(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154288
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】作業支援装置、作業支援プログラム、および作業支援方法
(51)【国際特許分類】
B24B 53/00 20060101AFI20241023BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20241023BHJP
B24B 49/18 20060101ALI20241023BHJP
B23Q 17/12 20060101ALI20241023BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
B24B53/00 A
B24B49/10
B24B49/18
B23Q17/12
G05B19/4155 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068040
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】512063276
【氏名又は名称】株式会社ロジカルプロダクト
(71)【出願人】
【識別番号】510193430
【氏名又は名称】株式会社ワークス
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】辻 卓則
(72)【発明者】
【氏名】王 建明
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】三重野 計滋
【テーマコード(参考)】
3C034
3C047
3C269
【Fターム(参考)】
3C034AA19
3C034AA20
3C034CA24
3C034CA26
3C034CB13
3C034DD05
3C047AA02
3C269AB07
3C269MN24
3C269MN44
3C269MN50
(57)【要約】
【課題】工作機械の交換時期やメンテナンス時期などのうち、砥石が目詰まり状態や目つぶれ状態などであるため、ドレッシングが必要となる時期を適切に判断することができる作業支援装置などを提供する。
【解決手段】作業支援装置10は、取得された研削機の砥石の音データまたは/および振動データが記憶される記憶手段13と、記憶手段13に記憶された音データと、振動データに含まれる加速度データとを教師データとして機械学習を行い、学習済みモデルを生成する学習手段15と、学習済みモデルを用いて、推定対象の砥石の音データと、振動データに含まれる加速度データとに基づいて、当該砥石のドレッシング時期を推定する推定手段16と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
取得された研削機の砥石の音データまたは/および振動データが記憶される記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記音データまたは/および前記振動データに含まれる加速度データを教師データとして機械学習を行い、学習済みモデルを生成する学習手段と、
前記学習済みモデルを用いて、推定対象の砥石の音データまたは/および振動データに含まれる加速度データに基づいて、当該砥石のドレッシング時期を推定する推定手段と、
を有する作業支援装置。
【請求項2】
前記記憶手段には、砥石の種類に関するデータまたは/および砥石により研削される加工物の材質に関するデータが記憶され、
前記学習手段は、さらに、前記砥石の種類に関するデータまたは/および前記加工物の材質に関するデータを教師データとして機械学習を行い、学習済みモデルを生成し、
前記推定手段は、さらに、推定対象の砥石の種類に関するデータまたは/および推定対象の砥石により研削される加工物の材質に関するデータに基づいて、当該砥石のドレッシング時期を推定する
請求項1に記載の作業支援装置。
【請求項3】
前記研削機の砥石は円板型であり、
前記加速度データは、前記円板型の砥石の垂直方向、水平方向、および水平面において、当該水平方向と垂直に交わる第2水平方向の3軸方向における加速度データである
請求項1に記載の作業支援装置。
【請求項4】
前記記憶手段に記憶された前記音データまたは/および前記加速度データに対して周波数変換を行い、周波数-強度のデータに変換する前処理手段を有し、
前記学習手段は、当該変換されたデータを教師データとして機械学習を行う
請求項3に記載の作業支援装置。
【請求項5】
前記推定手段は、前記学習済みモデルを用いて、さらに、推定対象の砥石がドレッシング中であることを推定する
請求項1~4のいずれか1項に記載の作業支援装置。
【請求項6】
コンピュータを、
取得された研削機の砥石の音データまたは/および振動データが記憶される記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記音データまたは/および前記振動データに含まれる加速度データを教師データとして機械学習を行い、学習済みモデルを生成する学習手段と、
前記学習済みモデルを用いて、推定対象の砥石の音データまたは/および振動データに含まれる加速度データに基づいて、当該砥石のドレッシング時期を推定する推定手段と、
を有する作業支援装置として動作させるための作業支援プログラム。
【請求項7】
記憶手段に、取得された研削機の砥石の音データまたは/および振動データを記憶させ、
学習手段により、前記記憶手段に記憶された前記音データまたは/および前記振動データに含まれる加速度データを教師データとして機械学習を行い、学習済みモデルを生成する学習工程と、
推定手段により、前記学習済みモデルを用いて、推定対象の砥石の音データまたは/および振動データに含まれる加速度データに基づいて、当該砥石のドレッシング時期を推定する推定工程と、
を含む作業支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造業などの研削加工に用いられる研削用砥石(以下、単に「砥石」という)の適切なドレッシング時期を推定することができる作業支援装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
製造業などにおいて、従来から工作機械を常に最適な状態で稼働させたいというニーズがある。工作機械は、摩耗、劣化、故障などが必然的に起こり得るため、定期的に交換したり、メンテナンスしたりすることが必要となる。
例えば、加工物の研削加工に用いられる砥石は、加工物を研削していくうちに、加工物の切り屑が切れ刃間の隙間に詰まったり(目詰まり状態)、砥石の切れ刃の先端が擦り減って平滑に摩耗したり(目つぶれ状態)する。そのため、砥石が目詰まり状態や目つぶれ状態である場合、さらに硬い砥石で研磨して、これらを解消する作業(ドレッシング)が必要となる。
【0003】
しかし、このような工作機械の交換時期やメンテナンス時期などの判断は、人、特に熟練技能者の技量や五感に依存せざるを得ないのが現状である。このような問題に対して、特許文献1に記載の技術がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、工具のメンテナンス時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定できることを目的とした加工装置が記載されている。
この加工装置は、振動センサ41および音センサ43を備えており、これらは、検知した振動および音をコントローラ50に出力する(明細書の段落0021,0022、
図1)。また、この検知された振動および音は、振動に関する振動情報および音に関する振動情報として、コントローラの情報取得部により指標値算出部に出力される(明細書の段落0029)。
そして、指標値算出部は、この振動情報に基づいて、工具の状態を示す指標値を算出する。指標値によって示される工具の状態は、工具がどのくらい悪化しているかの程度、つまり、指標値によって、工具に対するメンテナンスが必要となるまでの目安であったり、工具の寿命までの目安であったりする(明細書の段落0030)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、工作機械の交換時期やメンテナンス時期などの判断は、単に自動化できるだけでなく、精度が求められている。具体的には、長年の経験で培われてきた熟練技能者の技量や五感による判断と、同程度のレベルであることが求められている。
【0007】
よって、本発明は、工作機械の交換時期やメンテナンス時期などのうち、砥石が目詰まり状態や目つぶれ状態などであるため、ドレッシングが必要となる時期を適切に判断することができる作業支援装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る作業支援装置は、取得された研削機の砥石の音データまたは/および振動データが記憶される記憶手段と、記憶手段に記憶された音データと、振動データに含まれる加速度データとを教師データとして機械学習を行い、学習済みモデルを生成する学習手段と、学習済みモデルを用いて、推定対象の砥石の音データと、振動データに含まれる加速度データとに基づいて、当該砥石のドレッシング時期を推定する推定手段と、を有する。
【0009】
これにより、学習手段によって、研削機の砥石の音データまたは/および振動データに含まれる加速度データに関する特徴量の抽出、重み付けがされた学習済みモデルが生成され、推定手段によって、この学習済みモデルを用いて、推定対象の砥石の音データまたは/および振動データに含まれる加速度データに基づいて、当該砥石のドレッシング時期が推定される。
【0010】
また、記憶手段には、砥石の種類に関するデータまたは/および砥石により研削される加工物の材質に関するデータが記憶され、学習手段は、さらに、砥石の種類に関するデータまたは/および加工物の材質に関するデータを教師データとして機械学習を行い、学習済みモデルを生成し、推定手段は、さらに、推定対象の砥石の種類に関するデータまたは/および推定対象の砥石により研削される加工物の材質に関するデータに基づいて、当該砥石のドレッシング時期を推定することが好ましい。
【0011】
なお、研削機の砥石は円板型であり、加速度データは、円板型の砥石の垂直方向、水平方向、および水平面において、当該水平方向と垂直に交わる第2水平方向の3軸方向における加速度データであることが好ましい。
【0012】
さらに、作業支援装置は、記憶手段に記憶された音データまたは/および加速度データに対して周波数変換を行い、周波数-強度のデータに変換する前処理手段を有し、学習手段は、当該変換されたデータを教師データとして機械学習を行うことが好ましい。
【0013】
加えて、推定手段は、学習済みモデルを用いて、推定対象の砥石の音データおよび加速度データに基づいて、さらに、推定対象の砥石がドレッシング中であることを推定することが好ましい。
【0014】
一方、本発明に係る作業支援プログラムは、コンピュータを、取得された研削機の砥石の音データまたは/および振動データが記憶される記憶手段と、記憶手段に記憶された音データまたは/および振動データに含まれる加速度データを教師データとして機械学習を行い、学習済みモデルを生成する学習手段と、学習済みモデルを用いて、推定対象の砥石の音データまたは/および振動データに含まれる加速度データに基づいて、当該砥石のドレッシング時期を推定する推定手段と、を有する作業支援装置として動作させるためのプログラムである。
また、本発明に係る作業支援方法は、記憶手段に、取得された研削機の砥石の音データまたは/および振動データを記憶させ、学習手段により、記憶手段に記憶された音データまたは/および振動データに含まれる加速度データを教師データとして機械学習を行い、学習済みモデルを生成する学習工程と、推定手段により、学習済みモデルを用いて、推定対象の砥石の音データまたは/および振動データに含まれる加速度データに基づいて、当該砥石のドレッシング時期を推定する推定工程と、を含む方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る作業支援装置は、斯かる構成により、学習手段によって、研削機の砥石の音データまたは/および振動データに含まれる加速度データに関する特徴量の抽出、重み付けがされた学習済みモデルが生成され、推定手段によって、この学習済みモデルを用いて、推定対象の砥石の音データまたは/および振動データに含まれる加速度データに基づいて、当該砥石のドレッシング時期が推定されるため、熟練技能者の技量や五感による判断と同程度のレベルで、研削機の砥石のドレッシングが必要となる時期を適切に判断することができる。なお、熟練技能者は、研削機の砥石の音や振動を、耳(聴覚)や手(触覚)で感じ取り、その微かな違いに基づいて、研削機の砥石の適切なドレッシング時期を判断している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る作業支援システムおよび作業支援装置の概略機能ブロック図である。
【
図2】(A)は砥石の目詰まり状態などを説明するための図、(B)は砥石のドレッシングを説明するための図である。
【
図4】研削機およびこれに取り付けられる砥石を説明するための図であり、(A)は研削機全体を示す図、(B)は(A)の破線枠部分を拡大した図、(C)は研削機に砥石が取り付けられる前の状態を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る作業支援方法を示す概略フロー図である。
【
図6】前処理された音データおよび加速度データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の内容に限定されない。
【0018】
[作業支援システム]
作業支援システム100は、
図1に示すように、作業支援装置10、センサ群20、通知手段31を含む。作業支援装置10は、砥石の適切なドレッシング時期を推定することができるものである。なお、本実施形態において、砥石50は、
図3に示すような円板型のダイヤモンド砥石である。
【0019】
砥石のドレッシングとは、
図2(A)に示すように、砥石は加工物を研削していくうちに加工物の切り屑が気孔に詰まってしまい(目詰まり状態となる)研削能力が落ちてしまうため、さらに硬い砥石で研磨して、新しい表面を露出させるという作業である(
図2(B)参照)。
また、砥石は、加工物を研削していくうちに砥粒が脱落してしまったり(目こぼれ状態となる)、切れ刃の先端が擦り減って平滑に摩耗してしまったり(目つぶれ状態となる)して研削能力が落ちてしまうため(
図2(A)参照)、同様にドレッシングが必要となる。
【0020】
[センサ群]
センサ群20は、砥石50が用いられる工場などに設置される複数のセンサである。例えば、センサ群20を構成するセンサとして、音センサ21や振動センサ22などがある。音センサ21は、研削時における砥石50が発する音を取得するセンサである。また、振動センサ22は、研削時における砥石50の振動を取得するセンサである。
【0021】
なお、振動センサ22は、振動として、砥石50の3軸方向の加速度を取得する。3軸方向とは、
図3に示すように、垂直方向(X軸方向)、水平方向(Y軸方向)、および第2水平方向(Z軸方向)である。
ここで、
図4(A),(B)に示すように、砥石50は、研削機(研削盤)40に取り付けられるものである。具体的には、
図4(C)に示すように、研削機40は、扉43付きの装着部41を有している。そして、装着部41に設けられた回転軸42に、砥石50の貫通穴51(
図3参照)が嵌め込まれることで、研削機40に砥石50が取り付けられる。
【0022】
振動センサ22は、研削機40に装着された状態における砥石50の振動を取得するため、本実施形態において、垂直方向は、砥石50装着時における垂直方向、水平方向は、回転軸42が伸びる方向、そして第2水平方向は、水平面において当該水平方向と垂直に交わる方向を言う。
また、振動センサ22は研削機40に設置され、研削機40に伝わる砥石50の振動を取得することができる。なお、センサ群20の各センサにより取得された情報は、音データや振動データとして作業支援装置10に送られる。
【0023】
[作業支援装置]
作業支援装置10は、入力手段11、出力手段12、記憶手段13、前処理手段14、学習手段15、推定手段16を有する。
【0024】
入力手段11は、外部装置から送られてくる様々なデータを受け付ける。例えば、センサ群20により取得、送信された音データや振動データなどは、入力手段11により受け付けられ、記憶手段13に記憶される。
【0025】
出力手段12は、パソコン、スマートフォン、サーバ、その他通信機器などの外部装置に、様々なメッセージやデータなどを出力する。例えば、推定されたドレッシング時期の推定結果をスマートフォンに表示させたり、推定結果を様々なファイル形式でパソコンに送信したりすることができる。また、出力手段12は、推定結果を通知手段31へ出力する。
【0026】
記憶手段13は、前述した音データや振動データを始め、砥石50に関する各種情報が記憶されるメモリやデータベースなどである。砥石50に関する情報としては、砥石の種類(砥石の番手や厚さなど)、加工物(削られる材料)の材質(超硬合金やセラミックなど)も含まれる。また、記憶手段13には、作業支援装置10を動作させるためのプログラム、学習済みモデル、一時データなども記憶される。
【0027】
学習手段15は、記憶手段13に記憶された音データや振動データなどを教師データとして機械学習を行い、学習済みモデルを生成する。学習手段15には、オートエンコーダ、CNNやRNNなど既知のニューラルネットワークを用いることができる。
【0028】
推定手段16は、学習手段15により生成された学習済みモデルを用いて、推定対象の砥石の音データや振動データなどに基づいて、当該砥石のドレッシング時期を推定する推定処理を行う。ドレッシング時期を推定するとは、「ドレッシングが不要」~「ドレッシングが必要」までを数値で表した場合、その間のどこに位置するかを示す指標値を推定することである。
【0029】
本実施形態において、推定手段16は、
・レベル1「もうしばらく大丈夫(現時点において、ドレッシングは不要)」
・レベル2「そろそろドレッシング時期」
・レベル3「ドレッシング必要」
の3段階でドレッシング時期を定義する。そして、推定手段16は、推定対象の砥石のドレッシング時期はどの辺りなのか、その間(1~3)の数値を用いて推定する。
さらに、推定手段16は、
・レベル4「ドレッシング中」
と、砥石が現在ドレッシング中であることも推定することができる。そのため、推定手段16は、1以上4以下の数値を用いて、推定対象の砥石のドレッシング時期はどの辺りなのかを示す。
【0030】
なお、前処理手段14は、記憶手段13に記憶された各種データについて前処理を行う。前処理手段14が行う前処理として、例えば、フィルタリングや周波数変換(フーリエ変換)などがある。前処理手段14により前処理された各種データは、学習手段15による機械学習に用いられたり、推定手段16による推定処理に用いられたりする。
【0031】
通知手段31は、出力手段12により出力された推定結果に応じて、利用者に通知を行う。具体的には、通知手段31は、光や音などにより利用者に推定結果を通知する。例えば、推定結果が「ドレッシング必須」程度の指標値であった場合、通知手段31は、「赤」の光を発すると共に音(ブザー音)を鳴らすことで、利用者にドレッシングが必須である旨を知らせる。
【0032】
[作業支援方法]
次に、
図1~4および
図5を参照して、作業支援装置10を用いた本発明の実施形態係る作業支援方法を説明する。作業支援装置10は、学習工程において、機械学習を行い学習済みモデルを生成する(
図5(A)参照)。そして、推定工程において、生成された学習済みモデルを用いて砥石のドレッシング時期を推定する(
図5(B)参照)。
【0033】
[学習]
作業支援装置10は、砥石に関するデータを取得する。ここで取得するデータは、機械学習における教師データとして用いるものであるため、機械学習に足りる十分な数およびパターンのデータが取得される。砥石に関する各種情報は、センサ群20により取得されて作業支援装置10に送られるため、作業支援装置10は、これらの情報をデータとして記憶手段13に記憶する(ステップS101)。
【0034】
次に、作業支援装置10は、前処理手段14により、記憶手段13に記憶された各種データに対して前処理を行う。具体的には、前処理手段14は、記憶手段13に記憶された各種データを時間(例えば、10秒ごと)で分割し、これらの各種データについてフィルタリングおよび周波数変換を行う(ステップS102)。フィルタリングが行われることにより、データに含まれるノイズが除去され、精度の高い学習済みモデルを生成することができる。
【0035】
また、記憶手段13には、センサ群20により取得された音データおよび3軸方向の加速度データが記憶されているため、前処理手段14は、これらのデータに対してフィルタリングおよび周波数変換を行う。
【0036】
図6は、前処理された音データおよび加速度データの一例を示す図であり、(A)は、熟練技能者が上記レベル1相当であると推定した砥石の音データおよび加速度データに対して、周波数変換まで行われた状態である。このように、音データおよび3軸方向の加速度データ(垂直方向、水平方向、第2水平方向)に対して周波数変換が行われ、周波数-強度のデータに変換されていることが分かる。また、(B)は熟練技能者が上記レベル2相当であると推定した砥石の音データおよび加速度データ、(C)は熟練技能者が上記レベル3相当であると推定した砥石の音データおよび加速度データ、(D)はドレッシング中の砥石の音データおよび加速度データに対して、それぞれ周波数変換まで行われた状態である。
【0037】
図6に示すように、同じレベル(同じ砥石の状態)においても、3軸方向の加速度データそれぞれその特性が異なることが分かる。例えば、レベル2において、高い強度が目立つのは、垂直方向の加速度である(
図6(B)参照)。一方、レベル3において、高い強度が目立つのは、第2水平方向の加速度である(
図6(C)参照)。
【0038】
その後、作業支援装置10は、学習手段15により、前処理された音データおよび加速度データを教師データとして機械学習を行い(ステップS103)、学習済みモデルを生成する(ステップS104)。生成された学習済みモデルは、記憶手段13に記憶される。
【0039】
[推定]
学習工程後、作業支援装置10は、センサ群20により推定対象の砥石に関するデータを取得し、記憶手段13に記憶する(ステップS201)。
【0040】
その後、前処理手段14により、当該推定対象の砥石に関するデータ(音データおよび3軸方向の加速度データ)に対して前処理を行う(ステップS202)。
【0041】
そして、推定手段16により、学習済みモデルを用いて、当該前処理された推定対象の砥石の音データおよび3軸方向の加速度データに基づいて、当該推定対象の砥石のドレッシング時期を推定する(ステップS203)。
推定結果は、前述したように、1以上4以下の数値(指標値)を用いて示される。もちろん、推定結果を示すレベルの段階を前述した4段階以上に増やすこともでき、ドレッシングが必要/不要の2段階とすることもできる。
【0042】
最後に、出力手段12により、推定結果を外部装置へ出力する(ステップS204)。推定結果が通知手段31に出力されると、この推定結果に応じて通知手段31は利用者に通知を行うが、出力手段12が、推定結果に応じた指示(例えば、色や音が指定された要求)を通知手段31に出してもよい。
【0043】
[評価]
表1は、本発明の実施形態に係る作業支援装置の評価結果を示す表である。表1に、熟練技能者が判断した、ドレッシング時期が上記レベル1~4までの砥石(4種類の砥石)に対して、作業支援装置10がそれぞれの推定した推定結果(指標値)を示す。
【0044】
【0045】
表1に示すように、推定されたレベル2における指標値の平均(2.453)は四捨五入すると2となり、推定されたレベル3における指標値の平均(2.6395)は四捨五入すると3となるため、熟練技能者の判断と変わらない判断を行うことができると分かる。
一方、推定されたレベル1における指標値の平均(1.60225)は、1よりも2に近いため、レベル2であると推定される可能性もあるが、重要なのはレベル2「そろそろドレッシング時期」とレベル3「ドレッシング必要」との間の判断なので、実運用において問題はないと思われる。
【0046】
また、表1に示すように、レベル1~4における指標値の平均にはそれぞれ明確な差が出ているため、任意の閾値を設定して、作業支援装置(推定手段)は当該閾値に基づき、推定対象の砥石のドレッシング時期がどのレベルにあるのかを判断(推定)するようにしてもよい。
例えば、
・レベル1とレベル2との間の閾値:2
・レベル2とレベル3との間の閾値:2.5
・レベル3とレベル4との間の閾値:3
と設定することで、推定結果(平均)が上振れ・下振れしようとも、安定して、推定対象の砥石のドレッシング時期がどのレベルにあるのかを判断(推定)することができる。
【0047】
また、表1に示すように、3軸方向の加速度データから抽出される特徴量はそれぞれ異なるため、作業支援装置10は、安定した推定結果を出すことができる。例えば、レベル3の加速度(垂直方向)は「2.008」と、レベル2であると推定され得るような値であるが、音や加速度(水平方向)、加速度(第2水平方向)など他のパラメータも含めた平均は「2.6395」であるため、結果として、熟練技能者の判断と同様にレベル3程度と判断することが可能である。
【0048】
このように、本発明の作業支援装置などは、砥石のドレッシング時期を、熟練技能者の判断と同程度のレベルで判断することができるため、熟練技能者が定年退職した後の人手不足問題や後継者問題、または製造業務における人件費削減や生産性向上などに貢献することができる。
【0049】
以上のように本発明の実施形態を説明したが、説明した実施の形態はあくまで一例であり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、この内容に限定されない。
例えば、本実施形態において、学習および推定に用いたデータは音データおよび振動データ(3軸方向の加速度データ)であったが、音データのみを利用してもよく、振動データのみを利用してもよい。
【0050】
さらに、学習および推定に用いるデータとして、砥石の種類(砥石の番手や厚さなど)や加工物の材質(超硬合金やセラミックなど)などを利用してもよい。製造業などにおいて、研削加工に用いられる砥石の種類や加工物の材質などは複数種類存在する。そして、砥石の種類や加工物の材質などが変われば、砥石が発する音や振動なども変わる。よって、研削機の砥石の音データや振動データに加えて、これらのデータを学習および推定に用いることで、推定対象の砥石の種類や、推定対象の砥石が研削する加工物の材質に基づいた、より高精度の推定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、熟練技能者の技量や五感による判断と同程度のレベルでドレッシングが必要となる時期を適切に判断することができる作業支援装置などであり、研削加工を行う様々な製造業で利用することができるため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0052】
10 作業支援装置
11 入力手段
12 出力手段
13 記憶手段
14 前処理手段
15 学習手段
16 推定手段
20 センサ群
21 音センサ
22 振動センサ
31 通知手段
40 研削機
41 装着部
42 回転軸
43 扉
50 砥石
51 貫通孔
100 作業支援システム