(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154397
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】炭素繊維及び炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 17/00 20060101AFI20241023BHJP
C08J 11/12 20060101ALI20241023BHJP
C08J 11/16 20060101ALI20241023BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20241023BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20241023BHJP
【FI】
B29B17/00 ZAB
C08J11/12
C08J11/16
B29B11/16
B29K105:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024065870
(22)【出願日】2024-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2023068003
(32)【優先日】2023-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518049692
【氏名又は名称】アイカーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】伊集院 乘明
【テーマコード(参考)】
4F072
4F401
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB10
4F072AD04
4F072AD44
4F072AD46
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4F072AH04
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4F072AK02
4F072AK15
4F401AA08
4F401AA11
4F401AA13
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4F401AB06
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4F401CA58
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4F401CA75
4F401CB01
4F401CB14
4F401EA26
4F401FA01Z
4F401FA04Z
4F401FA07Z
4F401FA10Z
4F401FA20Z
(57)【要約】
【課題】
炭素繊維強化樹脂組成物(CFRP)から回収したリサイクル炭素繊維から成るカットファイバー及び該カットファイバーを製造する方法を提供する。
【解決手段】
射出成形や押出成形等に使用される樹脂組成物を得る際、添加されるカットファイバー及びその製造方法を提供する。本発明のカットファイバーは、力学特性の高いリサイクル炭素繊維から成り、嵩密度が大きく押出機等でのサイドフィード性が良好なリサイクル炭素繊維組成物であり、原料であるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の母材樹脂を化学分解し、その一部を結束剤として利用したリサイクル炭素繊維組成物から成る。本発明のカットファイバーの製造方法は、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化樹脂組成物の未硬化プリプレグを原料とし、硝酸を含む酸性水溶液中で攪拌ないしは向流処理し、未硬化プリプレグの樹脂分の一部を溶出してカットファイバー状の物(以下、カットファイバー状物)を得る工程(1)、及び、工程(1)で得られたカットファイバー状物を、加熱処理して、カットファイバー状物の一部の樹脂分を除去して炭素繊維を得る工程(2)から成る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化樹脂組成物の未硬化プリプレグを原料とし、該未硬化プリプレグから得られるリサイクル炭素繊維を含む組成物が下記(1)~(4)の条件を満たすカットファイバー。
(1)炭素繊維を除く母材樹脂成分の残渣(以後、樹脂残渣と称す)の含有量が2質量%~12質量%の範囲、
(2)6mm長にした場合の嵩密度が0.15g/cc以上、
(3)炭素繊維を除く樹脂残渣の平均分子量が、280~500の範囲、
(4)炭素繊維の引張強度が、未硬化プリプレグに含まれる元の炭素繊維(バージン炭素繊維)の引張強度の95%以上を保持しており、引張弾性率が元の炭素繊維の90%以上を保持している。
【請求項2】
未硬化プリプレグを、硝酸を1~10Mの範囲の濃度で含む酸性水溶液中で浸漬し、未硬化プリプレグの樹脂分の一部を溶出させてカットファイバー状になった物(以下、カットファイバー状物と称する)を得る工程(1)、工程(1)で得られたカットファイバー状物を、加熱処理して、カットファイバー状物の樹脂分の一部を除去して炭素繊維を得る工程(2)を含む、結束した炭素繊維の製造方法。
【請求項3】
工程(1)にて、繊維長50mm未満に切断された未硬化プリプレグを、酸性水溶液を含む反応槽で、一定方向の回転ないしは旋回液流で攪拌し、かつ、攪拌レイノルズ数が1000以上の攪拌領域で反応させてカットファイバー状物を得る、請求項2に記載の結束した炭素繊維の製造方法。
【請求項4】
工程(1)にて、繊維長50mm以上の未硬化プリプレグを、酸性水溶液を含む管内で一定方向に移動させ、或いは、管内に固定した未硬化プリプレグに対して酸性水溶液を一定方向に向流させて、筒内のレイノルズ数が10以上の流速で反応させてカットファイバー状物を得る、請求項2に記載の結束した炭素繊維の製造方法。
【請求項5】
工程(2)にて、工程(1)で得られたカットファイバー状物を、120℃~300℃の範囲で1段目加熱処理し、化学分解した樹脂残渣を揮発及び溶融させることによってリサイクル炭素繊維を結束させ、さらに380~520℃の範囲で2段目加熱処理し、化学分解した樹脂残渣をさらに減量させて、カットファイバーを得る、請求項2に記載の結束した炭素繊維の製造方法
【請求項6】
請求項1または2に記載の方法によりカットファイバーまたは結束した炭素繊維を得る工程、及び得られたカットファイバーまたは結束した炭素繊維を用いて、炭素繊維強化樹脂組成物を製造する工程を含む、炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
炭素繊維強化樹脂組成物は、炭素繊維と熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物であって、(A)リサイクル炭素繊維と(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂の合計量を100質量%として、(A)炭素繊維5~95質量%、(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂5~95質量%からなる炭素繊維強化樹脂組成物である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種である請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維及び炭素繊維強化樹脂組成物に関する。より詳細には、射出成形、押出成形、プレス成形用等の樹脂複合物を得る際、添加に好適なリサイクル炭素繊維及びその製造方法、リサイクル炭素繊維強化樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は軽量かつ高強度の材料として注目されており、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などのバインダーを用いて複合した材料である炭素繊維複合材料として利用されている。炭素繊維と樹脂を複合した炭素繊維強化樹脂(CFRP)は、航空機や自動車材料、スポーツ用品など幅広く利用されており、軽量化による燃費の向上等に繋がるとして 今後市場はますます拡大していくものと考えられる。しかしその一方で、工程余材や廃材の処理が問題となっている。
【0003】
航空機部材メーカーや炭素繊維メーカーから工程余材として排出されるCFRP廃材中の炭素繊維を、低コストかつバージン炭素繊維と同等の品質でリサイクルすることができれば、今後これまで利用されていなかった様々な分野での市場が拡大するものと考えられ、また、埋め立てや焼却処分される廃材も減少するため、環境負荷も低減される。このため、CFRP廃材から炭素繊維を単離回収するリサイクル炭素繊維の製法については多くの報告があり、新規の研究も継続して行われている。しかしリサイクル炭素繊維はバージン(新品)炭素繊維よりも安価であるのにも関わらず普及は進んでいない。その理由は各種あろうが品質が不明で、使い難いことも一因であると考えられる。
【0004】
炭素繊維リサイクル製法としては、CFRPを加熱焼成し母材樹脂を熱分解する方法と、母材樹脂を薬品で溶解ないしは化学分解させる溶解法に大別される。特許文献1に記載の熱分解法では、過熱水蒸気を供給し加熱炉内で400℃以上に高温焼成することにより母材樹脂を分解しているが、この方法では、加熱処理により炭素繊維が劣化してしまい、再生炭素繊維の機械強度がバージン炭素繊維の80%にとどまっていることが実施例1に記載されている。
【0005】
溶解法としては、200℃で母材樹脂を溶解させる常圧溶解法(特許文献2)があり、樹脂残渣が無く、得られたリサイクル炭素繊維の力学強度も高いが、製造コストが高く実用化されていない。他の溶解(溶媒)法としては電気分解で発生させた過硫酸を用いる方法(特許文献3)や、高温に加熱した硫酸やリン酸で母材樹脂を溶かす方法(特許文献4~5)が報告されている。これら溶解法からは総じて高い力学強度を有するリサイクル炭素繊維が得られているが、CFRPの母材樹脂が全量除去されているために、綿状ないしは羊毛状の繊維しか得られず用途が限定される欠点があった。
【0006】
本願出願者も、航空機部材メーカーや炭素繊維メーカーから大量に排出される未硬化プリプレグを原料として硝酸で母材エポキシ樹脂を化学分解し、その後、アルカリ水溶液で母材樹脂を除去する製法を開発し、バージン炭素繊維と同等以上の強度が得られる発明(特許文献6)をしたが、他の溶解法と同じように綿状ないしは羊毛状の繊維しか得られず、不織布用などに用途が限定されていた。
【0007】
炭素繊維の製品としてカットファイバーないしはチョップドストランドと呼ばれる6mm前後の短い繊維があり、熱可塑性樹脂の強度向上材として大量に使用されている。カットファイバーは結束した連続炭素繊維を、収束剤で収束後、一定長に切断して製造される。連続繊維から得られるカットファイバーは十分に収束しているため繊維のほつれ等が無く、押出機で熱可塑性樹脂と混練りする際、サイドフィード機と呼ばれる供給機で途中フィードする際にも、途中で詰まることなく安定してスムーズに供給される。
【0008】
一方、リサイクル炭素繊維の場合、溶解(溶剤)法でリサイクルされた炭素繊維は綿状になっているため、カットファイバーが得られず、主に熱分解法メーカーがカットファイバーを供給してきた。しかし熱分解法で得られたカットファイバーは400~600℃の高温でリサイクルされているため、中に含まれる炭素繊維の強度が大幅に低下する。また結束を維持するために母材樹脂を残す必要があるが、母材樹脂は高温で炭化しており結束力が弱く、得られたカットファイバーはほつれ等があり、サイドフィード性の指標となる嵩密度が大幅に低下している。さらに炭化した母材樹脂が15~20%残るため、満足な品質のものが得られていない。このような背景のもとに、溶解(溶剤)法から作られた高品質なカットファイバーが熱望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-064219号公報(特許5347056)
【特許文献2】特開2005-255835号公報(特許4686991)
【特許文献3】特願2016-062004号公報(特許6669354)
【特許文献4】特開2020-050704号公報
【特許文献5】特開2022-102186号公報
【特許文献6】特開2023-040186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明の目的は、炭素繊維強化樹脂材料(CFRP)から炭素繊維を劣化させることなく、低コストでリサイクル炭素繊維からなるカットファイバーを提供することにある。なお、混乱を避けるためにリサイクル炭素繊維とカットファイバーを以下に定義する。
【0011】
リサイクル炭素繊維;
各種リサイクル炭素製造法によりCFRPから回収された炭素繊維。製法に応じて、炭素繊維の性能や母材樹脂残存量(樹脂残渣量)が異なるが、そのままカットファイバーとし
て利用できるわけでは無い。
【0012】
カットファイバー;
押出成形等により樹脂複合物を得る際に供せられるリサイクル炭素繊維。一般的には3~12mm長に切断されたものが使用されるが、6mm長の物が多い。リサイクル炭素繊維製造時、母材樹脂の一部を結束剤として残し製造される場合が多いが、結束を強化するために、別途、結束剤を併用することもある。フィード(供給)機やフィード管内で滞留したり詰まったりしないことが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、種々検討し、CFRPの未硬化プリプレグの母材樹脂を、硝酸を含む酸性水溶液を用い、化学分解にて低分子量化した後、加熱溶融して結束剤として利用し、さらに残りの母材樹脂を、より高温で加熱除去して高性能なカットファイバーを製造する方法を見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明は以下の通りである。
[1]
炭素繊維強化樹脂組成物の未硬化プリプレグを原料とし、該未硬化プリプレグから得られるリサイクル炭素繊維を含む組成物が下記(1)~(4)の条件を満たすカットファイバー。
(1)炭素繊維を除く母材樹脂成分の残渣(以後、樹脂残渣と称す)の含有量が2質量%~12質量%の範囲、
(2)6mm長にした場合の嵩密度が0.15g/cc以上、
(3)炭素繊維を除く樹脂残渣の平均分子量が、280~500の範囲、
(4)炭素繊維の引張強度が、未硬化プリプレグに含まれる元の炭素繊維(バージン炭素繊維)の引張強度の95%以上を保持しており、引張弾性率が元の炭素繊維の90%以上を保持している。
[2]
未硬化プリプレグを、硝酸を1~10Mの範囲の濃度で含む酸性水溶液中で攪拌して、未硬化プリプレグの樹脂分の一部を溶出して一部が繊維状化した物(以下、カットファイバー状物と称する)を得る工程(1)、工程(1)で得られたカットファイバー状物を、加熱焼成して、カットファイバー状物の樹脂分の一部を溶出して炭素繊維を得る工程(2)を含む、結束した炭素繊維の製造方法。
[3]
[2]に記載の工程(1)にて、繊維長50mm未満に切断された未硬化プリプレグを、酸性水溶液を含む反応槽で、一定方向の回転ないしは旋回液流で攪拌し、かつ、攪拌レイノルズ数が1000以上の攪拌領域で反応させてカットファイバー状物を得る、[2]に記載の結束した炭素繊維の製造方法。
[4]
50mm以上の未硬化プリプレグを、酸性水溶液を含む管内で一定方向に移動させ、或いは、固定した未硬化プリプレグに対して酸性水溶液を一定方向に向流させて、円筒内のレイノルズ数が10以上の流速で反応させてカットファイバーを得る[2]に記載の結束した炭素繊維の製造方法。
[5]
[1]に記載の工程(2)にて、工程(1)で得られたカットファイバー状物を、120~300℃の範囲で1段目加熱処理し、化学分解した樹脂残渣を揮発及び溶融させることによってリサイクル炭素繊維を結束させ、さらに380~520℃の範囲で2段目加熱処理し、化学分解した樹脂残渣をさらに減量させて、カットファイバーを得る[2]~[4]のいずれかに記載の結束した炭素繊維の製造方法。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の方法によりカットファイバーまたは結束した炭素繊維を得る工程、得られたカットファイバーまたは結束した炭素繊維を用いて、炭素繊維強化樹脂組成物を製造する工程を含む、炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法。
[7]
炭素繊維強化樹脂組成物は、炭素繊維と熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物であって、(A)リサイクル炭素繊維と(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂の合計量を100質量%として、(A)炭素繊維5~95質量%(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂5~95質量%からなる炭素繊維強化樹脂組成物である、[6]に記載の製造方法。
[8]
熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種である[7]に記載の製造方法。
[9]
熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種である[7]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来得られなかった性能を有する高性能なリサイクル炭素繊維のカットファイバーを使用することにより、低コストですぐれた機械物性をもつ樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明により得られたリサイクル炭素繊維カットファイバー(左図)とバージン炭素繊維のカットファイバー(東レ社TV014-006(ベース炭素繊維T700))(右図)の写真を示す。
【
図2】本発明により得られた硝酸反応後のカットファイバー状物の写真を示す。右図はその拡大写真である。
【
図3】射出成形用カットファイバーの使用方法の説明図を示す。カットファイバーは二軸押し出し機の途中から供給される(サイドフィード)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[リサイクル炭素繊維からなるカットファイバー]
本発明のカットファイバーは、例えば、後述の本発明の製造方法で製造され、下記(1)~(4)の条件を満たす。
(1)炭素繊維を除く母材樹脂成分の残渣(以後、樹脂残渣と称す)の含有量が2質量%~12質量%の範囲、
(2)6mm長にした場合の嵩密度が0.15g/cc以上、
(3)炭素繊維を除く樹脂残渣の平均分子量が、280~500の範囲、
(4)炭素繊維の引張強度が、未硬化プリプレグに含まれる元の炭素繊維(バージン炭素繊維)の引張強度の95%以上を保持しており、引張弾性率が元の炭素繊維の90%以上を保持している。
【0018】
本発明では、原料の未硬化プリプレグ中の母材樹脂成分の残渣を結束剤として利用し結束を維持するが、この残渣は、硝酸を含む酸性水溶液にてエポキシ樹脂が化学的に分解した樹脂であり、熱分解法で生成する炭化した樹脂残渣とは異なる。樹脂残渣の量は結束程度に影響し、また、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂に添加し複合材を得る場合、力学強度に影響する。
【0019】
炭素繊維を熱可塑性樹脂と混練りする際、二軸押出機などの樹脂加工機を使用するが、炭素繊維の供給は、加工機の途中部分から自動フィード機などで供給する。結束が弱い場合、フィード中に結束がほぐれてフィード機を詰まらせるトラブルが生じる。樹脂残渣量が2%未満であると、炭素繊維を十分に結束できないため、結束がほぐれてフィード機を詰まらせる。一方、樹脂残渣が12重量%を超えると、樹脂複合材にした場合、強度が低下し目的の強度が得られない。樹脂残渣の量は好ましくは3重量%~10重量%、さらに好ましくは4重量%~8重量%である。なお、これら樹脂残渣量の範囲であれば、市販の結束剤、表面処理剤を目的に応じて適当量使用することが出来る。
【0020】
同様な理由で、嵩密度は炭素繊維のフィード性に影響する。嵩密度が小さいと、フィード速度が低下し、また、フィード機を詰まらせるトラブルが生じる。嵩密度は炭素繊維の繊維長、及び炭素繊維の線径(直径)にもよるが、プリプレグを6mm長で切断し得られたリサイクル炭素繊維を基準にすると、0.15g/cc以上が必要である。0.15g/未満であると安定的にフィードできないばかりか、樹種複合体にした場合、力学強度不足ないしは強度のばらつきが生じる。嵩密度の好ましい範囲は0.20g/cc以上、更に好ましくは0.25g/cc以上である。
【0021】
本発明では、CFRPの母材樹脂を、硝酸を含む酸性水溶液で化学分解した樹脂残渣を利用して結束する。分解した樹脂の主成分は、硝酸由来のニトロ基がエポキシ樹脂の芳香環に付加したニトロフェノール類であるが、低分子量成分として、ジニトロフェノール(分子量184)やトリニトロフェノール(別名ピクリン酸:分子量229)、トリニトロアニリン(別名:ピクラミド:分子量228)などであり、これらは結束に有効利用できず、酸性度が強いため後の工程で十分に除去する必要がある。
【0022】
これら低分子量成分は、酸性水溶液中に溶解しているか或いは析出して残存しているが、残りの分解物は、炭素繊維表面に付着したまま残っている。それらをN-メチルピロリドン等の有機溶剤で溶解させ、溶解液を高速液体クロマトグラフィーや質量分析装置で分析すると多数のピークが観測される。このうち、分子量280未満のピークは揮発性成分であり、220℃以下の加熱により一部揮散するが、分子量280~500の分解物は220℃以上では揮散しにくいが加熱すると粘着性を示すため結束材として利用でき、400℃以上の加熱で熱分解して除去させることが出来る。なお、分子量500以上の樹脂残渣成分が多量にあると熱可塑性樹脂との混練り時、結束がほどきにくくなるため樹脂残渣成分の平均分子量は280~500が適当である。
【0023】
リサイクル炭素繊維の各種性能はバージン炭素繊維と同等であることが求められることが多い。用途に応じて炭素繊維にも求められる性能は多種多様にわたるが、炭素繊維の基本性能は力学強度である。本発明においては、熱分解法などの競合法で得られたリサイクル炭素繊維と比べて力学強度の高いリサイクル炭素繊維が得られるが、各種用途に対応するためには、カットファイバー中のリサイクル炭素繊維にも適正な強度が求められる。
【0024】
本発明の製法からは、高い強度を有するリサイクル炭素繊維が得られるが、バージン品とほぼ同等と見なされ再利用されるためには、リサイクル炭素繊維単糸の引張強度が、原料の未硬化プリプレグに含まれる元のバージン炭素繊維の単糸(単繊維)の引張強度の95%以上を保持しており、引張弾性率が元の炭素繊維の単糸の引張弾性率の90%以上を保持していることが必要である。元の炭素繊維単糸の引張強度に比べてリサイクル炭素繊維単糸の引張強度が95%未満であると、樹脂残渣等を含んだカットファイバーが、バージン炭素繊維からなるカットファイバーと同等性能と見なされない。同じく、リサイクル炭素繊維の引張弾性率が元のバージン炭素繊維の引張弾性率の90%以下であると、バージンカットファイバーと同等性能とは見なされず、置き換えや再利用が困難になる。リサイクル炭素繊維単糸の好ましい引張強度は97%以上、更に好ましくは99%以上、好ましい引張弾性率は93%以上、更に好ましくは95%以上である。
【0025】
[リサイクル炭素繊維からなるカットファイバーの製造方法]
本発明のカットファイバーの製造方法は、CFRPの未硬化プリプレグを原料とし、未硬化プリプレグを、硝酸を含む酸性水溶液中で攪拌して、CFRPの樹脂分の少なくとも一部を溶出してカットファイバー状物を得る工程(1)、及び工程(1)で得られたカットファイバー状物を加熱焼成してカットファイバー状物の樹脂分の一部を除去して炭素繊維を得る工程(2)を含む。
【0026】
工程(1)
CFRPの未硬化プリプレグを、酸性水溶液中で攪拌し、CFRPの樹脂分の少なくとも一部を溶出して得る。CFRPの未硬化プリプレグは、CFRP製品を製造する過程で生じる端材や不良品等として、主に焼却あるいは埋め立て処理されていた物である。
【0027】
工程(1)に供するCFRPの形状や寸法等は、特に制限される物ではないが、カットファイバーを得る目的、及びCFRPの樹脂分の溶出の容易さや溶液中での攪拌や移動の操作の容易さという観点からは、事前に一定以下の寸法に切断等することが好ましい。但し、寸法を小さくしすぎると内在する炭素繊維の寸法(長さ)を小さくすることになるため、回収される炭素繊維の寸法も考慮して、適宜決定することが好ましい。実用的には、3mm~25mm長が良く使用されるが、この範囲に限定される意図ではない。
【0028】
工程(1)において用いる酸性水溶液は、硝酸を1~10Mの範囲の濃度で含み、他に硫酸、塩酸、リン酸等の無機酸やギ酸、酢酸、クエン酸などの有機酸や、過酸化水素、有機ハイドロパーオキサイドなどの水溶性過酸化物を加えることが出来る。酸性水溶液は、処理対象であるCFRPの種類や処理条件(主に処理温度と時間)を考慮して適宜決定できる。
【0029】
50mm未満に切断された未硬化プリプレグは、酸性水溶液を含む反応槽で攪拌される。攪拌レイノルズ数が1000以上の遷移領域、乱流域で攪拌すると好ましい形状のカットファイバーが得られる。また、回転数が高く回転流(旋回流)が得られる攪拌条件が、カットファイバー状の形状が揃うので好ましい。攪拌に用いる羽根の形状や直径等は攪拌条件に応じて適宜選択される。攪拌レイノルズ数は下式で定義される。
【0030】
【0031】
50mm長以上に切断された未硬化プリプレグは攪拌すると攪拌羽根に絡みつきやすくなるため、酸性水溶液を含む適当なサイズの円筒管内を循環させるか、或いは、管内で固定して酸性水溶液を流して処理される。円筒内レイノルズ数が10以上になる流速で処理すると好ましい形状のカットファイバー状物が得られる。円筒内レイノルズ数は下式で定義される。
【0032】
【0033】
酸性水溶液の温度は、40~100℃の範囲とすることができ、樹脂の溶解性の面で特に有効であることから、50~95℃の範囲であることが好ましく、60~90℃の範囲であることがより好ましい。
【0034】
CFRPの未硬化プリプレグの母材エポキシ樹脂は酸性水溶液にて短時間で化学分解し、低分子化する。工程(1)においては、未硬化プリプレグの一部が、
図1に示したようなカットファイバー状物になるまで酸性水溶液中で撹拌して未硬化プリプレグの母材樹脂を化学分解することが好ましい。攪拌条件と酸性水溶液の反応条件が適正であるならば、CFRP未硬化プリプレグの母材樹脂は化学分解するにつれて粘着性を示し、CFRP同士がくっつきあってカットファイバー状に成長する。また、化学分解に伴って一部は酸性水溶液に溶出する。CFRPの母材樹脂が化学的に分解すれば、工程(2)における加熱処理にてカットファイバーを得ることが出来る。
【0035】
工程(1)における樹脂の一部が化学分解し酸性水溶液に溶出する量は、浸漬前のCFRPの質量を100としたときに、例えば、2~98の範囲であることができ、好ましくは3~95の範囲、より好ましくは5~95の範囲である。残りは樹脂残渣として炭素繊維表面に残存する。樹脂残渣には酸性水溶液や、化学分解した酸性の樹脂成分を含むため、工程(2)に進む前に、水で洗浄後、アルカリ性水溶液や塩基性水溶液を用いて適当な濃度で中和することが好ましい。なお、塩基性水溶液とは、pH(水素イオン指数)が7より大きい水溶液である。
【0036】
中和に用いる、アルカリ性水溶液は、アルカリとして例えばアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩など、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩などであり、塩基性水溶液の塩基としては、アミン化合物、脂肪族アルキル酸構造や芳香族構造を含むアルキル酸塩、多価アルコールアルキレンオキサイド化合物を含む塩などを挙げることができる。アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウムなど、アルカリ土類金属としてはベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどを挙げることができ、また、塩基性水溶液に用いる塩基として、アンモニア、モノメチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、などのアミン類などを挙げることができる。また、脂肪族アルキル基構造を有するカルボン酸としてはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などや、芳香族構造を含むアルキル酸としてはドデシルベンゼンスルホン酸などを挙げることが出来る。また、多価アルコールアルキレンオキサイド化合物としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシプロピレンエーテルなどを挙げることが出来る。これらは水への溶解性および入手の容易さ等を考慮して適宜選択される。
【0037】
これら、アルカリ性ないしは塩基性水溶液の濃度は、溶解させる化合物の性質や、及び溶解温度、溶解時間を考慮して適宜決定でき、例えば0.01重量%~10重量%で使用される。
【0038】
工程(2)
工程(1)で得られたカットファイバー状物を洗浄後、工程(2)にて2段階で加熱焼成してカットファイバーを得る。1段目の加熱処理は、120~300℃の範囲で加熱し、残存する水分や揮発性成分を除去する。また、この時、カットファイバー状物に含まれる低融点樹脂残渣によって炭素繊維が結束する。2段目の加熱の処理は、350℃以上、520℃以下の範囲で加熱するが、焼成時間は15分~120分の範囲で行う。焼成温度が350℃未満であると、目的の樹脂残渣量まで量を減らすことができず、520℃以上で焼成すると、炭素繊維が劣化し強度が低下する。また、焼成時間が15分未満では、目的の樹脂残渣の量を減らすことができず、120分以上焼成すると炭素繊維が劣化し強度が低下する。焼成温度と焼成時間は、樹脂残渣量と単糸強度が目的の値になるよう組み合わせて適用する。
【0039】
カットファイバー状物の加熱焼成には、バッチ式の熱風乾燥炉、連続式熱風乾燥機、バッチ式ロータリーキルン、連続式ロータリーキルンなどが用いられる。これらを組み合わせて使用しても良い。
【0040】
工程(1)及び工程(2)で得られたリサイクル炭素繊維のカットファイバーは、必要に応じて洗浄、乾燥を行い、回収する。カットファイバーの洗浄後の脱水には遠心分離機などの脱水機を用いる。加圧プレス、スクリュープレス、ベルトプレス、加圧式ろ過機などはカットファイバーの形状を崩さない条件で用いられる。これら機を単独ないしは複数組み合わせて用いることができる。
【0041】
本発明の方法で製造したリサイクル炭素繊維のカットファイバーは、熱可塑性樹脂に添加してペレットやシートにすることが出来、熱硬化性樹脂に添加すればプレス成型品を得ることができる。また、接着剤や粘着剤、インク、塗料等に分散させて塗布することも可能である。
【0042】
[炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法]
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法は、上記本発明の方法により、炭素繊維を製造する工程、及び得られた炭素繊維を用いて、炭素繊維強化樹脂組成物を製造する工程を含む。
【0043】
リサイクル炭素繊維のカットファイバーを製造する工程は前述の通りである。さらにここで得られたカットファイバー用いて炭素繊維強化樹脂組成物を製造する。カットファイバーを用いた炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法は、公知の方法をそのまま利用することができ、一軸や二軸押出機、プラストミル、加圧ニーダー等を用いて樹脂と混練りさせて射出成形用ペレットなどを製造する方法、樹脂とカットファイバーを混練り後、シート押し出し機、プレス機などでシート状に成形する方法などいずれの方法でも製造することができる。
【0044】
本発明の方法で製造したカットファイバーは、市販の収束材を用いることでさらに結束させることができる。収束材としては、複合される樹脂の種類に応じて、ポリウレタン系、エポキシ系、エポキシウレタン系、変性アクリル系、変性オレフィン系、フェノール系、特殊樹脂系、または水溶性高分子などを用いることができる。水溶性高分子としては、オキサゾリン系高分子、ピロリドン系高分子などがある。
【0045】
製造する炭素繊維強化樹脂組成物は、例えば、炭素繊維と熱可塑性樹脂及び/又は熱硬 化性樹脂を含む樹脂組成物であって、(A)炭素繊維と(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱 硬化性樹脂の合計量を100質量%として、(A)炭素繊維5~95質量%、(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂5~95質量%からなる炭素繊維強化樹脂組成物であることができる。
【0046】
本発明で得られたカットファイバーは、前述の本発明の製造方法によって、すぐれた機械強度を有するが、さらに本発明者らは、本発明のカットファイバーを使用して得られた炭素繊維強化樹脂組成物が、実用上十分な機械強度を有し、すぐれた構造材になることを見出した。すなわち、本発明のカットファイバーと熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を混合することによって、機械強度、実用特性にすぐれ、各種用途、構造材に好適な炭素繊維強化樹脂組成物が得られること分かった。
【0047】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物の好ましい態様は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物であり、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、例えば、熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂及び塩化ビニル樹脂及からなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂である。
【0048】
ポリオレフィン系樹脂としては、代表的には、エチレン、プロピレン、ブテン-1、3-メチルブテン-1、3-メチルペンテン-1、4-メチルペンテン-1等のα-オレフインの単独重合体又はこれらの共重合体、あるいはこれらとの共重合可能な不飽和単量体 との共重合体等が挙げられる。代表例としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-オクテン-1共重合体等のメタロセン系エチレン-αオレフィン共重合体等のポリエチレン類、アタクチックポリプロピレン、シンディオタクチックポリプロピレン、アイソタクチック ポリプロピレンあるいはプロピレンーエチレンブロック共重合体又はランダム共重合体等 ポリプロピレン類、ポリメチルペンテン-1等を挙げることができる。
【0049】
ポリアミド系樹脂としては、ポリマーの繰り返し構造中にアミド結合を有するものであれば、特に限定されるものではない。ポリアミド系樹脂としては、熱可塑性ポリアミド樹脂が好ましく、ラクタム、アミノカルボン酸及び/又はジアミンとジカルボン酸などのモノマーを重合して得られるホモポリアミドおよびコポリアミドそしてこれらの混合物が挙げられる。具体的な例として、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリへキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMDT)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)及びこれらの共重合物、混合物等が挙げられ、中でも、成形性および表面外観の観点から、ナイロン6、ナイロン66、ナイロンMXD6、ナイロン9T、ナイロン10Tおよびこれらの共重合ポリアミドが好ましく、ナイロン9T、ナイロン10T、ナイロンMXD6がより好ましく、ナイロン9Tが特に好ましい。さらにこれらの熱可塑性ポリアミド樹脂を、耐衝撃性、成形加工性などの必要特性に応じて混合物として用いることも実用上好適である。
【0050】
ポリカーボネート系樹脂としては、例えば4,4-ジヒドロキシジアリールアルカン系ポリカーボネート等が挙げられる。具体例としては、ビスフェノールA系ポリカーボネート(PC)、変性ビスフェノールA系ポリカーボネート、難燃化ビスフェノールA系ポリカーボネート等を挙げることができる。
【0051】
スチレン系樹脂としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン等の単独重合体又はこれらの共重合体、あるいはこれらと共重合可能な不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。具体的には、一般用ポリスチレン(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、耐熱性ポリスチレン(例えば、α-メチルスチレン重合体あるいは共重合体等)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-α-メチルスチレン共重合体(α-メチルスチレン系耐熱ABS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-フェニルマレイミド共重合体(フェニルマレイミド系耐熱ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル50-塩素化ポリスチレン-スチレン系共重合体(ACS)、アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴムースチレン共重合体(AES)、アクリルゴム-アクリロニトリル-スチレン共重合体(AAS)あるいはシンディオタクティクポリスチン(SPS)等が挙げられる。また、スチレン系樹脂は、ポリマーブレンドしたものであっても良い。
【0052】
ポリエステル系樹脂としては、例えば芳香族ジカルボン酸とエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルキレングリコールとを重縮合させたものが挙げられる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる
【0053】
ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)としては、例えばポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル等のホモポリマーが挙げられ、これをスチレン系樹脂で変性したものを用いることもできる。
【0054】
ポリフェニレンスルファイド(ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンサルファイド)樹脂は、ベンゼンと硫黄が交互に結合した構造を持つ高耐熱の結晶性ポリマーであり、単独で用いられるよりも、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ、タルクなどの充填剤(フィラー)を混合して使用される場合が多い。
【0055】
ポリアセタール樹脂(POM)としては、例えば単独重合体ポリオキシメチレンあるいはトリオキサンとエチレンオキシドから得られるホルムアルデヒド-エチレンオキシド共重合体等が挙げられる。
【0056】
アクリル系樹脂としては、例えばメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル単独重合体又はこれらの共重合体、あるいはこれらと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル単量体としては、メタクリル酸あるいはアクリル酸メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチルエステル等が挙げられる。代表的には、メタクリル樹脂(PMMA)が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いても良く、2種以上を用いても良い。
【0057】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば塩化ビニル単独重合体や塩化ビニルと共重合可能な不飽和単量体との共重合体が挙げられる。具体的には、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体等が挙げられる。また、これらのポリ塩化ビニル系樹脂を塩素化して塩素含有量を高めたものも使用できる。
【0058】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物の別の態様は、炭素繊維強化熱硬化性樹脂組成物であり、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユ40リア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種を挙げることができる。本発明の炭素繊維は水に良く分散し、適当な濃度で抄紙(紙漉き)することにより、湿式不織布、具体的には薄い炭素繊維シートや炭素繊維ペーパーを得ることができる。得られた炭素繊維不織布を硬化前の熱硬化性樹脂と混合ないしは含侵させた後、熱などで硬化させることによって、従来にないすぐれた機械物性をもつ炭素繊維強化熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0059】
また、本発明の炭素繊維強化樹脂組成物には、使用目的に応じて、熱可塑性樹脂以外に、ガラス繊維、シリカ、タルクなどの充填材(フィラー)や、リン化合物、臭素化合物、アンチモン化合物、金属酸化物、窒素化合物などの各種難燃剤を添加することができる。また、これら添加物以外に、通常の熱可塑性樹脂組成物に添加されている溶融樹脂の流動性改良材、成形性向上材、ゴム系充填材や熱可塑性エラストマーなどの耐衝撃改良材、表面の艶消し効果を発現する艶消し材など各種添加材を適当量添加することができる。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0061】
実施例1
【0062】
工程(1)
6Mに希釈した濃硝酸120Kgを300Lのステンレス製反応容器に入れ、反応槽のジャケット温度を60~70℃に加熱し、攪拌しながら硝酸100質量部に対して、東レ社製T700を65%含む未硬化プリプレグを6mm長に切断したものを10質量部加えた。反応槽内温を70~80℃に保ちながら、直径25cmのプロペラ攪拌翼を用い300rpmの回転数で一定方向の旋回流で1時間攪挫を行った。反応物を硝酸から取り出し、直ちに水に放つとエポキシ樹脂の一部が溶解したカットファイバー状物のリサイクル炭素繊維が得られた。攪拌レイノルズ数は約240000であった。
【0063】
工程(2)
次に、カットファイバー状物のリサイクル炭素繊維を40℃で湯洗後、0.5重量%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液と0.5重量%の濃度のモノエタノールアミン水溶液を1:1の重量比率になるよう混合し、40℃で30分間攪拌して中和した。その後、遠心脱水機で脱水し、140℃で1時間加熱(1段目加熱)後、さらに450℃で60分加熱(2段目加熱)し、カットファイバーa-1を得た。カットファイバーa-1と同様に、工程(1)、工程(2)の条件を変えてカットファイバーa-2~a-5を得た。
【0064】
得られたカットファイバーについては、秤量したサンプルを530℃で1時間加熱焼成し、残った炭素繊維のみの重量と元のサンプルの重量を秤量し、その差から、下記式に従ってカットファイバー中の樹脂残渣量を求めた。
樹脂残渣量=カットファイバー中の樹脂量÷(炭素繊維量+カットファイバー中の樹脂量)
【0065】
また、100ccメスシリンダーにカットファイバー100cc分を充填し、得られた重量を100で割って嵩密度を求めた。樹脂残渣平均分子量については、Waters社製高速液体クロマトグラフィーで得られたチャートをもとに求めた。
【0066】
また、単糸の引張強度、引張弾性率については、下記の手順で行った。工程(1)の酸性水溶液の工程にて、6mm長に破断した未硬化プリプレグ廃材と一緒に、15cm長の未硬化プリプレグを反応させ、得られた糸に付着している樹脂残渣を有機溶剤であるN-メチルピロリドンで全量除去したものを、JIS-R7606(炭素繊維―単繊維引張特性の試験方法)に従って、島津製作所製EZ-L試験機にて測定した。なお、各炭素繊維の断面積は炭素繊維の断面を研磨し、白色光共焦点顕微鏡を用い画像処理して求めた。
【0067】
a-1~a-5のカットファイバー物性、工程(1)及び(2)の条件を表1に示した。
このうち、a-5は表面処理剤として、N-ビニルオキサゾリン水溶液にてリサイクル炭素繊維に2%付着するよう処理したものである。
【0068】
【0069】
表1より本発明の特許請求範囲の製法で得られたカットファイバーは、元の炭素繊維であるT700のカットファイバー(表2に記載)と同等の嵩密度、及び力学強度、フィード性が得られている。
【0070】
比較例
【0071】
実施例1と同様に、工程(1)及び工程(2)において各製造条件を変えて得られたカットファイバーb-1~b-4のカットファイバー及び、T700を含む未硬化プリプレグを加熱焼成して得られたカットファイバー(b-5)、未硬化プリプレグに含まれる炭素繊維に相当するT700バージン炭素繊維のカットファイバー(b-6)の物性、工程(1)及び工程(2)の結果を表2に示した。
【0072】
【0073】
表2において、b-1は工程(2)における2段目の加熱処理温度が特許請求範囲5項の範囲より低く、この結果、カットファイバーの樹脂残渣が特許請求範囲を外れる。
b-2は、工程(2)における2段目の加熱処理温度が特許請求範囲5項の範囲より高く、この結果、得られたカットファイバーの樹脂残渣量、嵩密度、単繊維の引張強度及び単繊維の引張弾性率が、本発明の特許請求範囲外である。また、フィード性が悪い。
b-3は、工程(1)における酸性水溶液中の攪拌条件が本発明の特許請求範囲外であり、この条件では得られた反応物はブロッキングし塊状になり、良好な形状のカットファイバーが得られない。また、生成したブロッキング物の内部は酸性水溶液が浸透していない。この結果、得られた生成物の樹脂残渣量は、嵩密度は本発明の特許請求範囲1の範囲外であり、フィード性が悪い。b-4は、工程(2)において、1段目加熱処理温度が特許請求範囲5項の範囲より低いため、カットファイバーに残存する樹脂残渣の平均分子量が外れ、樹脂残渣量が請求項1の範囲外である。
【0074】
実施例1で得られたa-1~a-5とT700バージン炭素繊維のカットファイバー、及び比較例で得られたb-1~b-6を各熱可塑性樹脂とブレンドし、2軸押出機にて混練りしペレットを作成した。得られたペレットを射出成型機で成形し、試験片を作り、引張強度、引張弾性率、曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。
【0075】
なお、混練用の2軸押出機は、ベルストルフ社製同方向回転二軸押出機ZE40A(φ=42、L/D=38)を用い、サイドフィード機はK-トロン社製重量式計量単軸フィーダーKS60を用いてフィードした。
結果を表3に示す。
【0076】
【0077】
本発明により得られたカットファイバーは、バージン炭素繊維と同等なフィード性を示し、これらを用いて作成した熱可塑性樹脂組成物は、バージン炭素繊維と同等の力学物性を示した。
【0078】
本方法では、CFRPの母材樹脂を化学分解により低分子化することが出来、これらが溶融して結束剤に有効利用できることから、溶解法としてカットファイバーを得ることが可能になった。また、低分子化した母材樹脂(樹脂残渣)は、熱分解法と比べて低い温度で除去することが出来るため、炭素繊維に与えるダメージを少なく、バージン品と同等品質の
カットファイバーを得ることが可能になった。