(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154289
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】冷却システム
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20241023BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20241023BHJP
F25B 39/02 20060101ALI20241023BHJP
F28D 15/06 20060101ALI20241023BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20241023BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
F28D15/02 E
F25B1/00 396Z
F25B39/02 U
F28D15/02 104A
F28D15/06 D
H01L23/46 A
C09K5/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068041
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】594185097
【氏名又は名称】伸和コントロールズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】笹渕 朝禎
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 知行
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136CC34
5F136CC37
5F136CC40
(57)【要約】
【課題】従来の冷凍方式では使用されることがなかった物質を熱サイクルの冷媒として使用できるようになる又は熱サイクルの冷媒として使用できる物質の範囲を拡大させることができる冷却システムの提供。
【解決手段】一実施の形態に係る冷却システムは、冷媒を通流させる冷媒流路11と、冷媒流路11に設けられ冷媒の通流を制御する制御弁14とを含む冷媒通流装置10と、冷媒流路11の下流端11Dに接続して冷媒流路11から気体を吸引する導入口20Aと、冷媒流路11の上流端11Uに接続し、導入口20Aから吸引した気体を冷媒流路11の上流端11Uから冷媒流路11に流入させる流出口20Bとを含む減圧装置20と、を備える。冷媒通流装置10は、減圧装置20から流入する気体に含まれる冷媒を通流させる。そして、冷媒通流装置10は、冷媒流路11における制御弁14の下流側に、冷媒により温度制御対象を冷却する温度制御部16を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を通流させる冷媒流路と、前記冷媒流路に設けられ前記冷媒の通流を制御する制御弁とを含む冷媒通流装置と、
前記冷媒流路の下流端に接続して前記冷媒流路から気体を吸引する導入口と、前記冷媒流路の上流端に接続し、前記導入口から吸引した前記気体を前記冷媒流路の上流端から前記冷媒流路に流入させる流出口とを含む減圧装置と、を備え、
前記冷媒流路は、前記減圧装置から流入する前記気体に含まれる前記冷媒を通流させ、
前記冷媒通流装置は、前記冷媒流路における前記制御弁の下流側に、前記冷媒により温度制御対象を冷却する温度制御部を備える、冷却システム。
【請求項2】
前記冷媒通流装置は、前記冷媒流路における前記温度制御部の下流側に、前記温度制御部を通過した前記冷媒のうちの気相の部分が液相の部分よりも下流側に流動するように前記気相の部分と前記液相の部分とを分離する気液分離器を備える、請求項1に記載の冷却システム。
【請求項3】
前記冷媒通流装置は、前記冷媒流路における前記制御弁の上流側に、前記減圧装置から前記冷媒流路に流入した前記気体から液相となった前記冷媒を貯留するリザーバタンクを備え、
前記制御弁は、前記リザーバタンクから流入する液相の前記冷媒の通流を制御する、請求項1に記載の冷却システム。
【請求項4】
前記リザーバタンクは、前記減圧装置から流入した前記気体を冷却し、前記気体から前記冷媒を液化させる冷却器を有する、請求項3に記載の冷却システム。
【請求項5】
前記冷媒通流装置は、前記冷媒流路における前記制御弁と前記温度制御部との間に、二層流分離器を備え、
前記二層流分離器は、前記制御弁からの前記冷媒を流入させる入口と、前記入口よりも下方に設けられ、前記入口から流入した前記冷媒を流出させる出口とを含む、請求項1に記載の冷却システム。
【請求項6】
前記冷媒流路における前記制御弁と前記温度制御部との間の部分と、前記冷媒流路における前記温度制御部の下流側の部分とが、それぞれを通流する前記冷媒同士を互いに熱交換可能とする内部熱交換器を構成する、請求項1に記載の冷却システム。
【請求項7】
前記減圧装置の動作及び前記制御弁の絞り状態により、前記冷媒流路における前記制御弁の下流側の部分の内部の圧力が、前記冷媒流路における前記制御弁の上流側の部分の内部の圧力よりも低くなる状態を形成する、請求項1に記載の冷却システム。
【請求項8】
前記冷媒は、大気圧下での沸点が30℃以上となる物質である、請求項1に記載の冷却システム。
【請求項9】
前記冷媒は、GWPが10以下である、請求項8に記載の冷却システム。
【請求項10】
前記冷媒は、HFO-1336mzz-Zである、請求項9に記載の冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、減圧による冷媒の温度降下を利用する冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気圧縮式の冷凍装置は、多くの分野で広く利用されている。
【0003】
蒸気圧縮式の冷凍装置では、圧縮機で冷媒が圧縮され、圧縮機から流出する冷媒が凝縮器で冷却される。凝縮器から流出する冷媒は膨張弁で膨張され、膨張弁から流出する冷媒は、蒸発器で温度制御対象と熱交換を行う。冷媒は、蒸発器で温度制御対象の熱を吸収することで冷却を行う。蒸発器から流出する冷媒は圧縮機に循環し、その後、凝縮器で熱を放出する。
【0004】
蒸気圧縮式の冷凍装置で使用される冷媒は、通常、フッ素系冷媒である。フッ素系冷媒は、温室効果ガスであり、燃性を有する場合もあるが、高効率の運転を実現できる等の種々のメリットを有する。
【0005】
一方で、フッ素系冷媒が環境に与える影響(温室効果)を考慮し、従前より、地球温暖化係数(GWP)を低く抑えることのできる蒸気圧縮式用のフッ素系冷媒の開発が進められている。そして、非常にGWPの低い蒸気圧縮式用のHFO系冷媒が既に実用化されている。具体的には、例えばGWPが10以下のHFO系冷媒が実用化されている。しかしながら、この冷媒は、燃性や毒性について安全性が十分に確保されているとは必ずしも言えない状況である。そのため、低GWP且つ安全性を確保できる蒸気圧縮式用の冷媒の開発は、現在も盛んに行われている。
【0006】
また、蒸気圧縮式の冷凍装置で用いられる圧縮機は、長期にわたり運転を行う。そのため、回転部分等の駆動部分を潤滑油で潤滑する必要がある。ただし、潤滑油は、冷媒側への流出の問題がある。そして、この潤滑油の流出により、圧縮機における油切れが生じることがあり、圧縮機の運転の安定性が損なわれることがある。また、蒸発器に潤滑油が滞留することにより、蒸発器の冷却効率が損なわれることがある。そのため、蒸気圧縮式の冷凍装置は、圧縮機を使用する点でも種々改善の余地を有している。
【0007】
一方で、圧縮機を使用しない冷却装置としては、例えば特許文献1~3に開示されるような沸騰冷却装置が知られている。
【0008】
沸騰冷却装置は、液体を温度制御対象と熱交換させる際に、液体を気化させることで、潜熱による吸熱により効率的に温度制御対象を冷却できる。そして、通常、液体又はこれが気化した気体を循環させるためのポンプが必要になるが、ポンプは、潤滑油が不要か又は必要であっても少量で済む。また、ポンプのエネルギー消費量は比較的小さい。したがって、沸騰冷却装置は、環境性能に優れた装置と言える。
【0009】
ただし、沸騰冷却装置では、一般に例えば0℃を大きく下回る温度帯での冷却はできず、冷却温度及び温度制御対象が非常に制約される。そのため、沸騰冷却装置により、低温又は超低温の温度帯で高い冷凍能力を確保することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011-142298号公報
【特許文献2】国際公開2017/119113号
【特許文献3】特開2021-162195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、上述したようにHFO系冷媒等の環境負荷の小さい冷媒の開発が進められる一方で、環境負荷の小さい不凍液の開発も進められている。そして、GWPが低く且つ不燃性の、不凍液として使用され得るHFO系溶剤が実用化された。このような溶剤は、大気圧下での沸点が例えば70℃以上であるため、蒸気圧縮式の冷凍装置には適合しない。しかしながら、このようなHFO系溶剤を用いて熱サイクルを実現できれば、現在強く求められている低環境負荷、高い安全性及び高い冷凍能力を確保し得る冷却システムを実現できる可能性がある。
【0012】
そこで、本件発明者は、例えば上述したようなHFO系溶剤を熱サイクルの冷媒として使用可能とすることができる新規の冷却システムの実現のために鋭意研究を行った。より一般化して言うと、蒸気圧縮式の冷凍装置で使用可能であった冷媒の範囲とは異なる範囲の物質を、熱サイクルで使用可能な冷媒にシフトさせることができる新規の冷却システムの実現のために鋭意研究を行った。そして、減圧により冷媒の温度を降下させて冷媒で温度制御対象を冷却させた後、大気圧下で冷媒が吸収した熱を放出する構造により、上記冷却システムを実現し得ることを知見し、本発明を創案するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の課題は、従来の冷凍方式では使用されることがなかった物質を熱サイクルの冷媒として使用できるようになる、又は、熱サイクルの冷媒として使用できる物質の範囲を拡大させることができる冷却システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施の形態は、以下の態様「1」~「10」に関連する。
【0015】
[1] 冷媒を通流させる冷媒流路と、前記冷媒流路に設けられ前記冷媒の通流を制御する制御弁とを含む冷媒通流装置と、
前記冷媒流路の下流端に接続して前記冷媒流路から気体を吸引する導入口と、前記冷媒流路の上流端に接続し、前記導入口から吸引した前記気体を前記冷媒流路の上流端から前記冷媒流路に流入させる流出口とを含む減圧装置と、を備え、
前記冷媒流路は、前記減圧装置から流入する前記気体に含まれる前記冷媒を通流させ、
前記冷媒通流装置は、前記冷媒流路における前記制御弁の下流側に、前記冷媒により温度制御対象を冷却する温度制御部を備える、冷却システム。
【0016】
[2] 前記冷媒通流装置は、前記冷媒流路における前記温度制御部の下流側に、前記温度制御部を通過した前記冷媒のうちの気相の部分が液相の部分よりも下流側に流動するように前記気相の部分と前記液相の部分とを分離する気液分離器を備える、[1]に記載の冷却システム。
【0017】
[3] 前記冷媒通流装置は、前記冷媒流路における前記制御弁の上流側に、前記減圧装置から前記冷媒流路に流入した前記気体から液相となった前記冷媒を貯留するリザーバタンクを備え、
前記制御弁は、前記リザーバタンクから流入する液相の前記冷媒の通流を制御する、[1]又は[2]に記載の冷却システム。
【0018】
[4] 前記リザーバタンクは、前記減圧装置から流入した前記気体を冷却し、前記気体から前記冷媒を液化させる冷却器を有する、[3]に記載の冷却システム。
【0019】
[5] 前記冷媒通流装置は、前記冷媒流路における前記制御弁と前記温度制御部との間に、二層流分離器を備え、
前記二層流分離器は、前記制御弁からの前記冷媒を流入させる入口と、前記入口よりも下方に設けられ、前記入口から流入した前記冷媒を流出させる出口とを含む、[1]乃至[4]のいずれかに記載の冷却システム。
【0020】
[6] 前記冷媒流路における前記制御弁と前記温度制御部との間の部分と、前記冷媒流路における前記温度制御部の下流側の部分とが、それぞれを通流する前記冷媒同士を互いに熱交換可能とする内部熱交換器を構成する、[1]乃至[5]のいずれかに記載の冷却システム。
【0021】
[7] 前記減圧装置の動作及び前記制御弁の絞り状態により、前記冷媒流路における前記制御弁の下流側の部分の内部の圧力が、前記冷媒流路における前記制御弁の上流側の部分の内部の圧力よりも低くなる状態を形成する、[1]乃至[6]のいずれかに記載の冷却システム。
【0022】
[8] 前記冷媒は、大気圧下での沸点が30℃以上となる物質である、[1]乃至[7]のいずれかに記載の冷却システム。
【0023】
[9] 前記冷媒は、GWPが10以下である、[1]乃至[8]のいずれかに記載の冷却システム。
【0024】
[10] 前記冷媒は、HFO-1336mzz-Zである、[1]乃至[9]のいずれかに記載の冷却システム。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来の冷凍方式では使用されることがなかった物質を熱サイクルの冷媒として使用できるようになる、又は、熱サイクルの冷媒として使用できる物質の範囲を拡大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】一実施の形態に係る冷却システムを概略的に示す図である。
【
図2】
図1の冷却システムを構成するコントローラの機能構成を示すブロック図である。
【
図3】
図1の冷却システムで用いる冷媒の一例のp-h線図である。
【
図4】
図1の冷却システムの一適用例であって、当該冷却システムを備えるプラズマエッチング装置の概略図である。
【
図5】
図1の冷却システムの一適用例であって、当該冷却システムを備える調理機器の概略図である。
【
図6】
図1の冷却システムの一適用例であって、当該冷却システムを備える成形装置の概略図である。
【
図7】
図1の冷却システムの一適用例であって、当該冷却システムを備える冷凍冷蔵倉庫の概略図である。
【
図8】変形例に係る冷却システムを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、一実施の形態を説明する。
【0028】
図1は、一実施の形態に係る冷却システムSの概略図である。まず、冷却システムSの構成について説明する。
【0029】
(冷却システムの構成)
図1に示すように、冷却システムSは、冷媒通流装置10と、減圧装置20と、コントローラ30と、を備えている。
【0030】
冷媒通流装置10は、冷媒を通流させる冷媒流路11を有する。冷媒流路11は、上流端11Uと、下流端11Dとを含む。減圧装置20は、冷媒流路11の下流端11Dに接続して冷媒流路11から気体を吸引する導入口20Aと、冷媒流路11の上流端11Uに接続し、導入口20Aから吸引した気体を上流端11Uから冷媒流路11に流入させる流出口20Bと、を含む。
【0031】
冷媒通流装置10は、冷媒流路11に設けられるリザーバタンク12、ドライヤ13、制御弁14、二層流分離器15、温度制御部16、気液分離器17、及びバタフライバルブ18を上流側から下流側に向けてこの順で有する。すなわち、冷媒流路11は、リザーバタンク12、ドライヤ13、制御弁14、二層流分離器15、温度制御部16、気液分離器17、及びバタフライバルブ18をこの順で配管部材により接続することで構成されている。
【0032】
冷却システムSの運転時においては、冷媒流路11における制御弁14は、その開度を絞られた状態に制御される。この状態で、減圧装置20は、冷媒流路11の下流端11Dから、冷媒流路11内に存在する気体又は冷媒流路11内で気化した気体を吸引する。これにより、減圧装置20は、冷媒流路11における制御弁14よりも下流側の部分の内部の圧力を減圧する又は減圧状態に維持する。
【0033】
上述のように、減圧装置20が冷媒流路11から気体を吸引することにより、冷媒流路11における制御弁14よりも下流側の部分の内部の圧力は、大気圧よりも小さい圧力に減圧される。一方で、冷媒流路11における制御弁14よりも上流側の部分の内部の圧力は、冷媒流路11における制御弁14よりも下流側の部分の内部の圧力よりも大きい圧力であって、例えば大気圧に設定される。
【0034】
減圧装置20が冷媒流路11の下流端11Dから吸引した気体は、冷媒流路11の上流端11Uから冷媒流路11の内部に流入する。冷媒通流装置10は、減圧装置20から流入する気体に含まれる冷媒を冷媒流路11において通流させる。そして、冷媒通流装置10は、冷媒が冷媒流路11における制御弁14に至る前までに冷媒を極力液化させる。そして、液化された冷媒は、冷媒流路11における制御弁14よりも下流側の部分に流入する際に減圧され、降温する。これにより、冷媒流路11において制御弁14よりも下流側に配置された温度制御部16は、低温の冷媒を通流させることができる。そして、温度制御部16において冷媒と温度制御対象とが熱交換することで、冷媒により温度制御対象を冷却できる。
【0035】
温度制御部16において温度制御対象と熱交換する冷媒は、温度制御対象の熱を吸収することで、蒸発し得る。この場合、冷媒は、気化潜熱により温度制御対象を効率的に冷却できる。そして、上記蒸発した冷媒は気体の状態であり、減圧装置20によって吸引される。ここで、減圧装置20によって吸引された気相の冷媒は温度制御対象からの熱を吸収している。この冷媒に吸収された熱は、本実施の形態では冷媒流路11における主にリザーバタンク12において外部に放出される。これにより、温度制御対象を連続的に冷却できる。
【0036】
冷却システムSが循環させる冷媒は特に限定されないが、例えば大気圧下で且つ標準的な環境温度(例えば25℃)で液状となる物質であって、この状態から例えば0.1気圧の環境で膨張された場合に-5℃以下になる物質であり、望ましくは0.01気圧の環境で膨張された場合に-30℃以下になる物質である。このような物質を冷媒として用いた場合には、低温域までの冷却が可能となる。なお、本明細書において大気圧とは、1気圧であって、言い換えると0.1MPa(Abs)を意味する。
【0037】
以下、冷却システムSを構成する冷媒通流装置10及び減圧装置20について詳述する。
【0038】
冷媒通流装置10におけるリザーバタンク12は、減圧装置20から冷媒流路11に流入した気体から液相となった冷媒を貯留する。上述したように、冷媒流路11における制御弁14よりも上流側の部分の内部の圧力は、冷媒流路11における制御弁14よりも下流側の部分の内部の圧力よりも大きい。そのため、減圧装置20から冷媒流路11に流入した気体は昇圧される状態となり、昇温する。このとき、気体に含まれる冷媒も気相の状態から昇圧され、昇温し、そして液化しようとする。
【0039】
減圧装置20から流入した気体に含まれる冷媒は、リザーバタンク12に至るまでに少なくとも一部で液相となり得る。リザーバタンク12は、このように自然に液相となった冷媒を貯留できる。ただし、減圧装置20から流入する気相の冷媒の全てをリザーバタンク12に至るまでに液化することは、困難な場合がある。そこで、本実施の形態におけるリザーバタンク12は、気相の冷媒を冷却し、液化させる冷却器12Aを有する。冷却器12Aは、リザーバタンク12内に設けられ、減圧装置20からリザーバタンク12に流入する主に気体を冷却する。これにより、減圧装置20から流入した気体における冷媒の大部分を、リザーバタンク12において液化し、液相の冷媒を貯留できる。なお、冷却器12Aは、リザーバタンク12の外に設けられてもよく、例えば冷媒流路11におけるリザーバタンク12の上流側の部分を冷却する構成でもよい。
【0040】
リザーバタンク12は、その上部に気体の入口12iを有し、その底部に液相の冷媒を下流側に流出させる排出口12eを有する。詳しくは、リザーバタンク12は、開口を有する容器本体12Bと、開口を開閉する蓋12Cとを備え、容器本体12Bの上部に入口12iが設けられ、容器本体12Bの底部に排出口12eが設けられる。ただし、入口12i及び排出口12eの位置は特に限られるものではない。またリザーバタンク12では、蓋12Cを開放させることで、例えばリザーバタンク12の圧力上昇を回避でき、減圧装置20の消費電力を抑えることができる。また、蓋12Cを開放させることで冷媒の充填又は補給を行うことが可能となる。
【0041】
ドライヤ13は、リザーバタンク12からの液相の冷媒に含まれる水分や異物を吸着する。ドライヤ13は、例えばキャニスタ(容器部)に多孔質材を収容することにより構成されてもよい。この場合、多孔質材は、モレキュラーシーブ、活性アルミナ又はこれらの混合物等でもよい。
【0042】
制御弁14は、ドライヤ13から流入する冷媒の通流を制御する。制御弁14は、詳しくはドライヤ13から流入する主に液相の冷媒の通流を制御する。制御弁14は、冷却システムSの運転時において、減圧装置20の吸引動作の開始とともに、その開度を絞られて冷媒の通流を制限することで、冷媒流路11における制御弁14の下流側の部分の内部を所望の減圧状態に制御する。また、制御弁14は、制御弁14から下流側に流出する冷媒の流量を調節することで、例えば温度制御部16を通流する冷媒の温度又は冷却能力を調節できる。
【0043】
また、上述したように冷媒流路11における制御弁14よりも上流側の部分の内部の圧力は、冷媒流路11における制御弁14よりも下流側の部分の内部の圧力よりも大きい。そのため、制御弁14を通過する冷媒は、冷媒流路11における制御弁14よりも下流側の部分に流入する際に減圧され、降温する。言い換えると、制御弁14を通過する冷媒は、冷媒流路11における制御弁14よりも下流側の部分に流入する際に膨張され、降温する。したがって、制御弁14は、液相の冷媒を膨張させる、冷凍回路における膨張弁のような機能も有している。
【0044】
制御弁14から流出する冷媒は、膨張によって一部が気化され得る。したがって、制御弁14から流出する冷媒は、気液混相の状態で下流側に流れる場合がある。ただし、制御弁14から流出する冷媒は、液相のまま下流に流れる場合もある。いずれの場合でも、冷媒は、減圧(膨張)されるため、その温度は低下する。制御弁14の形式は特に限られないが、本実施の形態では電動の比例制御弁である。制御弁14はコントローラ30に電気的に接続される。制御弁14は、コントローラ30により制御される。
【0045】
二層流分離器15は、制御弁14からの冷媒を流入させる入口15Aと、入口15Aよりも下方に設けられ、入口15Aから流入した冷媒を流出させる出口15Bとを含む。冷媒流路11における制御弁14の下流側の部分では、基本的に、下流側の領域に位置する冷媒の温度が、上流側の領域に位置する冷媒よりも温度が低くなる。そして、制御弁14から流出した直後の冷媒の温度は、通常、その下流側の領域に既に存在する冷媒の温度よりも高い。また、制御弁14から流出した直後の冷媒は、急激に下流側に引き込まれるように流動する。そこで、二層流分離器15は、制御弁14から流出する冷媒のうちの温度の高い相が、急激に下流側へ流出することを抑制するために設けられている。
【0046】
すなわち、二層流分離器15では、出口15Bよりも上方に入口15Aが設けられることで、冷媒のうちの温度の高い相が出口15Bに向かって直進的に流動し難くなる。また、冷媒のうちの温度の高い相は、これよりも温度の低い相よりも相対的に上方に流動しようとするため、出口15Bに向かって直進的に流動し難くなる。二層流分離器15は、以上のように二層流分離器15に流入した冷媒のうちの温度の高い相が、出口15Bに向かって直進的に流動する状況を抑制することで、温度の高い相が急激に下流側へ流出することを抑制する。
【0047】
詳しくは、二層流分離器15は、入口15Aと制御弁14とを接続する配管部材の流路断面積よりも大きい流路断面積を形成するように内部空間を規定する容器本体15Cを有する。容器本体15Cの側壁の上部(側壁の上下方向中央よりも上側の部分)に入口15Aが設けられ、容器本体15Cの底壁に出口15Bが設けられる。そして、本実施の形態では、入口15Aと出口15Bとが水平方向に重ならない。そして、入口15Aと出口15Bとが上下方向で比較的大きく離れる。このような構成である場合、制御弁14から流出する冷媒のうちの温度の高い相は、出口15Bに到達し難くなる。ただし、入口15A及び出口15Bの形成位置は特に限られない。なお、入口15Aと出口15Bとが水平方向に重ならない状態とは、水平方向に入口15Aを出口15B側に投影させたときに、両者が全く重ならないことを意味する。ただし、入口15A及び出口15Bの形成位置はこの態様に限られるものではない。
【0048】
図1においては、二層流分離器15の内部が色分けされるように記載されている。これは、濃い色で表現された冷媒の部分(図中、上側の部分)が、これよりも薄い色で表現された冷媒の部分(図中、下側の部分)よりも温度が低いことを示している。
【0049】
温度制御部16は、二層流分離器15から流出した冷媒を通流させ、この冷媒により図示しない温度制御対象を冷却する。温度制御部16は、例えば蛇行形状や、渦巻形状や、湾曲形状に形成されてもよい。温度制御部16の構成は特に限られず、温度制御部16は、例えばフィンチューブ式の熱交換器等により構成されてもよいし、プレート状の伝熱体を含んでもよい。
【0050】
気液分離器17は、温度制御部16を通過した冷媒を流入させて、冷媒を気相の部分と液相の部分とに分離する。気液分離器17は、詳しくは、温度制御部16を通過した冷媒のうちの気相の部分が液相の部分よりも下流側に流動するように、気相の部分と液相の部分とを分離する。温度制御部16が冷媒を温度制御対象と熱交換させた場合、冷媒の一部は蒸発して気化し得る。そのため、温度制御部16から気液分離器17に向かう冷媒には、気相の部分と液相の部分とが含まれ得る。気液分離器17は、温度制御部16を通過した冷媒のうちの気相の冷媒と、液相の冷媒とを気液分離し、気相の冷媒を上側に流動させるように機能する。
【0051】
気液分離器17は、温度制御部16からの冷媒を流入させる入口17Aと、入口17Aよりも上方に設けられ、入口17Aから流入した冷媒を流出させるための出口17Bと、を含む。詳しくは、気液分離器17は、入口17Aと温度制御部16とを接続する配管部材の流路断面積よりも大きい流路断面積を形成するように内部空間を規定する容器本体17Cを有する。容器本体17Cの底壁に入口17Aが設けられ、容器本体17Cの頂壁に出口17Bが設けられる。入口17Aと出口17Bとの位置は特に限られないが、入口17Aと出口17Bとが上下方向に大きく離れることが好ましい。この場合、気相は液相よりも上方に流動しようとするため、気液分離器17において下流側に流動した冷媒における上記気相の部分が、出口17Bから下流側に排出され易くなる。また、液相の冷媒が減圧装置20に吸引される状況が抑制される。
【0052】
気液分離器17の内部において濃い色で表現された部分は、液相の部分を示し、その上方は気相の部分を示す。気液分離器17では、常時、上部に気相が形成されるように液相の冷媒を導入させることが好ましい。気液分離器17で液相の冷媒と気相の部分とを並存させる環境は、減圧装置20、制御弁14等の動作を制御することにより、形成できる。気液分離器17は、内部の圧力を減圧された際にその形状を維持できる構造に構成され、いわゆる真空断熱容器で構成されてもよい。減圧時の気液分離器17の形状の維持は、減圧される内部の圧力にもよるが、例えば0.1気圧まで減圧される場合には、気液分離器17の外殻部分は、厚さの大きい硬質の金属等から形成されることが好ましい。ただし、気液分離器17の具体的な構造は、減圧を予定する程度に応じて適宜決定されればよく、特に限定されない。
【0053】
また、本実施の形態では気液分離器17とリザーバタンク12とが、上下方向で同一又は概ね同一の位置に配置される。これにより、本実施の形態では、運転停止の状態において、気液分離器17内の液相の冷媒の液面高さとリザーバタンク12内の液相の冷媒の液面高さが同じになるように冷媒が流動する。このような状態を形成しておくことで、次回の運転をスムーズに開始できる。
【0054】
バタフライバルブ18は、減圧装置20による冷媒流路11内の気体の吸い込み量を制御する弁である。バタフライバルブ18は、例えば電動のモータにより開度を制御する構成でもよい。バタフライバルブ18は、コントローラ30に電気的に接続される。バタフライバルブ18は、コントローラ30により制御される。
【0055】
また本実施の形態では、冷媒流路11における制御弁14と温度制御部16との間の部分と、冷媒流路11における温度制御部16の下流側の部分とが、それぞれを通流する冷媒同士を互いに熱交換可能とする内部熱交換器19を構成する。冷媒流路11における制御弁14と温度制御部16との間の部分は、詳しくは、冷媒流路11における制御弁14の下流側且つ二層流分離器15の下流側であって、温度制御部16の上流側の部分である。冷媒流路11における温度制御部16の下流側の部分は、詳しくは、本実施の形態では冷媒流路11における温度制御部16と気液分離器17との間の部分である。このような内部熱交換器19が構成されることにより、冷媒流路11における制御弁14と温度制御部16との間の部分を通流する冷媒は、冷却され得る。冷媒流路11における温度制御部16と気液分離器17との間の部分を通流する冷媒は、加熱され得る。
【0056】
また、冷媒通流装置10は、第1温度センサ101、第2温度センサ102、第3温度センサ103、第1圧力センサ104、第2圧力センサ105、第1液面センサ106、及び第2液面センサ107を備えている。
【0057】
第1温度センサ101は、温度制御部16を通流する冷媒の温度を検出する。第2温度センサ102は、冷媒流路11における二層流分離器15と温度制御部16との間の部分を通流する冷媒の温度を検出する。第3温度センサ103は、冷媒流路11における温度制御部16と気液分離器17との間の部分(内部熱交換器19よりも上流側の部分)を通流する冷媒の温度を検出する。第1圧力センサ104は、冷媒流路11における二層流分離器15と温度制御部16との間の部分を通流する冷媒の圧力を検出する。第2圧力センサ105は、冷媒流路11における温度制御部16と気液分離器17との間の部分(内部熱交換器19よりも上流側の部分)を通流する冷媒の圧力を検出する。
【0058】
第1液面センサ106は、リザーバタンク12に貯留された液相の冷媒の高さを検出する。第2液面センサ107は、気液分離器17に貯留された液相の冷媒の高さを検出する。第1液面センサ106及び第2液面センサ107は、例えばレーザ変位計等の光学式のセンサで構成されてもよく、この場合、液面の上方から液面に光を照射するとともに、反射光を受光して、液面の高さを演算する。ただし、第1液面センサ106及び第2液面センサ107は、フロート式のセンサで構成されてもよい。
【0059】
各センサ(101~107)は、コントローラ30に電気的に接続され、各センサの検出結果は、コントローラ30に送られる。
【0060】
減圧装置20は、冷媒流路11から気体を吸引する気体吸引ポンプ22を有する。気体吸引ポンプ22は、冷媒流路11の下流端11Dに接続される導入口20Aを通して冷媒流路11から気体を吸引し、冷媒流路11の上流端11Uに接続される流出口20Bを通して、導入口20Aから吸引した気体を冷媒流路11に流入させる。導入口20A及び流出口20Bは、気体吸引ポンプ22に形成されてもよいし、気体吸引ポンプ22に接続される配管部分に形成されてもよい。
【0061】
気体吸引ポンプ22の形式は特に限られないが、潤滑油が吸引経路側に流出しない又はほとんど流出しないドライ真空ポンプであることが好ましい。ドライ真空ポンプは、ダイアフラム型ドライ真空ポンプ、揺動ピストン型ドライ真空ポンプ、回転翼型ドライ真空ポンプ、スクロール型ドライ真空ポンプ等でもよく、以上に例示した方式とは異なるものでもよい。ただし、気体吸引ポンプ22は湿式の真空ポンプでもよい。
【0062】
本実施の形態における気体吸引ポンプ22はドライ真空ポンプである。そして、気体吸引ポンプ22は、例えば交流モータ、ブラシレス直流モータ等、インバータにより制御されるモータを含む。そして、気体吸引ポンプ22は、モータの回転数を調節することにより、気体の吸引量を調節し、冷媒流路11における制御弁14よりも下流側の部分の内部の圧力を調節可能となっている。
【0063】
気体吸引ポンプ22は、コントローラ30に電気的に接続され、コントローラ30によって制御される。本実施の形態では、気体吸引ポンプ22が、インバータ40を介してコントローラ30に電気的に接続される。上記モータの回転数の調節は、詳しくはモータに供給される交流電流の周波数を、コントローラ30がインバータ40により調節することで行われる。
【0064】
コントローラ30は、上述の各センサ(101~107)に電気的に接続されるとともに、制御弁14、バタフライバルブ18、及び気体吸引ポンプ22に電気的に接続されている。コントローラ30は、例えばCPU、ROM等を有するコンピュータで構成されてもよい。この場合、コントローラ30は、ROMに格納されたプログラムに従い、各種処理を行う。なお、コントローラ30は、その他のプロセッサや電気回路(例えばFPGA(Field Programmable Gate Alley)等)で構成されてもよい。
【0065】
(コントローラの機能構成)
図2は、コントローラ30の機能構成を示すブロック図である。
図2に示すように、コントローラ30は、センサ情報取得部31と、回転数調節部32と、弁開度調節部33と、を有する。なお、コントローラ30は、例えば一つのコンピュータで構成されてもよいし、複数のコンピュータで構成されてもよい。複数のコンピュータで構成される場合、上記複数の機能部は、複数のコンピュータに振り分けられてもよい。
【0066】
センサ情報取得部31は、上述した第1温度センサ101、第2温度センサ102、第3温度センサ103、第1圧力センサ104、第2圧力センサ105、第1液面センサ106、及び第2液面センサ107からそれぞれの検出結果を取得する部分である。センサ情報取得部31は、取得した検出結果に関する情報の一つ又は複数を、回転数調節部32及び弁開度調節部33に提供する。
【0067】
回転数調節部32は、気体吸引ポンプ22に電気的に接続され、気体吸引ポンプ22の動作を制御する部分である。詳しくは、回転数調節部32は、気体吸引ポンプ22におけるモータにインバータ40を介して接続する。そして、回転数調節部32は、インバータ40からモータに供給する交流電流の周波数を調節することで、減圧装置20が冷媒流路11から吸引する気体の流量を調節する。
【0068】
回転数調節部32には、例えば図示しない入力装置により、温度制御部16における又は温度制御部16に流入する前の冷媒の目標温度が入力されて保持され、回転数調節部32は、例えば第1温度センサ101又は第2温度センサ102が検出する温度が目標温度に一致するように気体吸引ポンプ22のモータの回転数を調節する。すなわち、気体吸引ポンプ22は、第1温度センサ101又は第2温度センサ102からの検出結果である冷媒の温度と、目標温度との差分に応じて制御されてもよい。
【0069】
なお、以上に説明した制御例では、冷媒の温度が目標温度に一致するように減圧装置20の気体吸引ポンプ22が制御されるが、これに代えて、冷媒流路11における冷媒の圧力が目標値に一致するように、モータの回転数が調節されてもよい。
【0070】
弁開度調節部33は、制御弁14及びバタフライバルブ18に電気的に接続され、制御弁14及びバタフライバルブ18の動作を制御する部分である。弁開度調節部33は、制御弁14の開度を調節することで、冷媒流路11を通流する冷媒の流量を調節する。また弁開度調節部33は、バタフライバルブ18の開度を調節することで、減圧装置20が吸引する気体の吸込み量を調節する。
【0071】
弁開度調節部33には、例えば図示しない入力装置により、温度制御部16における又は温度制御部16に流入する前の冷媒の目標温度が入力されて保持され、例えば第1温度センサ101又は第2温度センサ102が検出する温度が目標温度に一致するように制御弁14の開度又はバタフライバルブ18の開度を調節する。このような制御弁14の開度又はバタフライバルブ18の制御は、冷媒の温度が目標温度に一致するように気体吸引ポンプ22が制御され、気体吸引ポンプ22の運転状態を一定に維持した後に行われてもよい。
【0072】
(冷媒の構成)
次に、冷却システムSで循環させる冷媒について説明する。上述したように、本実施の形態では、冷媒として、例えば大気圧下で且つ標準的な環境温度(例えば25℃)で液状となる物質であって、この状態から例えば0.1気圧の環境で膨張された場合に-5℃以下になる物質であり、望ましくは0.01気圧の環境で膨張された場合に-30℃以下になる物質である。また、冷媒は、地球温暖化係数(GWP)が10以下の低環境負荷の冷媒であることが望ましい。大気圧下での沸点が30℃以上の物質である場合、当該物質は、大気圧下で且つ標準的な環境温度(例えば25℃)で液状となる。なお、使用する冷媒の大気圧下での沸点は、50℃以上でもよいし、60℃以上でもよいし、70℃以上でもよい。
【0073】
具体的に本実施の形態では、冷媒として、GWPが2で不燃性の、HFO-1336mzz-Zが好適に用いられ得る。より具体的には、冷媒は、三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社製のOpteonSF33(TM)でもよい。
【0074】
図3は、HFO-1336mzz-Zのp-h線図である。HFO-1336mzz-Zは、大気圧近傍の約0.100MPaで、温度が常温に近い約33℃である状態(St1)から、0.0149MPaまで減圧されることで、約-10℃まで降温する(St2)。また、0.001MPaまで減圧されることで、約-50℃以下まで降温する。そして、約-10℃まで降温した状態St2から、ある程度吸熱すると、蒸発し(St3)、この状態St3から、大気圧近傍の約0.100MPaまで膨張されると、気相のまま常温よりも高い約50℃まで昇温する(St4)。そして、状態St4から常温で冷却されることで、気液混相に凝縮しつつ、約33℃でまで冷却される。
【0075】
このようなHFO-1336mzz-Zは、例えばリザーバタンク12における冷却器12Aで冷却されて上記の状態St1に移行し、その後、制御弁14から流出することで減圧されて、例えば状態St2に移行できる。そして、HFO-1336mzz-Zは、温度制御部16で温度制御対象と熱交換することで、状態St2から状態St3まで移行でき、その後、気液分離器17から減圧装置20の外部に流出することで、状態St3から状態St4に移行できる。したがって、HFO-1336mzz-Zは、冷却システムSで好適に用いられ得る。
【0076】
冷却システムSで使用可能な冷媒は、他にも種々存在し、例えば水、エタノールでもよい。
【0077】
(動作)
以下、冷却システムSの動作の一例について説明する。
【0078】
まず、冷却システムSにおいては、所望の流量の冷媒が、冷媒流路11におけるリザーバタンク12から気液分離器17にかけて貯留される。そして、例えば温度制御部16を通流する冷媒の目標温度が入力され、保持される。そして、減圧装置20が駆動され、冷媒流路11における制御弁14の下流側の部分の内部の圧力が減圧装置20によって大気圧よりも小さい圧力に減圧される。この際、制御弁14は閉鎖されてもよいし、小さい開度に絞られてもよい。そして、減圧装置20は、第1温度センサ101が検出する温度が目標温度に一致するまで、気体吸引ポンプ22のモータの回転数を調節される。
【0079】
第1温度センサ101が検出する温度が目標温度に一致した後は、気体吸引ポンプ22のモータの回転数、制御弁14の開度及びバタフライバルブ18の開度のうちの少なくともいずれかが、目標温度の維持のために制御される。以上により、起動運転が完了する。第1温度センサ101が検出する温度が目標温度に一致するように気体吸引ポンプ22のモータの回転数が調節された後の状態では、冷媒流路11における制御弁14よりも下流側の部分の内部の圧力が減圧装置20によって大気圧よりも小さい圧力に減圧され、冷媒流路11における制御弁14よりも上流側の部分の圧力は、下流側の部分の内部の圧力よりも大きい圧力であって、例えば大気圧になるように設定される。ただし、冷媒流路11における制御弁14よりも上流側の部分の圧力は、厳密に大気圧でなくてもよく、大気圧よりやや低い圧力でもよい。
【0080】
その後は、温度制御部16により温度制御対象を冷却する状態に移行される。冷媒は、温度制御部16で熱交換を行った後、気相の部分を減圧装置20によって吸引されて冷媒流路11の上流端11Uから冷媒流路11内に再度流入し、制御弁14に至るまでに冷却された後、制御弁14を通って温度制御部16に再度流入する。これにより、温度制御対象が、冷媒によって継続的に冷却される。
【0081】
すなわち、
図3を使って冷却システムSにおける運転状態を説明すると、温度制御対象の熱を温度制御部16で吸収した冷媒は、冷媒流路11の下流端11Dから減圧装置20を介して冷媒流路11の上流端11Uに流入し、制御弁14に至るまでに、冷却器12A等により冷却されて
図3の状態St4から状態St1に移行する。その後、冷媒は、制御弁14から流出することにより、冷媒流路11における制御弁14の下流側の部分で減圧されて、状態St2に移行する。そして、冷媒は、温度制御部16で温度制御対象と熱交換することで、状態St2から状態St3まで移行する。その後、冷媒は、減圧装置20から冷媒流路11における制御弁14の上流側の部分に流入することで、状態St3から状態St4に移行する。そして、冷媒は、制御弁14に至るまでに冷却され、状態St4から状態St1に移行する。これにより、温度制御対象が、冷媒によって継続的に冷却される。
【0082】
以上に説明した第1の実施の形態に係る冷却システムSは、冷媒を通流させる冷媒流路11と、冷媒流路11に設けられ冷媒の通流を制御する制御弁14とを含む冷媒通流装置10と、冷媒流路11の下流端11Dに接続して冷媒流路11から気体を吸引する導入口20Aと、冷媒流路11の上流端11Uに接続し、導入口20Aから吸引した気体を冷媒流路11の上流端11Uから冷媒流路11に流入させる流出口20Bとを含む減圧装置20と、を備える。冷媒流路11は、減圧装置20から流入する気体に含まれる冷媒を通流させる。そして、冷媒通流装置10は、冷媒流路11における制御弁14の下流側に、冷媒により温度制御対象を冷却する温度制御部16を備える。
【0083】
このような冷却システムSによれば、従来の冷凍方式では使用されることがなかった物質を熱サイクルの冷媒として使用できるようになる、又は、熱サイクルの冷媒として使用できる物質の範囲を拡大させることができる。
【0084】
すなわち、上述したように本実施の形態では、一例であるが、冷媒として、例えば大気圧下で且つ標準的な環境温度(例えば25℃)で液状となる物質であって、この状態から例えば0.1気圧の環境で膨張された場合に-5℃以下になる物質を用いることができる。これに対して、上記の物質を、これまで普及してきた蒸気圧縮式の冷凍サイクルで使用すると、例えば圧縮機が液を圧縮することになるため、圧縮機が適正に機能せず、蒸発器において物質が蒸発しない。したがって、蒸気圧縮式の冷凍サイクルでは、上記の冷媒は適合しない。これに対して、冷却システムSは、圧縮を利用せず、上記の冷媒を冷媒流路11における制御弁14の下流側の部分内で減圧させることで温度制御対象を冷却することが可能となり、温度制御対象の熱を冷媒流路11における制御弁14の上流側の部分から放出でき、熱サイクルを実現できる。したがって、本実施の形態によれば、従来の冷凍方式では使用されることがなかった物質を熱サイクルの冷媒として使用できるようになる、又は、熱サイクルの冷媒として使用できる物質の範囲を拡大させることができる。
【0085】
そして、冷却システムSは、上述したように、例えばGWPが2で不燃性のHFO-1336mzz-Z等を冷媒として使用できるようにする。これにより、蒸気圧縮式の冷凍サイクルでは、現状実現できていない低GWP且つ安全性を確保した冷却動作を実現できる。このような低GWPで、環境負荷が小さく、且つ安全性を確保した冷却システムSは、他の冷却方式を含めて知られていない。よって、このような冷却システムSの実現は、地球環境保護に大きく貢献する可能性を有している。また、冷却システムSでは圧縮機が用いられないため、潤滑油が冷媒側へ流出する状況が抑制され、この点でも有益である。
【0086】
また、冷却システムSは、冷媒流路11における温度制御部16の下流側に、温度制御部16を通過した冷媒のうちの気相の部分が液相の部分よりも下流側に流動するように気相の部分と液相の部分とを分離する気液分離器17を備える。この構成では、冷媒流路11における下流端11Dから液相の冷媒が減圧装置20に吸引される状況が抑制される。これにより、減圧装置20を安定した状態で運転させることができ、冷却システムSの運転の安定性を向上できる。
【0087】
また、冷媒通流装置10は、冷媒流路11における制御弁14の上流側に、減圧装置20から冷媒流路11に流入した気体から液相となった冷媒を貯留するリザーバタンク12を備える。そして、制御弁14は、リザーバタンク12から流入する液相の冷媒の通流を制御する。この構成では、減圧装置20から冷媒流路11に流入した冷媒において比較的温度が高くなる気相の冷媒が冷媒流路11における制御弁14の下流側に流れることが抑制される。これにより、温度制御部16において望ましい冷却を行うことができる。
【0088】
また、冷媒通流装置10は、冷媒流路11における制御弁14と温度制御部16との間に、二層流分離器15を備え、二層流分離器15は、制御弁14からの冷媒を流入させる入口15Aと、入口15Aよりも下方に設けられ、入口15Aから流入した冷媒を流出させる出口15Bとを含む。この構成では、二層流分離器15に流入した冷媒のうちの温度の高い相が急激に下流側へ流出することが抑制される。これにより、温度制御部16において望ましい冷却を行うことができる。
【0089】
また、本実施の形態では冷媒流路11における制御弁14と温度制御部16との間の部分と、冷媒流路11における温度制御部16の下流側の部分とが、それぞれを通流する冷媒同士を互いに熱交換可能とする内部熱交換器19を構成する。この構成では、冷媒流路11における制御弁14と温度制御部16との間の部分を通流する冷媒は、冷却され得る。冷媒流路11における温度制御部16と気液分離器17との間の部分を通流する冷媒は、加熱され得る。これにより、温度制御部16に流入する冷媒はより降温され、気液分離器17に流入する冷媒は気化し易くなる。そのため、冷却システムSを望ましい状態で運転させることができる。
【0090】
<適用例>
以下、上述の実施の形態に係る冷却システムSの適用例について
図4乃至
図7を参照しつつ説明する。以下に説明する適用例における冷却システムSは、特に説明しない限り上述の実施の形態と同様の構成要素を備える。
【0091】
(適用例1)
図4は、冷却システムSを備えるプラズマエッチング装置200の概略図である。プラズマエッチング装置200は、静電チャック201を備える。静電チャック201は、板状のベースプレート202を備え、ベースプレート202の表面にウェハWを吸着して保持する。そして、ベースプレート202の内部を冷却システムSの温度制御部16が通過するように、ベースプレート202と温度制御部16とが接続されている。温度制御部16はベースプレート202から熱を吸収することで、ベースプレート202及びウェハWを冷却できる。この例では、冷却システムSの第1温度センサ101がベースプレート202の温度を検出するように構成されている。また、ベースプレート202にはヒータ203も内蔵されている。プラズマエッチング装置200では、ウェハWを冷却することが可能であるとともに加熱することが可能となっている。また、
図4における冷却システムSでは、冷媒流路11におけるリザーバタンク12の上流側の部分を冷却するファン120が設けられる。これにより、減圧装置20から冷媒流路11に流入した冷媒の液化が促進される。このようなファン120は、上述の実施の形態及び以下の適用例における冷却システムSにおいても適用され得る。
【0092】
(適用例2)
図5は、冷却システムSを備える調理機器210の概略図である。調理機器210は、いわゆるコールドプレートであり、冷却システムSの温度制御部16により冷却される調理プレート211を備える。温度制御部16は、調理プレート211の内部を通過する状態で調理プレート211に接続されている。また、この例では、冷却システムSの第1温度センサ101が調理プレート211の温度を検出するように構成されている。
【0093】
(適用例3)
図6は、冷却システムSを備える成形装置220の概略図である。成形装置220は、冷却システムSの温度制御部16により冷却される金型221を備える。温度制御部16は、金型221の内部を通過する状態で金型221に接続されている。また、この例では、冷却システムSの第1温度センサ101が金型221の温度を検出するように構成されている。
【0094】
(適用例4)
図7は、冷却システムSを備える冷凍冷蔵倉庫230の概略図である。冷凍冷蔵倉庫230は、倉庫本体231と、倉庫本体231に接続されたダクト232とを備える。ダクト232は、両端部を倉庫本体231に接続し、一方の端部で倉庫本体231から気体を引き込み、引き込んだ気体を他方の端部から倉庫本体231に流入させる。ダクト232には、ファン233が配置されるとともに、冷却システムSの温度制御部16が配置される。ファン233が回転することにより、倉庫本体231から気体が引き込まれ、この気体が温度制御部16により冷却される。これにより、冷却された気体がダクト232から倉庫本体231内に流入する。なお、
図7に示す例では、温度制御部16の温度を検出する第1温度センサ101が設けられていないが、第1温度センサ101は設けられてもよい。
【0095】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は以上に説明した実施の形態に限られるものではなく、上述の実施の形態にはさらなる種々の変更を加えることができる。また、冷却システムSは、上述で例示した適用例以外にも種々の用途で用いられ得る。
【0096】
以下、変形例に係る冷却システムSvについて
図8を参照しつつ説明する。この冷却システムSvでは、温度制御部16と気液分離器17とが一体化されており、温度制御部16が上述の実施の形態のように制御弁14と二層流分離器15との間に設けられていない。気液分離器17は、その内部における液相の冷媒で温度制御対象を冷却するように構成されている。温度制御対象は、
図8の例では、熱媒体配管部材240において通流する熱媒体である。熱媒体配管部材240は、気液分離器17の内部を通過するように気液分離器17に接続されている。
【0097】
また冷却システムSvは、上述の実施の形態と同様のドライヤ13、制御弁14、二層流分離器15、温度制御部16、気液分離器17、バタフライバルブ18、及び内部熱交換器19を備える。これら各部分は、上述の実施の形態と同様のものである。また、冷却システムSvでは、気液分離器17の内部における液相の冷媒で温度制御対象を冷却するが、気相の冷媒で冷却をしてもよい。また、冷却システムSvは、気液分離器17の外面で冷却を行う構成でもよい。
【符号の説明】
【0098】
S…冷却システム
10…冷媒通流装置
11…冷媒流路
11U…上流端
11D…下流端
12…リザーバタンク
12A…冷却器
14…制御弁
15…二層流分離器
16…温度制御部
17…気液分離器
18…バタフライバルブ
19…内部熱交換器
20…減圧装置
20A…導入口
20B…流出口
30…コントローラ