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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154506
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】歯科用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/60 20200101AFI20241024BHJP
   A61K 6/62 20200101ALI20241024BHJP
   A61K 6/76 20200101ALI20241024BHJP
【FI】
A61K6/60
A61K6/62
A61K6/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068332
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】瘧師 歩
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA01
4C089AA03
4C089BA13
4C089BC02
4C089BC06
4C089BC08
4C089BD01
4C089BD02
4C089BD04
4C089BD19
4C089CA10
(57)【要約】
【課題】 コンポジットレジンや義歯床用裏装材などに用いられる、ラジカル重合性単量体及びラジカル重合開始剤を含んでなる歯科用硬化性組成物であって、酸素の存在する環境下で、酸素遮断材を用いなくても、得られる硬化体に表面未重合層をほとんど形成させない歯科用硬化性組成物を提供する。
【解決手段】 上記歯科用硬化性組成物において、1,3―ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパンのような、分子内にプレニルオキシ基(3-メチルー2-ブテノキシ基)を有するプレニルオキシ基含有化合物を、ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.1~10質量部配合する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性単量体(A):100質量部、
プレニルオキシ基含有化合物(B):0.1~10質量部、及び
ラジカル重合開始剤(C)
を含んで構成されることを特徴とする歯科用硬化性組成物。
【請求項2】
(B)プレニルオキシ基含有化合物が下記一般式(I)
【化1】
{式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは水酸基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、又は炭素数2~5のアルケニルオキシ基を表す。}
で示される化合物である請求項1記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項3】
充填材(D):50~1500質量部をさらに含む請求項1記載の歯科用硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用硬化性組成物に関する。詳しくは、酸素遮断層を設けることなく、硬化時の酸素の影響が低減される新規な歯科用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性組成物は、重合性単量体と重合開始剤とを基本成分とし、この重合性単量体の重合反応によって硬化体を得る組成物である。重合性単量体がラジカル重合性である場合、重合工程が空気中で行われると、得られる硬化体の表面に未重合層が形成される。これは、硬化性組成物の表面においては、空気中の酸素と硬化性組成物中のラジカルとが結合して過酸化物ラジカルとなり、重合の進行を停止するからである。
【0003】
得られる硬化体表面の未重合層の形成を抑制するために、窒素雰囲気下や水中で硬化させる方法、あるいは、酸素遮断材を用いて硬化性組成物表面に酸素遮断層を設けるなどして、空気との接触を断ち、硬化性組成物をラジカル重合させる方法が行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、アクリレート又はメタクリレート(以下、これらを「(メタ)アクリレート」のように表記する。)系重合性単量体をラジカル重合で硬化させる方法は、歯科用修復物の硬化方法として広く利用されている。このような歯科用修復物としては、歯科用セメント、歯科用接着材(ボンディング材)、コンポジットレジン、レジン歯科材料表面の滑沢性付与材、歯牙のマニキュア、義歯床用裏装材等が挙げられる。これらの歯科用修復物において、硬化体表面に未重合層が形成されていると、表面硬度や耐着色性の低下などの問題が引き起こされる。また、歯科用修復物を利用する歯牙の治療において、硬化体表面に未重合層が形成されていると、硬化体の研磨・研削を行う際に未重合層が研磨バーに絡みつくため、研磨性が低下するという問題も有している。
【0005】
このような歯科用修復物を用いる歯科治療においては、硬化性組成物を口腔内で直接硬化させることが多い。水中や窒素雰因気下で硬化させ、未重合層の形成を抑制する方法を採る場合、硬化性組成物を一旦口腔内から取り出すことが必要となるが、この際に口腔内で形成した形状が変形し易い。また、酸素遮断層を形成するのが困難な症例は多くあり、さらにボンディング材などの粘性の低い材料には、酸素遮断材を利用することができない。このため、酸素遮断層を設けることなく、硬化時の酸素による重合阻害の影響を低減させる技術が求められている。
【0006】
硬化時の酸素による重合阻害の影響を低減させる技術として、界面活性剤及び水を配合する硬化性組成物(例えば、特許文献3~5参照)や、板状の形状を有するケイ酸塩鉱物を分散させて硬化させる硬化性組成物(例えば、特許文献6)が既に提案されている。前者の硬化性組成物を用いる場合、ラジカル重合性単量体が硬化する際に、硬化性組成物の表面に界面活性剤と水との層が形成され、この界面活性剤と水とからなる層が酸素の侵入を抑制するため、表面の未重合層の形成量が大幅に低減される。しかし、上記硬化性組成物は、水を配合することによる硬化体の耐久性低下が懸念され、さらに疎水性の重合性単量体を使用する場合、製造が煩雑になる。
【0007】
後者の硬化性組成物を用いる場合、硬化時において、硬化性組成物の表面からその内部に向かって酸素が拡散する際、分散した板状のケイ酸塩鉱物が酸素分子の直進移動を妨害する障害物となる。そのため、酸素分子は長い迂回路を通って硬化性組成物の表面からその内部へ移行することになり、酸素の透過深度が低下することで、表面未重合層の形成が抑制される。しかし、板状のケイ酸塩鉱物が分散しているが故に色調が暗くなり審美性に課題がある。また、板状のケイ酸塩鉱物を含む粉材と、ラジカル重合性単量体を含む液材から構成される上記硬化性組成物の場合、板状のケイ酸塩鉱物が液材に分散し難く、混和時の操作性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-128723号公報
【特許文献2】特開2004-284969号公報
【特許文献3】特開2006-291168号公報
【特許文献4】特開2007-008972号公報
【特許文献5】特開2007-063332号公報
【特許文献6】特開2013-100242号公報
【特許文献7】WO2019/107252号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、酸素の存在する環境下で、酸素遮断材を用いなくても、得られる硬化体に表面未重合層をほとんど形成させない硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、硬化性組成物にプレニルオキシ基含有化合物を配合することで、得られる硬化体の表面未重合層の形成量が大幅に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、(A)ラジカル重合性単量体と、
(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対し、0.1~10質量部の(B)プレニルオキシ基含有化合物と、
有効量の(C)ラジカル重合開始剤と、を含んで構成されることを特徴とする歯科用硬化性組成物である。
【0012】
上記本発明の硬化性組成物において、(B)プレニルオキシ基含有化合物は下記一般式(I)
【0013】
【化1】
【0014】
{式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは水酸基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、又は炭素数2~5のアルケニルオキシ基を表す。}
で表される化合物であることが好ましい。
【0015】
上記本発明の硬化性組成物において、(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対して50~1500質量部の(D)充填材をさらに含むことが好ましい。
【0016】
上記本発明の硬化性組成物は、(A)ラジカル重合性単量体及び(B)プレニルオキシ基含有化合物を含む液材と、(D)充填材を含む粉材と、から構成され、前記液材及び前記粉材、又は前記液材若しくは前記粉材には(C)ラジカル重合開始剤が含有されてなり、使用直前に前記粉材と前記液材とを練和して用いることが好ましい。
【0017】
なお、プレニルオキシ基含有化合物は、酸素吸収剤として、塗料等のUV硬化性樹脂に用いた場合に架橋反応や硬化反応を十分に進行させ、酸素存在下でも良好な硬化性がえられる例が既に提案されている(特許文献7)が、本発明者等の知る限りにおいて歯科用硬化性組成物に配合された例は存在しない。
【発明の効果】
【0018】
本発明の硬化性組成物は、酸素が存在する環境下で、酸素遮断材を用いるなどの特別の手段を用いずに硬化させても、得られる硬化体に表面未重合層が形成されることを高度に抑制する。そのため、硬化体の表面硬度や耐着色性、研磨性が高い。
【0019】
さらに、粉材と液材とから構成される場合、液状のプレニルオキシ基含有化合物を液材に配合することで混和性が低下することもない。また、ジプレニルグリセリンエーテル等の無色透明の液状のプレニルオキシ基含有化合物を用いることで、硬化体の色調に悪影響がなく審美性にも優れた硬化体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の歯科用硬化性組成物(以下、「本硬化性組成物」ともいう)は、以下に説明する(A)ラジカル重合性単量体と、(B)プレニルオキシ基含有化合物と、(C)ラジカル重合開始剤と、を含んでなる。本硬化性組成物には、以下に説明する(D)充填材が含有されることが好ましい。
【0021】
<(A)ラジカル重合性単量体>
本硬化性組成物に配合されるラジカル重合性単量体としては、歯科用として使用可能なラジカル重合性単量体を特に制限なく使用することができる。このようなラジカル重合性単量体としては、(メタ)アクリル系の重合性単量体が一般的である。
【0022】
代表的な(メタ)アクリル系重合性単量体を例示すれば、下記(I)~(IV)に示されるものが挙げられる。
【0023】
(I)単官能性単量体
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;
アクリル酸、メタクリル酸、p-メタクリロイルオキシ安息香酸、N-2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル-N-フェニルグリシン、4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸及びその無水物、6-メタクリロイルオキシヘキサメチレンマロン酸、10-メタクリロイルオキシデカメチレンマロン酸、2-メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、10-メタクリロイルオキシデカメチレンジハイドロジェンフォスフェート、2-ヒドロキシエチルハイドロジェンフェニルフォスフォネート;等の酸性基含有重合性単量体。
【0024】
(II)二官能性単量体
(i)芳香族化合物系のもの
2,2-ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2(4-メタクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;
2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート、あるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような-OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物と、の付加から得られるジアダクト等。
【0025】
(ii)脂肪族化合物系のもの
モノエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、平均分子量400のポリエチレングリコールのジメタクリレート、平均分子量600のポリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ノナメチレンジオールメタクリレート、及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート; 2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート、あるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような-OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物と、の付加から得られるジアダクト;
無水アクリル酸、無水メタクリル酸、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エチル、ジ(2-メタクリロイルオキシプロピル)フォスフェート;等の酸性基含有重合性単量体。
【0026】
(III)三官能性単量体
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。
【0027】
(IV)四官能性単量体
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物と、グリシドールジメタクリレートと、の付加から得られるジアダクト等。
【0028】
これらの重合性単量体は、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。なお、本硬化性組成物においては、前記(メタ)アクリル系重合性単量体に加えて、重合の容易さ、粘度の調節、あるいはその他の物性の調節のために、上記(メタ)アクリル系重合性単量体以外の他の重合性単量体を混合して重合することも可能である。
【0029】
これら他の重合性単量体を例示すると、フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル類;
スチレン、ジビニルベンゼン、α -メチルスチレン、α -メチルスチレン等のスチレンあるいはα -メチルスチレン誘導体;
ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレート、ジアリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物;等を挙げることができる。これら他の重合性単量体は、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0030】
<(B)プレニルオキシ基含有化合物>
本硬化性組成物に配合されるプレニルオキシ基含有化合物としては、プレニルオキシ基を含有する化合物であり、液状のものであれば特に制限なく使用することができる。
【0031】
プレニルオキシ基含有化合物としては、表面未重合層形成低減の観点から、プレニルオキシ基(3-メチルー2-ブテノキシ基)を2個以上有する化合物が好ましく、2個以上のプレニルオキシ基が炭素数3~15の脂肪族炭化水素化からなる連結基を介して連結されている化合物が好ましい。また、前記連結基は任意の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよく、水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、及び炭素数2~5のアルケニルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1つを置換基として有していてもよい。
【0032】
プレニルオキシ基含有化合物としては、下記一般式(I)で表される化合物が好ましい。
【0033】
【化2】
【0034】
なお、前記一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、水素原子であることが好ましく、Rは水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基、スチリルオキシ基、及び炭素数2~5のアルケニルオキシ基のいずれかを表し、水酸基、(メタ)アクリロイルオキシ基であることが好ましい。
【0035】
プレニルオキシ基含有化合物を、粉材と液材とから構成される歯科用硬化性組成物に用いる場合、混和性の観点から液状のプレニルオキシ基含有化合物を用いることが好ましい。プレニルオキシ基含有化合物の粘度は、特に制限されるものではないが、上記混和性の観点から、23℃における回転型粘度計で測定した粘度が1000cP以下であることが好ましく、100cP以下であることがより好ましい。
【0036】
さらに、硬化体の色調に悪影響がなく審美性にも優れた硬化体を得るという観点から、無色透明の液状のプレニルオキシ基含有化合物を用いることが好ましい。
【0037】
また、これらの要件を満足する液状のプレニルオキシ基含有化合物としては、「ジプレニルグリセリンエーテル」(株式会社クラレ製)など、既に市販されているものもあり、容易に入手することが可能である。
【0038】
<(C)ラジカル重合開始剤>
本硬化性組成物には、(A)ラジカル重合性単量体を重合させるための(C)ラジカル重合開始剤が配合される。(C)ラジカル重合開始剤としては、用いる(A)ラジカル重合性単量体の重合を開始して、硬化させることができるものであれば何ら制限なく使用可能であり、公知のラジカル重合開始剤が使用可能である。歯科分野で用いられるラジカル重合開始剤としては、化学重合開始剤(常温レドックス開始剤)、光重合開始剤、熱重合開始剤等があるが、口腔内で硬化させることを考慮すると、化学重合開始剤及び/又は光重合開始剤が好ましい。
【0039】
化学重合開始剤は、2成分以上からなり、使用直前に全成分が混合されることにより、室温近辺で重合活性種を生じる重合開始剤である。このような化学重合開始剤としては、アミン化合物/有機過酸化物系のものが代表的である。
【0040】
該アミン化合物を具体的に例示すると、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエタノール-p-トルイジンなどの芳香族アミン化合物が挙げられる。
【0041】
有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートに分類される有機過酸化物が好ましい。
【0042】
より具体的には、ケトンパーオキサイド類としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等が挙げられる。
【0043】
パーオキシケタール類としては、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロデカン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、n-ブチル4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等が挙げられる。
【0044】
ハイドロパーオキサイド類としては、P-メタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0045】
ジアルキルパーオキサイドとしては、α ,α -ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン-3等が挙げられる。
【0046】
ジアシルパーオキサイド類としては、イソブチリルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、スクシニックアシッドパーオキサイド、m-トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド類が挙げられる。
【0047】
パーオキシカーボネート類としては、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-2-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0048】
パーオキシエステル類としては、α ,α -ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイックアシッド、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(m-トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシ-m-トルオイルベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルパーオキシ)イソフタレート等が挙げられる。
【0049】
また、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3´,4,4´-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等も好適な有機過酸化物として使用できる。
【0050】
使用する有機過酸化物は、適宜選択して使用すればよく、単独又は2種以上を組み合わせて用いても良い。中でもハイドロパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類、パーオキシエステル類及びジアシルパーオキサイド類が重合活性の点から特に好ましい。さらにこの中でも、硬化性組成物とした時の保存安定性の点から10時間半減期温度が60℃以上の有機過酸化物を用いるのが好ましい。
【0051】
該有機過酸化物と該アミン化合物からなる開始剤系にさらに、ベンゼンスルフィン酸やp-トルエンスルフィン酸及びその塩などのスルフィン酸を加えた系、5-ブチルバルビツール酸などのバルビツール酸系開始剤を加えた系も問題なく使用できる。
【0052】
また、アリールボレート化合物が酸により分解してラジカルを生じることを利用した、アリールボレート化合物/酸性化合物系の重合開始剤を用いることもできる。
【0053】
アリールボレート化合物は、分子中に少なくとも1個のホウ素-アリール結合を有する化合物であれば特に限定されず公知の化合物が使用できる。その中でも、保存安定性を考慮すると、1分子中に3個又は4個のホウ素-アリール結合を有するアリールボレート化合物を用いることが好ましく、さらには取扱いや合成・入手の容易さから4個のホウ素-アリール結合を有するアリールボレート化合物がより好ましい。
【0054】
1分子中に3個のホウ素-アリール結合を有するボレート化合物として、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリス(p-クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p-フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(3,5-ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、モノアルキルトリス[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリス(p-ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m-ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(ただし、いずれの化合物においてもアルキルはn-ブチル、n-オクチル又はn-ドデシルのいずれかを示す)の、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩又はブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
【0055】
また、1分子中に4個のホウ素-アリール結合を有するボレート化合物として、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p-クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5-ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素〔ただし、いずれの化合物においてもアルキルはn-ブチル、n-オクチル又はn-ドデシルのいずれかを示す〕の、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩又はブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
【0056】
これらアリールボレート化合物は2種以上を併用しても良い。
【0057】
上記の酸性化合物としては、酸性基含有ラジカル重合性単量体が好適に使用でき、1分子中に少なくとも1つの酸性基、又は当該酸性基の2つが脱水縮合した酸無水物構造、あるいは酸性基のヒドロキシル基がハロゲンに置換された酸ハロゲン化物基と、少なくとも1つのラジカル重合性不飽和基とを有する化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。ここで酸性基とは、該基を有するラジカル重合性単量体の水溶液又は水懸濁液が酸性を呈す基を示す当該酸性基としては、カルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{-P(=O)(OH)2}等、並びにこれらの基が酸無水物や酸ハロゲン化物等となったものが例示される。このような酸性基含有ラジカル重合性単量体の具体例としては、前記本発明におけるラジカル重合性単量体において例示した通りである。
【0058】
また、このようなアリールボレート化合物/酸性化合物系の重合開始剤にさらに、有機過酸化物及び/又は遷移金属化合物を組み合わせて用いることも好適である。有機過酸化物としては前記した通りである。遷移金属化合物としては+IV価及び/又は+V価のバナジウム化合物が好適である。該+IV価及び/又は+V価のバナジウム化合物を具体的に例示すると、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)、等のバナジウム化合物が挙げられる。
【0059】
光重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸メチルエステル、2-メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ピバロイルフェニルホスフィン酸イソプロピルエステル、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド誘導体;
ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、4,4´-ジメトキシベンジル、4,4´-オキシベンジル、カンファーキノン、9,10-フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα -ジケトン;
ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル;
2,4-ジエトキシチオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体;
ベンゾフェノン、p,p´-ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p´-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;が好適に使用される。
【0060】
これらの光重合開始剤は、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。上記光重合開始剤の中でも、重合活性の良さ、生体への為害性の少なさ等の点からα -ジケトン類が好ましい。また、α -ジケトンを用いる場合には、第3級アミン化合物と組み合わせて用いることが好ましい。α -ジケトンと組み合わせて用いることのできる第3級アミン化合物としては、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジ-n-ブチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、p-ブロモ-N,N-ジメチルアニリン、m-クロロ-N,N-ジメチルアニリン、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノ安息香酸、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p-ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N-ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N-ジヒドロキシエチルアニリン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、p-ジメチルアミノフェネチルアルコール、p-ジメチルアミノスチルベン、N,N-ジメチル-3,5-キシリジン、4-ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチル-α -ナフチルアミン、N,N-ジメチル-β -ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルヘキシルアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、N,N-ジメチルステアリルアミン、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2´-(n-ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。
【0061】
これらの重合開始剤は、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0062】
本発明において、上記ラジカル重合開始剤の配合量は、前記ラジカル重合性単量体を重合して、硬化性組成物を硬化させる量であれば特に限定されず、用いる重合開始剤やラジカル重合性単量体の種類に応じて、公知の配合量を適宜選択すればよい。一般的には、(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対して、(C)ラジカル重合開始剤が0.01~10質量部であり、0.05~8質量部であることが好ましく、0.1~6質量部であることがより好ましい。ただし、前記酸性基含有ラジカル重合性単量体のように、ラジカル重合性の化合物を重合開始剤の一成分として用いる場合には、該化合物以外の重合開始剤を構成する成分の量を上記範囲とすることが好ましい。
【0063】
<(D)充填剤>
本硬化性組成物は、各種レジン系歯科材料表面の滑沢性付与、歯牙のマニキュア及び変色歯の補修等の目的で使用される表面滑沢材や接着材として用いることができるが、充填剤と組み合わることにより、より広範な用途に用いることができる。ここで、充填材としては、公知の有機充填材および無機充填材が使用でき、有機充填剤と組み合わせた場合には、義歯の補修材料、義歯床用硬質裏装材、治療経過途中に一旦患者を帰してから治療を再開するまでの数日間、窩洞に充填される仮封材及び暫間的なクラウン、並びにブリッジの作製材料等として好適に使用される。また、無機充填剤と組み合わせた場合には、コンポジットレジン、硬質レジン、インレー、アンレー、クラウン等、歯科用修復材料として好適に使用される。
【0064】
好適に使用できる代表的な充填剤を具体的に例示すれば、有機充填剤としてポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体等の高分子体粒子が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0065】
また、代表的な無機充填剤を具体的に例示すれば、石英、シリカ、アルミナ、シリカチタニア、シリカジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等の無機物粒子が挙げられる。さらに無機充填剤の内、カチオン溶出性充填剤としては、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等の水酸化物、酸化亜鉛、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等の酸化物が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0066】
また、これら無機充填剤に重合性単量体を予め添加してペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機-無機複合充填剤を用いる場合もある。
【0067】
これら充填剤の粒径は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている0.01μm~100μmの平均粒子径の充填剤が目的に応じて適宜使用できる。また、充填剤の屈折率も特に限定されず、一般的な歯科用充填剤が有する1.4~1.7の範囲のものが制限なく使用できる。
【0068】
さらに、上記した充填剤の中でもとりわけ球状の無機充填剤を用いると、得られる硬化体の表面滑沢性が増し、優れた修復材料となり得る。
【0069】
上記した無機充填剤は、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することが、重合性単量体とのなじみをよくし、機械的強度や耐水性を向上させる上で望ましい。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β -メトキシエトキシ)シラン、γ -メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ -クロロプロピルトリメトキシシラン、γ -グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。
【0070】
これらの充填剤の割合は、使用目的に応じて、(A)ラジカル重合性単量体等と混合する時の粘度(操作性)や硬化体の機械的物性を考慮して適宜決定すればよいが、一般的には、(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対して50~1500質量部であり、70~1000質量部であることが好ましい。
【0071】
本発明の硬化性組成物は、上記(A)ラジカル重合性単量体、(B)プレニルオキシ基含有化合物、(C)ラジカル重合開始剤、及び必要に応じて配合される(D)充填剤などの任意成分が、使用時に均一に混合されて硬化される。ここで均一とは、全成分が交互に溶解した状態のみならず、乳濁した状態や、充填剤のような不溶性成分が分散した状態であってもよく、肉眼で相分離等が確認できない程度の均一さでよい。
【0072】
本硬化性組成物は、通常4~60℃で使用される。硬化時間は通常、化学重合型の場合は1~30分であり、光重合型の場合3~120秒である。
【0073】
通常、歯科用硬化性組成物の表面の一部は、酸素を含む雰囲気に開放した状態で硬化させる。
【0074】
また、保存安定性などを考慮して、使用直前まで2つ以上に分割して包装しておいてもよい。(A)ラジカル重合性単量体と(B)プレニルオキシ基含有化合物とを含む液材と、粉材とを、使用直前に練和して用いる態様が例示される。粉材と液材の少なくとも一方には、(C)ラジカル重合開始剤が含有される。粉材には、(D)充填材が含有されることが好ましい。包装内は真空、又は不活性ガスで置換されていることが好ましい。
【0075】
このような硬化性組成物は、公知の方法に従って製造されたものでよく、特に制限されるものではない。
【0076】
本硬化性組成物には、さらに歯牙や歯肉の色調に合わせるため、顔料、蛍光顔料等の着色材料を配合したり、紫外線に対する変色防止のため紫外線吸収剤を添加したりしてもよい。また、保存安定性を向上させるために、重合禁止剤を配合することも好ましい。
【実施例0077】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
【0078】
まず、各実施例および比較例で使用した各種化合物の名称、特性、略号(略号を用いた場合)等を示す。
【0079】
<(A)ラジカル重合性単量体>
・HPr:2-メタクリロイルオキシエチルプルピオネート
・ND:ノナメチレンジオールジメタクリレート
・BiS-GMA:2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン
・TT:トリメチロールプロパントリメタクリレート。
【0080】
<(B)プレニルオキシ基含有化合物>
・B-1:1,3―ビス[(3-メチルブタ-2-エン―1-イル)オキシ]プロパン-2-オール
・B-2:1,3―ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパン。
【0081】
<(C)重合開始剤>
・CQ:カンファーキノン
・BPO:過酸化ベンゾイル
・DMBE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル。
・DEPT:N,N-ジエタノール-p-トルイジン。
【0082】
<(D)充填剤>
・シリカ1:ヒュームドシリカ(平均1次粒径15nm、メチルトリクロロシラン処理)
・シリカ2:溶融球状シリカ(平均粒子径1μm、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理)
・PEMA:ポリエチルメタクリレート(平均粒径35μm、重量平均分子量50万)。
【0083】
<その他の成分>
・モンモリロナイト:平均粒子径31μm、有機化処理(トリメチルステアリルアンモニウム塩)品、平均アスペクト比1940の板状物(上記平均粒子径をほぼ維持)に劈開性の積層体。
【0084】
各実施例、比較例における各種物性の評価方法は以下の通りである。
【0085】
(1)〔表面未重合量測定方法〕
直径5mm、厚さ1mmの孔を有するポリアセタール製の型に、硬化性組成物を填入し、37℃湿潤条件下恒温槽中で15分間放置し硬化させるか、若しくは可視光線照射器(トクヤマ社製、パワーライト)により光照射を30秒間行い硬化させた。その後、エタノールで未重合層を除去した。最初に填入した質量からエタノールで未重合部分を除去した後の硬化体の質量を引いたものを未重合量とし、表面積あたりの質量として求めた。
【0086】
(2)〔練和時間〕
予め液材を測りとっておいたラバーカップに、所定量の粉材を加えて練和を開始し、加えた粉材が液材になじみ均一なペースト状になるまでスパチュラで練和し続けた。練和開始から均一なペーストが得られるまでの時間を計測し、練和時間とした。
【0087】
実施例1
HPr50質量部、ND50質量部、B-1:1,3―ビス[(3-メチルブタ-2-エン―1-イル)オキシ]プロパン-2-オールを1質量部、CQ1質量部、DMBE1質量部を混合して得られた硬化性組成物の表面未重合量を測定した。その結果を表1に示した。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示したように、表面未重合量は9.5μg/mmと、表面未重合層はほとんど形成されていなかった。
【0090】
実施例2~5
組成を表1に示すように変更した他は、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表1に示した。
実施例2~5はいずれも表面未重合層はほとんど形成されていなかった。
【0091】
比較例1
B-1:1,3―ビス[(3-メチルブタ-2-エン―1-イル)オキシ]プロパン-2-オールを配合しない他は、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表2に示した。
【0092】
【表2】
【0093】
比較例1は(B)プレニルオキシ基含有化合物を含まないため、表面未重合量は143μg/mmと、表面未重合層が形成されていた。
【0094】
比較例2
B-1:1,3―ビス[(3-メチルブタ-2-エン―1-イル)オキシ]プロパン-2-オールを配合しない他は、実施例3と同様に評価を行った。その結果を表2に示した。
比較例2は、表面未重合量は122μg/mmと、表面未重合層が形成されていた。
【0095】
実施例6
HPr50質量部、ND50質量部、B-1:1,3―ビス[(3-メチルブタ-2-エン―1-イル)オキシ]プロパン-2-オールを1質量部、DEPT1質量部を混合して得られた液材と、PEMA200質量部、BPO2質量部を混合して得られた粉材とを混合し、表面未重合量及び練和時間を評価した。その結果を表1に示した。
表1に示したように、表面未重合量は5.4μg/mmと、表面未重合層はほとんど形成されておらず、また、練和時間も20秒で操作性も良好だった。
【0096】
実施例7~14
組成を表1に示すように変更した他は、実施例6と同様に評価を行った。その結果を表1に示した。
実施例7~14はいずれも表面未重合層がほとんど形成されておらず、また、操作性も良好だった。
【0097】
比較例3
B-1:1,3―ビス[(3-メチルブタ-2-エン―1-イル)オキシ]プロパン-2-オールを配合せず、モンモリロナイト5質量部を配合した他は実施例6と同様に評価を行った。その結果を表2に示した。
比較例3は(B)プレニルオキシ基含有化合物を含まないが、モンモリロナイトを含むため、表面未重合量は5.5μg/mmと、表面未重合層はほとんど形成されていなかったが、練和時間は90秒と操作性は低下した。
【0098】
実施例15
粉材に顔料として、ピグメントレッド144を80ppm、ピグメントイエロー95を10ppm、ピグメントブルー60を3ppm、二酸化チタンを220ppm添加し、義歯床用裏装材として使用可能なピンク色に調色した以外は実施例6と同様に評価を行った。その結果を表1に示した。
実施例15は表面未重合層がほとんど形成されておらず、また、操作性も良好だった。さらに、目視で観察した結果、義歯床用裏装材に適したピンク色で審美性も良好だった。
【0099】
比較例4
B-1:1,3―ビス[(3-メチルブタ-2-エン―1-イル)オキシ]プロパン-2-オールを配合せず、モンモリロナイト5質量部を配合した他は実施例15と同様に評価を行った。その結果を表2に示した。
比較例4は、(B)プレニルオキシ基含有化合物を含まないが、モンモリロナイトを含むため、表面未重合量は5.5μg/mmと、表面未重合層はほとんど形成されていなかったが、練和時間は90秒と操作性は低下した。さらに、目視で観察した結果、灰色がかったピンク色で、義歯床用裏装材としては適さず審美性も低下した。