(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154091
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】パネル成形装置及びパネル成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 19/08 20060101AFI20241023BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20241023BHJP
B21D 5/01 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
B21D19/08 B
B21D22/26 D
B21D5/01 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067709
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀脇 健司
(72)【発明者】
【氏名】越野 博美
(72)【発明者】
【氏名】任田 敏康
【テーマコード(参考)】
4E063
4E137
【Fターム(参考)】
4E063AA01
4E063BA01
4E063CA04
4E063FA01
4E063JA04
4E063MA18
4E137AA06
4E137BA01
4E137BB01
4E137CA09
4E137CA24
4E137EA03
4E137EA06
4E137GA01
4E137GB02
(57)【要約】
【課題】予め絞り成形されたパネルの端部を成形したときに表面にシワが残るのを抑制するのに有効なパネル成形技術を提供する。
【解決手段】パネル成形装置10は、予め絞り成形されたパネル1の端部2を成形するための装置であり、下型20及び上型30と、パネル1を下型20に押し付ける押し付けパッド21と、上型30と連動して動く後曲げ刃31及び先曲げ刃32と、を備え、パネル1を押し付けパッド21によって下型20に押し付けた状態で上型30を下型20に向けて動かすことによって、第2絞り部4を先曲げ刃32と下型20で圧縮して一般部6に成形したのち、一般部6を先曲げ刃32と下型20で挟み込んだ状態で第1絞り部3を後曲げ刃31と下型20で圧縮して凹み形状のフランジ部5に成形するように構成されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め絞り成形されたパネルの端部を成形するパネル成形装置であって、
上記パネルの上記端部には、パネル幅方向に延びるように形成された第1絞り部と、上記第1絞り部よりも内側に上記第1絞り部に沿って延びるように形成された第2絞り部と、が設けられており、
下型及び上型と、
上記パネルを上記下型に押し付ける押し付けパッドと、
上記上型と連動して動く後曲げ刃及び先曲げ刃と、
を備え、
上記パネルを上記押し付けパッドによって上記下型に押し付けた状態で上記上型を上記下型に向けて動かすことによって、上記第2絞り部を上記先曲げ刃と上記下型で圧縮して一般部に成形したのち、上記一般部を上記先曲げ刃と上記下型で挟み込んだ状態で上記第1絞り部を上記後曲げ刃と上記下型で圧縮して凹み形状のフランジ部に成形するように構成されている、パネル成形装置。
【請求項2】
上記先曲げ刃は、上記後曲げ刃から上記下型側へ突出して前進位置から後退位置までの間で進退可能に構成されており、上記後曲げ刃には、上記先曲げ刃を上記前進位置で後退可能に弾性保持する保持機構部が設けられている、請求項1に記載のパネル成形装置。
【請求項3】
上記保持機構部は、上記先曲げ刃に取付けられるロッドと、上記ロッドに連結されたピストンと、上記ピストン及び作動流体を収容しており上記ピストンによる上記作動流体の圧縮時の反力を利用して上記ロッドを弾性付勢するシリンダと、を有する、請求項2に記載のパネル成形装置。
【請求項4】
上記フランジ部は、断面形状が略V字であり、且つ、凹み深さが上記パネル幅方向で異なる、請求項1~3のいずれか一項に記載のパネル成形装置。
【請求項5】
予め絞り成形されたパネルの端部を成形するパネル成形方法であって、
上記パネルの上記端部には、パネル幅方向に延びるように形成された第1絞り部と、上記第1絞り部よりも内側に上記第1絞り部に沿って延びるように形成された第2絞り部と、が設けられており、
上記パネルを押し付けパッドによって下型に押し付けた状態で、上記第2絞り部を先曲げ刃と上記下型で圧縮して一般部に成形する先曲げ工程と、
上記先曲げ工程で成形した上記一般部を上記先曲げ刃と上記下型で挟み込んだ状態で、上記第1絞り部を後曲げ刃と上記下型で圧縮して凹み形状のフランジ部に成形する後曲げ工程と、
を有する、パネル成形方法。
【請求項6】
上記フランジ部は、断面形状が略V字であり、且つ、凹み深さが上記パネル幅方向で異なる、請求項5に記載のパネル成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネル成形装置及びパネル成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車ボディを製造する場合、鋼板等からなるパネルが成形金型を用いたプレス成形加工によって所定の形状に成形される。この種のプレス成形加工では、先ず、下記特許文献1に記載の絞り成形のような一次成形を実施し、その後に、下記特許文献2に記載の寄せ曲げ加工のような二次成形を実施する。寄せ曲げ加工では、予め絞り成形されたパネルを可動ダイス側にセットし、このパネルの端部を寄せ曲げ刃によって可動ダイス側に押圧し、端部を凹状のフランジに寄せ曲げ成形する。これにより、パネルが最終製品となる三次元形状に成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-107663号公報
【特許文献2】特開平7-214183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車ボディにおいてパネルの凹み形状のフランジ部の断面形状は一様ではなく、パネル幅方向の位置に応じて断面形状が異なる。例えば、ハッチバックタイプの自動車のルーフパネルの後端側のフランジ部の断面形状は、車幅方向の中央部に比べて両端部の方が凹み深さが大きい。このため、予め絞り成形されたルーフパネルの後方側の端部に車幅方向の全長にわたって寄せ曲げ刃を押し当ててフランジ部を設ける場合には、ルーフパネルの成形量や圧縮変形方向が部位ごとに異なることが要因で、最終製品となるルーフパネルのフランジ部の表面にシワが残るという問題が生じ得る。このような問題は、自動車ボディのルーフパネルの製造においてのみならず、ルーフパネル以外のパネルの製造や、その他の分野のパネルの製造においても同様に発生し得る。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、予め絞り成形されたパネルの端部を成形したときに表面にシワが残るのを抑制するのに有効なパネル成形技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
予め絞り成形されたパネルの端部を成形するパネル成形装置であって、
上記パネルの上記端部には、パネル幅方向に延びるように形成された第1絞り部と、上記第1絞り部よりも内側に上記第1絞り部に沿って延びるように形成された第2絞り部と、が設けられており、
下型及び上型と、
上記パネルを上記下型に押し付ける押し付けパッドと、
上記上型と連動して動く後曲げ刃及び先曲げ刃と、
を備え、
上記パネルを上記押し付けパッドによって上記下型に押し付けた状態で上記上型を上記下型に向けて動かすことによって、上記第2絞り部を上記先曲げ刃と上記下型で圧縮して一般部に成形したのち、上記一般部を上記先曲げ刃と上記下型で挟み込んだ状態で上記第1絞り部を上記後曲げ刃と上記下型で圧縮して凹み形状のフランジ部に成形するように構成されている、パネル成形装置、
にある。
【0007】
また、本発明の他の態様は、
予め絞り成形されたパネルの端部を成形するパネル成形方法であって、
上記パネルの上記端部には、パネル幅方向に延びるように形成された第1絞り部と、上記第1絞り部よりも内側に上記第1絞り部に沿って延びるように形成された第2絞り部と、が設けられており、
上記パネルを押し付けパッドによって下型に押し付けた状態で、上記第2絞り部を先曲げ刃と上記下型で圧縮して一般部に成形する先曲げ工程と、
上記先曲げ工程で成形した上記一般部を上記先曲げ刃と上記下型で挟み込んだ状態で、上記第1絞り部を後曲げ刃と上記下型で圧縮して凹み形状のフランジ部に成形する後曲げ工程と、
を有する、パネル成形方法、
にある。
【発明の効果】
【0008】
上述の態様のパネル成形装置またはパネル成形方法によれば、パネルを押し付けパッドによって下型に押し付けた状態で、先ず、パネルの端部のうち第1絞り部よりも内側の第2絞り部を先曲げ刃と下型で圧縮して一般部に成形する。引き続いて、パネルの一般部を先曲げ刃と下型で挟み込んだ状態で、一般部よりも外側の第1絞り部を曲げ刃と下型で圧縮して凹み形状のフランジ部に成形する。
【0009】
すなわち、本態様では、パネルの端部のうち自由端側(外側)に位置する第1絞り部の内側の第2絞り部の寄せ曲げ加工を第1絞り部の寄せ曲げ加工よりも先行して実施し、第2絞り部の寄せ曲げ加工後に第1絞り部の寄せ曲げ加工を実施するようにしている。このような順番でパネルを寄せ曲げ加工すれば、パネルの寄せ曲げ加工が終了するまでの間、パネルの端部が自由端側に変形することが許容されるため、パネルの端部の内側方向への圧縮が抑制される。これにより、パネル幅方向の位置に応じてフランジ部の断面形状が異なっていて、パネルの成形量や圧縮変形方向が部位ごとに異なるような場合であっても、寄せ曲げ加工後のパネルの一般部及びフランジ部のそれぞれの表面にシワが残りにくくなる。これに対して、パネル1の自由端側の第1絞り部の寄せ曲げ加工を第2絞り部の寄せ曲げ加工よりも先行して実施すると、パネルの端部が自由端側に変形することが規制されて、パネルの一般部及びフランジ部のそれぞれの表面にシワが生じ易くなる。
【0010】
以上のごとく、上述の態様によれば、予め絞り成形されたパネルの端部を成形したときに表面にシワが残るのを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1にかかるパネルについて絞り成形されたパネルと絞り成形後に寄せ曲げ加工されたパネルのそれぞれの斜視図。
【
図5】実施形態1のパネル成形装置の一部の断面構造を示す断面図。
【
図6】実施形態1のパネル成形方法のフローチャート。
【
図7】
図5のパネル成形装置について
図6中の第3ステップの実行時の様子を示す断面図。
【
図8】
図5のパネル成形装置について
図6中の第4ステップの実行時の様子を示す断面図。
【
図9】
図5のパネル成形装置について
図6中の第5ステップの実行時の様子を示す断面図。
【
図10】
図5のパネル成形装置について
図6中の第5ステップの実行時の様子を示す断面図。
【
図11】
図5のパネル成形装置について
図6中の第6ステップの実行時の様子を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0013】
上述の態様のパネル成形装置において、上記先曲げ刃は、上記後曲げ刃から上記下型側へ突出して前進位置から後退位置までの間で進退可能に構成されており、上記後曲げ刃には、上記先曲げ刃を上記前進位置で後退可能に弾性保持する保持機構部が設けられているのが好ましい。
【0014】
このパネル成形装置では、後曲げ刃に保持機構部を介して先曲げ刃を組み込む構造を採用している。本構造によれば、パネルを押し付けパッドによって下型に押し付けた状態で上型を下型に向けて動かす動作を継続することによって、パネルの第2絞り部を先曲げ刃と下型で圧縮して一般部に成形する動作と、パネルの一般部を先曲げ刃と下型で挟み込んだ状態でパネルの第1絞り部を後曲げ刃と下型で圧縮してフランジ部に成形する動作と、を連続した一連の動作として実行することができる。このため、パネルの寄せ曲げ加工に要する成形時間を短く抑えることができる。
【0015】
上述の態様のパネル成形装置において、上記保持機構部は、上記先曲げ刃に取付けられるロッドと、上記ロッドに連結されたピストンと、上記ピストン及び作動流体を収容しており上記ピストンによる上記作動流体の圧縮時の反力を利用して上記ロッドを弾性付勢するシリンダと、を有するのが好ましい。
【0016】
このパネル成形装置によれば、先曲げ刃を前進位置で後退可能に弾性保持するために、ピストンによる作動流体の圧縮時の反力を利用してロッドを弾性付勢する構造を採用することによって、保持機構部の構造を簡素化できる。
【0017】
以下、上述の態様のパネル成形装置及びパネル成形方法の具体的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
なお、本明細書及び図面では、特に断わらない限り、パネル幅方向を矢印Xで示し、パネル奥行方向を矢印Yで示し、パネル高さ方向を矢印Zで示すものとする。
【0019】
(実施形態1)
図1には、一次成形である「絞り成形」がなされた後のパネル1と、パネル1に対して二次成形である「寄せ曲げ加工」がなされた後のパネル1Aと、が示されている。絞り成形及び寄せ曲げ加工はいずれも、プレス成形加工の1つである。本形態では、パネル1,1Aとして、ハッチバックタイプの自動車ボディのルーフパネルを例示している。パネル1,1Aは、鋼板によって構成されている。
【0020】
1.パネル1の構造
図1及び
図2に示されるように、絞り成形後のパネル1の後方側の端部2には、第1絞り部3及び第2絞り部4が設けられている。第1絞り部3は、パネル幅方向Xに延びるように形成された部位である。第2絞り部4は、第1絞り部3よりも内側に第1絞り部3に沿って延びるように形成された部位である。本形態では、パネル幅方向Xは実質的に車幅方向に相当する。
【0021】
2.パネル1Aの構造
図1に示されるように、寄せ曲げ加工後のパネル1Aの端部2には、フランジ部5及び一般部6が設けられている。フランジ部5は、パネル1の第1絞り部3が凹み形状となるように寄せ曲げ加工された部位である。一般部6は、パネル1の第2絞り部4が寄せ曲げ加工された部位である。
【0022】
なお、
図3及び
図4に示されるように、パネル1Aの端部2の中で、パネル幅方向Xの中央寄りの端部2aと両側の端部2bとでは、フランジ部5及び一般部6の断面形状が異なっている。パネル1Aのフランジ部5は、凹み深さがパネル幅方向Xで異なるように構成されている。フランジ部5は、端部2aと端部2bでいずれも断面形状が略V字であるという点で一致しているが、端部2aのものに比べて端部2bのものの方が凹み深さが大きいという点で相違している。一般部6は、平坦面6aと、この平坦面6aからパネル高さ方向Zに立設した立設面6bと、を有する。一般部6は、端部2aと端部2bで平坦面6aが同様の形状であるという点で一致しているが、端部2aの方が一般部6の立設面6bが内側に凹んでいるという点で相違している。一般部6の立設面6bが内側に凹んでいる形状は、例えば、「見切りの俯角がある形状」とも称される。
【0023】
3.パネル成形装置10の構造
実施形態1のパネル成形装置10は、予め絞り成形されたパネル1の端部2を成形するための装置である。このパネル成形装置10は、
図5に示されるように、実施形態1のパネル成形装置10は、その主要な構成要素として、下型20及び上型30と、押し付けパッド21と、寄せ曲げ加工用の後曲げ刃31及び先曲げ刃32と、保持機構部40と、を備えている。
【0024】
下型20には、第1成形面20aと、第1成形面20aに連続した第2成形面20bと、が設けられている。第1成形面20aは、パネル1の第1絞り部3をパネル1Aのフランジ部5に成形するための成形面である。第2成形面20bは、パネル1の第2絞り部4をパネル1Aの一般部6に成形するための成形面である。
【0025】
上型30は、駆動機構部(図示省略)によって下型20に対して昇降動作するように構成されている。上型30は、その下降動作に伴って下型20に近づく一方で、その上昇動作に伴って下型20から離れる。押し付けパッド21は、パネル1を下型20に押し付けたり、下型20に対するパネル1の押し付けを解除してパネル1を解放したりする機能を有する。
【0026】
3.1 後曲げ刃31の構造
後曲げ刃31は、先曲げ刃32よりも後に使用される寄せ曲げ加工刃である。後曲げ刃31は、その先端側の刃面が下型20の第1成形面20aに倣った形状を有する。後曲げ刃31は、パネル幅方向Xに延びており、上型30と連動して動くように構成されている。後曲げ刃31は、上型30との間に介在するスライド部材33と、下型20との間に介在するスライド部材34と、を有する。後曲げ刃31は、下型20に対して上型30を
図5中の下向きに動かすことによって、スライド部材33が上型30と摺動し且つスライド部材34が下型20と摺動することで成形方向Dに動くように構成されている。
【0027】
3.2 先曲げ刃32の構造
先曲げ刃32は、後曲げ刃31に先行して使用される寄せ曲げ加工刃である。先曲げ刃32は、その先端側の刃面が下型20の第2成形面20bに倣った形状を有する。先曲げ刃32は、パネル幅方向Xに延びており、後曲げ刃31に組み込まれている。このため、先曲げ刃32は、後曲げ刃31と同様に、上型30と連動して動くように構成されている。先曲げ刃32は、後曲げ刃31から下型20側へ突出して前進位置P1から後退位置P2(
図10を参照)までの間で進退可能に構成されている。すなわち、先曲げ刃32は、後曲げ刃31から突出した状態で、後曲げ刃31に対して後退位置P2から前進位置P1までの間で相対移動できるようになっている。例えば、先曲げ刃32は、後退位置P2から前進位置P1まで前進することができ、また、前進位置P1から後退位置P2まで後退することができる。
【0028】
3.3 保持機構部40の構造
保持機構部40は、先曲げ刃32を前進位置P1で後退可能に弾性保持する機能を有する。この保持機構部40は、後曲げ刃31の凹部31aに設けられている。本形態では、先曲げ刃32が長手方向(パネル幅方向X)に延びており、この先曲げ刃32を安定的に弾性保持するためには、複数の保持機構部40を先曲げ刃32の長手方向に沿って並置するのが好ましい。
【0029】
保持機構部40は、ロッド41とピストン42とシリンダ43とを有する。ロッド41は、その先端部が先曲げ刃32の後端面に取付けられる。ピストン42は、ロッド41に連結されている。シリンダ43は、ピストン42及び作動流体を収容しており、ピストン42による作動流体の圧縮時の反力を利用してロッド41を弾性付勢するように構成されている。このような構成によれば、ロッド41を介して先曲げ刃32に作用する弾性付勢力は、前進位置P1で最小となり後退位置P2で最大となる。なお、作動流体は気体や液体であってもよく、その種類は特に限定されないが、作動流体として典型的には取り扱いが容易な窒素などのガスを使用することができる。このような構成の保持機構部40は、一般的に「ガススプリング」とも称される。
【0030】
なお、保持機構部40において、先曲げ刃32を弾性付勢するための構造は、作動流体を使用するものに限定されるものではなく、必要に応じて、作動流体に代えて或いは加えて、バネ部材のような弾性部材を使用することもできる。
【0031】
4.パネル成形方法
次に、
図5~
図11を参照しながら、予め絞り成形されたパネル1の端部2を成形するパネル成形方法について詳述する。なお、パネル1からパネル1Aへの全体的な形状変化はパネル幅方向Xについて実質的に同様であるため、以下では、パネル幅方向Xの中央寄りの端部2aの断面形状変化についてのみ説明し、パネル幅方向Xの両側の端部2bの断面形状変化についての説明は省略する。
【0032】
図6に示されるように、実施形態1のパネル成形方法は、第1ステップS101から第6ステップS106までの処理を順次実行することによって達成される。なお、必要に応じて、別のステップを追加したり、各ステップの少なくとも1つを複数に分割したり、複数のステップを1つに統合したりしても良い。
【0033】
第1ステップS101は、予め絞り成形された絞り成形後のパネル1を下型20にセットするステップである。なお、特に図示しないものの、絞り成形は、既知の構造の絞り型を使用して実施される。第2ステップS102は、第1ステップS101に引き続いて、パネル1を押し付けパッド21によって下型20に押し付けるステップである。第1ステップS101及び第2ステップS102によれば、
図5に示されるように、下型20と押し付けパッド21によってパネル1が一時的に保持された状態になる。
【0034】
第3ステップS103は、パネル1の第2絞り部4を先曲げ刃32で一般部6に成形するステップである。この第3ステップS103では、後曲げ刃31を成形方向Dに動かすように上型30を下降させる。これにより、
図7に示されるように、先ず、後曲げ刃31から突出している先曲げ刃32がパネル1の第2絞り部4に接触して第2絞り部4を押圧する。パネル1の第2絞り部4にパネル幅方向Xの全長にわたって先曲げ刃32の刃面を押し当てる。
【0035】
その後、上型30が下降動作を継続することによって、パネル1の第2絞り部4は、先曲げ刃32の刃面と下型20の第2成形面20bとで圧縮される。このとき、保持機構部40のロッド41は、先曲げ刃32が第2絞り部4及び下型20から反力を受けることに伴って、先曲げ刃32に付与する弾性付勢力を高めながら、シリンダ43からの突出長さが短くなるように後退していく。そして、
図8に示されるように、先曲げ刃32がパネル1を介して下型20の第2成形面20bに嵌り込むまで上型30の下降動作を継続する。これにより、パネル1の第2絞り部4が先曲げ刃32による寄せ曲げ加工によって一般部6(
図3を参照)に成形される。このとき、先曲げ刃32は、前進位置P1(
図7を参照)と後退位置P2(
図10を参照)との間の中間位置に配置される。
【0036】
このように、第3ステップS103は、パネル1を押し付けパッド21によって下型20に押し付けた状態で、パネル1の端部2の第2絞り部4を先曲げ刃32と下型20で圧縮して一般部6に成形する先曲げ工程に相当する。
【0037】
第4ステップS104は、一般部6を先曲げ刃32の刃面と下型20の第2成形面20bとで挟み込むステップである。すなわち、第4ステップS104は、第3ステップS103の実行後に、その状態を維持するステップである。第4ステップS104によれば、
図8に示されるように、下型20と押し付けパッド21と先曲げ刃32によってパネル1の一般部6が保持された状態になる。
【0038】
第5ステップS105は、パネル1の第1絞り部3を後曲げ刃31でフランジ部5に成形するステップである。この第5ステップS105では、後曲げ刃31を成形方向Dに動かすように上型30を下降させる。これにより、
図9に示されるように、先ず、後曲げ刃31がパネル1の第1絞り部3に接触して第1絞り部3を押圧する。パネル1の第1絞り部3にパネル幅方向Xの全長にわたって後曲げ刃31の刃面を押し当てる。
【0039】
その後、上型30が下降動作を継続することによって、パネル1の第1絞り部3は、後曲げ刃31の刃面と下型20の第1成形面20aとで圧縮される。このとき、保持機構部40のロッド41は、先曲げ刃32が一般部6及び下型20から反力を受けることに伴って、先曲げ刃32に付与する弾性付勢力を高めながら、シリンダ43からの突出長さが短くなるように後退していく。そして、
図10に示されるように、後曲げ刃31がパネル1を介して下型20の第1成形面20aに嵌り込むまで上型30の下降動作を継続する。これにより、パネル1の第1絞り部3が後曲げ刃31による寄せ曲げ加工によってフランジ部5(
図3を参照)に成形される。このとき、先曲げ刃32は、後退位置P2に配置される。
【0040】
このように、第5ステップS105は、第3ステップS103(先曲げ工程)で成形した一般部6を先曲げ刃32と下型20で挟み込んだ状態で、パネル1の第1絞り部3を後曲げ刃31と下型20で圧縮して凹み形状のフランジ部5に成形する後曲げ工程である。この第5ステップS105によれば、予め絞り成形されたパネル1が寄せ曲げ加工されてなるパネル1Aが得られる。
【0041】
第6ステップS106は、寄せ曲げ加工後のパネル1Aを解放するステップである。この第6ステップS106では、上型30を上昇動作させることによって、後曲げ刃31と先曲げ刃32をともに成形方向Dと逆方向に移動させる。また、押し付けパッド21による押し付けを解除する。第6ステップS106によれば、
図11に示されるように、フランジ部5と後曲げ刃31との接触が解除され、一般部6と先曲げ刃32との接触が解除され、且つ、押し付けパッド21による押し付けの解除によって、成形後のパネル1Aが解放される。そして、最終的に下型20からパネル1Aが取り出される。
【0042】
5.作用効果
上述の実施形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0043】
実施形態1によれば、パネル1を押し付けパッド21によって下型20に押し付けた状態で、先ず、パネル1の端部2のうち第1絞り部3よりも内側の第2絞り部4を寄せ曲げ加工用の先曲げ刃32と下型20で圧縮して一般部6に成形する。引き続いて、パネル1の一般部6を先曲げ刃32と下型20で挟み込んだ状態で、一般部6よりも外側の第1絞り部3を寄せ曲げ加工用の後曲げ刃31と下型20で圧縮して凹み形状のフランジ部5に成形する。
【0044】
すなわち、本形態では、パネル1の端部2のうち自由端側(外側)に位置する第1絞り部3の内側の第2絞り部4の寄せ曲げ加工を第1絞り部3の寄せ曲げ加工よりも先行して実施し、第2絞り部4の寄せ曲げ加工後に第1絞り部3の寄せ曲げ加工を実施するようにしている。このような順番でパネル1を寄せ曲げ加工すれば、パネル1の寄せ曲げ加工が終了するまでの間、パネル1の端部2が自由端側に変形することが許容され、パネル1の端部2の内側方向への圧縮が抑制される。これにより、パネル幅方向Xの位置に応じてフランジ部5の略V字の断面形状(フランジ部5の凹み深さ)が異なっていて、パネル1の成形量や圧縮変形方向が部位ごとに異なるような場合であっても、寄せ曲げ加工後のパネル1Aの一般部6及びフランジ部5のそれぞれの表面にシワが残りにくくなる。
【0045】
例えば、
図3に示されるように、パネル1の中央寄りの端部2aを寄せ曲げ加工して一般部6の立設面6bが内側に凹んだ形状となるように成形する場合には、パネル1が従来構造の寄せ曲げ刃先から受ける圧縮荷重によって内側に変形し、この変形がシワの発生要因に成り易いが、本形態によれば、このような場合であってもパネル1の第1絞り部3に先行して第2絞り部4の寄せ曲げ加工を実施することで、第2絞り部4が先曲げ刃32から受ける圧縮荷重によって内側に変形しても、この変形がシワの発生要因に成るのを防ぐことができる。
【0046】
また、
図4に示されるように、パネル1の両側の端部2bを寄せ曲げ加工して凹み深さの大きいフランジ部5となるように成形する場合には、凹み深さの小さいフランジ部5に成形する場合に比べてフランジ部5の表面にシワが残り易いが、本形態によれば、フランジ部5の凹み深さの大きさにかかわらずシワの発生を抑制できる。これにより、パネル1Aのフランジ部5の凹み深さの制約を緩和できる。
【0047】
これに対して、本形態とは逆に、パネル1の自由端側の第1絞り部3の寄せ曲げ加工を第2絞り部4の寄せ曲げ加工よりも先行して実施すると、パネル1の端部2が自由端側に変形することが規制されて、パネル1の一般部6及びフランジ部5のそれぞれの表面にシワが生じ易くなる。
【0048】
したがって、実施形態1によれば、予め絞り成形されたパネル1の端部2を成形したときに表面にシワが残るのを抑制することが可能になる。
【0049】
実施形態1のパネル成形装置10では、後曲げ刃31に保持機構部40を介して先曲げ刃32を組み込む構造を採用している。本構造によれば、パネル1を押し付けパッド21によって下型20に押し付けた状態で上型30を下型20に向けて動かす動作を継続することによって、パネル1の第2絞り部4を先曲げ刃32と下型20で圧縮して一般部6に成形する動作と、パネル1の一般部6を先曲げ刃32と下型20で挟み込んだ状態でパネル1の第1絞り部3を後曲げ刃31と下型20で圧縮してフランジ部5に成形する動作と、を連続した一連の動作として実行することができる。このため、パネル1の寄せ曲げ加工に要する成形時間を短く抑えることができる。
【0050】
実施形態1のパネル成形装置10によれば、先曲げ刃32を前進位置P1で後退可能に弾性保持するために、ピストン42による作動流体の圧縮時の反力を利用してロッド41を弾性付勢する構造を採用することによって、保持機構部40の構造を簡素化できる。
【0051】
本発明は、上述の典型的な形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変更が考えられる。例えば、上述の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0052】
上述の形態では、後曲げ刃31に保持機構部40を介して先曲げ刃32を組み込む構造について例示したが、これに代えて、後曲げ刃31と先曲げ刃32を別体として互いに独立して動く構造を採用しても良い。
【0053】
上述の形態では、ハッチバックタイプの自動車ボディのルーフパネルの後方側の端部を成形する場合について例示したが、本形態を、自動車ボディのうちルーフパネル以外のパネルの成形や、自動車ボディ以外の製品のパネルの成形に適用することもできる。
【符号の説明】
【0054】
1…パネル、 2…端部、 3…第1絞り部、 4…第2絞り部、 5…フランジ部、 6…一般部、 10…パネル成形装置、 20…下型、 21…押し付けパッド、 30…上型、 31…後曲げ刃、 32…先曲げ刃、 40…保持機構部、 41…ロッド、 42…ピストン、 43…シリンダ、 P1…前進位置、 P2…後退位置、 S101~S106…パネル成形方法、 S103…第3ステップ(先曲げ工程)、 S105…第5ステップ(後曲げ工程)、 X…パネル幅方向