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特開2024-154523トレンチゲートタイプのIGBTおよびその駆動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154523
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】トレンチゲートタイプのIGBTおよびその駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20241024BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H01L29/78 655A
H01L29/78 654Z
H01L29/78 653A
H01L29/78 652M
H01L29/78 655B
H01L29/78 652Q
H01L29/78 655F
H01L29/78 655G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068361
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】520366927
【氏名又は名称】ウィル セミコンダクター (シャンハイ) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】新井 寛己
(57)【要約】
【課題】高周波使用、低周波使用という使用条件に応じて、損失を低減する。
【解決手段】半導体基板の表面から裏面側に向けて伸び、電圧が印加されることで周辺に形成されたチャネル領域に電流を流すゲートトレンチ120Gと、半導体基板の表面から裏面側に向けて伸び、周辺にチャネル領域が形成されていないスイッチトレンチ120SWと、スイッチトレンチ120SWの電圧を外部から制御するための設定端子と、を含み、設定端子へ印加する電圧によって、オン時の電圧降下が比較的小さくターンオフ時のエネルギー損失が比較的大きい第1状態とするか、またはオン時の電圧降下が比較的大きくターンオフ時のエネルギー損失が比較的小さい第2状態とするかを切り換えることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板の表面から裏面側に向けて伸び、電圧が印加されることで周辺に形成されたチャネル領域に電流を流すゲートトレンチと、
前記半導体基板の表面から裏面側に向けて伸び、周辺にチャネル領域が形成されていないスイッチトレンチと、
前記スイッチトレンチの電圧を外部から制御するための設定端子と、
を含み、
前記設定端子へ印加する電圧によって、オン時の電圧降下が比較的小さくターンオフ時のエネルギー損失が比較的大きい第1状態とするか、またはオン時の電圧降下が比較的大きくターンオフ時のエネルギー損失が比較的小さい第2状態とするかを切り換えることができる、
トレンチゲートタイプIGBT。
【請求項2】
請求項1に記載のトレンチゲートタイプIGBTであって、
オンオフ周波数が低い時に、前記第1状態を採用し、オンオフ周波数が高い時に前記第2状態を採用する、
トレンチゲートタイプIGBT。
【請求項3】
請求項2に記載のトレンチゲートタイプIGBTであって、
前記設定端子に印加する電圧は、連続的に変更可能である、
トレンチゲートタイプIGBT。
【請求項4】
半導体基板と、
前記半導体基板の表面上に形成されたエミッタ電極と、
前記半導体基板の裏面上に形成されたコレクタパッドと、
前記コレクタパッドの上の前記半導体基板の裏面側に形成されたPタイプのPコレクタ層と、
前記半導体基板中の前記Pコレクタ層の上に位置するNタイプのNドリフト層と、
前記Nドリフト層の上に形成され、前記Nドリフト層より不純物濃度が高いNタイプのキャリアストア層と、
前記半導体基板の前記キャリアストア層の表面側に形成されたPタイプのPボディー層と、
前記半導体基板の表面側からメサセクションを介在させて離散的に形成され、裏面側に向けて前記Nドリフト層まで伸びる複数のトレンチであって、内部に絶縁膜を介し形成されたゲート領域を有する複数のゲートトレンチと、
前記半導体基板の表面側からメサセクションを介在させて離散的に形成された、裏面側に向けて前記Nドリフト層まで伸びるトレンチであって、内部に絶縁膜を介し形成され、外部から電圧が設定できる設定端子に接続されたスイッチトレンチと、
前記ゲートトレンチに隣接する前記メサセクションであって、前記Pボディー層の表面側に形成され、前記エミッタ電極と接続されるエミッタ領域と、
前記メサセクションの前記Pボディー層であって、コンタクトにより前記エミッタ電極に接続されるとともに、表面側に前記エミッタ領域が形成されていることでチャネルとして機能する第1メサ領域と、
前記メサセクションの前記Pボディー層であって、コンタクトにより前記エミッタ電極に接続されるとともに、表面側に前記エミッタ領域が形成されていないことでチャネルとして機能しない第2メサ領域と、
を含み、
前記スイッチトレンチの周囲には、前記第2メサ領域が位置している、
トレンチゲートタイプIGBT。
【請求項5】
請求項4に記載のトレンチゲートタイプIGBTであって、
オンオフ周波数が低い時に、前記第1状態を採用し、オンオフ周波数が高い時に前記第2状態を採用する、
トレンチゲートタイプIGBT。
【請求項6】
請求項5に記載のトレンチゲートタイプIGBTであって、
前記設定端子に印加する電圧は、連続的に変更可能である、
トレンチゲートタイプIGBT。
【請求項7】
半導体基板と、
前記半導体基板の表面から裏面側に向けて伸び、電圧が印加されることで周辺に形成されたチャネル領域に電流を流すゲートトレンチと、
前記半導体基板の表面から裏面側に向けて伸び、周辺にチャネル領域が形成されていないスイッチトレンチと、
前記スイッチトレンチの電圧を外部から制御するための設定端子と、
を含む、トレンチゲートタイプIGBTの駆動方法であって、
オンオフ周波数が低い時に、オン時の電圧降下が比較的小さくターンオフ時のエネルギー損失が比較的大きい第1状態とし、
オンオフ周波数が高い時に、またはオン時の電圧降下が比較的大きくターンオフ時のエネルギー損失が比較的小さい第2状態とする、
トレンチゲートタイプIGBTの駆動方法。
【請求項8】
請求項7に記載のトレンチゲートタイプIGBTの駆動方法であって、
オンオフ周波数が低い時に、前記第1状態を採用し、オンオフ周波数が高い時に前記第2状態を採用する、
トレンチゲートタイプIGBTの駆動方法。
【請求項9】
請求項8に記載のトレンチゲートタイプIGBTの駆動方法であって、
前記設定端子に印加する電圧は、連続的に変更可能である、
トレンチゲートタイプIGBTの駆動方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来、大電力のモータを駆動する回路のスイッチング素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が広く利用されている。
【0002】
例えば、特許文献1には、トレンチゲートタイプのIGBTにおいて、IGBTのチャネルの下側にホールを蓄積するキャリアストア(CS:Carrier Store)層を設けることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-347289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、キャリアストア層を設けると、IGBTのオン時の電圧降下(コレクタ・エミッタ間電圧VCE)を低減することができる。すなわち、IGBTのオン抵抗による電圧降下を低減して、オン時のエネルギーロスを小さくできる。しかしながら、IGBTのターンオフ(オンからオフへの切り替え)時には、残留するホールの影響で、ターンオフに要する時間が長くなって、エネルギー消費(スイッチング損失)が大きくなる。
このようにIGBTの導通損失とスイッチング損失はトレードオフの関係にあり、IGBTを作る際の構造及びキャリアストア層濃度で決まり、ユーザ側でこのトレードオフをコントロールすることが不可能であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係るトレンチゲートタイプIGBTは、
半導体基板と、
前記半導体基板の表面から裏面側に向けて伸び、電圧が印加されることで周辺に形成されたチャネル領域に電流を流すゲートトレンチと、
前記半導体基板の表面から裏面側に向けて伸び、周辺にチャネル領域が形成されていないスイッチトレンチと、
前記スイッチトレンチの電圧を外部から制御するための設定端子と、
を含み、
前記設定端子へ印加する電圧によって、オン時の電圧降下が比較的小さくターンオフ時のエネルギー損失が比較的大きい第1状態とするか、またはオン時の電圧降下が比較的大きくターンオフ時のエネルギー損失が比較的小さい第2状態とするかを切り換えることができる。
【発明の効果】
【0006】
本開示に係るトレンチゲートタイプIGBTによれば、スイッチトレンチの電圧を設定することで、使用条件(オンオフが高周波数または低周波数か)に応じて、スイッチング損失を低減するか、オン時の電圧降下を低減するかを選択できる。従って、使用条件に応じて損失を低減したトレンチゲートタイプIGBTを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係るトレンチゲートタイプIGBTの構成を模式的に示す断面図である。
図2】スイッチトレンチ120SWについて、0Vまたは-15Vに設定した場合における、IGBTのターンオフ直後のスイッチトレンチ120SWの周辺のホール密度の深さ方向の変化を示したものである。
図3】スイッチトレンチ120SWについて、SW=0Vまたは-15Vに設定した場合における、ターンオフ時のVCE、ICEの変化を示す図である。
図4】スイッチングの周波数を30kHz、10kHz、3kHzの場合におけるスイッチング損失および導通損失の状態を示す図である。
図5】SWの電圧に応じた、Eoff、VCE(飽和)の関係を示すグラフである。
図6】IGBTのメタル層(単層)の一例を示す平面図である。この例では、IGBTは、正方形の平面形状を有する。
図7A図6におけるA部の拡大模式図である。
図7B図7AのA-A’断面図である。
図7C図7AのB-B’断面図である。
図8】IGBTのメタル層(単層)の他の例を示す平面図である。
図9図8のB部の拡大図である。
図10】IGBTのメタル層(2層)の一例を示す平面図である。
図11A図8のB部の拡大図である。
図11B図11AにおけるA-A’断面である。
図12】実施形態に係るIGBTの製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態について以下に説明する。なお、以下の実施形態は本開示を限定するものではなく、また複数の例示を選択的に組み合わせてなる構成も本開示に含まれる。
【0009】
「IGBTの構成」
図1は、実施形態に係るトレンチゲートタイプIGBTの構成を模式的に示す断面図である。
【0010】
半導体基板100の表面上には、層間絶縁膜102が形成される。この層間絶縁膜102上には、メタルの配線層が設けられ、必要な電気的接続が行われる。図1においては、エミッタパッド104を示している。
【0011】
半導体基板100には、例えばFZ(Floating Zone)ウェハなどのシリコン(Si)ウェハが用いられるが、炭化ケイ素(SiC)のウェハなどでもよい。層間絶縁膜102は、酸化シリコンなどの絶縁性の材料が用いられる。メタル配線には、通常アルミなどの金属材料が用いられる。
【0012】
半導体基板100の裏面上には、コレクタパッド106が形成される。コレクタパッド106には、通常アルミなどの金属材料が用いられる。
【0013】
コレクタパッド106の上側の半導体基板の裏面部には、不純物濃度の高い、P+のPコレクタ層110が形成され、その上には後述するNドリフト層114より不純物濃度が高い、N+のフィールドストップ層112が形成される。これらは半導体基板100内のNタイプ、Pタイプの領域は、それぞれのタイプの不純物ドープによって形成される。Pコレクタ層110は、コレクタ領域として機能し、フィールドストップ層112は、オフ時の空乏層の拡大を防止する。
【0014】
フィールドストップ層112の上には、Nタイプの半導体基板100で構成されるNドリフト層114が位置する。このNドリフト層114は、半導体基板100のボディーであり、IGBTのPNPバイポーラトランジスタのベースとしての機能を有する。
【0015】
前記Nドリフト層114の上には、Nドリフト層114よりは不純物濃度が高いN+のキャリアストア層116が設けられている。このキャリアストア層116は、ホールを蓄積することでオン抵抗を下げ、オン時の電圧降下であるVCEを下げる機能がある。
【0016】
キャリアストア層116の上には、比較的不純物濃度の低い、P-のPボディー層118が設けられる。このPボディー層118は、PNPバイポーラトランジスタのエミッタとして機能する。
【0017】
また、半導体基板100の表面から下方に向けて複数のトレンチ120が形成されている。トレンチ120は、半導体基板100の表面(層間絶縁膜102の下側)から下方に向けて伸び、Pボディー層118、キャリアストア層116を貫通して、Nドリフト層114にまで至る。
【0018】
トレンチ120は、周壁が例えば酸化シリコンからなる絶縁膜で周囲から絶縁されており、内部には導電材、例えばポリシリコンなどが充填されている。この例では、内部がゲート電極(図示せず)と接続され、ゲート領域を形成するゲートトレンチ120G、スイッチ140に接続されるスイッチトレンチ120SWとを含む。図1では、スイッチトレンチ120SWとスイッチ140を接続する配線を模式的に示してある。この例では、スイッチSWは、切り替えスイッチであり、0Vまたは-15Vのいずれかに接続される。例えば、半導体基板100の表面にスイッチ140用の端子を設け、ここに外部から0Vまたは-15Vを切り替えて供給できるようにすればよい。
【0019】
また、Pボディー層118の表面側であって、ゲートトレンチ120Gに隣接するエリアには、不純物濃度の高い、N+のエミッタ領域122が形成される。このエミッタ領域122は、エミッタパッド104と電気的に接続される。例えば、図示しない部分において、層間絶縁膜102が除去され、エミッタパッド104とエミッタ領域122が直接接続される。
【0020】
これによって、エミッタ領域122とキャリアストア層116の間の領域がFETのチャネルとして機能し、FETのオン時においてキャリアである電子はエミッタ領域からキャリアストア層116を介し、Nドリフト層114に流れ込む。
【0021】
また、エミッタパッド104からのコンタクト132は、複数のトレンチ120の間に形成される各メサセクションのPボディー層118に伸びるように配置されている。そして、このコンタクト132はメサセクションのPボディー層118の内部(中間部分)に形成された不純物濃度の高い(P+)コンタクト領域134に接続されている。従って、エミッタパッド104が、コンタクト132、コンタクト領域134に電気的に接続され、ターンオフ時にNドリフト層114内にたまったホールを、Pボディー層118を介しエミッタ電極に引き抜くことができる。
【0022】
ここで、本実施形態では、表面部にはエミッタ領域122が形成されているチャネルとして機能するPボディー層118だけでなく、エミッタ領域122が形成されておらずチャネルとして機能しないPボディー層118についてもコンタクト領域134が設けられ、コンタクト132によりエミッタパッド104に接続されている。
【0023】
なお、ゲートトレンチ120Gの内部は、別に設けたゲート電極に接続されており、ゲートトレンチ120Gの周壁の絶縁膜がゲート絶縁膜として機能する。
【0024】
「IGBTの動作」
コレクタパッド106とエミッタパッド104の間に電圧(例えば、コレクタパッド106に400V、エミッタパッド104に0V)をかけた状態で、ゲートトレンチ120Gに正の電圧(例えば、15V)を印加する。なお、上述のコレクタパッド106の印加電圧400Vは単なる一例であり、適用対象によっては10Vなどの低電圧の場合もある。
【0025】
これによって、ゲートトレンチ120Gの周辺のチャネルに反転層が生じてFETがオンし、エミッタ領域122からNドリフト層114に向けた電子電流が流れる。すなわちPボディー層118のP領域がゲートトレンチ120Gを+にすることにより、ゲートトレンチ120Gの側壁に-が蓄積され、このチャネル領域がP型からN型に反転することでここに電流が流れる。これによって、PNPバイポーラトランジスタがオンして、Nドリフト層114にコレクタ側からホールが供給され、エミッタ側から電子が供給されてIGBTがオンする。すなわち、ホールと電子の両方が移動することにより、コレクタパッド106からエミッタパッド104に向けた電流が流れる。
【0026】
また、フィールドストップ層112により、空乏層の広がりを抑制できるため、全体の厚みを小さくできる。
【0027】
本実施形態のIGBTでは、ゲートトレンチ120Gだけでなく、エミッタトレンチ120Eを設けるとともに、Pボディー層118において、その表面にエミッタ領域122のない領域を設けてある。
【0028】
すなわち、ゲートトレンチ120Gに隣接するPボディー層118領域であって、表面側にエミッタ領域122が存在する領域がチャネルとして機能する。この領域を第1メサ領域と呼ぶ。従って、このゲートエリア(図1におけるIGBT GATE)がIGBTのゲートとして機能する。
【0029】
一方、表面にエミッタ領域122のないPボディー層118は、ゲートトレンチ120Gに隣接していてもチャネルとして機能せず、さらにスイッチトレンチ120SWに隣接する領域もチャネルとして機能しない。この領域を第2メサ領域と呼ぶ。従って、この非ゲートエリア(図1におけるIGBT 非GATE)は、IGBTのゲートとして機能しない。
なお、ゲートエリアのゲートトレンチ120Gの数、非ゲートエリアにおけるゲートトレンチ120G、エミッタトレンチ120Eの数は、任意の数に設定することができる。
【0030】
さらに、本実施形態のIGBTでは、コンタクト132によって、チャネルとして機能しないPボディー層118にも接続されている。IGBTをターンオフした際には、Nドリフト層114内に残留するホールをエミッタパッド104に早期に引き抜くことができる。なお、コンタクト132は、チャネルとして機能するPボディー層118についても配置されており、ここにおいてもターンオフ時にホールを引き抜くことができる。また、非ゲートエリアにゲートトレンチ120Gを配置しているが、このゲートトレンチ120Gの周辺のPボディー層118からも同様にホールが引き抜かれる。
【0031】
特に、本実施形態では、非ゲート領域において、ゲートトレンチ120Gと、スイッチトレンチ120SWを配置してある。そして、スイッチトレンチ120SWの電圧を制御することで、周辺の領域のホールの状態を制御することができる。例えば、スイッチトレンチ120SWを-15Vに設定することで、IGBTがオンからオフに切り替わった際に、ホールの引き抜きを高速に行うことができる。一方、スイッチトレンチ120SWを0Vに設定することで、IGBTのオン時における電圧降下(コレクタ・エミッタ間電圧VCE(飽和))を小さくすることができる。
【0032】
図2は、スイッチトレンチ120SWについて、0V(第1状態)または-15V(第2状態)に設定した場合における、IGBTのターンオン時のホール密度を示したものである。実線が-15V、破線が0Vの場合を示す。このように、-15Vに設定することで、ターンオン時のホール蓄積が減少するためVCE(sat)は増加するが、ホール排出に時間がかからずEoff及びtd(OFF)は小さくなる。従って、-15Vの設定は、高周波動作に適する。また、0Vに設定することで、ホール蓄積が多くVCE(SAT)は減少するが、ホール排出に時間がかかるためEoff及びtd(OFF)が大きくなる。従って、0Vの設定は、低周波動作に適する。
【0033】
図3は、スイッチトレンチ120SWについて、SW=0Vまたは-15Vに設定した場合における、ターンオフ時のVCE(コレクタ・エミッタ間電圧)、ICE(コレクタ電流)の変化を示す図である。
【0034】
このように、SW=0の場合には、遅れ時間Td(off)=5.9e-6秒(s)に対し、SW=-15Vの場合には、Td(off)=1.0e-6秒(s)と遅れが短くなる。また、VCEの傾きdv/dtがSW=-15Vの場合に大きくなる。従って、ターンオフ時のエネルギー損失(スイッチング損失ともいう)は、SW=-15Vの場合に25.4mJ、SW=0の場合に51.3mJとSW=-15に設定することでホールの引き抜きが速やかに行われスイッチングの損失を抑えることができる。
【0035】
一方、SW=0Vの場合のVCE(飽和)は、導通電流30Aにおいて0.78V、導通電流300Aにおいて1.09Vであり、SW=-15Vの場合のVCE(飽和)は、導通電流30Aにおいて1.12V、導通電流300Aにおいて1.57Vであった。
【0036】
VCE(飽和)の電圧が高いということはIGBTの通電時においてエネルギー損失(導通損失)が大きいことである。
【0037】
すなわち、SW=0Vの場合は、ホール蓄積が多く低VCE(飽和)になるが、蓄積されたホール排出に時間がかかるためEoff及びTd(off)が大きくなる。一方、SW=-15Vにすると、ホールの蓄積が少なくなる。よって、VCE(飽和)は大きくなるが、ターンオフ時に蓄積されたホールが少ないためEoff及びTd(off)は小さくなる。
【0038】
このように、IGBTには、導通時損失に対応するVCE(飽和)と、ターンオフ時のスイッチング損失Eoffの間にトレードオフが存在する。そして、このトレードオフはコレクタ領域のキャリア濃度及びキャリアストア層のキャリア濃度により、調整することが出来るが、それはIGBTの設計で決まってしまう。従って、IGBTを使用するユーザ側において、使用時において調整することはできない。
【0039】
一方、本実施形態のIGBTでは、スイッチトレンチ120SWの電圧を変更することで、導通損失を小さくするか、スイッチング損失を小さくするかのトレードオフに対応できる。
【0040】
図4には、スイッチングの周波数(オンオフ周波数)を30kHz、10kHz、3kHzの場合におけるスイッチング損失および導通損失の状態を示している。このように30kHzではSW=-15V、3kHzではSW=0Vの方が、損失が少ないことがわかる。
【0041】
本実施形態に係るIGBTでは、スイッチトレンチ120SWの電圧をユーザが設定することが可能である。すなわち、低周波の場合はこのSWを0V,高周波の場合はこのFSWを-15VにすることによりIGBTの特性を変えることで損失を低減することができる。
【0042】
図5は、SWの電圧に応じた、スイッチング損失Eoff、コレクタ・エミッタ間電圧VCE(飽和)の関係を示すグラフである。このように、SWの電圧に応じて、スイッチング損失Eoff、コレクタ・エミッタ間電圧VCE(飽和)が決定される。従って、本実施形態のIGBTによれば、スイッチング周波数に応じて、SWの電圧を設定することで、常に適切なEoff、VCE(飽和)に設定することが可能である。
【0043】
「平面および断面構成」
図6は、IGBTのメタル層(単層)の一例を示す平面図である。この例では、IGBTは、正方形の平面形状を有する。
【0044】
正方形の表面には、図における縦方向において、3分割されたエミッタパッド104が設けられている。3つのエミッタパッド104は、周辺部分に間隔をあけるとともに、3つのエミッタパッド104の間に所定の間隙が設けられている。
【0045】
図における左側のエミッタパッド104は、左上角が凹んでおり、この左上隅には、スイッチパッド142が配置されている。また、スイッチパッド142に接続されて、IGBTの表面の外周に沿って四角形状のスイッチ配線142aが設けられている。スイッチ配線142aは、外周からスクライブピッチ分内側に配置されている。スイッチパッド142がスイッチトレンチ120SWの電圧を設定する設定端子として機能する。
【0046】
また、左側のエミッタパッド104の左中央が凹んでおり、ここにゲートパッド108が配置されている。このゲートパッド108には、ゲート配線108aが接続され、このゲート配線108aは、左右の両側と、下側および3つのエミッタパッド104の縦方向間隙に伸びている。
【0047】
図7Aは、図6におけるA部の拡大模式図であり、半導体基板100内の構造も示してある。図7Bは、図7AのA-A’断面図、図7Cは、図7AのB-B’断面図である。
【0048】
このように、ゲートトレンチ120G、スイッチトレンチ120SWは、横方向に伸び、縦方向に伸びるエミッタパッド104、ゲート配線108a、スイッチ配線142aの下方に位置する。
【0049】
そして、ゲートトレンチ120Gと、ゲート配線108aが、下方に向けて伸びるコンタクト108bで接続され、スイッチトレンチ120SWと、スイッチ配線142aが下方に向けて伸びるコンタクト142bで接続される。
【0050】
図8は、IGBTのメタル層(単層)の他の例を示す平面図である。また、図9は、図8のB部の拡大図である。
【0051】
この例では、スイッチ配線142aが分割されたエミッタパッド104の間隙にも伸びている。従って、スイッチ配線142aとスイッチトレンチ120SWとのコンタクト142bの数を増やすことができ、スイッチトレンチ120SWによる電界を早期に設定することができる。
【0052】
なお、図9におけるA-A’断面図、B-B’断面図は、それぞれ図7B図7Cと同じである。
【0053】
図10は、IGBTのメタル層(2層)の一例を示す平面図である。また、図11Aは、図8のB部の拡大図であり、図11B図11AにおけるA-A’断面である。
【0054】
図10に示すように、半導体基板100の表面には、エミッタパッド104、ゲートパッド108、スイッチパッド142、スイッチ配線142aがあるが、ゲート配線108aは存在しない。図11Bに示すように、ゲート配線108aは、スイッチ配線142aの下方の層間絶縁膜102内に配置される。このように、配線層を2層構造にすることによって、複数の配線を配置するための面積を削減することが可能になる。
【0055】
<製造工程>
図12は、実施形態に係るIGBTの製造工程を示す図である。まず、半導体基板100を用意し、製造工程に投入する(S11)。半導体基板100としては、例えばFZ(浮遊帯(Floating Zone))ウェハであって、Nタイプのものが利用される。
【0056】
まず、表面側を酸化して層間絶縁膜102を形成する(S12)。なお、1枚のウェハには複数の素子(この場合はIGBT)を作成するため、この段階で素子分離の処理を行うとよい。
【0057】
次に、表面側からのPタイプの不純物ドープによって、P+のPボディー層118を形成する(s13)。表面側からのエッチングによりトレンチを形成し(S14)、形成したトレンチの壁面に酸化膜を形成する(S15)。ゲートトレンチであれば、この酸化膜がゲート絶縁膜となる。そして、トレンチの内部にポリシリコンを堆積する(S16)。このポリシリコンは導電性である。
【0058】
次に、Nタイプの不純物の注入によってキャリアストア層(CS層)116を形成する(S17)。そして、表面側からのNタイプの不純物の注入によってエミッタ領域を形成する(S18)。
【0059】
表面側からのエッチングによってコンタクトホールを形成し、Pタイプ不純物の注入によって、コンタクト領域134を形成する。次に、層間絶縁膜102を形成した後、必要なコンタクトホールを形成する。そして、メタルの堆積によって、エミッタパッド104、ゲートパッド108、スイッチパッド142、およびコンタクトホール内を伸びるコンタクトなどを形成する。(S20)。そして、表面側をパッシベーション膜で覆う(S21)。
【0060】
次に、裏面側を研磨し(S22)、裏面側からフィールドストップ層112、Pコレクタ層110を順に形成する(S22,S24)。そして、メタルの堆積によって、コレクタパッド106を形成する(S24)。
【0061】
このようにして、IGBTが形成され、次にこれについて各種検査を行い(S25)、製造工程を終了する。
【符号の説明】
【0062】
100 半導体基板、102 層間絶縁膜、104 エミッタパッド、106 コレクタパッド、108 ゲートパッド、108a ゲート配線、110 Pコレクタ層、112 フィールドストップ層、114 Nドリフト層、116 キャリアストア層、118 Pボディー層、120 トレンチ、120E エミッタトレンチ、120G ゲートトレンチ、120SW :スイッチトレンチ、122 エミッタ領域、132 コンタクト、134 コンタクト領域、140 スイッチ、142 スイッチパッド、142a スイッチ配線、142b コンタクト。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
【手続補正書】
【提出日】2023-05-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
本実施形態に係るIGBTでは、スイッチトレンチ120SWの電圧をユーザが設定することが可能である。すなわち、低周波の場合はこのSWを0V,高周波の場合はこのSWを-15VにすることによりIGBTの特性を変えることで損失を低減することができる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0059
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0059】
表面側からのエッチングによってコンタクトホールを形成し、Pタイプ不純物の注入によって、コンタクト領域134を形成する。次に、層間絶縁膜102を形成した後、必要なコンタクトホールを形成する。そして、メタルの堆積によって、エミッタパッド104、ゲートパッド108、スイッチパッド142、およびコンタクトホール内を伸びるコンタクトなどを形成する(S20)。そして、表面側をパッシベーション膜で覆う(S21)。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
図1】実施形態に係るトレンチゲートタイプIGBTの構成を模式的に示す断面図である。
図2】スイッチトレンチ120SWについて、0Vまたは-15Vに設定した場合における、IGBTのターンオフ直後のスイッチトレンチ120SWの周辺のホール密度の深さ方向の変化を示したものである。
図3】スイッチトレンチ120SWについて、SW=0Vまたは-15Vに設定した場合における、ターンオフ時のVCE、ICEの変化を示す図である。
図4】スイッチングの周波数を30kHz、10kHz、3kHzの場合におけるスイッチング損失および導通損失の状態を示す図である。
図5】SWの電圧に応じた、Eoff、VCE(飽和)の関係を示すグラフである。
図6】IGBTのメタル層(単層)の一例を示す平面図である。この例では、IGBTは、正方形の平面形状を有する。
図7A図6におけるA部の拡大模式図である。
図7B図7AのA-A’断面図である。
図7C図7AのB-B’断面図である。
図8】IGBTのメタル層(単層)の他の例を示す平面図である。
図9図8のB部の拡大図である。
図10】IGBTのメタル層(2層)の一例を示す平面図である。
図11A】図10のB部の拡大図である。
図11B図11AにおけるA-A’断面である。
図12】実施形態に係るIGBTの製造工程を示す図である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
図10は、IGBTのメタル層(2層)の一例を示す平面図である。また、図11Aは、図10のB部の拡大図であり、図11B図11AにおけるA-A’断面である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図10
【補正方法】変更
【補正の内容】
図10