(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154282
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】廃水の処理方法、及び活性汚泥用栄養剤
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20241023BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20241023BHJP
【FI】
C02F3/12 D
C02F3/12 V
C02F3/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068028
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】堀込 知佳
(72)【発明者】
【氏名】山口 正裕
(72)【発明者】
【氏名】福島 寿和
(72)【発明者】
【氏名】山田 果歩
【テーマコード(参考)】
4D028
4D040
【Fターム(参考)】
4D028AB05
4D028AC03
4D028BB02
4D028BC01
4D028BC03
4D028BD11
4D028BD16
4D028BD17
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4D028CA04
4D028CA11
4D028CB02
4D040DD03
4D040DD14
4D040DD16
(57)【要約】
【課題】チオシアン酸イオンを含有する廃水について、活性汚泥によって、チオシアン酸イオンを簡便かつ安定的に分解処理することが可能な廃水の処理方法を提供する。
【解決手段】チオシアン酸イオンを含有する廃水を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させて生物処理する生物処理工程を含む廃水の処理方法である。前記活性汚泥の栄養剤として、銅イオンを、前記生物処理槽に流入する前記廃水及び前記活性汚泥の混合物に対する銅換算濃度として、0.01~2mg-Cu/Lの濃度で供給して前記生物処理工程を行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオシアン酸イオンを含有する廃水を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させて生物処理する生物処理工程を含む廃水の処理方法であって、
前記活性汚泥の栄養剤として、銅イオンを、前記生物処理槽に流入する前記廃水及び前記活性汚泥の混合物に対する銅換算濃度として、0.01~2mg-Cu/Lの濃度で供給して前記生物処理工程を行う、廃水の処理方法。
【請求項2】
前記銅イオンとして、銅化合物を溶媒に溶解させたことで前記銅化合物から生じた前記銅イオンを含有する銅イオン含有溶液;及び前記廃水に添加することで前記銅イオンを生じる固体の銅化合物;の少なくとも一方の銅イオン供給源を用いる請求項1に記載の廃水の処理方法。
【請求項3】
前記廃水に前記銅イオン供給源を添加することを含む請求項2に記載の廃水の処理方法。
【請求項4】
前記廃水及び前記活性汚泥が存在する前記生物処理槽内に、前記銅イオン供給源を添加することを含む請求項2に記載の廃水の処理方法。
【請求項5】
前記生物処理工程の後、前記廃水から前記生物処理工程により得られた処理水と前記活性汚泥との混合液を固液分離する固液分離工程をさらに含み、
前記固液分離工程により前記処理水とは分離された前記活性汚泥であって、前記生物処理槽に返送される返送汚泥に、前記銅イオン供給源を添加することを含む、請求項2に記載の廃水の処理方法。
【請求項6】
前記廃水が、コークス炉廃水である請求項1に記載の廃水の処理方法。
【請求項7】
前記活性汚泥が、チオシアン分解細菌を含み、
前記チオシアン分解細菌が、Chromatiales目に属する細菌を含む請求項1に記載の廃水の処理方法。
【請求項8】
前記Chromatiales目に属する細菌が、Thiohalobacter属菌、Halothiobacillus属菌、Thioprofundum属菌、Thiohalophilus属菌、Allochromatium属菌、及びThiogranum属菌からなる群より選ばれる少なくとも1種の細菌を含む請求項7に記載の廃水の処理方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の廃水の処理方法に用いられる活性汚泥用栄養剤であって、
前記活性汚泥への前記銅イオンの供給源となる銅イオン供給源を含有する活性汚泥用栄養剤。
【請求項10】
さらに水を含有し、溶液の形態である請求項9に記載の活性汚泥用栄養剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水の処理方法、及び活性汚泥用栄養剤に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄において鉄鉱石に含まれる酸化鉄を還元するために使用されるコークスは、石炭をコークス炉で乾留して製造される。石炭の乾留時に発生するガス(コークス炉ガス)は、各種装置を備えた精製設備で不純物の除去や、再利用のための成分及び熱等の回収等が行われる。その一例として、コークス炉ガスにアンモニア水を吹きかけること(フラッシング)により、コークス炉ガスの冷却や、コークス炉ガス中の不純物の捕集等を行う工程がある。この工程で発生する凝縮水(「安水」や「コークス炉廃水」とも称される。)には、COD(化学的酸素要求量)成分が含まれている。
【0003】
コークス炉廃水(安水)処理設備では、活性汚泥が収容された生物処理槽に、COD成分を含有するコークス炉廃水を導入し、活性汚泥法によって、コークス炉廃水中のCOD成分を分解し、低減することが行われている。例えば、特許文献1には、コークス工場排水を先ずアンモニア除去処理し、次いでこの処理液を第一鉄塩添加により凝集沈殿処理したのち活性汚泥処理することを特徴とするコークス工場排水の処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、コークス炉廃水処理設備では、活性汚泥を用いた生物処理によって、コークス炉廃水からその廃水中に含まれるCOD成分を除去している。しかし、本発明者らの検討の結果、廃水中にCOD成分の一種であるチオシアン酸イオン(SCN-)が含有されている場合、チオシアン酸イオンは、難分解性の物質であることから、COD成分に対する活性汚泥の処理性能が低下しやすいことがわかった。これは、活性汚泥に含まれる、チオシアン酸イオンを分解することが可能な細菌(チオシアン分解細菌)が、毒性物質に弱く、増殖が遅いことに起因していると考えられる。
【0006】
そこで本発明は、チオシアン酸イオンを含有する廃水について、活性汚泥によって、チオシアン酸イオンを簡便かつ安定的に分解処理することが可能な廃水の処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、チオシアン酸イオンを含有する廃水を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させて生物処理する生物処理工程を含む廃水の処理方法であって、前記活性汚泥の栄養剤として、銅イオンを、前記生物処理槽に流入する前記廃水及び前記活性汚泥の混合物に対する銅換算濃度として、0.01~2mg-Cu/Lの濃度で供給して前記生物処理工程を行う、廃水の処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、チオシアン酸イオンを含有する廃水について、活性汚泥によって、チオシアン酸イオンを簡便かつ安定的に分解処理することが可能な廃水の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0010】
コークス炉廃水(安水)処理設備では、活性汚泥法によって、コークス炉廃水中のCOD成分を除去している。COD成分のうち、チオシアン酸イオン(以下、「SCN-」と記載することがある。)は難分解性の物質であり、時折、その分解が十分に行われないことがある。この不十分な分解による処理性能の低下という問題は、チオシアン酸イオンを分解することが可能な細菌(チオシアン分解細菌)が毒性物質に弱く、増殖速度が遅いことに起因していると考えられる。しかし、上記問題を解決する方法は、未だに確立されていない。
【0011】
本発明者らは、チオシアン酸イオンを含有する廃水について、活性汚泥法によって、チオシアン酸イオンを簡便かつ安定的に分解処理することが可能となる方法を提供するべく、検討を進めた。その検討において、本発明者らは、活性汚泥におけるチオシアン分解の安定化を簡便に実現する手段として、活性汚泥への栄養剤の供給に依ることを着想した。
【0012】
一般に、活性汚泥における微生物の栄養補給剤の成分としては、窒素やリン等が知られており、活性汚泥を収容する生物処理槽に流入する廃水中のBOD(生物化学的酸素要求量)とのバランスを考慮した量で窒素やリン等が使用されることがある。しかし、コークス炉廃水中のチオシアン酸イオンの分解促進効果をもたらす栄養剤成分は、知られていない。
【0013】
本発明者らは、コークス炉廃水処理設備に使用されている活性汚泥と様々な金属塩を用いた試験を通じて、活性汚泥がチオシアン酸イオンを分解する際に銅イオンを要求することを見出した。そして、銅イオンを活性汚泥の栄養剤として供給することで、チオシアン酸イオンに対する活性汚泥の分解能を向上させ、チオシアン酸イオン分解の安定化が可能であることを突き止め、本発明に至った。
【0014】
本発明の一実施形態の廃水の処理方法(以下、「本方法」と記載することがある。)は、チオシアン酸イオンを含有する廃水を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させて生物処理する生物処理工程を含む。そして、本方法では、活性汚泥の栄養剤として、銅イオンを、生物処理槽に流入する廃水及び活性汚泥の混合物に対する銅換算濃度として、0.01~2mg-Cu/Lの濃度で供給して生物処理工程を行う。
【0015】
また、本発明の一実施形態の活性汚泥用栄養剤(以下、単に「栄養剤」と記載することがある。)は、上記の本方法に用いられるものであって、活性汚泥への銅イオンの供給源となる銅イオン供給源を含有する。すなわち、栄養剤は、チオシアン酸イオンを含有する廃水を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させて生物処理する生物処理工程を含む廃水の処理方法に用いられるものである。なおかつ、栄養剤は、有効成分として銅イオン供給源を含有し、生物処理槽に流入する廃水及び活性汚泥の混合物に対する銅換算濃度として、0.01~2mg-Cu/Lの濃度で用いられるものである。
【0016】
本方法では、生物処理槽(曝気槽とも称される。)に流入する廃水及び活性汚泥との混合物に対する銅換算濃度として、0.01~2mg-Cu/Lの濃度で銅イオンを活性汚泥に供給する。そのため、この用量で用いる銅イオン供給源は、活性汚泥の栄養剤として機能する。すなわち、本方法により、廃水中のチオシアン酸イオンを簡便かつ安定的に分解処理することが可能となる。換言すると、上記濃度範囲で銅イオンを供給して生物処理工程を行う場合、銅イオンを全く供給せずに生物処理工程を行う場合に比べて、廃水中のチオシアン酸イオンの分解速度が高まり、活性汚泥によるチオシアン酸イオンの分解速度を向上させることが可能となる。上記濃度が0.01mg-Cu/L未満で銅イオンを供給する場合は、銅イオンが栄養剤として機能し難く、上記効果が得られ難い。一方、上記濃度が2mg-Cu/Lを超えて銅イオンを供給する場合は、銅イオンが活性汚泥に対して生物毒性をもたらすものとなって、チオシアン酸イオンの分解能を低下させることとなる。
【0017】
本方法による処理対象である廃水としては、少なくともチオシアン酸イオンを含むCOD成分を含有する廃水であれば、特に制限されない。そのような廃水として、コークス炉での石炭乾留時に発生するコークス炉廃水を挙げることができる。コークス炉廃水は、石炭からコークスが製造される際に排出される排ガスが冷却されて発生する凝縮水を含み、スクラバー等で処理した後のスクラバー排水であってもよい。
【0018】
廃水としてはコークス炉廃水が好ましいことから、チオシアン酸イオンに加えて、アンモニア、COD成分の一種であるフェノール等をさらに含有する廃水が好適である。また、廃水は、生物処理槽に流入する前に、前処理された廃水であってもよい。例えば、廃水がチオシアン酸イオンに加えてさらにシアン化物イオン(CN-)を含有する場合、廃水中のシアン化物イオンを低減するための処理が行われた後の廃水を被処理水としてもよい。さらに廃水は、銅イオンを含有しないか、廃水中の銅イオンの濃度が0.2mg-Cu/L未満であることが好ましい。
【0019】
活性汚泥に供給する銅イオンとしては、銅化合物を溶媒に溶解させたことで銅化合物から生じた銅イオンを含有する銅イオン含有溶液;及び廃水に添加することで銅イオンを生じる固体の銅化合物;の少なくとも一方の銅イオン供給源を用いることができる。これらのなかでも、使用しやすく、活性汚泥に銅イオンを供給しやすい観点から、銅イオン含有溶液を用いることがより好ましい。
【0020】
上記銅イオンとしては、銅(I)イオン(Cu+)及び銅(II)イオン(Cu2+)のいずれでもよく、いずれか一方でも両方でもよい。したがって、上記銅化合物も、銅(I)化合物及び銅(II)化合物のうちの少なくとも1種を用いることができる。上記溶媒としては、例えば、水;希塩酸及び希硫酸等の酸;アンモニア水等の塩基;等を挙げることができる。上記銅化合物としては、例えば、塩化銅(I)、酸化銅(I)(亜酸化銅)、臭化銅(I)、酢酸銅(I)、及び硫化銅(I)等の銅(I)化合物;並びにフッ化銅(II)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、酢酸銅(II)、及び酸化銅(II)等の銅(II)化合物;を挙げることができる。これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。銅化合物のなかでも、酸化銅(I)、塩化銅(II)、及び硫酸銅(II)が好ましい。
【0021】
本方法における使用時の銅イオン供給源の形態としては、使用しやすく、活性汚泥に供給しやすい観点から、溶液であることが好ましく、溶液の形態である栄養剤(その有効成分)として用いることが好ましい。したがって、栄養剤は、さらに水を含有し、溶液の形態であることが好ましい。
【0022】
銅イオンは、廃水及び活性汚泥との混合物に対する銅換算濃度として、0.01~2mg-Cu/Lの濃度で供給されれば、銅イオン供給源の添加場所や添加対象は特に制限されない。銅イオン供給源は活性汚泥の栄養剤として用いられ、活性汚泥によるチオシアン酸イオンの分解が銅イオンで促進されればよいことから、銅イオンが生物処理槽内の活性汚泥に供給されることとなるように、生物処理工程の系内のいずれかに銅イオン供給源を添加すればよい。
【0023】
本方法における銅イオン供給源の添加場所や添加対象に関する一態様としては、チオシアン酸イオンを含有する廃水に、銅イオン供給源を添加することができる。廃水に銅イオン供給源を添加することにより、廃水中に銅イオンを存在させることが可能となり、その廃水を生物処理槽に流入させることで、銅イオンを生物処理槽内の活性汚泥に供給することができる。
【0024】
また、本方法における銅イオン供給源の添加場所や添加対象に関する一態様としては、廃水及び活性汚泥が存在する生物処理槽内に、銅イオン供給源を添加することができる。生物処理槽内に銅イオン供給源を添加することにより、生物処理槽に収容されている活性汚泥に、銅イオン供給源による銅イオンを供給することができる。また、銅イオン供給源の添加場所を生物処理槽内とすることにより、銅イオン供給源の添加対象が生物処理槽内の廃水及び活性汚泥を含む混合物となることから、上述した銅換算濃度としての銅イオン供給源の供給量を制御しやすくなる。
【0025】
さらに、本方法における銅イオン供給源の添加場所や添加対象に関する一態様としては、後述する返送汚泥としての活性汚泥に、銅イオン供給源を添加することもできる。返送汚泥に銅イオン供給源を添加することにより、返送汚泥が生物処理槽に流入することで、生物処理槽内の活性汚泥に、銅イオン供給源による銅イオンを供給することができる。
【0026】
生物処理工程で用いる活性汚泥は、COD成分を含有する廃水を生物処理している生物処理槽中の活性汚泥を用いることが好ましく、COD成分を含有するコークス炉廃水を処理しているコークス炉廃水処理設備における活性汚泥を用いることがより好ましい。すなわち、COD成分を分解可能な細菌を含む活性汚泥を用いることが好ましく、少なくともチオシアン分解細菌を含む活性汚泥を用いることがより好ましい。
【0027】
本発明者らは、活性汚泥を収容する生物処理槽を備えた安水処理設備から採取した活性汚泥を微生物叢解析した結果、Chromatiales目に属している微生物がチオシアン酸イオンを分解している可能性が高いことが分かった。そのため、チオシアン分解細菌は、Chromatiales目に属する細菌を含むことがさらに好ましい。Chromatiales目に属する細菌は、Thiohalobacter属菌、Halothiobacillus属菌、Thioprofundum属菌、Thiohalophilus属菌、Allochromatium属菌、及びThiogranum属菌からなる群より選ばれる少なくとも1種の細菌を含むことがよりさらに好ましい。なお、上記微生物叢解析の結果より、活性汚泥は、さらに、Nitrosococcus属菌、Halochromatium属菌、Thioalkalispira属菌、Halorhodospira属菌、Ectothiorhodospira属菌、Granulosicoccus属菌、Thioalbus属菌、Thiohalocapsa属菌、及びRheinheimera属菌等のうちの1種又は2種以上を含んでいてもよい。さらには、活性汚泥は、フェノール分解細菌を含有することが好ましい。
【0028】
生物処理工程で用いる活性汚泥が収容された生物処理槽としては、槽内に活性汚泥を含有させた槽;槽内に活性汚泥を含有させて沈殿させた槽;槽内を流動する担体(例えばスポンジやプラスチック等)に担持させた活性汚泥を含む槽(流動床担体式生物処理槽);槽内に固定された担体(固定担体)に活性汚泥を定着させた槽(固定床担体式生物処理槽);活性汚泥を含有させた槽内に活性汚泥と処理水とを分離するための膜分離装置を設けた膜式活性汚泥槽;等を挙げることができる。また、活性汚泥による生物処理は、上記の活性汚泥が収容された生物処理槽の2種以上を併用してもよい。例えば、特開2020-78767号公報に記載されているように、槽内に活性汚泥を沈殿させた活性汚泥槽と、上記流動床担体式生物処理槽とを併用してもよい。さらに、活性汚泥による生物処理は、廃水を分散菌が生息する第1生物処理槽で処理し、第1生物処理槽で処理された液(処理液)を活性汚泥が収容された生物処理槽(第2生物処理槽)で処理する多相式活性汚泥法(例えば二相式活性汚泥法)でもよい。
【0029】
生物処理工程における処理時間(反応時間)としては、1~60時間であることが好ましく、3~50時間であることがより好ましく、6~40時間であることがさらに好ましい。生物処理工程における生物処理槽内のpHとしては、pH4.0~10.0であることが好ましく、pH5.0~9.5であることがより好ましい。生物処理槽内の水温としては、10~45℃であることが好ましく、15~40℃であることがより好ましい。
【0030】
本方法では、その一態様において、生物処理工程後、廃水から生物処理工程により得られた処理水と活性汚泥との混合液が得られてもよい。本方法は、その一態様において、生物処理工程の後、上記混合液を固液分離する固液分離工程をさらに含むことが好ましい。また、その固液分離工程により処理水とは分離された活性汚泥を、上述した返送汚泥として生物処理槽に返送することが好ましい。これにより、連続式活性汚泥法による生物処理工程を行うことができるとともに、生物処理槽内のMLSS(活性汚泥浮遊物質)の濃度を一定の範囲内に維持しやすくなる。生物処理槽内のMLSSの濃度としては、500~10000mg/Lであることが好ましい。なお、生物処理槽として上記膜式活性汚泥槽を用いて、その槽内で固液分離処理を行うことも好ましい。
【0031】
固液分離工程には、固液分離設備を用いることができる。固液分離設備としては、沈殿槽(沈殿池とも称される。)、並びに精密ろ過膜及び限外ろ過膜等を用いたろ過装置等を挙げることができる。これらを用いることで、沈降分離、及び膜分離等の固液分離処理を行うことができる。したがって、上述の生物処理工程は、生物処理槽の後段に沈殿槽を設けた沈殿式活性汚泥法による生物処理でもよいし、生物処理槽の後段に分離膜を設けた膜式活性汚泥法による生物処理でもよい。さらに、膜式活性汚泥法による生物処理は、上述の通り、活性汚泥を含有させた槽内に膜分離装置を設けた膜式活性汚泥槽により行ってもよく、それにより、生物処理の後段の固液分離設備を省略してもよい。し、生物処理槽として槽内に膜分離装置を設けた上記膜式活性汚泥槽を用いた生物処理でもよい。沈殿槽やろ過装置等の固液分離設備にて、上記混合液から、活性汚泥と処理水とを分離することができる。固液分離処理により得られた活性汚泥は、生物処理槽に返送して返送汚泥として再利用することができる。
【0032】
以上詳述した通り、本発明の一実施形態の廃水の処理方法は、チオシアン酸イオンを含有する廃水を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させて生物処理する生物処理工程を含む。そして、活性汚泥の栄養剤として、銅イオンを、生物処理槽に流入する廃水及び活性汚泥との混合物に対する銅換算濃度として、0.01~2mg-Cu/Lの濃度で供給して生物処理工程を行うという簡便な方法によって、廃水中のチオシアン酸イオンを安定的に分解処理することが可能である。
【0033】
なお、本発明の一実施形態は、次の構成をとることが可能である。
[1]チオシアン酸イオンを含有する廃水を、活性汚泥が収容された生物処理槽に流入させて生物処理する生物処理工程を含む廃水の処理方法であって、
前記活性汚泥の栄養剤として、銅イオンを、前記生物処理槽に流入する前記廃水及び前記活性汚泥の混合物に対する銅換算濃度として、0.01~2mg-Cu/Lの濃度で供給して前記生物処理工程を行う、廃水の処理方法。
[2]前記銅イオンとして、銅化合物を溶媒に溶解させたことで前記銅化合物から生じた前記銅イオンを含有する銅イオン含有溶液;及び前記廃水に添加することで前記銅イオンを生じる固体の銅化合物;の少なくとも一方の銅イオン供給源を用いる上記[1]に記載の廃水の処理方法。
[3]前記廃水に前記銅イオン供給源を添加することを含む上記[2]に記載の廃水の処理方法。
[4]前記廃水及び前記活性汚泥が存在する前記生物処理槽内に、前記銅イオン供給源を添加することを含む上記[2]又は[3]に記載の廃水の処理方法。
[5]前記生物処理工程の後、前記廃水から前記生物処理工程により得られた処理水と前記活性汚泥との混合液を固液分離する固液分離工程をさらに含み、
前記固液分離工程により前記処理水とは分離された前記活性汚泥であって、前記生物処理槽に返送される返送汚泥に、前記銅イオン供給源を添加することを含む、上記[2]~[4]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
[6]前記廃水が、コークス炉廃水である上記[1]~[5]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
[7]前記活性汚泥が、チオシアン分解細菌を含み、
前記チオシアン分解細菌が、Chromatiales目に属する細菌を含む上記[1]~[6]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
[8]前記Chromatiales目に属する細菌が、Thiohalobacter属菌、Halothiobacillus属菌、Thioprofundum属菌、Thiohalophilus属菌、Allochromatium属菌、及びThiogranum属菌からなる群より選ばれる少なくとも1種の細菌を含む上記[7]に記載の廃水の処理方法。
[9]上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の廃水の処理方法に用いられる活性汚泥用栄養剤であって、
前記活性汚泥への前記銅イオンの供給源となる銅イオン供給源を含有する活性汚泥用栄養剤。
[10]さらに水を含有し、溶液の形態である上記[9]に記載の活性汚泥用栄養剤。
【実施例0034】
以下、実施例を挙げて、本発明の一実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
<測定方法>
(SCN-濃度の分析方法)
以下の試験例において、チオシアン酸イオン(SCN-)濃度は、硝酸鉄を用いた呈色法によって分析した。具体的には、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)水溶液(10g-SCN/L)を希釈して、希釈系列を作製した。その希釈系列の試料2mLに、2.5N硝酸160μLと硝酸鉄(II)水溶液をそれぞれ80μL添加した。発色後すぐに波長460nmで吸光度を測定した。その結果、0~30mg-SCN/Lの範囲で直線的な検量線を得た。以下に述べる試験例での測定試料をチオシアン酸イオン濃度が0~30mg-SCN/Lの範囲になるように希釈し、上記の方法で呈色試験を行った。得られた吸光度の値から、検量線よりチオシアン酸イオン濃度(mg-SCN/L)を算出した。
【0036】
<予備試験例1シリーズ>
予備試験例1-1~1-7のそれぞれで用いる廃水として、コークス炉廃水に似るように調製した模擬廃水1を用意した。具体的には、表1下段に示す海水60mL及び水道水40mLの混合水100mL中に、表1上段の左欄に示す成分を右欄に示す濃度となるように混合、溶解し、各予備試験例1で用いる100mLずつの模擬廃水1を調製した。模擬廃水1を活性汚泥の培地として用いた。これを模擬廃水培地1と記載する。
【0037】
【0038】
培養用試験チューブ(以下、単に「試験チューブ」と記載する。)に入れた2.5mL模擬廃水培地1に、活性汚泥を50μL添加した(MLSS終濃度=50mg/L)。これにより、試験チューブ内に模擬廃水と活性汚泥の混合物を入れた。さらにこの試験チューブに、模擬廃水及び活性汚泥の混合物に対する金属元素換算の濃度が表2の「添加金属塩濃度(mg-金属/L)」欄に示す値となるように、表2の上段に示す金属塩を添加して、30℃で好気的に振盪培養した。金属塩には、硫酸亜鉛(ZnSO4)、硫酸コバルト(II)(CoSO4)、モリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4)、塩化マンガン(II)(MnCl2)、亜セレン酸ナトリウム(Na2SeO3)、及び硫酸銅(II)(CuSO4)の6種を用いた。予備試験例1-1~1-6では、金属塩6種のうちのいずれか1種を不存在の条件とし、予備試験例1-7では、6種の金属塩のいずれも存在させた条件とした。
【0039】
培養5日後(120時間後)に、試験チューブ内の液(培養液)のチオシアン酸イオン(SCN-)濃度(mg-SCN/L)を測定し、下記式より、チオシアン酸イオン分解割合(%)を求めた。この結果を表2の「SCN-分解割合(%)」欄に示す。
チオシアン酸イオン分解割合(%)
=(1-(5日目のSCN-濃度/0日目のSCN-濃度))×100
【0040】
【0041】
予備試験例1-6は、予備試験例1-1~1-5及び1-7に比べて、チオシアン酸イオン分解割合が有意に低い結果となった。この結果より、銅イオン供給源(CuSO4)による銅イオン(Cu2+)の不存在下で、チオシアン酸イオンの分解が有意に抑制されることが分かった。このことから、銅イオンが、活性汚泥によるチオシアン酸イオンの分解能の向上に有効であると考えられた。
【0042】
<試験例Aシリーズ>
試験例Aシリーズとして、以下に述べる実施例A1~A4、及び比較例A1~A3を行った。これらの試験例Aシリーズのそれぞれで用いる廃水としてコークス炉廃水に似るように調製した模擬廃水2と、活性汚泥との混合物を用いた。具体的には、表3下段に示す海水186mL及び水道水407mLの混合水593mL中に、表3上段の左欄に示す成分を右欄に示す濃度となるように混合、溶解して、模擬廃水2を調製した。模擬廃水2を活性汚泥の培地として用いた。これを模擬廃水培地2と記載する。この593mLの模擬廃水培地2に、安水処理設備から採取した活性汚泥(MLSS濃度=13245mg/L)を107mL混合した(混合液のMLSS濃度=2000mg/L)。この模擬廃水培地2と活性汚泥の混合物を各試験例A(実施例A1~A4、及び比較例A1~A3のそれぞれ)で100mLずつ振盪三角フラスコ(以下、単に「フラスコ」と記載する。)に分注した。
【0043】
【0044】
フラスコに入れた模擬廃水培地2と活性汚泥の混合物に、銅イオン供給源である銅イオン含有溶液として、1mg-Cu/L濃度の塩化第二銅(CuCl2)水溶液を、上記混合物に対する銅換算濃度が表4の「銅イオンの供給量(mg-Cu/L)」欄に示す濃度となるように添加した。全ての試験例Aの模擬廃水培地2と活性汚泥の混合物のpHは8.0であった。30℃で好気的に振盪培養し、42時間にわたり生物処理工程を行った。生物処理工程の開始から1時間毎に、フラスコ内の上清から1mLずつサンプリングして、チオシアン酸イオン(SCN-)濃度(mg-SCN/L)を測定した。全ての試験例Aで、チオシアン酸イオンの分解が開始した時点(25~27時間経過時点)でのSCN-濃度から、下記式より、SCN-の分解速度(mg/L/Hr)を算出した。また、下記式より、試験開始時から27時間経過後のSCN-の分解割合(%)を算出した。それらの結果を表4に示す。
SCN-の分解速度(mg/L/Hr)
=(25時間経過時点のSCN-濃度-27時間経過時点のSCN-濃度)/2時間
27時間経過後のSCN-の分解割合(%)
=(1-(27時間経過時点のSCN-濃度/試験開始時のSCN-濃度))×100
【0045】
【0046】
試験例Aより、生物処理工程において、廃水及び活性汚泥の混合物に対する銅イオンの供給量が、銅換算濃度で0.01~2.0mg-Cu/Lである場合(実施例A1~A4)、銅イオンを供給しない場合(比較例A1)に比べて、SCN-の分解速度及び分解割合が高いことが確認された。また、廃水及び活性汚泥の混合物に対する銅イオンの供給量が、銅換算濃度で0.01mg-Cu/L未満である場合(比較例A2)、実施例で得られたような効果は認められなかった。さらに、廃水及び活性汚泥の混合物に対する銅イオンの供給量が、銅換算濃度で2mg-Cu/L超である場合(比較例A3)、SCN-の分解速度及び分解割合が、比較例A1の場合よりも低下した。これは、活性汚泥に対する銅イオンの生物毒性が影響したものと考えられた。以上の試験例Aの結果より、銅イオンを所定量供給することによって、チオシアン酸イオンの分解速度及び分解割合を向上させることができ、チオシアン酸イオンを簡便かつ安定的に分解処理することが可能となる。
【0047】
試験例Aで使用した安水処理設備から採取した活性汚泥の微生物叢解析を実施した結果、チオシアン分解細菌と考えられるChromatiales目に属する細菌である、Thiohalobacter属菌、Halothiobacillus属菌、Thioprofundum属菌、Thiohalophilus属菌、Allochromatium属菌、及びThiogranum属菌を含有することが分かった。また、上記活性汚泥は、さらに、Chromatiales目に属する細菌として、Nitrosococcus属菌、Halochromatium属菌、Thioalkalispira属菌、Halorhodospira属菌、Ectothiorhodospira属菌、Granulosicoccus属菌、Thioalbus属菌、Thiohalocapsa属菌、及びRheinheimera属菌を含有することが分かった。
【0048】
上記活性汚泥の微生物叢解析は、次の方法により行った。活性汚泥からDNAを抽出し、シークエンス解析に必要な配列を含む表5に示すプライマーを用いて、16S rRNA遺伝子のV4-V5領域をPCR増幅し、次世代シーケンサー(商品名「MiSeq」、Illumina社製)を用いてシークエンス解析を行った。PCR増幅産物の両側から約250塩基ずつ解析(ペアエンド解析)を行った。得られた配列について、greengenesの16S rRNA遺伝子データベースに対する相同性検索を行い、系統分類を推定した。
【0049】