(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154486
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】色補正装置、印刷システム、色補正方法およびコンピュータープログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 1/60 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
H04N1/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068301
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】山下 充裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】金子 賢史
(57)【要約】
【課題】出力値の補正対象とする色成分を選択して、色の濁りや粒状感の発生を抑制する技術を提供する。
【解決手段】色補正装置は、入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部と、印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける選択部と、入力値が対象色成分を含まない色を表す場合に、対象色成分を減少させるように出力値を補正する補正部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色補正装置であって、
入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部と、
印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける選択部と、
前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する補正部と、
を備える色補正装置。
【請求項2】
請求項1に記載の色補正装置であって、
前記選択部は、前記複数の色成分のうち、3つ以上の色成分を前記対象色成分として選択することを受け付けることが可能に構成される、色補正装置。
【請求項3】
請求項1に記載の色補正装置であって、
Nを3以上の整数としたとき、前記選択部は、前記印刷装置で使用されるN個の色材に対応するN個の色成分のうち、任意の1個以上N個以下の色成分を前記対象色成分として選択することを受け付けるように構成される、色補正装置。
【請求項4】
請求項1に記載の色補正装置であって、
前記対象色成分を減少させる前記出力値の前記補正は、前記対象色成分の値をゼロでない補正値に変更するように前記出力値を補正する処理である、色補正装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の色補正装置であって、
前記補正部は、更に、前記複数の色成分のうちで前記対象色成分以外の色成分に相当する出力値成分を補正することによって、補正前の前記出力値で表される第1色と、補正後の前記出力値で表される第2色との差を減少させる、色補正装置。
【請求項6】
請求項1に記載の色補正装置であって、
前記色変換部は、前記入力色空間を前記出力色空間に変換する色変換ルックアップテーブルを含み、
前記補正部は、前記色変換ルックアップテーブルについて前記補正を実行する、色補正装置。
【請求項7】
請求項6に記載の色補正装置であって、
前記補正部は、前記色変換ルックアップテーブルの複数の格子点のうち、前記対象色成分に相当する入力値成分が存在しない格子点を選択し、選択された前記格子点についての前記出力値のうち、前記対象色成分に相当する出力値成分を補正する、色補正装置。
【請求項8】
色補正装置と印刷装置とを備える印刷システムであって、
前記色補正装置は、
入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部と、
前記印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける選択部と、
前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する補正部と、
前記補正部で補正された補正出力値を用いて前記印刷装置に供給する印刷データを生成する印刷データ生成部と、
を含む、印刷システム。
【請求項9】
色補正方法であって、
(a)入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する工程と、
(b)印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける工程と、
(c)前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する工程と、
を備える色補正方法。
【請求項10】
コンピュータープログラムであって、
(a)入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する処理と、
(b)印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける処理と、
(c)前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する処理と、
をコンピューターに実行させる、コンピュータープログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、色補正装置、印刷システム、色補正方法およびコンピュータープログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な印刷装置では、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),K(ブラック)の4種類の色材を用いて印刷が実行される。印刷を行う際には、パソコンなどの印刷データ生成装置において入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換が実行される。色変換では、入力値に存在しない色成分が、出力値に現れる場合がある。例えば、シアン色材のみで形成されるパッチを印刷しようとしたときに、入力値がCMYK(90,0,0,0)のようにC成分のみであっても、出力値がCMYK(89,1,2,0)のようにM成分やY成分を含む場合がある。ここで、「CMYK(90,0,0,0)」は、C=90%, M=0, Y=0, K=0の色を意味する。このように入力値に存在しない色成分が出力値に現れると、色の濁りや粒状感が知覚される可能性がある。このような濁りや粒状感を回避するために、入力値で表される入力色がC, M, Y, Kいずれかの単色であれば、出力値で表される出力色も単色にする「純色保持」又は「墨保持」という技術が従来から知られている。
【0003】
特許文献1には、純色化処理を行う画像処理装置が開示されている。この画像処理装置は、1次色又は2次色である入力色が色変換によって多色化された場合に、純色化処理を行うことによって出力色を1次色又は2次色に修正する。また、入力色と出力色の色差が小さくなるように出力色が補正される。この従来技術における1次色の処理は「純色保持」に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、色の濁りや粒状感を低減するために、出力値の補正対象をどのように選択するかについては十分に工夫されていないという問題があった。また、従来技術では、3次色以上の多次色についての処理は考慮されていないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の形態によれば、色補正装置が提供される。この色補正装置は、入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部と、印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける選択部と、前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する補正部と、を備える。
【0007】
本開示の第2の形態によれば、色補正装置と印刷装置とを備える印刷システムが提供される。前記色補正装置は、入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部と、前記印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける選択部と、前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する補正部と、前記補正部で補正された補正出力値を用いて前記印刷装置に供給する印刷データを生成する印刷データ生成部と、を含む。
【0008】
本開示の第3の形態によれば、色補正方法が提供される。この色補正方法は、(a)入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する工程と、(b)印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける工程と、(c)前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する工程と、を備える。
【0009】
本開示の第4の形態によれば、コンピュータープログラムが提供される。このコンピュータープログラムは、(a)入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する処理と、(b)印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける処理と、(c)前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する処理と、をコンピューターに実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】画像処理装置の構成の更に他の例を示す説明図。
【
図5】色変換ルックアップテーブルの例を示す説明図。
【
図6】色変換による粒状感の発生と非入力色除去の例を示す説明図。
【
図7】従来の純色保持と本開示の非入力色除去を比較して示す説明図。
【
図9】入力色空間と出力色空間がCMYKである場合の非入力色除去の処理例を示す説明図。
【
図10】入力色空間がRGBで出力色空間がCMYKである場合の非入力色除去の処理例を示す説明図。
【
図11】入力色空間がCMYKで出力色空間がRGBである場合の非入力色除去の処理例を示す説明図。
【
図12】色補正処理の全体手順を示すフローチャート。
【
図13】第1実施形態におけるステップS30の処理手順を示すフローチャート。
【
図14】第2実施形態におけるステップS30の処理手順を示すフローチャート。
【
図15】第2実施形態におけるステップS100の処理手順を示すフローチャート。
【
図16】第2実施形態における色補正処理例を示す説明図。
【
図17】第3実施形態における入力色空間と出力色空間がCMYKである場合の非入力色抑制の処理例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.第1実施形態:
<装置の構成>
図1は、実施形態の印刷システム500の構成を示す説明図である。印刷システム500は、画像処理装置100と、入力装置200と、表示装置300と、印刷装置400とを備えている。画像処理装置100は、本開示の「色補正装置」に相当する。
【0012】
画像処理装置100は、プロセッサー101と、メモリー102と、入出力インターフェース103と、内部バス104とを備えている。プロセッサー101、メモリー102、および、入出力インターフェース103は、内部バス104を介して、双方向に通信可能に接続されている。メモリー102は、メインメモリーやビデオメモリーを含む揮発性メモリーと、ハードディスクやSSD(Solid State Drive)などの不揮発性メモリーとを含んでいる。入力装置200、表示装置300、および、印刷装置400は、有線通信あるいは無線通信により画像処理装置100の入出力インターフェース103に接続されている。入力装置200は、例えば、キーボードやマウスであり、表示装置300は、例えば、液晶ディスプレイである。入力装置200および表示装置300は、タッチパネルとして一体化されていてもよい。印刷装置400は、例えば、インクジェットプリンターであり、複数種類のインクを用いて印刷媒体PMに画像を印刷する。印刷装置400は、布製の印刷媒体PMに画像を印刷するデジタル捺染機として構成することが可能である。
【0013】
図2は、画像処理装置100の構成の一例を示す説明図である。画像処理装置100は、色変換部110と、補正部120と、選択部130と、印刷データ生成部140とを備えている。これらの各部の機能は、メモリー102に予め記憶されているコンピュータープログラムPGをプロセッサー101が実行することによりソフトウェア的に実現される。但し、各部の機能の一部をハードウェア回路で実現してもよい。
【0014】
色変換部110は、色変換ルックアップテーブル112を用いて、入力色空間の入力値を、出力色空間の出力値に変換する色変換処理を実行する。色変換ルックアップテーブル112は、入力プロファイルIPFと出力プロファイルOPFとを結合することによって作成される。入力プロファイルIPFは、入力画像データIMで使用されている入力色空間から機器非依存色空間への色変換に用いられるICCプロファイルである。入力色空間は、例えば、RGB色空間やCMYK色空間である。機器非依存色空間は、例えば、CIE-L
*a
*b
*色空間や、CIE-XYZ色空間である。出力プロファイルOPFは、機器非依存色空間から印刷装置400用の出力色空間への色変換に用いられるICCプロファイルである。出力色空間としては、CMYK色空間やCMYKRG色空間などの種々の色空間を使用することができる。「CMYKRG色空間」は、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),K(ブラック),R(レッド),G(グリーン)の6つの色成分で構成される色空間である。出力色空間の色は、「デバイスカラー」とも呼ばれている。
図2の例では、入力色空間と出力色空間はいずれもCMYK色空間である。
【0015】
補正部120は、後述する色補正処理を実行する。色補正処理は、入力値が対象色成分を含まない色を表す場合に、対象色成分を減少させるように出力値を補正する処理である。選択部130は、色補正の対象となる対象色成分に関するユーザーの選択を受け付ける。対象色成分としては、例えば、デバイスカラーの複数の色成分CMYKのうち、1つ以上の色成分が選択される。
【0016】
印刷データ生成部140は、補正部120で補正された補正出力値を用いて、印刷装置400に供給する印刷データを生成する。印刷データ生成部140は、分版部142と、ハーフトーン処理部144とを含んでいる。分版部142は、色変換部110で変換された入力画像データIMの各画素の出力値を、印刷装置400の複数の色材の濃度値に変換する。
図2の例では、印刷装置400はCMYKの他にLc(ライトシアン)とLm(ライトマゼンタ)の色材を用いており、分版部142は、各画素の出力値CMYKを6つの色材CMYKLcLmの濃度値に変換する。ハーフトーン処理部144は、分版後の各画素の濃度値を用いてハーフトーン処理を行うことによって印刷データを生成する。印刷装置400は、印刷データ生成部140から送信された印刷データに従って印刷を実行する。
【0017】
図3は、画像処理装置100の構成の他の例を示す説明図である。この例では、補正部120は、色変換部110で変換された出力値CMYKを補正して、補正出力値を印刷データ生成部140に送信する。この場合にも、色補正の対象となる対象色成分として、デバイスカラーの複数の色成分CMYKのうちの1つ以上の色成分を選択することができる。
【0018】
図4は、画像処理装置100の構成の更に他の例を示す説明図である。この例では、補正部120は、分版部142で変換された色材CMYKLcLmの濃度値を補正して、補正後の濃度値をハーフトーン処理部144に送信する。この場合は、色材CMYKLcLmの濃度値が「色変換後の出力値」に相当する。また、色補正の対象となる対象色成分として、6つの色材CMYKLcLmのうちの1つ以上の色材を選択することができる。
【0019】
対象色成分がLc成分である場合に、Lc成分そのものは入力色空間CMYKに存在しない。この場合に、入力値CMYKにおける対象色成分Lcの値を決定する方法としては、以下の2つの方法のいずれかを使用することができる。
(1)第1の方法
入力値CMYKのC成分の値が0か又は閾値以上である場合には、入力値CMYKに対象色成分Lcが含まれていないものと見なし、入力値CMYKのC成分の値が閾値未満の正値である場合には、入力値CMYKに対象色成分Lcが含まれているものと見なす方法。閾値としては、例えば15~25%の値を使用することができる。
(2)第2の方法
入力値CMYKの実際の値に拘わらずに、入力値CMYKにおける対象色成分Lcの値が0であると見なす方法。
選択部130は、これらの方法のいずれを使用するかの選択をユーザーから受け付けるように構成されていてもよい。
【0020】
図2~
図4の例から理解できるように、対象色成分として選択可能な「印刷装置で使用される複数の色成分」としては、デバイスカラーの複数の色成分を用いても良く、或いは、印刷装置の複数の色材に相当する複数の色成分を使用してもよい。但し、以下では、主として
図2で説明した構成を用いて、デバイスカラーの色成分を対象色成分として選択する場合について説明する。
【0021】
<用語の定義>
・入力色:色変換の入力値で表される色。
・出力色:色変換の出力値で表される色。
・純色保持:従来技術の色補正の一種であり、入力値がC, M, Yといった原色の色成分のみを含む場合の色変換の出力値を、入力値と同じ原色の色成分のみに補正する処理。
・C保持:Cyanの純色保持。
・非入力色除去:本開示による色補正の一種であり、入力値で表される色に存在しない色成分を出力値から除去する色補正。
・C除去:Cyanの非入力色除去。
・色除去平面:1つの対象色成分が0である入力値で規定される平面。
・非入力色抑制:本開示による色補正の一種であり、入力値で表される色に存在しない色成分を出力値から減少させる色補正。
・対象色成分:非入力色除去又は非入力色抑制の対象として選択された色成分。
・非対象色成分:非入力色除去又は非入力色抑制の処理がされなかった色成分。
・1次色: 減法混色ではCMY成分のうちの1つの色成分で構成された色。加法混色ではRGB成分のうちの1つの色成分で構成された色。
・2次色:2つの色成分で構成された色。
・3次色:3つの色成分で構成された色。
・Pure K:Kのみで表現された黒であり、CMYK(0,0,0,k)で表される。
・Composite K:CMY成分のみで表現される黒であり、CMYK(c, m, y, 0)で表される。
・Rich K:CMYK成分をすべて使って表現される黒であり、CMYK(c, m, y, k)で表される。
【0022】
本開示では、個々の色成分の範囲を0~100%とする。白と黒は、例えば以下のように表される。
・CMYK(0,0,0,0):白。
・CMYK(100,100,100,100):黒。
・RGB(0,0,0):黒。
・RGB(100,100,100):白。
【0023】
<色補正処理の内容>
図5は、色変換ルックアップテーブル112の例を示す説明図である。ここでは、入力色空間と出力色空間がいずれもCMYKであるものと仮定する。
図5では、K=0の場合を想定しており、入力値の3つの色成分CMYで構成される3次元色立体が描かれている。この色立体は、原点がWhite(紙白)であり、互いに直交するC軸とM軸とY軸の3つの座標軸で規定されている。色立体には、複数の格子点が設定されている。但し、
図5では、図示の便宜上、主な格子線と格子点のみが描かれている。色立体の複数の格子点のそれぞれは、入力色を表している。色変換ルックアップテーブル112は、各格子点の座標値に相当する入力値に対して、出力値が登録されたテーブルである。この例では、4つの格子点P1~P4について、入力値CMYK(0,0,0,0),CMYK(0,0,80,0),CMYK(0,50,100,0),CMYK(70,0,0,0)と、それらに対する出力値CMYK(0,0,0,0) ,CMYK(2,0,78,0),CMYK(2,45,100,0),CMYK(68,2,2,0)が示されている。色変換の入力値と出力値は、CIE-L
*a
*b
*色空間やCIE-XYZ色空間などの機器非依存色空間では同じ色を表しているが、入力値に存在しない色成分が出力値に現れる場合がある。この場合には、出力値で再現される画像に色の濁りや粒状感が発生する可能性がある。
【0024】
図6は、色変換による粒状感の発生と非入力色除去の例を示す説明図である。この例では、
図5の格子点P2の入力値CMYK(0, 0, 80, 0)で表現される第1のカラーパッチCP1と、色変換後の出力値CMYK(2, 0, 78, 0)で再現される第2のカラーパッチCP2とが描かれている。第1のカラーパッチCP1はYellowの単色で構成されている。一方、第2のカラーパッチCP2では、出力値にC成分が2%含まれているので、Cyanインクのドットがまばらに形成されている。第2のカラーパッチCP2では、Yellow以外の色材が混じっているので、色の濁りや粒状感が知覚される可能性がある。
【0025】
特に、印刷媒体PMが布である場合に、色の濁りが大きな問題となる。例えば、布製の印刷媒体PMを用いて、POP(POint of Purchase advertising)や、ポスター、アパレル等の印刷物を作成する場合には、印刷画像が均一で滑らかなことが求められるので、一様な色を有する画像領域において色の濁りが発生することが問題となる。そこで、布製の印刷媒体PMを用いる場合には、色の濁りの発生を抑制することが特に望まれる。
【0026】
本開示による色補正の一種である非入力色除去は、入力値で表される色に含まれていない対象色成分を出力値から除去する処理である。C成分が対象色成分として選択されている場合に、出力値CMYK(2, 0, 78, 0)に非入力色除去を適用すると、入力値CMYK(0, 0, 80, 0)に含まれていないC成分が出力値から除去されて、補正出力値CMYK(0, 0, 78, 0)が得られる。補正出力値CMYK(0, 0, 78, 0)で再現されるカラーパッチCP3は、Yellowのみで再現されているので、色の濁りや粒状感が発生していない。後述するように、非入力色除去は、2次色以上の多次色にも適用することができる。
【0027】
図7は、従来の純色保持と本開示の非入力色除去を比較して示す説明図である。ここでは、従来の純色保持の例としてC保持が描かれている。C保持の対象となる入力色は、
図7の左上図の太線で示されるC軸上の格子点の色である。C保持は、入力値CMYK(c, 0, 0,0)の格子点における出力値をCMYK(c’, 0, 0,0) にする補正である。
【0028】
図7には更に、本開示による非入力色除去として、C除去とM除去とY除去の対象領域が描かれている。これらの非入力色除去は、色立体の面上に存在する格子点群の入力色が対象となる。C除去の場合には、入力値のC成分が0である格子点群が対象であり、ハッチングが付されたMY面が、非入力色除去の対象となる。このMY面を「色除去平面CRPc」と呼ぶ。色除去平面CRPcは、C成分が0である入力値で規定される平面である。前述した
図6の例では、出力値CMYK(2, 0, 78, 0)にC除去を適用すると、入力値CMYK(0, 0, 80, 0)に含まれていないC成分が出力値から除去されて、補正出力値CMYK(0, 0, 78, 0)が得られる。M除去とY除去も同様である。即ち、M除去ではCY面が非入力色除去の対象領域である色除去平面CRPmとなり、Y除去ではCM面が非入力色除去の対象領域である色除去平面CRPyとなる。なお、CMYK色空間は4次元色空間なので、例えば入力値のC成分が0である色除去平面CRPcは、4次元空間の超平面を構成する。このような超平面は図示が困難なので、
図7では3次元空間の面で表現されている。
【0029】
本開示では、非入力色除去の対象とする対象色成分を、ユーザーが任意に選択することが可能である。例えば、M除去とY除去を併用すると、C軸上の格子点の出力値からM成分と Y成分が除去され、C成分のみが残ることになる。
【0030】
非入力色除去の対象とする対象色成分をユーザーが任意に選択することによって、問題となる色の濁りや粒状感を低減することが可能である。例えば、前述した
図6で説明したようなYellowの濁りの低減を目的としたとき、濁りの原因がCyanであれば、C除去を行うことによって、十分な効果を得ることができる。この場合には、CMYKのすべてを対象色成分として選択する必要はなく、C成分のみを対象色成分として選択すればよい。
【0031】
また、非入力色除去の対象色成分をK(ブラック)とするK除去を適用することも可能である。例えば、色変換によって入力値CMYK(20, 20, 20, 0) が出力値CMYK(18, 18, 18, 2)に変換される場合に、K除去を適用することによって、補正出力値CMYK(18, 18, 18, 0)を得ることができる。この例では、入力値CMYK(20, 20, 20, 0)はComposite Kであるが、出力値CMYK(18, 18, 18, 2)はKの混じったRich Kとなっている。これにK除去を適用すると、補正出力値CMYK(18, 18, 18, 0)はComposite Kとなる。この結果、Kインクを使わないことで、粒状感のない均一なベタのグレーを表現することができる。この例は3次色に対して非入力色除去を適用した場合の例である。但し、入力値CMYK(80,80,80,0)が出力値CMYK(30,30,30,60)に変換されるような場合には、K除去を適用すると、補正出力値がCMYK (30,30,30,0)となってしまい、濃度が全く異なるグレーになってしまうという不具合が発生する。そこで、このような場合には、K成分を対象色成分として選択しないことが好ましい。
【0032】
図8は、対象色成分の選択例を示す説明図である。選択部130は、選択ウィンドウを表示装置300に表示することによって、ユーザーに対象色成分を選択させる。第1の選択ウィンドウW1aでは、対象色成分としてCyanが選択されている。これは、C成分のみを対象色成分として選択することを意味する。選択ウィンドウW1a内の下部には、処理例の入力値と出力値が示されている。「No option」は、非入力色除去を適用しないときの出力値の例であり、「Current Settings」は選択された対象色成分に対する非入力色除去を適用した補正出力値の例である。選択ウィンドウW1aの処理例では、C成分に非入力色除去が適用されて0に修正されている。第2の選択ウィンドウW1bでは、対象色成分としてCyanとMagentaとYellowが選択されている。この選択ウィンドウW1bの処理例では、C成分とY成分に非入力色除去が適用されてそれぞれ0に修正されている。なお、処理例は省略してもよい。
【0033】
本開示の非入力色除去は、印刷装置400で使用される色材がCMYK以外である場合にも適用可能である。例えば、印刷装置400が、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),K(ブラック),R(レッド),G(グリーン)の6つの色材を用いて印刷を実行する場合を想定する。この場合には、6つの色成分CMYKRGのうちの任意の1つ以上の色成分を非入力色除去の対象色成分として選択することができる。具体的には、入力値CMYKRG(10, 10, 10, 10, 0, 0) が色変換によって出力値CMYKRG(10, 10, 10, 10, 2, 2)に変換される場合に、R成分とG成分を含む2つ以上の色成分を対象色成分として選択すると、出力値をCMYKRG(10, 10, 10, 10, 0, 0)に補正することが可能である。
【0034】
一般に、Nを3以上の整数としたとき、選択部130は、印刷装置400で使用されるN個の色材に対応するN個の色成分のうち、任意の1個以上N個以下の色成分を対象色成分として選択することを受け付けるように構成されることが好ましい。特に、3つ以上の色成分を対象色成分として任意に選択できることが好ましい。こうすれば、1個からN個までの所望の数の対象色成分について色補正処理を実行できる。
【0035】
図9は、入力色空間と出力色空間がCMYKである場合の非入力色除去の処理例を示す説明図である。ここでは、対象色成分として「ALL」が選択されている場合と、「CMY」の3つの色成分が選択されている場合と、「C」のみが選択されている場合の3つの場合について処理結果が示されている。また、入力色が1次色と2次色と3次色の場合について、それらの処理結果が示されている。「補正出力値」は、非入力色除去後の出力値である。「補正出力値」において丸で囲まれた数字は、非入力色除去によって変化した色成分の値である。この例から理解できるように、ユーザーが対象色成分を選択することによって、出力値に対する補正を任意の色成分について実行することができる。
【0036】
図10は、入力色空間がRGBで出力色空間がCMYKである場合の非入力色除去の処理例を示す説明図である。対象色成分がCMYの1つ以上で入力色空間がRGBである場合に、入力値におけるCMY成分の値は、入力値RGBを以下の変換式で変換したCMY値に等しいものと見なすことができる。
Ci = (1 - Ri) …(q1)
Mi = (1 - Gi) …(q2)
Yi = (1 - Bi) …(q3)
ここで、Ri, Gi, Biは入力値の色成分、Ci, Mi, Yiは入力値のRGB成分に対応するCMY成分である。Ri, Gi, BiとCi, Mi, Yiは、それぞれ0~1の範囲の値であり、値「1」は100%に相当する。
【0037】
入力値RGBにおけるK成分の値は、以下のいずれかの方法で決定できる。
(1)方法M1a:
次式に従って入力値RGBにおけるK成分の値Kiを決定する。
Ki = min(Ci, Mi, Yi) …(q4)
(2)方法M1b:
入力値RGBの実際の値に拘わらずにK成分が0であると見なす。
【0038】
選択部130は、これらの方法M1a,M1bの一方を選択することをユーザーから受け付けるように構成されていてもよい。本実施形態では、方法M1bに従って入力値RGBにおけるK成分の値を算出する。
【0039】
入力値Ri, Gi, Biで表される入力色が、1次色、2次色、3次色のいずれに該当するかについても、上記Ci, Mi, Yi成分で判断される。即ち、任意の入力値Ri, Gi, Biを(q1)~(q3)式で変換したCi, Mi, Yi成分のうち、1つの色成分のみが0でなく、他の2つの色成分が0である場合には、その入力値で表される入力色は「1次色」である。Ci, Mi, Yi成分のうち、2つの色成分のみが0でなく、他の1つの色成分が0である場合には、入力色は「2次色」である。Ci, Mi, Yi成分がいずれも0でない場合には、入力色は「3次色」である。このように、入力色空間がRGBである場合にも、1次色から3次色までの種々の入力色について、非入力色除去を実施できる。
【0040】
図11は、入力色空間がCMYKで出力色空間がRGBである場合の非入力色除去の処理例を示す説明図である。対象色成分がCMYの1つ以上で出力色空間がRGBである場合に、出力値に対応するCMY成分の値は、出力値RGBを以下の変換式で変換したCMY値に等しいものと見なすことができる。
Co = (1 - Ro) …(q5)
Mo = (1 - Go) …(q6)
Yo = (1 - Bo) …(q7)
ここで、Ro, Go, Boは出力値の色成分、Co, Mo, Yoは出力値のRGB成分に対応するCMY成分である。Ro, Go, BoとCo, Mo, Yoは、それぞれ0~1の範囲の値であり、値「1」は100%に相当する。
【0041】
出力値RGBにおけるK成分の値は、以下のいずれかの方法で決定できる。
(1)方法M2a:
次式に従って出力値RGBにおけるK成分の値Koを決定する。
Ko = min(Co, Mo, Yo) …(q8)
(2)方法M2b:
出力値RGBの実際の値に拘わらずにK成分が0であると見なす。
【0042】
選択部130は、これらの方法M2a,M2bの一方を選択することをユーザーから受け付けるように構成されていてもよい。本実施形態では、方法M2bに従って出力値RGBにおけるK成分の値を算出する。
【0043】
入力値CMYKにおける値が0であり、かつ、(q5)~(q7)式で得られる値Co, Mo, Yoが0とならないCMY成分に対応する出力値RGBの色成分は、非入力色除去によって100%に補正される。この補正は、実質的に、対象色成分として選択されたCMY成分の値をゼロに補正することに相当する。この例から理解できるように、出力値RGBのR成分を増加する補正が、対象色成分であるC成分を減少させる補正に相当する。同様に、出力値RGBのG成分を増加する補正が対象色成分であるM成分を減少させる補正に相当し、出力値RGBのB成分を増加する補正が対象色成分であるY成分を減少させる補正に相当する。
【0044】
<処理手順>
図12は、色補正処理の全体手順を示すフローチャートである。ステップS10では、色変換部110が、入力プロファイルIPFと出力プロファイルOPFを結合して色変換ルックアップテーブル112を作成する。ステップS20では、選択部130が、色補正の対象となる対象色成分の選択をユーザーから受け付ける。対象色成分の選択は、例えば、
図8に示した選択ウィンドウを用いて実行される。ステップS30では、補正部120が、対象色成分について色変換ルックアップテーブル112の内容を補正する。
【0045】
図13は、第1実施形態におけるステップS30の処理手順を示すフローチャートである。ここでは、入力色空間がCMYKである場合を想定する。
【0046】
ステップS31では、補正部120が、色変換ルックアップテーブル112の格子点を1つ選択する。この処理は、入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する処理に相当する。ステップS32では、補正部120が、選択された格子点の入力値CMYKにおいて、対象色成分が0であるか否かを判定する。入力値CMYKにおいて対象色成分が0でない場合には、後述するステップS34に進む。一方、入力値CMYKにおいて対象色成分が0である場合には、ステップS33に進み、補正部120が、出力値の対象色成分を補正する。即ち、非入力色除去を適用して出力値の対象色成分を0に補正する。また、補正部120は、色変換ルックアップテーブル112の出力値を補正出力値で更新する。ステップS34では、補正部120が、色変換ルックアップテーブル112のすべての格子点についてステップS31~S33の処理が完了したか否かを判定する。処理を行っていない格子点が存在する場合には、ステップS31に戻り、ステップS31~S33の処理が再度実行される。すべての格子点について処理が完了した場合には、ステップS30の処理が終了し、ステップS40に進む。
【0047】
ステップS40では、色変換部110が、補正後の色変換ルックアップテーブル112を使用して、入力画像データIMの色変換を実行する。ステップS50では、印刷データ生成部140が、色変換された画像データを用いて印刷データを作成し、印刷データを印刷装置400に転送して印刷を実行する。
【0048】
上述した
図12と
図13の処理手順では、色変換ルックアップテーブル112の格子点について色補正を実行していたが、この代わりに、
図3及び
図4に示したように、色変換部110の出力又は分版部142の出力に対して色補正を実行するようにしてもよい。但し、色変換ルックアップテーブル112の格子点について色補正を実行すれば、補正後の色変換ルックアップテーブル112を用いて、多数の入力画像データに対して適切な色変換を実行できる。また、色変換ルックアップテーブル112の格子点について色補正を実行すれば、入力画像データの画素毎に色補正を行う必要がないので、処理速度が速いという利点がある。
【0049】
以上で説明した第1実施形態によれば、入力値が表す色に対象色成分が含まれていない場合に、出力値における対象色成分を除去するので、色の濁りや粒状感の発生を抑制できる。また、対象色成分を1つ以上選択できるので、所望の数の対象色成分について補正処理を実行できる。
【0050】
B.第2実施形態:
図14は、第2実施形態におけるステップS30の処理手順を示すフローチャートである。
図1及び
図2に示した装置構成は、第1実施形態と同じである。また、
図12に示した処理の全体手順も第1実施形態と同じである。
図14の処理手順は、
図13に示した処理手順のステップS33とステップS34の間に、ステップS100を追加したものであり、他のステップは
図13と同じである。
【0051】
ステップS100では、補正部120が、出力値の非対象色成分を補正する。ここで、「非対象色成分」とは、非入力色除去の処理がされなかった色成分を意味する。非対象色成分は、非入力色除去の処理がされなかった色成分のうち、特に、入力値における値が0でない1次色成分とすることが好ましい。ステップS100における非対象色成分の補正は、非入力色除去による色の変化を小さくするように実行される。非対象色成分の補正は、種々の演算を利用して行うことができる。例えば、補正前の値に正の係数を乗ずる演算を利用してもよい。或いは、補正前の値に一定値を加算又は減算する演算を利用してもよい。また、以下に示す手順で補正後の値を決定してもよい。
【0052】
図15は、第2実施形態におけるステップS100の処理手順を示すフローチャートである。ステップS110では、補正部120が、非入力色除去前の出力値に対するLab値を求める。「Lab値」とは、CIE-L*a*b*表色系におけるL*a*b*値を意味する。ステップS110の処理は、出力プロファイルOPFを用いた逆変換によって実行できる。ステップS120では、補正部120が、非対象色成分補正の候補値を決定する。候補値の初期値は任意の値で良い。ステップS130では、補正部120が、候補値に対するLab値を求める。この処理も、出力プロファイルOPFを用いた逆変換によって実行できる。ステップS140では、補正部120が、ステップS110で得られたLab値とステップS130で得られたLab値から色差を算出する。ステップS150では、補正部120が、予め設定された終了条件が成立するか否かを判定する。終了条件としては、例えば、色差が予め設定された許容値以下である、という条件を使用できる。或いは、ステップS120~S140の処理の実行回数が予め設定された上限回数以上に達した、という条件を使用してもよい。終了条件が成立していない場合には、ステップS120に戻り、ステップS120~S150の処理が再度実行される。この際、ステップS120では、次の候補値が探索される。候補値の探索は、最適化アルゴリズムを用いて実行してもよい。終了条件が成立した場合には、ステップS160に進み、補正部120が、最適な候補値を補正出力値として採用する。「最適な候補値」としては、例えば、複数の候補値のうちで、色差が最も小さいものが選択される。
【0053】
上述した
図15の処理では、色差を小さくするように補正出力値が決定されていたが、この代わりに、彩度と明度と色相のうちの少なくとも1つの差を小さくするように補正出力値を決定してもよい。
【0054】
図16は、第2実施形態における色補正処理例を示す説明図である。この例は、
図9に示した処理例について、ステップS100における非対象色成分の補正を追加した結果に相当する。補正出力値において、二重枠で囲まれた数字は、非対象色成分の補正によって変化した色成分の値である。非対象色成分は、非入力色除去による色の変化を小さくするように実行されている。このように非対象色成分を補正すれば、対象色成分の非入力色除去によって色が過度に異なってしまうことを防止できる。具体的には、非入力色除去前後の色の色差、或いは、彩度と明度と色相のうちの少なくとも1つの差を小さくすることができる。
【0055】
第2実施形態も第1実施形態と同様の効果を有する。また、第2実施形態では、補正による色の変化を小さくすることができる。
【0056】
C.第3実施形態:
上述した第1実施形態と第2実施形態では、対象色成分に対して非入力色除去を実行していたが、第3実施形態では、非入力色除去の代わりに非入力色抑制を実行する。「非入力色抑制」とは、入力値で表される色に存在しない対象色成分を出力値から減少させる色補正である。非入力色抑制では、対象色成分の値を減少させて、ゼロでない補正値に変更することが好ましい。
【0057】
非入力色抑制後の対象色成分の補正値は、例えば次式で算出される。
Dc = min( k1 × Do, Dmax) …(q9)
ここで、Dcは対象色成分の補正値、Doは補正前の対象色成分の値、min ( )は 小さい方の値を選択し出力する関数、k1は1未満の正の係数、Dmaxは上限値である。上限値Dmaxは、色の濁りや粒状感が知覚されない値として予め設定される。k1 × Doの結果に対しては、小数点以下に切り上げ、切り捨て、四捨五入などの丸め演算を適用してもよい。丸め演算として切り上げを適用すれば、対象色成分の補正値Dcを0でない正の値とすることができる。
【0058】
例えば、対象色成分がCMYで、色変換の入力値がCMYK(0, 80, 80, 0)、出力値がCMYK(4, 78, 78, 0)である場合を想定する。この場合に、第1実施形態で説明した非入力色除去を適用すると、補正出力値がCMYK(0, 78, 78, 0)となる。一方、k1=0.5, Dmax=3[%]の非入力色抑制を適用すると、補正出力値がCMYK(2, 78, 78, 0)となり、C成分が0でない値に減少する。
【0059】
色の濁りや粒状感が知覚されない上限値Dmaxは、出力プロファイルOPFに格納されるようにしてもよい。或いは、上限値Dmaxが、印刷装置400に紐づいて取得されるようにしてもよく、ユーザーが設定してもよい。印刷装置400のメーカーやユーザーは、実際に印刷を実行して、問題ないと評価された上限値Dmaxを設定することが可能である。
【0060】
なお、対象色成分がCMYで出力色空間がRGBである場合には、非入力色抑制は、対象色成分であるCMYに対応するRGB値を増加させる処理となる。
【0061】
非入力色抑制を適用すると、入力色に対象色成分が含まれていない場合に、出力色の対象色成分を減少させるので、色の濁りや粒状感が少ない印刷物を得ることができる。第1実施形態で説明した非入力色除去を適用すると、入力色と出力色の色差が大きくなる場合がある。一方、非入力色抑制を適用すれば、非入力色除去に比べて、入力色と出力色の色差を小さくできる。なお、非入力色抑制を適用する場合に、第2実施形態で説明した非対象色成分に関する補正も併せて適用するようにしてもよい。
【0062】
図17は、第3実施形態における入力色空間と出力色空間がCMYKである場合の非入力色抑制の処理例を示す説明図である。
図1及び
図2に示した装置構成は、第1実施形態と同じである。また、
図12に示した処理の全体手順も第1実施形態と同じである。
図17の例は、
図9に示した例について、非入力色除去の代わりに、上記(q9)式に従って非入力色抑制を適用した結果に相当する。この例では、k1=0.5, Dmax=3[%]としている。
【0063】
上記(q9)式の代わりに次式を用いても良い。
Dc = k1 × Do …(q10)
この (q10)式を用いた場合にも、出力値における対象色成分の値を減少させる非入力色抑制を実現することができる。
【0064】
上記(q9)式と(q10)式は、いずれも、出力値における対象色成分の値Doに、1未満の正の係数k1を乗じることによって補正値Dcを得る演算に相当する。このような演算によって対象色成分の値を補正すれば、色の濁りや粒状感の発生を抑制でき、また、出力値の補正による色の変化を小さくできる。
【0065】
第3実施形態によれば、入力値が表す色に対象色成分が含まれていない場合に、出力値における対象色成分を減少させるので、色の濁りや粒状感の発生を抑制でき、また、出力値の補正による色の変化を小さくできる。
【0066】
・他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0067】
(1)本開示の第1の形態によれば、色補正装置が提供される。この色補正装置は、入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部と、印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける選択部と、前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する補正部と、を備える。
この色補正装置によれば、入力値が表す色に対象色成分が含まれていない場合に、出力値における対象色成分を減少させるので、色の濁りや粒状感の発生を抑制できる。また、対象色成分を1つ以上選択できるので、所望の数の対象色成分について補正処理を実行できる。
【0068】
(2)上記色補正装置において、前記選択部は、前記複数の色成分のうち、3つ以上の色成分を前記対象色成分として選択することを受け付けることが可能に構成されるものとしてもよい。
この色補正装置によれば、3次色以上の色について色補正処理を実行できる。
【0069】
(3)上記色補正装置において、Nを3以上の整数としたとき、前記選択部は、前記印刷装置で使用されるN個の色材に対応するN個の色成分のうち、任意の1個以上N個以下の色成分を前記対象色成分として選択することを受け付けるように構成されるものとしてもよい。
この色補正装置によれば、1個からN個までの所望の数の対象色成分について色補正処理を実行できる。
【0070】
(4)上記色補正装置において、前記対象色成分を減少させる前記出力値の前記補正は、前記対象色成分の値をゼロでない補正値に変更するように前記出力値を補正する処理であるものとしてもよい。
この色補正装置によれば、出力値の補正による色の変化を小さくできる。
【0071】
(5)上記色補正装置において、前記補正部は、更に、前記複数の色成分のうちで前記対象色成分以外の色成分に相当する出力値成分を補正することによって、補正前の前記出力値で表される第1色と、補正後の前記出力値で表される第2色との差を減少させるものとしてもよい。
この色補正装置によれば、補正によって色が過度に異なってしまうことを防止できる。
【0072】
(6)上記色補正装置において、前記色変換部は、前記入力色空間を前記出力色空間に変換する色変換ルックアップテーブルを含み、前記補正部は、前記色変換ルックアップテーブルについて前記補正を実行するものとしてもよい。
この色補正装置によれば、補正後の色変換ルックアップテーブルを用いて適切な色変換を実行できる。
【0073】
(7)上記色補正装置において、前記補正部は、前記色変換ルックアップテーブルの複数の格子点のうち、前記対象色成分に相当する入力値成分が存在しない格子点を選択し、選択された前記格子点についての前記出力値のうち、前記対象色成分に相当する出力値成分を補正するものとしてもよい。
この色補正装置によれば、色変換ルックアップテーブルの格子点の出力値を適切に補正できる。
【0074】
(8)本開示の第2の形態によれば、色補正装置と印刷装置とを備える印刷システムが提供される。前記色補正装置は、入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する色変換部と、前記印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける選択部と、前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する補正部と、前記補正部で補正された補正出力値を用いて前記印刷装置に供給する印刷データを生成する印刷データ生成部と、を含む。
【0075】
(9)本開示の第3の形態によれば、色補正方法が提供される。この色補正方法は、(a)入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する工程と、(b)印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける工程と、(c)前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する工程と、を備える。
【0076】
(10)本開示の第4の形態によれば、コンピュータープログラムが提供される。このコンピュータープログラムは、(a)入力色空間の入力値を出力色空間の出力値に変換する処理と、(b)印刷装置で使用される複数の色成分のうち、1つ以上の色成分を対象色成分として選択することを受け付ける処理と、(c)前記入力値が前記対象色成分を含まない色を表す場合に、前記対象色成分を減少させるように前記出力値を補正する処理と、をコンピューターに実行させる。
【0077】
本開示は、画像処理装置、印刷システム、および、コンピュータープログラム以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、画像処理方法や、コンピュータープログラムを記録した一時的でない記録媒体(non-transitory storage medium)等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0078】
100…画像処理装置、101…プロセッサー、102…メモリー、103…入出力インターフェース、104…内部バス、110…色変換部、112…色変換ルックアップテーブル、120…補正部、130…選択部、140…印刷データ生成部、142…分版部、144…ハーフトーン処理部、200…入力装置、300…表示装置、400…印刷装置、500…印刷システム