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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154429
(43)【公開日】2024-10-30
(54)【発明の名称】応力計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/24 20060101AFI20241023BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
G01L1/24 A
G01L1/00 M
G01L1/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067791
(22)【出願日】2024-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2023067594
(32)【優先日】2023-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】永島 史晟
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】平 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】横田 祐起
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】デヴィン グナワン
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 乃愛
(57)【要約】
【課題】所定領域の応力分布を取得可能であって、その後の経時的な応力のモニタリングを可能とする。
【解決手段】応力計測方法は、応ひずみ計測領域12に固定されるように光ファイバセンサ2をコンクリート構造物9に取り付ける工程(S1)と、複数の応力推定領域11のそれぞれにおいて、Y方向に延びる複数のスリット3を形成する工程(S3)と、複数のスリット3を形成した後に、第1の光強度情報を得る工程(S4)と、第1の光強度情報を用いて、スリット3を形成する前に複数の応力推定領域11のそれぞれに作用していた作用応力を推定する工程(S6)と、第1の光強度情報を得る工程(S4)の後に、第2の光強度情報を得る工程(S8)と、第2の光強度情報を用いて、複数のスリット3を形成した後に応力推定領域11のそれぞれに生じた応力の変化を推定する工程(S11)と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の応力推定領域、複数の前記応力推定領域のそれぞれに対応する複数のひずみ計測領域、及び、複数の前記ひずみ計測領域に対応する複数の切り込み形成領域が設定される計測対象物において、前記ひずみ計測領域に光ファイバセンサを取り付ける工程と、
複数の前記切り込み形成領域のそれぞれに切り込みを形成する工程と、
複数の前記切り込みを形成した後に、前記光ファイバセンサに計測光を入射し、前記計測光に応じて前記光ファイバセンサから出射される戻り光の強度に関する情報を含む第1の光強度情報を得る工程と、
前記第1の光強度情報を用いて、前記切り込みを形成する前に複数の前記応力推定領域のそれぞれに作用していた作用応力を推定する工程と、
前記第1の光強度情報を得る工程の後に、再び前記光ファイバセンサに計測光を入射することにより、第2の光強度情報を得る工程と、
前記第2の光強度情報を用いて、複数の前記切り込みを形成した後に前記応力推定領域のそれぞれに生じた応力の変化を推定する工程と、を有する、応力計測方法。
【請求項2】
前記ひずみ計測領域は、前記応力推定領域に隣接すると共に前記応力推定領域に重複せず、
前記ひずみ計測領域は、前記切り込み形成領域に隣接すると共に前記切り込み形成領域に重複せず、
前記応力推定領域は、前記切り込み形成領域に重複し、
前記計測対象物に取り付ける工程では、前記応力推定領域を避けるために、第1の前記ひずみ計測領域から第1の前記ひずみ計測領域に隣接する第2の前記ひずみ計測領域に至る前記光ファイバセンサが曲線部分を有するように前記光ファイバセンサを取り付ける、請求項1に記載の応力計測方法。
【請求項3】
前記作用応力を推定する工程は、
仮定した作用応力を含む要素モデルを設定する工程と、
前記要素モデルに対して前記切り込みを設けた結果として得られる仮想ひずみ分布を演算する工程と、を含み、
前記仮定した作用応力を変化させながら、前記要素モデルを設定する工程及び前記仮想ひずみ分布を演算する工程を繰り返すことにより、前記第1の光強度情報が示す計測ひずみ分布に前記仮想ひずみ分布が一致する前記仮定した作用応力を探索する、請求項2に記載の応力計測方法。
【請求項4】
前記作用応力を推定する工程は、
前記第1の光強度情報に基づいて、前記切り込みを形成した後に前記ひずみ計測領域に生じた解放ひずみの分布を得る工程と、
前記解放ひずみの分布に基づいて、前記応力推定領域における推定解放ひずみの分布を得る工程と、
前記推定解放ひずみの最大値に基づいて、前記応力推定領域に生じていた前記作用応力を得る工程と、を含む、請求項2に記載の応力計測方法。
【請求項5】
前記計測対象物には、前記ひずみ計測領域である第1のひずみ計測領域と前記応力推定領域とが並ぶ方向に対して平行となるように設定される第2のひずみ計測領域がさらに設定され、
前記光ファイバセンサを前記計測対象物に取り付ける工程では、前記第1のひずみ計測領域に前記光ファイバセンサである第1の光ファイバセンサを取り付けると共に、前記第2のひずみ計測領域に対して第2の光ファイバセンサを取り付け、
前記推定解放ひずみの分布を得る工程では、前記第2の光ファイバセンサが出力した光強度情報が示す解放ひずみ分布を利用して、前記推定解放ひずみの分布を得る、請求項4に記載の応力計測方法。
【請求項6】
前記光ファイバセンサを前記計測対象物に取り付ける工程では、第1の方向に延びる第1のファイバ計測部及び前記第1の方向に交差する第2の方向に延びる第2のファイバ計測部を含むように前記計測対象物に前記光ファイバセンサを取り付け、
前記切り込みを形成する工程では、前記切り込みである第1の切り込みを形成すると共に前記第2の方向に延び前記第1の切り込みに交差する第2の切り込みを形成し、
前記第1の光強度情報を得る工程では、前記第1のファイバ計測部に対応する光強度情報と前記第2のファイバ計測部に対応する光強度情報とを取得し、
前記作用応力を推定する工程では、前記第1のファイバ計測部に対応する光強度情報から得た応力の値から、前記第2のファイバ計測部に対応する光強度情報から得た応力の値を差し引くことによって、前記作用応力を得る、請求項2に記載の応力計測方法。
【請求項7】
前記ひずみ計測領域は、前記応力推定領域のそれぞれに重複し、
前記ひずみ計測領域は、前記切り込み形成領域に重複せず、
前記計測対象物に取り付ける工程では、第1の前記ひずみ計測領域から第1の前記ひずみ計測領域に隣接する第2の前記ひずみ計測領域に至る前記光ファイバセンサが直線状となるように前記光ファイバセンサを取り付ける、請求項1に記載の応力計測方法。
【請求項8】
前記切り込みを形成する工程では、ひとつの前記ひずみ計測領域ごとに、前記光ファイバセンサを挟むように第1の前記切り込み形成領域及び第2の前記切り込み形成領域を設定し、第1の前記切り込み形成領域に第1の前記切り込みを形成すると共に第2の前記切り込み形成領域に第2の前記切り込みを形成する、請求項7に記載の応力計測方法。
【請求項9】
第1の前記切り込み及び第2の前記切り込みは、前記光ファイバセンサが延びる第1の方向に対して交差する第2の方向に延びており、
第1の前記切り込みの前記光ファイバセンサ側の端部から第2の前記切り込みの前記光ファイバセンサ側の端部までの距離は、前記計測対象物が含む粗骨材の最大寸法値より大きい、請求項8に記載の応力計測方法。
【請求項10】
第1の前記切り込みの幅及び第2の前記切り込みの幅は、前記光ファイバセンサの空間分解能より大きい、請求項8に記載の応力計測方法。
【請求項11】
前記切り込みを形成する工程では、平面視して円形である前記切り込みを形成する、請求項7に記載の応力計測方法。
【請求項12】
前記作用応力を推定する工程は、
仮定した作用応力を含む要素モデルを設定する工程と、
前記要素モデルに対して前記切り込みを設けた結果として得られる仮想ひずみ分布を演算する工程と、を含み、
前記仮定した作用応力を変化させながら、前記要素モデルを設定する工程及び前記仮想ひずみ分布を演算する工程を繰り返すことにより、前記第1の光強度情報が示す計測ひずみ分布に前記仮想ひずみ分布が一致する前記仮定した作用応力を探索する、請求項7に記載の応力計測方法。
【請求項13】
前記作用応力を推定する工程は、
前記第1の光強度情報が示す計測ひずみ分布が含む最大値を得る工程と、
前記計測ひずみ分布が含む最大値を前記作用応力に変換する工程と、
を含む、請求項7に記載の応力計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の補修補強や更新工事の際、断面はつり等による一時的な構造変化によってコンクリートの応力変動が生じることがある。そこで、応力変動の大きさが設計で許容される範囲内となるように施工計画の立案や施工管理を行う必要がある。応力変動に配慮した施工が必要となるケースでは、施工範囲を細分化することになり工程やコストの増加に繋がる。
【0003】
応力変動が設計上、問題がある大きさであるかどうかを適切に判断するためには、まず既存構造物に現在作用している死荷重やプレストレス力によって生じている応力を把握したうえで、そこからの変動分を計測する。また、発生応力は構造全体あるいは断面内で必ずしも一様でなく、場所によって変化する。従って、応力を分布で評価することが重要である。
【0004】
既存構造物に現在作用している応力の評価方法として、応力解放法が広く知られている。応力解放法は、主にPC構造物に作用しているプレストレス量を推定する方法として開発されたものである。応力解放法は、コンクリート表面の微破壊を伴う。応力解放法の原理は、計測対象物の表面にあらかじめひずみゲージを貼り付けておき、コンクリートコアカッター等を用いて切り込みを入れる。切り込みを入れることによって、部分的に応力が解放される。解放された応力によって生じるひずみを計測することで応力解放前の初期応力を算出する。
【0005】
応力解放法の原理を用いた計測方法として、コア応力解放法と、スリット応力解放法が例示できる。
【0006】
例えば、特許文献1は、コア応力解放法に関する技術を開示する。特許文献1が開示するコア応力解放法では、まず、乾燥収縮、クリープによる内部拘束応力を分離するため、コンクリート表面に応力方向(X方向)および応力直角方向(Y方向)にひずみゲージを貼り付ける。次に、コンクリートコアカッターによりコア削孔し、コア削孔によって解放されたひずみを計測する。そして、X方向の解放ひずみとY方向の解放ひずみを計測し、式(1)、(2)を用いて全応力から内部拘束応力を差し引いた有効応力を算出する。
【数1】
【0007】
スリット応力解放法は、コンクリートカッターで深さ30mmのスリットを形成することによって、応力を解放する。既存の計測方法に比べ精度の向上を図るため、光学的全視野計測法を用いてスリット近傍の解放ひずみ分布を高精度に計測する。例えば、特許文献2は、スリット応力解放法に関する技術を開示する。特許文献2が開示する技術は、FEM解析を用いて、ある応力が作用しているときのひずみ分布を算出する。そして、光学的全視野計測部によって計測したひずみ分布と一致するときの応力を逆解析により推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5095258号
【特許文献2】特開2007-303916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
コンクリート構造物の補修補強や更新工事の際に要求される応力計測では、構造物において作業対象となる領域の応力分布を明らかにすることが望ましい。さらには、補修補強や更新工事ののちに、構造物に作用する応力を経時的にモニタリングすることも望まれる。
【0010】
しかし、特許文献1、2が開示する応力計測法は、計測対象のある限定された領域の応力を計測する。従って、広範な領域における応力分布を得ようとする場合には、ひずみゲージといった計測装置を対象物に対して複数設置する必要がある。さらに、特許文献1、2が開示する応力計測法では、そもそも経時的な応力のモニタリングを行うことはできなかった。
【0011】
本発明は、所定領域の応力分布を取得可能であって、その後の経時的な応力のモニタリングを可能とする応力計測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一形態である応力計測方法は、複数の応力推定領域、複数の応力推定領域のそれぞれに対応する複数のひずみ計測領域、及び、複数のひずみ計測領域に対応する複数の切り込み形成領域が設定される計測対象物において、ひずみ計測領域に光ファイバセンサを取り付ける工程と、複数の切り込み形成領域のそれぞれに切り込みを形成する工程と、複数の切り込みを形成した後に、光ファイバセンサに計測光を入射し、計測光に応じて光ファイバセンサから出射される戻り光の強度に関する情報を含む第1の光強度情報を得る工程と、第1の光強度情報を用いて、切り込みを形成する前に複数の応力推定領域のそれぞれに作用していた作用応力を推定する工程と、第1の光強度情報を得る工程の後に、再び光ファイバセンサに計測光を入射することにより、第2の光強度情報を得る工程と、第2の光強度情報を用いて、複数の切り込みを形成した後に応力推定領域のそれぞれに生じた応力の変化を推定する工程と、を有する。
【0013】
この方法によれば、計測対象物に取り付けた光ファイバセンサから第1の光強度情報を得ることにより、計測対象物に設定される複数の応力推定領域に対応する複数の作用応力を得ることができる。従って、複数の作用応力の値から構成される応力分布を得るために、応力推定領域ごとに計測装置を設置することなく、応力分布を得ることができる。そして、光ファイバセンサは、第1の光強度情報を得た後に、さらに第2の光強度情報を得る。この第2の光強度情報によれば、計測対象物に作用する作用応力の経時的な変化をモニタリングすることができる。
【0014】
一形態である応力計測方法において、ひずみ計測領域は、応力推定領域に隣接すると共に応力推定領域に重複せず、ひずみ計測領域は、切り込み形成領域に隣接すると共に切り込み形成領域に重複せず、応力推定領域は、切り込み形成領域に重複し、計測対象物に取り付ける工程では、応力推定領域を避けるために、第1のひずみ計測領域から第1のひずみ計測領域に隣接する第2のひずみ計測領域に至る光ファイバセンサが曲線部分を有するように光ファイバセンサを取り付けてもよい。このような光ファイバセンサの配置によっても、応力推定領域ごとに計測装置を設置することなく、応力分布を得ることができる。さらに、計測対象物に作用する作用応力の経時的な変化をモニタリングすることもできる。
【0015】
一形態である応力計測方法において、作用応力を推定する工程は、仮定した作用応力を含む要素モデルを設定する工程と、要素モデルに対して切り込みを設けた結果として得られる仮想ひずみ分布を演算する工程と、を含み、仮定した作用応力を変化させながら、要素モデルを設定する工程及び仮想ひずみ分布を演算する工程を繰り返すことにより、第1の光強度情報が示す計測ひずみ分布に仮想ひずみ分布が一致する仮定した作用応力を探索してもよい。この方法によれば、数値解析の手法を用いて作用応力を推定することができる。
【0016】
一形態である応力計測方法において、作用応力を推定する工程は、第1の光強度情報に基づいて、切り込みを形成した後にひずみ計測領域に生じた解放ひずみの分布を得る工程と、解放ひずみの分布に基づいて、応力推定領域における推定解放ひずみの分布を得る工程と、推定解放ひずみの最大値に基づいて、応力推定領域に生じていた作用応力を得る工程と、を含んでもよい。この方法によれば、計算負荷の小さい演算によって作用応力を推定することができる。
【0017】
一形態である応力計測方法において、計測対象物には、ひずみ計測領域である第1のひずみ計測領域と応力推定領域とが並ぶ方向に対して平行となるように設定される第2のひずみ計測領域がさらに設定され、光ファイバセンサを計測対象物に取り付ける工程では、第1のひずみ計測領域に光ファイバセンサである第1の光ファイバセンサを取り付けると共に、第2のひずみ計測領域に対して第2の光ファイバセンサを取り付け、推定解放ひずみの分布を得る工程では、第2の光ファイバセンサが出力した光強度情報が示す解放ひずみ分布を利用して、推定解放ひずみの分布を得てもよい。この方法によっても、計算負荷の小さい演算によって作用応力を推定することができる。
【0018】
一形態である応力計測方法において、光ファイバセンサを計測対象物に取り付ける工程では、第1の方向に延びる第1のファイバ計測部及び第1の方向に交差する第2の方向に延びる第2のファイバ計測部を含むように計測対象物に光ファイバセンサを取り付け、切り込みを形成する工程では、切り込みである第1の切り込みを形成すると共に第2の方向に延び第1の切り込みに交差する第2の切り込みを形成し、第1の光強度情報を得る工程では、第1のファイバ計測部に対応する光強度情報と第2のファイバ計測部に対応する光強度情報とを取得し、作用応力を推定する工程では、第1のファイバ計測部に対応する光強度情報から得た応力の値から、第2のファイバ計測部に対応する光強度情報から得た応力の値を差し引くことによって、作用応力を得てもよい。この方法によれば、作用応力の精度を高めることができる。
【0019】
一形態である応力計測方法において、ひずみ計測領域は、応力推定領域のそれぞれに重複し、ひずみ計測領域は、切り込み形成領域に重複せず、計測対象物に取り付ける工程では、第1のひずみ計測領域から第1のひずみ計測領域に隣接する第2のひずみ計測領域に至る光ファイバセンサが直線状となるように光ファイバセンサを取り付けてもよい。このように取り付けられた光ファイバセンサによれば、計測対象物への光ファイバセンサの取付態様に起因する光強度情報への影響を抑制することができる。
【0020】
一形態である応力計測方法において、切り込みを形成する工程では、ひとつのひずみ計測領域ごとに、光ファイバセンサを挟むように第1の切り込み形成領域及び第2の切り込み形成領域を設定し、第1の切り込み形成領域に第1の切り込みを形成すると共に第2の切り込み形成領域に第2の切り込みを形成してもよい。このように形成された切り込みによれば、光ファイバセンサで良好に捉えることができるひずみ分布の変化を生じさせることができる。
【0021】
一形態である応力計測方法において、第1の切り込み及び第2の切り込みは、光ファイバセンサが延びる第1の方向に対して交差する第2の方向に延びており、第1の切り込みの光ファイバセンサ側の端部から第2の切り込みの光ファイバセンサ側の端部までの距離は、計測対象物が含む粗骨材の最大寸法値より大きくてもよい。このように形成された切り込みによれば、粗骨材の影響が抑制された作用応力を得ることができる。
【0022】
一形態である応力計測方法において、第1の切り込みの幅及び第2の切り込みの幅は、光ファイバセンサの空間分解能より大きくてもよい。このような光ファイバセンサによっても、良好な作用応力を得ることができる。
【0023】
一形態である応力計測方法において、切り込みを形成する工程では、平面視して円形である切り込みを形成してもよい。このように形成された切り込みによれば、切り込み作業が計測対象物のひずみ分布に与える影響を抑制することができる。
【0024】
一形態である応力計測方法において、作用応力を推定する工程は、仮定した作用応力を含む要素モデルを設定する工程と、要素モデルに対して切り込みを設けた結果として得られる仮想ひずみ分布を演算する工程と、を含み、仮定した作用応力を変化させながら、要素モデルを設定する工程及び仮想ひずみ分布を演算する工程を繰り返すことにより、第1の光強度情報が示す計測ひずみ分布に仮想ひずみ分布が一致する仮定した作用応力を探索してもよい。このような処理によれば、数値解析の手法を用いて作用応力を推定することができる。
【0025】
一形態である応力計測方法において、作用応力を推定する工程は、第1の光強度情報が示す計測ひずみ分布が含む最大値を得る工程と、計測ひずみ分布が含む最大値を作用応力に変換する工程と、を含んでもよい。このような処理によれば、計算負荷の小さい演算によって作用応力を推定することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の応力計測方法によれば、所定領域の応力分布を取得可能であって、その後の経時的な応力のモニタリングが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、第1実施形態の応力計測方法を用いて構造物の応力を得る様子を示す図である。
図2図2は、第1実施形態の応力計測方法の主要な工程を示すフロー図である。
図3図3(a)は、応力計測部を模擬する要素モデルを示す図である。図3(b)は、解放ひずみ分布を示すグラフの例示である。
図4図4(a)は、作用応力の推定に関する変形例1における応力測定系の例示である。図4(b)は、作用応力の推定に関する変形例1における解放ひずみ分布を示すグラフの例示である。
図5図5(a)は、作用応力の推定に関する変形例2における応力測定系の例示である。図5(b)は、作用応力の推定に関する変形例2における解放ひずみ分布を示すグラフの例示である。
図6図6は、第2実施形態における応力測定系を示す図である。
図7図7(a)は、X方向計測部に対応する部分において得られる解放ひずみ分布を示すグラフの例示である。図7(b)は、Y方向計測部に対応する部分において得られる解放ひずみ分布を示すグラフの例示である。
図8図8は、第2実施形態の変形例における応力測定系の例示である。
図9図9は、その他の変形例における応力測定系の例示である。
図10図10(a)及び図10(b)は、第1実施形態の応力計測方法を説明するための図である。
図11図11は、第3実施形態の応力計測方法を用いて構造物の応力を得る様子を示す図である。
図12図12は、第3実施形態の応力計測方法において形成される一対のスリットによって生じる作用応力を説明するための図である。
図13図13は、第3実施形態の応力計測方法の主要な工程を示すフロー図である。
図14図14(a)は幅が狭いスリットを設けた場合の平面図である。図14(b)は幅が広いスリットを設けた場合の平面図である。図14(c)は、幅が狭いスリットを設けた場合に生じる解放圧縮ひずみの分布を示すグラフである。図14(d)は、幅が広いスリットを設けた場合に生じる解放圧縮ひずみの分布を示すグラフである。
図15図15は、一対の円形スリットを設けた様子を示す平面図である。
図16図16は解放圧縮ひずみを作用応力に変換する情報の例示である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0029】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の応力計測方法を用いて既存のコンクリート構造物9(計測対象物)の応力を得る様子を示す。既存のコンクリート構造物9を構成するコンクリートには、死荷重やプレストレスなどの様々な要因に起因する作用応力が作用している。補修工事では、コンクリートのはつり作業などが行われる。このはつり作業などにより、コンクリートの一部が削られると、作用応力の分布に変化が生じる。また、コンクリート構造物9には、許容応力が存在する。従って、コンクリートを削る作業を行う場合には、作用応力の分布に変化が生じた場合であっても、許容応力を超えないようにする必要がある。その結果、補修工事を実施する前に、コンクリート構造物9の作用応力の状態を把握することが望まれる。本実施形態の応力計測方法は、このような場面に適用することができる。つまり、応力計測方法は、実際の作業が行われる前に、コンクリート構造物9に作用している作用応力の分布を得る。
【0030】
作用応力の分布を把握することは、補修工事を実施する前だけに限られない。補修工事の実施中においても、作用応力の分布を把握することが望まれる。さらに、補修工事が完了した後のコンクリート構造物9の作用応力の分布を経時的に把握することも望まれる。本実施形態の応力計測方法は、このような場面にも適用することができる。つまり、応力計測方法は、実際の作業を行っている期間及び/又は作業完了後の期間における作用応力の分布の経時的な変化を得る。
【0031】
図1に示すように、コンクリート構造物9には、応力計測領域1が設定される。応力計測方法は、応力計測領域1における作用応力の分布を得る。計測の対象である作用応力が働く方向をX方向(第1の方向)とする。作用応力が働く方向に直交する方向をY方向(第2の方向)とする。応力計測領域1は、複数の応力推定領域11を含む。応力計測方法は、複数の応力推定領域11のそれぞれに作用していたであろう作用応力を推定する。応力計測方法は、応力計測領域1に含まれる複数の応力推定領域11における作用応力を得ることにより、応力計測領域1の作用応力の分布を得ることができる。
【0032】
<ひずみ計測の原理>
応力計測方法は、コンクリート構造物9に生じるひずみを直接に計測し、そのひずみから作用応力を得る。ひずみの計測は、光ファイバセンサ2を用いる。光ファイバセンサ2は、いわゆる後方散乱光を利用した計測を行う。
【0033】
光ファイバセンサ2に計測光を入射したとき、光ファイバセンサ2において種々の散乱光が生じる。散乱光のひとつに、レイリー後方散乱光がある。レイリー後方散乱光は、光の波長よりも短い大きさを有する粒子に起因して生じる。レイリー後方散乱光は、透明な液体や固体中でも生じる。基本的にレイリー後方散乱光の周波数(RF)は、計測光の周波数(MF)と同じであるが、圧力、温度、ひずみなどに応じて周波数が変化することもある。レイリー後方散乱光の光強度は、計測光の光強度より低くなる。従って、この光強度の変化を利用すれば、光ファイバセンサ2に生じたひずみの大きさを得ることができる。レイリー後方散乱光の光強度は、後述するブリルアン後方散乱光の光強度よりも強い。従って、レイリー後方散乱光を用いた計測は、精度がよく、光のロスに強い。一方、観測量や固有の屈折率に応じた光強度のパターンは、ひずみや温度とは直接の関係性を持たない。
【0034】
また、別の散乱光として、ブリルアン後方散乱光がある。ブリルアン後方散乱光は、計測光に応じて生じた音響フォノンが発生させる屈折率の周期的変調(回折格子)に起因する。回折格子は、音速で移動する。反射時にドップラーシフト(周波数変化)が発生する。この周波数のシフト量は、圧力、温度、ひずみなどに応じて変化する。つまり、ブリルアン後方散乱光の周波数は、計測光の周波数(MF)と一致しない。例えば、周波数のシフト量は、計測光の周波数(MF)とブリルアン周波数との周波数差として扱ってよい。ブリルアン後方散乱光の周波数は、光ファイバセンサ2の状態(例えば、ひずみ)に応じて、高くなったり低くなったりする。従って、ブリルアン後方散乱光の周波数を利用すれば、光ファイバセンサ2に生じたひずみの大きさを得ることができる。ブリルアン後方散乱光の光強度は、レイリー後方散乱光の光強度よりも弱い。従って、ブリルアン後方散乱光を用いた計測の精度は、レイリー後方散乱光を用いた計測の精度より低くなり、光のロスに弱い。一方、観測量(例えば、強度ピークの周波数)は、ひずみや温度と直接の関係性を有する。
【0035】
光ファイバセンサ2には、図示しない光源や受光センサが接続されている。光源は光ファイバセンサ2に計測光を入射する。受光センサは、光ファイバセンサ2から出射される散乱光の光強度を得る。
【0036】
<応力計測部>
次に、応力計測方法を適用するための計測部について説明する。上述したように、コンクリート構造物9には、応力計測領域1が設定され、応力計測領域1には複数の応力推定領域11と、複数のひずみ計測領域12と、複数のスリット形成領域15と、が設定される。応力計測方法は、いわゆる応力解放法の原理を用いて作用応力の分布を得る。スリット形成領域15には、作用応力を解放するためのスリット3が設けられる。スリット3が形成されると、応力推定領域11に存在していた作用応力が解放される。その結果、応力推定領域11に隣接する領域において作用応力の変化が生じる。作用応力の変化は、解放ひずみをもたらす。従って、応力推定領域11に隣接する領域に生じるひずみを利用すれば、応力推定領域11に生じたひずみを推定できる。ひずみにヤング率(縦弾性係数)を乗じたものが応力であるから、応力推定領域11に生じたひずみは、すなわち、応力推定領域11において解放された作用応力に換算することができる。
【0037】
第1実施形態では、スリット3の前後に生じるひずみの変化を捉える。ここでいうスリット3の前後とは、光ファイバセンサ2の延びる方向に沿って、スリット3を挟む領域と定義してよい。そうすると、スリット3の前後の領域とは、ひずみ計測領域12である。
また、第1実施形態では、応力推定領域11は、スリット形成領域15を含む。スリット形成領域15は、ひずみ計測領域12と重複しないから、スリット形成領域15を含む応力推定領域11について、光ファイバセンサ2によるひずみの直接的な計測はなされない。
スリット形成領域15を含む応力推定領域11に生じるひずみの分布は、応力推定領域11を挟む一対のひずみ計測領域12におけるひずみの分布から推定することができる。
【0038】
応力計測領域1は、ひずみ計測領域12を含む。ひずみ計測領域12は、応力推定領域11に隣接するように設定される。図1の例示では、ひとつの応力推定領域11に対してふたつのひずみ計測領域12が設定されている。つまり、ふたつのひずみ計測領域12は、ひとつの応力推定領域11を挟むように設定される。ひとつの応力推定領域11とふたつのひずみ計測領域12とは、ひとつの応力計測部10を構成する。応力計測方法では、応力計測部10ごとに、ひとつの解放ひずみ分布を得る。つまり、応力計測方法では、応力計測部10ごとに、ひとつの作用応力の値を得る。なお、ひとつの応力推定領域11に対してひとつのひずみ計測領域12が設定されていてもよい。
【0039】
応力計測領域1には、光ファイバセンサ2が取り付けられる。より詳細には、光ファイバセンサ2は、ひずみ計測領域12に対して固定される。コンクリート構造物9への光ファイバセンサ2の固定の態様には特に制限はない。例えば、光ファイバセンサ2は、コンクリート構造物9に接着されてもよい。つまり、コンクリート構造物9に生じたひずみに応じて光ファイバセンサ2にもひずみが生じる態様であればよい。
【0040】
一方、光ファイバセンサ2は、応力推定領域11を避けるように配置される。この「避けるように配置される」の一例は、光ファイバセンサ2が応力推定領域11に固定されないことである。例えば、応力推定領域11に固定されないことは、光ファイバセンサ2が応力推定領域11を跨ぐように配置されるということもできる。なお、「避けるように配置される」の別の例は、第2実施形態でも説明する。
【0041】
このような計測部によれば、ひずみ計測領域12に固定された光ファイバセンサ2の固定部分21において、ひずみを算出可能な光強度情報を得ることができる。固定部分21に対応する光強度情報を用いることにより、図3(b)に示すようなひずみ分布(グラフG3)を得ることができる。応力推定領域11を跨ぐ光ファイバセンサ2の非固定部分22では、光強度情報を得ることができるが(グラフG31)、ひずみを算出可能な有効な情報ではないので無視されている(グラフG32)。無視された部分のひずみ分布は、いくつかの手法によって推定される。この推定の手法は、後に変形例としていくつか例示する。
【0042】
<応力計測方法>
次に、図2に示すフロー図を参照しながら、応力計測方法について説明する。
【0043】
まず、光ファイバセンサ2を取り付ける(S1)。コンクリート構造物9に光ファイバセンサ2を取り付ける具体的な態様は、前述の応力計測部にて説明済みであるから、詳細な説明は省略する。
【0044】
次に、基準となる光強度情報を得る(S2)。この基準となる光強度情報は、後に取得する第1の光強度情報からレイリー計測によるひずみを得る際の参照データとなる。
【0045】
次に、第1~第Nの応力推定領域11にそれぞれ第1~第Nのスリット3を形成する(S3)。そして、第1の光強度情報を得る(S4)。
【0046】
次に、第1の光強度情報を用いて、第1~第Nのスリット3の形成によって第1~第Nの応力推定領域11に生じた第1~第Nの解放ひずみ分布を得る(S5)。例えば、第1のスリット3を挟むように設定されたひずみ計測領域12に対応する光強度情報を用いて、第1の解放ひずみ分布(図3(b)参照)を得る。光強度情報から解放ひずみ分布を得る方法については、特に制限はなく公知の手法を用いてよい。
【0047】
次に、第1~第Nの解放ひずみ分布を用いて、第1~第Nのスリット3を形成する前に第1~第Nの応力推定領域11に作用していたと予想される第1~第Nの作用応力を推定する(S6)。
【0048】
この推定には、2次元FEM解析を用いる手法が例示できる。まず、応力計測部10を模擬する要素モデル(図3(a)参照)を設定する。次に、その要素モデルにスリット3を形成したときの仮想ひずみ分布を数値シミュレーションにより得る。この数値シミュレーションを実行するとき、入力パラメータとして仮想作用応力が設定される。つまり、仮想作用応力が作用する要素モデルについて、スリット3を形成したときに生じる仮想ひずみ分布を得る。仮に、仮想作用応力が、実際の作用応力と実質的に一致しているならば、仮想ひずみ分布も計測値として得られている解放ひずみ分布と一致するはずである。そこで、仮想作用応力の設定、仮想ひずみ分布の算出、および仮想ひずみ分布と計測値として得られている解放ひずみ分布との比較を、仮想作用応力を変更しながら繰り返す。仮想ひずみ分布と計測値として得られている解放ひずみ分布とが一致した仮想作用応力を作用応力の推定値として採用する。このような推定の手法は、逆解析とも称される。
【0049】
上述の工程S1~S6を実施した結果、第1~第Nの作用応力によって示される応力計測領域1の作用応力の分布を得ることができる。
【0050】
次に、第1~第Nのスリット3を埋め戻す(S7)。埋め戻しには、例えば無収縮モルタルを用いてよい。なお、この工程S7は、省略することもできる。
【0051】
次に、第2の光強度情報を得る(S8)。第1の光強度情報を得たとき(S4)から第2の光強度情報を得る(S8)までの期間に、作用応力に変化が生じた場合には、第1の光強度情報から得られるひずみ分布と、第2の光強度情報から得られるひずみ分布とに違いが現れる。この違いを利用して、作用応力に変化を捉える。つまり、第2の光強度情報を用いて第1~第Nの経時ひずみ分布を得る(S9)。次に、第1~第Nの解放ひずみ分布と、第1~第Nの経時ひずみ分布との差分を得る(S10)。そして、第1~第Nの解放ひずみ分布と、第1~第Nの経時ひずみ分布との差分から、作用応力の第1~第Nの経時変化量を得る(S11)。
【0052】
<作用効果>
応力計測方法は、複数の応力推定領域11と複数の応力推定領域11のそれぞれに隣接するひずみ計測領域12とが設定されるコンクリート構造物9において、応力推定領域11を避けると共にひずみ計測領域12に固定されるように光ファイバセンサ2をコンクリート構造物9に取り付ける工程(S1)と、複数の応力推定領域11のそれぞれにおいて、光ファイバセンサ2が延びるX方向に対して交差するようにY方向に延びる複数のスリット3を形成する工程(S3)と、複数のスリット3を形成した後に、光ファイバセンサ2に計測光を入射し、計測光に応じて光ファイバセンサ2から出射される戻り光の強度に関する情報を含む第1の光強度情報を得る工程(S4)と、第1の光強度情報を用いて、スリット3を形成する前に複数の応力推定領域11のそれぞれに作用していた作用応力を推定する工程(S6)と、第1の光強度情報を得る工程(S4)の後に、再び光ファイバセンサ2に計測光を入射することにより、第2の光強度情報を得る工程(S8)と、第2の光強度情報を用いて、複数のスリット3を形成した後に応力推定領域11のそれぞれに生じた応力の変化を推定する工程(S11)と、を有する。
【0053】
この方法によれば、コンクリート構造物9に取り付けた光ファイバセンサ2から第1の光強度情報を得ることにより、コンクリート構造物9に設定される複数の応力推定領域11に対応する複数の作用応力を得ることができる。従って、複数の作用応力の値から構成される応力分布を得るために、応力推定領域11ごとに計測装置を設置することなく、応力分布を得ることができる。そして、光ファイバセンサ2は、第1の光強度情報を得た後に、さらに第2の光強度情報を得る。この第2の光強度情報によれば、コンクリート構造物9に作用する作用応力の経時的な変化をモニタリングすることができる。
【0054】
仮に、コンクリート構造物9における作用応力の経時変化をモニタリングするために、コンクリート構造物9に光ファイバセンサ2を取り付け、所定のタイミングで光強度情報を取得することを想定する。この場合には、あるタイミングで得た光強度情報と、所定時間が経過したのちに得た光強度情報との差分に基づいて、あるタイミングから所定時間が経過したタイミングまでに作用した応力の変化量を知ることができる。しかし、この応力の変化量は相対的な値であり、コンクリート構造物9に作用している作用応力の絶対値ではない。応力の相対的な変化量がわかったとしても、その変化量がコンクリート構造物9に設定される許容応力を超えるものであるか否かを判断することができない。
【0055】
これに対して、第1実施形態の応力計測方法は、第1の光強度情報からコンクリート構造物9に作用する作用応力の絶対値を知ることができる。そして、第1の光強度情報と、第1の光強度情報を得た後に得られる第2の光強度情報との差分から得られる応力の変化量に対して、第1の光強度情報から得られる作用応力の絶対値を加味すれば、作用応力の絶対値の経時的な変化をモニタリングすることができる。この値は、コンクリート構造物9に設定される許容応力を超えるものであるか否かという判断に供することができる。
【0056】
つまり、応力計測方法は、既設コンクリート部材に作用している応力を分布として評価することができる。また、応力計測方法は、応力の分布を得た後に、スリット3を埋め戻して光ファイバセンサ2を残置することにより、調査した以降の応力変動を同一の光ファイバセンサ2を用いて計測することができる。そのうえ、コンクリート部材の応力分布の把握とその後の変動を計測できるため、その結果に基づいてコンクリート構造物9の改築、補修、補強工事の施工計画、管理を合理化できる。施工後の変動も計測できるため、維持管理における構造性能評価にも活用できる。
【0057】
次に、工程S6に示す作用応力の推定に関し、ふたつの変形例を示す。
【0058】
<作用応力の推定に関する変形例1>
ひずみにヤング率を乗算すると応力を得ることができる。つまり、応力計測部10における全体の解放ひずみ分布を知ることができれば、応力計測部10における全体の作用応力も推定が可能である。例えば、解放ひずみ分布において、スリット3に対応する部分(応力推定領域11)における解放ひずみは、スリット3の形成によって作用応力が解放された結果として生じているとみなすことができる。そこで、解放ひずみ分布の最大値(最大ひずみ)から作用応力を推定する。
【0059】
しかし、図4(a)に示すような応力計測部10から得られる解放ひずみ分布(図4(b)のグラフG4)は、ひずみ計測領域12(光ファイバセンサ2の固定部分21)に対応する部分(図4(b)のグラフG41参照)しか得られていない。つまり、応力推定領域11を含む部分(光ファイバセンサ2の非固定部分22)に対応する部分の情報は計測によって得ることができない。そこで、ひずみ計測領域12に対応する部分の解放ひずみの分布から、応力推定領域11を含む部分における解放ひずみを推定解放ひずみ(図4(b)のグラフG42参照)として推定する。
【0060】
例えば、解放ひずみの分布は、ある関数(f(x))に従うと仮定できる。そこで、計測値である解放ひずみ分布(グラフG41)を用いてフィッティング演算を行う。その結果、応力推定領域11を含む部分における解放ひずみ(グラフG42)を推定することができる。そうすると、推定解放ひずみの最大値P4が得られる。そして、解放ひずみの最大値P4にヤング率を乗算することによって、作用応力を得ることができる。
【0061】
変形例1の推定によれば、関数のフィッティング演算という比較的計算負荷の軽い処理によって作用応力を得ることができる。作用応力の推定は、第1~第Nの応力計測部10ごとに実施する。計算負荷の軽減は、作用応力の分布を得るうえで有利である。
【0062】
<作用応力の推定に関する変形例2>
図5(a)に示すように、第2の光ファイバセンサ4をコンクリート構造物9に取り付ける。第2の光ファイバセンサ4は、第2のひずみ計測領域13に取り付けられる。第2のひずみ計測領域13は、応力推定領域11と第1のひずみ計測領域12とが並ぶ方向(X方向)に対して平行となるように設定される。第2のひずみ計測領域12は、応力推定領域11と交差しない。従って、第2の光ファイバセンサ4は、第2のひずみ計測領域12の全体に固定される。第2の光ファイバセンサ4の位置は、スリット3の中央からの距離dによって規定できる。
【0063】
図5(b)は、第1の光ファイバセンサ2から得た光強度情報を用いて得た解放ひずみの分布(グラフG5A)と、第2の光ファイバセンサ4から得た光強度情報を用いて得た解放ひずみの分布(グラフG5B)と、を示す。解放ひずみの分布(グラフG5A)は、第1の光ファイバセンサ2から得た解放ひずみ(グラフG51)を含む。一方、すでに述べたように、第1の光ファイバセンサ2から得た解放ひずみは、応力推定領域11を含む位置において、計測値が存在しない。計測値が存在しない部分については、推定解放ひずみG52として推定する。一方、第2の光ファイバセンサ4から得た解放ひずみの分布は、すべての位置において計測値が存在する。
【0064】
さらに、グラフG5A、G5Bに注目すると、解放ひずみの大きさは異なっているものの、グラフの形状には、なんらかの関係性が見てとれる。解放ひずみの大きさは、スリット3の中央から第2の光ファイバセンサ4までの距離dに関係するとすれば、グラフG5Bと距離dとを用いて、グラフG5Aにおける計測値が存在しない部分について推定解放ひずみ(グラフG52)として推定することができる。例えば、グラフG5Aが関数f(x)で表現されるとき、グラフG5Bは、距離dを変数とする関数g(d)と関数f(x)との積(g(d)×f(x))として表現できる。その結果、グラフG5Aにおけるピーク値(解放ひずみの最大値)が得られる。そして、解放ひずみの最大値P5にヤング率を乗算することによって、作用応力を得ることができる。
【0065】
なお、変形例2において、第2の光ファイバセンサ4に加えて第3の光ファイバセンサのようにスリット3から離れる方向に複数本の光ファイバセンサを取り付けてもよい。このような構成によれば、関数g(d)の精度を高めることができる。
【0066】
[第2実施形態]
第1実施形態では、解放ひずみをもたらす要因は作用応力であるということを前提としていた。しかし、解放ひずみをもたらす応力には、作用応力だけでなくその他の要因に起因する応力を含む。例えば、解放ひずみをもたらす応力として、乾燥収縮やクリープなどによる内部拘束応力が例示できる。解放ひずみから得た応力から、内部拘束応力などを差し引くことにより、有効応力を得ることができる。この解放ひずみから得た応力から差し引かれる応力として、計測対象である応力の作用方向(X方向)に対して直交する方向(Y方向)に作用する応力が例示できる。そこで、第2実施形態では、X方向における解放ひずみに加えてY方向における解放ひずみを得る。そして、X方向における解放ひずみからY方向における解放ひずみを差し引いた値を用いて、有効応力を得る。
【0067】
図6は、第2実施形態における応力計測領域1Bを示す。第2実施形態における応力計測領域1Bは、X方向における解放ひずみを得るとともにY方向における解放ひずみを得る。まず、スリット3Aは、X方向に延びるX方向スリット部32と、Y方向に延びるY方向スリット部31とを含む。X方向スリット部32とY方向スリット部31とはそれぞれの中央部分で交差している。そして、この平面視して十字状のスリット3Aを囲むように十字状の応力推定領域11Bが設定される。
【0068】
ひずみ計測領域12Aは、応力推定領域11Bと重複しない位置に設定される。第2実施形態においてひとつの応力計測部10Aに含まれるひずみ計測領域12Aは、ひとつである。つまり、第2実施形態のひずみ計測領域12Aは、第1実施形態のように互いに離れていない。そうすると、光ファイバセンサ2Aは、非固定部分を設ける必要がなく、すべて固定部分とすることができる。ここで、第1実施形態において光ファイバセンサ2Aは、「応力推定領域11Bを避けるように取り付けられる」と述べた。第1実施形態では、光ファイバセンサ2に非固定部分を設け、応力推定領域11を跨ぐようにすることで「応力推定領域11を避ける」こととした。第2実施形態では、十字状の応力推定領域11Bから所定の距離を保つように離して固定することを「応力推定領域11Bを避ける」ものとする。このような配置は、応力推定領域11B(又はスリット3A)を回避するように取り付けるものともいえる。このようなスリット3Aを回避する光ファイバセンサ2Aの配置によれば、スリット3Aを切削するときに光ファイバセンサ2Aを損傷させるリスクを低減させることができる。
【0069】
そうすると、光ファイバセンサ2Aは、ひとつの応力計測部10Aにおいて、X方向における解放ひずみを得るための一対のX方向計測部23(第1のファイバ計測部)と、Y方向における解放ひずみを得るための一対のY方向計測部24(第2のファイバ計測部)と、を含む。一対のX方向計測部23は、Y方向スリット部31を挟む。一対のY方向計測部24は、片側のX方向スリット部32を挟む。なお、Y方向計測部24は、X方向スリット部32の切削による解放ひずみの影響範囲以上であって、光ファイバセンサ2Aの空間分解能よりも長い長さを確保する。
【0070】
このような応力計測部10Aによれば、図7(a)に示すような解放ひずみ分布(グラフG7A)を得ることができる。解放ひずみ分布は、一対のX方向計測部23に対応する部分の情報に基づく部分(グラフG71)と、推定によって得られる部分(グラフG72)と、を含む。この解放ひずみ分布の最大値P71から作用応力と内部拘束応力とを含んだ応力の情報を得ることができる。なお、厳密には、一対のX方向計測部23は、Y方向スリット部31の中央から所定距離だけ離れている。そこで、第1実施形態の変形例2で例示したように、Y方向スリット部31の中央からX方向計測部23までの距離を用いて解放ひずみ分布を補正してもよい。
【0071】
さらに、図7(b)に示すような解放ひずみ分布(グラフG7B)を得ることができる。解放ひずみ分布は、Y方向計測部24に対応する部分の情報に基づく部分(グラフG73)と、推定によって得られる部分(グラフG74)と、を含む。この解放ひずみ分布の最大値P72から、内部拘束応力を得ることができる。そして、作用応力と内部拘束応力とを含んだ応力の情報から内部拘束応力を差し引くことによって、有効応力を得ることができる。なお、解放ひずみ分布から応力を推定する手法は、第1実施形態で例示したような2次元FEM解析を用いるものでもよいし、第1実施形態の変形例1で例示したフィッティング演算を用いるものでもよい。
【0072】
<作用効果>
第2実施形態の応力計測方法によれば、より精度の高い応力を得ることができる。
【0073】
<第2実施形態に関する変形例>
図8に示すように、第2のひずみ計測領域14を設定し、第2の光ファイバセンサ5をコンクリート構造物9に取り付けてもよい。第2のひずみ計測領域14は、スリット3AのX方向スリット部32を軸線として、第1のひずみ計測領域12Aに対して線対称に設定される。そして、第2の光ファイバセンサ5も、スリット3AのX方向スリット部32を軸線として、第1の光ファイバセンサ2Aに対して線対称に設定される。
【0074】
図8に示す光ファイバセンサ2Aの配置によれば、内部拘束応力を得るための解放ひずみ分布は、片側だけ取得できていた。これに対して、図8に示す変形例の光ファイバセンサ2A、5の配置によれば、内部拘束応力を得るための解放ひずみ分布においても、両側の分布を得ることができる。
【0075】
<その他の変形例>
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、本発明は第1実施形態、第2実施形態及びにそれらの変形例に限定されるものではない。
【0076】
応力を解放するための切り込みは、スリットに限定されない。応力を解放するための切り込みとして、例えば、コンクリートカッターによるコア削孔との組み合わせを採用してもよい。図9に示すようにこの場合は、切り込み3Dの形状は円形である。光ファイバセンサ6は、X方向に延びる部分61と、切り込み3Dに沿う円弧状の部分62と、を含む。X方向に延びる部分61及び円弧状の部分62は、いずれもコンクリート構造物9に固定されている。切り込みの形状が円形であるときの応力解放時のひずみ分布は、切り込みの形状が直線のスリットであるときの応力解放時のひずみ分布とは異なる。しかし、この相違は、ひずみ分布から作用応力を推定する演算手法の選択によって解消することができるので、ひずみ分布から作用応力を推定できる。
【0077】
また、削孔によりコアを採取するので、採取したコアを用いて材料試験を実施することでコンクリートの材料特性も把握できる。
【0078】
従来技術のコア応力解放法では、コア内にひずみゲージを設置して粗骨材の影響を低減しつつ解放ひずみを計測する都合上、直径100mm程度のコア抜きを行う必要がある。その一方で、実施形態に係る応力計測方法は、空間分解能が高い光ファイバを用いてコアを抜いた後に生じる周囲のひずみの変化を計測する。従って、コアは周辺ひずみの変化に対して必要最小限のサイズで良い、例えば、材料特性の把握も兼ねる場合、採取するコアのサイズは直径50mm程度でも良い。採取するコアのサイズは小さいことは、既設構造物の鉄筋の切断リスクを低減できるというメリットがある。さらに、使用する機材を小型化できるなどのメリットもある。
【0079】
<第3実施形態>
前述の第1実施形態の応力測定方法では、図10(a)に示すように、光ファイバセンサ2は、コンクリート構造物9に固定された固定部分21と、コンクリート構造物9に固定されない非固定部分22と、を含む。固定部分21からは、図10(b)に示すグラフG10のようなひずみ情報を得ることができる。固定部分21と非固定部分22との境界近傍は、図10(a)に示すように光ファイバセンサ2は曲線部21sを含む。従って、固定部分21に対応するグラフG10のうち、曲線部21sの情報(図10(b)のグラフG10s)は、光ファイバセンサ2の曲げの影響を含むことがある。このグラフG10sは、特にスリット3の形成によって生じるひずみの分布を精度よく捉えたい領域である。
【0080】
そこで、第3実施形態では、光ファイバセンサ2の曲げの影響を含まない応力測定方法を説明する。第3実施形態の応力計測方法では、応力計測領域1Bに配置される光ファイバセンサ2は、曲げられた部分を含まない。応力計測領域1Bに配置される光ファイバセンサ2は、直線状に配置された直線部21k(図11参照)を含む。
【0081】
図11に示すように、第3実施形態の応力測定方法においても、コンクリート構造物9には応力計測領域1Bが設定される。応力計測領域1Bは、複数の応力推定領域11Bと、ひずみ計測領域12Bと、スリット形成領域15B1、15B2と、を含む。
【0082】
第1実施形態の応力計測方法では、上述のとおり、第1実施形態では光ファイバセンサ2が固定部分21と非固定部分22とを含んでおり、固定部分21にはコンクリート構造物9のひずみ計測領域12が対応し、非固定部分22にはコンクリート構造物9の応力推定領域11が対応していた。図10(a)にも示すように、第1実施形態では応力推定領域11と、ひずみ計測領域12とは、隣り合っているが、重複はしていない。
【0083】
これに対して、第3実施形態の応力計測方法では、図11に示すように応力推定領域11Bとひずみ計測領域12Bとは、互いに重複する。その結果、応力推定領域11Bに生じるひずみに関する情報を直接に得ることができる。具体的には、互いに重複する応力推定領域11B及びひずみ計測領域12Bは、所定の間隔をもってコンクリート構造物9に設定される。所定の間隔は、一定であってもよいし、場所ごとに異なってもよい。そして、光ファイバセンサ2は、このひずみ計測領域12Bに対して固定される。なお、光ファイバセンサ2は、ひずみ計測領域12Bではない計測対象外領域にも固定されている。光ファイバセンサ2のうち、あるひずみ計測領域12Bと、それに隣接する別のひずみ計測領域12Bとの間に存在する部分(計測対象外領域)は、直線部21kとして定義される。
【0084】
そうすると、請求項で定義する「応力推定領域のそれぞれに対応するひずみ計測領域」は、第1実施形態のように「応力推定領域のそれぞれに隣接するひずみ計測領域」との意味を含む。さらに、請求項で定義する「応力推定領域のそれぞれに対応するひずみ計測領域」は、第3実施形態のように「応力推定領域のそれぞれに重複するひずみ計測領域」との意味も含む。
【0085】
一方、第3実施形態では、スリット形成領域15B1、15B2は、応力推定領域11B及びひずみ計測領域12Bのいずれにも重複しない。スリット形成領域15B1、15B2は、応力推定領域11B及びひずみ計測領域12Bを挟むように設定されている。
【0086】
その結果、ひとつのひずみ計測領域12Bに対して一対のスリット3B1、3B2が形成される。一対のスリット3B1、3B2は、光ファイバセンサ2が延びる方向に対して交差する方向に延びている。一対のスリット3B1、3B2は、光ファイバセンサ2を挟む。換言すると、一対のスリット3B1、3B2は、光ファイバセンサ2が固定されているひずみ計測領域12Bを挟むとも言えるし、ひずみ計測領域12Bと重複している応力推定領域11Bを挟むとも言える。
【0087】
このような一対のスリット3B1、3B2を形成すると、一対のスリット3B1、3B2の周囲における応力の分布に変化が生じる。図12は、一対のスリット3B1、3B2を形成したときに生じる応力の分布を模式的に示す。初期応力領域H1は、一対のスリット3B1、3B2を設けないときにコンクリート構造物9に生じていた応力を示す。これに対して、一対のスリット3B1、3B2の前後には、初期応力領域H1の応力よりも小さい大きさである応力が分布する応力緩和領域H2が生じる。換言すると、一対のスリット3B1、3B2の前後の領域では、応力が緩和される。一方、一対のスリット3B1、3B2に挟まれた領域では、初期応力領域H1の応力よりも大きい応力である応力増大領域H3が生じる。ひずみ計測領域12Bは、この応力増大領域H3に対応する。つまり、第1実施形態では、スリット3B1、3B2の形成に起因する応力の緩和を捉えた。第3実施形態では、一対のスリット3B1、3B2の形成に起因する応力の集中(増大)を捉える。
【0088】
一対のスリット3B1、3B2のスリット幅W3B(図14(a)参照)は、例えば、コンクリートカッターの厚みに対応する。一例として、一対のスリット3B1、3B2のスリット幅W3Bは、3mm程度である。さらに、第1のスリット3B1の端部から第2のスリット3B2の端部までのスリット距離D3Bは、一例として20mmである。この距離が狭いほど、一対のスリット3B1、3B2を設けることによる作用応力の変化が大きくなる傾向にある。一方、スリット距離D3Bが狭いほど、コンクリート構造物9の内部構造の影響を受けやすくなる。例えば、一対のスリット3B1、3B2の間に粗骨材が埋め込まれていると、光ファイバセンサ2から得られるひずみの情報は、粗骨材の影響を受ける。そこで、第1のスリット3B1の端部から第2のスリット3B2の端部までのスリット距離D3Bは、粗骨材の最大寸法値を基準にして決定してもよい。例えば、第1のスリット3B1の端部から第2のスリット3B2の端部までのスリット距離D3Bは、粗骨材の最大寸法値の4/3以上としてもよい。
【0089】
<応力計測方法>
次に、図13を参照しながら第3実施形態の応力計測方法について説明する。
【0090】
まず、光ファイバセンサ2を取り付ける(S1B)。第3実施形態の応力計測方法は、上述したようにコンクリート構造物9に光ファイバセンサ2を取り付ける具体的な態様が第1実施形態の応力計測方法と相違する。コンクリート構造物9に光ファイバセンサ2を取り付ける具体的な態様は、すでに述べたとおりである。
【0091】
次に、基準となる光強度情報を得る(S2B)。この工程S2は、第1実施形態の応力計測方法と同じである。
【0092】
次に、スリット形成領域15B1、15B2にそれぞれ一対のスリット3B1、3B2を形成する(S3B)。つまり、第3実施形態の応力計測方法は、上述したようにコンクリート構造物9に一対のスリット3B1、3B2を形成する具体的な態様が第1実施形態の応力計測方法と相違する。一対のスリット3B1、3B2の具体的な態様は、すでに述べたとおりである。そして、第1の光強度情報を得る(S4B)。この工程S4は、第1実施形態の応力計測方法と同じである。
【0093】
次に、第1の光強度情報を用いて、一対のスリット3B1、3B2の形成によって応力推定領域11Bに生じた解放ひずみ分布を得る(S5B)。例えば、ひずみ計測領域12Bに固定されている光ファイバセンサ2の位置に対応する光強度情報を用いて、第1の解放ひずみ分布を得る。光強度情報から解放ひずみ分布を得る方法については、特に制限はなく公知の手法を用いてよい。
【0094】
次に、解放ひずみ分布を用いて、一対のスリット3B1、3B2を形成する前に応力推定領域11Bに作用していたと予想される作用応力を推定する(S6B)。この工程S6は、第1実施形態の応力計測方法と同じである。
【0095】
上述の工程S1B~S6Bを実施した結果、応力計測領域1Bにおける作用応力の分布を得ることができる。
【0096】
次に、スリット3を埋め戻す工程(S7B)と、第2の光強度情報を得る工程(S8B)と、第2の光強度情報を用いて経時ひずみ分布を得る工程(S9B)と、解放ひずみ分布と、経時ひずみ分布との差分を得る工程(S10B)と、を実施する。そして、当該差分を用いて作用応力の経時変化量を得る(S11B)。これらの工程S7B~S11Bは、第1実施形態の応力計測方法と同じである。
【0097】
<作用効果>
第3実施形態である応力計測方法において、ひずみ計測領域12Bは、応力推定領域11Bのそれぞれに重複する。ひずみ計測領域12Bは、スリット形成領域15B1、15B2に重複しない。光ファイバセンサ2をコンクリート構造物9に取り付ける工程(S1B)では、第1のひずみ計測領域12Bから隣接する第2のひずみ計測領域12Bに至る光ファイバセンサ2が直線状となるように光ファイバセンサ2を取り付ける。このように取り付けられた光ファイバセンサ2によれば、コンクリート構造物9への光ファイバセンサ2の取付態様に起因する光強度情報への影響を抑制することができる。
【0098】
第3実施形態である応力計測方法において、スリット3B1、3B2を形成する工程(S3B)では、ひとつのひずみ計測領域12Bごとに、光ファイバセンサ2を挟むように第1のスリット形成領域15B1及び第2のスリット形成領域15B2を設定し、第1のスリット形成領域15B1に第1のスリット3B1を形成すると共に第2のスリット形成領域15B2に第2のスリット3B2を形成する。このように形成された一対のスリット3B1、3B2によれば、光ファイバセンサ2で良好に捉えることができるひずみ分布の変化を生じさせることができる。
【0099】
第3実施形態である応力計測方法において、第1のスリット3B1及び第2のスリット3B2は、光ファイバセンサ2が延びるX方向に対して交差するY方向に延びている。第1のスリット3B1の光ファイバセンサ2側の端部から第2のスリット3B2の光ファイバセンサ2側の端部までのスリット距離D3Bは、コンクリート構造物9が含む粗骨材の最大寸法値より大きい。このように形成された一対のスリット3B1、3B2によれば、粗骨材の影響が抑制された作用応力を得ることができる。
【0100】
第3実施形態である応力計測方法において、第1のスリット3B1のスリット幅W3B及び第2のスリット3B2のスリット幅W3Bは、光ファイバセンサ2の空間分解能より大きい。このように形成された一対のスリット3B1、3B2によっても、良好な作用応力を得ることができる。
【0101】
第3実施形態である応力計測方法において、作用応力を推定する工程(S6B)は、仮定した作用応力を含む要素モデルを設定する工程(S61B)と、要素モデルに対して切り込みを設けた結果として得られる仮想ひずみ分布を演算する工程(S62B)と、を含む。そして、仮定した作用応力を変化させながら、要素モデルを設定する工程(S61B)及び仮想ひずみ分布を演算する工程(S62B)を繰り返すことにより、第1の光強度情報が示す計測ひずみ分布に仮想ひずみ分布が一致する仮定した作用応力を探索する。このような処理によれば、数値解析の手法を用いて作用応力を推定することができる。
【0102】
<第3実施形態の変形例1>
第3実施形態において、一対のスリット3B1、3B2を形成する工程(S3B)では、図14(a)に例示するようにスリット幅W3Bが3mm程度であると説明した。このスリット幅W3Bは、3mmよりも大きくしてもよい。例えば、拡大したスリット幅W3Bは、図14(b)に示すように10mm以上15mm以下の値であってもよい。スリット幅W3Bを大きくすることによれば、解放圧縮ひずみが発生する応力増大領域H3を光ファイバセンサ2の軸方向に広げることができる。
【0103】
スリット幅W3Bが比較的狭い場合には、図14(c)のグラフG141に示すように、解放圧縮ひずみの分布は、急峻なピークを示す。このようなグラフは、解放圧縮ひずみが局所的に作用していることを示す。急峻なピークを捉えるために、光ファイバセンサ2には高い分解能が要求される。
【0104】
スリット幅W3Bが比較的広い場合には、図14(d)のグラフG142に示すように、解放圧縮ひずみの分布は、緩やかなピークを示す。このようなグラフは、解放圧縮ひずみが広い範囲にわたって作用していることを示す。緩やかなピークを捉えるためには、光ファイバセンサ2には高い分解能が要求されない。図14(d)のグラフG142に示される解放圧縮ひずみの分布を捉える場合には、光ファイバセンサ2の分解能は低くてもよい。空間分解能が低い光ファイバセンサ2から得たデータの処理は、計算の負荷が少ない。従って、計測に要する時間を短縮することができる。また、高性能な計測機器を必要としないので、計測機器の選択の幅を広げることもできる。
【0105】
<第3実施形態の変形例2>
第3実施形態において、一対のスリット3B1、3B2を形成する工程(S3B)では、一対のスリット3B1、3B2は直線状であった。コンクリート構造物9に設ける切り込みは、図15に示すように平面視して円形状である円形スリット3C1、3C2であってもよい。一対の円形スリット3C1、3C2のそれぞれの直径は、特に限定されないが、一例として50mm以上100mm以下であってもよい。一対の円形スリット3C1、3C2は、平面視して円形状の刃を有するコンクリートカッターの回転によって形成される。このようなコンクリートカッターによれば、一方の円形スリット3C1から他方の円形スリット3C2に向かってコンクリートを割り割くようにカッターの歯が入ることがない。換言すると、コンクリートカッターで切削するときに、ひずみ計測領域12Bにおいて一方の円形スリット3C1から他方の円形スリット3C2に向かうような外力が生じない。その結果、解放圧縮ひずみの増加が生じる領域に意図しない引張応力が作用することが抑制されるので、解放圧縮ひずみの計測値に与える影響を抑制することができる。
【0106】
さらに、円形スリット3C1、3C2を切削した部位から、コンクリートのコアを採取してもよい。そして、材料特性を得るためのサンプルとして採取したコンクリートのコアを用いてもよい。
【0107】
要するに、第3実施形態の変形例2である応力計測方法において、円形スリット3C1、3C2を形成する工程(S3B)では、平面視して円形である円形スリット3C1、3C2を形成する。このように形成された円形スリット3C1、3C2によれば、切り込み作業がコンクリート構造物9のひずみ分布に与える影響を抑制することができる。
【0108】
<第3実施形態の変形例3>
第3実施形態の作用応力を推定する工程(S6B)では、ひずみ計測領域12Bに生じたひずみ分布をフィッティングする手法を用いた。作用応力は、フィッティングする手法とは異なる手法によって得てもよい。
【0109】
解放圧縮ひずみの最大値と作用応力との関係を示す変換情報を予め得ておく。図16のグラフG16は、この変換情報の一例である。縦軸は解放圧縮ひずみを示す。横軸は作用応力を示す。解放圧縮ひずみの値がわかると、当該解放圧縮ひずみの値から対応する作用応力に変換することができる。なお、解放圧縮ひずみの最大値と作用応力との関係を示す変換情報は、図16に示すグラフG16に限定されない。例えば、変換情報は、解放圧縮ひずみの最大値を独立変数とし、作用応力を従属変数とする関数であってもよい。また、解放圧縮ひずみの最大値と作用応力とが併記された一覧表であってもよい。
【0110】
解放圧縮ひずみの最大値と作用応力との関係を示す変換情報は、工程S6で例示した2次元FEM解析によって得てもよい。まず、コンクリート構造物9の応力計測領域1Bを模擬する要素モデルを設定する。この要素モデルは、応力計測領域1Bの材料諸元、一対のスリット3B1、3B2のスリット幅W3B及びスリット距離D3Bといった変数によって定義できる。そして、一対のスリット3B1、3B2を形成する前に応力計測領域1Bに生じている初期作用応力を変更しながら、複数回の解析を実施する。その結果、図16に示すような解放圧縮ひずみの最大値と作用応力との関係を示す変換情報を得ることができる。
【0111】
まず、第1~第Nの解放圧縮ひずみの分布を得る(S5B)。そして、解放圧縮ひずみの分布における最大値を抽出する。次に、上述した変換情報を用いて、抽出した解放圧縮ひずみの最大値を作用応力に変換する。例えば、解放圧縮ひずみの最大値が-80μ(図16の符号P161)であるとき、当該解放圧縮ひずみの最大値に対応する作用応力は、グラフG16を参照すると6.4N/mm程度(図16の符号P162)であることがわかる。また、グラフG16を定義する関数が既知である場合には、解放圧縮ひずみの最大値を当該関数に代入することによって、作用応力を得ることもできる。
【0112】
このような手法によれば、工程S6Bにおいて、ひずみ計測領域12Bごとにフィッティング処理を行う必要がない。このような手法によれば、解放圧縮ひずみの最大値を当該関数に代入して作用応力を得るといった負荷の軽い処理によって結果を得ることができる。従って、速やかに作用応力を推定することができる。
【0113】
要するに、第3実施形態の変形例3である応力計測方法において、作用応力を推定する工程(S6B)は、第1の光強度情報が示す計測ひずみ分布が含む最大値を得ることと、計測ひずみ分布が含む最大値を作用応力に変換することと、を含む。このような処理によれば、計算負荷の小さい演算によって作用応力を推定することができる。
【符号の説明】
【0114】
1…応力計測領域、2,2A,4,5,6…光ファイバセンサ、21s…曲線部、21k…直線部、21…固定部分、22…非固定部分、23…X方向計測部、24…Y方向計測部、3,3A…スリット、31…Y方向スリット部、32…X方向スリット部、3D…切り込み、9…コンクリート構造物(計測対象物)、10,10A…応力計測部、11,11B…応力推定領域、12,12A,13,14,12B…ひずみ計測領域、15、15B1,15B2…スリット形成領域(切り込み形成領域)。
図1
図2
図3
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図5
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