(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154101
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】フィルム、多層体、および、熱曲げ成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20241023BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067731
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小坂 恵夢
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F071AA50
4F071AC19
4F071AE05
4F071AE09
4F071AF30Y
4F071AF34Y
4F071AH03
4F071AH07
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4F100AA17B
4F100AK45A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100CA13A
4F100EH17A
4F100JD10B
4F100JN08A
4F100JN10C
(57)【要約】
【課題】 紫外線を適切にカットし、かつ、近赤外線カットフィルムと積層したときに、近赤外線カットフィルムの耐候性試験による劣化を抑制できるフィルム、多層体および熱曲げ成形体の提供。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、100~2000質量ppmの黄色染料を含むフィルムであって、前記フィルムの波長400~420nmにおける平均光線透過率が10%未満であり、前記フィルムの波長480nmにおける光線透過率が30%以上である、フィルム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、100~2000質量ppmの黄色染料を含むフィルムであって、
前記フィルムの波長400~420nmにおける平均光線透過率が10%未満であり、
前記フィルムの波長480nmにおける光線透過率が30%以上である、
フィルム。
【請求項2】
前記フィルムの厚みが200~600μmである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記フィルムの波長420nmにおける光線透過率が3%以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
前記フィルムの厚みが200~600μmであり、
前記フィルムの波長420nmにおける光線透過率が3%以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のフィルムと、近赤外線カット層とを有する多層体。
【請求項6】
前記近赤外線カット層が酸化タングステンを含む、請求項5に記載の多層体。
【請求項7】
さらに、偏光膜を有する、請求項5に記載の多層体。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のフィルム、偏光膜、近赤外線カット層を前記順に有する多層体。
【請求項9】
請求項5に記載の多層体の熱曲げ成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、多層体および熱曲げ成形体に関する。特に、ポリカーボネート樹脂を主要成分とするフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAのような芳香族ジオールとホスゲンのようなカーボネート前駆体が縮重合して製造され、優れた衝撃強度、数値安定性、耐熱性および透明度などを有し、電機電子製品の外装材、自動車部品、建築素材、光学部品など広範囲な分野に適用される。
【0003】
一方、サングラスなどに用いられる光学用レンズの場合、視野に影響を与えないながらも外部光源に対する眩しさが発生しないほどの透過率が求められる。また、紫外線のような特定波長の有害な光線から目を保護する必要がある。そこで、機械的物性の他にも光学的特性に優れたポリカーボネート樹脂を用いてサングラスなどの野外活動用の光学用レンズに用いる技術が多様に開発されている(特許文献1、特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-202542号公報
【特許文献2】国際公開第2019/066493号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで、サングラス用のレンズに用いられるポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を配合することは検討されてきた。
しかしながら、サングラスに視力矯正機能を持たせようとすると、レンズの厚みが場所によって異なるため、紫外線吸収性能が場所によってばらつきが出てしまう。そのため、紫外線吸収剤をレンズ以外の層に配合することが求められる。ここで、サングラスや眼鏡は、例えば、
図1に示すような層構成をしており、具体的には、レンズ1と偏光膜2を有し、通常は、偏光膜2の両面に偏光膜基材3・4が設けられている。ここで、レンズ1に紫外線吸収剤を配合しない場合、偏光膜基材3または偏光膜基材4に紫外線吸収剤を配合することが考えられる。
一方、サングラス等においては、紫外線に加え、近赤外線もカットすることが求められる場合がある。近赤外線をカットするためには、サングラスに近赤外線カットフィルムを設けることが考えられる。近赤外線カットフィルムの一例として、CWO(登録商標)等の赤外線吸収剤を含むフィルムが知られている。
しかしながら、このような近赤外線カットフィルムは、耐候性に劣る傾向がある。従って、紫外線をカットしつつ、近赤外線カットフィルムの耐候性試験による劣化を抑制できるフィルムがあれば有益である。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、紫外線や高エネルギー可視光線を適切にカットし、かつ、近赤外線カットフィルムと積層したときに、近赤外線カットフィルムの耐候性試験による劣化を抑制できるフィルム、多層体および熱曲げ成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂に、微量の黄色染料を配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、100~2000質量ppmの黄色染料を含むフィルムであって、
前記フィルムの波長400~420nmにおける平均光線透過率が10%未満であり、
前記フィルムの波長480nmにおける光線透過率が30%以上である、
フィルム。
<2>前記フィルムの厚みが200~600μmである、<1>に記載のフィルム。
<3>前記フィルムの波長420nmにおける光線透過率が3%以下である、<1>または<2>に記載のフィルム。
<4>前記フィルムの厚みが200~600μmであり、
前記フィルムの波長420nmにおける光線透過率が3%以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のフィルム。
<5><1>~<4>のいずれか1つに記載のフィルムと、近赤外線カット層とを有する多層体。
<6>前記近赤外線カット層が酸化タングステンを含む、<5>に記載の多層体。
<7>さらに、偏光膜を有する、<5>または<6>に記載の多層体。
<8><1>~<4>のいずれか1つに記載のフィルム、偏光膜、近赤外線カット層を前記順に有する多層体。
<9><5>~<8>のいずれか1つに記載の多層体の熱曲げ成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、紫外線を適切にカットし、かつ、近赤外線カットフィルムと積層したときに、近赤外線カットフィルムの耐候性試験による劣化を抑制できるフィルム、多層体および熱曲げ成形体を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の多層体や熱曲げ成形体、あるいは、サングラス等の層構成の一例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
【0010】
本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、特に述べない限り、示差走査熱量測定(DSC)に従い、ISO11357に準拠して、測定した値とする。示差走査熱量測定(DSC測定)条件のとおりに、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度を測定する。
低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点をガラス転移温度とTgとする。測定開始温度:30℃、昇温速度:10℃/分、到達温度:250℃、降温速度:20℃/分とする。単位は、℃とする。
測定装置は、示差走査熱量計(DSC、日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7020」)を使用することができる。
【0011】
本明細書において、ppmは質量ppmを意味する。
本明細書における多層体は、フィルムまたはシートの形状をしているものを含む趣旨である。「フィルム」および「シート」とは、それぞれ、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいう。また、本明細書における「フィルム」および「シート」は、単層であっても多層であってもよい。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2023年1月1日時点における規格に基づくものとする。
図1は、縮尺度などは実際と整合していないこともある。
本明細書において、近赤外線とは、700nm~2500nmの波長を持つ光である。
【0012】
本実施形態のフィルムは、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、100~2000質量ppmの黄色染料を含むフィルムであって、前記フィルムの波長400~420nmにおける平均光線透過率が10%未満であり、前記フィルムの波長480nmにおける光線透過率が30%以上であることを特徴とする。このような構成とすることにより、紫外線をや高エネルギー可視光線を適切にカットし、かつ、近赤外線カットフィルムと積層したときに、近赤外線カットフィルムの耐候性試験による劣化を抑制できるフィルムを提供可能になる。
すなわち、ポリカーボネート樹脂に微量の黄色染料を配合することにより、紫外線および高エネルギー可視光線カット機能を効果的に達成できる。また、黄色染料を配合してフィルムの波長400~420nmにおける光の透過を効果的に抑制したことにより、近赤外線カットフィルムの耐候性試験による劣化も効果的に抑制できたと推測される。さらに、本実施形態においては、黄色染料の配合量を調整することにより、黄色味を抑制したフィルムとすることができる。
【0013】
<ポリカーボネート樹脂>
本実施形態のフィルムは、ポリカーボネート樹脂を含む。ポリカーボネート樹脂を用いることにより、透明性に優れたフィルムが得られる。
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OC(=O)]-単位(Rが、炭化水素基、具体的には、脂肪族基、芳香族基、または、脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されない。本実施形態においては、ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂がより好ましい。本実施形態においては、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂は、全構成単位の90モル%以上がビスフェノール骨格を有する構成単位であることが好ましい。
【0014】
また、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、10,000以上であることが好ましく、より好ましくは、12,000以上であり、さらに好ましくは15,000以上であり、一層好ましくは18,000以上である。前記下限値以上とすることにより、基材の耐久性がより向上する傾向にある。前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)の上限値は、50,000以下であることが好ましく、より好ましくは40,000以下であり、さらに好ましくは30,000以下である。前記上限値以下とすることにより、基材の成形加工性がより向上する傾向にある。
粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4×Mv0.83、から算出される値を意味する。
2種以上のポリカーボネート樹脂を用いる場合は、混合物の粘度平均分子量とする。
【0015】
本実施形態で用いる本実施形態におけるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、160℃以下であることが好ましく、155℃以下であることがより好ましく、154℃以下であることがさらに好ましく、153℃以下であることが一層好ましく、152℃以下であることがより一層好ましく、151℃以下であることがさらに一層好ましい。また、本実施形態で用いる本実施形態におけるビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、140℃以上であり、さらには、143℃以上、145℃以上、147℃以上、148℃以上であってもよい。
本実施形態におけるフィルムが、2種以上のビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂を含む場合、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、各ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度に質量分率をかけた値の和とする。
【0016】
本実施形態におけるポリカーボネート樹脂の第一の実施形態は、式(A-1)で表される構成単位を有しているポリカーボネート樹脂であり、代表例としては、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【化1】
式(A-1)中、X
1は下記構造を表す。式中の*は結合位置を表す。
【化2】
R
5およびR
6は、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
式(A-1)は下記式(A-2)で表されることが好ましい。
【化3】
【0017】
第一の実施形態のポリカーボネート樹脂における、式(A-1)で表される構成単位の含有量は、末端基を除く全構成単位中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されず、100モル%が式(A-1)で表される構成単位であってもよい。
上記ポリカーボネート樹脂は、他の構成単位を有していてもよい。このような他の構成単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0018】
本実施形態におけるポリカーボネート樹脂の第二の実施形態は、式(A-3)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂であり、代表例としては、ビスフェノールAP型ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【化4】
式(A-3)中、R
11~R
14は、それぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~9(好ましくは1~3)のアルキル基、炭素数6~12(好ましくは6~10)のアリール基、炭素数1~5(好ましくは1~3)のアルコキシ基、炭素数2~5(好ましくは2または3)のアルケニル基または炭素数7~17(好ましくは7~11)のアラルキル基を表す。lは0~5の整数(好ましくは0または1、より好ましくは0)を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0~4の整数(好ましくは0または1、より好ましくは0)を表す。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
【0019】
式(A-3)で表される構成単位は、下記式(A-4)で表される構成単位であることが好ましい。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
【化5】
R
11、R
12、R
13、R
14、l、m、nは、式(A-3)で定義したものと同義である。
【0020】
式(A-4)で表される構成単位は、下記式(A-5)で表される構成単位であることが好ましい。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
【化6】
【0021】
第二の実施形態のポリカーボネート樹脂における、式(A-3)で表される構成単位の含有量は、末端基を除く全構成単位中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されず、100モル%が式(A-3)で表される構成単位であってもよい。
上記ポリカーボネート樹脂は、他の構成単位を有していてもよい。他の構成単位としては、上記式(A-1)で表される構成単位、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物由来の構成単位を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0022】
本実施形態におけるポリカーボネート樹脂の第三の実施形態は、下記式(A-6)で表される構成単位を有しているポリカーボネート樹脂であり、代表例としては、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂およびビスフェノールTMC型ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【化7】
式(A-6)中、R
8は、それぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~9(好ましくは1~3)のアルキル基、炭素数6~12(好ましくは6~10)のアリール基、炭素数1~5(好ましくは1~3)のアルコキシ基、炭素数2~5(好ましくは2または3)のアルケニル基または炭素数7~17(好ましくは7~11)のアラルキル基を表す。qは0~5の整数(好ましくは1~3の整数)を表し、1~3の整数が好ましい。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
R
8は、それぞれ独立に、炭素数1~9(好ましくは1~3)のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0023】
式(A-6)で表される構成単位は、下記式(A-7)で表される構成単位であることが好ましい。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
【化8】
式(A-7)中、R
8は式(A-6)におけるR
8と同義であり、好ましい範囲も同様である。
また、式(A-6)で表される構成単位の他の好ましい形態としては、qが0であること挙げられる。
【0024】
第三の実施形態のポリカーボネート樹脂における、式(A-6)で表される構成単位の含有量は、末端基を除く全構成単位中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されず、100モル%が式(A-6)で表される構成単位であってもよい。
上記ポリカーボネート樹脂は、他の構成単位を有していてもよい。他の構成単位としては、上記式(A-1)で表される構成単位、上記式(A-3)で表される構成単位、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物由来の構成単位を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0025】
本実施形態におけるポリカーボネート樹脂の第四の実施形態は、式(A-8)で表される末端構造を有するポリカーボネート樹脂である。
【化9】
(式(A-8)中、R
21は、炭素数8~36のアルキル基、または、炭素数8~36のアルケニル基を表し、R
22は、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、または、炭素数6~12のアリール基を表し、n2は0~4の整数である。)
【0026】
R21は、炭素数12以上のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、14以上のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。また、R21は、炭素数22以下のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、18以下のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。R21は、アルキル基であることが好ましい。
R22は、フッ素原子、塩素原子、メチル基、エチル基、または、フェニル基であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子またはメチル基であることが好ましい。
n2は、0~2の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
【0027】
式(A-8)で表される末端構造は、末端停止剤を用いることによって、ポリカーボネート樹脂に付加することができる。これらの詳細は、特開2019-002023号公報の段落0022~0030の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0028】
第四の実施形態のポリカーボネート樹脂における分子主鎖は、-[O-R-OC(=O)]-単位(Rが、炭化水素基、具体的には、脂肪族基、芳香族基、または、脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されない。第四の実施形態のポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂がより好ましく、上記式(A-1)で表される構成単位を有するポリカーボネート樹脂がさらに好ましく、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂が一層好ましい。このようなポリカーボネート樹脂を用いることにより、より優れた耐熱性と靱性が達成される。ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂は、末端構造を除く全構成単位の90モル%以上がビスフェノール骨格を有する構成単位であることが好ましい。
【0029】
ポリカーボネート樹脂の第五の実施形態は、バイオポリカーボネート樹脂やリサイクルポリカーボネート樹脂である。
【0030】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0031】
その他、ポリカーボネート樹脂の詳細は、本実施形態の趣旨を逸脱しない限り、特開2012-144604号公報の段落0011~0020の記載、特開2019-002023号公報の段落0014~0035の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0032】
本実施形態のフィルムにおけるポリカーボネート樹脂の含有量は、フィルム100質量%中、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、97質量%以上であることが一層好ましく、98質量%以上であることがさらに一層好ましい。また、本実施形態のフィルムにおけるポリカーボネート樹脂の含有量は、フィルム100質量%中、黄色染料以外の成分がすべてポリカーボネート樹脂となる量であることが好ましい。
本実施形態のフィルムがポリカーボネート樹脂を2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0033】
<黄色染料>
本実施形態のフィルムは黄色染料を、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、100~2000質量ppmの割合で含む。黄色染料を微量な割合で配合することにより、得られるフィルムの黄色味を抑えつつ、紫外線や高エネルギー可視光線を効果的にカットすることができる。さらに、近赤外線フィルムと積層したときに、近赤外線フィルムの耐候試験による劣化を効果的に抑制できる。
黄色染料とは、人の目に黄色に見える染料を意味する。
黄色染料の例には、カラーインデックス(C.I.)がソルベントイエローに分類される染料が含まれる。本実施形態で用いる黄色染料には、ソルベントイエロー93、33、104、167、160、4、82、88、14、15、24、94、98、162等が含まれ、ソルベントイエロー93、33、104、167が好ましい。
本実施形態で用いる黄色染料は、400~420nmを吸収波長(好ましくは極大吸収波長)領域に含む黄色染料が好ましい。
黄色染料の分子量は、200~800であることが好ましい。
【0034】
本実施形態のフィルムにおける黄色染料の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、100質量ppm以上であり、150質量ppm以上であることが好ましく、200質量部ppm以上であることがより好ましく、300質量部ppm以上であることがさらに好ましく、400質量部ppm以上であることが一層好ましく、450質量部ppm以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、紫外線や高エネルギー可視光線をカットする効果がより向上する傾向にある。また、本実施形態のフィルムにおける黄色染料の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、2000質量ppm以下であり、1500質量部ppm以下であることが好ましく、1400質量部ppm以下であることがより好ましく、1100質量部ppm以下であることがさらに好ましく、900質量部ppm以下であることが一層好ましく、800質量部ppm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、フィルムの黄色味を抑制する効果がより向上する傾向にある。
本実施形態のフィルムは、黄色染料を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0035】
<紫外線吸収剤>
本実施形態のフィルムは、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。紫外線吸収剤を含むことにより、耐候性に優れたフィルムが得られる。紫外線吸収剤は、極大吸収波長を280nm~380nmに有する紫外線吸収剤が好ましく、極大吸収波長を280nm~380nmのみに有する紫外線吸収剤がより好ましい。但し、紫外線吸収剤であって、上記黄色染料にも該当するものは、黄色染料とする。
紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、および、トリアジン系紫外線吸収剤が例示され、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含むことが好ましい。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-(t-ブチル)フェノール、2,4-ジ-tert-ブチル-6-(5-クロロベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、(2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4,6-ジ(tert-ペンチル)フェノール)、3-[3-tert-ブチル-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]オクチルプロピオネート、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-[(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4,6-ビス-(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2,2’-メチレンビス[6-(ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-オクチルフェノール]等が好ましく挙げられる。
【0036】
本実施形態で用いる紫外線吸収剤は、上記の他、特開2021-041614号公報の段落0051および特開2020-158596号公報の段落0053に記載のものを採用することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0037】
本実施形態のフィルムにおける紫外線吸収剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の耐候性がより向上する傾向にある。また、紫外線吸収剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、1.0質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以下であることがさらに好ましく、0.2質量部以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、色相・機械物性・耐熱性を下げることなく得られる成形品の耐候性がより向上する傾向にある。
本実施形態のフィルムは、紫外線吸収剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0038】
<他の成分>
本実施形態のフィルムは、上記以外の他の成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
他の成分としては、酸化防止剤、離型剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、黄色染料以外の着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等が例示される。
また、本実施形態のフィルムには、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、国際公開第2021/241471号の段落0047~0103に記載の添加剤を配合でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
他の成分を含有する場合、その含有量は、合計でフィルムの0.001~3質量%であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが一層好ましく、0.1質量%以下であることがより一層好ましく、0.01質量%未満であってもよい。
他の成分は1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。他の成分を2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
本実施形態のフィルムは、また、近赤外線吸収剤を含んでいてもよいし、実質的に含んでいなくてもよい。
本実施形態のフィルムが近赤外線吸収剤を実質的に含まないとは、本実施形態のフィルムにおける近赤外線吸収剤の含有量が、0.3質量%未満であることをいい、0.1質量%未満であることが好ましく、0.01質量%未満であることがさらに好ましく、0.005質量%未満であることが一層好ましく、0.0001質量%未満以下であることがより一層好ましい。
【0039】
<フィルムの厚み>
本実施形態のフィルムは、その厚みが200~600μmであることが好ましい。前記フィルムの厚さを、下限値以上とすることにより、フィルムの波長400~420nmの平均光線透過率をより小さくできる傾向にある。前記フィルムの厚さを上限値以下とすることにより、熱曲げ加工性がより向上する傾向にある。本実施形態のフィルムは、特に、眼鏡などのレンズと貼り合わせる場合、その厚みは、レンズの厚みの半分以下の厚みであることが好ましい。
前記フィルムの厚さは、250μm以上であることがより好ましく、300μm以上であることがさらに好ましく、350μm以上であることが一層好ましく、また、550μm以下であることが好ましい。
【0040】
<フィルムの光線透過率>
本実施形態のフィルムは、波長400~420nmにおける平均光線透過率が10%未満であり、波長480nmにおける光線透過率が30%以上である。前記光線透過率は、主に、黄色染料を配合することによって達成される。
本実施形態のフィルムの波長400~420nmにおける平均光線透過率は、9%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、7%以下であることがさらに好ましい。本実施形態のフィルムの波長400~420nmにおける平均光線透過率の下限は特に定めるものではないが、0%超が実際的である。
本実施形態のフィルムの波長480nmnmにおける光線透過率は、31%以上であることが好ましく、33%以上であることがより好ましく、39%超であることがさらに好ましく、45%以上であることが一層好ましく、55%以上であることがより一層好ましい。本実施形態のフィルムの波長480nmにおける光線透過率の上限は特に定めるものではないが、90%以下が実際的である。
本実施形態のフィルムの波長420nmにおける光線透過率は、10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、6%未満であることがさらに好ましく、4%以下であることが一層好ましく、3%以下であることがより一層好ましく、2%以下であることがさら一層に好ましく、1.5%以下であることが特に一層好ましい。本実施形態のフィルムの波長400nmにおける光線透過率の下限は特に定めるものではないが、0%超が実際的である。
上記のような光線透過率を満たすフィルムは、例えば、ポリカーボネート樹脂に黄色染料を所定量配合することによって達成される。
【0041】
本実施形態のフィルムの全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、また、上限は100%であってもよいが、例えば、99%以下、さらには90%以下であっても要求性能を満たす。
【0042】
本実施形態のフィルムは、b*値が低いことが好ましい。具体的には、b*値が100以下であることが好ましく、90以下であることが好ましい。本実施形態のフィルムのb*値の下限値は、0であってもよいが、1以上が実際的であり、3以上であっても十分に要求性能を満たす。上記のようなb*値は、黄色染料の配合量を調整することによって達成される。
【0043】
<フィルムの製造方法>
本実施形態のフィルムの製造方法は公知の製造方法を採用できる。例えば、ポリカーボネート樹脂および黄色染料、ならびに、必要に応じ配合される他の成分を溶融混練した後、フィルム状に押し出すことが挙げられる。さらに、ロールトゥロールで製造されることが好ましい。
【0044】
<巻取体>
本実施形態のフィルムは、芯材に巻き取った巻取体とすることができる。
【0045】
<多層体>
本実施形態のフィルムは、好ましくは多層体として用いられる。
本実施形態の多層体としては、本実施形態のフィルムと近赤外線カット層を有する多層体である。このような多層体は、本実施形態のフィルム側から、耐候性試験を行ったときに、近赤外線カット層の劣化を効果的に抑制できる。これは、波長400~420nmの光線を効果的にカットできたことによると推測される。
【0046】
近赤外線カット層は、酸化タングステンを含む樹脂フィルムであることが好ましい。酸化タングステンが近赤外線吸収剤としての機能を果たす。前記近赤外線吸収剤は、セシウムがドープされた三酸化タングステンであることが好ましい。近赤外線吸収剤としての酸化タングステンは、特開2019-089939号公報の記載、特開2023-034390号公報の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。また、近赤外線吸収剤の市販品としては、CWO(登録商標)を好ましく用いることができる。
【0047】
本実施形態の多層体は、さらに、偏光膜を有していてもよい。偏光膜を有することにより、偏光シートとして、用いることができる。
本実施形態の多層体は、さらには、本実施形態のフィルム、偏光膜、近赤外線カット層材を前記順に有することが好ましい。より好ましくは、本実施形態のフィルムは、偏光シートの偏光膜基材の少なくとも一方として用いられる。また、偏光膜基材の他方は、上記近赤外線カット層であってもよいし、他の層であってもよい。好ましくは、近赤外線カット層が偏光膜基材である。
【0048】
偏光膜は、公知のものを採用でき、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムにヨウ素または二色性有機染料を吸着もしくは含浸させたものが例示される。
【0049】
偏光膜基材は、通常は、接着剤を介して偏光膜に貼り合わされている。
本実施形態のフィルム(偏光膜基材)と偏光膜を貼り合わせる接着剤は、公知の接着剤を用いることができ、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤等が挙げられる。中でも、ウレタン系接着剤が好ましい。
接着剤の厚みは、通常1μm以上であり、また、通常30μm以下である。
また、本実施形態の偏光シートは、偏光膜基材の外側に、さらに、マスキングフィルム等が設けられていてもよい。
【0050】
近赤外線カット層の第一の実施形態は、熱可塑性樹脂を含むことであり、ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。近赤外線カット層の第一の実施形態においては、熱可塑性樹脂(好ましくはポリカーボネート樹脂)を90質量%以上の割合で含み、かつ、近赤外線吸収剤を0.00001質量%以上、また、1質量%以下の割合で含む層である。ポリカーボネート樹脂の詳細は、上述の本実施形態のフィルムの項で述べたポリカーボネート樹脂と同義である。
近赤外線カット層が第一の実施形態の場合、上述の通り、近赤外線カット層は、黄色染料を含んでいてもよいし、実質的に含んでいなくてもよい。すなわち、近赤外線カット層は、本実施形態のフィルムを兼ねていてもよいし、本実施形態のフィルムとは別にポリカーボネート樹脂を含む赤外線カット層を有していてもよい。
第一の実施形態の近赤外線カット層の厚みは、200μm以上であることが好ましく、250μm以上であることがより好ましく、また、600μm以下であることが好ましく、550μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましく、450μm以下であることが一層好ましく、400μm以下であることがより一層好ましく、350μm以下であることがさらに一層好ましい。
【0051】
特に、本実施形態のフィルムが偏光膜基材として用いられ、前記偏光膜基材の一方に近赤外線吸収剤を含む形態が好ましい。より具体的には、
図1の符号3の偏光膜基材が赤外線吸収剤を含む形態である。
【0052】
近赤外線カット層の第二の実施形態は、近赤外線吸収剤を含むハードコート層である。
ハードコート層の厚さは、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることがさらに好ましく、2.5μ以上であることが一層好ましく、3μm以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、ハードコート層による多層体全体の鉛筆硬度がより向上する傾向にある。ハードコート層の厚さの上限は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、12μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが一層好ましく、8μm以下であることがより一層好ましく、5μm以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、難燃性がより向上する傾向にある。
【0053】
ハードコート層は、熱硬化または活性エネルギー線による硬化が可能なハードコート材料を塗布後、硬化させて得られるものが好ましい。
活性エネルギー線を用いて硬化させる塗料の一例としては、1官能あるいは多官能(好ましくは2~10官能)の(メタ)アクリレートモノマーあるいはオリゴマーなどの単独あるいは複数からなる樹脂組成物が挙げられ、好ましくは、1官能あるいは多官能(好ましくは2~10官能)ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む樹脂組成物等が挙げられる。これらの樹脂組成物には、硬化触媒として光重合開始剤が加えられることが好ましい。
また、熱硬化型樹脂塗料としてはポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などのものが挙げられる。この様な樹脂組成物は、アクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂フィルムまたはシート用ハードコート剤として市販されているものもあり、塗装ラインとの適正を加味し、適宜選択すればよい。
ハードコート層としては、特開2013-020130号公報の段落0045~0055の記載、特開2018-103518号公報の段落0073~0076の記載、特開2017-213771号公報の段落0062~0082の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0054】
ハードコート層は、上記成分の他、光安定剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
また、本実施形態において、本実施形態のフィルムないし多層体は、熱曲げ成形用として適している。すなわち、本実施形態のフィルムないし多層体の使用例の一例は、フィルムないし多層体の熱曲げ成形体である。特に、本実施形態のフィルムないし多層体は熱曲げ加工した偏光シートに好ましく用いられる。
本実施形態のフィルムが偏光シートに用いられる場合、偏光膜のいずれの側に設けられていてもよい。好ましくは、本実施形態のフィルムは、熱曲げ加工後に、偏光膜の凸面側に位置するように、例えば、
図1の偏光膜基材4として配置され、近赤外線カット層は、偏光膜基材3として配置される。
また、近赤外線カット層は、偏光膜基材3とは別の層として設けられていてもよい。この場合、近赤外線カット層は、偏光膜2とレンズ1の間の何れかの位置に設けられることが好ましい。
【0056】
本実施形態において、偏光シートは、液晶表示装置に使用される偏光シート、偏光レンズ(サングラスレンズ、スキーゴーグル、度付き眼鏡レンズ、カメラ用ファインダーレンズ)、様々な計器のカバー、自動車のガラス、電車のガラス、車載用表示パネルや電子機器筐体等の偏光シート、車載用インナーミラー、ヘルメットなどのシルバーミラーとして好ましく用いられる。
【0057】
また、上述の通り、近赤外線カット層はハードコート層であってもよい。具体的には、ポリカーボネート樹脂層とアクリル樹脂層とハードコート層を前記順に有する多層体であって、ハードコート層が近赤外線カット層である形態も好ましい。
【実施例0058】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0059】
1.原料
以下の原料を用いた。
<ポリカーボネート樹脂(A)>
A1:ビスフェノールA型ポリカーボネートシート樹脂:三菱ガス化学株式会社製、S-3000
【0060】
<黄色染料(B)>
B1:Plast yellow 8000(C.I.:solvent yellow 93)、有本化学工業社製
B2:Plast yellow 8005(C.I.:solvent yellow 33)、有本化学工業社製
B3:KP Plast yellow F(C.I.:solvent yellow 104)、紀和化学工業社製
B4:KP Plast yellow MK(C.I.:solvent yellow 167)、紀和化学工業社製
【0061】
<紫外線吸収剤(C)>
C1:LA-31、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ADEKA社製
C2:LA-F70、トリアジン系紫外線吸収剤、ADEKA社製
【0062】
2.実施例1~5、比較例1~4
<フィルムの製造>
以下の方法でポリカーボネート樹脂フィルムを製造した。
表1または2に記載した各成分を、表1または2に記載の添加量(表1および2は質量部で示している)となるように計量した。その後、タンブラーにて15分間混合した後、バレル直径25mm、スクリューのL/D=30のベント付き二軸セグメント押出機(東洋精機社製、「2D30W2」)からなるTダイ溶融押出機を用いて、吐出量8Kg/h、スクリュー回転数100rpmの条件で、溶融状に押し出し、フィルム・シート引き取り装置(東洋精機社製、「FT3W20」)の第一ロールのみで冷却固化し、ポリカーボネート樹脂フィルムを作製した。シリンダー・ダイヘッド温度は280℃、ロール温度は130℃で行った。
最終的に得られるフィルム厚みの調整は、表1または表2に記載の厚みとなるように、第一ロールのロール速度を変更して行った。
【0063】
<波長400~420nmの平均光線透過率>
得られたポリカーボネート樹脂フィルムについて、波長400~420nmの平均光線透過率を測定した。
具体的には、分光光度計を用い、スキャンスピード300nm/min、サンプリング間隔1nmの条件で、フィルムの波長400~420nmにおける光線透過率(単位:%)を測定した。波長1nmごとの光線透過率の値から、平均値を算出した。
測定に際し、分光光度計U-4100(日立ハイテク社製)を用いた。
以下の通り区分けして評価した。
A:10%未満
B:10%以上
【0064】
<波長420nmの光線透過率>
得られたポリカーボネート樹脂フィルムについて、波長420nmの光線透過率を測定した。光線透過率の測定は上記波長250~400nmの平均光線透過率と同様に行った。単位は%で示した。
【0065】
<波長480nmの光線透過率>
得られたポリカーボネート樹脂フィルムについて、波長480nmの光線透過率を測定した。光線透過率の測定は上記波長250~400nmの平均光線透過率と同様に行った。
以下の通り区分けして評価した。
A:30%以上
B:30%未満
【0066】
<全光線透過率>
全光線透過率はJIS―K―7361に従い、得られたポリカーボネート樹脂フィルムの全光線透過率(単位:%)を測定した。
測定に際し、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所社製「HM-150」)を用いた。
【0067】
<耐候性試験後IR透過率(%)>
ユーピロンフィルム「DF02U」(三菱ガス化学社製、375μm)上にアイカアイトロン「Z-889-5」(アクリル系UV硬化型樹脂、セシウム酸化タングステン10質量%含有、アイカ工業社製)を硬化後厚みが8μmになるようにバーコーターを用いてアクリル側に塗工して、近赤外線カットフィルムを得た。
上記各実施例または比較例で製造されたポリカーボネート樹脂フィルムと近赤外線カットフィルムを照射側にポリカーボネート樹脂フィルムが位置するように重ねて下記条件にて耐候性試験を行った。
光学フィルター:Window B/SL
輻射量:1240kJ/m2
暗条件:38℃、95%RH、1時間
明条件:89℃、50%RH、3.8時間
試験時間:200時間
耐候性試験は、アイスーパーUVテスター(SUV-W262、岩崎電気社製)を用いて実施した。
耐候性試験前後の赤外線カットフィルムについて、波長780nmの光線透過率および耐候性試験前後の波長780nmの光線透過率の維持率は上記波長250~400nmの平均光線透過率と同様に行った。単位は%で示した。
【0068】
<b*値>
得られたポリカーボネート樹脂フィルムについて、b*値をJIS Z 8781-4に従い、分光測色計を用いて下記の条件で測定した。
測定方法:透過
正反射光処理:SCI
光源:D65
視野:2°
分光測色計は、日本電色工業社製「SD―7000」を用いた。
【0069】
【0070】
【0071】
上記結果から明らかなとおり、本実施形態のフィルムは、紫外線を効果的にカットしつつ、近赤外線カットフィルムと積層し、耐候性試験を行ったときに、近赤外線フィルムの劣化を効果的に抑制できた(実施例1~5)。
これに対し、黄色染料および紫外線吸収剤を配合しない場合や配合しても黄色染料の割合が少ない場合、紫外線をカットできなかった(比較例1、比較例2)。また、近赤外線カットフィルムと積層し、耐候性試験を行ったときに、近赤外線フィルムの劣化を十分に抑制できなかった。
一方、黄色染料の含有量が多い場合、黄色味を帯びてしまった(比較例3)。
さらに、黄色染料ではなく、紫外線吸収剤を配合した場合(比較例4)、近赤外線カットフィルムと積層し、耐候性試験を行ったときに、近赤外線フィルムの劣化を十分に抑制できなかった。