(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154240
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】半導体装置とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/76 20060101AFI20241023BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20241023BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20241023BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
H01L29/78 652R
H01L29/78 655C
H01L29/78 655D
H01L29/78 655B
H01L29/78 657D
H01L29/78 653A
H01L29/78 655F
H01L29/78 658A
H01L29/78 655G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067970
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 英佑
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 稔貴
(72)【発明者】
【氏名】久野 敬史
(57)【要約】
【課題】IGBT領域とダイオード領域の間に境界領域を有する逆導通IGBTにおいて、スイッチング損失の増加を抑える技術を提供する。
【解決手段】逆導通IGBT1,2の半導体基板10は、IGBT領域102と境界領域104に設けられており、コレクタ電極22に接しているp型のコレクタ層11を備えている。コレクタ層11は、IGBT領域102に設けられている第1コレクタ層11aと、境界領域104に設けられている第2コレクタ層11bと、を有している。第2コレクタ層11bのp型不純物の濃度が第1コレクタ層11aのp型不純物の濃度よりも低い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆導通IGBT(1,2)であって、
IGBT領域(102)と、ダイオード領域(104)と、前記IGBT領域と前記ダイオード領域の間に位置する境界領域(106)と、を有する半導体基板(10)と、
前記半導体基板の下面に設けられている下部電極(22)と、
前記半導体基板の上面に設けられている上部電極(24)と、を備えており、
前記半導体基板は、
前記IGBT領域と前記ダイオード領域と前記境界領域に亘って設けられている第1導電型のドリフト層(13)と、
前記IGBT領域と前記ダイオード領域と前記境界領域に亘って設けられており、前記ドリフト層の上方に配置されている第2導電型のベース層(14)と、
前記IGBT領域に設けられており、前記ベース層の上方に配置されており、前記上部電極に接している第1導電型のエミッタ層(15)と、
前記IGBT領域と前記境界領域に設けられており、前記ドリフト層の下方に配置されており、前記下部電極に接している第2導電型のコレクタ層(11)と、
前記ダイオード領域に設けられており、前記ドリフト層の下方に配置されており、前記下部電極に接している第1導電型のカソード層(17)と、を有しており、
前記コレクタ層は、
前記IGBT領域に設けられている第1コレクタ層(11a)と、
前記境界領域に設けられている第2コレクタ層(11b)と、を有しており、
前記第2コレクタ層の第2導電型不純物の濃度が前記第1コレクタ層の第2導電型不純物の濃度よりも低い、逆導通IGBT。
【請求項2】
前記第2コレクタ層の第2導電型不純物の濃度は、前記IGBT領域と前記境界領域の境界から前記ダイオード領域に向けて低下している、請求項1に記載の逆導通IGBT。
【請求項3】
前記ベース層は、
前記IGBT領域に設けられている第1ベース層(14a)と、
前記ダイオード領域及び前記境界領域に設けられている第2ベース層(14b)と、を有しており、
前記第2ベース層の第2導電型不純物の濃度が前記第1ベース層の第2導電型不純物の濃度よりも低い、請求項1に記載の逆導通IGBT。
【請求項4】
前記半導体基板は、
前記IGBT領域と前記ダイオード領域と前記境界領域に亘って設けられており、前記ベース層に埋設されている第1導電型のバリア層(21)、をさらに有している、請求項1に記載の逆導通IGBT。
【請求項5】
前記IGBT領域に設けられており、前記半導体基板の上面から前記ベース層を貫通して前記ドリフト層に達するトレンチ内に設けられているトレンチゲート(30)、をさらに備えている、請求項1に記載の逆導通IGBT。
【請求項6】
前記ダイオード領域と前記境界領域に設けられており、前記半導体基板の上面から前記ベース層を貫通して前記ドリフト層に達するトレンチ内に設けられているダミートレンチゲート(40)、をさらに備えている、請求項1に記載の逆導通IGBT。
【請求項7】
IGBT領域(102)と、ダイオード領域(104)と、前記IGBT領域と前記ダイオード領域の間に位置する境界領域(106)と、を有する半導体基板(10)を備える逆導通IGBT(1,2)の製造方法であって、
前記半導体基板の下面のうち前記ダイオード領域と前記境界領域の一部を被覆するとともに前記IGBT領域と前記境界領域の他の一部を露出するマスクを前記半導体基板の下面に成膜する工程と、
前記マスクの開口を通して前記半導体基板の下面にドーパントをイオン注入する工程と、
アニール処理により前記ドーパントを活性化させる工程と、を備えている、逆導通IGBTの製造方法。
【請求項8】
前記マスクの開口率は、前記IGBT領域と前記境界領域の境界から前記ダイオード領域に向けて低下している、請求項7に記載の逆導通IGBTの製造方法。
【請求項9】
前記ドーパントを活性化させる工程は、前記半導体基板の下面にレーザーを照射するレーザーアニール処理を有する、請求項7又は8に記載の逆導通IGBTの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、半導体装置とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆導通IGBT(Reverse Conducting Insulated Gate Bipolar Transistor)と称される種類の半導体装置の開発が進められている。この種の半導体装置が備える半導体基板は、IGBT構造が設けられているIGBT領域と、ダイオード構造が設けられているダイオード領域と、を有している。ダイオード構造は、IGBT構造に対して逆並列に接続されており、リカバリ動作時にフリーホイーリングダイオードとして動作することができる。
【0003】
この種の半導体装置では、リカバリ動作時において、IGBT領域のp型のベース層からダイオード領域のn型のカソード層に向けて斜め方向に正孔が注入される。p型のベース層からn型のカソード層に向けて斜め方向に注入される正孔量が多くなると、リカバリ電流が増加し、リカバリ損失が増加する。このため、特許文献1に開示されるように、この種の半導体装置では、IGBT領域とダイオード領域の間に境界領域が設けられることがある。境界領域では、p型のコレクタ層がIGBT領域から延びて形成されている。これにより、ダイオード構造が境界領域に構成されないので、リカバリ動作時にp型のベース層からn型のカソード層に向けて斜め方向に注入される正孔量が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
境界領域にp型のコレクタ層が設けられていると、IGBT構造がオンしているときに、境界領域のp型のコレクタ層から境界領域のn型のドリフト層に向けて正孔が注入される。境界領域のドリフト層に注入された正孔は、IGBT構造がターンオフしたときに、IGBT領域のp型のベース層に向けて斜め方向に移動し、p型のベース層を介して排出される。このため、正孔が排出されるまでの時間が長くなり、テール電流の増加によってスイッチング損失が増加することが懸念される。
【0006】
本明細書は、IGBT領域とダイオード領域の間に境界領域を有する逆導通IGBTにおいて、スイッチング損失の増加を抑える技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する半導体装置(1,2)は、逆導通IGBTと称される種類の半導体装置であり、IGBT領域(102)と、ダイオード領域(104)と、前記IGBT領域と前記ダイオード領域の間に位置する境界領域(106)と、を有する半導体基板(10)と、前記半導体基板の下面に設けられている下部電極(22)と、前記半導体基板の上面に設けられている上部電極(24)と、を備えていてもよい。前記半導体基板は、前記IGBT領域と前記ダイオード領域と前記境界領域に亘って設けられている第1導電型のドリフト層(13)と、前記IGBT領域と前記ダイオード領域と前記境界領域に亘って設けられており、前記ドリフト層の上方に配置されている第2導電型のベース層(14)と、前記IGBT領域に設けられており、前記ベース層の上方に配置されており、前記上部電極に接している第1導電型のエミッタ層(15)と、前記IGBT領域と前記境界領域に設けられており、前記ドリフト層の下方に配置されており、前記下部電極に接している第2導電型のコレクタ層(11)と、前記ダイオード領域に設けられており、前記ドリフト層の下方に配置されており、前記下部電極に接している第1導電型のカソード層(17)と、を有していてもよい。前記コレクタ層は、前記IGBT領域に設けられている第1コレクタ層(11a)と、前記境界領域に設けられている第2コレクタ層(11b)と、を有していてもよい。前記第2コレクタ層の第2導電型不純物の濃度が前記第1コレクタ層の第2導電型不純物の濃度よりも低くてもよい。ここで、「上方に配置されている」及び「下方に配置されている」とは、前記半導体基板の上下方向における2つの半導体層の位置関係のみを特定するものであり、例えば2つの半導体層が接するように配置されていてもよく、2つの半導体層の間に他の半導体層が介在していてもよい。
【0008】
上記逆導通IGBTでは、前記半導体基板の前記境界領域に前記コレクタ層が設けられているので、リカバリ動作時に、前記IGBT領域の前記ベース層から前記ダイオード領域の前記カソード層に向けて斜め方向に注入されるキャリア量が抑制される。さらに、上記逆導通IGBTでは、前記コレクタ層のうち前記境界領域に対応する部分の第2導電型不純物の濃度が低く調整されている。このように、第2導電型不純物の濃度が低く調整された前記第2コレクタ層が前記境界領域に設けられているので、前記IGBT領域のIGBT構造がオンしているときに、前記境界領域の前記ドリフト層に注入されるキャリア量が抑制される。このため、上記逆導通IGBTでは、スイッチング損失の増加が抑えられる。
【0009】
本明細書は、IGBT領域(102)と、ダイオード領域(104)と、前記IGBT領域と前記ダイオード領域の間に位置する境界領域(106)と、を有する半導体基板(10)を備える逆導通IGBT(1,2)の製造方法を開示する。この製造方法は、前記半導体基板の下面のうち前記ダイオード領域と前記境界領域の一部を被覆するとともに前記IGBT領域と前記境界領域の他の一部を露出するマスクを前記半導体基板の下面に成膜する工程と、前記マスクの開口を通して前記半導体基板の下面にドーパントをイオン注入する工程と、アニール処理により前記ドーパントを活性化させる工程と、を備えていてもよい。
【0010】
上記製造方法では、前記マスクを利用することにより、前記半導体基板の前記IGBT領域には前記ドーパントを相対的に高濃度に含む前記コレクタ層の一部を形成し、前記半導体基板の前記境界領域には前記ドーパントを相対的に低濃度に含む前記コレクタ層の一部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の半導体装置の平面図であって、IGBT領域とダイオード領域と境界領域のレイアウトを説明するための平面図を模式的に示す。
【
図2】本実施形態の半導体装置の素子領域に区画されたIGBT領域とダイオード領域と境界領域を含む要部断面図であって、
図1のII-II線に対応した位置の要部断面図を模式的に示す。
【
図3】本実施形態の半導体装置の製造方法のうちコレクタ層とカソード層を形成する工程のフローを示す。
【
図4】本実施形態の半導体装置の製造方法のうちコレクタ層を形成するときのイオン注入工程において半導体基板の下面に成膜されるマスクのパターンの一例を示す。
【
図5】本実施形態の半導体装置の製造方法のうちコレクタ層を形成するときのイオン注入工程において半導体基板の下面に成膜されるマスクのパターンの他の一例を示す。
【
図6】本実施形態の半導体装置の製造方法のうちコレクタ層を形成するときのイオン注入工程において半導体基板の下面に成膜されるマスクのパターンの他の一例を示す。
【
図7】本実施形態の半導体装置の変形例の素子領域に区画されたIGBT領域とダイオード領域と境界領域を含む要部断面図であって、
図1のII-II線に対応した位置の要部断面図を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本実施形態の半導体装置について説明する。なお、図示明瞭化を目的として、繰り返し配置される構成要素についてはその1つの構成要素にのみ符号を付し、他の構成要素に符号を付すのを省略する。
【0013】
図1に、本実施形態に係る半導体装置1の平面図を模式的に示す。半導体装置1は、逆導通IGBTと称される種類の半導体装置であり、半導体基板10を用いて製造されている。半導体基板10は、素子領域10Aと、素子領域10Aの周囲に位置する終端領域10Bと、を有している。半導体基板10の素子領域10Aは、IGBT構造が設けられているIGBT領域102と、ダイオード構造が設けられているダイオード領域104と、IGBT領域102とダイオード領域104の間に位置する境界領域106と、に区画されている。IGBT領域102とダイオード領域104は、半導体基板10の上面に対して直交する方向から見たときに(以下、「半導体基板10を平面視したときに」という)、素子領域10A内においてy方向に沿って交互に繰り返し配置されている。半導体基板10のうち終端領域10Bに対応する範囲内には、ガードリング等の終端耐圧構造が形成されている。さらに、半導体基板10の上面のうち終端領域10Bに対応する範囲には、複数の小信号パッド26が設けられている。小信号パッド26は、例えばゲート信号を入力するためのゲートパッド、温度センス信号を出力するための温度センスパッド及び電流センス信号を出力するための電流センスパッドであってもよい。
【0014】
図2に、
図1のII-II線に対応した要部断面図を模式的に示す。
図2に示されるように、半導体装置1は、シリコン基板である半導体基板10と、半導体基板10の下面を覆うように設けられているコレクタ電極22(下部電極の一例)と、半導体基板10の上面を覆うように設けられているエミッタ電極24(上部電極の一例)と、半導体基板10の上層部に設けられている複数のトレンチゲート30と、半導体基板10の上層部に設けられている複数のダミートレンチゲート40と、を備えている。
【0015】
半導体基板10は、p型のコレクタ層11と、n型のバッファ層12と、n-型のドリフト層13と、p型のベース層14と、複数のn+型のエミッタ層15と、複数のp+型のコンタクト層16と、n+型のカソード層17と、を有している。
【0016】
コレクタ層11は、半導体基板10の下層部のうちIGBT領域102と境界領域106に対応する範囲に設けられており、半導体基板10の下面に露出する位置に設けられている。コレクタ層11は、半導体基板10の下面を被覆するコレクタ電極22にオーミック接触している。コレクタ層11は、イオン注入技術を利用して、半導体基板10の下面に向けてp型不純物をイオン注入することによって形成される。コレクタ層11は、多段のイオン注入によって形成され、半導体基板10の厚み方向に複数のピーク濃度を有していてもよい。p型不純物は、特に限定されるものではないが、例えばボロンであってもよい。コレクタ層11に含まれるp型不純物のピーク濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1×1016cm-3~1×1018cm-3であってもよい。
【0017】
この例ではさらに、コレクタ層11は、第1コレクタ層11aと第2コレクタ層11bを有している。第1コレクタ層11aは、コレクタ層11のうち半導体基板10のIGBT領域102に対応する範囲に設けられた部分である。第2コレクタ層11bは、コレクタ層11のうち半導体基板10の境界領域106に対応する範囲に設けられた部分である。第2コレクタ層11bのp型不純物の濃度は、第1コレクタ層11aのp型不純物の濃度よりも小さい。第2コレクタ層11bのp型不純物の濃度は、半導体基板10の面方向において一定であってもよい。この例に代えて、第2コレクタ層11bのp型不純物の濃度は、IGBT領域102と境界領域106の境界からダイオード領域104に向けて低下していてもよい。この場合、第2コレクタ層11bのp型不純物の濃度は、連続的に低下してもよく、多段的に低下してもよい。このように、第2コレクタ層11bのp型不純物の濃度がIGBT領域102と境界領域106の境界からダイオード領域104に向けて低下していると、IGBT領域102と境界領域106の境界におけるp型不純物の急激な変化が抑えられるので、IGBT領域102と境界領域106の境界における電界集中が抑えらる。
【0018】
バッファ層12は、半導体基板10のIGBT領域102と境界領域106とダイオード領域104の全域に亘って設けられている。バッファ層12は、IGBT領域102と境界領域106においてコレクタ層11とドリフト層13の間に設けられており、コレクタ層11とドリフト層13を隔てており、下面がコレクタ層11に接しており、上面がドリフト層13に接している。バッファ層12は、ダイオード領域104においてカソード層17とドリフト層13の間に設けられており、カソード層17とドリフト層13を隔てており、下面がカソード層17に接しており、上面がドリフト層13に接している。バッファ層12は、ドリフト層13よりもn型不純物の濃度が高い層である。バッファ層12は、イオン注入技術を利用して、半導体基板10の下面に向けてn型不純物をイオン注入することによって形成される。n型不純物は、特に限定されるものではないが、例えばリンであってもよい。バッファ層12に含まれるn型不純物のピーク濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1×1015cm-3~1×1018cm-3であってもよい。
【0019】
ドリフト層13は、半導体基板10のIGBT領域102と境界領域106とダイオード領域104の全域に亘って設けられている。ドリフト層13は、バッファ層12とベース層14の間に設けられており、バッファ層12とベース層14を隔てており、下面がバッファ層12に接しており、上面がベース層14に接している。ドリフト層13は、半導体基板10内に他の半導体層を形成した残部である。ドリフト層13に含まれるn型不純物のピーク濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1×1013cm-3~1×1015cm-3であってもよい。
【0020】
ベース層14は、半導体基板10のIGBT領域102と境界領域106とダイオード領域104の全域に亘って設けられている。ベース層14は、IGBT領域102において、ドリフト層13とエミッタ層15及びコンタクト層16の間に設けられており、ドリフト層13とエミッタ層15及びコンタクト層16を隔てており、下面がドリフト層13に接しており、上面がエミッタ層15及びコンタクト層16に接している。ベース層14は、境界領域106及びダイオード領域104において、ドリフト層13とコンタクト層16の間に設けられており、ドリフト層13とコンタクト層16を隔てており、下面がドリフト層13に接しており、上面がコンタクト層16に接している。ベース層14は、イオン注入技術を利用して、半導体基板10の上面に向けてp型不純物をイオン注入することによって形成される。p型不純物は、特に限定されるものではないが、例えばボロンであってもよい。ベース層14に含まれるp型不純物のピーク濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1×1015cm-3~1×1017cm-3であってもよい。
【0021】
この例ではさらに、ベース層14は、第1ベース層14aと第2ベース層14bを有している。第1ベース層14aは、ベース層14のうち半導体基板10のIGBT領域102に対応する範囲に設けられた部分である。第2ベース層14bは、ベース層14のうち半導体基板10のダイオード領域104及び境界領域106に対応する範囲に設けられた部分である。第1ベース層14aのp型不純物の濃度は、トレンチゲート30のゲート閾値電圧が所望値となるように調整されている。第2ベース層14bのp型不純物の濃度は、リカバリ動作時に注入される正孔量を制御するために調整されている。このため、第2ベース層14bのp型不純物の濃度は、第1ベース層14aのp型不純物の濃度よりも小さい。
【0022】
複数のエミッタ層15の各々は、半導体基板10の上層部のうちIGBT領域102に対応する範囲に部分的に設けられており、半導体基板10の上面に露出する位置に設けられている。複数のエミッタ層15の各々は、対応するトレンチゲート30の側面に接しており、半導体基板10の上面を被覆するエミッタ電極24にオーミック接触している。複数のエミッタ層15の各々は、半導体基板10のうちのIGBT領域102に選択的に形成されており、半導体基板10のうちダイオード領域104及び境界領域106には形成されていない。換言すると、半導体基板10のうち複数のエミッタ層15が設けられている範囲がIGBT領域102となる。複数のエミッタ層15の各々は、イオン注入技術を利用して、半導体基板10の上面に向けてn型不純物をイオン注入することによって形成される。n型不純物は、特に限定されるものではないが、例えばリンであってもよい。複数のエミッタ層15の各々に含まれるn型不純物のピーク濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1×1018cm-3~1×1020cm-3であってもよい。なお、本明細書が開示する技術において、半導体基板10の上層部に形成される複数のエミッタ層15のレイアウトは、特に限定されるものではなく、様々なレイアウトが採用され得る。
【0023】
複数のコンタクト層16の各々は、半導体基板10のIGBT領域102と境界領域106とダイオード領域104に亘って部分的に設けられており、半導体基板10の上面に露出する位置に設けられている。複数のコンタクト層16の各々は、半導体基板10の上面を被覆するエミッタ電極24にオーミック接触している。複数のコンタクト層16の各々は、イオン注入技術を利用して、半導体基板10の上面に向けてp型不純物をイオン注入することによって形成される。p型不純物は、特に限定されるものではないが、例えばボロンであってもよい。複数のコンタクト層16の各々に含まれるp型不純物のピーク濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1×1017cm-3~1×1020cm-3であってもよい。なお、本明細書が開示する技術において、半導体基板10の上層部に形成される複数のコンタクト層16のレイアウトは、特に限定されるものではなく、様々なレイアウトが採用され得る
【0024】
カソード層17は、半導体基板10の下層部のうちダイオード領域104に対応する範囲に設けられており、半導体基板10の下面に露出する位置に設けられている。カソード層17は、半導体基板10の下面を被覆するコレクタ電極22にオーミック接触している。カソード層17は、半導体基板10のうちダイオード領域104に選択的に形成されており、半導体基板10のうちIGBT領域102及び境界領域106には形成されていない。換言すると、半導体基板10のうちカソード層17が設けられている範囲がダイオード領域104となる。カソード層17は、イオン注入技術を利用して、半導体基板10の下面に向けてn型不純物をイオン注入することによって形成される。カソード層17は、多段のイオン注入によって形成され、半導体基板10の厚み方向に複数のピーク濃度を有していてもよい。n型不純物は、特に限定されるものではないが、例えばリンであってもよい。カソード層17に含まれるn型不純物のピーク濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1×1018cm-3~1×1020cm-3であってもよい。
【0025】
複数のトレンチゲート30の各々は、半導体基板10の上層部のうちIGBT領域102に対応する範囲に形成されたトレンチ内に設けられており、ゲート電極32及びゲート絶縁膜34を有している。ゲート電極32は、ゲート絶縁膜34によって半導体基板10から絶縁されており、層間絶縁膜によってエミッタ電極24から絶縁されている。複数のトレンチゲート30の各々は、半導体基板10の上面からベース層14を貫通してドリフト層13に達している。この例では、複数のトレンチゲート30の各々は、半導体基板10を平面視したときに、x方向に沿って伸びており、y方向において相互に間隔を置いて配置されている。即ち、複数のトレンチゲート30は、半導体基板10を平面視したときに、IGBT領域102とダイオード領域104が繰り返し配置される方向に沿って相互に間隔を置いて配置されており、ストライプ状のレイアウトを有している。この例に代えて、複数のトレンチゲート30は、他の種類のレイアウトを有していてもよい。
【0026】
複数のダミートレンチゲート40の各々は、半導体基板10の上層部のうちダイオード領域104及び境界領域106に対応する範囲に形成されたトレンチ内に設けられている。複数のダミートレンチゲート40は、複数のトレンチゲート30と共通の製造工程で作成されており、ゲート電極32とエミッタ電極24を絶縁する層間絶縁膜が取り除かれた点でトレンチゲート30と相違する。複数のダミートレンチゲート40は、複数のトレンチゲート30の同一のレイアウトを有している。このようなダミートレンチゲート40が設けられていると、ダイオード領域104及び境界領域106における電界集中を緩和することができる。
【0027】
半導体装置1は、トレンチゲート30のゲート電極32に印加するゲート電圧に基づいて、IGBT領域102をコレクタ電極22からエミッタ電極24に向けて流れる電流のオンとオフを制御することができる。さらに、半導体装置1は、ダイオード領域104に形成されたダイオード構造が、リカバリ動作時にフリーホイーリングダイオードとして動作することができる。
【0028】
ダイオード構造が動作するリカバリ動作時において、IGBT領域102のp型のベース層14からダイオード領域104のn型のカソード層17に向けて斜め方向に注入される正孔量が多くなると、リカバリ電流が増加し、リカバリ損失が増加する。半導体装置1では、境界領域106にコレクタ層11が設けられているので、IGBT領域102のp型のベース層14とダイオード領域104のn型のカソード層17の間の距離が長くなる。このため、リカバリ動作時において斜め方向に注入される正孔量が抑制され、リカバリ電流が抑制される。したがって、半導体装置1は、低リカバリ損失な特性を有することができる。
【0029】
なお、IGBT領域102とダイオード領域104を結ぶ方向に沿って計測した境界領域106の幅は、斜め方向に注入される正孔量が抑制されるのに必要な大きさに調整されている。境界領域106の幅は、特に限定されるものではないが、例えば0.5μm以上、好ましくは1.0μm以上であってもよい。また、境界領域106の幅は、隣り合うダミートレンチゲート40の間の幅(即ち、ダミートレンチゲート40のピッチ幅)よりも大きくてもよい。あるいは、境界領域106の幅は、半導体基板10の基板厚よりも大きくてもよい。なお、境界領域106の幅は、面積消費を抑えるために、半導体基板10の基板厚×2よりも小さくてもよい。
【0030】
ここで、コレクタ層11のp型不純物の濃度がIGBT領域102と境界領域106に亘って一定、即ち、境界領域106の第2コレクタ層11bのp型不純物の濃度がIGBT領域102の第1コレクタ層11aのp型不純物の濃度と同程度まで高い場合を考える。この場合、IGBT構造がオンしているときに、境界領域106のコレクタ層11から境界領域106のn型のドリフト層13に向けて正孔が注入される。IGBT構造がターンオフしたときに、ドリフト層13に注入された正孔は、IGBT領域102のp型のベース層14に向けて斜め方向に移動し、p型のベース層14を介して排出される。このため、正孔が排出されるまでの時間が長くなり、テール電流の増加によってスイッチング損失が増加する。
【0031】
半導体装置1では、コレクタ層11のうち境界領域106に対応する部分、即ち第2コレクタ層11bのp型不純物の濃度が低く調整されている。p型不純物の濃度が低く調整された第2コレクタ層11bが境界領域106に設けられているので、IGBT領域102のIGBT構造がオンしているときに、境界領域106のドリフト層13に注入される正孔量が抑制される。このため、半導体装置1では、スイッチング損失の増加が抑えられる。
【0032】
次に、
図3を参照し、半導体装置1の製造方法のうちコレクタ層11とカソード層17を形成する工程について説明する。半導体装置1の製造方法のうち以下で説明する工程以外の工程については、既知の工程を利用することができる。
【0033】
まず、フォトリソグラフィ技術を利用して、半導体基板10の下面に第1マスクを成膜する(ステップS1参照)。
図4に、半導体基板10の下面に成膜される第1マスク52のパターンの一例を示す。第1マスク52は、半導体基板10の下面のうちダイオード領域104と境界領域106の一部を被覆するとともにIGBT領域102と境界領域106の他の一部を露出するように開口している。ここで、単位面積当たりの第1マスク52の開口面積を第1マスク52の開口率と定義する。この例では、第1マスク52の開口率は、境界領域106に亘って一定である。この例に代えて、
図5及び
図6に示すように、第1マスク52の開口率が、IGBT領域102と境界領域106の境界からダイオード領域104に向けて低下していてもよい。
【0034】
次に、イオン注入技術を利用して、第1マスク52の開口を通過して半導体基板10の下層部のうちIGBT領域102と境界領域106に対応する範囲にp型不純物をイオン注入する(ステップS2参照)。第1マスク52は、イオン注入後に除去される。
【0035】
次に、フォトリソグラフィ技術を利用して、半導体基板10の下面に第2マスクを成膜する(ステップS3参照)。第2マスクは、半導体基板10の下面のうちIGBT領域102と境界領域106を被覆するとともにダイオード領域104を露出するように開口している。
【0036】
次に、イオン注入技術を利用して、第2マスクの開口を通過して半導体基板10の下層部のうちダイオード領域104に対応する範囲にn型不純物をイオン注入する(ステップS4参照)。第2マスクは、イオン注入後に除去される。
【0037】
次に、半導体基板10の下面にレーザーを照射するレーザーアニールを実施する(ステップS5参照)。これにより、半導体基板10の下層部に導入したp型不純物とn型不純物が活性化する。これらの工程を経て、半導体基板10の下層部にコレクタ層11とカソード層17を形成することができる。なお、ステップS1とステップS2は、ステップS3とステップS4の後に実施してもよい。
【0038】
この製造方法によると、半導体基板10の下層部に導入されるp型不純物量は、IGBT領域102に対応する範囲と比較して、境界領域106に対応する範囲で相対的に低くなる。このため、レーザーアニール工程によって拡散したp型不純物の濃度は、境界領域106において相対的に低くなる。特に、
図5及び
図6に示すように、第1マスク52の開口率がIGBT領域102と境界領域106の境界からダイオード領域104に向けて低下していると、p型不純物の濃度はIGBT領域102と境界領域106の境界からダイオード領域104に向けて低下する。
【0039】
上記の製造方法では、第1マスクを利用することにより、半導体基板10のIGBT領域102にはp型不純物を相対的に高濃度に含む第1コレクタ層11aを形成し、半導体基板10の境界領域106にはp型不純物を相対的に低濃度に含む第2コレクタ層11bを形成することができる。
【0040】
上記で説明した半導体装置1は、以下のような変形例とすることができる。
図7に示す半導体装置2は、半導体基板10内にn型のバリア層21が設けられていることを特徴とする。バリア層21は、半導体基板10のIGBT領域102と境界領域106とダイオード領域104の全域に亘って設けられている。バリア層21は、ベース層14に埋設して設けられており、ベース層14を上下に分断している。バリア層21は、イオン注入技術を利用して、半導体基板10の上面に向けてn型不純物をイオン注入することによって形成される。n型不純物は、特に限定されるものではないが、例えばリンであってもよい。バリア層21の実効的なn型不純物のピーク濃度は、第2ベース層14bの実効的なp型不純物のピーク濃度よりも小さくてもよい。このようなバリア層21が設けられていると、リカバリ動作時において、ベース層14からの正孔注入を抑えることができる。したがって、半導体装置2は、低リカバリ損失な特性を有することができる。
【0041】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものである。
【0042】
(特徴1)
逆導通IGBT(1,2)であって、
IGBT領域(102)と、ダイオード領域(104)と、前記IGBT領域と前記ダイオード領域の間に位置する境界領域(106)と、を有する半導体基板(10)と、
前記半導体基板の下面に設けられている下部電極(22)と、
前記半導体基板の上面に設けられている上部電極(24)と、を備えており、
前記半導体基板は、
前記IGBT領域と前記ダイオード領域と前記境界領域に亘って設けられている第1導電型のドリフト層(13)と、
前記IGBT領域と前記ダイオード領域と前記境界領域に亘って設けられており、前記ドリフト層の上方に配置されている第2導電型のベース層(14)と、
前記IGBT領域に設けられており、前記ベース層の上方に配置されており、前記上部電極に接している第1導電型のエミッタ層(15)と、
前記IGBT領域と前記境界領域に設けられており、前記ドリフト層の下方に配置されており、前記下部電極に接している第2導電型のコレクタ層(11)と、
前記ダイオード領域に設けられており、前記ドリフト層の下方に配置されており、前記下部電極に接している第1導電型のカソード層(17)と、を有しており、
前記コレクタ層は、
前記IGBT領域に設けられている第1コレクタ層(11a)と、
前記境界領域に設けられている第2コレクタ層(11b)と、を有しており、
前記第2コレクタ層の第2導電型不純物の濃度が前記第1コレクタ層の第2導電型不純物の濃度よりも低い、逆導通IGBT。
【0043】
(特徴2)
前記第2コレクタ層の第2導電型不純物の濃度は、前記IGBT領域と前記境界領域の境界から前記ダイオード領域に向けて低下している、特徴1に記載の逆導通IGBT。
【0044】
(特徴3)
前記ベース層は、
前記IGBT領域に設けられている第1ベース層(14a)と、
前記ダイオード領域及び前記境界領域に設けられている第2ベース層(14b)と、を有しており、
前記第2ベース層の第2導電型不純物の濃度が前記第1ベース層の第2導電型不純物の濃度よりも小さい、特徴1又は2に記載の逆導通IGBT。
【0045】
(特徴4)
前記半導体基板は、
前記IGBT領域と前記ダイオード領域と前記境界領域に亘って設けられており、前記ベース層に埋設されている第1導電型のバリア層(21)、をさらに有している、特徴1~3のいずれか一項に記載の逆導通IGBT。
【0046】
(特徴5)
前記IGBT領域に設けられており、前記半導体基板の上面から前記ベース層を貫通して前記ドリフト層に達するトレンチ内に設けられているトレンチゲート(30)、をさらに備えている、特徴1~4のいずれか一項に記載の逆導通IGBT。
【0047】
(特徴6)
前記ダイオード領域と前記境界領域に設けられており、前記半導体基板の上面から前記ベース層を貫通して前記ドリフト層に達するトレンチ内に設けられているダミートレンチゲート(40)、をさらに備えている、特徴1~5のいずれか一項に記載の逆導通IGBT。
【0048】
(特徴7)
IGBT領域(102)と、ダイオード領域(104)と、前記IGBT領域と前記ダイオード領域の間に位置する境界領域(106)と、を有する半導体基板(10)を備える逆導通IGBT(1,2)の製造方法であって、
前記半導体基板の下面のうち前記ダイオード領域と前記境界領域の一部を被覆するとともに前記IGBT領域と前記境界領域の他の一部を露出するマスクを前記半導体基板の下面に成膜する工程と、
前記マスクの開口を通して前記半導体基板の下面にドーパントをイオン注入する工程と、
アニール処理により前記ドーパントを活性化させる工程と、を備えている、逆導通IGBTの製造方法。
【0049】
(特徴8)
前記マスクの開口率は、前記IGBT領域と前記境界領域の境界から前記ダイオード領域に向けて低下している、特徴7に記載の逆導通IGBTの製造方法。
【0050】
(特徴9)
前記ドーパントを活性化させる工程は、前記半導体基板の下面にレーザーを照射するレーザーアニール処理を有する、特徴7又は8に記載の逆導通IGBTの製造方法。
【0051】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0052】
10:半導体基板、 11:コレクタ層、 11a:第1コレクタ層、 11b:第2コレクタ層、 12:バッファ層、 13:ドリフト層、 14:ベース層、 14a:第1ベース層、 14b:第2ベース層、 15:エミッタ層、 16:コンタクト層、 17:カソード層、 22:コレクタ電極、 24:エミッタ電極、 30:トレンチゲート、 32:ゲート電極、 34:ゲート絶縁膜、 40:ダミートレンチゲート、 102:IGBT領域、 104:ダイオード領域、 106:境界領域