(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154143
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】眼圧測定方法、眼圧測定システム及びコンタクトレンズ型眼用デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 3/16 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
A61B3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067803
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000131245
【氏名又は名称】株式会社シード
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 澪
(72)【発明者】
【氏名】木下 卓
(72)【発明者】
【氏名】米田 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】大園 啓太
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA20
4C316AB14
4C316FA11
4C316FZ03
(57)【要約】
【課題】眼圧を正確に測定することができる眼圧測定方法を提供すること。
【解決手段】眼圧測定方法は、印加された電力により変形するアクチュエータと、角膜よりも曲率半径が大きい球面の一部をなし、前記アクチュエータの変形により前記角膜を均一に押圧する硬質な圧子と、を備える眼用デバイスを用いて、眼圧を測定する眼圧測定方法であって、前記アクチュエータに電力を印加することにより、前記圧子によって前記角膜を均一に押圧し、前記アクチュエータの電力に対する過渡応答特性の眼圧依存性を用いて眼圧を算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加された電力により変形するアクチュエータと、
角膜よりも曲率半径が大きい球面の一部をなし、前記アクチュエータの変形により前記角膜を均一に押圧する硬質な圧子と、
を備える眼用デバイスを用いて、眼圧を測定する眼圧測定方法であって、
前記アクチュエータに電力を印加することにより、前記圧子によって前記角膜を均一に押圧し、
前記アクチュエータの電力に対する過渡応答特性の眼圧依存性を用いて眼圧を算出する
ことを含む眼圧測定方法。
【請求項2】
前記過渡応答特性は、前記アクチュエータに蓄えられた電気量の経時的変化特性であることを含む請求項1に記載の眼圧測定方法。
【請求項3】
前記過渡応答特性は、複数の時点において測定した前記アクチュエータに流れる電流値であることを含む請求項1に記載の眼圧測定方法。
【請求項4】
前記アクチュエータは、板状をなす高分子アクチュエータであり、
印加された電力により前記アクチュエータの前記角膜と反対側の面が膨潤して前記角膜を押圧することを含む請求項1に記載の眼圧測定方法。
【請求項5】
前記アクチュエータは、蛇腹状をなす高分子アクチュエータであり、
印加された電力により膨潤又は屈曲して前記角膜を押圧することを含む請求項1に記載の眼圧測定方法。
【請求項6】
前記眼用デバイスは、空間伝送された電力を受信するアンテナを備え、
外部から前記アンテナに電力を送信することを含む請求項1に記載の眼圧測定方法。
【請求項7】
前記眼用デバイスは、前記アクチュエータ及び前記圧子を内包する基材を備えるコンタクトレンズ型眼用デバイスであり、
前記眼用デバイスを装用した被検体の前記角膜の眼圧を算出する請求項1に記載の眼圧測定方法。
【請求項8】
印加された電力により変形するアクチュエータと、
角膜よりも曲率半径が大きい球面の一部をなし、前記アクチュエータの変形により前記角膜を均一に押圧する硬質な圧子と、
を備えるコンタクトレンズ型眼用デバイスと、
前記アクチュエータの電力に対する過渡応答特性の眼圧依存性を用いて眼圧を算出する算出部を備える外部機器と、
を備える眼圧測定システム。
【請求項9】
前記過渡応答特性は、前記アクチュエータに蓄えられた電気量の経時的変化特性である請求項8に記載の眼圧測定システム。
【請求項10】
前記過渡応答特性は、複数の時点において測定した前記アクチュエータに流れる電流値である請求項8に記載の眼圧測定システム。
【請求項11】
前記アクチュエータは、板状をなす高分子アクチュエータであり、印加された電力により前記アクチュエータの前記角膜と反対側の面が膨潤して前記角膜を押圧する請求項8に記載の眼圧測定システム。
【請求項12】
前記アクチュエータは、蛇腹状をなす高分子アクチュエータであり、印加された電力により膨潤又は屈曲して前記角膜を押圧する請求項8に記載の眼圧測定システム。
【請求項13】
前記コンタクトレンズ型眼用デバイスは、空間伝送された電力を受信するアンテナを備える請求項8に記載の眼圧測定システム。
【請求項14】
前記コンタクトレンズ型眼用デバイスは、前記アクチュエータ及び前記圧子を内包する基材を備える請求項8に記載の眼圧測定システム。
【請求項15】
空間伝送された電力を受信するアンテナと、
印加された電力により変形するアクチュエータと、
角膜よりも曲率半径が大きい球面の一部をなし、前記アクチュエータの変形により前記角膜を均一に押圧する硬質な圧子と、
前記アンテナ、前記アクチュエータ及び前記圧子を内包する基材と、
を備えるコンタクトレンズ型眼用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼圧測定方法、眼圧測定システム及びコンタクトレンズ型眼用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
眼圧とは、眼球が球形を維持するために角膜下に位置する房水が有する内圧のことである。眼圧は、眼球内の房水の産生量と排出量とによって変化する。眼球が球形を維持するためには、一定以上の眼圧が必要となるが、眼圧が高すぎると網膜が損傷するなどの障害が発生し、緑内障に発展する場合がある。
【0003】
そのため、眼科の一般診療では、眼圧測定が日常的に行われており、現在はゴールドマン圧平眼圧計測(GAT:Goldmann Applanation Tonometry)が一般的な眼圧測定方法として広く用いられている。GATでは、医師が圧平子を角膜に押し当て、圧平子と角膜との接触面が直径3.06mmの円になった時点で発生する力に基づいて眼圧を算出する。
【0004】
また、特許文献1には、コンタクトレンズ型の眼用装置であって、微小圧電素子の出力信号の変化を用いて眼圧を判定する眼用装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
GATでは、角膜を圧平するが、角膜の持つ剛性の個人差による影響は考慮されていない。そのため、GATでは、眼圧を正確に測定できていない可能性が指摘されている。
【0007】
特許文献1の技術では、角膜の局所的な圧力を測定しており、眼圧を正確に測定することができない。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、眼圧を正確に測定することができる眼圧測定方法、眼圧測定システム及びコンタクトレンズ型眼用デバイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る眼圧測定方法は、印加された電力により変形するアクチュエータと、角膜よりも曲率半径が大きい球面の一部をなし、前記アクチュエータの変形により前記角膜を均一に押圧する硬質な圧子と、を備える眼用デバイスを用いて、眼圧を測定する眼圧測定方法であって、前記アクチュエータに電力を印加することにより、前記圧子によって前記角膜を均一に押圧し、前記アクチュエータの電力に対する過渡応答特性の眼圧依存性を用いて眼圧を算出することを含む。
【0010】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定方法は、上記発明において、前記過渡応答特性は、前記アクチュエータに蓄えられた電気量の経時的変化特性であることを含む。
【0011】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定方法は、上記発明において、前記過渡応答特性は、複数の時点において測定した前記アクチュエータに流れる電流値であることを含む。
【0012】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定方法は、上記発明において、前記アクチュエータは、板状をなす高分子アクチュエータであり、印加された電力により前記アクチュエータの前記角膜と反対側の面が膨潤して前記角膜を押圧することを含む。
【0013】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定方法は、上記発明において、前記アクチュエータは、蛇腹状をなす高分子アクチュエータであり、印加された電力により膨潤又は屈曲して前記角膜を押圧することを含む。
【0014】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定方法は、上記発明において、前記眼用デバイスは、空間伝送された電力を受信するアンテナを備え、外部から前記アンテナに電力を送信することを含む。
【0015】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定方法は、上記発明において、前記眼用デバイスは、前記アクチュエータ及び前記圧子を内包する基材を備えるコンタクトレンズ型眼用デバイスであり、前記眼用デバイスを装用した被検体の前記角膜の眼圧を算出する。
【0016】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定システムは、印加された電力により変形するアクチュエータと、角膜よりも曲率半径が大きい球面の一部をなし、前記アクチュエータの変形により前記角膜を均一に押圧する硬質な圧子と、を備えるコンタクトレンズ型眼用デバイスと、前記アクチュエータの電力に対する過渡応答特性の眼圧依存性を用いて眼圧を算出する算出部を備える外部機器と、を備える。
【0017】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定システムは、上記発明において、前記過渡応答特性は、前記アクチュエータに蓄えられた電気量の経時的変化特性である。
【0018】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定システムは、上記発明において、前記過渡応答特性は、複数の時点において測定した前記アクチュエータに流れる電流値である。
【0019】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定システムは、前記アクチュエータは、板状をなす高分子アクチュエータであり、印加された電力により前記アクチュエータの前記角膜と反対側の面が膨潤して前記角膜を押圧する。
【0020】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定システムは、上記発明において、前記アクチュエータは、蛇腹状をなす高分子アクチュエータであり、印加された電力により膨潤又は屈曲して前記角膜を押圧する。
【0021】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定システムは、上記発明において、前記コンタクトレンズ型眼用デバイスは、空間伝送された電力を受信するアンテナを備える。
【0022】
また、本発明の一態様に係る眼圧測定システムは、上記発明において、前記コンタクトレンズ型眼用デバイスは、前記アクチュエータ及び前記圧子を内包する基材を備える。
【0023】
また、本発明の一態様に係るコンタクトレンズ型眼用デバイスは、空間伝送された電力を受信するアンテナと、印加された電力により変形するアクチュエータと、角膜よりも曲率半径が大きい球面の一部をなし、前記アクチュエータの変形により前記角膜を均一に押圧する硬質な圧子と、前記アンテナ、前記アクチュエータ及び前記圧子を内包する基材と、を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、眼圧を正確に測定することができる眼圧測定方法、眼圧測定システム及びコンタクトレンズ型眼用デバイスを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る眼圧測定システムの概略的な構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すコンタクトレンズ型眼用デバイスの上面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すコンタクトレンズ型眼用デバイスの断面図である。
【
図4】
図4は、コンタクトレンズ型眼用デバイスを用いた眼圧測定方法の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、アクチュエータに蓄えられた電気量の経時的変化を示す図である。
【
図6】
図6は、アクチュエータに流れる電流値の経時的変化を示す図である。
【
図7】
図7は、過渡応答特性を表す指標と眼圧との関係を示す図である。
【
図8】
図8は、アクチュエータに蓄えられた電気量の2時点における変化量を示す図である。
【
図9】
図9は、過渡応答特性を表す指標と眼圧との関係を示す図である。
【
図10】
図10は、実施の形態2に係るコンタクトレンズ型眼用デバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の眼圧測定方法、眼圧測定システム及びコンタクトレンズ型眼用デバイスの詳細について実施の形態に即して説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0027】
(実施の形態1)
〔眼圧測定システムの構成〕
図1は、本発明の実施の形態1に係る眼圧測定システムの概略的な構成図である。
図1に示すように、眼圧測定システム100は、コンタクトレンズ型眼用デバイス1と、外部機器2と、を備え、コンタクトレンズ型眼用デバイス1を装用した被検体の眼圧を測定する。
【0028】
〔コンタクトレンズ型眼用デバイスの構成〕
図2は、
図1に示すコンタクトレンズ型眼用デバイスの上面図である。
図3は、
図1に示すコンタクトレンズ型眼用デバイスの断面図である。すなわち、
図2は、
図3のA矢視図に対応する。コンタクトレンズ型眼用デバイス1は、アクチュエータ11と、制御回路12と、配線13と、測定部14と、圧子15と、軟性部材16と、基材17と、を備える。
【0029】
アクチュエータ11は、例えば板状をなす高分子アクチュエータであるが、電流を印加すると変形する材料であればよく、圧電素子又は形状記憶合金等であってもよい。高分子アクチュエータは、例えばイオン導電膜からなるポリマーの両面に電極を形成したものであり、電極間に電圧を印加すると内部のカチオンが片側に移動し、膨潤して体積が大きくなることにより屈曲する。アクチュエータ11は、印加された電力により変形(屈曲)し、圧子15を
図3の下方に押圧する。
【0030】
制御回路12は、CPU(Central Processing Unit)等の演算回路、メモリ等の記憶装置、各種信号及び電力を受信する受信回路、各種信号を出力する出力回路等からなる。制御回路12は、制御部121と、アンテナ122と、抵抗123と、を備える。
【0031】
制御部121は、コンタクトレンズ型眼用デバイス1の動作を統括的に制御する。
【0032】
アンテナ122は、外部アンテナ21から空間伝送された電力を受信する。また、アンテナ122は、測定部14による測定結果を送信する。
【0033】
抵抗123は、アクチュエータ11に直列に接続されており、アクチュエータ11に過大な突入電流が入力されることを防止する。ただし、制御回路12が、抵抗を有しない構成であってもよい。
【0034】
配線13は、アンテナ122が受信した電力をアクチュエータ11に伝送する。
【0035】
測定部14は、例えば抵抗123の両端の電圧を測定するが、アクチュエータ11の電力に対する過渡応答特性として算出可能な他の物性値を測定してもよい。
【0036】
圧子15は、角膜よりも曲率半径が大きい球面の一部をなし、アクチュエータ11の変形により角膜を均一に押圧する。圧子15は、角膜を押圧する際に変形しない程度に硬質であることが好ましく、例えば硬さショアD以上であることが好ましい。
【0037】
軟性部材16は、例えば液体やゲルであり、アクチュエータ11の駆動を阻害しない程度に軟性であることが好ましい。
【0038】
基材17は、アクチュエータ11~軟性部材16を内包する。基材17は、PMMA(Polymenthyl Methacrylate)、pHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)、SHG(シリコーンハイドロゲル)等のコンタクトレンズ材料として一般的に用いられる材料により形成されていてもよい。
【0039】
〔外部機器の構成〕
外部機器2は、外部アンテナ21と、制御装置22と、メモリ23、表示装置24と、を備える。外部機器2は、例えば外部アンテナ21と制御装置22とメモリ23とを備え、コンタクトレンズ型眼用デバイス1を装用した被検体が携行可能な第1の外部機器と、表示装置24を備え、スマートフォン等のコンピュータである第2の外部機器と、からなるが、構成は特に限定されない。
【0040】
外部アンテナ21は、空間伝送によりコンタクトレンズ型眼用デバイス1の外部からアンテナ122に電力を送信する。また、外部アンテナ21は、アンテナ122から測定部14による測定結果を受信する。
【0041】
制御装置22は、CPU、DSP(Digital Signal Processor)、もしくは、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等からなるプロセッサを備えている。制御装置22は、取得部221と、算出部222と、を備える。取得部221は、メモリ23に記憶された測定部14による測定結果を取得する。算出部222は、アクチュエータ11の電力に対する過渡応答特性の眼圧依存性を用いて眼圧を算出する。
【0042】
メモリ23は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等からなる。メモリ23は、測定部14による測定結果、算出部222による算出結果等を記憶する。
【0043】
表示装置24は、制御装置22の制御に基づいて、各種情報を表示する。表示装置24は、液晶又は有機EL(Electro-Luminescence)からなる表示パネルを用いて構成される。
【0044】
〔眼圧測定方法〕
図4は、コンタクトレンズ型眼用デバイスを用いた眼圧測定方法の手順を示すフローチャートである。
図4に示すように、まず、被検体が、コンタクトレンズ型眼用デバイス1を装用する(ステップS1)。
【0045】
続いて、外部機器2の外部アンテナ21により、アンテナ122に電力を送信する(ステップS2)。
【0046】
そして、コンタクトレンズ型眼用デバイス1のアンテナ122が、外部アンテナ21からの電力を受信する(ステップS3)。
【0047】
その後、アンテナ122が受信した電力をアクチュエータ11に印加することにより、圧子15によって角膜を均一に押圧する(ステップS4)。なお、制御回路12がバッテリーと並列接続されている場合、アンテナ122により受信した電力をバッテリーに蓄電し、バッテリーからアクチュエータ11に給電してもよい。
【0048】
続いて、コンタクトレンズ型眼用デバイス1の測定部14が、抵抗123の両端の電圧を複数の時点において測定する(ステップS5)。
【0049】
そして、コンタクトレンズ型眼用デバイス1のアンテナ122が、測定部14の測定結果を送信する(ステップS6)。この具体的な方法として、例えば、RFID(Radio Frequency IDentification)の技術を用いて、制御装置22におけるRFタグに測定結果を載せ、外部アンテナ21からの電磁波を変調させてもよい。
【0050】
さらに、外部機器2の外部アンテナ21が、アンテナ122から測定部14の測定結果を受信し、メモリ23に記憶する(ステップS7)。
【0051】
その後、制御装置22の取得部221が、メモリ23から測定部14による測定結果を取得する(ステップS8)。
【0052】
さらに、制御装置22の算出部222が、測定結果を用いてアクチュエータ11の電力に対する過渡応答特性の眼圧依存性を用いて眼圧を算出する(ステップS9)。
【0053】
〔眼圧算出方法〕
アクチュエータ11に電力を印加すると、圧子15が角膜を押圧するときに圧子15が角膜から受ける反力の大きさに依存して、アクチュエータ11に流れる電流の過渡応答特性が変化する。具体的には、アクチュエータ11と抵抗123とを含む回路(
図1参照)において、制御部121から一定の電源電圧を印加したときに、アクチュエータ11に流れ込む電荷量の増大とともにアクチュエータ11が屈曲する。このとき、アクチュエータ11が角膜から受ける反力によって、アクチュエータ11の電気容量が見かけ上低下し、蓄電される電気量が減少する。
【0054】
図5は、アクチュエータに蓄えられた電気量の経時的変化を示す図である。
図5に示すように、アクチュエータ11に一定の電源電圧を印加し、抵抗123の両端の電圧を測定すると、電流値は時間の経過とともに一定の値に漸近する応答を示す。しかしながら、アクチュエータ11に蓄電される電気量の変化分だけ、電流値の過渡応答特性、たとえば、
図5に示す各曲線の傾きや曲率、漸近する電流値は変化する。すなわち、アクチュエータ11は、一定の電源電圧を印加して角膜を押下したときに、圧子15にかかる角膜全体からの反力の大きさにしたがって変化する電流の過渡応答特性を出力する。この過渡応答特性は、眼圧依存性を有するため、アクチュエータ11の電力に対する過渡応答特性を用いて眼圧を算出することができる。
【0055】
図6は、アクチュエータに流れる電流値の経時的変化を示す図である。アクチュエータ11を流れる電流値は、アクチュエータ11に直列に接続されている抵抗123の両端の電圧を測定することにより取得する。取得した電流の過渡応答特性を関数y(t)とするとき、以下の式(1)に示すように、眼圧IOPは、y(t)の関数となる。
【数1】
【0056】
図6に示す3つの測定結果において、時間T
1、T
2においてアクチュエータ11を流れる電流値がy
11~y
23であるとする。このとき、関数y(t)のうち2時点における電流値y
11~y
23から任意の過渡応答特性を表す指標M
iを以下の式(2)に示すように算出する。なお、式(2)において、i=1,2,3である。
【数2】
【0057】
この指標M
iと眼圧IOPとの相関関係から眼圧IOPを算出することができる。
図7は、過渡応答特性を表す指標と眼圧との関係を示す図である。
図7に示すように、式(2)を用いて指標M
1~M
3に対応する眼圧IOPをそれぞれ算出することができる。
【0058】
以上説明した実施の形態1によれば、角膜よりも曲率半径が大きい球面の一部をなす圧子15によって角膜を均一に押圧しているため、圧平子により角膜を圧平する場合や、局所的な圧力を測定する場合よりも眼圧を正確に測定することができる。
【0059】
さらに、実施の形態1によれば、アクチュエータ11の電力に対する過渡応答特性の眼圧依存性を用いて眼圧を算出することにより、1時点の測定結果から眼圧を算出する場合よりも正確に眼圧を測定することができる。
【0060】
また、眼圧は、日内変動することが分かっているが、実施の形態1によれば、コンタクトレンズ型眼用デバイス1であることにより、例えば24時間以上の長時間にわたって断続的に眼圧を測定することができる。
【0061】
なお、実施の形態1では、2時点における電流値y11~y23から指標Miを算出したが、アクチュエータ11に電流を印加してから0~15秒程度の時間内に複数回の電流値を取得することによって、眼圧IOPを推定してもよい。
【0062】
(変形例)
図8は、アクチュエータに蓄えられた電気量の2時点における変化量を示す図である。
図8には、時間T
1、T
2において式(1)のf(y(t))から間接的に算出することができるアクチュエータ11に蓄えられた電気量を示した。この電気量y
11~y
23から任意の過渡応答特性を表す指標M
iを実施の形態1と同様に式(2)により算出する。
【0063】
この指標M
iと眼圧IOPとの相関関係から眼圧IOPを算出することができる。
図9は、過渡特応答特性を表す指標と眼圧との関係を示す図である。
図9に示すように、式(2)を用いて指標M
1~M
3に対応する眼圧IOPをそれぞれ算出することができる。
【0064】
なお、変形例では、2時点の傾きから眼圧IOPを算出する例を示したが、多数の時点の測定結果を用いてアクチュエータ11に蓄えられた電気量を表す関数を求めてもよい。
【0065】
このように、アクチュエータ211に流れる電流の時間変化により、アクチュエータ211の両端の電圧もまた変化する。そして、この電圧の過渡応答特性からアクチュエータ211に蓄えられた電気量を評価し、眼圧IOPを推定することができる。この場合、例えば式(1)に示す関数y(t)は電圧値の変化を表す関数となる。ただし、電流値の時間積分が、直接的に変化する蓄電量とリーク電流との和を示すのに対して、アクチュエータ211の端子間電圧は、刻々と変化しうるアクチュエータ211のみかけの電気伝導度により影響を受けるため、蓄電量の解析に必要な関数のパラメータの個数は増加し、電圧値の観測点からこの関数を求める困難性が増加するため、好ましくは電流値の過渡応答特性を用いて眼圧IOPを算出した方がよい。
【0066】
(実施の形態2)
図10は、実施の形態2に係るコンタクトレンズ型眼用デバイスの断面図である。コンタクトレンズ型眼用デバイス200は、アクチュエータ211と、測定部214と、圧子215と、軟性部材216と、固定部材218と、を備える。
【0067】
アクチュエータ211は、例えば、蛇腹状をなす高分子アクチュエータである。アクチュエータ211は、印加された電力により膨潤又は屈曲し、圧子215を
図10の下方に押圧することにより、角膜を押圧する。
【0068】
測定部214、圧子215、及び軟性部材216は、測定部14、圧子15、及び軟性部材216と、それぞれ同様の構成であってよいから説明を省略する。
【0069】
固定部材218は、アクチュエータ211の駆動により、アクチュエータ211及び測定部214の位置が動かないように、アクチュエータ211及び測定部214を固定する。
【0070】
以上説明した実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に、角膜よりも曲率半径が大きい球面の一部をなす圧子215によって角膜を均一に押圧しており、かつアクチュエータ211の電力に対する過渡応答特性の眼圧依存性を用いて眼圧を算出することにより、
眼圧を正確に測定することができる。
【符号の説明】
【0071】
1、200 コンタクトレンズ型眼用デバイス
2 外部機器
11、211 アクチュエータ
12 制御回路
13 配線
14、214 測定部
15、215 圧子
16、216 軟性部材
17 基材
21 外部アンテナ
22 制御装置
23 メモリ
24 表示装置
100 眼圧測定システム
121 制御部
122 アンテナ
123 抵抗
218 固定部材
221 取得部
222 算出部