(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154435
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】血管穿刺支援装置
(51)【国際特許分類】
A61M 5/42 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
A61M5/42 520
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120214
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】福田 拓海
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 太輝人
(72)【発明者】
【氏名】桑野 陽一郎
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA07
4C066BB01
4C066FF04
4C066LL13
(57)【要約】
【課題】血管と周辺組織とが穿刺時に移動しないように固定できる血管穿刺支援装置を提供する。
【解決手段】皮膚対向面161を有する本体部160と、本体部160に設けられ皮膚対向面161と同じ方向を向く2つ以上の圧子162と、少なくとも1つの圧子162を少なくとも皮膚対向面161の平面方向に沿って移動させる圧子駆動部143と、圧子駆動部143を制御する制御部130と、を有し、制御部130は、圧子162が皮膚表面を圧迫した状態で、前記圧子の押圧力を調整する、または、圧子162同士の距離が離れるように、圧子駆動部143により圧子162を移動させる血管穿刺支援装置100である。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚対向面を有する本体部と、
前記本体部に設けられ前記皮膚対向面と同じ方向を向く2つ以上の圧子と、
前記圧子と接続される圧子駆動部と、を有する皮膚押圧装置の前記圧子駆動部を制御する制御部を備えた血管穿刺支援装置であって、
前記制御部は、前記圧子が皮膚表面を圧迫した状態で、前記圧子の押圧力を調整する血管穿刺支援装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記圧子が皮膚表面を圧迫した状態で、前記圧子同士の距離が離れるように、前記圧子駆動部により前記圧子を前記皮膚対向面の平面方向に沿って移動させる請求項1に記載の血管穿刺支援装置。
【請求項3】
前記圧子駆動部は、前記圧子を前記皮膚対向面と直交する方向に沿って移動させ、
前記制御部は、前記圧子を皮膚表面に向かって移動させると共に、少なくとも2つの前記圧子同士の距離が離れるように、前記圧子駆動部により前記圧子を移動させる請求項2に記載の血管穿刺支援装置。
【請求項4】
前記圧子駆動部は、2つの前記圧子を互いに離れる方向にそれぞれ移動させる請求項2または3に記載の血管穿刺支援装置。
【請求項5】
前記圧子駆動部は、2つの前記圧子を血管が延びる方向に沿って互いに離れる方向にそれぞれ移動させる請求項2または3に記載の血管穿刺支援装置。
【請求項6】
前記本体部には、人体の断面画像を取得する撮像部を有するプローブ本体が設けられる請求項1~5のいずれか1項に記載の血管穿刺支援装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記撮像部で取得された断面画像から血管の幅方向の範囲を検出し、前記圧子が前記血管の幅方向の範囲外に位置するように前記圧子駆動部により前記皮膚対向面の平面方向に沿って移動させる請求項6に記載の血管穿刺支援装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記圧子が皮膚表面を圧迫した状態で、前記撮像部で取得された断面画像から血管の形状を識別し、基準となる血管の形状からの変形が一定以上である場合には、前記基準となる血管の形状からの変形が一定以内となるまで、前記圧子の押圧力を低下させる、または、前記圧子駆動部により前記圧子を前記皮膚対向面の平面方向に沿って移動させる請求項6または7に記載の血管穿刺支援装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記撮像部で取得された断面画像から血管の幅方向の範囲を検出し、
前記圧子が前記血管の幅方向の範囲内に位置している場合に、前記圧子を前記血管の幅方向の範囲外に向かわせる表示を行う表示部を有する請求項6に記載の血管穿刺支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針を穿刺する際に血管が移動することを抑制する血管穿刺支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤投与や血管内治療のアクセスサイト確保のため、人体に注射針を穿刺する血管穿刺が行われる。血管穿刺において、術者は、皮膚表面から血管を目視することはできないため、標準的な血管走行の知識や血管脈動の触知などの技量によって、血管位置を推定している。しかし、しばしば血管穿刺の失敗が生じ、患者に身体的、精神的苦痛を与えている。
【0003】
穿刺位置を特定するために、近年では、近赤外線画像や超音波エコー、光残響イメージングなどの血管位置を可視化する技術が用いられることがある。血管位置を可視化することで、術者が穿刺位置や穿刺角度、穿刺深さなどを容易に決定できる。
【0004】
一部の血管は、筋肉等の硬い組織に固定されていないため、血管に針を穿刺する際、血管の位置が移動して穿刺に失敗することがある。これを抑制するため、特許文献1に開示されているように、血管の周辺を圧迫し、血管が移動しにくいようにすることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
穿刺の差異に血管の周辺を圧迫した場合、押圧力が強いと血管が潰れるように変形することがある。血管が大きく変形すると、穿刺しにくくなるため、針が血管壁を貫通できず、穿刺に失敗するリスクが高くなる。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、血管の周辺を圧迫しつつ血管の変形を抑制できる血管穿刺支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明に係る血管穿刺支援装置は、皮膚対向面を有する本体部と、前記本体部に設けられ前記皮膚対向面と同じ方向を向く2つ以上の圧子と、前記圧子と接続される圧子駆動部と、を有する皮膚押圧装置の前記圧子駆動部を制御する制御部を備えた血管穿刺支援装置であって、前記制御部は、前記圧子が皮膚表面を圧迫した状態で、前記圧子の押圧力を調整する。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した血管穿刺支援装置は、圧子で皮膚表面を圧迫した状態で、圧子の押圧力が調整されるので、圧子の圧迫により血管が変形しても、押圧力の調整により血管を元の形状に戻すことができ、穿刺の成功率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態の血管穿刺支援装置の正面図である。
【
図2】プローブ本体の皮膚接触面を表す図であって、断面画像を取得する腕との位置関係を表した図である。
【
図3】血管穿刺支援装置の本体部付近拡大断面図である。
【
図4】支持脚部のうち弾性部材が取付けられる付近の拡大図であって、(a)は斜視図、(b)は筐体を含む断面図である。
【
図6】圧子を皮膚表面に圧接させた状態における血管穿刺支援装置の本体部付近拡大断面図である。
【
図7】圧子を皮膚表面に圧接させた状態における本体部の平面図である。
【
図9】変形例に係る圧子の配置を有する本体部の平面図である。
【
図10】変形例に係る支持脚部を有する本体部の平面図であって、(a)は支持脚部の伸長前の状態を、(b)は支持脚部の伸長後の状態を、それぞれ示す図である。
【
図11】第2の実施形態の血管穿刺支援装置の正面図である。
【
図13】血管と針との位置関係を表した平面図であって、(a)は針の血管に対する向きを変化させた場合を、(b)は針の血管に対する位置を変化させた場合を、それぞれ表す図である。
【
図14】血管と針との位置関係を表した断面図であって、針の血管に対する入射角度を変化させた場合を表す図である。
【
図15】血管穿刺支援装置の本体部付近拡大断面図である。
【
図18】血管穿刺装置を用いた穿刺のフローチャートである。
【
図20】血管の重心位置と撮像位置および穿刺点との位置関係を表した図である。
【
図21】
図18のS3の状態における血管穿刺支援装置と人体との関係を表した本体部付近拡大断面図である。
【
図22】
図18のS7の状態における血管穿刺支援装置と人体との関係を表した本体部付近拡大断面図である。
【
図23】変形例に係る圧子駆動部を有する血管穿刺支援装置の本体部付近拡大断面図である。
【
図24】断面画像の取得と穿刺を自動で行うことのできる血管穿刺装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
本発明の実施形態に係る血管穿刺支援装置10は、人体の腕への穿刺を行う際に用いられ、腕の断面画像を取得して血管位置を検出し、穿刺タイミングと穿刺パラメータを決定して針を血管に穿刺するものである。
【0013】
図1に示すように、血管穿刺支援装置10は、皮膚対向面31を有する本体部30と、皮膚表面に接触して人体の断面画像を取得する撮像部22を有するプローブ本体20を有している。本体部30は、皮膚対向面31と同じ方向を向く複数の圧子32を有している。複数の圧子32は、いずれも皮膚対向面31より当該皮膚対向面31の垂線方向に離れた位置に配置される。なお、本体部30は、プローブ本体20と一体であってもよい。
【0014】
プローブ本体20の撮像部22は、
図2に示すように、プローブ本体20の皮膚接触面20aの中央部において一方向に沿って延び、その略全幅に渡るように設けられている。撮像部22は、超音波を発生する振動子を有し、その反射波を検出することで人体内部の断面画像を得るエコー装置である。本実施形態では、血管の軸方向と直交する断面画像を取得するので、腕Hの長さ方向に対して撮像部22の長さ方向が直交するように配置される。
【0015】
図3に示すように、圧子32は、支持脚部35の先端部に設けられている。支持脚部35は、本体部30の角部に設けられる開口部30aに挿通されており、本体部30の内部において弾性部材36を介して本体部30に支持されている。
図4(a)に示すように、支持脚部35は、弾性部材36を保持する保持部35aを有している。弾性部材36は、金属線が複数回巻かれて形成されたトーションばねであり、
図4(b)に示すように、一端部には支持脚部35に設けられる穴状の可動側保持部35bに挿入されて固定される脚部側支持部36bを、他端部には本体部30に設けられる穴状の固定側保持部30bに挿入されて固定される本体部側支持部36aを、それぞれ有している。弾性部材36により、支持脚部35は、皮膚対向面31の面方向に対して垂直に近づく方向に付勢されている。開口部30aは、本体部30の皮膚対向面31から側壁にかけて設けられているので、圧子32が力を受けることで、支持脚部35が弾性部材36を中心に回動し、圧子32が皮膚対向面31側に近づくことができる。なお、弾性部材36の本体部側支持部36aと本体部30との固定、および脚部側支持部36bと支持脚部35との固定は、接着剤など他の手段で固定してもよい。
【0016】
図5に示すように、本体部30には、圧子32として第1の圧子32aと第2の圧子32bおよび第3の圧子32cが設けられる。圧子32は、いずれも平面視において方形状に形成されている。第1の圧子32aと第2の圧子32bは、血管穿刺支援装置10が人体の皮膚に接触した際に、血管60が延びる方向である第1の方向D1に沿って互いに対向するように配置されており、第1の圧子対33が構成される。第1の圧子対33を構成する第1の圧子32aと第2の圧子32bは、互いに離れる方向に移動できるように支持脚部35に支持されている。
【0017】
第1の圧子32aと第3の圧子32cは、血管穿刺支援装置10が人体の皮膚に接触した際に、血管60の幅方向である第2の方向D2に概ね沿って互いに対向するように配置されており、第2の圧子対34が構成される。第3の圧子32cは、第2の方向D2に沿って第1の圧子32aから離れる方向に移動できるように支持脚部35に支持されている。
【0018】
図6に示すように、圧子32を皮膚表面に圧接させ、さらに本体部30を皮膚表面に近づけることで、支持脚部35が弾性部材36を中心に回動し、圧子32は対向する圧子32と互いに離れるように移動する。これにより、皮膚表面は図中矢印で示す方向に引き延ばされる。
【0019】
図7に示すように、第1の圧子32aと第2の圧子32bは、互いに離れるように移動することで、第1の圧子対33によって皮膚表面を血管60が延びる方向に沿って引き延ばすことができる。また、第3の圧子32cは、第1の圧子32aに対して血管60の幅方向に離れるように移動することで、第2の圧子対34によって皮膚表面を血管60の幅方向に沿って引き延ばすことができる。このため、本体部30が有する3つの圧子32により、皮膚表面を異なる2方向に引き延ばすことができる。
【0020】
圧子32により皮膚表面を圧迫しつつ引き延ばすことで、血管60が動きにくいように固定することができる。第1の圧子対33により、皮膚表面を血管60が延びる方向に沿って引き延ばすことで、血管60に対し長さ方向に延びるように力が加わり、血管60が緊張して動きにくくなると共に、血管60の周辺組織も併せて動きにくくすることができる。また、第2の圧子対34により、皮膚表面を血管60の幅方向にも引き延ばすことで、血管60と周辺組織とをより動きにくくし、穿刺する針によって血管60が動くことを防止できる。このように、異なる2方向に皮膚表面を引き延ばすことで、穿刺の際に血管60が動きにくくなる効果を高くし、穿刺の成功率を高めることができる。
【0021】
圧子は、方形状以外の形状を有していてもよい。
図8(a)に示すように、圧子38は平面視円形状でもよい。また、
図8(b)に示すように、圧子39は平面視隅丸三角形状でもよい。さらに圧子は五角形以上の多角形などその他の形状を有していてもよい。
【0022】
圧子32の配置について、
図9に示すように、第3の圧子32cは、第1の圧子32aとを結ぶ線に対して傾斜状に配置されてもよい。これにより、皮膚表面を血管60の延びる方向に対して傾斜状に引き延ばすことができる。このように、圧子32が互いに離れる方向は、任意に設定することができる。
【0023】
また、圧子32は、4つ以上設けられてもよい。本例では第1の圧子32aが第1の圧子対33と第2の圧子対34の両方に含まれるが、4つの圧子32で2つの圧子対を構成してもよい。
【0024】
支持脚部は別の形態でもよい。
図10(a)に示すように、支持脚部40は、本体部30の外周から血管60が延びる一方側と他方側にそれぞれ伸縮可能な多接リンク構造を有していてもよい。支持脚部40は、先端部にそれぞれ圧子41を有している。
図10(b)に示すように、支持脚部40の多接リンク構造を延ばすことで、一方側の支持脚部40に設けられた圧子41と、他方側の支持脚部40に設けられた圧子41とが、互いに離れるように移動する。これにより、皮膚表面を血管60が延びる方向に沿って引き延ばすことができる。
【0025】
次に、第2の実施形態の血管穿刺支援装置100について説明する。
図11に示すように、血管穿刺支援装置100は、皮膚表面に接触して人体の断面画像を取得する撮像部122を有するプローブ本体120と、針を駆動して穿刺を行う穿刺部121とを有している。穿刺部121は、プローブ本体120に係合して固定される固定部121aを有しており、プローブ本体120と穿刺部121とが一体化される。
【0026】
図12に示すように、穿刺部121は、筐体140と、穿刺する針141と、針141を移動させる穿刺駆動部142とを有している。穿刺駆動部142は、筐体140に支持される水平駆動部156と、水平駆動部156に支持される二軸駆動部157と、二軸駆動部157に支持される穿刺方向駆動部154と、穿刺方向駆動部154に支持される穿刺方向案内部153と、穿刺方向案内部153に支持されて穿刺方向に沿って移動可能な穿刺移動部152と、を有している。
図12には、X-Y-Z方向を図示している。X方向は腕の幅方向に、Y方向は腕の深さ方向に、Z方向は腕の長さ方向に、それぞれ対応する。水平駆動部156は、支持する二軸駆動部157をX方向に沿って移動させることができる。二軸駆動部157は、支持する穿刺方向駆動部154のX-Z平面内とY-Z平面内における傾きをそれぞれ変化させることができる。穿刺方向駆動部154は、穿刺移動部152を穿刺方向案内部153に沿って移動させることができる。針141は、穿刺移動部152に設けられた針保持部150に固定されている。
【0027】
二軸駆動部157により、針141は、X-Z平面に対する向きを変えることができる。これによって、
図13(a)に示すように、皮膚表面の平面方向に対する針141の向きを変えて、血管60に対して真っ直ぐに針141を入射させることができる。水平駆動部156により、針141は、X方向に移動できる。これによって、
図3(b)に示すように、皮膚表面の平面方向に沿って針141を移動させ、血管160に対して針141を入射させることができるように配置することができる。二軸駆動部157により、針141は、Y-Z平面内における傾きを変化させることができる。これによって、
図14に示すように、針141の皮膚表面に対する入射角度を変化させることができる。
【0028】
図15に示すように、血管穿刺支援装置100は、皮膚対向面161を有する本体部160を有しており、本体部160には複数の圧子162が設けられる。さらに、本体部160は、圧子162を移動させる圧子駆動部143を有している。圧子駆動部143は、本体部160の皮膚対向面161の平面方向と、皮膚対向面161に直交する方向とに、圧子162を移動させるように駆動することができる。
【0029】
圧子162は、皮膚対向面161に対して垂直方向に延びる支持脚部165の先端部に固定されている。圧子駆動部143は、支持脚部165を皮膚対向面161の平面方向に案内する水平案内部170と、水平案内部170に沿って支持脚部165を移動させる水平駆動部171とを有している。また、圧子駆動部143は、水平案内部170を皮膚対向面161と直交する方向に案内する垂直案内部172と、垂直案内部172に沿って水平案内部170を移動させる垂直駆動部173とを有している。これらの機構により、支持脚部165に固定された圧子162は、本体部160に対して皮膚対向面161の平面方向と皮膚対向面161に垂直な方向に、それぞれ移動することができる。
【0030】
図16に示すように、本体部160には、圧子162として第1の圧子162aと第2の圧子162bおよび第3の圧子162cが設けられる。圧子162は、いずれも平面視において方形状に形成されているが、円形その他の形状を有していてもよい。第1の圧子162aと第2の圧子162bは、血管穿刺支援装置100が人体の皮膚に接触した際に、血管60が延びる方向である第1の方向D1に沿って互いに対向するように配置されており、第1の圧子対163が構成される。第1の圧子対163を構成する第1の圧子162aと第2の圧子162bは、圧子駆動部143によって互いに離れる方向に移動できる。
【0031】
第3の圧子162cは、第1の圧子162aに対し血管60を挟んでその幅方向に離隔している。第1の圧子162aと第3の圧子162cは、血管穿刺支援装置100が人体の皮膚に接触した際に、血管60の幅方向である第2の方向D2に沿って互いに対向するように配置されており、第2の圧子対164が構成される。第3の圧子162cは、圧子駆動部143によって第2の方向D2に沿って第1の圧子162aから離れる方向に移動できる。
【0032】
図17に示すように、血管穿刺支援装置100は、皮膚表面に接触して人体の断面画像を取得する撮像部122と、断面画像から血管位置を検出する制御部130と、を有している。制御部130は、送信部132および受信部134を介して撮像部122と接続されており、撮像部122に断面画像を取得させ、また、取得した断面画像を受信することができる。また、制御部130は、穿刺駆動部142を制御して針141による穿刺を実施し、圧子駆動部143を制御して圧子162を移動させることができる。制御部130は、充電回路136を介して充電池からなる電源部137に接続されている。
【0033】
次に、血管穿刺支援装置100の動作を、穿刺の流れに沿って説明する。
図18に示すように、制御部130は、撮像部122から
図19に示すような断面画像を取得する(S1)。断面画像における横方向はX方向、断面画像における縦方向はY方向、断面画像の紙面と直交する方向はZ方向である。この断面画像における左上の点の座標を起点(0,0,0)とする。
【0034】
制御部130は、取得した断面画像を画像解析することで、画像中の血管60の位置を検出する(S2)。制御部130は、画像中で血管60と認識される領域を検出し、その重心位置70を血管の位置とする。画像中で血管と認識される領域を検出するには、同種の画像を多数用意して機械学習、あるいはディープランニングの手法を用いることができる。また、撮像部122においてドップラー法により血流のある領域を検出し、当該領域を血管の領域として認識することもできる。断面画像から血管の領域を検出する際に、動脈と静脈を区別して検出する必要がある。動脈と静脈は、断面画像に表れる腕Hの骨の位置を基準に区別することができる。また、ドップラー法で血流のある領域を検出した場合には、血流の向きによって動脈と静脈を区別することもできる。検出された血管の重心位置70の座標を(x,y,0)とする。
【0035】
制御部130は、圧子駆動部143を制御して、圧子162を垂直方向に降下させ、圧子162を皮膚表面に圧接させることで、腕Hを圧迫する(S3)。
図20に示すように、圧子駆動部143のうち垂直駆動部173を動作させることで、水平案内部170は垂直案内部172に沿って下降し、水平案内部170に支持された支持脚部165に設けられた圧子162は、皮膚表面側に移動して圧接することができる。
【0036】
圧子162で腕Hを圧迫したら、制御部130は、撮像部122で取得した断面画像から血管60に変形が生じていないかを判別する(S4)。血管60の変形は、前回あるいは過去数回に取得した断面画像で検出された基準となる血管60の形状との差が、一定以上大きくなっているか否かで判別することができる。なお、基準となる血管60の形状は、予め用意されていてもよい。S4で血管60の変形が検出されたら、制御部130は圧子駆動部143を制御して圧子162を皮膚表面から引き上げ(S5)、圧子162の設定を変更して(S6)、S1のステップからフローを繰り返す。S6における圧子162の設定変更では、皮膚対向面161の面方向における圧子162の位置と、圧子162の押圧力の設定が変更される。S1~S4のステップを繰り返すことで、断面画像から識別される血管の形状が、基準となる血管の形状から一定以内の変形となるまで、圧子162の押圧力が低下する、または、圧子駆動部143により圧子162が移動することになる。
【0037】
S6において制御部130は、撮像部122で取得した断面画像から血管60の存在する幅方向の範囲を検出し、圧子162が血管60の幅方向の範囲外に位置するように、圧子162を移動させることができる。これにより、圧子162による血管60の圧迫を避けることができる。また、血管穿刺支援装置100のいずれかの位置に表示部を設け、制御部130は、圧子162が血管60の範囲内に位置している場合に、圧子162を血管60の範囲外に向かわせる表示を表示部に行わせてもよい。圧子162を血管60の範囲外に向かわせる表示としては、例えば向きを示す矢印を表示することができる。この場合、術者が血管穿刺支援装置100を移動させることで、圧子162を血管60の範囲外に移動させることができる。
【0038】
S4で血管60の変形が検出されなかったら、制御部130は、圧子162で皮膚表面を圧迫したまま、圧子162を皮膚対向面161の平面方向に移動させる(S7)。
図21に示すように、圧子駆動部143のうち水平駆動部171を動作させることで、支持脚部165は水平案内部170に沿って移動し、支持脚部165に設けられた圧子162は、皮膚対向面161の平面方向に移動できる。前述のように、複数の圧子162が互いに離れるように移動することにより、皮膚表面は血管60が延びる方向と、血管60の幅方向にそれぞれ引き延ばされる。これにより、血管60が周辺組織と共に固定され、穿刺に伴い移動しにくくすることができる。皮膚表面が圧子162により引き延ばされたら、制御部130は、撮像部122で取得した断面画像から血管60に変形が生じていないかを判別する(S8)。ここでの判別は、S4と同様である。S8で血管60の変形が検出された場合は、S5とS6のステップを経て、再度S1のステップから繰り返す。
【0039】
S8で血管60の変形が検出されなかったら、制御部130は穿刺に必要なパラメータを決定する(S9)。穿刺に必要なパラメータは、X-Z平面における穿刺方向、穿刺位置、針141の入射角度、針141の穿刺深さ、針141の穿刺速度が挙げられる。
図22に示すように、撮像部122で取得した断面画像から、血管の重心位置70が検出されているので、プローブ本体120に固定されている穿刺部121の針141が重心位置70に向かうように、X-Z平面における穿刺方向が決定される。
【0040】
穿刺位置は、プローブ本体120の側面120bの直下位置とされる。この場合に、穿刺位置となるプローブ本体120の側面120bのZ方向の座標zは、プローブ本体120の幅Wの半分であるので、z=W/2で算出される。穿刺角度は、皮膚表面の垂線に対する血管重心位置から穿刺位置に向かう線の角度θであり、θ=arctan(z/y)で算出される。穿刺深さaは、a=y/cosθで算出される。これらにより、穿刺位置のx方向の座標と針141の穿刺深さaが規定される。
【0041】
また、穿刺のパラメータとしては、他のパラメータを用いてもよい。例えば、穿刺開始時間、穿刺完了時間、穿刺開始時における穿刺加速度と穿刺完了時における穿刺加速度などを用いることができる。
【0042】
穿刺のパラメータを決定したら、制御部130は、穿刺のパラメータに従い穿刺駆動部142を動作させて穿刺を開始する(S10)。穿刺が開始されたら、制御部130は、撮像部122で取得した断面画像から血管60が移動していないかを判別する(S11)。血管60の移動は、前回あるいは過去数回に取得した断面画像で検出された血管60の位置との差が、一定以上大きくなっているか否かで判別することができる。S11で血管60の移動が検出されたら、制御部130は穿刺を中止し(S12)、再度S1のステップから繰り返す。
【0043】
S11で血管60の移動が検出されなかったら、制御部130は、撮像部122で取得した断面画像から針141が血管60に到達したかを検出する(S13)。針141が血管60に到達したら、制御部130は、穿刺を終了させると共に、圧子162を皮膚表面から引き上げ(S14)、フローを終了する。
【0044】
圧子駆動部の変形例について説明する。
図23に示すように、圧子駆動部144は、支持脚部165を皮膚対向面161の面方向に沿って案内する水平案内部170と、水平案内部170に沿って支持脚部165を移動させる水平駆動部171のみ有していてもよい。この場合、圧子駆動部144は圧子162を垂直方向に駆動しないので、圧子162は、プローブ本体120の皮膚接触面120aと同等の高さ位置に配置される。また、圧子162および圧子駆動部144は、プローブ本体120に対して高さ方向に可動で、かつ、皮膚表面側に向かって付勢された状態で支持されていてもよい。これにより、プローブ本体120を皮膚表面に圧接させるのに伴って、圧子162で皮膚表面を圧迫することができる。
【0045】
血管穿刺支援装置200は、断面画像の取得も含めて自動で行うことのできる自動穿刺装置であってもよい。
図24に示すように、血管穿刺支援装置200は、針204が取付けられた先端部201aを三次元的に移動させることのできるロボットアーム201と、プローブ本体203とを有している。ロボットアーム201は、図示しないセンサに基づく制御により、針204を任意の位置から任意の角度で穿刺することができる。
【0046】
基台部210に腕Hを挿通し、固定部215により固定したら、プローブ本体203で断面画像を取得できる。また、プローブ本体203には、本体部と圧子が設けられ、圧子によって基台部210に挿通された腕Hの皮膚表面を圧迫しつつ引き延ばすことができる。ロボットアーム201は、決定された穿刺パラメータに従って腕Hに針204を穿刺する。
【0047】
以上のように、本実施形態に係る血管穿刺支援装置100は、皮膚対向面161を有する本体部160と、本体部160に設けられ皮膚対向面161と同じ方向を向く2つ以上の圧子162と、圧子162と接続される圧子駆動部143と、圧子駆動部143を制御する制御部130と、を有し、制御部130は、圧子162が皮膚表面を圧迫した状態で、圧子162の押圧力を調整する。このように構成した血管穿刺支援装置100は、圧子162で皮膚表面を圧迫した状態で、圧子162の押圧力が調整されるので、圧子162の圧迫により血管が変形しても、押圧力の調整により血管を元の形状に戻すことができ、穿刺の成功率を高くすることができる。
【0048】
また、圧子駆動部143は、圧子162を皮膚対向面161と直交する方向に沿って移動させ、制御部130は、圧子162を皮膚表面に向かって移動させると共に、少なくとも2つの圧子162同士の距離が離れるように、圧子駆動部143により圧子162を移動させるようにしてもよい。これにより、圧子162で皮膚表面を圧迫しつつ引き延ばすことができるので、血管と周辺組織とを併せて固定し、穿刺時に血管が移動することを効果的に抑制できる。
【0049】
また、圧子駆動部143は、圧子162を皮膚対向面161と直交する方向に沿って移動させ、制御部130は、圧子162を皮膚表面に向かって移動させると共に、少なくとも2つの圧子162同士の距離が離れるように、圧子駆動部143により圧子162を移動させるようにしてもよい。これにより、圧子162で皮膚表面を圧迫しつつ引き延ばす動作が確実に実施される。
【0050】
また、圧子駆動部143は、2つの圧子162を互いに離れる方向にそれぞれ移動させるようにしてもよい。これにより、2つの圧子162が相互に離れるように移動することで、より確実に皮膚表面を引き延ばすことができる。
【0051】
また、圧子駆動部143は、2つの圧子162を血管が延びる方向に沿って互いに離れる方向にそれぞれ移動させるようにしてもよい。これにより、血管を延ばす方向に力を加え、血管を緊張させて動きにくくすることができる。
【0052】
また、本体部160には、人体の断面画像を取得する撮像部122を有するプローブ本体120が設けられるようにしてもよい。これにより、圧子を血管に対して適切な位置に配置しながら圧子による血管の固定を行うことができる。
【0053】
また、制御部130は、撮像部122で取得された断面画像から血管60の幅方向の範囲を検出し、圧子162が血管の幅方向の範囲外に位置するように圧子駆動部143により皮膚対向面161の平面方向に沿って移動させるようにしてもよい。これにより、圧子162による血管60の圧迫を避けることができる。
【0054】
また、制御部130は、圧子162が皮膚表面を圧迫した状態で、撮像部122で取得された断面画像から血管の形状を識別し、基準となる血管の形状からの変形が一定以上である場合には、基準となる血管の形状からの変形が一定以内となるまで、圧子162の押圧力を低下させる、または、圧子駆動部143により圧子162を皮膚対向面161の平面方向に沿って移動させるようにしてもよい。これにより、圧子162の圧迫により血管の形状が変形したとしても、これを解消してから穿刺を実施することができるので、穿刺の成功率をより高くすることができる。
【0055】
また、制御部130は、撮像部で取得された断面画像から血管60の幅方向の範囲を検出し、圧子162が血管60の幅方向の範囲内に位置している場合に、圧子162を血管60の幅方向の範囲外に向かわせる表示を行う表示部を有するようにしてもよい。これにより、圧子162が血管60を圧迫している場合に、これを避けるように術者に促すことができる。
【0056】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、本実施形態において取得した断面画像を表示するモニタは図示されていないが、血管穿刺支援装置10をモニタに接続して、断面画像を目視できるようにしてもよい。また、取得した断面画像の画像情報や穿刺のパラメータの情報を有線または無線で外部出力し、外部機器にてこれらのモニタリングや、穿刺のパラメータの設定変更などを行うことができるようにしてもよい。
【0057】
また、本実施形態では、穿刺の目標位置を穿刺する血管の重心位置としているが、穿刺する血管の重心位置以外の位置を目標位置としてもよい。例えば、穿刺する血管と撮像部22との間に位置する血管の内表面や、血管の膜内の位置を検出し、その位置を目標位置としてもよい。また、これらの位置から一定の距離だけ離れた位置を目標位置としてもよい。
【0058】
また、血管穿刺支援装置100は圧子駆動部143を制御する制御部130を備えるものとし、本体部130と圧子132および圧子駆動部143を有する皮膚押圧装置を血管穿刺支援装置100とは別体として設けてもよいし、上述のように皮膚押圧装置が血管穿刺支援装置100と一体的に構成されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 血管穿刺支援装置
20 プローブ本体
22 撮像部
30 本体部
30a 開口部
31 皮膚対向面
32 圧子
32a 第1の圧子
32b 第2の圧子
32c 第3の圧子
33 第1の圧子対
34 第2の圧子対
35 支持脚部
35a 保持部
36 弾性部材
38 圧子
39 圧子
40 支持脚部
41 圧子
60 血管
70 重心位置
71 撮像位置
100 血管穿刺装置
120 プローブ本体
121 穿刺部
121a 固定部
122 撮像部
130 制御部
132 送信部
134 受信部
136 充電回路
137 電源部
140 筐体
141 針
142 穿刺駆動部
143 圧子駆動部
144 圧子駆動部
150 針保持部
151 穿刺方向駆動部
152 穿刺移動部
153 穿刺方向案内部
154 穿刺方向駆動部
156 水平駆動部
157 二軸駆動部
160 本体部
161 皮膚対向面
162 圧子
162a 第1の圧子
162b 第2の圧子
162c 第3の圧子
163 第1の圧子対
164 第2の圧子対
165 支持脚部
170 水平案内部
171 水平駆動部
172 垂直案内部
173 垂直駆動部
200 血管穿刺装置
201 ロボットアーム
201a 先端部
202 血管穿刺支援装置
203 プローブ本体
204 針
210 基台
215 固定部