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特開2024-154326バッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154326
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】バッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20241023BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
H01M10/48 Z
H01M10/48 P
H01M10/42 P
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068125
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隼
(72)【発明者】
【氏名】尾上 由希子
(72)【発明者】
【氏名】冨永 由騎
(72)【発明者】
【氏名】大道 馨
(72)【発明者】
【氏名】竹中 一馬
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 美菜子
(72)【発明者】
【氏名】野口 直記
(72)【発明者】
【氏名】塚野 聖仁
(72)【発明者】
【氏名】吉武 哲
【テーマコード(参考)】
5H030
【Fターム(参考)】
5H030AS08
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】識別用の部品を取り付けることなくバッテリの種別を識別することができるバッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体を提供すること。
【解決手段】電極が捲回された捲回体を有する筒状のバッテリの識別装置であって、前記バッテリに電流を印加する電流印加部と、前記電流の印加によって発生した磁場を測定する磁場測定部と、前記磁場測定部によって測定された磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報とを比較することにより判定される前記バッテリの種別を取得する取得部と、を備えるバッテリ識別装置。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極が捲回された捲回体を有する筒状のバッテリの識別装置であって、
前記バッテリに電流を印加する電流印加部と、
前記電流の印加によって発生した磁場を測定する磁場測定部と、

前記磁場測定部によって測定された磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報とを比較することにより判定される前記バッテリの種別を取得する取得部と、
を備えるバッテリ識別装置。
【請求項2】
前記磁場測定部は、前記バッテリの側面に対して相対的に移動しながら前記バッテリの表面付近の磁場を測定するセンサを備える、
請求項1に記載のバッテリ識別装置。
【請求項3】
前記磁場測定部は、前記筒状のバッテリの両端面を通る軸を回転軸として前記バッテリを回転させる回転機構を備え、
前記センサは、前記回転機構により前記バッテリの側面に対して周方向に相対的に移動しながら磁場を測定する、
請求項2に記載のバッテリ識別装置。
【請求項4】
前記回転軸は、前記バッテリの一方の端面の中心と、前記バッテリの他方の端面の中心とを通る、
請求項3に記載のバッテリ識別装置。
【請求項5】
前記センサは、前記回転軸に対して平行に移動しながら磁場を測定する、
請求項3に記載のバッテリ識別装置。
【請求項6】
前記磁場測定部は、
前記筒状のバッテリの姿勢を固定する固定機構と、
前記バッテリの姿勢が前記固定機構によって固定されているときに前記バッテリの中心軸方向に移動しながら前記バッテリの外周に沿って磁場を測定するセンサと、
を備える、
請求項1に記載のバッテリ識別装置。
【請求項7】
前記捲回体は、前記電極に電気的に接続された電極タブを有し、
前記取得部は、前記バッテリの周方向の磁場成分の前記周方向における分布、または、前記周方向の磁場成分の長手方向における分布に基づいて、前記電極タブの位置を認識する、
請求項1に記載のバッテリ識別装置。
【請求項8】
前記捲回体は、前記電極に電気的に接続された電極タブを有し、
前記取得部は、前記バッテリの長手方向の磁場成分の強度、または、前記長手方向に対して垂直な方向の磁場成分の強度に基づいて、前記電極タブの数を認識する、
請求項1に記載のバッテリ識別装置。
【請求項9】
前記捲回体は、前記電極に電気的に接続された電極タブを有し、
前記取得部は、前記バッテリの長手方向に対して垂直な方向の磁場成分について、充電時の測定値の分布と、放電時の測定値の分布とが交差する位置に基づいて、前記電極タブの長さまたは幅を認識する、
請求項1に記載のバッテリ識別装置。
【請求項10】
電極が捲回された捲回体を有する筒状のバッテリの識別方法であって、
バッテリ識別装置が、
前記バッテリに電流を印加し、
前記電流の印加によって発生した磁場を測定し、
前記磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報とを比較することにより判定される前記バッテリの種別を取得する、
バッテリ識別方法。
【請求項11】
電極が捲回された捲回体を有する筒状のバッテリの種別を識別するバッテリ識別装置に、
前記バッテリに電流を印加させ、
前記電流の印加によって発生した磁場を測定させ、
前記磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報とを比較することにより判定される前記バッテリの種別を取得する、
プログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のプログラムを記憶した記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バッテリの充電時における直流内部抵抗と、放電時における直流内部抵抗とに基づいてバッテリの種別を識別する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。このような方法では、予め定められた抵抗値を有する抵抗をバッテリに取り付けておき、識別時にその抵抗値を測定することによりバッテリの種別を判定している。また、ICチップをバッテリに取り付けておき、ICチップが出力する識別用の信号に基づいてバッテリの種別を判定する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/133068号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、バッテリに抵抗やICチップなどの部品を取り付ける必要があるためコストがかかる。また、これらの部品を模造されてしまうと、意図しないバッテリに取り付けられて、バッテリの種別を正しく識別することができなくなってしまう。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、識別用の部品を取り付けることなくバッテリの種別を識別することができるバッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るバッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体は、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係るバッテリ識別装置は、電極が捲回された捲回体を有する筒状のバッテリの識別装置であって、前記バッテリに電流を印加する電流印加部と、前記電流の印加によって発生した磁場を測定する磁場測定部と、前記磁場測定部によって測定された磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報とを比較することにより判定される前記バッテリの種別を取得する取得部と、を備える。
【0007】
(2):上記(1)の態様において、前記磁場測定部は、前記バッテリの側面に対して相対的に移動しながら前記バッテリの表面付近の磁場を測定するセンサを備えるものである。
【0008】
(3):上記(2)の態様において、前記磁場測定部は、前記筒状のバッテリの両端面を通る軸を回転軸として前記バッテリを回転させる回転機構を備え、前記センサは、前記回転機構により前記バッテリの側面に対して周方向に相対的に移動しながら磁場を測定するものである。
【0009】
(4):上記(3)の態様において、前記回転軸は、前記バッテリの一方の端面の中心と、前記バッテリの他方の端面の中心とを通るものである。
【0010】
(5):上記(3)の態様において、前記センサは、前記回転軸に対して平行に移動しながら磁場を測定するものである。
【0011】
(6):上記(1)の態様において、前記磁場測定部は、前記筒状のバッテリの姿勢を固定する固定機構と、前記バッテリの姿勢が前記固定機構によって固定されているときに前記バッテリの中心軸方向に移動しながら前記バッテリの外周に沿って磁場を測定するセンサと、を備えるものである。
【0012】
(7):上記(1)の態様において、前記捲回体は、前記電極に電気的に接続された電極タブを有し、前記判定部は、前記バッテリの周方向の磁場成分の前記周方向における分布、または、前記周方向の磁場成分の長手方向における分布に基づいて、前記電極タブの位置を認識するものである。
【0013】
(8):上記(1)の態様において、前記捲回体は、前記電極に電気的に接続された電極タブを有し、前記判定部は、前記バッテリの長手方向の磁場成分の強度、または、前記長手方向に対して垂直な方向の磁場成分の強度に基づいて、前記電極タブの数を認識するものである。
【0014】
(9):上記(1)の態様において、前記捲回体は、前記電極に電気的に接続された電極タブを有し、前記判定部は、前記バッテリの長手方向に対して垂直な方向の磁場成分について、充電時の測定値の分布と、放電時の測定値の分布とが交差する位置に基づいて、前記電極タブの長さまたは幅を認識するものである。
【0015】
(10):この発明の一態様に係るバッテリ識別方法は、電極が捲回された捲回体を有する筒状のバッテリの識別方法であって、バッテリ識別装置が、前記バッテリに電流を印加し、前記電流の印加によって発生した磁場を測定し、前記磁場の測定結果と、予め前記バッテリの種別に紐づけられた磁場情報とを比較することにより、前記バッテリの種別を判定するものである。
【0016】
(11):この発明の一態様に係るプログラムは、電極が捲回された捲回体を有する筒状のバッテリの種別を識別するバッテリ識別装置に、前記バッテリに電流を印加させ、前記電流の印加によって発生した磁場を測定させ、前記磁場の測定結果と、予め前記バッテリの種別に紐づけられた磁場情報とを比較することにより、前記バッテリの種別を判定させるためのプログラムである。
【0017】
(12):この発明の一態様に係る記憶媒体は、(11)に記載のプログラムを記憶した記憶媒体である。
【発明の効果】
【0018】
(1)~(12)によれば、識別用の部品を取り付けることなく非破壊且つ非含侵にてバッテリの種別を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】バッテリセルの構成の概略を示す図である。
図2】バッテリユニットの構成の概略を示す図である。
図3】バッテリ識別装置の構成例を模式的に示した図である。
図4】対応情報の内容の一例を示す図である。
図5】バッテリ識別装置が対象バッテリセルについて識別用電流に係る磁場特性を測定する構成の一例を示す図である。
図6】バッテリセルにおける正極12Pおよび負極12Nの構成例を示す図である。
図7】負極タブがバッテリセルの識別用電流印加時の磁場特性に与える影響を説明する図である。(その1)
図8】負極タブがバッテリセルの識別用電流印加時の磁場特性に与える影響を説明する図である。(その2)
図9】第1の構成のバッテリセルと第2の構成のバッテリセルとで識別用電流の印加時における磁場特性を比較した図である(長手方向成分)。
図10】第1の構成のバッテリセルと第2の構成のバッテリセルとで識別用電流の印加時における磁場特性を比較した図である(円周方向成分)。
図11】第1の構成のバッテリセルと第2の構成のバッテリセルとで識別用電流の印加時における磁場特性を比較した図である(半径方向成分)。
図12】第1の構成のバッテリセルと第2の構成のバッテリセルとで識別用電流の印加時における磁場特性を比較した図である(長手方向成分、円周方向成分、および半径方向成分の合成ベクトルの絶対値)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明のバッテリ識別装置、バッテリ識別方法、プログラム、および記憶媒体の実施形態について説明する。
【0021】
下記の実施形態では、複数のバッテリセルを含んで構成されるバッテリユニットに関し、個々のバッテリセルのそれぞれについてバッテリセルの種別を識別する方法について説明する。本実施形態では、個々のバッテリセルとして、集電体と、捲回体とを有する筒状のバッテリセルであって、一方の端面に正極端子が設けられ、他方の端面に負極端子が設けられたバッテリセルを前提とするものである。本実施形態のバッテリセルは、本発明における「バッテリ」の一例である。以下の実施形態では、筒状のバッテリセルの一例として円筒状のバッテリセルを例示するが、実施形態のバッテリ識別方法は、円筒状のほか、三角柱や四角柱などの筒状のバッテリセルに対して適用可能なものである。
【0022】
図1は、バッテリセルの構成の概略を示す図である。図1において、左側の図は本実施形態のバッテリセル10の外観を例示するものであり、中央の図はバッテリセル10の内部構造を模式的に示す断面図である。右側の図は、バッテリセル10内部の捲回体の構造を例示する図である。図1に示されるようにバッテリセル10は、円筒状の形状を有し、例えば、一方の端面が正極端子S1として構成され、他方の端面が負極端子S2として構成されたものである。バッテリセル10は、外装缶11の内部に、正極12Pと負極12Nをセパレータ13で分離した積層体を捲回した捲回体15と、正極12P上に設けられた正極タブ14Pと、負極12N上に設けられた負極タブ14Nと、捲回体15と正極端子および負極端子とを絶縁する絶縁体16とが収納された構成を有する。正極12Pと、負極12Nとはセパレータ13によって互いに隔離された状態で電解液(図示せず)に浸され、捲回される。正極タブ14Pは正極12Pと正極端子S1を電気的に接続し、負極タブ14Nは負極12Nと負極端子S2を電気的に接続する。正極タブ14Pは正極12Pの巻き初めに設置され、負極タブ14Nは負極12Nの巻き終わりに配置される。捲回体15は、負極12Nが外側になるように捲回される。
【0023】
図2は、バッテリユニットの構成の概略を示す図である。図2において、左側の図は本実施形態のバッテリユニット20の外観を例示するものであり、中央の図はバッテリユニット20の内部構成を例示するものである。図2に示されるようにバッテリユニット20は、把持部21Aを有する筐体21の内部に、トップケース22、電池部23、サイドケース24、ボトムケース25が収納された構成を有する。複数のバッテリセル10が2つのセルホルダー31Aおよび31Bにより固定されて収納されたものである。バッテリユニット20の内部では、隣り合う二列のバッテリセル10が、列ごとに極性が互い違いになるように配置されている。
【0024】
また、バッテリユニット20の内部には、バッテリセル10を直列に接続するバスバー32が設置される。図2の例のバスバー32は、横一列分(3本)のバッテリセル10を隣の列のバッテリセル10に直列接続するように(a)~(p)に分かれて構成されたものである。例えば、バスバー32の一端(a)は正極端子と電気的に接続され、他端(p)は負極端子と電気的に接続される。このような構成により、横一列ごとのバッテリセル10が、バスバー32によって(a)~(p)の順に直列接続される。なお、バスバー32において(h)および(i)は直接接続されており、これにより、セルホルダー31Bのバッテリセル10群がセルホルダー31Aのバッテリセル10群に直列接続される。また、筐体21の内部には、側面に放熱用の伝熱シート33が設置されるほか、電池部23の管理機能を有するBMU(Battery Management Unit)34が設置させる。BMU34は、例えば、電池部23の充電や放電を制御する機能、電流の流れる方向や電圧値を制御する機能、バッテリセル10の状態監視を行う機能、バッテリ回路の導通状態と遮断状態とを切り替えるオンオフ制御の機能などを有する。BMU34は、これらの各種管理機能に必要な情報を記憶するための記憶部や、外部機器と通信するための通信部などを備える。
【0025】
図3は、実施形態のバッテリ識別装置400の構成例を模式的に示した図である。バッテリ識別装置400は、バッテリセル10の種別を識別する装置である。バッテリ識別装置400は、内部バッテリ410と、電流出力部420と、磁場特性測定部430と、記憶部440と、制御部450と、判定結果出力部460と、入力部470とを備える。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0026】
内部バッテリ410は、バッテリ識別装置400の動作に必要な電力を供給するバッテリである。バッテリ識別装置400の各機能部は、内部バッテリ410によって供給される電力によって動作可能である。内部バッテリ410は、電池であってもよいし、他の電源から電力を取得するインターフェースであってもよい。
【0027】
電流出力部420は、バッテリセル10に特定の電流を印加するように制御される電流印加回路である。特定の電流とは、バッテリセル10のバッテリ種別の識別を目的としてバッテリセル10に印加する電流(以下「識別用電流」という。)である。電流出力部420は、制御部450が指示する強度の電流をバッテリセル10に印加する。電流出力部420が出力する電流は、プローブP1を介してバッテリセル10に印加される。
【0028】
磁場特性測定部430は、磁場測定プローブP2により取得されたプローブ信号に基づいて測定対象の磁場特性を測定する回路である。磁場検出部P2は、例えば、内部に磁気素子をもつ磁気プローブや、複数の磁気素子を配置した磁気素子アレイ基板である。磁気素子アレイ基板上の素子の配置は、等間隔でもよいし、等間隔でなくてもよい。各磁気素子は、1軸測定のものであってもよいし、3軸同時測定のものであってもよい。1軸測定の場合は、感磁面がバッテリセルの周方向(図5ではy軸方向)に向くように配置するのが望ましい。これは、バッテリセル10のマクロな電流および集電タブに流れる電流と感磁面を直交させることで、バッテリセル10の向きの配置および集電タブの存在位置を反映した磁場分布を得やすくするためである。各磁気素子は、アナログ素子でもよいし、デジタル素子でもよい。各磁気素子は、例えば、ホール素子や、AMR(Anisotropic magnetoresistance effect)、GMR(Giant magnetoresistance effect)、TMR(Tunnel magnetoresistance effect)などの磁気抵抗素子、MI (Magneto-Impedance)などの磁気インピーダンス素子、フラックスゲート、トポロジカル磁性体を用いた異常ホール効果による薄膜磁気素子、である。測定対象に交流電流が流れている場合はピックアップコイルを磁気素子として用いてもよい。また、磁気検出部P2により検出される範囲は、バッテリ種別を識別するために十分な情報が得られれば、バッテリユニット20の測定面全面でもよいし、その任意の一部でもよい。磁気素子アレイ基板は、バッテリユニット20の測定面の測定範囲の全域をカバーするサイズでもよいし、測定範囲の一部をカバーするサイズのものを走査するのでもよい。より具体的には、バッテリ識別装置400は、プローブP2によりバッテリセル10の表面付近を走査しながら磁場特性を測定する。なお、磁場特性を測定する位置や測定のタイミングなどは制御部450によって適切に制御されるものとする。磁場特性測定部430は、バッテリセル10について取得した磁場特性の測定値を制御部450に出力する。
【0029】
記憶部440は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶装置やSSD(Solid State Drive)等の半導体記憶装置を用いて、またはクラウド上などDB(Data Base)として構成される。記憶部440は、バッテリ識別装置400の動作に関する各種情報を格納するための記憶領域を提供するものである。記憶部440には、バッテリセル10に関する対応情報442が予め記憶されている。対応情報442は、バッテリセル10の種別(バッテリ種別)に対して、当該バッテリセル10に識別用電流が印加された場合に観測される磁気特性が少なくとも対応づけられた情報である(図4参照)。例えば、対応情報442は、識別対象となるバッテリ種別ごとに、識別用電流による磁場特性の測定試験を行った結果をもとに生成され得る。対応情報442のほか、記憶部440には、例えば、バッテリセル10の磁場特性の測定結果や、バッテリ種別の判定結果、バッテリセル10に印加する電流の設定情報、制御部450を実現する各種プログラムなどが記憶されてよい。
【0030】
制御部450は、対象のバッテリセル10についてバッテリ種別を識別するために、バッテリ識別装置400の各部を制御する。以下、バッテリ種別を識別する対象のバッテリセル10を対象バッテリセル10と称する。制御部450は、例えば、出力制御部451と、判定部454とを備える。出力制御部451は、電流出力部420の出力強度を制御することにより、対象バッテリセル10に対して識別用電流を印加する機能を有する。例えば、出力制御部451は、電流出力部420の出力強度を連続的に変化させることにより、対象バッテリセル10に対して正弦波状に変化する交流電流を印加してもよい。また、出力制御部451は、電流出力部420の出力強度を所定のタイミングで変化させることにより、対象バッテリセル10に対して矩形波状に変化する直流電流を印加してもよい。
【0031】
なお、出力制御部451は、対象バッテリセル10がバッテリ識別装置400に接続されたことを検知して対象バッテリセル10に対する識別用電流の印加を開始するように構成されてもよい。また、バッテリ識別装置400が、マウスやキーボード等の入力装置を備えている場合、出力制御部451は、ユーザの入力操作に応じて、対象バッテリセル10に対する識別用電流の印加を開始するように構成されてもよい。
【0032】
判定部454は、対象バッテリセル10について測定された磁場特性の値に基づいて、当該対象バッテリセル10のバッテリ種別を判定する。より具体的には、判定部454は、対応情報442に基づいて、対象バッテリセル10について測定された磁場特性の値に対応するバッテリ種別を判定する。例えば、図4の例において、測定された磁場特性の値が『aaa~bbb』の範囲内であれば、判定部454は、対象バッテリセル10のバッテリ種別を『BT001』と判定することができる。判定部454は、バッテリ種別の判定結果を判定結果出力部460に出力する。判定部454はクラウド上に構成されてもよい。記憶部440および判定部454が「読取部」の一例である。記憶部440または判定部454の少なくとも一方がクラウド上にある場合、バッテリ識別装置400がクラウドと通信可能であり、クラウドから規定値または一致性に関する情報の少なくとも一方を取得する(読み取る)機能を有してもよい(読取部を備える)。判定部454は「取得部」の一例である。
【0033】
なお、対応情報442は、磁場特性に代えて/加えて、磁場特性に基づいて得られる特徴量をバッテリ種別に紐づけて保持するように構成されてもよい。この場合、判定部454は、対象バッテリセル10について取得された磁場特性の測定値に代えて/加えて、当該測定値に基づいて得られる特徴量に基づいて対象バッテリセル10のバッテリ種別を判定するように構成されてもよい。特徴量は、個々の測定値ごとに得られる値であってもよいし、複数の測定値ごとに得られる統計値であってもよい。
【0034】
判定結果出力部460は、判定部454から出力されたバッテリ種別の判定結果を所定の態様で出力する。例えば、判定結果出力部460は、液晶ディスプレイや有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示装置に判定結果を表示させてもよい。また、例えば、判定結果出力部460は、有線又は無線の通信インターフェースを介して判定結果を他の通信装置に送信してもよい。また、判定結果出力部460は、スピーカ等の音声出力装置に判定結果の内容を示す音声を出力させてもよい。
【0035】
入力部470は、バッテリ識別装置400に対して情報を入力する機能を有する。例えば、入力部470は、マウスやキーボード等の入力装置を介して情報入力の操作を受け付けるように構成されてもよい。また、入力部470は、有線又は無線の通信インターフェースを介した通信により情報を入力する(受信する)ように構成されてもよい。入力部470は、入力した情報を制御部450に出力する。
【0036】
図5は、バッテリ識別装置400が対象バッテリセル10について識別用電流に係る磁場特性を測定する構成の一例を示す図である。上述のとおり、識別用電流の印加時における対象バッテリセル10の磁場特性の測定において、測定する位置やタイミングなどは制御部450によって制御される。図5の測定構成は、プローブP2を対象バッテリセル10の長手方向(円筒の中心軸方向であり、図中のx軸方向である)に移動させることで長手方向表面の走査を行い、対象バッテリセル10を円筒の中心軸を回転軸として回転させることで円筒表面を円周方向に走査することで、対象バッテリセル10の表面全体について磁場特性を測定するものである。この例の場合、バッテリ識別装置400の磁場特性測定部430は、対象バッテリセル10を所定の位置および姿勢で回転可能に固定する固定機構FXと、プローブP2を対象バッテリセル10の回転軸に沿って平行移動させる駆動機構MTとを含んでよい。
【0037】
バッテリ識別装置400は、対象バッテリセル10の表面全体をカバーして磁場特性を測定することを可能にするものであれば、図5の例以外の測定構成を有するものであってよい。例えば、磁場特性測定部430は、対象バッテリセル10を長手方向に走査するために対象バッテリセル10を長手方向に移動させるための駆動機構を含んでもよいし、対象バッテリセル10を円周方向に走査するためにプローブP2をバッテリセル10の中心軸を回転軸として円周方向に回転させるための駆動機構を含んでもよい。
【0038】
図6は、バッテリセル10における正極12Pおよび負極12Nの構成例を示す図である。図1で説明したように、バッテリセル10では、正極12Pと正極端子を電気的に接続する正極タブ14Pと、負極12Nと負極端子を電気的に接続する負極タブ14Nとが設置される。図1にも示されるように正極タブ14Pおよび負極タブ14Nには矩形の板状金属部材が用いられる。正極12Pは正極箔に正極活物質を塗布したものであり、負極12Nは負極箔に負極活物質を塗布したものである。バッテリセル10に設置される電極は設計により様々な態様で構成され得るが、図6は、1本の負極タブ14Nを備える第1の構成と、2本の負極タブ14N1および14N2を備える第2の構成を例示するものである。図6に示されるように、第1の構成および第2の構成のいずれにおいても正極12Pの構成は同様である。負極タブ14Nは負極箔の端部であって、負極活物質が塗布されていない部分に取り付けられる。一方、正極タブ14Pは、正極箔のうち巻き初め側と巻き終わり側の中間部であって、正極活物質が塗布されていない部分に取り付けられる。第1の構成では、第2の構成において負極タブ14N2が配置されるスペースに活物質を塗布することができるのでその分だけ第2の構成よりも大容量化することができるメリットがある。一方、第2の構成では、電流が2つの流路に拡大するので全体として高出力化することができるメリットがある。
【0039】
図6に示されるように、第1の構成において負極を流れる電流は、マクロ的に見て、負極タブ14Nに向かう1流路のみのイメージである。これに対して、第2の構成において負極を流れる電流は、マクロ的に見て、負極タブ14N1に向かう第1流路と、負極タブ14N2に向かう第2流路とに分散する。このため、第1の構成のほうが1本の負極タブに流れる電流値が第2の構成よりも大きくなる。
【0040】
第1の構成および第2の構成のいずれにおいても、正極タブは捲回体の巻き初め(円筒の中心部)側に配置され、負極タブは捲回体の巻き終わり(円筒の外周部)側に配置される。そのため、バッテリセル10の表面付近の磁場特性を測定すると、測定結果には負極タブの配置による影響がより大きく現れることになる。
【0041】
図7および図8は、負極タブがバッテリセル10の識別用電流印加時の磁場特性に与える影響を説明する図である。図7は、バッテリセル10における負極タブ14Nの配置を示すものである。図7に示されるように、負極タブ14Nは、例えば長手方向がバッテリセル10の長手方向に一致するように、バッテリセル10の円筒内側面に沿って配置される。また、負極タブ14Nは、例えばバッテリセル10の負極端子S2の側に寄った位置に配置される。図7は、負極タブ14N(長手方向の長さがL1であり、短手方向の長さがL2である)がバッテリセル10(長手方向の長さがLである)の長手方向(x軸方向)においてL-L1~Lの範囲に設置され、バッテリセル10の円周方向において180°の位置に設置された場合の例である。バッテリセル10の円周方向において負極タブ14Nが存在する位置(180°)を長手方向(x軸方向)に磁場を測定した場合、負極タブ14Nを長手方向(x軸方向)に流れる電流Ixによって生じる磁場が大きく影響し、バッテリセル10の表面円周方向(y軸方向)の磁場成分(By)の長手方向における分布は例えばグラフG71のような分布となる。また、この場合、バッテリセル10の長手方向において、負極タブ14Nが存在するL-L1~Lの範囲のいずれかの位置を円周方向(y軸方向)に磁場を測定した場合、バッテリセル10の表面円周方向(y軸方向)の磁場成分(By)の円周方向における分布は例えばグラフG72のような分布となる。
【0042】
この場合、グラフG71に示されるように、バッテリセル10の長手方向および円周方向のいずれにおいても、負極タブ14Nの配置場所において磁場の強度が大きくなることが分かる。より具体的には、長手方向では、負極タブ14Nの長手方向の長さL1の範囲で磁場の強度が大きくなり、円周方向では、負極タブ14Nの短手方向の長さL2の範囲で磁場の強度が大きくなっていることが分かる。したがって、磁場特性の測定結果からこのような特徴を抽出することにより、負極タブ14Nの位置を特定することができる。図8は、長手方向の分布を縦軸にとり、円周方向の分布を横軸にとった場合における磁場特性の分布を表すグラフである。図8からも、横軸で180°の付近、縦軸でL-L1~Lの付近に負極タブ14Nが存在することを認識することができる。この傾向は、バッテリセル10の長手方向の磁場成分Bxの分布と、半径方向の磁場成分Bzの分布においても同様であるが、その傾向は、円周方向成分Byにおいてより顕著に現れる。
【0043】
このように、円筒状のバッテリセル10に識別用電流を印加した場合、バッテリセル10の長手方向および円周方向における磁場特性を測定して磁場強度の分布を分析することにより、バッテリ識別装置400は、バッテリセル10の内部におけるタブの位置を特定することができる。より具体的には、判定部454は、長手方向および円周方向における磁場特性の測定結果を予め定められたそれぞれの閾値と比較することで、測定結果が閾値を超えている範囲をタブの位置と推定することができる。このようなタブ位置の特定が可能となることにより、バッテリ識別装置400は、認識されたタブ位置をもとに測定結果の基準を合わせることが可能となる。そして、測定結果の基準を合わせることが可能となることにより、バッテリ識別装置400は、使用すべき磁場特性の測定値をより正確に特定してバッテリ種別の判定を行うことができるようになり、円筒状のバッテリセル10についてより正確にバッテリ種別を判定することが可能となる。
【0044】
図9図12は、第1の構成のバッテリセル10(負極タブが1本)と第2の構成のバッテリセル10(負極タブが2本)とで識別用電流の印加時における磁場特性を比較した図である。図9図12において、上段の各グラフにおける複数の系列は、円周方向の角度が異なる複数の点で磁場特性を測定した系列を表し、下段の各グラフにおける複数の系列は、長手方向の位置が異なる複数の点で磁場特性を測定した系列を表すものである。図9図12において、各凡例は横軸における正極タブおよび負極タブの位置(存在範囲)を示すものである。
【0045】
まず図9において、グラフG91Aは第1の構成のバッテリセル10について、長手方向(x軸方向)の磁場成分Bxを長手方向に測定した結果を表す。グラフG91Aの横軸は長手方向の位置を表し、各系列は測定する円周方向の位置(角度)が異なる系列を表すものである。グラフG91Bは第1の構成のバッテリセル10について、長手方向(x軸方向)の磁場成分Bxを円周方向に測定した結果を表す。グラフG91Bの横軸は円周方向の位置(角度)を表し、各系列は測定する長手方向の位置が異なる系列を表すものである。グラフG92Aは、グラフG91Aと同様の測定を第2の構成のバッテリセル10について行った結果を表す。グラフG92Bは、グラフG92Aと同様の測定を第2の構成のバッテリセル10について行った結果を表す。なお、グラフG91AとG92Aにおいて、大きく2つの系列群が存在するが、一方の系列群は、識別用電流による充電時の測定結果を表し、他方の系列群は、識別用電流を放電時の測定結果を表す(図10図12も同様)。
【0046】
次に図10において、グラフG101Aは第1の構成のバッテリセル10について、円周方向(y軸方向)の磁場成分Byを長手方向に測定した結果を表す。グラフG101Aの横軸は長手方向の位置を表し、各系列は測定する円周方向の位置(角度)が異なる系列を表すものである。グラフG101Bは第1の構成のバッテリセル10について、円周方向(y軸方向)の磁場成分Byを円周方向に測定した結果を表す。グラフG101Bの横軸は円周方向の位置(角度)を表し、各系列は測定する長手方向の位置が異なる系列を表すものである。グラフG102Aは、グラフG101Aと同様の測定を第2の構成のバッテリセル10について行った結果を表す。グラフG102Bは、グラフG102Aと同様の測定を第2の構成のバッテリセル10について行った結果を表す。
【0047】
次に図11において、グラフG111Aは第1の構成のバッテリセル10について、半径方向(z軸方向)の磁場成分Bzを長手方向に測定した結果を表す。グラフG111Aの横軸は長手方向の位置を表し、各系列は測定する円周方向の位置(角度)が異なる系列を表すものである。グラフG111Bは第1の構成のバッテリセル10について、半径方向(y軸方向)の磁場成分Bzを円周方向に測定した結果を表す。グラフG111Bの横軸は円周方向の位置(角度)を表し、各系列は測定する長手方向の位置が異なる系列を表すものである。グラフG112Aは、グラフG111Aと同様の測定を第2の構成のバッテリセル10について行った結果を表す。グラフG112Bは、グラフG111Bと同様の測定を第2の構成のバッテリセル10について行った結果を表す。図12は、図9図11に示されるBx、By、Bzの各測定結果を、それらの合成ベクトルの絶対値に換算して表したものである。
【0048】
ここで、第1の構成のバッテリセル10と第2の構成のバッテリセル10とで磁場成分BxおよびBzを比較すると、変動の傾向は似通っているものの、絶対値が大きく異なることが分かる(図9図11図12参照)。より具体的には、第1の構成のバッテリセル10(負極タブが1本)の方が、第2の構成のバッテリセル10(負極タブが2本)よりも磁場成分の絶対値が大きいことが分かる。そこで、本実施形態のバッテリ識別装置400は、磁場成分Bxまたは/およびBzの絶対値の大きさを既定の基準値と比較することにより、対象バッテリセル10の構成が第1の構成であるか、または第2の構成であるかを判定する。この場合、基準値は、対応情報442においてバッテリ種別に紐づけて管理されてよい。また、基準値には幅を持たせてもよいし、磁場成分Bxと磁場成分Bzとで別個の基準値が設定されてよい。また、バッテリ識別装置400は、磁場成分Bxあるいは磁場成分Bzについて、長手方向または円周方向の複数の位置で絶対値が基準値と一致しているかを判定してもよい。
【0049】
なお、磁場成分BxおよびBzの値は測定位置によって異なり得るので、判定部454は、磁場成分Byの分布をもとに特定した負極タブの位置(図7参照)に基づいて各測定結果の基準位置を合わせた上で、閾値と比較することが望ましい。このように、基準位置を合わせた上で測定結果を閾値と比較することにより、判定部454は対象バッテリセル10のバッテリ種別をより正確に判定することができる。判定部454は、測定結果が基準値と一致しているかを、磁場成分Bxに基づいて判定してもよいし、磁場成分Bzに基づいて判定してもよいし、両方の判定結果を組み合わせて総合的に判定してもよい。例えば、判定部454は、磁場成分Bxに基づく判定結果と、磁場成分Bzに基づく判定結果が一致した場合に、その判定結果を確定してもよい。また、例えば判定部454は、両者の判定結果が異なった場合、予め定められた優先度に基づいて、優先度の高い方の判定結果を採用するように構成されてもよいし、基準値との乖離度が大きい(すなわち判定結果の信頼性がより高い)方の判定結果を採用するように構成されてもよい。
【0050】
また、第1の構成のバッテリセル10と第2の構成のバッテリセル10とで磁場成分Bzを比較すると、充電時の測定結果と放電時の測定結果とが交差(おおよそゼロクロス)する位置が大きく異なることが分かる(図11参照)。より具体的には、第1の構成のバッテリセル10(負極タブが1本)の方が、第2の構成のバッテリセル10(負極タブが2本)よりも負極端子側に寄った位置で交差することが分かる。例えば、グラフG111Aでは横軸上のaの位置で交差しているのに対し、グラフG112Aではb(>a)の位置で交差している。より具体的には、負極タブの長さが短い場合、タブに流れ込む電流が集中してG111Aの測定結果の傾きが急になり、交差点が負極端子側に寄るものと考えられる。そこで、本実施形態のバッテリ識別装置400は、充電時の磁場成分Bzの分布と、放電時の磁場成分Bzの分布とが交差する位置を特定することにより、負極タブの長さを識別することができる。なお、バッテリセル10の内部構成のバリエーションによっては負極タブの配置において長さ方向と幅方向が入れ替えられる場合が想定されるが、このような場合においても、同様の方法で幅の大きさについて構成の違いを認識することができる。
【0051】
より具体的には、判定部454は、充電時の磁場成分Bzの測定結果と放電時の磁場成分Bzの測定結果とが交差する位置を特定して基準値と一致するかを判定する。例えば、判定部454は、特定した位置が基準値未満であれば第1の構成と判定し、基準値以上であれば第2の構成と判定してもよい。さらに、判定部454は、磁場成分Byの測定結果をもとに負極タブの幅(図7のL2で示される)を識別してもよい。また、このように識別される負極タブの幅は特徴量として用いられてもよい。
【0052】
以上説明した実施形態のバッテリ識別装置400によれば、対象バッテリセル10に識別用電流を印加して表面付近の磁場特性を測定することにより、対象バッテリセル10のバッテリ種別を識別することができる。例えば、バッテリ識別装置400は、磁場成分Byの測定結果から対象バッテリセル10における負極タブの位置を認識することができる。また、例えば、バッテリ識別装置400は、磁場成分BxおよびBzの測定結果から対象バッテリセル10の負極タブの数(タブ構成)を認識することができる。また、例えば、バッテリ識別装置400は、磁場成分Bzについて充電時および放電時の測定結果から対象バッテリセル10における負極タブの長さを認識することができる。このような認識結果のそれぞれから、または、これらの認識結果の組み合わせから、バッテリ識別装置400は、対象バッテリセル10のバッテリ種別を識別することができる。さらに、バッテリ識別装置400は、磁場特性に基づく任意の特徴量をもとに、対象バッテリセル10について、負極タブの位置、数、長さ以外の特徴を認識し、それらの認識結果を組み合わせてバッテリ種別を識別するように構成されてもよい。このような構成により、実施形態のバッテリ識別装置400は、識別用の部品を取り付けることなく、非破壊且つ非含侵にてバッテリの種別を識別することができる。
【0053】
<変形例>
以上の実施形態で説明したバッテリ識別装置400によれば、識別用の信号を出力可能なICチップなどを搭載していないバッテリ(またはバッテリセル)についても、バッテリ種別を識別することが可能となる。そのため、バッテリにICチップを搭載することが必ずしも必要なくなり、ICチップのインターフェースや耐久性に起因するバッテリの課題を解決することができる。
【0054】
実施形態で説明したバッテリユニット20は、主に車両用として用いられることを想定したものであるが、これに限定されない。また、バッテリ識別装置400は、小型電動モビリティーの動力や、家庭での電源として活用できる着脱可能な可搬式バッテリである、いわゆるMPP(モバイルパワーパック:Mobile Power Pack)のバッテリ種別を判定するように構成されてもよい。また、バッテリ識別装置400は、使用済みのMPPを回収して充電し、充電済みのMPPを再度貸出し可能にするバッテリ充電装置またはバッテリ返却装置(いわゆる、バッテリエクスチェンジャー:BEX)に備えられてもよい。バッテリ識別装置400は、これらのMPPやBEXと一体に構成されてもよいし、別体に構成されてもよい。
【0055】
上記の実施形態では、バッテリ識別装置400がバッテリセル10に識別用電流を印加した際に観測される磁場特性に基づいてバッテリ種別を識別する場合について説明した。このような識別用電流の印加による磁場特性の測定によれば、地磁気や周囲雰囲場の磁場のノイズに埋もれない程度の磁場が発生する電流を流すことで、識別の正確性を確保できることができるというメリットがある。一方で、バッテリセル10に印加する電流値をモニターしている場合、観測される磁場の強度は印加された電流値に比例すると考えることができるため、測定された磁場の強度を電流値で除算することによって電流値によらない標準化された磁場強度に変換することができる。バッテリ識別装置400は、このような標準化された磁場強度をバッテリ種別に紐づけたものを対応情報として記憶するように構成されてもよい。この場合、バッテリ識別装置400は、対象バッテリセル10に任意の電流を印加した際に観測される磁場特性を当該標準化された磁場強度に変換して対応情報と比較することによってバッテリ種別を識別することが可能となる。このように、バッテリ識別装置400がバッテリセル10に対して識別用電流を印加するか、または任意の電流を印加するかは、識別対象の性質や特性、識別の目的や用途等に応じて適宜選択されてよい。
【0056】
電池の構成は、正極および負極の概念において対称であるため、バッテリセル10、バッテリユニット20、バッテリ識別装置400の構成は、正極および負極の概念の対称性において逆の構成をとってもよい。
【0057】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
電極が捲回された捲回体を有する円筒状のバッテリであって、円形の端面を正極端子または負極端子とするバッテリの識別装置であって、
ハードウェアプロセッサと、を備え、
前記ハードウェアプロセッサが前記記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、
前記バッテリに電流を印加し、
前記電流の印加によって発生した磁場を測定し、
前記磁場の測定結果と、バッテリの種別に紐づけられた磁場情報とを比較することにより判定される前記バッテリの種別を取得する、
ように構成されている、バッテリ識別装置。
【0058】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0059】
10…バッテリセル、11…外装缶、12N…負極、12P…正極、13…セパレータ、14N…負極タブ、14P…正極タブ、15…捲回体、16…絶縁体、20…バッテリユニット、21…筐体、21A…把持部、22…トップケース、23…電池部、24…サイドケース、25…ボトムケース、31A,31B…セルホルダー、32…バスバー、33…伝熱シート、34…BMU(Battery Management Unit)、400…バッテリ識別装置、410…内部バッテリ、420…電流出力部、430…磁場特性測定部、440…記憶部、442…対応情報、450…制御部、451…出力制御部、454…判定部、460…判定結果出力部、470…入力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12