(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154366
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタの製造方法、スパッタリングターゲットおよび焼結体
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20241023BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20241023BHJP
H01L 21/318 20060101ALI20241023BHJP
H01L 21/203 20060101ALI20241023BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20241023BHJP
H10K 59/12 20230101ALI20241023BHJP
【FI】
H01L29/78 618B
H01L29/78 619A
H01L29/78 618A
H01L21/318 B
H01L21/203 S
H10K50/00
H10K59/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016439
(22)【出願日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2023068149
(32)【優先日】2023-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(74)【代理人】
【識別番号】100208708
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100215371
【弁理士】
【氏名又は名称】古茂田 道夫
(74)【代理人】
【識別番号】100187997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 厳輝
(72)【発明者】
【氏名】越智 元隆
【テーマコード(参考)】
3K107
5F058
5F103
5F110
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
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3K107EE04
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5F110NN24
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5F110NN35
5F110QQ11
(57)【要約】
【課題】本開示は、動作安定性を高めることができる薄膜トランジスタの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示の一態様に係る酸化物半導体層は、基板上に少なくとも酸化物半導体層、保護層、ゲート絶縁層、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する薄膜トランジスタを製造する方法であって、上記基板上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む上記酸化物半導体層を形成する工程と、上記酸化物半導体層上に、SiNを含む上記保護層を形成する工程とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも酸化物半導体層、保護層、ゲート絶縁層、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する薄膜トランジスタを製造する方法であって、
上記基板上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む上記酸化物半導体層を形成する工程と、
上記酸化物半導体層上に、SiNを含む上記保護層を形成する工程と
を備えることを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】
基板上に少なくとも酸化物半導体層、酸化物ガスバリア層、保護層、ゲート絶縁層、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する薄膜トランジスタを製造する方法であって、
上記基板上に、上記酸化物半導体層を形成する工程と、
上記酸化物半導体層上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む上記酸化物ガスバリア層を形成する工程と、
上記酸化物ガスバリア層上に、SiNを含む上記保護層を形成する工程と
を備えることを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】
上記酸化物半導体層が、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む請求項2に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
上記金属元素の合計に対する含有率が、
In:40原子%以上75原子%以下、
Zn:15原子%以上45原子%以下、および
Al:0.5原子%以上20原子%以下
である請求項1、請求項2または請求項3に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
上記酸化物半導体層が非晶質層である請求項1に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
上記酸化物半導体層および上記酸化物ガスバリア層の少なくとも一方が非晶質層である請求項3に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
上記酸化物半導体層を、H2およびH2Oの少なくとも一方に対するバリア層として形成する請求項1または請求項3に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
上記酸化物ガスバリア層を、H2およびH2Oの少なくとも一方に対するバリア層として形成する請求項2または請求項3に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
薄膜トランジスタに用いられる酸化物半導体層および酸化物ガスバリア層の少なくとも一方を形成するためのスパッタリングターゲットであって、
金属元素としてIn、ZnおよびAlを含み、
含有する全金属元素の合計に対する上記In、上記Znおよび上記Alの含有量が、
In:40原子%以上75原子%以下、
Zn:15原子%以上45原子%以下、および
Al:0.5原子%以上20原子%以下
であるスパッタリングターゲット。
【請求項10】
請求項9に記載のスパッタリングターゲットを形成するための焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薄膜トランジスタの製造方法、スパッタリングターゲットおよび焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Organic Electro-Luminescence)ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイに用いられるアクティブ素子として、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)が普及しつつある。この薄膜トランジスタとしては、トップゲート型(スタガ型)のもの及びボトムゲート型(逆スタガ型)のものが公知である。
【0003】
このような薄膜トランジスタには、動作安定性が求められている。キャリア移動度および光ストレス耐性を高めて動作安定性を向上した薄膜トランジスタが知られている(特開2020-194945号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の薄膜トランジスタは、In、ZnおよびFeを含む酸化物半導体層を備えることにより、動作安定性を向上している。薄膜トランジスタの保護層にはSiNが用いられているものが多い。SiNを含む保護層は水素含有率が大きく、製造過程における熱履歴によって、上記保護層から水素が脱離して拡散することがある。この水素が薄膜トランジスタの酸化物半導体層に浸入すると、薄膜トランジスタのVthシフト等の特性を悪化させることがある。このような特性の悪化は、キャリア移動度の高い酸化物半導体層を備える薄膜トランジスタで影響が大きく、動作が不安定になり易い傾向がある。水素の影響を低減し、酸化物半導体層を備える薄膜トランジスタの動作安定性を向上することが求められている。
【0006】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、動作安定性を高めることができる薄膜トランジスタの製造方法、および動作安定性の高い薄膜トランジスタの酸化物半導体層と酸化物ガスバリア層とを形成するためのスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法は、基板上に少なくとも酸化物半導体層、保護層、ゲート絶縁層、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する薄膜トランジスタを製造する方法であって、上記基板上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む上記酸化物半導体層を形成する工程と、上記酸化物半導体層上に、SiNを含む上記保護層を形成する工程とを備える。
【0008】
本開示の他の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法は、基板上に少なくとも酸化物半導体層、酸化物ガスバリア層、保護層、ゲート絶縁層、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する薄膜トランジスタを製造する方法であって、上記基板上に、上記酸化物半導体層を形成する工程と、上記酸化物半導体層上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む上記酸化物ガスバリア層を形成する工程と、上記酸化物ガスバリア層上に、SiNを含む上記保護層を形成する工程とを備える。
【0009】
本開示のさらに他の一態様に係るスパッタリングターゲットは、薄膜トランジスタに用いられる酸化物半導体層および酸化物ガスバリア層の少なくとも一方を形成するためのスパッタリングターゲットであって、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含み、含有する全金属元素の合計に対する上記In、上記Znおよび上記Alの含有量が、In:40原子%以上75原子%以下、Zn:15原子%以上45原子%以下、およびAl:0.5原子%以上20原子%以下である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様である薄膜トランジスタの製造方法は、薄膜トランジスタの動作安定性を高めることができる。本開示の他の一態様であるスパッタリングターゲットは、動作安定性の高い薄膜トランジスタの酸化物半導体層および酸化物ガスバリア層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るトップゲート型薄膜トランジスタを示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は、
図1とは異なるトップゲート型薄膜トランジスタを示す模式的断面図である。
【
図3】
図3は、
図1および
図2とは異なるトップゲート型薄膜トランジスタを示す模式的断面図である。
【
図4】
図4は、チャネル長10μm、InおよびZnを含む酸化物半導体層を備える試料15の薄膜トランジスタのId-Vg特性の測定結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、チャネル長10μm、In、ZnおよびAlを含む酸化物半導体層を備える試料16の薄膜トランジスタのId-Vg特性の測定結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、チャネル長10μm、InおよびZnを含む酸化物半導体層を備える試料15の薄膜トランジスタのId-Vg特性を測定し、ゲート負バイアスおよび光照射(Negative Bias Temperature Illumination Stress:NBTIS)試験による光ストレス耐性の比較結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、チャネル長10μm、In、ZnおよびAlを含む酸化物半導体層を備える試料16の薄膜トランジスタのId-Vg特性を測定し、NBTIS試験による光ストレス耐性の比較結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、InおよびZnを含む酸化物半導体層のチャネル長を変えた薄膜トランジスタのId-Vg特性の測定結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、In、ZnおよびAlを含む酸化物半導体層のチャネル長を変えた薄膜トランジスタのId-Vg特性の測定結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、チャネル長10μm、In、ZnおよびAlを含む酸化物半導体層を備える試料27の薄膜トランジスタのId-Vg特性の測定結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、In、ZnおよびAlを含む酸化物半導体層のチャネル長を変えた薄膜トランジスタのId-Vg特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
上述のように、SiNを含む保護層から脱離して拡散した水素(H2)が酸化物半導体層内に浸入し、あるいはこの水素が水分(H2O)となって酸化物半導体層内に浸入することで、薄膜トランジスタのVthシフト等の特性を悪化させることがある。本発明者らが鋭意検討したところ、酸化物半導体層にインジウム(In)、亜鉛(Zn)およびアルミニウム(Al)を含ませることで層内にH2およびH2Oが浸入することを抑制でき、または薄膜トランジスタにIn、ZnおよびAlを含む酸化物ガスバリア層を備えさせることで酸化物半導体層内にH2およびH2Oが浸入することを抑制できることを突き止めた。同時に、上記Alには、経年変化などにより層内から脱離することがあるZnについて、上記脱離を抑制できることを突き止めた。
【0014】
(1)本開示の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法は、基板上に少なくとも酸化物半導体層、保護層、ゲート絶縁層、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する薄膜トランジスタを製造する方法であって、上記基板上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む上記酸化物半導体層を形成する工程と、上記酸化物半導体層上に、SiNを含む上記保護層を形成する工程とを備える。
【0015】
当該薄膜トランジスタの製造方法は、In、ZnおよびAlを含む酸化物半導体層を基板上に形成しているため、この酸化物半導体層内に拡散したH2およびH2Oが浸入することを抑制でき、得られる薄膜トランジスタの動作安定性を高めることができる。
【0016】
(2)本開示の他の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法は、基板上に少なくとも酸化物半導体層、酸化物ガスバリア層、保護層、ゲート絶縁層、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を有する薄膜トランジスタを製造する方法であって、上記基板上に、上記酸化物半導体層を形成する工程と、上記酸化物半導体層上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む上記酸化物ガスバリア層を形成する工程と、上記酸化物ガスバリア層上に、SiNを含む上記保護層を形成する工程とを備える。
【0017】
当該薄膜トランジスタの製造方法は、酸化物半導体層上にIn、ZnおよびAlを含む酸化物ガスバリア層を形成しているため、上記酸化物半導体層内に拡散したH2およびH2Oが浸入することを抑制でき、得られる薄膜トランジスタの動作安定性を高めることができる。
【0018】
(3)上記(2)において、上記酸化物半導体層が、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含んでいてもよい。このようにすることで、上記酸化物半導体層内にH2およびH2Oが拡散することをより抑制できる。
【0019】
(4)上記(1)、(2)および(3)において、上記金属元素の合計に対する含有率が、In:40原子%以上75原子%以下、Zn:15原子%以上45原子%以下、およびAl:0.5原子%以上20原子%以下であってもよい。このように、上記金属元素における上記In、上記Znおよび上記Alの含有量が上記範囲内であることによって、上記酸化物半導体層内にH2およびH2Oが浸入することを効果的に抑制しつつ、薄膜トランジスタのキャリア移動度や閾値電圧の適正化を促進することができる。
【0020】
(5)上記(1)、(2)および(3)において、上記酸化物半導体層および上記酸化物ガスバリア層は非晶質層であってもよい。このようにすることで、H2およびH2Oの拡散抑制効果を向上できる。
【0021】
(6)上記(1)乃至(5)において、上記酸化物半導体層および上記酸化物ガスバリア層を、H2およびH2Oの少なくとも一方に対するバリア層として形成してもよい。すなわち、上記酸化物半導体層自体がH2およびH2Oの少なくとも一方の浸入を抑制するガスのバリア層を兼ねる層として形成されていてもよい。
【0022】
(7)上記(1)乃至(6)において、上記酸化物半導体層中および上記酸化物ガスバリア層中の上記Alが上記Znの脱離を抑制するものであってもよい。すなわち、上記AlがZnの脱離を抑制する金属元素として含有されていてもよい。
【0023】
本開示のさらに他の一態様に係るスパッタリングターゲットは、薄膜トランジスタに用いられる酸化物半導体層および酸化物ガスバリア層の少なくとも一方を形成するためのスパッタリングターゲットであって、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含み、含有する全金属元素の合計に対する上記In、上記Znおよび上記Alの含有量が、In:40原子%以上75原子%以下、Zn:15原子%以上45原子%以下、およびAl:0.5原子%以上20原子%以下である。
【0024】
当該スパッタリングターゲットは、酸化物半導体層内にH2およびH2Oが拡散することを抑制できる酸化物半導体層および酸化物ガスバリア層を形成できる。
【0025】
本開示のさらに他の一態様に係る焼結体は、上記スパッタリングターゲットを形成するための焼結体である。
【0026】
すなわち上記スパッタリングターゲットは、焼結体で形成されていてもよい。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しつつ、本開示の実施の形態を詳説する。なお、本明細書に記載の数値については、記載された上限値と下限値との一方のみを採用すること、或いは上限値と下限値を任意に組み合わせることが可能である。本明細書では、組み合わせ可能な上限値から下限値までの数値範囲が好適な範囲として全て記載されているものとする。
【0028】
[第一実施形態]
図1に、当該薄膜トランジスタの製造方法(以下、単に「当該製造方法」ともいう)で得られる薄膜トランジスタの一例として、トップゲート型薄膜トランジスタ10(以下、単に「薄膜トランジスタ10」ともいう)を示す。薄膜トランジスタ10は、基板11上に酸化物半導体層12、保護層13、ゲート絶縁層14、ゲート電極15、ソース電極16およびドレイン電極17を有する。
図1の薄膜トランジスタ10の保護層13は、珪素酸化物(SiOx)を含む第1保護層131と、この第1保護層131に積層され、珪素窒化物(SiN)を含む第2保護層132とを含む。ゲート絶縁層14およびゲート電極15は、保護層13(第1保護層131)内に配置されている。ゲート絶縁層14は酸化物半導体層12に積層され、ゲート電極15はゲート絶縁層14に積層されている。ソース電極16およびドレイン電極17は、それらの一部が酸化物半導体層12の導体化されたS/D領域に接するように配置されている。酸化物半導体層12のゲート絶縁層14が積層されている領域は、導体化されていないチャネル領域である。
【0029】
薄膜トランジスタ10は、基板11上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む酸化物半導体層12を形成する工程と、酸化物半導体層12上に、SiNを含む保護層13を形成する工程とを備える当該製造方法によって得られる。当該製造方法は、これら2つの工程の間に、酸化物半導体層12上にゲート絶縁層14を形成する工程と、ゲート絶縁層14上にゲート電極15を形成する工程とを有する。また当該製造方法は、保護層13を形成する工程の後に、ソース電極16およびドレイン電極17を形成する工程を有する。
【0030】
〔酸化物半導体層を形成する工程〕
酸化物半導体層12を形成する工程では、基板11上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む酸化物半導体層12を形成する。
【0031】
(基板)
基板11としては、特に限定されるものではなく、ガラス基板やシリコン基板等が挙げられる。上記ガラス基板に用いられるガラスとしては、例えば無アルカリガラス、高歪点ガラス、ソーダライムガラス等が挙げられる。また、基板11として、ステンレスシート等の金属基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂基板を用いることもできる。
【0032】
基板11の平均厚さは、加工性の観点から0.001mm以上10mm以下が好ましい。また、基板11の大きさ及び形状は、ディスプレイのサイズ等に応じて設定できる。
【0033】
(酸化物半導体層)
酸化物半導体層12は、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む。これらの金属元素を含むことで、酸化物半導体層12は、後述するSiNを含む第2保護層132から拡散されるH2が内部に浸入することを抑制できる。また、拡散したH2が酸素と結合し、H2Oとして内部に浸入することも抑制できる。すなわち、酸化物半導体層12はH2およびH2Oのガスのバリア層としての機能を有している。
【0034】
<In>
Inは、H2およびH2Oが酸化物半導体層12内に浸入することを抑制すると共に、導電性(電気伝導性)の向上にも寄与する元素である。Inの含有量が大きい程、当該酸化物半導体層12の導電性が向上し、キャリア密度及びキャリア移動度が向上する。
【0035】
上記金属元素の合計に対するInの含有率の下限値としては、40原子%であることが好ましい。上記含有率の上限値としては、75原子%であることが好ましく、65原子%であることがより好ましい。Inの含有率を上記範囲とすることで、H2およびH2Oが酸化物半導体層12内に浸入することの抑制効果の確実性が向上でき、かつキャリア移動度などを十分なものとすることができる。
【0036】
<Zn>
Znは、H2およびH2Oが酸化物半導体層12内に浸入することを抑制すると共に、酸化物半導体層12の加工特性にも影響する元素である。
【0037】
上記金属元素の合計に対するZnの含有率の下限値としては、15原子%であることが好ましく、25原子%であることがより好ましい。上記含有率の上限値としては、45原子%であることが好ましく、35原子%であることがより好ましい。Znの含有率を上記範囲とすることで、H2およびH2Oが酸化物半導体層12内に浸入することの抑制効果の確実性が向上でき、かつ酸化物半導体層12の加工性、均一性などが確保し易くなる。
【0038】
<Al>
Alは、H2およびH2Oが酸化物半導体層12内に浸入することを抑制すると共に、Znが酸化物半導体層12から脱離することを抑制する元素である。具体的には、経年変化などにより酸化物半導体層12中からZnが脱離することがある。Alを含有させることで、上記Znの脱離を抑制することができる。また、Alは、酸化物半導体層12に含有されることで、薄膜トランジスタ10の光ストレス耐性を向上することができる。
【0039】
上記金属元素の合計に対するAlの含有率の下限値としては、0.5原子%であることが好ましく、1.5原子%であることがより好ましい。上記含有率の上限値としては、20原子%であることが好ましく、10原子%であることがより好ましい。Alの含有率を上記範囲とすることで、H2およびH2Oが酸化物半導体層12内に浸入することの抑制効果の確実性が向上でき、かつ上記Zn脱離の抑制効果の確実性を向上できる。
【0040】
AlがZnの脱離を抑制できる理由としては、以下のように考えられる。酸化物層中のZnは、その酸化物層に含まれるH2やH2Oが放出された後に脱離することが知られている。酸化物層は、Alが添加されると、H2やH2Oが酸化物層中に浸入するのを抑制する機能(ガスバリア機能)に加え、酸化物層中のH2やH2Oが放出されるのを抑制する機能が得られる。このため、酸化物層にAlを添加することで、酸化物層中のZnの脱離が抑制できると考えられる。
【0041】
酸化物半導体層12において、上記以外の元素は、O(酸素)及び不可避的不純物である。不可避的不純物は、原料、資材、製造設備等に起因して含有され得る。この不可避的不純物としては、例えばPb、Si、Fe、Ni、Ti、Mg、Cr及びZrが挙げられる。酸化物半導体層12における不可避的不純物の含有量は、好ましくは元素毎に1質量%以下、より好ましくは500質量ppm以下である。なお、かかる構成においては、当該酸化物半導体層12における上記In、上記Znおよび上記Alの含有率は、Oを除く全元素に占める割合ということもできる。
【0042】
酸化物半導体層12の平均厚さは、スイッチング素子として用いられる場合にドレイン電流をオフ状態とできる条件から定めることができる。酸化物半導体層12の平均厚さの下限としては、10nmが好ましく、15nmがより好ましい。一方、上記平均厚さの上限としては、60nmが好ましく、50nmがより好ましい。なお、本明細書において「平均厚さ」とは、任意の5点の厚さの平均値を意味する。
【0043】
酸化物半導体層12は、非晶質層であることが好ましい。または、少なくとも一部が非晶質層として形成されていることが好ましい。すなわち、酸化物半導体層12を形成する酸化物が、非晶質、または少なくとも一部が非晶質であることが好ましい。酸化物半導体層12は、このような構成を有する場合でも、汎用のアモルファスシリコンに比べてキャリア移動度を十分に高めることができる。また、このような構成を有することで、光学バンドギャップを容易かつ確実に大きくすることができる。
【0044】
一般に、酸化物層は、緻密性が高いほどガスバリア機能が向上する。酸化物層は、粒界が多く存在する多結晶質で構成されるより、非結晶質で構成されることで緻密性を向上することができる。In酸化物は、ガスバリア機能を有するが、酸化物層を結晶質化する傾向がある。一方で、Znは、添加することで、酸化物層の非晶質化を促進することができる。Alは、H2Oと反応して部分的にAl酸化物になることで、その部分を結晶質化する傾向があるが、Alとしては酸化物層の非晶質化を促進することができる。このため、酸化物層は、In、ZnおよびAlを含むことで非晶質化が促進され、H2やH2Oに対する好適なガスバリア機能が発揮できると考えられる。
【0045】
酸化物半導体層12は、例えばガス圧を1mTorr以上5mTorr以下の範囲に制御すると共に、成膜後にプラズマや還元ガスによって表面処理することで、非晶質層とすることができる。
【0046】
酸化物半導体層12のシート抵抗(表面処理を行った後のS/D領域のシート抵抗)の上限としては、1.0kΩ/□が好ましく、0.5kΩ/□がより好ましい。酸化物半導体層12は、表面処理後の上記シート抵抗が上記上限以下であることで、S/D領域の導体化を容易かつ確実に実現できる。なお、上記シート抵抗は、四探針方式の抵抗測定器で測定された値とすることができる。
【0047】
酸化物半導体層12は、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法によって成膜される。酸化物半導体層12は、成膜後フォトリソグラフィ等によってパターニングされる。また、このパターニングの直後には、膜質改善のために熱処理(プレアニール処理)が施されることが好ましい。
【0048】
《スパッタリングターゲット》
酸化物半導体層12は、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含み、含有する全金属元素の合計に対する上記In、上記Znおよび上記Alの含有量が、In:40原子%以上75原子%以下、Zn:15原子%以上45原子%以下、およびAl:0.5原子%以上20原子%以下であるスパッタリングターゲットによって形成できる。当該スパッタリングターゲットにおける上記以外の元素は、不可避的不純物である。当該スパッタリングターゲットにおける各元素の含有量は、酸化物半導体層12について記載した範囲と同じとすることができる。
【0049】
上記スパッタリングターゲットに形成されるスパッタリングターゲット材は、酸化物半導体層12を形成するために用いることができ、後述する酸化物ガスバリア層を形成するために用いることもできる。当該スパッタリングターゲット材は、上述のスパッタリングターゲットと同一の金属元素を含み、その含有量も略同一であるため、H2およびH2Oに対するガスバリア機能を有することができる。
【0050】
《焼結体》
上記スパッタリングターゲットは、焼結体によって形成される。
【0051】
〔ゲート絶縁層を形成する工程〕
ゲート絶縁層14を形成する工程では、酸化物半導体層12上にゲート絶縁層14を形成する。ゲート絶縁層14は、上記プレアニール処理後に、酸化物半導体層12上に形成される。
【0052】
ゲート絶縁層14としては、例えばシリコン酸化層、シリコン窒化層、シリコン酸窒化層、Al2O3やY2O3等の金属酸化物層などが挙げられる。ゲート絶縁層14は、CVD法や、PECVD法等を用いて成膜することができる。ゲート絶縁層14は、単層体であってもよく、2層以上の多層体であってもよい。ゲート絶縁層14が2層以上の多層体である場合、1層目と2層目以降とは異なる成分であることが好ましい。
【0053】
ゲート絶縁層14の平均厚さの下限としては、50nmが好ましく、100nmがより好ましい。一方、ゲート絶縁層14の平均厚さの上限としては、300nmが好ましく、250nmがより好ましい。上記平均厚さが上記下限に満たないと、ゲート絶縁層14の耐圧が不十分となるおそれがある。逆に、上記平均厚さが上記上限を超えると、ゲート電極15と酸化物半導体層12との間に形成されるキャパシタの容量が不足し、ドレイン電流が不十分となるおそれがある。なお、ゲート絶縁層14が多層である場合、「ゲート絶縁層の平均厚さ」とは、ゲート絶縁層全体の平均厚さを意味する。
【0054】
〔ゲート電極を形成する工程〕
ゲート電極15を形成する工程では、ゲート絶縁層14上にゲート電極15を形成する。ゲート絶縁層14及びゲート電極15は、ゲート電極15を形成した後、フォトリソグラフィ等によってパターニングされる。
【0055】
(ゲート電極)
ゲート電極15は、導電性を有する。ゲート電極15は、例えばゲート絶縁層14を形成した後、酸化物半導体層12に熱処理(アニール処理)を施した後に形成される。ゲート電極15としては、特に限定されるものではないが、電気抵抗率の低いAl、Cuなどの金属、耐熱性の高いMo、Cr、Tiなどの高融点金属などの合金を用いることができる。
【0056】
ゲート電極15の平均厚さの下限としては、50nmが好ましく、80nmがより好ましい。上記平均厚さを上記下限値以上とすることで、ゲート電極15の抵抗が大きくなることを抑制でき、ゲート電極15で電力消費が増大することを抑制できる。一方、ゲート電極15の平均厚さの上限としては、加工性等の観点から、500nmが好ましく、400nmがより好ましい。
【0057】
〔保護層を形成する工程〕
保護層13を形成する工程では、酸化物半導体層12上に、SiNを含む保護層13を形成する。本実施形態の本工程は、ゲート絶縁層14およびゲート電極15を被覆するように酸化物半導体層12上に、SiOxを含む第1保護層131を形成する手順と、この第1保護層131上にSiNを含む第2保護層132を形成する手順とを含む。
【0058】
第1保護層131は、ゲート絶縁層14及びゲート電極15のパターニング後、酸化物半導体層12に表面処理を行った後に形成される。酸化物半導体層12の表面処理は、S/D領域を導体化するために行うものであり、例えばイオン注入、元素拡散、還元ガスによる還元、プラズマ処理等によって行うことができる。
【0059】
第1保護層131および第2保護層132は、CVD法や、PECVD法等を用いて成膜することができる。成膜後には、フォトリソグラフィ等によって、ソース電極16およびドレイン電極17を配置するためのコンタクトホールが形成される。
【0060】
第1保護層131はSiOxを含み、第2保護層132はSiNを含む。すなわち、第1保護層131はシリコン酸化層であり、第2保護層132はシリコン窒化層である。
【0061】
保護層13を設けることで、酸化物半導体層12やゲート電極15等が外部環境から受ける影響を低減することができる。SiNを含む第2保護層132は、H2Oなどの影響を低減するのに適している。一方で、SiNを含む第2保護層132は、H2を多く含むため、製造過程における熱履歴により、そのH2を放出することがある。この放出されたH2が酸化物半導体層12内に浸入すると、薄膜トランジスタ10の電気特性が低下することがある。SiOxを含む第1保護層131は、H2の浸入を抑制できるため、酸化物半導体層12と第2保護層132との間に配置することで、第2保護層132から放出されたH2が直接的に酸化物半導体層12内に浸入することを抑制できる。薄膜トランジスタ10は、ガスバリア機能を有する酸化物半導体層12をさらに備えるため、H2の酸化物半導体層12内への浸入をさらに抑制できる。
【0062】
〔電極を形成する工程〕
電極を形成する工程では、ソース電極16およびドレイン電極17を形成する。具体的には、上記コンタクトホールで、一部が酸化物半導体層12のS/D領域に接するようにソース電極16およびドレイン電極17を形成する。ソース電極16およびドレイン電極17は、形成された後、フォトリソグラフィ等によってパターニングされる。
【0063】
ソース電極16およびドレイン電極17は、導電性を有する。ソース電極16およびドレイン電極17としては、特に限定されるものではないが、電気抵抗率の低いAl、Cuなどの金属、耐熱性の高いMo、Cr、Tiなどの高融点金属、あるいはこれらの合金を用いることができる。
【0064】
ソース電極16およびドレイン電極17は、保護層13の一部を被覆すると共に、上記コンタクトホールに充填される。このように設けられることで、ソース電極16およびドレイン電極17は、薄膜トランジスタ10の上記チャネル領域の両端で酸化物半導体層12と電気的に接続する。
【0065】
ソース電極16およびドレイン電極17の平均厚さの下限としては、100nmが好ましく、150nmがより好ましい。上記平均厚さを上記下限値以上とすることで、ソース電極16およびドレイン電極17の抵抗が大きくなることを抑制でき、電力消費が増大することを抑制できる。ソース電極16およびドレイン電極17の平均厚さの上限としては、ゲート絶縁層14とゲート電極15との合計厚さよりも大きいことが望ましく、例えば1000μmが好ましく、800μmがより好ましい。
【0066】
<利点>
当該製造方法は、基板11上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む酸化物半導体層12を形成する工程と、酸化物半導体層12上に、SiNを含む保護層13を形成する工程とを備えるので、製造過程における熱履歴によって保護層13から拡散するH2が酸化物半導体層12に浸入することを抑制できる。このため、得られる薄膜トランジスタ10は、キャリア移動度が高く、動作安定性に優れる。
【0067】
当該スパッタリングターゲットは、酸化物半導体層12の製造に適している。
【0068】
[第二実施形態]
以下、当該薄膜トランジスタの製造方法の他の実施形態について説明する。なお、上述の第一実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0069】
図2に、当該薄膜トランジスタの製造方法(以下、単に「当該製造方法」ともいう)で得られるトップゲート型薄膜トランジスタ20(以下、単に「薄膜トランジスタ20」ともいう)を示す。薄膜トランジスタ20は、基板11上に酸化物半導体層22、酸化物ガスバリア層27、保護層13、ゲート絶縁層14、ゲート電極15、ソース電極16およびドレイン電極17を有する。保護層13は、SiOxを含む第1保護層131と、この第1保護層131に積層され、SiNを含む第2保護層132とを含む。
【0070】
薄膜トランジスタ20は、基板11上に、酸化物半導体層22を形成する工程と、酸化物半導体層22上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む酸化物ガスバリア層27を形成する工程と、酸化物ガスバリア層27上に、SiNを含む保護層13を形成する工程とを備える。当該製造方法は、酸化物半導体層を形成する工程と酸化物ガスバリア層を形成する工程との工程の間に、酸化物半導体層22上にゲート絶縁層14を形成する工程と、ゲート絶縁層14上にゲート電極15を形成する工程とを有する。また当該製造方法は、保護層13を形成する工程の後に、ソース電極16およびドレイン電極17を形成する工程を有する。
【0071】
〔酸化物半導体層を形成する工程〕
酸化物半導体層を形成する工程では、基板11上に酸化物半導体層22を形成する。この酸化物半導体層22が含有する金属元素としては、特に限定されるものではなく、In、ZnおよびAlのいずれかまたは全部を含まなくてもよい。
【0072】
次に、酸化物半導体層22上にゲート絶縁層14およびゲート電極15を形成する。
【0073】
〔酸化物ガスバリア層を形成する工程〕
酸化物ガスバリア層を形成する工程では、酸化物半導体層22上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む酸化物ガスバリア層27を形成する。具体的には、酸化物半導体22上に形成されたゲート絶縁層14およびゲート電極15を被覆するように酸化物ガスバリア層27を形成する。
【0074】
酸化物ガスバリア層27は、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む。これらの金属元素の合計に対する上記In、上記Znおよび上記Alそれぞれの含有量としては、第一実施形態で説明した酸化物半導体層12と同様にすることができる。酸化物ガスバリア層27は、非晶質層であることが好ましい。または、少なくとも一部が非晶質層として形成されていることが好ましい。酸化物ガスバリア層27は、H2およびH2Oのガスのバリア層としての機能を有している。上記Alは、上記Znが酸化物ガスバリア層27から脱離することを抑制している。
【0075】
〔保護層を形成する工程〕
保護層13を形成する工程では、酸化物ガスバリア層27上に、SiNを含む保護層13を形成する。本実施形態の本工程では、酸化物ガスバリア層27上にSiOxを含む第1保護層131を形成する手順と、この第1保護層131上にSiNを含む第2保護層132を形成する手順とを含む。
【0076】
保護層13は形成された後にコンタクトホールが形成され、このコンタクトホールにソース電極16およびドレイン電極17が形成される。
【0077】
<利点>
当該製造方法は、基板11上に、酸化物半導体層22を形成する工程と、酸化物半導体層22上に、金属元素としてIn、ZnおよびAlを含む酸化物ガスバリア層27を形成する工程と、酸化物ガスバリア層27上に、SiNを含む保護層13を形成する工程とを備える。すなわち、当該製造方法では、酸化物半導体層22とSiNを含む保護層13との間にIn、ZnおよびAlを含む酸化物ガスバリア層27が形成された薄膜トランジスタ20を得ることができる。このため、製造過程における熱履歴によって保護層13から拡散するH2が酸化物半導体層22に浸入することを抑制できる。
【0078】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0079】
酸化物ガスバリア層を有する薄膜トランジスタ(第二実施形態)の酸化物半導体層は、In、ZnおよびAlを含んでいてもよい。また、
図3で示すように、In、ZnおよびAlを含む酸化物半導体層12を用いる場合、薄膜トランジスタ30の酸化物ガスバリア層27は、保護層13内(第1保護層131と第2保護層132との間)に配置されてもよい。
【0080】
当該薄膜トランジスタの具体的な構成は、
図1、
図2および
図3に記載された構成に限定されるものではない。例えば上記保護層は、SiNを含む保護層のみであってもよい。また、当該薄膜トランジスタは、ボトムゲート型であってもよい。
【0081】
薄膜トランジスタには、基板と酸化物半導体層との間に、接着性を向上するため、あるいは緩衝材としてのバッファ層などの他の層を設けてもよい。
【実施例0082】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0083】
In、ZnおよびAlを含む酸化物層によるH2およびH2Oのガスバリア耐性を評価するための試料1乃至試料14を作成した。各試料は、厚さ525μmのシリコン基板上に厚さ150nmの第2保護層(SiNを含む)を成膜し、この第2保護層上に厚さ200nm第1保護層(SiOを含む)を成膜し、この第1保護層上にIn、ZnおよびAlの含有率を変更した酸化物層を成膜した。
【0084】
各試料の酸化物層の成膜条件および厚さ(膜厚)を以下に示す。
(1)試料1乃至試料12
成膜法:DC(直流)スパッタリング法
装置:株式会社アルバック製 CS200
成膜温度:室温
ガス圧:1mTorr
キャリアガス:Ar
酸素分圧:100×O2/(Ar+O2)=4体積%
成膜パワー密度:2.55W/cm2
膜厚:15nm
(2)試料13、試料14
成膜法:DC(直流)スパッタリング法
装置:株式会社アルバック製 CS200
成膜温度:室温
ガス圧:1mTorr
キャリアガス:Ar
酸素分圧(第1分圧):100×O2/(Ar+O2)=0体積%
酸素分圧(第2分圧):100×O2/(Ar+O2)=4体積%
成膜パワー密度:2.55W/cm2
膜厚:上記第1分圧で10nmを形成後、さらに上記第2分圧で15nmを形成した(合計25nm)
【0085】
各試料は、TDS(Thermal Desorption Spectrometry)分析にて測定されるH2およびH2Oの量からガスバリア耐性を判定した。
【0086】
TDS分析によるガスバリア耐性の評価としては以下のように設定した。
(1)H2:
300℃~450℃の温度範囲で以下のイオン電流[A]を超えるか否かでA,BまたはCの判定をした。「A」は、H2のガスバリア耐性が良好、「C」は、H2のガスバリア耐性が不良、「B」は、AとCとの中間的な評価を意味する。
1E-9[A]超:C
5E-10[A]超:B
5E-10[A]以下:A
(2)H2O:
以下の温度範囲とイオン電流[A]との関係でA,BまたはCの判定をした。「A」は、H2Oのガスバリア耐性が良好、「C」は、H2Oのガスバリア耐性が不良、「B」は、AとCとの中間的な評価を意味する。
1E-9[A]を超える温度が300℃以上350℃未満:C
1E-9[A]を超える温度が350℃以上400℃未満:B
1E-9[A]を超える温度が400℃以上450℃未満:A
【0087】
TDS分析後、各試料の酸化物層の抵抗値を測定した。抵抗値が100Ωcm未満のものは「A」、抵抗値が100Ωcm以上のものは「B」とした。判定が「B」である酸化物層は、半導体層としての利用が困難であると考えられる。
【0088】
測定は、以下のようにして行った。
(1)イオン電流の測定
・分析装置:TDS1200II(電子科学株式会社製)
温度条件:設定温度USC温度でRT-500℃(60℃/min)
試料ステージ:石英ステージ
・四重極質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer)
イオン化法:電子イオン化
測定モード:SIMモード(選択質量数測定モード)
(2)抵抗の測定
・分析装置:MCP-HT450(日東精工アナリテック株式会社製)
測定方式:定電圧印加、漏洩電流測定方式
【0089】
各試料のIn、ZnおよびAlの含有率および測定結果を表1に示す。表1中、数値はIn、ZnおよびAlの含有率であり、「-」は含有していないことを示す。
【0090】
【0091】
表1から、試料8、試料9、試料10および試料14が、いずれの結果も高評価であったことが分かる。
【0092】
次に、In:65原子%、Zn:35原子%、Al:0原子%を含む酸化物半導体層を備える薄膜トランジスタ(試料15)と、In:65原子%、Zn:28原子%、Al:7原子%を含む酸化物半導体層を備える薄膜トランジスタ(試料16)と、In:64原子%、Zn:35原子%、Al:0.7原子%を含む酸化物半導体層を備える薄膜トランジスタ(試料27)とを作成した。試料15、試料16および試料27についてId-Vg特性を、試料15および試料16について光ストレス耐性を比較した。その結果を
図4乃至
図11に示す。
【0093】
試料15、試料16および試料27のチャネル長を10μmとしてId-Vg特性(ドレイン電流(Id)-ゲート電圧(Vg)特性)を比較した。Id-Vg特性の測定は、それぞれの試料で3回行った。試料15の結果を
図4、試料16の結果を
図5、試料27の結果を
図10に示す。
【0094】
図4、
図5および
図10を比較すると、Vg0[V]付近において、
図4(試料15)、
図10(試料27)、
図5(試料16)の順に傾きが小さくなっている(縦軸に対して平行に近づいている。)。このことから、Alが含有され、またAlの含有量が大きくなることで伝達特性(Id-Vg特性)が向上できると考えられる。
【0095】
続いて試料15および試料16の光ストレス耐性を比較した。光ストレス耐性の評価は、各試料(薄膜トランジスタ:TFT)において、実際の液晶パネル駆動時の環境(ストレス)を模擬して、試料に光(白色光)を照射しながら、ゲート電極に負バイアスをかけ続けるストレス印加試験(NBTIS試験)を実施し、ストレス印加前後の閾値電圧(Vth)の変動値(閾値電圧シフト量:ΔVth)をTFT特性における光ストレス耐性の指標とした。光ストレス耐性は、液晶ディスプレイを駆動する上で重要な特性での一つである。NBTIS試験は、以下の条件で行った。
ゲート電圧:-20V
ソース・ドレイン電圧:10V
基板温度:60℃
ストレス印加時間:2時間
光ストレス時の光強度:25000nit
光ストレス時の光源:白色LED(Light Emitting Diode)
【0096】
試料15のΔVthは3.0[V]であり、試料16のΔVthは1.8[V]であった。試料15の光ストレス耐性の結果を
図6に、試料16の光ストレス耐性の結果を
図7に示す。
図6および
図7を比較すると、Vg0[V]付近で、試料15では横軸方向のばらつきが比較的大きく、かつ縦軸方向に対する傾き(傾斜角度)が比較的大きい。試料16では横軸方向のばらつきが比較的小さく、かつ縦軸方向に対する傾きが比較的小さい。このことから、Alが含有されていることで光ストレス耐性が向上していることが分かる。なお、グラフ(
図6および
図7)中の左の数値は、光ストレスの印加時間を示している。0secは光ストレスの印加開始であり、30sec印加した後に測定し、次に100sec後に測定し、さらに300sec、1000sec、3600sec、7200sec後にそれぞれ測定した。
【0097】
In:65原子%、Zn:35原子%、Al:0原子%を含む酸化物半導体層を備える薄膜トランジスタと、In:65原子%、Zn:28原子%、Al:7原子%を含む酸化物半導体層を備える薄膜トランジスタと、In:64原子%、Zn:35原子%、Al:0.7原子%を含む酸化物半導体層を備える薄膜トランジスタとでチャネル長(チャネル領域の長さ)の異なる試料を作成し、チャネル長の依存性を比較した。各試料番号の含有金属元素およびチャネル長を表2に示す。なお、上述の試料15と表2中の試料19は同一の試料であり、上述の試料16と表2中の試料24は同一の試料であり、上述の試料27と表2中の試料30は同一の試料である。
【0098】
【0099】
試料17から試料26、および試料28から試料32の伝達特性を測定して比較した。試料17乃至試料21の結果を
図8に、試料22乃至試料26の結果を
図9に、試料28乃至試料32の結果を
図11に示す。
【0100】
図8、
図9および
図11を比較すると、チャネル長が8μm以上の試料では、Vg0[V]付近において、
図8、
図11および
図9の順に傾きが小さくなっている(縦軸に対して平行に近づいている。)。このことから、Alが含有され、またAlの含有量が大きくなることで伝達特性(Id-Vg特性)が向上できると考えられる。また、チャネル長が5μmの試料17、試料22および試料28を比較すると、試料17ではVg0[V]付近で横軸方向に大きなシフト(ずれ)が生じているのに対し、試料22および試料28ではシフトが小さくなっている。このことから、Alを酸化物半導体層に含ませることで薄膜トランジスタの小型化が図れると考えられる。
以上説明したように、本開示の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法は、動作安定性の高く、有機ELディスプレイ等に好適な薄膜トランジスタを得ることができる。