(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154213
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】被覆付きケーブルの点検方法及び配管の点検方法
(51)【国際特許分類】
G01M 3/26 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
G01M3/26 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067927
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505440631
【氏名又は名称】本州四国連絡高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592185585
【氏名又は名称】本四高速道路ブリッジエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】河村 睦
(72)【発明者】
【氏名】孫 暁▲トン▼
(72)【発明者】
【氏名】町田 陽
(72)【発明者】
【氏名】本郷 誠人
(72)【発明者】
【氏名】明石 良男
【テーマコード(参考)】
2G067
【Fターム(参考)】
2G067AA23
2G067DD02
2G067DD08
2G067EE06
2G067EE13
(57)【要約】
【課題】被覆部の内側を加圧又は減圧するためのコンプレッサ等を用いずに、被覆部の貫通傷の有無の判断ができるようにする。
【解決手段】被覆付きケーブルの点検方法は、複数の鋼線又は複数のより線が被覆部内に密閉状態で収容された構成の被覆付きケーブルの点検方法であって、被覆部の温度を検出する温度検出工程ST12と、被覆部内の空間圧力を検出する圧力検出工程ST13と、温度検出工程で得られた被覆部温度と、圧力検出工程で得られた空間圧力との相関図を作成する相関取得工程ST14と、を含む。相関取得工程では、気温の異なる複数の時点での被覆部温度及び空間圧力のデータを用いて相関図を作成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼線又は複数のより線が被覆部内に密閉状態で収容された構成の被覆付きケーブルの点検方法であって、
前記被覆部の温度又は前記被覆部内の空間の温度である被覆部温度を検出する温度検出工程と、
前記被覆部内の空間の圧力である空間圧力を検出する圧力検出工程と、
前記温度検出工程で得られた前記被覆部温度と、前記圧力検出工程で得られた前記空間圧力との相関図を作成する相関取得工程と、を含み、
前記相関取得工程では、気温の異なる複数の時点での被覆部温度及び空間圧力のデータを用いて前記相関図を作成する、被覆付きケーブルの点検方法。
【請求項2】
前記温度検出工程では、前記被覆部の外表面における周方向の複数箇所の温度を検出し、
前記相関取得工程では、前記周方向の複数箇所の温度の平均値を前記被覆部温度として用いる、請求項1に記載の被覆付きケーブルの点検方法。
【請求項3】
前記被覆部に貫通孔を形成する孔形成工程と、
形成された前記貫通孔にオーリングを介装した状態で圧力センサ取付治具を被せるとともに、前記圧力センサ取付治具を固定バンドで前記被覆部に固定するセンサ取付工程と、
をさらに含む、請求項1記載の被覆付きケーブルの点検方法。
【請求項4】
前記相関取得工程で得られた被覆部温度及び空間圧力の相関関係を、前記被覆部に貫通傷がない場合の相関関係と比較する比較工程をさらに含む、請求項1から3の何れか1項に記載の被覆付きケーブルの点検方法。
【請求項5】
前記比較工程において、前記被覆部に貫通傷が有る場合の相関関係とも比較する、請求項4に記載の被覆付きケーブルの点検方法。
【請求項6】
配管の点検方法であって、
前記配管のうち点検対象となる対象部位の内側空間を他の部位の内側空間から遮断して閉鎖空間とし、前記閉鎖空間内が気体で満たされた状態にする締め切り工程と、
前記対象部位の温度又は前記閉鎖空間内の温度である対象部位温度を検出する温度検出工程と、
前記閉鎖間内の圧力である空間圧力を検出する圧力検出工程と、
前記温度検出工程で得られた前記対象部位温度と、前記圧力検出工程で得られた前記空間圧力との相関図を作成する相関取得工程と、を含み、
前記相関取得工程では、気温の異なる複数の時点での対象部位温度及び空間圧力のデータを用いて前記相関図を作成する、配管の点検方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆付きケーブルの点検方法及び配管の点検方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等においては、腐食防止等の観点から、複数の鋼線や複数のより線を被覆部内に収容した構成の被覆付きケーブルが用いられている。このような被覆付きケーブルにおいては、経年により被覆部にクラックや小孔等が生じる場合があるため、定期的な点検が必要である。このような被覆付きケーブルの点検方法として、下記特許文献1に開示されている点検方法が知られている。特許文献1に開示された点検方法は、被覆部に貫通孔を形成し、この貫通孔を通して被覆内部を加圧又は減圧した後、所定時間の間、加圧又は減圧状態が維持されるか否かにより、被覆部に貫通傷があるか否かを判断するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された点検方法では、被覆部の内側空間を加圧又は減圧して、この加圧又は減圧状態が維持されるかによって貫通傷の有無を判断するため、小さな貫通傷が生じている場合でも効率的に貫通傷の有無を判別できる。しかしながら、この点検方法では、内側空間を加圧又は減圧するためのコンプレッサやポンプが必要となるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、前記従来技術を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内側空間を加圧又は減圧するためのコンプレッサ等を用いずに、貫通傷の有無の判断ができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明に係る被覆付きケーブルの点検方法は、複数の鋼線又は複数のより線が被覆部内に密閉状態で収容された構成の被覆付きケーブルの点検方法であって、前記被覆部の温度又は前記被覆部内の空間の温度である被覆部温度を検出する温度検出工程と、前記被覆部内の空間の圧力である空間圧力を検出する圧力検出工程と、前記温度検出工程で得られた前記被覆部温度と、前記圧力検出工程で得られた前記空間圧力との相関図を作成する相関取得工程と、を含む。前記相関取得工程では、気温の異なる複数の時点での被覆部温度及び空間圧力のデータを用いて前記相関図を作成する。
【0007】
本発明では、気温の異なる複数の時点において、被覆部の温度又は被覆部内の空間の温度である被覆部温度と、被覆部内の空間の圧力である空間圧力とのデータを取得し、被覆部温度と空間圧力との相関図を作成する。このため、この相関図を、被覆部の損傷の有無を判断する際の参考にすることができる。すなわち、被覆部に損傷が無ければ、被覆部内が密閉空間となるため、被覆部の温度と被覆部内の空間の圧力との間に線形性の相関関係がある。したがって、得られた相関図が線形性の関係を示していれば、被覆部に貫通傷が無いと判断することができる。一方、貫通傷がある場合には、線形性の相関関係が得られるとは限らないため、得られた相関図が線形性の関係を示していないのであれば、被覆部に貫通傷があると判断することができる。しかも、温度及び空間圧力の異なる複数の時点での被覆部温度及び空間圧力を用いるため、被覆部内の空間を加圧したり減圧したりする装置を用いる必要が無い。このため、被覆部の内側を加圧又は減圧するためのコンプレッサ等を用いずに、被覆部の貫通傷の有無の判断ができる。なお、気温の異なる複数の時点において被覆部温度及び空間圧力を取得すればよいため、例えば一日の中で気温の相対的に低い時間帯及び気温の相対的に高い時間帯を含む複数の時間帯でのデータを取得してもよく、あるいは季節の異なる複数の日のデータを取得してもよい。ただし、散布図を作成して判断するため、温度の異なる数十のデータを取得するのが好ましい。
【0008】
前記温度検出工程では、前記被覆部の外表面における周方向の複数箇所の温度を検出してもよい。この場合、前記相関取得工程では、前記周方向の複数箇所の温度の平均値を前記被覆部温度として用いてもよい。
【0009】
この態様では、被覆部の外表面における周方向の複数箇所の温度を検出するため、外周面の温度ばらつきが生ずる場合においても、被覆部温度と空間圧力との相関を求める際に、外周面温度のばらつきの影響を低減することができる。また、複数箇所の温度を検出するため、例えば、空間圧力の検出を行いながら一部の温度については検出することができないというような場合でも、被覆部温度の取得が可能となる。
【0010】
前記被覆付きケーブルの点検方法は、前記被覆部に貫通孔を形成する孔形成工程と、形成された前記貫通孔にオーリングを介装した状態で圧力センサ取付治具を被せるとともに、前記圧力センサ取付治具を固定バンドで前記被覆部に固定するセンサ取付工程と、をさらに含んでもよい。
【0011】
この態様では、圧力センサを被覆付きケーブルに取り付ける際に、被覆部内の空気が貫通孔を通して漏れることがないように、圧力センサ取付治具を被覆付きケーブルに固定することができる。
【0012】
前記被覆付きケーブルの点検方法は、前記相関取得工程で得られた被覆部温度及び空間圧力の相関関係を、前記被覆部に貫通傷がない場合の相関関係と比較する比較工程をさらに含んでもよい。
【0013】
この態様では、得られた被覆部温度及び空間圧力の相関関係を、被覆部に貫通傷がない場合の相関関係と比較することにより、点検対象の被覆付きケーブルが損傷の無いものかどうか判断することができる。
【0014】
前記比較工程において、前記被覆部に貫通傷が有る場合の相関関係とも比較してもよい。
【0015】
この態様では、被覆部に貫通傷がない場合の相関関係と比較するだけでは、損傷の有無の判断をし難い場合でも、被覆部に貫通傷が有る場合の相関関係とも比較することにより、損傷の有無を判断しやすくなる。
【0016】
また、前記の目的を達成するため、本発明に係る配管の点検方法は、前記配管のうち点検対象となる対象部位の内側空間を他の部位の内側空間から遮断して閉鎖空間とし、前記閉鎖空間内が気体で満たされた状態にする締め切り工程と、前記対象部位の温度又は前記閉鎖空間内の温度である対象部位温度を検出する温度検出工程と、前記閉鎖空間内の圧力である空間圧力を検出する圧力検出工程と、前記温度検出工程で得られた前記対象部位温度と、前記圧力検出工程で得られた前記空間圧力との相関図を作成する相関取得工程と、を含み、前記相関取得工程では、気温の異なる複数の時点での対象部位温度及び空間圧力のデータを用いて前記相関図を作成する。
【0017】
本発明では、気温の異なる複数の時点において、対象部位の温度又は閉鎖空間内の温度である対象部位温度と、閉鎖空間内の圧力である空間圧力のデータとを取得し、対象部位温度と空間圧力との相関図を作成する。このため、この相関図を、配管における対象部位の損傷の有無を判断する際の参考にすることができる。すなわち、対象部位に損傷が無ければ、対象部位内の空間が密閉空間となるため、対象部位温度と空間圧力との間に線形性の相関関係がある。したがって、得られた相関図が線形性の関係を示していれば、配管の対象部位に貫通傷が無いと判断することができる。一方、貫通傷がある場合には、線形性の相関関係が得られるとは限らないため、得られた相関図が線形性の関係を示していないのであれば、配管の対象部位に貫通傷があると判断することができる。しかも、温度及び空間圧力の異なる複数の時点での対象部位温度及び空間圧力を用いるため、配管の対象部位内の空間を加圧したり減圧したりする装置を用いる必要が無い。このため、対象部位の内側を加圧又は減圧するためのコンプレッサ等を用いずに、対象部位の貫通傷の有無の判断ができる。なお、気温の異なる複数の時点において対象部位温度及び空間圧力を取得すればよいため、例えば一日の中で気温の相対的に低い時間帯及び気温の相対的に高い時間帯を含む複数の時間帯でのデータを取得してもよい。ただし、散布図を作成して判断するため、温度の異なる数十のデータを取得するのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、加圧又は減圧をするためのコンプレッサ等を用いずに、被覆部の貫通傷の有無の判断ができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】点検対象となる被覆付きケーブル及び点検装置を概略的に示す図である。
【
図2】点検対象となる被覆付きケーブル及び点検装置の断面図である。
【
図3】被覆付きケーブルの点検方法を説明するための図である。
【
図4】被覆部温度と空間圧力の間に線形性の相関関係がある場合の相関図である。
【
図5】
図4の相関図に比べて空間圧力にばらつきが見られる場合の被覆部温度と空間圧力との相関図である。
【
図6】点検対象となる配管及び点検装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1及び
図2は、第1実施形態に係る点検方法において点検対象となる被覆付きケーブル10を概略的に示している。被覆付きケーブル10は、例えば、斜張橋において斜材として用いられるケーブルであり、複数の鋼線からなるケーブル12が高密度ポリエチレン等からなる被覆部14に収容された構成のケーブル12である。被覆付きケーブル10は、両端部においてソケット16が取り付けられることにより、被覆部14の内部空間が密閉された構造となっている。なお、点検対象の被覆付きケーブル10は、被覆部14内のケーブル12が、複数の鋼線で構成されるものに限られるものではなく、例えば、複数のより線を有する構成や、より線が個別被覆された状態で束ねられた構成であってもよい。また、被覆付きケーブル10は、斜張橋の斜材として構成されるものに限られず、吊り橋のハンガーケーブル、建物等の建築物で用いられる緊張材、補強材等として構成されるものであってもよい。
【0022】
被覆付きケーブル10の点検作業を行うには、被覆部14の温度である被覆部温度を検出するための温度検出器21と、被覆部14の内側空間の圧力である空間圧力を検出するための圧力センサ22と、得られた被覆部温度及び空間圧力を示すデータを処理するためのコントローラ25と、を備えた点検装置28が用いられる。
【0023】
温度検出器21は、被覆部14に取り付けられて、被覆部14の外表面における温度を被覆部温度として検出するように構成されている。温度検出器21は、被覆部温度を示す信号を出力する。なお、本実施形態では、後述するように、温度検出器21が複数の温度センサで構成されるため、各温度センサから被覆部温度の信号がそれぞれ出力される。温度センサによる温度信号の出力は常時行われている。
【0024】
温度検出器21は、被覆部14の周方向における複数箇所(3~4箇所)に間隔をおいて配置された複数の温度センサ21aを含んでいる。すなわち、被覆部14の外周面において、周方向の1箇所のみで温度を検出してもよいが、周方向の複数箇所に温度センサ21aが配置されて複数の位置で温度を検出するのが好ましい。複数箇所の温度を検出するようにすれば、周方向において温度ばらつきがある場合に、その影響を緩和することができる。なお、
図1では、便宜上1つの温度センサ21aのみを図示している。
【0025】
なお、温度検出器21は、被覆部14の外表面の温度を検出するものに限られない。例えば、被覆部14に埋め込まれて被覆部14自体の温度を被覆部温度として検出するようにしてもよく、あるいは被覆部14の内側に配置されて、被覆部14の内側の空間(内側空間)の温度を被覆部温度として検出するようにしてもよい。すなわち、内側空間の温度(絶対温度)と内側空間の圧力との間には、線形的に変化する相関関係があるため、温度検出部21は、内側空間の温度を検出するのが望ましい。しかしながら、温度検出部21が内側空間の温度を検出できるように設置するには、被覆部14に孔を設ける必要があるため、本実施形態では、温度検出器21は、被覆部14の外表面の温度を検出するように設置される。なお、後述するように、被覆部14自体の絶対温度と内側空間の圧力との間には、線形的に変化する相関関係があることは確かめている。
【0026】
圧力センサ22は、圧力センサ取付治具30及び固定バンド32を用いて被覆部14に対して固定される。すなわち、圧力センサ取付治具30には、圧力センサ22のセンサ部22aを挿入させる挿入孔30aが設けられており、この挿入孔30a内にセンサ部22aが配置されるように圧力センサ22が圧力センサ取付治具30に固定される。
【0027】
挿入孔30aは、圧力センサ取付治具30の下面に開口しているため、この開口が被覆部14に形成された貫通孔14aに対向するように、封止部材であるオーリング34を改装した状態で圧力センサ取付治具30が被覆部14に対して位置決めされている。そして、圧力センサ取付治具30が被覆部14に押し付けられるように、固定バンド32が被覆部14に掛け回されている。これにより、圧力センサ取付治具30が被覆部14に固定されている。
【0028】
圧力センサ22は、挿入孔30a及び貫通孔14aを通して被覆部14の内側の空間の圧力を空間圧力として検出し、空間圧力を示す信号を出力する。圧力センサ22による圧力信号の出力は常時行われている。圧力センサ22は、被覆部14の外側の大気圧に対する被覆部14の内側の空間の圧力の差である差圧を検出し、この差圧から内側空間の圧力を検出するようにしてもよく、被覆部14の内側の空間の絶対圧を検出するようにしてもよい。
【0029】
なお、
図1では、温度検出器21及び圧力センサ22が被覆付きケーブル10の長手方向の1箇所に取り付けられた構成となっているが、長手方向の複数箇所に温度検出器21及び圧力センサ22が取り付けられていてもよい。
【0030】
コントローラ25には、各温度センサ21a及び圧力センサ22から出力された信号が入力される。コントローラ25は、演算処理を実行するCPU、処理プログラムやデータなどを記憶するROM、及び、データを一時的に記憶するRAMを備えたマイクロコンピュータなどで構成されている。コントローラ25は、処理プログラムを実行することにより、所定の機能を発揮する。この機能には、第1記憶制御25a、作成制御25b、第2記憶制御25c、表示制御25d等が含まれる。
【0031】
第1記憶制御25aは、各温度センサ21a及び圧力センサ22から出力された信号が示す被覆部温度及び空間圧力を示すデータを検出時刻と関連付けて記憶する機能部であり、所定時間毎に繰り返し被覆部温度及び空間圧力を示すデータを同期して記憶する。このため、コントローラ25には、記憶された時刻毎に被覆部温度及び空間圧力が関連付けて記憶される。なお、被覆部温度及び空間圧力を示すデータの記憶は、例えば、1時間当たり数回の頻度で行ってもよく、あるいはこれよりも低頻度(例えば数時間に1回)で行ってもよく、あるいはこれよりも高頻度(例えば1時間当たり数10回)で行ってもよい。
【0032】
作成制御25bは、第1記憶制御25aによって記憶された被覆部温度及び空間圧力を示すデータを用いて、被覆部温度と空間圧力の相関図を作成する機能部である。具体的には、作成制御25bでは、同じ時刻に記憶された被覆部温度及び空間圧力のデータを抽出して、被覆部温度の絶対温度を横軸、空間圧力を縦軸とする散布図を作成する。なお、被覆部温度は、同時刻に記憶された複数の温度センサ21aからの検出温度の平均値の絶対温度であり、空間圧力は、圧力センサ22による検出温度である。ただし、被覆部温度及び空間圧力の相関関係の信頼性を上げるには、少なくとも10のデータを用いて作図するのが好ましい。
【0033】
第2記憶制御25cは、基準となる相関図である基準相関図、及び作成制御25bにおいて作成された相関図を記憶する機能部である。基準相関図には、貫通傷が無い被覆部14を有する被覆付きケーブル10において予め得られている被覆部温度と空間圧力の相関図(第1基準相関図)と、貫通傷がある被覆部14を有する被覆付きケーブル10において予め得られている被覆部温度と空間圧力の相関図(第2基準相関図)と、が含まれる。
【0034】
表示制御25dは、作成制御25bによって作成されて第2記憶制御25cによって記憶された相関図と、第2記憶制御25cによって記憶されている第1基準相関図と、第2記憶制御25cによって記憶されている第2基準相関図と、を表示器36に表示する機能部である。
【0035】
ここで、点検装置28を用いた被覆付きケーブル10の点検方法について、
図3を参照しつつ説明する。
【0036】
被覆付きケーブル10の点検を行うには、まず、複数の温度センサ21a及び圧力センサ22を被覆付きケーブル10に取り付ける。各温度センサ21aは、被覆部14の周方向に間隔をいて配置され、それぞれ被覆部14の外周面の温度を検出できるように固定される。また、圧力センサ22は、温度センサ21aの近傍に配置される。圧力センサ22は圧力センサ取付治具30に固定されるが、この圧力センサ取付治具30を固定する場所において、被覆部14には、外周面及び内周面間に亘る貫通孔14aを形成しておく(孔形成工程ST10)。そして、圧力センサ取付治具30の挿入孔30aの開口がこの貫通孔14aに対向するように圧力センサ取付治具30が配置される(センサ取付工程ST11)。このとき、被覆部14の外面と圧力センサ取付治具30の内面との間が封止されるようにオーリング34が挟み込まれる。
【0037】
続いて、点検装置28による被覆付きケーブル10の点検を行う。この点検では、温度検出器21(複数の温度センサ21a)により被覆部14の温度を検出するとともに(温度検出工程ST12)、圧力センサ22により被覆部14内の空間の圧力を検出する(圧力検出工程ST13)。この温度検出及び圧力検出は常時行われる。なお、このとき、温度センサ21aが被覆部14内の空間の温度(内側温度)を検出するように配置されている場合には、被覆部14内の空間の温度が検出される。
【0038】
各温度センサ21aによる被覆部温度を示す信号及び圧力センサ22による空間圧力を示す信号はコントローラ25に入力され、第1記憶制御25aにより、これら信号が示しているデータが所定時間毎にコントローラ25に記憶される。このとき、記憶された時刻毎に被覆部温度及び空間圧力が関連付けて記憶される。
【0039】
続いて、コントローラ25は、被覆部温度と空間圧力との相関図を作成する(相関取得工程ST14)。すなわち、コントローラ25は、作成制御25bにより、同じ時刻に記憶された被覆部温度及び空間圧力のデータを抽出して、被覆部温度の絶対温度を横軸、空間圧力を縦軸とする散布図を作成する。この相関図に用いられる被覆部温度及び空間圧力のデータには、1日のうちの気温の相対的に低い時間帯及び気温の相対的に高い時間帯を含む時間帯での被覆部温度及び空間圧力のデータが含まれていてもよく、あるいは相対的に気温の低い日に取得したデータ及び相対的に気温の高い日に取得したデータが含まれていてもよい。被覆部温度のデータとして、例えば5℃以上の差がある被覆部温度が含まれるように抽出されるのが好ましい。このため、例えば、夜間の時間帯(日没から日の出までの時間帯)のうちの気温の相対的に低い時間帯及び気温の相対的に高い時間帯を含む時間帯のデータが含まれてもよく、あるいは、1日のうちの昼の時間帯を含むように朝から夕方までの時間帯のデータが含まれてもよく、あるいは、連続する24時間のデータが含まれてもよい。また、3日以上の日のデータが含まれてもよく、連続する1週間以上のデータが含まれてもよく、また連続しない7日分以上のデータが含まれてもよい。なお、相関取得工程ST14は、点検者による指令に基づいて実行される。
【0040】
作成された相関図は、表示器36に表示される。このとき、第2記憶制御25cによってコントローラ25に記憶された基準相関図も併せて表示器36に表示されるため、作成された相関図と、予め記憶されている基準相関図とを比較することができる(比較工程ST15)。
【0041】
基準相関図には、被覆部14の貫通傷が無い被覆付きケーブル10に対して得られている第1基準相関図と、被覆部14の貫通傷がある被覆付きケーブル10に対して得られている第2基準相関図)と、が含まれる。
図4に、第1基準相関図の一例を示す。この基準相関図は、10日間のデータであって15分毎に検出されたデータの被覆部温度と空間圧力の相関図である。
図4に示されているように、被覆部温度と空間圧力の間には線形性の相関関係があり、被覆付きケーブル10に貫通傷が無い場合には、このような線形性の相関関係が得られることが分かる。つまり、被覆部14の絶対温度Tと、被覆部14内の空間の圧力Pとの間には、P/T=a(定数)の関係(線形的に変化する相関関係)が成立していると言える。なお、直線は、プロットされているデータの回帰直線である。
【0042】
一方、第2基準相関図では、
図5に示すように、第1基準相関図に比べ、内圧のばらつきが大きくなる。なお、この第2基準相関図は、内圧を加圧すると空気漏れが生ずるような微小な貫通傷を形成した場合に得られたものである。
【0043】
比較工程ST15において、作成された相関図を、これら第1基準相関図及び第2基準相関図と比較することにより、点検対象となっている被覆付きケーブル10に貫通傷が生じているか否か判断することができる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態では、気温の異なる複数の時点において、被覆部14の温度である被覆部温度と、被覆部14内の空間の圧力である空間圧力のデータを取得し、被覆部温度と空間圧力との相関図を作成する。このため、この相関図を、被覆部14の損傷の有無を判断する際の参考にすることができる。すなわち、被覆部14に損傷が無ければ、被覆部14内が密閉空間となるため、被覆部14の温度と被覆部14内の空間の圧力との間に線形性の相関関係がある。したがって、得られた相関図が線形性の関係を示していれば、被覆部14に貫通傷が無いと判断することができる。一方、貫通傷がある場合には、線形性の相関関係が得られるとは限らないため、得られた相関図が線形性の関係を示していないのであれば、被覆部14に貫通傷があると判断することができる。しかも、温度及び空間圧力の異なる複数の時点でのデータを取得するため、被覆部14内の空間を加圧したり減圧したりする装置を用いる必要が無い。このため、被覆部14の内側を加圧又は減圧するためのコンプレッサ等を用いずに、被覆部14の貫通傷の有無の判断ができる。
【0045】
また本実施形態では、温度検出工程ST12において、被覆部14の外表面における周方向の複数箇所の温度を検出するため、外周面の温度ばらつきが生ずる場合においても、被覆部温度と空間圧力との相関を求める際に、外周面温度のばらつきの影響を低減することができる。また、複数箇所の温度を検出するため、例えば、空間圧力の検出を行いながら一部の温度については検出することができないというような場合でも、被覆部温度の取得が可能となる。
【0046】
また本実施形態では、センサ取付工程ST11において、オーリング34を介装した状態で圧力センサ取付治具30を取り付けるとともに、圧力センサ取付治具30を固定バンド32で固定する。このため、圧力センサ22を被覆付きケーブル10に取り付ける際に、被覆部14内の空気が貫通孔14aを通して漏れることがないように、圧力センサ取付治具30を被覆付きケーブル10に固定することができる。
【0047】
また本実施形態では、比較工程ST15において、得られた被覆部温度及び空間圧力の相関関係を、被覆部14に貫通傷がない場合の相関関係(第1基準相関図)と比較するため、点検対象の被覆付きケーブル10が損傷の無いものかどうか判断することができる。さらに、被覆部14に貫通傷が有る場合の相関関係(第2基準相関図)とも比較するため、被覆部14に貫通傷がない場合の相関関係と比較するだけでは、損傷の有無の判断をし難い場合でも、被覆部14に貫通傷が有る場合の相関関係とも比較することにより、損傷の有無を判断しやすくなる。
【0048】
(第2実施形態)
第2実施形態は、配管の所定部位を点検対象とする配管の点検方法である。なお、ここでは第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0049】
図6に示す配管50は、たとえば工場やプラント等に設けられている配管の一部であり、この配管50の所定部位が点検対象となる。配管50は、屋外に配置されるものあっても屋内に配置されるものであってもよい。点検対象となる配管50には、互いに間隔をおいて配置された複数のバルブ55,56が設けられている。これらのバルブ55,56は通常開けられた状態となっているが、稼働を停止している定期点検時等には、これらのバルブ55,56を閉じて閉鎖空間を形成し、この状態で本実施形態の点検方法を実施することが可能となる。
【0050】
配管50の点検を行うには、まず、2つのバルブ55,56を閉じ、バルブ55,56間の空間を閉鎖空間とする。つまり、配管50のうち、このバルブ55,56間の部位が点検対象となる対象部位50aである。バルブ55,56を閉じると、通常流れている流体が対象部位50a内に残ることがある。配管50の対象部位50aに分岐管51が接続されていれば、この分岐管51を通して、残留流体を排出することができる。これにより、対象部位50aの内側空間は空気で満たされた状態となる(締め切り工程)。なお、締め切り工程では、対象部位50aの内側空間が空気で満たされた状態にするものに限られず、不活性ガスで対象部位50a内を満たすようにしてもよい。また、対象部位50aに分岐管51が接続されていなければ、配管50にポンプを接続して、閉鎖空間から残留流体を吸い出すようにしてもよい。
【0051】
配管50における対象部位50aには、対象部位50aの温度を検出する温度検出器21が取り付けられる。温度検出器21は、配管50の周方向の1箇所にのみ取り付けてもよく、複数箇所に取り付けてもよい。なお、分岐管51の開口を通して対象部位50aの内側空間内の(気体の)温度を検出できるのであれば、分岐管51の開口部に、内側空間の(気体の)温度を検出する温度検出器21を配置してもよい。この場合、分岐管51に設けられているバルブ58は開放することになるため、分岐管51の開口を塞ぐ処置が必要になる。温度検出器21による検出温度は、対象部位温度として用いられる。
【0052】
圧力センサ22は、分岐管51の開口部に取り付けられる。圧力センサ22は、第1実施形態と同様に圧力センサ取付治具30を用いて取り付けてもよいが、分岐管51の開口部に直接取り付けてもよい。分岐管51のバルブ58を開けておく必要があるため、分岐管51の開口を塞ぐ処置が必要となる。
【0053】
コントローラ25の第1記憶制御25aには、温度検出器21及び圧力センサ22から出力された信号が示す対象部位温度及び空間圧力を示すデータが検出時刻と関連付けて記憶される。作成制御25bは、第1記憶制御25aによって記憶された対象部位温度及び空間圧力を示すデータを用いて、対象部位温度と空間圧力の相関図を作成する。第2記憶制御25cに記憶された基準相関図には、貫通傷が無い配管50の対象部位50aにおいて予め得られている対象部位温度と空間圧力の相関図(第1基準相関図)と、貫通傷がある配管50の対象部位50aにおいて予め得られている対象部位温度と空間圧力の相関図(第2基準相関図)と、が含まれる。
【0054】
配管50の点検を行うには、配管50に温度検出器21及び圧力センサ22を取り付ける。続いて、温度検出器21により対象部位50aの温度を検出するとともに(温度検出工程ST12)、圧力センサ22により対象部位50aの内側空間の圧力を検出する(圧力検出工程ST13)。
【0055】
温度検出器21による対象部位温度を示す信号及び圧力センサ22による空間圧力を示す信号がコントローラ25に入力され、第1記憶制御25aにより、これら信号が示しているデータが所定時間毎にコントローラ25に記憶される。このとき、記憶された時刻毎に対象部位温度及び空間圧力が関連付けて記憶される。
【0056】
続いて、コントローラ25は、対象部位温度と空間圧力との相関図を作成する(相関取得工程ST14)。すなわち、コントローラ25は、作成制御25bにより、同じ時刻に記憶された対象部位温度及び空間圧力のデータを抽出して、対象部位温度の絶対温度を横軸、空間圧力を縦軸とする散布図を作成する。この相関図に用いられる対象部位温度及び空間圧力のデータには、1日のうちの気温の相対的に低い時間帯及び気温の相対的に高い時間帯を含む時間帯での対象部位温度及び空間圧力のデータが含まれていてもよい。対象部位温度のデータとして、例えば5℃以上の差がある被覆部温度が含まれるように抽出されるのが好ましい。
【0057】
作成された相関図は、表示器36に表示される。このとき、第2記憶制御25cによってコントローラ25に記憶された基準相関図も併せて表示器36に表示されるため、作成された相関図と、予め記憶されている基準相関図とを比較することができる(比較工程ST15)。したがって、対象部位50aの内側空間を加圧又は減圧するためのコンプレッサ等を用いずに、対象部位50aの貫通傷の有無の判断ができる。
【0058】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、前記第1実施形態では、被覆部14の周方向の複数箇所での被覆部温度を検出するようにしたが、周方向の1箇所のみで被覆温度を検出するようにしてもよい。
【0059】
第1実施形態では、圧力センサ取付治具30を用いて圧力センサ22を被覆部14に固定するようにしたが、圧力センサ22を被覆部14に直接固定できるのであれば、圧力センサ取付治具30を省略することも可能である。
【0060】
比較工程ST15において、第1基準相関図との比較のみを行い、第2基準相関図との比較を省略してもよい。また、比較工程ST15そのものを省略してもよい。この場合、基準相関図をコントローラ25に記憶しておかなくてもよい。例えば、被覆部温度、対象部位温度が変化したときでも空間圧力が変化しないような大きな貫通傷が生じているのであれば、被覆部温度又は対象部位温度と空間圧力との間に全く相関がないような相関図が得られると推測されるため、そのような貫通傷が対象となるのであれば、基準相関図と比較しなくてもよい。
【0061】
前記実施形態では、相関取得工程ST14において、被覆部温度又は対象部位温度の絶対温度を横軸、空間圧力を縦軸とする相関図を作成するが、被覆部温度又は対象部位温度の絶対温度を横軸にとするものに限られない。例えば、検出した被覆部温度自体又は対象部位温度自体を横軸としてもよい。また、横軸と縦軸を入れ替えてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 :被覆付きケーブル
12 :ケーブル
14 :被覆部
14a :貫通孔
21 :温度検出器
21a :温度センサ
22 :圧力センサ
30 :圧力センサ取付治具
32 :固定バンド
34 :オーリング
ST10 :孔形成工程
ST11 :センサ取付工程
ST12 :温度検出工程
ST13 :圧力検出工程
ST14 :相関取得工程
ST15 :比較工程