(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154391
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法、及びレーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20241023BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20241023BHJP
B23K 26/04 20140101ALI20241023BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/073
B23K26/21 W
B23K26/04
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024065217
(22)【出願日】2024-04-15
(31)【優先権主張番号】202320862122.6
(32)【優先日】2023-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】小林 崇
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡一朗
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA62
4E168BA73
4E168BA83
4E168BA87
4E168BA88
4E168CB18
4E168DA13
4E168DA37
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、ワークのレーザ溶接時に噴出するガス化した金属がワークに衝突して引き起こされるワーク欠陥を回避することのできるレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を提供する。
【解決手段】レーザ溶接装置は、レーザを用いて複数枚に重ね合わせたワーク50を溶接し、レーザ溶接装置は、第1レーザ照射器と、前記第1レーザ照射器と前記ワークのうちの一方を、前記第1レーザ照射器と前記ワークのうちの他方に対して相対的に移動させる駆動装置とを備え、前記第1レーザ照射器のレーザ照射角度Aは溶接進行方向Dとは逆側に位置するように配置され、前記第1レーザ照射器の前記ワークに対する高さを調整することにより、前記第1レーザ照射器にインフォーカスで前記レーザを前記ワークに照射させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザを用いて複数枚の板材を重ね合わせたワークを溶接するレーザ溶接方法であって、
前記レーザを前記ワークに照射した状態で、前記レーザと前記ワークを相対的に移動させて溶接する工程において、
前記レーザが溶接進行方向とは逆側に傾くように照射角度を設けて前記レーザを照射し、
前記レーザの焦点が、前記レーザの前記ワークへの照射により発生するホールより前記溶接進行方向の前方に位置するように前記レーザを照射する
ことを特徴とする、
レーザ溶接方法。
【請求項2】
前記レーザをインフォーカスで照射するように、レーザ照射器と前記ワークとの距離を調整する
ことを特徴とする、
請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記焦点が前記ホールより前記溶接進行方向の前方に位置するように、前記レーザの移動速度又は前記レーザの出力の少なくともいずれか一方を制御する
ことを特徴とする、
請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記レーザの溶融深さのうち、前記レーザを前記照射角度傾けた際に前記ホールより前記溶接進行方向の前方側に延出する長さをX、前記ホールの開口サイズをDとしたときに、
前記レーザの前記移動速度と前記ワークが前記レーザの照射によってガス化するまでの時間をかけ合わせて算出された距離が、D+Xより長くなるように前記レーザを照射する
ことを特徴とする、
請求項3に記載のレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記レーザの照射位置よりも前記溶接進行方向の下流のホール開口部に向けて第2レーザを照射する
ことを特徴とする、
請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
レーザを用いて複数枚の板材を重ね合わせたワークを溶接するレーザ溶接装置であって、
前記レーザと前記ワークのうちの一方を、前記レーザと前記ワークのうちの他方に対して相対的に移動させる駆動装置と
前記レーザが溶接進行方向とは逆側に傾くように照射角度を設けて配置される第1レーザ照射器と、
を備え、
前記レーザの焦点が、前記レーザの前記ワークへの照射により発生するホールより前記溶接進行方向の前方に位置するように前記レーザを照射する
ことを特徴とする、
レーザ溶接装置。
【請求項7】
前記第1レーザ照射器は、前記レーザをインフォーカスで照射するように、前記ワークに対する前記第1レーザ照射器の高さを調整する
ことを特徴とする、
請求項6に記載のレーザ溶接装置。
【請求項8】
前記焦点が前記ホールより前記溶接進行方向の前方に位置するように、前記レーザの移動速度又は前記レーザの出力の少なくともいずれか一方を制御する制御部
を更に備える
ことを特徴とする、
請求項6に記載のレーザ溶接装置。
【請求項9】
前記レーザの溶融深さのうち、前記レーザを前記照射角度傾けた際に前記ホールより前記溶接進行方向の前方側に延出する長さをX、前記ホールの開口サイズをDとしたときに、前記制御部は、前記レーザの前記移動速度と前記ワークが前記レーザの照射によってガス化するまでの時間をかけ合わせて算出された距離が、D+Xより長くなるように前記レーザを照射する
ことを特徴とする、
請求項8に記載のレーザ溶接装置。
【請求項10】
前記第1レーザ照射器により前記レーザの照射位置よりも前記溶接進行方向の下流のホール開口部に向けて第2レーザを照射する第2レーザ照射器
を更に備える
ことを特徴とする、
請求項6に記載のレーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶接方法及び溶接装置に関するものであり、特にレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっき鋼板構造は、一般的に、重ね合わせた複数枚の亜鉛めっき鋼板をレーザ溶接工程によって組み合わせて形成される。亜鉛めっき鋼板にレーザ溶接工程を施す過程で、ワーク(亜鉛めっき鋼板)のレーザ照射によって発生するホールが過度に小さい場合、ワークのレーザ溶接時に噴出するガス化した金属がワークに当たりやすく、ワークに欠陥をもたらす可能性がある。このため、上記問題を克服するためにレーザ溶接装置を改良する必要がある。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、ワークのレーザ溶接時に噴出するガス化した金属がワークに衝突して引き起こされるワーク欠陥を回避することのできるレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を提供する。
【0004】
本発明は、レーザを用いて複数枚の板材を重ね合わせたワークを溶接するレーザ溶接方法を提供し、前記レーザを前記ワークに照射した状態で、前記レーザと前記ワークを相対的に移動させて溶接する工程において、前記レーザが溶接進行方向とは逆側に傾くように照射角度を設けて前記レーザを照射し、前記レーザの焦点が、前記レーザの前記ワークへの照射により発生するホールより前記溶接進行方向の前方に位置するように前記レーザを照射する。
【0005】
本発明の実施形態において、前記レーザをインフォーカスで照射するように、レーザ照射器と前記ワークとの距離を調整する。
【0006】
本発明の実施形態において、前記焦点が前記ホールより前記溶接進行方向の前方に位置するように、前記レーザの移動速度又は前記レーザの出力の少なくともいずれか一方を制御する。
【0007】
本発明の実施形態において、前記レーザの溶融深さのうち、前記レーザを前記照射角度傾けた際に前記ホールより前記溶接進行方向の前方側に延出する長さをX、前記ホールの開口サイズをDとしたときに、前記レーザの前記移動速度と前記ワークが前記レーザの照射によってガス化するまでの時間をかけ合わせて算出された距離が、D+Xより長くなるように前記レーザを照射する。
【0008】
本発明の実施形態において、前記レーザの照射位置よりも前記溶接進行方向の下流のホール開口部に向けて第2レーザを照射する。
【0009】
本発明は、レーザを用いて複数枚の板材を重ね合わせたワークを溶接するレーザ溶接装置を提供し、前記レーザと前記ワークのうちの一方を、前記レーザと前記ワークのうちの他方に対して相対的に移動させる駆動装置と、前記レーザが溶接進行方向とは逆側に傾くように照射角度を設けて配置される第1レーザ照射器とを備え、前記レーザの焦点が、前記レーザの前記ワークへの照射により発生するホールより前記溶接進行方向の前方に位置するように前記レーザを照射する。
【0010】
本発明の実施形態において、前記第1レーザ照射器は、前記レーザをインフォーカスで照射するように、前記ワークに対する前記第1レーザ照射器の高さを調整する。
【0011】
本発明の実施形態において、前記レーザ溶接装置は、前記焦点が前記ホールより前記溶接進行方向の前方に位置するように、前記レーザの移動速度又は前記レーザの出力の少なくともいずれか一方を制御する制御部を更に備える。
【0012】
本発明の実施形態において、前記レーザの溶融深さのうち、前記レーザを前記照射角度傾けた際に前記ホールより前記溶接進行方向の前方側に延出する長さをX、前記ホールの開口サイズをDとしたときに、前記制御部は、前記レーザの前記移動速度と前記ワークが前記レーザの照射によってガス化するまでの時間をかけ合わせて算出された距離が、D+Xより長くなるように前記レーザを照射する。
【0013】
本発明の実施形態において、前記レーザ溶接装置は、前記第1レーザ照射器により前記レーザの照射位置よりも前記溶接進行方向の下流のホール開口部に向けて第2レーザを照射する第2レーザ照射器を更に備える。
【0014】
上記に基づき、本発明のレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置において、第1レーザ照射器のレーザ照射角度は溶接進行方向とは逆側に位置し、且つ第1レーザ照射器はインフォーカスでレーザをワークに照射することで、第1レーザ照射器がレーザをワークに照射してワークに発生するホールの面積を大きくさせる。これに基づき、レーザ溶接時にワークから噴出するガス化した金属はホールを通過してワークから離れやすくなる。これにより、本発明のレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置は、ワークのレーザ溶接時に噴出するガス化した金属がワークに衝突して引き起こされるワーク欠陥を回避することができる。
【0015】
本発明の上述した特徴及び利点をより明確且つ理解しやすくするため、以下に実施形態を示し、添付図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の1つの実施形態によるレーザ溶接装置の概略図である。
【
図3】本発明のもう1つの実施形態によるレーザ溶接装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の1つの実施形態によるレーザ溶接装置の概略図である。
図2は、
図1のレーザがワークを照射する図である。
図1と
図2を参照し、本実施形態のレーザ溶接装置100は、レーザLを用いて複数枚の亜鉛めっき鋼板52を重ね合わせたワーク50を溶接し、レーザ溶接装置100は第1レーザ照射器110と駆動装置120とを備える。駆動装置120は、第1レーザ照射器110とワーク50のうちの一方を、第1レーザ照射器110とワーク50のうちの他方に対して相対的に移動させる。本実施形態において、駆動装置120は、例えば第1レーザ照射器110に接続され且つ第1レーザ照射器110を溶接進行方向Dに沿ってワーク50に対して移動させるよう駆動する。
【0018】
本実施形態において、第1レーザ照射器110のレーザ照射角度Aは溶接進行方向Dとは逆側に位置するように配置される。即ち、レーザLの光軸OAはワーク50へ向かって溶接進行方向Dにおける後方に傾斜する。具体的には、第1レーザ照射器110は照射方向Eに沿ってレーザLをワーク50に照射し、ワーク50にホール501を生成し、照射方向EはレーザLの光軸OAに平行であり、基準平面Sは溶接進行方向Dに垂直であり且つホール501と溶接進行方向D上の前縁501aにおいて交わり、レーザLの光軸OAは基準平面Sからレーザ照射角度Aで基準平面Sへ向かい、溶接進行方向Dにおける後方に傾斜する。
【0019】
また、本実施形態において、第1レーザ照射器110のワーク50に対する高さを調整することにより、第1レーザ照射器110にインフォーカスでレーザLをワークに照射させる。具体的には、本実施形態のレーザ溶接装置100は制御部130を更に備え、第1レーザ照射器110のワーク50に対する高さは、例えば制御部130によって制御され、且つ制御部130は駆動装置120の移動速度及び第1レーザ照射器110の出力のうちの少なくとも1つを制御することで、第1レーザ照射器110のレーザの焦点Fを溶接進行方向Dにおいてホール501の前方に位置させる。
【0020】
上述したように、本実施形態のレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置100において、第1レーザ照射器110のレーザ照射角度Aは溶接進行方向とは逆側に位置し、且つ第1レーザ照射器110はインフォーカスでレーザLをワーク50に照射することで、第1レーザ照射器110がレーザLをワーク50に照射してワーク50に発生するホール501の面積を大きくさせる。これに基づき、レーザ溶接時にワーク50から噴出するガス化した金属がホール501を通過してワーク50から離れやすくなる。これにより、本実施形態のレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置100は、ワーク50のレーザ溶接時に噴出するガス化した金属がワーク50に衝突して引き起こされるワーク欠陥を回避することができる。また、レーザLのホール501の深度方向におけるエネルギー密度が高くなることで深いホール501を形成することができ、これにより溶接速度を増加させ且つ厚さの大きい及び/又は高融点のワークも溶接可能となる。
【0021】
本実施形態において、制御部130が駆動装置120の移動速度を制御することによって、レーザLの移動速度は過度に速くなることがなく、これにより、レーザLの移動速度が過度に速いことによって引き起こされる、レーザLがワーク50を照射するエネルギーが不足してホール501の形成が不安定となることを回避し、且つレーザLの移動速度が過度に速いことによって引き起こされる、噴出するガス化した金属がホール501において直接後方に移動し、ホール501外へと上へ移動しないことを回避することができる。また、制御部130が駆動装置120の移動速度を制御することによって、レーザLの移動速度は過度に遅くなることがなく、これにより、レーザLの移動速度が過度に遅いことによって引き起こされる、レーザLがワーク50を照射するエネルギーが過剰となりホール501の形成が不安定となることを回避し、且つレーザLの移動速度が過度に速いことによって引き起こされる、ホール501の面積が過度に小さく、噴出するガス化した金属がホール501を通過してワーク50を離れにくくなることを回避することができる。
【0022】
図3は、本発明のもう1つの実施形態によるレーザ溶接装置の概略図である。
図4は、
図3のレーザがワークを照射する図である。
図3と
図4が示す実施形態と
図1と
図2が示す実施形態との差異は、
図3と
図4の実施形態の示すレーザ溶接装置100Aは第2レーザ照射器140を更に備えることにある。第1レーザ照射器110は第1レーザ照射位置P1でレーザLをワーク50に照射し、第2レーザ照射器140は第2レーザ照射位置P2でレーザをホール501’の開口部Hに照射し、第2レーザ照射位置P2は第1レーザ照射位置P1の溶接進行方向Dにおける下流に位置する。これにより、ホール501’の面積、及びレーザのホール501’の深度方向におけるエネルギー密度を更に増加させることができる。
【0023】
上記をまとめると、本発明のレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置において、第1レーザ照射器のレーザ照射角度は溶接進行方向とは逆側に位置し、且つ第1レーザ照射器はインフォーカスでレーザをワークに照射することで、第1レーザ照射器がレーザをワークに照射してワークに発生するホールの面積を大きくさせる。これに基づき、レーザ溶接時にワークから噴出するガス化した金属はホールを通過してワークから離れやすくなる。これにより、本発明のレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置は、ワークのレーザ溶接時に噴出するガス化した金属がワークに衝突して引き起こされるワーク欠陥を回避することができる。
【0024】
最後に説明すべきこととして、以上の実施形態は本発明の技術を説明するために用いているのみであり、本発明を限定しない。上述した実施形態を参照し本発明を詳細に説明したが、当業者であれば、上述の実施形態に記載の技術を改変する、或いは、そのうちの部分的又は全ての技術的特徴に同等の置き換えを行うことができることを理解するはずである。例えば、本実施形態では、ワーク50として亜鉛めっき鋼板を用いたがこれに限らない。ワーク50はレーザ溶接装置によって溶融接合できる金属であればその材料は限定されず、アルミニウムや銅などであってもよい。これらの改変又は置き換えは、対応する技術の本質を本発明の実施形態の技術の範囲から逸脱させるものではない。
【符号の説明】
【0025】
50:ワーク
52:亜鉛めっき鋼板
501a:前縁
100、100A:レーザ溶接装置
110:第1レーザ照射器
120:駆動装置
130:制御部
140:第2レーザ照射器
501:ホール
A:レーザ照射角度
D:溶接進行方向
E:照射方向
F:焦点
L、L’:レーザ
OA:光軸
P1:第1レーザ照射位置
P2:第2レーザ照射位置
S:基準平面