(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154305
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】人工脈管網の製造装置、製造キットおよび製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20241023BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20241023BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068074
(22)【出願日】2023-04-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的先端研究開発支援事業」「ヒト胎盤の発生・分化に関する理解と臓器チップモデルの作製」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】堀 武志
(72)【発明者】
【氏名】梶 弘和
(72)【発明者】
【氏名】山本 茜
(72)【発明者】
【氏名】北野 勇
(72)【発明者】
【氏名】石原 甲平
(72)【発明者】
【氏名】水田 太郎
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC02
4B029DA10
4B029GA08
4B029GB09
4B029GB10
4B065AA90X
4B065BC11
4B065BC41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】内部に溶液を灌流可能な管腔構造を有する血管網等の脈管網を容易に作製することができる人工脈管網の製造装置等の実現。
【解決手段】人工脈管網の製造装置(100)は、第1メッシュシート(11)を底面に備え、ゲルを収容している第1支持体(2)と、第2メッシュシート(12)を底面に備え、脈管内皮細胞を培養するための培地を収容するための第2支持体(6)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1メッシュシートを底面に備え、ゲルを収容している第1支持体と、
第2メッシュシートを底面に備え、脈管内皮細胞を培養するための培地を収容するための第2支持体と、を備え、
前記第1メッシュシートおよび前記第2メッシュシートの少なくとも一方のメッシュシートの開口率が、25%以上80%以下であり、
前記ゲルと前記第2メッシュシートとが接触するように、前記第2支持体が前記第1支持体内に挿入されており、
前記ゲルが第1メッシュシートおよび第2メッシュシートによって挟まれている、人工脈管網の製造装置。
【請求項2】
前記脈管内皮細胞が血管内皮細胞である、請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記第2支持体には、前記第1メッシュシートと前記第2メッシュシートとの距離を一定に保つための固定部がさらに設けられている、請求項1に記載の製造装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造装置と、
前記製造装置が離接可能に収容され、前記脈管内皮細胞を培養するための培地を収容する容器と、を備え、
前記容器に収容される培地と前記第1メッシュシートとが接触するように、前記製造装置が前記容器に収容されている、人工脈管網の製造システム。
【請求項5】
第1メッシュシートを底面に備え、ゲルを収容するための第1支持体と、
第2メッシュシートを底面に備え、脈管内皮細胞を培養するための培地を収容するための第2支持体と、を備え、
前記第1メッシュシートおよび前記第2メッシュシートの少なくとも一方のメッシュシートの開口率が、25%以上80%以下であり、
前記第1支持体に挿入されるように前記第2支持体が構成されているものである、人工脈管網の製造キット。
【請求項6】
第1メッシュシートを底面に備える第1支持体にゲル化溶液を供給する、ゲル化溶液供給工程、
第2メッシュシートを前記ゲル化溶液と接触するように配置する、第2メッシュシート配置工程、
前記ゲル化溶液をゲル化することによってゲルを調製する、ゲル調製工程、
脈管内皮細胞を前記第1メッシュシートまたは前記第2メッシュシートに播種する、播種工程、
前記ゲル調製工程後、前記脈管内皮細胞を培養する培養工程、を含み、
前記第1メッシュシートおよび前記第2メッシュシートの少なくとも一方のメッシュシートの開口率が、25%以上80%以下である、人工脈管網の製造方法。
【請求項7】
前記脈管内皮細胞が血管内皮細胞である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第2メッシュシート配置工程では、前記第2メッシュシートを底面に備える第2支持体の底面を前記ゲル化溶液と接触させることにより、前記第2メッシュシートを配置する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ゲル調製工程後、前記第1支持体を容器に収容する、第1支持体収容工程と、
前記第1支持体および前記容器に培地を供給する、培地供給工程と、をさらに含み、
前記第1支持体に供給される培地が、前記容器に供給される培地とは異なる、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工脈管網の製造装置、製造キットおよび製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界一の高齢社会である日本国において、健康寿命を縮める最大のリスクは生活習慣病(糖尿病、高血圧、高脂血症、心筋梗塞、脳卒中等)である。不規則な食事または睡眠、運動不足等から引き起こされる生活習慣病は「血液または血管の状態」と密接に関わっている。例えば、血糖値の高いドロドロした血液になると血管に酸化ストレスが生じる。このストレスにより引き起こされる血管へのダメージが生活習慣病発症のリスク要因となる。
【0003】
このような社会的な背景から血管構成細胞(特に血管内皮細胞)をin vitroで使用した血管研究が活発に行われてきた。
【0004】
例えば、非特許文献1には、血管内皮細胞を培養皿内で培養した血管モデルが開示されている。非特許文献2には、コラーゲンゲルまたはマトリゲル(細胞外基質)の中で血管内皮細胞を培養し、チューブ状の人工血管網をゲル内で形成させる方法が開示されている。非特許文献3には、マイクロ流体デバイス内で灌流可能な人工血管網を作製する方法が開示されている。
【0005】
また、非特許文献4および5には、インサートカラムを使用した人工血管モデルの作製方法が開示されている。インサートカラムとは、一般的なマルチウェルプレートの上から挿入または搭載するカラムである。当該カラム内で人工血管網を作製することによって、カラム内からカラム外への溶液の灌流ができるようになる。非特許文献4には、カラム内に細胞を積層する技術を使用して作製した灌流可能な血管が開示されている。非特許文献5には、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)を懸濁させたフィブリンゲルを多数の孔の開いた2枚のPDMS膜でサンドイッチし、上下から培地を供給することによりHUVECの管腔化を促していることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】You, L., et al., Astragaloside IV prevents high glucoseinduced cell apoptosis and inflammatory reactions through inhibition of the JNK pathway in human umbilical vein endothelial cells. Mol Med Rep, 2019. 19(3): p. 1603-1612.
【非特許文献2】Pulliero, A., et al., Inhibition of neuroblastoma cell growth by TREX1-mutated human lymphocytes. Oncol Rep, 2012. 27(5): p. 1689-94.
【非特許文献3】Kim, S., et al., Engineering of functional, perfusable 3D microvascular networks on a chip. Lab Chip, 2013. 13(8): p. 1489-500.
【非特許文献4】Hikimoto, D., et al., High-Throughput Blood- and Lymph-Capillaries with Open-Ended Pores Which Allow the Transport of Drugs and Cells. Adv Healthc Mater, 2016. 5(15): p. 1969-78.
【非特許文献5】Bang, S., et al., 3D Microphysiological System‐Inspired Scalable Vascularized Tissue Constructs for Regenerative Medicine. Advanced Functional Materials, 2021. 32(1): p. 2105475.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1の血管モデルは、血管内皮細胞に対する物質の影響を簡易的に調べることができるが、チューブ状の形態をしておらず、実際の血管機能を十分に保持していないと考えられる。
【0008】
非特許文献2の方法によるチューブ状の人工血管網の形成は簡便であるが、血管チューブがゲル内部に埋もれており、チューブ内部に物質を通すことができない。したがって、血管に対する物質の影響を適切に評価することができないものと考えられる。
【0009】
一般的に血管研究で使用されるマイクロ流体デバイスの流路の高さ(z軸方向)は100~200μm程度であるため、非特許文献3の方法により作製されるチューブ状の血管はz軸方向への伸長が制限されている。したがって、生体を模倣した血管網を作製することはできない。さらに、マイクロ流体デバイスを使用した非特許文献3の方法では、例えば96穴ウェルプレート等のマルチウェルプレートを使用したサンプル処理等の多検体処理に不向きである。
【0010】
非特許文献4の方法では、例えば、内皮細胞層1つ、線維芽細胞層4つ、内皮細胞層1つ、線維芽細胞層4つ、内皮細胞層1つ、を積層していき、増殖した内皮細胞が血管様チューブを形成する。このように細胞層を数ステップに分けて積層する必要があるため、やや手間がかかる。非特許文献4の方法は、灌流可能な血管を作れるという利点はあるが、最終産物の厚み(上面から下面までの距離)が約50μmと極めて薄い。そのため、xy軸方向への血管伸長は観察できるものの、z軸方向(垂直方向)への顕著な伸長は起きないため、被験物質(薬剤または他の種類の細胞、等)の血管チューブに対するz軸方向への影響の解析が難しい。さらに、積層する細胞層に線維芽細胞層が含まれているため、血管内皮細胞のみの解析(例えば、明視野での顕微鏡観察または遺伝子発現解析)が難しい。
【0011】
非特許文献5の方法では、ゲルの上面と下面から供給される培地の種類は同じであり、さらに使用されるPDMS膜の全面積に対する孔の面積は20%以下と低い。この方法では、灌流可能な血管は作製できていない。
【0012】
このように、従来の人工血管網の作製方法では、内部に溶液を灌流可能な管腔構造を有する血管網を容易に作製することができず、人工血管網の作製に関するさらなる研究開発が望まれている。
【0013】
本発明の一態様は、内部に溶液を灌流可能な管腔構造を有する血管網等の脈管網を容易に作製することができる人工脈管網の製造装置等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様に係る人工脈管網の製造装置は、第1メッシュシートを底面に備え、ゲルを収容している第1支持体と、
第2メッシュシートを底面に備え、脈管内皮細胞を培養するための培地を収容するための第2支持体と、を備え、
前記第1メッシュシートおよび前記第2メッシュシートの少なくとも一方のメッシュシートの開口率が、25%以上80%以下であり、
前記ゲルと前記第2メッシュシートとが接触するように、前記第2支持体が前記第1支持体内に挿入されており、
前記ゲルが第1メッシュシートおよび第2メッシュシートによって挟まれている、人工脈管網の製造装置である。
【0015】
また、本発明の一態様に係る人工脈管網の製造キットは、第1メッシュシートを底面に備え、ゲルを収容するための第1支持体と、
第2メッシュシートを底面に備え、脈管内皮細胞を培養するための培地を収容するための第2支持体と、を備え、
前記第1メッシュシートおよび前記第2メッシュシートの少なくとも一方のメッシュシートの開口率が、25%以上80%以下であり、
前記第1支持体に挿入されるように前記第2支持体が構成されているものである、人工脈管網の製造キットである。
【0016】
また、本発明の一態様に係る人工脈管網の製造方法は、第1メッシュシートを底面に備える第1支持体にゲル化溶液を供給する、ゲル化溶液供給工程、
第2メッシュシートを前記ゲル化溶液と接触するように配置する、第2メッシュシート配置工程、
前記ゲル化溶液をゲル化することによってゲルを調製する、ゲル調製工程、
脈管内皮細胞を前記第1メッシュシートまたは前記第2メッシュシートに播種する、播種工程、
前記ゲル調製工程後、前記脈管内皮細胞を培養する培養工程、を含み、
前記第1メッシュシートおよび前記第2メッシュシートの少なくとも一方のメッシュシートの開口率が、25%以上80%以下である、人工脈管網の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、内部に溶液を灌流可能な管腔構造を有する血管網等の脈管網を容易に作製することができる人工脈管網の製造装置等を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】製造装置1の第1支持体2および第2支持体6の概略構成を示す図である。
【
図2】製造装置1の第1支持体2および第2支持体6の概略構成を示す図である。
【
図3】第2支持体6を第1支持体2内に挿入後の概略構成を示す図である。
【
図4】第2支持体6を第1支持体2内に挿入後の概略構成を示す図である。
【
図12】製造装置100の第2支持体106の平面図である。
【
図13】製造装置100の第1支持体102の平面図である。
【
図14】第2支持体106を第1支持体102に挿入する前の製造装置100の斜視図である。
【
図15】第2支持体106を第1支持体102に挿入する前の製造装置100の正面断面図である。
【
図16】ゲルが収容された製造装置100の概略構成を示す図である。
【
図19】
図18から90度回転させた製造装置100の写真である。
【
図20】製造システム1000の概略構成を示す図である。
【
図21】人工脈管網の製造方法の一例を示す図である。
【
図22】実施例で使用したメッシュシートの部分拡大図である。
【
図24】実施例2で作製した人工脈管網の位相差顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において「A~B」とは、特に指定しない限りA以上B以下であることを示している。
【0020】
〔人工脈管網の製造装置〕
[実施形態1]
以下、本発明の実施形態1に係る人工脈管網の製造装置(以下、「製造装置1」と示す場合がある)について、
図1~11に基づき、詳細に説明する。製造装置1は、脈管内皮細胞から人工脈管網を製造するための装置である。製造装置1によって製造された人工脈管網は、内部に溶液を灌流可能な管腔構造を有する脈管網である。
【0021】
本明細書において、「人工脈管網」とは、脈管内皮細胞を培養することによって得られる、人工的に作製した三次元脈管網(脈管のネットワーク)を示す。脈管の例として、血管およびリンパ管等が挙げられる。
【0022】
図1~2は、製造装置1の第1支持体2および第2支持体6の概略構成を示す図である。
図3~4は、第2支持体6を第1支持体2内に挿入後の概略構成を示す図である。
図5および6は、製造装置1の断面図であり、
図7は
図6の部分拡大図である。
図8~11は、製造装置1の写真を示す。
【0023】
図1に示すように、製造装置1は、第1支持体2と、第2支持体6と、を備える、二重カラム式デバイスである。第1支持体2は、ゲルを収容するための部材である。第2支持体6は、第1支持体2内に挿入され、脈管内皮細胞を培養するための培地を収容するための部材である。
【0024】
(ゲル)
ゲルは、脈管内皮細胞の足場となる。ゲルの例として、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、プロテオグリカン、フィブリン、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲン等の細胞外マトリックスを含むゲル等が挙げられる。ゲルは、上記細胞外マトリックスを含む溶液であるゲル化溶液をゲル化させることによって調製することができる。
【0025】
上記細胞外マトリックスとしてフィブリノーゲンを使用する場合、フィブリノーゲンを含む溶液とトロンビンとを混合することによって、当該溶液のゲル化が促進され、ゲルを調製することができる。
【0026】
ゲルの濃度を調整することによって、人工脈管網の各脈管の太さを約5~200μm程度に調整することができる。
【0027】
(第1支持体2)
第1支持体2は、第1支持体本体3と、容器当接部4と、溝5と、第1メッシュシート11と、を備える。
【0028】
第1支持体2を構成する材料の例として、例えば、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。第1支持体2は例えば、射出成形等の成形によって作製することができる。
【0029】
第1支持体本体3はカラムの形状を有している。第1支持体本体3の大きさは、目的の人工脈管網の大きさに応じて適宜選択すればよい。例えば、第1支持体本体3の内径は2~20mmであってもよい。
【0030】
第1支持体本体3の上部に設けられ、円環状である容器当接部4を後述する容器の上端面と当接させることによって、製造装置1を容器内に保持することができる。そして、第1支持体の第1メッシュシート11と容器内の培地とが接触することによって、培地の栄養成分を製造装置1に播種された脈管内皮細胞に供給することができる。
【0031】
容器当接部4の大きさおよび形状は、容器の大きさに応じて適宜選択することができる。
【0032】
第1支持体本体3に設けられている溝5に、後述する第2支持体6の固定部(突起)8を挿入することによって、第2支持体6を所望の位置で第1支持体2内に固定させることができる。
【0033】
(第1メッシュシート11)
第1メッシュシート11は、第1支持体本体3の底面に備えられている。第1メッシュシート11としては、脈管内皮細胞を播種できることができ、さらに脈管内皮細胞が増殖することができる構造であれば、特に限定されない。第1メッシュシート11は、所定の形状の開口部が規則的または非規則的に繰り返し並んだ平面状の構造体が好ましい。第1メッシュシート11は、平面視において、多角形の開口部を多数有することがより好ましい。第1メッシュシート11の開口部の形状は、典型的には三角形、四角形、六角形等の多角形であるが、円、楕円またはその他の多角形であってもよい。なお、第1メッシュシート11の開口部の形状とは、メッシュシートを構成するフレームに囲まれた領域の形状であるともいえる。
【0034】
本明細書において、メッシュシートの開口部以外の部分をフレームまたはフレーム部と示す。また、メッシュシートの開口部の面積がマイクロ平方メートルサイズであるとき、メッシュシートは、マイクロメッシュ等と称する場合もある。
【0035】
第1メッシュシート11の材料は、脈管内皮細胞が付着し増殖できる材料であればよく、例えば、光硬化性樹脂、生体適合性材料、生体分解性材料等を使用することができる。
【0036】
光硬化性樹脂を第1メッシュシート11の材料として使用する場合、フォトリソグラフィ法によってメッシュシートを作製することができる。当該光硬化性樹脂としては、例えば、アクリレート化合物、メタクリレート化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、チオール化合物、シリコーン系化合物等が挙げられる。これらの樹脂を2種以上組み合わせて使用してもよい。当該光硬化性樹脂の具体例としては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、エトキシ化ビスフェノールAアクリレート、脂肪族ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル変性脂環式エポキシド、2官能アルコールエーテル型エポキシド、アクリルシリコーン、アクリルジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0037】
光硬化性樹脂を第1メッシュシート11の材料としてフォトリソグラフィ法によってメッシュシートを作製する場合、露光した部分が除去されるポジ型のレジストを用いてマイクロメッシュシートを作製することができる。例えば、ポジ型のレジストとして、DNQ(ジアゾナフトキノン)ノボラック系樹脂ポジ型レジスト、t-ブトキシカルボニル、テトラヒドロピラン、フエノキシエチル、トリメチルシリル、t-ブトキシカルボニルメチル等の脱保護反応型、ポリフタルアルデヒド、ポリカーボネート、ポリシリエルーテル等の解重合反応型のレジストが挙げられる。また、フォトリソグラフィ法に使用される現像液の例として、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、MEK(メルエチルケトン)、GBL(γ-ブチロラクトン)、EL(乳酸エチル)等が挙げられる。
【0038】
第1メッシュシート11の材料として使用し得る生体適合性材料としては、シリコーン、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)、ポリウレタン、シリコーン-ポリウレタン共重合体、セラミックス、コラーゲン、ヒドロキシアパタイト、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ゴアテックス(商標)等の超高分子量ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、その他生体由来材料等が挙げられるがこれらに限定されない。また、前記メッシュシートは、生体適合性材料以外の材料で形成し、表面を生体適合性材料で処理したものであってもよい。
【0039】
上記生体分解性材料としては、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、およびそれらの共重合体、PHB-PHV系ポリ(アルカン酸)類、ポリエステル類、デンプン、セルロース、キトサン等の天然高分子またはその誘導体等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0040】
第1メッシュシート11の材料としては、生体への毒性が低い点で、上記の中でも、ポリエステル、とりわけポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。また、蛍光顕微鏡観察の際に自家蛍光を抑えるため、PETは黒色に染色されていることが好ましい。ポリエステル製のメッシュシートの具体例として、天池合繊社(アマイケ社)製の生地AG001N0、AG00Z1N0、AG00Z3N0、水田製作所社製メッシュシート等が挙げられる。また、黒色に染色されたポリエステル製のメッシュシートの具体例として、天池合繊社(アマイケ社)製の生地AG001N1、AG00Z1N9、AG00Z3N9等が挙げられる。
【0041】
また、第1メッシュシート11は、予め細胞接着促進材料でコーティングされていてもよい。細胞接着促進材料でコーティングすることによって、脈管内皮細胞を培養支持体に定着させて伸展または増殖をし易くできる。細胞接着促進材料の例として、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン等の細胞外マトリックスタンパク質、ポリLリジン等の陽性電荷物質等が挙げられる。細胞接着促進材料として、具体的には、マトリゲル(登録商標)が挙げられる。
【0042】
第1メッシュシート11の開口部の形状は、一方向に伸長した形状であってもよい。「一方向に伸長した形状」とは、当該形状を規定する複数の軸線のうち、他の軸(短軸)よりも長い軸(長軸)が1つ存在する形状をいう。このような形状として、例えば、長方形、菱形、楕円等が挙げられる。開口部の形状が長方形である場合、長辺が長軸に対応し、短辺が短軸に対応する。また、開口部の形状が菱形である場合、2つの対角線のうちの長い方の対角線が長軸に対応し、短い方の対角線が短軸に対応する。「一方向に伸長した形状」は、例えば、長軸(長辺)が短辺(短軸)よりも遥かに長い長方形、長軸が短軸よりも遥かに長い菱形または楕円が挙げられる。長方形である場合、一方向が伸長した形状は、短辺:長辺が1:2~1:5、好ましくは1:2~1:10の形状である。また、菱形である場合、一方向が伸長した形状は、短軸:長軸が1:2~1:5、好ましくは1:2~1:10の形状である。また、楕円である場合、一方向が伸長した形状は、短軸:長軸が1:2~1:5、好ましくは1:2~1:10である形状である。勿論、本発明は、これらの構成に限定されない。なお、「一方向に伸長した形状」は、長方形、菱形、楕円に限定されず、当該形状を規定する複数の軸線のうち、他の軸よりも遥かに長い軸が1つ存在する形状であればよい。
【0043】
上記の構成のように第1メッシュシート11の開口部が一方向に伸長した形状である場合、開口部は、一方向へ長く伸びた大きな壁面を有することになる。当該壁面に接着して増殖する細胞の数は多く、かつ、同様の配向性を有して増殖するので、上記の構成によれば、たとえば増殖する線維芽細胞または心筋細胞の配向性を開口部の伸長方向へ制御することができる。
【0044】
第1メッシュシート11の開口部は、培養する脈管内皮細胞の少なくとも1個が通過できる大きさであってもよい。開口部が培養する脈管内皮細胞の少なくとも1個が通過できる大きさであるとは、開口部の大きさと、脈管内皮細胞の大きさとが、脈管内皮細胞が変形してまたは変形しないで、開口部を通過できる関係であることを意味する。開口部は、脈管内皮細胞が開口部に接触しないで通過できる大きさであってもよいし、脈管内皮細胞が接触しながら(換言すれば、脈管内皮細胞が変形しながら)通過できる大きさであってもよい。
【0045】
第1メッシュシート11の開口部が略四角形である場合、培地中の栄養成分が脈管内皮細胞に十分供給される点で、略四角形の一辺が25μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、75μm以上であることがさらに好ましい。また、ゲルを保持する点で、当該略四角形の一辺が225μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、175μm以下であることがさらに好ましい。
【0046】
第1メッシュシート11の開口部の面積は、培地中の栄養成分が脈管内皮細胞に十分供給される点で、1000μm2以上が好ましく、5000μm2以上がより好ましく、10000μm2以上がさらに好ましい。また、ゲルを保持する点で、当該開口部の面積は、70000μm2以下が好ましく、60000μm2以下がより好ましく、50000μm2以下がさらに好ましい。
【0047】
本明細書において、第1メッシュシート11の開口率(空隙率)とは、メッシュシートの面積に対する、開口(孔)の総面積の割合を示す。第1メッシュシート11の開口率は、25%以上80%以下である。培地中の栄養成分が脈管内皮細胞に十分供給される点で、当該開口率は、30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。また、ゲルを保持する点で、当該開口率は、75%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、65%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
(第2支持体6)
第2支持体6は、第2支持体6の底面に備えられる第2メッシュシートが、第1支持体2に収容されるゲルと接触するように、第1支持体2内に挿入される部材である。第2支持体6は、第2支持体本体7と、突起8、8’、8’’と、第2メッシュシート12と、を備える。
【0049】
第2支持体6が第1支持体2内に挿入されることによって、第2支持体6に収容される培地と第1支持体2内のゲルとが第2メッシュシート12を介して接触し、培地の栄養成分を製造装置1に播種された脈管内皮細胞に供給することができる。
【0050】
製造装置1によって、第1支持体2に収容されるゲルは、第1メッシュシート11および第2メッシュシート12によって挟まれる。当該構成によって、第1メッシュシート11に接触させる培地および第2メッシュシート12に接触させる培地それぞれから栄養が脈管内皮細胞に供給される。
【0051】
第2支持体6を構成する材料の例は、第1支持体2と同様である。第2支持体6を構成する材料は、第1支持体2を構成する材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0052】
第2支持体本体7はカラムの形状を有している。第2支持体本体7は、第1支持体本体3内に挿入することができれば、大きさは特に限定されない。第2支持体本体7の外面は、第1支持体本体3の内面と接触していてもよいし、当該内面と離間させてもよい。第2支持体本体7の外面と第1支持体本体3の内面とを離間させることによって、第1支持体本体3内の過剰なゲルを、当該離間によって生じた空間に移動させることができる。
【0053】
第2支持体本体7の上面に、サイズが異なる3種類の突起8、8’、8’’が備えられている。
図5~7のように、第1支持体本体3の溝5に、3種類の突起8、8’、8’’のいずれかを挿入させることによって、第2支持体6を所望の位置で第1支持体2内に固定させることができる。突起を第1支持体本体3の溝5に挿入することによって、第2支持体本体7全体が第1支持体本体3内に挿入される。
【0054】
第2メッシュシート12を構成する材料ならびに開口部の形状および大きさ等の例は、第1メッシュシート11と同様である。第2メッシュシート12を構成する材料ならびに開口部の形状および大きさはそれぞれ、第1メッシュシート11と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0055】
培地中の栄養成分を脈管内皮細胞により十分に供給できる点で、第1メッシュシート11および第2メッシュシート12の少なくとも一方のメッシュシートの開口率が25%以上80%以下であることが好ましく、第1メッシュシート11および第2メッシュシート12の両方のメッシュシートの開口率が25%以上80%以下であることが好ましい。
【0056】
図8は、倒立させた、第1支持体2および第2支持体6の写真である。
図9は第1支持体2および第2支持体6の側面の写真である。
図10は、第2支持体6を第1支持体2内に挿入後の、倒立させた製造装置1の写真である。
【0057】
図11は、リング13を装着し、倒立させた製造装置1の写真である。製造装置1は、第1メッシュシート11の周縁部を覆い、第1支持体2に着脱可能に取り付けられる、リング13を備えていてもよい。リング13によって、脈管内皮細胞を含む細胞懸濁液を数百μL以上、第1メッシュシート11に搭載することによって、脈管内皮細胞を容易に播種することができる。リング13を構成する材料の例は、第1支持体2と同様である。リング13を構成する材料は、第1支持体2を構成する材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0058】
(脈管内皮細胞)
脈管内皮細胞を製造装置1に播種し、培養することによって、ゲル内で内部に溶液を灌流可能な管腔構造を有する脈管網を製造することができる。脈管内皮細胞の例として、血管内皮細胞およびリンパ管内皮細胞等が挙げられる。血管内皮細胞の例として、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Entothelial Cells、HUVEC)等が挙げられる。リンパ管内皮細胞の例として、Human dermal lymphatic microvascular endothelial cells (HMVEC-dLyAd, Lonza)等が挙げられる。
【0059】
脈管内皮細胞は、第1メッシュシート11または第2メッシュシート12に直接播種してもよい。また、脈管内皮細胞を含むゲル化溶液を第1支持体2に収容し、当該ゲル化溶液をゲル化させてゲルを調製することによって、脈管内皮細胞を第1メッシュシート11または第2メッシュシート12に播種してもよい。より効率的に脈管内皮細胞を増殖させることができる点で、脈管内皮細胞を第1メッシュシート11に播種することが好ましく、ゲルと接触する表面とは反対側の第1メッシュシートの表面に脈管内皮細胞を播種することがより好ましい。ゲルと接触する表面とは反対側の第1メッシュシートの表面に脈管内皮細胞を播種するときは、より多くの脈管内皮細胞を播種することができる点で、第1支持体2にリング13を装着することが好ましい。
【0060】
脈管内皮細胞以外のその他の細胞を、脈管内皮細胞と共に製造装置1に播種してもよい。その他の細胞の例として、ペリサイト(周皮細胞)等の血管構成細胞;Human dermal lymphatic microvascular endothelial cells (HMVEC-dLyAd, Lonza)等のリンパ管構成細胞;等が挙げられる。
【0061】
本製造装置によって、灌流可能なチューブ状の脈管網を簡単に製造することができる。本製造装置を例えば、96穴プレートのウェルに収容することによって、多検体処理が可能となる。
【0062】
本製造装置においては、脈管がゲルの下から上に(第1支持体のメッシュシート側から第2支持体のメッシュシート側に)、または、上から下に(第2支持体のメッシュシート側から第1支持体のメッシュシート側に)四方八方(xyz軸方向)に成長する。したがって、本製造装置によって、生体内の脈管を模倣した三次元的な配置をした人工脈管網を作製することができる。例えば、本製造装置によって製造された、三次元的な配置をした人工血管網を使用して、血管腫(血管の奇形)および動脈瘤(網膜動脈瘤等)等の血管の形態異常の解析が実施できる可能性がある。また、本製造装置によって製造された血管内に溶液を灌流することができるため、血管内皮細胞に対する適切な物質応答を評価することができる。
【0063】
本発明の一態様に係る製造装置に第1メッシュシート11および第2メッシュシート12が備えられていることによって、脈管内皮細胞が塊状に凝集することを抑制し、効率的に人工脈管を製造することができる。また、第1メッシュシート11および第2メッシュシート12が備えられていることによって、培地中のより多くの栄養を脈管内皮細胞に供給することができ、脈管形成を促進することができる。
【0064】
〔実施形態2〕
以下、本発明の実施形態2に係る人工脈管網の製造装置(以下、「製造装置100」と示す場合がある)について、
図12~19に基づき、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。製造装置100は、キャップの形状を有する第1支持体102と、第2支持体106と、を備える、キャップ式デバイスである。
【0065】
図12は、第2支持体106の平面図である。
図13は、第1支持体102の平面図である。
図14は、第2支持体106を第1支持体102に挿入する前の製造装置100の斜視図である。
図15は、第2支持体106を第1支持体102に挿入する前の製造装置100の正面断面図である。
図16は、ゲルが収容された製造装置100の概略構成を示す図である。
【0066】
図17は、第1支持体102の写真である。
図18は、倒立させた製造装置100の写真である。
図19は、
図18から90度回転させた製造装置100の写真である。
【0067】
第1支持体102は、第1支持体本体103と、メッシュシート11と、を備える。第1支持体本体103は、PDMS等の樹脂によって構成されている。
【0068】
第2支持体106は、第2支持体本体107と、容器当接部108と、メッシュシート12と、を備える。製造装置1の第1支持体2を、製造装置100の第2支持体106として使用してもよい。
【0069】
第2支持体本体107の上部に設けられ、円環状である容器当接部108を後述する容器の上端面と当接させることによって、製造装置100を容器内に保持することができる。そして、第1支持体102に収容されたゲルと容器内の培地とが第1メッシュシート11を介して接触することによって、培地の栄養成分を製造装置100に播種された脈管内皮細胞に供給することができる。
【0070】
図16に示すように、まずは、第1支持体102の第1メッシュシート11上に(
図16の1601)、ゲル化溶液40を収容する(
図16の1602)。次に、第2支持体106の第2メッシュシート12とゲル化溶液40とが接触するように第2支持体106を第1支持体102内に挿入する(
図16の1603)。第2支持体106を第1支持体102内に挿入後、第2支持体106を所望の位置に固定するために、第2支持体本体107の外面と第1支持体本体103の内面とが接触していることが好ましい。第2支持体106を第1支持体102内に挿入後、ゲル化溶液40をゲル化させることによって、ゲル30を調製する(
図16の1604)。
【0071】
〔人工脈管網の製造システム〕
本発明の一態様に係る人工脈管網の製造システム(以下、「本製造システム」と示す場合がある)は、上記人工脈管網の製造装置と、当該製造装置が離接可能に収容されている容器と、を備える。本製造システムの一例を、
図20を参照して説明する。
【0072】
図20の製造システム1000は、製造装置10と、容器(ウェル)20と、を備える。製造装置10は、容器当接部4の形状が異なる以外は本発明の実施形態1の製造装置1と同様の構成である。なお、
図20において、製造装置10の一部の部材は省略している。
【0073】
製造装置10は、容器当接部4をウェル20の上端面に当接させることによって、ウェル20内に収容されている。ウェル20は、マルチウェルプレート200のウェルである。
【0074】
図20において、ウェル20に収容されている培地81と第1メッシュシート11とが接触するように、製造装置1がウェル20に収容されている。第1メッシュシート11が培地81と十分に接触できるように、第1メッシュシート11がウェル20の底面(より好ましくは、ウェルの内壁および底面)と接触せずに、製造装置10をウェル20に収容することが好ましい。
【0075】
ウェル20の底面に対して鉛直方向および水平方向の位置が一定となるように製造装置1がウェル20内に収容されていることが好ましい。
【0076】
脈管内皮細胞を製造装置10の第1メッシュシート11または第2メッシュシート12に播種し、ウェル20および製造装置10内にそれぞれ培地81および培地91を収容することによって、製造装置10のゲル30内で、人工脈管網60を製造することができる。
【0077】
培地81および91は、脈管内皮細胞の培養で使用されている公知の培地を使用することができる。培地81および91は同じであってもよいし、異なっていてもよい。脈管内皮細胞のゲル30内での移動を促進する点で、第1メッシュシート11に脈管内皮細胞を播種する場合は、培地91がより多くの脈管成長因子を含み、培地81がより少ない脈管成長因子を含むことが好ましい。また、第2メッシュシート12に播種する場合は、培地81がより多くの脈管成長因子を含み、培地91がより少ない脈管成長因子を含むことが好ましい。脈管成長因子の例として、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、TGF alpha(腫瘍細胞増殖因子-α)、EGF(上皮成長因子)、Ang-1(アンジオポエチン-1)等が挙げられる。
【0078】
製造システム1000によって製造された人工脈管網60は、内部に溶液を灌流可能な管腔構造を有する脈管網である。したがって、人工脈管網60を使用して、被験物質300を製造装置10内の培地91またはウェル20内の培地91に添加することによって、被験物質300の内皮細胞に対する適切な物質応答を正確に評価することができる。
【0079】
〔人工脈管網の製造キット〕
本発明の一態様に係る人工脈管網の製造キット(以下、「本製造キット」と示す場合がある)は、第1支持体2および第2支持体6、または、第1支持体102および第2支持体106を含む。
【0080】
本製造キットは、第1支持体および第2支持体の他に、第1支持体に第2支持体が挿入された製造装置が離接可能に収容され、脈管内皮細胞を培養するための培地を収容する容器(例えば、マルチウェルプレート)を含んでいてもよい。本製造キットは、また、ゲルを調製するための成分および脈管内皮細胞を含んでいてもよい。
【0081】
また、本製造キットは、人工脈管網を製造するための手順等を記載した指示書を含んでもよい。紙もしくはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、または磁気テープ、コンピューター等の読み取り可能なディスクまたはCD-ROM等のような電子媒体に付されてもよい。指示書に代えて、人工脈管網を製造するための手順等を解説した音声ファイル、または動画ファイルを含んでもよい。磁気テープ、コンピューター等の読み取り可能なディスクまたはCD-ROM等のような電子媒体に付されてもよいし、アクセス可能なクラウドサーバー等に保存され、インターネット回線を介して参照する形式のものでもよい。
【0082】
〔人工脈管網の製造方法〕
本発明の一態様に係る人工脈管網の製造方法(以下、「本製造方法」と示す場合がある)の一例を、
図21を参照して説明する。
図1の第1支持体2と同一であるため、
図21中の第1支持体2の説明は省略する。
【0083】
(第1支持体収容工程)
図21の2101では、第1支持体2の容器当接部4を容器(ウェル)20の上端面と当接させることによって、第1支持体2をウェル20内に収容する。
【0084】
(ゲル化溶液供給工程)
図21の2102では、第1支持体2の第1メッシュシート11上にゲル化溶液40を供給する。表面張力によって、ゲル化溶液40は第1支持体2内に保持される。
【0085】
(第2メッシュシート配置工程およびゲル調製工程)
図21の2103では、ゲル化溶液40と接触するように第2メッシュシート12を配置する(第2メッシュシート配置工程)。そして、ゲル化溶液40のゲル化を促進させることによって、ゲル30を調製する(ゲル調製工程)。例えば、一定温度でインキュベーションすることによって、ゲル化溶液40のゲル化を促進させることができる。ゲル化溶液収容工程および第2メッシュシート配置工程は、2101の操作を行わずに実施してもよい。
【0086】
第2メッシュシート配置工程では、第2メッシュシート12を底面に備える第2支持体6の底面をゲル化溶液40と接触させることにより、第2メッシュシート12を配置する。第2支持体6を使用することによって、第2メッシュシート12を容易に、ゲル化溶液40と接触させることができる。
【0087】
(播種工程)
図21の2104では、第1支持体2をウェル20から離接し、ゲル30を収容する第1支持体2を上下反転させる。回転させた第1支持体2の第1メッシュシート11の周縁部を覆うようにPDMS製リング61を装着する。リング61を装着後、脈管内皮細胞71を含む細胞懸濁液72を第1メッシュシート11上に載せる。
【0088】
(接着工程)
図21の2105では、脈管内皮細胞71を培養(例えば、1~24時間の培養)することによって、脈管内皮細胞71を第1メッシュシート11に接着させる。
【0089】
(第1支持体収容工程および培地供給工程)
図21の2106では、脈管内皮細胞71が第1メッシュシート11に接着後、リング61を外す。次に、第1支持体2を上下反転させ、第1支持体2の容器当接部4をウェル20の上端面に当接させることによって、ウェル20内に第1支持体2を収容する(第1支持体収容工程)。第1支持体2をウェル20内に収容後、第1支持体2およびウェル20内に培地81を供給する(培地供給工程)。第1支持体2およびウェル20内への培地81の供給は、第1支持体2をウェル20内に収容する前に行ってもよい。
【0090】
(培養工程)
図21の2107では、第1支持体2の培地81を誘導培地91に置換する。誘導培地91の例として、脈管成長因子を含む培地等が挙げられる。そして、脈管内皮細胞の培養を行い、メッシュシート11に接着した脈管内皮細胞71はゲル30に入り込み、管腔を有する脈管110を形成する。誘導培地91を使用することによって、上方向(第2メッシュシート12側)への脈管内皮細胞71の移動を促進させることができる。
【0091】
そして、チューブ状の脈管内皮細胞71がゲル30の上面に到達し、灌流可能な脈管110である人工脈管網60が形成される(
図21の2108)。
図21の2108に示すように、メッシュシート11および12の開口部は約100μm×約200μmの略長方形の開口部を有する。
【0092】
図21では、ゲル30の調製後に第1メッシュシート11に脈管内皮細胞71を播種しているが、脈管内皮細胞71の播種のタイミングおよび播種箇所はこれに限らない。例えば、ゲル化溶液40に脈管内皮細胞71を懸濁後、
図21の2102の操作を行うことで脈管内皮細胞71の播種を行ってもよい。または、
図21の2102の操作を行う前に、第1メッシュシート11に脈管内皮細胞71を播種してもよい。また、ゲル30内に脈管内皮細胞71の播種を行ってもよい。これらの場合は、
図21の2104および2105の操作を省略することができる。
【0093】
また、脈管内皮細胞71を第2メッシュシート12上に播種し、脈管網を第2メッシュシート12から第1メッシュシート11に向かって形成するように調製してもよい。脈管内皮細胞を第2メッシュシート12に播種する場合は、ウェル20内の培地を誘導培地とすることが好ましい。
【0094】
培地量がより多いウェル20内の培地と接触することによって、脈管内皮細胞の増殖がより効率化できる点で、また、効率的に死細胞を生細胞集団から離せるという点で、ゲル30と接触する表面とは反対側の第1メッシュシート11の表面に脈管内皮細胞71を播種することがより好ましい。
【0095】
図21の2107の操作で、第1支持体2内の培地を培地81から培地91に置換しているが、2106の操作時に第1支持体2内に培地91を供給してもよい。
【0096】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る人工脈管網の製造装置は、第1メッシュシートを底面に備え、ゲルを収容している第1支持体と、第2メッシュシートを底面に備え、脈管内皮細胞を培養するための培地を収容するための第2支持体と、を備え、前記第1メッシュシートおよび前記第2メッシュシートの少なくとも一方のメッシュシートの開口率が、25%以上80%以下であり、前記ゲルと前記第2メッシュシートとが接触するように、前記第2支持体が前記第1支持体内に挿入されており、前記ゲルが第1メッシュシートおよび第2メッシュシートによって挟まれている。
【0097】
本発明の態様2に係る人工脈管網の製造装置は、本発明の態様1において、前記脈管内皮細胞が血管内皮細胞であってもよい。
【0098】
本発明の態様3に係る人工脈管網の製造装置は、本発明の態様1または2において、前記第2支持体には、前記第1メッシュシートと前記第2メッシュシートとの距離を一定に保つための固定部がさらに設けられていてもよい。
【0099】
本発明の態様4に係る人工脈管網の製造システムは、本発明の態様1~3のいずれかの製造装置と、前記製造装置が離接可能に収容され、前記脈管内皮細胞を培養するための培地を収容する容器と、を備え、前記容器に収容される培地と前記第1メッシュシートとが接触するように、前記製造装置が前記容器に収容されている。
【0100】
本発明の態様5に係る人工脈管網の製造キットは、第1メッシュシートを底面に備え、ゲルを収容するための第1支持体と、第2メッシュシートを底面に備え、脈管内皮細胞を培養するための培地を収容するための第2支持体と、を備え、前記第1メッシュシートおよび前記第2メッシュシートの少なくとも一方のメッシュシートの開口率が、25%以上80%以下であり、前記第1支持体に挿入されるように前記第2支持体が構成されているものである。
【0101】
本発明の態様6に係る人工脈管網の製造方法は、第1メッシュシートを底面に備える第1支持体にゲル化溶液を供給する、ゲル化溶液供給工程、第2メッシュシートを前記ゲル化溶液と接触するように配置する、第2メッシュシート配置工程、前記ゲル化溶液をゲル化することによってゲルを調製する、ゲル調製工程、脈管内皮細胞を前記第1メッシュシートまたは前記第2メッシュシートに播種する、播種工程、前記ゲル調製工程後、前記脈管内皮細胞を培養する培養工程、を含み、前記第1メッシュシートおよび前記第2メッシュシートの少なくとも一方のメッシュシートの開口率が、25%以上80%以下である。
【0102】
本発明の態様7に係る人工脈管網の製造方法は、本発明の態様6において、前記脈管内皮細胞が血管内皮細胞であってもよい。
【0103】
本発明の態様8に係る人工脈管網の製造方法は、本発明の態様6または7において、前記第2メッシュシート配置工程では、前記第2メッシュシートを底面に備える第2支持体の底面を前記ゲル化溶液と接触させることにより、前記第2メッシュシートを配置してもよい。
【0104】
本発明の態様9に係る人工脈管網の製造方法は、本発明の態様6~8のいずれかにおいて、前記ゲル調製工程後、前記第1支持体を容器に収容する、第1支持体収容工程と、前記第1支持体および前記容器に培地を供給する、培地供給工程と、をさらに含み、前記第1支持体に供給される培地が、前記容器に供給される培地とは異なっていてもよい。
【0105】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献のすべてが参考として援用される。
【実施例0106】
〔実施例1〕人工血管網の作製
(実施例1の概要)
本実施例では、HUVECを使用して、灌流可能の人工血管網を作製した。市販のインサートカラムから多孔膜部分を除去し、多孔膜の代わりにマイクロメッシュシートを貼付した。このカラム内にゲルを入れメッシュ上に載せた。続いて、ゲルの上からメッシュシートを載せることにより、ゲルを2枚のメッシュシートでサンドイッチする形を構築した。このカラムの底面にHUVECを播種し培養した。インサートカラム内にはVEGFを含んだ血管誘導培地を加えた。一方で、インサートカラム外(ウェル内)にはHUVEC用の増殖培地(EGM-2)を入れた。6日間以上培養することにより、灌流可能な人工血管網が形成された。
【0107】
(材料および方法)
<メッシュシート付インサートカラムの作製>
市販のインサートカラム(関東化学)から膜を取り除いた。カラム底面にΦ8mmのマイクロメッシュシート(以下、メッシュシート)を貼付した(
図21の2101の操作に相当)。メッシュシートは水田製作所社製であり、その部分拡大写真を
図21に示す。Φ8mmのマイクロメッシュシートは生検トレパン(カイインダストリーズ)を用いて作製した。メッシュシートの貼付は、PDMS溶液(主剤と硬化剤を10:1の割合で混合したもの)を糊として使用することで行った。PDMS溶液は60℃のホットヒーターの上にカラムを置くことで硬化させた。
【0108】
<フィブリンゲルの調製とカラム内への導入>
フィブリノーゲン溶液にトロンビンを混合させるとゲル化反応が始まり、フィブリンゲルが得られる。この反応は37℃で加温することにより促進する。フィブリンゲルの調製方法を以下に記述する。
【0109】
まず、粉末フィブリノーゲン(fibrinogen from bovine plasma (SIGMA))をPBS(-)に溶解し、フィルターろ過し、10mg/mLのフィブリノーゲン溶液を調製した。調製した10mg/mLのフィブリノーゲンとEGM-2(Lonza)を1:2で混合しピペッティングした(例えば、フィブリノーゲン30μL+EGM-2 60μL)。EGM-2はHUVECを培養するための培地である。トロンビン(Sigma)(50U/mL)を最終濃度が1U/mLになるように加えゲル化反応を開始させた。調製したフィブリンゲル30~40μLをカラムのメッシュ上に載せた(
図21の2102の操作に相当)。その上からΦ6mmのメッシュシートを載せ、37℃のインキュベーター内に入れ、15分間以上インキュベーションしゲル化させた(
図21の2103の操作に相当)。
【0110】
<カラムへの細胞の播種>
RFP(Red fluorescent protein)を発現するHUVEC(RFP-HUVEC)(Angio-Proteomie)はEGM-2 Endothelial Cell Growth Medium-2 BulletKit(Lonza)で維持および培養した。まず、5.0×10
6細胞/mLのRFP-HUVEC懸濁液を調製した。次にゲルを導入したカラムを逆さまにし、マトリゲル(0.2mg/mL)を含んだEGM-2を100μL添加した。次にメッシュ/ゲル表面に、調製したRFP-HUVEC懸濁液を100μL載せた(
図21の2104の操作に相当)。表面張力があるため、細胞懸濁液はカラム外(下)へ落ちなかった。37℃のCO
2インキュベーター内でおよそ1~2時間後(
図21の2105の操作に相当)、カラムをウェルに挿入し。ウェル内(カラム外)にはEGM-2培地を1.3mL入れた(
図21の2106の操作に相当)。カラム内にはVEGFを含んだ血管誘導培地(後述)を200μL入れた(
図21の2107の操作に相当)。カラム上の細胞を37℃のCO
2インキュベーター内で6~14日間培養した(
図21の2108の操作に相当)。
【0111】
<灌流試験>
作製した血管が灌流可能かどうかを確認するために、PBS(-)でおよそ1/11希釈した蛍光ビーズ(Fluoresbrite(登録商標)YG Microspheres 6.00μm、ポリサイエンス社、cat.#17156)を200μL、カラム内に添加した。
【0112】
<血管誘導培地について>
本実施例では、血管誘導培地としてVEGFを多く含んだEGM-2培地を使用した。VEGFの供給源としてヒト肺線維芽細胞(human lung fibroblasts、NHLF)(Lonza)を使用した。以下に血管誘導培地の作製方法を記述する。
【0113】
NHLFを10%FBS含有D-MEM(High Glucose)(FUJIFILM Wako)で維持および管理した。NHLFがディッシュ面積の70~100%に達している状態で、EGM-2培地に置換し、3日間培養した時の上清を回収した。上清に混入したNHLFを除去する目的で、上清を1,500rpmで3分間遠心分離し、さらに、その上清を0.22μm孔のフィルターでろ過した。得られた培地を血管誘導培地とした。この血管誘導培地は、NHLFから分泌されたVEGFを含んでいる。VEGFは血管新生を促進する因子である。
【0114】
<メッシュシートの有効性について>
人工血管網を培養する上で、顕微鏡観察がし易いということは重要である。さらに、血管網に対してカラム内またはカラム外から栄養が十分供給される必要がある。そのため、ゲルを挟み込むための部材として、適切なサイズの孔(空隙)があるメッシュシートを選んだ。空隙は血管網の出入口の役割を果たす。空隙が狭い場合は、十分な栄養が細胞に供給されず、一方で広過ぎる場合は、ゲルが基板上に載らずに下に落下してしまう問題がある。
【0115】
多孔膜の利用に関しては問題点がある。例えば、ポリカーボネートの多孔膜は光の透過性が優れておらず、上層にある細胞の形態をデバイスの下部から顕微鏡観察することが難しい。光の透過性が比較的良いPET(ポリエチレンテレフタレート)製の多孔膜を使用した場合も、細胞の輪郭を綺麗に観察することが難しい。さらに、市販されている多孔膜の穴の大きさは一般的に0.4μm~8μmほどであり、膜面積に対する総孔面積の割合(空隙率)は最大で15%ほどである。したがって、細胞への栄養供給が制限される。
【0116】
本実施例では多孔膜の代わりに、開口部の広いメッシュシート(開口部:縦およそ160~170μm、横およそ60~65μm)を使用した。このメッシュシートの空隙率(開口率)は約50%である(
図21)。したがって、細胞への栄養供給に優れ、また、細胞の顕微鏡観察を容易に行うことができる。このメッシュシートはPET製であり、細胞毒性がないため、細胞培養に使用できる。
【0117】
<蛍光顕微鏡観察>
4%パラホルムアルデヒド(PFA)(FUJIFILM Wako)溶液をカラム内とウェル内に加え、室温で40分間放置することにより細胞(血管網)を固定した。その後、PBS(-)溶液で細胞を洗浄した。細胞を共焦点顕微鏡TCS SP8(Leica)を使用して観察した。
【0118】
(結果と考察)
RFP-HUVECをメッシュ上に播種し、およそ2週間培養した。共焦点顕微鏡でカラム内の細胞を解析した結果、RFP-HUVECが血管網構造を形成したことが明らかになった。灌流可能な血管網かどうかを確認するために直径6μmの蛍光ビーズをカラム上部から添加した結果、カラムの底面に張ったメッシュまで蛍光ビーズが到達することを確認することができた。また、蛍光ビーズは毛細血管内を通り、カラム下部まで落下することも確認した(
図22)。
図22中、右側の数字は、下部メッシュシート面からの上方向への距離(μm)を示す。
【0119】
以上の結果から、本発明の一態様に係る人工血管網の製造方法によって、灌流可能な血管網を作製できることが明らかになった。
【0120】
〔実施例2〕二重カラム式デバイスを用いた人工血管網の作製
(実施例2の概要)
本実施例では、二重カラム式デバイスを使用して、人工血管網の作製を行った。この二重カラム式デバイスは、外カラムと内カラムとから成る。まず、外カラム内のメッシュ上にゲルを載せ、その上から、内カラムを挿入した。これによりメッシュ、ゲル、メッシュのサンドイッチ構造を作った。この状態のデバイスに、細胞を播種し易いようにリングをはめ、外カラムの裏側のメッシュ上に細胞を播種した。11日間培養後、作製された血管網を観察した。さらに、血管網に蛍光ビーズを流し、灌流可能な血管網ができていることを確認した。
【0121】
(材料および方法)
<二重カラム式デバイスの作製>
外カラム(製造装置1の第1支持体2に相当)および内カラム(製造装置1の第2支持体6に相当)それぞれ、射出成形により作製した(水田製作所社製)。カラムの材料として、ポリカーボネート樹脂を使用した。外カラムの底面にΦ10mmのメッシュシート(水田製作所)を貼付した。同様に、内カラムの底面にΦ6mmのメッシュシートを貼付した。外カラムおよび内カラムに貼付したメッシュシートの開口率は、実施例1のメッシュシートと同様に約50%であり、PET製であった。
【0122】
また、3Dプリンターで作製した二重カラム式デバイスを
図8~11に示す。の第2支持体6の内径は5.5mm、外径は7.3mmである。第1支持体本体3の内径は8mm、外径は10.8mmであった。第1支持体の内面と第2支持体の外面とは、0.35mm(=(8-7.3)/2)の隙間が生じる。また、第2支持体6が第1支持体2内に挿入されたときに、第1支持体2のメッシュシート11と第2支持体6のメッシュシートとの距離が、0.5mm、1mmまたは1.5mmになるように、第2支持体本体7の上面に3種類の突起が設けられている。
【0123】
本実施例2では、射出成形により作製した二重カラム式デバイスを使用して、人工血管網の作製を行った。
【0124】
底面メッシュシートの貼付は、PDMS溶液(主剤と硬化剤を10:1の割合で混合したもの)を糊として使用することで行った。PDMS溶液は60℃のホットヒーターの上にカラムを置くことで硬化させた。メッシュ付きカラムは70%エタノールに浸し、乾かした後、UV処理を20分間行うことでデバイスの殺菌を行った。
【0125】
<フィブリンゲルの調整とカラム内への導入>
粉末フィブリノーゲン(fibrinogen from bovine plasma (SIGMA))をPBS(-)に溶解後、フィルターろ過し、10mg/mLのフィブリノーゲン溶液を調製した。調製した10mg/mLのフィブリノーゲン溶液とEBM-2(Lonza)を1:2で混合しピペッティングした。トロンビン(Sigma、50U/mL)を最終濃度が1U/mLになるように加えゲル化反応を開始させた。
【0126】
調製したフィブリンゲル80μLを外カラム内のメッシュ上に載せた。その上から内カラムを挿入した(メッシュ間距離約0.5mm)。フィブリンゲルが投入された二重カラム式デバイスを37℃のインキュベーター内に入れ、20分間以上インキュベーションしてフィブリンをゲル化させた。
【0127】
<カラムへの細胞の播種>
カラム内のフィブリンがゲル化した後、カラムを逆さまにし、PDMSで作製したリングを装着した。そこに、0.2mg/mLのMatrigelを含んだEGM-2培地を150μL入れた。EGM-2培地が投入された二重カラム式デバイスを、37℃、5%CO2のインキュベーター内に入れた。
【0128】
インキュベーターから二重カラム式デバイスを取り出し、150μLのRFP-HUVEC懸濁液(3×106細胞/mL)を加えた。37℃のCO2インキュベーター内で1.5時間静置した後、二重カラム式デバイスをウェルに挿入した。ウェル内(カラム外)には1mLのEGM-2培地を入れた。カラム内にはVEGFを含んだ血管誘導培地を300μL入れた。カラム上の細胞を37℃のCO2インキュベーター内で11日間培養した。
【0129】
<蛍光顕微鏡観察>
4%パラホルムアルデヒド(PFA)(FUJIFILM Wako)溶液をカラム内とウェル内に加え、室温で40分間放置することにより細胞(血管網)を固定した。その後、PBS(-)溶液で細胞を洗浄した。細胞を位相差顕微鏡CKX 53(オリンパス)と共焦点顕微鏡TCS SP8(Leica)を用いて観察した。
【0130】
<灌流試験>
作製した血管が灌流可能か否かを確認するために、PBS(-)でおよそ1/11希釈した蛍光ビーズ(Fluoresbrite(登録商標)YG Microspheres、6.00μm、ポリサイエンス社、cat.#17156)をカラム内に添加した。
【0131】
図23に、RFP-HUVECの培養11日目の状態を示す。本二重カラム式デバイスを使用して、3次元的な血管網を作製することができた。
【0132】
実施例1と同様に、灌流可能な血管網か否かを確認するために直径6μmの蛍光ビーズをカラム上部から添加した。その結果、カラムの底面に張ったメッシュまで蛍光ビーズが到達することを確認することができた(
図24)。以上の結果から、二重カラム式デバイスである本細胞培養デバイスを使用した細胞培養法により、灌流可能な血管網を作製できることが明らかになった。
【0133】
〔実施例のまとめ〕
本発明の一態様に係る人工脈管網の製造装置によって、従来の血管内皮細胞と線維芽細胞とを使用した人工血管網の製造方法よりも単純に、すなわち血管内皮細胞のみで人工血管網が作製することができた。また、作製した人工血管網の長さは、従来報告されている人工血管網の長さよりも数倍以上長かった。このような長く、灌流可能である人工血管網を容易に作製することができるデバイスは、血管治療薬の開発または血管健康の維持に役立つサプリメントの開発において有用である。また、当該デバイスによって、網羅的な化学物質の解析を実施することができる。