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特開2024-15452テラヘルツ波用光学素子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015452
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】テラヘルツ波用光学素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/111 20150101AFI20240125BHJP
【FI】
G02B1/111
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213191
(22)【出願日】2023-12-18
(62)【分割の表示】P 2019163975の分割
【原出願日】2019-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2019060789
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018184258
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】河田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏典
(72)【発明者】
【氏名】池田 吉紀
(72)【発明者】
【氏名】添田 淳史
(57)【要約】
【課題】テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す反射防止膜を有するテラヘルツ波用光学素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】テラヘルツ波用光学素子は、シリコン表面を有する光学部品と、シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂、及び当該有機樹脂に分散される無機粒子を有する反射防止膜と、反射防止膜の厚さ方向において光学部品および反射防止膜の間に位置し、光学部品のシリコン表面および反射防止膜を接着する接着層と、を備える。接着層は、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン表面を有する光学部品と、
シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂、及び当該有機樹脂に分散される無機粒子を有する反射防止膜と、
前記反射防止膜の厚さ方向において前記光学部品および前記反射防止膜の間に位置し、前記光学部品の前記シリコン表面および前記反射防止膜を接着する接着層と、
を備え、
前記接着層は、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む、
テラヘルツ波用光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波用光学素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ帯の電磁波(テラヘルツ波)を用いる非破壊及び非接触検査技術などを実現するため、テラヘルツ帯で利用可能な光学素子(例えば、レンズ、偏光子等)が開発されている。下記非特許文献1には、テラヘルツ波の完全吸収体(アブソーバ)が開示されている。下記非特許文献1には、酸化チタン微粒子あるいは中空のポリスチレン小球体によって屈折率が調整された反射防止膜が、高ドープシリコン基板上に設けられる態様が開示されている。シリコン基板に反射防止膜を良好に密着させる観点から、反射防止膜の主成分としてエポキシ系ポリマーが用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Gongjie Xu, et al., "0.1-20THz ultra-broadband perfect absorber via a flat multi-layer structure," Optics Express 24, 23177 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エポキシ系ポリマーは、テラヘルツ波を吸収する性質を示す。このため、テラヘルツ波を透過させるべき光学素子に対して上記非特許文献1にて開示される反射防止膜を適用すると、不都合が生じることがある。
【0005】
本発明の一側面は、テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す反射防止膜を有するテラヘルツ波用光学素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るテラヘルツ波用光学素子は、シリコン表面を有する光学部品と、シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂、及び当該有機樹脂に分散される無機粒子を有する反射防止膜と、反射防止膜の厚さ方向において光学部品および反射防止膜の間に位置し、光学部品のシリコン表面および反射防止膜を接着する接着層と、を備え、接着層は、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む。
【0007】
このテラヘルツ波用光学素子によれば、反射防止膜に含まれる有機樹脂は、シクロオレフィン系ポリマーを主成分としている。この反射防止膜は、エポキシ系ポリマーを主成分とする有機樹脂を用いた場合よりも、テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す。一方、シクロオレフィン系ポリマーは、エポキシ系ポリマーよりもシリコンに対する密着性が悪い傾向にある。このため、単にシリコン表面上に対してシクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂を有する反射防止膜を形成した場合、当該反射防止膜が良好に形成されないおそれがある。これに対して上記テラヘルツ波用光学素子によれば、反射防止膜と、光学部品のシリコン表面とは、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層によって互いに接着されている。熱変性されたオレフィン系ポリマーは、テラヘルツ波に対する透過性を維持しつつ、シリコンに対する密着性が向上したものである。このような熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層を用いることによって、当該接着層によるテラヘルツ波の吸収を抑制しつつ、上記反射防止膜をシリコン表面上に良好に固定できる。したがって、テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す反射防止膜を有するテラヘルツ波用光学素子を信頼性よく提供できる。
【0008】
本発明の他の一側面に係るテラヘルツ波用光学素子は、光学部品と、シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂、及び当該有機樹脂に分散される無機粒子を有する反射防止膜と、反射防止膜の厚さ方向において光学部品および反射防止膜の間に位置し、光学部品の表面および反射防止膜を接着する接着層と、を備え、接着層は、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む。
【0009】
このテラヘルツ波用光学素子によれば、反射防止膜に含まれる有機樹脂は、シクロオレフィン系ポリマーを主成分としている。この反射防止膜は、エポキシ系ポリマーを主成分とする有機樹脂を用いた場合よりも、テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す。一方、シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂を有する反射防止膜を光学部品上に形成するとき、エポキシ系ポリマーを主成分とする有機樹脂を有する反射防止膜を用いる場合と異なり、光学部品の表面を構成する材料によっては、当該表面上に上記反射防止膜が良好に形成されないおそれがある。これに対して上記テラヘルツ波用光学素子によれば、反射防止膜と、光学部品の表面とは、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層によって互いに接着されている。熱変性されたオレフィン系ポリマーは、オレフィン系ポリマー等の有機樹脂だけでなく、熱変性されていないオレフィン系ポリマーが密着しにくい材料に対しても良好な密着性を示す傾向にある。加えて、熱変性されたオレフィン系ポリマーは、テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す。このような熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層を用いることによって、当該接着層によるテラヘルツ波の吸収を抑制しつつ、上記反射防止膜を光学部品の表面上に良好に固定できる。したがって、テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す反射防止膜を有するテラヘルツ波用光学素子を信頼性よく提供できる。
【0010】
反射防止膜の単位体積あたりにおいて無機粒子が占める体積の割合は、厚さ方向において光学部品に近いほど高くてもよい。この場合、厚さ方向において光学部品に近いほど反射防止膜の屈折率をシリコンに近づけることができるので、シリコン表面におけるテラヘルツ波の反射を抑制できる。
【0011】
反射防止膜は、厚さ方向において互いに積層される複数の層を有し、複数の層のそれぞれは、シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂、及び当該有機樹脂に分散される無機粒子を含み、層の単位体積あたりにおいて無機粒子が占める体積の割合は、厚さ方向において光学部品に近い層ほど高くてもよい。この場合、厚さ方向において光学部品に近いほど反射防止膜の屈折率をシリコンに近づけることができるので、シリコン表面におけるテラヘルツ波の反射を抑制できる。加えて、厚さ方向における反射防止膜の屈折率を、容易かつ確実に段階的に変化できる。
【0012】
反射防止膜は、厚さ方向において光学部品に対向する第1表面と、第1表面の反対側に位置する第2表面とを有し、上記テラヘルツ波用光学素子は、第2表面上に位置し、複数の気泡を含む気泡含有層をさらに備えてもよい。この場合、反射防止膜の第2表面におけるテラヘルツ波の反射を気泡含有層によって良好に抑制できる。加えて、気泡含有層の表面は、凹凸形状を呈してもよい。この場合、気泡含有層の表面におけるテラヘルツ波の反射を良好に抑制できる。
【0013】
反射防止膜は、厚さ方向において光学部品に対向する第1表面と、第1表面の反対側に位置する第2表面とを有し、第2表面は、凹凸形状を呈してもよい。この場合、反射防止膜の第2表面におけるテラヘルツ波の反射を抑制できる。
【0014】
接着層の厚さは、1nm以上100μm以下でもよい。この場合、接着層を介して反射防止膜をシリコン表面上に良好に固定すると共に、接着層によるテラヘルツ波の吸収を良好に抑制できる。
【0015】
無機粒子は、シリコン粒子もしくは酸化チタン粒子であってもよい。この場合、反射防止膜によるテラヘルツ波の吸収を抑制しつつ、無機粒子による反射防止膜の屈折率の調整が可能になる。
【0016】
本発明のまた他の一側面に係るテラヘルツ波用光学素子の製造方法は、シリコン表面を有する光学部品を準備する工程と、光学部品のシリコン表面にオレフィン系ポリマーを含む接着層を形成する工程と、接着層に含まれるオレフィン系ポリマーを加熱により熱変性させ、接着層をシリコン表面に密着させる工程と、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層を介して、シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂、及び当該有機樹脂に分散される無機粒子を有する反射防止膜を、光学部品に接着する工程と、を備える。
【0017】
シクロオレフィン系ポリマーは、エポキシ系ポリマーよりもテラヘルツ波に対して良好な透過性を示す一方で、シリコンとの密着性が悪い傾向にある。このため、単にシリコン表面上に対してシクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂を有する反射防止膜を形成した場合、当該反射防止膜が良好に形成されないおそれがある。これに対して上記製造方法によれば、加熱により熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層を光学部品のシリコン表面に密着させた後、当該接着層を介して上記反射防止膜を光学部品に接着する。熱変性されたオレフィン系ポリマーは、テラヘルツ波に対する透過性を維持しつつ、シリコンに対する密着性が向上したものである。このような熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層を用いることによって、当該接着層によるテラヘルツ波の吸収を抑制しつつ、上記反射防止膜をシリコン表面上に良好に固定できる。したがって、テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す反射防止膜を有するテラヘルツ波用光学素子を信頼性よく製造できる。
【0018】
本発明のさらに他の一側面に係るテラヘルツ波用光学素子の製造方法は、光学部品を準備する工程と、光学部品の表面にオレフィン系ポリマーを含む接着層を形成する工程と、接着層に含まれるオレフィン系ポリマーを加熱により熱変性させ、接着層を表面に密着させる工程と、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層を介して、シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂、及び当該有機樹脂に分散される無機粒子を有する反射防止膜を、光学部品に接着する工程と、を備える。
【0019】
シクロオレフィン系ポリマーは、エポキシ系ポリマーよりもテラヘルツ波に対して良好な透過性を示す。一方、シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂を有する反射防止膜を光学部品上に形成するとき、エポキシ系ポリマーを主成分とする有機樹脂を有する反射防止膜を用いる場合と異なり、光学部品の表面を構成する材料によっては、当該表面上に上記反射防止膜が良好に形成されないおそれがある。これに対して上記製造方法によれば、加熱により熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層を光学部品の表面に密着させた後、当該接着層を介して上記反射防止膜を光学部品に接着する。熱変性されたオレフィン系ポリマーは、オレフィン系ポリマー等の有機樹脂だけでなく、熱変性されていないオレフィン系ポリマーが密着しにくい材料に対しても良好な密着性を示す傾向にある。加えて、熱変性されたオレフィン系ポリマーは、テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す。このような熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層を用いることによって、当該接着層によるテラヘルツ波の吸収を抑制しつつ、上記反射防止膜を光学部品の表面上に良好に固定できる。したがって、テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す反射防止膜を有するテラヘルツ波用光学素子を信頼性よく提供できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一側面によれば、テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す反射防止膜を有するテラヘルツ波用光学素子及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態に係る光学素子の概略断面図を示す。
図2図2は、実施形態に係る光学素子の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3図3は、第1変形例に係る光学素子の概略断面図を示す。
図4図4(a)は、第2変形例に係る光学素子の概略断面図を示し、図4(b)は、第2変形例に係る光学素子の表面の一例を示す。
図5図5は、第3変形例に係る光学素子の概略断面図を示す。
図6図6は、第4変形例に係る光学素子の概略断面図を示す。
図7図7は、第5変形例に係る光学素子の概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の一側面の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0023】
図1は、本実施形態に係る光学素子の概略断面図を示す。図1に示される光学素子1は、テラヘルツ帯の電磁波(以下、単に「テラヘルツ波」とする)に対して利用可能な素子(テラヘルツ波用光学素子)であり、例えばレンズ、偏光子、分光器、吸収体、各種センサ等である。光学素子1は、光学部品2と、光学部品2上に位置する反射防止膜3と、反射防止膜3の厚さ方向Tにおいて光学部品2および反射防止膜3の間に位置する接着層4とを備える。なお、本実施形態におけるテラヘルツ波は、例えば0.1THz以上10THz以下の周波数を有する電磁波あるいは光である。
【0024】
光学部品2は、反射防止膜3を透過するテラヘルツ波を受信する部材であり、本体部11と、厚さ方向Tにおいて反射防止膜3側に位置する主面12とを有する。本体部11は、テラヘルツ波を透過する部材でもよいし、テラヘルツ波を電気信号に変換する部材でもよい。光学部品2が受信したテラヘルツ波を検知するセンサである場合、本体部11には、例えば、テラヘルツ波を受信するセンサ部、当該センサ部から出力される電気信号を増幅する増幅回路、各種配線等が設けられ得る。また、本体部11には、上記センサ部等と、外部装置とを接続するための端子等が設けられ得る。主面12は、光学部品2におけるテラヘルツ波の入射面である。本体部11に上記センサ部等が設けられる場合、主面12の一部は、例えば上記センサ部、各種配線等によって構成されてもよい。
【0025】
本実施形態では、本体部11は、テラヘルツ波を透過する部材である。具体的には、本体部11は、テラヘルツ波に対して優れた透過性を示す単結晶のシリコン基板であり、主面12は当該シリコン基板の一表面(シリコン表面)である。シリコン基板の少なくとも一部には不純物がドーピングされてもよい。シリコン表面は、例えば主面12の少なくとも一部がシリコンによって構成される表面である。このため本実施形態のシリコン表面は、シリコンのみで形成されず、配線等の一部として機能する金属表面、化合物半導体表面、炭素材料表面、金属酸化物表面、金属窒化物表面等を含んでもよい。
【0026】
反射防止膜3は、光学部品2の表面におけるテラヘルツ波の反射を防止若しくは抑制する単層膜である。反射防止膜3は、厚さ方向Tにおいて光学部品2に対向する第1表面3aと、第1表面3aの反対側に位置する第2表面3bとを有する。本実施形態では、第2表面3bは、光学素子1の最表面に相当する。反射防止膜3の厚さは、例えば4μm以上400μm以下である。本実施形態では、反射防止膜3の屈折率は、空気の屈折率以上(1以上)であってシリコンの屈折率以下(約3.4以下)である。反射防止膜3は、層形状を呈する有機樹脂31と、有機樹脂31内に含まれる無機粒子32とを有する。反射防止膜3における有機樹脂31と無機粒子32との割合は、特に限定されない。例えば、反射防止膜3の単位体積あたりにおいて有機樹脂31が占める体積の割合は、当該単位面積辺りにおいて無機粒子32が占める割合よりも大きくてもよいし、小さくてもよい。
【0027】
有機樹脂31は、シクロオレフィン系ポリマーのみから構成される樹脂、もしくはシクロオレフィン系ポリマーを主成分とする樹脂である。本実施形態では、有機樹脂31は、シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする樹脂であり、シクロオレフィン系ポリマー以外の高分子有機化合物、低分子有機化合物等を含有し得る。例えば、有機樹脂31は、架橋剤、重合開始剤等を含んでもよい。また、有機樹脂31は、無機粒子32以外の無機物を含有してもよい。本実施形態における「有機樹脂31の主成分」は、有機樹脂31において最も多く含有される物質に相当する。例えば、有機樹脂31において50質量%以上、60質量%以上、もしくは70質量%以上を占める物質が、有機樹脂31の主成分に相当してもよい。
【0028】
シクロオレフィン系ポリマーは、主鎖にシクロオレフィン部分を有するポリマーであり、テラヘルツ波に対して透過性を示す物質である。本実施形態では、テラヘルツ波に対して透過性を示す物質は、エポキシ系ポリマー(例えば、3,4-エポキシシクロへキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等)よりもテラヘルツ波の吸収性能が低い物質に相当する。もしくは、テラヘルツ波に対して透過性を示す物質は、テラヘルツ波の吸収性能が、3,4-エポキシシクロへキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートの10%以下である物質でもよい。
【0029】
シクロオレフィン系ポリマーとしては、例えば、シクロオレフィンモノマーの開環重合体、シクロオレフィンモノマーの付加重合体、シクロオレフィンモノマーと鎖状オレフィンとの共重合体等が挙げられる。シクロオレフィン系ポリマーは、例えば、種々のポリスチレンである。シクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、当該環構造中に炭素-炭素二重結合を有する化合物である。シクロオレフィンモノマーとしては、例えば、2-ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン等の三環体、テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、フェニルテトラシクロドデセン等の四環体、トリシクロペンタジエン等の五環体、テトラシクロペンタジエン等の七環体等のノルボルネン環を含むモノマーであるノルボルネン系モノマーが挙げられる。シクロオレフィンモノマーは、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5-シクロオクタジエン等の単環シクロオレフィンでもよい。シクロオレフィンモノマーは、有機樹脂31の作用効果が阻害されない範囲で置換基を有してもよい。当該置換基は、例えば酸素、窒素等を含む。
【0030】
シクロオレフィン系ポリマーは、例えば、日本ゼオン株式会社製のゼオネックス(登録商標)・シリーズもしくはゼオノア(登録商標)・シリーズでもよく、住友ベークライト株式会社製のスミライト(登録商標)・シリーズでもよく、JSR株式会社製のアートン(登録商標)・シリーズでもよく、三井化学株式会社製のアペル(登録商標)・シリーズでもよく、Ticona社製のTOPAS(登録商標)でもよく、日立化成株式会社製のオプトレッツ・シリーズでもよい。
【0031】
無機粒子32は、反射防止膜3の屈折率を調整するために用いられており、有機樹脂31に分散している。無機粒子32は、例えばテラヘルツ波に対する透過性を示し、且つ、有機樹脂31よりも高い屈折率を示す物質から構成される。無機粒子32は、例えばシリコン粒子、酸化チタン粒子、ダイヤモンド粒子等である。シリコン粒子は、高抵抗シリコン粒子でもよい。高抵抗シリコン粒子は、例えば1×10Ω・cm以上の抵抗値を有するシリコン粒子である。無機粒子32の平均径は、例えば5nm以上3000nm以下である。無機粒子32の平均径の上限は、200nmでもよく、20nmでもよい。また、無機粒子32の平均径の下限は、200nmでもよく、20nmでもよい。無機粒子32の平均径は、例えばレーザ回折・散乱法、動的光散乱法、光子相関法等によって測定される。
【0032】
無機粒子32が有機樹脂31に分散する濃度を調整することによって、反射防止膜3の屈折率を任意に設定できる。反射防止膜3内において、無機粒子32は、均一に分散してもよいし、不均一に分散してもよい。本実施形態では、無機粒子32は、反射防止膜3内を不均一に分散している。具体的には、反射防止膜3の単位体積あたりにおいて無機粒子32が占める体積の割合は、厚さ方向Tにおいて光学部品2に近いほど高い。このため、厚さ方向Tにおいて光学部品2に近いほど、反射防止膜3の単位体積あたりにおける無機粒子32の含有量が多くなる。反射防止膜3の単位体積あたりにおいて無機粒子32が占める体積の割合は、例えば0%より大きく、50%以下、60%以下、もしくは70%以下である。また、反射防止膜3の屈折率は、厚さ方向Tにおいて光学部品2に近いほど大きくなる。本実施形態では、反射防止膜3の屈折率は、厚さ方向Tにおいて光学部品2に近いほどシリコンの屈折率に近づいている。反射防止膜3の屈折率は、厚さ方向Tにおいて連続して変化してもよいし、段階的に変化してもよい。反射防止膜3内におけるテラヘルツ波の反射を防止する観点から、反射防止膜3の屈折率は、厚さ方向Tにおいて連続して変化してもよい。例えば、無機粒子32を分散させた有機樹脂31を硬化させずに静置することによって、反射防止膜3内における無機粒子32の偏在状態(不均一分散状態)を実現できる。
【0033】
反射防止膜3の屈折率は、例えば有効媒質近似にて導出される。例えば、反射防止膜3における所定部分の誘電率をεlayerとし、無機粒子32の誘電率をεとし、有機樹脂31の誘電率をεとし、上記所定部分の体積において無機粒子32が占める体積の割合(体積分率)をfとした場合、以下の[数1]にて表される関係が成立する。また、屈折率をnとし、誘電率をεとした場合、n=εの関係が成立する。このため、下記数式によってεlayerを導出することによって、反射防止膜3の所定部分の屈折率を算出できる。なお、有効媒質近似は、膜表面および界面の粗さ、あるいは膜の不均質性・不連続性を実効的な均質膜に置き換えて解析し、実効的な均質膜の光学定数を求める手法である。
【0034】
【数1】
【0035】
接着層4は、光学部品2の主面12と反射防止膜3とを接着するための層である。接着層4は、シクロオレフィン系ポリマーとシリコンとの両方に対する密着性を示す。接着層4の厚さは、例えば1nm以上100μm以下である。接着層4の厚さは、5nm以上又は10nm以上でもよい。また、接着層4の厚さは、30μm以下、10μm以下、1000nm以下、500nm以下、又は100nm以下でもよい。接着層4の厚さが1nm以上であることによって、反射防止膜3を主面12上に良好に固定できる。接着層4の厚さが100μm以下であることによって、テラヘルツ波が接着層4によって吸収されることを良好に抑制できる。接着層4は、光学部品2の主面12にて熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む。
【0036】
オレフィン系ポリマーは、オレフィンを主成分として含有するモノマーを重合させることによって得られるポリマーである。例えば、オレフィン由来のモノマー部分を50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、もしくは95質量%以上含有するモノマーを重合させることによって得られるポリマーが、オレフィン系ポリマーに相当する。オレフィン系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。このため、接着層4として、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等が用いられてもよい。また、オレフィン系ポリマーは、共重合体でもよい。例えば、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体等のα-オレフィンとエチレンもしくはプロピレンとの共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ヘキサジエン-スチレン共重合体、スチレン-ペンタジエン-スチレン共重合体、もしくは、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(RPDM)がオレフィン系ポリマーでもよい。また、オレフィン系ポリマーは、シクロオレフィン系ポリマーでもよい。この場合、シクロオレフィン系ポリマーとしては、有機樹脂31に用いられるポリマーの中から選択されてもよい。オレフィン系ポリマーは、複数のポリマーの混合物でもよい。熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層4と、反射防止膜3との接合性の観点から、接着層4に含まれるポリマーと、反射防止膜3に含まれると共に熱変性されていないポリマーとが同種のポリマーでもよい。
【0037】
熱変性されたオレフィン系ポリマーは、加熱によって変性したオレフィン系ポリマーであり、加熱による変性前のオレフィン系ポリマーよりもシリコンに対して密着性を示す。これは、シリコン表面上の官能基(例えば水酸基等の親水基)と、熱変性されたオレフィン系ポリマーとが互いに結合するからと推察される。すなわち、当該結合がシリコンと熱変性されたオレフィン系ポリマーとの密着性を強めると推察される。熱変性されたオレフィン系ポリマーの化学構造、数平均分子量、及び重量平均分子量の少なくともいずれかは、加熱による変性前のオレフィン系ポリマーと異なってもよい。
【0038】
オレフィン系ポリマーを熱変性するための加熱温度は、例えば160℃以上、180℃以上、200℃以上、又は240℃以上である。また、当該加熱温度は、例えば500℃以下、400℃以下、360℃以下、320℃以下、又は280℃以下である。加熱温度が低すぎる場合、上記結合が十分に形成されないことがある。一方で加熱温度が高すぎる場合、オレフィン系ポリマーが熱分解されてしまうことがある。これらの不具合を確実に防止する観点から、加熱温度は、例えば200℃以上360℃以下でもよく、240℃以上320℃以下でもよい。上記加熱は、例えば空気雰囲気下等の酸素含有雰囲気下にて実施される。上記加熱は、例えばオーブン、ホットプレート、赤外線、火炎、レーザ、又はフラッシュランプ等の加熱源を用いて実施される。なお、オレフィン系ポリマーを熱変性するための加熱に要する期間は、特に限定されないが、例えば1分以上10分以下である。当該期間は、2分でもよい。
【0039】
接着層4に含まれるオレフィン系ポリマーの熱変性の程度は、加熱温度、加熱中の酸素濃度等によって調節できる。例えば、オレフィン系ポリマーの熱変性の程度を大きくするためには、接着層4の加熱温度を高くする、及び/又は、加熱中の酸素濃度を高くすることが挙げられる。反対に、オレフィン系ポリマーの熱変性の程度を小さくするためには、接着層4の加熱温度を低くする、及び/又は、加熱中の酸素濃度を低くすることが挙げられる。
【0040】
接着層4に含まれるオレフィン系ポリマーの熱変性の程度は、例えば、接着層4を構成する熱変性されたオレフィン系ポリマーの酸素含有量を用いて評価できる。具体例としては、接着層4に含まれる酸素原子数と炭素原子数との合計に対する、当該接着層4に含まれる酸素原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))を算出することによって、接着層4に含まれるオレフィン系ポリマーの熱変性の程度を評価できる。この評価によれば、上記割合が大きいほど、オレフィン系ポリマーの熱変性の程度が大きいとみなせる。例えば、上記割合が、0.3%以上、0.5%以上、1.0%以上、2.0%以上、又は5.0%以上であって、50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、又は8%以下である場合、特にオレフィン系ポリマーの熱変性の程度を表す指標として用いることが適切である。ここで、接着層4の酸素原子及び炭素原子の含有量を評価する手法として、例えば、X線光電子分光(XPS)が挙げられる。XPS装置として、例えば「K-Alpha(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)」が用いられる。
【0041】
接着層4に含まれるオレフィン系ポリマーの熱変性の程度は、例えば、接着層4を構成する熱変性されたオレフィン系ポリマーの赤外線吸収スペクトルによっても評価できる。具体例としては、接着層4におけるC―H伸縮振動の吸収ピークの積分値に対する、接着層4におけるC=O伸縮振動の吸収ピークの積分値の割合(C=O伸縮振動の吸収ピークの積分値/C―H伸縮振動の吸収ピークの積分値(無次元数))を算出することによって、接着層4に含まれるオレフィン系ポリマーの熱変性の程度を評価できる。この評価によれば、上記割合が大きいほど、オレフィン系ポリマーの熱変性の程度が大きいとみなせる。例えば、上記割合が0.01以上、0.02以上、0.05以上、0.1以上、0.15以上、又は0.20以上であって、20以下、10以下、又は5以下である場合、特にオレフィン系ポリマーの熱変性の程度を表す指標として用いることが適切である。なお、接着層4の赤外線吸収スペクトルは、例えばフーリエ変換赤外分光光度計である「Nicolet6700(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)」を用いて測定される。
【0042】
次に、図2を参照しながら本実施形態に係る光学素子1の製造方法の一例について説明する。図2は、本実施形態に係る光学素子の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0043】
まず、主面12を有する光学部品2を準備する(ステップS1)。ステップS1では、例えば加工済もしくは未加工のシリコン基板から構成される光学部品2を準備する。主面12に水酸基等の親水基を増加させるため、主面12にオゾン処理、紫外線処理等の表面処理を実施してもよい。
【0044】
次に、光学部品2の主面12上に熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層4を形成する(ステップS2)。ステップS2では、例えば、まず主面12上にオレフィン系ポリマーを含む接着層4を形成する。続いて、接着層4に含まれるオレフィン系ポリマーを加熱により熱変性させて接着層4を形成する。例えば、接着層4が設けられた光学部品2を所定温度に加熱したホットプレート上に保持することによって、オレフィン系ポリマーを熱変性させる。これにより、主面12に対して良好に密着する接着層4を形成する。
【0045】
熱変性する前のオレフィン系ポリマーを含む接着層4は、例えば種々のコーティング法によって形成される。コーティング法を実施する場合、まず、溶媒(例えばトルエン、クロロホルム等)にオレフィン系ポリマーを溶解させた溶液を準備する。続いて、当該溶液を主面12上にコーティングする。続いて、コーティングされた溶液を乾燥する。当該乾燥においては、溶媒を除去するための温度、加熱時間、圧力、及び雰囲気等の条件が適宜設定される。例えば、空気雰囲気下、常圧下にて光学部品2を所定温度に加熱したホットプレート上に保持することによって、上記溶液を乾燥する。具体例としては、140℃以下に加熱したホットプレート上に光学部品2を所定期間保持する。当該所定期間は、特に限定されないが、例えば最大10分である。コーティング法としては、例えばスピンコート法、ロールコーター法、スプレーコーティング法、ダイコーター法、アプリケータ法、浸漬コーティング法、刷毛塗り法、ヘラ塗り法、ローラー塗り法、カーテンフローコーター法等が挙げられる。
【0046】
熱変性する前のオレフィン系ポリマーを含む接着層4は、熱圧着法(例えば、熱プレス法、溶着法、粉体塗装法等)によって形成されてもよい。熱圧着法を実施する場合、例えばバルク固体、粉体、フィルム等の対象物を光学部品2の主面12上に載置した後、当該対象物を加熱すると共に当該対象物に圧力を加える。これにより、主面12に当該対象物を溶融又は溶着させる。
【0047】
次に、接着層4上に反射防止膜3を形成することによって、接着層4を介して反射防止膜3を光学部品2の主面12に接着する(ステップS3)。ステップS3では、例えば上記コーティング法、上記熱圧着法等によって、接着層4上に反射防止膜3を形成する。例えば上記コーティング法を採用する場合、まず、無機粒子32及び有機樹脂31を含む溶液を接着層4上に塗布する。そして、ホットプレート等の加熱源を用いて当該溶液を乾燥する。これにより、無機粒子32が分散された有機樹脂31を含む反射防止膜3を形成する。例えば上記熱圧着法を採用する場合、予め形成した反射防止膜3を接着層4に貼り付ける。
【0048】
以上に説明した本実施形態に係る製造方法によって形成されたテラヘルツ波用の光学素子1によれば、反射防止膜3は、エポキシ系ポリマーよりもテラヘルツ波に対して良好な透過性を示すシクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂31を有する。反射防止膜3は、エポキシ系ポリマーを主成分とする有機樹脂を用いた場合よりも、テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す。一方、シクロオレフィン系ポリマーは、エポキシ系ポリマーよりもシリコンに対する密着性が悪い傾向にある。このため、単にシリコン表面上に対してシクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂31を有する反射防止膜3を形成した場合、反射防止膜3が良好に形成されないおそれがある。これに対して本実施形態に係る光学素子1によれば、反射防止膜3と、光学部品2のシリコン表面である主面12とは、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層4によって互いに接着されている。熱変性されたオレフィン系ポリマーは、テラヘルツ波に対する透過性を維持しつつ、シリコンに対する密着性が向上したものである。このような熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層4を用いることによって、接着層4によるテラヘルツ波の吸収を抑制しつつ、反射防止膜3を上記シリコン表面上に良好に固定できる。したがって本実施形態によれば、テラヘルツ波に対して良好な透過性を示す反射防止膜3を有する光学素子1を信頼性よく製造できる。
【0049】
本実施形態では、反射防止膜3の単位体積あたりにおいて無機粒子32が占める体積の割合は、厚さ方向Tにおいて光学部品2に近いほど高い。このため、厚さ方向Tにおいて光学部品2に近いほど反射防止膜3の屈折率を高く設定できるので、主面12におけるテラヘルツ波の反射を良好に抑制できる。
【0050】
本実施形態では、接着層4の厚さは、1nm以上100μm以下である。このため、接着層4を介して反射防止膜3を主面12上に良好に固定すると共に、接着層4によるテラヘルツ波の吸収を良好に抑制できる。
【0051】
本実施形態では、無機粒子32は、シリコン粒子、酸化チタン粒子、もしくはダイヤモンド粒子であってもよい。この場合、反射防止膜3によるテラヘルツ波の吸収を抑制しつつ、無機粒子32による反射防止膜3の屈折率の調整が可能になる。
【0052】
次に、図3図7を参照しながら、本実施形態の各変形例について説明する。各変形例の説明において、本実施形態と重複する記載は省略し、本実施形態と異なる部分を記載する。つまり、技術的に可能な範囲において、各変形例に本実施形態の記載を適宜用いてもよい。
【0053】
(第1変形例)
図3は、第1変形例に係る光学素子の概略断面図を示す。図3に示される光学素子1Aは、光学部品2、反射防止膜3、及び接着層4に加えて、反射防止膜3の第2表面3b上に位置し、複数の気泡Bを含む気泡含有層5を備える。気泡含有層5は、反射防止膜3と同様に、シクロオレフィン系ポリマーを主成分として含む層状の有機樹脂であり、気泡Bに起因した空孔が設けられている。気泡含有層5の空孔率は、例えば0%より大きく100%未満である。気泡含有層5内の気泡Bの一部は、一体化してもよい。気泡含有層5の屈折率は、空気の屈折率以上(1以上)であって、反射防止膜3の屈折率以下である。気泡Bは、気泡含有層5内に分散される空気の泡である。気泡Bの平均径は例えば100nm以上3000nm以下に設定され、このため第1変形例における気泡Bはいわゆるナノバブルと呼称できる。気泡Bは、例えば上記有機樹脂に気体を吹き込むことによって形成される。気泡含有層5内において、気泡Bは、均一に分散してもよいし、不均一に分散してもよい。なお、気泡含有層5は、無機粒子32に相当する粒子が含まれてもよい。気泡含有層5に上記粒子が含まれる場合、気泡含有層5の体積あたりにおいて無機粒子が占める体積の割合は、反射防止膜3の単位体積あたりにおいて無機粒子32が占める体積の割合よりも低い。
【0054】
以上に説明した第1変形例においても、本実施形態と同様の作用効果が奏される。また、気泡Bは空気の泡であることから、気泡Bは空気と同じ屈折率を示すナノ粒子とみなすことができる。このため、気泡含有層5の屈折率を、反射防止膜3の第2表面3bにおける屈折率よりも容易に低くできる。このため第1変形例では、光学素子1Aが気泡含有層5を備えることによって、反射防止膜3の第2表面3bにおけるテラヘルツ波の反射を良好に抑制できる。
【0055】
第1変形例では、気泡Bは気泡含有層5内を不均一に分散してもよい。具体的には、気泡含有層5の単位体積あたりにおいて気泡Bが占める体積の割合は、厚さ方向Tにおいて第2表面3bに近いほど低い。このため、気泡含有層5の屈折率は、厚さ方向Tにおいて第2表面3bから離れるほど小さくなる。これによって、気泡含有層5の表面における屈折率を空気の実効屈折率に近づけ、気泡含有層5の表面におけるテラヘルツ波の反射を良好に抑制できる。なお、気泡含有層5の屈折率は、厚さ方向Tにおいて連続して変化してもよいし、段階的に変化してもよい。気泡含有層5内におけるテラヘルツ波の反射を防止する観点から、気泡含有層5の屈折率は、厚さ方向Tにおいて連続して変化してもよい。気泡含有層5の屈折率が段階的に変化する場合、気泡含有層5は、厚さ方向Tにおいて互いに積層される複数の層を有してもよい。この場合、各層において、厚さ方向Tにおいて反射防止膜3に近い層ほど、層の単位体積あたりにおいて気泡Bが占める体積の割合が低い。
【0056】
(第2変形例)
図4(a)は、第2変形例に係る光学素子の概略断面図を示し、図4(b)は、第2変形例に係る光学素子の表面の一例を示す。図4(a),(b)に示される光学素子1Bの反射防止膜3Aにおける第2表面3bは、凹凸形状を呈している。第2変形例では、第2表面3bが第1表面3aよりも粗い場合、第2表面3bは凹凸形状を呈しているとしてもよい。もしくは、第2表面3bに対して凹凸を設けるための工程(例えば、ナノインプリント、エッチングなど)を実施した場合、第2表面3bは凹凸形状を呈しているとしてもよい。具体的には、反射防止膜3Aには、第2表面3bの面方向に沿って連続する複数の凸部33が設けられている。各凸部33は、略四角錐形状を呈する。各凸部33の頂点を含む断面は、三角形状を呈する。各凸部33は、例えばナノインプリント等によって形成される。
【0057】
以上に説明した第2変形例においても、本実施形態と同様の作用効果が奏される。また、反射防止膜3Aの第2表面3bがいわゆるモスアイ構造を呈することから、第2表面3bにおけるテラヘルツ波の反射を良好に抑制できる。
【0058】
(第3変形例)
図5は、第3変形例に係る光学素子の概略断面図を示す。図5に示される光学素子1Cの反射防止膜3Bは、厚さ方向Tにおいて互いに積層される層51~55を有する。第3変形例では、層51が厚さ方向Tにおいて光学部品2に最も近く、層55が厚さ方向Tにおいて光学部品2から最も離れている。層51~55のそれぞれは、シクロオレフィン系ポリマーを主成分として含む有機樹脂と、当該有機樹脂に分散された無機粒子32とを有する。すなわち、層51~55のそれぞれは、層形状を呈する有機樹脂31と、無機粒子32とを含む。
【0059】
層51~55のそれぞれにおいて、厚さ方向Tにおいて光学部品2に近い層ほど、層の単位体積あたりにおいて無機粒子32が占める体積の割合が高い。このため、層51の無機粒子32の含有量が最も多くなり、層55の無機粒子32の含有量が最も少ない。換言すると、厚さ方向Tにおいて光学部品2に近い層ほど屈折率が高い。隣り合う層同士の屈折率の差は、小さいほどよい。隣り合う層同士の屈折率の差が小さいほど、隣り合う層同士の界面におけるテラヘルツ波の反射が抑制され、テラヘルツ波が反射防止膜3B内を良好に透過できる。層51~55の厚さは、互いに同一でもよいし、互いに異なってもよい。もしくは、層51~55のうち一部の層の厚さが、他の層と異なってもよい。反射防止膜3Bは、例えば無機粒子32の含有量が調整された層51~55を形成した後、層51~55を順に積層することによって形成される。もしくは、接着層4上に層51~55を構成する樹脂を順に塗布することによって、反射防止膜3Bを形成してもよい。
【0060】
以上に説明した第3変形例においても、本実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて、層51~55毎に無機粒子32が占める体積の割合を設定できる。したがって、厚さ方向Tにおける反射防止膜3Cの屈折率を、容易かつ確実に段階的に変化できる。
【0061】
(第4変形例)
図6は、第4変形例に係る光学素子の概略断面図を示す。図6に示される光学素子1Dは、上記第3変形例にて示された光学素子1Cに対して、上記第1変形例にて示された気泡含有層5を加えたものである。このような第4変形例においては、上記第1変形例と上記第3変形例とを合わせた作用効果が奏される。
【0062】
(第5変形例)
図7は、第5変形例に係る光学素子の概略断面図を示す。図7に示される光学素子1Eの反射防止膜3Cの第2表面3bは、上記第2変形例と同様に凹凸形状を呈している。このため、反射防止膜3Cに含まれ、且つ、厚さ方向Tにおいて光学部品2から最も離れた層55Aは、第2表面3bの面方向に沿って連続する複数の凸部56を有する。各凸部56は、略四角錐形状を呈する。各凸部56の頂点を含む断面は、三角形状を呈する。各凸部56は、例えばナノインプリント等によって形成される。
【0063】
以上に説明した第5変形例においても、上記第3変形例と同様の作用効果が奏される。加えて、反射防止膜3Cの第2表面3bがいわゆるモスアイ構造を呈することから、上記第2変形例と同様の作用効果も合わせて奏される。
【0064】
以上、本発明の一側面を上記実施形態及び上記変形例に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明の一側面は上記実施形態及び上記変形例に限定されるものではない。本発明の一側面は、その要旨を逸脱しない範囲でさらなる変形が可能である。また、上記実施形態及び上記変形例を適宜組み合わせてもよい。例えば、上記第1及び第2変形例を組み合わせ、気泡含有層の表面が凹凸形状を呈してもよい。この場合、気泡含有層の表面におけるテラヘルツ波の反射を良好に抑制できる。
【0065】
例えば、上記実施形態、並びに上記第1及び第2変形例では、無機粒子は反射防止膜内にて不均一に分散しているが、これに限られない。無機粒子は反射防止膜内にて均一に分散してもよい。この場合、反射防止膜は単層の反射防止コーティング膜として機能する。ここで、反射防止膜の屈折率をnflatとし、反射防止膜の厚さをdとし、最大の透過率を示す波長をλとすると、以下の[数2]にて表される関係が成立する。なお、[数2]におけるmは整数である。加えて、光学部品がシリコン基板であり、この屈折率をnsiとし、反射防止膜が上記波長のテラヘルツ波を吸収しないと仮定する。この仮定条件下にて以下の[数3]を満たす場合、反射防止膜は、上記波長のテラヘルツ波に対して100%の透過率を示すことができる。したがって、無機粒子は反射防止膜内にて均一に分散する場合、以下の[数3]を満たすように無機粒子の含有量を調整してもよい。
【0066】
【数2】
【0067】
【数3】
【0068】
上記実施形態及び上記変形例では、接着層は単層構造を備えているが、これに限られない。接着層は、多層構造を備えてもよい。例えば、接着層は、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む第1層と、当該第1層上に形成される第2層とを有する。第2層は、第1層と反射防止膜とに対して良好な接着性を示す層であり、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む。このため、シリコンに対する第2層の密着性は、シリコンに対する第1層の密着性よりも小さい。一方、反射防止膜に対する第2層の密着性は、反射防止膜に対する第1層の密着性よりも大きい。第2層が上記密着性を示すため、第2層に含まれるオレフィン系ポリマーにおける熱変性の程度は、第1層に含まれるオレフィン系ポリマーにおける熱変性の程度よりも小さい。この熱変性の程度は、加熱温度、時間、周囲雰囲気等によって調整される。例えば、第1層に対する加熱温度を240℃以上320℃以下とし、第2層に対する加熱温度を160℃以上240℃未満、もしくは320℃より大きく500℃以下とする。また、接着層は、上記第1層及び第2層に加えて第3層を有してもよい。この場合、シリコンに対する密着性は、第1層が最も大きい。一方、反射防止膜に対する密着性は、第3層が最も大きい。例えば、第1層に対する加熱温度を280℃以上320℃以下とし、第2層に対する加熱温度を220℃以上280℃未満とし、第3層に対する加熱温度を160℃以上220℃未満、もしくは320℃より大きく500℃以下とする。なお、接着層が第1層及び第2層を備える場合、反射防止膜は、第1層及び第2層の両方に接してもよい。また、接着層が第1層、第2層、及び第3層を備える場合、反射防止膜は、第1層、第2層、及び第3層の全てに接してもよいし、第2層及び第3層に接してもよい。
【0069】
接着層が多層構造を備える場合、各接着層に含まれるオレフィン系ポリマーの熱変性の程度は、上述した酸素含有量の割合、赤外線吸収スペクトル等によって評価されてもよい。例えば、酸素含有量に基づく評価の場合、上記第1層に含まれるオレフィン系ポリマーの熱変性の程度と、上記第2層に含まれるオレフィン系ポリマーの熱変性の程度との差は、上記第1層に含まれる酸素原子数と炭素原子数との合計に対する第1層の酸素原子数の割合と、上記第2層に含まれる酸素原子数と炭素原子数との合計に対する第2層の酸素原子数の割合との差異によって示される。この差異は、例えば0.1%以上、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上、0.5%以上、0.8%以上、1.0%以上、2.0%以上、又は3.0%以上である。上記差異は、例えば10.0%以下、7.0%以下、5.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.5%以下、0.3%以下、又は0.1%以下である。上記差異は、0.1%以上10.0%以下でもよい。
【0070】
もしくは、赤外線吸収スペクトルに基づく評価の場合、上記第1層に含まれるオレフィン系ポリマーの熱変性の程度と、上記第2層に含まれるオレフィン系ポリマーの熱変性の程度との差は、上記第1層におけるC―H伸縮振動の吸収ピークの積分値に対するC=O伸縮振動の吸収ピークの積分値の割合と、上記第2層におけるC―H伸縮振動の吸収ピークの積分値に対するC=O伸縮振動の吸収ピークの積分値の割合との差異によって示される。この差異は、例えば0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.8以上、1.0以上、2.0以上、又は3.0以上である。上記差異は、例えば10.0以下、7.0以下、5.0以下、3.0以下、2.0以下、1.0以下、0.5以下、0.3以下、又は0.1以下でもよい。上記差異は、0.1以上20.0以下でもよい。
【0071】
上記第2変形例及び上記第4変形例では、各凸部は略四角錐形状を呈しているが、これに限られない。例えば、各凸部は、多角錐形状を呈してもよいし、円錐形状を呈してもよい。また、各凸部は、半球形状を呈してもよいし、多角柱形状を呈してもよい。このため、各凸部は、断面多角形状を呈してもよいし、断面楕円形状を呈してもよいし、断面半円形状を呈してもよい。複数の凸部は第2表面の面方向に沿って連続しているが、これに限られない。隣り合う凸部同士は、互いに離間してもよい。すなわち、第2表面は、凸部が設けられる領域と、凸部が設けられない平坦領域との両方を有してもよい。各凸部は、頂面を有してもよい。すなわち、各凸部は、円錐台形状を呈してもよいし、多角錐台形状を呈してもよい。
【0072】
上記第3~第5変形例において、反射防止膜は5つの層を有しているが、これに限られない。反射防止膜は、2つ以上の層を有していればよい。同様に、気泡含有層に含まれる層の数は限定されない。
【0073】
上記実施形態及び上記変形例において、シリコン基板は、シリコンウェハに限られず、SOI基板等でもよい。SOI基板等が用いられる場合、本体部はシリコン基板であり、主面は絶縁層を介してシリコン基板上に設けられるシリコン層の表面であってもよい。すなわち、光学部品の主面は、本体部の構成要素とは異なる構成要素の表面であってもよい。
【0074】
上記実施形態及び上記変形例において、光学部品の本体部は単結晶のシリコン基板であり、光学部品の表面はシリコン表面であるが、これに限られない。例えば、本体部は、ゲルマニウム、ダイヤモンド、テルル化亜鉛(ZnTe)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、DAST(4-dimethylamino-N-methyl-4-stilbazolium tosylate)等でもよい。この場合、光学部品の表面は、シリコン表面ではなく、ゲルマニウム表面、ダイヤモンド表面等でもよい。すなわち、光学部品の表面は、シリコン表面に限られず、他の無機物から構成される表面でもよいし、有機物から構成される表面でもよいし、無機物と有機物との混合表面でもよい。このような場合であっても、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層を用いることによって、上記実施形態及び上記変形例と同様の作用効果が奏される。
【0075】
上記実施形態及び上記変形例において、反射防止膜は熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層に直接接合しているが、これに限られない。例えば、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む接着層と、反射防止膜との間には、熱変性されていないポリマーを含む有機層が設けられ、反射防止膜は当該有機層を介して上記接着層に接合されてもよい。当該有機層は、例えば反射防止膜の一部でもよい。熱変性されていないポリマーは、例えばオレフィン系ポリマーである。本発明は、例えば以下の形態に関するものであってよい。
[A1]
シリコン表面を有する光学部品と、
シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂、及び当該有機樹脂に分散される無機粒子を有する反射防止膜と、
前記反射防止膜の厚さ方向において前記光学部品および前記反射防止膜の間に位置し、前記光学部品の前記シリコン表面および前記反射防止膜を接着する接着層と、
を備え、
前記接着層は、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む、
テラヘルツ波用光学素子。
[A2]
光学部品と、
シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂、及び当該有機樹脂に分散される無機粒子を有する反射防止膜と、
前記反射防止膜の厚さ方向において前記光学部品および前記反射防止膜の間に位置し、前記光学部品の表面および前記反射防止膜を接着する接着層と、
を備え、
前記接着層は、熱変性されたオレフィン系ポリマーを含む、
テラヘルツ波用光学素子。
[A3]
前記反射防止膜の単位体積あたりにおいて前記無機粒子が占める体積の割合は、前記厚さ方向において前記光学部品に近いほど高い、[A1]又は[A2]に記載のテラヘルツ波用光学素子。
[A4]
前記反射防止膜は、前記厚さ方向において互いに積層される複数の層を有し、
前記複数の層のそれぞれは、前記シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする前記有機樹脂、及び当該有機樹脂に分散される前記無機粒子を含み、
前記層の単位体積あたりにおいて前記無機粒子が占める体積の割合は、前記厚さ方向において前記光学部品に近い前記層ほど高い、[A3]に記載のテラヘルツ波用光学素子。
[A5]
前記反射防止膜は、前記厚さ方向において前記光学部品に対向する第1表面と、前記第1表面の反対側に位置する第2表面とを有し、
前記第2表面上に位置し、複数の気泡を含む気泡含有層をさらに備える、[A1]~[A4]のいずれかに記載のテラヘルツ波用光学素子。
[A6]
前記気泡含有層の表面は、凹凸形状を呈する、[A5]に記載のテラヘルツ波用光学素子。
[A7]
前記反射防止膜は、前記厚さ方向において前記光学部品に対向する第1表面と、前記第1表面の反対側に位置する第2表面とを有し、
前記第2表面は、凹凸形状を呈する、[A1]~[A4]のいずれかに記載のテラヘルツ波用光学素子。
[A8]
前記接着層の厚さは、1nm以上100μm以下である、[A1]~[A7]のいずれかに記載のテラヘルツ波用光学素子。
[A4]
前記無機粒子は、シリコン粒子、酸化チタン粒子、もしくはダイヤモンド粒子である、[A1]~[A9]のいずれかに記載のテラヘルツ波用光学素子。
[A10]
シリコン表面を有する光学部品を準備する工程と、
前記光学部品の前記シリコン表面にオレフィン系ポリマーを含む接着層を形成する工程と、
前記接着層に含まれる前記オレフィン系ポリマーを加熱により熱変性させ、前記接着層を前記シリコン表面に密着させる工程と、
熱変性された前記オレフィン系ポリマーを含む前記接着層を介して、シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂、及び当該有機樹脂に分散される無機粒子を有する反射防止膜を、前記光学部品に接着する工程と、
を備える、テラヘルツ波用光学素子の製造方法。
[A11]
光学部品を準備する工程と、
前記光学部品の表面にオレフィン系ポリマーを含む接着層を形成する工程と、
前記接着層に含まれる前記オレフィン系ポリマーを加熱により熱変性させ、前記接着層を前記表面に密着させる工程と、
熱変性された前記オレフィン系ポリマーを含む前記接着層を介して、シクロオレフィン系ポリマーを主成分とする有機樹脂、及び当該有機樹脂に分散される無機粒子を有する反射防止膜を、前記光学部品に接着する工程と、
を備える、テラヘルツ波用光学素子の製造方法。
【実施例0076】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
まず、7質量%のシクロオレフィンポリマー(JSR株式会社製、アートン(登録商標))と93質量%のクロロホルムとを、室温において混合及び撹拌することによって、溶液を得た。続いて、シリコン基板上に、上記溶液をスピンコートした。当該スピンコートでは、2000rpmの回転速度にて20秒間、溶液が滴下されたシリコン基板を回転させた。続いて、上記溶液がコーティングされたシリコン基板を120℃に加熱したホットプレート上に保持した。これにより上記溶液を乾燥させ、シリコン基板の表面上にオレフィン系ポリマーを含む接着層(第1接着層)を形成した。続いて、接着層が形成された基板を280℃に加熱したホットプレート上に1分間保持した。これにより、熱変性された接着層が設けられたシリコン基板を得た。接着層の厚さは23nmであった。
【0078】
続いて、熱変性された接着層上に、上記溶液をスピンコートした。当該スピンコートでは、2000rpmの回転速度にて20秒間、上記溶液が滴下されたシリコン基板を回転させた。続いて、接着層上に上記溶液がコーティングされたシリコン基板を、140℃に加熱したホットプレート上に10分間にわたって保持した。これにより、上記溶液を乾燥させ、接着層上にオレフィン系ポリマーを含む有機樹脂層を形成した。有機樹脂層の厚さは23nmであった。
【0079】
(実施例2)
実施例1と異なり、接着層を2層構造とした。具体的には、上記第1接着層を形成した後、上記溶液をスピンコートした。当該スピンコートでは、2000rpmの回転速度にて20秒間、溶液が滴下されたシリコン基板を回転させた。続いて、第1接着層上に上記溶液がコーティングされたシリコン基板を120℃に加熱したホットプレート上に保持した。これにより上記溶液を乾燥させ、第1接着層上にオレフィン系ポリマーを含む第2接着層を形成した。続いて、第2接着層が形成された基板を200℃に加熱したホットプレート上に1分間保持した。これにより、熱変性された第1及び第2接着層が設けられたシリコン基板を得た。第2接着層の厚さは23nmであった。そして実施例2では、第2接着層上に上記有機樹脂層を形成した。
【0080】
(実施例3)
実施例1,2と異なり、接着層を3層構造とした。具体的には、まず、上記第1接着層及び上記第2接着層を形成した。実施例3では、実施例2とは異なる温度にて第1及び第2接着層を形成した。具体的には、実施例3では、第1接着層を熱変性するときの温度を300℃に設定し、第2接着層を熱変性するときの温度を280℃に設定した。続いて、上記溶液をスピンコートした。当該スピンコートでは、2000rpmの回転速度にて20秒間、溶液が滴下されたシリコン基板を回転させた。続いて、第2接着層上に上記溶液がコーティングされたシリコン基板を120℃に加熱したホットプレート上に保持した。これにより上記溶液を乾燥させ、第2接着層上にオレフィン系ポリマーを含む第3接着層を形成した。続いて、第3接着層が形成された基板を200℃に加熱したホットプレート上に1分間保持した。これにより、熱変性された第1~第3接着層が設けられたシリコン基板を得た。第3接着層の厚さは23nmであった。そして実施例3では、第3接着層上に上記有機樹脂層を形成した。
【0081】
(実施例4)
実施例1~3と異なり、接着層として予め形成されたフィルムを用いた。具体的には、まず、シリコン基板上に厚さ30μmのポリエチレンフィルムを配置した。続いて、120℃にてシリコン基板を1分間加熱した。これにより、オレフィン系ポリマーを含む第1接着層が設けられたシリコン基板を得た。続いて、シリコン基板を280℃に加熱したホットプレート上に1分間保持した。これにより、熱変性された第1接着層が設けられたシリコン基板を得た。続いて、熱変性された第1接着層上に厚さ30μmのポリエチレンフィルムを配置した。続いて、120℃にてシリコン基板を1分間加熱した。これにより、オレフィン系ポリマーを含む第2接着層を、熱変性された第1接着層上に形成した。続いて、シリコン基板を200℃に加熱したホットプレート上に2分間保持した。これにより、熱変性された第1及び第2接着層が設けられたシリコン基板を得た。
【0082】
続いて、熱変性された第2接着層上に、厚さ30μmのポリエチレンフィルムを配置した。続いて、120℃にて1分間シリコン基板を加熱した。そして、140℃にてシリコン基板を10分間加熱した。これにより、第2接着層上にオレフィン系ポリマーを含む有機樹脂層を形成した。
【0083】
(比較例1)
実施例1~3と異なり、第1接着層及び第2接着層を形成することなく、上記溶液を用いてシリコン基板上にオレフィン系ポリマーを含む有機樹脂層を形成した。有機樹脂層は、シリコン基板の表面に直接接している。
【0084】
(比較例2)
実施例4と異なり、第1接着層及び第2接着層を形成することなく、ポリエチレンフィルムをシリコン基板上に配置した。そして、120℃にて1分間シリコン基板を加熱した後、140℃にてシリコン基板を10分間加熱した。これにより、比較例1と同様に、シリコン基板に直接接するオレフィン系ポリマーを含む有機樹脂層を形成した。
【0085】
(クロスカット試験)
カッターナイフを用いて、シリコン基板上に形成した有機層(各接着層及び有機樹脂層)に対して、1mm間隔でシリコン基板に到達する切れ目を設けた。6本の切れ目を設けた後、当該切れ目に直交する6本の切れ目を上記有機層に設けた。これにより、格子状の切れ目を上記有機層に設けた。次に、スコッチ(登録商標)・メンディングテープ810(3Mcompony製、幅24mm、長さ50m)を、上記有機層の表面に貼り付け、当該テープを指で上記有機層にこすった。そして、当該テープを引きはがした。このようにしてテープの貼り付け及び剥離を行った領域を、実体顕微鏡にて観察した。
【0086】
上記クロスカット試験の評価結果は、下記のように分類した。
A:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれが認められなかった。
B:有機層の一部に剥離が生じたが、クロスカット部で影響を受けたのは、35%未満であった。
C:有機層の全面に剥離が生じ、クロスカット部で影響を受けたのは、35%以上であった。
【0087】
実施例1,4におけるクロスカット試験の評価結果がBであり、実施例2,3の評価結果はAだった。一方、比較例1,2の評価結果はCだった。これらの結果から、熱変性された接着層が設けられることによって、シリコン基板とオレフィン系ポリマーを含む有機樹脂層との接合が強固になることがわかる。
【0088】
(参照例1~6)
実施例1と同様に、熱変性された接着層が設けられたシリコン基板を形成した。参照例1~6では、20質量%のシクロオレフィンポリマー(JSR株式会社製、アートン(登録商標))と80質量%のクロロホルムとを、室温において混合及び撹拌することによって得た溶液を用いた。また、参照例1~6では、異なる温度に設定したホットプレート上に上記溶液がコーティングされたシリコン基板を1分間保持した。参照例1~6におけるホットプレートの温度は、以下の表1に示される通りである。
【0089】
(XPSによる元素分析)
参照例2~5のそれぞれに対して「K-Alpha」(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて、接着層に含まれる酸素原子数と炭素原子数との合計に対する、当該接着層に含まれる酸素原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))を求めた。これらの評価結果は、以下の表1に示される通りである。
【0090】
(赤外吸収スペクトル測定)
参照例1~6のそれぞれに対して「Nicolet6700」(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて、接着層の赤外吸収スペクトルを測定した。そして、2947cm-1にて示されるC-H伸縮振動の吸収ピークの積分値に対する、1732cm-1にて示されるC=O伸縮振動の吸収ピークの積分値の割合(C=O伸縮振動の吸収ピークの積分値/C―H伸縮振動の吸収ピークの積分値(無次元数))を求めた。これらの評価結果は、以下の表1に示される通りである。
【0091】
【表1】
【0092】
上記表1に示される通り、ホットプレートの温度が下がるほど、接着層に含まれる酸素原子数と炭素原子数との合計に対する、当該接着層に含まれる酸素原子数の割合が小さくなっている。また、ホットプレートの温度が下がるほど、C-H伸縮振動の吸収ピークの積分値に対するC=O伸縮振動の吸収ピークの積分値の割合も小さくなっている。これらの結果から、接着層に含まれる酸素原子数と炭素原子数との合計に対する当該接着層に含まれる酸素原子数の割合、並びに、C-H伸縮振動の吸収ピークの積分値に対するC=O伸縮振動の吸収ピークの積分値の割合のそれぞれは、接着層に含まれるオレフィン系ポリマーの熱変性の程度の指標として利用可能と理解される。
【符号の説明】
【0093】
1,1A~1E…光学素子(テラヘルツ波用光学素子)、2…光学部品、3,3A~3C…反射防止膜、3a…第1表面、3b…第2表面、4…接着層、5…気泡含有層、11…本体部、12…主面、31…有機樹脂、32…無機粒子、33,56…凸部、51~55,55A…層、B…気泡。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7