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特開2024-154494腸内コハク酸量抑制用組成物及びこれを含む飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154494
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】腸内コハク酸量抑制用組成物及びこれを含む飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20241024BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20241024BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20241024BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20241024BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20241024BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20241024BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241024BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20241024BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20241024BHJP
【FI】
A23L33/135
A23L33/125
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L2/38 G
A23L33/21
A61K35/747
A61P1/04
A61P1/12
A61P3/00
A61K47/26
A61K47/36
A23K10/16
A23K20/163
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068314
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】507039187
【氏名又は名称】株式会社ニコリオ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牛田 一成
(72)【発明者】
【氏名】土田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】横川 剛
(72)【発明者】
【氏名】生天目 由里子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 卓巳
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B117
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AA06
2B150AB10
2B150AC05
2B150DC14
2B150DC15
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE04
4B018LE05
4B018LE06
4B018MD31
4B018MD33
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4C076BB01
4C076CC16
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4C087AA01
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4C087AA03
4C087BC56
4C087CA09
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZA73
4C087ZC21
(57)【要約】
【課題】酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸の腸内産生量を維持しつつ、腸内におけるコハク酸の産生を抑制する効果を有する、新たな機能性素材を提供する。
【解決手段】クレモリス菌を含有することを特徴とする腸内コハク酸量抑制用組成物である。この組成物は、難消化性オリゴ糖及び/又は食物繊維とともに摂取するようにして用いるものであってよい。また、腸内コハク酸量を抑制しつつ、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上の短鎖脂肪酸の腸内産生量を増加させるためのものであってよい。また、飲食品、飲食品添加用素材、医薬品、医薬品添加用素材、動物飼料、又は動物飼料添加用素材であってよい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレモリス菌を含有することを特徴とする腸内コハク酸量抑制用組成物。
【請求項2】
難消化性オリゴ糖及び/又は食物繊維とともに摂取するようにして用いるものである、請求項1記載の腸内コハク酸量抑制用組成物。
【請求項3】
腸内コハク酸量を抑制しつつ、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上の短鎖脂肪酸の腸内産生量を増加させるためのものである、請求項2記載の腸内コハク酸量抑制用組成物。
【請求項4】
腸内環境改善及び/又は浸透性下痢の抑制のためのものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の腸内コハク酸量抑制用組成物。
【請求項5】
前記クレモリス菌は死菌体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の腸内コハク酸量抑制用組成物。
【請求項6】
前記難消化性オリゴ糖としてケストースを含有する、請求項2又は3記載の腸内コハク酸量抑制用組成物。
【請求項7】
前記食物繊維としてレジスタントスターチを含有する、請求項2又は3記載の腸内コハク酸量抑制用組成物。
【請求項8】
飲食品、飲食品添加用素材、医薬品、医薬品添加用素材、動物飼料、又は動物飼料添加用素材である、請求項1~3のいずれか1項に記載の腸内コハク酸量抑制用組成物。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の腸内コハク酸量抑制用組成物を含む、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内におけるコハク酸量を抑制する効果を有する機能性素材に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌によって産生される短鎖脂肪酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸等であるが、これらの有機酸は大腸で吸収され宿主の重要なエネルギー源になっている。例えば、ブタの場合、吸収されるエネルギーの30%はこれらの有機酸によるという。また、酪酸は、粘膜上皮細胞の増殖のエネルギー源として使われるほかに、上皮細胞の分裂を促進し粘膜の肥厚化に寄与し、更には大腸運動を促進することが報告されている(非特許文献1,2,3参照)。
【0003】
一方、短鎖脂肪酸の1種であるコハク酸は、その腸内産生量が浸透性下痢の要因となることが知られている(非特許文献4,5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Shimotoyodome, a., Meguro, S., Hase, T., Tokimitsu, I., Sakata, T. (2000) Short chain fatty acids but not lactate or succinate stimulate mucus release in the rat colon. Comp. Biochem. Physiol. 125(4):pp.525-531.
【非特許文献2】Sakata, T. (1997) Influence of short-chain fatty acids on intestinal growth and functions. In:Dietary Fiber in Health and disease (Kritchevsky, D. and Bonfield, C. eds.), pp. 191-199. Plenum Press, New York, NY.
【非特許文献3】Yajima, T. (1995) Sensory mechanisms for short-chain fatty acids in the colon.Pp.209-221.In:Physiological and clinical aspects of short-chain fatty acids. (Cummings, J. H., Rombeau, J. L. and Skata, T. eds.), Cambridge University Press,Cambridge,UK.
【非特許文献4】Jessica Connors, Nick Dawe and Johan Van Limbergen「The Role of Succinate in the Regulation of Intestinal Inflammation」Nutrients. 2018 Dec 22;11(1):25. doi: 10.3390/nu11010025.
【非特許文献5】So Morishima, Naoko Oda, Hiromi Ikeda, Tomohiro Segawa, Machi Oda, Takamitsu Tsukahara, Yasuharu Kawase, Tomohisa Takagi, Yuji Naito, Mami Fujibayashi and Ryo Inoue「Altered Fecal Microbiotas and Organic Acid Concentrations Indicate Possible Gut Dysbiosis in University Rugby Players: An Observational Study」Microorganisms 2021, 9(8), 1687; https://doi.org/10.3390/microorganisms9081687.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの研究によると、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸の腸内産生量が増えると、短鎖脂肪酸の1種であるコハク酸の増加がみられて、これが浸透性下痢の要因になる可能性が考えられた。
【0006】
そこで本発明の目的は、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸の腸内産生量を維持しつつ、腸内におけるコハク酸の産生を抑制する効果を有する、新たな機能性素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため種々研究した結果、カスピ海ヨーグルト由来の乳酸菌として知られるクレモリス菌に、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸の腸内産生量を維持しつつ、腸内コハク酸量を抑制する作用効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、クレモリス菌を含有することを特徴とする腸内コハク酸量抑制用組成物を提供するものである。
【0009】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、難消化性オリゴ糖及び/又は食物繊維とともに摂取するようにして用いるものであることが好ましい。
【0010】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、腸内コハク酸量を抑制しつつ、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上の短鎖脂肪酸の腸内産生量を増加させるためのものであることが好ましい。
【0011】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、腸内環境改善及び/又は浸透性下痢の抑制のためのものであることが好ましい。
【0012】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、前記クレモリス菌は死菌体であることが好ましい。
【0013】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、前記難消化性オリゴ糖としてケストースを含有することが好ましい。
【0014】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、前記食物繊維としてレジスタントスターチを含有することが好ましい。
【0015】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、飲食品、飲食品添加用素材、医薬品、医薬品添加用素材、動物飼料、又は動物飼料添加用素材であることができる。
【0016】
一方、別の観点では、本発明は、上記腸内コハク酸量抑制用組成物を含む飲食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クレモリス菌を利用して、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸の腸内産生量を維持しつつ、腸内コハク酸量を抑制する効果を有する、新たな機能性素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】試験例1において乳酸菌の経口投与が腸内コハク酸量に与える影響について調べた結果を示す図表であり、供試試料としてフェカリス菌又はクレモリス菌を7日間にわたって投与したラットの盲腸内容物中のコハク酸濃度を測定した結果を示す図表である。
図2】試験例2においてクレモリス菌と難消化性オリゴ糖又は食物繊維の経口投与が腸内コハク酸量に与える影響について調べた結果を示す図表であり、供試試料としてクレモリス菌と難消化性オリゴ糖(ケストース)又は食物繊維(レジスタントスターチ)を7日間にわたって投与したラットの盲腸内容物中のコハク酸濃度を測定した結果を示す図表である。
図3】試験例3においてクレモリス菌と難消化性オリゴ糖の経口投与がコハク酸を含む短鎖脂肪酸の腸内産生量に与える影響について調べた結果を示す図表であり、供試試料として難消化性オリゴ糖(ケストース)を単独で又はクレモリス菌と併用して7日間にわたって投与したラットの盲腸内容物中のコハク酸を含む短鎖脂肪酸濃度を測定した結果を示す図表である。
図4】試験例4においてクレモリス菌と食物繊維の経口投与が酪酸等の短鎖脂肪酸の腸内産生量に与える影響について調べた結果を示す図表であり、供試試料として食物繊維(レジスタントスターチ)をクレモリス菌と併用して7日間にわたって投与したラットの盲腸内容物中の酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸濃度を測定した結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に用いられるクレモリス菌は、カスピ海ヨーグルト由来の乳酸菌として知られ、学名ではLactococcus lactis subsp.cremorisである。例えば、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託されている、Lactococcus lactis subsp.cremoris Flora aid(フローラエイド)株(受領番号:NITE BP-03259)などが挙げられる。
【0020】
クレモリス菌の培養、菌体の維持等は、周知の技術によって行うことができる。例えば、乳酸菌の培養に適した培地としては、脱脂粉乳培地が挙げられ、あるいは、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、塩類、ミネラル類等を含む液体培地が挙げられる。市販の培地として「MRSブイヨン MERCK」(商品名、Chemicals社)、「Difco Lactobacilli MRS Broth」(商品名、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)などがあり、そのような市販の培地を用いてもよい。
【0021】
一般に乳酸菌の培養は、制限されないが、例えば、静置で行なうことができる。また、乳酸菌の代謝産物(乳酸等)によるpHの低下を抑制するように、培地にアルカリ剤を添加してpH調整しながら、培養(中和培養)を行ってもよい。その場合、添加するアルカリ剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水溶液や、アンモニアなどを用いることができる。培養におけるpHは、pH5.0~7.5の範囲であってよく、あるいはpH6.0~7.0の範囲であってよく、そのpHに調整、維持することが好ましい。pH調整は手動で行ってもよいが、pH自動制御装置(pHスタット)などを利用すれば簡便で正確である。
【0022】
本発明においては、クレモリス菌は、培養液の状態から、クレモリス菌が濃縮された菌体濃縮液を調製してもよく、あるいは、好ましくは賦形剤を加えたうえ凍結乾燥してもよい。菌体濃縮液は、培養液をそのまま濃縮して調製することもできるが、好ましくは、遠心分離やろ過などの手段によって集菌し、この菌体を更に精製水などによって洗浄し、所定の菌体濃度になるように精製水などに懸濁させることによって調製することができる。菌体濃縮液100質量%中のクレモリス菌の菌体の含有量は、乾燥菌体換算で0.1~30質量%の範囲であってよく、0.5~20質量%の範囲であってよく、1~10質量%の範囲であってよい。
【0023】
また、菌体濃縮液には賦形剤を含有せしめてもよい。これによれば、凍結したり、凍結乾燥したりした後にも、水と再構成した後に生きた菌としての性質が維持されやすくなる。また、別の態様として、菌体を粉砕・分散した場合、得られる乳酸菌末の再凝集を防止することができる。賦形剤の含有量としては、乾燥物換算で10~99質量%の範囲であってよく、20~95質量%の範囲であってよく、50~90質量%の範囲であってよい。
【0024】
賦形剤としては、特に限定されず、例えば、デキストリン;マルトデキストリン;キサンタンガム;ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール類;デキストロース、フルクトース、グルコース、ラクトース、ショ糖等の糖類;アジピン酸、クエン酸、フマル酸、グルタル酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸類等が挙げられる。
【0025】
本発明においては、クレモリス菌は、粉砕・分散の処理を施してもよい。例えば、上記した菌体濃縮液を、攪拌、ミキサー、ホモゲナイザー、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ジェネレーター等の手段を用いて粉砕・分散することができる。
【0026】
本発明に用いるクレモリス菌は、生きた生菌を用いてもよい。その場合、培養した後に、上記した賦形剤を添加したうえ、凍結乾燥して粉体状に調製したものを用いることが好ましい。これによれば、クレモリス菌を、生きたままカプセル剤、顆粒、ヨーグルト等の形態と成して、提供するのに都合がよい。
【0027】
一方、クレモリス菌は、死菌体を用いてもよい。例えば、上記した菌体濃縮液を粉砕・分散する工程の前又は後に、菌体濃縮液に加熱処理を施すことができる。更に、上記した菌体濃縮液を粉砕・分散する工程の後に、乾燥粉末化することができる。乾燥粉末化方法としては、凍結乾燥、減圧噴霧乾燥、熱風を用いた噴霧乾燥等の手法が挙げられる。なお、熱風を用いた噴霧乾燥(スプレードライ)を行うことで、通常、乳酸菌は滅失し、死菌体を得ることができる。
【0028】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、上記のようにして調製することができるクレモリス菌又はその処理物を用いて、これをヒト又はヒト以外の動物に投与することで、腸内コハク酸量を抑制するためのものである。特には、その際に、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸の腸内産生量を維持しつつ、腸内コハク酸量を抑制するためのものである。そして、典型的には、例えば、腸内環境改善や浸透性下痢の抑制のためのものとして利用され得るものである。投与方法は、特に制限はないが、例えば、経口的に投与することが好ましい。
【0029】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物の投与量は、対象者の健康状態や年齢、あるいはどの程度の腸内コハク酸量の抑制の作用効果を必要としているかなどに応じて、適宜設定すればよい。典型的には、上記クレモリス菌の菌体又はその処理物の乾燥物換算での摂取量にして、0.001mg~100mg/日/kg体重の範囲であってよく、0.01mg~20mg/日/kg体重の範囲であってよく、0.1mg~10mg/日/kg体重の範囲であってよい。
【0030】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物には、本発明による作用効果を阻害しない範囲であれば、上記クレモリス菌に由来するもの以外の微生物の菌体又はその処理物を含んでいてもよい。例えば、クレモリス菌以外の乳酸菌、ビフィズス菌、枯草菌、酪酸菌、酵母、麹菌、放線菌等が挙げられる。
【0031】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、腸内コハク酸量抑制用の飲食品として提供されるものであってもよい。すなわち、上記クレモリス菌の菌体又はその処理物を、そのまま、あるいは他の飲食品用原料を組み合わせて、飲食品と成してもよい。上記クレモリス菌の菌体又はその処理物に組み合わせる飲食品用原料としては、例えば、各種糖質や乳化剤、甘味料、酸味料、果汁、フレーバー等が挙げられる。より具体的には、グルコース、シュークロース、フラクトース、蜂蜜等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット等の糖アルコール、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等の各種ビタミン類やハーブエキス、穀物成分、野菜成分、乳成分等が挙げられる。
【0032】
飲食品としては、例えば、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、栄養飲料、スープ等が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、飲食品の他の例としては、腸内コハク酸量抑制用の健康食品、サプリメント、特定保健用食品、ないし機能性表示食品が挙げられ、例えば、錠剤、顆粒、粉末、カプセル、ドリンク、ゼリーなどの形態で提供されてもよい。
【0033】
一方、本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、上記のような飲食品に添加されるものとして利用される、腸内コハク酸量抑制用の飲食品添加用素材として提供されてもよい。
【0034】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、腸内コハク酸量抑制用の医薬品として提供されてもよい。すなわち、上記クレモリス菌の菌体又はその処理物を、そのまま、あるいは他の医薬用原料と組み合わせて、医薬用の組成物と成してもよい。上記クレモリス菌の菌体又はその処理物に組み合わせる他の医薬用原料に特に制限はなく、必要に応じて、薬学的に許容される基材や担体を添加して、公知の製剤方法によって、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、粉末剤、ゼリー状剤、飴状剤等の形態にして、これを経口剤として利用することができる。
【0035】
一方、本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、そのような医薬品に添加されるものとして利用される、腸内コハク酸量抑制用の医薬品添加用素材であってもよい。
【0036】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、腸内コハク酸量抑制用の動物飼料であってもよい。すなわち、例えば、上記クレモリス菌の菌体又はその処理物を、そのまま、あるいは他の動物飼料用原料と組み合わせて、動物食餌用の組成物と成してもよい。例えば、家畜、競走馬、鑑賞用動物、ペット等、動物用の飼料に利用してもよい。
【0037】
一方、本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物は、そのような動物飼料に添加されるものとして利用される、腸内コハク酸量抑制用の動物飼料添加用素材であってもよい。
【0038】
本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物において、上記菌体又はその処理物の含有量は、各種の形態とした場合に、それが使用される量と有効投与量との関係を勘案して適宜定めればよい。典型的には、上記菌体又はその処理物の乾燥物換算の含有量にして、0.1~100質量%の範囲であってよく、1~50質量%の範囲であってよく、10~30質量%の範囲であってよい。また、菌体数に換算した含有量にして、1×10~1×10cells/gの範囲であってよく、1×10~5×10cells/gの範囲であってよく、1×10~3.3×10cells/gの範囲であってよい。
【0039】
本発明において、限定されない任意の態様においては、上記したクレモリス菌を含有してなる腸内コハク酸量抑制用の組成物は、難消化性オリゴ糖及び/又は食物繊維とともに摂取するようにして用いてもよい。これによれば、難消化性オリゴ糖及び/又は食物繊維の摂取によって、腸内の短鎖脂肪酸の産生を促進することができるとともに、その際に、短鎖脂肪酸の1種であるコハク酸の腸内産生量を増加させることがない。よって、これにより、浸透性下痢等の要因となる腸内コハク酸量を抑えつつ、難消化性オリゴ糖及び/又は食物繊維の摂取によるメリットを享受することができる。なお、この場合、難消化性オリゴ糖及び/又は食物繊維の摂取によって促進することができる腸内の短鎖脂肪酸とは、具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸等であり、より典型的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸等である。
【0040】
上記態様において、本発明に用いる難消化性オリゴ糖としては、特に制限はないが、例えば、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ケストース、ラフィノース、イソマルトオリゴ糖等が挙げられる。特に好ましくはケストースである。
【0041】
上記態様において、本発明に用いる食物繊維としては、特に制限はないが、例えば、ハイアミロースコーンスターチ、ペクチン、キチン、グルコマンナン、アルギン酸、βグルカン、イヌリン、難消化性デキストリン、カラギーナン、フコイダン、グアガム、キサンタンガム、ジェランガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、結晶セルロース等が挙げられる。特に好ましくはハイアミロースコーンスターチである。
【0042】
ハイアミロースコーンスターチとしては、例えば、J-オイルミルズ社「アミロファイバーSH」、イングレディオン社「ハイメイズ1043」、日本食品化工社「ロードスター」、三和澱粉工業社「アミロジェルHB-450」等、市販のものを利用してもよい。また、例えば、特開平10-195104、WO2008/155892に示されるように熱処理等を施して、食物繊維含量を高めたものを用いることもできる。例えば、食物繊維含量が40質量%以上に高められたものを用いることが好ましく、50質量%以上に高められたものと用いることがより好ましく、60質量%以上に高められたものを用いることが更により好ましい。なお、食物繊維含量は、食品表示法収載の「酵素-重量法」や「酵素-HPLC法」法などによって測定することができる。
【0043】
上記に例示したような水溶性の難消化性オリゴ糖や食物繊維であれば、腸内で有効に腸内細菌の栄養源となるので、腸内短鎖脂肪酸の産生を促す効果が高い。
【0044】
本発明において、上記態様のごとく、クレモリス菌を難消化性オリゴ糖及び/又は食物繊維とともに摂取するようにして用いる場合、上記したクレモリス菌は、その難消化性オリゴ糖及び/又は食物繊維とは別に、別剤の組成物の形態として摂取するようにしてもよく、あるいはクレモリス菌を難消化性オリゴ糖及び/又は食物繊維とともに含有せしめてなる1剤の組成物の形態として摂取するようにしてもよい。
【0045】
上記態様において1剤の組成物となす場合、本発明にかかる腸内コハク酸量抑制用組成物において、上記したクレモリス菌と難消化性オリゴ糖及び/又は食物繊維との含有量は、各種の形態とした場合に、それが使用される量と有効投与量との関係を勘案して適宜定めればよい。典型的には、上記菌体又はその処理物の乾燥物換算の含有量にして、0.1~99.9質量%の範囲であってよく、1~50質量%の範囲であってよく、10~30質量%の範囲であってよい。また、菌体数に換算した含有量にして、1×10~1×10cells/gの範囲であってよく、1×10~5×10cells/gの範囲であってよく、1×10~3.3×10cells/gの範囲であってよい。また、難消化性オリゴ糖及び/又は食物繊維の乾燥物換算での含有量にして、0.1~99.9質量%の範囲であってよく、1~50質量%の範囲であってよく、10~30質量%の範囲であってよい。
【実施例0046】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0047】
<試験例1>
乳酸菌の経口投与が腸内コハク酸量に与える影響について調べた。具体的には、試験は、乳酸菌の死菌体をラットに経口投与することにより行った。供試動物としては、ラット(Crlj:WI(Wister)、雄性8週齢)を試験群ごとに5匹ずつ使用した。供試試料としては、乳酸菌としてクレモリス菌(Lactococcus lactis subsp.cremoris Flora aid(フローラエイド))(受託番号:NITE BP-03259)、又はフェカリス菌(Enterococcus faecalis)を使用し、いずれも加熱処理して調製された死菌体を使用した。
【0048】
各乳酸菌の投与形態としては、クレモリス菌については、加熱処理菌体を2.8×1010cells/mLの濃度で含む生理食塩水を調製して、1日1回、1mLずつ、経口ゾンデを使用して7日間にわたって投与した。また、フェカリス菌については、加熱処理菌体を3.2×1010cells/mLの濃度で含む生理食塩水を調製して、同様にラットに経口投与した。コントロールとしては、乳酸菌を含まない同量の生理食塩水を経口投与した。
【0049】
投与開始から7日目に解剖を行って盲腸内容物を回収し、盲腸内容物中のコハク酸濃度を分析した。コハク酸の分析は、牛田一成、坂田隆著「ブタ盲腸内容液による難消化性オリゴ糖発酵に及ぼすpHの影響」、日畜会報(1998)、69(2):第100-107頁の方法に準じて実施した。具体的には、以下のようにしてサンプルを前処理の後、イオン排除クロマトグラフィーで分析することにより行った。
【0050】
(サンプルの前処理)
盲腸内容物を0.1mL分取し、0.2mLの蒸留水で懸濁し12%過塩素酸0.03mL加えよく懸濁し氷上で10分間静置した。遠心分離にてタンパク質を沈殿させた後、上清を0.45μmフィルターでろ過したものをサンプルとし100μL分析に供した。
【0051】
(イオン排除クロマトグラフィー分析)
・Shim-Pack SCR-102H(H型スルホ基、粒子径7μm、長さ300mm×内径8mm、株式会社島津製作所)
・カラム温度:40℃
・移動相:5mMp-トルエンスルホン酸を含有するHPLC用蒸留水
・ポストカラム反応相:5mMp-トルエンスルホン酸、20mMBis-tris、100μMEDTAを含有するHPLC用蒸留水
・溶媒流量:0.8mL/分
・検出器:Waters431電気伝導度計(検出ベース電圧:2000mV、検出感度:0.01)
・システムコントローラー:ChromNAV(日本分光株式会社)
・成分同定:上記システムでSTDを解析し、試料内濃度を算出
【0052】
結果を図1に示す。
【0053】
その結果、図1に示されるように、フェカリス菌を投与したラットでは、生理食塩水を投与したコントロール群と同等の腸内コハク酸量を示したのに対して、クレモリス菌を投与したラットでは、腸内コハク酸量が顕著に低下した。
【0054】
<試験例2>
クレモリス菌と難消化性オリゴ糖又は食物繊維の経口投与が腸内コハク酸量に与える影響について調べた。具体的には、動物試験を試験例1と同様にして行い、供試試料としてクレモリス菌を投与する場合には、試験例1と同様にして経口ゾンデを使用して同様の形態で投与を行った。また、供試試料として難消化性オリゴ糖又は食物繊維を投与する場合には、難消化性オリゴ糖としてケストース(商品名「iKes75」、伊藤忠精糖株式会社製)又は食物繊維としてレジスタントスターチ(商品名「ハイメイズ」、イングレディオン・ジャパン株式会社社製)を使用し、ラットの飼育用飼料(「標準精製飼料AIN-93M」、日本クレア株式会社製)に5質量%となるように添加して、自由摂取させた。
【0055】
投与開始から7日目に解剖を行って盲腸内容物を回収し、試験例1と同様にして、盲腸内容物中のコハク酸濃度を分析した。
【0056】
結果を、試験例1で得られた「コントロール」及び「クレモリス菌」の結果とともに、図2に示す。
【0057】
その結果、図2に示されるように、ケストース(図中、「KES」で示される。)やレジスタントスターチ(図中、「RS」で示される)を投与した試験群では、生理食塩水を投与したコントロール群に比べて、腸内コハク酸量が増加する傾向がみられた。これに対してクレモリス菌を併用して投与すると、その増加傾向が抑制されることが明らかとなった。
【0058】
<試験例3>
クレモリス菌と難消化性オリゴ糖の経口投与がコハク酸を含む短鎖脂肪酸の腸内産生量に与える影響について調べた。具体的には、動物試験を試験例1と同様にして行い、供試試料としてクレモリス菌を投与する場合には、試験例1と同様にして経口ゾンデを使用して同様の形態で投与を行った。また、供試試料として難消化性オリゴ糖を投与する場合には、難消化性オリゴ糖としてケストースを使用し、ラットの飼育用飼料(「標準精製飼料AIN-93M」、日本クレア株式会社製)に5質量%となるように添加して、自由摂取させた。
【0059】
投与開始から7日目に解剖を行って盲腸内容物を回収し、試験例1と同様にして、盲腸内容物中のコハク酸を含む短鎖脂肪酸の濃度を分析した。
【0060】
結果を図3に示す。
【0061】
その結果、図3に示されるように、ケストース(図中、「KES」で示される。)を投与した試験群では、生理食塩水を投与したコントロール群に比べて、コハク酸、プロピオン酸、及び酪酸の腸内産生量が増加する傾向がみられた。これに対してクレモリス菌を併用して投与すると、コハク酸の増加傾向が抑制されるうえ、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸については、いずれもケトースのみを投与した試験群に比べて更に腸内産生量が増加する傾向がみられた。
【0062】
<試験例4>
クレモリス菌と食物繊維の経口投与が酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸の腸内産生量に与える影響について調べた。具体的には、動物試験を試験例1と同様にして行い、供試試料としてクレモリス菌を投与する場合には、試験例1と同様にして経口ゾンデを使用して同様の形態で投与を行った。また、供試試料として食物繊維を投与する場合には、食物繊維としてレジスタントスターチを使用し、ラットの飼育用飼料(「標準精製飼料AIN-93M」、日本クレア株式会社製)に5質量%となるように添加して、自由摂取させた。
【0063】
投与開始から7日目に解剖を行って盲腸内容物を回収し、試験例1と同様にして、盲腸内容物中の酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸の濃度を分析した。
【0064】
結果を図4に示す。
【0065】
その結果、図4に示されるように、レジスタントスターチ(図中、「RS」で示される。)を投与した試験群では、生理食塩水を投与したコントロール群に比べて、コハク酸、プロピオン酸、及び酪酸の腸内産生量が増加する傾向がみられた。
【0066】
[まとめ]
以上、試験例1~4の結果によると、クレモリス菌には腸内コハク酸量を抑制する作用効果があるうえ、難消化性オリゴ糖や食物繊維による酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸の腸内産生量の増加効果については、これを抑制せず、むしろ促進的に機能することが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4