(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154218
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】イオン架橋された高分子量キトサンを含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20241023BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20241023BHJP
A61K 8/24 20060101ALI20241023BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20241023BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/365
A61K8/24
A61Q5/00
A61K8/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023067933
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】391023932
【氏名又は名称】ロレアル
【氏名又は名称原語表記】L’OREAL
【住所又は居所原語表記】14 Rue Royale,75008 PARIS,France
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 麻理子
(72)【発明者】
【氏名】河西 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】五十島 健史
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA121
4C083AA122
4C083AB011
4C083AB012
4C083AC242
4C083AC251
4C083AC252
4C083AC261
4C083AC262
4C083AC301
4C083AC302
4C083AD321
4C083AD322
4C083BB34
4C083CC33
4C083DD27
4C083DD31
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE29
(57)【要約】
【課題】環境にやさしい成分を含みながら、毛髪等のケラチン繊維に、良好な整髪及び形状回復効果をもたらすことができる組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマー、(b)少なくとも1種の一価の非ポリマー酸又はその塩、及び(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩を含む組成物であって、(a)カチオン性ポリマーが、20,000超の分子量を有するキトサンから選択される、組成物に関する。本発明による組成物は、毛髪等のケラチン繊維に、良好な整髪及び形状回復効果をもたらすことができ、且つ少なくとも1種の環境にやさしい成分を含むことができる。
【選択図】
図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマー、
(b)少なくとも1種の一価の非ポリマー酸又はその塩、及び
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩
を含む組成物、好ましくは化粧用組成物、より好ましくは毛髪等のケラチン繊維のための化粧用組成物であって、
前記(a)カチオン性ポリマーが、20,000超の分子量を有するキトサンから選択される、組成物。
【請求項2】
前記組成物中の前記(a)カチオン性ポリマーの量が、前記組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記(b)一価の非ポリマー酸又はその塩が、一価の非ポリマー有機酸又はその塩、好ましくは一価のカルボン酸又はその塩、より好ましくは乳酸又はその塩である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物中の前記(b)一価の非ポリマー酸又はその塩の量が、前記組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩が、有機酸又はその塩、好ましくは少なくとも1つのリン酸基及び/又は少なくとも2つのカルボン酸基を有する親水性又は水溶性有機酸又はその塩、より好ましくはリン酸、二リン酸、クエン酸、酒石酸、又はこれらの塩である、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物中の前記(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩の量が、前記組成物の総質量に対して、0.001質量%~10質量%、好ましくは0.003質量%~5質量%、より好ましくは0.005質量%~1質量%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
(d)水を、好ましくは、前記組成物の総質量に対して、50質量%~99質量%、より好ましくは60質量%~97質量%、更により好ましくは70質量%~95質量%の量で更に含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
(e)少なくとも1種の油を更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記(e)油が、植物油、合成エステル油、及びこれらの混合物から、好ましくは植物油から選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物中の前記(e)油の量が、前記組成物の総質量に対して、1質量%~50質量%、好ましくは3質量%~45質量%、より好ましくは5質量%~40質量%である、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
(f)少なくとも1種の脂肪酸を更に含む、請求項8から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記(f)脂肪酸が、C4~C26、好ましくはC6~C24、より好ましくはC8~C22飽和及び不飽和の直鎖状又は分枝状脂肪酸から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記(a)カチオン性ポリマーが、前記(f)脂肪酸によって疎水化される、請求項11又は12に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物中の前記(f)脂肪酸の量が、前記組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%である、請求項11から13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
毛髪等のケラチン繊維のための美容方法であって、
請求項1から14のいずれか一項に記載の組成物を前記ケラチン繊維に適用する工程と、
前記組成物を乾燥させて、前記ケラチン繊維上に化粧皮膜を形成する工程と
を含む、美容方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン架橋された高分子量キトサンを含む組成物、並びに該組成物を使用する美容方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境にやさしい化粧料の配合は、環境問題を考慮して設計及び開発されたものであり、世界的な課題を満たすための主要な目標になっている。
【0003】
したがって、これらの環境問題に対処するための、より持続可能な組成物、調製方法及び成分を提案することが必須である。
【0004】
この文脈において、特に再生可能な原料及び/又は良好な自然指数を有する材料及び/又は天然起源の材料、より具体的には植物起源の材料の使用を促進し、一方で石油化学起源の化合物の使用を減少することによって、より良好なカーボンフットプリントを有する新規の化粧用組成物を開発することが重要である。
【0005】
当該技術分野において公知であるように、特定の化粧用組成物及び他の任意の組成物は、アニオン性ポリマー及びカチオン性ポリマーから形成されるポリイオン錯体を使用する。
【0006】
例えば、WO2021/171909は、少なくとも1種のカチオン性ポリマー、少なくとも1種のアニオン性ポリマー、及び少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸を含む少なくとも1種のポリイオン錯体粒子を含む組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2021/171909
【特許文献2】WO03/068824
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
環境にやさしい成分を含みながら、毛髪等のケラチン繊維に、良好な整髪及び形状回復効果をもたらすことができる組成物が必要とされている。整髪効果は、ケラチン繊維を容易に、直線等の所望の線に整えることができることを意味する。形状回復効果は、ケラチン繊維が容易に元の形状に戻ることができることを意味する。
【0009】
したがって、本発明の第1の目的は、毛髪等のケラチン繊維に、良好な整髪及び形状回復効果をもたらすことができる組成物を提供することである。
【0010】
加えて、本発明の第2の目的は、少なくとも1種の環境にやさしい成分を含むことができる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記の目的は、
(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマー、
(b)少なくとも1種の一価の非ポリマー酸又はその塩、及び
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩
を含む組成物、好ましくは化粧用組成物、より好ましくは毛髪等のケラチン繊維のための化粧用組成物であって、
(a)カチオン性ポリマーが、20,000超の分子量(Da)を有するキトサンから選択される、組成物によって達成することができる。
【0012】
本発明による組成物中の(a)カチオン性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%であってよい。
【0013】
(b)一価の非ポリマー酸又はその塩は、一価の非ポリマー有機酸又はその塩、好ましくは一価のカルボン酸又はその塩、より好ましくは乳酸又はその塩であってもよい。
【0014】
本発明による組成物中の(b)一価の非ポリマー酸又はその塩の量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%であってもよい。
【0015】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩は、有機酸又はその塩、好ましくは少なくとも1つのリン酸基及び/又は少なくとも2つのカルボン酸基を有する親水性又は水溶性有機酸又はその塩、より好ましくはリン酸、二リン酸、クエン酸、酒石酸、又はこれらの塩であってもよい。
【0016】
本発明による組成物中の(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩の量は、組成物の総質量に対して、0.001質量%~10質量%、好ましくは0.003質量%~5質量%、より好ましくは0.005質量%~1質量%であってもよい。
【0017】
好ましくは、本発明による組成物は(d)水を含む。
【0018】
本発明による組成物中の(d)水の量は、組成物の総質量に対して、50質量%~99質量%、好ましくは60質量%~97質量%、より好ましくは70質量%~95質量%であってもよい。
【0019】
本発明による組成物は、(e)少なくとも1種の油を更に含んでもよい。
【0020】
(e)油は、植物油、合成エステル油、及びこれらの混合物から、好ましくは植物油から選択されてもよい。
【0021】
本発明による組成物中の(e)油の量は、組成物の総質量に対して、1質量%~50質量%、好ましくは3質量%~45質量%、より好ましくは5質量%~40質量%であってもよい。
【0022】
本発明による組成物は、(f)少なくとも1種の脂肪酸を更に含んでもよい。
【0023】
(f)脂肪酸は、C4~C26、好ましくはC6~C24、より好ましくはC8~C22飽和及び不飽和の直鎖状又は分枝状脂肪酸から選択されてもよい。
【0024】
(a)カチオン性ポリマーは、(f)脂肪酸によって疎水化されてもよい。
【0025】
本発明による組成物中の(f)脂肪酸の量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%であってもよい。
【0026】
本発明はまた、毛髪等のケラチン繊維のための美容方法であって、
本発明による組成物をケラチン繊維に適用する工程と、
該組成物を乾燥させて、ケラチン繊維上に化粧皮膜を形成する工程と
を含む、美容方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1A】本発明の一実施形態における、水性相中に分散されている油滴等の脂肪相(存在する場合)の周囲の(a)カチオン性ポリマーの挙動、及び(a)カチオン性ポリマーの疎水化の例を示す概略図である。(f)脂肪酸を含まない脂肪相の場合における、水性相中に分散されている油滴等の脂肪相(存在する場合)の周囲の(a)カチオン性ポリマーの挙動を示す概略図である。
【
図1B】本発明の一実施形態における、水性相中に分散されている油滴等の脂肪相(存在する場合)の周囲の(a)カチオン性ポリマーの挙動、及び(a)カチオン性ポリマーの疎水化の例を示す概略図である。(f)脂肪酸を含む脂肪相の場合における、水性相中に分散されている油滴等の脂肪相(存在する場合)の周囲の(a)カチオン性ポリマーの挙動を示す概略図である。
【
図1C】本発明の一実施形態における、水性相中に分散されている油滴等の脂肪相(存在する場合)の周囲の(a)カチオン性ポリマーの挙動、及び(a)カチオン性ポリマーの疎水化の例を示す概略図である。(f)脂肪酸による(a)カチオン性ポリマーの疎水化の機構の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
鋭意検討の結果、発明者らは、毛髪等のケラチン繊維に良好な整髪及び形状回復効果をもたらすことができ、且つ少なくとも1種の環境にやさしい成分を含むことができる組成物を提供することが可能であることを発見した。
【0029】
そのため、本発明による組成物は、
(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマー、
(b)少なくとも1種の一価の非ポリマー酸又はその塩、及び
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩
を含み、ここで、
(a)カチオン性ポリマーは、20,000超の分子量(Da)を有するキトサンから選択される。
【0030】
本発明による組成物で処置されたケラチン繊維は、容易に直線等の所望の線に整えることができる。また、本発明による組成物で処置されたケラチン繊維は、容易に元の形状に戻ることができる。したがって、本発明による組成物は、毛髪等のケラチン繊維の良好な扱いやすさをもたらすことができる。
【0031】
(a)カチオン性ポリマーは、(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩によってイオン架橋されていてもよい。架橋カチオン性ポリマーは、毛髪等のケラチン繊維間に、より良好な結合形成及び形状記憶効果をもたらすことができる。したがって、架橋カチオン性ポリマーは、毛髪等のケラチン繊維に、良好な整髪及び形状回復効果をもたらすことができる。そのため、本発明は、例えば、優れたヘアスタイリング効果をもたらすことができる。
【0032】
キトサンは天然資源から得ることができるため、(a)カチオン性ポリマーは環境にやさしい成分である。したがって、本発明による組成物は、環境にやさしい成分を含むことができる。
【0033】
加えて、成分(b)及び(c)は、植物等の再生可能な材料及び/又は生分解性材料を起源とすることができる。したがって、本発明による組成物は、環境に適合性とすることができる。
【0034】
好ましくは、本発明による組成物は、(d)水を含む。
【0035】
本発明による組成物は、(d)水を含む水性相を含んでもよい。
【0036】
本発明による組成物が(e)少なくとも1種の油を含む場合、本発明による組成物は、(e)油を含む脂肪相を含んでもよい。本発明による組成物が(f)少なくとも1種の脂肪酸を含む場合、(f)脂肪酸は脂肪相中に存在しうる。
【0037】
脂肪相は、水性相中に分散されていてもよい。この場合、脂肪相は不連続相であり、一方で水性相は連続相である。そのため、本発明による組成物は、O/W(水中油型)の形態であってもよい。
【0038】
(a)カチオン性ポリマーは、(f)脂肪酸によって疎水化されてもよい。疎水化された(a)カチオン性ポリマーは、脂肪相と水性相との間に存在し、脂肪相を安定化することができる。そのため、脂肪相は、水性相中に安定に分散されうる。
【0039】
本発明による組成物は、比較的多量の(e)油を含む場合でも安定性である。そのため、本発明による組成物は、比較的多量の(e)油を含むことができる。
【0040】
本発明による組成物は、長期間にわたって安定している。換言すれば、本発明による組成物の相分離は、長期間にわたって防止することができる。
【0041】
したがって、本発明による組成物は、長期間にわたり、保存することができる。
【0042】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0043】
[組成物]
(カチオン性ポリマー)
本発明による組成物は、(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマーを含む。
【0044】
(a)カチオン性ポリマーのタイプに限定はない。2種以上の異なるタイプのカチオン性ポリマーを組み合わせて使用してもよい。そのため、単一のタイプのカチオン性ポリマー、又は異なるタイプのカチオン性ポリマーの組合せを使用することができる。
【0045】
カチオン性ポリマーは、正電荷密度を有する。(a)カチオン性ポリマーの電荷密度は、0.01meq/g~20meq/g、好ましくは0.05~15meq/g、より好ましくは0.1~10meq/gでもよい。
【0046】
(a)カチオン性ポリマーは、20,000超、好ましくは30,000超、より好ましくは50,000超、更により好ましくは80,000超の分子量(Da)を有するキトサンから選択される。換言すれば、(a)カチオン性ポリマーは、高分子量キトサンである。
【0047】
(a)カチオン性ポリマーの分子量(Da)は、2,000,000未満、好ましくは1,000,000未満、より好ましくは500,000未満、更により好ましくは300,000未満であってもよい。
【0048】
そのため、(a)カチオン性ポリマーの分子量(Da)は、20,000超且つ2,000,000未満、好ましくは30,000超且つ1,000,000未満、より好ましくは50,000超且つ500,000未満、更により好ましくは80,000超且つ300,000未満であってもよい。
【0049】
説明中に別段の定義がない限り、「分子量」は質量平均分子量を意味する。分子量は、例えば、ASTM D5296-19に準拠して、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定又は決定することができる。
【0050】
キトサンは、自然界で非常に希少である。キトサンは、シロアリの女王等の特定の昆虫の外骨格中及び特定の部類の菌類である接合菌綱の細胞壁中でのみ報告されている。
【0051】
キトサンは、キチンの脱アセチル化によって得ることができる。キチンは、β型結合(1,4)によって一緒に連結された幾つかのN-アセチル-D-グルコサミン単位から構成された多糖である。
【0052】
キトサンの理想的な化学構造は、グリコシド結合(1→4)によって結合されたβ-D-グルコサミンモノマーの配列である。
【0053】
本発明による「キトサン」は、構成単位N-アセチル-D-グルコサミン及びD-グルコサミンから形成される任意のコポリマーであって、そのアセチル化度が90%未満、好ましくは80%未満、好ましくは70%未満、好ましくは60%未満、好ましくは50%未満である、任意のコポリマーを意味する。キトサンは、β型結合(1,4)により一緒に連結されているグルコサミン糖単位(脱アセチル化単位)及びN-アセチル-D-グルコサミン単位(アセチル化単位)からなり、ポリ(N-アセチル-D-グルコサミン)-ポリ(D-グルコサミン)タイプのポリマーである。
【0054】
より好ましくは、キトサンのアセチル化度は、40%以下、好ましくは35%以下、好ましくは25%以下、好ましくは15%以下、好ましくは10%以下である。
【0055】
アセチル化度は、全単位の数に対するアセチル化単位の百分率であり、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)又は強塩基による滴定法によって決定することができる。
【0056】
本発明のキトサンは、好ましくは、菌類起源から調製された多糖である。特に、キトサンは、安全且つ豊富な食料又はバイオテクノロジー菌類起源[マッシュルーム(Agaricus bisporus)若しくはクロコウジカビ(Aspergillus niger)等]から抽出及び精製される。
【0057】
本発明のキトサンは、好ましくは、子嚢菌綱(Ascomycete)タイプの菌類、特にクロコウジカビ及び/又は担子菌類(Basidiomycete fungus)、具体的にはシイタケ(Lentinula edodes)及び/又はマッシュルームの菌糸体に由来する。好ましくは、菌類はクロコウジカビである。
【0058】
キトサンは、遺伝子組み換え生物(GMO)起源のものであってもよいが、好ましくは非GMO起源のものである。
【0059】
本発明によるキトサンは、天然であり、すなわち、修飾されていない。特に、一切の化学修飾を含まない。
【0060】
キトサンの一調製方法は、WO03/068824に記載のものである。
【0061】
好ましくは、本発明において使用されるキトサンは、粉末の形態である。Kitozyme社により名称Kiosmetine又はKionutrime、例えばKiosmetine-CSH及びKiosmetine Pで市販されている。
【0062】
本発明による組成物中の(a)カチオン性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であってよい。
【0063】
本発明による組成物中の(a)カチオン性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であってよい。
【0064】
本発明による組成物中の(a)カチオン性ポリマーの量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%であってよい。
【0065】
(一価の非ポリマー酸又はその塩)
本発明による組成物は、(b)少なくとも1種の一価の非ポリマー酸又はその塩を含む。2種以上の一価の非ポリマー酸又はその塩を組み合わせて使用してもよい。そのため、単一のタイプの一価の非ポリマー酸若しくはその塩、又は異なるタイプの一価の非ポリマー酸若しくはその塩の組合せを使用することができる。
【0066】
用語「非ポリマー」は、本明細書では、酸が、2種以上のモノマーを重合させることによって得られるものではないことを意味する。したがって、非ポリマー酸は、ポリアクリル酸等の2種以上のモノマーを重合することによって得られる酸には相当しない。
【0067】
本明細書における用語「塩」は、一価の非ポリマー酸に、好適な塩基を添加することによって形成される塩を意味し、これは、当業者に公知の方法に従って、一価の非ポリマー酸と、塩基との反応から得ることができる。塩として、金属塩、例えば、Na及びK等のアルカリ金属との塩、並びにMg及びCa等のアルカリ土類金属との塩、並びにアンモニウム塩を挙げることができる。
【0068】
(b)一価の非ポリマー酸又はその塩の分子量が、1000未満、好ましくは500以下、より好ましくは100以下であることが好ましい。
【0069】
(b)一価の非ポリマー酸又はその塩は、(d)水によって形成される水性相中に含まれうる。(b)一価の非ポリマー酸又はその塩は、水性相に対する(a)カチオン性ポリマーの溶解を促進することができる。
【0070】
(b)一価の非ポリマー酸又はその塩は、一価の有機又は無機酸及びその塩、好ましくは一価の有機酸及びその塩、より好ましくは一価のカルボン酸及びその塩から選択されうる。
【0071】
一価の非ポリマー酸は、カルボン酸基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、及びこれらの混合物からなる群から選択されうる単一の酸基を有する。
【0072】
一価の非ポリマー酸は、ヒドロキシ酸、好ましくはアルファ-ヒドロキシ酸から選択されうる。アルファ-ヒドロキシ酸としては、例えば、乳酸及びグリコール酸を挙げることができる。
【0073】
一価の非ポリマー酸は、一価の非ポリマー有機酸、好ましくは一価のカルボン酸、より好ましくは乳酸であってもよい。
【0074】
本発明による組成物中の(b)一価の非ポリマー酸又はその塩の量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であってもよい。
【0075】
本発明による組成物中の(b)一価の非ポリマー酸又はその塩の量は、組成物の総質量に対して、15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であってもよい。
【0076】
本発明による組成物中の(b)一価の非ポリマー酸又はその塩の量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%であってもよい。
【0077】
(2つ以上の酸解離定数を有する非ポリマー酸)
本発明による組成物は、(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩、すなわち、少なくとも1種の2つ以上の酸解離定数を有する非ポリマー酸又はその塩を含む。pKa値(酸解離定数)は、当業者に周知であり、一定の温度、例えば25℃で決定されるべきである。
【0078】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩は、(d)水を含む水性相中に含まれうる。2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸は、(a)カチオン性ポリマーのための架橋剤として機能することができる。
【0079】
用語「非ポリマー」は、本明細書では、酸が、2種以上のモノマーを重合させることによって得られるものではないことを意味する。したがって、非ポリマー酸は、ポリアクリル酸等の2種以上のモノマーを重合することによって得られる酸には相当しない。
【0080】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩の分子量は、1000以下、好ましくは800以下、より好ましくは700以下であることが好ましい。
【0081】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩のタイプに限定はない。2種以上の異なるタイプの(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩を組み合わせて使用してもよい。そのため、単一のタイプの(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸若しくはその塩、又は異なるタイプの(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸若しくはその塩の組合せを使用することができる。
【0082】
用語「塩」は、本明細書では、2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸に、好適な塩基を添加することによって形成される塩を意味し、これは、当業者に公知の方法に従って、2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸と塩基との反応から得ることができる。塩として、金属塩、例えば、Na及びK等のアルカリ金属との塩、並びにMg及びCa等のアルカリ土類金属との塩、並びにアンモニウム塩を挙げることができる。
【0083】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩は、有機酸、無機酸、又はそれらの塩、好ましくは親水性若しくは水溶性の有機酸、無機酸、又はそれらの塩であってよい。
【0084】
2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸は、カルボン酸基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、フェノール性ヒドロキシル基、及びこれらの混合物からなる群から選択されうる、少なくとも2つの一価の酸基又は少なくとも1つの多価の酸基を有しうる。
【0085】
2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸は、少なくとも1つのリン酸基及び/又は少なくとも2つのカルボン酸基を有することが好ましい。
【0086】
2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸は、非ポリマー多価酸でもよい。非ポリマー多価酸は、ジカルボン酸、ジスルホン酸、リン酸、二リン酸、及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0087】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、アコニット酸、オキサロ酢酸、酒石酸、及びそれらの塩;アスパラギン酸、グルタミン酸、及びそれらの塩;テレフタリリデンジカンファースルホン酸、又はその塩(メキソリルSX)、ベンゾフェノン-9;フィチン酸、及びその塩;赤色2号(アマランス)、赤色102号(ニューコクシン)、黄色5号(タルトラジン)、黄色6号(サンセットイエローFCF)、緑色3号(ファストグリーンFCF)、青色1号(ブリリアントブルーFCF)、青色2号(インジゴカルミン)、赤色201号(リソールルビンB)、赤色202号(リソールルビンBCA)、赤色204号(レーキレッドCBA)、赤色206号(リソールレッドCA)、赤色207号(リソールレッドBA)、赤色208号(リソールレッドSR)、赤色219号(ブリリアントレーキレッドR)、赤色220号(ディープマルーン)、赤色227号(ファストアシッドマジェンタ)、黄色203号(キノリンイエローWS)、緑色201号(アリザニンシアニングリーンF)、緑色204号(ピラニンコンク)、緑色205号(ライトグリーンSF黄)、青色203号(パテントブルーCA)、青色205号(アルファズリンFG)、赤色401号(ビオラミンR)、赤色405号(パーマネントレッドF5R)、赤色502号(ポンソー3R)、赤色503号(ポンソーR)、赤色504号(ポンソーSX)、緑色401号(ナフトールグリーンB)、緑色402号(ギネアグリーンB)及び黒色401号(ナフトールブルーブラック);葉酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、及びそれらの塩;シスチン及びその塩;EDTA及びその塩;グリチルリチン及びその塩;並びにこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0088】
(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩が、リン酸、二リン酸、ホスホン酸、フィチン酸、クエン酸、酒石酸、及びこれらの塩、より好ましくはリン酸、二リン酸、フィチン酸、クエン酸、酒石酸、及びこれらの塩からなる群から選択されることが好ましい場合がある。
【0089】
本発明による組成物中の(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩の量は、組成物の総質量に対して、0.001質量%以上、好ましくは0.003質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上でもよい。
【0090】
本発明による組成物中の(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩の量は、組成物の総質量に対して、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下であってもよい。
【0091】
本発明による組成物中の(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩の量は、組成物の総質量に対して、0.001質量%~10質量%、好ましくは0.003質量%~5質量%、より好ましくは0.005質量%~1質量%であってもよい。
【0092】
(水)
好ましくは、本発明による組成物は(d)水を含む。
【0093】
(d)水は、例えば、本発明による組成物中の連続相でありうる水性相を構成することができる。
【0094】
(d)水の量は、組成物の総質量に対して、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であってもよい。
【0095】
(d)水の量は、組成物の総質量に対して、99質量%以下、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下であってもよい。
【0096】
(d)水の量は、組成物の総質量に対して、50質量%~99質量%、好ましくは60質量%~97質量%、より好ましくは70質量%~95質量%であってもよい。
【0097】
(油)
本発明による組成物は、(e)少なくとも1種の油を含んでもよい。2種以上の油が使用される場合、それらは、同一であっても異なっていてもよい。
【0098】
(e)油は、例えば、本発明による組成物中の分散相又は不連続相でありうる脂肪相を構成することができる。
【0099】
本明細書では、「油」は、大気圧(760mmHg)下、室温(25℃)にて、液体又はペースト(非固体)の形態にある脂肪化合物又は脂肪物質を意味する。油として、化粧品に一般に使用されるものを、単独で又はそれらの組合せで使用することができる。これらの油は、揮発性であっても、不揮発性であってもよい。
【0100】
(e)油は、炭化水素油若しくはシリコーン油等の非極性油;植物油若しくは動物油、及びエステル油若しくはエーテル油等の極性油;又はこれらの混合物であってもよい。
【0101】
(e)油は、植物又は動物起源の油等の生物資源由来の油、化学物質由来の、合成油、シリコーン油、炭化水素油及び脂肪族アルコール等の非生物資源由来の油、並びにこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0102】
植物油の例として、例えば、アプリコット油、亜麻仁油、カメリア油、マカダミアナッツ油、トウモロコシ油、ミンク油、オリーブ油、アボカド油、サザンカ油、ヒマシ油、ベニバナ油、ホホバ油、ヒマワリ油、アーモンド油、ナタネ油、ゴマ油、ダイズ油、ピーナツ油、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0103】
動物油の例として、例えば、スクアレン及びスクアランを挙げることができる。
【0104】
合成油の例として、アルカン油、例えば、イソドデカン及びイソヘキサデカン、エステル油、エーテル油、並びに人工トリグリセリドを挙げることができる。
【0105】
エステル油は、好ましくは、飽和又は不飽和の、直鎖状又は分枝状のC1~C26脂肪族一価酸又は多価酸と、飽和又は不飽和の、直鎖状又は分枝状のC1~C26脂肪族一価アルコール又は多価アルコールとの液状エステルであり、エステルの炭素原子の総数は10以上である。
【0106】
好ましくは、一価アルコールのエステルの場合、本発明のエステルが誘導されるアルコール及び酸のうちの少なくとも1種は、分枝状である。
【0107】
一酸と一価アルコールとのモノエステルの中で、パルミチン酸エチル、パルミチン酸エチルヘキシル、パルミチン酸イソプロピル、炭酸ジカプリリル、ミリスチン酸アルキル、例えばミリスチン酸イソプロピル又はミリスチン酸エチル、ステアリン酸イソセチル、イソノナン酸2-エチルヘキシル、イソノナン酸イソノニル、ネオペンタン酸イソデシル及びネオペンタン酸イソステアリルを挙げることができる。
【0108】
C4~C22ジカルボン酸又はトリカルボン酸とC1~C22アルコールとのエステル、並びにモノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸と、非糖C4~C26ジヒドロキシ、トリヒドロキシ、テトラヒドロキシ又はペンタヒドロキシアルコールとのエステルもまた、使用することができる。
【0109】
特に以下:セバシン酸ジエチル、ラウロイルサルコシン酸イソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジ-n-プロピル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソステアリル、マレイン酸ビス(2-エチルヘキシル)、クエン酸トリイソプロピル、クエン酸トリイソセチル、クエン酸トリイソステアリル、トリ乳酸グリセリル、トリオクタン酸グリセリル、クエン酸トリオクチルドデシル、クエン酸トリオレイル、ジヘプタン酸ネオペンチルグリコール及びジイソノナン酸ジエチレングリコールを挙げることができる。
【0110】
エステル油として、C6~C30、好ましくはC12~C22脂肪酸の、糖エステル及びジエステルを使用することができる。用語「糖」が、アルデヒド又はケトン官能基ありの又はなしの、少なくとも4個の炭素原子を含む、幾つかのアルコール官能基を含有する、酸素を保持する炭化水素系化合物を意味することが想起される。これらの糖は、単糖、オリゴ糖又は多糖とすることができる。
【0111】
挙げることができる好適な糖の例には、スクロース(又はショ糖)、グルコース、ガラクトース、リボース、フコース、マルトース、フルクトース、マンノース、アラビノース、キシロース及びラクトース、並びにそれらの誘導体、特に、アルキル誘導体、例えばメチル誘導体、例としてはメチルグルコースがある。
【0112】
脂肪酸の糖エステルは、とりわけ、前述の糖と、直鎖状若しくは分枝状の飽和若しくは不飽和C6~C30、好ましくはC12~C22脂肪酸とのエステル又はエステルの混合物を含む群から選択されうる。これらの化合物が不飽和である場合、1~3つの共役又は非共役の炭素-炭素二重結合を有しうる。
【0113】
この変形形態によるエステルはまた、モノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル及びポリエステル、並びにこれらの混合物から選択することもできる。
【0114】
これらのエステルは、例えば、オレイン酸エステル、ラウリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ミリスチン酸エステル、ベヘン酸エステル、ヤシ油脂肪酸エステル、ステアリン酸エステル、リノール酸エステル、リノレン酸エステル、カプリン酸エステル及びアラキドン酸エステル、又はこれらの混合物、例えば、特に、オレオパルミチン酸、オレオステアリン酸及びパルミトステアリン酸の混合エステル、並びにテトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチルでもよい。
【0115】
より詳細には、モノエステル及びジエステル、特に、スクロース、グルコース又はメチルグルコースのモノオレイン酸エステル又はジオレイン酸エステル、ステアリン酸エステル、ベヘン酸エステル、オレオパルミチン酸エステル、リノール酸エステル、リノレン酸エステル及びオレオステアリン酸エステルが使用される。
【0116】
挙げることができる例は、ジオレイン酸メチルグルコースである、Amerchol社により名称Glucate(登録商標)DOで販売されている製品である。
【0117】
好ましいエステル油の例として、例えば、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジオクチル、ヘキサン酸2-エチルヘキシル、ラウリン酸エチル、オクタン酸セチル、オクタン酸オクチルドデシル、ネオペンタン酸イソデシル、プロピオン酸ミリスチル、2-エチルヘキサン酸2-エチルヘキシル、オクタン酸2-エチルヘキシル、カプリル酸2-エチルヘキシル/カプリン酸2-エチルヘキシル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、炭酸ジカプリリル、ラウロイルサルコシン酸イソプロピル、イソノナン酸イソノニル、パルミチン酸エチルヘキシル、ラウリン酸イソヘキシル、ラウリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸イソデシル、トリ(2-エチルヘキサン酸)グリセリル、テトラ(2-エチルヘキサン酸)ペンタエリスリチル、コハク酸2-エチルヘキシル、セバシン酸ジエチル、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0118】
人工トリグリセリドの例として、例えば、カプリルカプリリルグリセリド、トリミリスチン酸グリセリル、トリパルミチン酸グリセリル、トリリノレン酸グリセリル、トリラウリン酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル、トリカプリル酸グリセリル、トリ(カプリン酸/カプリル酸)グリセリル及びトリ(カプリン酸/カプリル酸/リノレン酸)グリセリルを挙げることができる。
【0119】
炭化水素油は、以下:
- 直鎖状又は分枝状、任意選択で環状のC6~C16低級アルカン。挙げることができる例には、ヘキサン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、及びイソパラフィン、例としてはイソヘキサデカン、イソドデカン及びイソデカンが挙げられる。
- 16個超の炭素原子を含有する直鎖状又は分枝状の炭化水素、例えば、流動パラフィン、流動石油ゼリー、ポリデセン及び水添ポリイソブテン、例えばParleam(登録商標)、及びスクアラン
から選択されうる。
【0120】
炭化水素油の好ましい例として、例えば、直鎖状又は分枝状の炭化水素、例えば、イソヘキサデカン、イソドデカン、スクアラン、鉱油(例えば液状パラフィン)、パラフィン、ワセリン又はペトロラタム、ナフタレン等;水添ポリイソブテン、イソエイコサン、及びデセン/ブテンコポリマー;並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0121】
脂肪族アルコールにおける「脂肪族」という用語は、比較的多数の炭素原子を含むことを意味する。そのため、4個以上、好ましくは6個以上、より好ましくは12個以上の炭素原子を有するアルコールが、脂肪族アルコールの範囲内に包含される。脂肪族アルコールは、飽和であっても、不飽和であってもよい。脂肪族アルコールは、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。
【0122】
脂肪族アルコールは、構造R-OH(式中、Rは、4~40個の炭素原子、好ましくは6~30個の炭素原子、より好ましくは12~20個の炭素原子を含有する、飽和及び不飽和の、直鎖状及び分枝状基から選択される)を有しうる。少なくとも1つの実施形態では、Rは、C12~C20アルキル基及びC12~C20アルケニル基から選択されうる。Rは、少なくとも1つのヒドロキシル基によって置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。
【0123】
脂肪族アルコールの例として、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ウンデシレニルアルコール、ミリスチルアルコール、オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、パルミトレイルアルコール、アラキドニルアルコール、エルシルアルコール及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0124】
脂肪族アルコールが飽和脂肪族アルコールであることが好ましい。
【0125】
したがって、脂肪族アルコールは、直鎖状又は分枝状の、飽和又は不飽和C6~C30アルコール、好ましくは直鎖状又は分枝状の、飽和C6~C30アルコール、より好ましくは直鎖状又は分枝状の、飽和C12~C20アルコールから選択することができる。
【0126】
用語「飽和脂肪族アルコール」は、本明細書では、長鎖の脂肪族飽和炭素鎖を有するアルコールを意味する。飽和脂肪族アルコールが、任意の直鎖状又は分枝状の飽和C6~C30脂肪族アルコールから選択されることが好ましい。直鎖状又は分枝状の飽和C6~C30脂肪族アルコールの中で、直鎖状又は分枝状の飽和C12~C20脂肪族アルコールが、好ましくは使用されうる。任意の直鎖状又は分枝状の飽和C16~C20脂肪族アルコールを、より好ましくは使用することができる。分枝状C16~C20脂肪族アルコールを、更により好ましくは使用することができる。
【0127】
飽和脂肪族アルコールの例として、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ウンデシレニルアルコール、ミリスチルアルコール、オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール及びこれらの混合物を挙げることができる。一実施形態では、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、又はこれらの混合物(例えばセテアリルアルコール)、及びベヘニルアルコールを、飽和脂肪族アルコールとして使用することができる。
【0128】
少なくとも1つの実施形態によれば、本発明による組成物中で使用される脂肪族アルコールは、好ましくは、オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、及びこれらの混合物から選択される。
【0129】
植物又は動物起源の油、より好ましくは植物油等の生物資源由来の油を使用することが好ましい。
【0130】
植物又は動物起源の油には、炭化水素油が含まれうる。
【0131】
植物由来の炭化水素油の好ましい例としては、例えば、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、スクアラン、ヘミスクアラン等の直鎖状又は分枝状炭化水素を挙げることができる。
【0132】
(e)油は、植物油、合成エステル油、及びこれらの混合物から、好ましくは植物油から選択されることが好ましい。
【0133】
存在する場合、(e)油は、複数の(a)カチオン性ポリマー又は(a)カチオン性ポリマーと(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸若しくはその塩との錯体によって取り囲まれていてもよく、或いは(e)油は、(a)カチオン性ポリマー又は上記の錯体によって形成されたカプセルの中空内に存在してもよい。言い換えると、(e)油は、(a)カチオン性ポリマー若しくは上記の錯体によって覆われていてもよく、又は(a)カチオン性ポリマー及び上記の錯体によって形成されたカプセルは、カプセルの中空内に(e)油を含む。
【0134】
(a)カチオン性ポリマー若しくは上記の錯体によって取り囲まれた又は(a)カチオン性ポリマー若しくは上記の錯体によって形成されたカプセルの中空内に存在する(e)油は、毛髪等のケラチン繊維と直接接触することができない。したがって、(e)油がべたつく又は油っぽい使用感を有する場合であっても、本発明による組成物は、べたつく又は油っぽい使用感をもたらさないと考えられる。
【0135】
本発明による組成物中の(e)油の量は、組成物の総質量に対して、1質量%以上、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であってもよい。
【0136】
本発明による組成物中の(e)油の量は、組成物の総質量に対して、50質量%以下、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下であってよい。
【0137】
本発明による組成物中の(e)油の量は、組成物の総質量に対して、1質量%~50質量%、好ましくは3質量%~45質量%、より好ましくは5質量%~40質量%であってもよい。
【0138】
(脂肪酸)
本発明による組成物は、(f)少なくとも1種の脂肪酸を含んでもよい。2種以上の脂肪酸が使用される場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0139】
用語「脂肪酸」は、本明細書では、長鎖の脂肪族炭素鎖を有するカルボン酸を意味する。
【0140】
(f)脂肪酸は、少なくとも4個の炭素原子、好ましくは少なくとも6個の炭素原子、より好ましくは少なくとも8個の炭素原子を有する。(f)脂肪酸は、最大26個の炭素原子、好ましくは最大24個の炭素原子、より好ましくは最大22個の炭素原子を含んでもよい。(f)脂肪酸は、C4~C26脂肪酸、より好ましくはC6~C24脂肪酸、更により好ましくはC8~C22脂肪酸から選択されることが好ましい。
【0141】
(f)脂肪酸は、飽和又は不飽和、直鎖状又は分枝状の脂肪酸から選択されてもよい。そのため、(f)脂肪酸は、C4~C26、好ましくはC6~C24、より好ましくはC8~C22飽和及び不飽和の直鎖状又は分枝状脂肪酸から選択されてもよい。
【0142】
不飽和の直鎖状又は分枝状脂肪酸として、一価不飽和の直鎖状若しくは分枝状脂肪酸又は多価不飽和の直鎖状若しくは分枝状脂肪酸を使用してもよい。不飽和の直鎖状又は分枝状脂肪酸の不飽和部分として、炭素間二重結合又は炭素間三重結合を挙げることができる。
【0143】
飽和脂肪酸としては、例えば、カプリル酸(C8)、ペラルゴン酸(C9)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデカン酸(C15)、パルミチン酸(C16)、ヘプタデカン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、イソステアリン酸(C18)、ノナデカン酸(C19)、アラキジン酸(C20)、ベヘン酸(C22)、及びリグノセリン酸(C24)を挙げることができる。
【0144】
不飽和脂肪酸としては、例えば、ミリストレイン酸(C14)、パルミトレイン酸(C16)、オレイン酸(C18)、リノール酸(C18)、リノレン酸(C18)、エライジン酸(C18)、アラキドン酸(C20)、エイコセン酸(C20)、エルカ酸(C22)、及びネルボン酸(C24)を挙げることができる。
【0145】
(f)脂肪酸は、C8~C18飽和又は不飽和の直鎖状又は分枝状脂肪酸から、より好ましくは、カプリル酸、カプリン酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、イソステアリン酸及びこれらの混合物からなる群から選択されることが好ましい。
【0146】
(f)脂肪酸は、その遊離酸の形態又はその塩の形態であってもよい。脂肪酸の塩として、無機塩、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)及びアルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩等)、並びに有機塩、例えばアンモニウム塩(第四級アンモニウム塩等)及びアミン塩(トリエタノールアミン塩、トリエチルアミン塩等)を挙げることができる。単一のタイプの脂肪酸塩又は異なるタイプの脂肪酸塩の組合せを使用してもよい。更に、遊離酸の形態の1種又は複数の脂肪酸と、塩の形態の1種又は複数の脂肪酸との組合せを使用することができ、1種又は複数のタイプの塩を使用することもできる。
【0147】
本発明による組成物中の(f)脂肪酸の量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上でよい。本発明による組成物中の(f)脂肪酸の量は、組成物の総質量に対して、1質量%以上であることが更により好ましいことがある。
【0148】
一方で、本発明による組成物中の(f)脂肪酸の量は、組成物の総質量に対して、15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下でもよい。本発明による組成物中の(f)脂肪酸の量は、組成物の総質量に対して、4質量%以下であることが更により好ましいことがある。
【0149】
これに応じて、本発明による組成物中の(f)脂肪酸の量は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~5質量%の範囲であってもよい。本発明による組成物中の(f)脂肪酸の量は、組成物の総質量に対して1質量%~4質量%であることが、更により好ましい場合がある。
【0150】
(pH)
本発明による組成物のpHは、3~9、好ましくは3.3~8.5、より好ましくは3.5~8であってもよい。
【0151】
pH3~9で、(a)カチオン性ポリマー又は(a)カチオン性ポリマーと(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩との錯体は非常に安定性でありうる。したがって、本発明による組成物は、3~9のpH下で非常に安定であることができる。
【0152】
本発明による組成物のpHは、(b)一価の非ポリマー酸若しくはその塩又は(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸若しくはその塩以外の、少なくとも1種のアルカリ剤及び/又は少なくとも1種の酸を添加することによって調整することができる。本発明による組成物のpHはまた、少なくとも1種の緩衝剤を添加することによって調整することもできる。
【0153】
(アルカリ剤)
本発明による組成物は、少なくとも1種のアルカリ剤を含んでよい。2種以上のアルカリ剤を組み合わせて使用してもよい。したがって、単一のタイプのアルカリ剤、又は異なるタイプのアルカリ剤の組合せを使用してもよい。
【0154】
アルカリ剤は、無機アルカリ剤であってもよい。無機アルカリ剤は、アンモニア、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属リン酸塩及びリン酸一水素塩、例えばリン酸ナトリウム又はリン酸一水素ナトリウムからなる群から選択されることが好ましい。
【0155】
無機アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムを挙げることができる。アルカリ土類金属水酸化物の例としては、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムを挙げることができる。無機アルカリ剤として、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0156】
アルカリ剤は、有機アルカリ剤であってもよい。有機アルカリ剤は、モノアミン及びその誘導体、ジアミン及びその誘導体、ポリアミン及びその誘導体、塩基性アミノ酸及びその誘導体、塩基性アミノ酸のオリゴマー及びその誘導体、塩基性アミノ酸のポリマー及びその誘導体、尿素及びその誘導体、並びにグアニジン及びその誘導体からなる群から選択されることが好ましい。
【0157】
有機アルカリ剤の例として、アルカノールアミン、例えば、モノ-、ジ-及びトリエタノールアミン、並びにイソプロパノールアミン、尿素、グアニジン及びそれらの誘導体、塩基性アミノ酸、例えばオルニチン、並びにジアミン、例えば、以下の構造:
【0158】
【0159】
(式中、Rは、ヒドロキシル基又はC1~C4アルキル基で任意選択により置換されているプロピレン等のアルキレンを示し、R1、R2、R3及びR4は、独立に、水素原子、アルキル基又はC1~C4ヒドロキシアルキル基を示す)で記載され、1,3-プロパンジアミン及びその誘導体によって例示することができるものを挙げることができる。
【0160】
アルカリ剤は、これらの溶解度に応じて、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.02質量%~10質量%、より好ましくは0.03質量%~5質量%の総量で使用することができる。
【0161】
(酸)
本発明による組成物は、少なくとも1種の酸を含んでよい。2種以上の酸を組み合わせて使用してもよい。したがって、単一のタイプの酸、又は異なるタイプの酸の組合せを使用してもよい。
【0162】
酸としては、化粧料中で一般に使用される任意の無機又は有機酸、好ましくは無機酸を挙げることができる。一価の酸及び/又は多価の酸を使用してもよい。塩酸(HCl)等の一価の酸を使用することができる。
【0163】
酸は、これらの溶解度に応じて、組成物の総質量に対して、0.01質量%~15質量%、好ましくは0.02質量%~10質量%、より好ましくは0.03質量%~5質量%の総量で使用することができる。
【0164】
(任意選択の成分)
本発明による組成物は、前述の成分に加えて、化粧品に典型的に用いられる任意選択の成分、具体的には、界面活性剤/乳化剤、例えば(a)カチオン性ポリマー以外の合成ポリマーに由来する親水性又は親油性増粘剤、揮発性又は不揮発性有機溶媒、アニオン性ポリマー、両性ポリマー、β-グルカン等の非イオン性ポリマー、(e)油以外のシリコーン及びシリコーン誘導体、(a)カチオン性ポリマー又は(e)油以外の動物又は植物に由来する天然抽出物、ワックス等を、本発明の効果を損なわない範囲内で含んでもよい。
【0165】
本発明による組成物は、上記の任意選択の成分を、組成物の総質量に対して、0.01質量%~30質量%、好ましくは0.05質量%~20質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%の量で含んでよい。
【0166】
本発明による組成物中の界面活性剤/乳化剤及び/又は合成増粘剤及び/又は有機溶媒の量は、組成物の総質量に対して、1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下であってよい。本発明による組成物が界面活性剤/乳化剤又は合成増粘剤又は有機溶媒を含まないことが特に好ましい。
【0167】
[調製]
本発明による組成物は、上に説明した必須成分と、必要な場合には上に説明した任意選択の成分とを混合することによって、調製することができる。
【0168】
上記の必須成分及び任意選択の成分を混合する方法及び手段は、限定されない。任意の従来の方法及び手段を使用して、上記の必須成分と任意選択の成分とを混合し、本発明による組成物を調製することができる。
【0169】
本発明による組成物は、撹拌機及びホモジナイザー等の従来の混合手段により、単純に又は容易に混合することによって調製することができる。また、加熱は必要ではない場合もある。したがって、本発明による組成物の調製方法は、環境に適合性でありうる。
【0170】
[化粧用途]
本発明による組成物は、化粧用組成物として使用されることが意図されてもよい。
【0171】
本発明による化粧用組成物は、ケラチン繊維上への適用が意図されてよい。ケラチン繊維は、本明細書では、ケラチンを主要構成要素として含有する繊維を意味し、その例には、毛髪等が挙げられる。本発明による化粧用組成物が、ケラチン繊維、特に毛髪のための美容方法のために使用されることが好ましい。
【0172】
本発明による化粧用組成物は、毛髪等のケラチン繊維のための化粧用組成物、より好ましくはヘアケア化粧用組成物であることが好ましい。
【0173】
[形態]
本発明による組成物は、任意の形態で存在しうる。
【0174】
本発明による組成物が(e)油を含む場合、(e)油は脂肪相を形成することができ、(d)水は水性相を形成することができ、脂肪相は、水性相中に分散されうる。そのため、水性相は連続相として機能することができ、脂肪相は分散相として機能することができる。言い換えれば、本発明による組成物は、O/Wエマルション等のO/W分散体の形態であってもよい。本発明による組成物がO/W型である場合、その外相を形成する(d)水に起因して、清涼感を付与できる。
【0175】
[機構]
図1は、本発明の一実施形態における、水性相中に分散されている油滴等の脂肪相(存在する場合)の周囲の(a)カチオン性ポリマーの挙動、及び(a)カチオン性ポリマーの疎水化の例を示す概略図を示す。
【0176】
複数の(a)カチオン性ポリマー又は(a)カチオン性ポリマーと(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩との錯体は、脂肪相と水性相との間の界面に存在しうる。そのため、(a)カチオン性ポリマー又は上記の錯体は、一切の従来の界面活性剤又は乳化剤の力を借りずにエマルションを形成できる。(a)カチオン性ポリマー又は上記の錯体によって形成されるエマルションは、いわゆるピッカリングエマルションに類似しうる。
【0177】
或いは、複数の(a)カチオン性ポリマー又は上記の錯体は、中空を有するカプセルを形成することができる。(e)油は、中空内に存在することができる。言い換えると、(e)油は、カプセル中に組み込むことができる。カプセルの壁は、(a)カチオン性ポリマー又は上記の錯体から形成された連続層又は皮膜から構成されうる。理論に拘泥するつもりはないが、(a)カチオン性ポリマー又は上記の錯体は、(e)油と(d)水との界面で再組織化して、(e)油を含むための中空を有するカプセルを自発的に形成することができると考えられる。例えば、カプセル中の(d)水を含む連続水性相及び(e)油を含む分散相は、いわゆるピッカリングエマルションにも類似しうるO/Wエマルションを形成することができる。
【0178】
脂肪相は、存在する場合、(f)脂肪酸を含んでもよい。脂肪相中の(f)脂肪酸は、インサイチュで(a)カチオン性ポリマーを疎水化できる。
図1は、(f)脂肪酸による(a)カチオン性ポリマーの疎水化のスキームを示す。
【0179】
図1Aは、(f)脂肪酸を含まない脂肪相の場合における、水性相中に分散されている油滴等の脂肪相(存在する場合)の周囲の(a)カチオン性ポリマーの挙動を示す概略図を示す。
【0180】
図1Aにおいて、(a)カチオン性ポリマーの疎水性は不十分なことがある。したがって、(a)カチオン性ポリマーと(e)油を含む(b)脂肪相との間の親和性は限定されうる。そのため、水性相中の脂肪相の乳化は、不安定な場合がある。
【0181】
一方、
図1Bは、(f)脂肪酸を含む脂肪相の場合における、水性相中に分散されている油滴等の脂肪相の周囲の(a)カチオン性ポリマーの挙動を示す概略図を示す。
【0182】
図1Bにおいて、
図1Cに示すように、脂肪相中の(f)脂肪酸のカルボン酸基は、(a)カチオン性ポリマー中のアンモニウム基又はアミノ基等のカチオン性又はカチオン化基とイオンで相互作用することができる。これに応じて、(a)カチオン性ポリマーは、イオンで疎水化され、充分な疎水性を持つことができる。したがって、(a)カチオン性ポリマーと(e)油を含む脂肪相との間の親和性が強化される。そのため、水性相中の脂肪相の乳化は、安定性である。
【0183】
[皮膜]
本発明による組成物は、皮膜を容易に調製するのに使用することができる。
【0184】
したがって、本発明はまた、好ましくは0.5μm超、より好ましくは1.0μm以上、更により好ましくは1.5μm以上の厚さを任意選択により有する皮膜、好ましくは化粧皮膜を調製するための方法であって、
本発明による組成物を毛髪等のケラチン繊維上に適用する工程と、
該組成物を乾燥させる工程と
を含む方法にも関しうる。
【0185】
本発明による皮膜の厚さの上限は、限定されない。したがって、例えば、本発明による皮膜の厚さは、1mm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、更により好ましくは100μm以下であってよい。
【0186】
本発明による皮膜を調製するための方法は、本発明による組成物を毛髪等のケラチン繊維上に適用する工程と、該組成物を乾燥させる工程とを含むことから、本発明による方法は、スピンコーティング又はスプレーすることを一切必要とせず、したがって、比較的厚い皮膜さえ容易に調製することが可能である。そのため、本発明による皮膜を調製する方法は、スピンコーター及びスプレー機等の特殊な装置を一切用いずに、比較的厚い皮膜を調製することができる。
【0187】
本発明による皮膜が比較的厚い場合であっても、該皮膜は、依然として薄く、透明であることができ、したがって、容易に知覚され得ない。そのため、本発明による皮膜は、好ましくは化粧皮膜として使用することができる。
【0188】
本発明はまた、
(1)好ましくは0.5μm超、より好ましくは1.0μm以上、更により好ましくは1.5μm以上の厚さを任意選択により有する皮膜、好ましくは化粧皮膜であって、
本発明による組成物を毛髪等のケラチン繊維上に適用する工程と、
該組成物を乾燥させる工程とを含む方法によって調製される皮膜、
並びに
(2)好ましくは0.5μm超、より好ましくは1.0μm以上、更により好ましくは1.5μm以上の厚さを任意選択により有する皮膜、好ましくは化粧皮膜であって、
(a)20,000超の分子量を有するキトサンから選択される少なくとも1種のカチオン性ポリマー、
(b)少なくとも1種の一価の非ポリマー酸又はその塩、及び
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩
を含む皮膜にも関しうる。
【0189】
皮膜は、(e)少なくとも1種の油及び/又は(f)少なくとも1種の脂肪酸も含んでよい。
【0190】
(a)カチオン性ポリマー、(b)一価の非ポリマー酸又はその塩、及び(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩、並びに(e)油及び(f)脂肪酸等の任意選択の成分に関する上記の説明は、上記の皮膜(1)及び(2)中のものに適用することができる。
【0191】
本発明による皮膜が疎水性であることが好ましい。
【0192】
本明細書における「疎水性」という用語は、20~40℃、好ましくは25~40℃、より好ましくは30~40℃での皮膜の水(好ましくは1リットルの体積)に対する溶解度が、皮膜の総質量に対して10質量%未満、好ましくは5質量%未満、より好ましくは1質量%未満、更により好ましくは0.1質量%未満であることを意味する。皮膜は、水に可溶性でないことが最も好ましい。
【0193】
本発明による皮膜が疎水性である場合、該皮膜は、耐水特性を有することができ、したがって、該皮膜は、ケラチン繊維の表面が例えば汗及び雨により濡れている場合であっても、毛髪等のケラチン繊維上に残存することができる。そのため、本発明による皮膜が任意の美容効果をもたらす場合、美容効果は長時間持続することができる。
【0194】
本発明による皮膜は、少なくとも1種の生体適合性及び/又は生分解性ポリマー層を含んでよい。2種以上の生体適合性及び/又は生分解性ポリマーを組み合わせて使用してもよい。そのため、単一のタイプの生体適合性及び/若しくは生分解性ポリマー、又は異なるタイプの生体適合性及び/若しくは生分解性ポリマーの組合せを使用することができる。
【0195】
本明細書における用語「生体適合性」ポリマーは、ポリマーが、ポリマーと皮膚を含む生体内の細胞との間で過度な相互作用を有さず、ポリマーが、生体によって異物として認識されないことを意味する。
【0196】
本明細書における用語「生分解性」ポリマーは、例えば生体自体の代謝、又は生体内に存在しうる微生物の代謝により、ポリマーが生体内で分解されうる又は分割されうることを意味する。また、生分解性ポリマーは、加水分解によって分解されうる。
【0197】
本発明による皮膜が生体適合性及び/又は生分解性ポリマーを含む場合、例えば、該皮膜は、頭皮への刺激を少なく又は解消することができ、且つ/又は環境への汚染を解消することができる。
【0198】
実際、本発明による皮膜は、生分解性ポリマーであるキトサンから選択される(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマーを含んでもよい。
【0199】
本発明による皮膜は、毛髪等のケラチン繊維の美容処置のために使用することができる。
【0200】
[美容方法及び使用]
本発明はまた、
毛髪等のケラチン繊維のための美容方法であって、本発明による組成物をケラチン繊維に適用する工程と、組成物を乾燥させて、ケラチン繊維上に化粧皮膜を形成する工程とを含む方法、又は
本発明による組成物の、毛髪等のケラチン繊維上に化粧皮膜を調製するための使用
にも関する。
【0201】
美容方法は、本明細書では、毛髪等のケラチン繊維の表面をケア及び/又は被覆するための非治療的美容方法を意味する。
【0202】
本発明の皮膜は、毛髪等のケラチン繊維に、上で説明したような、良好な整髪効果及び良好な形状回復効果をもたらすことができる。
【0203】
加えて、上記の化粧皮膜は、環境ストレス、例えば汚染物質、夾雑物等から、バリアーとして、ケラチン繊維の表面を被覆し、該ケラチン繊維を遮蔽することによって、毛髪等のケラチン繊維を即座に保護することができる。
【0204】
上記の美容効果は、上記の化粧皮膜の化学組成、厚さ及び/又は表面粗さを変化させることによって調整することができる又は制御することができる。
【0205】
上記の化粧皮膜が、(e)油以外の少なくとも1種の追加の美容有効成分を含む場合、該化粧皮膜は、その追加の美容有効成分によってもたらされる美容効果を有することができる。例えば、化粧皮膜が、デオドラント剤等の少なくとも1種の美容有効成分を含む場合、化粧皮膜は、毛髪等のケラチン繊維上の臭いを制御することができる。
【0206】
本発明はまた、毛髪等のケラチン繊維を処置するための組成物中での、20,000超の分子量を有するキトサンから選択される(a)少なくとも1種のカチオン性ポリマーの使用であって、該組成物が、
(b)少なくとも1種の一価の非ポリマー酸又はその塩、及び
(c)少なくとも1種の2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩
を含み、ケラチン繊維の整髪及び形状回復を改善するための使用にも関しうる。
【0207】
上記の組成物は、(e)少なくとも1種の油及び/又は(f)少なくとも1種の脂肪酸も含んでよい。
【0208】
(a)カチオン性ポリマー、(b)一価の非ポリマー酸又はその塩、及び(c)2つ以上のpKa値を有する非ポリマー酸又はその塩、並びに(d)水、(e)油及び(f)脂肪酸等の任意選択の成分に関する上記の説明は、上記の使用におけるものに適用することができる。
【実施例0209】
本発明は、実施例によって、より詳細に記載される。しかしながら、これらは、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきでない。
【0210】
(実施例1~31及び比較例1~10)
[調製]
実施例1~31及び比較例1~10による組成物のそれぞれを、表1~8に示す成分を混合して調製した。表1~8における成分の量についての数値は全て、原料の「質量%」に基づく。
【0211】
調製の詳細は、以下の通りである。
【0212】
先ず、キトサンを水に添加した。次に、乳酸を添加してキトサンを可溶化した(但し、比較例6~10では、その中で使用される低分子量キトサンが、乳酸の力を借りずに水溶性であったため、乳酸を使用しなかった)。次いで、架橋剤(リン酸、二リン酸、クエン酸、又は酒石酸)をゆっくり添加した。次いで、脂肪酸(オレイン酸、イソステアリン酸、リノール酸、又はエルカ酸)を油(トウモロコシ油)と共に添加して乳化し、室温で混合した。
【0213】
【0214】
【0215】
【0216】
【0217】
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
[評価]
(整髪)
実施例1~31及び比較例1~10による組成物各0.15gを毛髪2.7g上に適用し、ヘアドライヤーで乾燥した。乾燥した毛髪の整髪を目視で観察し、以下の基準に従って評価した。
非常に良好: 対照よりかなり良好である
良好: 対照より良好である
不良: 対照と同じである
【0222】
結果を以下の表9~14に示す。
【0223】
(形状回復)
実施例1~31及び比較例1~10による組成物各0.15gを毛髪2.7g上に適用し、ヘアドライヤーで乾燥した。乾燥した毛髪を梳くことによって伸ばし、形状回復、すなわち、手で触って毛髪が元に戻って整髪される程度を目視で観察し、以下の基準に従って評価した。
非常に良好: 対照よりかなり良好である
良好: 対照より良好である
不良: 対照と同じである
【0224】
結果を以下の表9~14に示す。
【0225】
【0226】
【0227】
【0228】
【0229】
【0230】
【0231】
(概略)
表9及び10によれば、様々な架橋剤を含む本発明による組成物が、架橋剤を含まない組成物と比較して、整髪及び形状回復に関して良好な又は非常に良好な効果を示したことが確認できる。
【0232】
表11~13によれば、様々な脂肪酸を含む本発明による組成物が、架橋剤を含まない組成物と比較して、整髪及び形状回復に関して良好な効果を示したことが確認できる。
【0233】
表14によれば、分子量が5,000未満の低分子量キトサンの使用が、架橋剤を含まない組成物と比較して、整髪及び形状回復に関して不良の効果をもたらしたことが確認できる。分子量が20,000超の高分子量キトサンの使用は、分子量が5,000未満の低分子量キトサンを使用した組成物と比較して、整髪及び形状回復に関して非常に良好な効果をもたらした。
【0234】
その上、本発明による組成物は、環境にやさしい成分を含む。