(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154304
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/496 20060101AFI20241023BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20241023BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241023BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241023BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20241023BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241023BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241023BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
A61K31/496
A61P3/10
A61K47/26
A61K47/38
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/32
A61K9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068073
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】三鴨 睦
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC21
4C076DD38
4C076DD67
4C076DD69
4C076EE06
4C076EE08
4C076EE13
4C076EE16
4C076EE23
4C076EE30
4C076EE32
4C076EE38
4C076FF33
4C076FF36
4C076FF63
4C086AA01
4C086AA10
4C086BC82
4C086GA07
4C086GA10
4C086GA12
4C086GA13
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA03
4C086NA11
4C086ZC35
(57)【要約】
【課題】テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態が維持された医薬組成物を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る医薬組成物は、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と、非晶質維持成分とを含んでいる。非晶質維持成分は、D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、イソマル水和物、デキストリン、コポビドン、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、マクロゴール、エチルセルロースおよびアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーからなる群より選択される1種類以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と、
D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、イソマル水和物、デキストリン、コポビドン、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、マクロゴール、エチルセルロースおよびアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーからなる群より選択される1種類以上の非晶質維持成分と、
を含んでいる、医薬組成物。
【請求項2】
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と、
D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロースおよびポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーからなる群より選択される1種類以上の非晶質維持成分と、
を含んでいる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩を含有する医薬組成物の製造方法であって、下記(i)と下記(ii)とを接触させる工程を含む、製造方法:
(i)非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩;
(ii)D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、イソマル水和物、デキストリン、コポビドン、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、マクロゴール、エチルセルロースおよびアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーからなる群より選択される1種類以上の非晶質維持成分。
【請求項4】
下記(i)と下記(ii)とを接触させる工程を含む、請求項3に記載の製造方法:
(i)非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩;
(ii)D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロースおよびポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーからなる群より選択される1種類以上の非晶質維持成分。
【請求項5】
テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持する方法であって、下記(i)と下記(ii)とを接触させる工程を含む、方法:
(i)非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩;
(ii)D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、イソマル水和物、デキストリン、コポビドン、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、マクロゴール、エチルセルロースおよびアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーからなる群より選択される1種類以上の非晶質維持成分。
【請求項6】
下記(i)と下記(ii)とを接触させる工程を含む、請求項5に記載の方法:
(i)非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩;
(ii)D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロースおよびポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーからなる群より選択される1種類以上の非晶質維持成分。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
テネリグリプチンは、化学名を{(2S,4S)-4-[4-(3-メチル-1-フェニル-1H-ピラゾール-5-イル)ピペラジン-1-イル]ピロリジン-2-イル}(1,3-チアゾリジン-3-イル)メタノンという化合物であり、2型糖尿病の治療薬として利用されている。日本国では、テネリグリプチンの臭化水素酸塩水和物を有効成分とする医薬品が上市されている。
【0003】
上述の医薬品において、テネリグリプチン臭化水素酸塩は結晶の形態を取っている。これとは別に、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩を有効成分とする医薬品の研究開発も進められている。このような医薬品においては、テネリグリプチン臭化水素酸塩を結晶化させず、非晶質を維持する技術が重要となる。これは、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩に特有の特性を維持したり、医薬品としての品質を確実に担保する必要があったりするためである。例えば、特許文献1、2は、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持する成分を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-070260号公報
【特許文献2】特開2022-184669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質維持成分は、上記特許文献に開示されている範囲以外にも探求の余地があった。本発明者らは、上記特許文献には記載のない非晶質維持成分を新たに発見した。
【0006】
本発明の一態様は、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態が維持された医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、以下の構成を含む。
<1>
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と、
D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、イソマル水和物、デキストリン、コポビドン、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、マクロゴール、エチルセルロースおよびアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーからなる群より選択される1種類以上の非晶質維持成分と、
を含んでいる、医薬組成物。
<2>
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と、
D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロースおよびポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーからなる群より選択される1種類以上の非晶質維持成分と、
を含んでいる、<1>に記載の医薬組成物。
<3>
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩を含有する医薬組成物の製造方法であって、下記(i)と下記(ii)とを接触させる工程を含む、製造方法:
(i)非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩;
(ii)D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、イソマル水和物、デキストリン、コポビドン、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、マクロゴール、エチルセルロースおよびアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーからなる群より選択される1種類以上の非晶質維持成分。
<4>
下記(i)と下記(ii)とを接触させる工程を含む、<3>に記載の製造方法:
(i)非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩;
(ii)D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロースおよびポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーからなる群より選択される1種類以上の非晶質維持成分。
<5>
テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持する方法であって、下記(i)と下記(ii)とを接触させる工程を含む、方法:
(i)非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩;
(ii)D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、イソマル水和物、デキストリン、コポビドン、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、マクロゴール、エチルセルロースおよびアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーからなる群より選択される1種類以上の非晶質維持成分。
<6>
下記(i)と下記(ii)とを接触させる工程を含む、<5>に記載の方法:
(i)非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩;
(ii)D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロースおよびポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーからなる群より選択される1種類以上の非晶質維持成分。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態が維持された医薬組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態について、以下に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する各構成に限定されない。本発明は、特許請求の範囲に示した範囲で種々に変更できる。本発明の技術的範囲は、本明細書に開示されている複数の技術的手段を適宜組合せて得られる実施形態または実施例にも及ぶ。このとき、複数の技術的手段は、複数の実施形態または実施例にわたって開示されていてもよい。
【0010】
本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0011】
〔1.医薬組成物〕
本発明の一実施形態に係る医薬組成物は、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と、非晶質維持成分とを含んでいる。テネリグリプチン臭化水素酸塩は、水和物であってもよい。
【0012】
非晶質維持成分とは、D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、イソマル水和物、デキストリン、コポビドン、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、マクロゴール、エチルセルロースおよびアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーからなる群より選択される1種類以上である。好ましくは、非晶質維持成分は、D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロースおよびポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーからなる群より選択される1種類以上である。
【0013】
上述の非晶質維持成分は、特許文献1、2には開示されていない。非晶質維持成分を医薬組成物に配合することにより、テネリグリプチン臭化水素塩を非晶質状態に維持できる。とりわけ、好ましい非晶質維持成分を医薬組成物に配合することにより、過酷な貯蔵条件下でもテネリグリプチン臭化水素塩を非晶質状態に維持できる。
【0014】
医薬組成物の剤形は、特に限定されない。剤形の例としては、散剤、顆粒、錠剤が挙げられる。好ましくは、医薬組成物は錠剤である。錠剤の具体例としては、口腔内崩壊錠、素錠、フィルムコーティング錠が挙げられる。
【0015】
[1.1.非晶質維持成分]
非晶質維持成分は、D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、イソマル水和物、デキストリン、コポビドン、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、マクロゴール、エチルセルロースおよびアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーからなる群より選択される1種類以上である。別途記載のない限り、これらの成分は、第十八改正日本薬局方または医薬品添加物規格2018に記載の性質を満たしている。以下、各成分について簡潔に説明する。
【0016】
D-マンニトールとは、化学式C6H14O6で表される化合物で、CAS番号は69-65-8である。
【0017】
トレハロース水和物とは、化学式C12H22O11・2H2Oで表される化合物で、CAS番号は6138-23-4である。
【0018】
プルランとは、化学式(C18H30O15)nで表される化合物で、CAS番号は9057-02-7である。プルランは、Aureobasidium pullulansを培養するとき、菌体外に生産される中性単純多糖である。プルランの構造は、α-1,4結合した3個のグルコースよりなるマルトトリオースが、α-1,6結合により繰返し鎖状に結合したものである。
【0019】
メチルセルロースとは、セルロースのメチルエーテルであり、CAS番号は9004-67-5である。
【0020】
ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーとは、幹重合体がポリエチレングリコールであり、枝重合体がポリビニルアルコールである、グラフト共重合体である。一実施形態において、ポリビニルアルコールとポリエチレングリコールとの含有量比(重量比)は、75:25である。一実施形態において、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、流動化剤として軽質無水ケイ酸を含んでいる。
【0021】
イソマル水和物とは、6-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトールと、1-O-α-D-グルコピラノシル-D-マンニトールとの混合物であり、CAS番号は64519-82-0である。イソマル水和物のことを、イソマルと称することもある。一実施形態において、6-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール:1-O-α-D-グルコピラノシル-D-マンニトールの重量比は、(1~3):1でありうる。
【0022】
デキストリンとは、酵素などによるデンプンの部分分解物である。通常、デキストリンのデキストロース当量(DE)は、10以下である。
【0023】
コポビドンとは、1-ビニル-2-ピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体であり、CAS番号は25086-89-9である。コポビドンのことを、コポリビドンと称することもある。一実施形態において、1-ビニル-2-ピロリドンと酢酸ビニルとの質量比は、3:2である。
【0024】
ポリビニルアルコール(完全けん化物)とは、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られる重合物であり、けん化度は97mol%以上である。ポリビニルアルコール(完全けん化物)とポリビニルアルコール(部分けん化物)とは、けん化度の違いによって明確に区別され、ポリビニルアルコール(部分けん化物)のけん化度は78~96mol%である。ポリビニルアルコール(完全けん化物)は、ポリビニルアルコール(部分けん化物)よりも、テネリグリプチン臭化水素酸塩の類縁物質の生成を抑制できるという利点がある。ちなみに、特許文献2は、ポリビニルアルコールの具体例として、ゴーセノールEG-05PおよびEG-03Pを挙げている(段落0023)。これらの製品のけん化度は、いずれも、86.5~89.0であるから、ポリビニルアルコール(部分けん化物)に該当し、ポリビニルアルコール(完全けん化物)ではない。
【0025】
ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーとは、幹重合体がポリエチレングリコールであり、枝重合体がポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸ブロック重合体であるグラフト重合体であり、CAS番号は402932-23-4である。ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸ブロック重合体は、ポリビニル酢酸鎖の末端を介してポリエチレングリコール鎖と結合している。ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーは、第十八改正日本薬局方および医薬品添加物規格2018には収載されていない。市販されているポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーの例としては、Soluplus(BASF)が挙げられる。
【0026】
マクロゴールとは、エチレンオキシドおよび水の付加重合体であり、化学式HOCH2(CH2OCH2)nCH2OHで表される。nの数は、特に限定されない。マクロゴールのことを、ポリエチレングリコールと称することもある。マクロゴールには、重合度(nの数)により、複数の下位分類が存在する。その例としては、マクロゴール400(n=7~9)、マクロゴール1500(n=5~6およびn=28~36の等量混合物)、マクロゴール4000(n=59~84)、マクロゴール6000(n=165~210)、マクロゴール20000(n=340~570)、マクロゴール200(n=2~4)、マクロゴール300(n=5~6)、マクロゴール600(n=11~13)、マクロゴール1000(n=20~23)、マクロゴール1540(n=28~36)が挙げられる。一実施形態において、マクロゴールは、マクロゴール6000である。
【0027】
エチルセルロースとは、部分的にO-エチル化したセルロースであり、CAS番号は9004-57-3である。
【0028】
アンモニオアルキルメタクリレートコポリマーとは、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチルおよびメタクリル酸塩化トリメチルアンモニオエチルの共重合体である。アンモニオアルキルメタクリレートコポリマーのことを、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRSと称することもある。
【0029】
[1.2.テネリグリプチン臭化水素酸塩]
テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物の結晶には、粉末X線回折測定においてピークが存在する。結晶性のテネリグリプチン臭化水素酸塩水和物の結晶が有しているピークは、例えば、2θ=5.5°±0.2°、13.4°±0.2°および14.4°±0.2°である(日本国特許第4,208,938号を参照)。このようなピークが認められないテネリグリプチン臭化水素酸塩は、非晶質であると言える。
【0030】
[1.3.その他の成分]
医薬組成物は、上述した以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、酸味料、発泡剤、甘味剤、香料、着色剤、緩衝剤、光安定化剤が挙げられる。
【0031】
賦形剤の例としては、結晶セルロース、無水リン酸水素カルシウム、D-ソルビトール、乳糖、白糖、デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、アラビアゴム、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムが挙げられる。
【0032】
崩壊剤の例としては、バレイショデンプン、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン、カルメロース、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドンが挙げられる。
【0033】
界面活性剤の例としては、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が挙げられる。
【0034】
結合剤の例としては、ヒプロメロース、アラビアゴム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0035】
コーティング剤の例としては、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースが挙げられる。
【0036】
酸味料の例としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸が挙げられる。
【0037】
発泡剤の例としては、重曹が挙げられる。
【0038】
甘味剤の例としては、スクラロース、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンが挙げられる。
【0039】
香料の例としては、レモン、レモンライム、オレンジ、メントールが挙げられる。
【0040】
着色剤の例としては、例えば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、酸化チタン、食用黄色4号、食用黄色5号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用青色3号が挙げられる。
【0041】
緩衝剤の例としては、クエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニンまたはその塩、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸、ホウ酸またはその塩が挙げられる。
【0042】
滑沢剤の例としては、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウムが挙げられる。
【0043】
[1.4.医薬組成物の特性]
医薬組成物の水分値は、特に限定されない。医薬組成物の水分値の下限は、通常は0.1質量%以上であり、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上であり、さらに好ましくは0.4質量%以上であり、特に好ましくは0.5質量%以上である。医薬組成物の水分値の下限は、通常は12質量%以下であり、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下である。本明細書において、水分値は、カールフィッシャー法に基づいて測定した値である。
【0044】
医薬組成物が錠剤である場合、その硬度は、目的により適宜調整できる。錠剤の硬度は、例えば、20~300Nが好ましい。
【0045】
医薬組成物は、包装材により包装されていてもよい。包装の例としては、PTP包装、ストリップ包装、ビン充填、アルミ包装が挙げられる。
【0046】
錠剤などの医薬組成物を収容するPTP包装の材料の例としては、樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネートなど)、金属(アルミニウムなど)が挙げられる。これらの材料は、1種類のみを用いてもよいし、複数種類を組合せて用いてもよい。材料の組合せの例としては、ポリ塩化ビニルとポリ塩化ビニリデンとの積層体、ポリ塩化ビニルとポリクロロトリフルオロエチレンとの積層体が挙げられる。公知の方法によりポケットを設けた樹脂シートを成形し、当該ポケットに錠剤を収容した後、アルミニウム箔で蓋をすれば、錠剤をPTP包装できる。
【0047】
PTP包装は、アルミピローによって二次包装されていてもよい。アルミピローには、乾燥剤および/または脱酸素剤がさらに収容されていてもよい。乾燥剤の例としては、塩化カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカゲル、ゼオライトが挙げられる。脱酸素剤の例としては、鉄系の脱酸素剤(鉄粉など)、有機系の脱酸素剤(アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、ヒドロキノン、カテコールなど)が挙げられる。乾燥剤および/または脱酸素剤は、1種類のみを用いてもよいし、複数種類を組合せて用いてもよい。また、乾燥剤および脱酸素剤を組合せて用いてもよい。乾燥剤および脱酸素剤を組合せた製品の例としては、ファーマキープ(登録商標)(三菱ガス化学株式会社)が挙げられる。
【0048】
一実施形態において、医薬組成物は、ガラス製またはプラスチック製のボトルに充填されている。プラスチック製ボトルの材料の例としては、PTP包装用の樹脂として上記に例示したものが挙げられる。一実施形態において、医薬組成物は、アルミ包装により1回分ごとに分包されていてもよい。アルミ包装は、アルミピローによって二次包装されていてもよい。アルミピローには、上述した乾燥剤および/または脱酸素剤がさらに収容されていてもよい。
【0049】
〔2.医薬組成物の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る医薬組成物の製造方法は、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と、非晶質維持成分とを接触させる工程を含む。この製造方法により、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩を含有する医薬組成物が得られる。
【0050】
非晶質維持成分とは、D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、イソマル水和物、デキストリン、コポビドン、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、マクロゴール、エチルセルロースおよびアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーからなる群より選択される1種類以上である。好ましくは、非晶質維持成分は、D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロースおよびポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーからなる群より選択される1種類以上である。これらの成分については、〔1〕節において説明した通りである。
【0051】
上述の非晶質維持成分は、特許文献1、2には開示されていない。非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と、非晶質維持成分とを接触させることにより、医薬組成物に製剤した後においても、テネリグリプチン臭化水素塩を非晶質状態に維持できる。とりわけ、好ましい非晶質維持成分を採用することにより、過酷な貯蔵条件で保存した後であっても、テネリグリプチン臭化水素塩を非晶質状態に維持できる。
【0052】
上述した工程以外については、常法に則って、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩を含有する医薬組成物を製造できる。
【0053】
医薬組成物の製造方法が打錠工程を含む場合、打錠圧力は、医薬組成物の組成または形状により適宜調整できる。打錠圧力は、例えば、3~16kNが好ましい。
【0054】
〔3.テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持する方法〕
本発明の一実施形態に係るテネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持する方法は、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と、非晶質維持成分とを接触させる工程を含む。
【0055】
非晶質維持成分とは、D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、イソマル水和物、デキストリン、コポビドン、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、マクロゴール、エチルセルロースおよびアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーからなる群より選択される1種類以上である。好ましくは、非晶質維持成分は、D-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロースおよびポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーからなる群より選択される1種類以上である。これらの成分については、〔1〕節において説明した通りである。
【0056】
上述の非晶質維持成分は、特許文献1、2には開示されていない。非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と、非晶質維持成分とを接触させることにより、テネリグリプチン臭化水素塩を非晶質状態に維持できる。とりわけ、好ましい非晶質維持成分を採用することにより、過酷な貯蔵条件で保存した後であっても、テネリグリプチン臭化水素塩を非晶質状態に維持できる。
【実施例0057】
〔実施例1~19、比較例1~6〕
下記の手順により、種々の物質がテネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質を維持する機能を有しているか否かを検討した。
1. 非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と非晶質維持成分とを混合した。各成分の配合量は、表1に記載の通りである。
2. 精製水(および任意成分でエタノール(99.5))に混合物を溶解させた。各成分の配合量は、表1に記載の通りである。
3. 溶液を真空乾燥機(AVO-310NS、アズワン株式会社)で乾燥させた。乾燥条件は、温度:40℃、時間:24時間以上とした。このようにして、粉末Aを得た。
4. 粉末AをXRD解析した。測定には、粉末X線回折装置(D8 ADVANCE、Bruker)を用いた。XRDの測定条件は、X線:Cu-Kα線、管電圧:40kV、管電流:40mA、測定範囲:2θ=4.0°~8.0°、スキャンスピード:1sec/step、ステップサイズ:0.01°とした。測定したスペクトルにピークが認められない場合を、非晶質状態と判定した。結果を表1に示す。
【0058】
【0059】
[結果]
実施例で配合したD-マンニトール、トレハロース水和物、プルラン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、イソマル水和物、デキストリン、コポビドン、ポリビニルアルコール(完全けん化物)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、マクロゴール、エチルセルロースおよびアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーには、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質を維持する機能があった。これらの物質は、引用文献1、2には記載されていない。
【0060】
〔実施例20~29〕
下記の手順により、貯蔵後において、種々の化合物がテネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質を維持する機能を有しているか否かを検討した。
1. 実施例1と同様にして、粉末Aを得た。各成分の配合量は、表2に記載の通りである。
2. 粉末Aを密閉容器に入れ、60℃にて貯蔵した。貯蔵開始から3週間目に取り出した粉末を粉末Bとした。
3. 粉末BをXRD解析した。解析条件は、実施例1と同じである。結果を表2に示す。
【0061】
【0062】
[結果]
D-マンニトール、トレハロース、プルラン、メチルセルロースおよびポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトポリマーは、配合量を適宜調節すると、60℃にて3週間貯蔵後においても、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質を維持できた。