IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日鉄住金環境株式会社の特許一覧 ▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特開2024-154283生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法
<>
  • 特開-生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法 図1
  • 特開-生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法 図2
  • 特開-生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法 図3
  • 特開-生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法 図4
  • 特開-生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法 図5
  • 特開-生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法 図6
  • 特開-生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法 図7
  • 特開-生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法 図8
  • 特開-生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法 図9
  • 特開-生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法 図10
  • 特開-生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154283
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20241023BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20241023BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20241023BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20241023BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20241023BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20241023BHJP
【FI】
C02F3/12 B
C02F3/12 V
C02F3/34 Z
C12Q1/6869 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12N1/20 A
C12N15/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068029
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】山口 正裕
(72)【発明者】
【氏名】福島 寿和
(72)【発明者】
【氏名】山田 果歩
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4D028
4D040
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QR75
4B063QS25
4B065AA27X
4B065AA27Y
4B065CA55
4D028AB05
4D028BB02
4D028BC01
4D028BC03
4D028BD11
4D028BD16
4D028BD17
4D028CC06
4D028CD00
4D028CE01
4D028CE03
4D040DD03
4D040DD14
4D040DD16
(57)【要約】
【課題】活性汚泥を用いた生物学的廃水処理において、処理性能の低下等の変化を事前に予測することが可能な技術を提供する。
【解決手段】廃水を活性汚泥により生物処理することを含む廃水の処理方法における生物処理の処理性能が低下する前に、前記活性汚泥中で前記処理性能の低下に対して予兆的に変動する生物学的先行指標をモニタリングする監視工程を含み、前記監視工程で得られる前記生物学的先行指標の挙動に基づいて、前記生物処理が継続して進行した場合の将来的な前記処理性能を予測する、生物学的廃水処理性能の予測方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水を活性汚泥により生物処理することを含む廃水の処理方法における生物処理の処理性能が低下する前に、前記活性汚泥中で前記処理性能の低下に対して予兆的に変動する生物学的先行指標をモニタリングする監視工程を含み、
前記監視工程で得られる前記生物学的先行指標の挙動に基づいて、前記生物処理が継続して進行した場合の将来的な前記処理性能を予測する、生物学的廃水処理性能の予測方法。
【請求項2】
前記監視工程において前記生物学的先行指標の変動を検知することにより、前記生物学的先行指標が変動したときの前記生物処理が継続して進行した場合の将来的な前記処理性能の低下を予測する、請求項1に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
【請求項3】
前記生物学的先行指標は、予め得られた実験データとしての、前記生物処理の処理時間に対する、前記処理性能の時系列データと、前記活性汚泥中の生物学的指標の時系列データとを照らし合わせることで、前記処理性能の低下に先行して変動した前記生物学的指標として特定される、請求項1に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
【請求項4】
前記生物学的先行指標は、前記活性汚泥中の、特定微生物の量的指標、特定微生物の酵素遺伝子の発現量的指標、及び特定微生物の活性を示す物質量的指標からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
【請求項5】
前記生物学的先行指標が、次世代シーケンサーによる塩基配列解析又は核酸増幅手法による定量に基づいて求められる、前記活性汚泥中の前記特定微生物の量的指標である、請求項4に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
【請求項6】
前記特定微生物が、Flavobacteriales目に属する微生物である、請求項5に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
【請求項7】
前記特定微生物が、Flavobacteriaceae科又はCryomorphaceae科に属する微生物である、請求項5に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
【請求項8】
前記生物学的先行指標が、次世代シーケンサーによる塩基配列解析又は核酸増幅手法による定量に基づいて求められる、前記活性汚泥中の前記特定微生物の酵素遺伝子の発現量的指標又は前記特定微生物の活性を示す物質量的指標である、請求項4に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
【請求項9】
前記特定微生物の前記酵素遺伝子の発現量的指標、及び前記特定微生物の前記活性を示す物質量的指標が、前記活性汚泥中のアンモニア酸化酵素遺伝子のメッセンジャーRNAの量である、請求項8に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
【請求項10】
前記廃水がコークス炉廃水である請求項1に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
【請求項11】
廃水を活性汚泥により生物処理することを含む廃水の処理方法であって、
前記活性汚泥による生物処理の処理性能が低下する前に、前記活性汚泥中で前記処理性能の低下に対して予兆的に変動する生物学的先行指標をモニタリングする監視工程と、
前記監視工程において前記生物学的先行指標の変動を検知したときに、前記生物学的先行指標が変動したときの前記生物処理が継続して進行した場合の将来的な前記処理性能の低下を回避する手段を講じる回避工程と、
を含む廃水の処理方法。
【請求項12】
前記回避工程は、前記将来的な前記処理性能の低下を回避する手段として、前記廃水に薬剤を添加する第1手段、前記活性汚泥に栄養剤を添加する第2手段、及び前記生物処理の運転条件を変更する第3手段からなる群より選ばれる少なくとも1つの手段を講じる工程である請求項11に記載の廃水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的廃水処理性能の予測方法、及び廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護等の観点から、COD(化学的酸素要求量)成分を含有する廃水を浄化する技術が求められている。このような技術として、生物処理の代表的な処理方法の一つである活性汚泥法が知られている。活性汚泥法では、廃水中のCOD成分を分解することが可能な微生物を含む活性汚泥を用いて廃水を処理する。次いで、処理後の液(処理液)を沈殿槽等の固液分離設備に導入し、処理液中の活性汚泥と処理水とを分離させることで、処理液から活性汚泥を除去する。
【0003】
例えば特許文献1には、COD成分を含有するコークス工場排水の処理方法において、活性汚泥法による生物処理を行うことが記載されている。また、例えば特許文献2には、流動床担体槽内を流動する担体に活性汚泥を担持させ、担体に担持させた活性汚泥を用いて廃水を処理する活性汚泥法に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-84589号公報
【特許文献2】特開2020-78767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
活性汚泥法による生物処理を行う廃水の処理方法では、生物処理の処理性能が不安定になる傾向がある。その一因として、生物処理を担う微生物がいわゆるブラックボックスのように扱われ、活性汚泥法による生物処理のメカニズムに基づく管理方法が確立されていないことが挙げられる。
【0006】
活性汚泥を用いた生物学的廃水処理において、生物処理の処理性能を安定化させるためには、処理性能を不安定にさせるような処理性能の低下が顕在化する前に、その対策を講じることができればよいと考えられる。そのためには、生物処理の処理性能の低下等の変化が顕在化する前に、それを事前に予測できることが求められる。
【0007】
そこで本発明は、活性汚泥を用いた生物学的廃水処理において、処理性能の低下等の変化を事前に予測することが可能な技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、廃水を活性汚泥により生物処理することを含む廃水の処理方法における生物処理の処理性能が低下する前に、前記活性汚泥中で前記処理性能の低下に対して予兆的に変動する生物学的先行指標をモニタリングする監視工程を含み、前記監視工程で得られる前記生物学的先行指標の挙動に基づいて、前記生物処理が継続して進行した場合の将来的な前記処理性能を予測する、生物学的廃水処理性能の予測方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、活性汚泥を用いた生物学的廃水処理において、処理性能の低下等の変化を事前に予測することが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実験例1で使用した試験装置の概要図である。
図2】実験例1における運転日数に対する、処理水中のチオシアン酸イオン残存率を示すグラフである。
図3】実験例1における運転日数に対する、処理水中のチオシアン酸イオン残存率とdenovo10658の構成比を示すグラフである。
図4】実験例1における運転日数に対する、処理水中のチオシアン酸イオン残存率とFlavobacteriales目微生物の構成比を示すグラフである。
図5】実験例2で使用した流動床担体式活性汚泥槽を備えた試験装置の概要図である。
図6】実験例2における流動床担体式活性汚泥槽への返送汚泥の流入量を示すグラフである。
図7】実験例2における運転日数に対する、処理水中のチオシアン酸イオン残存率を示すグラフである。
図8】実験例2における運転日数に対する、処理水中のチオシアン酸イオン残存率とdenovo11778の構成比を示すグラフである。
図9】実験例2における運転日数に対する、処理水中のチオシアン酸イオン残存率とFlavobacteriales目微生物の構成比を示すグラフである。
図10】実験例1及び2における活性汚泥中の微生物に関する系統樹を表す図である。
図11】実験例3における処理時間に対する、NO-N濃度及びamoA mRNA定量値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
例えばコークス炉廃水等の廃水は、廃水中のCOD成分等の汚濁物質を除去するために、活性汚泥法によって生物処理されている。しかし、活性汚泥法による生物処理は、活性汚泥中に生きた微生物(例えばCOD成分を分解することが可能な微生物)が処理を担うため、その処理のメカニズムに基づく管理を確立することが難しいことから、処理性能が不安定になりがちである。
【0013】
本発明者らは、活性汚泥を用いた生物学的廃水処理において、生物処理の処理性能を安定化させるために、処理性能を不安定にさせるような処理性能の低下が顕在化する前に、その予兆を検知することができないかと考えた。処理性能の低下前に、その予兆を検知することができれば、事前に処理性能の低下を回避するための対策を講じることができ、それにより処理性能の低下を未然に抑え、もって安定した処理を継続させることができるためである。このような有用な処理方法の確立が期待されるため、本発明者らは、上記予兆について検討を進めた。
【0014】
具体的には、コークス炉廃水を活性汚泥法により生物処理することを含む廃水の処理方法において、活性汚泥を構成する微生物群、及び処理水質の時系列データを比較して検討した。その結果、全微生物に対する特定の微生物群(具体的にはFlavobacteriales目に属する微生物群)の構成比の増加が、処理性能の低下(具体的には除去対象である成分の増加)が顕在化する前の時点で確認された。そのため、上記特定の微生物群を遺伝子解析等によりモニタリングし、その増加を、処理性能の低下の予兆として捉えることで、処理性能の低下を未然に回避することが可能となることを見出した。
【0015】
上記の知見を得て本発明者らがさらなる検討を進めた結果、上記の特定の微生物群の量的指標に代わる他の生物学的指標と処理水質の時系列データの比較においても、処理性能の低下の予兆として捉えられる指標が確認されたことで、本発明に至った。
【0016】
<生物学的廃水処理性能の予測方法>
すなわち、本発明の一実施形態の生物学的廃水処理性能の予測方法(以下、単に「予測方法」と記載することがある。)は、廃水を活性汚泥により生物処理することを含む廃水の処理方法における生物処理の処理性能の予測に関する。この予測方法は、上記廃水の処理方法における生物処理の処理性能が低下する前に、活性汚泥中で処理性能の低下に対して予兆的に変動する生物学的先行指標をモニタリングする監視工程を含む。そして、監視工程で得られる生物学的先行指標の挙動に基づいて、生物処理が継続して進行した場合の将来的な処理性能を予測する。
【0017】
本実施形態の予測方法では、生物処理の処理性能が低下する前に、監視工程として、活性汚泥中で処理性能の低下に対して予兆的に変動する生物学的先行指標をモニタリングする。そのため、その監視工程で得られる生物学的先行指標の挙動に基づいて、生物処理が継続して進行した場合の将来的な処理性能を予測することができる。
【0018】
具体的には、監視工程において、生物学的先行指標に目立った変動が生じていないとき、その生物処理が継続して進行した場合も処理性能が維持されると予測することができる。したがって、この場合、安定した処理を継続させることが可能である。
【0019】
また、監視工程において生物学的先行指標が変動したとき、そのときの生物処理が継続して進行した場合は処理性能が低下すると予測することができる。処理性能の低下が予測されたとき、すなわち、生物学的先行指標が変動したとき、そのときの生物処理が継続して進行した場合の将来的な処理性能の低下を回避する手段を講じることができる。それにより処理性能の低下を未然に抑え、もって安定した処理を継続させることが可能となる。こうした態様で用いられることに本実施形態の予測方法は特に意義を有する。したがって、本実施形態の予測方法では、その一態様において、監視工程において生物学的先行指標の変動を検知することにより、生物学的先行指標が変動したときの生物処理が継続して進行した場合の将来的な処理性能の低下を予測することが好ましい。
【0020】
監視工程における生物学的先行指標のモニタリングは、生物学的先行指標を連続的又は非連続の定期的に、観察及び記録し、継続的に監視し続けることによって行われればよい。監視工程においてモニタリングする対象の生物学的先行指標の詳細は後述する。
【0021】
本実施形態の予測方法において、「廃水」とは、汚濁物質等のような除去対象である成分(以下、「除去対象成分」と記載することがある。)を含有する水であって、活性汚泥によって生物処理される除去対象成分を含有する水(被処理水)を意味する。活性汚泥法による生物処理における除去対象成分としては、例えば、COD成分、及びアンモニウム(NH )等を挙げることができる。
【0022】
ここでCOD(化学的酸素要求量)とは、水中の有機物量を示す指標であって、酸化剤を用いて有機物等を酸化分解するときに消費される酸素量(mg/L)である。CODの測定に用いる酸化剤として、過マンガン酸カリウム及び二クロム酸カリウムがあり、それぞれ、CODMn及びCODCrと表される。COD成分とは、廃水中にCODとしてカウントされる成分をいう。COD成分としては、例えば、フェノール等の有機物のほか、亜硝酸、亜硫酸、チオシアン酸、及びチオ硫酸等もCODとしてカウントされることが知られている。
【0023】
好適な廃水としては、COD成分を含有する廃水を挙げることができる。COD成分を含有する廃水としては、例えば、コークス製造工程で発生するコークス炉廃水(安水とも称される。)、石炭ガス化工程で発生する石炭ガス化廃水、及びアセチレン精製工程で発生する洗浄廃水、製紙工場廃水、及び食品工場廃水等を挙げることができる。これらの廃水は、排出された廃水そのもの(原水)であってもよいし、水、排水、又は海水等で希釈されたものであってもよい。廃水としては、コークス炉廃水がより好適である。
【0024】
本実施形態の予測方法において、「廃水の処理方法」とは、廃水を活性汚泥により生物処理することを含む水処理方法であって、自然環境に対して害となりうる廃水から除去対象成分をできるだけ除去し、自然環境に対する影響を小さくするための処理である。活性汚泥は、複数の微生物の集合である微生物叢を含有し、好ましくはCOD成分を分解可能な微生物群を含有する。
【0025】
活性汚泥による生物処理には、活性汚泥が収容された生物処理槽(曝気槽とも称される。)を用いることができる。この生物処理槽に被処理水(廃水)を流入させることで生物処理を行うことができる。生物処理槽としては、槽内に活性汚泥を含有させた槽;槽内に活性汚泥を含有させて沈殿させた槽;槽内を流動する担体(例えばスポンジ、プラスチック、ゲル等)に担持させた活性汚泥を含む槽(流動床担体式生物処理槽);槽内に固定された担体(固定担体)に活性汚泥を定着させた槽(固定床担体式生物処理槽);活性汚泥を含有させた槽内に活性汚泥と処理水とを分離するための膜分離装置を設けた膜式活性汚泥槽;等を挙げることができる。また、活性汚泥による生物処理は、上記の活性汚泥が収容された生物処理槽の2種以上を併用してもよく、例えば、槽内に活性汚泥を沈殿させた活性汚泥槽と、上記流動床担体式生物処理槽とを併用してもよい(特許文献2参照)。さらに、活性汚泥による生物処理は、廃水を分散菌が生息する第1生物処理槽で処理し、第1生物処理槽で処理された液(処理液)を活性汚泥が収容された生物処理槽(第2生物処理槽)で処理する多相式活性汚泥法(例えば二相式活性汚泥法)でもよい。
【0026】
廃水の処理方法は、活性汚泥による生物処理の後段に、その生物処理によって得られた処理液と活性汚泥との混合液を固液分離する固液分離工程を含んでいてもよい。また、その固液分離工程により処理水とは分離された活性汚泥を、返送汚泥として生物処理槽に返送してもよい。これにより、連続式活性汚泥法による生物処理を行うことができるとともに、生物処理槽内のMLSS(活性汚泥浮遊物質)濃度を一定の範囲内に維持しやすくなる。なお、生物処理槽として上記膜式活性汚泥槽を用いて、その槽内で固液分離工程を行ってもよい。
【0027】
固液分離工程には、固液分離設備を用いることができる。固液分離設備としては、沈殿槽(沈殿池とも称される。)、並びに精密ろ過膜及び限外ろ過膜等を用いたろ過装置(膜分離装置)等を挙げることができる。これらを用いることで、沈降分離、及び膜分離等の固液分離処理を行うことができる。したがって、生物処理は、生物処理槽の後段に沈殿槽を設けた沈殿式活性汚泥法による生物処理でもよいし、生物処理槽の後段に分離膜を設けた膜式活性汚泥法による生物処理でもよい。さらに、膜式活性汚泥法による生物処理は、上述の通り、槽内に膜分離装置を設けた膜式活性汚泥槽により行ってもよく、それにより、生物処理の後段の固液分離設備を省略してもよい。沈殿槽やろ過装置等の固液分離設備にて、上記混合液から、活性汚泥と処理水とを分離することができる。固液分離処理により得られた活性汚泥は、生物処理槽に返送して返送汚泥として再利用することができる。
【0028】
本実施形態の予測方法において、「生物処理の処理性能」とは、活性汚泥を用いた生物処理によって、廃水の自然環境に対する影響を小さくする性能を意味する。具体的な処理性能としては、例えば、活性汚泥を用いた生物処理によって廃水中の除去対象成分を減少させる性能や、その生物処理の過程で好ましくない副生成物の生成を抑制させる性能等が挙げられる。したがって、生物処理の処理性能の低下としては、例えば、生物処理の過程において、活性汚泥による生物処理で得られる処理水中の除去対象成分の増加、並びに好ましくない副生成物の生成及び生成量の増加等が挙げられる。
【0029】
例えばコークス炉廃水のようにCOD成分及びアンモニウム等を含有する廃水の生物処理の過程で得られる処理水中に、除去対象成分であるCOD成分又はアンモニウム等の増加が生じた場合、生物処理の処理性能が低下したこととなる。また例えば、生物処理によって上記廃水中のアンモニアが硝化反応して亜硝酸が生成した場合、亜硝酸は上述の通りCOD成分の一種であることから、好ましくない副生成物の生成又は生成量の増加となり、生物処理の処理性能が低下したこととなる。生物処理の処理性能の低下は、得られる処理水の水質の低下につながる。
【0030】
次に「生物学的先行指標」について説明する。生物学的先行指標は、活性汚泥中で処理性能の低下に対して予兆的に変動する生物学的指標である。活性汚泥中の生物学的指標としては、例えば、活性汚泥中の、特定微生物の存在量及び全微生物に対する特定微生物の存在割合(構成比率)等の特定微生物の量的指標;特定微生物の酵素遺伝子の発現量及び特定微生物の酵素遺伝子の相対的な発現比率等の特定微生物の酵素遺伝子の発現量的指標;並びに特定微生物の活性を示す物質量的指標;等を挙げることができる。なお、本明細書における「特定微生物」には、特定の1種の微生物のほか、特定の2種以上の微生物(微生物群)も含まれる。例えば、廃水中の除去対象成分の分解能を有する微生物の存在量、上記分解能と関連する酵素遺伝子の発現量等が減少することにより、除去対象成分の処理性の低下が引き起こされる場合、それらが先行指標となることが考えられる。また、上記分解能を有する微生物と競合して増減する他の微生物の存在量、酵素遺伝子の発現量等も、先行指標となることが考えられる。
【0031】
生物学的先行指標は、生物学的指標のうち、処理対象となる廃水、及び廃水の処理方法(生物処理の運転条件)等との関係において処理性能の低下に対して予兆的に変動する生物学的指標である。したがって、生物学的先行指標は、廃水の種類及び性状等;廃水中の除去対象成分の種類、性状、及び含有量等;並びに生物処理の運転条件等;によって変わり得るものである。そのため、予備実験により予め実験データを得ることで、生物学的先行指標を特定することが好ましい。
【0032】
具体的には、予め得られた実験データとしての、生物処理の処理時間に対する、処理性能の時系列データと、活性汚泥中の生物学的指標の時系列データとを照らし合わせる。それにより、処理性能の低下に先行して変動した生物学的指標を確認し、その確認された生物学的指標として、生物学的先行指標を特定することが好ましい。処理性能の時系列データとしては、例えば、生物処理の処理時間と、処理水中の除去対象成分(例えばCOD成分)の含有量との関係を示す時系列データ等が挙げられる。また、活性汚泥中の生物学的指標の時系列データとしては、例えば、生物処理の処理時間と、活性汚泥中の全微生物に対する特定微生物の構成比率との関係を示す時系列データ等が挙げられる。
【0033】
生物学的先行指標は、活性汚泥中の、特定微生物の量的指標、特定微生物の酵素遺伝子の発現量的指標、及び特定微生物の活性を示す物質量的指標からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。上述の予備実験の下での本発明者らの検討の結果、上記各指標が、処理性能の低下に対して予兆的に変動しやすいことがわかったためである。
【0034】
活性汚泥中の特定微生物の量的指標は、例えば、次世代シーケンサーによる塩基配列解析;核酸増幅手法による定量;位相差顕微鏡や実体顕微鏡を用いた特定微生物の計数による定量;又は特定微生物の細胞内の特定の塩基配列にハイブリダイズし得るとともに蛍光標識されたオリゴヌクレオチドを、微生物細胞を透過処理する方法によって処理された活性汚泥に混合し、必要に応じてこれを洗浄して得られた反応物を蛍光顕微鏡で観察することによる定量;等に基づいて求めることができる。本実施形態の予測方法では、その一態様において、生物学的先行指標は、次世代シーケンサーによる塩基配列解析又は核酸増幅手法による定量に基づいて求められる、活性汚泥中の特定微生物の量的指標であることが好ましい。さらには、上記特定微生物は、Flavobacteriales目に属する微生物であることがより好ましく、Flavobacteriaceae科又はCryomorphaceae科に属する微生物であることがさらに好ましい。
【0035】
シーケンサーは、DNAに記録された情報である塩基配列(DNA配列とも称される。)を分析、決定すること(DNAシーケンシング)を行う装置である。次世代シーケンサーは、高速でシーケンシングを行える次世代シーケンシング(NGS)による装置であって、同時並行で複数のDNA塩基配列を解析することができる装置である。次世代シーケンサーを用いることによって、活性汚泥中に存在する複数の微生物から遺伝子の塩基配列を同時に解析することができる。次世代シーケンサーとしては、例えば、Illumina社製の商品名「iSeqシステム」及び「MiSeqシステム」等、MGI製の商品名「DNBSEQ」シリーズ、サーモフィッシャーサイエンティフィック製の商品名「Ion GeneStudio S5システム」シリーズ及び「Ion Torrent Genexus システム」シリーズ等が挙げられる。
【0036】
NGSの作業は、サンプルから核酸を抽出する工程(抽出工程)、シーケンスプラットフォームで解析できるように核酸を加工するライブラリー調製工程、塩基配列を解読するシーケンス工程、及び得られた塩基配列を解析する解析工程を含むことができる。次世代シーケンサーによって、微生物の遺伝子の塩基配列として、16SリボソームRNA(16S rRNA)遺伝子の塩基配列を読み取ることとしてもよい。具体的には、細菌・古細菌16S rRNA遺伝子のうち、系統や種類によって配列の異なる可変領域を標的とし、核酸増幅手法により当該領域を増幅した後、次世代シーケンサーにて塩基配列を取得する。得られた配列は、QIIME(Quantitative Insights Into MicrobialEcology)パイプラインを用いてデータのクオリティ、キメラをチェックし、基準を満たした配列データのみフィルタリングする。基準を満たした各配列データについて、それぞれの配列の検出回数から、全配列の検出回数に対する相対度数(割合)を算出する。また、各配列データに対しては、16S rRNA遺伝子データベースを参照することで系統学的分類が提供され、門、目といった階級ごとの相対度数(割合)を求めることが可能である。また、相対度数に対して、MLSS(活性汚泥浮遊物質)、微生物由来の全DNA、又はタンパク質量等を乗ずることによって、特定微生物の量的指標の絶対量を求めることが可能である。公知の16S rRNA遺伝子データベースとしては、例えば、SILVA、及び greengenes等が挙げられる。
【0037】
核酸増幅手法による定量は、核酸増幅手法を用いた核酸増幅の過程又は増幅反応後における特定の塩基配列を有する核酸の量を測定することによることができる。核酸増幅手法による定量における核酸増幅手法としては、特定の塩基配列をIn vitroで特異的に増幅可能な手法であり、例えば、PCR(polymerase chain reaction)法、LAMP法(Loop-mediated Isothermal Amplification)、RCA(Roling cycle amplification)、RPA(recombinase polymerase amplification)法、ICAN法(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)等が挙げられる。また、上記核酸増幅手法と組み合わせる、特定の塩基配列を有する核酸の量を測定する手法としては、上記核酸増幅手法により増幅反応を行う反応系に、二本鎖DNAと結合することにより蛍光を発するインターカレーター物質、又は、標的とする核酸配列とハイブリダイズすることにより、その蛍光強度が変化する蛍光色素を修飾したオリゴヌクレオチドを核酸増幅反応系に共存させる手法を用いることができる。その際には、例えば、上記核酸増幅の過程における、その蛍光強度又は相対蛍光強度の変化を経時的に測定することに基づく方法を採ることができる。この方法において、核酸増幅手法としてPCR法を用いる場合には、蛍光強度の変化量が一定の量に達するまでに要する反応サイクル数(Ct値)を、核酸増幅手法としてLAMP法、RCA法、ICAN法等の核酸増幅反応を等温で行う手法を用いる場合には、蛍光強度の変化量が一定の量に達するまでに要する反応時間(Tt値)を基準にして、特定塩基配列の含有濃度と上記Ct値又はTt値との関係から、核酸増幅反応前の試料中に含まれていた特定塩基配列の濃度を求めることができる。また、蛍光強度の経時的変化を測定する方法によらない場合、PCR法を核酸増幅手法として用いる場合には、一定のサイクル数のPCRを行って得られた増幅された核酸の量を、核酸増幅反応を等温で行う方法を核酸増幅手法として用いる場合には、一定の時間の核酸増幅反応を行って得られた増幅された核酸の量を、前述のインターカレーター物質や蛍光色素を修飾したオリゴヌクレオチドを反応系内に共存させる方法によって測定することによって、核酸増幅反応前の試料中に含まれていた特定塩基配列の濃度を求める方法を例として挙げることができる。
【0038】
活性汚泥中の特定微生物の酵素遺伝子の発現量的指標、及び特定微生物の活性を示す物質量的指標は、例えば、次世代シーケンサーによる塩基配列解析又は核酸増幅手法による定量に基づいて求めることができる。また、上記手法によって求められた定量値のMLSS、全微生物のDNA量、タンパク質量、ハウスキーピング遺伝子の発現量等に対する相対度数(割合)によって求めることができる。本実施形態の予測方法では、その一態様において、生物学的先行指標は、次世代シーケンサーによる塩基配列解析又は核酸増幅手法による定量に基づいて求められる、活性汚泥中の特定微生物の酵素遺伝子の発現量的指標又は特定微生物の活性を示す物質量的指標であることが好ましい。さらには、特定微生物の酵素遺伝子の発現量的指標、及び特定微生物の活性を示す物質量的指標は、活性汚泥中のアンモニア酸化酵素遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)の量であることがより好ましい。
【0039】
上述した監視工程は、次に述べる本発明の一実施形態の廃水の処理方法に適用することも可能である。
【0040】
<廃水の処理方法>
本発明の一実施形態の廃水の処理方法は、廃水を活性汚泥により生物処理することを含む。この廃水の処理方法は、活性汚泥による生物処理の処理性能が低下する前に、活性汚泥中で処理性能の低下に対して予兆的に変動する生物学的先行指標をモニタリングする監視工程を含む。また、この廃水の処理方法は、監視工程において生物学的先行指標の変動を検知したときに、生物学的先行指標が変動したときの生物処理が継続して進行した場合の将来的な処理性能の低下を回避する手段を講じる回避工程を含む。
【0041】
廃水の処理方法における、処理対象である廃水、活性汚泥、及び監視工程については、前述の実施形態に係る予測方法で述べた通りである。この廃水の処理方法は、上記の回避工程を含むため、活性汚泥による生物処理の処理性能の低下を未然に抑え、もって安定した処理を継続させることが可能である。
【0042】
回避工程は、将来的な処理性能の低下を回避する手段として、廃水に薬剤を添加する第1手段、活性汚泥に栄養剤を添加する第2手段、及び生物処理の運転条件を変更する第3手段からなる群より選ばれる少なくとも1つの手段を講じる工程であることが好ましい。
【0043】
第1手段における薬剤としては、微生物の汚濁物質処理活性を阻害する毒性物質を、その生物処理槽への流入前に分解、又は無害な物質へ変換等することで、微生物に対する毒性を低減することが可能な薬剤が挙げられる。例えば、微生物に対して毒性を示すシアン化物イオンを含有する廃水に対する、シアン化物イオン分解剤が考えられる。具体的には、シアン化物イオンに加えて、チオシアン酸イオン又はチオ硫酸イオンを含有する廃水に対して、過酸化水素を含有する薬剤を用いることにより、シアン化物イオンを分解することが可能である。
【0044】
第2手段における栄養剤としては、例えば、窒素及びリン等を挙げることができる。また、栄養剤としては、廃水及び活性汚泥との混合物に対する銅換算濃度として、0.01~2mg-Cu/Lの濃度となる銅イオンを用いることができる。銅イオンとしては、銅化合物を溶媒に溶解させたことで銅化合物から生じた銅イオンを含有する銅イオン含有溶液;上記廃水に添加された際に銅イオンを生じる固体の銅化合物;の少なくとも一方の銅イオン供給源を用いることができる。これらのなかでも、使用しやすく、活性汚泥に銅イオンを供給しやすい観点から、銅イオン含有溶液を用いることがより好ましい。
【0045】
銅イオンとしては、銅(I)イオン(Cu)及び銅(II)イオン(Cu2+)のいずれでもよく、いずれか一方でも両方でもよい。したがって、銅化合物も、銅(I)化合物及び銅(II)化合物のうちの少なくとも1種を用いることができる。上記溶媒としては、例えば、水;希塩酸及び希硫酸等の酸;アンモニア水等の塩基;等を挙げることができる。上記銅化合物としては、例えば、塩化銅(I)、酸化銅(I)(亜酸化銅)、臭化銅(I)、酢酸銅(I)、及び硫化銅(I)等の銅(I)化合物;並びにフッ化銅(II)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、酢酸銅(II)、及び酸化銅(II)等の銅(II)化合物;を挙げることができる。これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。銅化合物のなかでも、酸化銅(I)、塩化銅(II)、及び硫酸銅(II)が好ましい。これらの銅化合物のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。銅化合物のなかでも、酸化銅(I)、塩化銅(II)、及び硫酸銅(II)が好ましい。
【0046】
第3手段における運転条件としては、例えば、活性汚泥槽の曝気風量の増加により、好気微生物の酸化分解反応を促進させる方法や、逆に曝気風量を抑制することにより、アンモニア酸化による亜硝酸生成を抑制させる方法を採ることができる。また、汚泥返送比を増減させることにより、活性汚泥槽のMLSS濃度を調節する方法を採ることができる。
【0047】
以上詳述した通り、本発明の一実施形態においては、以下の構成をとり得る。
[1]廃水を活性汚泥により生物処理することを含む廃水の処理方法における生物処理の処理性能が低下する前に、前記活性汚泥中で前記処理性能の低下に対して予兆的に変動する生物学的先行指標をモニタリングする監視工程を含み、
前記監視工程で得られる前記生物学的先行指標の挙動に基づいて、前記生物処理が継続して進行した場合の将来的な前記処理性能を予測する、生物学的廃水処理性能の予測方法。
[2]前記監視工程において前記生物学的先行指標の変動を検知することにより、前記生物学的先行指標が変動したときの前記生物処理が継続して進行した場合の将来的な前記処理性能の低下を予測する、上記[1]に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
[3]前記生物学的先行指標は、予め得られた実験データとしての、前記生物処理の処理時間に対する、前記処理性能の時系列データと、前記活性汚泥中の生物学的指標の時系列データとを照らし合わせることで、前記処理性能の低下に先行して変動した前記生物学的指標として特定される、上記[1]又は[2]に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
[4]前記生物学的先行指標は、前記活性汚泥中の、特定微生物の量的指標、特定微生物の酵素遺伝子の発現量的指標、及び特定微生物の活性を示す物質量的指標からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
[5]前記生物学的先行指標が、次世代シーケンサーによる塩基配列解析又は核酸増幅手法による定量に基づいて求められる、前記活性汚泥中の前記特定微生物の量的指標である、上記[4]に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
[6]前記特定微生物が、Flavobacteriales目に属する微生物である、上記[5]に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
[7]前記特定微生物が、Flavobacteriaceae科又はCryomorphaceae科に属する微生物である、上記[5]又は[6]に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
[8]前記生物学的先行指標が、次世代シーケンサーによる塩基配列解析又は核酸増幅手法による定量に基づいて求められる、前記活性汚泥中の前記特定微生物の酵素遺伝子の発現量的指標又は前記特定微生物の活性を示す物質量的指標である、上記[4]に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
[9]前記特定微生物の前記酵素遺伝子の発現量的指標、及び前記特定微生物の前記活性を示す物質量的指標が、前記活性汚泥中のアンモニア酸化酵素遺伝子のメッセンジャーRNAの量である、上記[8]に記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
[10]
前記廃水がコークス炉廃水である上記[1]~[9]のいずれかに記載の生物学的廃水処理性能の予測方法。
[11]廃水を活性汚泥により生物処理することを含む廃水の処理方法であって、
前記活性汚泥による生物処理の処理性能が低下する前に、前記活性汚泥中で前記処理性能の低下に対して予兆的に変動する生物学的先行指標をモニタリングする監視工程と、
前記監視工程において前記生物学的先行指標の変動を検知したときに、前記生物学的先行指標が変動したときの前記生物処理が継続して進行した場合の将来的な前記処理性能の低下を回避する手段を講じる回避工程と、
を含む廃水の処理方法。
[12]前記回避工程は、前記将来的な前記処理性能の低下を回避する手段として、前記廃水に薬剤を添加する第1手段、前記活性汚泥に栄養剤を添加する第2手段、及び前記生物処理の運転条件を変更する第3手段からなる群より選ばれる少なくとも1つの手段を講じる工程である上記[11]に記載の廃水の処理方法。
【実施例0048】
以下、実験例を挙げて、本発明の一実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。
【0049】
(チオシアン酸イオン濃度の測定方法)
以下に述べる実験例1及び2におけるチオシアン酸イオン濃度の測定は、以下の方法により行った。チオシアン酸イオン(SCN)濃度は、硝酸鉄を用いた呈色法によって分析した。具体的には、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)水溶液(10g-SCN/L)を希釈して、希釈系列を作製した。その希釈系列の試料2mLに、2.5N硝酸160μLと硝酸鉄(II)水溶液をそれぞれ80μL添加した。発色後すぐに波長460nmで吸光度を測定した。その結果、0~30mg-SCN/Lの範囲で直線的な検量線を得た。以下に述べる実験例での測定試料をチオシアン酸イオン濃度が0~30mg-SCN/Lの範囲になるように希釈し、上記の方法で呈色試験を行った。得られた吸光度の値から、検量線よりチオシアン酸イオン濃度(mg-SCN/L)を算出した。
【0050】
(NO-N濃度の測定方法)
以下に述べる実験例3におけるNO-N濃度の測定は、JIS K0102の43.1.2(イオンクロマトグラフ法による測定)に定める亜硝酸イオンの測定方法により行った。
【0051】
[実験例1]
1.試験装置での模擬コークス炉廃水(安水)処理試験
1-1.水処理データの取得
活性汚泥(MLSS濃度=5000mg/L)5Lを水槽(槽容積8L)に投入した活性汚泥槽を準備し、この活性汚泥槽に被処理水を連続流入して、連続的に活性汚泥による生物処理を行う試験を行った。上記被処理水には、チオシアン酸イオンを200~400mg/L程度含有するコークス炉廃水を使用した。また、上記活性汚泥には、コークス炉廃水を海水で希釈した廃水を既に処理している活性汚泥槽から採取したものを使用した。
【0052】
具体的には、上記の被処理水として、工業用水と人工海水を体積比2:3で混合した混合水に、表1の左欄に示す成分(溶質)を右欄に示す濃度となるように混合し、溶解して調製した模擬安水を用意した。また、図1に示す上記の活性汚泥槽11を備えた試験装置10を用意した。上記の活性汚泥槽11に模擬安水が連続的に流入するように接続した模擬安水入りの模擬安水タンク12を接続した。活性汚泥槽11内には溶存酸素(DO)計13を設置し、DO計13の値に応じて、曝気を行う流路上にある電磁弁14の開度を調節可能な制御装置15を接続させた。一定の溶存酸素濃度が維持されるように曝気風量を自動調整しながら運転を行った。活性汚泥槽11内には、さらに中空糸膜16(商品名「ステラポアSTNM424」、三菱ケミカル株式会社製)を設置し、その中空糸膜16でのろ過後の水を処理水とし、処理水が流出する処理水タンク17を設置した。流入水量は5.3L/day、水理学的滞留時間(HRT)は22.7時間とした。運転時のpHは連続測定し、pH8.0に保つようにアルカリを必要に応じて添加した。処理水のサンプリングを一日に一度行い、その試料(処理水)中のチオシアン酸イオン(SCN)濃度を測定し、下記式より、チオシアン酸イオン残存率を算出した。処理水中のチオシアン酸イオン残存率を図2に示す。初期はチオシアン酸イオンが良好に分解されていたが、通水7日目よりチオシアン酸イオン残存率が上昇し、処理性能の低下がみられた。
チオシアン酸イオン残存率(%)={(被処理水中のSCN濃度-処理水中のSCN濃度)/被処理水中のSCN濃度}×100
【0053】
【0054】
1-2.微生物叢データの取得
1-1.における処理水サンプリングと同時に活性汚泥のサンプリングを実施し、その汚泥試料1mLからDNA抽出キット(商品名「Extrap Soil DNA Kit Plus ver.2」、日鉄環境株式会社製)を用いてDNAを抽出した。抽出したDNAは、表2に示したオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、細菌・古細菌16S rRNA遺伝子の一部(v4-V5領域)をPCR法により増幅した後、次世代シーケンサー(商品名「MiSeq」、Illumina社製)にて塩基配列を読み取った。得られた配列はQIIME(Quantitative Insights Into MicrobialEcology)パイプラインを用いてデータのクオリティ、キメラをチェックし、基準を満たした配列データのみフィルタリングした。基準を満たした各配列データについて、それぞれの配列の検出回数から、全配列の検出回数に対する割合(%)を算出した。また、各配列データに対して、16S rRNA遺伝子データベースであるgreengenesを参照することで系統学的分類を取得し、門、目等の各階級における割合(%)を算出した。
【0055】
【0056】
1-3.予兆検知に適用可能な微生物種の選抜
測定された各塩基配列の割合と処理水中のチオシアン酸イオン残存率の各時系列データを比較して解析した。処理水中のチオシアン酸イオン残存率の増加は、7日目に認められた(図2参照)。一方、denovo10658(Flavobacteriales目に系統分類される特定の微生物に由来する塩基配列)の割合(構成比)は6日目に増加が認められ(図3参照)、Flavobacteriales目全体(Flavobacteriales目に系統分類された全ての塩基配列)の割合(構成比)は5日目乃至6日目に増加が認められた(図4参照)。したがって、処理水中のチオシアン酸イオン残存率の上昇という処理性能の低下に先んじて、微生物集団(微生物叢)中のFlavobacteriales目に関連する微生物(微生物群)の割合(構成比)の増加変動が認められたといえる。このとき、上記の微生物の構成比の増加の程度は、denovo10658に比べてFlavobacteriales目全体の方が顕著であった。
【0057】
以上のことから、微生物集団中のFlavobacteriales目に関連する微生物(Flavobacteriales目に属する特定の微生物、又はFlavobacteriales目の微生物全体)の構成比は、処理水中のチオシアン酸イオン残存率の上昇、すなわち、処理性能の低下の予兆を検知するための指標(生物学的先行指標)として好適であることが分かった。よって、上記特定微生物の量的指標をモニタリングする監視工程により、上記構成比の挙動に基づいて、生物処理が継続して進行した場合の将来的な処理性能を予測することができ、上記構成比の増加を検知したときに、上記将来的な処理性能の低下を回避する手段を講じることできる。それにより処理性能の低下を未然に抑え、もって安定した処理を継続させることが可能となる。
【0058】
[実験例2]
2.流動床担体式活性汚泥槽を用いた試験
2-1.水処理データの取得
流動床担体を用いた活性汚泥処理装置において、連続的に被処理水を流入させて処理を行った。実験例2で使用した流動床担体式活性汚泥槽21を備えた試験装置20の概要を図5に示す。この試験装置20は、槽内を流動する担体22に担持させた活性汚泥を含む流動床担体式活性汚泥槽21、活性汚泥槽21からの処理液中の活性汚泥を沈殿させ、活性汚泥と処理水とを分離する沈殿槽23を備える。被処理水は、コークス炉廃水を海水で希釈したものとした。コークス炉廃水は、チオシアン酸イオンを200~400mg/L程度含有する。上記活性汚泥には、上記被処理水を既に処理している活性汚泥槽から採取したものを使用した。上記流動床担体式活性汚泥槽21には、上記活性汚泥を含有させた活性汚泥槽に、担体として10mm×10mm×10mmの立方体のスポンジ(商品名「AQ-1」、関東イノアック株式会社製)を上記活性汚泥槽の概ね16体積%となる割合で投入し、担体に活性汚泥を担持させたものを用いた。ここで、活性汚泥槽の容積は2000L程度である。被処理水は、約140L/hrの流量で活性汚泥槽に流入させた。試験期間中、沈殿槽からの返送汚泥流入量を図6に示すように変化させた。被処理水及び処理水を7日に一度サンプリングして、被処理水及び処理水中のチオシアン酸イオン濃度を測定し、処理水中のチオシアン酸イオン残存率の推移を評価した。結果を図7に示す。
【0059】
2-2.微生物叢データの取得
2-1.におけるサンプリングと同時期に、週に一度、担体に付着している活性汚泥試料を採取した。活性汚泥試料からのDNA抽出以降の手順は、上記1-2.同様にして行った。
【0060】
2-3.予兆検知に適用可能な微生物種の選抜
測定された各塩基配列の割合(構成比)の時系列データに対して、処理水中のチオシアン酸イオン残存率の時系列データを比較して解析した。その結果、denovo11778(Flavobacteriales目に系統分類される特定の微生物に由来する塩基配列)の割合(図8参照)、Flavobacteriales目全体(Flavobacteriales目に系統分類された全ての塩基配列)の割合(図9参照)は、処理水中のチオシアン酸イオン残存率の上昇という処理性能の低下に先んじて、増加変動が認められた。このとき、上記の微生物の構成比の増加の程度は、denovo11778に比べてFlavobacteriales目全体の方が顕著であった。
【0061】
以上より、実験例2においても、微生物集団中のFlavobacteriales目に関連する微生物(Flavobacteriales目に属する特定の微生物、又はFlavobacteriales目の微生物全体)の構成比は、生物処理の処理性能の低下の予兆を検知するための指標(生物学的先行指標)として好適であることが示された。よって、上記特定微生物の量的指標をモニタリングする監視工程により、上記量的指標の挙動に基づいて、生物処理が継続して進行した場合の将来的な処理性能を予測することができ、上記量的指標の増加を検知したときに、上記将来的な処理性能の低下を回避する手段を講じることできる。それにより処理性能の低下を未然に抑え、もって安定した処理を継続させることが可能となる。
【0062】
2-4.Flavobacteriales目微生物の系統樹
実験例1において処理性能の低下に対して予兆的に増加したdenovo10658、及び実験例2において処理性能の低下に対して予兆的に増加したdenovo11778の塩基配列データに対して、公知のFlavobacteriales目微生物の塩基配列データと照らし合わせ、平均距離法(Unweighted Pair Group Method using arithmetic Average:UPGMA法)による系統樹を作成し、詳細な系統分類を行った。その結果を図10に示す。図10に示す通り、denovo10658はCryomorphaceae科、denovo11778はFlavobacteriaceae科に近縁であることが明らかとなった。
【0063】
[実験例3]
3.亜硝酸生成の予兆検知
3-1.回分試験データの取得
被処理水として、コークス炉廃水を用いた。被処理水と活性汚泥を、MLSS濃度が約2000mg/L、液量が1000mLとなるように混合した。被処理水と活性汚泥の混合物の水質を表3に示す。これを2L容量のプラスチックボトルに入れ、ブロワーで曝気しながら培養を行った。亜硝酸生成に伴うpH低下を防ぐため、水酸化ナトリウムでpHが8.0になるように試験中に適宜添加した。一日に一度汚泥を採取し、液中のNO-Nを測定した。
【0064】
【0065】
3-2.遺伝子発現量データの取得
採取した汚泥からRNAを抽出し、amoA mRNA存在量を定量PCRにより測定した。RNAの抽出は、RNA抽出キット(商品名「ISOIL for RNA」、株式会社ニッポンジーン製)を用いて行い、逆転写キット(商品名「PrimeScriptTM RT reagent Kit (Perfect Real Time)」、タカラバイオ株式会社製)を用いてRNAをDNAに逆転写したものを鋳型としてPCRに用いた。PCRプライマーとして、表4に示す塩基配列を持つオリゴヌクレオチドプライマーを使用した。amoA-1Fの5’末端のC(シトシン)塩基には蛍光色素(FITC)が標識されており、PCR反応により2本鎖を形成した際に近傍のG(グアニン)塩基により蛍光が消光する現象を利用し、PCR反応サイクル中の蛍光強度をモニタリングすることで、鋳型試料中のamoA mRNA存在量を定量した。PCR反応及び蛍光強度の測定には、リアルタイムPCR装置(商品名「Rotor-Gene Q」、Qiagen社製)を使用した。
【0066】
【0067】
3-3.亜硝酸生成量と遺伝子量、遺伝子発現量との関連解析
NO-N濃度とmRNA(遺伝子発現量)との関係を図11に示す。amoA mRNAがNO-Nの発生前に増加し、減少前に低下に転じていること、亜硝酸発生の予兆検知においてamoA mRNAのモニタリングが有効であることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2023-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0055
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0055】
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0066
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0066】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2024154283000001.xml