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特開2024-154195衝撃加圧を用いたw-BN焼結体の製造方法
<図1>
  • 特開-衝撃加圧を用いたw-BN焼結体の製造方法 図1
  • 特開-衝撃加圧を用いたw-BN焼結体の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154195
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】衝撃加圧を用いたw-BN焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/5833 20060101AFI20241023BHJP
   C04B 35/5835 20060101ALI20241023BHJP
   C04B 35/528 20060101ALI20241023BHJP
   B01J 3/08 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C04B35/5833
C04B35/5835
C04B35/528
B01J3/08 D
B01J3/08 N
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067901
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000147811
【氏名又は名称】トーメイダイヤ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520060818
【氏名又は名称】荒木 正任
(72)【発明者】
【氏名】荒木 正任
(57)【要約】

【課題】
製造可能な寸法の上限がなく、高い装置費用を必要とせずに良好な特性のw-BN基焼結体、または20GPa以上の硬度を有する材料を付加したw-BN基複合衝撃焼結体を得ること。
【解決手段】
ウルツ鉱型窒化ホウ素(以下w-BN)粒子及び硬質材単結晶粒子を含有する出発粒子集合体を8乃至100GPaの瞬間的超高圧に供することによって隣接粒子同士を接合せしめ、一体化した粒子の焼結体を回収するw-BN基焼結体の製造方法において、該粒子集合体がw-BNを組成比において10質量%以上(原料組成)含有し、かつ超高圧の負荷をw-BNと硬質材単結晶粒子との密な接触下で行う、w-BN基焼結体の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルツ鉱型窒化ホウ素(以下w-BN)粒子及び硬質材単結晶粒子を含有する出発粒子集合体を8乃至100GPaの瞬間的超高圧に供することによって隣接粒子同士を接合せしめ、一体化した粒子の焼結体を回収するw-BN基焼結体の製造方法において、該粒子集合体がw-BNを組成比において10質量%以上(原料組成)含有し、かつ超高圧の負荷をw-BNと硬質材単結晶粒子との密な接触下で行う、w-BN基焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記硬質材単結晶粒子がHv20GPa以上であり、かつ粒径がw-BN粒子の2倍以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記w-BNが低圧相窒化ホウ素(h-BN)の超高圧下での相転換により調製された平均粒子径5μm以下の微細粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記超高圧が爆薬の爆発に基づく請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記硬質材がダイヤモンド又は立方晶窒化ホウ素(c-BN)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】

前記硬質材が窒化ホウ素に対して化学活性を有する特定金属の窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物から選ばれる1乃至複数種である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記粒子集合体がさらに前記特定金属を焼結助剤として含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記特定金属がAl、Mg、Ti、Hf、Si、Ta、Moから選ばれる1乃至4種である、請求項1及び5乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記焼結体をさらに、非酸化雰囲気中で700乃至1700℃の温度に加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
三次元的に分布した整粒されたw-BN粒子を含有し、かつ隣接するw-BN粒子同士が直接互いに接合した部分を含有し全体として一体化されている、請求項1の方法によるw-BN基焼結体。
【請求項11】
前記隣接するw-BN粒子同士が他種の粒子を介して接合した部分をさらに含有する、請求項1の方法によるw-BN基焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、新規なウルツ鉱型窒化ホウ素を基体とする複合焼結体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウルツ鉱型窒化ホウ素(w-BN)粒子は、機械的性質に優れた微細な結晶粒子の集合体であり、工業的には低圧相h-BNに爆薬の爆発による衝撃圧力を負荷することによって製造される。衝撃圧力の負荷時間がμ秒オーダーと極端に短いことから、生成物は数十nm程度の微細な一次粒子が絡み合った200nm(0.2μm)以上の凝集粒子の形で得られている。
【0003】
w-BNの硬度は理論的解析によって114GPaとされ、これはダイヤモンドの硬度である90GPaより高く、同化合物の高圧相で高硬度物質とされる立方晶窒化ホウ素(以後c-BN)の約50GPaに比して著しく硬いことが知られている。また耐熱性については、ダイヤモンドが空気中で600℃位なのに対しc-BNについては1400℃でも低圧相のh-BNへの相転換はないとされている(非特許文献1及び2)。
【0004】
一方w-BNも、それ自体についてのデータは無いが、優れた硬度に加え、c-BNと同様に鉄族金属に対する反応性が低いので、単独で(特許文献1)或いはc-BNと混合して(特許文献2、3)焼結した焼結材が鋼などの切削、研削加工用の各種工具部材製作に好適な材料となっている。
【0005】
w-BNやc-BNまたはダイヤモンドの焼結体乃至塊体は、主に、これらの粉体又は粒子に金属等の焼結助剤を加えて高圧高温装置(以後高圧装置)に装填し、数GPa、1200℃以上の高圧、高温条件で処理することによって得られている。(特許文献1-3)
【0006】
上述のように高硬度材の焼結に用いられる高圧装置は、数GPaの超高圧と千数百℃の厳しい高圧と高温に耐える構造に設計されるため焼結体原料を収容する空間形状・容積が制約され、最大でも直径100mm、厚さ10mmの円板に限られている。またこのような装置は構造の特殊性により製作経費が嵩むうえ、構成部材に大きな応力が負荷されることにより寿命が短いため、焼結体製品も高価になるのが避けられない。
【0007】
従来、静的超高圧装置を用いないで、爆薬の爆発に伴う高い衝撃圧力によってw-BN、c-BN或いはダイヤモンド粒子を結合しようとする試みはあったが、工業生産に適した結果は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61-100302号公報
【特許文献2】特開昭63-266030号公報
【特許文献3】特開昭62-176769号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】DeVries, General Electric Report No. 72-CRD, 178, June (1972)
【非特許文献2】Z. Pan et al., Physical Review Letters 102 (5), 055503-1, (2009). The American Physical Society
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
w-BN は熱力学的には準安定相であり、高圧力下での安定相であるc-BN安定領域の圧力・温度領域においては1000℃付近からc-BNへの転移が認められるとされている。従って静的加圧によって得られるw-BN焼結体は常にw-BN/c-BN混晶構造を呈しており、w-BN本来の硬さを発揮する焼結体は得られていない。
【0011】
本発明は製造可能な寸法の上限がなく、高い装置費用を必要とせずに良好な特性のw-BN基焼結体、または20GPa以上の硬度を有する材料を付加したw-BN基複合衝撃焼結体を得ることを目的とする。
本発明はまた、実質的にw-BN100%からなる緻密な焼結体を得ることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は、ウルツ鉱型窒化ホウ素(以下w-BN)粒子及び硬質材単結晶粒子を含有する出発粒子集合体を8乃至100GPaの瞬間的超高圧に供することによって隣接粒子同士を接合せしめ、一体化した粒子の焼結体を回収するw-BN基焼結体の製造方法において、該粒子集合体がw-BNを組成比において10質量%以上(原料組成)含有し、かつ超高圧の負荷をw-BNと硬質材単結晶粒子との密な接触下で行う、w-BN基焼結体の製造方法にある。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、w-BN粉末混合物に、爆薬爆発の際の、通常の工業規模の静的加圧方法では達成不可能な規模の衝撃圧力を負荷することによってw-BN粉体を緻密化し、また併せてこの爆発下での加熱の瞬間性・短時間性によってc-BNへの相転移を抑え、実質w-BN100%の焼結体も得ることを可能とする。
【0014】
従来、静的超高圧装置に依らずに、爆薬の爆発に伴う高い衝撃圧力によってc-BNやダイヤモンドの高硬度粒子を結合しようとする試みはあったが、工業生産に適した結果は達成されていない。この理由は主に、例えばc-BN粒子のみで結合しようとしても、c-BNやその他の高硬度材料粒子の多くが多面体結晶であるため、隣接粒子同士がなじみ難く、全体として隙間なく結合することが出来なかったためと推測される。
【0015】
これに対して本発明においては焼結体の構成に高硬度材料としてw-BNを用いる。w-BNは約1μ秒の瞬間的高圧によって、六方晶系窒化ホウ素(以後h-BN)の格子間隔を狭めて相転移させて合成するため、個々の粒子は100nm(1×10-4m)以下の微細な結晶が集合してなる不定形の多結晶粒子で、従って単結晶粒子の場合に不可避的に存在する劈開性がない。
【0016】
反面、微細な結晶の集合体であるw-BNには、単結晶粒子の有する切り刃となる鋭い角や稜がなく、w-BN単独を衝撃加圧によって塊体とし切削工具とした場合、被削体の面を微細な仕上げ面とする加工には適しているが、深い切り込みによる高能率の切削加工には適さないことから、鋭い角や稜を有するw-BN以外の単結晶粒子と一体化した塊体として切削工具の製作に用いるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本発明の直接衝撃加圧法のための構成の一例を示す断面図である。
図2図2は本発明の間接衝撃加圧法のための構成の一例を示す断面図である。
【発明の実施形態】
【0018】
本発明において衝撃加圧処理に供する出発w-BN粒子は、w-BNのみで焼結しても劈開性を有さない特性を利用して、劈開性のある単結晶粒子であるダイヤモンド、c-BN、その他のヴィッカース硬度が20GPa以上の高硬度物質を結合して焼結体とするのに適している。その理由は、鋭い角や平坦な面が無く不定形であるため、単結晶粒子の間に入り込みやすく、単結晶粒子を劈開させることなく、全体を圧縮して高い密度とするのに適しているからである。
【0019】
衝撃圧力を用いて合成されるw-BN粒子は反応時間が短いことから、一次粒子の微細さに加えて結晶内部に多数の欠陥を有し、かつ表面が活性であることから、これらの諸要素が焼結に際して粒子間の結合を促進する方向に働くと推定される。凝集粒子径が小さい程全体としての表面積が大きく、焼結反応において活性であることから、本発明においては特に、平均の粒子径5μm以下の使用が好ましい。
【0020】
w-BNのみの焼結以外で、多結晶粒子であるw-BNによって劈開性のある単結晶粒子を結合して複合焼結体を作るにはw-BN粒子を単結晶粒子の間に介在させことが好ましく、かかる観点からw-BN粒子の平均粒径は組み合わせる単結晶粒子の平均粒径より小さいことが適切であり、特に1/2以下であることが好ましい。
【0021】
爆発圧力によって粒子集合体を焼結する機構における問題点は、瞬間的な加圧力で材料が強度に圧縮されることによって、材料全体の温度が急激に上昇し、圧縮圧力解放過程では温度が低下すること、不均等な圧縮が生じやすいなどの要因によって局部的な残留応力が発生することである。そのため、必要に応じて後工程として応力除去焼鈍を行うのが好ましい。
【0022】
焼鈍処理はまた、特に焼結助剤を加えて衝撃を負荷して得られた焼結体内における結合力の向上にも有効である。焼鈍条件は加圧焼結品の材料構成に基づいて設定するが、概して700℃以上1700℃以下の温度範囲に1時間以上24時間以下加熱することも、有効である。
【0023】
本発明において爆発圧力によってw-BN粒子やw-BN粒子と添加した単結晶粒子とを焼結する機構は、金属同士の接合において爆薬の爆発圧力を利用する冶金的手法、爆発圧接(爆発圧着、爆発溶接、爆着等)の場合と同様に、接合面問に化合物を生成することとなく接合されると考えられる。ただし、粒子問衝突によって発生するジェットに伴う溶融状態によって不可避的に生成される化合物もあり、それらによる接合も除外できない。生成焼結体の硬度低下がある程度許容できる場合は、焼結助剤としてAl、Si、Ti、Zr、Hf、Ta等の金属材料を単体または組み合わせて添加使用し、少ない爆薬の使用によって、より低い圧力負荷下で焼結することも可能である。
【0024】
上記の金属等を加えることによって、w-BNとの間に金属窒化物やホウ化物の形成を伴う接合や、金属間の親和力に起因する接合が生じる。それらの場合、w-BNのみの焼結条件より低い圧力と温度で焼結可能であり、得られる焼結体の硬度はw-BNのみからなる焼結体より低くなるが、小さな爆発力によって焼結体を作ることが出来るため、やや低い硬度の焼結体でも製品目的を達することが可能な場合、選択の範囲内にある。
【0025】
また、本発明によって応力除去焼鈍を実施する場合、前記焼結助剤を加えて焼結した材料については衝撃圧力による焼結処理中にw-BNと反応せず金属として残存すると推測されるが、この場合も焼鈍加熱によってw-BNとの反応で化合物を作りつつ安定化することが期待できる。また窒化ホウ素に対して化学活性を有する特定種金属の炭化物、窒化物、ホウ化物、酸化物のセラミックの適量添加による焼結体の安定化も期待できる。
【0026】
本発明における応力除去焼鈍操作は常圧下の非酸化雰囲気中で実施することができるが、加圧下で実施すれば緻密化の促進にとってより有効である。加圧方法としてはホットプレス、HIP、超高圧など各種の手段を用いることができる。
【0027】
本発明において、被処理材への圧力負荷は爆薬爆発の際に発生する衝撃加圧力を利用する。本発明によればかかる手法を用いることにより、爆発を可能とする爆薬量についての環境条件の制限はあるが、原理的に寸法上の制限はなく、静的超高圧装置を使用しないので、かかる装置の使用に起因する製造可能な寸法の制限や高い製造原価等の諸問題も回避できる。
【0028】
本発明におけるw-BN、またはw-BNと焼結助剤との混合物に加わる衝撃圧力の算出には、まず爆薬の爆発圧力を求め、その圧力によって被衝撃体の容器に加わる圧力値を算出し、容器の圧力が内容物のw-BN、またはw-BNと焼結助剤との混合物に伝える圧力を求める。
本発明では、爆薬による爆発圧力を金属管に封入した材料に伝える方法として、以下に詳述する直接法及び間接法が利用可能である。
【0029】
直接法は、焼結しようとする材料を収納した金属管の周囲に設置した爆薬を爆発させて被衝撃材料に圧力を伝える方法、一方間接法は、焼結しようとする被衝撃材料を収納した金属管の外径より大きい内径を有する金属管(飛翔管)を同心円状に配置し、その外側の周囲に設置した爆薬を爆発させて飛翔管を求心的に高速で材料収納管に衝突させて圧力を伝える方法である。
【0030】
以下、添付の図面を参照して本発明を詳述する。
直接法の部品構成の概略を示す図1において、例えば鋼製の被処理材収納管1の一端の開口を金属栓2で密閉し、w-BN又はw-BNと焼結助剤との粉末混合物からなる出発物質3を充填し、もう一方の端部に同様の金属栓4を詰めて塞ぐ。全体をより大径の有底鋼製の爆薬収納鋼管5内に共軸的に配置し周囲に爆薬6を充填し任意材質製の端板7で密閉、電気雷管8を取り付ける。
【0031】
雷管8で爆薬6が起爆されると、起爆された側から反対側に向かって爆轟波が爆薬特有の高速度で進行し、発生した爆発圧力によって鋼管1は中心軸に向かって高速で圧縮され、同時に収納されているw-BNを含む出発物質が圧縮荷重によって一体化される。
【0032】
一方、間接法においては、焼結しようとする被衝撃材料を収納した金属管の外径より大きい内径を有する金属管(飛翔管)を同心円状に配置し、その外側の周囲に設置した爆薬を爆発させて飛翔管を求心的に高速で材料収納管に衝突させて圧力を伝える構成を取る。図2では要素1~8は図1と同様に構成されるが、被処理材収納鋼管1の外方周囲に、飛翔させて鋼管1に衝突させるための金属円筒11が配置されている。鋼管1と金属円筒11との間は空間12となっている。
【0033】
爆薬6が雷管8によって起爆されると、起爆された側から反対側に向かって爆轟波が爆薬特有の速度で進行し、発生した爆発圧力によって、飛翔用金属円筒11が高速で収縮、さらに空間12を通過して被処理材収納管1の表面を衝撃圧縮し、これによって鋼管内のw-BN又はw-BNと単結晶粒子及び/またはそれらと焼結助剤との粉末混合物が圧縮・一体化される。
【0034】
以下に直接法及び間接法において発生する圧力を計算する。なお本発明における特別な例として、平面状の材料に衝撃圧を負荷する方法もあるが、その場合に負荷される圧力も以下の記載を参照して同様に求めることが出来る。
【0035】
直接法と間接法とに共通して必要な爆薬の爆発圧力Pは、爆薬の初期密度をρ0、爆発速度をDとすると、概算値として次式で得られることが知られている。
P = ρ02/4 ..... 1)
P:圧力 N/m2、ρ0:密度 kg/m3、D:爆発速度 m/s
密度 1.1×103kg/m3、爆発速度 2.8×103m/sの爆薬が発生する圧力Pは、
P = ρ02/4 = 1.1×103kg/m3×(2.8×103m/s)2/4 = 2.156×109kgm/m2s2

= 2.156GPa
得られた圧力は概算値であるため、四捨五入して2.2GPaとしてよい。
【0036】
直接法、間接法の何れについても、爆薬に接した金属管に爆発エネルギーの60%が伝達されると見做され、その値をガーネーエネルギー(Gurney energy)と称している(US Pat. 3,667,911)。また、衝撃を受ける材料を円筒内に収納する場合、円筒が衝撃で変形することによって費消されるエネルギーは、負荷されるエネルギーのうち僅かであり、無視して差し支えない。
【0037】
直接法の場合、材料を収納する金属管(以下材料収納管)は、爆発衝撃を受けると管中心軸に向かって収縮して収納された材料を圧縮する。厳密には、材料収納管は材料に接しているので、空間を飛翔することはないが、爆発圧力を受けた金属が加速される速度を求めることが出来るので、便法として材料収納管が微少距離を飛翔して材料に衝突するとして計算する。
【0038】
材料収納管を通して衝撃圧を受けたw-BN粒子の挙動を知るには、まずw-BNの衝撃特性を確定する必要がある。w-BNの衝撃特性は既に発表された資料からは得られないので、同じく高圧相の窒化ホウ素である立方晶系窒化ホウ素(以後c-BN)のものをもって代用する。
高圧力下の真密度を有するc-BNの各圧力下における比容積Vは、以下の手順によって得られる。
【0039】
衝撃下の材料の衝撃波速度Us、音速C0、粒子速度Up、係数Sの関係式として、
s = C0 + SUp ..... 2)
P = ρ0sp = ρ0(C0p + SUp 2) ..... 3)
から、
p = [{(ρ00)2+4ρ0SP}1/2]/2ρ0S ..... 4)
c-BNでは、
0 = 1.19×104m/s、S = 1.11、ρ0 = 3.48×103kg/m3
であり[4]、よって式 4)は、
p = [{(3.48×103 × 1.19×104)2 + 4 × 3.48×103 × 1.1 × P}1/2
となり、比容積Vは、次式で与えられる。
V = V0(Us - Up)/Us ..... 5)
[4]: N. Kawai et al., Shock compression of cubic boron nitride, J. Appl. Phys. 106, 033508 (2009)
【0040】
真密度のw-BNが各圧力でとる値(c-BNの値で代用)は式3)、4)及び5)で得られるが、衝撃を受ける材料は、粉体を充填したものであり密度は低く、真密度材料の高圧下における挙動とは異なり、空隙のある材料の衝撃下の挙動を次式で求めなければならない[5]
P = PH[1-ργ(V0-V)/2]/[1- ργ(V0* - V)/2] ..... 6)
P:空隙のある材料の圧力 PH:真密度の材料の圧力 ργ:式7)で定義
0:真密度の材料の初期比容積 V0* :空隙のある材料の初期比容積
[5]: R. G. McQueen 他 (1970) "The equation of solids from shock wave studies" in High-Velocity Impact Phenomena (ed. R. Kinslow), Academic Press, New York, pp.293-417
【0041】
式6)の ργは式7)で定義され、γ或いはγ0はグリュナイゼン係数と称し、式7)で定義される。
ρ0γ0 = ργ ..... 7)
ρ0:材料の初期密度 ρ:任意の圧力での密度
γ0:材料の初期密度でのグリュナイゼン係数
γ:密度ρでのグリュナイゼン係数
式の意味するところは、圧力を受けて材料密度が変化しても、密度とグリュナイゼン係数との積として得られる値は変わらないとするものである。グリュナイゼン係数の初期値γ0は、物理的考察から次式で定義される。
【0042】
γ0 = 2S-1 ..... 8)
式8)のSは式2)のSである。よってc-BNのγ0は、
γ0 = 2S - 1 = 2 × 1.11 - 1 = 1.22
である。
【0043】
式6)によって、空隙のあるc-BNに衝撃を負荷した場合の各数値を求める場合、真密度に対する充填密度の比率を充填率とし、本発明では実績から75%とする。
0 = 1/ρ0 = 1/3480 = 0.2874 ×10-4 m3/kg
0* = 1/(ρ0 × 0.75) = 1/(3480×0.75) = 1/2610
= 0.3831×10-3m3/kg
【0044】
空隙のあるc-BNのP-V関係が得られたら、式9)と10)とによって、各圧力での粒子速度Up1と衝撃波速度Us1とを得ることが出来る。
p = [(P - P0)(V0 - V)] 1/2 ..... 9)
s = V0[(P - P0)/(V0 - V)]1/2 ..... 10)
表1は、式2)~5)によって真密度のc-BNの PH、Up.Us、Vを求め、その値から式6)~10)を用いて空隙のあるc-BNのP、Up1.Us1関係を得た結果を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
真密度c-BNの高圧データ PH、Up、Us、V
空隙のあるc-BNの高圧データP、Up1、Us1、V(真密度c-BNの高圧データと共通)
表1の空隙のあるc-BNのUp1とUs1の二次元相関関係を分析したところ、信頼度 r = 0.994で
s1 = 1446.5 + 2.504Up ..... 11)
の関係が得られた。
【0047】
円筒形の爆薬に内接した金属管は、その中心軸に向かって収縮し、直接法の場合は金属管内に収納した材料に直接的に高圧を負荷し、間接法の場合は空間を飛翔して、材料を収納した金属管に衝突する。直接法と間接法の何れの場合についても、爆発によって発生し、中心軸に向かったエネルギーの殆どが収納した材料に伝達されると考えて良く、間接法の場合爆発圧力を受けて飛翔する金属管の速度は次式で計算できる。
pm=(2Eg)1/2[{(1+2Md/Mx)3+1}/{6(1+Md/Mx)}+Md/Mx]-1/2 ... 12)、
但し
pm:系によって得られる最高の飛翔管速度
g:爆薬の爆発エネルギー × 0.6
d:飛翔管単位面積当たり爆薬量 kg/m2
x:飛翔管単位面積当たり質量 kg/m2
YPx/(Mdpm 2) = -ln(1 - Vp/Vpm)-Vp/Vpm .....13)
Y :飛翔管が材料収納管に衝突するまでの飛翔距離 m
x:爆薬の爆発圧力 Pa
p:飛翔管が飛翔距離Yに達した時の速度 m/s
【0048】
例えば、0035で説明した密度 1.1×103kg/m3、爆発速度2.8×103m/sの爆薬を、SGP150A鋼製爆薬収納管 (外径165.2mm×内径155.2mm)とSTPG370 125A鋼製飛翔管 (外径139.8mm×内径126.6mm)の間に充填し、STPG370 80A鋼製材料収納管(外径89.1mm×内径78.1mm)に衝突させるとする。
爆薬の爆発エネルギーEを4×103kJ/kgとすると、ガーネーエネルギーEgは、
Eg = E × 0.6 = 2.4×103kJ/kg
飛翔管単位面積当たり爆薬量Mxと飛翔管単位面積当たり質量Mdは、
x = 24.9kg/m2;
d = 54.5kg/m2
であり、式12)によって、
pm = 680.4m/s
が得られる。
【0049】
飛翔管の飛翔距離は、

(飛翔管の内径 - 材料収納管の外径)/2 = (0.1266 - 0.0891)/2 = 0.01875
よって13)式の左辺は、
YPx/(Mdpm 2) = 0.01875 × 2.2×109/(54.5 × 680.42) = 1.6349
その値と等しくなる右辺を求めると、
V = 627.5m/s
で左辺と釣り合う。よって飛翔管は627.5m/sで材料収納管に衝突すると考えてよい。
【0050】
飛翔管は材料収納管に衝突する際には収縮して肉厚となり、材料収納管表面積当たりの衝突質量は先に求めたMdより大きくなる。外径139.8mm×内径126.6mmの飛翔管は、材料収納管に衝突する時には、内径が材料収納管の外径89.1mmと等しくなり、その際のMdをMd1とすると、
d1 = 77.4kg/m2
となる。
【0051】
運動する物体のエネルギーは、
E = MV2/2 ..... 14)
で表され、この場合、
E = 77.4kg/m2 × (627.5m/s)2/2 = 15.2MJ/m2
となる。飛翔管は収縮する過程で変形によるエネルギーを費消するが、その量は全エネルギーの僅かな部分で、無視して差し支えない。また、材料収納管も衝撃を受けて変形するが、これも同様に無視してよい。従って飛翔管の運動エネルギーの全てが材料収納管を通って材料に伝えられるとして扱う。
【0052】
材料収納管の表面積1m2あたりの充填率75%w-BNの質量は45.68kgで、飛翔管より与えられるエネルギー、15.2MJ/m2を受け取ると、w-BNの受け取る1kg当たりエネルギーは、
1 = 332.7kJ/kg
である。w-BNと同様な衝撃特性を有すると推定されるc-BNの充填率75%での衝撃特性、
s1 = 1446.5 + 2.504Up ..... 11)
から、Us1を爆発速度と等しい 2800m/sとすると、
p = 550.5m/s
となり、 式2)と3)から、
P = 4.06GPa
0 = 0.6061×10-3 m3/kg
V = 0.4891×10-3
が得られ、5) より
E = (P+P0)(V0-V)/2 ..... 15)
= 231kJ/kg
のエネルギーによって速度2.8×103m/sの衝撃波が材料に発生することとなる。
【0053】
この値は、飛翔管によって投入されるエネルギー332.7kJ/kgが発生する計算による衝撃波速度Us =3409m/sより少ない。よってこの場合、飛翔管の衝突点に位置する材料の充填率75%のw-BNでは、材料収納管中心軸上に、Us=3409m/s、粒子速度Up=816m/sに相当する最高圧力P=7.266GPaを中心として爆発進行方向の前方P=4.06GPaにまで低下した圧力点で、爆発速度と等しい速度2.8×103m/sの衝撃波面を形成する。
【0054】

具体例として、図1に示す材料収納管に直接爆薬を装着する直接法を説明する。
(1) 被衝撃材料:w-BN 100質量%、充填密度理論密度の50%
(2) 爆薬収納鋼管:SPG65A、外径76.3mm、内径69.6mm、長さ300mm
(3) 充填爆薬:外径69.6mm、内径27.2mm、装填密度1450kg/m3、長さ300mm
爆発速度 5×103m/s、爆発エネルギー 5×103KJ
(4) 被衝撃材料収納管: 炭素鋼STPG370 SCH40 20A、外径27.2mm、内径21.4mm、
長さ250mm
(5) 材料を封止する金属栓 : 外径21.4mm、長さ25mm
【0055】
以上により、材料収納管単位面積当たり爆薬量Mxと飛翔管単位面積当たり質量Mdは、
x = 55.44kg/m2、Md = 20.51kg/m2
で、式12)によって、Vpmは、
pm = 230m/s
となる。0037に従って材料収納管は1mmの微小距離を飛翔して材料に衝突するとみなすと、式13)によって材料収納管は、
p = 816m/s
の速度で材料に衝突することになる。
【0056】
材料収納管の運動エネルギーは、式14)により、
E = 20.51kg/m2 × (2300m/s)2/2 = 54.2MJ/m2
であり、その全部が材料収納管内の材料に伝達されるとする。材料収納管の表面積1m2 当たりの材料量Msは、
s = 17.5kg/m2
になる。Msに材料収納管の運動エネルギーEが伝達されるとすると、材料質量単位当たりのエネルギーEsは、
s = E/Es = 54.2MJ/m2/17.5kg/m2 = 3.10MJ/kg
である。
【0057】
衝撃を負荷される材料のw-BN100質量%、充填密度が理論密度の75%となる衝撃条件を解析するに当たり、w-BN密度、硬度共にw-BN及びc-BNと極めて近いため、先に求めた充填率50%のc-BNが示す高圧力での衝撃特性である、
s1 = 1.4465×103 + 2.504Up ..... 11)
を流用する。ここで仮に、衝撃を受けたことによって、材料内に爆薬の爆発速度である
5×103sの衝撃波が発生したとすると、それによって材料に発生する圧力は、3)と11)
とから、18.5GPaと見積もられ、導入されたエネルギーEs1 は式15)から、
s1 = 1.0MJ/kg
となって、導入されるエネルギーEsの3.10MJ/kgより小さいことになる。
【0058】
導入されるエネルギーEsが3.10MJ/kgである場合の衝撃波速度Usと粒子速度Up並びに相当する圧力Pは、
s = 7435Es
p = 2490Es
P = 48.5GPa
であり、材料に発生する衝撃波速度Usは爆発速度5×103m/sより十分に早く、爆発衝撃点至近の最高圧力点では、48.5GPaに達し、爆発衝撃点より前に衝撃波が先行して、圧力が減衰したところで、爆発速度と等しい速度の衝撃波となる。
以下実施例によって本発明の実施態様を説明する。
【実施例0059】
図2の構成を用いて間接衝撃加圧により平均粒径10μm 45%、平均粒径3μm 40%、粒径1μm 15%からなるw-BN粉体を焼結して焼結体とした。外径27.2mm、内径21.4mm、長さ300mmのSTPG37015A鋼から成る材料収納管に150gの上記粒度分布のw-BN粉を加圧充填、管内を真空引きして1Torr以下として封じ、衝撃処理に供した。
【0060】
爆薬管はSGP 90A鋼、外径101.6mm、内径93.2mm、長さ400mm、飛翔管はSTPG370 50A鋼, 外径60.5mm、内径52.7mm、長さ400mmとし、ANFO爆薬 1.9kgを充填した。この構成による衝撃加圧力は約35GPaと見積もった。
【0061】
w-BNは強固に焼結された直径約15mmの丸棒状を呈していた。これをダイヤモンドブレードを用いて切断し、爆発衝撃のかかりはじめの部位、管の中央部、管の終端部の3カ所から、長さ15mmの試料片を取り出し、密度を測定し、上記順序で3.43g/cm3、3.44g/cm3、3.46g/cm3の値を得た。これらの値は、c-BNの真密度を3.48g/cm3とした場合、それぞれ98.6%、98.9%、99.4%に相当する。
これらの各試料について微小ビッカース硬度を測定したところ、いずれも5点の平均値で56GPaから58GPaの範囲で、サンプル採取位置による差は認められなかった。
【実施例0062】
実施例1において衝撃負荷した材料を高圧装置に装入し、2GPa-1350℃に昇圧・昇温して15分間保持してから、常圧、常温に戻して回収した。回収した試料の密度は、アルキメデス法での測定により、衝撃位置に関わらず3.47g/cm3~3.48g/cm3で、c-BNの理論密度(非特許文献1)とほぼ等しかった。
ビッカース硬度も衝撃位置に依らず78GPa~81GPaで、高圧装置による処理以前から格段に上昇していて、処理によって構成粒子の結合が更に緊密化したためと考えられる。
X線回折測定の結果は、w-BN単相であった。
【実施例0063】
w-BN粉に、表2に示す金属、或いはダイヤモンド、c-BN、金属炭化物、酸化物又は窒化物を混合し表示した組成の、10種類の試料を調製した。それぞれの試料を外径27.2mm、内径21.4mm、長さ300mmのSTPG37015A鋼から成る材料収納管に充填し、管内を真空引きして1Torr以下として封じた。各試料を実施例1に示す構成を用いて間接加圧により衝撃加圧処理に供した。到達圧力及び回収物のX線回折により同定された生成物を同表に一緒に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2において、
(1) 各成分の組成比は質量%による値である。
(2) 粒子の粒度は平均値(μm)、またw-BN以外の単結晶粒子は、1μm以上の単位単結晶からなる複合結晶を含む。
(3) 硬度は焼結体のヴィッカース硬度GPa(Hv)による。
(4) 硬度と負荷圧力の数値は四捨五入した数値である。
(5) Al、Mg、Ti、Hf、Si、Ta、Moを添加した焼結品の硬度は、衝撃後窒素雰囲気中で1400℃で1時間加熱した後の値。
【産業上の利用可能性】
【0066】
焼結されたw-BNは超硬質な素材として研磨工具部材や耐摩耗部材として多様な分野で多くの用途が見込まれる。
【符号の説明】
【0067】
1 被処理材収納管 2 金属栓
3 出発物質 4 金属栓
5 爆薬収納鋼管 6 爆薬
7 金属端板 8 電気雷管
11 金属円筒 12 空間



図1
図2