(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154198
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】磁気粘性流体
(51)【国際特許分類】
H01F 1/44 20060101AFI20241023BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20241023BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
H01F1/44 120
H01F1/44 170
H01F1/147 166
H01F1/153 108
H01F1/153 133
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067905
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】矢野 健
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA02
5E041AA19
5E041BD03
5E041BD07
5E041BD12
5E041CA01
5E041HB15
5E041NN01
5E041NN13
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】磁性金属粒子の分散安定性が高く、かつ、粘度の経時変化が小さい磁気粘性流体を提供すること。
【解決手段】磁性金属粒子を含む分散質と、液状の分散媒と、を有し、前記分散媒の主成分の沸点は、100℃以上235℃以下であり、前記磁性金属粒子のHSP座標と、前記分散媒の前記主成分のHSP座標と、の座標間距離が13以下であることを特徴とする磁気粘性流体。また、前記磁性金属粒子の平均粒径が0.5μm以上15.0μm以下であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属粒子を含む分散質と、
液状の分散媒と、
を有し、
前記分散媒の主成分の沸点は、100℃以上235℃以下であり、
前記磁性金属粒子のHSP座標と、前記分散媒の前記主成分のHSP座標と、の座標間距離が13以下であることを特徴とする磁気粘性流体。
【請求項2】
前記磁性金属粒子の平均粒径が0.5μm以上15.0μm以下である請求項1に記載の磁気粘性流体。
【請求項3】
前記分散媒の前記主成分の沸点は、160℃以上230℃以下であり、
前記座標間距離は、2以上12以下である請求項1または2に記載の磁気粘性流体。
【請求項4】
前記分散媒の前記主成分は、極性溶媒である請求項1または2に記載の磁気粘性流体。
【請求項5】
前記磁性金属粒子は、Fe基金属材料で構成されており、
前記Fe基金属材料は、
Feの含有率が最も高く、
Siの含有率が1.0原子%以上20.0原子%以下である請求項1または2に記載の磁気粘性流体。
【請求項6】
前記Fe基金属材料は、アモルファス金属材料または微結晶金属材料である請求項5に記載の磁気粘性流体。
【請求項7】
前記磁性金属粒子の飽和磁化は、50emu/g以上250emu/g以下である請求項1または2に記載の磁気粘性流体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘性流体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気粘性流体は、例えば分散媒に磁性金属粒子を分散させてなる流体である。磁気粘性流体に磁場を印加すると、磁性金属粒子が磁化されて磁場方向に整列する。これにより、鎖状のクラスターが形成され、流体の粘性が変化する。そこで、粘性の変化を利用して、制振装置や制動装置等の利用が検討されている。
【0003】
これらの装置では、例えば磁場の印加と除去を繰り返すことにより、磁気粘性流体の粘性を調整し、制振、制動等の各種機能を実現するようになっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、Feを含む合金で構成された磁性金属粒子およびフュームドシリカの粒子が、ポリαオレフィンを含む液体中に分散してなる磁気粘性流体が開示されている。また、磁性金属粒子は、2モード分布を持つ粒子であることが開示されている。2モード分布とは、直径の分布に2つの異なる極大を持っていることをいう。2モード分布を構成する小型粒子と大型粒子の画分を制御することにより、磁気粘性流体の降伏応力を広範に制御できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の磁気粘性流体では、磁性金属粒子と分散媒との組み合わせについて、特に考慮されていない。このため、特許文献1に記載の磁気粘性流体は、磁性金属粒子の分散安定性という観点で改善の余地がある。また、磁気粘性流体では、保管の過程で粘度が変化することがある。そこで、磁性金属粒子の分散安定性が高く、かつ、粘度の経時変化が小さい磁気粘性流体の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の適用例に係る磁気粘性流体は、
磁性金属粒子を含む分散質と、
液状の分散媒と、
を有し、
前記分散媒の主成分の沸点は、100℃以上235℃以下であり、
前記磁性金属粒子のHSP座標と、前記分散媒の前記主成分のHSP座標と、の座標間距離が13以下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る磁気粘性流体を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す磁性金属粒子を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の磁気粘性流体を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
1.磁気粘性流体
まず、実施形態に係る磁気粘性流体について説明する。
【0010】
図1は、実施形態に係る磁気粘性流体1を示す模式図である。
図1に示す磁気粘性流体1は、分散質5と、分散媒4と、を有する。分散質5は、磁性金属粒子2および添加剤3を含み、液状の分散媒4に分散している。
【0011】
このような磁気粘性流体1は、磁場が印加されていないときには液体のように振る舞い、磁場が印加されたときには半固体のように振る舞う流体である。このような粘性の変化を利用することにより、磁気粘性流体1の応力を制御することができる。これにより、応力の変化を利用して様々な機能を発揮する各種装置等に磁気粘性流体1を用いることができる。
【0012】
1.1.磁気粘性流体の特性
1.1.1.分散媒の沸点
本実施形態に係る磁気粘性流体1では、分散媒4の主成分の沸点が100℃以上235℃以下であり、好ましくは140℃以上230℃以下であり、より好ましくは160℃以上220℃以下である。このような構成によれば、分散媒4の主成分の沸点が最適化されているため、分散媒4の揮発量が多くなったり、粘度が高くなりすぎたりするのを抑制することができる。これにより、分散媒4に対する磁性金属粒子2の分散安定性を高めることができる。
【0013】
分散媒4の主成分とは、分散媒4が単一の液体成分で構成されている場合は、その液体成分を指す。また、分散媒4が複数の液体成分で構成されている場合、分散媒4の主成分とは、最も体積比率が大きい液体成分を指す。
【0014】
分散媒4の主成分の沸点が前記下限値を下回ると、分散媒4が揮発しやすくなるため、それに伴って分散媒4に分散する磁性金属粒子2の分散安定性が低下する。一方、分散媒4の主成分の沸点が前記上限値を上回ると、分散媒4の粘度が高くなるため、磁性金属粒子2の分散安定性が低下する。
【0015】
なお、分散媒4の主成分の沸点は、常圧での沸点である。主成分は、分散媒4に対する成分分析によって特定可能である。主成分を構成する溶剤の種類が分かれば、その沸点を、主成分の沸点とすればよい。
【0016】
1.1.2.磁性金属粒子と分散媒とのHSP座標間距離
本実施形態に係る磁気粘性流体1では、磁性金属粒子2のHSP座標と、分散媒4の主成分のHSP座標と、の座標間距離Raが13以下であり、好ましくは2以上12以下であり、より好ましくは4以上11以下である。HSP座標は、各物質の溶解度パラメーターSP値を分散力項(δD)、極性項(δP)、水素結合項(δH)の3成分に分割し、各項の値を三次元空間の座標として捉えたものであり、ハンセン溶解度パラメーターとも呼ばれる。
【0017】
磁性金属粒子2のHSP座標を(δD1、δP1、δH1)とし、分散媒4の主成分のHSP座標を(δD2、δP2、δH2)とする。このとき、磁性金属粒子2のHSP座標と、分散媒4の主成分のHSP座標と、の座標間距離Raは、下記式(1)で求められる。
【0018】
Ra2=4×(δD2-δD1)2+(δP2-δP1)2+(δH2-δH1)2 (1)
【0019】
磁性金属粒子2のHSP座標と、分散媒4の主成分のHSP座標と、の座標間距離Raが前記範囲内であれば、分散媒4に対する磁性金属粒子2の親和性が高くなる。このため、分散媒4に対する磁性金属粒子2の分散安定性を高めることができる。これにより、磁場を印加していないときの磁気粘性流体1のせん断応力を十分に小さくすることができる。その結果、励磁の有無によるせん断応力の変化幅が十分に大きい磁気粘性流体1を実現することができる。
【0020】
なお、座標間距離Raが前記上限値を上回ると、分散媒4に対する磁性金属粒子2の親和性が低下する。このため、磁気粘性流体1における磁性金属粒子2の分散安定性が低下する。一方、座標間距離Raが前記下限値を下回ってもよいが、その場合、分散媒4に用いられる物質の選択肢が狭まるため、分散媒4の入手が難しくなったり、高コスト化を招いたりするおそれがある。
【0021】
ハンセン溶解度パラメーターの定義および計算方法については、「https://www.pirika.com/HSP/JP/Examples/Docs/Material.html」に記載されている方法が用いられる。また、ハンセン溶解度パラメーターについては、Charles M. Hansen著、「Hansen Solubility Parameters: A User’s Handbook」(CRCプレス、2007年)にも記載されている。
【0022】
ハンセン溶解度パラメーターは、各種のデータベースから取得することができる他、各物質の化学構造をコンピューターソフトウェアに入力することで計算することもできる。ソフトウェアとしては、例えば、HSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)4th Edition(4.1.07)が挙げられる。
【0023】
1.2.磁気粘性流体の構成
前述したように、磁気粘性流体1は、磁性金属粒子2、添加剤3および分散媒4を有する。
【0024】
1.2.1.磁性金属粒子の構成
磁性金属粒子2の構成材料としては、例えば、Fe基金属材料、Ni基金属材料、Co基金属材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の複合材料が用いられる。また、これらの金属系磁性材料と酸化物系磁性材料との複合材料であってもよい。このうち、磁性金属粒子2の構成材料には、飽和磁化が高いという観点で、Fe基金属材料が好ましく用いられる。
【0025】
Fe基金属材料は、Feを主成分とする金属材料である。主成分とは、Fe基金属材料において全元素の含有率に比べて、Feの含有率が最も高いことをいう。そして、Feの含有率は、原子数比で50%以上であることが好ましい。このようなFe基金属材料は、フェライト等に比べて飽和磁化が高く、靭性や強度も高い。このため、Fe基金属材料は、磁性金属粒子2の構成材料として有用である。
【0026】
Fe基金属材料は、Feの他に、NiまたはCoのように単独で強磁性を示す元素を含んでいてもよく、目標とする特性に応じて、Cr、Nb、Cu、Al、Mn、Mo、Si、Sn、B、C、P、TiおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。また、Fe基金属材料には、実施形態の効果を損なわない範囲で、不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0027】
不可避的不純物とは、原料や製造時に意図せずに混入する不純物である。不可避的不純物としては、例えば、O、N、S、Na、Mg、K等が挙げられる。
【0028】
このようなFe基金属材料としては、特に限定されないが、例えば、純鉄、カルボニル鉄の他、センダストのようなFe-Si-Al系合金、Fe-Ni系、Fe-Co系、Fe-Ni-Co系、Fe-Si-B系、Fe-Si-Cr-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系、Fe-Cr系、Fe-Cr-Al系のようなFe基合金材料等が挙げられる。
【0029】
また、磁性金属粒子2の構成材料は、アモルファス(非晶質)金属材料であってもよいし、結晶金属材料であってもよいし、微結晶(ナノ結晶)金属材料であってもよい。このうち、アモルファス金属材料または微結晶金属材料が好ましく用いられる。なお、微結晶金属材料とは結晶粒径が100nm以下の微結晶(ナノ結晶)が存在する金属材料のことをいう。これらは、分散質5の保磁力を十分低くして、磁気粘性流体1における磁性金属粒子2の分散安定性を高めるのに寄与する。また、これらは、例えば金属酸化物等に比べて靭性および強度が高いため、磁性金属粒子2の摩耗や欠損等を効果的に抑制することができる。その結果、粘度変化幅が特に安定している磁気粘性流体1を実現することができる。
【0030】
アモルファス金属材料としては、例えば、Fe-Si-B系、Fe-Si-Cr-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-B-C系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Zr-B系のような2元系または多元系のFe基アモルファス合金、Ni-Si-B系、Ni-P-B系のようなNi基アモルファス合金、Co-Si-B系のようなCo基アモルファス合金等が挙げられる。
【0031】
微結晶金属材料としては、例えば、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系、Fe-Hf-B系、Fe-Nb-B系、Fe-Zr-B-Co系、Fe-Hf-B-Co系、Fe-Nb-B-Co系、Fe-Si-B-P-Cu系のようなFe基ナノ結晶合金等が挙げられる。
【0032】
特に好ましいFe基金属材料は、Feを主成分とし、Si、Cr、B、C、Ni、MnおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種と、を含む合金材料である。このようなFe基金属材料は、飽和磁化が高く、かつ、耐食性が高い。このため、かかるFe基合金材料を用いることで、耐食性が高く、かつ、励磁せん断応力が高い磁気粘性流体1を製造可能な磁性金属粒子2が得られる。
【0033】
Fe基金属材料におけるSi(ケイ素)の含有率は、好ましくは1.0原子%以上20.0原子%以下であり、より好ましくは1.5原子%以上13.0原子%以下であり、さらに好ましくは2.0原子%以上11.0原子%以下である。このような合金は、透磁率が高いため、飽和磁化が高くなる傾向がある。これにより、励磁せん断応力および磁場応答性が特に高い磁気粘性流体1を製造可能な磁性金属粒子2が得られる。
【0034】
Fe基金属材料におけるB(ホウ素)の含有率は、好ましくは5.0原子%以上16.0原子%以下であり、より好ましくは9.0原子%以上14.0原子%以下である。Bは、アモルファス化を促進させる元素であり、磁性金属粒子2に安定した非晶質組織または微結晶組織を形成することに寄与する。
【0035】
Fe基金属材料におけるC(炭素)の含有率は、好ましくは0.5原子%以上5.0原子%以下であり、より好ましくは1.0原子%以上3.0原子%以下である。Cは、アモルファス化を促進させる元素であり、磁性金属粒子2に安定した非晶質組織または微結晶組織を形成することに寄与する。
【0036】
Fe基金属材料におけるCr(クロム)の含有率は、好ましくは1.0原子%以上20.0原子%以下であり、より好ましくは1.5原子%以上5.0原子%以下である。Crの含有率を前記範囲内にすることで、磁性金属粒子2の耐食性を高めることができる。
【0037】
なお、不純物の含有率は、合計で1.0原子%以下であることが好ましい。この程度であれば、不純物が含有していても、磁性金属粒子2の効果が損なわれない。
【0038】
磁性金属粒子2の構成元素および組成は、JIS G 1258:2014に規定されたICP発光分析法、JIS G 1253:2002に規定されたスパーク発光分析法などにより特定することができる。また、磁性金属粒子2が被覆膜等で被覆されている場合には、化学的または物理的手法でそれらを除去した後、上記手法により測定することができる。また、磁性金属粒子2を切断した上で、断面をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)、EDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)等の分析装置にて分析してもよい。
【0039】
磁性金属粒子2は、いかなる方法で製造された粒子であってもよい。製造方法の例としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等の各種アトマイズ法の他、粉砕法、カルボニル法等が挙げられる。このうち、アトマイズ法によれば、粒子形状がより真球に近い磁性金属粒子2が得られる。このような磁性金属粒子2は、より凝集しにくいものとなる。
【0040】
図2は、
図1に示す磁性金属粒子2を模式的に示す断面図である。
図2に示す磁性金属粒子2は、粒子本体21と、その表面に設けられた被覆膜22と、を有する。なお、被覆膜22は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。また、被覆膜22は、粒子本体21の表面全体を被覆していることが好ましいが、表面の一部のみを被覆していてもよい。
【0041】
被覆膜22の構成材料としては、例えば、無機酸化物のような無機化合物、カップリング剤、界面活性剤またはポリマー重合膜に由来する有機化合物等が挙げられる。このうち、無機化合物を用いることにより、磁性金属粒子2の耐吸湿性および防錆性を高めることができる。また、有機化合物を用いることにより、磁性金属粒子2の分散媒4に対する分散安定性をより高めることができる。
【0042】
無機化合物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化クロム、酸化マンガン、酸化スズ、酸化亜鉛等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物もしくは複合物等が挙げられる。このうち、化学的安定性等の観点で酸化ケイ素が好ましく用いられる。酸化ケイ素は、組成式SiOx(0<x≦2)で表される酸化物であるが、好ましくはSiO2である。
【0043】
無機化合物で構成される被覆膜22の形成方法としては、例えば、ゾルゲル法のような湿式での形成方法、気相成膜法のような乾式での形成方法が挙げられる。このうち、ゾルゲル法の一種であるストーバー法や、ALD(Atomic Layer Deposition)法を、好ましく用いることができる。ストーバー法は、金属アルコキシドの加水分解により、単分散粒子を形成する手法である。例えば、被覆膜22を酸化ケイ素で形成する場合は、シリコンアルコキシドの加水分解反応により、酸化ケイ素を生成することができる。なお、被覆膜22の形成前には、その下地である粒子本体21の表面に対し、水や有機溶剤を用いた洗浄処理を施すようにしてもよい。
【0044】
カップリング剤としては、疎水性官能基を持つカップリング剤が好ましく用いられる。これにより、前述した分散安定性をさらに高めることができる。
【0045】
疎水性官能基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、環状構造含有基、フルオロアルキル基、フルオロアリール基、ニトロ基、アシル基、シアノ基等を含有するものが挙げられ、特に脂肪族炭化水素基または環状構造含有基が好ましく用いられる。
【0046】
脂肪族炭化水素基は、分岐または非分岐のアルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は、特に限定されないが、1以上12以下であるのが好ましく、1以上6以下であるのがより好ましい。これにより、油性の分散媒4に対して特に良好に分散する磁性金属粒子2が得られる。
【0047】
環状構造含有基は、環状構造を持つ官能基である。環状構造含有基としては、例えば、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基、環状エーテル基等が挙げられる。
【0048】
芳香族炭化水素基は、芳香族炭化水素から水素原子を除いた残基であり、炭素数は、6以上20以下であるのが好ましい。芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基、アルキルアリール基、アミノアリール基、ハロゲン化アリール基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、インデニル基等が挙げられる。アルキルアリール基としては、例えば、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、フェニルベンジル基等が挙げられる。
【0049】
脂環式炭化水素基は、脂環式炭化水素から水素原子を除いた残基であり、炭素数は、3以上20以下であるのが好ましい。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。シクロアルキルアルキル基としては、例えば、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基等が挙げられる。
【0050】
環状エーテル基としては、例えば、エポキシ基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、オキセタニル基等が挙げられる。
【0051】
フルオロアルキル基は、1つ以上のフッ素原子で置換されている炭素数1以上16以下のアルキル基または炭素数3以上16以下のシクロアルキル基である。特にフルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であるのが好ましい。
【0052】
フルオロアリール基は、1つ以上のフッ素原子で置換されている炭素数6以上20以下のアリール基である。特にフルオロアリール基は、パーフルオロアリール基であるのが好ましい。
【0053】
被覆膜22の平均厚さは、1nm以上500nm以下であるのが好ましく、3nm以上300nm以下であるのがより好ましく、20nm以上100nm以下であるのがさらに好ましい。被覆膜22の平均厚さが前記範囲内であれば、前述した被覆膜22の機能を確保しつつ、被覆膜22が必要以上に厚くなるのを避けることができる。これにより、磁性金属粒子2の凝集や劣化を抑制しつつ、被覆膜22の比率が高くなりすぎることに伴う磁性金属粒子2の磁気特性の低下を抑制することができる。
【0054】
被覆膜22の平均厚さは、磁性金属粒子2の断面を電子顕微鏡で観察し、10か所以上の被覆膜22の膜厚を平均した値である。
【0055】
1.2.2.磁性金属粒子の物性等
磁性金属粒子2の飽和磁化は、50emu/g以上であることが好ましく、100emu/g以上であることがより好ましい。飽和磁化とは、外部から十分大きな磁場を印加した時に磁性材料が示す磁化が磁場に関係なく一定となる場合の磁化の値である。磁性金属粒子2の飽和磁化が高いほど、磁性材料としての機能を十分に発揮させることができる。具体的には、磁場中における磁性金属粒子2の移動速度を向上させることができるため、磁場に対する応答性を高めることができる。また、粘度変化幅をより拡大することができる。
【0056】
なお、磁性金属粒子2の飽和磁化の上限値は、特に限定されないが、性能とコストのバランスに適する材料選択の容易性の観点から、250emu/g以下とするのが好ましく、200emu/g以下とするのがより好ましい。
【0057】
磁性金属粒子2の飽和磁化は、振動試料型磁力計(VSM)等により測定することができる。飽和磁化を測定する際の最大印加磁場は、例えば1194[kA/m](15[kOe])以上とされる。
【0058】
磁性金属粒子2の保磁力は、1595[A/m]以下(20[Oe]以下)であることが好ましく、1196[A/m]以下(15[Oe]以下)であることがより好ましく、797[A/m]以下(10[Oe]以下)であることがさらに好ましい。保磁力とは、磁化された磁性体を、磁化されていない状態に戻すために必要な反対向きの外部磁場の値をいう。つまり、保磁力は、外部磁場に対する抵抗力を意味する。保磁力が前記範囲内にある磁性金属粒子2は、残留磁化が小さいため、磁場が印加されていないときにはほとんど磁化しない一方、磁場の印加に伴って磁化するため、磁場の変化に対する磁化の追従性が高い。このため、このような低保磁力の磁性金属粒子2を有する磁気粘性流体1は、磁場の変化に対する応答性に優れる。また、このような低保磁力の磁性金属粒子2は、磁場が印加されていないときに凝集しにくいため、分散媒4に対して高濃度に含まれていても均一に分散可能である。このため、このような磁気粘性流体1は、十分な低粘度回復性を有する。
【0059】
また、低粘度回復性が十分であれば、磁場印加時と磁場除去時との間で粘度変化幅を十分に確保することができる。さらに、粘度変化のヒステリシスを小さく抑えられるため、磁場の印加と除去を繰り返しても粘度変化幅を安定させることができる。これにより、長期にわたって良好な特性を示す磁気粘性流体1を実現することができる。その結果、磁気粘性流体1を用いる各種装置に対し、高い性能および長期信頼性を付与することができる。
【0060】
なお、磁性金属粒子2の保磁力の下限値は、特に設定されなくてもよいが、製造ロット間の保磁力のバラつきを十分に抑制するという観点で、8[A/m]以上(0.1[Oe]以上)とされる。
【0061】
磁性金属粒子2の保磁力は、例えば、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)を用いて測定される。振動試料型磁力計としては、例えば、株式会社玉川製作所製のTM-VSM1550HGC等が挙げられる。保磁力を測定する際の最大印加磁場は、例えば1194[kA/m](15[kOe])とされる。また、磁気粘性流体1から磁性金属粒子2を分離する場合、例えば、ノルマルヘキサンやアセトンのような有機溶剤によって分散媒4を除去する方法が用いられる。
【0062】
磁性金属粒子2の平均粒径は、0.5μm以上15.0μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上12.0μm以下であるのがより好ましく、2.0μm以上9.0μm以下であるのがさらに好ましい。磁性金属粒子2の平均粒径が前記範囲内であれば、磁場が印加されていない状態における磁性金属粒子2の凝集や沈降を抑制することができる。また、磁場応答性が小さくなるのを抑制することができる。
【0063】
なお、磁性金属粒子2の平均粒径が前記下限値を下回ると、磁性金属粒子2の構成材料によっては、磁場を印加していない状態でも磁性金属粒子2の凝集が発生しやすくなるおそれがある。また、粘度変化幅が小さくなるおそれがある。一方、磁性金属粒子2の平均粒径が前記上限値を上回ると、磁性金属粒子2の構成材料によっては、分散媒4中で磁性金属粒子2が沈降し、磁気粘性流体1における磁性金属粒子2の分散安定性が低下するおそれがある。
【0064】
磁性金属粒子2の平均粒径は、レーザー回折・散乱法により体積基準の粒度分布を測定し、この粒度分布から得られた積算分布曲線から求めることができる。具体的には、積算分布曲線において、小径側からの累積値が50%である粒径D50(メディアン径)が、磁性金属粒子2の平均粒径である。レーザー回折・散乱法により粒度分布を測定する装置としては、例えばマイクロトラック・ベル社製のMT3300シリーズ等が挙げられる。
【0065】
磁性金属粒子2の平均円形度は、0.78以上1.00以下であるのが好ましく、0.80以上0.98以下であるのがより好ましく、0.82以上0.97以下であるのがさらに好ましい。これにより、磁性金属粒子2の比表面積が小さくなるため、凝集体が生じるのを抑制することができる。その結果、磁気粘性流体1の粘度変化幅の安定化を図ることができる。
【0066】
なお、平均円形度が前記下限値を下回ると、平均円形度が低下するため、磁気粘性流体1の粘度変化幅が小さくなるおそれがある。一方、平均円形度が前記上限値を上回る場合、製造難易度が高くなり、磁気粘性流体1の製造効率が低下するおそれがある。
【0067】
磁性金属粒子2の平均円形度は、次のようにして測定される。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)で磁性金属粒子2の画像(二次電子像)を撮像する。次に、得られた画像を画像処理ソフトウェアに読み込ませる。画像処理ソフトウェアには、例えば、株式会社マウンテック製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「Mac-View」等が用いられる。なお、1つの画像に50~100個の粒子が写るように、撮像倍率を調整する。そして、合計300個以上の粒子像が得られるように、複数枚の画像を取得する。
【0068】
次に、ソフトウェアを用いて、300個以上の粒子像の円形度を算出し、平均値を求める。得られた平均値が、磁性金属粒子2の平均円形度となる。なお、円形度をeとし、粒子像の面積をSとし、粒子像の周囲長をLとするとき、円形度eは、次式で求められる。
e=4πS/L2
【0069】
磁性金属粒子2の含有率は、磁気粘性流体1全体の40質量%以上95質量%以下であることが好ましく、50質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上85質量%以下であることがさらに好ましい。これにより、磁場印加時および磁場除去時における磁気粘性流体1においてそれぞれ適度な粘性が得られるとともに、磁気粘性流体1における粘度変化幅を十分に大きくすることができる。
【0070】
1.2.3.添加剤
添加剤3としては、例えば、沈降抑制剤、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、界面活性剤、チクソトロピー付与剤(増粘剤)、減粘剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0071】
沈降抑制剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、ベントナイトやヘクトライトのような粘土粉、樹脂粉末、酸化物粉末等の非磁性材料で構成されている固体粒子が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。このような固体粒子は、磁性金属粒子2とは構成材料が異なる非磁性材料の粒子であり、磁性金属粒子2の沈降を抑制する。これにより、磁場が印加されていない期間が長く続いても、粘度変化幅の減少を抑制することができる。
【0072】
樹脂粉末の構成材料としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、セルロース樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエーテル樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂等が挙げられる。
【0073】
酸化物粉末の構成材料としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化クロム、酸化マンガン、酸化スズ、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0074】
固体粒子の平均粒径は、例えば、20nm以上1500nm以下とされる。固体粒子の粒径は、電子顕微鏡で観察した固体粒子の粒子像の円相当径であり、これを50個以上で平均することにより、固体粒子の平均粒径とすることができる。
【0075】
固体粒子の含有率は、磁気粘性流体1全体の5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。これにより、粘度変化幅に影響を及ぼすことなく、磁性金属粒子2の沈降を抑制し、長期にわたる粘度変化幅の安定化を図ることができる。したがって、適切な添加剤3を添加することにより、分散安定性を最適化することができる。
【0076】
分散剤としては、例えば、オレイン酸塩、ナフテン酸塩、スルホン酸塩、リン酸エステル、ステアリン酸、ステアリン酸塩、モノオレイン酸グリセロール、セスキオレイン酸ソルビタン、ラウリン酸、脂肪酸、脂肪アルコール等が挙げられる。
【0077】
摩耗防止剤としては、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンやジアルキルジチオリン酸モリブデンのような有機モリブデン化合物、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛やジアルキルジチオリン酸亜鉛のような有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0078】
また、添加剤3の合計の含有率は、磁気粘性流体1全体の10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。これにより、添加剤3によって磁性金属粒子2の機能が阻害されてしまうのを抑制することができる。
なお、添加剤3は、必要に応じて添加されればよく、省略されていてもよい。
【0079】
1.2.4.分散媒
分散媒4は、沸点が前述した範囲内にある液体を主成分とするものであれば、特に限定されない。分散媒4の主成分は、前述した沸点の範囲を満たすとともに、前述した座標間距離Raが所定の範囲を満たす必要がある。このため、分散媒4の主成分は、磁性金属粒子2の種類に応じて決定されるものであるが、好ましく用いられるものとして極性溶媒が挙げられる。極性溶媒を含むことで、分散媒4は、無機材料で構成される磁性金属粒子2の分散安定性を特に高めることができる。
【0080】
極性溶媒としては、プロトン性極性溶媒または非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
プロトン性極性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、1-プロパノール、2-メチル-1-プロパノールのような1価アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオールのような2価アルコール類;グリセリン、ブタントリオールのような3価アルコール類等が挙げられる。
【0081】
非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N-ジエチルアセトアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジブチルホルムアミドのようなアミド類;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメトキシ-1,3-ジメチル尿素のようなウレア類;プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテルのようなエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)のようなアセテート類;2-ヘプタノンのようなケトン類;ジメチルスルホキシド(DMSO)のようなスルホン類;ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メチル-3-メトキシプロピオネートのようなエステル類が挙げられる。
【0082】
分散媒4には、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
分散媒4における上記主成分の含有率は、他の成分よりも大きければよいが、好ましくは分散媒4の30体積%以上とされ、より好ましくは50体積%以上とされ、さらに好ましくは70体積%以上とされ、特に好ましくは90体積%以上とされる。これにより、分散媒4において、主成分の影響が支配的になるため、磁性金属粒子2の分散安定性を特に高めることができる。
【0084】
また、分散媒4には、上記主成分以外の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、例えば、シリコーンオイル、ポリ-α-オレフィン基油、芳香族系合成油、パラフィン油、アルキル化フェニルエーテル油、エーテル油、エステル油、ポリブテン油、ポリアルキレングリコール類、鉱物油、植物性油、動物性油のような油類、トルエン、キシレン、ヘキサンのような有機溶剤、エチルメチルイミダゾリウム塩、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-メチルピラゾリウム塩のようなイオン性液体(常温溶融塩)類等が挙げられる。
【0085】
このうち、エステル油としては、例えば、1価アルコールとジカルボン酸とから製造されるジエステル、ポリオールとモノカルボン酸とから製造されるポリオールエステル、または、ポリオールとモノカルボン酸とポリカルボン酸とから製造されるコンプレックスエステル等が挙げられる。
【0086】
ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。二塩基酸としては、炭素数4~36の脂肪族二塩基酸が好ましい。二塩基酸のエステルのエステル部を構成するアルコール残基は、炭素数4~26の1価アルコール残基が好ましい。このようなジエステルとしては、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート、ジイソデシルアジペート、ジオクチルアゼレート等が挙げられる。
【0087】
ポリオールエステルおよびコンプレックスエステルに用いられるポリオールとしては、具体的には、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール等のβ水素を持たないヒンダードアルコールが好適に用いられる。ポリオールエステルおよびコンプレックスエステルに用いられるモノカルボン酸としては、ヤシ油脂肪酸、ステアリン酸等の直鎖飽和脂肪酸、オレイン酸等の直鎖不飽和脂肪酸、イソステアリン酸等の分岐脂肪酸等が挙げられる。
【0088】
ポリカルボン酸としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の直鎖飽和ポリカルボン酸が好適に用いられる。
アルキル化フェニルエーテル油としては、アルキル化ジフェニルエーテル、(アルキル化)ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
【0089】
ポリアルキレングリコール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイドコポリマー、プロピレンオキサイド-ブチレンオキサイドコポリマー、またはこれらの誘導体等が挙げられる。
【0090】
1.3.磁気粘性流体の用途例
磁気粘性流体1の用途としては、磁場の印加を切り替えたときの応力の差を利用した、様々な装置やデバイス等が挙げられる。かかる装置やデバイスとしては、例えば、リニアダンパー、ロータリーダンパー、ショックアブソーバーのような制振装置、ブレーキのような制動装置、クラッチのような動力伝達装置、ロボットの筋肉部分やエンドエフェクター、液体流量制御用バルブ、触覚呈示装置、音響装置、医療・福祉用ロボットハンド、介護ハンド、パーソナルモビリティー等が挙げられる。
【0091】
1.4.磁気粘性流体の製造方法
磁気粘性流体1の製造方法は、まず、上述した磁気粘性流体1の原材料を混合し、撹拌する。撹拌方法としては、例えば、ヘラによる撹拌、ボルテックスミキサー、ハイシアミキサー、低周波音響共振ミキサー等が挙げられる。撹拌時間は、撹拌方法に応じて適宜設定されるが、5分以上4時間以下であるのが好ましい。撹拌温度は、撹拌方法に応じて適宜設定されるが、15℃以上70℃以下であるのが好ましい。
【0092】
2.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る磁気粘性流体1は、磁性金属粒子2を含む分散質5と、液状の分散媒4と、を有する。分散媒4の主成分の沸点は、100℃以上235℃以下である。また、磁性金属粒子2のHSP座標と、分散媒4の主成分のHSP座標と、の座標間距離Raが13以下である。
【0093】
このような構成によれば、分散媒4の主成分の沸点が最適化されているため、分散媒4の揮発量が多くなったり、粘度が高くなりすぎたりするのを抑制することができる。また、HSP座標の座標間距離Raが最適化されているため、分散媒4に対する磁性金属粒子2の親和性を高めることができる。これにより、分散媒4に対する磁性金属粒子2の分散安定性を高めた磁気粘性流体1が得られる。
【0094】
また、磁性金属粒子2の平均粒径は、0.5μm以上15.0μm以下であることが好ましい。
【0095】
このような構成によれば、磁場が印加されていない状態における磁性金属粒子2の凝集や沈降が抑制された磁気粘性流体1が得られる。また、磁気粘性流体1の磁場応答性が小さくなるのを抑制することができる。
【0096】
また、分散媒4の主成分の沸点は、160℃以上230℃以下であることが好ましい。さらに、前述した座標間距離Raは、2以上12以下であることが好ましい。
【0097】
このような構成によれば、分散媒4に対する磁性金属粒子2の分散安定性を特に高めた磁気粘性流体1が得られる。
【0098】
また、分散媒4の主成分は、極性溶媒であることが好ましい。
これにより、分散媒4は、無機材料で構成される磁性金属粒子2の分散安定性を特に高めることができる。
【0099】
また、磁性金属粒子2は、Fe基金属材料で構成されていることが好ましい。そして、Fe基金属材料は、Feの含有率が最も高く、Siの含有率が1.0原子%以上20.0原子%以下であることが好ましい。
【0100】
このようなFe基金属材料は、フェライト等に比べて透磁率および飽和磁化が高く、靭性や強度も高い。このため、Fe基金属材料は、磁性金属粒子2の構成材料として有用である。
【0101】
また、Fe基金属材料は、アモルファス金属材料または微結晶金属材料であることが好ましい。
【0102】
これらは、例えば金属酸化物等に比べて靭性および強度が高いため、磁性金属粒子2の摩耗や欠損等を効果的に抑制することができる。その結果、粘度変化幅が特に安定している磁気粘性流体1を実現することができる。
【0103】
磁性金属粒子2の飽和磁化は、50emu/g以上250emu/g以下であることが好ましい。
これにより、磁性金属粒子2の磁場に対する応答性を高めることができる。
【0104】
以上、本発明の磁気粘性流体について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0105】
例えば、本発明の磁気粘性流体は、前記実施形態に任意の構成が付加されたものであってもよい。
【実施例0106】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
3.磁気粘性流体の作製
3.1.実施例1
まず、磁性金属粒子および添加剤を分散媒に分散させ、磁気粘性流体を作製した。磁気粘性流体の構成は、表1および表2に示すとおりである。添加剤には、固体粒子である粘土紛および液状の有機モリブデン化合物を用いた。
【0107】
磁気粘性流体における磁性金属粒子の含有率は、85質量%とし、固体粒子の含有率は、2.0質量%とし、有機モリブデン化合物の含有率は、3.0質量%とし、残部を分散媒とした。
【0108】
3.2.実施例2~9
磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。なお、表1に示す非晶質金属1Aは、表1に示す組成式で表される非晶質金属で構成された粒子本体と、その表面を被覆する被覆膜と、を有するコアシェル粒子であることを示す。なお、被覆膜は、ストーバー法で形成された、酸化ケイ素で構成された膜であり、その平均厚さは60nmであった。また、表1に示す結晶質金属1は、Feを主成分とし、Cr、Ni、CuおよびNbを所定量含み、少量(1.0質量%以下)のSiおよびMnを含むステンレス鋼SUS630である。
【0109】
3.3.比較例1~4
磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0110】
3.4.実施例10~15
磁気粘性流体の構成を表1および表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0111】
3.5.比較例5
磁気粘性流体の構成を表1および表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0112】
6.磁気粘性流体の評価結果
各実施例および各比較例の磁気粘性流体について、以下の評価を行った。
【0113】
6.1.分散安定性
各実施例および各比較例の磁気粘性流体について、下記の方法により、磁性金属粒子の分散安定性を評価した。
【0114】
まず、1mLの磁気粘性流体を1.5mLサンプル瓶に入れた。気温25℃において24時間放置後に、磁性粒子含有層の厚みtAと、分散媒層(上澄層)の厚みtBと、を測定した。なお、磁性粒子含有層の厚みは、沈殿した磁性粒子で構成された層の厚みであり、分散媒層は、磁性粒子含有層の上端から液面までの厚みである。
【0115】
次に、厚さtA、tBから、上澄率tB/(tA+tB)を算出した。そして、算出した上澄み率を以下の評価基準に照らすことにより、磁気粘性流体の分散安定性を評価した。評価結果を表2および表3に示す。なお、上澄率は、小さいほど、磁気粘性流体における磁性金属粒子の分散安定性が高いことを示す。
【0116】
AA:上澄率が5%以下である
A :上澄率が5%超10%以下である
B :上澄率が10%超30%以下である
C :上澄率が30%超である
【0117】
6.2.初期粘度
各実施例および各比較例の磁気粘性流体について、粘度を測定した。測定時のせん断速度を0.033[/s]、磁気粘性流体の温度を25℃とした。また、測定には、アントンパール社製、レオメーターMCR102を用いた。
【0118】
そして、得られた測定結果を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を「初期粘度」として表2および表3に示す。
【0119】
A:初期粘度が500mPa・s以下である
B:初期粘度が500mPa・s超1000mPa・s以下である
C:初期粘度が1000mPa・s超である
【0120】
6.3.粘度の経時変化
各実施例および各比較例の磁気粘性流体について、初期粘度を測定した後、気温35℃の環境に1日放置した。その後、6.2.と同様の方法で、再び粘度を測定した。そして、得られた測定結果と前述した初期粘度とに基づいて、粘度増加率を算出した。粘度増加率は、測定結果から初期粘度を引いた差の初期粘度に対する比率である。算出結果を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を「粘度の経時変化」として表2および表3に示す。
【0121】
A:粘度増加率が5%未満である
B:粘度増加率が5%以上10%未満である
C:粘度増加率が10%以上である
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
表2および表3から明らかなように、各実施例の磁気粘性流体は、磁性金属粒子の分散安定性が高く、かつ、粘度の経時変化が小さいことが認められた。