40%以下であり、かつ、波長650~700nmにおいて85%以上100%以下であってよい。これにより、複層塗膜は、より鮮やかな赤色を呈することができる。かかる光線透過率は平均値ではない。例えば、波長400~580nmにおける光線透過率が2%以上40%以下であるとは、当該波長域における光線透過率の最小値および最大値が、2%以上40%以下の範囲に含まれていることを意味する。
【0080】
第2塗膜の光線透過率は、例えば、第2塗膜に含まれる着色顔料の種類および質量割合、光輝性顔料の有無、第2塗膜の厚さによって調整され得る。
【0081】
(第2塗料組成物)
第2塗料組成物は、着色顔料と塗膜形成樹脂とを含む。
第2塗料組成物は、水性であってよく、溶剤系であってよい。第2塗料組成物は、水性であってよい。第2塗料組成物に含まれる溶媒およびその調製方法は、第1塗料組成物と同様である。
【0082】
《着色顔料》
第2塗料組成物(第2塗膜)は、着色顔料を含む。着色顔料としては、第1塗料組成物に含まれ得るものと同様のものが挙げられる。着色顔料は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0083】
第2塗膜における着色顔料の含有量、すなわち、第2塗料組成物に含まれる樹脂の固形分と着色顔料との合計質量に対する、着色顔料の質量割合(PWC2c)は、例えば、0.05質量%以上35質量%以下である。PWC2cは、1質量%以上であってよく、2質量%以上であってよい。PWC2cは、20質量%以下であってよく、10質量%以下であってよい。
【0084】
《他の顔料》
第2塗膜は、さらに、着色顔料以外の顔料を含んでいてよい。他の顔料としては、例えば、光輝性顔料、体質顔料、防錆顔料が挙げられる。特に、第2塗膜は、光輝性顔料を含んでいてよい。第1塗膜および第2塗膜に含まれる光輝性顔料は、同じであってよく、異なっていてよい。
【0085】
第2塗膜における光輝性顔料の含有量、すなわち、第2塗料組成物に含まれる樹脂の固形分と光輝性顔料との合計質量に対する、光輝性顔料の質量割合(PWC2g)は、例えば、0.05質量%以上30質量%以下である。PWC2gは、0.1質量%以上であってよく、0.2質量%以上であってよい。PWC2gは、10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよい。
【0086】
《塗膜形成樹脂》
塗膜形成樹脂としては、第1塗料組成物に含まれるものと同様のものが挙げられる。第1,第2塗料組成物に含まれる塗膜形成樹脂は、同種であってよく、異種であってよい。その他、第2塗料組成物は、第1塗料組成物と同様の成分を含んでいてよい。
【0087】
(クリヤー塗膜)
クリヤー塗膜は、艶消し剤を含む。これにより、複層塗膜の光輝感がソフトになる。クリヤー塗膜は、典型的には、艶消し剤とクリヤー塗料とを含むクリヤー塗料組成物の硬化物である。
【0088】
クリヤー塗膜の厚さは、例えば、10μm以上80μm以下であってよい。クリヤー塗膜の厚さは、20μm以上であってよい。クリヤー塗膜の厚さは、50μm以下であってよい。
【0089】
(クリヤー塗料組成物)
クリヤー塗料組成物は、艶消し剤とクリヤー塗料とを含む。
クリヤー塗料組成物は、溶剤系であってよく、水性であってよく、粉体型であってよい。クリヤー塗料組成物は、溶剤系であってよい。
【0090】
《艶消し剤》
艶消し剤は、クリヤー塗膜の表面に微小な凹凸を形成して、光の拡散を引き起こす。これにより、特に第1塗膜に含まれている鱗片状光輝性顔料の粒子感が小さくなって、光輝感がソフトになる。
【0091】
艶消し剤は、例えば、無機物あるいは有機物の微粒子である。艶消し剤としては、塗料において従来公知のものが使用される。
【0092】
無機微粒子としては、例えば、シリカ粒子、酸化アルミニウム粒子、二酸化チタン粒子、二酸化ジルコニウム粒子、ジルコン粒子、酸化スズ粒子および酸化マグネシウム粒子が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。中でも、艶消し能力および貯蔵安定性等の観点から、シリカ粒子であってよい。シリカ粒子の形状は特に限定されず、球状、中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状または不定形状であってよい。
【0093】
シリカ粒子の市販品としては、例えば、富士シリシア社製のサイリシアシリーズ(サイリシア350、サイリシア430、サイリシア435、サイリシア436、サイリシア450等)、サイロホービックシリーズ(サイロホービック100、サイロホービック200、サイロホービック702、サイロホービック100、4004等)、サイロスフェアシリーズ(サイロスフェア1504、サイロスフェア1510等)、グレースジャパン社製のSYLOIDシリーズ(サイロイドW300、サイロイドW500等)、エボニックデグサジャパン社製のACEMATTシリーズ(ACEMATT HK460、ACEMATT K400、ACEMATT OK412、ACEMATT OK520、ACEMATT TS100、ACEMATT 3200、ACEMATT 3300、ACEMATT 3600等)、日本シリカ工業社製のNIPGELシリーズ(NIPGEL AZ-200等)、NIPSILシリーズ(NIPSIL E-200A、NIPSIL SS-50B、NIPSIL SS-178B等)、水澤化学社製のミズカシルシリーズ(ミズカシルP-73、P-526等)、塩野義製薬社製のカープレックスシリーズ(カープレックス CS-8等)、日本アエロジル社製のAEROSILシリーズ(AEROSIL 200、AEROSIL R805、AEROSIL R972等)、昭和化学工業社製のラヂオライトシリーズ(ラヂオライト100、ラヂオライト200、ラヂオライト500、ラヂオライト500R、ラヂオライト500RS等)が挙げられる。
【0094】
無機微粒子は、有機化合物および/または無機化合物で表面処理されていてもよい。なかでも、貯蔵安定性等の観点から、無機微粒子は、有機化合物で表面処理されていてよい。有機化合物での処理としては、例えば、ポリエチレンワックス処理、シラン化合物処理が挙げられる。なかでも、ポリエチレンワックス処理であってよい。
【0095】
有機物の微粒子(以下、樹脂ビーズと称す場合がある。)としては、例えば、PMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂ビーズ、MMA-EGDM(エチレングリコールジメタクリレート)共重合樹脂ビーズ、ナイロン樹脂ビーズ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂ビーズが挙げられる。
【0096】
樹脂ビーズの市販品としては、例えば、積水化成品工業社製「テクポリマーシリーズ(商品名)」、住友スリーエム社製「ダイニオンシリーズ(商品名)」が挙げられる。
【0097】
艶消し剤の平均粒子径は、艶消し能力および貯蔵安定性等の観点から、1μm以上であってよく、2μm以上であってよく、3μm以上であってよい。艶消し剤の平均粒子径は、同様の観点から、10μm以下であってよく、9μm以下であってよく、8μm以下であってよい。
【0098】
艶消し剤の平均粒子径は、レーザ回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いた体積基準の粒度分布における、50%平均粒子径(D50)である。D50は、艶消し剤をアセトンおよびイソプロピルアルコールの混合溶剤に添加して1分間超音波によって分散させて、所定の透過率範囲となる濃度に調整した後、測定される。
【0099】
艶消し剤の吸油量は、艶消し能力等の観点から、100mL/100g以上であってよい。艶消し剤の吸油量は、同様の観点から、400mL/100g以下であってよく、380mL/100g以下であってよく、360mL/100g以下であってよい。吸油量は、JIS K 5101-13-2:2004に準じて測定される。
【0100】
艶消し剤の含有割合(PWC)は、クリヤー塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、0.5質量部以上6質量部以下であってよい。PWCが0.5質量部以上であることにより、光輝感がソフトになり易い。PWCが6質量部以下であることにより、白濁り感が抑制され、十分な彩度および色の深み感が表現され易い。PWCは、0.8質量部以上であってよく、1.0質量部以上であってよく、1.2質量部以上であってよい。PWCは、5.5質量部以下であってよく、5.0質量部以下であってよい。
【0101】
《クリヤー塗料》
クリヤー塗料は、例えば、ポリエポキシドとポリカルボン酸とを含有する酸エポキシ硬化型であってよく、水酸基含有樹脂とポリイソシアネート硬化剤とを含むウレタン硬化型であってよい。ウレタン硬化型クリヤー塗料は、2液型であってよい。
【0102】
酸エポキシ硬化型のクリヤー塗料は、例えば、酸無水物基含有アクリル樹脂(a)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)および水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)を含む。貯蔵安定性の観点から、酸無水物基含有アクリル樹脂(a)の酸無水物基は、低分子量のアルコールなどによってハーフエステル化されていてよい。カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)は、水酸基をさらに有していてよい。
【0103】
上記の樹脂(a)~(c)は、例えば、アクリル樹脂(a)およびポリエステル樹脂(b)に含有されるカルボキシル基と、アクリル樹脂(c)に含有されるエポキシ基とのモル比が、1/1.4~1/0.6(好ましくは1/1.2~1/0.8)になるように、かつ、アクリル樹脂(a)に含有される酸無水物基に由来するカルボキシル基と、ポリエステル樹脂(b)およびアクリル樹脂(c)に含有される水酸基とのモル比が、1/2.0~1/0.5(好ましくは1/1.5~1/0.7)となるように、配合される。
【0104】
ウレタン硬化型クリヤー塗料は、例えば、水酸基含有樹脂とポリイソシアネート硬化剤とを含む。ポリイソシアネート硬化剤としては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,2-シクロヘキサンジイソシアネート等の脂肪族環式イソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネートメチル等の脂環族イソシアネート;これらのビュレット体、ヌレート体等の多量体および混合物が挙げられる。
【0105】
水酸基含有樹脂の水酸基価は、例えば、20mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。上記水酸基価は、30mgKOH/g以上であってよい。上記水酸基価は、180mgKOH/g以下であってよい。水酸基含有樹脂の重量平均分子量は、例えば、1000以上20000以下である。上記重量平均分子量は、2000以上であってよい。上記重量平均分子量は、15000以下であってよい。水酸基含有樹脂の酸価は、例えば、2mgKOH/g以上30mgKOH/g以下である。上記酸価は、3mgKOH/g以上であってよい。上記酸価は、25mgKOH/g以下であってよい。
【0106】
水酸基含有樹脂とポリイソシアネート硬化剤とは、例えば、イソシアネート基(NCO)と水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が0.5以上1.7以下となるように、配合される。上記当量比は、0.7以上であってよい。上記当量比は、1.5以下であってよい。
【0107】
その他、アクリルメラミン硬化型のクリヤー塗料を用いてもよい。
【0108】
[塗装物品]
本開示に係る塗装物品は、被塗物と、被塗物上に設けられた上記の複層塗膜とを備える。塗装物品において、クリヤー塗膜が外側に配置される。上記の複層塗膜を備える塗装物品は、ハイライト領域において彩度が高く、かつ、ソフトな光輝感が感じられるという、今までにない意匠を有する。
【0109】
(被塗物)
被塗物の材質としては、例えば、金属、プラスチック、発泡体が挙げられる。なかでも、金属(特に、鋳物)であってよく、電着塗装可能な金属であってよい。このような金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛などおよびこれらの金属を含む合金が挙げられる。
【0110】
被塗物の形状は特に限定されず、平板状であってよく、立体的に成形されていてよい。被塗物として、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体およびその部品が挙げられる。
【0111】
金属製の被塗物は、リン酸系化成処理剤、ジルコニウム系化成処理剤などを用いた化成処理、および、電着塗装が施されていてよい。電着塗料組成物は、カチオン型であってよく、アニオン型であってよい。カチオン型の電着塗料組成物は、防食性に優れた塗膜を形成することができる。
【0112】
金属製の被塗物は、電着塗膜と、その上に設けられた中塗り塗膜とを備えていてよい。中塗り塗膜は、通常、複層塗膜の付着性および耐久性の向上を目的として設けられる。中塗り用の塗料組成物は、例えば、塗膜形成樹脂、硬化剤、着色顔料および体質顔料を含み得る。塗膜形成樹脂および硬化剤としては、第1塗料組成物に含まれるものと同様のものが挙げられる。
【0113】
[塗装物品の製造方法]
本開示に係る塗装物品の製造方法は、被塗物に、第1塗料組成物、第2塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を順次塗装して、複層塗膜を形成することを含む。
【0114】
一態様において、塗装物品は、被塗物に第1塗料組成物および第2塗料組成物を順次塗装した後、硬化させ、その後、クリヤー塗料組成物を塗装および硬化することにより製造される。第1塗料組成物の塗装後、第2塗料組成物の塗装前に、プレヒートを行ってもよい。
【0115】
他の一態様において、塗装物品は、被塗物に、第1塗料組成物、第2塗料組成物およびクリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで順次塗装した後、これら塗料組成物を一度に硬化することにより製造される。第1塗料組成物の塗装後、第2塗料組成物の塗装前に、および、第2塗料組成物の塗装後、クリヤー塗料組成物の塗装前に、プレヒートを行ってもよい。
【0116】
塗装方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電スプレー塗装、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装(好ましくは2ステージ塗装)、エアー静電スプレー塗装と回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装が挙げられる。
【0117】
各塗料組成物の硬化は、例えば、加熱温度80℃~180℃(好ましくは100℃~160℃)、加熱時間5分~60分(好ましくは10分~30分)の条件で行われる。
【実施例0118】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0119】
数平均分子量の測定は、GPC装置として商品名「HLC8220GPC」(東ソー(株)製)、カラムとして商品名「Shodex F-606M」、「Shodex KF-603」(いずれも昭和電工(株)製)の4本を用いて、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:0.6cc/分、検出器:RIの条件で行った。
【0120】
リン酸基価は、リン酸基含有ポリマーの調製に用いたリン酸エステルなどのリン酸基含有成分の配合量に基づき算出された、中和に要する水酸化カリウム(KOH)のmg数である。酸価および水酸基価は、JISの規定に基づいて、調製に用いられるモノマー組成から算出した。
【0121】
[製造例1]アクリル樹脂エマルションの製造
反応容器に脱イオン水633部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。別途、スチレン(ST)75.65部、メチルメタクリレート(MMA)178.96部、n-ブチルアクリレート(BA)75.94部、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)64.45部、およびヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)105.0部を混合して、1段目のモノマー混合物を調製した。次いで、このモノマー混合物と、アクアロンHS-10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)25.0部と、アデカリアソープNE-20(α-[1-[(アリルオキシ)メチル]-2-(ノニルフェノキシ)エチル]-ω-ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製)25.0部と、脱イオン水400部とを混合して、モノマー乳化物を調製した。別途、過硫酸アンモニウム1.2部、および脱イオン水500部からなる開始剤溶液を調製した。上記の反応容器に、モノマー乳化物と開始剤溶液とを、1.5時間かけて並行して滴下した。滴下終了後、1時間、同じ温度で熟成を行った。
【0122】
さらに、別途、スチレン(ST)53.65部、メチルメタクリレート(MMA)178.96部、n-ブチルアクリレート(BA)75.94部、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)64.45部、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)105.0部、およびアクリル酸22部を混合して、2段目のモノマー混合物を調製した。次いで、このモノマー混合物と、アクアロンHS-10 10部と、脱イオン水250部とを混合して、モノマーの乳化物を調製した。別途、過硫酸アンモニウム3.0部、および脱イオン水500部からなる開始剤溶液を調製した。上記の反応容器に、モノマー乳化物と開始剤溶液とを、1.5時間かけて並行して滴下した。滴下終了後、2時間、同じ温度で熟成を行った。
【0123】
次いで、反応物を40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した。最後に、この反応物に、脱イオン水100部およびジメチルアミノエタノール1.6部を加えて、pH6.5に調整した。このようにして、平均粒子径150nm、固形分濃度35%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価100mgKOH/gのアクリル樹脂エマルションを得た。
【0124】
[製造例2]リン酸基含有ポリマーの製造
攪拌機、温度調整器、冷却管を備えた1リットルの反応容器に、エトキシプロパノール40部を仕込んだ。別途、エトキシプロパノール20部に、ホスマーPP(ユニケミカル社製アシッドホスホオキシヘキサ(オキシプロピレン)モノメタクリレート)20部を溶解して、溶液を調製した。この溶液40部、スチレン4部、n-ブチルアクリレート35.96部、エチルヘキシルメタアクリレート18.45部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート13.92部、メタクリル酸7.67部、およびアゾビスイソブチロニトリル1.7部を混合して、モノマー溶液を調製した。上記の反応容器に、モノマー溶液121.7部を120℃で3時間かけて滴下した。さらに1時間攪拌して、リン酸基含有ポリマーを得た。このようにして得られたリン酸基含有ポリマーは、酸価105mgKOH/g、リン酸基価55mgKOH/g、水酸基価60mgKOH/g、数平均分子量6,000、固形分濃度が63%であった。
【0125】
[製造例3]水溶性アクリル樹脂の製造
反応容器にトリプロピレングリコールメチルエーテル23.89部およびプロピレングリコールメチルエーテル16.11部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸メチル13.1部、アクリル酸エチル68.4部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル11.6部およびメタクリル酸6.9部を含むモノマー混合物を作成し、そのモノマー混合物100部、トリプロピレングリコールメチルエーテル10.0部およびターシャルブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液を、3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間、同じ温度で熟成を行った。
【0126】
さらに、トリプロピレングリコールメチルエーテル5.0部およびターシャルブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を、0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間、同じ温度で熟成を行った。
【0127】
脱溶剤装置により、減圧下(70torr)110℃で溶剤を16.1部留去した後、脱イオン水204部およびジメチルアミノエタノール7.1部を加えて水溶性アクリル樹脂溶液を得た。得られた水溶性アクリル樹脂溶液の固形分濃度は30%であり、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/g、粘度は140ポイズ(E型粘度計1rpm/25℃)であった。
【0128】
[実施例1]
(1)第1塗料組成物の調製
(1-1)着色顔料分散体の調製
製造例3の水溶性アクリル樹脂溶液38.9部、着色顔料(ペリレンレッド、商品名:PALIOGEN RED L-3875、BASF社製)11.7部、顔料分散剤(商品名:DISPEX ULTRA PA 4550AN)14.0部、イオン交換水34.9部、消泡剤(商品名:BYK-011)0.5部を、撹拌機で混合した。続いて、体積充填率70%で0.05mmのジルコニアビーズを充填した分散機を用いて、この混合物を分散して、着色顔料分散体を得た。
【0129】
(1-2)第1塗料組成物の調製
製造例1のアクリル樹脂エマルション122.1部、ジメチルアミノエタノール2.0部、メラミン樹脂(商品名:サイメル370N、混合アルキル化型メラミン樹脂、Allnex社製、固形分90%)28.4部、上記の着色顔料分散体109.3部、アルミペースト(商品名:WL-Z440、粉砕型鱗片状アルミニウム顔料、平均粒子径14μm、東洋アルミ社製、有効成分66%)を樹脂固形分100部に対して18.9部、製造例2のリン酸基含有ポリマー5部、ラウリルアシッドフォスフェート0.4部、ブチルセロソルブ50部、界面活性剤(商品名:ノイゲンEA-207D、第一工業製薬社製、数平均分子量4200、固形分55%)5.5部(固形分換算で3部)、リノール酸(キシダ化学社製)3部を、均一分散した。この分散液に、pHが8.1となるようジメチルアミノエタノールを添加し、脱イオン水で希釈して、樹脂固形分濃度33%の水性の第1塗料組成物を得た。
【0130】
(2)第2塗料組成物の調製
(2-1)着色顔料分散体の調製
製造例3の水溶性アクリル樹脂溶液38.9部、着色顔料(ペリレンレッド、商品名:PALIOGEN RED L-3875、BASF社製)11.7部、顔料分散剤(商品名:DISPEX ULTRA PA 4550AN)14.0部、イオン交換水34.9部、消泡剤(商品名:BYK-011)0.5部を、撹拌機で混合した。続いて、体積充填率70%で0.05mmのジルコニアビーズを充填した分散機を用いて、この混合物を分散して、着色顔料分散体を得た。
【0131】
(2-2)第2塗料組成物の調製
製造例1のアクリル樹脂エマルション143.3部、ジメチルアミノエタノール1.4部、メラミン樹脂(商品名:サイメル370N)28.4部、上記の着色顔料分散体34.8部、ブチルセロソルブ50部、界面活性剤(商品名:ノイゲンEA-207D)5.5部(固形分換算で3部)、リノール酸(キシダ化学社製)3部を、均一に分散させた。この分散液に、pHが8.1となるようジメチルアミノエタノールを添加し、脱イオン水で希釈して、樹脂固形分濃度15%の水性の第2塗料組成物を調製した。
【0132】
(3)クリヤー塗料組成物の調製
酸エポキシ硬化型クリヤー塗料(商品名:マックフロー-O-1810クリヤー、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製)の樹脂固形分100部に対して、艶消し剤(シリカ、ポリエチレンワックス処理シリカ、商品名:ACEMATT OK520、エボニックデグサジャパン社製、D50:6.5μm、吸油量300mL/100g)1.6部を加えて撹拌機で混合し、クリヤー塗料組成物を調製した。
【0133】
(4)複層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理した厚さ0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料組成物である「パワートップU-50)」(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた。得られた塗板に、中塗り塗料組成物「OP-30P ミドルグレー」(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、ポリエステル・メラミン系塗料、25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に予め希釈)を、アネスト岩田製エアスプレーガンW-101-132Gを用いて乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、140℃で30分間加熱した。このようにして、電着塗膜と中塗り塗膜とを有する被塗物を得た。
【0134】
被塗物に、第1塗料組成物を、室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚10μmになるようにエアスプレー塗装した。4分間のセッティングを行った後、80℃で5分間のプレヒートを行った。続いて、第2塗料組成物を、室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚10μmになるように、ウェットオンウェットでエアスプレー塗装した。4分間のセッティングを行った後、80℃で5分間のプレヒートを行った。塗装板を室温まで放冷し、クリヤー塗料組成物を、乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、7分間セッティングした。最後に、この塗装板を乾燥機で140℃、30分間加熱して、複層塗膜を有する塗装物品を得た。
【0135】
[実施例2]
艶消し剤であるシリカの量を3.2部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、クリヤー塗料組成物を調製した。このクリヤー塗料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜および塗装物品を得た。
【0136】
[実施例3]
艶消し剤であるシリカの量を4.8部に変更したこと以外は、実施例1と同様にクリヤー塗料組成物を調製した。このクリヤー塗料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜および塗装物品を得た。
【0137】
[実施例4]
第2塗料組成物の調製において、さらに着色パール顔料(Xirallic NXT M260-30 SW Leonis Gold:MERCK社製)0.4部を混合したこと以外は、実施例1と同様にして、第2塗料組成物を調製した。この第2塗料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜および塗装物品を得た。
【0138】
[実施例5]
第1塗料組成物の調製において、着色顔料分散体を混合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、第1塗料組成物を調製した。この第1塗料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜および塗装物品を得た。
【0139】
[実施例6]
クリヤー塗料組成物として、ウレタン硬化型クリヤー塗料(商品名:PUエクセルO-2100、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、2液型)の樹脂固形分100部に対して、艶消し剤(商品名:ACEMATT OK520)3.2部を混合したものを調製した。このクリヤー塗料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜および塗装物品を得た。
【0140】
[比較例1]
艶消し剤を添加せず、クリヤー塗料組成物としてマックフロー-O-1810クリヤーをそのまま用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜および塗装物品を得た。
【0141】
[比較例2]
艶消し剤であるシリカの量を6.4部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、クリヤー塗料組成物を調製した。このクリヤー塗料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜および塗装物品を得た。
【0142】
[比較例3]
着色顔料分散体として、着色顔料(商品名:PALIOGEN RED L-3875)7.0部、顔料分散剤(商品名:DISPEX ULTRA PA 4550AN)8.4部、イオン交換水20.9部、消泡剤(商品名:BYK-011)0.3部を混合したものを用いて、実施例1と同様にして、第2塗料組成物を調製した。この第2塗料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜および塗装物品を得た。
【0143】
[比較例4]
着色顔料分散体として、着色顔料(商品名:PALIOGEN RED L-3875)37.4部、顔料分散剤(商品名:DISPEX ULTRA PA 4550AN)44.8部、イオン交換水111.7部、消泡剤(商品名:BYK-011)1.6部を混合したものを用いて、実施例1と同様にして、第2塗料組成物を調製した。この第2塗料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜および塗装物品を得た。
【0144】
[比較例5]
第1塗料組成物を塗装しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜および塗装物品を得た。
【0145】
[比較例6]
(1)塗料組成物の調製
(1-1)着色顔料分散体の調製
製造例3の水溶性アクリル樹脂溶液38.9部、着色顔料(商品名:PALIOGEN RED L-3875)21.1部、顔料分散剤(商品名:DISPEX ULTRA PA 4550AN)25.2部、イオン交換水62.8部、消泡剤(商品名:BYK-011)0.9部を、撹拌機で混合した。続いて、体積充填率70%で0.05mmのジルコニアビーズを充填した分散機を用いて、この混合物を分散して、着色顔料分散体を得た。
【0146】
(1-2)塗料組成物の調製
製造例1のアクリル樹脂エマルション143.3部、ジメチルアミノエタノール1.4部、メラミン樹脂(商品名:サイメル370N)28.4部、パール顔料(商品名:XIRALLIC F60-51WNT RADIANT RED、MERCK社製)1.6部、上記の着色顔料分散体34.8部、着色アルミニウム顔料(商品名:F120-58CWT wahiba orange、MERCK社製)を樹脂固形分100部に対して3.9部、製造例2のリン酸基含有ポリマー5部、ラウリルアシッドフォスフェート0.4部、ブチルセロソルブ50部、界面活性剤(商品名:ノイゲンEA-207D)5.5部(固形分換算で3部)、リノール酸(キシダ化学社製)3部を、均一分散した。この分散液に、pHが8.1となるようジメチルアミノエタノールを添加し、脱イオン水で希釈して、樹脂固形分濃度33%の塗料組成物を得た。
【0147】
(2)複層塗膜の形成
実施例1と同様にして得た被塗物に、上記の塗料組成物を、室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚4μmになるようにエアスプレー塗装した。4分間のセッティングを行った後、80℃で5分間のプレヒートを行った。続いて、塗装板を室温まで放冷し、クリヤー塗料組成物としてマックフロー-O-1810クリヤーを、乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、7分間セッティングした。最後に、塗装板を乾燥機で140℃、30分間加熱して、複層塗膜および塗装物品を得た。
【0148】
[評価]
実施例および比較例で得られた複層塗膜、単独の第1塗膜または単独の第2塗膜を用いて、下記評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0149】
(単独の第1塗膜の作製)
実施例1と同様にして得た被塗物に、上記の第1塗料組成物を乾燥塗膜が10μmとなるようにスプレー塗装し、140℃で20分間加熱硬化させた。これにより、被塗物に塗装された第1塗料組成物の硬化塗膜(単独の第1塗膜)を得た。
【0150】
(単独の第2塗膜の作製)
上記の第2塗料組成物を、ポリプロピレン板上に乾燥膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装し、140℃で20分間加熱硬化させた。次いで、塗膜をポリプロピレン板より剥離して、フィルム状の第2塗膜(単独の第2塗膜)を得た。
【0151】
(1)分光反射率
分光反射率を、分光測色計(BYK Gardner社製、BYK-mac i)を用いて、400~700nmの区間を、波長スキャンモード、サンプリング間隔10nmの条件で測定した。
【0152】
(2)彩度
分光測色計(BYK Gardner社製、BYK-mac i)を用いて測定した、
【0153】
(3)光線透過率
光線透過率を、分光光度計(日立社製、商品名:U-4100)を用いて、400~700nmの区間を、波長スキャンモード、スキャンスピード300nm/分、サンプリング間隔0.5nmの条件で測定した。平均光線透過率は、10nmごとの光線透過率を平均化して得た。
【0154】
(4)60度鏡面光沢度
光沢計(BYK Gardner社製、AG-4446)を用いて、JIS Z 8741 鏡面光沢度-測定方法に準拠して、60度鏡面光沢度を測定した。
【0155】
(5)色の鮮やかさ
複層塗膜を入射角45°および受光角15°付近からから眺め、下記基準に基づき評価した。
【0156】
評価基準
A:鮮やかで深みのある赤色が感じられる
B:やや鮮やかさに劣るが、深みのある赤色が感じられる
C:くすんだ赤色が感じられる
【0157】
(6)光輝感
複層塗膜を入射角45°および受光角15°付近からから眺め、下記基準に基づき評価した。
【0158】
評価基準
A:ベールがかかったようなソフトな光輝感が感じられる
B:Aよりもやや劣るが、ソフトな光輝感が感じられる
C:白濁り感が感じられるか、あるいは強い光輝感が感じられる
【0159】
【表1】
【0160】
本開示は以下の態様を含む。
[1]
第1塗膜、第2塗膜およびクリヤー塗膜をこの順に備える複層塗膜であって、
前記第1塗膜は、鱗片状光輝性顔料を含み、
前記第2塗膜は、着色顔料を含み、
前記クリヤー塗膜は、艶消し剤を含み、
前記複層塗膜の表面に対して45度の角度から入射した入射光を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光の分光反射率に基づくLh表色系における彩度C 15が、83以上であり、
前記複層塗膜の60度鏡面光沢度が、55以上90以下である、複層塗膜。
[2]
前記第2塗膜の波長400~700nmにおける平均光線透過率は、25%以上45%以下である、上記[1]の複層塗膜。
[3]
前記クリヤー塗膜において、前記艶消し剤の含有割合は、樹脂固形分100質量部に対して0.5質量部以上6質量部以下である、上記[1]または[2]の複層塗膜。
[4]
前記第1塗膜の表面に対して45度の角度から入射した入射光を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光の分光反射率は、
波長400~580nmにおいて25%以上215%以下であり、かつ、
波長650~700nmにおいて95%以上220%以下である、上記[1]~[3]いずれかの複層塗膜。
[5]
前記第1塗膜は、さらに着色顔料を含む、上記[1]~[4]いずれかの複層塗膜。
[6]
前記第2塗膜の光線透過率は、
波長400~580nmにおいて2%以上40%以下であり、かつ、
波長650~700nmにおいて85%以上100%以下である、上記[1]~[5]いずれかの複層塗膜。
[7]
被塗物と、
前記被塗物上に設けられた、上記[1]~[6]いずれかの複層塗膜と、を有する塗装物品。
[8]
被塗物に、第1塗料組成物、第2塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を順次塗装して、複層塗膜を形成することを備え、
前記第1塗料組成物は、鱗片状光輝性顔料を含み、
前記第2塗料組成物は、着色顔料を含み、
前記クリヤー塗膜は、艶消し剤を含み、
前記複層塗膜の表面に対して45度の角度から入射した入射光を、正反射光に対して15度の角度で受けた反射光の分光反射率に基づくLh表色系における彩度C 15が、83以上であり、
前記複層塗膜の60度鏡面光沢度が、55以上90以下である、塗装物品の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本開示の複層塗膜は、ハイライト領域において彩度が高く、かつ、ソフトな光輝感が感じられるため、種々の被塗物に新しい意匠を付与することができる。