IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人金沢大学の特許一覧 ▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特開-燃料電池システム 図1
  • 特開-燃料電池システム 図2
  • 特開-燃料電池システム 図3
  • 特開-燃料電池システム 図4
  • 特開-燃料電池システム 図5
  • 特開-燃料電池システム 図6
  • 特開-燃料電池システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154442
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04223 20160101AFI20241024BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20241024BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20241024BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241024BHJP
【FI】
H01M8/04223
H01M8/04858
H01M8/04537
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068178
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】金子 拓平
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA08
5H127AA09
5H127AC05
5H127BA01
5H127BA03
5H127BA21
5H127BA57
5H127BB02
5H127BB10
5H127BB12
5H127BB37
5H127DA20
5H127DB63
5H127DB66
5H127DC42
5H127DC50
(57)【要約】
【課題】簡易な構成でリフレッシュ運転時の燃料電池への非可逆的なダメージや電極劣化を抑制することができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システム1は、燃料電池10から外部負荷Cに電力を出力する通常運転と、燃料電池10の出力低下を回復するリフレッシュ運転とを切り替える制御装置50を備える。制御装置50は、リフレッシュ運転中の放電電気量qを取得する放電電気量取得部51と、燃料電池10のアノード側拡散層21における空孔体積と同体積の液体燃料から生成可能な電気量である基準電気量Qが記憶された基準電気量記憶部52と、放電電気量qと基準電気量Qとを比較する比較部53と、比較部53の比較結果に基づいてリフレッシュ運転から通常運転に切り替えるか否かを判定する判定部54と、判定部54の判定結果に基づいてリフレッシュ運転から通常運転に切り替える切替部55とを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料と酸化剤とを反応させることによって電極反応により電力を出力可能に構成された燃料電池と、
上記燃料電池から外部負荷に電力を出力する通常運転と、外部負荷への出力を停止して放電させることにより上記燃料電池の出力低下を回復するリフレッシュ運転とを切り替える制御装置と、
を備える燃料電池システムであって、
上記燃料電池は、電解質膜と、上記電解質膜の一方の面に順次積層されたアノード触媒層及びアノード側拡散層と、上記電解質膜の他方の面に順次積層されたカソード触媒層及びカソード側拡散層とを備え、
上記制御装置は、
リフレッシュ運転中の放電により発生した電気量である放電電気量を取得する放電電気量取得部と、
上記アノード側拡散層における空孔体積と同体積の液体燃料から生成可能な電気量である基準電気量が記憶された基準電気量記憶部と、
上記放電電気量と上記基準電気量とを比較する比較部と、
上記比較部の比較結果に基づいて、リフレッシュ運転から通常運転に切り替えるか否かを判定する判定部と、
上記判定部の判定結果に基づいて、リフレッシュ運転から通常運転に切り替える運転状態切替部と、を含む、燃料電池システム。
【請求項2】
上記判定部は、上記比較部の比較結果が、上記放電電気量が上記基準電気量に達したことを示すとき、リフレッシュ運転から通常運転に切り替えると判定する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
上記アノード側拡散層における上記空孔体積は、上記アノード側拡散層の全体積に上記アノード側拡散層における空孔率を乗じて算出される、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
上記制御装置は、上記放電電気量取得部により取得された上記放電電気量を補正するための補正値として、リフレッシュ運転直前の通常運転において上記燃料電池から出力された電力に基づく補正値を算出する補正値算出部を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体燃料を用いた固体高分子型の燃料電池は、一般に、電解質膜の一方の面にアノード触媒層及びアノード側拡散層が積層され、他方の面にカソード触媒層及びカソード側拡散層が積層されており、アノード側拡散層を介してアノード触媒層に液体燃料が直接供給され且つカソード側拡散層を介してカソード触媒層に酸化剤が外部から供給されることにより電極反応が生じて発電される。このような固体高分子型の燃料電池では、電極反応によりアノード側ではガスが発生して燃料供給が阻害されるため、連続運転を行うと徐々に出力が低下する。特許文献1には、運転途中で燃料電池の出力及びアノード側への燃料の供給を停止し、アノード-カソード間をショートすることにより強制的に放電を行うリフレッシュ運転制御を行って出力低下を回復する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-146209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示のような構成では、リフレッシュ運転制御による放電中、アノード側ではアノード側拡散層に残存していた液体燃料の分解反応によって発生した二酸化炭素によりアノード側拡散層が気体状態となり、カソード側拡散層も通常運転時に供給された空気により気体状態となっているため、ショート時間が長いと電解質膜が乾燥して非可逆的なダメージを受ける。また、リフレッシュ運転時は燃料供給が停止されているため、アノード側拡散層に残存していた燃料が消費され尽くした後もリフレッシュ運転制御による放電が継続されると、アノード側電極が腐食されてアノード側電極に非可逆的な劣化が生じることとなる。
【0005】
一方、リフレッシュ運転中にアノード側拡散層に液体燃料に替えて水等を供給することで、液体燃料の供給を停止しつつアノード側拡散層への水分の供給を継続することで、リフレッシュ運転中においてもガスを系外に排出して、アノード触媒層及び電解質膜の乾燥を防止することができる。しかしながら、この場合には、アノード側拡散層に当該水等を供給するための構成が必要となることから装置が複雑化することとなる。
【0006】
本発明は、簡易な構成でリフレッシュ運転時の燃料電池への非可逆的なダメージや電極劣化を抑制することができる燃料電池システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、液体燃料と酸化剤とを反応させることによって電極反応により電力を出力可能に構成された燃料電池と、
上記燃料電池から外部負荷に電力を出力する通常運転と、外部負荷への出力を停止して放電させることにより上記燃料電池の出力低下を回復するリフレッシュ運転とを切り替える制御装置と、
を備える燃料電池システムであって、
上記燃料電池は、電解質膜と、上記電解質膜の一方の面に順次積層されたアノード触媒層及びアノード側拡散層と、上記電解質膜の他方の面に順次積層されたカソード触媒層及びカソード側拡散層とを備え、
上記制御装置は、
上記アノード側拡散層における空孔体積と同体積の液体燃料から生成可能な電気量である基準電気量が記憶された基準電気量記憶部と、
リフレッシュ運転中の放電により発生した電気量である放電電気量を取得する放電電気量取得部と、
上記放電電気量と上記基準電気量とを比較する比較部と、
上記比較部の比較結果に基づいて、リフレッシュ運転から通常運転に切り替えるか否かを判定する判定部と、
上記判定部の判定結果に基づいて、リフレッシュ運転から通常運転に切り替える運転状態切替部と、を含む、燃料電池システム。
【発明の効果】
【0008】
上記態様の燃料電池システムによれば、リフレッシュ運転開始後、アノード側拡散層に残存する液体燃料が電極反応することによってアノード側拡散層で生じた二酸化炭素はアノード側拡散層の空孔を満たし、さらに液体燃料の供給流路内に放出されるため、アノード側拡散層に液体燃料が入り込むことが規制される。したがって、リフレッシュ運転中にアノード側拡散層に残存する液体燃料を用いた放電で発生する放電電気量は、アノード側拡散層の空孔体積と同体積の液体燃料により生成可能な電気量である基準電気量と等しくなる。そのため、上記燃料電池システムにおいて、リフレッシュ運転中の放電電気量と基準電気量とを比較することで、リフレッシュ運転中にアノード側拡散層の液体燃料が消費され尽くしたタイミングを正確に把握することができ、当該タイミングでリフレッシュ運転から通常運転に切り替えるようにすることができる。
【0009】
その結果、リフレッシュ運転中にアノード側電極を構成するアノード触媒層が腐食されて非可逆的な劣化が生じることを防止することができるとともに、アノード側拡散層の液体燃料が消費され尽くしたタイミングですぐに通常運転に切り替えて燃料電池への液体燃料の供給を再開することで、電解質膜が乾燥して非可逆的なダメージを受けることを抑制することができる。また、リフレッシュ運転時に外部からアノード側拡散層に水等を供給するための構成を要しないため、装置構成の簡素化を図ることができる。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、簡易な構成でリフレッシュ運転時の燃料電池への非可逆的なダメージや電極劣化を抑制することができる燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1における、燃料電池システムの構成を示す概念図。
図2】実施形態1における、燃料電池の構成を示す概念断面図。
図3】実施形態1における、制御装置の構成を示すブロック図。
図4】実施形態1において基準電気量を説明するための図2の一部拡大図。
図5】実施形態1における、リフレッシュ運転直前の通常運転時の出力電力とアノード側空間体積使用率との関係を示す図。
図6】実施形態1における、リフレッシュ運転の終了制御を説明するフロー図。
図7】変形形態1における、確認試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
1.燃料電池システム1の構成
実施形態1では、図1に示すように燃料電池システム1は、燃料電池10と制御装置50とを備える。そして、燃料電池10は、単体セルUとして複数積層されて燃料電池スタック100を形成している。燃料電池スタック100において積層された複数の単体セルUはホルダH及びボルトBによって保持される。燃料電池スタック100には、燃料タンク101に貯留された液体燃料であるギ酸を加圧して供給する第1ポンプ102が配管を介して接続部K1に接続される。また、燃料電池スタック100には、ガスタンク103に貯留された酸化剤(酸化剤ガス)として酸素ガスを加圧して供給する第2ポンプ104が配管を介して接続部K2に接続される。第1ポンプ102及び第2ポンプ104の動作は、制御装置50により制御される。
【0013】
2.燃料電池10の構成
図2に示すように、燃料電池10は、電解質膜11、アノード触媒層12、カソード触媒層13を備える。電解質膜11の一方の面にアノード触媒層12が積層され、他方の面にカソード触媒層13が積層されて、電極構造体であるMEA(Membrane-Electrode-Assembly:膜―電極接合体)を形成している。アノード触媒層12及びカソード触媒層13は、例えば、電解質膜11のそれぞれの面に、白金(Pt)やパラジウム(Pd)等の金属触媒及びこれら金属触媒が付加されたカーボン及び電解質がコーティングされて形成される。なお、燃料電池10は、電解質膜11の面方向が鉛直方向Yに平行となるように配置されている。
【0014】
アノード触媒層12にはアノード側拡散層21が積層されており、カソード触媒層13にはカソード側拡散層22が積層されている。アノード側拡散層21及びカソード側拡散層22はそれぞれ多孔質材料からなり、それぞれ多数の空孔を有している。
【0015】
アノード側拡散層21のアノード触媒層12と反対側にはアノード側セパレータ31が積層されている。アノード側セパレータ31は例えば、樹脂材料により形成することができる。アノード側セパレータ31のアノード触媒層12に対向する面には鉛直方向Yに伸びる図示しない複数のリブが設けられており、当該複数のリブの間に形成された溝により液体燃料の流路33が形成されている。流路33は第1ポンプ102を介して加圧された液体燃料が供給されるように構成されている。流路33に供給された液体燃料は流路33からアノード側拡散層21の空孔に浸透する。カソード側拡散層22のカソード触媒層13と反対側にはカソード側セパレータ32が積層されている。カソード側セパレータ32もアノード側セパレータ31と同様の構成とすることができる。なお、カソード側拡散層22には第2ポンプ104を介して加圧された酸化剤が流路34を介して供給される。
【0016】
当該燃料電池10のアノード側拡散層21及びアノード触媒層12に供給される燃料としては、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)等の液体燃料を例示することができ、本実施形態1では、燃料電池10が液体燃料としてギ酸を直接用いる直接ギ酸型燃料電池(DFAFC)である場合を例示する。また、燃料電池10のカソード側拡散層22及びカソード触媒層13に対して供給される酸化剤(酸化剤ガス)としては、酸素(O)ガス、空気等を例示することができ、本実施形態1では、酸素ガスを用いる場合を例示する。
【0017】
3.制御装置50の構成
制御装置50は、演算処理装置と記憶装置とからなり、燃料電池10から外部負荷Cに電力を出力する通常運転と、外部負荷Cへの出力を停止して放電させることにより燃料電池10の出力低下を回復するリフレッシュ運転とを切り替えるように構成されている。図3に示すように、制御装置50は、放電電気量取得部51、基準電気量記憶部52、比較部53、判定部54、切替部55、補正値算出部56を備える。
【0018】
3-1.放電電気量取得部51
放電電気量取得部51は、燃料電池10においてリフレッシュ運転中の放電により発生した電気量である放電電気量を取得する。放電電気量取得部51は、燃料電池10から出力される電力の電流値を取得する電流センサと該電流センサにより取得された電流値の積算量を算出する処理装置とからなり、リフレッシュ運転中の放電による電流値積算量を放電電気量として取得する。
【0019】
3-2.基準電気量記憶部52
基準電気量記憶部52は、アノード側拡散層21における空孔体積と同体積の液体燃料から生成可能な電気量である基準電気量が記憶されている。基準電気量について、以下に詳述する。まず、図4(a)において矢印Fで示すように、通常運転時は流路33を介してアノード側拡散層21に液体燃料が供給され、矢印Gで示すようにアノード側拡散層21からアノード側拡散層21で発生した二酸化炭素は流路33に放出され、流路33を介して図示しないタンクに貯留される。このとき、流路33の大半は液体燃料で満たされている。
【0020】
一方、リフレッシュ運転直後では、図4(b)に示すように、流路33には液体燃料(ギ酸)の供給が停止され、矢印Gで示すようにアノード側拡散層21からアノード側拡散層21で発生した二酸化炭素は流路33に放出されるため、流路33に残存していた液体燃料は、二酸化炭素により急速に流路33から追はい出されることとなる。そのため、図4(c)に示すように、リフレッシュ運転中は、流路33に液体燃料が存在しない状態で放電が進行することとなる。そのため、リフレッシュ運転中の放電は、基本的にアノード側拡散層21に残存していた液体燃料を消費して行われることとなる。
【0021】
そして、液体燃料はアノード側拡散層21が有する空孔に存在するため、リフレッシュ運転開始時にアノード側拡散層21に残存する液体燃料の体積はアノード側拡散層21が有する空孔体積と同等となる。したがって、リフレッシュ運転中に消費される液体燃料の最大量は空孔体積と同等であるため、リフレッシュ運転において、空孔体積に相当する液体燃料により生成可能な電気量が放電されたときが、アノード側に存在するすべての液体燃料が消費され尽くしたタイミングであるということができる。したがって、当該タイミングを検出するための基準電気量Qとして、アノード側拡散層21の空孔体積と同体積の液体燃料から生成可能な電気量を設定する。
【0022】
このように設定される基準電気量Qは、アノード側拡散層21における空孔体積V[m]は、アノード側拡散層21の全体積V[m]にアノード側拡散層21における空孔率φとしたとき、下記の式1により算出することができる。なお、アノード側拡散層21の全体積Vは限定されないが、燃料電池10の大きさなどに応じて適宜設定される。アノード側拡散層21の空孔率φはアノード側拡散層21を構成する材質によって規定される定数である。
【0023】
=V・φ (式1)
【0024】
アノード側拡散層21が有する空孔には、流路33を介して液体燃料が侵入するように構成されており、流路33を介してアノード側拡散層21に侵入する液体燃料の体積は、アノード側拡散層21が有する空孔体積Vと同等となっている。したがって、基準電気量Q[C]は、液体燃料としてのギ酸モル濃度c[mol/L]、ファラデー定数F[C/mol]を用いて、下記の式2により算出することができる。
【0025】
Q=V・1000c・F・2 (式2)
【0026】
3-3.比較部53、判定部54
比較部53は、放電電気量取得部51により取得された放電電気量qと、基準電気量記憶部52に記憶された基準電気量Qとを比較する。そして、判定部54は、比較部53の比較結果に基づいて、リフレッシュ運転から通常運転に切り替えるか否かを判定する。本実施形態では、放電電気量qが基準電気量Qに達したことを示す比較部53の比較結果から、判定部54は、リフレッシュ運転から通常運転に切り替えると判定する。なお、放電電気量取得部51が放電電気量qを取得するタイミングによっては、前回放電電気量qを取得したときは基準電気量Qに達していなかったが、今回放電電気量qを取得すると基準電気量Qを超えていたという場合も想定しうる。この場合は、今回の放電電気量qを取得したときに「比較部53の比較結果が、放電電気量qが基準電気量Qに達したことを示す」ものとし、判定部54はリフレッシュ運転から通常運転に切り替えると判定することとする。
【0027】
3-4.切替部55
切替部55は、判定部54の判定結果に基づいて、リフレッシュ運転から通常運転に切り替える。切替部55は、電力線Lを介して燃料電池スタック100の出力端子Tに接続されている。通常運転時には、切替部55は燃料電池システム1を電源とする外部負荷Cとを通電する状態とするとともに、第1ポンプ102及び第2ポンプ104を駆動して燃料電池10に液体燃料を供給する状態に切り替えて、当該外部負荷Cに燃料電池10の出力電力を供給する。
【0028】
一方、リフレッシュ運転時には、切替部55は第1ポンプ102及び第2ポンプ104を停止してアノード側拡散層21への液体燃料の供給を停止してアノード側拡散層21に水溶液が供給されない状態を維持するとともに、燃料電池10の電力をグランドに出力するように切り替えて、燃料電池10のアノード-カソード間をショートさせるショート回路(図示せず)に接続して強制的に放電させる。
【0029】
リフレッシュ運転から通常運転に切り替える際には、ショート回路を解除して、再度、燃料電池システム1を電源とする外部負荷Cとを通電する状態とするとともに、第1ポンプ102及び第2ポンプ104を駆動して燃料電池10に液体燃料を供給する状態に切り替える。
【0030】
3-4.補正値算出部56
補正値算出部56は、放電電気量取得部51により取得された放電電気量を補正するための補正値として、リフレッシュ運転直前の通常運転において燃料電池10から出力された電力の電流値に基づく補正値を算出する。当該補正値C0は、リフレッシュ運転直前の通常運転において、リフレッシュ運転直前のz秒間における燃料電池10から出力された電力の平均値である平均電力W[W]と、係数kとに基づいて、下記の式3から算出される。なお、係数kは限定されず、予め設定した値とすることができる。
【0031】
C0=k・W (式3)
【0032】
補正値C0を放電電気量取得部51により取得された放電電気量qに加算することで、放電電気量qを補正することができる。当該補正により、リフレッシュ運転開始直後に流路33に残存する液体燃料がアノード側拡散層21に入り込むことを考慮することができる。リフレッシュ運転開始直後に流路33に残存する液体燃料は、リフレッシュ運転直前の通常運転における出力電力に応じて異なる。なお、リフレッシュ運転開始直後に流路33からアノード側拡散層21に入り込む液体燃料の量はアノード側拡散層21の空孔体積に比べて十分小さい。
【0033】
フレッシュ運転時に流路33からアノード側拡散層21に入り込む液体燃料の量について、リフレッシュ運転直前の通常運転時の出力電力とアノード側空間体積使用率との関係を示した図5を用いて以下に詳述する。なお、図5におけるアノード側空間体積とは、アノード側拡散層21の空孔体積とアノード側の流路33の流路体積との合計であり、アノード側空間体積使用率とは、リフレッシュ運転直前の通常運転時に消費された液体燃料がアノード側空間体積に占める割合である。
【0034】
図5に示すように、リフレッシュ運転直前の通常運転における出力電力が多い場合はアノード側で消費される液体燃料が多くなるため、アノード側空間体積使用率は低くなる。したがって、リフレッシュ運転直後に流路33に残存する液体燃料が少なくなり、これに応じて、流路33からアノード側拡散層21に入り込む液体燃料の量も低下することとなる。一方、リフレッシュ運転直前の通常運転における出力電力が少ない場合はアノード側で消費される液体燃料も少なくなるため、アノード側空間体積使用率は高くなる。したがって、リフレッシュ運転直後に流路33に残存する液体燃料は多くなり、これに応じて、流路33からアノード側拡散層21に入り込む液体燃料の量も増加することとなる。
【0035】
このように算出される補正値C0を放電電気量qに加算することで、流路33からアノード側拡散層21に入り込む液体燃料の量を考慮して放電電気量qを補正することができる。
【0036】
4.リフレッシュ運転の終了制御
次に、リフレッシュ運転の終了制御について、図6に示すフロー図を用いて、説明するまず、ステップS1において、切替部55により、通常運転からリフレッシュ運転に切り替えて、リフレッシュ運転を開始する。これにより、燃料電池10への液体燃料の供給を停止して、燃料電池10をショート回路に接続する。
【0037】
そして、ステップS2において、放電電気量取得部51により、リフレッシュ運転中の燃料電池10の放電による放電電気量qを取得する。次いで、ステップS3において、補正値算出部56により、補正値C0を算出して放電電気量qに補正値C0を加算したものを放電電気量qとする。その後、ステップS4において、比較部53により、基準電気量記憶部52から基準電気量Qを呼び出し、ステップS5において放電電気量qと基準電気量Qとを比較する。
【0038】
ステップS5において、比較結果が、放電電気量qが基準電気量Qに達したことを示す場合は、ステップS5のYesに進み、ステップS6において、判定部54によりリフレッシュ運転を終了すると判定する。そして、ステップS7において、切替部55によりリフレッシュ運転から通常運転に切り替えて、リフレッシュ運転の終了制御のフローを終了する。これにより、燃料電池10のアノード側に再度液体燃料が供給され、燃料電池10の電力は外部負荷Cに供給される。
【0039】
一方、ステップS5において、比較結果が、放電電気量qが基準電気量Qに達したことを示さない場合は、ステップS5のNoに進み、ステップS8において、判定部54によりリフレッシュ運転を終了しないと判定する。そして、ステップS9において、切替部55による切り替えを行わずにリフレッシュ運転を継続する。そして、ステップS2以降を再度実施する。
【0040】
5.確認試験
本実施形態1の燃料電池システム1を試験例1とし、燃料電池10においてアノード側拡散層21が2枚積層された変形形態の燃料電池システム1を試験例2として、リフレッシュ運転時間時の放電電気量の比較を行った。図7に示すように、アノード側拡散層21が一枚の試験例1に対して、アノード側拡散層21が2枚積層された試験例2において、リフレッシュ運転時間時の放電電気量が約2倍になることが確認できた。すなわち、リフレッシュ運転時の放電電気量は、アノード側拡散層21における空孔体積に比例するものであって、ひいては空孔体積に残留する液体燃料の体積に対応することが推察できた。
【0041】
6.作用効果
次に、本実施形態の燃料電池システム1における作用効果について、詳述する。燃料電池システム1によれば、リフレッシュ運転開始後、アノード側拡散層21に残存する液体燃料が電極反応することによってアノード側拡散層21で生じた二酸化炭素はアノード側拡散層21の空孔を満たし、さらに液体燃料を供給する流路33内に放出されるため、アノード側拡散層21に液体燃料が入り込むことが規制される。したがって、リフレッシュ運転中にアノード側拡散層21に残存する液体燃料を用いた放電で発生する放電電気量は、アノード側拡散層21の空孔体積と同体積の液体燃料により生成可能な電気量である基準電気量Qと等しくなる。そのため、本実施形態1の燃料電池システム1において、リフレッシュ運転中の放電電気量qと基準電気量Qとを比較することで、リフレッシュ運転中にアノード側拡散層21の液体燃料が消費され尽くしたタイミングを正確に把握することができ、当該タイミングでリフレッシュ運転から通常運転に切り替えるようにすることができる。
【0042】
その結果、リフレッシュ運転中にアノード側電極を構成するアノード触媒層12が腐食されて非可逆的な劣化が生じることを防止することができるとともに、アノード側拡散層21の液体燃料が消費され尽くしたタイミングですぐに通常運転に切り替えて燃料電池10への液体燃料の供給を再開することで、電解質膜が乾燥して非可逆的なダメージを受けることを抑制することができる。また、リフレッシュ運転時に外部からアノード側拡散層21に水等を供給するための構成を要しないため、装置構成の簡素化を図ることができる。
【0043】
また、本実施形態1では、判定部54は、比較部53の比較結果が、放電電気量qが基準電気量Qに達したことを示すとき、リフレッシュ運転から通常運転に切り替えると判定する。これにより、アノード側拡散層21の液体燃料が消費され尽くしたタイミングで確実にリフレッシュ運転から通常運転に切り替えることができるため、リフレッシュ運転時の燃料電池10への非可逆的なダメージや電極劣化を一層抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態1では、アノード側拡散層21における空孔体積Vは、アノード側拡散層21の全体積Vにアノード側拡散層21における空孔率φを乗じて算出される。これにより、アノード側拡散層21における空孔体積Vを容易に算出することができる。
【0045】
また、本実施形態1では、制御装置50は、放電電気量取得部51により取得された放電電気量qを補正するための補正値C0として、リフレッシュ運転直前の通常運転において燃料電池10から出力された電力に基づく補正値C0を算出する補正値算出部56を含む。これにより、リフレッシュ運転直前の通常運転の状態に応じて変化する流路33からアノード側拡散層21に入り込む液体燃料の量を考慮して放電電気量qが補正されるため、リフレッシュ運転中にアノード側拡散層21の液体燃料が消費され尽くしたタイミングを一層正確に把握することができ、リフレッシュ運転時の燃料電池10への非可逆的なダメージや電極劣化を一層抑制することができる。
【0046】
以上のごとく、本実施形態1及び変形形態によれば、簡易な構成でリフレッシュ運転時の燃料電池10への非可逆的なダメージや電極劣化を抑制することができる燃料電池システム1を提供することができる。
【0047】
本発明は上記実施形態1及び変形形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1:燃料電池システム、10:燃料電池、11:電解質膜、12:アノード触媒層、13:カソード触媒層、21:アノード側拡散層、22:カソード側拡散層、31:アノード側セパレータ、32:カソード側セパレータ、33:流路、50:制御装置、51:放電電気量取得部、52:基準電気量記憶部、53:比較部、54:判定部、55:切替部、56:補正値算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7