(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154164
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】重ね合わせ構造部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/20 20060101AFI20241023BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
B21D22/20 G
B21D22/20 E
B21D22/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067841
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澄川 智史
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA12
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA21
4E137CB01
4E137DA04
4E137EA01
4E137GA03
4E137GB03
4E137HA06
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】突出部を有する重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、冷間プレス成形時の加工加重を低減させて、過大な加工荷重に起因する加工不良を解決することにある。
【解決手段】各々金属板からなるブランクを冷間プレス成形した第1の部品と第2の部品とを互いに重ね合わせた状態で接合してなる、突出部を有する重ね合わせ構造部材において、前記第1の部品と前記第2の部品とのうち何れか一方の部品に前記突出部を有し、前記第1の部品と前記第2の部品とのうち他方の部品の、前記突出部に対応する領域に穴あき部を有することを特徴としている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々金属板からなるブランクを冷間プレス成形した第1の部品と第2の部品とを互いに重ね合わせた状態で接合してなる、突出部を有する重ね合わせ構造部材において、
前記第1の部品と前記第2の部品とのうち何れか一方の部品に前記突出部を有し、
前記第1の部品と前記第2の部品とのうち他方の部品の、前記突出部に対応する領域に穴あき部を有することを特徴とする重ね合わせ構造部材。
【請求項2】
前記一方の部品の前記突出部は、前記他方の部品の方向に突出していることを特徴とする、請求項1記載の重ね合わせ構造部材。
【請求項3】
前記一方の部品の前記突出部は、前記他方の部品と反対の方向に突出していることを特徴とする、請求項1記載の重ね合わせ構造部材。
【請求項4】
前記第1の部品と前記第2の部品との引張強度の強度グレードはともに590MPa級以上であることを特徴とする、請求項1から3までの何れか一項記載の重ね合わせ構造部材。
【請求項5】
各々金属板からなるブランクを冷間プレス成形した第1の部品と第2の部品とを互いに重ね合わせた状態で接合して、突出部を有する重ね合わせ構造部材を製造する方法において、
前記第1の部品と前記第2の部品とのうち何れか一方の部品となるブランクに前記突出部を形成し、
前記第1の部品と前記第2の部品とのうち他方の部品となるブランクの、前記突出部に対応する領域に穴あき部を形成することを特徴とする重ね合わせ構造部材の製造方法。
【請求項6】
前記一方の部品の前記突出部は、前記他方の部品の方向に突出させることを特徴とする、請求項5記載の重ね合わせ構造部材の製造方法。
【請求項7】
前記一方の部品の前記突出部は、前記他方の部品と反対の方向に突出させることを特徴とする、請求項5記載の重ね合わせ構造部材の製造方法。
【請求項8】
前記第1の部品となるブランクおよび前記第2の部品となるブランクを、互いに重ね合わせた状態で接合し、一体で冷間プレス成形することを特徴とする、請求項5から7までの何れか一項記載の重ね合わせ構造部材の製造方法。
【請求項9】
前記第1の部品と前記第2の部品との引張強度の強度グレードはともに590MPa級以上であることを特徴とする、請求項8記載の重ね合わせ構造部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各々金属板からなるブランクから冷間プレス成形した第1の部品と第2の部品とを互いに重ね合わせた状態で互いに接合してなる重ね合わせ構造部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の乗員保護の観点で、自動車車体には衝突安全性の向上が求められている。一方で、二酸化炭素排出量の削減のため、自動車車体を軽量化し燃費を向上させることも重要である。これら衝突安全性能と車体の軽量化を両立するために、自動車車体の骨格部品への高強度材の適用が年々増えている。例えば、自動車車体のキャビンを形成するフロントピラーやセンタピラーなどのピラー部品は、自動車の衝突時にキャビン内の乗員を保護するために重要な骨格部品である。そのためピラー部品には、衝突荷重に耐え得る強度が要求され、引張強度の強度グレードが1470MPa級以上の高張力鋼板も適用されている。
【0003】
また、自動車の衝突安全性基準は年々厳格さを増す傾向にあり、自動車車体はその基準を満たす必要がある。そのため、強度の必要な骨格部品に対し補強部品を重ね合わせて、衝突特性に大きく影響する車体の部位を部分的に補強した重ね合わせ構造部材が、上記ピラー部品などの骨格部品の構成に採用されている。
【0004】
図1に、重ね合わせ構造部材の一例を示す。図中符号1で示す本体部品は本例ではハット状断面を有し、天板部1aと縦壁部1bとフランジ部1cとこれらを繋ぐ稜線部1dとからなる。図中符号2で示す補強部品は本体部品1の内側に配置され、本例ではコ字状断面を有し、天板部2aと縦壁部2bとこれらを繋ぐ稜線部2dとからなる。本体部品1と補強部品2とは互いに抵抗スポット溶接で接合され、天板部1a,2aと縦壁部1b,2bとに接合部5が配置される。
【0005】
このような重ね合わせ構造部材を製造する従来の方法としては、例えば
図2(a)に示すように二枚のブランク3,4を準備して、先ず
図2(b)に示すようにそれらのブランク3,4から本体部品1と補強部品2とをそれぞれプレス成形する。そしてその後に
図2(c)に示すように本体部品1と補強部品2とを互いに重ね合わせて接合部5で電極6を用いた抵抗スポット溶接により接合する方法が一般的である。
【0006】
また、重ね合わせ構造部材を製造する他の方法としては、パッチワーク法といわれる方法がある。この方法では、例えば
図3(a)に示すように二枚のブランク3,4を準備し、先ず
図3(b)に示すように本体部品1および補強部品2への成形前のブランク3,4を互いに重ね合わせて、接合部5で電極6を用いた抵抗スポット溶接によりあらかじめ接合する。そして
図3(c)に示すようにこの互いに接合されたブランク3,4を1つのプレス金型で同時にプレス成形する。このパッチワーク法を用いれば、一回のプレス工程で本体部品1と補強部品2とを成形するのでプレス金型に掛かる費用を抑えることができる。また、パッチワーク法による構造では材料同士が密着しているため、衝突時に外力を受けた際に高い耐荷重を発揮する。
【0007】
パッチワーク法を適用した部材は、主にホットプレスにより製造されている(特許文献1~3参照)。ホットプレスとは、ブランクを高温に加熱し、これをプレス金型の互いに上下方向に対向する上型と下型とで挟んで、部品を成形する成形方法である。下死点(上型の最下点)でブランクはプレス金型により急冷され、金属組織がマルテンサイトに変態することによって部品強度を確保できる。また、ブランクから部品が高温で成形されることから、成形中にブランクに生じる応力が小さいため、プレス金型から外した際に部品に生じるスプリングバックが少ないので、形状凍結性に優れるという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-184221号公報
【特許文献2】特開2020-131226号公報
【特許文献3】特開2021-098451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで近年は、引張強度が1470MPa級の超高張力鋼板を用いることで、常温のままのブランクをプレス成形する冷間プレス成形でも、ホットプレスと同等の部品強度が得られるようになってきている。冷間プレス成形はホットプレスにおけるようなブランクの加熱工程を必要としないため、ホットプレスに比べて生産性に優れ、部品の製造コストを安価に抑えることができる。
【0010】
しかしながら、パッチワーク法に冷間プレス成形を適用する場合、高強度なブランク二枚を一体で成形するため、プレス金型はブランクから大きな反力を受け、大きな加工荷重を必要とする。
【0011】
加工荷重が特に大きくなる構造部材の一例を
図4に示す。この部材は本体部品1と補強部品2とを備え、本体部品1および補強部品2は各々天板部1a,2aに、他の部品と抵抗スポット溶接で接合する際に必要となるスポット座面1e,2eを有している。この例の場合、
図5の断面図に示すように、スポット座面1e,2eは本体部品1および補強部品2の外側に突出している。
【0012】
このような基準の面から突出した部位は、材料が張り出されることで成形されるため、変形抵抗が大きくなり加工荷重は非常に大きくなる。必要な加工荷重がプレス機の能力を上回れば、ブランクをプレス金型の下死点まで成形することができない懸念がある。一方、プレス機の能力が十分であっても、局所的な高面圧によりプレス金型が弾性変形し、下死点でブランクを適正な形状に成形できず、本体部品1および補強部品2の寸法精度悪化を招く恐れがある。
【0013】
また、
図6および
図7に示すように、スポット座面1e,2eが本体部品1および補強部品2の内側に突出している形状であっても同様の懸念がある。
【0014】
本発明は、スポット座面等の突出部を有する重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際のプレス成形時の加工荷重を低減させて、その重ね合わせ構造部材の構成部品の加工不良を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を有利に解決する本発明の重ね合わせ構造部材は、
各々金属板からなるブランクを冷間プレス成形した第1の部品と第2の部品とを互いに重ね合わせた状態で接合してなる、突出部を有する重ね合わせ構造部材において、
前記第1の部品と前記第2の部品とのうち何れか一方の部品に前記突出部を有し、
前記第1の部品と前記第2の部品とのうち他方の部品の、前記突出部に対応する領域に穴あき部を有することを特徴とするものである。
【0016】
また、上記課題を有利に解決する本発明の重ね合わせ構造部材の製造方法は、
各々金属板からなるブランクを冷間プレス成形した第1の部品と第2の部品とを互いに重ね合わせた状態で接合して、突出部を有する重ね合わせ構造部材を製造する方法において、
前記第1の部品と前記第2の部品とのうち何れか一方の部品となるブランクに前記突出部を形成し、
前記第1の部品と前記第2の部品とのうち他方の部品となるブランクの、前記突出部に対応する領域に穴あき部を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の重ね合わせ構造部材にあっては、突出部を有する重ね合わせ構造部材の第1の部品と第2の部品とのうち何れか一方の部品に突出部が形成され、他方の部品の、その突出部に対応する領域に穴あき部が形成されている。
【0018】
また、本発明の重ね合わせ構造部材の製造方法にあっては、突出部を有する重ね合わせ構造部材の第1の部品と第2の部品とのうち何れか一方の部品となるブランクに突出部を形成し、他方の部品となるブランクの、その突出部に対応する領域に穴あき部を形成する。
【0019】
従って、本発明の重ね合わせ構造部材およびその製造方法によれば、冷間プレス成形時の加工加重を低減させて、過大な加工荷重に起因する加工不良を解決することができる。
【0020】
なお、本発明の重ね合わせ構造部材においては、前記一方の部品の前記突出部は、前記他方の部品の方向に突出していてもよく、また前記一方の部品の前記突出部は、前記他方の部品と反対の方向に突出していてもよい。
【0021】
また、本発明の重ね合わせ構造部材の製造方法においては、前記一方の部品の前記突出部は、前記他方の部品の方向に突出させてもよく、また前記一方の部品の前記突出部は、前記他方の部品と反対の方向に突出させてもよい。
【0022】
さらに、本発明の重ね合わせ構造部材の製造方法においては、前記第1の部品となるブランクおよび前記第2の部品となるブランクを、互いに重ね合わせた状態で接合し、一体で冷間プレス成形してもよい。また、本発明の重ね合わせ構造部材およびその製造方法においては、前記第1の部品と前記第2の部品との引張強度の強度グレードはともに590MPa級以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】重ね合わせ構造部材を例示する斜視図である。
【
図2】(a),(b)および(c)は、上記例の重ね合わせ構造部材を従来のプレス成形方法で製造する際の手順を模式的に示す説明図である。
【
図3】(a),(b)および(c)は、上記例の重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の従来の製造方法の手順を模式的に示す説明図である。
【
図4】加工荷重が特に大きくなる構造部材の一例を示す斜視図である。
【
図6】加工荷重が特に大きくなる構造部材の他の一例を示す斜視図である。
【
図8】本発明の重ね合わせ構造部材の第1実施形態の一つである構造部材11を模式的に示す断面図である。
【
図9】本発明の第1実施形態の重ね合わせ構造部材の他の一つである構造部材12を模式的に示す断面図である。
【
図10】本発明の第1実施形態の重ね合わせ構造部材のさらに他の一つである構造部材13を模式的に示す断面図である。
【
図11】本発明の第1実施形態の重ね合わせ構造部材のさらに他の一つである構造部材14を模式的に示す断面図である。
【
図12】本発明の第1実施形態の重ね合わせ構造部材のさらに他の一つである構造部材15を模式的に示す断面図である。
【
図13】(a)~(d)は、上述した本発明の重ね合わせ構造部材の第1実施形態の一つである
図8に示す構造部材11を一例として、本発明の第1実施形態の重ね合わせ構造部材の製造方法を示す説明図である。
【
図14】(a)および(b)は、上記のプレス成形における型閉じ前状態および型閉じ状態のスポット座面の周辺部を拡大したブランクと金型の一例を示す断面図である。
【
図15】(a)および(b)は、上記のプレス成形における型閉じ前状態および型閉じ状態のスポット座面の周辺部を拡大したブランクと金型の他の一例を示す断面図である。
【
図16】本発明の重ね合わせ構造部材の第2実施形態の一つである構造部材21を模式的に示す断面図である。
【
図17】本発明の第2実施形態の重ね合わせ構造部材の他の一つである構造部材22を模式的に示す断面図である。
【
図18】本発明の第2実施形態の重ね合わせ構造部材のさらに他の一つである構造部材23を模式的に示す断面図である。
【
図19】本発明の第2実施形態の重ね合わせ構造部材のさらに他の一つである構造部材24を模式的に示す断面図である。
【
図20】本発明の第2実施形態の重ね合わせ構造部材のさらに他の一つである構造部材25を模式的に示す断面図である。
【
図21】(a)~(d)は、上述した本発明の重ね合わせ構造部材の第2実施形態の一つである
図16に示す構造部材21を一例として、本発明の第2実施形態の重ね合わせ構造部材の製造方法を示す説明図である。
【
図22】(a)および(b)は、上記のプレス成形における型閉じ前状態および型閉じ状態のスポット座面の周辺部を拡大したブランクと金型の一例を示す断面図である。
【
図23】本実施例1としてシミュレートした
図8に示す第1実施形態に係る構造部材を示す斜視図および断面図である。
【
図24】本実施例2としてシミュレートした
図16に示す第2実施形態に係る構造部材を示す斜視図および断面図である。
【
図25】比較例としてシミュレートした
図5の構造部材を示す斜視図および断面図である。
【
図26】(a)および(b)は、本実施例1の構造部材のプレス成形における型閉じ前状態および型閉じ状態のブランクと金型を示す断面図である。
【
図27】(a)および(b)は、本実施例2の構造部材のプレス成形における型閉じ前状態および型閉じ状態のブランクと金型を示す断面図である。
【
図28】本実施例1の構造部材と本実施例2の構造部材と比較例の構造部材との加工荷重をそれぞれ示す対比図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態につき図面に基づき詳細に説明する。
<第1実施形態>
図8は、本発明の重ね合わせ構造部材の第1実施形態の一つである構造部材11を模式的に示す断面図である。この構造部材11では、ハット状断面を有する本体部品1の内側に、コ字状断面を有する補強部品2が配置されている。本体部品1は、天板部1aと縦壁部1bとフランジ部1cとこれらを繋ぐ稜線部1dとを有するとともに、天板部1aの、後述する天板部2aのスポット座面2eに対応する領域に穴あき部1fを有している。補強部品2は、天板部2aと縦壁部2bとこれらを繋ぐ稜線部2dとを有するとともに、天板部2aに突出部として、本体部品1の方向に突出するように、他の部品と抵抗スポット溶接で接合する際に必要となるスポット座面2eを有している。スポット座面2eは、穴あき部1fから本体部品1を通り、構造部材11の外側に突出している。これにより、座面形状を成形するのは補強部品2のブランク一枚のみとなるため、二枚のブランクを一体としてそれらに座面形状を成形する場合に比べて、加工荷重を低減させて、過大な加工荷重に起因する加工不良を解決することができる。
【0025】
図9は、本発明の第1実施形態の重ね合わせ構造部材の他の一つである構造部材12を模式的に示す断面図であり、先の構造部材11と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。
図9に示すように、本体部品1のスポット座面1eは、構造部材12の内側に突出する形状であってもよい。この場合は、補強部品2が穴あき部2fを有し、スポット座面1eは、補強部品2の方向に突出して、穴あき部2fから補強部品2を通り、構造部材12の内側に突出している。
【0026】
図10は、本発明の第1実施形態の重ね合わせ構造部材のさらに他の一つである構造部材13を模式的に示す断面図であり、先の構造部材11と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。
図10に示すように、補強部品2は、本体部品1の外側に配置されていてもよい。この場合は、本体部品1がスポット座面1eを有し、補強部品2が穴あき部2fを有しており、スポット座面1eは、補強部品2の方向に突出して、穴あき部2fから補強部品2を通り、構造部材13の外側に突出している。
【0027】
図11は、本発明の第1実施形態の重ね合わせ構造部材のさらに他の一つである構造部材14を模式的に示す断面図であり、先の構造部材11と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。
図11に示すように、スポット座面が構造部材14の内側に突出する部材形状の場合は、補強部品2がスポット座面2eを有し、本体部品1が穴あき部1fを有しており、スポット座面2eは、本体部品1の方向に突出して、穴あき部1fから本体部品1を通っている。スポット座面2eの成形高さは、本体部品1の天板部1aからの補強部品2の突出高さと本体部品1の板厚とを足した高さとなる。
【0028】
図12は、本発明の第1実施形態の重ね合わせ構造部材のさらに他の一つである構造部材15を模式的に示す断面図であり、先の構造部材11と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。
図12に示すように、突出部としてのスポット座面は構造部材の縦壁部にあってもよい。この場合は、補強部品2が縦壁部2bにスポット座面2eを有し、本体部品1が縦壁部1bに穴あき部1fを有しており、スポット座面2eは、本体部品1の方向に突出して、穴あき部1fから本体部品1を通り、構造部材15の外側に突出している。
【0029】
続いて、本発明の第1実施形態の重ね合わせ構造部材の製造方法について説明する。
図13(a)~
図13(d)は、上述した本発明の重ね合わせ構造部材の第1実施形態の一つである
図8に示す構造部材11を一例として、本発明の第1実施形態の重ね合わせ構造部材の製造方法を示す。
【0030】
ここでは先ず、
図13(a)に示すように、本体部品1および補強部品2のための二枚のブランク3,4を準備する。次いで
図13(b)に示すように、スポット座面を成形しないブランク3の、スポット座面に相当する領域に穴あき部3aの穴あけ加工を行う。この穴あけ加工は、金型によるせん断加工やレーザー加工など手段は問わない。続いて
図13(c)に示すように、二枚のブランク3,4を互いに重ね合わせて、接合部5で電極6を用いた抵抗スポット溶接により接合する。そして
図13(d)に示すように、この互いに接合されたブランク3,4を一体で同時にプレス成形して構造部材11を形成する。
【0031】
図14(a),
図14(b)は、上記のプレス成形における型閉じ前状態および型閉じ状態のスポット座面の周辺部を拡大したブランクと金型の一例を示す断面図である。
図14(a)に示す型閉じ前状態で、金型の上型UDと下型LDとの間に二枚のブランク3,4を互いに重ね合わせて配置し、
図14(b)に示す型閉じ状態で上型UDと下型LDとにより、互いに重ね合わせた状態の二枚のブランク3,4を一体でプレス成形する。なお、プレス下死点での型閉じ状態の上型UDと下型LDとのギャップは、
図14(b)に示すように、ブランク4のスポット座面となる部分4bでは成形する板厚分のギャップ、スポット座面の周辺の平坦部では二枚のブランク3,4の板厚の合計分のギャップとなるように金型形状を設計するとよい。
【0032】
また
図15(a),
図15(b)は、上記のプレス成形における型閉じ前状態および型閉じ状態のスポット座面の周辺部を拡大したブランクと金型の他の一例を示す断面図である。この例の金型では
図15(a)に示すように、上型UDにカウンター形状部Cが設けられているので、
図15(b)に示すように、スポット座面となる部分4bの立ち上がりで成形されるブランクが、他方のブランク3の穴あき部3aの内周端縁に当たって局所的に折れるのを防止することができる。
【0033】
上記第1実施形態の製造方法での冷間プレス成形は、構造部材やその部品の形状等に応じて、曲げ成形や絞り成形、あるいは曲げ成形と絞り成形との組み合わせであってもよい。また、スポット座面が内側に突出する形状の構造部材であっても、製造方法や金型の構造は基本的に変わらない。
【0034】
<第2実施形態>
図16は、本発明の重ね合わせ構造部材の第2実施形態の一つである構造部材21を模式的に示す断面図である。この構造部材21では、ハット状断面を有する本体部品1の内側に、コ字状断面を有する補強部品2が配置されている。本体部品1は、天板部1aと縦壁部1bとフランジ部1cとこれらを繋ぐ稜線部1dとを有するとともに、天板部1aに突出部として、補強部品2と反対の方向に突出するスポット座面1eを有している。補強部品2は、天板部2aと縦壁部2bとこれらを繋ぐ稜線部2dとを有するとともに、天板部2aの、スポット座面1eに対応する領域に穴あき部1fを有している。スポット座面1eは、構造部材21の外側に突出している。これにより、座面形状を成形するのは補強部品2のブランク一枚のみとなるため、二枚のブランクを一体としてそれらに座面形状を成形する場合に比べて、加工荷重を低減させて、過大な加工荷重に起因する加工不良を解決することができる。
【0035】
図17は、本発明の第2実施形態の重ね合わせ構造部材の他の一つである構造部材22を模式的に示す断面図であり、先の構造部材21と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。
図17に示すように、スポット座面が構造部材22の内側に突出する形状であってもよい。この場合は、本体部品1が穴あき部1fを有し、補強部品2のスポット座面2eは本体部品1と反対の方向に突出している。
【0036】
図18は、本発明の第2実施形態の重ね合わせ構造部材のさらに他の一つである構造部材23を模式的に示す断面図であり、先の構造部材21と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。
図18に示すように、補強部品2は本体部品1の外側に配置されていてもよい。この場合は、補強部品2がスポット座面2eを有しており、本体部品1が穴あき部1fを有している。なお、
図29は、
図18に示す構造部材23の斜視図である。
【0037】
図19は、本発明の第2実施形態の重ね合わせ構造部材のさらに他の一つである構造部材24を模式的に示す断面図であり、先の構造部材21と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。
図19に示すように、スポット座面が構造部材24の内側に突出する部材形状の場合に、補強部品2は本体部品1の外側に配置されていてもよい。この場合は、本体部品1がスポット座面1eを有しており、補強部品2が穴あき部2fを有している。
【0038】
図20は、本発明の第2実施形態の重ね合わせ構造部材のさらに他の一つである構造部材25を模式的に示す断面図であり、先の構造部材21と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。
図20に示すように、突出部としてのスポット座面は構造部材の縦壁部にあってもよい。この場合は、本体部品1が縦壁部1bにスポット座面1eを有し、補強部品2が縦壁部2bに穴あき部2fを有しており、スポット座面1eは、補強部品2と反対の方向に突出して、構造部材25の外側に突出している。
【0039】
続いて、本発明の第2実施形態の重ね合わせ構造部材の製造方法について説明する。
図21(a)~
図21(d)は、上述した本発明の重ね合わせ構造部材の第2実施形態の一つである
図16に示す構造部材21を一例として、本発明の第2実施形態の重ね合わせ構造部材の製造方法を示す。
【0040】
ここでは先ず、
図21(a)に示すように、本体部品1および補強部品2のための二枚のブランク3,4を準備する。次いで
図21(b)に示すように、スポット座面を成形しないブランク4の、スポット座面に相当する領域に穴あき部4aの穴あけ加工を行う。この穴あけ加工は、金型によるせん断加工やレーザー加工など手段は問わない。続いて
図21(c)に示すように、二枚のブランク3,4を互いに重ね合わせて、接合部5で電極6を用いた抵抗スポット溶接により接合する。そして
図21(d)に示すように、この互いに接合されたブランク3,4を一体で同時にプレス成形して構造部材21を形成する。
【0041】
図22(a),
図22(b)は、上記のプレス成形における型閉じ前状態および型閉じ状態のスポット座面の周辺部を拡大したブランクと金型の一例を示す断面図である。
図22(a)に示す型閉じ前状態で、金型の上型UDと下型LDとの間に二枚のブランク3,4を互いに重ね合わせて配置し、
図22(b)に示す型閉じ状態で上型UDと下型LDとにより、互いに重ね合わせた状態の二枚のブランク3,4を一体でプレス成形する。なお、プレス下死点での型閉じ状態の上型UDと下型LDとのギャップは、
図22(b)に示すように、ブランク3のスポット座面となる部分3bでは成形する板厚分のギャップ、スポット座面の周辺の平坦部では二枚のブランク3,4の板厚の合計分のギャップとなるように金型形状を設計するとよい。
【0042】
上記第2実施形態の製造方法での冷間プレス成形は、構造部材やその部品の形状等に応じて、曲げ成形や絞り成形、あるいは曲げ成形と絞り成形との組み合わせであってもよい。また、スポット座面が内側に突出する形状の構造部材であっても、製造方法や金型の構造は基本的に変わらない。
【0043】
上述した第1実施形態および第2実施形態のように、二枚のブランク3,4に対して穴あき部を開けるブランクとスポット座面を成形するブランクとを選択する形態は二通りある。どちらの形態を選択するかに関しては、ブランクの材質(強度、伸び)や板厚を考慮して、より成形性を確保できかつ加工荷重が少なくなる方を選択すればよい。
【0044】
<実施例>
本発明の作用効果を確認するために行った実施例について以下に説明する。冷間プレスによって成形される重ね合わせ部材のプレス成形シミュレーションを実施した。本実施例1として
図8に示す第1実施形態に係る
図23の形状の構造部材を、また本実施例2として
図16に示す第2実施形態に係る
図24の形状の構造部材のプレス成形をシミュレートした。そして比較例として
図25に示すように、穴あき部を開けずに、二枚のブランク3,4の、補強部品2に相当する領域を全域二枚重ねとする構造部材を想定した。何れの構造部材も全長500mm、全幅180mm、天板部の幅110mm、天板部までの高さ70mm、スポット座面の長さ100mm、スポット座面の幅50mm、天板部からのスポット座面の高さ3mm、スポット打点の間隔80mmとした。そして本体部品1は板厚1.2mmの980MPa級鋼板、補強部品2は板厚1.6mmの1470MPa級鋼板とした。
【0045】
本実施例1は
図13に示す工程で製造するものとし、本実施例2は
図21に示す工程で製造するものとした。すなわち先ず本実施例1,2とも、二枚のブランク3,4を用意した。次いで本実施例1では、本体部品1となるブランク3の天板部の、スポット座面に相当する部位にレーザーで穴あき部3aを穴あけ加工した。また本実施例2では、補強部品2となるブランク4の天板部の、スポット座面に相当する部位にレーザーで穴あき部4aを穴あけ加工した。そして本実施例1,2とも、天板部同士および縦壁部同士をそれぞれ抵抗スポット溶接で接合した後、二枚のブランク3,4を一体でプレス成形した。
【0046】
図26(a),
図26(b)は、本実施例1の構造部材のプレス成形における型閉じ前状態および型閉じ状態のブランクと金型を示す断面図である。また、
図27(a),
図27(b)は、本実施例2の構造部材のプレス成形における型閉じ前状態および型閉じ状態のブランクと金型を示す断面図である。金型の形状は、ブランク3,4の板厚(一枚もしくは二枚)に応じて成形面のオフセット量を調整しており、プレス下死点での型閉じ状態でブランク3,4の全域を金型で挟圧できるようにした。また、上型UDと下型LDとがブランク3,4の板厚分の距離になるまで上型UDを強制変位で下降させ、下死点における上型UDへの反力を加工荷重として評価した。
【0047】
図28は、本実施例1の構造部材と本実施例2の構造部材と比較例の構造部材との加工荷重をそれぞれ示す。比較例が212tonであったのに対し、本実施例1では185ton、本実施例2では150tonとなり、実施例1,2の何れも比較例からの加工荷重低減効果が確認された。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の重ね合わせ構造部材およびその製造方法は、上記の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであり、例えば、本発明の重ね合わせ構造部材は、自動車車体用に限られず、例えば二輪車や鉄道車両の車体用等としてもよい。
【0049】
また、前記第1の部品および前記第2の部品は共に、全体的に円弧状などの曲線状をなす断面形状を有するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
かくして本発明の重ね合わせ構造部材およびその製造方法によれば、各々金属板からなるブランクを冷間プレス成形した第1の部品と第2の部品とを互いに重ね合わせた状態で接合してなる、突出部を有する重ね合わせ構造部材をパッチワーク法で製造する際の、冷間プレス成形時の加工加重を低減させて、過大な加工荷重に起因する加工不良を解決することができる。
【符号の説明】
【0051】
11,12,13,14,15 構造部材(第1実施形態)
1 本体部品
1a 天板部
1b 縦壁部
1c フランジ部
1d 稜線部
1e スポット座面
1f 穴あき部
21,22,23,24,25 構造部材(第2実施形態)
2 補強部品
2a 天板部
2b 縦壁部
2d 稜線部
2e スポット座面
2f 穴あき部
3,4 ブランク
3a,4a 穴あき部
3b、4b スポット座面となる部分
5 接合部
6 電極
UD 上型
LD 下型