(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154106
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】光学フィルムの製造管理システム、光学フィルムの製造管理プログラム及び光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 11/00 20060101AFI20241023BHJP
B29C 41/24 20060101ALI20241023BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20241023BHJP
B29D 7/01 20060101ALI20241023BHJP
B29C 55/08 20060101ALI20241023BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20241023BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20241023BHJP
B29L 11/00 20060101ALN20241023BHJP
【FI】
B29D11/00
B29C41/24
G05B19/418 Z
B29D7/01
B29C55/08
G02B5/30
B29L7:00
B29L11:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067742
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川野 友輝
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 達也
(72)【発明者】
【氏名】石毛 秀和
(72)【発明者】
【氏名】島根 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】最上 尚行
(72)【発明者】
【氏名】中江 葉月
【テーマコード(参考)】
2H149
3C100
4F205
4F210
4F213
【Fターム(参考)】
2H149AA01
2H149AB26
2H149DB28
2H149FB05
2H149FD47
3C100AA22
3C100AA29
3C100BB27
3C100BB33
3C100CC02
4F205AC05
4F205AG01
4F205AH73
4F205AM19
4F205GA07
4F205GB02
4F205GC02
4F205GF01
4F205GF24
4F205GN24
4F210AG01
4F210AH73
4F210AJ08
4F210AM23
4F210AP11
4F210AP20
4F210AR11
4F210AR20
4F210QA02
4F210QC03
4F210QD25
4F210QG01
4F210QG18
4F210QL14
4F210QL15
4F210QL16
4F213AA03
4F213AA21
4F213AG01
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、製造時の損失を低減させた光学フィルムの製造管理システム、光学フィルムの製造管理プログラム及び光学フィルムの製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の光学フィルムの製造管理システムは、巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造管理システムであって、各々の前記原反フィルムの特性に関する情報取得部と、各々の前記原反フィルムの、少なくとも巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報抽出部と、抽出した少なくとも前記巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報処理部と、処理した少なくとも前記巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報に基づく、前記次工程での前記原反フィルムの投入についての順序決定部と、を有することを特徴とする。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造管理システムであって、
各々の前記原反フィルムの特性に関する情報取得部と、
各々の前記原反フィルムの、少なくとも巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報抽出部と、
抽出した少なくとも前記巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報処理部と、
処理した少なくとも前記巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報に基づく、前記次工程での前記原反フィルムの投入についての順序決定部と、を有する
ことを特徴とする光学フィルムの製造管理システム。
【請求項2】
前記特性に関する情報が、少なくとも長手方向における、各々の前記原反フィルムに含有される樹脂分子の配向に関する情報である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【請求項3】
前記次工程が、投入された前記原反フィルムを延伸する工程を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【請求項4】
前記情報処理部が、少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報の差分が、閾値を超えるか否かに基づいて、前記原反フィルムを振り分ける機能を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【請求項5】
前記情報処理部が、少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から類似度を算出する機能を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【請求項6】
前記順序決定部が、前記原反フィルムの幅方向の位置における厚さの標準偏差に基づいて、前記次工程で前記原反フィルムを投入する順序を調整する機能を有する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【請求項7】
前記順序決定部が、投入する一つ前の前記原反フィルムの巻内側の前記幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ1、投入する前記原反フィルムの巻外側の前記幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ2としたとき、下記式(1)を満たすよう、調整する
ことを特徴とする請求項6に記載の光学フィルムの製造管理システム。
式(1) |σ1-σ2|/σ1≦0.05
【請求項8】
前記光学フィルムの製造管理システムが、取得された前記樹脂分子の配向に関する情報、抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報、又は処理された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から、延伸条件又は延伸率の調整の可否、及び次工程の所要時間を判断する機能を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【請求項9】
前記光学フィルムの製造管理システムが、延伸速度、延伸温度又は前記延伸率を決定する機能を有する
ことを特徴とする請求項8に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【請求項10】
巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造管理プログラムであって、
少なくとも長手方向における、各々の前記原反フィルムに含有される樹脂分子の配向に関する情報を取得させ、
各々の前記原反フィルムの、少なくとも巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報を抽出させ、
抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報に基づいて処理させ、
処理された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報に基づいて、前記次工程における前記原反フィルムの投入についての順序を決定させる
ことを特徴とする光学フィルムの製造管理プログラム。
【請求項11】
抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から類似度を算出させる
ことを特徴とする請求項10に記載の光学フィルムの製造管理プログラム。
【請求項12】
巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造方法であって、
少なくとも長手方向における、各々の前記原反フィルムに含有される樹脂分子の配向に関する情報を取得する工程と、
各々の前記原反フィルムの、少なくとも巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報を抽出する工程と、
抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報に基づいて処理する工程と、
処理された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報に基づいて、前記次工程における前記原反フィルムの投入についての順序を決定する工程と、を有する
ことを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記次工程が、投入された前記原反フィルムを延伸する工程を含む
ことを特徴とする請求項12に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記処理する工程が、少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報の差分が、閾値を超えるか否かに基づいて、前記原反フィルムを振り分ける工程を有する
ことを特徴とする請求項12に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記処理する工程が、少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から類似度を算出する工程を有する
ことを特徴とする請求項12に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記順序を決定する工程が、前記原反フィルムの幅方向の位置における厚さの標準偏差に基づいて、前記次工程で前記原反フィルムを投入する順序を調整する工程を有する
ことを特徴とする請求項12に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記順序を決定する工程が、投入する一つ前の前記原反フィルムの巻内側の前記幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ1、投入する前記原反フィルムの巻外側の前記幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ2としたとき、下記式(1)を満たすよう、調整する工程を有する
ことを特徴とする請求項16に記載の光学フィルムの製造方法。
式(1) |σ1-σ2|/σ1≦0.05
【請求項18】
前記光学フィルムの製造方法が、取得された前記樹脂分子の配向に関する情報、抽出された少なくとも巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報、又は処理された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から、延伸条件又は延伸率の調整の可否、及び次工程の所要時間を判断する工程を有する
ことを特徴とする請求項12に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項19】
前記光学フィルムの製造方法が、延伸速度、延伸温度又は前記延伸率を決定する工程を有する
ことを特徴とする請求項18に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造管理システム、光学フィルムの製造管理プログラム及び光学フィルムの製造方法に関する。より詳しくは、製造時の損失を低減させた光学フィルムの製造管理システム等を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置等の光学機器は、その用途拡大により、取り扱う品種が多様化している。これに伴い、光学機器に具備される光学フィルムも多種多様化しており、少量多品種製造への対応が求められている。少量多品種の光学フィルムを製造する方法の一つとしては、原反フィルムを作製し、原反フィルムに適当な加工を施すことで、所望の光学フィルムを製造する方法が挙げられる。
【0003】
しかし、原反フィルムに施す加工では、加工条件における設定値のわずかな変動により、光学フィルムの特性に大きく差が生じる。そして、光学フィルムの特性が、製品としての許容範囲を超えてしまうと、製品化できず損失が出てしまう。そのため、加工条件は、精細に管理する必要がある。また、同一の条件で作製した原反フィルムであっても、作製時の設備トラブルや環境変化により、原反フィルムの特性にムラが生じる場合がある。この場合、最終的に得られる光学フィルムの特性を均一化させ、許容範囲内とするためには、原反フィルムの特性に応じて、加工条件を細かく制御する必要がある。
【0004】
従来の方法では、原材料を調整可能な範囲で管理したり、加工工程の効率化を実現したりしても、原材料の加工順序によって生じる加工工程への負荷が考慮されていなかった。
特に、フィルム加工のために延伸を行う場合には数百m3から数千m3に及ぶ延伸室内の温度を制御する必要がある。局所加熱装置を使用するにしても、温度が安定化するまでのハンチングが生じる。また、制御のフィードバックが間に合わない又は頻繁になる。これにより、かえって変動が増加し品質が不安定化することが判明した。
【0005】
フィルムの膜厚には微妙な差異があるため、該当部位の局所加熱が必要である。この場合も、急激に条件を変更すると、雰囲気温度や、加熱機器の温度管理制御フィードバックによる影響で、製品品質を満たすことができるようになるまで多大なロスが発生することが判明した。
【0006】
基材フィルム上に重合性高分子を塗布し、重合性高分子を配向させたまま重合させるには、塗布の下地となる基材フィルムの配向により、塗布加工する条件を微調整する必要がある。そのため、調整可能な範囲で基材となるフィルムを投入していく必要がある。
基材フィルム上に配向層を塗布して液晶層を設ける場合でも、配向層を作製するためにパターン配向層を形成する。そのため、基材となるフィルムによる影響を事前に読み込んで補正することが求められる。
【0007】
例えば、特開2017-111267号公報や国際公開第2020/110817号で示されているように、配向層の形成時の配向の制御については、基材フィルムにおける接触角の制御も重要である。接触角は、基材フィルムに含有される樹脂の配向や、基材フィルムの表面形状のムラによる影響を大きく受ける。
【0008】
フィルムの生産効率を向上させる技術としては、下記の技術が開示されている。
特許文献1では、セルロースエステルフィルムの製造において、原材料のセルロースエステルの置換度、粘度等の特性を基準として、フィルムに加工を施す順番を制御する技術が開示されている。
【0009】
特許文献2では、素材を加工して製品を生産する方法において、加工の経路の類似度によって対処を分類する。そして、類似度の高いものをまとめて生産する生産管理システムについての技術が開示されている。
【0010】
しかし、これらの技術は、上記の少量多品種の光学フィルムの製造方法に適用できる技術ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009-172772号公報
【特許文献2】特開2020-166548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、製造時の損失を低減させた光学フィルムの製造管理システム、光学フィルムの製造管理プログラム及び光学フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造管理システムにおいて、各々の前記原反フィルムの特性に関する情報取得部と、各々の前記原反フィルムの巻内側と巻外側の特性に関する情報抽出部と、抽出した前記巻内側と巻外側の前記特性に関する情報処理部と、処理した前記巻内側と巻外側の前記特性に関する情報に基づく、前記次工程での前記原反フィルムの投入についての順序決定部と、を有することにより、製造時の損失を低減できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0014】
1.巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造管理システムであって、
各々の前記原反フィルムの特性に関する情報取得部と、
各々の前記原反フィルムの、少なくとも巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報抽出部と、
抽出した少なくとも前記巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報処理部と、
処理した少なくとも前記巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報に基づく、前記次工程での前記原反フィルムの投入についての順序決定部と、を有する
ことを特徴とする光学フィルムの製造管理システム。
【0015】
2.前記特性に関する情報が、少なくとも長手方向における、各々の前記原反フィルムに含有される樹脂分子の配向に関する情報である
ことを特徴とする第1項に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【0016】
3.前記次工程が、投入された前記原反フィルムを延伸する工程を含む
ことを特徴とする第1項に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【0017】
4.前記情報処理部が、少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報の差分が、閾値を超えるか否かに基づいて、前記原反フィルムを振り分ける機能を有する
ことを特徴とする第2項に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【0018】
5.前記情報処理部が、少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から類似度を算出する機能を有する
ことを特徴とする第2項に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【0019】
6.前記順序決定部が、前記原反フィルムの幅方向の位置における厚さの標準偏差に基づいて、前記次工程で前記原反フィルムを投入する順序を調整する機能を有する
ことを特徴とする第1項又は第2項に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【0020】
7.前記順序決定部が、投入する一つ前の前記原反フィルムの巻内側の前記幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ1、投入する前記原反フィルムの巻外側の前記幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ2としたとき、下記式(1)を満たすよう、調整する
ことを特徴とする第6項に記載の光学フィルムの製造管理システム。
式(1) |σ1-σ2|/σ1≦0.05
【0021】
8.前記光学フィルムの製造管理システムが、取得された前記樹脂分子の配向に関する情報、抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報、又は処理された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から、延伸条件又は延伸率の調整の可否、及び次工程の所要時間を判断する機能を有する
ことを特徴とする第2項に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【0022】
9.前記光学フィルムの製造管理システムが、延伸速度、延伸温度又は前記延伸率を決定する機能を有する
ことを特徴とする第8項に記載の光学フィルムの製造管理システム。
【0023】
10.巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造管理プログラムであって、
少なくとも長手方向における、各々の前記原反フィルムに含有される樹脂分子の配向に関する情報を取得させ、
各々の前記原反フィルムの、少なくとも巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報を抽出させ、
抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報に基づいて処理させ、
処理された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報に基づいて、前記次工程における前記原反フィルムの投入についての順序を決定させる
ことを特徴とする光学フィルムの製造管理プログラム。
【0024】
11.抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から類似度を算出させる
ことを特徴とする第10項に記載の光学フィルムの製造管理プログラム。
【0025】
12.巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造方法であって、
少なくとも長手方向における、各々の前記原反フィルムに含有される樹脂分子の配向に関する情報を取得する工程と、
各々の前記原反フィルムの、少なくとも巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報を抽出する工程と、
抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報に基づいて処理する工程と、
処理された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報に基づいて、前記次工程における前記原反フィルムの投入についての順序を決定する工程と、を有する
ことを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0026】
13.前記次工程が、投入された前記原反フィルムを延伸する工程を含む
ことを特徴とする第12項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0027】
14.前記処理する工程が、少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報の差分が、閾値を超えるか否かに基づいて、前記原反フィルムを振り分ける工程を有する
ことを特徴とする第12項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0028】
15.前記処理する工程が、少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から類似度を算出する工程を有する
ことを特徴とする第12項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0029】
16.前記順序を決定する工程が、前記原反フィルムの幅方向の位置における厚さの標準偏差に基づいて、前記次工程で前記原反フィルムを投入する順序を調整する工程を有する
ことを特徴とする第12項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0030】
17.前記順序を決定する工程が、投入する一つ前の前記原反フィルムの巻内側の前記幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ1、投入する前記原反フィルムの巻外側の前記幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ2としたとき、下記式(1)を満たすよう、調整する工程を有する
ことを特徴とする第16項に記載の光学フィルムの製造方法。
式(1) |σ1-σ2|/σ1≦0.05
【0031】
18.前記光学フィルムの製造方法が、取得された前記樹脂分子の配向に関する情報、抽出された少なくとも巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報、又は処理された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から、延伸条件又は延伸率の調整の可否、及び次工程の所要時間を判断する工程を有する
ことを特徴とする第12項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0032】
19.前記光学フィルムの製造方法が、延伸速度、延伸温度又は前記延伸率を決定する工程を有する
ことを特徴とする第18項に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明の上記手段により、製造時の損失を低減させた光学フィルムの製造管理システム、光学フィルムの製造管理プログラム及び光学フィルムの製造方法を提供することができる。
【0034】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0035】
原反フィルムに適当な加工を施し、所望の光学フィルムを製造する方法では、原反フィルムの特性に応じて、加工条件を細かく制御することが好ましい。加工条件の調整の幅が微小であれば、比較的短時間で対応できる。しかし、調整の幅が大きいと、短時間で対応できず、原反フィルムの加工時間に加えて、加工条件の調整の時間を要する。また、調整が不十分な状態で加工すると、光学フィルムの特性が、製品としての許容範囲を超えてしまい、製品化できず損失となってしまう。そのため、加工条件の調整の幅を、できる限り小さくすることが好ましい。
【0036】
連続する原反フィルムでは、作製時の設備トラブルや環境変化により、原反フィルムの特性にムラが生じても、その特性のムラは連続的に変化する。そのため、加工条件の調整も連続的、すなわち、微小な調整の幅となり、比較的短時間で対応できる。しかし、原反フィルムを作製した後、保管し、その後、必要時に原反フィルムに加工を施して最終製品とする製造方法では、適当な量で原反フィルムを切断し保管する必要がある。
【0037】
具体的には、原反フィルムを作製した後、ロール状に巻き取り保管する。
図14は、ロール状に巻き取った原反フィルムを加工する一連の工程の説明図である。
連続する原反フィルムを、A点、B点、C点及びD点で切断し、矢印の方向に、ロール状に巻き取る。原反フィルムは、ロール1、2、3の順で巻き取られる。
【0038】
A点で切断して形成されたロール1の端部をA1、B点で切断して形成されたロール1の端部をB1とすると、端部A1がロールの内側に配置され、端部B1がロールの外側に配置される。同様に、ロール2では、端部B2が内側に配置され、端部C2が外側に配置される。ロール3では、端部C3が内側に配置され、端部D3が外側に配置される。
【0039】
次に、ロール1、2、3の順に、原反フィルムをロールから引き出し、原反フィルムを加工する。このとき、ロールの外側から内側へ、すなわち、端部B1から端部A1へ順に加工される。同様に、ロール2では、端部C2から端部B2へ順に、ロール3では、端部D3から端部C3へ順に、加工される。
【0040】
ロール1、2、3の順に連続して加工すると、端部A1と連続して端部C2を、端部B2と連続して端部D3を、加工することになる。しかし、端部A1及びC2は、それぞれ、A点及びC点で切断して形成される端部であり、元の原反フィルムにおいて非連続な箇所である。そのため、端部A1とC2とにおける原反フィルムの特性には、差異が生じやすく、その差異に対応する加工条件の調整の幅も大きくなり、製造効率が低下すると考えられる。
【0041】
本発明では、巻き取られる原反フィルムの、巻内側と巻外側の端部の特性に関する情報を集積しておく。そして、連続して加工される二つの端部において、その特性に大きな差異が生じないよう、集積した情報に基づいて、原反フィルムのロールの製造(加工)の順を決定する。すなわち、N番目に加工する原反フィルムのロールは、その巻外側の端部が、N-1番目に加工する原反フィルムのロールの巻内側の端部と、比較的近い特性を有するものに決定する。これにより、加工条件の調整の幅をより小さくでき、調整が十分な状態で加工しやすくなるため、製造時の損失を低減できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】凸部と幅手方向の膜厚プロファイルとの関係図
【
図2】原反フィルムの作製工程の流れを示すフローチャート
【
図3】溶液流延製膜法によって原反フィルムを作製する装置の概略図
【
図4】凸部を長手方向に連続的に移動するように配置及び調整することを示す模式図 (a)直線的に凸部を連続的に配置及び調整することを示す模式図(b)直線的に凸部を連続的に配置及び調整することを示す模式図(c)曲線に沿って配置及び調整することを示す模式図
【
図5】凸部の位置のプロット図と近似直線の関係を表す図
【
図6】赤外線ヒーターの配列を表す図 (a)赤外線ヒーターが、フィルムの長手方向に1列で配置された図(b)赤外線ヒーターが、フィルムの長手方向に2列で配置された図(c)赤外線ヒーターが、フィルムの長手方向に5列で配置された図
【
図7】(a)各熱源部が、長手方向となす直線の平均傾きを表す図(b)各熱源部が、長手方向となす直線の平均傾きを表す図
【
図8】テンター延伸装置を、フィルムの面に垂直な面で上側から見た断面図
【
図9】テンター延伸装置内の3つのゾーンを、正面から見たときのノズルとヒーター設置部分の概略図
【
図10】テンター延伸装置内の3つのゾーンの側面図
【
図11】テンター延伸装置を、フィルムの面に垂直な面で上側から見た断面図
【
図12】原反フィルムが巻き取られる工程と、巻き取られた後の原反のフィルムロールの断面を示す概略図
【
図13】溶融流延製膜法によって原反フィルムを作製する装置の概略構成図
【
図14】ロール状に巻き取った原反フィルムを加工する一連の工程の説明図
【
図15】巻き取って切断する前の原反フィルムについての、長手方向における位置と樹脂配向度の関係図
【
図16】原反フィルムのロールを作製した順に加工を施す場合の、加工時間と樹脂配向度の関係図
【
図17】本発明の光学フィルムの製造管理システムのフロー図
【
図18】位相差Ro及びRthの測定点の一例の説明図
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の光学フィルムの製造管理システムは、巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造管理システムであって、各々の前記原反フィルムの特性に関する情報取得部と、各々の前記原反フィルムの、少なくとも巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報抽出部と、抽出した少なくとも前記巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報処理部と、処理した少なくとも前記巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報に基づく、前記次工程での前記原反フィルムの投入についての順序決定部と、を有することを特徴とする。
この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0044】
本発明の実施形態としては、原反フィルムを加工する際の効果発現の観点から、前記特性に関する情報が、少なくとも長手方向における、各々の前記原反フィルムに含有される樹脂分子の配向に関する情報であることが好ましい。
【0045】
本発明の実施形態としては、原反フィルムを同一の加工工程で連続的に加工する観点から、前記次工程が、投入された前記原反フィルムを延伸する工程を含むことが好ましい。
【0046】
本発明の実施形態としては、製造時の損失を低減する観点から、前記情報処理部が、少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報の差分が、閾値を超えるか否かに基づいて、前記原反フィルムを振り分ける機能を有することが好ましい。
【0047】
本発明の実施形態としては、延伸する工程での原反切り替えに伴う条件調整を行うことによる製造時の損失を低減する観点から、前記情報処理部が、少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から類似度を算出する機能を有することが好ましい。
【0048】
本発明の実施形態としては、局所的な調整を行う際の製造時の損失を低減する観点から、前記順序決定部が、前記原反フィルムの幅方向の位置における厚さの標準偏差に基づいて、前記次工程で前記原反フィルムを投入する順序を調整する機能を有することが好ましい。
【0049】
本発明の実施形態としては、製造時の損失を低減する観点から、前記順序決定部が、投入する一つ前の前記原反フィルムの巻内側の前記幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ1、投入する前記原反フィルムの巻外側の前記幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ2としたとき、上記式(1)を満たすよう、調整することが好ましい。
【0050】
本発明の実施形態としては、製造時の損失を低減する観点から、前記光学フィルムの製造管理システムが、取得された前記樹脂分子の配向に関する情報、抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報、又は処理された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から、延伸条件又は延伸率の調整の可否、及び次工程の所要時間を判断する機能を有することが好ましい。
【0051】
本発明の実施形態としては、製造時の損失を低減する観点から、前記光学フィルムの製造管理システムが、延伸速度、延伸温度又は前記延伸率を決定する機能を有することが好ましい。
【0052】
本発明の光学フィルム製造管理プログラムは、巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造管理プログラムであって、少なくとも長手方向における、各々の前記原反フィルムに含有される樹脂分子の配向に関する情報を取得させ、各々の前記原反フィルムの、少なくとも巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報を抽出させ、抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報に基づいて処理させ、処理された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報に基づいて、前記次工程における前記原反フィルムの投入についての順序を決定させることを特徴とする。
【0053】
本発明の実施形態としては、製造時の損失を低減する観点から、抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から類似度を算出させることが好ましい。
【0054】
本発明の光学フィルムの製造方法は、巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造方法であって、少なくとも長手方向における、各々の前記原反フィルムに含有される樹脂分子の配向に関する情報を取得する工程と、各々の前記原反フィルムの、少なくとも巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報を抽出する工程と、抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報に基づいて処理する工程と、処理された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報に基づいて、前記次工程における前記原反フィルムの投入についての順序を決定する工程と、を有することを特徴とする。
【0055】
本発明の実施形態としては、原反フィルムを同一の加工工程で連続的に加工する観点から、前記次工程が、投入された前記原反フィルムを延伸する工程を含むことが好ましい。
【0056】
本発明の実施形態としては、製造時の損失を低減する観点から、前記処理する工程が、少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報の差分が、閾値を超えるか否かに基づいて、前記原反フィルムを振り分ける工程を有することが好ましい。
【0057】
本発明の実施形態としては、延伸する工程での原反切り替えに伴う条件調整を行うことによる製造時の損失を低減する観点から、前記処理する工程が、少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から類似度を算出する工程を有することが好ましい。
【0058】
本発明の実施形態としては、局所的な調整を行う際の製造時の損失を低減する観点から、前記順序を決定する工程が、前記原反フィルムの幅方向の位置における厚さの標準偏差に基づいて、前記次工程で前記原反フィルムを投入する順序を調整する工程を有することが好ましい。
【0059】
本発明の実施形態としては、製造時の損失を低減する観点から、前記順序を決定する工程が、投入する一つ前の前記原反フィルムの巻内側の前記幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ1、投入する前記原反フィルムの巻外側の前記幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ2としたとき、上記式(1)を満たすよう、調整する工程を有することが好ましい。
【0060】
本発明の実施形態としては、製造時の損失を低減する観点から、前記光学フィルムの製造方法が、取得された前記樹脂分子の配向に関する情報、抽出された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報、又は処理された少なくとも前記巻内側又は巻外側における前記樹脂分子の配向に関する情報から、延伸条件又は延伸率の調整の可否、及び次工程の所要時間を判断する工程を有することが好ましい。
【0061】
本発明の実施形態としては、製造時の損失を低減する観点から、前記光学フィルムの製造方法が、延伸速度、延伸温度又は前記延伸率を決定する工程を有することが好ましい。
【0062】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態及び態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0063】
1.光学フィルムの製造管理システムの概要
本発明の光学フィルムの製造管理システムは、巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造管理システムであって、各々の前記原反フィルムの特性に関する情報取得部と、各々の前記原反フィルムの、少なくとも巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報抽出部と、抽出した少なくとも前記巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報処理部と、処理した少なくとも前記巻内側又は巻外側の前記特性に関する情報に基づく、前記次工程での前記原反フィルムの投入についての順序決定部と、を有することを特徴とする。
【0064】
以下、「光学フィルムの製造管理システム」のことを、単に、「システム」ともいう。
【0065】
本発明の「光学フィルムの製造管理システム」は、光学フィルムの製造を管理する各工程で、必要な手段要素として用いられる、所定の機能を有する機器又は装置等の集合体のことをいう。そして、これら全体として、光学フィルムの製造を管理する機能を果たす。各手段要素は、それぞれ離れた異なる場所に個別に配置してもよい。また、一つの装置として、一定の空間に集めて配置し、システム装置としてもよい。
【0066】
本発明のシステムは、各種情報を電子的データとして記録又は保存する手段、及び当該電子的データを無線通信する手段を備えてもよい。例えば、Bluetooth(登録商標)やWi-Fi(登録商標)等の無線通信により、情報処理手段とデータ送受信を行うための無線インターフェースを有する形態であることも好ましい。
【0067】
本発明において、「原反フィルム」とは、次工程での加工を施す前のフィルムのことをいう。また、「光学フィルム」とは、原反フィルムを加工して得られるフィルムであり、かつ、光学機能を有する、及び光学機器の部材として用いられるフィルムのことをいう。
【0068】
本発明においては、巻き取られた複数の原反フィルムに、次工程で加工を施し、光学フィルムを製造する。ここで、巻き取られる原反フィルムの、巻内側と巻外側の端部の特性に関する情報を集積しておく。そして、集積した情報に基づいて、原反フィルムのロールの製造(加工)の順を決定する。これにより、加工条件の調整の幅をより小さくでき、調整が十分な状態で加工しやすくなるため、製造時の損失を低減できる。
【0069】
以下、原反フィルムの特性の近さを表す指標として、例えば、「類似度」を用いる場合について説明する。ただし、本発明は、これに制限されず、原反フィルムの特性の近さは、その他の指標で表してもよい。その他の指標も、類似度と同様に扱うことができる。
【0070】
本発明において、「類似度」とは、対比するフィルムが有する特性値(例えば、位相差値、屈折率、光透過率、表面粗さ等)の測定値に基づく統計的解析値(平均値、標準偏差値等)の差異の大きさの程度すなわち近似度をいう。
【0071】
具体的には、例えば対比する原反フィルムの少なくとも長手方向又は幅手方向において、無作為的又は一定の間隔で選んだ複数の箇所(n箇所)について位相差値を測定する。次いで、それぞれの原反フィルムにおける位相差値の平均値及び当該平均値からのバラツキ具合すなわち標準偏差値を算出する。そして、このようにして得られた各原反フィルムについての位相差値の平均値の差異の程度(近似度)と標準偏差値の差異の程度(近似度)を評価する。そして、N-1番目の原反フィルムと、N番目の投入候補のフィルムを、連続して加工すると仮定し、原反フィルムの接続部分について、類似度を評価する。
【0072】
本発明では、各原反フィルム間での平均値の差分が、-5%~+5%の範囲内で一致しており、かつ標準偏差値が0.5以下であれば、類似度として実用的に許容されるレベルであると判断する。
差分がこの範囲を外れる原反フィルムは類似度判定をせずに候補から外されることが望ましい。
また、各原反フィルムについて、それぞれ、類似度を算出し、類似度の値の小さい順に原反フィルムを並べることが好ましい。
「類似度」の詳細については、後述する。
【0073】
フィルムの生産効率を向上させる従来技術としては、前述のとおり、調整可能な範囲での原材料の管理や、加工工程の効率化により実現してきた。しかし、原反フィルムを加工して所望の光学フィルムを製造する場合において、原反フィルムの加工の順序による品質への負荷については、十分検討されていなかった。
【0074】
図15は、巻き取って切断する前の原反フィルムについての、長手方向における位置と樹脂配向度の関係図である。
図15のグラフの横軸は、長手方向における位置を表す。横軸の矢印の方向に、原反フィルムを巻き取り、点線で切断すると仮定する。また、
図15のグラフの縦軸は、樹脂の配向度を表す。
【0075】
例えば、原反フィルムのロールNo.1は、比較的樹脂の配向度の低い方の端部を巻内側とし、比較的樹脂の配向度の高い方の端部を巻外側とする。同様に、ロールNo.2~9も、比較的樹脂の配向度の低い方の端部を巻内側とし、比較的樹脂の配向度の高い方の端部を巻外側とする。ここで、例えば、ロールNo.1の巻外側の樹脂の配向度と、ロールNo.2の巻内側の樹脂の配向度は、極めて近い値であることがわかる。このようにして、連続する原反フィルムを切断して9つのロールを作製する。
【0076】
図16は、原反フィルムのロールを作製した順に加工を施す場合の、加工時間と樹脂の配向度の関係図である。
図16のグラフの横軸は、時間(加工時間)を表し、縦軸は、樹脂の配向度を表す。
【0077】
例えば、ロールNo.1では、巻外側から巻内側にかけて順に加工を施す。つまり、比較的樹脂の配向度の高い方の端部から加工し、比較的樹脂の配向度の低い方の端部で加工を終える。同様に、ロールNo.2~9も、比較的樹脂の配向度の高い方の端部から加工し、比較的樹脂の配向度の低い方の端部で加工を終える。
【0078】
ここで、例えば、ロールNo.2の加工からロールNo.3の加工へ移るとき、グラフ内の太い矢印で示すように、樹脂の配向度に大きな差異が生じる。そのため、原反フィルムのロールを作製した順で、ロールに加工を施そうとすると、ロールが変わる際に、加工条件の大幅な調整が必要になる。そして、調整の幅が大きいと製造効率が低下してしまう。
【0079】
例えば、原反フィルムを延伸加工する場合、数百m3から数千m3に及ぶ延伸室内の温度を制御する必要がある。しかし、広い延伸室では、加熱温度が安定化せず目標温度付近で上下(ハンチング)することある。
【0080】
また、延伸室内の状況をリアルタイムで取得し、それに基づいて温度を制御する方法がある。これを、「フィードバック制御」という。広い延伸室でのフィードバック制御では、制御が間に合わない、また、頻繁に温度を制御する必要があり、かえって、温度の変動が増大することがわかった。そして、温度の変動が増大すると、品質が不安定化することがわかった。
【0081】
さらに、原反フィルムの厚さは、原反フィルムのロール内において、微妙な差異があるため、該当部位を局所的に加熱処理することが好ましい。局所的な加熱においても、急激に温度を変化させ、雰囲気温度や加熱機器の温度の管理をフィードバック制御しようとすると、制御が間に合わない。そして、品質が不安定化することがわかった。
【0082】
その他、原反フィルムに塗布加工する場合が挙げられる。中でも、原反フィルムに液晶高分子を塗布する場合、液晶高分子の配向を調整する必要がある。しかし、液晶高分子の配向は、下地となる原反フィルムの樹脂分子の配向に影響を受けるため、原反フィルムの配向情報に基づいて、塗布条件を制御する必要がある。この塗布加工についても、原反フィルムの配向情報に基づいて、フィードバック制御し、急激に塗布条件を変化させると、品質が不安定化することがわかった。
【0083】
すなわち、延伸加工においても、塗布加工においても、加工条件の調整の幅を小さくすることにより、品質をより安定化できると考えられる。
【0084】
本発明では、原反フィルムを作製した時点で、まず、各々の原反フィルムの特性に関する情報を取得する。次に、各々の原反フィルムの巻内側と巻外側の特性に関する情報を抽出する。そして、抽出した巻内側と巻外側の特性に関する情報を処理し、得られるN-1番目の原反フィルムの巻内側とN番目の候補の原反フィルムの巻外側の類似度を得ることが好ましい。
【0085】
図17は、本発明の光学フィルムの製造管理システムのフロー図である。
まず、原反フィルムの特性に関する情報を取得し、データーベースに保管しておく。
次に、N-1番目の原反フィルムの特性に関する情報を、データーベースから取り出し、基準値として設定する。そして、N-1番目の原反フィルムの特性に関する情報から、巻内側の特性に関する情報を抽出する。
【0086】
一方、貯蔵プールから、特性に関する情報が、上記基準値の近傍である原反フィルムを抽出し、選別候補プールに仕分ける。なお、ここでの近傍は、基準値に比較的近い値であればよく、適宜設定できる。次に、選別候補プール内の各々の原反フィルムの巻外側の特性に関する情報を抽出する。
【0087】
そして、抽出したN-1番目の原反フィルムの巻内側の特性に関する情報と、選別候補プール内の各々の原反フィルムの巻外側の特性に関する情報から、類似度を得る。
【0088】
特性の類似性が高い(類似度がより0に近い)原反フィルムを複数本選択する。そのうち、N-1番目の原反フィルムと配向情報が最も近いものをN番目に決定する。
そして、一連の工程を繰り返し、原反フィルムの投入の順序を決定する。
なお、候補から外れた原反フィルムは、再び貯蔵プールへ戻す。
【0089】
2.光学フィルムの製造管理システムの構成
本発明のシステムは、下記(1)~(4)を有する。
(1)各々の原反フィルムの特性に関する情報取得部
(2)各々の原反フィルムの巻内側と巻外側の特性に関する情報抽出部
(3)抽出した巻内側と巻外側の特性に関する情報処理部
(4)処理した巻内側と巻外側の特性に関する情報に基づく、次工程での原反フィルムの投入についての順序決定部
また、必要に応じて、下記(5)~(6)の機能を有する。
(5)延伸条件又は延伸率の調整の可否、及び次工程の所要時間を判断する機能
(6)延伸速度、延伸温度又は前記延伸率を決定する機能
【0090】
以下、順に説明する。
なお、各部分及び機能の詳細については、後述の光学フィルムの製造方法にて説明する
【0091】
(1)情報取得部
本発明において、「情報取得部」とは、各々の原反フィルムの特性に関する情報を取得する機能を有する部分のことをいう。つまり、この部分では、各々の原反フィルムから、特性に関する情報を取得する。
【0092】
「原反フィルムの特性に関する情報」には、原反フィルムの特性そのものの情報に加え、その特性に対応して変化する情報も含まれる。具体的には、原反フィルムが含有する樹脂分子の配向の情報や、原反フィルムの表面粗さ、厚さ、屈折率、光透過率等が挙げられる。つまり、情報取得部では、原反フィルムの物性等を測定する。
【0093】
測定は、原反フィルムを作製し、巻き取るまでの間に行うことが好ましい。また、測定は、長手方向又は幅手方向に、特定の範囲内の間隔で、連続的に行うことが好ましい。なお、間隔は、特定の範囲内であれば、一定でなくてもよい。
原反フィルムにおける各種測定は、従来公知の方法を用いることができる。
また、原反フィルムにおける各種測定は、同一条件で行う。
【0094】
(1.1)位相差の測定
樹脂分子の配向の情報を取得する方法は、特に制限されない。一例として、位相差(リターデーション)を測定する方法が挙げられる。以下、原反フィルムが含有する樹脂分子の配向の情報のことを、単に、「配向情報」ともいう。
【0095】
面内方向における位相差を、「面内位相差(Ro)」、厚さ方向における位相差を、「厚さ方向位相差(Rth)」という。
【0096】
Ro及びRthは、それぞれ下記式で定義される。
式:Ro=(nx-ny)×d
式:Rth=((nx+ny)/2-nz)×d
式中、
nxは、原反フィルムの面内遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率を表し、
nyは、原反フィルムの面内遅相軸に直交する方向の屈折率を表し、
nzは、原反フィルムの厚さ方向の屈折率を表し、
dは、原反フィルムの厚さ(nm)を表す。
【0097】
原反フィルムの面内遅相軸は、例えば、自動複屈折率計アクソスキャン「Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter」(アクソメトリックス社製)により確認できる。
【0098】
Ro及びRthは、例えば、以下の方法で測定できる。
なお、原反フィルムを作製し、巻き取るまでの間に測定することが好ましい。
1)原反フィルムを23℃・55%RHの環境下で24時間調湿する。原反フィルムの平均屈折率は、アッベ屈折計で測定する。また、厚さdは、市販のマイクロメーターを用いて測定する。
2)調湿後のフィルムの、測定波長550nmにおけるRo及びRthを、それぞれ、自動複屈折率計アクソスキャン「Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter」(アクソメトリックス社製)を用いて、23℃55%RHの環境下で測定する。
【0099】
Ro及びRthは、その他、例えば、インラインリターデーション・膜厚測定装置「RE-200L2T-Rth+膜厚」(大塚電子(株)製)を用いて測定してもよい。
【0100】
原反フィルムの、生産方向および幅方向の位相差の測定方法は、特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0101】
(1.1.1)長手方向(生産方向)における位相差の測定
本発明において、「生産方向」とは、原反フィルムの長手方向のことをいう。
原反フィルムの端から生産方向に10m以上の領域を、幅手方向に、任意の間隔で位相差を測定する。
【0102】
生産方向への測定間隔は、生産方向に対して、5~600mmの範囲内であることが好ましく、10~300mmの範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、局所的に位相差が変化している箇所の見落としを防げる。
また、幅手方向に、任意の一点のみではなく、複数の測定を行う場合は、測定回数毎の幅手方向の平均値を算出する。そして、長手方向の位相差として簡易処理のために用いてもよい。詳しくは、後述する。
測定間隔は、必ずしも一定である必要はない。
【0103】
測定手順としては、例えば、幅手方向に、任意の間隔で位相差を測定する。次に、生産方向に移動し、再度、幅手方向に、任意の間隔で位相差を測定する。これを繰り返す。
【0104】
位相差は、一つの測定点につき、複数回測定することが好ましい。例えば、各測定点につき、100回ずつ位相差を測定し、その算術平均値を算出する。
【0105】
図18は、位相差Ro及びRthの測定点の一例の説明図である。
図18を用いて、長手方向における位相差の測定方法の一例を説明する。ただし、本発明は、これに制限されない。
なお、
図18では、理解しやすくするため簡略化しており、測定点を6点としているが、実際には、測定点はこれより多いことが好ましい。
【0106】
点線L1及びL2は、長手方向に平行な直線である。点線La、Lb及びLcは、幅手方向に平行な直線である。点線La、Lb及びLc上にある点は、それぞれ、長手方向a、b及びcの位置に配置されている。
測定点Pa2、Pa1の順に、幅手方向に位相差を測定する。次に、長手方向の位置をaからbに移動し、Pb1、Pb2の順に、幅手方向に位相差を測定する。さらに、長手方向の位置をbからcに移動し、Pc2、Pc1の順に、幅手方向に位相差を測定する。このようにして、6点を測定する。なお、各測定点につき、100回ずつ位相差を測定し、その算術平均値を算出する。
【0107】
測定点Pa1、Pb1及びPc1は、点線L1上に並んでいる。これら3点は幅手方向に同一の位置であり、長手方向に連続していることがわかる。同様に、測定点Pa2、Pb2及びPc2は、点線L2上に並んでいる。これら3点は幅手方向に同一の位置であり、長手方向に連続していることがわかる。Pa1、Pb1及びPc1の間隔は、5~600mmの範囲内であることが好ましく、10~300mmの範囲内であることがより好ましい。Pa2、Pb2及びPc2の間隔についても、同様である。
【0108】
このようにして、長手方向の異なる位置3箇所(a、b及びc)について、位相差を測定する。
また、このような方法で測定することにより、原反フィルムを作製(生産)しながら、長手方向における位相差の測定を行うことができる。
【0109】
(1.1.2)幅手方向における位相差の測定
原反フィルムの端から生産方向に10m以上の領域を、幅手方向に、任意の間隔で位相差を測定する。測定間隔は、幅手方向に対して、5~600mmの範囲内であることが好ましく、10~300mmの範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、局所的に位相差が変化している箇所の見落としを防げる。
測定間隔は、必ずしも一定である必要はない。
また、測定点は、幅手方向に同一の位置でなくともよい。
上記長手方向における位相差の測定において、幅手方向における位相差の測定を兼ねることも可能である。測定装置を移動させることで必要な測定装置の数を削減することができる。
【0110】
(1.1.3)幅手方向における厚さの測定
原反フィルムの端から生産方向に10m以上の領域を、幅手方向に、任意の間隔で厚さを測定する。測定間隔は、長手方向及び幅手方向に対して、それぞれ、5~600mmの範囲内であることが好ましく、10~300mmの範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、局所的に位相差が変化している箇所の見落としを防げる。
【0111】
図19は、厚さの測定点の一例の説明図である。
黒丸の測定点は、全て、幅手方向に平行な点線上に並んでいる。
厚さの測定方法は、従来公知の方法を使用できる。
【0112】
(2)情報抽出部
本発明において、「情報抽出部」とは、各々の原反フィルムの少なくとも巻内側又は巻外側の特性に関する情報を抽出する機能を有する部分のことをいう。つまり、この部分では、上記情報取得部で得られた各々の原反フィルムの特性に関する情報から、原反フィルムの巻内側又は巻外側の特性に関する情報を抽出する。一つの原反フィルムにつき、特性に関する情報の抽出は、巻内側のみで行っても、巻外側のみで行っても、巻内側と巻外側の両方で行ってもよい。
【0113】
本発明において、ロール状に巻き取られた原反フィルムの、長手方向に対する両端部のうち、ロールの内側に配置される端部を「巻内側」、ロールの外側に配置される端部を「巻外側」という。「端部」は、長手方向の両末端から、例えば、1000mの領域内のことをいう。
【0114】
(3)情報処理部
本発明において、「情報処理部」とは、抽出した巻内側と巻外側の特性に関する情報を処理する機能を有する部分のことをいう。つまり、この部分では、上記情報抽出部で得られた巻内側と巻外側の特性に関する情報を、加工処理する。
【0115】
加工処理して得られる情報の種類は、特に制限されない。ただし、前述のとおり、N番目に加工する原反フィルムのロールは、その巻外側の端部が、N-1番目に加工する原反フィルムのロールの巻内側の端部と、比較的近い特性を有することが好ましい。
以下、抽出した情報を、近い特性を有するか否かの判別に用いるために行う加工処理について説明する。
【0116】
説明する方法では、特性として面内位相差Roを測定する。ただし、本発明において、ここでの特性は、面内位相差Roに制限されない。
この方法では、長手方向(生産方向)における位相差の加工処理を行い、幅手方向における位相差の加工処理を行う。そして、類似度を算出する。
なお、本発明における「類似度」とは、以下に示す方法で算出する値のことをいう。
【0117】
上記情報抽出部により、各原反フィルムの巻内側と巻外側のRoについての情報を抽出する。詳しくは、上記情報取得部で取得した巻内側と巻外側のRoについての情報を抽出する。そして、以下の方法で加工処理する。
【0118】
(3.1)長手方向(生産方向)における位相差の加工処理
上記で測定した長手方向(生産方向)における位相差Roについて、対象の原反フィルムにおいて、設定した幅手方向の測定位置の測定回数毎に対する個別値、又は平均値を抽出する。
位相差値は、幅手方向に個別に算出してすべての値を表示してもよい。また、簡易処理のため測定回数毎の平均値を用いてもよい。
【0119】
理解しやすくするため簡略化した概念図である
図18を用いて、説明する。
本発明において、「設定した幅手方向の測定位置」とは、適宜設定される幅手方向の測定位置のことをいう。
図18においては、幅手方向1の位置及び幅手方向2の位置のことをいう。
「測定回数」とは、長手方向の測定位置に対して、幅手方向の測定位置が異なる測定回数のことをいう。長手方向aの位置では、幅手方向の測定位置が異なるP
a1及びP
a2で計2回測定しているため、測定回数は2回である。「個別値」とは、P
a1及びP
a2の、それぞれの位相差値のことをいう。同様に、長手方向b及びcの位置についても、個別値を抽出できる。
【0120】
簡易処理の観点から、測定回数ごとの平均値を用いてもよい。
つまり、測定点P
a1とP
a2は、幅手方向に複数(2回)の測定をしているため、簡易処理の観点から、P
a1とP
a2の算術平均値を算出してもよい。算出した値が、長手方向aの位置における位相差値である。同様に、長手方向b及びcの位置についても、平均値を抽出できる。
なお、実際の測定点は、
図18に示す6点よりも多いことが好ましい。例えば、長手方向aの位置での、測定回数がn回であるとすると、その個別値は、P
a1~P
anのそれぞれの位相差値である。平均値は、P
a1~P
anのそれぞれの位相差値の算術平均値を算出する。
【0121】
抽出したRoについて、生産方向における標準偏差を算出する。標準偏差は、測定値のバラツキの度合いを表す指標であり、広く用いられている。標準偏差が小さいということは、測定値の分布が、比較的、平均値の周りに集まっていることを意味する。逆に標準偏差が大きいということは、測定値の分布が、比較的、平均値から遠く離れていることを意味する。
つまり、各原反フィルムの端部における、Roのバラツキの度合いを判別できる。
【0122】
標準偏差は、下記の式(2)で算出できる。
【0123】
【0124】
式中、
σは、標準偏差を表し、
X1~Xnは、n個の測定値を表し、
mは、n個の測定値の平均値を表す。
平均値は、特に制限されないが、算術平均値であることが好ましい。
【0125】
標準偏差の閾値は、状況に応じて、適宜選択することが好ましい。
製造効率の観点から、標準偏差の閾値は0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることが好ましい。閾値を超えるか否かに基づいて、原反フィルムを振り分けることが好ましい。閾値を下回るものを、投入候補の原反フィルムとする。また、標準偏差の小さい順に原反フィルムを並べてもよい。閾値を上回るものは、原反フィルムを貯蔵する貯蔵プールへ戻す。
【0126】
また、ここでのRoは、例えば、各測定点につき、複数回測定した測定値の算術平均値であってもよい。
【0127】
端部におけるRoの標準偏差σが、一定値以上の場合、端部におけるRoのバラツキが、比較的大きいことがわかる。そして、端部を除く箇所についても、Roのバラツキが大きいと類推できる。このような原反フィルムは、加工条件の調整の幅が大きくなるため、加工条件の調整に時間を要し、光学フィルムが製造されるまでの生産速度が遅くなると考えられる。このような原反フィルムは、時間の余裕のある時に加工を行うことにより、生産効率を向上できる。
【0128】
(3.2)幅手方向における位相差の加工処理
上記で測定した幅手方向における位相差Roを、幅手方向に設定した個別の測定点ごとに抽出する。
抽出したRoについて、測定した回数毎に上記と同様の方法で標準偏差を算出する。
なお、この加工処理は、上記の閾値を下回る、投入候補の原反フィルムに適用する。
【0129】
図18を用いて説明する。
長手方向aの位置において、幅手方向に設定した個別の測定点は、P
a1及びP
a2であり、これらの点での位相差値を抽出する。抽出した位相差値について、上記と同様の方法で標準偏差を算出する。同様に、長手方向b及びcの位置において、位相差値の標準偏差を算出する。
【0130】
この加工処理で得られる標準偏差について、閾値を設けることが好ましく、標準偏差が一つでも閾値を上回るものは、貯蔵プールへ戻す。
【0131】
(3.3)類似度の算出
上記の加工処理により得られた各原反フィルムについての位相差値の平均値の差異の程度と、標準偏差値の差異の程度(近似度)が、閾値の範囲内であるものを選定する。選定された候補のそれぞれについて、N-1番目の原反巻内側の任意の長さと、候補の巻外側の任意の長さに対して、連続させた場合の標準偏差を求める。その標準偏差を類似度として用いる。類似度が0に近い程類似しており、0より大きい程類似度が悪化したとみなされる。
【0132】
N―1番目とN番目を連続させて標準偏差を算出する際に用いる長さ、又は回数については、原反フィルムの特性や加工条件に基づいて任意で決めればよい。特に光学フィルムの場合においては、生産方向に10m以上連続させて算出することが好ましく、100m以上連続させて算出することがより好ましい。
連続させた位相差値の標準偏差を算出し、「類似度」とする。
N-1番目の原反フィルムに対する、投入候補の各原反フィルムの巻内側、巻外側について、それぞれ、類似度を算出する。
また、類似度の値の小さい順に原反フィルムを並べることが好ましい。
【0133】
類似度の算出の手順の一例について、説明する。
上記の長手方向(生産方向)における位相差の加工処理により、原反フィルムの巻外側の、長手方向(生産方向)における位相差値の平均値と標準偏差値をそれぞれ算出する。前述のとおり、標準偏差値が、閾値を下回るものを、投入候補の原反フィルムとする。
【0134】
次に、長手方向(生産方向)における位相差値の平均値について、N-1番目の原反フィルムの巻内側の値と、N番目の投入候補の原反フィルムの巻外側の値との差異の程度(差分)を算出する。差分が、閾値を下回るものを、投入候補の原反フィルムとして絞り込む。閾値は、特に制限されないが、5nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましい。
【0135】
さらに、長手方向(生産方向)における位相差値の標準偏差値について、N-1番目の原反フィルムの巻内側の値と、N番目の投入候補の原反フィルムの巻外側の値との差異の程度(差分)を算出する。差分が、閾値を下回るものを、投入候補の原反フィルムとして絞り込む。閾値は、特に制限されないが、1以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。
【0136】
そして、N-1番目の原反フィルムの巻内側の任意の領域と、N番目の投入候補の原反フィルムの巻外側の任意の領域を、それぞれの原反フィルムの端を介してつなげてできる接続領域について検討する。すなわち、N-1番目の原反フィルムとN番目の投入候補の原反フィルムを、連続して加工する場合の、原反フィルムの切り替わる領域について検討する。この接続領域全体について、長手方向(生産方向)における標準偏差値を算出する。そして、その標準偏差値を、「類似度」とする。
【0137】
図20は、接続領域の説明図である。なお、
図20は、理解しやすくするため簡略化した概念図である。
左側がN-1番目の原反フィルムの巻内側の任意の領域であり、右側が、N番目の投入候補の原反フィルムの巻外側の任意の領域である。それぞれの端を介して接続すると仮定する。N-1番目の原反フィルムの巻内側の任意の領域において、長手方向の位相差値の測定点は、P
11、P
12及びP
13である。N番目の投入候補の原反フィルムの巻外側の任意の領域において、長手方向の位相差値の測定点は、P
21、P
22及びP
23である。これらの測定点全てを対象として、長手方向における標準偏差値を算出する。
【0138】
なお、実際の測定点は、
図20に示す6点よりも多いことが好ましい。例えば、N-1番目の原反フィルムの巻内側の任意の領域において、長手方向の位相差値の測定点がn点である(P
11~P
1n)とする。また、N番目の投入候補の原反フィルムの巻外側の任意の領域において、長手方向の位相差値の測定点がn点である(P
21~P
2n)とする。この場合、P
11~P
1n及びP
21~P
2n全てを対象として、標準偏差値を算出する。
【0139】
上記「N―1番目とN番目を連続させて標準偏差を算出する際に用いる長さ」、すなわち、接続領域における長手方向の長さは、必要に応じて設定すればよい。また、上記「N―1番目とN番目を連続させて標準偏差を算出する際に用いる回数」、すなわち、位相差の測定点の個数は、必要に応じて設定すればよい。
【0140】
(3.4)厚さの偏差の算出
原反フィルムの投入する順序は、類似度に加えて、厚さの標準偏差を考慮することが好ましい。
上記情報抽出部により、各原反フィルムの巻内側と巻外側の厚さについての情報を抽出する。そして、上記と同様の方法で標準偏差を算出する。
【0141】
(4)順序決定部
本発明において、「順序決定部」とは、処理した少なくとも巻内側又は巻外側の特性に関する情報に基づいて、次工程での原反フィルムの投入の順序を決定する機能を有する部分のことをいう。つまり、この部分では、上記情報処理部で処理した巻内側と巻外側の特性に関する情報に基づいて、次工程での原反フィルムの投入の順序を決定する。
【0142】
情報処理部で得られる情報が、上記類似度である場合について、以下説明する。なお、情報処理部で得られる情報が、上記類似度以外の情報である場合についても、同様である。
【0143】
類似度の情報から、先行で投入しているN-1番目の原反フィルムとの組み合わせで、類似度が低く、より0に近い(類似性が高い)原反フィルムを、複数本選択する。そして、その中から、N-1番目の原反フィルムの巻内側と配向情報が最も近いものを、N番目に決定する。「配向情報が最も近い」とは、類似度を算出する場合は、長手方向における位相差の平均値が近い(差分が小さい)ことをいう。加えて、長手方向における位相差の標準偏差、及び幅手方向における位相差の標準偏差が、どちらとも、近い値を示すことが好ましい。
【0144】
また、N-1番目からN番目を決めるだけではなく、例えばN+10番目までを一度に決めるようにしてもよい。
その場合はN+10番目までの順番を組み合わせ、N-1番目とN番目の類似度の差分から始めてN+9番目とN+10番目の類似度の合計が最も小さくなるように組み合わせることが好ましい。
【0145】
類似度に加えて、N番目に加工する原反フィルムのロールは、その巻外側の端部が、N-1番目に加工する原反フィルムのロールの巻内側の端部と、厚さが近いことが好ましい。比較的厚さの差異が少ない原反フィルムを連続して加工することにより、加工条件の調整の幅を小さくできる。
【0146】
具体的には、原反フィルムの幅方向の位置における厚さの標準偏差に基づいて、投入する順序を決定することが好ましい。厚さの標準偏差は、上記情報処理部で算出される厚さの標準偏差を用いる。
【0147】
投入する一つ前(N-1番目)の原反フィルムの巻内側の幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ1、投入する原反フィルム(N番目)の巻外側の幅方向の位置における厚さの標準偏差をσ2としたとき、下記式(1)を満たすことが好ましい。
式(1) |σ1-σ2|/σ1≦0.05
【0148】
(5)延伸条件又は延伸率の調整の可否、及び次工程の所要時間を判断する機能
本発明のシステムにおいて、次工程が、投入された原反フィルムを延伸する工程を含む場合、上記(1)~(4)の部分で得られる情報から、延伸条件又は延伸率の調整の可否、及び次工程の所要時間を判断する機能を、更に有することが好ましい。
【0149】
上記(1)~(4)の部分で得られる情報とは、具体的には、取得された前記配向に関する情報、前記抽出された少なくとも巻内側又は巻外側における配向に関する情報や、前記処理された少なくとも巻内側又は巻外側における配向に関する情報のことをいう。
【0150】
このような機能を有することで、次工程において、適切な加工条件を選択でき、調整が十分な状態で加工しやすくなるため、製造時の損失をより低減できる。また、加工条件の調整の幅が大きい場合には、調整時間を確保することにより、調整が十分に行われる。そのため、次工程の所要時間を判断することにより、製造時の損失をより低減できる。
【0151】
(6)延伸速度、延伸温度又は前記延伸率を決定する機能
本発明のシステムは、上記(5)の機能が、延伸速度、延伸温度又は前記延伸率を決定する機能を、更に有することが好ましい。
すなわち、延伸条件又は延伸率の調整が可能であると判断した場合、さらに、延伸速度、延伸温度等の延伸条件又は延伸率を決定する機能を有することが好ましい。
【0152】
3.光学フィルムの製造管理プログラム
本発明の光学フィルムの製造管理プログラムは、巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造管理プログラムであって、少なくとも長手方向における、各々の前記原反フィルムに含有される樹脂分子の配向に関する情報を取得させ、各々の前記原反フィルムの巻内側と巻外側における配向に関する情報を抽出させ、抽出された前記巻内側と巻外側における配向に関する情報に基づいて処理させ、処理された前記巻内側と巻外側における配向に関する情報に基づいて、前記次工程における前記原反フィルムの投入についての順序を決定させることを特徴とする。
また、抽出された前記巻内側と巻外側における配向に関する情報から類似度を算出させることが好ましい。
【0153】
例えば、上記光学フィルムの製造管理システムにおける各部分及び機能にて行われる各処理機能については、その全部又は任意の一部を、CPU(Central Processing Unit)にて解釈実行されるプログラムにて実現してもよい。プログラムは、情報処理装置に上記システムを実行させるための、プログラム化された命令を含む、一時的でない、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されている。
【0154】
すなわち、ROM又はHDDなどには、OS(Operating System)と協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して制御部を構成する。
【0155】
また、このコンピュータプログラムは、任意のネットワークを介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよい。必要に応じて、その全部又は一部をダウンロードすることも可能である。
【0156】
当該プログラムを、一時的でないコンピューター読み取り可能な記録媒体に格納してもよい。また、プログラム製品として構成してもよい。ここで、この「記録媒体」には、メモリーカード、USBメモリ、SDカード、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM(登録商標)、CD-ROM、MO、DVD、及びBlu-ray(登録商標) Disc等の、任意の「可搬用の物理媒体」が含まれる。
【0157】
本発明において、「プログラム」とは、任意の言語又は記述方法にて記述されたデータ処理方法のことをいう。ソースコード又はバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、記録媒体を読み取るための具体的な構成、読み取り手順、読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0158】
各種のデーターベース等は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、及び光ディスク等のストレージ手段である。各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラム、テーブル、データーベース、及びウェブページ用ファイル等を格納する。
【0159】
4.光学フィルムの製造方法
本発明の光学フィルムの製造方法は、巻き取られた複数の原反フィルムから、次工程で投入する前記原反フィルムを決定し、光学フィルムの製造順を決定する光学フィルムの製造方法であって、少なくとも長手方向における、各々の前記原反フィルムに含有される樹脂分子の配向に関する情報を取得する工程と、各々の前記原反フィルムの巻内側と巻外側における配向に関する情報を抽出する工程と、抽出された前記巻内側と巻外側における配向に関する情報に基づいて処理する工程と、処理された前記巻内側と巻外側における配向に関する情報に基づいて、前記次工程における前記原反フィルムの投入についての順序を決定する工程と、を有することを特徴とする。
【0160】
各工程については、上記で説明したとおりである。
以下、原反フィルムの構成、作製方法、次工程での延伸加工等について説明する。
【0161】
(1)原反フィルムの構成
原反フィルムの構成は、特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。以下、原反フィルムの一例を説明するが、本発明はこれに制限されない。
【0162】
(1.1)熱可塑性樹脂
本発明に係る原反フィルムに用いられる熱可塑性樹脂材料としては、製膜後ロール状として扱えるものであれば、制限されない。
【0163】
例えば、熱可塑性樹脂としては、トリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、ジアセチルセルロース(DAC)等のセルロースエステル系樹脂;シクロオレフィン系樹脂(COP)等の環状オレフィン系樹脂;ポリプロピレン(PP)等のポリプロピレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂;ポリエチレンテレフターレート(PET)等のポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0164】
低弾性率の原反フィルム、例えば弾性率が3.0GPa未満の原反フィルムにおいては、ロールを形成する際に、原反フィルムの複数の箇所に係る応力を緩和しにくい。そのため、幅手方向又は長手方向において、原反フィルムは伸び縮みしづらい。そして、ロール状の原反フィルムでは、面にて応力が吸収しきれず、巻きずれが起きやすい。また、低弾性率の原反フィルムは、その幅手方向又は長手方向で高低差があると、原反フィルムの高いところの伸び縮みと低いところの伸び縮みの差が大きくなってしまう。
【0165】
そのため、長手平均膜厚の最大高低差(P-V)は、0.02~0.40μmの範囲内であることが好ましい。このような観点から、熱可塑性樹脂は、シクロオレフィン系樹脂(COP)又はポリメチルメタクリレート(アクリル系樹脂(PMMA))であることが好ましい。
【0166】
中でも、シクロオレフィン系樹脂(COP)であることが好ましい。シクロオレフィン系樹脂(COP)であることにより、延伸性や結晶化度を制御しやすい。
なお、原反フィルムは、作製後に表面改質処理を施しても良い。
【0167】
原反フィルムの厚さは、5~80μmの範囲内であることが好ましく、10~65μmの範囲内であることがより好ましく、10~45μmの範囲内であることが更に好ましい。
厚さが5μm以上であることにより、原反フィルムの剛性が高く、ロール形状を保つことが容易である。
厚さが80μm以下であることにより、原反フィルムの質量が増えすぎず、長尺のロールを作製し易い。
【0168】
(1.1.1)シクロオレフィン系樹脂
シクロオレフィン系樹脂は、シクロオレフィン単量体の重合体、又はシクロオレフィン単量体とそれ以外の共重合性単量体との共重合体であることが好ましい。
【0169】
シクロオレフィン単量体としては、ノルボルネン骨格を有するシクロオレフィン単量体であることが好ましく、下記一般式(A-1)又は(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体であることがより好ましい。
【0170】
【0171】
一般式(A-1)中、R1~R4は、各々独立して、水素原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、又は極性基を表す。pは、0~2の整数を表す。ただし、R1~R4の全てが同時に水素原子を表すことはなく、R1とR2が同時に水素原子を表すことはなく、R3とR4が同時に水素原子を表すことはないものとする。
【0172】
一般式(A-1)においてR1~R4で表される炭素原子数1~30の炭化水素基としては、例えば炭素原子数1~10の炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1~5の炭化水素基であることがより好ましい。
炭素原子数1~30の炭化水素基は、例えばハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子又はケイ素原子を含む連結基を更に有していても良い。
そのような連結基の例として、カルボニル基、イミノ基、エーテル結合、シリルエーテル結合、チオエーテル結合等の2価の極性基が挙げられる。
炭素原子数1~30の炭化水素基の例として、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等が挙げられる。
【0173】
一般式(A-1)においてR1~R4で表される極性基の例として、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アミド基及びシアノ基が挙げられる。
中でも、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基であることが好ましい。また、溶液製膜時の溶解性の観点から、アルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基であることが好ましい。
【0174】
一般式(A-1)におけるpは、フィルムの耐熱性を高める観点から、1又は2であることが好ましい。
pが1又は2であることにより、得られる重合体が嵩高くなり、ガラス転移温度が向上しやすい。
【0175】
【0176】
一般式(A-2)中、R5は、水素原子、炭素数1~5の炭化水素基、又は炭素数1~5のアルキル基を有するアルキルシリル基を表す。R6は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、又はハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。pは、0~2の整数を表す。
【0177】
一般式(A-2)におけるR5は、炭素数1~5の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~3の炭化水素基であることがより好ましい。
【0178】
一般式(A-2)におけるR6は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基であることが好ましく、溶液製膜時の溶解性の観点から、アルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基であることがより好ましい。
【0179】
一般式(A-2)におけるpは、原反フィルムの耐熱性を高める観点から、1又は2であることが好ましい。
pが1又は2であることにより、得られる重合体が嵩高くなり、ガラス転移温度が向上しやすい。
【0180】
一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体は、有機溶媒への溶解性を向上させる観点から好ましい。
一般的に有機化合物は対称性を崩すことによって結晶性が低下し、有機溶媒への溶解性が向上する。
一般式(A-2)におけるR5及びR6は、分子の対称軸に対して片側の環構成炭素原子のみに置換されているため、分子の対称性は低い。すなわち、一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体は、溶解性が高く、原反フィルムを溶液流延法によって製造する場合に適している。
【0181】
一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体の含有量は、シクロオレフィン系樹脂を構成する全シクロオレフィン単量体の合計に対して、70mol%以上であることが好ましく、80mol%以上であることがより好ましく、100mol%であることが更に好ましい。
一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体を一定量以上含有することにより、樹脂の配向性が高まり、位相差(リターデーション)値が上昇しやすい。
【0182】
以下、一般式(A-1)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体の具体例を、例示化合物1~14に示す。一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体の具体例を、例示化合物15~34に示す。
【0183】
【0184】
シクロオレフィン単量体と共重合可能な共重合性単量体の例として、シクロオレフィン単量体と開環共重合可能な共重合性単量体、及びシクロオレフィン単量体と付加共重合可能な共重合性単量体等が挙げられる。
【0185】
開環共重合可能な共重合性単量体の例として、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン及びジシクロペンタジエン等のシクロオレフィンが挙げられる。
【0186】
付加共重合可能な共重合性単量体の例として、不飽和二重結合含有化合物、ビニル系環状炭化水素単量体及び(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0187】
不飽和二重結合含有化合物としては、炭素原子数が2~12の範囲内であるオレフィン系化合物が挙げられ、その例として、エチレン、プロピレン、ブテン等が挙げられる。炭素原子数は、2~8の範囲内であることがより好ましい。
【0188】
ビニル系環状炭化水素単量体の例として、4-ビニルシクロペンテン、2-メチル-4-イソプロペニルシクロペンテン等のビニルシクロペンテン系単量体が挙げられる。
【0189】
(メタ)アクリレートの例として、メチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の、炭素原子数が1~20の範囲内であるアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0190】
シクロオレフィン単量体の含有量は、共重合体を構成する全単量体の合計に対して、20~80mol%の範囲内であることが好ましく、30~70mol%の範囲内であることがより好ましい。
【0191】
シクロオレフィン系樹脂は、前述のとおり、ノルボルネン骨格を有するシクロオレフィン単量体、好ましくは一般式(A-1)又は(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体を重合又は共重合して得られる重合体である。その例として、以下(1)~(7)の重合体が挙げられる。
【0192】
(1)シクロオレフィン単量体の開環重合体
(2)シクロオレフィン単量体と、それと開環共重合可能な共重合性単量体との開環共重合体
(3)上記(1)又は(2)の開環(共)重合体の水素添加物
(4)上記(1)又は(2)の開環(共)重合体をフリーデルクラフツ反応により環化した後、水素を添加した(共)重合体
(5)シクロオレフィン単量体と、不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体
(6)シクロオレフィン単量体のビニル系環状炭化水素単量体との付加共重合体及びその水素添加物
(7)シクロオレフィン単量体と、(メタ)アクリレートとの交互共重合体
【0193】
上記(1)~(7)の重合体は、いずれも公知の方法、例えば、特開2008-107534号公報や特開2005-227606号公報に記載の方法で得られる。
【0194】
上記(2)の開環共重合に用いられる触媒や溶媒は、例えば、特開2008-107534号公報の段落0019~0024に記載のものを使用できる。
上記(3)及び(6)の水素添加物に用いられる触媒は、例えば、特開2008-107534号公報の段落0025~0028に記載のものを使用できる。
上記(4)のフリーデルクラフツ反応に用いられる酸性化合物は、例えば、特開2008-107534号公報の段落0029に記載のものを使用できる。
上記(5)~(7)の付加重合に用いられる触媒は、例えば、特開2005-227606号公報の段落0058~0063に記載のものを使用できる。
上記(7)の交互共重合反応は、例えば、特開2005-227606号公報の段落0071及び0072に記載の方法で行うことができる。
【0195】
中でも、上記(1)~(3)及び(5)の重合体であることが好ましく、上記(3)及び(5)の重合体であることがより好ましい。
【0196】
すなわち、シクロオレフィン単量体は、下記一般式(B-1)で表される構造単位と、下記一般式(B-2)で表される構造単位の少なくとも一方を含むことが好ましい。一般式(B-2)で表される構造単位のみを含むか、又は一般式(B-1)で表される構造単位と一般式(B-2)で表される構造単位の両方を含むことがより好ましい。これにより、得られるシクロオレフィン系樹脂のガラス転移温度を高くし、かつ光透過率を高くできる。
【0197】
一般式(B-1)で表される構造単位は、前述の一般式(A-1)で表されるシクロオレフィン単量体由来の構造単位である。一般式(B-2)で表される構造単位は、前述の一般式(A-2)で表されるシクロオレフィン単量体由来の構造単位である。
【0198】
【0199】
一般式(B-1)中、Xは、-CH=CH-又は-CH2CH2-を表す。R1~R4及びpは、それぞれ一般式(A-1)のR1~R4及びpと同義である。
【0200】
【0201】
一般式(B-2)中、Xは、-CH=CH-又は-CH2CH2-を表す。R5~R6及びpは、それぞれ一般式(A-2)のR5~R6及びpと同義である。
【0202】
本発明に係るシクロオレフィン系樹脂は、市販品であっても良い。
シクロオレフィン系樹脂の市販品の例として、「アートン(Arton、登録商標)G7810」、「アートン(Arton、登録商標)F」、「アートン(Arton、登録商標)R4500、R4900、R5000」、「アートン(Arton、登録商標)RX」(以上、JSR(株)製)等が挙げられる。
【0203】
シクロオレフィン系樹脂の固有粘度〔η〕inhは、30℃の測定において、0.2~5cm3/gの範囲内であることが好ましく、0.3~3cm3/gの範囲内であることがより好ましく、0.4~1.5cm3/gの範囲内であることが更に好ましい。
【0204】
シクロオレフィン系樹脂の数平均分子量(Mn)は、8000~100000の範囲内であることが好ましく、10000~80000の範囲内であることがより好ましく、12000~50000の範囲内であることが更に好ましい。
【0205】
シクロオレフィン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、20000~300000の範囲内であることが好ましく、30000~250000の範囲内であることがより好ましく、40000~200000の範囲内であることが更に好ましい。
【0206】
シクロオレフィン系樹脂の数平均分子量や重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて、ポリスチレン換算にて測定できる。
【0207】
(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製)を3本接続して使用した。
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=500~2800000の範囲内の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0208】
固有粘度〔η〕inh、数平均分子量及び重量平均分子量が、上記範囲内であることにより、シクロオレフィン系樹脂の耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械的特性、及び原反フィルムとしての成形加工性が良好である。
【0209】
シクロオレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、110℃以上であることが好ましく、110~350℃の範囲内であることがより好ましく、120~250℃の範囲内であることが更に好ましく、120~220℃の範囲内であることが特に好ましい。
【0210】
ガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることにより、高温条件下での変形を抑制しやすい。
一方、ガラス転移温度(Tg)が350℃以下であることにより、成形加工が容易であり、かつ成形加工時の熱による樹脂の劣化を抑制できる。
【0211】
シクロオレフィン系樹脂の含有量は、原反フィルムの全質量に対して、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0212】
(1.1.2)アクリル系樹脂
アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル又はメタアクリル酸エステルの重合体である。また、他の単量体との共重合体も、アクリル系樹脂に含まれる。
したがって、本発明に係るアクリル系樹脂には、メタクリル樹脂も含まれる。
【0213】
アクリル系樹脂は、特に制限されない。メチルメタクリレート単位の含有量が、アクリル系樹脂の全質量に対して、50~99質量%の範囲内であることが好ましい。また、メチルメタクリレートと共重合可能な、他の単量体単位の含有量が、1~50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0214】
他の単量体単位としては、アルキル基の炭素数が2~18の範囲内であるアルキルメタクリレート;アルキル基の炭素数が1~18の範囲内であるアルキルアクリレート;メタクリル酸イソボルニル、2-ヒドロキシエチルアクリレート等のヒドロキシアルキルアクリレート;アクリル酸、メタクリル酸等のα,β-不飽和酸;アクリロイルモルホリン、Nヒドロキシフェニルメタクリルアミド等のアクリルアミド;N-ビニルピロリドン、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有2価カルボン酸;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β-不飽和ニトリル;無水マレイン酸;マレイミド;N-置換マレイミド;グルタルイミド;グルタル酸無水物等が挙げられる。
【0215】
上記のうち、グルタルイミド及びグルタル酸無水物を除いた単量体単位を形成する共重合可能な単量体としては、上記単量体単位に対応した単量体が挙げられる。
【0216】
すなわち、アルキル基の炭素数が2~18の範囲内であるアルキルメタクリレート;アルキル基の炭素数が1~18の範囲内であるアルキルアクリレート;メタクリル酸イソボルニル、2-ヒドロキシエチルアクリレート等のヒドロキシアルキルアクリレート;アクリル酸、メタクリル酸等のα,β-不飽和酸;アクリロイルモルホリン、Nヒドロキシフェニルメタクリルアミド等のアクリルアミド;N-ビニルピロリドン、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有2価カルボン酸;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β-不飽和ニトリル;無水マレイン酸;マレイミド;及びN-置換マレイミドが挙げられる。
【0217】
グルタルイミド単位は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単位を有する中間体ポリマーに、1級アミン(イミド化剤)を反応させてイミド化することにより形成できる(特開2011-26563号公報参照。)。
【0218】
グルタル酸無水物単位は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単位を有する中間体ポリマーを加熱することにより形成できる(特許第4961164号公報参照。)。
【0219】
中でも、機械的強度の観点から、単量体単位は、メタクリル酸イソボルニル、アクリロイルモルホリン、N-ヒドロキシフェニルメタクリルアミド、N-ビニルピロリドン、スチレン、ヒドロキシエチルメタクリレート、無水マレイン酸、マレイミド、N-置換マレイミド、グルタル酸無水物又はグルタルイミドであることが好ましい。
【0220】
アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、50000~1000000の範囲内であることが好ましく、100000~1000000の範囲内であることがより好ましく、200000~800000の範囲内であることが更に好ましい。重量平均分子量(Mw)が、50000以上であることにより、原反フィルムの耐熱性及び機械的強度に優れる。また、1000000以下であることにより原反フィルムの作製時の、金属支持体からの剥離性及び有機溶媒の乾燥性に優れる。
【0221】
アクリル系樹脂の合成方法としては、特に制限されず、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、溶液重合等の公知の方法のいずれを用いてもよい。
【0222】
重合開始剤としては、公知のパーオキサイド系及びアゾ系のものを用いることができ、また、レドックス系を用いてもよい。
【0223】
重合温度は、懸濁又は乳化重合では、30~100℃の範囲内であることが好ましく、塊状又は溶液重合では、80~160℃の範囲内であることが好ましい。
【0224】
得られた共重合体の還元粘度を制御する観点から、連鎖移動剤として、アルキルメルカプタン等を用いてもよい。
【0225】
原反フィルムの機械的強度の観点から、アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、80~120℃の範囲内であることが好ましい。
【0226】
アクリル系樹脂としては、市販のものを使用できる。
例えば、「デルペット(登録商標)60N、80N、980N、SR8200」(以上、旭化成ケミカルズ(株)製)、「ダイヤナール(登録商標)BR52、BR80、BR83、BR85、BR88、EMB-143、EMB-159、EMB-160、EMB-161、EMB-218、EMB-229、EMB-270、EMB-273」(以上、三菱レイヨン(株)製)、「KT75、TX400S及びIPX012」(以上、電気化学工業(株)製)等が挙げられる。
これらは、一種単独で含有しても、二種以上を含有してもよい。
【0227】
アクリル系樹脂は、添加剤を含有することが好ましい。添加剤の一例として、国際公開第2010/001668号に記載のアクリル粒子(ゴム弾性体粒子)を、原反フィルムの機械的強度向上や寸法変化率の調整の観点から、含有することが好ましい。このゴム弾性体粒子は、多層構造のアクリル系粒状複合体である。
【0228】
ゴム弾性体粒子の市販品の例としては、例えば、「メタブレン(登録商標)W-341」(三菱レイヨン社製)、「カネエース(登録商標)」(カネカ社製)、「パラロイド(登録商標)」(クレハ社製)、「アクリロイド」(ロームアンドハース社製)、「スタフィロイド(登録商標)」(アイカ社製)、「ケミスノー(登録商標)MR-2G、MS-300X」(以上、綜研化学(株)製)、「パラペット(登録商標)SA」(クラレ社製)等が挙げられる。
これらは、一種単独で含有しても、二種以上を含有してもよい。
【0229】
ゴム弾性体粒子の体積平均粒子径は、0.35μm以下であることが好ましく、0.01~0.35μmの範囲内であることがより好ましく、0.05~0.30μmの範囲内であることが更に好ましい。上記範囲内であることにより、加熱下で原反フィルムが伸びやすく、かつ原反フィルムの透明性を損ないにくい。
【0230】
柔軟性の観点から、原反フィルムは、JIS K7171に準拠して測定される曲げ弾性率が、10.5GPa以下であることが好ましく、1.3GPa以下であることがより好ましく、1.2GPa以下であることが更に好ましい。曲げ弾性率は、原反フィルム中の、アクリル系樹脂やゴム弾性体粒子の種類、量等によって変動する。例えば、ゴム弾性体粒子の含有量が多いほど、一般的に、曲げ弾性率は小さくなる。
【0231】
また、アクリル系樹脂として、メタクリル酸アルキルの単独重合体を用いるよりも、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキル等との共重合体を用いる方が、一般的に曲げ弾性率は小さくなる。
【0232】
(1.1.3)セルロースエステル系樹脂
本発明において、「セルロースエステル」とは、セルロースを構成するβ-1,4結合しているグルコース単位中の2位、3位及び6位のヒドロキシ基(-OH)の水素原子の一部又は全部が、アシル基で置換されたセルロースアシレート樹脂のことをいう。
【0233】
用いられるセルロースエステルは、特に限定されず、例えば、炭素数が2~22の範囲内である直鎖又は分岐のカルボン酸のエステルであることが好ましい。エステルを構成するカルボン酸は、脂肪族カルボン酸であってもよいし、環を有する芳香族カルボン酸であってもよい。
【0234】
セルロースエステルとしては、例えば、セルロースのヒドロキシ基部分の水素原子が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ラウロイル基、ステアロイル等の、炭素数が2~22の範囲内であるアシル基で置換されたセルロースエステルが挙げられる。
【0235】
エステルを構成するカルボン酸(アシル基)は、置換基を有してもよい。エステルを構成するカルボン酸は、炭素数が6以下の低級脂肪酸であることが好ましく、炭素数が3以下の低級脂肪酸であることがより好ましい。なお、セルロースエステル中のアシル基は、単一種であってもよいし、複数のアシル基の組み合わせであってもよい。
【0236】
セルロースエステルの具体例として、ジアセチルセルロース(DAC)、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロースアセテートが挙げられる。その他、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートのような、アセチル基の他にプロピオネート基又はブチレート基が結合した、セルロースの混合脂肪酸エステルが挙げられる。
これらは、一種単独で含有しても、二種以上を含有してもよい。
【0237】
(アシル基の種類及び置換度)
セルロースエステルのアシル基の種類及び置換度を調整することにより、原反フィルムの位相差の湿度変動を所望の範囲内に制御できる。また、原反フィルムの厚さの均一性を向上できる。
【0238】
セルロースエステルのアシル基の置換度が小さいほど、位相差発現性が向上するため、原反フィルムをより薄膜化できる。一方、ある程度アシル基で置換することにより、原反フィルムの耐久性を向上できる。また、厚さ方向のリターデーション(位相差)であるRt湿度変動は、セルロースのカルボニル基に水分子が配位することで生じる。そのため、アシル基の置換度を調整することにより、Rt湿度変動を調整できる。
【0239】
セルロースエステルのアシル基の総置換度は、2.1~2.5の範囲内であることが好ましい。上記範囲内であることにより、環境変動、特に湿度によるRt変動を抑制するとともに、膜厚の均一性を向上できる。原反フィルム作製時の流延性及び延伸性を向上させ、膜厚の均一性が一層向上する観点から、総置換度は、2.2~2.45の範囲内であることがより好ましい。
【0240】
具体的には、セルロースエステルは、下記式(a)及び(b)をともに満足する。下記式(a)及び(b)中、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基又はブチリル基の置換度、若しくはその混合物の置換度である。
【0241】
式(a) 2.1≦X+Y≦2.5
式(b) 0≦Y≦1.5
【0242】
セルロースエステルは、セルロースアセテート(Y=0)、又はセルロースアセテートプロピオネート(CAP)(Y;プロピオニル基、Y>0)であることがより好ましい。膜厚のバラつきを低減させる観点から、Y=0であるセルロースアセテートであることが更に好ましい。
【0243】
位相差発現性、Rt湿度変動、及び膜厚バラつきの観点から、2.1≦X≦2.5を満たすセルロースジアセテート(DAC)であることが好ましく、2.15≦X≦2.45を満たすセルロースジアセテート(DAC)であることがより好ましい。
【0244】
また、Y>0の場合、0.95≦X≦2.25、0.1≦Y≦1.2、2.15≦X+Y≦2.45を満たすセルロースアセテートプロピオネート(CAP)であることが好ましい。
【0245】
上記セルロースアセテート又はセルロースアセテートプロピオネートを用いることにより、リターデーションに優れ、機械的強度、環境変動に優れた原反フィルムが得られる。
【0246】
なお、アシル基の置換度は、1グルコース単位当たりのアシル基の平均数を示す。すなわち、1グルコース単位の2位、3位及び6位のヒドロキシ基の水素原子のうち、いくつがアシル基に置換されているかを示す。そのため、置換度の最大値は3.0であり、この場合、2位、3位及び6位のヒドロキシ基の水素原子が、全てアシル基で置換されていることを意味する。アシル基は、グルコース単位の2位、3位及び6位に、平均的に置換していてもよいし、分布をもって置換していてもよい。
置換度は、ASTM-D817-96に規定の方法により求められる。
【0247】
光学特性の観点から、置換度の異なるセルロースアセテートを混合してもよい。この場合、異なるセルロースアセテートの混合比率は、特に制限されない。
【0248】
セルロースエステルの数平均分子量(Mn)は、2×104~3×105の範囲内であることが好ましく、2×104~1.2×105の範囲内であることがより好ましく、4×104~8×104の範囲内であることが更に好ましい。上記範囲内であることにより、原反フィルムの機械的強度を向上できる。
【0249】
セルロースエステルの数平均分子量(Mn)は、前述の測定条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた測定により算出できる。
【0250】
セルロースエステルの重量平均分子量(Mw)は、2×104~1×106の範囲内であることが好ましく、2×104~1.2×105の範囲内であることがより好ましく、4×104~8×104の範囲内であることが更に好ましい。上記範囲内であることにより、原反フィルムの機械的強度を向上できる。
【0251】
セルロースエステルの原料セルロースは、特に制限されず、例えば、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等が挙げられる。また、それらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合できる。
【0252】
セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステルは、公知の方法により合成できる。
【0253】
一般的には、原料のセルロースと所定の有機酸(酢酸、プロピオン酸等)と酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸等)、触媒(硫酸等)と混合する。そして、セルロースをエステル化し、セルロースのトリエステルができるまで反応を進める。
【0254】
トリエステルにおいては、グルコース単位の三個のヒドロキシ基は、有機酸のアシル酸で置換されている。
【0255】
同時に二種類の有機酸を使用すると、混合エステル型のセルロースエステル、例えばセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートを合成できる。
【0256】
次いで、セルロースのトリエステルを加水分解することで、所望のアシル置換度を有するセルロースエステルを合成する。その後、ろ過、沈殿、水洗、脱水、乾燥等の工程を経て、セルロースエステルとする。具体的には、特開平10-45804号に記載の方法を参考にして合成できる。
【0257】
(1.2)その他の添加剤
原反フィルムは、その他の添加剤として、上記熱可塑性樹脂の他に、下記のものを含有してもよい。
【0258】
(1.2.1)可塑剤
可塑剤を含有することにより、原反フィルムに加工性を付与できる。
可塑剤は、一種単独で含有しても、二種以上含有してもよい。
【0259】
中でも、糖エステル、ポリエステル、及びスチレン系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の可塑剤を含有することが好ましい。これにより、透湿性の制御、及びセルロースエステルとの相溶性を両立できる。
【0260】
耐湿熱性、及びセルロースエステルとの相溶性の両立の観点から、可塑剤は、数平均分子量が15000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましい。
【0261】
数平均分子量が10000以下である化合物が重合体である場合、重量平均分子量(Mw)が10000以下であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)は、100~10000の範囲内であることがより好ましく、400~8000の範囲内であることが更に好ましい。
【0262】
中でも、分子量が1500以下の化合物の含有量が、上記熱可塑性樹脂の全質量に対して、6~40質量%の範囲内であることが好ましく、10~20質量%の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、透湿性の制御の制御、及び上記熱可塑性樹脂との相溶性を両立できる。
【0263】
〈糖エステル〉
加水分解の防止の観点から、可塑剤は、糖エステル化合物であることが好ましい。
糖エステル化合物は、具体的には、ピラノース構造又はフラノース構造の少なくとも1種を、1~12個の範囲内で有する。そして、その構造のOH基の全て又は一部をエステル化したものである。
【0264】
〈ポリエステル〉
可塑剤は、ポリエステルであることが好ましい。
ポリエステルは、特に制限されない。例えば、ジカルボン酸又はこれらのエステル形成性誘導体と、グリコールとの縮合反応により得られ、その末端がヒドロキシ基である重合体(ポリエステルポリオール)が挙げられる。また、当該ポリエステルポリオールの末端のヒドロキシ基が、モノカルボン酸で封止された重合体(末端封止ポリエステル)が挙げられる。
なお、「エステル形成性誘導体」とは、ジカルボン酸のエステル化物、ジカルボン酸クロライド、及びジカルボン酸の無水物のことをいう。
【0265】
〈スチレン系化合物〉
耐水性の観点から、可塑剤は、スチレン系化合物であることが好ましい。
【0266】
スチレン系化合物は、スチレン系単量体の単独重合体であってもよいし、スチレン系単量体とそれ以外の共重合単量体との共重合体であってもよい。
分子構造が、一定以上の嵩高さを有する観点から、スチレン系単量体由来の構成単位の含有割合は、スチレン系化合物全体に対して、30~100mol%の範囲内であることが好ましく、50~100mol%の範囲内であることがより好ましい。
【0267】
スチレン系単量体の例として、スチレン;α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン等のアルキル置換スチレン類;4-クロロスチレン、4-ブロモスチレン等のハロゲン置換スチレン類;p-ヒドロキシスチレン、α-メチル-p-ヒドロキシスチレン、2-メチル-4-ヒドロキシスチレン、3,4-ジヒドロキシスチレン等のヒドロキシスチレン類;ビニルベンジルアルコール類;p-メトキシスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン等のアルコキシ置換スチレン類;3-ビニル安息香酸、4-ビニル安息香酸等のビニル安息香酸類;4-ビニルベンジルアセテート;4-アセトキシスチレン;2-ブチルアミドスチレン、4-メチルアミドスチレン、p-スルホンアミドスチレン等のアミドスチレン類;3-アミノスチレン、4-アミノスチレン、2-イソプロペニルアニリン、ビニルベンジルジメチルアミン等のアミノスチレン類;3-ニトロスチレン、4-ニトロスチレン等のニトロスチレン類;3-シアノスチレン、4-シアノスチレン等のシアノスチレン類;ビニルフェニルアセトニトリル;フェニルスチレン等のアリールスチレン類;インデン類等が挙げられる。
これらは、一種単独で含有しても、二種以上を含有してもよい。
【0268】
(1.2.2)任意成分
原反フィルムは、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、マット剤、アクリル粒子、水素結合性溶媒、イオン性界面活性剤等の他の任意成分を、更に含有してもよい。
これらの含有量は、上記熱可塑性樹脂の全質量に対して、0.01~20質量%の範囲内であることが好ましい。
【0269】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、従来公知のものが挙げられる。
中でも、ラクトン系、イオウ系、フェノール系、二重結合系、ヒンダードアミン系、リン系の各化合物であることが好ましい。
これらは、一種単独で含有しても、二種以上含有してもよい。例えば、ラクトン系、リン系、フェノール系及び二重結合系化合物を併用してもよい。
【0270】
酸化防止剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂の全質量に対して、0.05~20質量%の範囲内であることが好ましく、0.1~1質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0271】
(着色剤)
着色剤を含有することにより、色味を調整できる。
なお、「着色剤」とは、染料や顔料のことをいう。
着色剤としては、各種の染料及び顔料が挙げられる。中でも、アントラキノン染料、アゾ染料、フタロシアニン顔料等であることが好ましい。
【0272】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤を含有することにより、原反フィルムに紫外線吸収機能を付与できる。
【0273】
紫外線吸収剤としては、特に制限されず、ベンゾトリアゾール系、2-ヒドロキシベンゾフェノン系、サリチル酸フェニルエステル系等の紫外線吸収剤が挙げられる。
例えば、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のトリアゾール類;2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類等が挙げられる。
これらは、一種単独で含有しても、二種以上を含有してもよい。
【0274】
紫外線吸収剤の含有量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により適宜調整することが好ましい。例えば、上記熱可塑性樹脂の全質量に対して、0.05~10質量%の範囲内であることが好ましく、0.1~5質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0275】
(微粒子)
微粒子を含有することにより、原反フィルムに滑り性を付与できる。
特に、原反フィルムの表面の滑り性が向上し、巻き取り時の滑り性が向上することにより、傷の発生やブロッキングの発生を抑制できる。
【0276】
微粒子は、原反フィルムの透明性を損なうことがなく、溶融時の耐熱性があれば、無機微粒子又は有機微粒子のどちらでもよいが、無機微粒子であることがより好ましい。
これらは、一種単独で含有しても、二種以上を含有してもよい。
【0277】
粒径や形状、例えば針状と球状等の異なる粒子を併用することにより、高度に透明性と滑り性を両立できる。
【0278】
中でも、微粒子は、二酸化ケイ素であることが好ましい。二酸化ケイ素は、上記シクロオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロースエステル等と屈折率が近く、透明性(ヘイズ)に優れる。
【0279】
二酸化ケイ素の具体例としては、「アエロジル(登録商標)200V」、「アエロジル(登録商標)R972V」、「アエロジル(登録商標)R972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600、NAX50」(以上、日本アエロジル株式会社製)、「シーホスター(登録商標)KEP-10」、「シーホスター(登録商標)KEP-30」、「シーホスター(登録商標)KEP-50」(以上、株式会社日本触媒製)、「サイロホービック(登録商標)100」(富士シリシア株式会社製)、「ニップシール(登録商標)E220A」(日本シリカ工業株式会社製)、「アドマファイン(登録商標)SO」(株式会社アドマテックス製)等が挙げられる。
【0280】
粒子の形状としては、不定形、針状、扁平、球状等、特に制限されない。中でも、球状の粒子であることにより、原反フィルムの透明性に優れる。
【0281】
粒子径は、可視光の波長に近いと光が散乱し、透明性が悪くなる。そのため、粒子径は、可視光の波長より小さいことが好ましく、可視光の波長の1/2以下であることがより好ましい。
【0282】
滑り性の観点から、粒子径は、80~180nmの範囲内であることが好ましい。
なお、「粒子径」とは、粒子が1次粒子の凝集体の場合は、その凝集体の大きさのことをいう。また、粒子が球状でない場合は、その投影面積に相当する円の直径のことをいう。
【0283】
微粒子の含有量は、上記熱可塑性樹脂の全質量に対して、0.05~10質量%の範囲内であることが好ましく、0.1~5質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0284】
(2)原反フィルムの作製方法
原反フィルムの作製方法は、特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。
原反フィルムの作製方法は、原反フィルム形成工程(S1)、トリミング工程(S2)、巻取工程(S3)を有することが好ましい。
フィルムの形成方法は、溶液流延製膜法であっても、溶融流延製膜法であってもよい。それぞれについて説明する。
【0285】
(2.1)溶液流延製膜法
図3は、溶液流延製膜法によってフィルムを作製する装置の概略図である。
図3を参照しながら説明する。
【0286】
(2.1.1)原反フィルム形成工程(S1)
(2.1.1.1)ドープの調製
フィルム形成工程(S1)では、まず、攪拌装置1の攪拌槽1aにて、少なくとも樹脂及び溶媒を攪拌し、支持体3(エンドレスベルト)上に流延するドープを調製する。
【0287】
以下、本発明の一実施形態として、熱可塑性樹脂としてシクロオレフィン系樹脂(COP)を含有するドープを調製する場合を説明する。ただし、本発明はこれに制限されない。
【0288】
溶解釜中で、COPに対する良溶媒を主とする溶媒に、COPを、場合によってその他の化合物を、攪拌しながら溶解し、ドープを調製する。または、COP溶液に、場合によってその他の化合物溶液を混合して、主溶解液であるドープを調製する。
【0289】
(樹脂の濃度)
ドープ中のCOPの濃度は、濃い方が、支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましい。また、COPの濃度を濃くしすぎないことにより、ろ過時の負荷を抑制でき、ろ過の精度を保持できる。
COPの濃度は、10~35質量%の範囲内であることが好ましく、15~30質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0290】
(溶媒)
上記溶媒としては、良溶媒及び貧溶媒の混合溶媒を用いる。
ドープで用いられる溶媒は、一種単独であっても二種以上であってもよい。COPの良溶媒と貧溶媒を混合して使用することが、生産効率の観点から好ましく、良溶媒が多い方が、COPの溶解性の観点から好ましい。
【0291】
良溶媒と貧溶媒の混合比率は、良溶媒が70~98質量%の範囲内であることが好ましく、貧溶剤が2~30質量%の範囲内であることがより好ましい。
なお、本発明においては、「良溶媒」及び「貧溶媒」は、それぞれ、COPを単独で溶解するものを良溶媒、単独で膨潤するか又は溶解しないものを貧溶媒という。
そのため、COPの平均置換度によって、良溶媒及び貧溶媒は変わる。
【0292】
本発明に用いられる良溶媒は、特に制限されず、例えば、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、ジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。中でも、メチレンクロライド又は酢酸メチルであることが好ましい。
【0293】
本発明に用いられる貧溶媒は、特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、n-ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
ドープ中の水の含有量は、0.01~2質量%の範囲内であることが好ましい。
【0294】
COPの溶解に用いられる溶媒は、フィルム形成工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられる。
【0295】
回収溶媒中には、COPに添加されている添加剤、例えば可塑剤、紫外線吸収剤等が微量含有されている場合がある。しかし、これらが含有されていても、好ましく再利用することができ、必要であれば精製して再利用することができる。
【0296】
ドープを調製する時のCOPの溶解方法は、一般的な方法を用いることができる。
具体的には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、又は主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法であることが好ましい。加熱と加圧を組み合わせることにより、常圧における沸点以上に加熱できる。
【0297】
溶媒の常圧での沸点以上で、かつ、加圧下で溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解する方法も好ましい。この方法では、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止できる。
【0298】
COPを貧溶媒と混合して湿潤又は膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0299】
加圧は、窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶媒の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。
加熱は、外部から行うことが好ましく、例えば、ジャケットタイプのものは温度の制御が容易で好ましい。
【0300】
COPの溶解性の観点から、加熱温度は、高い方が好ましいが、加熱温度を高くしすぎないことにより、圧力が大きくなりすぎず、生産性を保持できる。
【0301】
加熱温度は、30~120℃の範囲内であることが好ましく、60~110℃の範囲内であることがより好ましく、70~105℃の範囲内であることが更に好ましい。
圧力は、設定温度で溶媒が沸騰しないように調整される。
【0302】
その他、冷却溶解法も好ましく用いられる。この方法では、酢酸メチル等の溶媒にCOPを溶解させることができる。
【0303】
(ろ過)
次に、COPが溶解中又は溶解後のドープを、濾紙等の適当なろ過材を用いて、ろ過することが好ましい。
【0304】
ろ過材は、不溶物等を除去する観点から、絶対ろ過精度が小さい方が好ましい。また、絶対ろ過精度を小さくし過ぎないことにより、ろ過材の目詰まりの発生を抑制できる。
このため、ろ過材の絶対ろ過精度は、0.008mm以下であることが好ましく、0.001~0.008mmの範囲内であることがより好ましく、0.003~0.006mmの範囲内であることが更に好ましい。
【0305】
ろ過材の材質は、特に制限されず、一般的なろ過材を使用できる。例えば、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製のろ過材、又はステンレススティール等の金属製のろ過材であることが、繊維の脱落等がなく好ましい。
【0306】
ろ過により、原料のCOPに含まれていた不純物、特に輝点異物を、除去又は低減することが好ましい。
【0307】
「輝点異物」とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間にフィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に、反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことをいう。なお、輝点異物の径は、0.01mm以上である。輝点数は、200個/cm2以下であることが好ましく、100個/cm2以下であることがより好ましく、50個/m2以下であることが更に好ましく、0~10個/cm2以下であることが特に好ましい。
また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
【0308】
ドープのろ過は、一般的な方法で行うことができる。中でも、溶媒の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶媒が沸騰しない範囲の温度で、ドープを加熱しながらろ過する方法が好ましい。この方法により、ろ過前後のろ圧の差、すなわち差圧の上昇を小さくできる。
【0309】
加熱温度は、30~120℃の範囲内であることが好ましく、45~70℃の範囲内であることがより好ましく、45~55℃の範囲内であることが更に好ましい。
【0310】
ろ圧は小さい方が好ましい。
具体的には、ろ圧は、1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0311】
(2.1.1.2)ドープの流延
支持体3上に流延されたドープを、加圧型定量ギアポンプ等を通して、導管によって流延ダイ2に送液する。そして、支持体3上の流延位置に、流延ダイ2からドープを流延する。なお、支持体3は、無限に移送する回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトからなる。
【0312】
このとき、流延ダイ2の傾き、すなわち流延ダイ2から支持体3へのドープの吐出方向は、支持体3の面(ドープが流延される面)の法線に対する角度であり、0~90°の範囲内となるよう適宜設定されることが好ましい。そして、流延膜5が、支持体3から剥離ローラー4によって剥離可能になるまで、支持体3上で流延膜5を加熱し、溶媒を蒸発させる。
なお、流延膜5が固化され剥離可能になった以降の流延膜を、「原反フィルム」と称することにする。
【0313】
(溶媒蒸発方法)
上記の蒸発は、5~75℃の範囲内の雰囲気下にて行うことが好ましい。
溶媒を蒸発させる方法としては、温風を流延膜上面に当てる方法、支持体3の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等が挙げられる。中でも、輻射熱により表裏から伝熱する方法が、乾燥効率が良く好ましい。
また、これらの方法を組み合わせてもよい。
【0314】
(流延の幅)
流延(キャスト)の幅は、生産性の観点から、1.3m以上であることが好ましく、1.3~4.0mの範囲内であることがより好ましい。
流延(キャスト)の幅を4.0m以下とすることにより、原反フィルムの形成工程で縞が入るのを抑制でき、その後の搬送工程での安定性が高くなる。
搬送性、生産性の観点から、流延の幅は、1.3~3.0mの範囲内であることが更に好ましい。
【0315】
(支持体)
ドープの流延における支持体3は、表面を鏡面仕上げしたものであることが好ましい。支持体3は、一対のローラー3a、3b及びこれらの間に位置する複数のローラーによって保持されている。
【0316】
ローラー3a及び3bの一方、又は両方には、支持体3に張力を付与する駆動装置が設けられており、これによって支持体3は張力が掛けられて張った状態で使用される。
支持体3としては、ステンレススティールベルト又は鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
【0317】
ドープの流延における支持体3の表面温度は、-50℃以上、溶媒の沸点以下の範囲内であることが好ましい。温度が高い方が、流延膜の乾燥速度を速くでき、好ましい。支持体の温度は、0~55℃の範囲内であることが好ましく、22~50℃の範囲内であることがより好ましい。
【0318】
支持体3の温度を制御する方法は、特に制限されず、例えば、温風又は冷風を吹きかける方法や、温水を支持体の裏側に接触させる方法が挙げられる。温水を用いる方法は、熱の伝達が効率的に行われるため、支持体の温度が一定になるまでの時間が短く、好ましい。温風を用いる場合は、目的の温度よりも高い温度の風を使用してもよい。
【0319】
<原反フィルム形成工程における膜厚制御手段>
原反フィルムの作製方法において、膜厚を制御することが好ましい。
膜厚値の各幅手位置における長手平均膜厚の最大高低差(P-V)が、0.02~0.40μmの範囲内であることが好ましい。なお、膜厚値の各幅手位置における長手平均膜厚は、原反フィルムの幅手方向に対して、斜め方向に、下記ステップ1~ステップ3の順で測定できる。
【0320】
ステップ1:
フィルムの端部の任意の位置における膜厚を測定する。その後、測定毎に、任意の位置から幅手方向に10mm、かつ長手方向に30mm移動させた位置の膜厚を測定する。幅手位置、長手位置、膜厚値を記録し、それを他方のフィルムの端部まで繰り返す。
ステップ2:
前記ステップ1の終了後に、長手方向の移動位置の合計の距離が1000mに到達するまで前記ステップ1と同様の測定を行う。
ステップ3:
前記ステップ1及び2から得られた多数の膜厚データから、同一の幅手位置における膜厚値を平均処理し、各々の幅手位置における長手平均膜厚値を求める。その中から最大の値と最小の値の高低差(P-V)を算出する。
【0321】
原反フィルムの形成工程において、上記長手平均膜厚の最大高低差(P-V)は、例えば、以下の三つの膜厚制御手段により、調整できる。また、後述する凸部調整工程においても、上記の長手平均膜厚の最大高低差(P-V)を調整できる。
これらの方法を組み合わせて、膜厚の制御を行ってもよい。
【0322】
(膜厚制御手段1:ポンプ脈動のピッチ制御)
ポンプ脈動のピッチを制御する方法により膜厚を制御する。
流延ダイに至るまでの配管内のドープ送液(溶融の場合は樹脂の押出し)において、高精度のギアポンプを用いることが知られている。ギアポンプは、そのギア比によりポンプの回転速度を制御することで、ポンプ脈動のピッチを制御することができる。その送液時の脈動が、長手の膜厚、長手平均膜厚の平均最大高低差(P-V)に大きく影響する。
【0323】
ここで、ポンプの送液能力について補足説明する。
ドープの流延において、ポンプから流延ダイに至るまでの配管の長さが短すぎなければ、ポンプの回転速度の影響を受けて脈動が大きくなることがない。また、配管の長さが長すぎなければ、圧力損失を抑制でき、ポンプの送液能力が下限を超えて低下することを防げる。ポンプの回転速度が遅すぎなければ、送液能力が低下することを防げる。回転速度が速すぎなければ、圧力損失を抑制でき、送液能力が低下することを防げる。
【0324】
上記の観点から、ポンプから流延ダイに至るまでの配管の長さは、50~100mの範囲内であることが好ましい。また、ドープ送液(溶融の場合は樹脂の押出し)時に用いるギアポンプのギア比を調整する。これにより、ポンプの回転速度を、10~50rpmの範囲内に調整できる。
【0325】
(膜厚制御手段2:ヒートボルトによる膜厚制御)
流延ダイのヒートボルトにより初期吐出膜厚を制御する。
ドープの流延において、膜厚の均一性を向上させる方法としては、溶液流延製膜法と溶融流延製膜法のいずれにおいても、流延ダイのリップ部分のスリットギャップを制御する方法が挙げられる。
【0326】
例えば、粘度の高いドープ(メルト含む)を押し出す際には、上記スリットギャップの幅手方向のバラつきが生じる。これを防ぐために、幅手方向にヒートボルトを複数本設置して、スリットギャップを制御する。ただし、ヒートボルトには、物理的な設置数の限界がある。
【0327】
また、上記スリットギャップの幅手方向のバラつきを生じさせる、幅手での圧力変動を抑制するために、流延ダイの内部構造を幅手方向で変化させる方法がある。しかし、生産品種ごとに流延ダイを切り替えなくてはならず、時間及びコストがかかる。
流延ダイには、ドープを吐出(溶融の場合は樹脂の押出し)するスリットを、幅手方向に調整する機構が設けられている。
【0328】
ここで、流延ダイのヒートボルトにより、ドープを吐出するスリットの幅手方向の間隙を調整し、流延膜の初期吐出膜厚の制御を行う方法について補足説明する。
ドープの流延において、流延ダイのヒートボルトにより、ドープを吐出するスリットの幅手方向の間隙が、小さすぎなければ、膜厚の制御を容易に行うことができ、時間も短縮できる。ドープを吐出するスリットの幅手方向の間隙が、大きすぎなければ、流延膜の初期吐出膜厚を平坦化できる。
【0329】
吐出直後の膜厚偏差は、流延膜全体に対して、1.0~5.0%の範囲内であることが好ましく、流延膜の初期吐出膜厚の制御を行うことが好ましい。
【0330】
流延ダイスリットの、ドープの出るところを、「リップ」と呼ぶ。リップ部分のスリット形状は、調整でき、膜厚を均一にしやすい流延ダイであることが好ましい。流延ダイとしては、例えば、コートハンガーダイ、Tダイ等が挙げられ、いずれも好ましく用いられる。
なお、本発明において、「流延膜」とは、上記のリップ部分から流延されるドープ膜のことをいう。
【0331】
原反フィルムの製膜速度を上げる観点から、上記の流延ダイを、支持体上に二基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。また、複数のドープを同時に流延する共流延法によって、積層構造の原反フィルムとしてもよい。
【0332】
スリットは、ヒートボルトを手動で回して押し込むことで、狭めることができ、膜厚を薄くできる。逆に、スリットを開いて、膜厚を厚くできる。一般的には、ヒートボルトに電圧をかけることで、熱により押し込む。通常は、手動での押し込みと電圧での押し込みを、組み合わせて使用する。その他、押し引きをすることもできる。
【0333】
流延ダイの機構上、ボルトのピッチを狭くできない場合がある。この場合、粘度が高いドープ(溶融含む)では、流延ダイ吐出時のリップにかかる圧力負荷が大きく、吐出後、負荷が急激に低下して、膜厚が大きくなる(バラス効果)ことがある。このような幅手膜厚にバラつきが生じることがある。そのため、流延ダイ内部の構造を、流延ダイのリップに負荷がかかり過ぎないよう、設計する必要がある。
【0334】
(膜厚制御手段3:熱風による膜厚制御)
流延膜に熱風を吹きつけ、その熱により突起部を平坦化することで膜厚を制御する。
ドープの流延時のベルト上において、流延膜の反ベルト側の表層が膜になった状態で、風を当ててもいいし、流延膜をベルトから剥離した直後に熱風を吹き付けても良い。
【0335】
流延膜の内部は、溶媒を含んでおり、柔らかいため、突起を平坦化できる。具体的には、流延膜の幅手方向の不均一性をオンラインで測定し、乾燥風の温度、風速、風量等を調整し、残留溶媒量を調整することにより膜厚を制御する。
【0336】
乾燥風の温度、風速、風量、及び残留溶媒量について補足説明する。
乾燥風の温度、風速及び風量を、ある一定値以上とすることにより、膜厚を制御することができる。また、乾燥風の温度、風速及び風量を、ある一定値以下とすることにより、膜厚を局所的に制御できなくなるのを防ぐ。
【0337】
残留溶媒量が、ある一定値以上であることにより、柔らかい状態の流延膜とすることができ、平坦化できる。また、残留溶媒量が、ある一定値以上であることにより、平坦化するときに膜厚にバラつきが生じにくい。つまり、残留溶媒量を調整することにより、薄い膜が表層にできた状態で、平坦化3を行うことができる。
【0338】
上記の観点から、乾燥風の温度は、10~80℃の範囲内であることが好ましく、風速は、5~40m/secの範囲内であることが好ましい。
また、残留溶媒量は、150~550質量%の範囲内であることが好ましい。
【0339】
流延膜の反ベルト側の表層が膜になっていない状態で、上記の操作を行うと、筋が発生しやすい。また、流延膜の内部は、溶媒を含んでおり、柔らかいことが好ましい。ドープの流延時のベルト上において、流延膜の膜厚偏差の幅手方向の不均一性を、オンラインで測定する。そして、その不均一性が減少するよう、熱風を吹付ける際に、温度を調整し、膜厚を制御することが好ましい。
【0340】
(2.1.1.3)原反フィルムの剥離
支持体3上で、流延膜5が剥離可能な膜強度となるまで溶媒を蒸発させ、乾燥固化又は冷却凝固させる。その後、支持体3を原反フィルムが一周する前に、原反フィルムを、支持体3から、自己支持性を持たせたまま、剥離ローラー4によって剥離する。
なお、流延膜5が固化され剥離可能になった以降の流延膜を、「原反フィルム」と称することにする。
【0341】
面品質、透湿性及び剥離性の観点から、30~600秒の範囲内で、原反フィルムを支持体から剥離することが好ましい。なお、支持体からフィルムを剥離する位置のことを、「剥離点」といい、剥離を助けるローラーを「剥離ローラー」という。
【0342】
支持体上の剥離位置における温度は、-50~40℃の範囲内であることが好ましく、10~40℃の範囲内であることがより好ましく、15~30℃の範囲内であることが更に好ましい。
【0343】
(フィルム剥離時の残留溶媒量)
剥離時での支持体3上での原反フィルムの残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、支持体3の長さ等によって適宜調整される。
【0344】
原反フィルムの厚さにもよるが、剥離点での残留溶媒量をある一定量以下とすることにより、原反フィルムは柔らかすぎず、剥離しやすい。また、原反フィルムの平面性が向上し、剥離張力による横ダン、ツレや縦スジの発生を抑制できる。残留溶媒量をある一定量以上とすることにより、原反フィルムの一部が剥がれるのを抑制できる。
原反フィルムの平面性の観点から、残留溶媒量は、10~50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0345】
製膜速度を上げる方法として、残留溶媒量が多くとも剥離できるゲル流延法(ゲルキャスティング)が挙げられる。なお、残留溶媒量ができるだけ多いうちに剥離することにより、製膜速度を上げることができる。
具体的には、ドープ中に、シクロオレフィン系樹脂(COP)に対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、流延膜をゲル化する方法が挙げられる。また、支持体を冷却することにより、流延膜をゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態で剥離する方法等が挙げられる。その他、ドープ中に金属塩を加えてもよい。
上記のように、支持体上で流延膜をゲル化させ、膜を強くすることによって剥離を早め、製膜速度を上げることができる。
【0346】
残留溶媒量は、下記式で定義される。
残留溶媒量[質量%]={(M-N)/N}×100
なお、Mは、流延膜又は原反フィルムを、製造中若しくは製造後の任意の時点で採取した試料の質量である。Nは、質量がMである試料の、115℃で1時間の加熱後の質量である。
【0347】
(剥離張力)
支持体とフィルムを剥離する際の剥離張力は、300N/m以下であることが好ましい。196~245N/mの範囲内であることがより好ましい。剥離の際に皺が入りやすい場合、190N/m以下の張力で剥離することが好ましい。
【0348】
(2.1.1.4)原反フィルム面内での収縮
支持体から剥離後の原反フィルムを、搬送方向(Machine Direction、以下「MD方向」ともいう。)に、張力をかけて延伸することによって収縮させる。この場合、原反フィルムは、原反フィルム面内で、MD方向と直交する幅手方向(Traverse Direction、以下「TD方向」ともいう。)に収縮する。
【0349】
上記の操作によって、原反フィルムの厚さ方向における、ポリマー分子(マトリックス分子)間の絡み合いが促進される。例えば、光学フィルムを、その他のフィルムと接着剤を介して接着する場合、接着剤が、マトリックス分子間の絡み合いの部分(架橋部分)を介して、フィルム内部に浸透しやすい。その結果、光学フィルムを、接着剤を介してその他のフィルムに強固に固定できる。つまり、光学フィルムとその他のフィルムとの接着性を向上できる。
【0350】
その他、原反フィルムを収縮させる方法としては、例えば、原反フィルムの幅手を保持しない状態で高温処理し、原反フィルムの密度を高める方法が挙げられる。また、急峻に原反フィルムの残留溶媒量を減少させる方法等が挙げられる。
【0351】
(フィルムの収縮率)
本発明において収縮率とは、下記式にて定義される。
【0352】
収縮率[%]=収縮後のフィルムの幅[mm]/収縮開始時のフィルムの幅[mm]×100
【0353】
原反フィルムの収縮率は、1~40%の範囲内であることが好ましく、5~20%の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、マトリックス分子間の絡み合いが促進される。また、フィルムの生産効率が低下を抑制できる。
【0354】
(収縮率の測定方法と算出方法)
本発明においては、原反フィルムの幅を「LS-9000」(株式会社キーエンス製)にて測定した。
原反フィルムの収縮率は、原反フィルムの幅を、上記の測定器により1秒毎で5分間(300秒)測定した各値の平均値とし、上記式に代入することにより求めた。ただし、上記の方法に限る必要はなく、例えば、原反フィルムの幅を定規から読み取った値を用いて、原反フィルムの幅とし、上記式に代入してもよい。
【0355】
(2.1.1.5)原反フィルムの乾燥
乾燥装置6により、原反フィルムを支持体上で加熱し、溶媒を蒸発させることにより、更に原反フィルムを乾燥させる。支持体は、全体が同じ温度であっても、位置によって温度が異なっていてもよい。
【0356】
原反フィルムの乾燥方式としては、上下に配置した多数のローラーに、原反フィルムを交互に通し乾燥させる、ローラー乾燥方式が挙げられる。また、原反フィルムを搬送させながら乾燥する、テンター方式が挙げられる。
【0357】
テンター延伸装置は、左右把持手段によって、原反フィルムの把持長を左右で独立に制御できる装置であることが好ましい。なお、「把持長」とは、把持開始から把持終了までの距離のことをいう。
【0358】
図3における乾燥装置6内では、側面から見て千鳥状に配置された複数の搬送ローラーによってフィルムが搬送され、その間にフィルムが乾燥される。
乾燥装置6での乾燥方法は、特に制限されず、例えば、熱風、赤外線、加熱ローラー、マイクロ波等を用いて原反フィルムを乾燥させる。簡便さの観点から、熱風でフィルムを乾燥させる方法が好ましい。
また、これらの乾燥方法を組み合わせてもよい。
なお、上記の操作は、必要に応じて行われればよい。
【0359】
フィルムの厚さが薄ければ、乾燥は早いが、急激な乾燥は、出来上がりの原反フィルムの平面性を損ねやすいため、ある程度の乾燥時間を有することが好ましい。
【0360】
(フィルム乾燥時の残留溶媒量)
高温による乾燥を行う場合、残留溶媒量を考慮する必要がある。残留溶媒量は、多すぎないことで、溶媒の発泡による故障を防げる。
上記残留溶媒量は、30質量%以下であることが好ましい。全体を通して、乾燥温度は、30~250℃の範囲内であることが好ましく、35~200℃の範囲内であることがより好ましい。乾燥温度は、段階的に高くしていくことが好ましい。
【0361】
原反フィルムの剥離時の支持体3上での原反フィルムの残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、支持体3の長さ等によって適宜調整される。原反フィルム面内での収縮や、原反フィルムの乾燥における残留溶媒量は、膜厚、樹脂等が大きく影響するため、適宜調整することが好ましい。
【0362】
(2.1.2)トリミング工程(S2)
トリミング工程(S2)では、スリッターからなる切断部8が、幅手方向の原反フィルムの両端部を切断(トリミング)する。上記のトリミングの前に、原反フィルムをオシレートさせないことが好ましい。
なお、本明細書において「オシレート」とは、原反フィルム自体を幅方向に動かすことをいう。
【0363】
原反フィルムのうち切断された部分は、回収され、再び原材料の一部として、原反フィルムの製膜に再利用してもよい。
トリミング工程の後に、原反フィルムにナーリング加工を施すことも可能である。ただし、空気の過剰な取込みを抑制する観点からは、トリミング工程の後に、原反フィルムにナーリング加工を施さないことが好ましい。
【0364】
(2.1.3)巻取工程(S3)
巻取工程(S3)にて、原反フィルムを、巻取装置13によって巻取り、原反フィルムロールを得る。すなわち、巻取工程では、原反フィルムを搬送しながら巻芯に巻き取ることにより、原反フィルムロールが作製される。巻取工程におけるフィルムを巻取る際の初期張力は、20~300N/mの範囲内であることが好ましい。
【0365】
(巻取直前の残留溶媒量)
具体的には、原反フィルム中の残留溶媒量が、2質量%以下となってから、巻取装置12により巻き取る工程である。また、残留溶媒量を0.4質量%以下にすることにより、寸法安定性の良好な原反フィルムを得られる。特に、残留溶媒量が、0.00~0.20質量%の範囲内で巻き取ることが好ましい。
【0366】
(巻取り方法)
原反フィルムの巻取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよい。定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
【0367】
巻き取る前に、適当な幅にフィルムの端部をスリットして裁ち落とし、巻き中の貼りつきや擦り傷防止のために、表面改質処理をフィルム両端に施してもよい。
【0368】
(巻取り後)
原反フィルムロールは、長尺フィルムであることが好ましく、具体的には、100~10000mの範囲内であることが好ましい。通常、ロール状で提供される形態のものである。
【0369】
〈フィルムの巻取り方法の詳細〉
原反フィルムは、以下の巻取方法で巻取ることが好ましい。
巻取方法は、原反フィルムの側縁が揃うように、原反フィルムを巻芯に巻き取るストレート巻き工程を有することが好ましい。また、ストレート巻き工程の後に、側縁が原反フィルムの幅方向に対して一定範囲で周期的にずれるように、原反フィルムの幅方向に原反フィルム又は巻芯を周期的に振動させる。そして、原反フィルムを巻芯に巻き取るオシレート巻き工程を有することが好ましい。
【0370】
原反フィルムの全巻長に対して、1~30%の範囲内であらかじめ定められる切り替え時巻長に、原反フィルムの巻長が達したときに、ストレート巻き工程からオシレート巻き工程に切り替えることが好ましい。
【0371】
原反フィルムの巻取装置は、巻芯を回転させて巻芯に原反フィルムを巻き取る原反フィルム巻取部を備える。また、オシレート巻きになるように、原反フィルムの巻取りに連動させて原反フィルム又は巻芯を原反フィルムの幅方向に振動させるオシレート部を備える。そして、原反フィルムの巻長が、あらかじめ定められる切り替え時巻長に達したときに、原反フィルムの巻取りをストレート巻きからオシレート巻きに切り替える切り替え部を備えることが好ましい。
以下、オシレート巻きについての詳細は、省略する。
【0372】
図12は、フィルムが巻き取られる工程と、巻き取られた後の本発明に係るフィルムロールの断面を示す概略図である。
図11では、製膜されたフィルム31はロール32及びタッチロール33によって巻き回され、フィルムロール30として巻き取られる。
【0373】
(2.2)溶融流延製膜法
原反フィルムは、溶融流延製膜法により製膜することもできる。
「溶融流延製膜法」とは、熱可塑性樹脂及び上述した添加剤を含む組成物を、流動性を示す温度まで加熱溶融する。その後、流動性の熱可塑性樹脂を含む溶融物を流延する方法のことをいう。
【0374】
加熱溶融する成形方法としては、例えば、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等が挙げられる。
中でも、機械的強度及び表面精度等の観点から、溶融押出し法であることが好ましい。
【0375】
以下、溶融流延製膜法の工程の流れについて、前述した溶液流延製膜法についての
図2と同様の流れで説明する。
また、
図13は、溶融流延製膜法によって、原反フィルムを作製する装置の概略図である。
以下、溶液流延製膜法において、
図2及び
図13を参照しながら説明する。
【0376】
溶融流延製膜法による原反フィルムの作製方法は、原反フィルム形成工程(S1)、トリミング工程(S2)及び巻取工程(S3)を含む。
【0377】
(2.2.1)原反フィルム形成工程(S1)
(2.2.1.1)樹脂の溶融押出
押出し機14にて、少なくとも樹脂を溶融押出しして、キャストドラム16上に成形する。 樹脂は、あらかじめ混錬してペレット化しておくことが好ましく、ペレット化は、公知の方法で行えばよい。
【0378】
例えば、乾燥樹脂や可塑剤、その他添加剤をフィーダーで押出し機に供給し、一軸や二軸の押出し機を用いて混錬する。流延ダイからストランド状に押出し、水冷又は空冷し、カッティングすることでペレット化できる。
【0379】
添加剤は、押出し機に供給する前に樹脂に混合しておいてもよいし、添加剤及び樹脂をそれぞれ個別のフィーダーで押出し機に供給してもよい。粒子や酸化防止剤等の少量の添加剤は、均一に混合するため、事前に樹脂に混合しておくことが好ましい。
【0380】
供給ホッパーから押出し機へ、ペレットを導入する際は、乾燥、真空下又は減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。
【0381】
押出し機は、剪断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないようにペレット化可能でなるべく低温で加工することが好ましい。
【0382】
例えば、二軸押出し機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させることが好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプであることが好ましい。ペレットは、溶融時に、リーフディスクタイプのフィルター等でろ過して異物を除去することが好ましい。
【0383】
以上により得られたペレットを用いて、原反フィルムの製膜を行う。
勿論、ペレット化せず、原材料の樹脂(粉末等)をそのままフィーダーで押出し機に供給し、そのまま原反フィルムを製膜することも可能である。
【0384】
(2.2.1.2)溶融した樹脂の流延、成形
ここでの「樹脂」は、ペレットを含む。
溶融した樹脂を、加圧型定量ギアポンプ等を通して、導管によって流延ダイ15からフィルム状に流延する。無限に移送する回転駆動ステンレス鋼製エンドレスキャストドラム16上の流延位置に、流延ダイ15から溶融した樹脂を流延する。そして、流延した溶融状態の樹脂を、キャストドラム16上で成形させて、原反フィルムを形成する。
【0385】
流延ダイ15の傾き、すなわち、流延ダイ15から支持体16への溶融状態の樹脂の吐出方向は、キャストドラム16の面(溶融状態の樹脂が流延される面)の法線に対する角度で、0~90°の範囲内となるように適宜設定されればよい。
【0386】
タッチローラー16aやキャストドラム16を補助する冷却ドラム17を、適宜、単独で又は組み合わせて原反フィルムを形成してもよい。
【0387】
原反フィルム形成工程における膜厚制御手段及びその他の事項については、上記溶液流延製膜法による原反フィルムの作製工程と同様である。残留溶媒量、収縮率及び乾燥方法等の記載も重複するので省略する。
【0388】
(2.2.2)トリミング工程(S2)
トリミング工程(S2)では、スリッターからなる切断部20が、幅手方向の原反フィルムの両端部を切断(トリミング)する。
原反フィルムから切断された部分は、回収され、再び原材料の一部として、原反フィルムの製膜に再利用してもよい。
トリミング工程の後に、原反フィルムにナーリング加工を施すことも可能である。ただし、空気の過剰な取込みを抑制する観点からは、トリミング工程の後に、原反フィルムにナーリング加工を施さないことが好ましい。
【0389】
(2.2.3)巻取工程(S3)
最後に、巻取工程(S3)にて、原反フィルムを、巻取装置23によって巻取り、原反フィルムロールを得る。すなわち、巻取工程では、原反フィルムを搬送しながら巻芯に巻き取ることにより、フィルムロールが製造される。
原反フィルムの巻取り方法は、一般的に使用されているワインダーを用いればよい。例えば、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力を制御する方法が挙げられ、それらを使い分ければよい。
【0390】
(3)次工程での延伸加工の方法
本発明において、次工程、すなわち、原反フィルムに施す加工の方法は、特に制限されない。加工の一例として、延伸加工について説明する。
まず、以下において、本発明に係る主要な用語の意義について説明する。
【0391】
<凸部に関する用語の定義>
本発明において、「凸部」とは、膜厚測定によって測定及び観察されるフィルムの厚さの、凹凸形状の山と谷の高さのうち、平均膜厚よりも高い、すなわち厚い部分をいう。
なお、ここでの「フィルム」とは、原反フィルム又は光学フィルムのことをいう。
詳細は下記に示すとおりである。
【0392】
凸部の状態の測定及び評価は、フィルムの端部の任意の位置における膜厚を測定する。その後、測定毎に前記任意の位置から幅手方向に10mm、かつ長手方向に30mm移動させた位置の膜厚を測定する。それを他方のフィルムの端部まで繰り返し、ガウシアンフィルタ処理によりノイズを除去する。幅手方向の膜厚プロファイルを得て、当該プロファイルに基づいて凸部の状態を測定及び評価する。
【0393】
なお、本発明において「フィルムの端部」とは、フィルム(ロール)の幅手方向の末端から、15~30mm内側の範囲内の領域部分のことをいう。「フィルムロール」とは、ロール状に巻いたフィルムのことをいう。
【0394】
(凸部の個数)
幅手方向の各膜厚の測定値の平均値をとることにより、平均膜厚を決定する。そして、
図1のように、幅手方向の膜厚プロファイルが平均膜厚より厚い部分が、幅手方向に50mm以上連続している部分を凸部とする。また、その部分の数を、凸部の個数とする。
上記の凸部の個数を多くしすぎないことにより、一つ一つの山が鋭くならず、フィルムに変形が生じにくい。また、凸部の個数を少なくしすぎないことにより、フィルム巻取時に、凸部に応力が集中しすぎるのを防ぎ、ネジレ等が生じにくい。
凸部の数は、幅手方向1mあたり、1~10個の範囲内であることが好ましい。
【0395】
(凸部の位置と高さ)
また、上記の方法により決定された各凸部において、最大値をとった位置を凸部の位置とする。その凸部の最大値から幅手方向の平均膜厚を引いた値を、各凸部の高さhとする。
上記の凸部の高さを高くしすぎないことにより、フィルムロールを長時間放置した後に山裾部でチェーン状が生じにくくする。また、凸部の高さを低くしすぎないことにより、膜厚散らし効果が発現する。
【0396】
凸部の高さは、0.05~0.50μmの範囲内であることが好ましい。
また、凸部の位置は、フィルム表面の長手方向に連続的に移動するように調整する。これにより、フィルム巻取時に凸部どうしが重ならないようにすることで、前述の凸部の個数や高さの調整機能の効果をより高めることができる。
【0397】
なお、上記の膜厚は、例えば、インラインリターデーション・膜厚測定装置「RE-200L2T-Rth+膜厚」(大塚電子(株)製)を用いて測定できる。
【0398】
(3.1)凸部調整工程
(3.1.1)凸部調整工程の概要
フィルム表面の幅手方向における凸部調製工程は、凸部の数、高さ及び位置を調整する工程である。フィルムに局所的な加熱を施すことによって、凸部の数を、幅手方向1mあたり1~10個の範囲内とすることが好ましい。また、凸部の高さを0.05~0.50μmの範囲内とすることが好ましい。さらに、凸部の位置を、フィルム表面の長手方向に連続的に移動するように調整することが好ましい。
【0399】
凸部を調整する手段として、原反フィルムに局所的な加熱を施すことが好ましい。
局所的な加熱手段としては、赤外線(IR)ヒーターや熱風等が挙げられる。熱処理の方法は、特に制限されず、他の方法により熱処理を行ってもよい。熱風式は、材料を問わず、十分な膜厚調整能力があることが利点である。
【0400】
一方、山谷の連続移動制御はやや難しいが、温度や風量、ノズル圧などを適宜制御することで、凸部を連続的に移動させることができる。原反フィルムの幅手方向と長手方向に配置された赤外線ヒーターを用いて、局所的な加熱を行うことが、膜厚制御性及び安定性の観点から、好ましい。
【0401】
凸部調整工程においては、延伸装置内にて、原反フィルムに局所的な加熱を施しながらフィルムを延伸する。
例えば、インラインリターデーション・膜厚測定装置「RE-200L2T-Rth+膜厚」(大塚電子(株)製)を用いて、ターゲットとする原反フィルムの幅手方向の膜厚プロファイルを測定する。そして、目標の膜厚プロファイルとの差分から、各々の赤外線ヒーターの設定温度をコンピューター上で算出する。プログラマブルコントローラ「PLC KV-8000」(キーエンス(株)製)を介して、各々の熱源の設定温度を出力して凸部を調整する。これを自動で繰り返し、膜厚調整を自動化する。
【0402】
(3.1.2)原反フィルムの延伸
原反フィルムの延伸は、原反フィルムの面内で、MD方向にのみ延伸してもよいし、TD方向にのみ延伸してもよい。また、MD方向及びTD方向の両方に対して延伸してもよいし、斜め方向に延伸してもよい。延伸方向は制限されない。
【0403】
広幅のフィルムを得る観点から、少なくとも幅手方向の延伸することが好ましい。
延伸方式としては、ローラーの周速差を設けて搬送方向に延伸する方式が挙げられる。ここでの搬送方向は、フィルムの長手方向、製膜方向、流延方向又はMD方向である。また、原反フィルムの両側縁部をクリップ等で固定して、幅手方向に延伸するテンター方式が挙げられる。ここでの幅手方向は、フィルム面内で直交する方向又はTD方向である。これらの方式を用いることにより、光学フィルムの性能、生産性、平面性、寸法安定性等を向上できる。
【0404】
テンター方式の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると、滑らかに延伸でき、破断等の危険性を減少できる。
【0405】
(延伸倍率)
高位相差及び広幅を確保する観点から、延伸工程において、原反フィルムを高倍率で延伸することが好ましい。ただし、延伸倍率が高すぎると、延伸応力により、光学フィルム内にクレーズが発生しやすい。また、光学フィルムの強度を保っているマトリックス分子間の絡み合いが解離して、光学フィルムが脆弱化しやすい。
【0406】
原反フィルムの延伸倍率は、1.1~5.0倍の範囲内であることが好ましく、1.3~3.0倍の範囲内であることがより好ましい。複数回延伸する場合、マトリックス分子の解離のリスクが最も高い最高倍率の延伸は、最終回に行うことが好ましい。
【0407】
(フィルム延伸時の残留溶媒量)
延伸時における原反フィルム中の残留溶媒量は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることが好ましい。
【0408】
(3.1.3)凸部調整工程における各用語の定義
(凸部に関する用語の定義)
凸部に関する用語の定義については、前述したので省略する。
【0409】
(凸部の長手方向への連続性:凸部の位置の長手方向への調整)
凸部調整工程において、凸部の位置は、光学フィルム表面の長手方向に連続的に移動するように調整される。凸部の位置は、後述の定義によって決定される。その凸部の位置同士を結ぶと、例えば
図4(a)及び
図4(b)に示すように略直線の軌跡を描く。又は、
図4(c)に示すように略一定の変化率で変化する曲率をもった曲線の軌跡を描く。
なお、
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)は、本発明を理解しやすくするために、便宜上、幅手方向と長手方向の縮尺幅を変えて表現している。
【0410】
すなわち、「フィルム表面の長手方向に連続的に移動する」とは、凸部の位置同士を結んだとき、略直線又は略一定の変化率で変化する曲率をもった、曲線の軌跡を描くことをいう。当該略直線又は略一定の変化率で変化する曲率をもった曲線は、周期性を有しても良い。
なお、
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)に関しては、周期性をもった凸部の連なりであるが、周期性をもっているものに制限されない。
【0411】
「略直線」とは、
図5に示すように、フィルムの幅手方向を横軸(x軸)、フィルムの長手方向を縦軸(y軸)として各凸部の中心点をプロットしたとき、実質上、直線と同視できる線のことをいう。なお、「実質上、直線と同視」とは、凸部調整工程の制御条件及びフィルムの性状のバラツキによって、厳密な意味での直線から逸脱する点を除外した場合、各凸部の中心点のプロットが直線であることをいう。
なお、当該略直線を最小二乗法で求めた近似直線とした場合、当該近似直線を表す一次式の相関係数の絶対値が、0.8以上であることが好ましい。
また、「略一定の変化率」とは、平均値±10%の範囲内での変化率のことをいう。
【0412】
(フィルム表面の長手方向に対する略直線の傾きθ′)
フィルムへの局所的な加熱により、凸部の位置が、フィルム表面の長手方向に、略直線上に並ぶように調整することが好ましい。凸部の位置を制御することで、フィルムの長手方向において、急激に膜厚プロファイルが変わらないようにすることが好ましい。すなわち、凸部の連続性を維持することが好ましい。
また、略直線の傾きの絶対値が、0.01~0.6°の範囲内であることが好ましい。
【0413】
フィルム表面の長手方向に対する略直線の傾きθ′は、下記のように決定される。
【0414】
例えば、インラインリターデーション・膜厚測定装置「RE-200L2T-Rth+膜厚」(大塚電子(株)製)を用いて、膜厚プロファイルを測定する。これと、平均膜厚により算出された凸部の位置を、
図5に示すように、フィルムの幅手方向を横軸(x軸)、フィルムの長手方向を縦軸(y軸)としてプロットする。
【0415】
フィルムの端部の、任意の位置における凸部の位置を、P0(x0,y0)としたときの、他の各凸部の座標を、P1(x1,y1)、P2(x2,y2)、・・・・・、Pn(xn,yn)としてプロットする。なお、nは1以上の整数である。
【0416】
得られる凸部の位置のプロット図と、近似直線の関係を、
図5に示す。
プロットされた凸部の軌跡より、フィルムの端部の、任意の位置における凸部の位置を、P
0(x
0,y
0)=P
0(
0,
0)とする。また、最小二乗法で求めた近似直線の傾きをaとする。そして、一次関数y=ax(x及びyは変数)の直線を描き、そのときの傾きaに相当する角度θ[°]を求める。なお、相関係数Rは0.9以上である。
このとき、フィルム表面の長手方向に対する略直線の傾きθ′[°]は、θ′[°]=(90-θ)[°]である。
【0417】
(熱源部EAとEBを結ぶ直線の長手方向に対する直線の平均傾きθE′)
フィルムの幅手方向において、赤外線ヒーターの熱源部は、10~100mmの間隔で配置することが好ましい。当該熱源部は、フィルムの長手方向に、幅手位置と異なる位置で配置されることが好ましい。配置された各々の熱源部EAとEBを結ぶ直線の平均傾きθE′が、長手方向に対して、2~45°の範囲内であることが好ましい。赤外線ヒーターの熱源部の間隔は、より小さくすることにより、細かくプロファイルを調整できる。
【0418】
フィルム上の赤外線ヒーターは、例えば、
図6(a)、(b)及び(c)のように、規則正しく、フィルムの長手方向に、1列又は複数の列で配置される。なお、
図6(a)はフィルムの長手方向に1列、
図6(b)はフィルムの長手方向に2列、
図6(c)はフィルムの長手方向に5列で配置されている。
【0419】
図6において、P
1、P
2及びP
3は各赤外線ヒーターの熱源部設置間隔のピッチを表す。ここで、赤外線ヒーターにおける各々の熱源部は、
図6(a)、(b)及び(c)で示すように、各々の赤外線ヒーターの中央部である。
なお、赤外線ヒーターの形状は制限されない。赤外線ヒーターの熱源部の形状としては、点状、線状又は面状等が挙げられる。
また、「赤外線ヒーターの熱源部」とは、赤外線ヒーターの形状が、点状、線状又は面状等のいずれであっても、赤外線ヒーターの熱源部の中央部のことをいうものとする。
【0420】
赤外線ヒーターは、フィルム表面から、30~120mm離れた位置に配置されていることが好ましい。加熱幅は、100~250mmの範囲内であることが好ましい。赤外線ヒーターの熱源部の設置間隔は、ピッチ10~100mmの範囲内であることが好ましい。赤外線ヒーターの各熱源部の温度は、100~1000Wの範囲内で、180~350℃の範囲内であることが好ましい。
【0421】
以下、各熱源部の位置関係を具体的に説明する。
各々の熱源部E
AとE
Bとを結ぶ直線の平均傾きθ
E′を求める際に、熱源部E
AとE
Bとの位置関係は、幅手方向の座標と長手方向の座標位置を異にする、最も近い位置関係である(
図6参照)。
【0422】
具体的には、例えば、
図7(a)や
図7(b)のような位置関係が挙げられる。
なお、配置された各々の熱源部E
AとE
Bを結ぶ直線の長手方向に対する直線の平均傾きθ
E′は、下記のように導かれる。
【0423】
以下、
図7(a)を用いて説明する。
図7(a)のように、フィルムの幅手方向にx軸をとり、長手方向にy軸をとったとき、熱源部E
Aの座標を(x
1,y
1)、熱源部E
Bの座標を(x
2,y
2)とする。
|x
2-x
1|を三角形の底辺とし、|y
2-y
1|を三角形の高さとしたときに導かれる角度θ
E[°](0°≦θ≦90°)の値に対して、90-θ
E[°]の値を算出する。これにより、直線の平均傾きθ
E′が導かれる。
【0424】
<凸部調整工程における膜厚制御手段>
(膜厚制御手段4)
膜厚制御手段は、例えば、テンター延伸装置内の炉内温度や熱処理のタイミングを変えることにより行うことができる。熱処理は、赤外線(IR)ヒーターであっても、他の方法であってもよい。上記の膜厚制御手段4は、テンター延伸装置内以外でも、別の工程の炉内、該当の環境温度や熱処理のタイミングを変えることによって行うこともできる。
【0425】
(テンター延伸装置)
〔炉内温度〕
「炉内温度」とは、テンター延伸装置内において、フィルムが、後述する延伸ゾーンを通過する直前の、フィルム中央から100mm上側の位置を測定した温度のことをいう。なお、1分間ごとの各温度の値を1時間測定し、それらの平均値を算出する。
炉内温度と熱処理の温度差が、小さすぎたり、大きすぎたりしなければ凸部の調製が容易となる。
【0426】
上記の観点から、炉内温度と熱処理の温度差は、100~200℃の範囲内であることが好ましい。炉内温度は、120~220℃の範囲内であることが好ましく、120~180℃の範囲内であることがより好ましい。
ここで、複数の区画で長手に温度勾配をつけている場合、熱処理の区画を対象とするものとする。
【0427】
〔フィルムが延伸ゾーンを通過する直前の残留溶媒量〕
フィルムが延伸ゾーンを通過する直前のフィルム中の残留溶媒量は20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることが好ましい。
【0428】
〔テンター延伸装置の内部構成1〕
テンター延伸装置は、フィルムの幅方向の両端部をクリップで把持する。そして、このクリップをフィルムとともに走行させながら、間隔を拡げることによって、フィルムを延伸する装置である。通常、予熱ゾーン、延伸ゾーン及び熱固定ゾーンの、複数のゾーンに分けられている。上記3つのゾーンのうち、熱処理を加えるタイミングを必要に応じて変えることができる。
【0429】
上記の熱処理には、例えば、赤外線(IR)ヒーターを用いる。赤外線(IR)ヒーターは、必要に応じた個数が、各ゾーンに適宜設置される。ただし、熱処理は、赤外線(IR)ヒーター以外を用いてもよい。
【0430】
以下、
図8を参照しながらテンター延伸装置7として用いられる装置を説明する。
図8は、テンター延伸装置の内部構成を模式的に表す平面図であり、テンター延伸装置を、フィルム面に垂直な面を、上側から見た断面図である。
なお、
図8は、カバーを取り外した状態を示しており、カバーは二点鎖線で示している。
【0431】
テンター延伸装置40は、フィルムの幅方向の両端部を把持する多数のクリップ42を備え、クリップ42は、無端チェーン48に一定の間隔で取り付けられている。無端チェーン48は、フィルムを挟んで両側に配置されており、それぞれが、入口側の原動スプロケット50と、出口側の従動スプロケット52との間に、掛け渡される。原動スプロケット50は、不図示のモータに接続されており、このモータを駆動することによって原動スプロケット50が回転する。これにより、無端チェーン48が、原動スプロケット50と従動スプロケット52との間を周回走行し、無端チェーン48に取り付けたクリップ42が周回走行する。
【0432】
原動スプロケット50と従動スプロケット52との間には、無端チェーン48又はクリップ42をガイドするためのレール54が設けられる。レール54は、フィルムを挟んで両側に配置されており、レール54同士の間隔は、フィルムの搬送方向の上流側よりも下流側が広くなるように構成される。これにより、クリップ42が周回走行する際に、クリップ42同士の間隔が拡げられるので、クリップ42に把持されたフィルムを、幅方向に横延伸できる。
【0433】
原動スプロケット50と従動スプロケット52には、それぞれ開放部材56が取り付けられている。開放部材56は、後述するクリップ42のフラッパ(図示せず)を、把持位置から開放位置に変位させる装置である。この開放部材56によって、フィルムの把持動作と開放動作が自動的に行われる。
【0434】
〔テンター延伸装置の内部構成2〕
テンター延伸装置40の内部には、
図8に示すように、予熱ゾーン、(横)延伸ゾーン及び熱固定ゾーンが設けられている。各ゾーンの間は、不図示の遮風カーテンによって仕切られている。
【0435】
各ゾーンの内部では、フィルムに対して上方又は下方、若しくはその両方から、熱風が給気される。熱風は、ゾーン毎に所定の温度に管理された状態で、フィルムの幅方向に均一に吹き出される。これにより、各ゾーンの内部が所望の温度に制御される。
以下、各ゾーンについて説明する。
【0436】
予熱ゾーンは、フィルムを予熱処理するゾーンであり、クリップ42の間隔を拡げることなく、フィルムを加熱する。
【0437】
予熱ゾーンで予熱されたフィルムは、横延伸ゾーンに移動する。 横延伸ゾーンは、クリップ42の間隔を広げることによってフィルムを幅方向に横延伸するゾーンである。延伸倍率は、1.0~2.5倍の範囲内であることが好ましく、1.05~2.3倍の範囲内であることがより好ましく、1.1~2倍の範囲内であることがさらに好ましい。
【0438】
横延伸ゾーンで横延伸されたフィルムは、熱固定ゾーンに移動する。
【0439】
本実施の形態では、テンター40の内部を予熱ゾーン、(横)延伸ゾーン、熱固定ゾーンに分けたが、ゾーンの種類や配置はこれに制限されない。例えば、横延伸ゾーンの後に、フィルムを冷却する冷却ゾーンを設けてもよい。また、熱固定ゾーンの中に熱緩和ゾーンを設けてもよい。
【0440】
本実施の形態では、テンター40で横延伸のみを行ったが、同時に縦方向にも延伸してもよい。この場合、クリップ42の移動時に、搬送方向におけるクリップ42同士の間隔、すなわち、ピッチを変化させればよい。クリップ42のピッチを変化させる機構としては、例えば、パンタグラフ機構やリニアガイド機構を利用することができる。
【0441】
〔テンター延伸装置の内部構成3〕
図9は、テンター延伸装置内の3つのゾーンを正面から見たときのノズルとヒーター設置部分の概略図である。また、各ゾーンに赤外線(IR)ヒーターが設置された場合における一例として、赤外線(IR)ヒーターが予熱ゾーンに設置された場合のテンター延伸装置内の3つのゾーンの側面図を
図10に示す。
【0442】
図9のように、赤外線(IR)ヒーターは、フィルム破断時に赤外線(IR)ヒーターにフィルムが接触しないようにノズルの上側にのみ配置されている。また、フィルムに赤外線(IR)ヒーターを近づけた方が、赤外線(IR)ヒーターによる放射エネルギーをより狭い範囲に集中させることができる。そのため、クリップによる幅だし動作に干渉しない範囲で、フィルムに赤外線(IR)ヒーターをなるべく近づけることが好ましい。
【0443】
図9において、フィルムから赤外線(IR)ヒーターまでの距離H
Aは、30~120mmの範囲内であることが好ましい。また、上記赤外線(IR)ヒーターの加熱幅は、100~250mmの範囲内であることが好ましい。
なお、「加熱幅」とは、赤外線(IR)ヒーターの直下の加熱強度を1としたとき、その加熱強度が0.2になるまでの赤外線(IR)ヒーターにより加熱される幅のことをいう。
赤外線(IR)ヒーターの設置間隔(ピッチ)としては、10~100mmの範囲内であることが好ましい。また、100~1000Wにて、150~400℃の範囲内で加熱することが好ましい。
【0444】
例えば、フィルムの幅手方向の膜厚プロファイルを各位置にて測定する。そして、ターゲットとする膜厚プロファイルと現在の膜厚プロファイルとの差分から、各々の赤外線(IR)ヒーターの設定温度をコンピューター上で算出する。プログラマブルコントローラ「PLC KV-8000」(キーエンス(株)製)を介して、各々の赤外線(IR)ヒーターに設定温度を出力する。これらの操作を自動で繰り返すことにより凸部を調整する。
【0445】
図9では、主に中央ノズルからの熱処理が示されている。本実施形態では、端部ノズルによる熱処理も併用可能である。
【0446】
図10に示すように、 延伸装置において、ノズルすき間から赤外線(IR)ヒーターが出ている方が、放射エネルギーを無駄なくフィルムに伝えることができる。
【0447】
図11は、
図8とは別の視点で、テンター延伸装置を、フィルムの面に垂直な面で、上側から見た断面図である。
図11に示すように、延伸前のフィルムにおいても、全ての幅を加熱できるよう、赤外線(IR)ヒーターを列に配置してもよい。
なお、ヒーターは、長手方向に千鳥状に配置しても良い。
【0448】
(赤外線ヒーターにおける中央部の熱量Aと赤外線ヒーターの端部の熱量の平均値Bとの関係性)
前記凸部調整工程(S2)において、局所的な加熱が赤外線(IR)ヒーターを用いて行われることが好ましい。且つ、赤外線(IR)ヒーターにおける中央部の熱量Aと、その中央部から75mm離れた赤外線(IR)ヒーター端部熱量の平均値Bが、下記式(3)を満たすことが好ましい。
式(3) 0.2<(B/A)<0.6
赤外線の照射光による熱の収束性が良ければ、より細かく膜厚プロファイルを調整できる。
【0449】
なお、「赤外線(IR)ヒーターにおける中央部」とは、前述の
図6における各熱源部のことをいう。「赤外線(IR)ヒーター端部」とは、中央部から幅手方向に75mmの位置のことをいう。
【0450】
赤外線(IR)ヒーターにおける中央部の熱量Aと、赤外線ヒーターの端部の熱量の平均値Bは、例えば、サーモビューアー「VIM-640G2ULC」(株式会社ビジョンセンシング製)で温度分布を測定し、その平均値をとることにより算出できる。他の方法により熱処理を行った場合は、それに応じた方法で算出することが好ましい。
【0451】
以下に、その原理と算出方法を詳細に示す。
上記赤外線(IR)ヒーターによりフィルムが熱せられる。
熱せられた部分の温度変動幅を長手方向に積算し、その幅手中央部を熱量Aとし、幅手方向に75mmの位置の平均値を、赤外線ヒーターの端部の熱量の平均値Bとする。上記の値より、赤外線(IR)ヒーターにおける中央部の熱量Aと、赤外線(IR)ヒーター端部熱量の平均値Bの熱量比率(B/A)を算出する。
【0452】
熱量比率(B/A)が小さすぎる場合、上記赤外線(IR)ヒーターの幅手の設置台数を増やすことで、熱量比率(B/A)の値を制御できる。
【0453】
〔赤外線(IR)ヒーター〕
赤外線(IR)ヒーターの詳細について説明する。
赤外線(IR)ヒーターは、一般の赤外線(IR)ヒーターと異なり、赤外線を反射させるミラーを用いることにより、ピンポイントで赤外線の照射範囲を狭くできるように設計されていることが好ましい。
【0454】
赤外線を反射させるミラーとしては、例えばコールドミラー(シグマ光機株式会社製)や、赤外用アルミ増反射ミラー(ノヴォ・オプティクス社製)等が挙げられる。
【0455】
現行の一般的な赤外線(IR)ヒーター1個の赤外線の照射範囲は、例えば、「MCHNNS3(照射エネルギー400W)」(ミスミ株式会社製)では、幅手方向に500mmである。
【0456】
(4)次工程でのその他の加工
本発明において、「次工程」は、延伸加工に限定されない。その他、例えば、原反フィルムに、液晶高分子を塗布し、液晶層を有する積層フィルムを製造してもよい。なお、積層する層は、液晶層に限定されず、任意の層を形成できる。
【符号の説明】
【0457】
1、1a 攪拌装置(攪拌槽)
2 流延ダイ
3 支持体(エンドレスベルト、ドラム)
3a、3b ローラー
4 剥離ローラー
5 流延膜
6 乾燥装置
7 延伸装置(テンター延伸装置、斜め延伸装置)
8 切断部
10 切断部
11 乾燥装置
12 切断部
13 巻取装置
14 押出し機
15 流延ダイ
16 キャストドラム、支持体
16a タッチローラー
17 冷却ドラム
19 延伸装置(テンター延伸装置)
20 切断部
23 巻取装置
30 フィルムロール
31 フィルム
32 ローラー
33 タッチローラー
40 延伸装置(テンター延伸装置)
42 クリップ
46 カバー
48 無端チェーン
50 原動スプロケット
52 従動スプロケット
54 レール
56 開放部材
80 温度分布センサ
101 ノズル固定部分
102 ノズル
103 流延膜
104 端部ノズル
105 中央ノズル
106 クリップカバー
A フィルムロールの端部の一部分
B ナーリング加工の凹凸形状の一部分
C 幅手方向の貼りつき部分
D 長手方向の貼りつき部分
F フィルム
HA、HB 幅
Q 赤外線(IR)ヒーター
h 凸部高さ
EA、EB、 熱源部
θ′ フィルム表面の長手方向に対する略直線の傾き
θE′ 熱源部EAとEBを結ぶ直線の長手