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特開2024-154083SARS-CoV-2特異的細胞傷害性Tリンパ球のT細胞受容体又はその機能的断片
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154083
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2特異的細胞傷害性Tリンパ球のT細胞受容体又はその機能的断片
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/725 20060101AFI20241023BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20241023BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241023BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20241023BHJP
【FI】
C07K14/725 ZNA
A61P31/14
A61K35/17
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067701
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 美樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 翠
(72)【発明者】
【氏名】安藤 純
(72)【発明者】
【氏名】中内 啓光
【テーマコード(参考)】
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZB33
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA42
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】SARS-CoV-2特異的CTLのTCRをクローニングし、優れた殺細胞効果を有するTCR又はその機能的断片を提供すること。
【解決手段】特定のアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖CDR3領域、特定のアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖CDR3領域、及び特定のアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域を有する、HLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖CDR3領域、配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖CDR3領域、及び配列番号13で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域を有する、HLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
【請求項2】
さらに、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖V領域、配列番号7
で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖V領域、及び配列番号12で示されるアミ
ノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域を有する、請求項1記載のHLA-A02拘束性iPS
C由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
【請求項3】
さらに、配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖L領域、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖J領域、配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖L領域、配列番号9で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖J領域、配列番号11で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖L領域、及び配列番号14で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域を有する、請求項1記載のHLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
【請求項4】
配列番号18で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖CDR3領域、及び配列番号23で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域を有する、HLA-A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
【請求項5】
さらに、配列番号17で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖V領域、及び配列番号
22で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域を有する、請求項4記載のHLA-
A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
【請求項6】
さらに、配列番号16で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖L領域、配列番号19で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖J領域、配列番号21で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖L領域、及び配列番号24で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域を有する、請求項4記載のHLA-A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のTCR又はその機能的断片を有するiPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLを含有する、COVID-19治療薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2特異的細胞傷害性Tリンパ球のT細胞受容体、その機能的断片、及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナワクチンは、Coronavirus disease 2019(COVID-19)の原因であるsevere acute respiratory syndrome coronavirus-2(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質のmRNAを脂質の膜に包んだ製剤であり、高い発症予防効果が既に証明され、重症化や死亡者を減少させる効果がある。また、COVID-19の治療には、RNAウイルスの抗ウイルス薬RemdesivirやRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤Favipiravirなどが使用され、モノクローナル抗体カクテル薬(casirivimabとimdevimab)などが承認されている。
しかし、B細胞性リンパ腫患者では、抗CD20モノクローナル抗体と抗がん剤の併用療法により細胞性免疫と液性免疫の両方が低下し、ワクチン接種後も抗体が産生できず、感染した場合は中和抗体が産生されず、重症化や死亡率が極めて高いことが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Impact of Coronavirus (COVID-19) Pandemic on Maintenance Therapy for Follicular Lymphoma (FL) and Mantle Cell Lymphoma (MCL). Blood (2022) 140 (Supplement 1): 9350-9352.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、SARS-CoV-2特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)のT細胞受容体(TCR)をクローニングし、優れた殺細胞効果を有するTCR又はその機能的断片を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、SARS-CoV-2ワクチン投与後のHLA-A24とHLA-A02健常人ドナー末梢血から末梢血単核球をペプチド刺激して培養することで、末梢血由来SARS-CoV-2特異的CTLの誘導を行った。このSARS-CoV-2特異的CTLをクローニング後、T-iPSCを樹立した。T-iPSCより再び同じ抗原特異性を保つiPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLを分化誘導した。このiPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLを用い、殺細胞効果をCytotoxic Assay(51Cr release assay)を用いて評価した。
iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLの強力な殺細胞効果を確認後、レパトア解析、TCR遺伝子の全配列の同定を行なった。得られたTCR配列は、既に強い抗原特異的細胞傷害性を確認できているため、遺伝子導入技術を用いてリンパ球に導入すれば、遺伝子改変T細胞療法であるTCR療法に利用できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[10]を提供するものである。
[1]配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖CDR3領域、配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖CDR3領域、及び配列番号13で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域を有する、HLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
[2]さらに、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖V領域、配列番
号7で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖V領域、及び配列番号12で示される
アミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域を有する、[1]記載のHLA-A02拘束性iP
SC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
[3]さらに、配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖L領域、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖J領域、配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖L領域、配列番号9で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖J領域、配列番号11で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖L領域、及び配列番号14で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域を有する、[1]又は[2]記載のHLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
[4]配列番号18で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖CDR3領域、及び配列番号23で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域を有する、HLA-A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
[5]さらに、配列番号17で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖V領域、及び配列
番号22で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域を有する、[4]記載のHLA
-A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
[6]さらに、配列番号16で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖L領域、配列番号19で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖J領域、配列番号21で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖L領域、及び配列番号24で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域を有する、[4]又は[5]記載のHLA-A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片。
[7][1]~[6]のいずれかに記載のTCR又はその機能的断片を有するiPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLを含有する、COVID-19治療薬組成物。
[8][1]~[6]のいずれかに記載のTCR又はその機能的断片を有するSARS-CoV-2特異的CTLの、COVID-19治療薬製造のための使用。
[9]COVID-19を治療するための、[1]~[8]のいずれかに記載のTCR又はその機能的断片を有するSARS-CoV-2特異的CTL。
[10][1]~[6]のいずれかに記載のTCR又はその機能的断片を有するSARS-CoV-2特異的CTLを投与することを特徴とする、COVID-19の治療方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のiPSC由来SARS-CoV-2抗原特異的CTLのTCR又はその機能的断片を有するSARS-CoV-2特異的CTLは、COVID-19治療薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】HLA-A0201拘束性CTLのPBMCペプチド刺激後のテトラマー染色結果、シングルセルクローニング後のテトラマー染色結果、及びiPSC由来SARS-CoV-2抗原特異的CTLのテトラマー染色結果を示す。
図2】HLA-A2401拘束性CTLのPBMCペプチド刺激後のテトラマー染色結果、シングルセルクローニング後のテトラマー染色結果、及びiPSC由来SARS-CoV-2抗原特異的CTLのテトラマー染色結果を示す。
図3】HLA-A0201拘束性iPSC由来SARS-CoV-2抗原特異的CTLと末梢血由来SARS-CoV-2抗原特異的CTLの殺細胞効果の対比を示す。
図4】HLA-A2401拘束性iPSC由来SARS-CoV-2抗原特異的CTLと末梢血由来SARS-CoV-2抗原特異的CTLの殺細胞効果の対比を示す。
図5】HLA-A0201拘束性iPSC由来SARS-CoV-2抗原特異的CTLのTCRのα-1鎖、α-2鎖及びβ鎖のアミノ酸配列を示す。
図6】HLA-A0201拘束性iPSC由来SARS-CoV-2抗原特異的CTLのTCRのα-1鎖、α-2鎖及びβ鎖の塩基配列を示す。
図7】HLA-A2401拘束性iPSC由来SARS-CoV-2抗原特異的CTLのTCRのα鎖及びβ鎖のアミノ酸配列を示す。
図8】HLA-A2401拘束性iPSC由来SARS-CoV-2抗原特異的CTLのTCRのα鎖及びβ鎖の塩基配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
SARS-Cov-2は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである。COVID-19は、2019年11月に中華人民共和国武漢市で初めて発生が確認され、その後、2020年に入ってから世界的流行を引き起こしている。また2020年末以降、スパイクタンパク質の構造変化などを伴う新たな変異株も次々に出現しており、以前の株を置き換えるようにして世界各地で流行を度々引き起こしている。
【0010】
TCRは、T細胞の抗原認識機能を担うものであり、α鎖、β鎖、γ鎖、δ鎖などのタンパク質から構成される。このうち、TCRα鎖タンパク質(TCRα)とTCRβ鎖タンパク質(TCRβ)とのヘテロ二量体、又はγとδ鎖とのヘテロ二量体が、補助分子としてのCD3複合体(γ、δ、ε、ζを含む)、CD4又はCD8などと一緒になってTCRを形成している。
TCRα及びTCRβは、可変領域(V領域+J領域)及び定常領域(C領域)を有している。なお、可変領域中のV領域には相補性決定領域(CDR)が存在する。従って、TCRは、TCRα及びTCRβ中のV領域(CDR領域を含む)、又はV領域及びJ領域のアミノ酸配列によって特徴づけることができる。
【0011】
本発明のTCR又はその機能的断片は、HLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片と、HLA-A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片の2種類存在する。ここで、HLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCRのα鎖は、α-1鎖とα-2鎖の2個の複合体である。
【0012】
本発明の一態様は、HLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片であって、配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖CDR3領域と、配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖CDR3領域と、配列番号13で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域とを有することを特徴とする。
また、本発明の一態様は、HLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片であって、配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖CDR3領域と、配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖CDR3領域と、配列番号13で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域と、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖V領域と、配列番号7
で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖V領域と、配列番号12で示されるアミノ
酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域とを有することを特徴とする。
また、本発明の一態様は、HLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片であって、配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖CDR3領域と、配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖CDR3領域と、配列番号13で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域と、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖V領域と、配列番号7
で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖V領域と、及び配列番号12で示されるア
ミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域と、配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミ
ノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖L領域と、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-1鎖J領域と、配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖L領域と、配列番号9で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα-2鎖J領域と、配列番号11で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖L領域と、配列番号14で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様は、HLA-A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片であって、配列番号18で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖CDR3領域と、配列番号23で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域とを有することを特徴とする。
また、本発明の一態様は、HLA-A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片であって、配列番号18で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖CDR3領域と、配列番号23で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域と、配列番号17で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖V領域と、配
列番号22で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域とを有することを特徴とする

また、本発明の一態様は、HLA-A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片であって、配列番号18で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖CDR3領域と、配列番号23で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域と、配列番号17で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖V領域と、配
列番号22で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域と、配列番号16で示される
アミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖L領域と、配列番号19で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるα鎖J領域と、配列番号21で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖L領域と、及び配列番号24で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域とを有することを特徴とする。
【0014】
ここで、当該アミノ酸配列に1~3個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加してなるアミノ酸配列は、当該アミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよく、当該アミノ酸配列と97%以上の同一性を有するアミノ酸配列であるのがより好ましく、当該アミノ酸配列と99%以上の同一性を有するアミノ酸配列であるのがさらに好ましい。
【0015】
本発明のTCR又はその機能性断片の一態様としては、HLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片であって、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるα-1鎖CDR3領域と、配列番号8で示されるアミノ酸配列からなるα-2鎖CDR3領域と、配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域とを有するのが好ましい。
また、本発明のTCR又はその機能性断片の一態様としては、HLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片であって、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるα-1鎖CDR3領域と、配列番号8で示されるアミノ酸配列からなるα-2鎖CDR3領域と、配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域と、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるα-1鎖V領
域と、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなるα-2鎖V領域と、配列番号12で示
されるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域とを有するのがより好ましい。
また、本発明のTCR又はその機能性断片の一態様としては、HLA-A02拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片であって、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるα-1鎖CDR3領域と、配列番号8で示されるアミノ酸配列からなるα-2鎖CDR3領域と、配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域と、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるα-1鎖V領
域と、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなるα-2鎖V領域と、及び配列番号12
で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域と、配列番号1で示されるアミノ酸配列から
なるα-1鎖L領域と、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるα-1鎖J領域と、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるα-2鎖L領域と、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるα-2鎖J領域と、配列番号11で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖L領域と、配列番号14で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域とを有するのがさらに好ましい。
【0016】
本発明のTCR又はその機能性断片の一態様としては、HLA-A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片であって、配列番号18で示されるアミノ酸配列からなるα鎖CDR3領域と、配列番号23で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域とを有するのが好ましい。
また、本発明のTCR又はその機能性断片の一態様としては、HLA-A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片であって、配列番号18で示されるアミノ酸配列からなるα鎖CDR3領域と、配列番号23で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域と、配列番号17で示されるアミノ酸配列からなるα鎖V領域と、配列番号22で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域とを有する
のがより好ましい。
また、本発明のTCR又はその機能性断片の一態様としては、HLA-A24拘束性iPSC由来SARS-CoV-2特異的CTLのTCR又はその機能的断片であって、配列番号18で示されるアミノ酸配列からなるα鎖CDR3領域と、配列番号23で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖CDR3領域と、配列番号17で示されるアミノ酸配列からなるα鎖V領域と、配列番号22で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖V領域と、配列番
号16で示されるアミノ酸配列からなるα鎖L領域と、配列番号19で示されるアミノ酸配列からなるα鎖J領域と、配列番号21で示されるアミノ酸配列らなるβ鎖L領域と、及び配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるβ鎖J領域とを有するのがさらに好ましい。
【0017】
本発明のTCRの機能的断片としては、前記各アミノ酸配列を有するポリペプチド、これらのポリペプチドの結合体などが挙げられる。
【0018】
本発明のTCRは、例えば、HLA-A24又はHLA-A02のCOVID-19患者又はSARS-CoV-2ワクチン投与後のHLA-A24又はHLA-A02健常人ドナー末梢血から末梢血単核球をペプチド刺激してSARS-CoV-2特異的CTLを誘導後、シングルセルクローニングを行い、SARS-CoV-2特異的CTLクローンを樹立することにより得られる。
末梢血からSARS-CoV-2特異的CTLを誘導するには、健常人であっても、COVID-19感染者であってもよい。
本発明においてT-iPSCに誘導されるT細胞は、SARS-CoV-2特異性を有するT細胞が好ましい。例えば、CD3及びCD8が発現しているT細胞であり、具体的にはCD8陽性細胞であるCTLが挙げられる。また、例えばCD3及びCD4が発現しているT細胞であり、具体的にはCD4陽性細胞であるT細胞が挙げられる。なお、T細胞における抗原特異性は、抗原特異的な、再構成されたTCR遺伝子によりもたらされる。なお、製造効率の観点からは、特にこれに限定されないが、抗原特異的CD8陽性細胞を得るためには、T-iPSCへ誘導されるヒトT細胞としては、抗原特異的CD8陽性T細胞を用いることが好ましい。また、免疫療法を実施する場合、iPSCから分化させるヒトT細胞は、iPSCへ誘導されるヒトT細胞と抗原特異性が同一または実質的に同一であることが好ましい。また、T-iPSCを誘導するT細胞として、抗原特異性のないT細胞も含まれる。具体的にはCART細胞もしくはTCR-T細胞など遺伝子改変T細胞が挙げられる。
【0019】
このようなT細胞は、例えばヒトの組織から公知の手法により単離することができる。ヒトの組織としては、前記T細胞を含む組織、例えば、末梢血、リンパ節、骨髄、胸腺、脾臓、臍帯血、病変部組織が挙げられる。これらの中では、ヒトに対する侵襲性が低く、調製が容易であるという観点から、末梢血が好ましい。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を分離する際には腫瘍組織もしくは末梢血から分離することができる。T細胞を単離するための公知の手法としては、例えば、細胞分離用磁気ビーズなどを用いる磁気セレクション、CD4又はCD8等の細胞表面マーカーに対する抗体と、セルソーターとを用いたフローサイトメトリー、抗CD3抗体、抗CD28抗体を用いる活性化T細胞誘導法などが挙げられる。また、サイトカインの分泌や機能性分子の発現、又はPD-1などのシグナル分子を指標に、所望のT細胞を単離することも出来る。また、グランザイムやパーフォリンなどの分泌又は産生を指標として、CTLを単離することが出来る。さらに、抗原特異性を有するT細胞を含むヒトの組織より単離する場合には、所望の抗原を結合させたMHC(主要組織適合遺伝子複合体)を多量体化させたもの(例えば、「MHCテトラマー」、「プロ5(登録商標)MHC クラスIペンタマー」)を用いて、ヒトの組織より所望の抗原特異性を有するT細胞を精製することができる。
【0020】
本発明において、T細胞をiPSCにするために導入される遺伝子は、(a)Oct3/4遺伝子、(b)c-Myc遺伝子、(c)Sox2遺伝子、(d)Klf4遺伝子、(e)NANOG遺伝子、及び(f)LIN28遺伝子などのうち少なくとも4種類の遺伝子の組み合わせが好ましい。
【0021】
本発明において、T細胞に前記遺伝子群を導入する方法としては特に制限はなく、公知の手法を適宜選択して用いることができる。例えば、前記遺伝子群をコードする核酸の形態にて前記T細胞に導入する場合においては、前記遺伝子群をコードする核酸(例えば、cDNA、RNA)を、T細胞で機能するプロモーターを含む適当な発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを感染、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法にて細胞に導入することができる。
【0022】
このような発現ベクターのうち、前記遺伝子群を含むステルス型RNA発現ベクターを用いるのが、がん化の危険性の低減、導入効率の点から、より好ましい。
ステルス型RNA発現ベクターとは、ベクターが染色体に入ることを回避し、核内ではなく細胞質内で、持続的で安定して遺伝子が発現するように設計されたベクターである。1万3000塩基対以上の大きな遺伝子の導入や、10個の遺伝子の同時導入もでき、細胞に傷害を与えず、導入遺伝子が不要な時には除去が可能で、細胞がベクターを異物として認識できないステルス性を持っている。
このようなステルス型RNA発現ベクターとしては、下記(1)~(8)のRNA配列を含むマイナス一本鎖RNA(A)と、一本鎖RNA結合タンパク質(B)、RNA依存性RNA合成酵素からなり、自然免疫構造を活性化させない複合体が挙げられる。
(1)前記遺伝子群に対するRNA配列、
(2)非コード領域を構成するヒトmRNA由来RNA配列、
(3)前記RNA依存性RNA合成酵素が認識する転写開始シグナル配列、
(4)前記RNA依存性RNA合成酵素が認識する転写終結シグナル配列、
(5)前記RNA依存性RNA合成酵素が認識する複製起点を含むRNA配列、
(6)前記RNA依存性RNA合成酵素をコードするRNA配列、
(7)前記RNA依存性RNA合成酵素の活性を調節するタンパク質をコードするRNA配列、
(8)前記一本鎖RNA結合タンパク質をコードするRNA配列。
【0023】
また、T-iPSCを樹立する際には、前記T細胞は、前記遺伝子群の導入前に、インターロイキン-2(IL-2)もしくはインターロイキン-7(IL-7)及びインターロイキン-15(IL-15)の存在下にて抗CD3抗体及び抗CD28抗体によって刺激して活性化することが好ましく、フィトヘマグルチニン(PHA)、インターロイキン-2(IL-2)、同種抗原発現細胞、抗CD3抗体、及び抗CD28抗体、CD3及びCD28アゴニストからなる群から選択される少なくとも1の物質によって刺激して活性化してもよい。かかる刺激は、例えば、培地中に、PHA、IL-2、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体等を添加して前記T細胞を一定期間培養することによって行うことができる。また、抗CD3抗体及び抗CD28抗体は磁性ビーズ等が結合されているものであってもよく、さらにこれらの抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を表面に結合させた培養ディッシュ上で前記T細胞を一定期間培養することによって刺激を与えてもよい。さらにまた、前記T細胞(例えば、ヒトT細胞)が認識する抗原ペプチドをフィーダー細胞とともに培地中に添加することによって刺激を与えても良い。
【0024】
かかる刺激を前記T細胞に与えるために、培地中に添加するPHAの濃度としては特に制限はないが、1~100μg/mLであることが好ましい。また、培地中に添加するIL-2の濃度としては特に制限はないが、1~200ng/mLであることが好ましい。さらに、培地中に添加する抗CD3抗体及び抗CD28抗体の濃度としては特に制限はないが、前記T細胞の培養量の1~10倍量であることが好ましい。また、かかる刺激を前記T細胞に与えるために、培養ディッシュの表面上に結合させた抗CD3抗体及び抗CD28抗体の濃度としては特に制限はないが、コーティングの際の濃度は抗CD3抗体では0.1~100μg/mL、好ましくは1~100μg/mL、抗CD28抗体では0.
1~10μg/mLであることが好ましい。
【0025】
また、かかる刺激を行うための培養期間は、前記T細胞に対してかかる刺激を与えるのに十分な期間であって、前記4遺伝子の導入に必要な細胞数までT細胞を増殖しうる期間であれば特に制限はないが、通常2~7日間であるが、遺伝子導入効率の観点から、好ましくは3~5日間である。15mLチューブ内でT細胞とベクターを混合することにより感染させる、もしくは遺伝子導入効率を上げるという観点から、レトロネクチンがコートしてある培養ディッシュ上にて培養することが好ましい。
【0026】
前記T細胞を培養し、PHA、IL-2、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体等を添加する培地としては、例えば、前記T細胞の培養に適した公知の培地(より具体的には、他のサイトカイン類、ヒト血清を含む、ロズウェルパーク記念研究所(RPMI)1640培地、AIM VTM medium、NS-A2を用いることができる。培地には、PHA、IL-2、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体以外にも、培養に必要なアミノ酸(例えば、L-グルタミン)、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン)が添加してあっても良い。また、IL-2のかわりに培地にIL-7及びIL-15を添加することも好ましい。IL-7及びIL-15の添加濃度としては特に制限はないが、それぞれ1~100ng/mLであることが好ましい。
【0027】
また、前記T細胞に前記4遺伝子を導入する際、又はその後の条件としては特に制限はないが、前記4遺伝子を導入した前記T細胞は、フィーダーフリー条件下で培養するのが好ましい。例えば、ラミニン511E8断片であるiMatrix-511溶液もしくはビトロネクチンでコーティングされたウェルなどが挙げられる。フィーダー細胞条件下での培養でも樹立可能であり、フィーダー細胞としては例えば、放射線の照射や抗生物質処理により細胞分裂を停止させたマウス胎児繊維芽細胞(MEF)、STO細胞、SNL細胞が挙げられる。
【0028】
さらに、前記T細胞からT-iPSCに誘導する過程において、翌日からiPSCの培地を添加しておくことが好ましい。その後は1日おきに半量ずつ培地交換を行い、徐々にT細胞培地からiPS培地に置換するのが好ましい。
【0029】
また、前記T細胞からiPSCへの移行に合わせて、前記T細胞の培養に適した公知の培地から、iPSCの培養に適した培地に徐々に置換していきながら培養することが好ましい。かかるiPSCの培養に適した培地としては、公知の培地を適宜選択して用いることができ、例えば、iMatrixコーティングした場合にはStemFit AK03Nもしくはビトロネクチンでコーティングした場合にはEssential 8 Medium、MEF細胞などのフィーダー細胞上ではノックアウト血清代替物、L-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール、及びb-FGF等を含有する、ダルベッコ変法イーグル培地/F12培地(ヒトiPSC培地)が望ましい。
【0030】
このようにしてT-iPSCの選択は、公知の手法を適宜選択することによって行うことができる。かかる公知の手法としては、例えば、ES細胞/iPSC様コロニーの形態を顕微鏡下にて観察して選択する方法が挙げられる。一方でシングルセルであるCTLクローンから樹立したT-iPSの場合、性質が似ていることが多いため、T-iPSCの各コロニーを選択せず、樹立できたコロニーを全てそのまま継代する方法もある。
【0031】
このようにして選択された細胞がT-iPSCであるということの確認は、例えば、選択された細胞における未分化細胞特異的マーカー(ALP、SSEA-4、Tra-1-60、及びTra-1-81等)の発現を免疫染色やRT-PCR等によって検出する方法や、選択された細胞をマウスに移植して、そのテラトーマ形成を観察する方法により行うことができる。また、このようにして選択された細胞が前記T細胞由来であることの確認は、TCR遺伝子再構成の状態をゲノムPCRによって検出することにより行うことができる。
【0032】
これらの細胞を選択して回収する時期は、コロニーの生育状態を観察しながら、回収するのが好ましい。概ね、前記4遺伝子を含む遺伝子群を前記T細胞に導入してから10~40日、好ましくは14日~28日である。培養環境としては、上記にて特に断りのない限り、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。
【0033】
次に、樹立したT-iPSCからSARS-CoV-2特異的CTL細胞を再分化誘導する。
この再分化誘導方法としては、T-iPSCを、CD8+シングルポジティブT細胞に分化させる方法が好ましく、T-iPSCを、CD4/CD8ダブルネガティブT細胞に分化させ、次いで当該CD4/CD8ダブルネガティブT細胞をCD8+シングルポジティブT細胞に分化させる方法がより好ましい。
更には、特許第6164746号公報記載のように、T-iPSCを、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞に分化させ、TCRを刺激する物質を添加してCD4/CD8ダブルネガティブ細胞に刺激を与え、次いでTCRに刺激を与えた前記CD4/CD8ダブルネガティブ細胞を、IL-7及びIL-15のサイトカインの存在下でCD8シングルポジティブT細胞に分化させることにより得るのが好ましい。
【0034】
T-iPSCをCD4/CD8ダブルネガティブ細胞に分化させるには、T-iPSCをフィーダー細胞(好ましくはマウスストローマ細胞)上で、サイトカイン、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS))、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、L-グルタミン、α-モノチオグリセロール、アスコルビン酸等を含有する培地中にて培養することが好ましい。
用いるストローマ細胞としては、放射線照射等の処理を施したOP9細胞、10T1/2細胞(C3H10T1/2細胞)であることが好ましい。培地に添加されるサイトカインは、VEGF、SCF、TPO及びFLT3L群から選択される少なくとも1種のサイトカインであることが好ましく、VEGF、SCF及びTPO、又は、VEGF、SCF及びFLT3Lであることがより好ましい。
また、培地としては、例えば、X-VIVO培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM培地)、α-MEM、DMEMが挙げられるが、T-iPSサック(造血前駆細胞を含有する袋状の構造物)を形成させやすくする点から、IMDM培地が好ましい。このT-iPSCの培養期間としては、T-iPSCの培養を開始してから好ましくは8~14日間、より好ましくは10~14日間である。培養環境としては、特に制限はないが、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。また、低酸素濃度条件(酸素濃度:例えば、5~20%)下にて1週間程度培養することがより好ましい。
【0035】
T-iPSCをCD4/CD8ダブルネガティブ細胞に分化させるために、さらに、前記のT-iPSサックに含まれている細胞を、サイトカインや血清(例えば、FBS)等を含有する培地中にて、フィーダー細胞(好ましくはストローマ細胞、より好ましくはヒトストローマ細胞)上で培養することが好ましいが、フィーダーフリーの条件下でサイトカインコートのwellを使用する。T-iPSサックの内部に存在する細胞は、例えば、滅菌済みの篩状器具(例えば、セルストレイナーなど)に通すことにより、分離することができる。この培養に用いるストローマ細胞としては、notchシグナルを介して、Tリンパ球への分化誘導を行うという観点から、放射線照射等の処理を施したOP9-DL1細胞、OP9-DL4細胞、10T1/2/DL4細胞、10T1/2/DL1細胞であることが好ましい。培地に添加するサイトカインとしては、例えば、IL-7、FLT3L、VEGF、SCF、TPO、IL-2、及びIL-15が挙げられる。培地としては、例えば、α-MEM培地、DMEM培地、IMDM培地が挙げられるが、α-MEM培地が好ましい。また、培地には、IL-7及びFLT3L以外にも、培養に必要なアミノ酸(例えば、L-グルタミン)、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン)が添加してあっても良い。
【0036】
このT-iPSサックに含有されている細胞の培養期間としては、このようにして分化して得られたCD4/CD8ダブルネガティブ細胞の細胞表面上にTCR(TCR)が発現するまでの期間であることが好ましく、T-iPSサックに含有されている細胞の培養を開始してから14~28日間であることが好ましい。培養環境としては、特に制限はないが、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。
【0037】
なお、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞の細胞表面上にTCR(TCR)が発現しているか否かは、抗TCRαβ抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体及び抗CD8抗体を用いたフローサイトメトリーにより評価することができる。
【0038】
抗原特異性を有するヒトCD8シングルポジティブ細胞の製造方法においては、T-iPSC由来のCD4/CD8ダブルネガティブ細胞を、該細胞表面上に発現しているTCRを介して刺激することにより、TCRA遺伝子の更なる再構成を抑制することができ、ひいては、再分化して得られたCD8シングルポジティブ細胞において、元のヒトT細胞と同じTCR遺伝子の再構成パターンを有するT細胞の出現頻度を極めて高くすることができる。
【0039】
T-iPSC由来のCD4/CD8ダブルネガティブ細胞のTCRに刺激を与える方法としては、抗CD3抗体、抗CD28抗体、T-iPSCの元となったヒトT細胞が特異的に結合する抗原ペプチド、前記TCRに対し拘束性を示すHLAとの複合体を発現する細胞、及び該抗原ペプチドを結合させたMHC多量体からなる群から選択される少なくとも1の物質とT-iPSC由来のCD4/CD8ダブルネガティブ細胞とを接触させる方法が好ましく、生理的な刺激を与える観点からは、特異ペプチド/HLA複合体発現細胞を接触させる方法がより好ましい。また、刺激の均一性を重視する観点からは、抗体や試薬を接触させる方法がより好ましい。
【0040】
接触させる方法は、例えば、培地中に、PHA等を添加して前記T細胞を一定期間培養することによって行うことができる。また、抗CD3抗体及び抗CD28抗体は磁性ビーズ等が結合されているものであってもよく、さらにこれらの抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を表面に結合させた培養ディッシュ上で前記T細胞を一定期間培養することによって刺激を与えてもよい。さらにまた、前記抗原ペプチドをフィーダー細胞とともに培地中に添加することによって刺激を与えても良い。
【0041】
CD4/CD8ダブルネガティブ細胞のTCRを刺激するために、培地中に添加するPHAの濃度としては、1~100μg/mlであることが好ましい。また、培地中に添加する抗CD3抗体及び抗CD28抗体の濃度としては、前記T細胞の培養量の1~10倍量であることが好ましい。また、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞のTCRを刺激するために、培養ディッシュの表面上に結合させた抗CD3抗体及び抗CD28抗体の濃度としては、コーティングの際の濃度は抗CD3抗体では0.1~100μg/ml、抗CD28抗体では0.1~10μg/mlであることが好ましい。
【0042】
このT-iPSサックに含有されている細胞の培養期間としては、このようにして分化して得られたCD4/CD8ダブルネガティブ細胞の細胞表面上にTCR(TCR)が発現するのに必要な期間を含むことが好ましく、T-iPSサックに含有されている細胞の培養を開始してから7~29日間であることが好ましい。培養環境としては、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。
【0043】
本発明において、TCRに刺激を与えたCD4/CD8ダブルネガティブ細胞をCD8シングルポジティブ細胞に分化させるために、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞は、サイトカインや血清(例えば、ヒト血清)等を含有する培地中にて培養することが好ましい。培地に添加するサイトカインとしては、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞をCD8シングルポジティブ細胞に分化させることができるものであればよく、例えば、IL-7、IL-15が挙げられる。これらの中では、CD8シングルポジティブ細胞への分化において、CD8系譜を選択させ、かつメモリー型CD8+T細胞生成が生じ易くさせるという観点では、IL-7及びIL-15を組み合わせて添加することが好ましい。IL-7及びIL-15の添加濃度としては、1~20ng/mlであることが好ましい。培地としては、例えば、RPMI-1640培地、X-VIVO培地、DMEM培地、α-MEM培地が挙げられるが、RPMI-1640培地又はX-VIVO培地が好ましい。また、培地には、IL-7、IL-15等以外にも、培養に必要なアミノ酸(例えば、L-グルタミン)、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン)、IL-7、IL-15等以外のサイトカインが添加してあってもよい。
【0044】
かかる培養においては、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞をフィーダー細胞と共培養してもよい。フィーダー細胞としては、末梢血単核球細胞(PBMC)であることが好ましい。かかるPBMCとして、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞とはアロ(同種異系)の関係にあることが好ましい。また、TCRを刺激し続け、TCRの更なる再構成を抑制し続けるという観点から、CD4/CD8ダブルネガティブ細胞の元となったヒトT細胞が特異的に結合する抗原ペプチドを提示する末梢血単核球細胞を用いることがより好ましい。
【0045】
このCD4/CD8ダブルネガティブ細胞をCD8シングルポジティブ細胞に分化させるための培養期間としては、2~4週間であることが好ましい。培養環境としては、好ましくは、5%CO2、35~38℃、より好ましくは37℃の条件である。
【0046】
このように分化誘導されたCD8シングルポジティブ細胞が、T-iPSC由来であり、また該T-iPSCの元となったT細胞由来であることの確認は、例えば、TCR遺伝子再構成の状態をゲノムPCRによって検出することにより行うことができる。
【0047】
また、このようにして得られたCD8シングルポジティブ細胞は、公知の手法を適宜選択して単離することができる。かかる公知の手法としては、例えば、CD8の細胞表面マーカーに対する抗体と、セルソーターとを用いたフローサイトメトリーが挙げられる。例えば、CD8シングルポジティブ細胞の場合は、CD8シングルポジティブ細胞の元となったT細胞が認識する抗原を固定化したアフィニティカラム等を用いて精製する方法、当該抗原を結合させたMHC多量体(例えば、MHCテトラマー)を用いて精製する方法を採用することもできる。
【0048】
また、本発明により得られたCD8シングルポジティブ細胞は、PD-1は発現していないのに対し、セントラルメモリーT細胞の表現型を代表するCD27及びCD28と共にCCR7が発現しており、またテロメアも元となったT細胞と比べ長くなっており、高い自己複製能を有している。従って、本発明によれば、元のT細胞と同一のTCR遺伝子の再構成パターンを有するCD8シングルポジティブT細胞であって、PD-1を発現せず、CD27、CD28及びCCR7を発現する細胞を製造することができる。そして、ヒトから採取したT細胞は、PD-1を発現し、幼若なメモリーフェノタイプの割合は少ない点で、得られたT細胞とは異なる。
【0049】
このようにして得られたCD8シングルポジティブ細胞を維持するために、1~2週間毎に、当該細胞に刺激を与えてもよい。かかる刺激としては、抗CD3抗体、抗CD28抗体、IL-2、IL-7、IL-15、該CD8SP細胞が認識する抗原、当該抗原を結合させたMHC多量体、該CD8シングルポジティブ細胞とアロの関係にあるフィーダー細胞及び該CD8シングルポジティブ細胞とオートの関係にあるフィーダー細胞からなる群から選択される少なくとも1の物質との接触が挙げられる。
【0050】
得られたiPSC由来Tリンパ球が、SARS-CoV-2特異的細胞傷害活性を有するか否かの確認は、MHCペンタマー、MHCテトラマーなどを用いてもとの末梢血由来CTLと同一の抗原特異性を保持していることを確認する。更にTCR配列解析を行い、TCRαβを同定した。
【0051】
また、SARS-CoV-2特異的CTLは、本発明のTCRをコードする遺伝子を用いて、遺伝子組み換えによって製造することもできる。すなわち、例えば、本発明のTCRをコードする遺伝子を宿主T細胞に導入し、SARS-CoV-2特異的細胞傷害性を有する細胞を選択すればよい。宿主T細胞にTCRをコードする遺伝子を導入するには、種々のウイルスベクターに当該遺伝子を組み込むのが好ましい。
SARS-CoV-2特異的細胞傷害性を有する細胞の選択は、前記のSARS-CoV-2特異的細胞傷害活性の確認でもよいし、IFN-γなどのサイトカインの産生能の検出でもよい。
【0052】
得られたSARS-CoV-2特異的CTLは、優れたSARS-CoV-2特異的細胞傷害活性を有するので、COVID-19の治療薬として有用である。
【0053】
本発明の他の一態様は、前記のTCR又はその機能的断片を有するSARS-CoV-2特異的CTLを含有する、COVID-19治療薬組成物である。
また、本発明の他の一態様は、前記のTCR又はその機能的断片を有するSARS-CoV-2特異的CTLの、COVID-19治療薬製造のための使用である。
また、本発明の他の一態様は、COVID-19を治療するための、前記のTCR又はその機能的断片を有するSARS-CoV-2特異的CTLである。
さらに本発明の一態様は、前記のTCR又はその機能的断片を有するSARS-CoV-2特異的CTLを投与することを特徴とする、COVID-19の治療方法である。
【0054】
本発明の医薬組成物は、本発明のTリンパ球に加えて、薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。そのような担体の例として、生理食塩水、リンゲル液などが挙げられる。さらに本発明の医薬組成物は、必要に応じて、保存剤、着色剤などの公知の薬学的に許容される添加物を含むことができる。
本発明の医薬組成物の形態は、注射剤が好ましく、T細胞輸注療法用の注射剤が好ましい。本発明の医薬組成物は、COVID-19患者に対し、数週間間隔で、T細胞輸注するのが好ましい。
【実施例0055】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1
SARS-CoV-2特異的CTLクローンよりセンダイウイルスベクターを用いてT-iPSCの樹立。
1)SARS-CoV-2ワクチン投与後のHLA-A24とHLA-A02健常人ドナー末梢血より末梢血単核球を分離後、抗原提示目的に樹状細胞を誘導した。7日後、誘導した樹状細胞にSARS-CoV-2抗原ペプチド(SARS-CoV-2 Spike Glycoprotein,A0201及びA2402)を添加し末梢血単核球と共培養開始した。約8~10日後にSARS-CoV-2特異的CTL検出のため、CTLをMHCテトラマーで染色後、フローサイトメトリーにてテトラマー陽性率を確認した。SARS-CoV-2特異的CTLを確認後、シングルセルソート又はテトラマー/PEビーズセレクション後限界希釈法を行った。
【0057】
2)約3~6週間後立ち上がったコロニーのテトラマー染色を行い、フローサイトメトリーでCTLクローン樹立の確認をした。樹立確認後CTLクローンをCD3/28刺激後、以下のA)のベクターを用い遺伝子導入した。iMatrixでコートした6wellプレートに遺伝子導入後のCTLを移動し、CTLメディウムを培地としてCO2インキュベーターで培養開始した。
【0058】
A)SeV6因子ベクター
【0059】
3)SeV遺伝子導入翌日、iPSメディウム(StemFitAK03N)を等量加え、その後は1日おきに半量ずつStem FitAK03Nに置換した。
4)7日後にT-iPSCのコロニーが観察でき、その後コロニーピックアップして拡大培養を行なった。その後iPSC由来 rejuvenated SARS-CoV-2-CTL(SARS-CoV-2-rejT)を分化誘導した。具体的には、T-iPSCをCD4/CD8ダブルネガティブ細胞に分化させるために、T-iPSCを10T1/2細胞(C3H10T1/2細胞)に播種し、IMDM培地を基材とするサイトカイン添加培地で10~14日間培養しする。さらに、前記のT-iPSサックに含まれている細胞を、各種サイトカインや血清等を含有する培地中にて、10T1/2/DL1/4細胞上で培養した。T-iPSC由来のCD4/CD8ダブルネガティブ細胞のTCRに刺激を与えてCD4/CD8ダブルネガティブ細胞へと分化させ、さらにCD8シングルポジティブ細胞を得た。この方法としては、培地中に適切な濃度のPHAとサイトカインを添加した培地で約2週間培養を行った。結果、CD8シングルポジティブのiPSC由来 rejuvenated SARS-CoV-2-CTL(SARS-CoV-2-rejT)を得た。
5)細胞傷害性試験を行うと元の末梢血CTLより強力に腫瘍細胞に抗原特異的細胞傷害活性を示すことができた。
【0060】
図1及び図2にHLA―A0201又はHLA-A2402末梢血から誘導したSARS-CoV-2-CTLと樹立したSARS-CoV-2特異的CTLクローン、更にiPSC由来SARS-CoV-2-CTL(SARS-CoV-2-rejT)のテトラマー染色結果を示す。
【0061】
実施例2
(細胞傷害性試験)
1)HLA一致腫瘍細胞株(LCL)に抗原ペプチドを添加して抗原提示させた細胞を標的とし、この細胞に対するSARS-CoV-2-rejTの細胞傷害活性と末梢血由来SARS-CoV-2-CTLの細胞傷害性細胞傷害性を比較するために51クロム放出試験を行った。エフェクターとしてSARS-CoV-2-rejT又は末梢血由来SARS-CoV-2-CTL、クロムでラベルした標的細胞、コントロールターゲットとしたHLA不一致LCLに抗原ペプチドを添加した細胞をエフェクター:ターゲット比を40:1、20:1、10:1と5:1で6時間共培養した。
2)共培養後培養上清を別のカウンター用のプレートに移し、乾燥後プレートリーダーで測定した。
3)SARS-CoV-2-rejTは標的細胞に対して強い抗原特異的細胞傷害性を示したが(約70―80%)、コントロールのHLA不一致腫瘍細胞株に対しては10%以下と細胞傷害性を示さなかった。末梢血由来SARS-CoV-2-CTLも標的細胞に対して約60―80%程度の細胞傷害性を示した。コントロールのHLA不一致腫瘍細胞株に対しては10%以下と細胞傷害性を示さなかった。SARS-CoV-2-rejTのSARS-CoV-2抗原特異的細胞傷害活性はSARS-CoV-2-CTLと同等もしくはより強力であった(図3及び図4)。
【0062】
実施例3
TCR配列の解析結果を、図5図8に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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