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特開2024-154344米飯品質改良剤、ならびにそれを用いた加工生米、および加工米飯の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154344
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】米飯品質改良剤、ならびにそれを用いた加工生米、および加工米飯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20241023BHJP
【FI】
A23L7/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068157
(22)【出願日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】梁瀬 有美
(72)【発明者】
【氏名】田中 杏奈
(72)【発明者】
【氏名】黒瀧 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】松元 一頼
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LC08
4B023LE02
4B023LE11
4B023LE13
4B023LK20
4B023LP11
4B023LP15
(57)【要約】
【課題】 -5℃~10℃のような温度下での保存による老化の進行を防止または低減することができ、かつ当該保存後も良好な食感を保持することのできる、米飯品質改良剤、ならびにそれを用いた加工生米、および加工米飯の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の米飯品質改良剤は、草木灰の抽出成分を有効成分として含有する。また、本発明の加工米飯の製造方法は、未加工生米にこの米飯品質改良剤を接触させて加工生米を得る工程、および加工生米を炊飯する工程を含む。これにより得られた加工米飯は例えば-5℃~10℃の温度下で保存しても硬くパサついた食感は効果的に防止または低減されている。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
草木灰の抽出成分を有効成分として含有する、米飯品質改良剤。
【請求項2】
前記草木灰の抽出成分が、灰持酒および発酵調味料からなる群から選択される少なくとも1種の形態で含有されている、請求項1に記載の米飯用品質改良剤。
【請求項3】
液体の形態を有し、かつpHが6.5~13.5である、請求項1に記載の米飯用品質改良剤。
【請求項4】
米飯の老化進行を防止するために用いられる、請求項1に記載の米飯品質改良剤。
【請求項5】
少なくとも一部の表面に、請求項1から4のいずれかに記載の米飯品質改良剤が付与された生米を含む、加工生米。
【請求項6】
加工米飯の製造方法
であって、
(a)未加工生米に請求項1から4のいずれかに記載の米飯品質改良剤を付与して加工生米を得る工程、および
(b)該加工生米を炊飯する工程、
を含む、方法。
【請求項7】
加工米飯の老化を防止するための方法であって、
(a)未加工生米に請求項1から4のいずれかに記載の米飯品質改良剤を付与して加工生米を得る工程、および
(b)該加工生米を炊飯して加工米飯を得る工程、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯品質改良剤、ならびにそれを用いた加工生米、および加工米飯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の食品の保存技術の向上により、弁当、寿司などの米飯を用いた多くの米飯製品が所定の温度(例えば-5℃~10℃)で保存されている。こうした温度帯を用いる保存は、当該米飯製品をそのまま保存できるだけでなく、ヒトが直接食することもできるという好都合な温度であり、今後、食品分野においてますます利用が増大すると考えられている。
【0003】
しかし、こうした温度帯で米飯製品を1日~2日保存すると、米飯部分の老化が進み、その食感は硬くパサついたものとなる。このため、米飯製品の購入者は比較的短期間での消費が必要であり、製造業者や流通業者はこの老化の進行を考えて、米飯製品の製造や流通のための計画を立てることが求められている。
【0004】
このように米飯製品の老化進行は、購入者、製造業者および流通業者のいずれにとっても重大な問題である。さらに、所望でない老化が進行した結果、余儀なく廃棄せざるを得ないという懸案も発生している。
【0005】
これに対し、例えば、特許文献1には、作用至適温度の異なる2種類以上のアミラーゼとアルカリ物質を添加した水で米を炊飯することにより、得られた炊飯米についてその後に加熱しても粘りが発生しにくく、米粒がパラパラでしかもふっくらとした食感を維持する、加工米飯の製造方法が記載されている。特許文献2には、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ溶液に炊飯用米を浸漬した後、酸溶液で中和することにより、炊飯用米の品質を改良する方法が記載されている。特許文献3には、生米にアルカリ性電解水を加水して加熱することにより、食感および表面つやの改善や冷凍障害の抑制を達成する、炊飯米の製造方法が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1~3のいずれの技術を用いたとしても、低温(例えば-5℃~10℃)での保存を通じて進行する老化は十分に抑えられるものではなく、安全でかつ効率的なさらなる技術改良が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-150870号公報
【特許文献2】特開平7-255392号公報
【特許文献3】特許第5972444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、例えば-5℃~10℃のような温度下での保存による老化の進行を防止または低減することができ、かつ当該保存後も良好な食感を保持することのできる、米飯品質改良剤、ならびにそれを用いた加工生米、および加工米飯の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、草木灰の抽出成分を有効成分として含有する、米飯品質改良剤である。
【0010】
1つの実施形態では、上記草木灰の抽出成分が、灰持酒および発酵調味料からなる群から選択される少なくとも1種の形態で含有されている。
【0011】
1つの実施形態では、本発明の米飯品質改良剤は液体の形態を有し、かつpHが6.5~13.5である。
【0012】
1つの実施形態では、本発明の米飯品質改良剤は米飯の老化進行を防止するために用いられる。
【0013】
本発明はまた、少なくとも一部の表面に、上記米飯品質改良剤が付与された生米を含む、加工生米である。
【0014】
本発明はまた、加工米飯の製造方法であって、
(a)未加工生米に上記米飯品質改良剤を付与して加工生米を得る工程、および
(b)該加工生米を炊飯する工程、
を含む、方法である。
【0015】
本発明はまた、加工米飯の老化を防止するための方法であって、
(a)未加工生米に上記米飯品質改良剤を付与して加工生米を得る工程、および
(b)該加工生米を炊飯して加工米飯を得る工程、
を含む、方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例えばチルド帯のような低温で保存した米飯製品における老化の進行を効果的に防止または低減することができる。さらに、本発明の米飯品質改良剤で処理した加工米飯は、低温保存後に乾燥して硬くなり、パサついた食感となることを防止または低減し得る。これにより、購入者はよりおいしくその加工米飯を食すことができ、製造業者および流通業者はこれらの効果を通じて保存期間の延長や流通エリアの拡大を図ることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(米飯品質改良剤)
まず、本発明の米飯品質改良剤について説明する。
【0018】
本発明の米飯品質改良剤は草木灰の抽出成分を含有する。
【0019】
草木灰の抽出成分は、草木灰から抽出された任意の成分であって、液体、ペースト、固体(粉末を含む)などの任意の形態を有するものをいい、例えば木灰から当業者に周知の方法で抽出されるものを包含する。
【0020】
草木灰は草本や木本を燃焼させた後に残存する灰であり、水溶性のカリウム分(例えば炭酸カリウム)および石灰分を多く含有することが知られている。草木灰を構成する草本および木本の例としては、クサギおよび藁、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。こうした草木灰抽出物の水溶液は一般に強アルカリ性を呈することが知られている。
【0021】
本発明において、草木灰の抽出成分は、例えば灰持酒および/または発酵調味料の形態を有していてもよい。
【0022】
灰持酒は、醸造したもろみに草木灰(特に木灰)を混入させて得られる日本酒の一種であり、当該草木灰の混入によって一般に強アルカリ性を呈するものである。灰持酒はその製造過程における濾過によって草木灰自体は除去されており、そのアルカリ性によって細菌の繁殖を抑える日持ち向上の機能を発揮し得る。また、灰持酒は、それ自体が固有の甘さと風味を有しており、味醂の代替となる調味料として使用されることもある。
【0023】
さらに近年では、このような灰持酒に所定の加塩処理を施すことにより発酵調味料として販売されているものもある。このような発酵調味料は、例えば畜肉加工品や水産加工品における歩留まり向上、食感改良および風味改善のために使用される発酵調味料の構成成分としても使用されている。当該発酵調味料もまた、上記草木灰の抽出成分を含有するものとして使用することができる。
【0024】
本発明の米飯品質改良剤においては、上記草木灰の抽出成分として、上記灰持酒および/または発酵調味料が所定量の水(例えば、天然水、水道水、イオン交換水、蒸留水)で希釈された形態で含有されていてもよい。
【0025】
なお、本発明の米飯品質改良剤が液体である場合、その液性はアルカリ性であることが好ましい。
【0026】
1つの実施形態では、本発明の米飯品質改良剤が液体である場合、そのpHは好ましくは6.5~13.5、より好ましくは6.7~13.2、さらに好ましくは7~13である。pHが6.5を下回ると、米飯品質改良剤に含まれる上記草木灰の抽出成分の含有量がかなり低下すると考えられ、得られる加工米飯が、例えば-5℃~10℃の温度帯での保存によって十分な老化の進行を低減することが困難となる場合がある。他方、pHが13.5を上回るものはその製造自体が困難であり、仮に製造することができたとしても、高アルカリであることから慎重な取り扱いが要求され、生産性が低下する場合がある。
【0027】
本発明の米飯品質改良剤は、上記草木灰の抽出成分および水以外にその他の成分を含有していてもよい。
【0028】
その他の成分としては、酸化防止剤、pH調整剤、乳化剤、保存料、安定剤、甘味料、発色剤、着色料、調味料、糖類、および加工用助剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。これら他の成分のより具体的な例としては、必ずしも限定されないが、食塩、砂糖、黒糖蜜、米こうじ、果汁、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、トコフェロール、加工デンプン、乾燥卵白、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルコール製剤、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、乳酸カルシウム、乳化油脂、クチナシ色素、カロチノイド色素、アスパラギン酸、グリシン、プロピレングリコール、マルトース、トレハロースならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0029】
その他の成分の含有量は特に限定されず、上記草木灰の抽出成分が奏する効果を阻害しない範囲において当業者によって適切な量が選択され得る。
【0030】
本発明の米飯品質改良剤は、後述する様々な加工米飯の品質の改良に寄与し、例えば保存米飯用の米飯品質改良剤として、低温保存下での当該米飯の老化の進行を防止または低減することができる。ここで、本明細書中に用いられる用語「低温保存」とは、一般に冷蔵(チルド)の温度帯を含む-5℃~10℃、および冷凍(フローズン)の温度帯として表される-5℃~-18℃の合計の温度帯(-18℃~10℃)での保存をいう。さらに本発明の米飯品質改良剤は、上記低温の温度帯のうち、例えば-5℃~10℃下での保存において、加工米飯の老化の進行をより効果的に防止または低減することができる。
【0031】
(加工米飯の製造方法)
次の本発明の加工米飯の製造方法について説明する。
本発明の加工米飯の製造方法では、まず未加工生米に上記米飯品質改良剤を付与することにより加工生米が作製される。
【0032】
未加工生米は、ジャポニカ種、インディカ種、ジャパニカ種のいずれの系統のものであってもよく、かつ精白などの加工の分類に基づけば、精白米、玄米、発芽玄米、胚芽米、無洗米、または早炊き米、あるいはそれらの組み合わせのいずれであってもよい。
【0033】
未加工生米としては、特に限定されないが、例えば、日本国内で生産されているものが挙げられ、具体的な例としては、あいちのかおり、愛のゆめ、あかね空、あきげしき、あきほ、あきたこまち、あきた39、アキツホ、アキニシキ、秋音色、秋の詩、秋晴、あきろまん、アケボノ、あこがれ、朝の光、朝日、あさひの夢、味こだま、彩、彩南月、彩のかがやき、あやひめ、あわみのり、いただき、いわた3号、いわた11号、いわた15号、いわてっこ、岩手68号、イワヒカリ、うこん錦、エルジーシー1、黄金錦、おおいた11、オオセト、おきにいり、おとめごころ、おまちかね、おわら美人、加賀ひかり、かぐや姫、かけはし、鹿児島18号、鹿児島22号、家族だんらん、かりの舞、関東29号、吉備の華、キヌヒカリ、きぬむすめ、キヨニシキ、きらら397、きらり宮崎、きらりん、吟おうみ、金南風、こいむすび、こいもみじ、コガネマサリ、黄金晴、こしいぶき、越路早生、コシヒカリ、こころまち、ゴロピカリ、西海232号、西海248号、さがうらら、佐賀1号、さきひかり、ササニシキ、里のうた、さわかおり、さわのはな、さわぴかり、白雪姫、スノーパール、千秋楽、大地の星、大地の風、たかねみのり、たきたて、たんぼの夢、ちば28号、チヨニシキ、チヨホナミ、ちゅらひかり、月の光、ツクシホマレ、つくしろまん、つやおとめ、でわ75ひかり、天使の詩、てんたかく、十和錦、とがおとめ、土佐錦、とさぴか、トドロキワセ、とねのめぐみ、どまんなか、富山67号、トヨニシキ、どんとこい、どんぴしゃり、中生新千本、ながのほまれ、なごりゆき、なすひかり、なつしずか、なつのたより、ナツヒカリ、ななつぼし、南海157号、南国そだち、にこまる、ニシホマレ、日本晴、ねばり勝ち94、農林1号、農林21号、農林22号、農林48号、能登ひかり、はいみのり、はえぬき、はぎのかおり、はなさつま、花キラリ、はたじるし、ハツシモ、初星、ハナエチゼン、はなの舞、はなぶさ、春陽、晴るる、バンバンザイ、ヒエリ、ひとめぼれ、ヒヨクモチ、びわみのり、フクヒカリ、ふくひびき、ふくみらい、ふさおとめ、ふさこがね、ふじの舞、ふっくりんこ、ホウレイ、ほしたろう、ほしのゆめ、ほほえみ、ほほほの穂、まいひめ、松山三井、祭り晴、まなむすめ、みえのみえ、みえのゆめ、みきさやか、瑞穂黄金、みつひかり、ミナミヒカリ、ミネアサヒ、峰ひびき、みのにしき、ミルキークイーン、ミルキープリンセス、むらさきの舞、めんこいな、森のくまさん、ヤマウタ、山形84号、ヤマヒカリ、ヤマビコ、ヤマホウシ、柔小町、雪化粧、ゆきの精、ゆきひかり、ゆきまる、ゆめあこがれ、夢一献、夢いっぱい、ゆめおうみ、夢ごこち、ゆめさやか、夢しずく、夢つくし、夢の華、ユメヒカリ、ゆめひたち、ゆめみずほ、ゆめむすび、ヨネシロ、レーク65、わせじまん、およびLGCソフトが挙げられる。
【0034】
未加工生米はまた、予め他の穀物または豆類(例えば、オオムギ、アワ、ヒエ、ハトムギ、エンバク、大豆、小豆、インゲンマメ、ソバ、ゴマ、およびトウモロコシ、ならびにそれらの組み合わせ)と一緒に混合されたものであってもよい。
【0035】
未加工生米への米飯品質改良剤の付与は、例えば、米飯品質改良剤を含有する浸漬水に未加工精米を浸漬すること(浸漬による付与)、および/または未加工生米に、米飯品質改良剤を一緒に投入し加水すること(加水による付与)によって行われる。
【0036】
上記浸漬による付与を行う場合、浸漬水は、水(天然水、水道水、イオン交換水、蒸留水など)に所定量の米飯品質改良剤を添加することにより調製される。浸漬水のpHは、得られる加工米飯を例えば-5℃~10℃下での保存する際に、当該加工米飯の老化の進行をより効果的に防止または低減することができるとの理由から、好ましくは8~12、より好ましくは9~10.5に調整されている。浸漬時間は、使用する未加工生米の種類および量、浸漬水のpH、浸漬温度等によって変動するため必ずしも限定されないが、好ましくは10分間~18時間、より好ましくは30分間~2時間である。
【0037】
その後、未加工米は浸漬水から取り出され、適度に水切りされる。
【0038】
上記加水による付与を行う場合、水(天然水、水道水、イオン交換水、蒸留水など)に所定量の米飯品質改良剤を添加することにより、後述の炊飯工程にそのまま使用する炊飯用水溶液が調製される。この炊飯用の水溶液のpHは、得られる加工米飯を例えば-5℃~10℃下での保存する際に、当該加工米飯の老化の進行をより効果的に防止または低減することができるとの理由から、好ましくは7.5~10.5、より好ましくは8~10に調整されている。そして、炊飯用水溶液に未加工生米を添加した状態で当該生米が米飯品質改良剤と適切になじむまで、そのまま静置することが好ましい。この静置に要する時間は、10分間~18時間、より好ましくは30分間~2時間である。
【0039】
このようにして未加工生米に米飯品質改良剤が付与され、加工生米が作製される。
【0040】
得られた加工生米は、次の炊飯工程にそのまま使用される。なお、この加工生米は、一旦炊飯用水溶液から取り出され、それ自体を製品として市場に流通させることも可能である。
【0041】
次いで、加工生米の炊飯が行われる。
【0042】
まず、この炊飯により白飯を作製する場合について説明する。
【0043】
白飯の作製にあたり、上記未加工生米への米飯品質改良剤の付与を、米飯品質改良剤を含有する浸漬水に当該未加工精米を浸漬すること(浸漬による付与)により行った場合は、当該加工生米に所定量の水(天然水、水道水、イオン交換水、蒸留水など)が加えられ、当業者によって適宜選択され得る温度および時間によって炊飯が行われる。
【0044】
あるいは、上記未加工生米への米飯品質改良剤の付与を、当該未加工生米に、米飯品質改良剤を一緒に投入し加水すること(加水による付与)によって行った場合は、そのままの状態で当業者によって適宜選択され得る温度および時間によって炊飯が行われてもよい。
【0045】
一方、炊き込みご飯(味飯、かやくご飯を包含する)を作製する場合は、炊飯の際にその他の材料(例えば、野菜、鶏肉、魚肉、こんにゃく、調味料等)が加工生米および水と一緒に添加され、上記と同様にして炊飯が行われる。
【0046】
なお、本発明において、上記炊飯は直鎖オリゴ糖の存在下で行わることが好ましい。
【0047】
直鎖オリゴ糖は、3分子のD-グルコースが1,4-グルコシド結合した三糖であるマルトトリオースを主成分とするものであり、デンプン由来の糖質の中で保湿性が高いオリゴ糖である。こうした直鎖オリゴ糖は、デンプンの老化防止に効果があることが知られている。本発明においては、上記炊飯にあたり、例えば加工生米および水とともに直鎖オリゴ糖を添加かつ混合することにより使用され得る。直鎖オリゴ糖の添加量は特に限定されず、例えば加工生米および水の合計100質量部に対して、適切な量が当業者によって選択され得る。
【0048】
炊飯後、本発明においては、当該分野において公知の方法を用いて蒸らしおよび/ほぐしの作業が行われてもよい。
【0049】
このようにして加工米飯を製造することができる。
【0050】
本発明の方法により得られる加工米飯としては、例えば、白飯、炊き込みご飯(味飯、かやくご飯を包含する)、ならびに当該白飯をさらに調理して得られる炒飯、粥、雑炊、が挙げられる。
【0051】
得られた加工米飯は、例えば低温(例えば10℃~20℃)、冷蔵(チルド)近傍(例えば-5℃~10℃)、および冷凍(例えば-18℃~-5℃)のいずれの温度下で保存されてもよい。このような温度で保存された加工米飯を例えば-5℃~10℃の温度帯下に移して保存すると、その後特に加熱等の調理を行うことなく、ヒトが直接食することも可能である。その際、当該温度帯で保存した場合であっても、本発明の方法により得られる加工米飯は、老化の進行を防止または低減することができる。これにより、当該加工米飯を低温下で保存しても乾燥して硬くなり、パサついた食感となることが回避され得る。
【実施例0052】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0053】
(実施例1:サンプル製剤(E1)(木灰5%抽出液)の作製)
5質量の草木灰(有限会社秋又水産製/原料:広葉樹/主な成分含有量:窒素全量0.04質量%、リン酸全量2.3質量%、加里全量6.1質量%、水分含有量0.4質量%)5質量部を、95質量部の水道水(pH7.48)に添加し、20℃にてプロペラミキサーを用いて300rpmで15分間撹拌して草木灰の抽出を行うことにより、混合液を調製した。この混合液を濾紙(東洋濾紙株式会社製ADVANTEC No.5C;保持粒子径1μm)を用いて吸引濾過することにより、米飯品質改良剤としてのサンプル製剤(E1)(木灰5%抽出液)を得た。
【0054】
得られたサンプル製剤(E1)のpHについて、pHメーター(株式会社堀場製作所製LAQUA F-2000PI)により測定したところ、12.9であった。
【0055】
(実施例2~8および比較例1:浸漬水の調製および加工米飯の作製と評価)
実施例1で得られたサンプル製剤(E1)を水道水で希釈して、サンプル製剤(E1)の濃度が0.01質量%である浸漬水(E1S1)、当該濃度が0.5質量%である浸漬水(E1S2)、当該濃度が1質量%である浸漬水(E1S3)、当該濃度が3質量%である浸漬水(E1S4)、当該濃度が5質量%である浸漬水(E1S5)、当該濃度が10質量%である浸漬水(E1S6)、および当該濃度が20質量%である浸漬水(E1S7)をそれぞれ調製した。他方、無添加区として水道水のみで構成される浸漬水(M1)を用意した。
【0056】
その後、得られた浸漬水(E1S1)~(E1S7)および(M1)のpHをpHメーター(株式会社堀場製作所製LAQUA F-2000PI)により測定した。
【0057】
次いで、生米(宮城県産つや姫)150gを入れた複数のボウルを用意し、これらに上記で得られた浸漬水(E1S1)~(E1S7)または(M1)を添加して、生米全体を浸漬水中に浸し、室温で1時間そのまま静置した。その後、ボウルから浸漬水を捨てて十分に水切りを行った。
【0058】
この浸漬水で処理した生米の質量に対して1.7倍の水道水(炊飯水)を添加し、そのまま炊飯器(タイガー魔法瓶株式会社製IH炊飯ジャーJKO-G550)にて炊飯を行った。その後、炊飯器の蓋を開けて、1時間そのまま放置して放冷し、得られた米飯を約80gずつ取り出してラップで包み、これを以下の表1の条件でそれぞれ保管した:
【0059】
【表1】
【0060】
このようにして保存した各米飯をパネラー5名がそのまま食し、米飯の硬さおよび粘りについて以下の1点~5点に分類した評価基準に基づいて個々に採点し、それらの評価点数の平均値を算出した。
【0061】
(米飯サンプルの硬さの評価基準)
5点・・・食した際に全体に亘って略均一に心地よい軟らかさを感じた。
4点・・・一部に僅かに硬さが異なる感覚があったが、全体として心地よい軟らかさを感じた。
3点・・・一部に硬さの異なる感覚があったが、全体として食するのか困難というほどの硬さではなかった。
2点・・・多くの部分で硬いと感じる感覚が得られ、全体として食するには幾分抵抗を感じるものであった。
1点・・・全体的に硬く感じられ、そのまま食することは困難であった。
【0062】
(米飯サンプルの粘りの評価基準)
5点・・・全体に亘って粘りがある食感であった。
4点・・・一部にボソつきがあるが多くの部分で粘りがある食感であった。
3点・・・粘りがある部分とボソつきがある部分が半々くらいの食感であった。
2点・・・多くの部分でボソつきがあるが、一部に粘りがある食感であった。
1点・・・全体的に粘りがなくボソついた食感であった。
【0063】
各米飯についての結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示すように、実施例2~8で得られた米飯は、条件1~4のいずれに保存した場合においても良好な硬さと粘りを保持するものであった。なお、これら硬さおよび粘りについては、使用した浸漬水中に含まれるサンプル製剤(E1)の濃度やpHによって変動し、特に実施例3~6の浸漬水(E1S2)~(E1S5)を用いて得られ得た米飯は、条件1~4の相違に関わらず、硬さおよび粘りの両方において品質がさらに向上していたことがわかる。
【0066】
(実施例9:サンプル製剤(E2)(木灰10%抽出液)の作製)
使用した草木灰の量を10質量部に変更し、使用した水道水の量を90質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして米飯品質改良剤としてのサンプル製剤(E2)(木灰10%抽出液)を得た。実施例1と同様にしてpHを測定したところ、サンプル製剤(E2)のpHは13.2であった。
【0067】
(実施例10~16:浸漬水の調製および加工米飯の作製と評価)
実施例9で得られたサンプル製剤(E2)を水道水で希釈して、サンプル製剤(E2)の濃度が0.01質量%である浸漬水(E2S1)、当該濃度が0.5質量%である浸漬水(E2S2)、当該濃度が1質量%である浸漬水(E2S3)、当該濃度が3質量%である浸漬水(E2S4)、当該濃度が5質量%である浸漬水(E2S5)、当該濃度が10質量%である浸漬水(E2S6)、および当該濃度が20質量%である浸漬水(E2S7)をそれぞれ調製した。
【0068】
次いで、生米に上記で得られた浸漬水(E2S1)~(E2S7)のいずれかを添加したこと以外は実施例2~8と同様にして炊飯を行って、得られた米飯を上記条件1~4でそれぞれ保存し、米飯の硬さおよび粘りについてパネラー5名による評価点数の平均値を上記と同様にして算出した。結果を、比較例1の結果とともに表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3に示すように、実施例10~16で得られた米飯は、条件1~4のいずれに保存した場合においても良好な硬さと粘りを保持するものであったことがわかる。
【0071】
(実施例17:サンプル製剤(E3)の準備)
米飯品質改良剤として、灰持酒(瑞鷹株式会社製料理用東肥赤酒)をそのまま使用することによりサンプル製剤(E3)を得た。実施例1と同様にしてpHを測定したところ、サンプル製剤(E3)のpHは7.2であった。
【0072】
(比較例2:サンプル製剤(C1)の準備)
料理酒(イオン株式会社製;灰持酒とは異なるもの)をそのまま使用することによりサンプル製剤(C1)を得た。実施例1と同様にしてpHを測定したところ、サンプル製剤(C1)のpHは4.5であった。
【0073】
(実施例18~20および比較例3~5:浸漬水の調製および加工米飯の作製と評価)
実施例17で得られたサンプル製剤(E3)を水道水で希釈して、サンプル製剤(E3)の濃度が10質量%である浸漬水(E3S1)、当該濃度が20質量%である浸漬水(E3S2)、および当該濃度が30質量%である浸漬水(E3S3)をそれぞれ調製した。一方、比較例2で得られたサンプル製剤(C1)を水道水で希釈して、サンプル製剤(C1)の濃度が10質量%である浸漬水(C1S1)、当該濃度が20質量%である浸漬水(C1S2)、および当該濃度が30質量%である浸漬水(C1S3)をそれぞれ調製した。
【0074】
次いで、生米に上記で得られた浸漬水(E3S1)~(E3S3)、または(C1S1)~(C1S3)のいずれかを添加したこと以外は実施例2~8と同様にして炊飯を行って、得られた米飯を上記条件1~4でそれぞれ保存し、米飯の硬さおよび粘りについてパネラー5名による評価点数の平均値を上記と同様にして算出した。結果を、比較例1の結果とともに表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
表4に示すように、実施例18~20で得られた米飯は、比較例3~5の米飯と比較して条件1~4のいずれに保存した場合においても良好な硬さと粘りを保持するものであったことがわかる。
【0077】
(実施例21~24および比較例6:炊飯水の調製および加工米飯の作製と評価)
実施例1で得られたサンプル製剤(E1)を水道水で希釈して、サンプル製剤(E1)の濃度が0.01質量%である炊飯水(E1H1)、当該濃度が0.1質量%である炊飯水(E1H2)、当該濃度が0.5質量%である炊飯水(E1H3)、および当該濃度が1質量%である浸漬水(E1H4)をそれぞれ調製した。他方、無添加区として水道水のみで構成される炊飯水(M2)を用意した。
【0078】
次いで、生米(宮城県産つや姫)を水道水でなる浸漬水中に浸し、室温で1時間そのまま静置した。その後、浸漬水を捨てて十分に水切りを行った。
【0079】
この浸漬水で処理した生米の質量に対して1.7倍の上記炊飯水(E1H1)~(E1H4)または(M2)のいずれかを添加し、そのまま炊飯器(タイガー魔法瓶株式会社製IH炊飯ジャーJKO-G550)にて炊飯を行った。得られた米飯を上記条件1~4でそれぞれ保存し、米飯の硬さおよび粘りについてパネラー5名による評価点数の平均値を上記と同様にして算出した。結果を、比較例1の結果とともに表5に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
表5に示すように、実施例21~24で得られた米飯は、条件1~4のいずれに保存した場合においても良好な硬さと粘りを保持するものであった。なお、これら硬さおよび粘りについては、使用した炊飯水中に含まれるサンプル製剤(E1)の濃度によって変動し、特に実施例21~23の浸漬水(E1H1)~(E1H3)を用いて得られ得た米飯は、条件1~4の相違に関わらず、硬さおよび粘りの両方において著しく品質が向上していたことがわかる。
【0082】
(実施例25~28:炊飯水の調製および加工米飯の作製と評価)
実施例9で得られたサンプル製剤(E2)を水道水で希釈して、サンプル製剤(E2)の濃度が0.01質量%である炊飯水(E2H1)、当該濃度が0.1質量%である炊飯水(E2H2)、当該濃度が0.5質量%である炊飯水(E2H3)、および当該濃度が1質量%である浸漬水(E2H4)をそれぞれ調製した。
【0083】
次いで、生米に上記で得られた炊飯水(E2H1)~(E2H4)のいずれかを添加したこと以外は実施例21~24と同様にして炊飯を行って、得られた米飯を上記条件1~4でそれぞれ保存し、米飯の硬さおよび粘りについてパネラー5名による評価点数の平均値を上記と同様にして算出した。結果を、比較例6の結果とともに表6に示す。
【0084】
【表6】
【0085】
表6に示すように、実施例25~28で得られた米飯は、条件1~4のいずれに保存した場合においても良好な硬さと粘りを保持するものであった。なお、これら硬さおよび粘りについては、使用した炊飯水中に含まれるサンプル製剤(E2)の濃度によって変動し、特に実施例25~27の浸漬水(E2H1)~(E2H3)を用いて得られ得た米飯は、条件1~4の相違に関わらず、硬さおよび粘りの両方において著しく品質が向上していたことがわかる。
【0086】
(実施例29~31および比較例7~9:炊飯水の調製および加工米飯の作製と評価)
実施例17で得られたサンプル製剤(E3)を水道水で希釈して、サンプル製剤(E3)の濃度が1質量%である炊飯水(E3H1)、当該濃度が5質量%である炊飯水(E3H2)、および当該濃度が10質量%である炊飯水(E3H3)をそれぞれ調製した。一方、比較例2で得られたサンプル製剤(C1)を水道水で希釈して、サンプル製剤(C1)の濃度が1質量%である炊飯水(C1H1)、当該濃度が20質量%である炊飯水(C1H2)、および当該濃度が30質量%である炊飯水(C1H3)をそれぞれ調製した。
【0087】
次いで、生米に上記で得られた炊飯水(E3H1)~(E3H3)、または(C1H1)~(C1H3)のいずれかを添加したこと以外は実施例21~24と同様にして炊飯を行って、得られた米飯を上記条件1~4でそれぞれ保存し、米飯の硬さおよび粘りについてパネラー5名による評価点数の平均値を上記と同様にして算出した。結果を、比較例6の結果とともに表7に示す。
【0088】
【表7】
【0089】
表7に示すように、実施例29~31で得られた米飯は、比較例7~9の米飯と比較して条件1~4のいずれに保存した場合においても良好な硬さと粘りを保持するものであったことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、例えば、米飯や家庭用調味料を取り扱う食品工業分野;レストランや弁当販売店などの飲食店;コンビニエンスストア、スーパーマーケット、百貨店などの小売店;等において有用である。