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特開2024-154325バッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154325
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】バッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20241023BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
H01M10/48 A
H01M10/48 P
H01M10/42 P
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068124
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隼
(72)【発明者】
【氏名】尾上 由希子
(72)【発明者】
【氏名】大道 馨
(72)【発明者】
【氏名】冨永 由騎
(72)【発明者】
【氏名】竹中 一馬
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 美菜子
(72)【発明者】
【氏名】野口 直記
(72)【発明者】
【氏名】塚野 聖仁
(72)【発明者】
【氏名】吉武 哲
【テーマコード(参考)】
5H030
【Fターム(参考)】
5H030AS08
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF51
(57)【要約】
【課題】識別用の部品を取り付けることなくバッテリの個体および種別を非破壊且つ非含侵にて識別することができるバッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体を提供すること。
【解決手段】複数のバッテリセルを含むバッテリの識別装置であって、前記バッテリ内部を流れる電流によって発生した磁場を測定する磁場測定部と、前記磁場測定部によって測定された磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報の規定値とを比較して判定される両者の一致性に関する情報を読み取る読取部と、を備えるバッテリ識別装置。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバッテリセルを含むバッテリの識別装置であって、
前記バッテリ内部を流れる電流によって発生した磁場を測定する磁場測定部と、
前記磁場測定部によって測定された磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報の規定値とを比較して判定される両者の一致性に関する情報を読み取る読取部と、
を備えるバッテリ識別装置。
【請求項2】
前記バッテリセルの外形は、一つの軸に関して略回転対称性を有する、
請求項1に記載のバッテリ識別装置。
【請求項3】
前記バッテリセルの内部構造は、前記軸に関する回転対称性が、前記内部構造の外側の回転対称性よりも低い、または、前記軸に関して回転対称性を有しないものである、
請求項2に記載のバッテリ識別装置。
【請求項4】
前記バッテリの内部において、前記複数のバッテリセルは、互いの相対的な位置関係が固定されて配置されている、
請求項1に記載のバッテリ識別装置。
【請求項5】
前記バッテリは、複数のバッテリセルを含むバッテリモジュールが、個体識別情報を記憶したバッテリパックに収容されたものであり、
前記読取部は、前記個体識別情報を前記バッテリの種別として、前記磁場情報の規定値を前記個体識別情報に紐づけて記憶する、
請求項1に記載のバッテリ識別装置。
【請求項6】
前記バッテリパックから前記個体識別情報を取得する取得部をさらに備え、
前記読取部は、前記個体識別情報に紐づけられている前記規定値を取得して前記磁場情報と比較することにより、前記バッテリの個体を識別する、
請求項5に記載のバッテリ識別装置。
【請求項7】
前記バッテリまたは前記バッテリセルに電力を出力する、または、前記バッテリまたは前記バッテリセルから電力を入力する制御部をさらに備える、
請求項1に記載のバッテリ識別装置。
【請求項8】
前記バッテリは、複数のバッテリセルを含むバッテリモジュールが複数個バッテリパックに収容されたものであり、
前記磁場測定部は、複数の前記バッテリモジュールの磁場特性が観測される範囲について前記磁場特性の測定を行う、
請求項1に記載のバッテリ識別装置。
【請求項9】
前記磁場測定部は、複数の磁気素子を配置した磁気素子アレイ基板を使用して前記磁場を測定する、
請求項1に記載のバッテリ識別装置。
【請求項10】
複数のバッテリセルを含むバッテリの識別方法であって、
バッテリ識別装置が、
前記バッテリ内部を流れる電流によって発生した磁場を測定し、
測定された磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報の規定値とを比較して判定される両者の一致性に関する情報を読み取る、
バッテリ識別方法。
【請求項11】
複数のバッテリセルを含むバッテリの識別装置に、
前記バッテリ内部を流れる電流によって発生した磁場を測定させ、
測定された磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報の規定値とを比較して判定される両者の一致性に関する情報を読み取らせる、
ためのプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のプログラムを記憶した記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バッテリの充電時における直流内部抵抗と、放電時における直流内部抵抗とに基づいてバッテリの種別を識別する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。このような方法では、予め定められた抵抗値を有する抵抗をバッテリに取り付けておき、識別時にその抵抗値を測定することによりバッテリの種別を判定している。また、ICチップをバッテリに取り付けておき、ICチップが出力する識別用の信号に基づいてバッテリの種別を判定する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/133068号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、バッテリに抵抗やICチップなどの部品を取り付ける必要があるためコストがかかる。また、これらの部品を模造されてしまうと、意図しないバッテリに取り付けられて、バッテリの種別を正しく識別することができなくなってしまう。ここでいうバッテリの種別とは、正当なバッテリか否かの種別と、意図されたバッテリか否かの種別を含むものであり、従来技術では、バッテリの正当性または個体性を正しく識別できない可能性があった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、識別用の部品を取り付けることなくバッテリの種別を識別することができるバッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るバッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体は、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係るバッテリ識別装置は、複数のバッテリセルを含むバッテリの識別装置であって、前記バッテリ内部を流れる電流によって発生した磁場を測定する磁場測定部と、前記磁場測定部によって測定された磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報の規定値とを比較して判定される両者の一致性に関する情報を読み取る読取部と、を備えるものである。
【0007】
(2):上記(1)の態様において、前記バッテリセルの外形は、一つの軸に関して略回転対称性を有するものである。
【0008】
(3):上記(2)の態様において、前記バッテリセルの内部構造は、前記軸に関する回転対称性が、前記内部構造の外側の回転対称性よりも低い、または、前記軸に関して回転対称性を有しないものである。
【0009】
(4):上記(1)の態様において、前記バッテリの内部において、前記複数のバッテリセルは、互いの相対的な位置関係が固定されて配置されているものである。
【0010】
(5):上記(1)の態様において、前記バッテリは、複数のバッテリセルを含むバッテリモジュールが、個体識別情報を記憶したバッテリパックに収容されたものであり、前記読取部は、前記個体識別情報を前記バッテリの種別として、前記磁場情報の規定値を前記個体識別情報に紐づけて記憶するものである。
【0011】
(6):上記(5)の態様において、前記バッテリパックから前記個体識別情報を取得する取得部をさらに備え、前記読取部は、前記個体識別情報に紐づけられている前記規定値を取得して前記磁場情報と比較することにより、前記バッテリの個体を識別するものである。
【0012】
(7):上記(1)の態様において、前記バッテリまたは前記バッテリセルに電力を出力する、または、前記バッテリまたは前記バッテリセルから電力を入力する制御部をさらに備えるものである。
【0013】
(8):上記(1)の態様において、前記バッテリは、複数のバッテリセルを含むバッテリモジュールが複数個バッテリパックに収容されたものであり、前記磁場測定部は、複数の前記バッテリモジュールの磁場特性が観測される範囲について前記磁場特性の測定を行うものである。
【0014】
(9):上記(1)の態様において、前記磁場測定部は、複数の磁気素子を配置した磁気素子アレイ基板を使用して前記磁場を測定するものである。
【0015】
(10):この発明の一態様に係るバッテリ識別方法は、複数のバッテリセルを含むバッテリの識別方法であって、バッテリ識別装置が、前記バッテリ内部を流れる電流によって発生した磁場を測定し、測定された磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報の規定値とを比較して判定される両者の一致性に関する情報を読み取るものである。
【0016】
(11):この発明の一態様に係るプログラムは、複数のバッテリセルを含むバッテリの識別装置に、前記バッテリ内部を流れる電流によって発生した磁場を測定させ、測定された磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報の規定値とを比較して判定される両者の一致性に関する情報を読み取らせる、ためのプログラムである。
【0017】
(12):この発明の一態様に係る記憶媒体は、(11)に記載のプログラムを記憶した記憶媒体である。
【発明の効果】
【0018】
(1)~(12)によれば、識別用の部品を取り付けることなくバッテリの個体および種別を非破壊、且つ非含侵にて判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】バッテリセルの構成の概略を示す図である。
図2】バッテリユニットの構成の概略を示す図である。
図3】バッテリ識別装置の構成例を模式的に示した図である。
図4】対応情報の内容の一例を示す図である。
図5】バッテリ識別装置が対象バッテリユニットのバッテリ種別を識別するために行う測定の構成を模式的に示した図である。
図6】第1側面の走査によって測定される磁場分布の概略を説明する図である。
図7】第2側面について撮像されたバッテリユニットのCT画像の一例を示す図である。
図8】第1側面の走査によって測定される磁場特性をもとにバッテリユニットのバッテリ種別を識別するバッテリ識別方法のイメージ図である。
図9】変形例のバッテリユニットの構成例を示す図である。
図10】変形例のバッテリ識別装置とBEXとを備えるバッテリシェアリングシステムの構成例を示す図である。
図11】バッテリシェアリングシステムが返却されたMPPの正当性を検証する処理の流れの一例を示すシーケンスチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明のバッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体の実施形態について説明する。
【0021】
下記の実施形態では、複数のバッテリセルを含んで構成されるバッテリユニットについてバッテリユニットの種別を識別する方法について説明する。本実施形態では、バッテリユニットを構成する個々のバッテリセルとして、電極が捲回された捲回体を有する円筒状のバッテリセルであって、円形の上下面を正極端子または負極端子とするバッテリセルを前提とするものである。本実施形態のバッテリユニットは、本発明における「バッテリ」の一例である。
【0022】
図1は、バッテリセルの構成の概略を示す図である。図1において、左側の図は本実施形態のバッテリセル10の外観を例示するものであり、中央の図はバッテリセル10の内部構造を模式的に示す断面図である。右側の図は、バッテリセル10内部の捲回体の構造を例示する図である。図1に示されるようにバッテリセル10は、円筒状の形状を有し、一方の端面が正極端子S1として構成され、他方の端面が負極端子S2として構成されたものである。バッテリセル10は、外装缶11の内部に、正極12Pと負極12Nをセパレータ13で分離した積層体を捲回した捲回体15と、正極12P上に設けられた正極タブ14Pと、負極12N上に設けられた負極タブ14Nと、捲回体15と正極端子および負極端子とを絶縁する絶縁体16とが収納された構成を有する。正極12Pと、負極12Nとは、セパレータ13によって互いに隔離された状態で電解液(図示せず)に浸され、捲回される。正極タブ14Pは正極12Pと正極端子S1を電気的に接続し、負極タブ14Nは負極12Nと負極端子S2を電気的に接続する。正極タブ14Pは正極12Pの巻き初めに設置され、負極タブ14Nは負極12Nの巻き終わりに配置される。捲回体15は、負極12Nが外側になるように捲回される。
【0023】
図2は、バッテリユニットの構成の概略を示す図である。図2において、左側の図は本実施形態のバッテリユニット20の外観を例示するものであり、中央の図はバッテリユニット20の内部構成を例示するものである。図2に示されるようにバッテリユニット20は、把持部21Aを有する筐体21の内部に、トップケース22、電池部23、サイドケース24、ボトムケース25が収納された構成を有する。複数のバッテリセル10は、後述のバスバーに溶接される、あるいはネジで締結されることによって電気的に接続され、且つ回転しないように固定されて、セルホルダー31Aおよび31Bに収納される。バッテリユニット20の内部では、隣り合う二列のバッテリセル10が、列ごとに極性が互い違いになるように配置されている。
【0024】
また、バッテリユニット20の内部には、バッテリセル10を直列に接続するバスバー32が設置される。図2の例のバスバー32は、横一列分(3本)のバッテリセル10を隣の列のバッテリセル10に直列接続するように(a)~(p)に分かれて構成されたものである。例えば、バスバー32の一端(a)は正極端子と電気的に接続され、他端(p)は負極端子と電気的に接続される。このような構成により、横一列ごとのバッテリセル10が、バスバー32によって(a)~(p)の順に直列接続される。なお、バスバー32において(h)および(i)は直接接続されており、これにより、セルホルダー31Bのバッテリセル10群がセルホルダー31Aのバッテリセル10群に直列接続される。また、筐体21の内部には、側面に放熱用の伝熱シート33が設置されるほか、電池部23の管理機能を有するBMU(Battery Management Unit)34が設置される。また、バッテリユニット20において、複数のバッテリセル10は、バッテリユニット20の底面に横向きにして配置される。換言すれば、複数のバッテリセル10は、その円筒中心軸がバッテリユニット20の底面に平行になるように配置される。
BMU34は、例えば、電池部23の充電や放電を制御する機能、電流の流れる方向や電圧値を制御する機能、バッテリセル10の状態監視を行う機能、バッテリ回路の導通状態と遮断状態とを切り替えるオンオフ制御の機能などを有する。BMU34は、これらの各種管理機能に必要な情報を記憶するための記憶部や、外部機器と通信するための通信部などを備える。
【0025】
図3は、実施形態のバッテリ識別装置400の構成例を模式的に示した図である。バッテリ識別装置400は、バッテリユニット20の種別を識別する装置である。バッテリ識別装置400は、内部バッテリ410と、電流出力部420と、磁場特性測定部430と、情報取得部434と、記憶部440と、制御部450と、判定結果出力部460と、入力部470とを備える。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0026】
内部バッテリ410は、バッテリ識別装置400の動作に必要な電力を供給するバッテリである。バッテリ識別装置400の各機能部は、内部バッテリ410によって供給される電力によって動作可能である。内部バッテリ410は、電池であってもよいし、他の電源から電力を取得するインターフェースであってもよい。
【0027】
電流出力部420は、バッテリユニット20に特定の電流を印加するように制御される電流印加回路である。特定の電流とは、バッテリユニット20のバッテリ種別の識別を目的としてバッテリユニット20に印加する電流(以下「識別用電流」という。)である。電流出力部420は、制御部450が指示する強度の電流をバッテリユニット20に印加する。電流出力部420が出力する電流は、プローブP1を介してバッテリユニット20に印加される。
【0028】
磁場特性測定部430は、磁場検出部P2により検出された信号に基づいて測定対象の磁場特性を測定する回路である。磁場検出部P2は、例えば、内部に磁気素子をもつ磁気プローブや、複数の磁気素子を配置した磁気素子アレイ基板である。磁気素子アレイ基板上の素子の配置は、等間隔でもよいし、等間隔でなくてもよい。各磁気素子は、1軸測定のものであってもよいし、3軸同時測定のものであってもよい。1軸測定の場合は、感磁面がバッテリセルの周方向(図5ではy軸方向)に向くように配置するのが望ましい。これは、バッテリセル10のマクロな電流および集電タブに流れる電流と感磁面を直交させることで、バッテリセル10の向きの配置および集電タブの存在位置を反映した磁場分布を得やすくするためである。各磁気素子は、アナログ素子でもよいし、デジタル素子でもよい。各磁気素子は、例えば、ホール素子や、AMR(Anisotropic magnetoresistance effect)、GMR(Giant magnetoresistance effect)、TMR(Tunnel magnetoresistance effect)などの磁気抵抗素子MI (Magneto-Impedance)などの磁気インピーダンス素子、フラックスゲート、トポロジカル磁性体を用いた異常ホール効果による薄膜磁気素子、 である。測定対象に交流電流が流れている場合はピックアップコイルを磁気素子として用いてもよい。また、磁気検出部P2により検出される範囲は、バッテリ種別を識別するために十分な情報が得られれば、バッテリユニット20の測定面全面でもよいし、その任意の一部でもよい。磁気素子アレイ基板は、バッテリユニット20の測定面の測定範囲の全域をカバーするサイズでもよいし、測定範囲の一部をカバーするサイズのものを走査するのでもよい。なお、磁場特性を測定する位置や測定のタイミングなどは制御部450によって適切に制御されるものとする。磁場特性測定部430は、バッテリユニット20について取得した磁場特性の測定値を制御部450に出力する。
【0029】
情報取得部434は、バッテリユニット20の情報通信端子に接続される。情報取得部434は、バッテリユニット20との通信により、例えばバッテリユニット20の記憶部に保存された情報を取得したり、バッテリユニット20の記憶部に情報を転送したりすることができる。例えば、バッテリユニット20の記憶部には、バッテリユニット20の個体識別情報などが保存される。個体識別情報は例えば製造IDである。個体識別情報は「バッテリ種別」の一例であってよい。
【0030】
記憶部440は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶装置やSSD(Solid State Drive)等の半導体記憶装置を用いて、またはクラウド上などDB(Data Base)として構成される。記憶部440は、バッテリ識別装置400の動作に関する各種情報を格納するための記憶領域を提供するものである。記憶部440には、バッテリユニット20に関する対応情報442が予め記憶されている。対応情報442は、バッテリユニット20の種別(バッテリ種別)に対して、当該バッテリユニット20に識別用電流が印加された場合に観測される磁気特性が少なくとも対応づけられた情報である(図4参照)。例えば、対応情報442は、識別対象となるバッテリ種別ごとに、識別用電流による磁場特性の測定試験を行った結果をもとに生成され得る。対応情報442のほか、記憶部440には、例えば、バッテリユニット20の磁場特性の測定結果や、バッテリ種別の判定結果、バッテリユニット20に印加する電流の設定情報、制御部450を実現する各種プログラムなどが記憶されてよい。
【0031】
制御部450は、対象のバッテリユニット20についてバッテリ種別を識別するために、バッテリ識別装置400の各部を制御する。以下、バッテリ種別を識別する対象のバッテリユニット20を対象バッテリユニット20と称する。制御部450は、例えば、出力制御部451と、判定部454とを備える。出力制御部451は、電流出力部420の出力強度を制御することにより、対象バッテリユニット20に対して識別用電流を印加する機能を有する。例えば、出力制御部451は、電流出力部420の出力強度を連続的に変化させることにより、対象バッテリユニット20に対して正弦波状に変化する交流電流を印加してもよい。また、出力制御部451は、電流出力部420の出力強度を所定のタイミングで変化させることにより、対象バッテリユニット20に対して矩形波状に変化する直流電流を印加してもよい。
【0032】
なお、出力制御部451は、対象バッテリユニット20がバッテリ識別装置400に接続されたことを検知して対象バッテリユニット20に対する識別用電流の印加を開始するように構成されてもよい。また、バッテリ識別装置400が、マウスやキーボード等の入力装置を備えている場合、出力制御部451は、ユーザの入力操作に応じて、対象バッテリユニット20に対する識別用電流の印加を開始するように構成されてもよい。
【0033】
判定部454は、対象バッテリユニット20について測定された磁場特性の値に基づいて、当該対象バッテリユニット20のバッテリ種別を判定する。より具体的には、判定部454は、対応情報442に基づいて、対象バッテリユニット20について測定された磁場特性の値に対応するバッテリ種別を判定する。例えば、図4の例において、測定された磁場特性の値が『aaa~bbb』の範囲内であれば、判定部454は、対象バッテリユニット20のバッテリ種別を『BT001』と判定することができる。判定部454は、バッテリ種別の判定結果を判定結果出力部460に出力する。判定部454はクラウド上に構成されてもよい。記憶部440および判定部454が「読取部」の一例である。記憶部440または判定部454の少なくとも一方がクラウド上にある場合、バッテリ識別装置400がクラウドと通信可能であり、クラウドから規定値または一致性に関する情報の少なくとも一方を取得する(読み取る)機能を有してもよい(読取部を備える)。
【0034】
なお、対応情報442は、磁場特性に代えて/加えて、磁場特性に基づいて得られる特徴量をバッテリ種別に紐づけて保持するように構成されてもよい。この場合、判定部454は、対象バッテリユニット20について取得された磁場特性の測定値に代えて/加えて、当該測定値に基づいて得られる特徴量に基づいて対象バッテリユニット20のバッテリ種別を判定するように構成されてもよい。特徴量は、個々の測定値ごとに得られる値であってもよいし、複数の測定値ごとに得られる統計値であってもよい。
【0035】
判定結果出力部460は、判定部454から出力されたバッテリ種別の判定結果を所定の態様で出力する。例えば、判定結果出力部460は、液晶ディスプレイや有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示装置に判定結果を表示させてもよい。また、例えば、判定結果出力部460は、有線又は無線の通信インターフェースを介して判定結果を他の通信装置に送信してもよい。また、判定結果出力部460は、スピーカ等の音声出力装置に判定結果の内容を示す音声を出力させてもよい。
【0036】
入力部470は、バッテリ識別装置400に対して情報を入力する機能を有する。例えば、入力部470は、マウスやキーボード等の入力装置を介して情報入力の操作を受け付けるように構成されてもよい。また、入力部470は、有線又は無線の通信インターフェースを介した通信により情報を入力する(受信する)ように構成されてもよい。入力部470は、入力した情報を制御部450に出力する。
【0037】
図5は、バッテリ識別装置400が対象バッテリユニット20のバッテリ種別を識別するために行う測定の構成を模式的に示した図である。より具体的には、バッテリ識別装置400は、識別用電流が印加された状態の対象バッテリユニット20について第1側面R1の表面付近の磁場特性を測定するものである。また、バッテリ識別装置400は、この測定結果をもとに、バッテリユニット20の内部におけるバッテリセル10の向き(角度)の分布を認識するものである。磁場特性の測定に係る磁場特性測定部430の制御は制御部450によって行われる。以下、バッテリセル10の向きを説明するために、対象バッテリユニット20の内部構造を第2側面R2側から見たイメージ(図7)を例示する。なお、第1側面R1の表面付近で測定するのは一例であり、第2側面R2の表面付近で測定してもよい。
【0038】
第1側面R1は、バッテリユニット20の側面のうち、内部のバッテリセル10の側面に対向する側面である。換言すれば、第1側面R1は、バッテリユニット20の側面のうち、内部のバッテリセル10の円筒中心軸に対して平行な側面である。一方、第2側面R2は、バッテリユニット20の側面のうち、内部のバッテリセル10の円状端面に対向する側面である。換言すれば、第2側面R2は、バッテリユニット20の側面のうち、内部のバッテリセル10の円筒中心軸に対して垂直な側面である。バッテリユニット20の側面のうち、第1側面R1となる側面の候補は4つあるが、どちらを第1側面R1とするかは測定器の構成や測定環境の条件等に応じて任意に選択されてよい。同様に、バッテリユニット20の側面のうち、第2側面R2となる側面の候補も2つあるが、どちらを第2側面R2とするかは測定器の構成や測定環境の条件等に応じて任意に選択されてよい。
【0039】
ここでは、第1側面R1に垂直な方向をz軸方向とし、第2側面R2に垂直な方向をx軸方向とし、バッテリユニット20の底面に垂直な方向をy軸方向とする。また、測定される磁場Bについて、x軸方向成分をBxと記載し、y軸方向成分をByと記載し、z軸方向成分をBzと記載する。図5に例示されるように、バッテリユニット20の内部構成として、複数のバッテリセル10の端子の向きは一様でない場合がある。例えば、図5は、端子の向きを同じくするバッテリセル10の群を複数形成し、複数の群を端子の向きが互い違いになるように配置した例である。
【0040】
図6は、第1側面R1の走査によって測定される磁場分布(By成分)の概略を説明する図である。図5で説明したとおり、バッテリユニット20は、その内部において、複数のバッテリセル10が端子の向きが異なる状態で配置される。図6は、端子の向きが互い違いに配置された複数のバッテリセル10の近傍で測定される磁場分布を模式的に示したものである。例えば、図6は、バッテリユニット20の電池部23の第1側面R1に対して紙面手前側から磁場を測定したものである。図6からも見て取れるように、バッテリセル10に識別用電流を印加する際、バッテリセル10の内部の電流密度の分布は集電タブ(負極タブ)の部分においてより高くなる。そのため、電流の向きが同じバッテリセル10同士でも、集電タブが第1側面R1側に存在するバッテリセル10についてより強い磁場が観測されることとなる。例えば、図6の例では、バッテリセル10Aについてバッテリセル10Cよりも強い磁場が観測され、バッテリセル10Bについてバッテリセル10Dよりも強い磁場が観測されている。そのため、この場合、バッテリセル10Aおよびバッテリセル10Bにおいて、集電タブが第1側面R1側(紙面手前側)に存在すると推測される。このような磁場の強度の違いもバッテリ種別を識別する特徴量として使用されてもよい。
【0041】
また、図6は、端子の向きが異なるバッテリセル10が直列に接続される場合を表したものであり、複数のバッテリセル10がバスバーによって接続された状態を表している。このような構成の場合、図6に示されるように、測定される磁場分布もバッテリセル10の並びに応じて向きが互い違いになる(換言すれば、符号が逆になる)ことが分かる。つまりバッテリセル10の向きが変わるとバッテリユニット20の内部を流れる電流の向きが変わることになるので、バッテリセル10の向きに応じて磁場を生成する電流の向きが変わるということができる。また、互い違いになる磁場分布の幅はバッテリセル10のサイズ(太さや長さ)を反映したものとなる。このように、バッテリセル10の配置、および、該配置に伴うバスバーの配置や長さなどが、測定される磁場の分布に影響するので、第1側面R1での磁場分布は、バッテリユニット20についてバッテリ種別を識別する上での特徴量として使用することができる。複数のバッテリセル10は、同じ型(設計や構造が同一)のバッテリユニット20を識別可能とする磁場の特徴(バッテリユニット20内部の円筒状のバッテリセル10の集電タブの向きによる特徴)が得られる限りにおいてその端子の向きが図5図6の例とは異なるように配置されてもよい。
【0042】
図7は、第2側面R2側から見たバッテリユニット20の内部構造の一例を示す図である。すなわち、図7は、yz平面に平行な面によるバッテリユニット20の断面を表すものである。図7は、端子の向きが異なるバッテリセル10が層状に配置されたバッテリユニット20を撮像したものである。図7では、負極端子面が紙面手前方向に向いている第1層L1と、正極端子面が紙面手前方向に向いている第2層L2とが交互に配置されている。図7において、円状の各画像は、複数のバッテリセル10の円形端面を表している。また、一部の円形端面内に存在する矩形のオブジェクトは負極12Nに接続する負極タブ14Nである。
【0043】
本実施形態のバッテリセル10は、外形が円筒型(回転対称)であるので、外形からは向きを見分けることができない。一方、バッテリセル10の内部構造は、図7に示されるように、負極タブの存在によって回転対称性を有しない構造となっている。すなわち、内部構造に着目した場合、バッテリセル10は向きを有する。バッテリユニット20を製造工程において、複数のバッテリセル10を配置する際の向きは制御されない。そのため、バッテリユニット20内の複数のバッテリセル10の向きはランダムであり、それゆえに負極タブ14Nの向きもランダムとなり、また、外形の回転対称性により目視による向きの判別も不可能である。このように、バッテリユニット20は、負極タブ14Nの角度が複数のバッテリセル10の間でランダムになることを許容して製造されるものである。一方、第2層L2のバッテリセル10では、正極端子S1が手前に来ているので図7から見て取れないが、負極タブ14Nの角度がランダムであることは、第2層L2のバッテリセル10についても同様である。一方で、バッテリセル10の端面はバスバーに固定されるので、製造後のバッテリユニット20において、バッテリセル10の負極タブ14Nの角度が変化することはないと考えてよい。
【0044】
このように負極タブ14Nの角度のランダム性は、バッテリユニット20の個体識別を可能にする特徴量として使用することができる。図7では、説明を分かりやすくするため、第2側面R2の全体について内部構造を例示したが、個体識別のために必要なランダム性が確保できれば、特徴量は必ずしも第2側面R2全体について取得される必要はない。また、上述のとおり、バッテリセル10に識別用電流を印加する際、バッテリセル10の内部の電流密度の分布は集電タブ(負極タブ)の部分においてより高くなる。そこで、バッテリ識別装置400は、第1側面R1に対する磁場特性の測定結果をもとにバッテリユニット20の個体識別を行うように構成されてもよい。第1側面R1についての磁場測定によれば、測定結果には、1列目(破線A10の範囲)以外のバッテリセル10による影響が含まれる可能性もあるので個体ごとに固有の特徴を得るのに都合がよい。また、この場合、個体識別において、そもそも集電タブの角度そのものを特定する必要もない。すなわち、第1側面R1について磁場特性を測定することにより、あくまで個体に特有の集電タブの向きによって生成される、個体にユニークな(個体ごとに異なる)磁場分布(特性)を観測することができる。ここでは、負極タブの角度について説明したが、バッテリセル10の構造によっては、正極タブの角度が用いられてもよい。
【0045】
例えば、バッテリ識別装置400は、バッテリユニット20の製品出荷時に取得された集電タブ特徴量を個体識別情報に対応づけて予め記憶部440に保存しておくものとする。この場合、バッテリ識別装置400は、記憶部440に記憶している集電タブ特徴量の中から、検査時に取得した集電タブ特徴量に一致する(もしくは一致度が高い)ものを特定することで、それに紐づけられた個体識別情報により検査対象のバッテリユニット20の個体を識別することができる。なお、製品出荷時以外であっても、各測定のタイミングで取得し個体一致が確認された磁場を保存し参照するようにしてもよい。個体識別判定値の幅を更新することで、次のタイミングでの識別の確からしさを向上させることができる。上記で保存されていくデータの中で、時間軸に応じた重みづけを行い判定に用いてもよい。運用で外装に付着している塵や振動による内部状態のわずかな変化なども吸収することができる可能性がある。
【0046】
また、集電タブ特徴量は、バッテリユニット20の改造有無を確認する用途に使用することもできる。例えば、バッテリユニット20の製品出荷時に取得された集電タブ特徴量を当該バッテリユニット20の記憶部に保存しておくものとする。この場合、バッテリ識別装置400は、バッテリユニット20の記憶部に保存されている集電タブ特徴量が、検査時に取得した集電タブ特徴量に一致するか否かによって改造有無を判定する。上述のとおり、集電タブの角度は製造後に変化しないことから、バッテリ識別装置400は、両者が一致する場合には「改造無し」と判定し、両者が一致しない場合には「改造有り」と判定することができる。
【0047】
また、バッテリ識別装置400は、集電タブ特徴量による判定に加え、個体識別情報の一致性による判定を行ってもよい。例えば、バッテリユニット20の個体識別情報をバッテリユニット20の記憶部に保存しておくとともに、当該バッテリユニット20の集電タブ特徴量を個体識別情報に紐づけてバッテリ識別装置400の記憶部440に保存しておくものとする。この場合、バッテリ識別装置400は、バッテリユニット20から個体識別情報を読み出し、その個体識別情報に紐づけられた集電タブ特徴量を記憶部440から取得する。バッテリ識別装置400は、取得した集電タブ特徴量を検査時に取得した集電タブ特徴量と比較して一致した場合に、当該バッテリユニット20の内部部品(バッテリセル10など)が正規品である(部品のすり替えなどが行われていない)と判定してもよい。
【0048】
図8は、第1側面R1の走査によって測定される磁場特性をもとにバッテリユニット20のバッテリ種別を識別するバッテリ識別方法のイメージ図である。図8では、バッテリユニット20Tを識別対象として、バッテリユニット20A、20B、20C、および20Dのうち、バッテリユニット20Dに該当することを識別する場合について説明する。この場合、バッテリ識別装置400は、バッテリユニット20A、20B、20C、および20Dのそれぞれについて、予め(例えば製品出荷時)第1側面R1について測定された磁場特性の対応情報442を記憶しているものとする。
【0049】
この場合、まずバッテリ識別装置400は、バッテリユニット20Tの第1側面R1について磁場特性を測定する(S101)。続いて、バッテリ識別装置400は、ステップS101で測定したバッテリユニット20Tの磁場特性を、バッテリユニット20Aの磁場特性と比較して一致性を判定する(S102)。例えば、磁場特性が図6で例示したような磁場の平面分布として取得される場合、バッテリ識別装置400は、バッテリユニット20Tの磁場特性と、バッテリユニット20Aの磁場特性との間で、同じ位置での差分をとる。両者が同じであれば(ここではバッテリユニット20Tがバッテリユニット20Aであれば)、第1側面R1の全域で差分0となり、両者が異なればいずれかの領域で差分有りとなる。
【0050】
図8のように、平面分布を画像として表した場合、差分無しであれば、画像全体で濃淡の無い一様な画像となり、差分有りであれば、差分の有る部分が濃淡として現れる。図8は、バッテリユニット20Tとバッテリユニット20Aを比較した結果が差分有りであることを表しており、この場合、バッテリ識別装置400は、バッテリユニット20Tはバッテリユニット20Aでないと判定する。同様に、バッテリ識別装置400は、バッテリユニット20Tとバッテリユニット20Bを比較した結果、バッテリユニット20Tはバッテリユニット20Bでないと判定する(S103)。同様に、バッテリ識別装置400は、バッテリユニット20Tとバッテリユニット20Cを比較した結果、バッテリユニット20Tはバッテリユニット20Cでないと判定する(S104)。
【0051】
続いて、バッテリ識別装置400は、バッテリユニット20Tとバッテリユニット20Dを比較する。この場合、差分無しとなるので、バッテリ識別装置400は、バッテリユニット20Tはバッテリユニット20Dであると判定する(S105)。
【0052】
以上説明した実施形態のバッテリ識別装置400によれば、対象バッテリユニット20について第1側面R1について磁場特性を測定した結果を既知の情報と比較することにより、対象バッテリユニット20のバッテリ種別を識別することができる。このような構成により、実施形態のバッテリ識別装置400は、識別用の部品を取り付けることなくバッテリの種別を識別することができる。
【0053】
<第1の変形例>
図9は、第1側面R1の変形例を示す図である。磁場特性測定部430は、第1側面R1の範囲のうち、第1のセルホルダー31Aに保持されるバッテリセル10により生じた磁場と、第2のセルホルダー31Bに保持されるバッテリセル10により生じた磁場との両方が観測される範囲(例えば図中の範囲R3)について測定を行うように構成されてもよい。このような範囲で磁場特性の測定を行うことにより、より多くのバッテリセル10について磁場特性をまとめて測定することができるので効率が良い。また、このようにすれば、対応情報として保持しておく磁場特性も、両者をまとめたものとすることができるので構成を簡素化できるとともに、管理面の負荷が増大することを抑制することができる。
【0054】
<第2の変形例>
実施形態で説明したバッテリユニット20は、主に車両用として用いられることを想定したものであるが、これに限定されない。また、バッテリ識別装置400は、小型電動モビリティーの動力や、家庭での電源として活用できる着脱可能な可搬式バッテリである、いわゆるMPP(モバイルパワーパック:Mobile Power Pack)のバッテリ種別を判定するように構成されてもよい。MPPはバッテリユニット20の一例である。また、バッテリ識別装置400の一部または全部は、使用済みのMPPを回収して充電し、充電済みのMPPを再度貸出し可能にするバッテリ充電装置またはバッテリ返却装置(いわゆる、バッテリエクスチェンジャー:BEX)に備えられてもよい。バッテリ識別装置400は、BEXと一体に構成されてもよいし、別体に構成されてもよい。
【0055】
例えば、図10は、バッテリ識別装置400とBEX500とを備えるバッテリシェアリングシステム1の構成例を示す。バッテリシェアリングシステム1は、登録済みの利用者に対してMPPの貸し出しや回収を行うバッテリシェアリングサービスを提供するものである。バッテリシェアリングシステム1は、MPPの充電機能を有し、回収されたMPPを充電して再度貸し出すことが可能である。例えば、利用者は、BEX500からMPPの貸し出しを受け、貸し出されたMPPを用いて乗用車やバイク等の電動車両を駆動させる。利用者は使用中のMPPの残量が少なくなってきたらBEX500に返却して別の充電済みのMPPの貸し出しを受けることができる。バッテリ識別装置400には、バッテリシェアリングサービスで使用するMPPについて予め測定された磁場特性の情報が対応情報442として格納されている。
【0056】
このようなバッテリシェアリングシステム1において、バッテリ識別装置400とBEX500とは互いに通信可能に接続され、図11の例のように協働することで、BEX500に返却されたMPPの正当性を確認することができる。図11は、バッテリ識別装置400およびBEX500が返却されたMPPの正当性を検証する処理の流れの一例を示すシーケンスチャートである。まず、BEX500にMPPが返却される(S201)。続いて、BEX500が返却されたMPPから個体識別情報を取得する(S202)。BEX500は、取得された個体識別情報が正規のものであるか否かを判定する(S203)。例えば、BEX500は、MPPの管理情報を参照し、取得された個体識別情報が管理情報に登録されている場合に当該個体識別情報が正規のものであると判定し、登録されていない場合には当該個体識別情報が正規のものでないと判定する。BEX500は、個体識別情報が正規のものであると判定した場合、返却されたMPPについて磁場特性を測定し(S204)、測定結果を個体識別情報とともにバッテリ識別装置400に送信する(S205)。一方、BEX500は、個体識別情報が正規のものでないと判定した場合、適宜エラー処理を実行する。
【0057】
続いて、バッテリ識別装置400が、BEX500から受信された個体識別情報および磁場特性の測定結果をもとに、返却されたMPPについてバッテリ種別を判定する。より具体的には、バッテリ識別装置400は、受信された個体識別情報に対応する磁場特性の情報を対応情報442から取得し(S206)、取得した磁場特性の情報を、BEX500から受信された磁場特性の測定結果と比較し(S207)、両者が一致するか否かを判定する(S208)。バッテリ識別装置400は、両者が一致した場合には、返却されたMPPが正当なものであると判定し(S209)、一致しない場合には返却されたMPPが不正なものであると判定し、適宜エラー処理を実行する。上述のとおり、バッテリシェアリングシステム1では、BEX500によってMPPの個体識別情報が取得されるので、この場合、バッテリ識別装置400は、情報取得部434を備えなくてもよい。
【0058】
<その他の変形例>
上記の実施形態において、バッテリユニット20に含まれるバッテリセルとして、円筒型のバッテリセル10を例示したが、実施形態のバッテリ識別方法は、バッテリセル10の回転対称性と、バッテリセル10の内部構造(例えば負極タブ)の位置のランダム性に基づくものである。したがって、実施形態のバッテリ識別方法は、同様の性質(回転対称性、ランダム性)を有するバッテリセルを含むバッテリユニットの識別にも適用可能である。例えば、実施形態のバッテリ識別方法は、正四角柱状のバッテリセル(4回回転対称)を有するバッテリユニットにも適用できるし、正三角柱状のバッテリセル(3回回転対称)を有するバッテリユニットにも適用可能である。また、内部構造の位置のランダム性は、例えば負極タブのように、内部構造が回転対称性を有しないことによって実現されてもよい。また、内部構造の位置のランダム性は、内部構造の外側の構造(実施形態では円筒)の回転対称性よりも、内部構造の回転対称性が低いことによって実現されてもよい。
【0059】
バッテリ識別装置400が、バッテリユニット20に識別用電流を印加する態様は、充電によるものであってもよいし、放電によるものであってもよい。出力制御部451は、バッテリユニット20に対する充電または/およびバッテリユニット20の放電を制御するものであってよい。
【0060】
上記の実施形態において、バッテリ種別の識別は、バッテリユニット20の内部部品が正規品か否かを識別するものであってもよい。また、識別用電流印加時に観測される磁場特性は、バッテリユニット20に異常が発生した場合にも変化し得るので、このような磁場特性の変化を異常の種別と対応づけたものを対応情報442として記憶しておくことにより、バッテリ識別装置400は、バッテリユニット20の異常検出装置として構成されてもよい。
【0061】
また、以上の実施形態で説明したバッテリ識別装置400によれば、識別用の信号を出力可能なICチップなどを搭載していないバッテリ(またはバッテリセル)についても、バッテリ種別を識別することが可能となる。そのため、バッテリにICチップを搭載することが必ずしも必要なくなり、ICチップのインターフェースや耐久性に起因するバッテリの課題を解決することができる。
【0062】
上記の実施形態では、バッテリ識別装置400がバッテリセル10に識別用電流を印加した際に観測される磁場特性に基づいてバッテリ種別を識別する場合について説明した。このような識別用電流の印加による磁場特性の測定によれば、地磁気や周囲雰囲場の磁場のノイズに埋もれない程度の磁場が発生する電流を流すことで、識別の正確性を確保できることができるというメリットがある。一方で、バッテリセル10に印加する電流値をモニターしている場合、観測される磁場の強度を電流値で除算することによって電流値によらない特徴量に変換することができる。バッテリ識別装置400は、このような特徴量をバッテリ種別に紐づけたものを対応情報として記憶するように構成されてもよい。この場合、バッテリ識別装置400は、対象バッテリセル10に任意の電流を印加することで観測される当該特徴量を対応情報と比較することによってバッテリ種別を識別することが可能となる。このように、バッテリ識別装置400がバッテリセル10に対して識別用電流を印加するか、または任意の電流を印加するかは、識別対象の性質や特性、識別の目的や用途等に応じて適宜選択されてよい。
【0063】
電池の構成は、正極および負極の概念において対称であるため、バッテリセル10、バッテリユニット20、バッテリ識別装置400の構成は、正極および負極の概念の対称性において逆の構成をとってもよい。
【0064】
上記実施形態では、プローブP2により第1側面R1を走査することによってバッテリセル10の磁場特性を測定する場合を説明したが、バッテリセル10の磁場特性は、センサアレイによって一括で測定されるものであってもよい。
【0065】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
複数のバッテリセルを含むバッテリの識別装置が、
記憶装置と、
ハードウェアプロセッサと、を備え、
前記ハードウェアプロセッサが前記記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、
前記バッテリ内部を流れる電流によって発生した磁場を測定し、
前記磁場測定部によって測定された磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報の規定値とを比較して判定される両者の一致性に関する情報を読み取る
ように構成されている、バッテリ識別装置。
【0066】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0067】
10…バッテリセル、11…外装缶、12N…負極、12P…正極、13…セパレータ、14N…負極タブ、14P…正極タブ、15…捲回体、16…絶縁体、20…バッテリユニット、21…筐体、21A…把持部、22…トップケース、23…電池部、24…サイドケース、25…ボトムケース、31A…セルホルダー、31B…セルホルダー、32…バスバー、33…伝熱シート、400…バッテリ識別装置、410…内部バッテリ、420…電流出力部、430…磁場特性測定部、434…情報取得部、440…記憶部、442…対応情報、450…制御部、451…出力制御部、454…判定部、460…判定結果出力部、470…入力部、500…BEX(バッテリエクスチェンジャー)、1…バッテリシェアリングシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11