(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154204
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】青色発光化合物および有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
C07D 487/22 20060101AFI20241023BHJP
H10K 50/12 20230101ALI20241023BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241023BHJP
H10K 85/30 20230101ALI20241023BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C07D487/22
H10K50/12
H10K85/60
H10K85/30
C09K11/06
C09K11/06 650
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067913
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 智哉
(72)【発明者】
【氏名】宮碕 栄吾
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光則
(72)【発明者】
【氏名】今村 敦
【テーマコード(参考)】
3K107
4C050
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC04
3K107CC07
3K107CC21
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD64
3K107DD66
3K107DD67
3K107DD68
3K107DD69
3K107FF13
3K107FF15
4C050PA20
(57)【要約】
【課題】発光スペクトル幅が狭く、高色純度を実現することができ、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率を向上させうる、新規な青色発光化合物を提供する。
【解決手段】含窒素芳香族複素環骨格と、前記含窒素芳香族複素環骨格に結合した少なくとも2つの芳香族置換基と、を有する青色発光化合物であって、前記含窒素芳香族複素環骨格は、置換基として分岐状または環状の炭素数3以上20以下のアルキル基を4つ有し、前記含窒素芳香族複素環骨格と前記芳香族置換基とは、同一平面上に位置しない、青色発光化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素芳香族複素環骨格と、
前記含窒素芳香族複素環骨格に結合した少なくとも2つの芳香族置換基と、
を有する青色発光化合物であって、
前記含窒素芳香族複素環骨格は、置換基として分岐状または環状の炭素数3以上20以下のアルキル基を4つ有し、前記含窒素芳香族複素環骨格と前記芳香族置換基とは、同一平面上に位置しない、青色発光化合物。
【請求項2】
下記化学式(1)で表される化合物であって、下記定義によるβ
sumが、13を超え28未満である、請求項1に記載の青色発光化合物:
【化1】
上記化学式(1)中、
R
1~R
4は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の分岐状もしくは環状の炭素数3以上20以下のアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数3以上60以下のトリアルキルシリル基であり、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ独立して、環形成原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環基、または環形成原子数5以上14以下の芳香族複素環基である:
<β
sum>
上記化学式(1)中の置換基Ar
1の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ
1、
上記化学式(1)中の置換基Ar
2の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ
2、
上記化学式(1)中の置換基R
1の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ
3、
上記化学式(1)中の置換基R
2の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ
4、
上記化学式(1)中の置換基R
3の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ
5、
上記化学式(1)中の置換基R
4の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ
6、とそれぞれしたとき、
β
sum=β
1+β
2+β
3+β
4+β
5+β
6 である。
【化2】
【請求項3】
下記化学式(2)で表される化合物である、請求項2に記載の青色発光化合物:
【化3】
上記化学式(2)中、
R
1~R
4は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の分岐状もしくは環状の炭素数3以上20以下のアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数3以上60以下のトリアルキルシリル基であり、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ独立して、環形成原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環基、または環形成原子数5以上14以下の芳香族複素環基である。
【請求項4】
下記化学式(3)で表される化合物である、請求項3に記載の青色発光化合物:
【化4】
上記化学式(3)中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ独立して、環形成原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環基、または環形成原子数5以上14以下の芳香族複素環基であり、
tBuは、tert-ブチル基を表す。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の青色発光化合物を含む発光層を有する、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記発光層は、燐光錯体をさらに含む、請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記燐光錯体は、白金錯体である、請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記発光層は、ホスト材料をさらに含む、請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記ホスト材料は、トリフェニルシリル基を有する化合物を含む、請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記ホスト材料は、アントラセン環構造を有する化合物を含む、請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色発光化合物および有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機電界発光素子、有機EL素子、OLEDとも称する)およびそれに用いられる発光材料の研究が盛んに進められている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子の発光性材料は、その放射失活過程によって、蛍光材料、燐光材料、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料の3種類に分類することが可能である。通常の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、蛍光素子は、一重項からの蛍光発光を利用するという発光メカニズムに基づき、発光効率は5%程度とされている。一方、燐光材料やTADF材料を用いた素子は、三重項のエネルギーを発光に利用できることから、発光効率は高くなっている。特に赤および緑の燐光材料は実用化されているものもある。これに対し、青色発光材料としては、素子寿命の観点から蛍光材料が使用されており、素子の高効率化が課題となっている。
【0004】
最近、発光層にTADF性を有する補助ドーパントと蛍光材料とを組み合わせることで、蛍光材料の高色純度を維持しつつ高い発光効率を実現できる手法が開発された(非特許文献1)。このことから、蛍光材料の開発に再度注目が集まっている。
【0005】
近年、テレビ放送における新しい国際規格であるBT.2100が発表されており、この規格の色域に対応するため発光素子は、赤、青、緑の3色において高い色純度を示す必要がある。そのことから、電極間での光の共振効果を利用するマイクロキャビティ構造を採用することで、色純度の向上を達成している。しかし、特定の波長から外れた光は取り出されないため、スペクトルの半値幅が広い発光材料を用いた場合には、素子の発光効率の低下につながってしまう。そこで、発光スペクトルの半値幅が小さい発光材料が求められている。そのような観点から、発光スペクトルの半値幅が小さい青色発光材料として、縮合環を有する含窒素化合物である化合物(下記化学式参照)が報告されている(非特許文献2、3)。この材料は、溶液の発光スペクトルの半値幅が非常に小さな青色発光を示し、有機EL素子における発光材料の基本骨格として有望であると考えられる。
【0006】
【0007】
上記化合物の骨格を有する材料およびそれを用いたデバイスの例が、種々報告されている。例えば、特許文献1には、上記化合物の誘導体を有機トランジスタの活性層として用いた例が記載されている。特許文献2および3には、上記化合物の誘導体を有機EL素子の発光材料として用いた例が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/084805号
【特許文献2】特開2020-107742号公報
【特許文献3】特開2022-103061号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hajime Nakanotani et al., 「High-efficiency organic light-emitting diodes with fluorescent emitters」, Nature Communications, 2014, 5, 4016(DOI:10.1038/ncomms5016)
【非特許文献2】Morgane Rivoal et al., 「Substituted dibenzo[2,3:5,6]-pyrrolizino[1,7-bc]Indolo[1,2,3-lm]carbazoles: a series of new electron donors」, Tetrahedron, 69, (2013), 3302-3307
【非特許文献3】Claude Niebel et al., 「Dibenzo[2,3:5,6]pyrrolizino[1,7-bc]indolo[1,2,3-lm]carbazole:a new electron donor」, New Journal of Chemistry, 2010, 34, 1243-1246
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2の技術では、報告された素子の発光効率は6%以上8%以下程度であり、発光効率について改善の必要がある。また、特許文献3においては、発光層に燐光錯体化合物の誘導体を用いた素子の例が報告されているものの、発光効率の改善が求められている。
【0011】
そこで、本発明は、発光スペクトルの半値幅が小さいという高色純度を有し、ピーク波長が青色波長領域内にあり(例えば波長445nm以上470nm以下)、かつ有機EL素子の発光効率を改善することができる手段を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明の他の目的は、当該化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討を重ねた。その結果、含窒素芳香族複素環骨格と、前記含窒素芳香族複素環骨格に結合した少なくとも2つの芳香族置換基と、
を有する青色発光化合物であって、前記含窒素芳香族複素環骨格は、置換基として分岐状または環状の炭素数3以上20以下のアルキル基を4つ有し、前記含窒素芳香族複素環骨格と前記芳香族置換基とは、同一平面上に位置しない、青色発光化合物によって上記課題が解決されることを見出した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、本発明は、発光スペクトルの半値幅が小さいという高色純度を有し、ピーク波長が青色波長領域内にあり(例えば波長445nm以上470nm以下)、かつ有機EL素子の発光効率を改善することができる手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す断面模式図である。
【
図3】本発明の他の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す断面模式図である。
【
図4】本発明のその他の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す断面模式図である。
【
図5】各エネルギーの関係を定性的に説明する説明図である。
【
図6】公知の縮合環化合物R1~R3についての、実測したPLにおける発光のFWHM-密度汎関数法による計算された再配置エネルギー(単位:eV)のグラフである。
【
図7】化合物1および比較化合物1のトルエン溶液(濃度:1×10
-5M)における蛍光発光スペクトルを示す図である。
【
図8】化合物1および比較化合物1の薄膜フィルムにおける蛍光発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0017】
本明細書において、「XおよびYは、それぞれ独立して」とは、XおよびYが同一であってもよいし、異なっていてもよいことを意味する。
【0018】
また、本明細書において、「環から誘導された基」とは、環構造から、環形成原子に直接結合する水素原子を価数の分だけ外し、遊離原子価とした基を表す。
【0019】
[青色発光化合物]
本発明に係る青色発光化合物は、含窒素芳香族複素環骨格と、前記含窒素芳香族複素環骨格に結合した少なくとも2つの芳香族置換基と、を有する青色発光化合物であって、前記含窒素芳香族複素環骨格は、分岐状または環状の炭素数3以上20以下のアルキル基を4つ有し、前記含窒素芳香族複素環骨格と前記芳香族置換基とは、同一平面上に位置しない、青色発光化合物である。かような構造を有する本発明の青色発光化合物は、発光スペクトルの半値幅が小さく高色純度を有し、ピーク波長が青色波長領域内にあり(例えば波長445nm以上470nm以下)、かつ有機EL素子の発光効率を改善することができる。
【0020】
上記の芳香族置換基は、芳香族炭化水素基および芳香族複素環基の両方を包含する。
【0021】
本発明者らは、上記構成によって課題が解決されるメカニズムを以下のように推定している。
【0022】
本発明に係る青色発光化合物が有する含窒素芳香族複素環骨格は、嵩高い置換基である分岐状または環状の炭素数3以上20以下のアルキル基を4つ有しており、これにより分子間の凝集が抑制される。通常、化合物が凝集すると、その凝集状態に由来する発光が生じるが、その発光はスペクトルがブロードになる傾向がある。そのため、色純度が低下し、高色純度の発光を達成することが難しくなってしまう。また、発光材料が凝集すると濃度消光が生じ、発光効率が低下する。このようなことから、発光材料の凝集を抑制することが、高色純度および高効率である優れた発光材料、ひいては優れた有機EL素子を得るために重要となる。
【0023】
上記したように本発明に係る青色発光化合物は、嵩高い置換基を有しており、これにより分子間の凝集が抑制される。よって、本発明に係る青色発光化合物は、発光スペクトルの半値幅が小さいという高色純度を有し、また、ピーク波長が青色波長領域内にあり(例えば波長445nm以上470nm以下)、かつ有機EL素子の発光効率を改善することができる。
【0024】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。また、本明細書における他の推測事項についても同様に、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0025】
本明細書において、「含窒素芳香族複素環骨格と芳香族置換基とは、同一平面上に位置しない」とは、以下の定義による。すなわち、青色発光化合物について、「密度汎関数法(Density Functional Theory、DFT)による計算」における(I)S0計算手法:汎関数B3LYP、基底関数6-31G(d,p)、トルエン溶媒効果(PCM)を含めたDFTによる構造最適化計算;の手法によって最安定化構造を算出する。この最安定化構造から、GaussView(Gaussian Inc.)を用いて、含窒素芳香族複素環骨格(コア部)と、含窒素芳香族複素環骨格(コア部)と単結合を介して結合する芳香族置換基との二面角を算出し、その二面角が5°以上175°以下である場合を、「含窒素芳香族複素環骨格と芳香族置換基とは、同一平面上に位置しない」と定義する。
【0026】
含窒素芳香族複素環骨格(コア部)と、含窒素芳香族複素環骨格(コア部)と単結合を介して結合する芳香族置換基との二面角を次のように定義する。芳香族置換基と結合する含窒素芳香族複素環骨格の原子をA1、含窒素芳香族複素環骨格中のA1に最近接の原子をA2、含窒素芳香族複素環骨格と結合する芳香族置換基の原子をB1、芳香族置換基中のB1に最近接の原子をB2としたとき、A2A1B1B2がなす二面角は、A2、A1、およびB1を頂点とする三角形△A2A1B1と、B2、B1およびA1を頂点とする三角形△B2B1A1とのなす角と定義する。
【0027】
上述したように、当該二面角は、密度汎関数法(Density Functional Theory、DFT)により、計算ソフトウェアとしてGaussian 16(Gaussian Inc.)を使用し、上記(I)の計算手法によって算出された最安定化構造から、GaussView(Gaussian Inc.)を用いて算出することができる。
【0028】
上記したように本発明に係る二面角は、5°以上175°の範囲であるが、該二面角は10°以上170°以下であることが好ましく、30°以上150°以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明の好ましい一形態は、下記化学式(1)で表される化合物であって、下記定義によるβsumが、13を超え28未満である青色発光化合物である。
【0030】
【0031】
上記化学式(1)中、
R1~R4は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の分岐状もしくは環状の炭素数3以上20以下のアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数3以上60以下のトリアルキルシリル基であり、
Ar1およびAr2は、それぞれ独立して、環形成原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環基、または環形成原子数5以上14以下の芳香族複素環基である:
<βsum>
上記化学式(1)中の置換基Ar1の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ1、
上記化学式(1)中の置換基Ar2の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ2、
上記化学式(1)中の置換基R1の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ3、
上記化学式(1)中の置換基R2の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ4、
上記化学式(1)中の置換基R3の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ5、
上記化学式(1)中の置換基R4の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ6、とそれぞれしたとき、
βsum=β1+β2+β3+β4+β5+β6
である。ここで、コアに対して垂直方向とは、上記した三角形△A2A1B1に対して垂直な方向である、と定義する。
【0032】
【0033】
このβsumは、いわば青色発光化合物の上記化学式(1a)で表されるコアの平面の垂直方向に、置換基がどのくらいの長さで伸びているかの総計を表す指標である。このβsumが13を超え28未満である青色発光化合物は、凝集がより抑制され、より高い色純度を有し、ピーク波長が青色波長領域内にあり(例えば波長445nm以上470nm以下)、かつ有機EL素子の発光効率をより改善することができる。βsumが13以下の場合、発光波長が長波長側へシフトする場合がある。また、βsumが28以上の場合、発光波長が長波長側へシフトするとともに色純度が低下する場合がある。
【0034】
当該βsumは、15以上25以下がより好ましく、20以上23以下がさらに好ましい。
【0035】
本明細書において、上記のβ1~β6は、「密度汎関数法(Density Functional Theory、DFT)による計算」における、(I) S0計算手法:汎関数B3LYP、基底関数6-31G(d,p)、トルエン溶媒効果(PCM)を含めたDFTによる構造最適化計算の計算手法によって算出された最安定化構造から、GaussView(Gaussian ・Inc.)を用いて算出することができる。以下では、置換基Ar1の上記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさであるβ1の算出方法を例にとり説明する。なお、GaussViewを用いると、以下で説明するα、θ、φを求めることができる。
【0036】
図1(a)~(c)は、β
1を算出する過程を示す概略図である。水素を除きn個の原子から構成される置換基Ar
1と結合する上記化学式(1a)で表されるコアの原子をA1、該A1に最近接の原子をA2、コアと結合する置換基Ar
1の原子をB1、置換基Ar
1中の原子をBnとする。またA1B1がx軸、コアがxy平面と重なるように分子を配置する(
図1(a))。
【0037】
B1-Bn間の長さをαとし、A1B1Bnのなす角をθとする。置換基Ar
1のyz平面への投影
図Ar
1’において、BnがBn’に対応する。よって、B1-Bn’間の長さは、α・|sinθ|で表される(
図1(a)、(b))。
【0038】
Bn’をy軸へ投影したとき、Bn’に対応する点をBn’’とする。A2A1B1Bnがなす二面角をφとすると、y軸とBn’とのなす角はφとして表すことができる。よって、B1-Bn’’間の長さは、α・|(sinθ)|・|(sinφ)|で表される(
図1(c))。
【0039】
置換基Ar1のすべての原子(B1、B2、・・・Bn)について同様の計算を行い、B1~Bnのすべての組み合わせの中で最も大きくなる2点間の距離をβ1とする。置換基Ar2、R1、R2、R3、およびR4についても、上記と同様の方法でβ2、β3、β4、β5、β6を求め、その総和(β1+β2+β3+β4+β5+β6)をβsumと定義する。詳細な算出方法は、実施例に記載したとおりである。
【0040】
上記式(1)中のR1~R4で用いられる、分岐状の炭素数3以上20以下のアルキル基の例としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、sec-イソアミル基、イソヘキシル基、ネオへキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、2-エチルペンチル基、ヘプタン-3-イル基、ヘプタン-4-イル基、4-メチルヘキサン-2-イル基、3-メチルヘキサン-3-イル基、2,3-ジメチルペンタン-2-イル基、2,4-ジメチルペンタン-2-イル基、4,4-ジメチルペンタン-2-イル基、6-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、オクタン-2-イル基、6-メチルヘプタン-2-イル基、6-メチルオクチル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、ノナン-4-イル基、2,6-ジメチルヘプタン-3-イル基、3,6-ジメチルヘプタン-3-イル基、3-エチルヘプタン-3-イル基、3,7-ジメチルオクチル基、8-メチルノニル基、3-メチルノナン-3-イル基、4-エチルオクタン-4-イル基、9-メチルデシル基、ウンデカン-5-イル基、3-エチルノナン-3-イル基、5-エチルノナン-5-イル基、2,2,4,5,5-ペンタメチルヘキサン-4-イル基、10-メチルウンデシル基、11-メチルドデシル基、トリデカン-6-イル基、トリデカン-7-イル基、7-エチルウンデカン-2-イル基、3-エチルウンデカン-3-イル基、5-エチルウンデカン-5-イル基、12-メチルトリデシル基、13-メチルテトラデシル基、ペンタデカン-7-イル基、ペンタデカン-8-イル基、14-メチルペンタデシル基、15-メチルヘキサデシル基、ヘプタデカン-8-イル基、ヘプタデカン-9-イル基、3,13-ジメチルペンタデカン-7-イル基、2,2,4,8,10,10-ヘキサメチルウンデカン-5-イル基、16-メチルヘプタデシル基、17-メチルオクタデシル基、ノナデカン-9-イル基、ノナデカン-10-イル基、2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン-7-イル基、18-メチルノナデシル基等が挙げられる。
【0041】
また、上記式(1)中のR1~R4で用いられる、環状の炭素数3以上20以下のアルキル基の例としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロペンタデシル基、シクロヘキサデシル基、シクロヘプタデシル基、シクロオクタデシル基、シクロノナデシル基、シクロエイコシル基等が挙げられる。
【0042】
上記化学式(1)中のR1~R4で用いられる炭素数3以上60以下のトリアルキルシリル基の具体例としては、特に制限されないが、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ-iso-プロピルシリル基、トリ-tert-ブチルシリル基、ジ-tert-ブチル(メチル)シリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。なお、該トリアルキルシリル基が有するアルキル基1つあたりの炭素数は、1以上20以下である。この炭素数1以上20以下のアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよし、環状であってもよい。
【0043】
上記化学式(1)中のR1~R4で用いられる分岐状または環状の炭素数3以上20以下のアルキル基の中でも、イソプロピル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基がより好ましい。
【0044】
上記化学式(1)中のAr1およびAr2で用いられる芳香族炭化水素基は、一部または全体として芳香族性を有する炭化水素環に由来する基を表す。芳香族炭化水素基が2以上の、一部または全体として芳香族性を有する炭化水素環を含む場合、これらの環は、互いに単結合で結合または縮合していてもよい。該芳香族炭化水素基の環形成原子数は6以上14以下であり、6以上10以下であることが好ましく、6であることがより好ましい。環形成原子数が6以上14以下である芳香族炭化水素基の具体例としては、特に制限されないが、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アントラセニル基、フェナントレニル基等が挙げられる。これらの中でも、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0045】
上記化学式(1)中のArで用いられる芳香族複素環基とは、一部または全体として芳香族性を有する複素環に由来する基を表す。芳香族複素環基が2以上の、一部または全体として芳香族性を有する複素環を含む場合、これらの環の一部または全部は、互いに単結合で結合していてもよい。芳香族複素環基が2以上の、一部または全体として芳香族性を有する複素環、またはその他の環を含む場合、これらの環は、互いに縮合していてもよい。また、芳香族複素環基が2以上の、一部または全体として芳香族性を有する複素環、またはその他の環を含む場合、1つの原子が、これらの環の環形成原子を兼ねていてもよい。芳香族複素環基が有するヘテロ原子としては、特に限定されないが、例えば、窒素原子(N)、酸素原子(O)、リン原子(P)、硫黄原子(S)、ケイ素原子(Si)等が挙げられる。芳香族複素環基の環形成原子数は、5以上14以下であり、5以上13以下であることが好ましい。芳香族複素環基のヘテロ原子数は、特に制限されないが、1以上3以下であることが好ましい。また、芳香族複素環基のヘテロ原子数は、1以上2以下であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。芳香族複素環基の具体例としては、特に制限されないが、チオフェニル基、フラニル基、ピロニル基、イミダゾニル基、チアゾニル基、オキサゾニル基、オキサジアゾニル基、トリアゾニル基、ピリジル基、ビピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基、トリアゾリル基、ピリダジニル基、ピリジニル基、キノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、フェノキサジニル基、フタラジニル基、ピリドピリミジニル基、ピリドピラジニル基、ピラジノピラジニル基、イソキノリニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、チエノチオフェニル基、ベンゾフラニル基、フェナントロリニル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、フェノチアジニル基、ジベンゾシロリル基、ジベンゾフラニル基、キサントニル基等が挙げられる。これらの中でも、ピリジル基(2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基)、ジベンゾチオフェニル基、ジベンゾフラニル基が好ましい。
【0046】
上記化学式(1)のR1~R4、およびAr1~Ar2で用いられる分岐状のアルキル基、環状のアルキル基、芳香族炭化水素基、および芳香族複素環基は、それぞれ、置換された基であってもよい。置換基としては、特に制限されないが、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数3~60のトリアルキルシリル基等が挙げられる。ここで、置換基としてのトリアルキルシリル基が有するアルキル基1つあたりの炭素数は、1以上20以下である。この炭素数1以上20以下のアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよし、環状であってもよい。
【0047】
上記置換基としてのアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、それぞれ、直鎖状、分岐状、または環状のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は、特に制限されないが、1以上であることが好ましい。アルケニル基およびアルキニル基の炭素数は、特に制限されないが、それぞれ、2以上であることが好ましい。また、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基の炭素数は、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。直鎖状のアルキル基の具体例としては、特に制限されないが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、およびn-イコシル基等が挙げられる。分岐状のアルキル基および環状のアルキル基の具体例は、上記と同様である。
【0048】
アルケニル基の具体例としては、特に制限されないが、ビニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、1-メチル-3-ブテニル基、2-メチル-3-ブテニル基、3-メチル-3-ブテニル基、1,1-ジメチル-2-プロペニル基、1,2-ジメチル-2-プロペニル基、1-エチル-2-プロペニル基等が挙げられる。アルキニル基の具体例としては、特に制限されないが、2-ブチニル基、3-ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、デシニル基等が挙げられる。
【0049】
本発明の一実施形態に係る青色発光化合物のフォトルミネッセンス(PL)でのピーク波長は、特に制限されないが、400nm以上であることが好ましい。また、当該ピーク波長は、420nm以上であることがより好ましく、445nm以上であることがさらに好ましい。また、当該ピーク波長は、500nm以下であることが好ましく、490nm以下であることがより好ましく、470nm以下であることがさらに好ましい。これらの範囲であると、青色発光の色味がより良好となる。
【0050】
本発明の一実施形態に係る青色発光化合物の上記PLでのピーク波長を有するピークにおける、発光強度が半減する半値幅(FWHM)は、値が小さい(狭い)ほど好ましい。具体的には、当該半値幅は、30nm以下であることが好ましく、25nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましい。これらの範囲であると、発光の色純度がより向上する。当該半値幅の下限は、1nm以上であることが好ましい。
【0051】
PLでのピーク波長およびPLでの半値幅は、分光蛍光光度計を用いて、それぞれ測定・算出することができる。なお、測定・算出方法の詳細は実施例に記載する。
【0052】
本発明の一実施形態に係る青色発光化合物1~48を具体的に例示する。ただし、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
上記の青色発光化合物の中でも、本願の効果がより発揮されるという観点から、下記化学式(2)で表される化合物が好ましく、下記化学式(3)で表される化合物がより好ましい。
【0061】
【0062】
上記化学式(2)中、
R1~R4は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の分岐状もしくは環状の炭素数3以上20以下のアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数3以上60以下のトリアルキルシリル基であり、
Ar1およびAr2は、それぞれ独立して、環形成原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環基、または環形成原子数5以上14以下の芳香族複素環基である。
【0063】
【0064】
上記化学式(3)中、
Ar1およびAr2は、それぞれ独立して、環形成原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環基、または環形成原子数5以上14以下の芳香族複素環基であり、
tBuは、tert-ブチル基を表す。
【0065】
上記の具体的な青色発光化合物1~48のうち、化合物1、2、4、5、7、10、14、17、18、19、20、21、22、25、26、28、31、38、39、40、41、42がさらに好ましい。
【0066】
本発明の一実施形態に係る青色発光化合物の合成方法については、特に制限されず、公知の合成方法の知見に基づき合成することができる。より詳細には、実施例に記載の方法や、実施例に記載の方法に準じて合成することができる。例えば、実施例に記載の方法において、原料や反応条件等を変更することや、一部の手順を追加または除外すること、または公知の合成方法を適宜組み合わせること等によって合成することができる。
【0067】
本発明の一実施形態に係る青色発光化合物の構造の確認方法は、特に制限されない。本発明に係る青色発光化合物の構造は、例えば、公知の方法(例えば、NMR、LC-MS等)により確認することができる。
【0068】
<蛍光発光剤>
本発明の他の一形態は、上記の青色発光化合物を含む、後述する燐光錯体と共に用いられる、蛍光発光剤に関する。当該蛍光発光剤を燐光錯体と共に用いることで、発光効率および素子寿命が顕著に向上する。この理由は、以下のように推測される。燐光錯体は、FRET機構(Fluorescence Resonance Energy Transfer)で上記の青色発光化合物へとエネルギーを受け渡す。その結果、燐光錯体から青色発光化合物への高効率なエネルギー移動が生じる。
【0069】
本発明に係る蛍光発光剤は、発光スペクトルのピーク波長が青色波長領域内となり、青色発光を実現しうる。
【0070】
なお、共に用いられる燐光錯体の詳細は、後述する説明と同様である。そして、蛍光発光剤は、後述するホスト材料と共に用いられることが好ましい。共に用いられるホスト材料の詳細は、後述する説明と同様である。
【0071】
<有機エレクトロルミネッセンス素子用材料>
本発明の他の一形態は、上記の青色発光化合物を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料に関する。当該材料は、発光層用材料であることがさらに好ましい。
【0072】
本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、上記の青色発光化合物と、有機エレクトロルミネッセンス素子に使用される他の材料とを含むことが好ましい。有機エレクトロルミネッセンス素子に使用される他の材料としては、特に制限されないが、燐光性化合物またはホスト材料であることが好ましい。また、燐光錯体およびホスト材料であることがより好ましい。ここで、上記の青色発光化合物をドーパント材料として使用し、燐光錯体を補助ドーパント材料として用いることが好ましい。上記の青色発光化合物と、燐光錯体またはホスト材料(好ましくは、燐光錯体およびホスト材料)とを共に用いることで、発光効率および素子寿命が顕著に向上する。この理由は、以下のように推測される。有機エレクトロルミネッセンス素子用材料がホスト材料を含有する場合、燐光錯体は、ホスト材料からエネルギーを受け取る。そして、燐光錯体は、FRET機構(Fluorescence Resonance Energy Transfer)で上記の青色発光化合物へとエネルギーを受け渡す。その結果、燐光錯体から上記の青色発光化合物への高効率なエネルギー移動が生じる。また、有機エレクトロルミネッセンス素子に使用される他の材料としては、本分野におけるその他の公知の材料であってもよい。
【0073】
上記有機エレクトロルミネッセンス素子用材料が、発光層用材料である場合、発光層用材料の総質量に対する上記の青色発光化合物の含有量は、特に制限されないが、0.05質量%以上であることが好ましい。また、当該含有量は、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、発光の色純度に優れ、高い発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。また、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料(特に、発光層用材料)の総質量に対する上記の青色発光化合物の含有量は、特に制限されないが、50質量%以下であることが好ましい。また、当該含有量は、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることがさらにより好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、2質量%以下であることが最も好ましい。この範囲であると、発光の色純度に優れ、高い発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。
【0074】
<燐光錯体>
本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、上記の青色発光化合物に加えて、燐光錯体をさらに含むことが好ましい。燐光錯体を含むことで、発光効率および素子寿命が顕著に向上する。この理由は、上述の蛍光発光剤にて説明したように、燐光錯体から上記の青色発光化合物への高効率なエネルギー移動が可能であるからであると推測される。
【0075】
燐光錯体としては、特に制限されないが、発光効率の観点から、金属錯体であることが好ましい。同様の観点から、白金錯体またはパラジウム錯体であることがより好ましく、白金錯体であることがさらに好ましい。よって、本発明の好ましい一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料において、例えば、燐光錯体は白金錯体である。
【0076】
燐光錯体としては、特に制限されないが、発光の色純度および発光効率の観点から、下記化学式(4)の構造を有する化合物が好ましい例として挙げられる。
【0077】
【0078】
上記化学式(4)中のMは、配位数が4の金属イオンであり、
R41、R42、R43、およびR44は、それぞれ独立して、置換された、もしくは無置換の炭化水素環基、または置換された、もしくは無置換の複素環基であり、
L41は、R41とR42とを連結する連結基であり、
L42は、R42とR43とを連結する連結基であり、
L43は、R43とR44とを連結する連結基である。
【0079】
上記化学式(4)において、炭化水素環基とは、1以上の炭化水素環から誘導された基を表す。炭化水素環基が2以上の炭化水素環を含む場合、これらの環の一部または全部は、互いに単結合で結合または縮合していてもよい。また、炭化水素環基が2以上の炭化水素環を場合、1つの原子が、任意のこれらの環の環形成原子を兼ねていてもよい。
【0080】
上記化学式(4)において、複素環基とは、1以上の複素環から誘導された基を表す。複素環基としては、特に制限されず、芳香族複素環基であってもよく、非芳香族複素環基であってもよい。これらの中でも、発光の色純度の観点から、芳香族複素環基であることが好ましい。
【0081】
上記化学式(4)における、炭化水素環基または複素環基を置換する置換基としては、特に制限されないが、上記で説明した置換基と同様の置換基が挙げられる。
【0082】
上記化学式(4)において、Mは、白金(Pt)イオン、パラジウム(Pd)イオンであることが好ましく、白金(Pt)イオンであることがより好ましい。
【0083】
燐光錯体としては、公知の化合物を使用してもよい。例えば、「Tyler Fleetham et al., 「Effcient “Pure” Blue OLEDs Employing Tetradentate Pt Complexes with a Narrow Spectral Bandwidth」, Advanced Materials, 2014, 26, 7116-7121」に記載の白金錯体、欧州特許出願公開第3670520号明細書に記載の白金錯体、特開2019-029500号公報に記載の白金錯体およびパラジウム錯体、米国特許出願公開第2015/0162552号明細書に記載の白金錯体を用いてもよい。
【0084】
以下、本発明の一実施形態に係る燐光錯体を具体的に例示する。ただし、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
有機エレクトロルミネッセンス素子用材料(特に、発光層用材料)の総質量に対する燐光錯体の含有量は、特に制限されないが、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。また、当該含有量は、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、1質量%以上であることがよりさらに好ましい。そして、当該含有量は、3質量%以上であることが特に好ましく、5質量%以上であることがさらに特に好ましい。この範囲であると、発光の色純度に優れ、高い発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。また、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料(特に、発光層用材料)の総質量に対する燐光錯体の含有量は、特に制限されないが、50質量%以下であることが好ましい。また、当該含有量は、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、発光の色純度に優れ、高い発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。なお、後述する有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層中の、発光層の総質量に対する燐光錯体の好ましい含有量も上記と同様である。
【0096】
有機エレクトロルミネッセンス素子用材料(特に、発光層用材料)が燐光錯体を含む場合、その含有量は、上記の青色発光化合物100質量部に対して、100質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、上記の青色発光化合物100質量部に対して、150質量部以上であることがより好ましく、200質量部以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、発光の色純度に優れ、高い発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。また、燐光錯体の含有量は、特に制限されないが、上記の青色発光化合物100質量部に対して、10000質量部以下であることが好ましい。また、当該含有量は、上記の青色発光化合物100質量部に対して、7500質量部以下であることがより好ましく、5000質量部以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、発光の色純度に優れ、高い発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。なお、後述する有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層中の、上記の青色発光化合物100質量部に対する燐光錯体の好ましい含有量(質量部)も上記と同様である。
【0097】
(ホスト材料)
本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、上記の青色発光化合物に加えて、ホスト材料をさらに含むことが好ましい。上記の青色発光化合物をドーパント材料として用いて、ホスト材料と併用することで、有機エレクトロルミネッセンス素子において、優れた発光効率および素子寿命を実現することができる。
【0098】
ホスト材料としては、特に制限されず公知のホスト材料を使用することができる。好ましいホスト材料の例としては、例えば、上記の化学式(1)で表される化合物以外の化合物であって、カルバゾール環構造を有する化合物、トリアジン環構造を有する化合物、またはアントラセン環構造を有する化合物等が挙げられる。これらの化合物をホスト材料として用いることで、発光層内での効率的なエネルギー移動を促進することができる。また、電子と正孔とのキャリア移動度のバランスをさらに改善することができる。なお、これらの化合物中のカルバゾール環構造、カルバゾール環の環形成炭素原子の1以上が窒素原子に置換されてなる環構造、トリアジン環構造、またはアントラセン環構造において、これらの環を構成する環構成原子と結合する水素原子が他の原子や置換基によって置換されていてもよい。また、2以上のこれらの置換基が環構造を構成していてもよい。
【0099】
当該ホスト材料は、素子の発光効率および寿命がより向上するという観点から、トリフェニルシリル基を有する化合物を含むことがより好ましい。
【0100】
上記のカルバゾール環構造を有する化合物、または上記のカルバゾール環の環形成炭素原子の1以上が窒素原子に置換されてなる環構造を有する化合物としては、特に制限されないが、下記化学式(5)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【0101】
【0102】
上記化学式(5)中、
Z51は、CH、CR51またはNであり、
Z52は、CH、CR52またはNであり、
Z53は、CH、CR53またはNであり、
Z54は、CH、CR54またはNであり、
Z55は、CH、CR55またはNであり、
Z56は、CH、CR56またはNであり、
Z57は、CH、CR57またはNであり、
Z58は、CH、CR58またはNであり、
R51~R58は、それぞれ独立して、下記の(5a)~(5h)のいずれかの基であり、
(5a)シアノ基、
(5b)置換された、または無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、
(5c)置換された、または無置換の炭素数1以上20以下のアルコキシ基、
(5d)置換された、または無置換の炭素数6以上20以下のアリールアミノ基、
(5e)置換された、または無置換のホスホリル基(-POH2基)、
(5f)置換された、または無置換のシリル基(-SiH3基)、
(5g)置換された、または無置換の芳香族炭化水素基、
(5h)置換された、または無置換の複素環基、
Ar51は、芳香族炭化水素基および複素環基のうちの少なくとも一方を含む基であり、
mは、1、2、3、4、5または6であり、
ここで、前記R51と前記R52、前記R52と前記R53、前記R53と前記R54、前記R55と前記R56、前記R56と前記R57、または前記R57と前記R58は、それぞれが結合している炭素原子を含む脂肪族炭化水素環、芳香族炭化水素環、または複素環を形成していてもよい。
【0103】
上記(5b)の炭素数1以上20以下のアルキル基は、特に制限されず、直鎖状、分岐状、または環状であってもよい。これらの中でも、素子寿命および発光の色純度の観点から、分岐状であることが好ましい。アルキル基の炭素数は、溶解性および発光の色純度の観点から、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、4以上であることがさらに好ましい。また、アルキル基の炭素数は、素子寿命の観点から、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。アルキル基の炭素数は、これらの観点から、4であることが特に好ましい。アルキル基の具体例としては、特に制限されないが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基(sec-ブチル基)、t-ブチル基(tert-ブチル基)、i-ブチル基、2-エチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、シクロペンチル基、1-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-エチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-ブチルヘキシル基、シクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、4-t-ブチルシクロヘキシル基、n-ヘプチル基、1-メチルペプチル基、2,2-ジメチルヘプチル基、2-エチルヘプチル基、2-ブチルヘプチル基、n-オクチル基、t-オクチル基、2-エチルオクチル基、2-ブチルオクチル基、2-ヘキシルオクチル基、3,7-ジメチルオクチル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、アダマンチル基、2-エチルデシル基、2-ブチルデシル基、2-ヘキシルデシル基、2-オクチルデシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、2-エチルドデシル基、2-ブチルドデシル基、2-ヘキシルドデシル基、2-オクチルデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、2-エチルヘキサデシル基、2-ブチルヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基等が挙げられる。これらの中でも、分岐状アルキル基が好ましく、イソプロピル基またはtert-ブチル基がより好ましく、tert-ブチル基がさらに好ましい。
【0104】
なお、「置換された炭素数1以上20以下のアルキル基」とは、無置換の炭素数が1以上20以下のアルキル基が、置換基によって置換されてなる基を表す。したがって、置換されたアルキル基の炭素数は20超であってもよい。
【0105】
上記(5c)の炭素数1以上20以下のアルコキシ基は、特に制限されず、アルコキシ基は直鎖状、分岐状、または環状であってもよい。これらの中でも、素子寿命の観点から、直鎖状であることが好ましい。アルコキシ基の炭素数は、素子寿命の観点から、1以上10以下であることが好ましい。また、アルコキシ基の炭素数は、同様の観点から、1以上8以下であることがより好ましく、1以上6以下であることがさらに好ましく、1であることが特に好ましい。アルコキシ基を構成するアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、上記のアルキル基の説明で述べたもの等が挙げられる。アルコキシ基の具体例としては、特に制限されないが、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基が好ましい。
【0106】
なお、「置換された炭素数1以上20以下のアルコキシ基」とは、無置換の炭素数が1以上20以下のアルコキシ基が、置換基によって置換されてなる基を表す。したがって、置換されたアルコキシ基の炭素数は20超であってもよい。
【0107】
上記(5d)の炭素数6以上20以下のアリールアミノ基の窒素原子は、上記化学式(5)において、環形成炭素原子と、単結合により結合する。なお、本明細書において、窒素原子を含む基であっても、当該窒素原子が複素環の環形成原子である場合には、当該基は、アリールアミノ基ではなく、後述する複素環基として取り扱うものとする。アリールアミノ基を構成するアリール基としては、特に制限されないが、例えば、後述する芳香族炭化水素基のうち、炭素数が6以上20以下である基が挙げられる。アリールアミノ基としては、特に制限されず、モノアリールアミノ基であっても、ジアリールアミノ基であってもよい。アリールアミノ基の具体例としては、特に制限されないが、N-フェニルアミノ基、N-ビフェニルアミノ基、N-テルフェニルアミノ基、N,N-ジフェニルアミノ基、N-ビフェニル-N-フェニルアミノ基が挙げられる。
【0108】
なお、「置換された炭素数6以上20以下のアリールアミノ基」とは、無置換の炭素数が6以上20以下のアリールアミノ基が、置換基によって置換されてなる基を表す。したがって、置換されたアリールアミノ基の炭素数は20超であってもよい。
【0109】
上記(5g)の芳香族炭化水素基とは、1以上の芳香族性を有する炭化水素環から誘導された基を表す。本明細書において、芳香族性を有する炭化水素環とは、一部または全体として、芳香族性を有する炭化水素環を表す。
【0110】
芳香族炭化水素基が2以上の芳香族性を有する炭化水素環を含む場合、これらの環は、互いに単結合で結合または縮合していてもよい。また、芳香族炭化水素基が2以上の芳香族性を有する炭化水素環を含む場合、1つの原子が、任意のこれらの環の環形成原子を兼ねていてもよい。
【0111】
芳香族炭化水素基の炭素数は、特に制限されないが、発光の色純度の観点から、6以上30以下であることが好ましい。また、芳香族炭化水素基の炭素数は、同様の観点から、6以上20以下であることがより好ましく、6以上12以下であることがさらに好ましく、6であることが特に好ましい。
【0112】
芳香族炭化水素基の具体例としては、特に制限されないが、フェニル基、メシチル基、t-ブチルフェニル基、ビス(t-ブチル)フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アントラセニル基、テルフェニル基、クォーターフェニル基、キンクフェニル基、セクシフェニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、ベンゾフルオレニル基、クリセニル基、およびこれらの組み合わせからなる基等が挙げられる。
【0113】
なお、「置換された芳香族炭化水素基」とは、無置換の芳香族炭化水素基が、置換基によって置換されてなる基を表す。したがって、芳香族炭化水素基が、例えば炭素数が30以下など、特定の炭素数の上限値以下のものである場合、置換された芳香族炭化水素基の炭素数は当該上限値を超えていてもよい。
【0114】
上記(5h)の複素環基とは、1以上の複素環から誘導された基を表す。複素環基としては、特に制限されず、芳香族複素環基であってもよく、非芳香族複素環基であってもよい。これらの中でも、発光の色純度の観点から、芳香族複素環基であることが好ましい。
【0115】
芳香族複素環基とは、1以上の芳香族性を有する複素環から誘導された基を表す。本明細書において、芳香族性を有する複素環とは、一部または全体として、芳香族性を有する複素環を表す。芳香族性を有する複素環の一部が芳香族性を有する場合、芳香族性は、当該環中の複素環部分に由来するものであってもよく、当該環中の炭化水素環部分に由来するものであってもよい。芳香族性を有する複素環としては、特に限定されないが、例えば、環形成原子として1以上のヘテロ原子(例えば、窒素原子(N)、酸素原子(O)、リン原子(P)、硫黄原子(S)、ケイ素原子(Si))を有し、残りの環形成原子が炭素原子(C)である環が挙げられる。なお、環構造を構成する炭素原子がケトン基(C=O基)やチオケトン基(C=S基)、C=NH基を構成する場合や、環構造を構成する硫黄原子がスルフィニル基(S=O基)やスルホニル基(S(=O)=O基)を構成する場合等、環構造を構成する原子が二重結合を介して環外の原子と結合する場合がある。この場合について、本願明細書では、環構造を構成する原子との間で二重結合を構成する環外の原子は、芳香族性を有する複素環の一部とする。また、二重結合を構成する環外の原子が単結合を介して水素原子と結合する場合は、当該水素原子も芳香族性を有する複素環の一部とする。芳香族性を有する複素環の具体例としては、特に制限されないが、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、ナフチリジン環、アクリジン環、フェナジン環、ベンゾキノリン環、ベンゾイソキノリン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、ベンゾキノン環、クマリン環、アントラキノン環、フルオレノン環、フラン環、チオフェン環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ピロール環、インドール環、カルバゾール環、インドロカルバゾール環、イミダゾ
ール環、ベンズイミダゾール環、ピラゾール環、インダゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイソチアゾール環、イミダゾリノン環、ベンズイミダゾリノン環、イミダゾピリジン環、イミダゾピリミジン環、イミダゾフェナントリジン環、ベンズイミダゾフェナントリジン環、アザジベンゾフラン環、アザカルバゾール環、アザジベンゾチオフェン環、ジアザジベンゾフラン環、ジアザカルバゾール環、ジアザジベンゾチオフェン環、キサントン環、チオキサントン環等が挙げられる。
【0116】
芳香族複素環基が2以上の芳香族性を有する複素環を含む場合、これらの環は、互いに単結合で結合または縮合していてもよい。また、一価の芳香族複素環基が2以上の芳香族性を有する複素環を含む場合、1つの原子が、任意のこれらの環の環形成原子を兼ねていてもよい。
【0117】
芳香族複素環基の環形成原子数(環形成炭素原子数および環形成ヘテロ原子数の合計)は、特に制限されないが、発光スペクトルのピーク波長および発光の色純度の観点から、3以上30以下であることが好ましい。また、芳香族複素環基の環形成原子数は、同様の観点から、5以上20以下であることがより好ましく、6以上14以下であることがさらに好ましい。芳香族複素環基の環形成ヘテロ原子数は、特に制限されないが、発光スペクトルのピーク波長および発光の色純度の観点から、1以上10以下であることが好ましい。また、芳香族複素環基の環形成ヘテロ原子数は、同様の観点から、1以上5以下であることがより好ましく、1以上3以下であることがさらに好ましい。なお、前述のように、環形成原子とは、環構造を直接形成する原子を表す。これより、環構造を構成する原子との間で二重結合を構成する環外の原子がある場合、当該原子は、環形成原子には含めないものとする。
【0118】
芳香族複素環基の具体例としては、特に制限されないが、チエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、トリアゾリル基、ピリジル基、ビピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基、アクリジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、キノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、フェノキサジニル基、フタラジニル基、ピリドピリミジニル基、ピリドピラジニル基、ピラジノピラジニル基、イソキノリニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、チエノチエニル基、ベンゾフラニル基、フェナントロリニル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、フェノチアジニル基、ジベンゾシロリル基、ジベンゾフラニル基、キサントニル基(xanthonyl基)等が挙げられる。
【0119】
また、非芳香族複素環基とは、1以上の非芳香族複素環から誘導された基を表す。本明細書において、非芳香族複素環は、一部としても全体としても、芳香族性を有さない複素環を表す。非芳香族複素環としては、特に限定されないが、例えば、環形成原子として1以上のヘテロ原子(例えば、窒素原子(N)、酸素原子(O)、リン原子(P)、硫黄原子(S)、ケイ素原子(Si))を有し、残りの環形成原子が炭素原子(C)である環が挙げられる。ヘテロ原子としては、発光スペクトルのピーク波長および発光の色純度の観点から、窒素原子(N)、酸素原子(O)が好ましい。なお、環構造を構成する炭素原子がケトン基(C=O基)やチオケトン基(C=S基)、C=NH基を構成する場合や、環構造を構成する硫黄原子がスルフィニル基(S=O基)やスルホニル基(S(=O)=O基)を構成する場合等、環構造を構成する原子が二重結合を介して環外の原子と結合する場合がある。この場合について、本願明細書では、環構造を構成する原子との間で二重結合を構成する環外の原子は、非芳香族複素環の一部とする。また、二重結合を構成する環
外の原子が単結合を介して水素原子と結合する場合、当該水素原子も、非芳香族複素環の一部とする。非芳香族複素環の具体例としては、特に制限されないが、ピロリジン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロチオフェン環、ピペリジン環、テトラヒドロピラン環、テトラヒドロチオピラン環、ジオキサン環、モルホリン環、ジオキソラン環等が挙げられる。
【0120】
非芳香族複素環基が2以上の非芳香族複素環を含む場合、これらの環は、互いに単結合で結合または縮合していてもよい。また、非芳香族複素環基が2以上の非芳香族複素環を含む場合、1つの原子が、任意のこれらの環の環形成原子を兼ねていてもよい。
【0121】
非芳香族複素環基の環形成原子数(環形成炭素原子数および環形成ヘテロ原子数の合計)は、特に制限されないが、発光スペクトルのピーク波長および発光の色純度の観点から、3以上30以下であることが好ましい。また、非芳香族複素環基の環形成原子数は、同様の観点から、5以上20以下であることがより好ましく、6以上14以下であることがさらに好ましい。非芳香族複素環基の環形成ヘテロ原子数は、特に制限されないが、発光スペクトルのピーク波長および発光の色純度の観点から、1以上10以下であることが好ましい。また、非芳香族複素環基の環形成ヘテロ原子数は、同様の観点から、1以上5以下であることがより好ましく、1以上3以下であることがさらに好ましい。なお、前述のように、環形成原子とは、環構造を直接形成する原子を表す。このことから、環構造を構成する原子との間で二重結合を構成する環外の原子がある場合、当該原子は、環形成原子には含めないものとする。
【0122】
非芳香族複素環基の具体例としては、特に制限されないが、ピロリジニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチエニル基、ピぺリジニル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチオピラニル基、ジオキサニル基、モルホニル基、ジオキソラニル基等が挙げられる。
【0123】
なお、「置換された一価の複素環基」とは、無置換の一価の複素環基が、置換基によって置換されてなる基を表す。したがって、一価の複素環基が、例えば環形成原子数が30以下など、特定の環形成原子数の上限値以下のものであって、かつ、置換基が環構造を構成する場合、置換された一価の複素環基の環形成原子数は当該上限値を超えていてもよい。
【0124】
上記化学式(5)において、上記(5b)~上記(5h)の基が置換された基である場合、これらの基を置換する置換基は、特に制限されない。例えば、上記(5a)~上記(5h)の基であってもよい。
【0125】
上記化学式(5)において、Ar51は、芳香族炭化水素基および複素環基のうちの少なくとも一方を基であれば、特に制限されない。例えば、置換された、または無置換の芳香族炭化水素基、置換された、または無置換の複素環基、1以上の置換された、または無置換の芳香族炭化水素基と、1以上の置換された、または無置換の複素環基とが単結合を介して結合してなる基、2以上の、置換された、もしくは無置換の芳香族炭化水素基、または置換された、もしくは無置換の複素環基が、これらの基以外の連結基を介して結合してなる基等が挙げられる。
【0126】
ここで、2以上の、置換された、もしくは無置換の芳香族炭化水素基、または置換された、もしくは無置換の複素環基が、これらの基以外の連結基を介して結合してなる基において、当該連結基は、特に制限されない。具体例としては、Si基、N基、P=O基、S(=O)=O基、C=O基等が挙げられる。
【0127】
上記化学式(5)において、Ar51を構成する基が置換された基である場合、これらの基を置換する置換基は、特に制限されない。例えば、上記(5a)~上記(5h)の基であってもよい。これらの基を置換する置換基の具体例としては、特に制限されないが、シアノ基、無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基で置換された環形成原子数3以上30以下の一価の複素環基等が挙げられる。
【0128】
上記(5b)~上記(5h)の基の置換基、Ar51を構成する基の置換基における、炭素数2以上30以下のアルケニル基は、特に制限されず、直鎖状、分岐状、または環状であってもよい。アルケニル基の具体例としては、特に制限されないが、例えば、
ビニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、1-メチル-3-ブテニル基、2-メチル-3-ブテニル基、3-メチル-3-ブテニル基、1,1-ジメチル-2-プロペニル基、1,2-ジメチル-2-プロペニル基、1-エチル-2-プロペニル基等が挙げられる。
【0129】
mは、1、2、3または4であることが好ましく、2であることがより好ましい。
【0130】
カルバゾール環構造を有する化合物の中でも、置換されたシリル基を含有する化合物(置換されたシリル基を有するカルバゾール環構造を有する化合物)が好ましく、トリフェニルシリル基を有する化合物(トリフェニルシリル基を有するカルバゾール環構造を有する化合物)がより好ましい。
【0131】
以下、本発明の一実施形態に係るホスト材料であるカルバゾール環構造を有する化合物、およびカルバゾール環の環形成炭素原子の1以上が窒素原子に置換されてなる環構造を有する化合物を具体的に例示する。ただし、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
本発明の好ましい一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料としては、上記の青色発光化合物と、上記の燐光錯体と、ホスト材料とを含み、ホスト材料は、上記化学式(5)で表される構造を有する化合物を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料が挙げられる。本発明のより好ましい一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料としては、上記の青色発光化合物と、上記の燐光錯体と、ホスト材料とを含み、ホスト材料は、上記化学式(5)で表される構造を有する化合物を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料が挙げられる。また、後述する有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい一実施形態としては、上記蛍光発光剤または上記青色発光化合物と、ホスト材料とを含み、当該ホスト材料は、上記化学式(5)で表される構造を有し、かつ置換基としてトリフェニルシリル基を有する化合物を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子が挙げられる。
【0141】
上記のトリアジン環構造を有する化合物としては、特に制限されないが、下記化学式(6)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【0142】
【0143】
上記化学式(6)中、
Ar61~Ar63は、それぞれ独立して、置換された、もしくは無置換の芳香族炭化水素基、または置換された、もしくは無置換の複素環基である。
【0144】
上記化学式(6)において、芳香族炭化水素基および複素環基は、上記の説明と同様である。
【0145】
上記化学式(6)における、芳香族炭化水素基または複素環基を置換する置換基としては、特に制限されないが、上記化学式(5)の上記(5b)~上記(5h)の基を置換する置換基として挙げられているものが好ましい。
【0146】
トリアジン環構造を有する化合物の中でも、置換されたシリル基を含有する化合物(置換されたシリル基を有するトリアジン環構造を有する化合物)が好ましく、トリフェニルシリル基を含有する化合物(トリフェニルシリル基を有するトリアジン環構造を有する化合物)がより好ましい。
【0147】
なお、トリアジン環構造を有する化合物は、上記のカルバゾール環構造を有する化合物、または上記のカルバゾール環の環形成炭素原子の1以上が窒素原子に置換されてなる環構造を有する化合物と併用することが好ましい。
【0148】
以下、本発明の一実施形態に係るホスト材料であるトリアジン環構造を有する化合物を具体的に例示する。ただし、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
【0149】
【0150】
本発明の好ましい一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料としては、上記の青色発光化合物と、上記の燐光錯体と、ホスト材料とを含み、ホスト材料は、上記化学式(6)で表される構造を有する化合物を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料が挙げられる。また、本発明の他の好ましい一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料としては、上記の青色発光化合物と、上記の燐光錯体と、ホスト材料とを含み、ホスト材料は、トリフェニルシリル基を有する化合物を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料が挙げられる。さらに、本発明の他の好ましい一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料としては、上記の青色発光化合物と、上記の燐光錯体と、ホスト材料とを含み、ホスト材料は、上記化学式(5)で表される構造を有する化合物と、上記化学式(6)で表される構造を有する化合物とを含む、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料が挙げられる。さらに、本発明の他の好ましい一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料としては、上記の青色発光化合物と、上記の燐光錯体と、ホスト材料とを含み、ホスト材料は、上記化学式(5)で表される構造を有し、かつ置換基としてトリフェニルシリル基をする化合物と、上記化学式(6)で表される構造を有し、かつ置換基としてトリフェニルシリル基を有する化合物とを含む、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料が挙げられる。
【0151】
また、後述する有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい一実施形態としては、上上記青色発光化合物と、上記燐光錯体と、上記ホスト材料とを含み、当該ホスト材料は、上記化学式(6)で表される構造を有する化合物を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子が挙げられる。有機エレクトロルミネッセンス素子のより好ましい一実施形態としては、上記青色発光化合物と、上記燐光錯体と、上記ホスト材料とを含み、当該ホスト材料は、上記化学式(5)で表される構造を有する化合物と、上記化学式(6)で表される構造を有する化合物とを含む、有機エレクトロルミネッセンス素子が挙げられる。有機エレクトロルミネッセンス素子のさらに好ましい一実施形態としては、上記青色発光化合物と、上記燐光錯体と、上記ホスト材料とを含み、当該ホスト材料は、上記化学式(5)で表される構造を有し、かつ置換基としてトリフェニルシリル基をする化合物と、上記化学式(6)で表される構造を有し、かつ置換基としてトリフェニルシリル基を有する化合物とを含む、有機エレクトロルミネッセンス素子が挙げられる。
【0152】
さらに、発光層は、公知のホスト材料を含んでいてもよい。その例としては、例えば、DPEPO(ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルオキシド)、CBP(4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル)、mCBP(3,3’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル)、mCP(1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン)、PPF(2,8-ビス(ジフェニルホスホリル)ジベンゾ[b,d]フラン)、TcTa(4,4’,4’’-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン)、およびTPBi(1,3,5-トリス(N-フェニルベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼン)のうち少なくとも1つを含んでもよい。ただし、これに限らず、例えば、Alq3(トリス(8-ヒドロキシキノリノ)アルミニウム)、PVK(ポリ(n-ビニルカルバゾール)、ADN(9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン)、TCTA(4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)-トリフェニルアミン)、TPBi(1,3,5-トリス(N-フェニルベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼン)、TBADN(3-tert-ブチル-9,10-ジ(ナフト-2-イル)アントラセン)、DSA(ジスチリルアリレン)、CDBP(4,4’-ビス(9-カルバゾリル)-2,2’-ジメチル-ビフェニル)、MADN(2-メチル-9,10-ビス(ナフタレン-2-イル)アントラセン)、CP1(ヘキサフェニルシクロトリホスファゼン)、UGH2(1,4-ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン)、DPSiO3(ヘキサフェニルシクロトリシロキサン)、DPSiO4(オクタフェニルシクロテトラシロキサン)、PPF(2,8-ビス(ジフェニルホスホリル)ジベンゾフラン)等を含んでいてもよい。
【0153】
本発明においては、上記したように、ホスト材料としてアントラセン環構造を有する化合物を用いることが好ましい。すなわち、上記の公知のホスト材料の中でも、ADN(9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン)、TBADN(3-tert-ブチル-9,10-ジ(ナフト-2-イル)アントラセン)、MADN(2-メチル-9,10-ビス(ナフタレン-2-イル)アントラセン)がさらに好ましい。
【0154】
なお、発光層が燐光錯体を含む場合、当該発光層はアントラセン環構造を有する化合物を含まない。
【0155】
また、発光層は、公知のドーパント材料を含んでいてもよい。例えば、スチリル誘導体(例えば、1,4-ビス[2-(3-N-エチルカルバゾリル)ビニル]ベンゼン(BCzVB)、4-(ジ-p-トリルアミノ)-4’-[(ジ-p-トリルアミノ)スチリル]スチルベン(DPAVB)、N-(4-((E)-2-(6-((E)-4-(ジフェニルアミノ)スチリル)ナフタレン-2-イル)ビニル)フェニル)-N-フェニルベンゼンアミン(N-BDAVBi)、ペリレンおよびその誘導体(例えば、2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン(TBP))、ピレンおよびその誘導体(例えば、1,1-ジピレン、1,4-ジピレニルベンゼン、1,4-ビス(N,N-ジフェニルアミノ)ピレン)、2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン(TBP))等を含んでいてもよい。
【0156】
上記有機エレクトロルミネッセンス素子用材料が、発光層用材料である場合、発光層用材料の総質量に対する上記のホスト材料の含有量は、特に制限されないが、50質量%以上であることが好ましい。また、当該含有量は、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上がさらにより好ましく、95質量%以上が特に好ましく、98質量%以上が最も好ましい。また、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料(特に、発光層用材料)の総質量に対する上記のホスト材料の含有量は、特に制限されないが、99.95質量%以下であることが好ましく、また、当該含有量は、99.9質量%以下であることがより好ましく、99.8質量%以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、発光の色純度に優れ、高い発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。
【0157】
有機エレクトロルミネッセンス素子用材料がホスト材料を含む場合、その含有量は、上記の青色発光化合物100質量部に対して、1000質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、上記の青色発光化合物100質量部に対して、2000質量部以上であることがより好ましく、3000質量部以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、発光の色純度に優れ、高い発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。また、ホスト材料の含有量は、特に制限されないが、上記の青色発光化合物100質量部に対して、200000質量部以下であることが好ましい。また、当該含有量は、上記の青色発光化合物100質量部に対して、150000質量部以下であることがより好ましく、100000質量部以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、発光の色純度に優れ、高い発光効率の有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。なお、後述する有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層中の、上記の青色発光化合物100質量部に対するホスト材料の好ましい含有量(質量部)も上記と同様である。
【0158】
<液状組成物>
本発明の他の一形態は、上記の青色発光化合物、上記の蛍光発光剤、または上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料と、溶剤とを含む、液状組成物に関する。
【0159】
溶剤としては、特に限定されないが、大気圧(101.3kPa、1atm)における沸点が100℃以上350℃以下である溶剤であることが好ましい。溶剤の大気圧における沸点は、150℃以上320℃以下であることがより好ましく、180℃以上300℃以下であることがさらに好ましい。溶剤の大気圧における沸点が上記範囲であると、湿式成膜法、特にインクジェット法における成膜性や工程性が向上する。大気圧における沸点が100℃以上350℃以下である溶剤は、特に制限されず、公知の溶剤を適宜採用することができる。以下に、大気圧における沸点が100℃以上350℃以下である溶剤を具体的に例示するが、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。炭化水素系溶剤としては、オクタン(octane)、ノナン(nonane)、デカン(decane)、ウンデカン(undecane)、ドデカン(dodecane)等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤としては、トルエン(toluene)、キシレン(xylene)、エチルベンゼン(ethylbenzene)、n-プロピルベンゼン(n-propylbenzene)、iso-プロピルベンゼン(iso-プロピルベンゼン(n-propylbenzene)、メシチレン(mesitylene)、n-ブチルベンゼン(n-butylbenzene)、sec-ブチルベンゼン(sec-butylbenzene)、1-フェニルペンタン(1-phenylpentane)、2-フェニルペンタン(2-phenylpentane)、3-フェニルペンタン(3-phenylpentane)、フェニルシクロペンタン(phenylcyclopentane)、フェニルシクロヘキサン(phenylcyclohexane)、2-エチルビフェニル(2-ethylbiphenyl)、3-エチルビフェニル(3-ethylbiphenyl)等が挙げられる。エーテル系溶剤としては、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)、1,2-ジエトキシエタン(1,2-diethoxyethane)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(diethyleneglycoldimethylether)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(diethyleneglycoldiethylether)、アニソール(anisole)、エトキシベンゼン(ethoxybenzene)、3-メチルアニソール(3-Methylanisole)、m-ジメトキシベンゼン(m-dimethoxybenzene)等が挙げられる。ケトン系溶剤としては、2-ヘキサノン(2-hexanone)、3-ヘキサノン(3-hexanone)、シクロヘキサノン(cyclohexanone)、2-ヘプタノン(2-heptanone)、3-ヘプタノン(3-heptanone)、4-ヘプタノン(4-heptanone)、シクロヘプタノン(cycloheptanone)等が挙げられる。エステル系溶剤としては、酢酸ブチル(butylacetate)、プロピオン酸ブチル(butylpropionate)、酪酸ブチル(butylbutyrate)、プロピレンカーボネート(propylenecarbonate)、メチルベンゾエート(安息香酸メチル)(methylbenzoate)、エチルベンゾエート(ethylbenzoate)、1-プロピルベンゾエート(1-propylbenzoate)、1-ブチルベンゾエート(1-butylbenzoate)等が挙げられる。ニトリル系溶剤としては、ベンゾニトリル(benzonitrile)、3-メチルベンゾニトリル(3-methylbenzonitrile)等が挙げられる。アミド系溶剤としては、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide)、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide)、N-メチルピロリドン(methylpyrrolidone)等が挙げられる。これらの溶剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0160】
本発明の一実施形態において、液状組成物中の上記の青色発光化合物、上記の蛍光発光剤または上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料の含有量は、特に制限されない。
【0161】
本発明の一実施形態において、液状組成物は、有機エレクトロルミネッセンス素子の有機層形成用塗布液として用いられることが好ましい。また、当該液状組成物は、有機層形成用塗布液の中でも、発光層形成用塗布液として用いられることが好ましい。
【0162】
[有機エレクトロルミネッセンス素子]
本発明の他の一形態は、上記の青色発光化合物または上記の蛍光発光剤(青色発光化合物および燐光錯体)を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子では、上記の青色発光化合物または上記の蛍光発光剤と、上記のホスト材料とを含むことが好ましい。この際、上記の蛍光発光剤に含まれる燐光錯体は、白金錯体であることがより好ましい。
【0163】
また、本発明の他の一形態は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子では、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、上記のホスト材料をさらに含むことが好ましい。そして、有機エレクトロルミネッセンス素子では、これに含まれる上記の燐光錯体は、白金錯体であることがより好ましい。
【0164】
有機エレクトロルミネッセンス素子では、これに含まれる上記のホスト材料は、上記のカルバゾール環構造を有する化合物、上記のカルバゾール環の環形成炭素原子の1以上が窒素原子に置換されてなる環構造を有する化合物、上記のトリアジン環構造を有する化合物、またはアントラセン環構造を有する化合物であることが好ましい。また、有機エレクトロルミネッセンス素子では、これに含まれる上記のホスト材料は、上記化学式(5)で表される構造を有する化合物を含むことが好ましい。また、有機エレクトロルミネッセンス素子では、これに含まれる上記のホスト材料は、上記化学式(6)で表される構造を有する化合物を含むことが好ましい。そして、有機エレクトロルミネッセンス素子では、これに含まれる上記のホスト材料は、上記化学式(5)で表される構造を有する化合物と、上記化学式(6)で表される構造を有する化合物とを含むことがさらに好ましい。有機エレクトロルミネッセンス素子では、これに含まれる上記のホスト材料は、上記化学式(5)で表される構造を有し、かつ置換基としてトリフェニルシリル基をする化合物と、上記化学式(6)で表される構造を有し、かつ置換基としてトリフェニルシリル基を有する化合物とを含むことがよりさらに好ましい。
【0165】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子では、これに含まれる上記の燐光錯体は、上記化学式(4)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
【0166】
本発明の一実施形態による有機エレクトロルミネッセンス素子は、特に制限されないが、例えば、第1電極、第2電極、および単一または複数の有機層を含む。第2電極は第1電極の上に配置される。
【0167】
本明細書において、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」または「上部に」あるとする場合、これは他の部分の「直上」にある場合だけでなく、その中間に他の部分がある場合も含む。逆に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「下に」または「下部に」にあるとする場合、これは他の部分の「直下」にある場合だけでなく、その中間に他の部分がある場合も含む。また、本出願において、「上に」配置されるとは、上部だけでなく下部または下側の面に配置される場合も含む。
【0168】
本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、第1電極、第2電極、ならびに第1電極および第2電極の間に配置された単一または複数の層を備える。ここで、層は、少なくとも1つの有機層を含み、有機層のうちの少なくとも1つは、上記の青色発光化合物、上記の蛍光発光剤、または上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含むことが好ましい。上記の青色発光化合物、上記の蛍光発光剤、または上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含む有機層は、発光層を含むことが好ましい。これらの有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、高色純度の発光を実現することができる。
【0169】
このように、発光層は、少なくとも1つの上記の青色発光化合物を含むことが好ましい。
【0170】
発光層は、単一の物質からなる単一の層であってもよく、複数の互いに異なる物質からなる単一の層であってもよい。また、発光層は、複数の互いに異なる物質からなる複数の層を有する多層構造であってもよい。
【0171】
発光層は、特に制限されないが、例えば、ホスト材料およびドーパント材料を含んでいてもよい。上記の青色発光化合物、および上記の蛍光発光剤は、ホスト材料として用いても、ドーパント材料として用いてもよいが、ドーパント材料として用いることが好ましい。
【0172】
これらのことから、本発明の好ましい一実施形態としては、発光層を含み、当該発光層は、上記の青色発光化合物、上記の蛍光発光剤または上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子が挙げられる。より具体的には、本発明の好ましい一実施形態は、発光層を含み、当該発光層は、上記の青色発光化合物および燐光錯体を含む有機エレクトロルミネッセンス素子である。本発明の他の好ましい一実施形態は、発光層を含み、当該発光層は、上記の青色発光化合物および燐光錯体を含み、当該燐光錯体は白金錯体である有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0173】
発光層は、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料から構成されることがより好ましい。発光スペクトルのピーク波長、発光の色純度、発光効率、そして素子寿命の観点から、当該有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、上記の青色発光化合物に加えて、上記のホスト材料を含むことが好ましい。同様の観点から、発光層に含まれる当該有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、上記の青色発光化合物に加えて、上記の燐光錯体および上記のホスト材料を含むことがより好ましい。また、発光層における上記の青色発光化合物、上記の燐光錯体および上記のホスト材料の含有量や含有量比の好ましい範囲は、それぞれ、上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料における好ましい含有量や含有量比と同様である。
【0174】
発光層の厚さは、特に制限されないが、1nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0175】
発光層の成膜方法は、特に制限されないが、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、LB法(Langmuir-Blodgett)、インクジェットプリント法、レーザプリント法、レーザ熱転写法(Laser Induced Thermal Imaging、LITI)等の公知の成膜方法が挙げられる。
【0176】
有機エレクトロルミネッセンス素子の発光波長は、特に制限されない。有機エレクトロルミネッセンス素子の発光波長の好ましい範囲は、例えば、本発明に係る青色発光化合物のPLにおける発光のピーク波長と同様である。これらの中でも、現在、商業化されている製品の仕様からは、青色発光の場合、445nm以上470nm以下の波長領域にピークを有する光を発光することが好ましく、450nm以上470nm以下の波長領域にピークを有する光を発光することが特に好ましく、450nm以上465nm以下の波長領域にピークを有する光を発光することが極めて好ましい。
【0177】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光スペクトルのピークの半値幅FWHM(Full Width at half Maximum)は、小さいほど好ましい。また、当該発光スペクトルのピークの半値幅FWHMは、30nm以下であることが好ましく、25nm以下であることがより好ましい。そして、20nm以下であることがさらに好ましい(下限値0nm超)。
【0178】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子が発光層以外の有機層をさらに有する場合について、詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0179】
図2~
図4は、それぞれ、本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す断面模式図である。しかしながら、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の構造は、
図2~
図4に示す形態に限定されるものではない。
【0180】
図2は、本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す断面模式図である。本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子10は、順番に積層された基板1、第1電極2、正孔輸送領域3、発光層4、電子輸送領域5、および第2電極6を含む。
【0181】
図3は、本発明の他の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す断面模式図である。本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子10は、順番に積層された基板1、第1電極2、正孔輸送領域3、発光層4、電子輸送領域5、および第2電極6を含む。
図3では、正孔輸送領域3は、順番に積層された正孔注入層31および正孔輸送層32を含む。また、
図2では、電子輸送領域5は、順番に積層された電子輸送層52および電子注入層51を含む。
【0182】
図4は、本発明のその他の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す断面模式図である。本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子10は、順番に積層された基板1、第1電極2、正孔輸送領域3、発光層4、電子輸送領域5、および第2電極6を含む。
図4では、正孔輸送領域3は、順番に積層された正孔注入層31、正孔輸送層32、および電子阻止層33を含む。また、
図4では、電子輸送領域5は、順番に積層された正孔阻止層53、電子輸送層52、および電子注入層51を含む。
【0183】
以下、基板、ならびに各領域および各層について詳細に説明する。
【0184】
(基板1)
有機エレクトロルミネッセンス素子10は、基板1を有していてもよい。基板1は、一般的な有機エレクトロルミネッセンス素子で使用される基板を使用することができる。例えば、基板1は、ガラス(glass)基板、シリコン(silicon)基板などの半導体基板、または透明なプラスチック(plastic)基板等であってもよい。
【0185】
(第1電極2)
第1電極2は、導電性を有する。本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子において、第1電極2は正極であることが好ましい。また、第1電極2は画素電極であることが好ましい。そして、第1電極2は、透過型電極、半透過型電極、または反射型電極であることが好ましい。
【0186】
第1電極2を構成する材料としては、特に制限されないが、例えば、金属、金属合金または導電性化合物等が挙げられる。第1電極2が透過型電極であれば、第1電極2は透明金属酸化物、例えば、ITO(indium tin oxide)、IZO(indium zinc oxide)、ZnO(zinc oxide)、ITZO(indium tin zinc oxide)等を含むことが好ましい。また、第1電極2が半透過型電極または反射型電極であれば、第1電極2はAg、Mg、Cu、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、Li、Ca、LiF/Ca、LiF/Al、Mo、Ti、またはこれらの化合物や混合物(例えば、AgとMgの混合物)等を含むことが好ましい。
【0187】
第1電極2は、単一の物質からなる単一の層であってもよく、複数の互いに異なる物質からなる単一の層であってもよい。また、第1電極2は、複数の互いに異なる物質からなる複数の層を有する多層構造であってもよい。
【0188】
第1電極2の厚さは、特に制限されないが、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、50nm以上300nm以下であることがより好ましい。
【0189】
(正孔輸送領域3)
正孔輸送領域3は第1電極2の上に提供される。正孔輸送領域3は、正孔注入層31、正孔輸送層32、正孔バッファ層(図示せず)、および電子阻止層33のうち少なくとも一つを含む。
【0190】
正孔輸送領域3は、単一の物質からなる単一の層であってもよく、複数の互いに異なる物質からなる単一の層であってもよい。また、正孔輸送領域3は、複数の互いに異なる物質からなる複数の層を有する多層構造であってもよい。
【0191】
例えば、正孔輸送領域3は、正孔注入層31または正孔輸送層32の単一の層の構造を有していてもよい。また、例えば、正孔輸送領域3は、正孔注入材料および正孔輸送材料で形成された単一の層の構造を有していてもよい。また、例えば、正孔輸送領域3は、第1電極2から順番に積層された、正孔注入層31/正孔輸送層32の構造を有していてもよい。また、例えば、正孔輸送領域3は、正孔注入層31/正孔輸送層32/正孔バッファ層(図示せず)の構造を有していてもよい。また、例えば、正孔輸送領域3は、第1電極2から順番に積層された、正孔注入層31/正孔バッファ層(図示せず)の構造を有していてもよい。また、例えば、正孔輸送領域3は、第1電極2から順番に積層された、正孔輸送層32/正孔バッファ層(図示せず)の構造を有していてもよい。また、例えば、正孔輸送領域3は、第1電極2から順番に積層された、正孔注入層31/正孔輸送層32/電子阻止層33の構造を有していてもよい。ただし、正孔輸送領域の構造はこれらに限定されるものではない。
【0192】
正孔注入層31や、その他の正孔輸送領域3を構成する各層は、特に制限されないが、例えば、公知の正孔注入材料を含んでいてもよい。正孔注入材料として、例えば、銅フタロシアニンなどのフタロシアニン化合物、DNTPD(N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス-[4-(フェニル-m-トリル-アミノ)-フェニル]-ビフェニル-4,4’-ジアミン)、m-MTDATA(4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、TDATA(4,4’,4”-トリス(N,N-ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、2-TNATA(4,4’,4”-トリス{N,-(2-ナフチル)-N-フェニルアミノ}-トリフェニルアミン)、PEDOT/PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルフォナート))、PANI/DBSA(ポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸)、PANI/CSA(ポリアニリン/カンファースルホン酸)、PANI/PSS(ポリアニリン)/ポリ(4-スチレンスルフォナート)、NPB(N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン)、トリフェニルアミンを含むポリエテールケトン(TPAPEK)、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、HAT-CN(ジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル)、F6-TCNNQ(1,3,4,5,7,8-ヘキサフルオロテトラシアノ-2,6-ナフトキノジメタン)等が挙げられる。
【0193】
また、正孔輸送層32や、その他の正孔輸送領域3を構成する各層は、特に制限されないが、例えば、公知の正孔輸送材料を含んでいてもよい。正孔輸送材料としては、例えば、N-フェニルカルバゾール、ポリビニルカルバゾールなどのカルバゾール系誘導体、フルオレン系誘導体、TPD(N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-[1,1-ビフェニル]-4,4’-ジアミン)、TCTA(4,4’,4”-トリス(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン)等のトリフェニルアミン系誘導体、NPB(N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン)、TAPC(4,4’-シクロへキシリデンビス[N,N-ビス(4-メチルフェニル)ベンゼンアミン])、HMTPD(4,4’-ビス[N,N’-(3-トリル)アミノ]-3,3’-ジメチルビフェニル)、mCP(1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン)、下記の化合物HTM1、下記の化合物HTM2、下記の化合物HT1等が挙げられる。
【0194】
【0195】
正孔輸送領域3は、上述した正孔注入材料や正孔輸送材料以外にも、導電性を向上するために電荷生成物質をさらに含んでいてもよい。電荷発生物質は、正孔輸送領域3内、またはこれを構成する各層内に、均一にまたは不均一に分散される。電荷発生物質としては、特に制限されないが、例えば、公知の電荷発生物質が挙げられる。電荷発生物質としては、例えば、p-ドーパント(dopant)等が挙げられる。p-ドーパントとしては、例えば、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)、F4-TCNQ(2,3,5,6-テトラフルオロ-テトラシアノキノジメタン)等のキノン誘導体、タングステン酸化物、モリブデン酸化物等の金属酸化物、シアノ基含有化合物等が挙げられる。
【0196】
正孔バッファ層(図示せず)は、発光層4から放出される光の波長による共振距離を補償して光放出効率を増加させる。正孔バッファ層(図示せず)に含まれる材料としては、特に制限されず、正孔バッファ層(図示せず)に使用される材料を使用することができる。例えば、上述したような正孔輸送領域3に含まれうる化合物を使用することができる。
【0197】
電子阻止層33は、電子輸送領域5から正孔輸送領域3への電子の注入を防止する役割をする層である。電子阻止層33に含まれる材料としては、特に制限されず、公知の電子阻止層33に使用される材料を使用することができる。例えば、上記の発光層(有機エレクトロルミネッセンス素子用材料)に含まれるホスト材料等が挙げられ、ホスト材料である上記の化合物H55、H86、H87等が好ましい一例として挙げられる。
【0198】
正孔輸送領域3の厚さは、特に制限されないが、1nm以上1000nm以下であることが好ましく、10nm以上500nm以下であることがより好ましい。また、正孔輸送領域3を構成する各層については、正孔注入層31の厚さは、特に制限されないが、3nm以上200nm以下であることが好ましい。正孔輸送層32の厚さは、特に制限されないが、3nm以上200nm以下であることが好ましい。電子阻止層33の厚さは、特に制限されないが、1nm以上100nm以下であることが好ましい。なお、正孔バッファ層(図示せず)の厚さは、正孔バッファ層の機能を発揮しつつ、有機エレクトロルミネッセンス素子としての機能を妨げない範囲であれば、特に制限されない。正孔輸送領域3、正孔注入層31、正孔輸送層32、または電子阻止層33の厚さが上記範囲を満たす場合、実質的な駆動電圧の上昇を抑制しつつ、より良好な正孔輸送特性が得られる。
【0199】
正孔輸送領域3や、これを構成する各層の成膜方法は、特に制限されないが、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、LB法、インクジェットプリント法、レーザプリント法、レーザ熱転写法等の公知の成膜方法が挙げられる。
【0200】
(発光層4)
発光層4は正孔輸送領域3の上に配置される。発光層4の詳細は、上記説明した通りである。
【0201】
(電子輸送領域5)
電子輸送領域5は発光層4の上に配置される。電子輸送領域5は、電子注入層51、電子輸送層52および正孔阻止層53のうち少なくとも一つを含むが、実施形態はこれに限定されない。
【0202】
電子輸送領域5は、単一の物質からなる単一の層であってもよく、複数の互いに異なる物質からなる単一の層であってもよい。また、電子輸送領域5は、複数の互いに異なる物質からなる複数の層を有する多層構造であってもよい。例えば、電子輸送領域5は、電子注入層51または電子輸送層52の単一の層の構造を有していてもよい。また、例えば、電子輸送領域5は、電子注入材料および電子輸送材料からなる単一の層の構造を有していてもよい。また、例えば、電子輸送領域5は、発光層4から順番に積層された、電子輸送層52/電子注入層51の構造を有していてもよい。また、例えば、電子輸送領域5は、発光層4から順番に積層された、正孔阻止層53/電子輸送層52/電子注入層51の構造を有していてもよい。ただし、電子輸送領域5の構造はこれらに限定されるものではない。
【0203】
電子注入層51や、その他の電子輸送領域5を構成する各層は、特に制限されないが、例えば、公知の電子注入材料を含んでいてもよい。電子注入材料としては、例えば、LiF、LiQ(Lithum quinolate)、Li2O、BaO、NaCl、CsF、Ybのようなランタン族金属、またはRbClのようなハロゲン化金属等が挙げられる。電子注入層51は、特に制限されないが、例えば、後述する電子輸送物質と、絶縁性の有機金属塩とを含んでいてもよい。有機金属塩としては、特に制限されないが、例えば、エネルギーバンドギャップが4eV以上の物質であってもよい。有機金属塩としては、例えば、有機金属塩は、酢酸金属塩、安息香酸金属塩、アセト酢酸金属塩、アセチルアセトナート金属塩、またはステアリン酸金属塩等が挙げられる。
【0204】
電子輸送層52や、その他の電子輸送領域5を構成する各層は、特に制限されないが、例えば、公知の電子輸送材料を含んでいてもよい。電子輸送材料としては、例えば、アントラセン系化合物、Alq3(トリス(8-ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム)、1,3,5-トリ[(3-ピリジル)-フェン-3-イル]ベンゼン、2,4,6-トリス(3’-ピリジン-3-イル)ビフェニル-3-イル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-(N-フェニルベンゾイミダゾリル-1-イルフェニル)-9,10-ジナフチルアントラセン、TPBi(1,3,5-トリ(1-フェニル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)フェニル)、BCP(2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)、Bphen(4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)、TAZ(3-(4-ビフェニル)-4-フェニル-5-tert-ブチルフェニル-1,2,4-トリアゾール)、NTAZ(4-(ナフタレン-1-イル)-3,5-ジフェニル-4H-1,2,4-トリアゾール)、tBu-PBD(2-(4-ビフェニル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール)、BAlq(ビス(2-メチル-8-キノリノラト-N1,O8)-(1,1’-ビフェニル-4-オラト)アルミニウム)、Bebq2(ベリリウムビス(ベンゾキノリン-10-オラト)、ADN(9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン)、LiQ(Lithum quinolate)、下記の化合物ET1等が挙げられる。また、TRE314(東レ株式会社製、電子輸送材料)等が挙げられる。
【0205】
【0206】
正孔阻止層53は、正孔輸送領域3から電子輸送領域5への正孔の注入を防止する役割をする層である。正孔阻止層53に含まれる材料としては、特に制限されず、公知の正孔阻止層53に使用される材料を使用することができる。正孔阻止層53は、例えば、公知の正孔阻止材料を含んでいてもよい。正孔阻止材料としては、例えば、BCP(2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)、BPhen(4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)等が挙げられる。また、例えば、上記の発光層(有機エレクトロルミネッセンス素子用材料)に含まれるホスト材料等が挙げられ、ホスト材料である上記の化合物H77、H87等が好ましい一例として挙げられる。
【0207】
電子輸送領域5の厚さは、特に制限されないが、0.1nm以上200nm以下であることが好ましく、30nm以上150nm以下であることがより好ましい。また、電子輸送領域5を構成する各層については、電子輸送層52の厚さは、特に制限されないが、10nm以上100nm以下であることが好ましく、15nm以上50nm以下であることがより好ましい。正孔阻止層53の厚さは、特に制限されないが、1nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上30nm以下であることがより好ましい。電子注入層51の厚さは、特に制限されないが、例えば、0.1nm以上10nm以下であることが好ましく、0.3nm以上9nm以下であることがより好ましい。電子注入層51の厚さが上記範囲である場合、実質的な駆動電圧の上昇を抑制しつつ、より良好な電子注入特性が得られる。また、電子輸送領域5、電子注入層51、電子輸送層52または正孔阻止層53の厚さが上記範囲である場合、実質的な駆動電圧の上昇を抑制しつつ、より良好な電子輸送特性が得られる。
【0208】
電子輸送領域5や、これを構成する各層の成膜方法は、特に制限されないが、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、LB法、インクジェットプリント法、レーザプリント法、レーザ熱転写法等の公知の成膜方法が挙げられる。
【0209】
第2電極6は、電子輸送領域5の上に配置される。第2電極6は、導電性を有する。本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子において、第2電極6は、共通電極または負極であることが好ましい。そして、第2電極6は、透過型電極、半透過型電極、または反射型電極であることが好ましい。
【0210】
第2電極6を構成する材料としては、特に制限されないが、例えば、金属、金属合金または導電性化合物等が挙げられる。第2電極6が透過型電極であれば、第2電極6は、透明金属酸化物、例えば、ITO、IZO、ZnO、ITZO等を含むことが好ましい。第2電極6が半透過型電極または反射型電極であれば、第2電極6は、Ag、Mg、Cu、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、Li、Ca、LiF/Ca、LiF/Al、Mo、Ti、またはこれらを含む化合物や混合物(例えば、AgとMgの混合物)等を含むことが好ましい。
【0211】
第2電極6は、単一の物質からなる単一の層であってもよく、複数の互いに異なる物質からなる単一の層であってもよい。また、第2電極6は、複数の互いに異なる物質からなる複数の層を有する多層構造であってもよい。
【0212】
第2電極6の厚さは、特に制限されないが、10nm以上1000nm以下であることが好ましい。
【0213】
第2電極6は、補助電極(図示せず)と連結されていてもよい。第2電極6が補助電極と連結されることで、第2電極6の抵抗をより減少させることができる。
【0214】
また、第2電極6の上には、キャッピング層(図示せず)がさらに配置されていてもよい。キャッピング層(図示せず)は、特に制限されないが、例えば、α-NPD、NPB、TPD、m-MTDATA、Alq3、CuPc、TPD15(N4,N4,N4’,N4’-テトラ(ビフェニル-4-イル)ビフェニル-4,4’-ジアミン)、TCTA(4,4’,4”-トリ-9-カルバゾリルトリフェニルアミン)、N,N’-ビス(ナフタレン-1-イル)等を含む層であってもよい。
【0215】
なお、上記の各層および各電極を構成する材料は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0216】
図1~3の有機エレクトロルミネッセンス素子10において、上記の青色発光化合物、上記の蛍光発光剤、または上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、発光層4に含まれることが好ましいが、発光層4以外の有機層に含まれていてもよい。また、上記の青色発光化合物、上記の蛍光発光剤、または上記の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、発光層4と、発光層4以外の有機層とに含まれていてもよい。
【0217】
図1~3の有機エレクトロルミネッセンス素子10において、第1電極2と第2電極6とにそれぞれ電圧が印加されることで、第1電極2から注入された正孔(hole)は正孔輸送領域3を介して発光層4に移動し、第2電極6から注入された電子は電子輸送領域5を経て発光層4に移動する。電子と正孔は発光層4で再結合して励起子(exciton)を生成し、励起子が励起状態から基底状態に落ちながら発光する。
【0218】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0219】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
1.含窒素芳香族複素環骨格と、前記含窒素芳香族複素環骨格に結合した少なくとも2つの芳香族置換基と、を有する青色発光化合物であって、前記含窒素芳香族複素環骨格は、置換基として分岐状または環状の炭素数3以上20以下のアルキル基を4つ有し、前記含窒素芳香族複素環骨格と前記芳香族置換基とは、同一平面上に位置しない、青色発光化合物。
2.下記化学式(1)で表される化合物であって、下記定義によるβsumが、13を超え28未満である、上記1.に記載の青色発光化合物:
【0220】
【0221】
上記化学式(1)中、
R1~R4は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の分岐状もしくは環状の炭素数3以上20以下のアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数3以上60以下のトリアルキルシリル基であり、
Ar1およびAr2は、それぞれ独立して、環形成原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環基、または環形成原子数5以上14以下の芳香族複素環基である:
<βsum>
上記化学式(1)中の置換基Ar1の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ1、
上記化学式(1)中の置換基Ar2の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ2、
上記化学式(1)中の置換基R1の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ3、
上記化学式(1)中の置換基R2の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ4、
上記化学式(1)中の置換基R3の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ5、
上記化学式(1)中の置換基R4の、下記化学式(1a)で表されるコアに対して垂直方向への大きさをβ6、とそれぞれしたとき、
βsum=β1+β2+β3+β4+β5+β6 である。
【0222】
【0223】
3.下記化学式(2)で表される化合物である、上記2.に記載の青色発光化合物:
【0224】
【0225】
上記化学式(2)中、
R1~R4は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の分岐状もしくは環状の炭素数3以上20以下のアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数3以上60以下のトリアルキルシリル基であり、
Ar1およびAr2は、それぞれ独立して、環形成原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環基、または環形成原子数5以上14以下の芳香族複素環基である。
4.下記化学式(3)で表される化合物である、上記2.または3.に記載の青色発光化合物:
【0226】
【0227】
上記化学式(3)中、
Ar1およびAr2は、それぞれ独立して、環形成原子数6以上14以下の芳香族炭化水素環基、または環形成原子数5以上14以下の芳香族複素環基であり、
tBuは、tert-ブチル基を表す。
5.上記1.~4.のいずれかに記載の青色発光化合物を含む発光層を有する、有機エレクトロルミネッセンス素子。
6.前記発光層は、燐光錯体をさらに含む、上記5.に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
7.前記燐光錯体は、白金錯体である、上記6.に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
8.前記発光層は、ホスト材料をさらに含む、上記5.~7.のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
9.前記ホスト材料は、トリフェニルシリル基を有する化合物を含む、上記8.に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
10.前記発光層は、ホスト材料としてアントラセン環構造を有する化合物をさらに含む、上記5.に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【実施例0228】
本発明を、以下の実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0229】
<縮合環化合物のシミュレーション評価>
“High-Performance Dibenzoheteraborin-Based Thermally Activated Delayed Fluorescence Emitters: Molecular Architectonics for Concurrently Achieving Narrowband Emission and Efficient Triplet-Singlet Spin Conversion” In Seob Park, Kyohei Matsuo, Naoya Aizawa, and Takuma Yasuda, Advanced Functional Materials 2018, 28, 1802031には、蛍光発光のスペクトル幅(蛍光発光スペクトルのピークの半値幅、Full Width at Half Maximum,FWHM)は、第一励起一重項状態(S1)の安定構造における基底状態(S0)のエネルギー [E(S0@S1)]と、基底状態(S0)の安定構造における基底状態(S0)のエネルギー [E(S0@S0)]との差で表される、再配置エネルギー(Reorganization energy) [E(S0@S1)-E(S0@S0)]と密接に関係することが示されている。
【0230】
[再配置エネルギーと蛍光発光のスペクトル幅との関係の確認]
まず、以下のようにして、既存の3つの化合物について、再配置エネルギー[E(S0@S1)-E(S0@S0)]と、蛍光発光のスペクトル幅(FWHM)との関係を明らかにした。
【0231】
(密度汎関数法(Density Functional Theory、DFT)による計算)
下記の公知の縮合環化合物R1~R3について、密度汎関数法(Density Functional Theory、DFT)により、以下の計算を行った。
【0232】
【0233】
第一励起一重項状態(S1)の安定構造における基底状態(S0)エネルギー [E(S0@S1)]、および基底状態(S0)の安定構造における基底状態(S0)のエネルギー [E(S0@S0)]を算出し、これらの差から、再配置エネルギー [E(S0@S1)]-[E(S0@S0)](eV)を算出した。
【0234】
また、第一励起一重項状態(S1)の安定構造における第一励起一重項状態(S1)のエネルギー [E(S1@S1)]を算出し、この値と、基底状態(S0)の安定構造における基底状態(S0)のエネルギー [E(S0@S0)]との差から、断熱第一励起一重項状態(S1)エネルギー [E(S1@S1)]-[E(S0@S0)](eV)を算出した。
【0235】
そして、断熱第一励起一重項状態(S1)エネルギー(eV)を光波長(nm)に換算した、発光波長(nm)を算出した。
【0236】
さらに、第一励起一重項状態(S1)の安定構造における振動子強度fを算出した。
【0237】
これらに加えて、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital、最高被占軌道)エネルギーとLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital、最低空軌道)エネルギーを算出した。
【0238】
ここで、密度汎関数法(Density Functional Theory,DFT)による計算は、計算ソフトウェアとしてGaussian 16(Gaussian Inc.)を使用し、下記(I)、下記(II)、および下記(III)の計算手法にて行った:
(I) S0計算手法:汎関数B3LYP、基底関数6-31G(d,p)、トルエン溶媒効果(PCM)を含めたDFTによる構造最適化計算;
(II) S1計算手法:汎関数B3LYP、基底関数6-31G(d,p)、トルエン溶媒効果(PCM)を含めた時間依存(Time-dependent)DFT(TDDFT)による構造最適化計算;
(III) S0計算手法:汎関数B3LYP、基底関数6-31G(d,p)、トルエン溶媒効果(PCM)を含めたDFTによる入力構造における計算。
【0239】
より詳細には、各項目の計算は、以下の計算手法を用いて行った:
・基底状態(S0)の安定構造における基底状態(S0)のエネルギー [E(S0@S0)]:上記(I)の計算手法;
・第一励起一重項状態(S1)の安定構造における第一励起一重項状態(S1))のエネルギー [E(S1@S1)]:上記(II)の計算手法;
・第一励起一重項状態(S1)の安定構造における基底状態(S0)エネルギー [E(S0@S1)]:上記(II)および上記(III)の計算手法;
・再配置エネルギー [E(S0@S1)]-[E(S0@S0)]:上記(I)、上記(II)および上記(III)の計算手法;
・断熱第一励起一重項状態(S1)エネルギー [E(S1@S1)]-[E(S0@S0)]:上記(I)および上記(II)の計算手法;
・発光波長(nm):上記(I)および上記(II)の計算手法;
・第一励起一重項状態(S1)の安定構造における振動子強度f:上記(II)の計算手法;
・HOMOおよびLUMO:上記(I)の計算手法。
【0240】
なお、
図5は、各エネルギーの関係を定性的に説明する説明図である。
【0241】
(蛍光発光のスペクトル幅(FWHM)の測定)
縮合環化合物R1~R3の1×10-5M(=mol/dm3、mol/L)のトルエン溶液それぞれについて、株式会社日立ハイテクサイエンス製の分光蛍光光度計F-7000により、励起波長320nmとして、室温にて測定を行うことで、フォトルミネッセンス(Photoluminescence,PL)における蛍光発光のピーク波長(nm)および蛍光発光のスペクトル幅(蛍光発光スペクトルのピークの半値幅、FWHM)を評価した。
【0242】
これらの結果を下記表1に示す。
【0243】
【0244】
ここで、縮合環化合物R1~R3における、実測したPLにおける蛍光発光のFWHM-密度汎関数法による計算された再配置エネルギー(eV)のグラフを
図6に示す。
図6に示すように、密度汎関数法により算出された再配置エネルギー(eV)と、蛍光発光のFWHMには相関があり、再配置エネルギー(eV)が小さくなるほど、蛍光発光のFWHMが小さくなる、すなわち、蛍光発光のスペクトル幅が狭くなることが確認された。
【0245】
<合成例1>
【0246】
【0247】
(中間体1の合成)
窒素雰囲気下、500mL3つ口フラスコに、2,4-ジ-tert-ブチルニトロベンゼン(6.4g,27mmol)とTHF270mLとを加え、-40℃に冷却した。1M(mol/L)のビニルマグネシウムブロミド(1M THF溶液)を81mL滴下し、0℃に昇温して2時間攪拌した。飽和アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出して有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた赤色油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:ジクロロメタン=4:1)で精製し、中間体1を褐色固体として得た。収量2.2g(収率33%):
1H-NMR(300MHz,CD2Cl2): δ1.37(s,9H),1.50(s,9H),6.47-6.49(m,1H),7.18-7.20(m,2H),7.46(s,1H),8.26(br,1H)
LC-MS:230([M+H]+)。
【0248】
(中間体2の合成)
窒素雰囲気下、500mL3つ口フラスコに、上記で得られた中間体1(3.4g,15mmol)、3’、5’-ジ-tert-ブチル-3-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-4-カルバルデヒド(4.9g,15mmol)、およびアセトニトリル150mLを入れた。80℃まで昇温した後、57質量%ヨウ化水素酸(0.42mL,3.0mmol)を加え2時間攪拌した。室温まで放冷した後、析出した固体を濾別し、冷やしたアセトニトリルで固体を洗浄し、中間体2を含む淡橙色の粉体を得た。収量7.0g。
【0249】
(化合物1の合成)
窒素雰囲気下、500mL3つ口フラスコに中間体2(7.0g)、炭酸カリウム(9.0g,65mmol)、ヨウ化銅(I)(12g,65mmol)、1,10-フェナントロリン(12g,65mmol)、および1,3-ジメチルイミダゾリジノン 220mLを入れ、220℃で4時間加熱攪拌した。室温まで放冷した後、反応溶液に水を加え、析出した固体を濾別した。300mLナス型フラスコに濾別した固体、メタノール 90mL、およびエチレンジアミン 10mLを加えて室温で攪拌し、固体を濾取して化合物1を黄色固体として得た。収量5.7g(収率38%):
1H-NMR(300MHz,toluene-d8): δ1.46(s,36H),1.62(s,18H),1.95(s,18H),7.65(t,J=1.8Hz,2H),7.85(d,J=2.1Hz,2H),7.94(d,J=1.8Hz,4H),8.05(d,J=7.5Hz,2H),8.96(d,J=1.8Hz,2H),9.03(s,2H),9.08(d,J=8.1Hz,2H)
LC-MS:1005([M+H]+)。
【0250】
化合物1について、含窒素芳香族複素環骨格と、含窒素芳香族複素環骨格と、単結合を介して結合する2つの3,5-ジ-tert-ブチルフェニル基との二面角を算出した。密度汎関数法(Density Functional Theory、DFT)により、計算ソフトウェアとしてGaussian 16(Gaussian Inc.)を使用し、上記(I)の計算手法によって算出された最安定化構造から、GaussView(Gaussian Inc.)を用いて算出された二面角は、それぞれ138.74°、138.75°であった。
【0251】
[計算による化合物の評価2:本発明の化合物の振動子強度(f)、再配置エネルギー、および発光波長の算出]
上記[再配置エネルギーと蛍光発光のスペクトル幅との関係の確認]の項に記載の方法と同様の方法により、上記合成例1で得られた本発明に係る化合物1(計算例1)、本発明の範囲外である比較化合物1(計算比較例1)、および他の化合物(計算例2~12)について、再配置エネルギー、および蛍光発光のピーク波長(発光波長)を算出した。なお、下記表2は、tert-ブチル基の置換位置の検討を行ったものであり、下記表3は、芳香族置換基の置換位置の検討を行ったものである。
【0252】
【0253】
【0254】
上記表2および表3から明らかなように、発光波長および再配置エネルギーの点で、計算例1のような置換位置であれば、特に効果が向上することが分かった。
【0255】
<βsumの評価>
βsumは、以下のようにして算出した。
【0256】
β1、β2、β3、β4、β5、およびβ6は、「密度汎関数法(Density Functional Theory、DFT)による計算」における、(I) S0計算手法:汎関数B3LYP、基底関数6-31G(d,p)、トルエン溶媒効果(PCM)を含めたDFTによる構造最適化計算の計算手法によって算出された最安定化構造から、GaussView(Gaussian ・Inc.)を用いて算出した。
【0257】
化合物1(下記表5の計算例15)のβsumを例にとり、算出方法を説明する。上記化学式(1)中の置換基Ar1中の原子に対してBn’’を考え、各Bn’’に対して、B1からの距離α・|(sinθ)|・|(sinφ)|を計算する。次にB2’’からBn’’までの全てがz軸で同じ方向にある場合(sinφが全て同符号の場合)、βは原点B1から各点への距離のうち最大の物なので、全てのα・|(sinθ)|・|(sinφ)|のうちの最大値となる。
【0258】
また、z座標の符号が異なる点がある場合(sinφが正の点と負の点とがある場合)、sinφが正の点の中でのα・|(sinθ)|・|(sinφ)|の最大値と、sinφが負の点の中でのα・|(sinθ)|・|(sinφ)|の最大値の和がβとなる。
【0259】
具体的にはAr1の場合、下記表4に示したような結果になる。sinφが正でα・|(sinθ)|・|(sinφ)|が最大となる点をB2’’とし、α、θ、φの値をそれぞれα2、θ2、φ2とした。またsinφが負でα・|(sinθ)|・|(sinφ)|が最大となる点をB3’’とし、α、θ、φの値をそれぞれα3、θ3、φ3とした。次に、それぞれのα・|(sinθ)|・|(sinφ)|の和をβ1として記載している。
【0260】
化合物1のAr2、R1、R2、R3、およびR4も同様に計算して、β2、β3、β4、β5、β6、およびβsumを算出して、その値も下記表4に示した。また、下記表5に示す化合物について、βsumを算出した。
【0261】
【0262】
【0263】
上記表5から明らかなように、βsumが13を超え28未満である場合に、発光波長および色純度がより良好になることがわかる。
【0264】
<化合物の評価>
(蛍光発光のスペクトル幅(FWHM)の測定:トルエン溶液)
本発明に係る化合物1および上記の比較化合物1の1×10
-5M(=mol/dm
3、mol/L)のトルエン溶液を、それぞれ調製した。調製したトルエン溶液について、株式会社日立ハイテクサイエンス製の分光蛍光光度計F-7000を用い、励起波長320nmとして、室温にてフォトルミネッセンス(Photoluminescence、PL)測定を行った。PLにおける蛍光発光スぺクトルのピーク波長(単位:nm)および蛍光発光スペクトルのピークの半値幅(単位:nm)を評価した結果を、下記表6および
図7に示す。
【0265】
【0266】
上記表6および
図7から明らかなように、本発明に係る化合物1は、色純度の高い青色発光材料としての機能を有することが分かった。
【0267】
(蛍光発光のスペクトル幅(FWHM)の測定:蒸着膜)
石英基板上に、化合物1を、ホスト化合物であるH89およびH93の総質量に対して、1質量%の質量比で10-5Paの真空度で共蒸着し、50nm厚の薄膜フィルムを作製した。なお、ホスト化合物H89およびH93は、下記化学式に示す構造を有しており、H89:H93=60:40の質量比で用いた。また、比較化合物1についても、上記と同様にして、薄膜フィルムを作製した。
【0268】
【0269】
作製したそれぞれの薄膜フィルムの発光スペクトルを、株式会社日立ハイテク製の分光蛍光光度計F-7000を用いて、励起波長360nmとして、室温にて測定を行い、発光のピーク波長(単位:nm)および発光スペクトルのピークの半値幅(FWHM、単位:nm)を評価した。
【0270】
(PLQYの測定)
浜松ホトニクス株式会社製のQuantaurus-QY 絶対PL量子収率(PLQY)測定装置 C11347-01を用いて、PLQYを測定した。測定時には、励起波長を280nmから350nmまで10nm間隔でスキャンして測定し、化合物の吸収の値が励起光強度比20%以上を示す励起波長領域を採用した。PLQYの値は、採用された励起波長領域内で最も高い値とした。
【0271】
これらの結果を下記表7に示す。蛍光発光スペクトルについては、
図8にも示す。
【0272】
【0273】
上記表7および
図8から明らかなように、化合物1の発光ピーク波長は461nmであり、溶液の場合と同様に青色発光を示すことが分かった。また、化合物1のFWHMは17nmであり、溶液の結果とほぼ同じであることから、2か所に導入したtert-ブチル基は、薄膜状態において分子間の凝集を抑制できていることがわかる。さらに、化合物1のPLQYは、比較化合物1に比べ14%向上している。これは、導入した置換基が分子間の凝集を効果的に抑制した結果であると考えられる。
【0274】
<有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の作製および評価>
(実施例1)
(各層を形成するための材料の準備)
有機EL素子の各層の形成に用いる材料として、上記合成例1で得られた化合物1、化合物H89、および化合物H93に加えて、下記の材料を準備した。
【0275】
【0276】
≪有機EL素子の作製1≫
(実施例1)
電極パターン済みのITOガラス基板を、50mm×50mm×0.7mmサイズに切り、アセトン、イソプロピルアルコール、純水の順に各15分間、超音波洗浄をした後、30分間、UVオゾン洗浄をした。このガラス基板上のITO電極(陽極)上に、真空蒸着装置にて以下の層を蒸着した。
【0277】
まず、上記ITO電極上にHAT-CNを蒸着して、膜厚10nmの正孔注入層を形成した。次いで、正孔注入層上に化合物HT1を蒸着して、膜厚140nmの正孔輸送層を製膜した。続いて、正孔輸送層上に化合物H89を蒸着して、膜厚5nmの厚さの電子阻止層を製膜した。このようにして、正孔輸送領域を形成した。
【0278】
上記で得られた正孔輸送領域上に化合物H89、化合物H93、および上記合成例1で得られた化合物1を共蒸着して、膜厚40nmの発光層を製膜した。ここで、発光層の製膜は、発光層における化合物H89、および化合物H93の質量比が、化合物H89:化合物H93=60:40となるように行った。また、発光層の製膜は、発光層における化合物1の濃度が、化合物H89、化合物H93、および化合物1の総質量(すなわち、発光層の総質量)に対して、1.5質量%となるように行った。なお、化合物H89および化合物H93は、ホスト材料である。
【0279】
上記で得られた発光層上に化合物H93を真空蒸着して、膜厚5nmの正孔阻止層を製膜した。次いで、正孔阻止層上に、化合物ET1およびLiQを、化合物ET1:LiQ=5:5(単位:質量部)の質量比で共蒸着して、膜厚30nmの電子輸送層を形成した。続いて、電子輸送層上にLiQを蒸着して、膜厚1nmの電子注入層を形成した。このようにして、電子輸送領域を形成した。
【0280】
上記で得られた電子注入層上に膜厚100nmのAl(陰極)を蒸着することにより、有機EL素子を作製した。
【0281】
その後、水分濃度1ppm以下、酸素濃度1ppm以下の窒素雰囲気グローブボックス中で、乾燥剤付きのガラス製の封止缶と、紫外線硬化型樹脂(MORESCO製、製品名WB90US)とを用いて、上記工程で作製した有機EL素子を封止した。このようにして、有機EL素子を完成させた。
【0282】
(比較例1~3)
化合物1の代わりに、下記に示す比較化合物1~3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0283】
【0284】
≪有機EL素子の作製2≫
(実施例2)
化合物H89、および化合物H93の代わりに、化合物HT4を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0285】
≪有機EL素子の作製3≫
(実施例3)
電極パターン済みのITOガラス基板を、50mm×50mm×0.7mmサイズに切り、アセトン、イソプロピルアルコール、純水の順に各15分間、超音波洗浄をした後、30分間、UVオゾン洗浄をした。このガラス基板上のITO電極(陽極)上に、真空蒸着装置にて以下の層を蒸着した。
【0286】
まず、上記ITO電極上にHAT-CNを蒸着して、膜厚10nmの正孔注入層を形成した。次いで、正孔注入層上に化合物HT1を蒸着して、膜厚140nmの正孔輸送層を製膜した。続いて、正孔輸送層上に化合物H89を蒸着して、膜厚5nmの厚さの電子阻止層を製膜した。このようにして、正孔輸送領域を形成した。
【0287】
上記で得られた正孔輸送領域上に化合物H89、化合物H93、燐光錯体P120、および上記合成例1で得られた化合物1を共蒸着して、膜厚40nmの発光層を製膜した。ここで、発光層の製膜は、発光層における化合物H89、化合物H93、および燐光錯体P120の質量比が、化合物H89:化合物H93:燐光錯体P120=60:40:13となるように行った。また、発光層の製膜は、発光層における化合物1の濃度が、化合物H89、化合物H93、燐光錯体P120、および化合物1の総質量(すなわち、発光層の総質量)に対して、0.4質量%となるように行った。なお、化合物H89および化合物H93は、ホスト材料である。
【0288】
上記で得られた発光層上に化合物H93を真空蒸着して、膜厚5nmの正孔阻止層を製膜した。次いで、正孔阻止層上に、化合物ET1およびLiQを、化合物ET1:LiQ=5:5(単位:質量部)の質量比で共蒸着して、膜厚30nmの電子輸送層を形成した。続いて、電子輸送層上にLiQを蒸着して、膜厚1nmの電子注入層を形成した。このようにして、電子輸送領域を形成した。
【0289】
上記で得られた電子注入層上に膜厚100nmのAl(陰極)を蒸着することにより、有機EL素子を作製した。
【0290】
その後、水分濃度1ppm以下、酸素濃度1ppm以下の窒素雰囲気グローブボックス中で、乾燥剤付きのガラス製の封止缶と、紫外線硬化型樹脂(MORESCO製、製品名WB90US)とを用いて、上記工程で作製した有機EL素子を封止した。このようにして、有機EL素子を完成させた。
【0291】
(比較例4~6)
化合物1の代わりに、比較化合物1~3を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0292】
≪有機EL素子の作製4≫
(実施例4)
【0293】
【0294】
電極パターン済みのITOガラス基板を、50mm×50mm×0.7mmサイズに切り、アセトン、イソプロピルアルコール、純水の順に各15分間、超音波洗浄をした後、30分間、UVオゾン洗浄をした。このガラス基板上のITO電極(陽極)上に、真空蒸着装置にて以下の層を蒸着した。
【0295】
まず、上記ITO電極上にHAT-CNを蒸着して、膜厚10nmの正孔注入層を形成した。次いで、正孔注入層上に化合物HT1を蒸着して、膜厚60nmの正孔輸送層を製膜した。続いて、正孔輸送層上に化合物H89を蒸着して、膜厚5nmの厚さの電子阻止層を製膜した。このようにして、正孔輸送領域を形成した。
【0296】
上記で得られた正孔輸送領域上に化合物H89、化合物H93、燐光錯体P120、および上記合成例1で得られた化合物1を共蒸着して、膜厚40nmの発光層を製膜した。ここで、発光層の製膜は、発光層における化合物H89、化合物H93、および燐光錯体P120の質量比が、化合物H89:化合物H93:燐光錯体P120=65:35:8となるように行った。また、発光層の製膜は、発光層における化合物1の濃度が、化合物H89、化合物H93、燐光錯体P120、および化合物1の総質量(すなわち、発光層の総質量)に対して、0.4質量%となるように行った。なお、化合物H89および化合物H93は、ホスト材料である。
【0297】
上記で得られた発光層上に化合物H91を真空蒸着して、膜厚5nmの正孔阻止層を製膜した。次いで、正孔阻止層上に、化合物H91およびLiQを、化合物H91:LiQ=5:5(単位:質量部)の質量比で共蒸着して、膜厚31nmの電子輸送層を形成した。続いて、電子輸送層上にLiFを蒸着して、膜厚1.5nmの電子注入層を形成した。このようにして、電子輸送領域を形成した。
【0298】
上記で得られた電子注入層上に膜厚80nmのAl(陰極)を蒸着することにより、有機EL素子を作製した。
【0299】
その後、水分濃度1ppm以下、酸素濃度1ppm以下の窒素雰囲気グローブボックス中で、乾燥剤付きのガラス製の封止缶と、紫外線硬化型樹脂(MORESCO製、製品名WB90US)とを用いて、上記工程で作製した有機EL素子を封止した。このようにして、有機EL素子を完成させた。
【0300】
[輝度、外部量子収率および素子寿命]
下記方法に従って、輝度1,000cd/m2における発光のピーク波長、発光のスペクトル幅、外部量子収率および素子寿命を評価した。
【0301】
直流定電圧電源(KEITHLEY製、ソースメータ(source meter)2400型)を用いて、有機EL素子に対して印加電圧を変化させながら発光させ、このときの輝度、発光スペクトル、および発光量を、輝度測定装置(株式会社トプコン製、SR-3)を用いて測定した。
【0302】
外部量子収率は、発光スペクトル、輝度、および測定時の電流値から算出し、輝度1,000cd/m2における外部量子収率を求めた。
【0303】
素子寿命(耐久性)は、初期輝度が1,000cd/m2となる電流値において連続駆動し、時間経過とともに減衰する発光輝度が初期輝度の95%になるまでの時間をLT95と定義して測定した。
【0304】
発光のピーク波長および発光のスペクトル幅は、発光スペクトルの測定結果から読み取った。発光スペクトルの最大値を示す波長を発光ピーク波長、発光スペクトルの最大値の半分(half)に対応する波長幅を半値幅FWHM、とそれぞれ定義した。
【0305】
上記の評価結果を下記表8および表9に示す。なお、下記表8において、外部量子収率および素子寿命は、比較例1の値を1とした場合の相対値を示している。また、下記表9において、外部量子収率および素子寿命は、比較例4の値を1とした場合の相対値を示している。
【0306】
【0307】
【0308】
上記表8および表9の結果から、本発明に係る青色発光化合物(化合物1)は、青色波長領域をピーク波長とする、スペクトル幅の狭い発光が確認されており、高色純度の青色発光を示すことが確認された。また、本発明に係る有機EL素子は、優れた寿命を有することが確認された。