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特開2024-15440フーリン様酵素活性阻害剤及び感染症予防用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015440
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】フーリン様酵素活性阻害剤及び感染症予防用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20240125BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 36/54 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 36/535 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 36/9062 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 36/704 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 36/82 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 36/738 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 36/758 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240125BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20240125BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20240125BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240125BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20240125BHJP
【FI】
A23L33/10
A61P43/00 111
A61P31/00
A61P31/14
A61P31/16
A61K36/54
A61K36/535
A61K36/9062
A61K36/704
A61K36/82
A61K36/738
A61K36/758
A61K8/9789
A61K8/9794
A61Q13/00 100
A23L33/105
A23L33/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023212613
(22)【出願日】2023-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】植野 壽夫
(72)【発明者】
【氏名】釼持 久典
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】北村 雅史
(72)【発明者】
【氏名】谷川 尚
(57)【要約】
【課題】フーリン様酵素活性阻害剤を提供することである。
【解決手段】シソ精油、タデ抽出物、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油からなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とするフーリン様酵素活性阻害剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シソ精油、タデ抽出物、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油からなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とするフーリン様酵素活性阻害剤。
【請求項2】
請求項1に記載のフーリン様酵素活性阻害剤を有効成分として含有する感染症予防用組成物。
【請求項3】
感染症が新型コロナウイルス感染症である請求項2に記載の感染症予防用組成物。
【請求項4】
感染症が鳥インフルエンザである請求項2に記載の感染症予防用組成物。
【請求項5】
鳥インフルエンザが高病原性鳥インフルエンザである請求項4に記載の感染症予防用組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のフーリン様酵素活性阻害剤を添加したことを特徴とする、感染症予防用経口組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のフーリン様酵素活性阻害剤を添加したことを特徴とする、感染症予防用香粧品。
【請求項8】
請求項1に記載のフーリン様酵素活性阻害剤を添加したことを特徴とする、感染症予防用香料組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の感染症予防用香料組成物を添加したことを特徴とする、感染症予防用経口組成物。
【請求項10】
請求項8に記載の感染症予防用香料組成物を添加したことを特徴とする、感染症予防用香粧品。
【請求項11】
シソ精油、タデ抽出物、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油からなる群より選択される少なくとも1種のフーリン様酵素活性阻害剤を含有することを特徴とする感染症予防用組成物。
【請求項12】
シソ精油、タデ抽出物、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油からなる群より選択される少なくとも1種のフーリン様酵素活性阻害剤を含有することを特徴とする感染症予防用経口組成物。
【請求項13】
シソ精油、タデ抽出物、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油からなる群より選択される少なくとも1種のフーリン様酵素活性阻害剤を含有することを特徴とする感染症予防用香粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フーリン様酵素活性阻害剤に関する。また本発明は、上記阻害剤を有効成分とする感染症予防用組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
フーリンは、活性のないタンパク質前駆体を生物学的に活性のある産物に加工するプロタンパク質転換酵素の一種であり、塩基性アミノ酸配列Arg-X-X-Arg(Xは任意のアミノ酸)、より好ましくはArg-X-Arg/Lys-Argを認識して直後のペプチド結合を切断する酵素である。フーリン以外にも同様の活性を示すプロタンパク質転換酵素として、PC5/6、PC7、PACE4等が知られている。フーリン及びフーリン様プロタンパク質転換酵素は体内の至る所で発現しており、ウイルス感染、細菌毒素活性化、癌、神経変性疾患、糖尿病、アテローム性動脈硬化などの生理学的/病原性プロセスに関与することが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
新型コロナウイルス感染症では、感染した細胞内でウイルスが複製される際、フーリン及びフーリン様プロタンパク質転換酵素が翻訳後のウイルス膜融合タンパク質を切断、活性化することでウイルスの感染力が高くなる。その他にも、HIV、高病原性鳥インフルエンザ、デング熱、ウエストナイル熱、ジカ熱、チクングニア熱などの感染症において、ウイルス膜融合タンパク質の活性化にフーリン及びフーリン様プロタンパク質転換酵素が関与することが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
これまでにフーリン様酵素活性に対する阻害剤と、それらを有効成分とする感染抑制剤が提案されている。例えば、特許文献1にはα1-抗トリプシン変異体タンパク質であるフーリン様酵素活性阻害剤とそれを活用したウイルス感染抑制方法が提案されている。また、非特許文献2には生薬であるジャショウシ(Cnidii Monnieris Fructus)とその成分であるインペラトリン並びにオストールが、フーリン様酵素活性に対して高い阻害効果を示すことが報告されている。また、非特許文献3には生薬のコウボク(Magnoliae Cortex)由来のホノキオールが、優れたフーリン様酵素活性阻害剤であり、新型コロナウイルスによる細胞への感染を抑制することが報告されている。
【0005】
これらフーリン様酵素活性阻害剤をウイルス等の感染を予防する目的で使用する場合、日常的に摂取できる飲食品や口腔衛生剤(歯磨き等)、化粧品等に適用できることが望ましい。しかしながら、前記抗トリプシン変異体タンパク質は、ヒト由来タンパク質の遺伝子組み換え産物であり、ヒトが摂取した場合の安全性に関する知見がなく、直ちに食品として使用することができないという問題があった。また、ジャショウシやコウボクは、生薬として長年使われてきた実績はあるものの、食薬区分(食品と医薬品とを区別するためのリスト)では「専ら医薬品として使用される成分本質」(令和2年3月31日付け薬生監麻発0331第9号厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長通知の別添1参照)に該当し、現状、国内では食品に使用することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平8-509361号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Medicinal Chemistry, 2022年, Vol.65, pp.2747-2784
【非特許文献2】Journal of Natural Medicines, 2021年, Vol.75, pp.1080-1085
【非特許文献3】Journal of Traditional and Complementary Medicine, 2022年, Vol.12, pp.69-72.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、食経験が豊富で入手性が良く、現実的にヒトへの利用が可能な天然物素材を有効成分とする、フーリン様酵素活性の阻害剤を提供することであり、さらに該阻害剤を有効成分として含有する感染症予防用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記従来課題を解決するため鋭意検討した結果、本出願人が独自に製造した天然香料素材のうち、特定の抽出物、精油がフーリン様酵素活性を阻害し、さらにウイルスに対する感染を抑制することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]シソ精油、タデ抽出物、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油からなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とするフーリン様酵素活性阻害剤。
[2]前記[1]のフーリン様酵素活性阻害剤を有効成分として含有する感染症予防用組成物。
[3]感染症が新型コロナウイルス感染症である前記[2]の感染症予防用組成物。
[4]感染症が鳥インフルエンザである前記[2]の感染症予防用組成物
[5]鳥インフルエンザが高病原性鳥インフルエンザである前記[4]の感染症予防用組成物。
[6]前記[1]のフーリン様酵素活性阻害剤を添加したことを特徴とする、感染症予防用経口組成物。
[7]前記[1]のフーリン様酵素活性阻害剤を添加したことを特徴とする、感染症予防用香粧品。
[8]前記[1]のフーリン様酵素活性阻害剤を添加したことを特徴とする、感染症予防用香料組成物。
[9]前記[8]の感染症予防用香料組成物を添加したことを特徴とする、感染症予防用経口組成物。
[10]前記[8]の感染症予防用香料組成物を添加したことを特徴とする、感染症予防用香粧品。
[11]シソ精油、タデ抽出物、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油からなる群より選択される少なくとも1種のフーリン様酵素活性阻害剤を含有することを特徴とする感染症予防用組成物。
[12]シソ精油、タデ抽出物、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油からなる群より選択される少なくとも1種のフーリン様酵素活性阻害剤を含有することを特徴とする感染症予防用経口組成物。
[13]シソ精油、タデ抽出物、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油からなる群より選択される少なくとも1種のフーリン様酵素活性阻害剤を含有することを特徴とする感染症予防用香粧品。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、食経験が豊富で入手性が良い天然物素材から有効成分を得て、現実的に
ヒトへの利用が可能なフーリン様酵素活性の阻害剤として使用することができる。さらに該阻害剤を有効成分として含有する感染症予防用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】各種天然香料素材のフーリン様酵素活性阻害効果の有無を示す図である。
図2】シソ精油の新型コロナウイルスに対する感染抑制効果を示す図である。
図3】タデ抽出物の新型コロナウイルスに対する感染抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
〔1〕フーリン様酵素活性阻害剤
本発明のフーリン様酵素活性阻害剤は、シソ精油、タデ抽出物、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。
ここでいう精油とは、植物の全草もしくは花、果実、葉、茎、根、種子などの植物体を水蒸気蒸留することによって得られた油をさし、蒸留物全量もしくは前溜部及び/又は後溜部を除去した油を用いてもよい。水蒸気蒸留は、香料の製造において周知・慣用技術であり(例えば、特許庁公報 周知・慣用技術集(香料)第I部 香料一般 平成11年1月29日発行 第63頁参照)、水を混合しない物質に水蒸気を通じて蒸留すると、その物質の蒸気の分圧と水蒸気の分圧との和が大気圧と等しくなる温度で沸騰することを利用した分離方法である。すなわち、香料の原料である植物体(花、葉、茎、根又は全草)に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに凝縮させる方法である。水蒸気蒸留の具体的な条件に特に限定はないが、常圧水蒸気蒸留で行うことができる。
本発明で使用する精油として、市販の製品を使用することもできる。
シソ精油は、シソ(Perilla frutescens)の全草から得られる精油である。クロモジ精油は、クロモジ(Lindera umbellata)の枝から得られる精油である。ゲットウ精油は、ゲットウ(Alpinia zerumbet)の全草から得られる精油である。
【0014】
また、抽出物とは、植物又は動物由来の原料を水、有機溶剤、含水有機溶剤、又は液化状態、亜臨界もしくは超臨界状態の二酸化炭素で抽出したものをさし、一般にエキストラクト、チンキ、オレオレジン、レジノイド、コンクリート、アブソリュートと称されるものが抽出物に相当する。また、液体原料の場合は合成吸着剤を充填したカラムに原料を通液し、有効成分を吸着させた後、有機溶媒又は含水有機溶媒をカラムに通して脱着させることでも抽出物を得ることができる。抽出物を得るための条件は、対象に応じて適宜決定されるが、一例を挙げれば、抽出に使用する有機溶媒、脱着に使用する有機溶媒としては、例えば、エタノール、アセトン、酢酸エチルを使用することができる。また、水と斯かる有機溶媒との比率は、対象に応じ適宜変更することができる。さらに、合成吸着剤として、例えば、多孔性のスチレン-ジビニルベンゼン共重合体を使用することができる。
このようにして得られた抽出物は、蒸留やクロマトグラフィー等の精製手段を用いて有効成分を濃縮することも可能である。たとえば、薄膜蒸留装置を使用することができる。
本発明で使用する抽出物として、市販の製品も使用することができる。
タデ抽出物は、ヤナギタデ(Persicaria hydropiper)の全草から得られる抽出物である。シチトウイ抽出物は、シチトウイ(Cyperus monophyllus)の全草から得られる抽出物である。ホエイ抽出物は、ホエイ又はホエイの酵素処理物から得られる抽出物である。サンショウ抽出物は、サンショウ(Zanthoxylum piperitum)の実から得られる抽出物である。ハマナス抽出物は、ハマナス(Rosa rugosa)の花から得られる抽出物である。茶抽出物は、茶(Camellia sinensis)の葉から得られる抽出物である。
【0015】
〔2〕フーリン様酵素活性阻剤の評価方法
本発明において「フーリン様酵素活性」とは、アミノ酸配列Arg-X-X-Arg(Xは任意のアミノ酸)、より好ましくはArg-X-Arg/Lys-Argを標的として直後のペプチド結合を切断する酵素活性を称する。
【0016】
フーリン様酵素活性に対する阻害剤の評価方法としては、フーリン又はフーリン様プロタンパク質転換酵素を評価対象物質で処理した後、前記アミノ酸配列を有し、その直後のペプチド結合の開裂によって蛍光を発するようなフーリン基質(蛍光発生フーリン基質)と反応させる。このとき発生する蛍光強度を測定することによって、フーリン様酵素活性に対する阻害効果を評価することができる。ここで、フーリン及びフーリン様プロタンパク質転換酵素は、精製された酵素以外に細胞や組織から調製した粗酵素液を使用することができる。また、フーリン基質としては、Pyr-Arg-Thr-Lys-Arg-MCA(ペプチド研究所社製)やPyr-Arg-Arg-Ala-Arg-MCA (Greiner Bio-One社製)を使用することができる。また、市販のフーリン阻害剤のスクリーニングキット(AnaSpec社:カタログ番号AS-72256、abcam社:カタログ番号K2069-100など)を用いた評価も可能である。
【0017】
〔3〕感染症予防用組成物
本発明の感染症予防用組成物は、前記フーリン様酵素活性阻害剤を有効成分として含有する。
(1)感染症の種類
対象となる感染症は、新型コロナウイルス感染症及び鳥インフルエンザであることができる。ここで、鳥インフルエンザは高病原性鳥インフルエンザが好適である。
ウイルスが宿主細胞内に侵入する際、ウイルス膜と細胞膜とを融合させる役割を担うのが膜融合タンパク質(コロナウイルスの場合はスパイク(S)タンパク質、インフルエンザウイルスの場合はヘマグルチニン(HA))であるが、新型コロナウイルスのSタンパク質や高病原性鳥インフルエンザウイルスのHAには、近縁のウイルスには見られない特徴としてフーリン認識アミノ酸配列(新型コロナウイルスの場合はArg-Ala-Arg-Arg、高病原性鳥インフルエンザウイルスの場合はArg-Lys-Lys-Arg等)が存在し、フーリンやフーリン様プロタンパク質転換酵素による開裂を受け、活性化される。本発明の感染症予防用組成物は、フーリン様酵素活性を阻害することで、これらウイルス膜融合タンパクの開裂を抑制し、結果として細胞へのウイルス感染を抑制する。
【0018】
(2)摂取経路
本発明の感染症予防用組成物は、本発明所望の効果を得られる限り、その摂取経路又は投与経路は特に限定されない。摂取・投与経路としては、例えば、経口(例えば、口腔内、舌下等)、非経口(点眼、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、経鼻、経肺等)等が挙げられる。これらの中でも、侵襲性の少ない経路が好ましく、経口がより好ましい。
【0019】
(3)感染症予防用組成物の種類
感染症予防用組成物の種類は、特に限定されるものではないが、経口組成物や香粧品などが挙げられる。また、本発明のフーリン様酵素活性阻害剤と他の香料素材を組み合わせて感染予防用香料組成物とすることもできる。
【0020】
〔4〕経口組成物
経口組成物の例としては、飲料、菓子類、加工食品、乳製品、風味調味料、粉末飲料や粉末スープ等の加工食品、口腔衛生剤などが挙げられるが、より具体的には下記のものを挙げることができる。飲料の例としては、清涼飲料、乳酸菌飲料、乳飲料、無果汁飲料、
果汁入り飲料、炭酸飲料、酒類、栄養ドリンク等が挙げられる。菓子類の例としては、ゼリー、ババロア、ムース、ケーキ、キャンディー、ビスケット、クッキー、チョコレート、ガム、ラムネ菓子、タブレット、アイスクリーム、シャーベット、アイスキャンディー等が挙げられる。加工食品の例としては、マヨネーズ、ドレッシング、つゆ、たれ、スナック類(ポテトチップス、揚あられ類、かりんとう、ドーナッツ)、調理冷凍食品(麺類等)等が挙げられる。乳製品等の例としては、アイスクリーム類、ヨーグルトなどが挙げられる。口腔衛生剤の例としては、歯磨、洗口剤、うがい薬、口中清涼剤、口臭防止剤などが挙げられる。経口組成物中に使用する場合、当該組成物中のフーリン様酵素活性阻害剤の含有量は0.000001~1質量%の範囲が好ましい。より好ましくは、0.00001~0.1質量%の範囲であり、さらに好ましくは、0.0001~0.01質量%の範囲である。
【0021】
〔5〕香粧品
香粧品の例としては、フレグランス製品(香水、オードパルファム、ボディーコロンなど)、スキンケア化粧料(化粧水、乳液、クリーム、口紅、ファンデーション、洗顔料、石鹸、ボディーシャンプー、ボディーケア製品、入浴剤、制汗デオドラント剤など)、ヘアケア化粧料(シャンプー、リンス、コンディショナー、ヘアートリートメント、ヘアオイル、ヘアトニック、育毛剤、ヘアカラーリング剤、ヘアスタイリング剤、パーマネント剤など)、衣類用洗剤、衣類用柔軟剤、衣類用仕上げ剤、各種洗浄剤(繊維用、皮革用、硬質表面用、住居用、家庭用、トイレ用、お風呂用など)、芳香消臭剤、香り付きトイレットペーパー、ワックス剤、アロマオイルのような家庭用製品が挙げられる。香粧品中に使用する場合、香粧品中のフーリン様酵素活性阻害剤の含有量は0.0001質量%以上が好ましく、より好ましくは、0.001~10質量%の範囲であり、0.01~1質量%の範囲がさらに好ましい。フーリン様酵素活性阻害剤をそのままアロマオイル等として使用することもできる。
【0022】
〔6〕香料組成物
香料組成物として使用する場合、組み合わせる他の香料素材としては、天然香料、合成香料を問わず広く採用することができ、例えば特許庁公報「周知慣用技術集(香料)第II部 食品用香料」(平成12(2000)年1月14日発行、日本国特許庁)、「周知慣用技術集(香料)第III部 香粧品用香料」(平成13(2001)年6月発行、日本国特許庁)に記載された香料が例示される。香料組成物中のフーリン様酵素活性阻害剤の含有量は0.01~90質量%の範囲であり,0.1%~50質量%の範囲がさらに好ましい。必要に応じてエタノール、プロピレングリコール、グリセリン、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の溶剤に溶解して各種の香粧品、飲食品に添加できる。さらに、一般的に用いられる乳化剤や賦形剤を添加し、常法に従って製剤化して乳化香料、粉末香料として使用することもできる。また、付加的成分として、酸化防止剤、食塩、糖類、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、発色剤、pH調整剤など、香粧品や飲食品に一般的に使用される各種の添加剤を必要に応じて適宜配合しても良い。
【実施例0023】
〔実施例1〕(フーリン様酵素活性阻害剤の評価)
以下に示す15種類について、フーリン様酵素活性に対する阻害効果を以下の方法により評価した。
なお、本実施例で使用した天然香料素材は、概略以下のように得られたものである。
シソ精油は、シソの全草を水蒸気蒸留することで得られた精油である。
クロモジ精油は、クロモジの枝を水蒸気蒸留することで得られた精油である。
ゲットウ精油は、ゲットウの全草を水蒸気蒸留することで得られた精油である。
スダチ精油は、スダチの果皮を水蒸気蒸留することで得られた精油である。
ユズ精油は、ユズの果皮を水蒸気蒸留することで得られた精油である。
レモン精油は、レモンの果皮を水蒸気蒸留することで得られた精油である。
シークヮーサー精油は、シークヮーサーの果皮を水蒸気蒸留することで得られた精油である。
カボス精油は、カボスの果皮を水蒸気蒸留することで得られた精油である。 タデ抽出物は、ヤナギタデの全草を酢酸エチルで抽出し、得られた抽出液を単蒸留することで得られたポリゴジアールを含む留分である。
シチトウイ抽出物は、シチトウイの全草を超臨界二酸化炭素流体で抽出して得られた抽出物である。
ホエイ抽出物は、合成吸着剤を充填したカラムにホエイの発酵液を通液して香気成分を吸着させた後、含水エタノールをカラムに通して脱着させることで得られた抽出物である。
サンショウ抽出物は、サンショウの果皮を超臨界二酸化炭素流体で抽出して得られた抽出物である。
ハマナス抽出物は、ハマナスの花を含水エタノールで抽出して得られた抽出物である。
茶抽出物は、抹茶を超臨界二酸化炭素流体で抽出して得られた抽出物である。
サクラ抽出物はオオシマザクラの花をエタノールで抽出して得られた抽出物である。
【0024】
Caco-2細胞(JCRB0988)を、20質量%ウシ胎児血清(FBS)、L-グルタミン、100U/mLペニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養及び維持した。培養細胞を掻き取り、氷冷したダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)で洗浄した。細胞数を計測し、溶解バッファー(200mM HEPES-KOH、pH7.4、0.1質量%TritonX-100、10mM塩化カルシウム)を細胞沈殿物に加えた。細胞溶解液を13,000×g、10℃で4分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移し、使用するまで-80℃で保存した。前記天然香料素材をDMSOに溶解し、精油又は乾燥エキスの質量基準で50μg/Lのサンプル溶液を調製した。10μLのサンプル溶液及び50μLの細胞溶解物を、30μLのMilliQ水を含む96ウェルプレートに添加し、37℃で30分間インキュベートした。反応混合物に蛍光発生フーリン基質として10μLの1mM Pyr―Arg―Thr―Lys―Arg―MCA(ペプチド研究所社製)を添加して混合し、37℃で30分間インキュベートした。蛍光強度は、励起波長380nm、蛍光波長460nmで測定した。DMSOをコントロールとして、フーリン様酵素活性の相対値(コントロールの蛍光強度に対するサンプル添加の蛍光強度の割合、%)を算出した。
【0025】
結果を図1に示す。
【0026】
図1に示した試験した天然香料素材のうち、シソ精油、タデ抽出物、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油の9種類がフーリン様酵素活性を60%以下に抑制した。一方、スダチ精油、ユズ精油、シークヮーサー精油、カボス精油、サクラ抽出物の6種類の天然香料素材はフーリン様酵素活性を抑制する能力が低く、シソ精油、タデ抽出物、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油と同レベルの効果を示さなかった。
【0027】
〔実施例2〕(シソ精油又はタデ抽出物の新型コロナウイルスに対する感染抑制効果の評価)
実施例1でフーリン様酵素活性を抑制する能力が高かった9種類の天然香料素材のうちシソ精油、タデ抽出物を使用して、以下のように、SARS-CoV-2による感染の抑制効果を確認した。併せて、細胞生存率も確認した。
VeroE6/TMPRSS2細胞(JCRB1819:TMPRSS6を過剰発現す
るVeroE2細胞)をJCRBセルバンクから購入し、10質量%FBS、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、及び1mg/mL G418(ナカライテスク社製)を添加したDMEMで培養した。
SARS-CoV-2のウイルス力価は、VeroE6/TMPRSS2細胞での50%組織培養感染量(TCID50)アッセイにより決定した。
96ウェルプレート(CellCarrier-96Ultra、PerkinElmer社製)で培養したコンフルエントなVeroE6/TMPRSS2細胞に、DMSOに溶解したシソ精油又はタデ抽出物を加えて、37℃で1時間攪拌せずに前処理した。次に、シソ精油又はタデ抽出物存在下、細胞を0.009の感染多重度(MOI)でSARS-CoV-2に37℃で24時間感染させた。次に、感染細胞を4質量%パラホルムアルデヒド/D-PBSで30分間固定化し、0.2質量%TritonX-100/D-PBSで15分間透過処理した。細胞内のSARS-CoV-2 Sタンパク質を、ウサギ抗SARS-CoV-2スパイクRBDモノクローナル抗体(1:3,000、クローンHL1003、GeneTex社:カタログ番号GTX635792)、続いてヤギ抗ウサギIgG Alexa Fluor 488(1:1,000、Life Technologies社製)を使って染色した。細胞核を1μg/mL 4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)溶液(同仁化学研究所社製)で染色した。次に、ハイコンテント分析システムを使用して細胞を画像化し、イメージ解析ソフトウェアを使用してSARS-CoV-2 S陽性細胞とDAPI陽性細胞(生存細胞数)をカウントすることにより、各ウェルの感染価(SARS-CoV-2陽性細胞の割合)および細胞生存率を計算した。
【0028】
結果を図2図3に示す。
【0029】
シソ精油は25μg/mL及び50μg/mLの使用において、有意な感染抑制効果を示した。また、50μg/mLの使用であっても、細胞生存率に有意な影響はなかった。
【0030】
タデ抽出物の場合は25μg/mLの使用において有意な感染抑制効果を示した。また、25μg/mLの使用で細胞生存率に有意な影響はなかった。
【0031】
実施例2の結果を踏まえれば、実施例1でシソ精油、タデ抽出物と同様のフーリン様酵素活性の抑制効果を有することを確認している、シチトウイ抽出物、ホエイ抽出物、サンショウ抽出物、茶抽出物、ハマナス抽出物、クロモジ精油、ゲットウ精油を使用した場合も、シソ精油、タデ抽出物と同様のSARS-CoV-2による感染の抑制効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のフーリン様酵素活性阻害剤は、新型コロナウイルス感染症や高病原性トリインフルエンザなどの感染症の予防を目的とする飲食品や香粧品に幅広く利用できる。
図1
図2
図3