(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154154
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】データ転送システム
(51)【国際特許分類】
B61L 25/02 20060101AFI20241023BHJP
H04W 4/44 20180101ALI20241023BHJP
H04W 4/021 20180101ALI20241023BHJP
H04W 4/42 20180101ALI20241023BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20241023BHJP
【FI】
B61L25/02 Z
H04W4/44
H04W4/021
H04W4/42
H04W16/28 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067826
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】390010386
【氏名又は名称】NECマグナスコミュニケーションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】張野 健二
(72)【発明者】
【氏名】古野 博之
(72)【発明者】
【氏名】金子 達郎
【テーマコード(参考)】
5H161
5K067
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161DD20
5H161FF07
5K067AA21
5K067EE02
5K067EE10
5K067EE16
5K067HH21
5K067KK03
(57)【要約】
【課題】電車等の移動体と外部システムとの間で大容量データを高速転送して移動体内のストレージ容量を低く抑えることが可能なデータ転送システムを提供する。
【解決手段】データ転送システム1は、電車2等の移動体に設置された車載ストレージ13と、車載ストレージ13内のデータを管理する管理サーバ14と、無線子機15と、駅3の移動体停止位置付近に設置され、無線子機15と5Gによるデータ通信を行う無線親機21と、無線親機21に接続されたストレージサーバ22とを含む。無線子機15の複数のアンテナ15aは、電車2が駅3の所定の停止範囲内に停止したときに無線親機21の複数のアンテナ21aのいずれかと相対向する位置に配置され、管理サーバ14は、電車2が駅3に停止したとき、車載ストレージ13内のデータをストレージサーバ22に転送する処理を実施する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に設置された移動体用データ管理装置と、
前記移動体が停止するターミナルに設けられた外部データ管理装置とを備え、
前記移動体用データ管理装置は、前記移動体に設置された移動体用ストレージと、移動体用ストレージ内のデータを管理する管理サーバと、前記外部データ管理装置側と5Gによるデータ通信を行う無線子機とを含み、
前記外部データ管理装置は、前記ターミナルの移動体停止位置付近に設置され、前記無線子機と5Gによるデータ通信を行う無線親機と、前記無線親機に接続されたストレージサーバとを含み、
前記無線子機のアンテナは、前記移動体に複数設けられており、
前記無線親機のアンテナは、前記ターミナルに複数設けられると共に、前記移動体が前記ターミナルの所定の停止範囲内に停止したときに前記無線子機の前記複数のアンテナのいずれかと相対向する位置に配置され、
前記管理サーバは、前記移動体が前記ターミナルに停止したとき前記移動体用ストレージ内のデータを前記無線子機及び前記無線親機を介して前記ストレージサーバに転送するアップロード処理及び前記ストレージサーバ内のデータを前記無線親機及び前記無線子機を介して前記移動体用ストレージに転送するダウンロード処理の少なくとも一方を実施することを特徴とするデータ転送システム。
【請求項2】
前記移動体は電車であり、
前記ターミナルは前記電車の駅であり、
前記電車が前記駅の所定の停止範囲内に停車したときに、前記無線子機のアンテナと前記無線親機のアンテナの少なくとも一組が相対向し、他の少なくとも一組が互いにずれた位置関係となるように設定されている、請求項1に記載のデータ転送システム。
【請求項3】
前記無線子機の複数のアンテナは、前記電車の車両外壁に設置され、前記無線親機の複数のアンテナは、駅のプラットホームに設けられたホームドアの壁面外側に設置されている、請求項2に記載のデータ転送システム。
【請求項4】
前記無線子機は、前記電車の複数の車両の各々に設けられている、請求項3に記載のデータ転送システム。
【請求項5】
前記電車が駅のプラットホームに停止した際に、前記無線子機のアンテナと前記無線親機のアンテナとが初期アクセスを行い、通信品質が最も良好な一組のアンテナを用いてデータを転送する、請求項2乃至4のいずれか一項に記載のデータ転送システム。
【請求項6】
前記外部データ管理装置は、前記電車が前記駅のプラットホームに停止した際に、前記通信品質が最も良好な一組のアンテナから前記電車の実際の停止位置を算出する、請求項5に記載のデータ転送システム。
【請求項7】
前記移動体用データ管理装置は、前記電車の運転手を特定するID情報を格納するID情報格納部を有し、
前記外部データ管理装置は、前記電車が前記駅のプラットホームに停止した際に、前記ID情報格納部から前記ID情報を取得した後、通信品質が最も良好な一組のアンテナと前記ID情報とを関連付ける、請求項5に記載のデータ転送システム。
【請求項8】
前記外部データ管理装置は、前記通信品質が最も良好な一組のアンテナから前記電車の実際の停止位置を算出し、前記電車の実際の停止位置を前記ID情報と関連付ける、請求項7に記載のデータ転送システム。
【請求項9】
前記駅のプラットホームに設置された外部カメラと、前記外部カメラの動画データを送信する無線子機とをさらに備え、
前記無線親機のアンテナの少なくとも一つの指向性は前記プラットホーム側を向いており、
前記無線親機は、前記電車が前記プラットホームに入ってきたときには、前記電車側の無線子機と通信を行い、前記電車が前記プラットホームに入ってきていないときには、前記プラットホームに設置された無線子機と通信を行って前記外部カメラの動画データを取り込む、請求項5に記載のデータ転送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電車などの移動体内のデータを外部に転送するデータ転送システムに関し、特に第5世代移動通信システム(5G)を利用した高速データ転送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電車内の迷惑行為防止対策として防犯カメラの設置が進められている。また車両内にはディスプレイ装置が設置され、広告表示、ニュース、天気予報なども提供されている。
【0003】
電車内の迷惑行為防止対策に関し、例えば特許文献1には、不特定多数の人が出入りする空間内における迷惑行為者を推定することができる迷惑行為者推定システムが記載されている。このシステムは、空間に入場する人物を撮影する第1撮影部と、当該空間内に設けられ、通報端末からの通報信号により当該位置の周辺を撮影する第2撮影部と、第1撮影部が撮影したが画像及び第2撮影部が撮影した画像をそれぞれ分析し顔データを抽出する画像分析部と、第1撮影部が撮影した画像から抽出された顔データを格納する第1データベース部と、第2撮影部が撮影した画像から抽出された顔データを格納する第2データベース部と、第1データベース部及び第2データベース部の顔データを分析し、第3データベース部に格納する顔データを選別して頻度スコアの算出を行う顔データ解析部と、規定期間の経過後に、対応する頻度スコアが閾値を超えた顔データの人物を迷惑行為者と推定する判断部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、撮影した画像の証拠能力を高めると共に抑止力を向上するため、電車の各車両により高精細な動画撮影が可能な4K/8Kカメラなどの高精度カメラを複数台設置して多方向から撮影することが求められている。この場合、各車両には多数の防犯カメラが撮影した動画データを格納する大容量のストレージが必要となるため、システムコストが増加する。また録画した大容量の動画データを電車から鉄道会社が管理する防犯システムのデータセンタに転送する必要があるが、大容量データであることから、電車側からデータセンタへのデータの取り込みに非常に時間がかかるという問題がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、電車等の移動体と外部システムとの間で大容量データを高速転送して移動体内のストレージ容量を低く抑えることが可能なデータ転送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明によるデータ転送システムは、移動体に設置された移動体用データ管理装置と、前記移動体が停止するターミナルに設けられた外部データ管理装置とを備え、前記移動体用データ管理装置は、前記移動体に設置された移動体用ストレージと、移動体用ストレージ内のデータを管理する管理サーバと、前記外部データ管理装置側と5Gによるデータ通信を行う無線子機とを含み、前記外部データ管理装置は、前記ターミナルの移動体停止位置付近に設置され、前記無線子機と5Gによるデータ通信を行う無線親機と、前記無線親機に接続されたストレージサーバとを含み、前記無線子機のアンテナは、前記移動体に複数設けられており、前記無線親機のアンテナは、前記ターミナルに複数設けられると共に、前記移動体が前記ターミナルの所定の停止範囲内に停止したときに前記無線子機の前記複数のアンテナのいずれかと相対向する位置に配置され、前記管理サーバは、前記移動体が前記ターミナルに停止したとき前記移動体用ストレージ内のデータを前記無線子機及び前記無線親機を介して前記ストレージサーバに転送するアップロード処理及び前記ストレージサーバ内のデータを前記無線親機及び前記無線子機を介して前記移動体用ストレージに転送するダウンロード処理の少なくとも一方を実施することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、電車などの移動体が駅などのターミナルに停止したときに移動体側の無線子機のアンテナをターミナル側の無線親機のアンテナに最も近づけて、5Gの高速データ通信を比較的近距離で利用することで5Gの高速大容量データ通信を実現することができる。したがって、例えば移動体に設置した高精度カメラが撮影した動画データをターミナル到着時の短い時間内にターミナル側に転送することができる。また、カメラが撮影した動画データの一時保存等に利用される移動体用ストレージの容量を小さくすることができ、移動体用データ管理装置の構築コストを低く抑えることができる。さらにまた、本発明によれば、移動体の停止位置がずれたとしても複数のアンテナのいずれかを用いて5Gによる高速なデータ通信を実現できるだけでなく、無線親機の複数のアンテナが受信する電波の受信品質から移動体の停止位置等を評価し制御することができる。
【0009】
本発明において、前記移動体は電車であり、前記ターミナルは前記電車の駅であり、前記電車が前記駅の所定の停止範囲内に停車したときに、前記無線子機のアンテナと前記無線親機のアンテナの少なくとも一組が相対向し、他の少なくとも一組が互いにずれた位置関係となるように設定されていることが好ましい。この場合において、前記無線子機の複数のアンテナは、前記電車の車両外壁に設置され、前記無線親機の複数のアンテナは、駅のプラットホームに設けられたホームドアの壁面外側に設置されていることが好ましい。これにより、電車の停止位置が規定位置から多少ずれた場合でも5Gによる高速データ通信を実施することができる。
【0010】
本発明において、前記無線子機の複数のアンテナは、前記電車の車両外壁に設置され、前記無線親機の複数のアンテナは、駅のプラットホームに設けられたホームドアの壁面外側に設置されていることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記無線子機は、前記電車の複数の車両の各々に設けられていることが好ましい。このように、車両ごとに動画データを吸い上げることでデータ転送の高速化と車載ストレージの低コスト化を図ることができる。
【0012】
本発明によるデータ転送システムは、前記電車が駅のプラットホームに停止した際に、前記無線子機のアンテナと前記無線親機のアンテナとが初期アクセスを行い、通信品質が最も良好な一組のアンテナを用いてデータを転送することが好ましい。これにより、電車の停止位置が規定位置から多少ずれた場合でも5Gによる高速データ通信を実施することができる。
【0013】
本発明において、前記移動体用データ管理装置は、前記電車の運転手を特定するID情報を格納するID情報格納部を有し、前記外部データ管理装置は、前記電車が前記駅のプラットホームに停止した際に、前記ID情報格納部から前記ID情報を取得した後、通信品質が最も良好な一組のアンテナと前記ID情報とを関連付けることが好ましい。さらに、前記外部データ管理装置は、前記通信品質が最も良好な一組のアンテナから前記電車の実際の停止位置を算出し、前記電車の実際の停止位置を前記ID情報と関連付けることが好ましい。これにより、電車と駅との間で高速データ転送を実施する5Gデータ通信システムを利用して、電車の停止位置を計測し評価することができる。
【0014】
本発明によるデータ転送システムは、前記駅のプラットホームに設置された外部カメラと、前記外部カメラの動画データを送信する無線子機とをさらに備え、前記無線親機のアンテナの少なくとも一つの指向性は前記プラットホーム側を向いており、前記無線親機は、前記電車が前記プラットホームに入ってきたときには、前記電車側の無線子機と通信を行い、前記電車が前記プラットホームに入ってきていないときには、前記プラットホームに設置された無線子機と通信を行って前記外部カメラの動画データを取り込むことが好ましい。これにより、電車側の無線子機と通信を行っていない間における無線親機の有効活用を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電車等の移動体と外部システムとの間で大容量データを高速転送して移動体内のストレージ容量を低く抑えることが可能なデータ転送システムを提供することができる。なお、通信キャリア各社が提供する5G通信サービスで本発明を実現することも可能であるが、本発明は所謂「ローカル5G」を有効活用する上で好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態によるデータ転送システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、電車2が駅3に停車したときの、電車2側の無線子機15と駅側の無線親機21との位置関係を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態によるデータ転送システムの動作を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4(a)~(d)は、本実施形態によるデータ転送システムのより具体的な構成であって、無線子機15と無線親機21との位置関係を示す模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の他の実施の形態によるデータ転送システムの概略図である。
【
図6】
図6は、本発明の他の実施の形態によるデータ転送システムの動作モードを示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態によるデータ転送システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【0019】
図1に示すように、このデータ転送システム1は、電車2側に設置された車載データ管理装置10と、電車2が停車する駅側に設けられ、車載データ管理装置10との間で5Gによる高速データ通信を行って電車2側のデータを管理する外部データ管理装置20とを備えている。
【0020】
車載データ管理装置10(移動体用データ管理装置)は、電車2の車両2A内に設置された複数の防犯カメラ11(車載カメラ)と、各防犯カメラ11が撮影した動画データを保存する車載ストレージ13(移動体用ストレージ)と、車載ストレージ13内のデータを管理する管理サーバ14と、外部データ管理装置20側と5Gのデータ通信を行う無線子機15とを備えている。
【0021】
外部データ管理装置20は、電車2が停車する駅の電車停車位置付近に設置され、車載データ管理装置10側の無線子機15と5Gのデータ通信を行う無線親機21と、無線親機21に接続されたストレージサーバ22とを備えている、ストレージサーバ22は通信回線、例えばインターネット30を介してデータセンタ31に接続されており、ストレージサーバ22内の保存データは必要に応じてデータセンタ31に転送される。
【0022】
複数の防犯カメラ11は、電車2の車両2Aごとに複数台設けられているが、1台ずつであってもよい。また、車載ストレージ13、管理サーバ14及び無線子機15も車両2Aごとに設けられることが好ましいが、全車両に対して共通に設けられていてもよい。車載ストレージ13は図示のように一つの車両2A内の複数の防犯カメラ11に対して共通に設けられていてもよく、個別に設けられていてもよい。
【0023】
電車2の運行中、防犯カメラ11は車両内を撮影し、撮影された動画データは車載ストレージ13に一時保存される。防犯カメラ11から出力される撮影データの保存は管理サーバ14によって行われる。
【0024】
車載データ管理装置10は、複数のディスプレイ装置12を備えていてもよい。複数のディスプレイ装置12は、電車2の車両2A内に設置されており、各ディスプレイ装置12は車載ストレージ13に保存されたコンテンツデータを再生表示する。例えば、電車2の運行中、ディスプレイ装置12からは広告、ニュース、天気予報、スポーツ中継動画などが乗客に向けて放映される。ディスプレイ装置12は、電車2の車両ごとに複数台設けられているが、1台ずつ設けられていてもよい。
【0025】
管理サーバ14は、電車2が停車している間に外部データ管理装置20側から新たなコンテンツデータをダウンロードして車載ストレージ13に保存する。すなわち、車載ストレージ13内のコンテンツを駅に停車する度に更新することができる。例えば、新しいニュース、天気予報、スポーツ中継動画を再生することができる。
【0026】
図2は、電車2が駅に停車したときの、電車2側の無線子機15側の複数のアンテナ15aと駅側の無線親機21側の複数のアンテナ21aとの位置関係を示す模式図である。
【0027】
図2に示すように、電車2の各車両2Aの無線子機15のアンテナ15aは、各車両2Aの既定の位置に複数設けられている。無線子機15のアンテナ15aの設置位置は、電車2が既定の停車位置で停車したときに、駅3側に設置された対応する無線親機21側の複数のアンテナ21aのいずれか一つと対向する車両2Aの側壁面である。言い換えると、駅3側の無線親機21の複数のアンテナ21aは、各車両の既定の位置に設置された無線子機15の複数のアンテナ15aのいずれか一つと相対向する位置に設置されている。
【0028】
なお、
図2においては無線子機15と無線親機21の夫々が、無線機本体とアンテナが分離されており両者をケーブルで接続した例を示しているが、無線機本体にアンテナを一体化したものである場合は、無線子機15と無線親機21とを相対向する位置に設置すれば良いことはいうまでもない。
【0029】
上記のように、無線子機15及び無線親機21は5G規格の無線装置である。5Gは1~50Gbpsの超高速かつ超大容量の無線通信を実現する第5世代移動通信システムであるが、ミリ波を用いているため電波の直進性が強く、回折波による通信は望めない。そのため、5Gの通信では親機から子機へ直接波が到達するかどうかが重要となるが、上記のように無線子機15のアンテナ15aと無線親機21のアンテナ21aとをできるだけ近づけて相対向させることにより、5Gデータ通信のパフォーマンスを最大限に引き出すことができる。
【0030】
図示のように、最近の駅3のプラットホームには安全のためにホームドアが設けられ、車両2Aの出入口3Aの位置以外には壁3Bが設けられていることが多い。この場合、無線親機21のアンテナ21aはこの壁3Bの線路側の壁面に設けられることが好ましい。無線親機21のアンテナ21aをこのように設置することで、無線子機15のアンテナ15aと無線親機21のアンテナ21aとをできるだけ近づけて相対向させることができ、障害物が介在する余地をなくして高速通信の信頼性を高めることができる。
【0031】
次に、
図3を参照しながら、車載データ管理装置10と外部データ管理装置20との間のデータ転送について詳細に説明する。上記のように、電車2の運行中に防犯カメラ11は車両2A内を撮影し続ける(ステップS1~S3)。防犯カメラ11が撮影した動画データは車載ストレージ13に保存される。
【0032】
電車2が次の駅に到着したとき、管理サーバ14は、対応する車両2Aの車載ストレージ13に保存されている各防犯カメラ11の撮影データを外部データ管理装置20側に一気に転送する(ステップS3,S4)。このとき転送されるデータは、電車2が前の駅を出発してから次の駅に停車するまでの間に撮影された動画データであることが好ましい。無線子機15は無線親機21に向けて転送データを送信し、外部データ管理装置20側のストレージサーバ22は無線親機21が受信したデータを保存する。通常、電車2は所定の停車位置に停車し、無線子機15のアンテナ15aも無線親機21のアンテナ21aに対して位置合わせされるので、大容量の動画データもすべて外部データ管理装置20側へ高速でアップロードすることが可能である。
【0033】
図4(a)~(d)は、本実施形態によるデータ転送システムのより具体的な構成であって、無線子機15と無線親機21との位置関係を示す模式図である。
【0034】
電車2の各車両2Aの外壁面に無線子機15のアンテナ15aが設置されている場合、これと相対向するように駅3側のホームドアの壁面外側に無線親機21のアンテナを設置するのが通常である。ところが、電車2は必ずしも所定の停止位置に正確に停車するとは限らず、最大数十センチ程度の誤差を生じる可能性がある。アンテナ同士が相対向して近距離にあるときは、最大限のパフォーマンスが期待できるものの、5G規格の無線電波は直進性が高いため位置ズレが生じると大幅に転送能力が低下してしまう。
【0035】
そこで、
図4(a)~(d)に示すように、電車2の各車両2Aの外壁面に無線子機15のアンテナ15aを複数(この例では4つ)設置し、駅3側のホームドアの壁面外側にも無線親機21のアンテナ21aを車両2A側と同じ数だけ設置する。
【0036】
このとき、
図4(a)に示すように、車両2Aが所定の停止位置に正確に停車した場合に、車両2A側と駅3側のアンテナ同士が相対向した位置に配置されているのは1つだけ(この例では無線子機15の第2のアンテナ15a
2と無線親機21の第2のアンテナ21a
2)であり、残りの3つは相対向する位置からズレた位置に配置している。実際には、電車2が停車したした際に、無線子機15から4つのアンテナ15a
1,15a
2,15a
3,15a
4を順次選択して無線親機21側と初期アクセスを行い、最も通信品質の優れたアンテナの組合せを用いて大容量データの通信を行えばよい。
【0037】
例えば、
図4(b)に示すように、電車2が所定の停止位置から若干奥側の位置で停車したとしても、正確に停車したときとは異なる別のアンテナ同士(この例では無線子機15の第1のアンテナ15a
1と無線親機21の第1のアンテナ21a
1)が相対向した位置となるため、このアンテナの組合せを用いてデータ通信を行うことにより、5G規格のパフォーマンスを最大限に生かすことが可能となる。
【0038】
さらに、
図4(c)及び(d)に示すように、電車2が所定の停止位置から若干手前側の位置で停車したとしても、正確に停車したときとは異なる別のアンテナ同士(
図4(c)の例では無線子機15の第3のアンテナ15a
3と無線親機21の第3のアンテナ21a
3、また
図4(d)の例では無線子機15の第4のアンテナ15a
4と無線親機21の第4のアンテナ21a
4)が相対向した位置となるため、このアンテナの組合せを用いてデータ通信を行うことにより、5G規格のパフォーマンスを最大限に生かすことが可能となる。
【0039】
図4に示すように、電車の停止位置に合わせて複数のアンテナのいずれかで5G通信を行う場合、各アンテナの受信強度・通信品質等の計測値から、電車の停車位置を算出する。このようにして求めた電車の停止位置は、運転手の運転技量の評価や電車の自動運転制御などに用いることができる。
【0040】
図4は、電車2の1つの車両2Aに無線子機15の複数のアンテナ15aを設けた構成であるが、複数の車両2Aの各々に無線子機15の複数のアンテナ15aを一つずつ割り当てることも可能である。また、アンテナ15aの数よりも車両数が多い場合には、アンテナ15aが設けられていない車両2Aがあってもよい。
【0041】
電車2の停車位置を算出して保存するため、電車2内の管理サーバ14内には運転手のID情報を記憶するエリア(ID情報格納部)を設けておき、電車2が駅3に到着した際に、電車2側の無線子機15の複数のアンテナ15aと駅のプラットホーム側の無線親機21の複数のアンテナ21aとの間で通信品質等の計測を行い、どのアンテナの組み合わせが最良かを判別する。そして、通信品質が最も良好なアンテナの組み合わせを特定し、当該アンテナの組み合わせから電車2の停車位置を求める。これは、無線子機15と無線親機21との間のアンテナの組み合わせと電車2の停車位置との関係を示すデータテーブルを参照することにより求めることができる。ストレージサーバ22は、運転手のID情報を管理サーバ14から取得して、電車2の停止位置情報と関連付けてデータセンタ31に蓄積する。
【0042】
このように、本実施形態によれば、電車2と駅3との間の5G通信システムを利用して、電車2の停止位置を計測することができる。したがって、電車2の運転手の運転技能を把握して評価することができ、運転技能に応じて訓練の頻度や難易度などを個別に設定することが可能となる。また、蓄積したデータを分析することで、運転手の健康状態(疲労度や睡眠不足)などを把握して過重労働の防止などにも活用できる。
【0043】
また
図4に示すように、無線親機21の複数のアンテナ21aと無線子機15の複数のアンテナ15aとの間の通信品質に関する情報を利用して、駅3のプラットホームに入ってきた電車2の速度を制御し、電車2の停車位置精度を高めることも可能である。
【0044】
図5は、本発明の他の実施の形態によるデータ転送システムの概略図である。
【0045】
図5に示すように、本実施形態によるデータ転送システム1は、駅3のホームに設置された防犯カメラ24(外部カメラ)をさらに備え、防犯カメラ24が撮影する動画データが無線親機21を介してストレージサーバ22に取り込まれる点にある。防犯カメラ24は駅3のホームに設置された無線子機25に接続されており、無線子機25は無線親機21のアンテナ21bと通信可能な位置に設置されている。防犯カメラ24が撮影した動画データは、無線子機25及び無線親機21を介してストレージサーバ22に取り込まれる。
【0046】
本実施形態において、無線親機21は、電車2が駅のホームに入ってきたときには電車2側の無線子機15のアンテナ15a(
図3参照)と相対向するアンテナ21aを使用して電車2側と5G通信を行い、それ以外のときには、アンテナ21aとは別の方向に指向性を持つアンテナ21bを使用して、駅3に設置された無線子機25との間の5G通信を行う。あるいは、電車側の無線子機のアンテナと相対向する方向とは別の方向に指向性を持つアンテナ21bを使用して、線路やホーム下に落ちたスマートフォン等の無線機器の捜索に用いてもよい。
【0047】
図6は、データ転送システムの動作モードを示すシーケンス図である。
【0048】
図6に示すように、電車2が駅3のプラットホームに到着してホームドアが開くと、無線子機15と無線親機21との間で通信接続を確立(ハンドシェイク)し、データ転送を開始する。データ転送が完了すると、通信接続が切断される。その後、ホームドアが閉まり、電車2が発車すると、次の電車が駅に到着するまで、無線親機21と電車側の無線子機15との通信は発生しない。
【0049】
電車2が駅に到着してから発車するまでの間、駅3側の防犯カメラ24は駅構内等を撮影し、動画データは防犯カメラ24のバッファメモリに保存される。そして、電車2側の無線子機25と無線親機21との間の通信が終了すると、防犯カメラ24のバッファメモリに保存されている録画データの転送を開始する。録画データの転送が完了すると、防犯カメラ24が現在撮影している動画データのリアルタイム転送が開始される。この動画データのリアルタイム転送は、次の電車2が駅3に到着するまで行われる。
【0050】
電車2が駅3に到着していないとき無線親機21は通信しておらず遊んでいる状態である。しかし、本実施形態においては、無線親機21が電車2側の無線子機15と通信していない間に駅3側の無線子機25と通信を行うので、5G通信システムの有効利用を図ることができる。
【0051】
短い停車時間にデータ伝送を行わなければならない車両側の通信と異なり、本実施形態は電車の発車から次の電車の到着までの時間を利用するので、アンテナが多少離れていても十分に高画質の動画データを伝送することが可能である。無線子機25のアンテナは、電車2側の無線子機15のアンテナ15aのように無線親機21のアンテナ21aと正確に相対向していなくてもよく、アンテナのビームフォーミング機能により防犯カメラ24の設置位置に合わせてアンテナの指向性を調整することが可能である。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によるデータ転送システム1は、電車2側に設置された車載データ管理装置10と、駅3側に設けられた外部データ管理装置20とを備え、車載データ管理装置10は、電車2が駅3の既定の停車位置に停車したとき、電車2側の無線子機15が駅3側の無線親機21と対向する位置に配置され、管理サーバ14は、防犯カメラ11が撮影した動画データを外部データ管理装置20側に転送するので、車載ストレージ13を大容量化することなく、車両内の防犯システムを構築することができる。特に、5G規格の無線子機15と無線親機21とを車両外壁とホームドアの壁面外側という比較的近距離で利用することで高速大容量の通信を実現することができ、電車2内に設置した高精度カメラが撮影した動画データを駅到着時の短い時間内に駅側に転送することができる。したがって、防犯カメラ11が撮影した動画データを一時保存しておく車載ストレージ13の容量を小さくすることができ、車載データ管理装置10の構築コストを低く抑えることができる。また、電車2側からの保存データの取り込みにかかる時間を短くすることができる。
【0053】
また、本実施形態によるデータ転送システム1は、電車2側の無線子機15と駅側の無線親機21が複数のアンテナをそれぞれ備え、電車2が駅3の所定の停止範囲内に停車したときに、無線子機15のアンテナと無線親機21のアンテナの少なくとも一組が相対向し、他のアンテナの組は互いにずれた位置関係となるように設定されているので、電車の停止位置がずれた場合でもいずれか一組のアンテナを用いて5Gによる高速通信を行うことができる。さらに、通信品質が最も良好なアンテナの組を特定することで電車の停止位置を特定することができ、そのような情報を運転手の評価等に活用することができる。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0055】
例えば、上記実施形態においては、電車2の各車両2Aに1台ずつ車載ストレージ13及び無線子機15が設けられているが、例えば2両の車両に共通する1つの車載ストレージ13及び1つの無線子機15を設けてもよく、あるいは全車両に共通する1つの車載ストレージ13及び1つの無線子機15を設けてもよい。また、管理サーバ14は1つの車載ストレージ13及び1つの無線子機15に対して個別に設けられてもよく、複数の車載ストレージ13及び複数の無線子機15に対して共通に設けられてもよい。
【0056】
また上記実施形態においては、電車と駅との間の通信を例として本発明を説明してきたが、他の移動体(モノレール、ケーブルカー、ロープウエイ、バス、船舶、航空機)とターミナル(停車場、停留所、船つき場、桟橋、埠頭、飛行場、ヘリポート)との間の通信に適用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 データ転送システム
2 電車
2A 車両
3 駅
3A 出入口
3B 壁
10 車載データ管理装置
11 防犯カメラ
12 アンテナ
13 車載ストレージ
14 管理サーバ
15 無線子機
15a,15a1,15a2,15a3,15a4 アンテナ
20 外部データ管理装置
21 無線親機
21a,21a1,21a2,21a3,21a4,21b アンテナ
22 ストレージサーバ
24 防犯カメラ
25 無線子機
30 インターネット
31 データセンタ