(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154281
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】廃水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20241023BHJP
C02F 1/72 20230101ALI20241023BHJP
【FI】
C02F3/12 V
C02F3/12 N
C02F1/72 A
C02F3/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068027
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】堀込 知佳
(72)【発明者】
【氏名】市川 康平
(72)【発明者】
【氏名】山口 正裕
(72)【発明者】
【氏名】福島 寿和
(72)【発明者】
【氏名】山田 果歩
【テーマコード(参考)】
4D028
4D050
【Fターム(参考)】
4D028AB05
4D028AC03
4D028BA00
4D028BB02
4D028BB06
4D028BD16
4D028BD17
4D028CA04
4D028CA05
4D050AA13
4D050AB38
4D050BB09
4D050BD06
4D050CA17
(57)【要約】
【課題】シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを含有する廃水について、活性汚泥法を用いて、簡便な方法で、廃水中のシアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを有効に低減することが可能な方法を提供する。
【解決手段】シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを含有する廃水の処理方法であって、前記廃水中の前記チオシアン酸イオンの濃度が25mg/L以上であり、前記廃水に過酸化水素を添加して反応させ、反応液を得る第1の工程と、前記第1の工程で得られた前記反応液を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させ、生物処理する第2の工程と、を含む廃水の処理方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを含有する廃水の処理方法であって、
前記廃水中の前記チオシアン酸イオンの濃度が25mg/L以上であり、
前記廃水に過酸化水素を添加して反応させ、反応液を得る第1の工程と、
前記第1の工程で得られた前記反応液を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させ、生物処理する第2の工程と、を含む廃水の処理方法。
【請求項2】
前記廃水が、さらにチオ硫酸イオンを含有する請求項1に記載の廃水の処理方法。
【請求項3】
前記第1の工程で、前記廃水に前記過酸化水素とともにチオ硫酸塩を添加して、前記反応液を得る請求項1に記載の廃水の処理方法。
【請求項4】
前記第1の工程で、前記廃水中に、前記シアン化物イオンに対するモル比が0.5以上となる量のチオ硫酸イオンの存在下、前記反応液を得る請求項1に記載の廃水の処理方法。
【請求項5】
前記第1の工程における前記廃水への前記過酸化水素の添加量は、前記廃水中の前記シアン化物イオンに対する前記過酸化水素のモル比が0.5以上となる量である請求項1に記載の廃水の処理方法。
【請求項6】
前記廃水中の前記シアン化物イオンの濃度が、0.5~200mg/Lである請求項1に記載の廃水の処理方法。
【請求項7】
前記廃水が、コークス炉廃水である請求項1~6のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄において鉄鉱石に含まれる酸化鉄を還元するために使用されるコークスは、石炭をコークス炉で乾留して製造される。石炭の乾留時に発生するガス(コークス炉ガス)は、各種装置を備えた精製設備で不純物の除去や、再利用のための成分及び熱等の回収等が行われる。その一例として、コークス炉ガスにアンモニア水を吹きかけること(フラッシング)により、コークス炉ガスの冷却や、コークス炉ガス中の不純物の捕集等を行う工程がある。この工程で発生する凝縮水(「安水」や「コークス炉廃水」とも称される。)には、COD(化学的酸素要求量)成分が含まれている。
【0003】
コークス炉廃水(安水)処理設備では、活性汚泥が収容された生物処理槽に、COD成分を含有するコークス炉廃水を導入し、活性汚泥法によって、コークス炉廃水中のCOD成分を分解し、低減することが行われている。例えば、特許文献1には、コークス工場排水を先ずアンモニア除去処理し、次いでこの処理液を第一鉄塩添加により凝集沈殿処理したのち活性汚泥処理することを特徴とするコークス工場排水の処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したコークス炉廃水処理設備におけるコークス炉廃水等の工場廃水には、シアン化物イオン(CN-;遊離シアン及びフリーシアンとも称される。)が含有されていることがある。本発明者らの検討の結果、コークス炉廃水処理設備において、COD成分としてチオシアン酸イオン(SCN-)を含有するコークス炉廃水を活性汚泥法によって生物処理する場合に、当該廃水中にさらにシアン化物イオンが含有されていると、SCN-に対する活性汚泥の処理性能が低下することがわかった。
【0006】
そこで本発明は、シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを含有する廃水について、活性汚泥法を用いて、簡便な方法で、廃水中のシアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを有効に低減することが可能な方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを含有する廃水の処理方法であって、前記廃水中の前記チオシアン酸イオンの濃度が25mg/L以上であり、前記廃水に過酸化水素を添加して反応させ、反応液を得る第1の工程と、前記第1の工程で得られた前記反応液を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させ、生物処理する第2の工程と、を含む廃水の処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを含有する廃水について、活性汚泥法を用いて、簡便な方法で、廃水中のシアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを有効に低減することが可能な方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0010】
前述の通り、コークス炉廃水処理設備では、活性汚泥法によって、コークス炉廃水中のCOD成分を分解除去している。一方、コークス炉廃水等の廃水には、シアン化物イオン(以下、「CN-」と記載することがある。)が含有されていることがある。本発明者らの検討の結果、活性汚泥法による処理対象(被処理水)である廃水中に比較的高濃度(例えば0.5mg-CN/L以上)にCN-が含有されていると、COD成分を分解する活性汚泥の処理性能が低下し、処理水の水質が低下する問題が生じることがわかった。特に、廃水に含有されるCOD成分の一種であるチオシアン酸イオン(以下、「SCN-」と記載することがある。)を分解する活性汚泥の処理性能が低下することがわかった。これは、活性汚泥における、チオシアン酸イオンを分解可能な細菌等の微生物が、シアン毒性に弱く、増殖が遅いために、シアン化物イオンによりダメージを受けると回復までに時間がかかることに起因していると考えられる。
【0011】
シアン化物イオンとチオシアン酸イオンの両方を含有する廃水の処理方法について、安定的かつ簡便にCOD成分の除去を達成する方法は、これまでに確立されているとは言い難い。したがって、本発明者らは、シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを含有する廃水について、活性汚泥法を用いて、簡便な方法で、廃水中のシアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを有効に低減することが可能な方法を検討した。まず、廃水中のシアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを低減する安定的な処理を可能にするためには、活性汚泥が収容された生物処理槽に廃水が流入する前に、廃水中のシアン化物イオンを低減させることが有効であると本発明者らは考えた。また、生物処理槽の前段で廃水中のシアン化物イオンを低減させる際には、後段の生物処理槽中の活性汚泥にダメージを与え難い物を使用する必要があると考えた。
【0012】
上述の考えの下、検討の結果、本発明者らは、シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを含有する廃水について、以下の簡便は方法によって、廃水中のシアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを有効に低減することが可能な方法を見出した。すなわち、本発明の一実施形態の廃水の処理方法(以下、「本方法」と記載することがある。)は、上記廃水に過酸化水素を添加して反応させ、反応液を得る第1の工程と、第1の工程で得られた反応液を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させ、生物処理する第2の工程とを含む。
【0013】
本方法による処理対象である廃水としては、シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを含有し、チオシアン酸イオンの濃度が25mg/L以上である廃水であれば、特に制限されない。本発明者らの検討の結果、廃水中のシアン化物イオンの濃度を低減させるためには、廃水中にチオシアン酸イオンが25mg/L以上の濃度で存在する必要があることがわかった。上記のような廃水として、コークス炉での石炭乾留時に発生するコークス炉廃水を挙げることができる。コークス炉廃水は、石炭からコークスが製造される際に排出される排ガスが冷却されて発生する凝縮水を含み、スクラバー等で処理した後のスクラバー排水であってもよい。
【0014】
廃水中のチオシアン酸イオンの濃度は、25mg/L以上であり、50mg/L以上であることが好ましく、100mg/L以上であることがより好ましく、また、3000mg/L以下であることが好ましい。廃水中のシアン化物イオンの濃度は、0.5~200mg/Lであることが好ましい。また、シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンに加えて、アンモニア、COD成分の一種であるフェノール等をさらに含有する廃水が好適である。廃水中のチオシアン酸イオン中の炭素原子の質量と、廃水中のチオシアン酸イオン以外の有機物中の炭素原子の質量との比が、1:0~1:10であることが好ましい。
【0015】
本方法では、第1の工程において、シアン化物イオン、及び25mg/L以上のチオシアン酸イオンを含有する廃水に過酸化水素を添加して反応させることにより、廃水中のシアン化物イオンが低減された反応液を得ることができる。これは、チオシアン酸イオン(SCN-)と過酸化水素(H2O2)が反応すると、チオシアン酸イオンの酸化物が生成し、このチオシアン酸イオンの酸化物と反応して高毒性であるシアン化物イオン(CN-)がシアン酸イオン(CNO-)のような低毒性の物質に変換したためと考えられる(下記反応式(1)参照)。明確な反応機構は明らかではないが、チオシアン酸イオンは触媒のような働きをして、チオシアン酸イオンの濃度は変化せず、シアン化物イオンのみが除去されると考えられる。第1の工程は、廃水に過酸化水素を添加して反応させることにより、反応液中にシアン酸イオンを生成させることを含むことが好ましい。
2SCN-+H2O2+CN-→CNO-+2SCN-+H2O (1)
【0016】
上記反応式(1)による反応では、COD成分の一種であるチオシアン酸イオンが残存する。しかし、本方法では、上記反応が生じると考えられる反応液を得る第1の工程を、活性汚泥法により生物処理する生物処理槽の前段処理として採用する。そして、本方法では、第2の工程として、第1の工程で得られた反応液を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させ、生物処理する。
【0017】
廃水に添加する過酸化水素は、残留したとしても、活性汚泥を収容する生物処理槽で速やかに分解されるため、活性汚泥にダメージを与え難い。したがって、上記反応に必要な反応液中のチオシアン酸イオンは、生物処理槽中の活性汚泥により分解することができる。そのため、本方法では、廃水に過酸化水素を添加して反応させるという簡便な操作によって、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入してくる廃水(反応液)中のシアン化物イオンを低減させておくことができる。それによって、活性汚泥がシアン化物イオンによるダメージを受け難くなることから、生物処理槽に流入した反応液中に残留するチオシアン酸イオンを活性汚泥で分解する処理について、安定的な処理性能を得ることが可能である。チオシアン酸イオンを活性汚泥により分解し、より有効に低減するためには、COD成分を含有する廃水を生物処理している生物処理槽中の活性汚泥、すなわち、COD成分分解能を有する活性汚泥を用いることが好ましい。
【0018】
以上の通り、COD成分を含有する廃水を活性汚泥法により生物処理する場合に、当該廃水中にさらにシアン化物イオンが含有されていると、COD成分の一種であるチオシアン酸イオンを分解する活性汚泥の処理性能が低下する場合があった。これに対し、本方法では、シアン化物イオン、及び25mg/L以上のチオシアン酸イオンを含有する廃水に、後段の生物処理で用いる活性汚泥にダメージを与え難い薬剤である過酸化水素を添加して反応させ、反応液を得る。このようにして、生物処理槽に流入する前の廃水(反応液)中のシアン化物イオンを低減し、生物処理槽に流入する被処理水(反応液)の活性汚泥に対する毒性を低減しておく。これにより、反応液を生物処理槽に流入させ、生物処理することで、反応液中のチオシアン酸イオンを活性汚泥法により安定的に低減することが可能である。
【0019】
ここで、CN-等のシアン成分を含有する廃水の処理方法として知られている紺青法等のような、CN-を不溶性シアン化合物に変換する方法では、生じた不溶性シアン化合物を分離除去するための沈殿池等の固液分離設備が必要となり、設備費が増大する。これに対して、本方法における第1の工程では、固液分離設備を要することなく、過酸化水素の添加により、廃水中のCN-を低減し得る。また、CN-等のシアン成分を含有する廃水の処理方法において、従来から使用されている次亜塩素酸や銅化合物を従来の用量で用いると、活性汚泥に毒性を与えうることから、後段に活性汚泥法による生物処理を行う本方法では、次亜塩素酸を用いないことが好ましい。銅化合物については、後述する通り、特定の少量で銅イオンを活性汚泥に供給しうる場合、活性汚泥の栄養剤として機能することがわかったことから、そのような目的であれば使用してもよい。
【0020】
廃水中のシアン化物イオンをさらに低減しやすい観点から、第1の工程における廃水への過酸化水素の添加量は、廃水中のシアン化物イオンに対するH2O2のモル比が0.5以上となる量であることが好ましい。一方、廃水への過酸化水素の添加量は、上記モル比が30.0以下となる量であることが好ましい。また、第1の工程で使用する過酸化水素が残留する場合、生物処理槽に流入する過酸化水素の濃度は500mg/L以下であることが好ましい。
【0021】
上述の反応液を得る第1の工程は、廃水中にチオ硫酸イオン(S2O3
2-)の存在下で、過酸化水素を反応させ、反応液を得る工程であることが好ましい。反応液を得る際に、廃水中にチオ硫酸イオンが存在すると、下記反応式(2)に示すように、チオ硫酸イオン(S2O3
2-)によって、シアン化物イオン(CN-)がチオシアン酸イオン(SCN-)に変換されると考えられるためである。このような反応により、反応液中にチオシアン酸イオンが生じた場合、生じたチオシアン酸イオンは、生物処理槽中の活性汚泥により分解することができる。
H2O2+S2O3
2-→[H2O2・S2O3
2-]*
[H2O2・S2O3
2-]*+CN-→SCN-+H2O+SO4
2- (2)
【0022】
チオ硫酸イオンの存在下で過酸化水素を反応させる観点から、廃水としては、シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンに加えて、さらにチオ硫酸イオンを含有する廃水が好適である。また、チオ硫酸イオンの存在下で過酸化水素を反応させる場合、水中でチオ硫酸イオンを生じるチオ硫酸塩を添加することが好ましい。すなわち、第1の工程で、廃水に過酸化水素とともにチオ硫酸塩を添加して、反応液を得ることが好ましい。前述の反応式(1)に示す反応に比べ、反応式(2)に示す反応の方が速いと考えられる。そのため、チオシアン酸イオン及びチオ硫酸イオンのいずれもが廃水中に十分に含有されていない場合や、チオシアン酸イオンは十分に含有されているが、過酸化水素との反応時間が十分に確保できない場合には、廃水にチオ硫酸塩を過酸化水素と併せて添加することがより好ましい。
【0023】
例えば、廃水中のチオ硫酸イオンの含有量がシアン化物イオンに対してモル比で0.5未満である場合に、廃水にチオ硫酸塩を添加することなく、過酸化水素を添加して反応させる際の反応時間は、1時間~24時間であることが好ましく、4時間~18時間であることがより好ましく、8時間~12時間であることがさらに好ましい。一方、廃水中にチオ硫酸イオンがシアン化物イオンに対してモル比で0.5以上の量で存在する場合、過酸化水素を添加して反応させる際の反応時間は、1秒~24時間であることが好ましく、30秒~12時間であることが好ましく、1分~1時間であることがさらに好ましい。このように、第1の工程で、廃水中のシアン化物イオンをより短い時間で低減し得る観点から、廃水中に、シアン化物イオンに対するモル比が0.5以上となる量のチオ硫酸イオンの存在下、上述の反応液を得ることが好ましい。廃水中のシアン化物イオンに対するチオ硫酸イオンのモル比は、1.0以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましく、また、30.0以下であることが好ましい。
【0024】
廃水にチオ硫酸塩を添加する場合に用い得るチオ硫酸塩としては、例えば、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム五水和物、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸マグネシウム、チオ硫酸マグネシウム六水和物、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸バリウム、チオ硫酸バリウム・水和物、チオ硫酸カルシウム、及びチオ硫酸カルシウム六水和物等を挙げることができる。チオ硫酸塩の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
第1の工程において、廃水に過酸化水素を添加して反応させる際の廃水の温度は、4~90℃であることが好ましく、10~80℃がより好ましい。また、第1の工程において、廃水に過酸化水素を添加して反応させる際の廃水のpHは、5.0~11.0であることが好ましく、7.0~10.0であることがより好ましい。
【0026】
活性汚泥が収容された生物処理槽(曝気槽とも称される。)での第2の工程では、第1の工程で得られた反応液を、生物処理の対象である被処理水とする。第2の工程における被処理水である反応液は、第1の工程によって、シアン化物イオンが低減された廃水(被処理水)である。したがって、第2の工程における生物処理槽中の活性汚泥は、シアン化物イオンによってダメージを受け難くなり、被処理水(反応液)中のチオシアン酸イオンを安定して分解処理することが可能である。
【0027】
第2の工程で用いる活性汚泥は、前述の通り、COD成分を含有する廃水を生物処理している生物処理槽中の活性汚泥を用いることが好ましく、COD成分を含有するコークス炉廃水を処理しているコークス炉廃水処理設備における活性汚泥を用いることがより好ましい。すなわち、COD成分を分解可能な細菌を含む活性汚泥を用いることが好ましく、少なくともチオシアン酸イオンを分解可能な細菌(チオシアン分解細菌)を含む活性汚泥を用いることがより好ましい。また、活性汚泥は、チオシアン分解細菌に加えて、さらにフェノール分解細菌等を含有することがさらに好ましい。
【0028】
第2の工程で用いる活性汚泥が収容された生物処理槽としては、槽内に活性汚泥を含有させた槽;槽内に活性汚泥を含有させて沈殿させた槽;槽内を流動する担体(例えばスポンジやプラスチック等)に担持させた活性汚泥を含む槽(流動床担体式生物処理槽);槽内に固定された担体(固定担体)に活性汚泥を定着させた槽(固定床担体式生物処理槽);活性汚泥を含有させた槽内に活性汚泥と処理水とを分離するための膜分離装置を設けた膜式活性汚泥槽;等を挙げることができる。また、活性汚泥による生物処理は、上記の活性汚泥が収容された生物処理槽の2種以上を併用してもよい。例えば、特開2020-78767号公報に記載されているように、槽内に活性汚泥を沈殿させた活性汚泥槽と、上記流動床担体式生物処理槽とを併用してもよい。さらに、活性汚泥による生物処理は、廃水を分散菌が生息する第1生物処理槽で処理し、第1生物処理槽で処理された液(処理液)を活性汚泥が収容された生物処理槽(第2生物処理槽)で処理する多相式活性汚泥法(例えば二相式活性汚泥法)でもよい。
【0029】
本方法では、その一態様として、第2の工程で、生物処理槽に流入する反応液及び活性汚泥との混合物に対する銅換算濃度として、0.01~2mg-Cu/Lの濃度で銅イオンを供給して生物処理を行うことが好ましい。本発明者らの検討の結果、活性汚泥中のチオシアン分解細菌がチオシアン酸イオンを分解する際に銅イオンを要求することが分かり、上記供給量の銅イオンは、活性汚泥の栄養剤として機能することが分かったためである。0.01~2mg-Cu/Lの濃度で銅イオンを供給して生物処理を行う場合、銅イオンを全く供給せずに生物処理を行う場合に比べて、廃水中のチオシアン酸イオンの分解速度が高まり、活性汚泥によるチオシアン酸イオンの分解速度を向上させることが可能となる。
【0030】
反応液及び活性汚泥との混合物に上記特定量の銅イオンを供給するためには、溶媒に溶解させることで銅イオンを生じる銅化合物を溶媒に溶解させた溶液や、反応液、活性汚泥、又は上記混合物に添加することで銅イオンを生じる銅化合物を用いることができる。これらのなかでも、使用しやすく、活性汚泥に銅イオンを供給しやすい観点から、銅化合物を溶媒に溶解させて銅イオンを生じさせた溶液を用いて、上記混合物に銅イオンを供給することが好ましい。
【0031】
上記銅イオンとしては、銅(I)イオン(Cu+)及び銅(II)イオン(Cu2+)のいずれでもよく、いずれか一方でも両方でもよい。したがって、上記銅化合物も、銅(I)化合物及び銅(II)化合物のうちの少なくとも1種を用いることができる。上記溶媒としては、例えば、水;希塩酸及び希硫酸等の酸;アンモニア水等の塩基;等を挙げることができる。上記銅化合物としては、例えば、塩化銅(I)、酸化銅(I)(亜酸化銅)、臭化銅(I)、酢酸銅(I)、及び硫化銅(I)等の銅(I)化合物;並びにフッ化銅(II)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、酢酸銅(II)、及び酸化銅(II)等の銅(II)化合物;を挙げることができる。これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。銅化合物のなかでも、酸化銅(I)、塩化銅(II)、及び硫酸銅(II)が好ましい。
【0032】
第2の工程における処理時間(反応時間)としては、1~60時間であることが好ましく、3~50時間であることがより好ましく、6~40時間であることがさらに好ましい。第2の工程における生物処理槽内のpHとしては、pH4.0~10.0であることが好ましく、pH5.0~9.5であることがより好ましい。生物処理槽内の水温としては、10~45℃であることが好ましく、15~40℃であることがより好ましい。生物処理槽内のMLSS(活性汚泥浮遊物質)の濃度としては、500~10000mg/Lであることが好ましい。
【0033】
本方法では、その一態様において、活性汚泥法による第2の工程後、被処理水(反応液)が生物処理されたことで得られた処理水と活性汚泥との混合液が得られてもよい。本方法は、その一態様において、第2の工程の後、上記混合液を固液分離する固液分離工程をさらに含むことが好ましい。また、その固液分離工程により処理水とは分離された活性汚泥を、返送汚泥として生物処理槽に返送することが好ましい。これにより、連続式活性汚泥法による第2の工程を行うことができるとともに、生物処理槽内のMLSSの濃度を一定の範囲内に維持しやすくなる。なお、生物処理槽として上記膜式活性汚泥槽を用いて、その槽内で固液分離処理を行うことも好ましい。
【0034】
固液分離工程には、固液分離設備を用いることができる。固液分離設備としては、沈殿槽(沈殿池とも称される。)、並びに精密ろ過膜及び限外ろ過膜等を用いたろ過装置等を挙げることができる。これらを用いることで、沈降分離、及び膜分離等の固液分離処理を行うことができる。したがって、上述の第2の工程は、生物処理槽の後段に沈殿槽を設けた沈殿式活性汚泥法による生物処理でもよいし、生物処理槽の後段に分離膜を設けた膜式活性汚泥法による生物処理でもよい。さらに、膜式活性汚泥法による生物処理は、上述の通り、活性汚泥を含有させた槽内に膜分離装置を設けた膜式活性汚泥槽により行ってもよく、それにより、生物処理の後段の固液分離設備を省略してもよい。沈殿槽やろ過装置等の固液分離設備にて、上記混合液から、活性汚泥と処理水とを分離することができる。固液分離処理により得られた活性汚泥は、生物処理槽に返送して返送汚泥として再利用することができる。
【0035】
以上詳述した通り、本発明の一実施形態の廃水の処理方法によれば、シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを含有する廃水について、活性汚泥法を用いて、簡便な方法で、廃水中のシアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを有効に低減することが可能である。具体的には、本方法における第1の工程で、シアン化物イオン、及び25mg/L以上のチオシアン酸イオンを含有する廃水に、後段の第2の工程で用いる活性汚泥にダメージを与え難い薬剤である過酸化水素を添加して反応させることにより、廃水中のシアン化物イオンが低減された反応液を得ることができる。このように、生物処理槽に流入する前の廃水を、活性汚泥に対する毒性が低減された反応液とし、その反応液を、第2の工程で、生物処理槽に流入させ、活性汚泥により生物処理することで、反応液中のチオシアン酸イオンを安定して低減することが可能である。したがって、上記反応液を活性汚泥による生物処理の対象とする本方法は、上記廃水を直接的に活性汚泥による生物処理の対象とする場合と比べて、チオシアン酸イオンの分解によるCOD分解速度を高めることができ、COD成分分解の安定化効果が得られる。
【0036】
なお、本発明の一実施形態の廃水の処理方法は、次の構成をとることが可能である。
[1]シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを含有する廃水の処理方法であって、
前記廃水中の前記チオシアン酸イオンの濃度が25mg/L以上であり、
前記廃水に過酸化水素を添加して反応させ、反応液を得る第1の工程と、
前記第1の工程で得られた前記反応液を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させ、生物処理する第2の工程と、を含む廃水の処理方法。
[2]前記廃水が、さらにチオ硫酸イオンを含有する上記[1]に記載の廃水の処理方法。
[3]前記第1の工程で、前記廃水に前記過酸化水素とともにチオ硫酸塩を添加して、前記反応液を得る上記[1]又は[2]に記載の廃水の処理方法。
[4]前記第1の工程で、前記廃水中に、前記シアン化物イオンに対するモル比が0.5以上となる量のチオ硫酸イオンの存在下、前記反応液を得る上記[1]~[3]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
[5]前記第1の工程における前記廃水への前記過酸化水素の添加量は、前記廃水中の前記シアン化物イオンに対する過酸化水素のモル比が0.5以上となる量である上記[1]~[4]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
[6]前記廃水中の前記シアン化物イオンの濃度が、0.5~200mg/Lである上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
[7]前記廃水が、コークス炉廃水である上記[1]~[6]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて、本発明の一実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
<測定方法>
(T-CN濃度)
以下の試験例において、全シアン(T-CN)濃度は、全シアン検定器(株式会社共立理化学研究所製;簡易蒸留キット、器具、及び試薬(LR-CN-T)を含む。)を用いて、ピクリン酸法によって分析した。具体的には、KCN水溶液(1g-CN/L)を水で希釈して、希釈系列を作製した。蒸留後の回収液を波長500nmで吸光度を測定した。その結果、0~5mg-CN/Lの範囲で直線的な検量線を得た。以下に述べる試験例での測定試料について、シアン濃度が0~5mg-CN/Lの範囲になるように希釈し、上記の方法で呈色試験を実施した。得られた吸光度の値から、検量線より全シアン(T-CN)濃度(mg-CN/L)を算出した。
【0039】
(CNO-濃度)
以下の予備試験例において、シアン酸イオン(CNO-)濃度は、イオンクロマトグラフ法により測定した。測定の際は、高速イオンクロマトグラフ(商品名「IC-2010」、東ソー・テクノシステム株式会社製)、及びサプレッサーゲル(商品名「TSKgel suppress IC-A」、東ソー・テクノシステム株式会社製)を用いて、陰イオンの分離を行った。1g-CNO/Lのシアン酸ナトリウム溶液を調製し、水で希釈して、希釈系列を作製した。その結果、ピーク面積の値から0~50mg-CNO/Lの範囲で直線的な検量線を得た。また、予備試験例では、測定試料について、上記の方法で分析し、検量線を作成した際と同様の保持時間にピークが存在するか否かにより、シアン酸イオンの生成の有無を確認した。上記ピークの存在により、シアン酸イオンの生成を確認した場合、測定試料の分析時に得られたピーク面積の値から、検量線よりシアン酸イオン(CNO-)濃度(mg/L)を算出した。
【0040】
(CODMn)
JIS K0102に規定される方法にしたがって、100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(CODMn)を算出した。
【0041】
<予備試験例1>
予備試験例1-1~1-5のそれぞれで用いる廃水として、さらにチオシアン酸イオン(SCN-)を含有させた場合に、コークス炉廃水に似るように調製した模擬廃水1を用意した。具体的には、水100mL中に、表1の左欄に示す成分を右欄に示す濃度となるように混合、溶解し、各予備試験例1で用いる100mLずつの模擬廃水1を調製した。
【0042】
【0043】
(予備試験例1-1)
100mLの模擬廃水1をポリエチレン製容器(以下、単に「容器」と記載する。)に入れ、ここに、過酸化水素を終濃度50.0mg/Lになるように添加した。次いで、容器の蓋を閉め、30℃の恒温室内において、容器内の液をマグネチックスターラーで480分間混合して反応させ、反応液を得た。反応液を一部分取し、T-CN濃度を測定した。
【0044】
(予備試験例1-2)
100mLの模擬廃水1を容器に入れ、ここに、チオシアン酸イオン濃度(SCN濃度)が10.0mg-SCN/Lとなるようにチオシアン酸ナトリウム(NaSCN)水溶液を添加し、模擬廃水1にチオシアン酸イオン(SCN-)を含有させた。次いで、容器内に、過酸化水素を終濃度50.0mg/Lになるように添加した後、容器の蓋を閉め、30℃の恒温室内において、容器内の液をマグネチックスターラーで480分間混合して反応させ、反応液を得た。反応液を一部分取し、T-CN濃度を測定した。
【0045】
(予備試験例1-3、1-4、1-5)
予備試験例1-3、1-4、及び1-5では、NaSCN水溶液の添加量を、SCN濃度がそれぞれ、25.0mg-SCN/L、50.0mg-SCN/L、150.0mg-SCN/Lとなる量に変更したこと以外は、予備試験例1-2と同様の手順にて試験を行った。各予備試験例で得られた反応液を一部分取し、T-CN濃度を測定した。
【0046】
予備試験例1-1~1-5におけるT-CN濃度(mg-CN/L)及びCNO-濃度(mg/L)の測定結果を表2に示す。表2には、予備試験例1-1~1-5における試験条件として、模擬廃水1中のCN-濃度(mg-CN/L)及びSCN濃度(mg-SCN/L)、並びに模擬廃水1に添加した過酸化水素(H2O2)の終濃度も併せて示す。
【0047】
【0048】
予備試験例1の結果より、チオシアン酸イオンが10mg/L以下である模擬廃水に過酸化水素を添加した予備試験例1-1及び1-2では、得られた反応液において、T-CN濃度の低減及びCNO-の生成は、認められなかった。一方、チオシアン酸イオンを25mg/L以上含有させた模擬廃水に過酸化水素を添加した予備試験例1-3~1-5では、得られた反応液において、T-CN濃度の低減及びCNO-の生成が認められた。これらの結果から、シアン化物イオン及びチオシアン酸イオンを含有する廃水に過酸化水素を添加し、反応させることによって、廃水中のシアン化物イオンを低減させるためには、廃水中にチオシアン酸イオンが25mg/L以上の濃度で存在する必要があることが分かった。
【0049】
<試験例Aシリーズ>
試験例Aシリーズとして、以下に述べる実施例A1~A8、比較例A1、及び参考例Aを行った。これらの試験例Aシリーズのそれぞれで用いる廃水として、さらにシアン化物イオン(CN-)、又はCN-とチオ硫酸イオン(S2O3
2-)の両方を含有させた場合に、コークス炉廃水に似るように調製した模擬廃水2を用意した。具体的には、水100mL中に、表3の左欄に示す成分を右欄に示す濃度となるように混合、溶解し、各試験例で用いる100mLずつの模擬廃水2を調製した。
【0050】
【0051】
(実施例A1~A3)
100mLの模擬廃水2を容器に入れ、容器内の模擬廃水2に、3.0mg-CN/L(表4における第1の工程の試験条件欄に示すCN濃度参照。)となるようにシアン化カリウム(KCN)を添加し、シアン化物イオン(CN-)を含有させた。また、その容器内に、過酸化水素(H2O2)を50.0mg/L(表4における第1の工程の試験条件欄に示すH2O2量参照。)添加した。過酸化水素を添加した直後の容器内の液のpHは8.0であった。次いで、容器の蓋を閉め、30℃の恒温室内において、容器内の液をマグネチックスターラーで、表4における第1の工程の試験条件欄に示す反応時間にて混合して反応させる第1の工程を行って、反応液を得た。反応液を一部分取し、T-CN濃度を測定した。
【0052】
得られた反応液90mLを振盪三角フラスコ(以下、単に「フラスコ」と記載する。)に移し入れた。このフラスコ内に、活性汚泥を収容する生物処理槽を備えた安水処理設備から採取した返送汚泥(MLSS(活性汚泥浮遊物質)濃度=10,000mg/L)を10mL添加した(フラスコ内でのMLSS濃度=1,000mg/L)。この活性汚泥を添加した直後のフラスコ内の液のpHは8.0であった。フラスコ内の液を30℃で好気的に振盪しながら、47時間にわたり生物処理(第2の工程)を行った。所定の反応時間(0分、16時間、24時間、32時間、40時間、及び47時間)ごとにフラスコ内の液を1mL採取し、採取した液1mLを9,000×gの遠心力で遠心分離して得られた上清を、当該所定の反応時間での処理液とした。そして、得られた処理液についてCODMn(mg/L)を測定し、反応時間32時間及び40時間のそれぞれにおけるCODMnから、下記式の通り、COD分解速度(mg/L/Hr)を算出した。
COD分解速度(mg/L/Hr)=[COD32H-COD40H]/8(Hr)
COD32H:反応時間32時間でのCODMn(mg/L)
COD40H:反応時間40時間でのCODMn(mg/L)
【0053】
(参考例A)
参考例Aでは、模擬廃水2にKCNを添加しなかったこと(すなわち、CN-を含有させなかったこと)、及び模擬廃水2に過酸化水素を添加しなかったこと以外は、実施例A1~A3と同様の手順にて試験及び測定を行った。
【0054】
(比較例A1)
比較例A1では、KCNの添加によりCN-を含有させた模擬廃水2に過酸化水素を添加しなかったこと以外は、実施例A1~A3と同様の手順にて試験及び測定を行った。
【0055】
(実施例A4~A8)
100mLの模擬廃水2を容器に入れ、容器内の模擬廃水2に、3.0mg-CN/L(表4における第1の工程の試験条件欄に示すCN濃度参照。)となるようにKCNを添加し、CN-を含有させた。また、容器内の模擬廃水2に、表4における第1の工程の試験条件欄に示すS2O3濃度(mg-S2O3/L)となるようにチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)を添加し、チオ硫酸イオン(S2O3
2-)を含有させた。そして、その容器内に、過酸化水素を50.0mg/L(表4における第1の工程の試験条件欄に示すH2O2量参照。)添加した。過酸化水素を添加した直後の容器内の液のpHは8.0であった。次いで、容器の蓋を閉め、30℃の恒温室内において、容器内の液をマグネチックスターラーで1分間(表4における第1の工程の試験条件欄に示す反応時間参照。)混合して反応させる第1の工程を行って、反応液を得た。反応液を一部分取し、T-CN濃度を測定した。また、得られた反応液について、実施例A1~A3で述べた第2の工程と同様の方法で、生物処理(第2の工程)を行い、CODMn(mg/L)の測定、及びCOD分解速度(mg/L/Hr)の算出を行った。
【0056】
以上の試験例Aシリーズの結果として、第1の工程によるT-CN濃度、及び第2の工程によるCOD分解速度を、上述した第1の工程の試験条件の概要と共に表4に示す。表4における第1の工程の試験条件欄に示す「S2O3/CN(mol/mol)」は、模擬廃水2に含有させた、CN-に対するS2O3
2-のモル比である。同様に、「H2O2/CN(mol/mol)」は、模擬廃水2に含有させたCN-に対するH2O2の添加量のモル比である。
【0057】
【0058】
実施例A1~A3では、模擬廃水2に過酸化水素を添加し、反応させる第1の工程によって、模擬廃水2に含有させたシアン化物イオンを低減できることが確認された。また、実施例A1~A3では、第1の工程でシアン化物イオンを低減できた結果、過酸化水素を添加しなかった比較例A1に比べて、第2の工程でのCOD分解速度が高いことが確認された。
【0059】
参考例Aと比較例A1との比較から分かるように、模擬廃水2にシアン化物イオンを含有させた比較例A1は、模擬廃水2にシアン化物イオンを含有させなかった参考例Aと比べて、著しく低いCOD分解速度を示した。そして、生物処理の前段において、模擬廃水2に過酸化水素を添加して反応させる第1の工程を60~480分行った実施例A1~A3は、比較例1に比べて明らかに高いCOD分解速度を示した。これは、実施例A1~A3では、活性汚泥法による生物処理を行う第2の工程よりも前に、第1の工程で模擬廃水2中のCN-が過酸化水素により低減されたことによって、CN-による活性汚泥に対する毒性影響の程度が小さくなったためと考えられる。よって、生物処理の前に、廃水中のシアン化物イオンの含有量をある程度低下させておけば、後続の生物処理におけるCOD分解性能が大きく向上し得ることが示されたといえる。
【0060】
さらに実施例A4~A8の結果より、模擬廃水2中に、CN-に対するモル比が0.5以上となる量のS2O3
2-の存在下で第1の工程を行うことによって、第1の工程での反応時間が非常に短くても、T-CN濃度の低減、及びCOD分解速度の向上が認められた。この結果より、CN-及びSCN-を含有する廃水にさらにS2O3
2-が存在すると、第1の工程でCN-を分解するのに要する時間を短縮でき、その第1の工程での反応時間が非常に短時間でも、第2の工程でのCOD分解速度を向上させる程度にCN-を低減しうることが認められた。
【0061】
<試験例Bシリーズ>
試験例Bシリーズとして、以下に述べる実施例B1~B5、及び比較例B1を行った。これらの試験例Bシリーズのそれぞれで用いる廃水として、コークス炉廃水に似るように調製した模擬廃水3を用意した。具体的には、水100mL中に、表5の左欄に示す成分を右欄に示す濃度となるように混合、溶解し、各試験例で用いる100mLずつの模擬廃水3を調製した。
【0062】
【0063】
試験例Bでは、第2の工程における生物処理について、模擬廃水3が、生物処理槽の流入水に5体積%程度含有されることを想定して、上述の試験例Aとは異なる条件で処理を行った。
【0064】
(実施例B1~B3)
100mLの模擬廃水3を容器に入れ、容器内の模擬廃水3に、終濃度が、表6における第1の工程の試験条件欄に示す「H2O2量」及び「H2O2/CN」(CN-に対するH2O2のモル比)となる量の過酸化水素を添加した。過酸化水素を添加した直後の容器内の液のpHは8.0であった。次いで、容器の蓋を閉め、30℃の恒温室内において、容器内の液をマグネチックスターラーで480分間(表6における第1の工程の試験条件欄に示す反応時間参照。)混合して反応させる第1の工程を行って、反応液を得た。反応液を一部分取し、T-CN濃度を測定した。
【0065】
次に、得られた反応液が、第2の工程における生物処理の反応系に5体積%となるように、活性汚泥と混合し、生物処理を行った。具体的には、5mLの反応液、90mLの模擬廃水2、及び5mLの活性汚泥(安水処理設備から採取した返送汚泥;MLSS終濃度=1,000mg/L)をフラスコに入れ、混合した(この操作によって、反応液は20倍希釈される)。フラスコ内の液を30℃で好気的に振盪培養し、47時間にわたり生物処理(第2の工程)を行った。所定の反応時間(0分、16時間、24時間、32時間、40時間、及び47時間)ごとにフラスコ内の液を1mL採取し、採取した液1mLを9,000×gの遠心力で遠心分離して得られた上清を、当該所定の反応時間での処理液とした。そして、得られた処理液について、試験例Aと同様の方法で、CODMn(mg/L)の測定及びCOD分解速度(mg/L/Hr)の算出を行った。また、第2の工程の生物処理の開始時(上記反応時間0分)に、処理液の初期のT-CN濃度(mg/L)を測定した。
【0066】
(実施例B4、B5)
100mLの模擬廃水3を容器に入れ、容器内の模擬廃水3に、終濃度が、表6における第1の工程の試験条件欄に示す「S2O3量」及び「S2O3/CN」(CN-に対するS2O3のモル比)となる量のチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)を添加し、チオ硫酸イオン(S2O3
2-)を含有させた。その後、容器内の模擬廃水3に、「H2O2量」及び「H2O2/CN」(CN-に対するH2O2のモル比)となる量の過酸化水素を添加した。過酸化水素を添加した直後の容器内の液のpHは8.0であった。次いで、容器の蓋を閉め、30℃の恒温室内において、容器内の液をマグネチックスターラーで30分間(表6における第1の工程の試験条件欄に示す反応時間参照。)混合して反応させる第1の工程を行って、反応液を得た。反応液を一部分取し、T-CN濃度を測定した。また、得られた反応液について、実施例B1~B3で述べた第2の工程と同様の方法で、生物処理(第2の工程)を行って処理液を得た後、処理液について、CODMn(mg/L)の測定、及びCOD分解速度(mg/L/Hr)の算出を行った。また、実施例B1~B3と同様に、第2の工程の生物処理の開始時(上記反応時間0分)に、処理液の初期のT-CN濃度(mg/L)を測定した。
【0067】
以上の試験例Bシリーズの結果として、第1の工程によるT-CN濃度、並びに第2の工程の開始時の初期のT-CN濃度、及び第2の工程によるCOD分解速度を、上述した第1の工程の試験条件の概要と共に表6に示す。
【0068】
【0069】
実施例B1~B3の結果より、CN-の含有量が高い廃水についても、廃水に過酸化水素を添加することにより、T-CN濃度の低減、及びCOD分解速度の向上が確認され、第2の工程でのCOD分解速度を向上させる程度に第1の工程でCN-を低減しうることが認められた。実施例B4~B5の結果より、CN-に対するモル比が0.5以上となる量のS2O3
2-の存在下で第1の工程を行うことによって、第1の工程での反応時間が短くても、T-CN濃度の低減、及びCOD分解速度の向上が認められた。